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特許7134442藻類増殖抑制剤および藻類の増殖を抑制する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】藻類増殖抑制剤および藻類の増殖を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/34 20060101AFI20220905BHJP
   A01P 13/02 20060101ALI20220905BHJP
   A01N 25/12 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
A01N37/34 101
A01P13/02
A01N25/12 101
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019513545
(86)(22)【出願日】2018-04-04
(86)【国際出願番号】 JP2018014433
(87)【国際公開番号】W WO2018193847
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2017082277
(32)【優先日】2017-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109233
【氏名又は名称】チカミミルテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】飯田 大介
(72)【発明者】
【氏名】大濱 武
(72)【発明者】
【氏名】ドゥイヤンタリ ウィディヤンニンルン
(72)【発明者】
【氏名】小松 千景
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-073627(JP,A)
【文献】特開2005-060273(JP,A)
【文献】国際公開第2008/126846(WO,A1)
【文献】国際公開第10/101178(WO,A1)
【文献】国際公開第16/039412(WO,A1)
【文献】特開2007-332039(JP,A)
【文献】特開2017-081852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/34
A01P 13/02
A01N 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノアクリレート ナノ粒子を含有する藻類の増殖を抑制する藻類増殖抑制剤。
【請求項2】
前記シアノアクリレートナノ粒子が、シアノアクリレートモノマーおよび界面活性剤の共存下で重合させたものである請求項に記載の藻類増殖抑制剤。
【請求項3】
前記シアノアクリレートモノマーがイソブチルシアノアクリレートである請求項に記載の藻類増殖抑制剤。
【請求項4】
前記藻類が微細藻類である請求項1~の何れか一項に記載の藻類増殖抑制剤。
【請求項5】
前記微細藻類が、緑藻植物門に属する藻類である請求項に記載の藻類増殖抑制剤。
【請求項6】
前記緑藻植物門が緑藻綱またはトレボウクシア藻綱に属する藻類である請求項に記載の藻類増殖抑制剤。
【請求項7】
前記微細藻類がクラミドモナス属またはクロレラ属に属する藻類である請求項4~6の何れか一項に記載の藻類増殖抑制剤。
【請求項8】
前記微細藻類が、渦鞭毛虫門に属する渦鞭毛藻類、珪藻植物門に属する珪藻類、不等毛植物門に属するラフィド藻類、黄金藻類または真正眼点藻の群から選択される少なくとも一種である請求項に記載の藻類増殖抑制剤。
【請求項9】
前記微細藻類の増殖を原因とする水質の汚濁を予防あるいは抑制する請求項4~8の何れか一項に記載の藻類増殖抑制剤。
【請求項10】
前記水質の汚濁が、赤潮または閉鎖水域における汚濁である請求項に記載の藻類増殖抑制剤。
【請求項11】
固体の表面の前記微細藻類の増殖を予防あるいは抑制する請求項4~8の何れか一項に記載の藻類増殖抑制剤。
【請求項12】
前記固体が、植物工場で使用する部材、或いは、建材用の外壁である請求項11に記載の藻類増殖抑制剤。
【請求項13】
シアノアクリレート ナノ粒子を使用して、藻類の増殖を抑制する方法。
【請求項14】
前記藻類が微細藻類である請求項13に記載の藻類の増殖を抑制する方法。
【請求項15】
前記シアノアクリレートナノ粒子に非感受性の微細藻類を増殖させることができる請求項14に記載の藻類の増殖を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類の増殖を抑制する藻類増殖抑制剤および藻類の増殖を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
瀬戸内海や湾などの海域における赤潮は漁業被害や景観悪化などを引き起こす。また、湖沼やダム湖で発生する淡水赤潮も大きな社会問題となっている。非特許文献1によれば、赤潮とは海で起こる特定種のプランクトンの異常発生とその表層集積現象を指す言葉であるが、淡水域で起こるプランクトンの異常発生現象の中で、外観が褐色ないし黄色味を呈し表層水中に集積するものに対して淡水赤潮という語が公式に使われている。海域における赤潮は景観の悪化だけでなく、養殖魚の大量死など深刻な被害をもたらすなど社会的影響が大きい。また、非特許文献1によれば、淡水赤潮が周辺の住民に与える影響について、以下のように指摘している。(1)赤潮の発生時にはその水を利用している上下水道水に不快臭をつけること、(2)浄水場でろ過障害を起こさせること、(3)その水を取り入れている養魚場で養殖しているアユなどの魚類をへい死させることがあること、(4)赤潮の最盛期には周辺の住人に直接異臭を感じさせる場合もあること、(5)著しい場合には水域の景観を損なうことなどをあげている。また、実害のほかに(6)発生によるイメージ低下という社会的影響を指摘している。
【0003】
特許文献1には、成分であるチオ硫酸銀イオンを用いた赤潮の除藻剤が記載してある。
【0004】
特許文献2には、バンコマイシン耐性グラム陽性細菌用抗菌剤として、抗生物質を抱合するシアノアクリレートポリマー粒子を有効成分として含有する抗菌剤が記載してある。シアノアクリレートポリマー粒子は、例えば外科領域において傷口の縫合のための接着剤として用いられているシアノアクリレート系モノマーをアニオン重合させたものである。シアノアクリレート系ポリマー粒子は多孔性であり、内部に所望の物質を抱合させることが可能である。特許文献1の抗菌剤では、シアノアクリレート系ポリマー粒子に抗生物質を抱合させることにより、種々の抗生物質に耐性を獲得し、当該抗生物質の投与では抗菌不可能となったバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対しても、抗生物質の抗菌作用が発揮され、VREの増殖を抑制できるようになっている。
【0005】
一方、シアノアクリレートポリマー粒子は抗菌剤以外にも使用されていることが公知である。例えば特許文献3には、シアノアクリレートモノマーをアミノ酸の共存下でアニオン重合させることにより、アミノ酸を抱合したナノサイズ(平均粒子径1000nm未満)のシアノアクリレートポリマー粒子を合成したことが記載してある。特許文献3のアミノ酸抱合粒子は、がん細胞に対してアポトーシス様の細胞死を誘導してがん細胞を障害できるため、がんの治療と予防に有用であるとされている。
【0006】
このようにシアノアクリレートポリマー粒子は抗菌作用やがんの治療と予防に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-332039号公報
【文献】国際公開第2008/126846号
【文献】国際公開第2010/101178号
【非特許文献】
【0008】
【文献】門田元 編、『淡水赤潮』、「はじめに」、恒星社厚生閣、1987年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した赤潮や淡水赤潮のように、藻類(微細藻類)を含むプランクトンの異常発生現象による被害は深刻であり、有効な対策は重要な課題である。尚、本明細書においては、海域や淡水域における「微細藻類の異常発生とその表層集積現象」、および、養殖場、冷却循環水、噴水等の「人工的閉鎖水域における微細藻類発生現象」のことを、海域、淡水域および人工的閉鎖水域を問わず「赤潮等」と称することとする。
【0010】
微細藻類の異常発生とその表層集積現象を抑制するために、特許文献1で記載されたように金属イオンを使用することで、環境中への金属の蓄積が懸念される虞がある。このように環境中への金属の蓄積を鑑みた場合、金属フリーの成分を使用して微細藻類の増殖を抑制することが望ましい。
【0011】
また、特許文献2,3で記載してあるナノサイズのシアノアクリレートポリマー粒子を用いて赤潮等を予防あるいは抑制することは知られていない。
【0012】
従って、本発明の目的は、金属フリーのナノ粒子を使用して、藻類の増殖を抑制する藻類増殖抑制剤および藻類の増殖を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、例えば赤潮等を構成する藻類(微細藻類)の増殖を抑制する作用を有する藻類増殖抑制剤および藻類の増殖を抑制する方法に関する発明である。藻類の異常発生とその表層集積現象を抑制することにより、上述した被害を防止あるいは低減することを目的とする。
【0014】
即ち、上記目的を達成するため、以下の[1]~[15]に示す発明を提供する。
[1]シアノアクリレートナノ粒子を含有する藻類の増殖を抑制する藻類増殖抑制剤。
[2]前記シアノアクリレートナノ粒子が、シアノアクリレートモノマーおよび界面活性剤の共存下で重合させたものである[1]に記載の藻類増殖抑制剤。
[3]前記シアノアクリレートモノマーがイソブチルシアノアクリレートである[2]に記載の藻類増殖抑制剤。
[4]前記藻類が微細藻類である[1]~[3]の何れか一項に記載の藻類増殖抑制剤。
[5]前記微細藻類が、緑藻植物門に属する藻類である請求項[4]に記載の藻類増殖抑制剤。
[6]前記緑藻植物門が緑藻綱またはトレボウクシア藻綱に属する藻類である[5]に記載の藻類増殖抑制剤。
[7]前記微細藻類がクラミドモナス属またはクロレラ属に属する藻類である[4]~[6]の何れか一項に記載の藻類増殖抑制剤。
[8]前記微細藻類が、渦鞭毛虫門に属する渦鞭毛藻類、珪藻植物門に属する珪藻類、不等毛植物門に属するラフィド藻類、黄金藻類または真正眼点藻の群から選択される少なくとも一種である[4]に記載の藻類増殖抑制剤。
[9]前記微細藻類の増殖を原因とする水質の汚濁を予防あるいは抑制する[4]~[8]の何れか一項に記載の藻類増殖抑制剤。
[10]前記水質の汚濁が、赤潮または閉鎖水域における汚濁である[9]に記載の藻類増殖抑制剤。
[11]固体の表面の前記微細藻類の増殖を予防あるいは抑制する[4]~[8]の何れか一項に記載の藻類増殖抑制剤。
[12]前記固体が、植物工場で使用する部材、或いは、建材用の外壁である[11]に記載の藻類増殖抑制剤。
【0015】
上記[1]~[12]の構成によれば、藻類増殖抑制剤は、炭化水素を主成分とする有機化合物のナノ粒子、例えば、アクリル樹脂等の有機化合物から構成されるナノ粒子を使用することができる。そのため、当該藻類増殖抑制剤は金属酸化物のナノ粒子を使用しないため金属フリーであり、環境中への蓄積性がなく安全性が高い。また、金属酸化物のナノ粒子は水溶液中でしばしば大きな凝集塊を形成するが、炭化水素を主成分とする有機化合物のナノ粒子であれば当該ナノ粒子相互の凝集性がほとんどなく、水溶液中で安定に分散状態を維持できる。有機化合物のナノ粒子は、具体的にはシアノアクリレートナノ粒子を使用、シアノアクリレートナノ粒子は、シアノアクリレートモノマーおよび界面活性剤の共存下で重合させたものとするのがよい。特にシアノアクリレートモノマーをイソブチルシアノアクリレートとするのがよい。
【0016】
細胞壁は、藻類(微細藻類)においては糖タンパク質、キチン、セルロースおよびプロテオグリカン等によって構成される。上述した炭化水素を主成分とする有機化合物のナノ粒子は、前記成分からなる細胞壁に対して親和性を示す。そのため、有機化合物のナノ粒子が細胞壁との親和性により、細胞表面に付着してその表面を覆いつくすことができる。
【0017】
微細藻類は、例えば緑藻植物門に属する緑藻類、渦鞭毛虫門に属する渦鞭毛藻類、珪藻植物門に属する珪藻類、不等毛植物門に属するラフィド藻類、黄金藻類または真正眼点藻等が含まれる。緑藻植物門に属する緑藻類としては、例えば緑藻綱またはトレボウクシア藻綱に属する藻類が挙げられる。緑藻綱に属する緑藻類としては例えばクラミドモナス属が挙げられ、トレボウクシア藻綱に属する緑藻類としては例えばクロレラ属が挙げられる。
【0018】
後述の実施例で示すように、本発明者らは、予想外に、有機化合物のナノ粒子が真核生物の単細胞緑藻クラミドモナス属(例えばクラミドモナス・レインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii))に対して急性細胞死を誘導し得ることを見出した。さらに、クロレラ属(例えばクロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris))における細胞壁溶解酵素の分泌を誘導し、プロトプラスト様細胞を高頻度で生成することを見出した。
【0019】
上述したように、有機化合物のナノ粒子は、細胞壁との親和性により細胞表面に多数付着してその表面を覆いつくす。これにより、細胞は外部環境との間で、酸素や二酸化炭素、栄養素などの生育に必須な成分の導入が困難となる(窒息作用)。当該窒息作用により、ROS(reactive oxygen species:活性酸素種)の蓄積、葉緑素の分解、細胞壁溶解酵素の分泌などの生理的な異常反応を起こす。それによって、細胞がプロトプラスト化したり、損傷を受けた細胞壁をナノ粒子が通過して細胞質内にまでナノ粒子が侵入するような事象が起こる。これにより、いっそう細胞のホメオスタシスは保たれなくなり、細胞死が引き起こされると考えられる。この考え方によれば、細胞壁全体をナノ粒子が覆いつくした事による窒息効果が、微細藻類の増殖阻害や細胞壁溶解酵素の分泌を促したと解釈できる。またナノ粒子が十分に小さく、損傷を受けた細胞壁を通過できれば、貪食作用などにより、ナノ粒子は細胞質内に侵入して細胞死を誘導できる可能性が高いと考えられる。
【0020】
また、有機化合物のナノ粒子は、広範な藻類に対して細胞死を誘導する能力または、細胞死を直接は誘導しないが細胞壁溶解酵素の異常な分泌を誘導し、細胞壁が少なくても部分分解されることで、機械的な刺激により容易に細胞が溶解する状態に細胞を変化させることができる。また、この他にも葉緑素の分解促進やROSの発生が示すように、光合成システムの損傷や、様々な代謝異常を引き起こす。
【0021】
本発明の藻類増殖抑制剤は、上述した微細藻類の増殖を原因とする水質の汚濁を予防あるいは抑制する。当該藻類増殖抑制剤により、微細藻類の増殖を抑制することができる、或いは、既に発生した微細藻類を死滅させて除去することができるため、微細藻類の増殖を原因とする水質の汚濁を予防あるいは抑制することができる。水質の汚濁を予防あるいは抑制することで、例えば養殖場や水槽等に生息している魚介類に対する被害を軽減させることができる。また、水質の汚濁を予防あるいは抑制することで、臭気を抑えたり景観を改善することができる。
【0022】
前記水質の汚濁は、赤潮または閉鎖水域における汚濁である。赤潮は、海洋、湖沼やダム湖等の開放水域や半開放水域において微細藻類が大量に発生する現象であり、上述したように多様な問題を引き起こす。また、閉鎖水域は、例えば公園内の池、噴水、溜池、堀、排水溝、浄化槽、水冷式冷却塔、浴槽、養殖場等の人工的閉鎖水域が挙げられる。本発明の藻類増殖抑制剤であれば、上述した特定種の微細藻類の異常発生とその表層集積現象を抑制することができるため、赤潮または閉鎖水域における汚濁を予防あるいは抑制することができる。
【0023】
また、本発明の藻類増殖抑制剤は、固体の表面の微細藻類の増殖を予防あるいは抑制する。前記固体は、例えば植物工場で使用する部材、或いは、建材用の外壁とすることができる。即ち、植物工場で使用する部材として、植物の苗を支持する部材に形成した当該苗を挿入する孔に藻類増殖抑制剤を塗布しておくことで、植物の苗の生育を阻害する微細藻類の増殖を予防あるいは抑制することができる。また、建材用の外壁に藻類増殖抑制剤を塗布しておくことで、建材用の外壁上で増殖する微細藻類の増殖を予防あるいは抑制することができる。
【0024】
[13]シアノアクリレートナノ粒子を使用して、藻類の増殖を抑制する方法。
[14]前記藻類が微細藻類である[13]に記載の藻類の増殖を抑制する方法。
[15]前記ナノ粒子に非感受性の微細藻類を増殖させることができる[14]に記載の藻類の増殖を抑制する方法。
【0025】
上記[13]~[15]の構成によれば、有機化合物のナノ粒子(シアノアクリレートナノ粒子)は、細胞壁との親和性により細胞表面に多数付着してその表面を覆いつくすことにより、細胞は外部環境との間で、酸素や二酸化炭素、栄養素などの生育に必須な成分の導入が困難となり(窒息作用)、当該窒息作用により、ROSの蓄積、葉緑素の分解、細胞壁溶解酵素の分泌などの生理的な異常反応を起こす。それによって、細胞がプロトプラスト化したり、損傷を受けた細胞壁をナノ粒子が通過して細胞質内にまでナノ粒子が侵入するような事象が起こる。これにより、いっそう細胞のホメオスタシスは保たれなくなり、細胞死が引き起こされると考えられる。この考え方によれば、細胞壁全体をナノ粒子が覆いつくした事による窒息効果が、微細藻類の増殖阻害や細胞壁溶解酵素の分泌を促したと解釈できる。またナノ粒子が十分に小さく、損傷を受けた細胞壁を通過できれば、貪食作用などにより、ナノ粒子は細胞質内に侵入して細胞死を誘導できる可能性が高いと考えられる。
【0026】
また、有機化合物のナノ粒子は、広範な藻類に対して細胞死を誘導する能力または、細胞死を直接は誘導しないが細胞壁溶解酵素の異常な分泌を誘導し、細胞壁が少なくても部分分解されることで、機械的な刺激により容易に細胞が溶解する状態に細胞を変化させることができる。また、この他にも葉緑素の分解促進やROSの発生が示すように、光合成システムの損傷や、様々な代謝異常を引き起こす。
【0027】
以上のメカニズムにより、藻類(微細藻類)の細胞壁に親和性を示す有機化合物のナノ粒子を使用して、藻類の増殖を抑制することができる。
【0028】
一方、上述した有機化合物のナノ粒子に感受性の微細藻類の増殖を抑えつつ、当該ナノ粒子に非感受性の微細藻類を増殖することは、例えば微細藻類を利用するオイル産生産業に有用である。しかし、これまで、不要な微細藻類の増殖を排除し、有用な微細藻類を選択的に増殖させる技術的手段はなかった。本発明の方法では、不要な微細藻類(ナノ粒子に感受性の微細藻類)の増殖を排除し、有用な所望の微細藻類(ナノ粒子に非感受性の微細藻類)を選択的に増殖させることができる。例えば、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)等のナノ粒子に非感受性の微細藻類を、例えば野外の開放系の培養槽等で培養しようとする場合、ナノ粒子を培地に添加することにより、目的に対し有害または不要な微細藻類の増殖を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】クラミドモナス・レインハーディの細胞表面にシアノアクリレートナノ粒子が多数付着した様子を示す写真図である。
図2】クロレラ・ブルガリスの細胞表面にシアノアクリレートナノ粒子が多数付着した様子を示す写真図である。
図3】250mg/Lのシアノアクリレートナノ粒子と同時インキュベーションしたクラミドモナス(野生型CC-124)のトリパンブルー染色アッセイの結果を示したグラフである。
図4】500mg/Lのシアノアクリレートナノ粒子と同時インキュベーションしたクラミドモナス(野生型CC-124)のトリパンブルー染色アッセイの結果を示したグラフである。
図5】1g/Lのシアノアクリレートナノ粒子と同時インキュベーションしたクラミドモナス(野生型CC-124)のトリパンブルー染色アッセイの結果を示したグラフである。
図6】サイズが異なるシアノアクリレートナノ粒子において、モル濃度を同じにしてクラミドモナスと同時インキュベーションした結果を示したグラフである。
図7】サイズが異なるシアノアクリレートナノ粒子において、表面積を同じにしてクラミドモナスと同時インキュベーションした結果を示したグラフである。
図8】シアノアクリレートナノ粒子と同時インキュベーションしたクラミドモナスにおいて、野生型CC-124、非常に薄い細胞壁突然変異体CC-503および細胞壁欠損突然変異体CC-400における死細胞率を調べた結果を示したグラフである。
図9】25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と同時インキュベートした後のクラミドモナスの細胞超微細構造をTEMにより観察した結果を示した写真図である。
図10】クロレラに対するシアノアクリレートナノ粒子曝露の後にクロレラ細胞がプロトプラストまたはスフェロプラストに変化した割合の結果を示したグラフである。
図11】クロレラに対するシアノアクリレートナノ粒子曝露の後に得られた濾液によってプロトプラストまたはスフェロプラストが得られるかを調べた結果を示したグラフである。
図12】25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と同時インキュベートした後のクロレラの細胞超微細構造をTEMにより観察した結果を示した写真図である。
図13】活性酸素種(ROS)生成の経時変化について調べた結果(蛍光陽性細胞率)を示したグラフである。
図14】活性酸素種(ROS)生成の経時変化について調べた結果(死細胞率)を示したグラフである。
図15】活性酸素種(ROS)生成の経時変化について調べた結果を示した写真図(光学顕微鏡および蛍光顕微鏡)である。
図16】シアノアクリレートナノ粒子に非感受性のユーグレナ・グラシリスをHUT培地上で培養した結果を示した写真図である。
図17】シアノアクリレートナノ粒子に感受性のクラミドモナス(野生型CC-124)をTAP培地上で培養した結果を示した写真図である。
図18】対数増殖期のユーグレナ・グラシリスにシアノアクリレートナノ粒子を添加して12時間培養した後に顕微鏡観察を行った結果を示した写真図である。
図19】シアノアクリレートナノ粒子の分散液を寒天培地表面上に均一に付着させた試料上にクラミドモナス(CC-124株)を塗布し、培養試験を行った結果(培養0日目)を示した写真図である。
図20】シアノアクリレートナノ粒子の分散液を寒天培地表面上に均一に付着させた試料上にクラミドモナス(CC-124株)を塗布し、培養試験を行った結果(培養7日目)を示した写真図である。
図21】シアノアクリレートナノ粒子の分散液を寒天培地表面上に均一に付着させた試料上にクラミドモナス(CC-124株)を塗布し、培養試験を行った結果(培養11日目)を示した写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の藻類の増殖を抑制する藻類増殖抑制剤は、炭化水素を主成分とし、藻類の細胞壁に親和性を示す有機化合物のナノ粒子を含有する。
また、本発明の藻類の増殖を抑制する方法は、炭化水素を主成分とし、藻類の細胞壁に親和性を示す有機化合物のナノ粒子を使用して、藻類の増殖を抑制する。
【0031】
藻類増殖抑制剤は、炭化水素を主成分とする有機化合物のナノ粒子である。即ち、当該藻類増殖抑制剤は、アクリル樹脂等の有機化合物から構成されるナノ粒子であればよい。そのため、当該藻類増殖抑制剤は金属酸化物のナノ粒子を使用しないため金属フリーであり、環境中への蓄積性がなく安全性が高い。また、金属酸化物のナノ粒子は水溶液中でしばしば大きな凝集塊を形成するが、炭化水素を主成分とする有機化合物のナノ粒子であれば当該ナノ粒子相互の凝集性がほとんどなく、水溶液中で安定に分散状態を維持できる。
【0032】
細胞壁は、藻類(微細藻類)においては糖タンパク質、キチン、セルロースおよびプロテオグリカン等によって構成される。上述した炭化水素を主成分とする有機化合物のナノ粒子は、前記成分からなる細胞壁に対して親和性を示す。親和性の強さの程度は特に限定されるものではなく、例えば、有機化合物のナノ粒子が細胞壁との親和性により、細胞表面に付着してその表面を覆いつくせる程度の親和性の強さがあればよい。
【0033】
本明細書における藻類は、例えば多細胞生物である海藻類(紅藻、褐藻、緑藻)や、赤潮等の原因となる微細藻類を含む。本実施形態では、藻類を微細藻類とした場合について説明する。
【0034】
微細藻類は、例えば緑藻植物門に属する緑藻類、渦鞭毛虫門に属する渦鞭毛藻類、珪藻植物門に属する珪藻類、不等毛植物門に属するラフィド藻類、黄金藻類や真正眼点藻等が含まれる。
【0035】
緑藻植物門に属する緑藻類としては、例えば緑藻綱またはトレボウクシア藻綱に属する藻類が挙げられる。緑藻綱に属する緑藻類としては例えばクラミドモナス属が挙げられ、トレボウクシア藻綱に属する緑藻類としては例えばクロレラ属が挙げられる。クラミドモナス属は10~30μmの球形或いはなめらかな楕円形を呈した形状であり、細胞体の前方に昆虫の触角のようなほぼ同じ長さの2つの鞭毛を持つ。クロレラ属は直径約2~10μmのほぼ球形を呈した形状であり、鞭毛を持たない。
【0036】
クラミドモナス属は、例えばクラミドモナス・アプラナタ(Chlamydomonas applanata)、クラミドモナス・アシメトリカ(Chlamydomonas assymetrica)、クラミドモナス・デバリアナ(Chlamydomonas debaryana)、クラミドモナス・グロボサ(Chlamydomonas globosa)、クラミドモナス・モブシー(Chlamydomonas moewusii)、クラミドモナス・モナディナ(Chlamydomonas monadina)、クラミドモナス・ノクティガマ(Chlamydomonas noctigama)、クラミドモナス・パルカエ(Chlamydomonas parkeae)、クラミドモナス・ペルプシラ(Chlamydomonas perpusilla)、クラミドモナス・レインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
クロレラ属は、例えばクロレラ・エリプソイデア(Chlorella ellipsoidea)、クロレラ・エサッカロフィラ(Chlorella saccharophila)、クロレラ・ソロキニアナ(Chlorella sorokiniana)、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
また、クラミドモナス属、クロレラ属以外の微細藻類(緑藻綱)としては、ニセヒゲマワリ(Astrephomene gubernaculifera)、カルテリア・ラディオサ(Carteria radiosa)、ディスモルフォコッカス・グロボサス(Dysmorphococcus globosus)、ユードリナ・エレガンス(Eudorina elegans)、ゴニウム・ムルチコカム(Gonium multicocum)、ラボクラミス・クレウス(Labochlamys culleus)、パンドリナ モルム(Pandorina morum)、ファコタス・レンチクラリス(Phacotuslenticularis)、テトラバエナ・ソシアリス(Tetrabaena socialis)、ボルボックス・カルテリ(Volvox carteri)、ボルブリナ・ステイニー(Volvulina steiniii)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
さらに、上述した緑藻綱以外の他の微細藻類としては、シャットネラ・マリ-ナ(Chattonella marina:ラフィド藻類)、ヘテロカプサ・トリケトラ(Heterocapsatriquetra:渦鞭毛藻類)、タラシオネマ・ニツシオイデス(Thalassioneama nitzschioides:珪藻類)、カレニア・ミキモトイ(Karenia mikimotoi:渦鞭毛藻類)、キートセロス・デビリス(Chaetoceros debilis:珪藻類)、カリプトロスファエラ・スフェロイデア(Calyptrosphaera sphaeroidea:黄金藻類)、ガンビエルディスクス(Gambierdiscus sp:渦鞭毛藻類)、ヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo:ラフィド藻類)、オドンテラ・ロンギクルリス(Odontella longicruris:珪藻類)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
本実施形態では、ナノ粒子が、シアノアクリレートナノ粒子である場合について説明する。当該シアノアクリレートナノ粒子は、シアノアクリレートモノマーおよび界面活性剤の共存下で重合させたものとするのがよい。
【0041】
本発明における藻類増殖抑制剤は、平均粒子径が10~500nm、好ましくは25~350nmの平均粒子径を有するシアノアクリレートナノ粒子を含有するものであれば、粒子分散液、粒子状、粒状等、どのような態様であってもよい。分散液は、懸濁液やコロイド液等の態様を取り得るが、これらに限定されるものではない。また、当該藻類増殖抑制剤は、シアノアクリレートナノ粒子の濃度が30mg/L~1g/L、好ましくは250~1g/Lとなるようにすればよい。
【0042】
シアノアクリレートポリマー部分は、シアノアクリレートモノマーをアニオン重合して得られる。用いられるシアノアクリレートモノマーは、アルキルシアノアクリレートモノマー(アルキル基の炭素数は好ましくは1~8)が好ましく、特に外科領域において傷口の縫合のための接着剤として用いられており、下記の化1の式で表されるブチルシアノアクリレートとするのがよい。
【0043】
【化1】
【0044】
シアノアクリレートモノマーは、イソブチルシアノアクリレート、n-ブチル-2-シアノアクリレート、sec-ブチルシアノアクリレート、tert-ブチルシアノアクリレート等のブチルシアノアクリレートを使用することができ、さらにメチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート(つけまつげ用接着剤)、プロピルシアノアクリレート等、他のアルキルシアノアクリレートを選択しても良い。特に、イソブチルシアノアクリレート、n-ブチル-2-シアノアクリレート、エチルシアノアクリレートであれば、安全性に優れている。
【0045】
アニオン重合では、重合安定化のために界面活性剤を使用する。界面活性剤としてはノニオン界面活性剤やイオン性界面活性剤を使用することができるが、これらに限定されるものではない。当該イオン性界面活性剤はアニオン界面活性剤を使用するのが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0046】
ノニオン界面活性剤として、例えばポリソルベート類(Tween20、40、60、80等)が使用でき、アニオン界面活性剤として、例えばアルキルベンゼンスルホン酸或いはその塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、1-ペンタンスルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸ナトリウム等が使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
ノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤は同時に使用してもよい。ノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤を併用することにより、シアノアクリレートポリマー粒子の経時的な凝集が起こり難くなる。
【0048】
また、上述した界面活性剤に、ポリエチレングリコールや糖類等、アニオン重合の重合安定化の機能を有するものを組み合わせて用いることもできる。
【0049】
糖類は特に限定されず、水酸基を有する単糖類、水酸基を有する二糖類及び水酸基を有する多糖類のいずれであってもよいが、特に多糖類とするのがよい。単糖類としては、例えばグルコース、マンノース、リボース及びフルクトース等が挙げられる。二糖類としては、例えばマルトース、トレハロース、ラクトース及びスクロース等が挙げられる。多糖類としては、従来公知のシアノアクリレートポリマー粒子の重合に用いられているデキストランや、マンナン等を用いることができる。
【0050】
シアノアクリレートポリマー粒子は多孔性であり、内部に所望の物質を抱合させることが可能である。シアノアクリレートポリマー粒子を形成した後、シアノアクリレートポリマー粒子を所望の物質の水溶液中に浸漬する或いは所望の物質を添加する等によりシアノアクリレートポリマー粒子の内部に所望の物質を抱合させてもよいし、所望の物質の共存下において、上記したアニオン重合を行なうことにより、生成される粒子中に所望の物質を抱合させてもよい。例えばシアノアクリレートポリマー粒子に、グリシンやアスパラギン酸等のアミノ酸を抱合させることが可能である。抱合とは、例えば親水性の分子に外来の物質が保持される状態のことをいう。
また、このようにシアノアクリレートポリマー粒子にアミノ酸を抱合させる態様に限定されず、シアノアクリレートポリマー粒子およびアミノ酸が混合している態様とするものであってもよい。当該混合とは、シアノアクリレートポリマー粒子およびアミノ酸が共存し混じりあっている態様であればよい。
【0051】
重合反応の溶媒としては、水を使用することができる。水は、要求される純度が異なる製品用途に応じて精製水、イオン交換水、蒸留水、純水、水道水、地下水等を適宜選択すればよい。
【0052】
本発明の藻類増殖抑制剤は、シアノアクリレートモノマーおよび界面活性剤の共存下において、シアノアクリレートモノマーをアニオン重合させる工程を行うことにより製造することができる。具体的には、重合反応は、例えば、溶媒である水に重合安定剤である界面活性剤を溶解させた後、撹拌下にてシアノアクリレートモノマーを加え、撹拌を続けることにより行なうことができる。反応温度は、特に限定されないが、室温で行なうのがよい。反応時間は、反応液のpH、溶媒の種類及び重合安定剤の濃度に応じて反応速度が異なり、これらの要素に応じて適宜選択すればよいため特に限定されないが、通常、1~6時間程度である。
【0053】
反応開始時の重合反応液中のシアノアクリレートモノマーの濃度は特に限定されないが、通常、0.01~5%程度、好ましくは0.1~3%程度である。反応開始時の重合反応液中の界面活性剤の濃度は、特に限定されないが、通常、0.01~5%程度、好ましくは0.1~3%程度である。反応開始時の重合反応液中の糖類の濃度は、特に限定されないが、通常、0.01~5%程度、好ましくは0.1~3%程度である。
【0054】
上述した重合反応により、シアノアクリレートモノマーがアニオン重合し、シアノアクリレートナノ粒子を合成して、本発明の藻類増殖抑制剤を製造することができる。
【0055】
重合反応の結果、合成されたシアノアクリレートナノ粒子は、溶媒中に分散した粒子分散液の状態で藻類増殖抑制剤として供することができる。得られた粒子分散液は、保存時に粒子径分布の経時的変化がほとんどなく、静置保存しても粒子が凝集・沈降することがなく、分散安定性に優れる。
【0056】
また、合成されたシアノアクリレートナノ粒子は、遠心式限外濾過等の常法の濾過により回収して、粒子状或いは粒状の状態で藻類増殖抑制剤として供することができる。さらに、濾過によって回収したシアノアクリレートナノ粒子を、水などの溶媒に分散させた粒子分散液の状態で藻類増殖抑制剤として供することができる。
【0057】
合成されたシアノアクリレートナノ粒子の粒径は、反応液中のシアノアクリレートモノマーの濃度や反応時間を調節することにより調節することが可能である。また、重合安定剤として界面活性剤を用いると、当該重合安定剤の濃度や種類を変えることによっても、粒子サイズを調節することができる。
【0058】
アニオン重合は水酸化物イオンにより開始されるので、反応液のpHは、重合速度に影響する。反応液のpHが高い場合には、水酸イオンの濃度が高くなるので重合が速く、pHが低い場合には重合が遅くなる。そのため、pHを1~4程度とするのがよい。
【0059】
本発明の藻類増殖抑制剤は、上述した微細藻類の増殖を原因とする水質の汚濁を予防あるいは抑制する。即ち、海洋、湖沼あるいは水槽等に適量の上述したシアノアクリレートナノ粒子を含む藻類増殖抑制剤を散布することで、微細藻類の増殖を抑制することができる、或いは、既に発生した微細藻類を死滅させて除去することができるため、微細藻類の増殖を原因とする水質の汚濁を予防あるいは抑制することができる。水質の汚濁を予防あるいは抑制することで、例えば養殖場や水槽等に生息している魚介類に対する被害を軽減させることができる。また、水質の汚濁を予防あるいは抑制することで、臭気を抑えたり景観を改善することができる。
【0060】
藻類増殖抑制剤は、海洋、湖沼あるいは水槽等に直接散布するだけでなく、当該藻類増殖抑制剤を含む固形物を海洋、湖沼あるいは水槽等に投入してもよい。当該固形物は、例えば、シアノアクリレートナノ粒子をポリエチレングリコールと混合して固化(フィルム化)させたものや、ポリエチレンオキサイドと混合してゲル化させたものであれば、その態様は特に限定されるものではない。
【0061】
前記水質の汚濁は、赤潮または閉鎖水域における汚濁である。
赤潮は、海洋や湖水等の解放水系や半解放水系において微細藻類が大量に発生することによって引き起こされる水質の汚濁である。また、閉鎖水域は、例えば公園内の池、噴水、溜池、堀、排水溝、浄化槽、水冷式冷却塔、浴槽、養殖場等の人工的閉鎖水域が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの閉鎖水域において、微細藻類が大量に発生することによって水質の汚濁が引き起こされる。
【0062】
赤潮の場合、船上または空中から赤潮発生または発生予想の領域の水面に、上述したシアノアクリレートナノ粒子を含む藻類増殖抑制剤を添加または散布してもよいし、藻類増殖抑制剤を含む固形物を前記領域に投入してもよい。
【0063】
また、閉鎖水域では、水面に、上述したシアノアクリレートナノ粒子を含む藻類増殖抑制剤を添加または散布してもよいし、藻類増殖抑制剤を含む固形物を公園内の池、噴水、溜池、堀、排水溝、浄化槽、水冷式冷却塔、浴槽、養殖場等の人工的閉鎖水域に投入してもよい。
【0064】
本発明の藻類増殖抑制剤は、固体の表面の微細藻類の増殖を予防あるいは抑制する。前記固体は、例えば植物工場で使用する部材、或いは、建材用の外壁とすることができる。即ち、植物工場で使用する部材として、植物の苗を支持する部材に形成した当該苗を挿入する孔に予め藻類増殖抑制剤を塗布しておくことで、植物の苗の生育を阻害する微細藻類の増殖を予防あるいは抑制することができる。また、建材用の外壁(例えば日照の少ない日陰部分)に予め藻類増殖抑制剤を塗布しておくことで、湿った状態の建材用の外壁上で増殖する微細藻類の増殖を予防あるいは抑制することができる。
【0065】
尚、藻類として、例えば多細胞生物である海藻類が船底等の固体上で増殖するのを、本発明の藻類増殖抑制剤によって予防あるいは抑制することも可能である。この場合、藻類増殖抑制剤を、予め船底等に塗布しておくことで、海藻類が船底等で増殖するのを予防あるいは抑制することができる。
【0066】
シアノアクリレートナノ粒子は、細胞壁との親和性により細胞表面に多数付着してその表面を覆いつくす(図1:クラミドモナス・レインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii)の野生型,図2:クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris))。これにより、細胞は外部環境との間で、酸素や二酸化炭素、栄養素などの生育に必須な成分の導入が困難となる(窒息作用)。当該窒息作用により、ROS(reactive oxygen species:活性酸素種)の蓄積、葉緑素の分解、細胞壁溶解酵素の分泌などの生理的な異常反応を起こす。それによって、細胞がプロトプラスト化したり、損傷を受けた細胞壁をナノ粒子が通過して細胞質内にまでナノ粒子が侵入するような事象が起こる(図9)。これにより、いっそう細胞のホメオスタシスは保たれなくなり、細胞死が引き起こされると考えられる。この考え方によれば、細胞壁全体をナノ粒子が覆いつくした事による窒息効果が、微細藻類の増殖阻害や細胞壁溶解酵素の分泌を促したと解釈できる。窒息作用を実現するためには、ナノ粒子は細胞の最外層(いわゆる細胞壁)に安定的に付着できる親和性があれば十分で、特定のリセプタータンパクとの結合のような高い特異性は必要性がない。従って、標的細胞の最外層に親和性を持つナノ粒子であれば、シアノアクリレートナノ粒子に限らず、多様な生物種に対して、窒息効果により代謝異常を引き起こせる可能性が高い。またナノ粒子が十分に小さく、損傷を受けた細胞壁を通過できれば、貪食作用などにより、ナノ粒子は細胞質内に侵入して細胞死を誘導できる可能性が高いと考えられる。
【0067】
シアノアクリレートナノ粒子は、広範な藻類に対して細胞死を誘導する能力または、細胞死を直接は誘導しないが細胞壁溶解酵素の異常な分泌を誘導し、細胞壁が少なくても部分分解されることで、機械的な刺激により容易に細胞が溶解する状態に細胞を変化させることができる。また、この他にも葉緑素の分解促進やROSの発生が示すように、光合成システムの損傷や、様々な代謝異常を引き起こす。
【0068】
また、本発明の藻類の増殖を抑制する方法では、ナノ粒子に非感受性の微細藻類を増殖させることができる。本方法によれば、例えば野外の開放系の培養槽等で培養しようとする場合、ナノ粒子を培地に添加することにより、不要な微細藻類(ナノ粒子に感受性の微細藻類)の増殖を排除し、有用な所望の微細藻類(ナノ粒子に非感受性の微細藻類)を選択的に増殖させることができる。
【0069】
ナノ粒子に非感受性の有用な微細藻類としては、例えばユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis:ユーグレナ藻)、ヘマトコッカス・ラクストリス(Haematococcus lacustris:ヘマトコッカス藻)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0070】
〔実施例1〕
本発明の藻類増殖抑制剤に含まれる有機化合物のナノ粒子であるシアノアクリレートナノ粒子(イソブチルシアノアクリレートナノ粒子)を以下の手法により調製した。
【0071】
0.01N塩酸溶液200mLに、分散剤・安定剤としてノニオン界面活性剤であるレオドールTW-L120 2.5mL(花王株式会社製)、アニオン界面活性剤であるネオペレックスG-15 2.0mL(花王株式会社製)を溶解させ、さらにイソブチルシアノアクリレート2.0mL(東亞合成株式会社製:♯501)を滴下しマグネチックスターラー(AS ONE社製 RS-1DN)を使用して、室温下で600rpm、2時間の条件により重合反応を行った。2時間後、0.5規定塩酸4.0mL(和光純薬工業株式会社製)を滴下して1時間中和反応を行った。反応液は5.0μmサイズのメンブレンフィルター(ザルトリウス社製:ミニザルト)にて濾過し、1.0wt%のシアノアクリレートナノ粒子とした。このとき得られたシアノアクリレートナノ粒子の粒子径(平均粒子径)は、ゼータサイザー(Malvern社製 Nano-ZS90)を用いて常法により測定したところ25nmであった。
【0072】
また、上述した塩酸溶液に分散剤・安定剤として2.0gのデキストラン(分子量6万:和光純薬工業株式会社製)を添加して重合反応を行うことで、180nmの粒径を有するシアノアクリレートナノ粒子を作製した。さらに、上述した塩酸溶液に分散剤・安定剤として6.0gのポリエチレングリコール(分子量2万:和光純薬工業株式会社製)を添加して重合反応を行うことで、350nmの粒径を有するシアノアクリレートナノ粒子を作製した。これら3種類の粒径を有するシアノアクリレートナノ粒子を以下の実施例に供した。
【0073】
〔実施例2〕
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii:野生型CC-124)に対するシアノアクリレートナノ粒子曝露の影響について調べた。本実施例で使用した野生型CC-124のクラミドモナスは、ミネソタ大学(米国)のクラミドモナス資源センターから提供された。野生型CC-124のクラミドモナスをTris-Acetate-Phosphate(以下、TAP)培地(pH7.0)中で穏やかに振とうしながら定蛍光(84mmol光子m-2-1)下で混合栄養的に培養し、中期対数増殖期(OD750約0.8)に到達した細胞を、アッセイに使用した。
【0074】
シアノアクリレートナノ粒子は、種々のサイズ(25nm,180nm,350nm)を使用し、それぞれのサイズにおいて、250mg/L,500mg/L,1g/Lの濃度でアッセイを行った。前記クラミドモナスおよびシアノアクリレートナノ粒子の同時インキュベーション(co-incubation)は、非常に穏やかな回転(10rpm)で行った。ネガティブコントロールとして、細胞と分散剤のみを含む培養液で同時インキュベーションを行ったものを使用した。
【0075】
種々のサイズのシアノアクリレートナノ粒子と同時インキュベーションすることにより、クラミドモナスは急速かつ頻繁な軌道変化を伴う異常な泳動パターンを直ちに示し、やがて泳動を止めた。また、この同時インキュベーションによってシアノアクリレートナノ粒子は細胞壁との親和性により、細胞表面に多数付着してその表面を覆いつくし(図1)、クラミドモナスの元の楕円形が徐々に球状に変化することが観察された。泳動を止めた細胞の大部分は球状に膨潤し、それらのいくつかは細胞質内容物を放出して崩壊した。これは、そのような膨張した球状細胞がプロトプラストであるか、または非常に薄い細胞壁(スフェロプラスト)を有することを意味すると考えられた。このような急性反応は、シアノアクリレートナノ粒子のサイズの差にかかわらず誘発されたが、シアノアクリレートナノ粒子を調製するために使用された分散剤のみを含むネガティブコントロールでは、このような変化は全く認められなかった。
【0076】
ここで、同時インキュベーションにおいてシアノアクリレートナノ粒子に暴露されたクラミドモナスの生存率を調べるために、死細胞を青色で染色するトリパンブルー染色アッセイを行った。0.3mLの培養試料を取り出し、トリパンブルー(0.4%w/v、和光純薬工業株式会社製)溶液を直接添加した(最終濃度0.2%(w/v))。洗浄ステップを伴わずに5分後に顕微鏡(IX71:オリンパス株式会社製)によって細胞質の色が観察された。このアッセイでは、破壊された細胞および染色された細胞は濃い青色を呈し、死細胞と判断された。結果を図3(250mg/L)、図4(500mg/L)、図5(1g/L)に示した。尚、図における「NP」との表記はシアノアクリレートナノ粒子のことである。
【0077】
図3より、シアノアクリレートナノ粒子の濃度が250mg/Lの場合、25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と2時間同時インキュベートすることにより、全て(100%)の細胞を染色した(死細胞率100%)。また、180nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と2時間同時インキュベートすることにより、約75%の細胞を染色し、350nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と2時間同時インキュベートすることにより、20%に満たない細胞を染色した。180nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と3時間同時インキュベートすることにより、全て(100%)の細胞を染色したが、350nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と4時間同時インキュベートした場合であっても、60%に満たない細胞を染色した。
これより、死細胞率は、シアノアクリレートナノ粒子の粒径に依存し、粒径が小さいほど多くの死細胞を誘導できると認められた(25nm,180nm,350nmの順)。また、粒径の異なるシアノアクリレートナノ粒子の何れにおいても死細胞を誘導できると認められた。
【0078】
25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子(250mg/L)と2時間同時インキュベートしたときの死細胞率は約30%であったが(図3)、25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子(500mg/L)と2時間同時インキュベートしたときの死細胞率は約65%であり(図4)、25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子(1g/L)と2時間同時インキュベートしたときの死細胞率は100%であった(図5)。
これより、同じ時間の同時インキュベートであっても、シアノアクリレートナノ粒子の濃度を上げることにより、多くの死細胞を誘導できると認められた。
【0079】
図4より、シアノアクリレートナノ粒子の濃度が500mg/Lの場合、25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と2時間同時インキュベートすることにより、全て(100%)の細胞を染色した(死細胞率100%)。また、180nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と3時間同時インキュベートすることにより、略100%の細胞を染色し、350nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と4時間同時インキュベートすることにより、略100%の細胞を染色した。
図5より、シアノアクリレートナノ粒子の濃度が1g/Lの場合、25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と1時間同時インキュベートすることにより、全て(100%)の細胞を染色した(死細胞率100%)。また、180nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と2時間同時インキュベートすることにより、略100%の細胞を染色し、350nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子と3時間同時インキュベートすることにより、略100%の細胞を染色した。
これより、シアノアクリレートナノ粒子の濃度を高くすることにより、短時間で死細胞を誘導できると認められた。
【0080】
以上より、粒径の異なる3種のシアノアクリレートナノ粒子において、低濃度で迅速に細胞死を誘導できる順番は、その作用が高い順に25nm,180nm,350nmであると認められた。また、トリパンブルーによって染色された細胞は、原形質膜に重度の損傷を有する死細胞であることが示唆された。
【0081】
尚、25nm,180nmの粒径のシアノアクリレートナノ粒子は、クラミドモナスとの8時間の同時インキュベーション後でさえ、凝集体は観察されなかった。350nmの粒径のシアノアクリレートナノ粒子は、4時間以上の同時インキュベーションで20~30個のナノ粒子からなる凝集体を生成した。これより、本発明の藻類増殖抑制剤に含まれる有機化合物のナノ粒子(シアノアクリレートナノ粒子)は、ナノ粒子相互の凝集性がほとんどなく、水溶液中で安定に分散状態を維持できると認められた。
【0082】
また、25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子の場合、野生型CC-124のクラミドモナスに対して死細胞を誘導できる濃度は30mg/Lであった(結果は示さない)。
【0083】
また、サイズが異なるシアノアクリレートナノ粒子において、モル濃度(粒子の個数)を同じにしてクラミドモナスと同時インキュベーションすれば、粒径の大きいシアノアクリレートナノ粒子(180nm,350nm)の方が得られる効果(死細胞を誘導できる比率)は大きい傾向があった(図6)。
【0084】
さらに、サイズが異なるシアノアクリレートナノ粒子において、培養液中に投入された表面積を同じにしてクラミドモナスと同時インキュベーションすれば、得られる効果(死細胞を誘導できる比率)は、同様の傾向を示した(図7)。
【0085】
〔実施例3〕
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)において、野生型CC-124、非常に薄い細胞壁突然変異体CC-503および細胞壁欠損突然変異体CC-400における死細胞率を調べた。上記2種の変異体においても、ミネソタ大学(米国)のクラミドモナス資源センターから提供された。当該死細胞率は実施例2で説明したように、25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子(250mg/L)と同時インキュベートし、トリパンブルー染色アッセイを行うことにより求めた。結果を図8に示した。
【0086】
この結果、シアノアクリレートナノ粒子との1時間の同時インキュベートによって、細胞壁欠損突然変異体CC-400では約95%の死細胞が誘導され、薄い細胞壁突然変異体CC-503では、約40%の死細胞が誘導され、野生型CC-124では、約28%の死細胞が誘導された。
【0087】
これより、シアノアクリレートナノ粒子に対する感受性は高い順に、細胞壁欠損突然変異体CC-400、薄い細胞壁突然変異体CC-503、野生型CC-124であることが示された。このような感受性の順序は、細胞壁がシアノアクリレートナノ粒子による死細胞誘導を阻害する一種の機械的障壁として働いていることを示唆した。
【0088】
〔実施例4〕
25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子(65mg/L)と20分間の同時インキュベートした後のクラミドモナス(野生型CC-124)の細胞超微細構造をTEMにより観察した。結果を図9に示した。
【0089】
この結果、野生型CC-124の細胞壁内部および細胞壁と原形質膜との間(ペリプラズム空間)に多数のシアノアクリレートナノ粒子が観察された。即ち、TEMによって観察された細胞超微細構造は、細胞壁が強い損傷を有し、シアノアクリレートナノ粒子が細胞壁内部および細胞壁と原形質膜との間(ペリプラズム空間)に蓄積して細胞質に侵入していることを実証した。
【0090】
〔実施例5〕
クロレラ(Chlorella vulgaris)に対するシアノアクリレートナノ粒子曝露の影響について調べた。本実施例で使用したクロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)は国立環境研究所(NIES)から提供された。
【0091】
シアノアクリレートナノ粒子は、種々のサイズ(25nm,180nm,350nm)を使用し、それぞれのサイズにおいて1g/Lの濃度でアッセイを行った。この同時インキュベーションによってシアノアクリレートナノ粒子は細胞壁との親和性により、細胞表面に多数付着してその表面を覆いつくし(図2)、その結果、クロレラ細胞は死細胞へ誘導されず、プロトプラストまたはスフェロプラスト(プロトプラスト/スフェロプラスト)に変化した。
【0092】
プロトプラスト/スフェロプラストの出現は、キチンおよびセルロースに特異的に結合する蛍光色素であるフルオレセントブライトナー28(F3543、シグマアルドリッチ社製)を用いた細胞壁染色試験によって確認した。
【0093】
フルオレセントブライトナー28のストック溶液(HO中1mg/mL)を細胞培養物に加えた(最終濃度0.04mg/mL)。試料を光学顕微鏡観察の前に暗所で10分間保持した。染色された細胞は、U-MWU2フィルターユニットまたはBZ-X700(キーエンス社製)を有する顕微鏡(IX71:オリンパス株式会社製)を使用して洗浄ステップなしで観察した。
【0094】
この試験では、純赤色蛍光を有する細胞をプロトプラスト/スフェロプラストと判定し、ピンク-赤を有する細胞を非プロトプラスト/スフェロプラストとして評価した。この判断基準を確立するために、市販の溶菌酵素混合物を用いてクロレラ(Chlorella vulgaris)のプロトプラストを調製した。市販の溶菌酵素混合物は、0.5%セルリジン(カルバイオ・ケム社製)、2%マセロチームR-10(ヤクルト薬品工業株式会社製)およびバチルスR-4由来の1%キトサナーゼ(ケイ・アイ化成株式会社製)を0.5Mマンニトールを含む25mMのリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解したものを使用した。遠心分離(1000×g、10分)により対数期中期(OD750=0.8-1.0)で細胞を収穫し、次いで細胞ペレットを酵素混合物(2×10細胞/mL)に懸濁し、薄暗い場所で非常に穏やかに振盪しながら25℃で4~8時間インキュベートした。
酵素処理した細胞では、近傍の細胞壁を取り除いた純赤色蛍光細胞をプロトプラストの参照標準として使用した。一方、非酵素処理細胞の色は、クロロフィルの純赤色自己蛍光とフルオレセントブライトナー28の青色蛍光の融合の結果としてピンクがかった赤色であり、非プロトプラストの参照標準として使用した。
【0095】
シアノアクリレートナノ粒子との同時インキュベーションにより、定期的に試料を取り出し、観察された100細胞中のプロトプラスト/スフェロプラストの数を数えた(図10)。プロトプラスト/スフェロプラストのピーク頻度は、25nmのシアノアクリレートナノ粒子と4時間の同時インキュベーション後に約60%に達した。25nmのシアノアクリレートナノ粒子は、180nmおよび350nmのシアノアクリレートナノ粒子より効率よくプロトプラスト/スフェロプラスト誘導した。
【0096】
シアノアクリレートナノ粒子の濃度を250mg/L、500mg/Lに変更した場合でも、プロトプラスト/スフェロプラストが誘導された(結果は示さない)。プロトプラスト/スフェロプラストはまた、トリパンブルーによって染色されなかった。
【0097】
尚、クロレラ(Chlorella vulgaris)以外の他の3つのクロレラ属、即ち、クロレラ・エリプソイデア(Chlorella ellipsoidea)、クロレラ・エサッカロフィラ(Chlorella saccharophila)、クロレラ・ソロキニアナ(Chlorella sorokiniana)についても同様の実験を行った。これらは国立環境研究所(NIES)から提供された。この結果、これら3つのクロレラ属についても25nmのシアノアクリレートナノ粒子との同時インキュベーションによってプロトプラスト/スフェロプラストが誘導された。特に、クロレラ・エリプソイデアについては、クロレラ・ブルガリスと同レベルでプロトプラスト/スフェロプラストが誘導された(結果は示さない)。
【0098】
〔実施例6〕
クロレラ(Chlorella vulgaris)に対するシアノアクリレートナノ粒子曝露により細胞壁溶解酵素が分泌されているかを調べた。
【0099】
クロレラと350nmのシアノアクリレートナノ粒子(1g/L)とを8時間同時インキュベーションした後に細胞を回収し、100nmサイズの孔を有するメンブランフィルターユニットを用いて上清を濾過してシアノアクリレートナノ粒子を除去した。濾液を指数関数的に増殖するクロレラ・ブルガリスから調製した細胞ペレットに加え、8時間インキュベートすることにより、細胞の約15%がプロトプラスト/スフェロプラストに変化した(図11)。プロトプラスト/スフェロプラストの判定は実施例5に準じて行った。
【0100】
これにより、増殖の異常な細胞周期で分泌されたクロレラの細胞壁溶解酵素を濾液が含むことを明らかに示した。尚、図11における「コントロール」は、細胞と分散剤のみを含む培養液で同時インキュベーションを行ったもの、「NP(350nm)」は、シアノアクリレートナノ粒子との同時インキュベーションによりプロトプラスト/スフェロプラストが誘導されたもの、を示す。
【0101】
〔実施例7〕
25nmのサイズのシアノアクリレートナノ粒子(1g/L)と3時間の同時インキュベートした後のクロレラの細胞超微細構造をTEMにより観察した。結果を図12に示した。
【0102】
この結果、細胞壁内部および細胞壁と原形質膜との間(ペリプラズム空間)にはシアノアクリレートナノ粒子は検出されなかった。
【0103】
〔実施例8〕
上述した実施例では、クラミドモナス属のChlamydomonas reinhardtiiにおいてシアノアクリレートナノ粒子曝露の影響について調べた。本実施例では、他のクラミドモナス属や緑藻綱について、シアノアクリレートナノ粒子(25nm)曝露の影響について調べた。実験条件は、上述した実施例と同様とした。尚、参考のため、上述した実施例で使用したChlamydomonas reinhardtii、4種のクロレラ属についても結果を表記した(表1-1,表1-2)。
【0104】
【表1-1】
【0105】
【表1-2】
【0106】
この結果、クラミドモナス属は、例えばクラミドモナス・アプラナタ(Chlamydomonas applanata)、クラミドモナス・アシメトリカ(Chlamydomonas assymetrica)、クラミドモナス・デバリアナ(Chlamydomonas debaryana)、クラミドモナス・グロボサ(Chlamydomonas globosa)、クラミドモナス・モブシー(Chlamydomonas moewusii)、クラミドモナス・モナディナ(Chlamydomonas monadina)、クラミドモナス・ノクティガマ(Chlamydomonas noctigama)、クラミドモナス・パルカエ(Chlamydomonas parkeae)、クラミドモナス・ペルプシラ(Chlamydomonas perpusilla)において死細胞誘導が認められた。
【0107】
また、クラミドモナス属以外にも、ニセヒゲマワリ(Astrephomene gubernaculifera)、カルテリア・ラディオサ(Carteria radiosa)、ディスモルフォコッカス・グロボサス(Dysmorphococcus globosus)、ユードリナ・エレガンス(Eudorina elegans)、ゴニウム・ムルチコカム(Gonium multicocum)、ラボクラミス・クレウス(Labochlamys culleus)、パンドリナ モルム(Pandorina morum)、ファコタス・レンチクラリス(Phacotus
lenticularis)、テトラバエナ・ソシアリス(Tetrabaena socialis)、ボルボックス・カルテリ(Volvox carteri)、ボルブリナ・ステイニー(Volvulina steiniii)において死細胞誘導が認められた。
【0108】
従って、本発明の藻類増殖抑制剤を使用することにより、上記の微細藻類の増殖を原因とする水質の汚濁(赤潮または閉鎖水域における汚濁)を予防あるいは抑制することができると認められた。
【0109】
〔実施例9〕
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)の野生型CC-124においてシアノアクリレートナノ粒子曝露による活性酸素種(ROS)生成の経時変化について調べた。
【0110】
活性酸素種を検出するために、2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート(H2DCFDA)(D668、シグマアルドリッチ社製)を使用した。非蛍光H2DCFDAは、細胞質内の活性酸素種によって高蛍光2’,7’-ジクロロフルオレセイン(DCF)に変換される。
【0111】
クラミドモナスおよび25nmのシアノアクリレートナノ粒子(100mg/L)の同時インキュベーションにより、細胞質中に蓄積されたROSによるH2DCFDAの酸化型としてDCFから放出された時間依存的に増加した蛍光陽性細胞の検出を試みた。蛍光顕微鏡観察の15分前に、DMSOに溶解したH2DCFDAを細胞培養物に添加した(最終濃度10μM)。DCFの蛍光は顕微鏡(IX71:オリンパス株式会社製)によって観察された。
【0112】
コントロールとして、細胞と分散剤のみを含む培養液で同時インキュベーションを行ったものを使用し、比較対照として、2種類の金属酸化物ナノ粒子、即ち、100nm未満の粒子を含むZnO(544906、シグマアルドリッチ社製)およびTiO(アナターゼ形態)(205-01715、和光純薬工業株式会社製)を使用した。
【0113】
その結果、蛍光陽性細胞率は、同時インキュベーション開始後60~90分にピークに達した(図13図14)。また、蛍光顕微鏡の観察結果により、クラミドモナスおよび25nmのシアノアクリレートナノ粒子の同時インキュベーションによる試料のみ、DCFの蛍光が検出された(図15)が、2種類の金属酸化物ナノ粒子を使用した試料については蛍光は検出されなかった。これより、シアノアクリレートナノ粒子が、同じ濃度のこれらの金属酸化物ナノ粒子より生理学的障害を誘発する能力が高いことを明確に示した。
【0114】
〔実施例10〕
本実施例では、上述した緑藻綱以外の他の微細藻類について、シアノアクリレートナノ粒子(25nm)曝露の影響について調べた。実験条件は、上述した実施例と同様とした。
【0115】
使用した微細藻類は、渦鞭毛虫門に属する渦鞭毛藻類、珪藻植物門に属する珪藻類、不等毛植物門に属するラフィド藻類または黄金藻類であり、具体的には、シャットネラ・マリ-ナ(Chattonella marina:NIES-1)、ヘテロカプサ・トリケトラ(Heterocapsatriquetra:NIES-7)、タラシオネマ・ニツシオイデス(Thalassioneama nitzschioides:NIES-534)、カレニア・ミキモトイ(Karenia mikimotoi:NIES-2411)、キートセロス・デビリス(Chaetoceros debilis:NIES-3710)、カリプトロスファエラ・スフェロイデア(Calyptrosphaera sphaeroidea:NIES-1308)、ガンビエルディスクス(Gambierdiscus sp:NIES-2764)、ヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo:NIES-5)、オドンテラ・ロンギクルリス(Odontella longicruris:NIES-590)とした。
【0116】
この結果、これら全ての微細藻類について死細胞誘導が認められた。従って、本発明の藻類増殖抑制剤を使用することにより、上記の微細藻類の増殖を原因とする水質の汚濁(赤潮または閉鎖水域における汚濁)を予防あるいは抑制することができると認められた。
【0117】
〔実施例11〕
シアノアクリレートナノ粒子に非感受性の微細藻類、および、シアノアクリレートナノ粒子に感受性の微細藻類について、シアノアクリレートナノ粒子の濃度を種々変更した場合にそれぞれの微細藻類が増殖するかを調べた。
【0118】
シアノアクリレートナノ粒子は180nmの粒径を有するものを使用し、シアノアクリレートナノ粒子に非感受性の微細藻類はユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis:NIES-49)を使用し、シアノアクリレートナノ粒子に感受性の微細藻類はクラミドモナス・レインハーディ(野生型CC-124)を使用した。
【0119】
1.5%の寒天を含むHUT培地(pH6.4)上の異なる位置に、1%(10g/L(w/v))、0.3%、0.1%、0.03%、0.01%、0.003%のシアノアクリレートナノ粒子をそれぞれ20μL滴下してHUT培地に吸着させた。次に対数増殖期に達したユーグレナ・グラシリスの培養液を綿棒に吸着させて、HUT培地上に塗り広げ、10日間培養した。その結果、全てのシアノアクリレートナノ粒子滴下位置においてユーグレナ・グラシリスの細胞が増殖していると認められた(図16)。これより、ユーグレナ・グラシリスは極めて高濃度(~1%)のシアノアクリレートナノ粒子に対しても耐性を有する(シアノアクリレートナノ粒子に非感受性である)ことが判明した。
【0120】
一方、1.5%の寒天を含むTAP培地(pH7.0)上の異なる位置に、0.03%の、0.01%、0.003%、0.001%のシアノアクリレートナノ粒子をそれぞれ20μL滴下してTAP培地に吸着させた。次に対数増殖期に達したクラミドモナス(CC-124株)の培養液を綿棒に吸着させてTAP培地上に塗り広げ、10日間培養した。その結果、0.003%及び0.001%のシアノアクリレートナノ粒子滴下位置においてはクラミドモナスの細胞が増殖していると認められたが、0.03%及び0.01%のシアノアクリレートナノ粒子滴下位置においてはクラミドモナスの細胞が増殖していないと認められた(図17:破線部内)。
【0121】
対数増殖期のユーグレナ・グラシリスにシアノアクリレートナノ粒子を最終濃度0.01%(100mg/L)となるように添加して、液体培地にて12時間培養した後に光学顕微鏡にて観察を行ったが、遊泳を停止している細胞は認められなかった(図18)。これより、この条件でのユーグレナ・グラシリスの細胞死率はゼロであると推定された。シアノアクリレートナノ粒子の最終濃度が0.03%の場合も同様の結果が得られた(結果は示さない)。
【0122】
一方、対数増殖期のクラミドモナス(CC-124株)にシアノアクリレートナノ粒子を最終濃度0.01%(100mg/L)となるように添加して、液体培地にて12時間培養した後に光学顕微鏡にて観察を行ったが、遊泳をしている細胞は殆ど認められなかった(結果は示さない)。シアノアクリレートナノ粒子の最終濃度が0.03%の場合も同様の結果が得られた(結果は示さない)。
【0123】
また、シアノアクリレートナノ粒子に非感受性の微細藻類としてヘマトコッカス・ラクストリス(Haematococcus lacustris:NIES-144)を使用し、上記と同様の実験を行ったところ、ユーグレナ・グラシリスの場合と同様の結果が得られた。
【0124】
本実施例により、例えば野外の開放系の培養槽等で培養しようとする場合、シアノアクリレートナノ粒子を培地に添加(例えば最終濃度が0.01~0.03%)することにより、シアノアクリレートナノ粒子に感受性の微細藻類(例えばクラミドモナス・レインハーディ)の増殖を排除し、シアノアクリレートナノ粒子に非感受性の微細藻類(例えばユーグレナ・グラシリス、ヘマトコッカス・ラクストリス等の有用な微細藻類)を選択的に増殖させることができるものと認められた。
【0125】
また、この実験では、シアノアクリレートナノ粒子が固形物である寒天表面上に付着していれば、寒天上にあるクラミドモナス・レインハーディの生育が阻害されることを示している。従って、シアノアクリレートナノ粒子を固形物(植物工場で使用する部材、或いは、建材用の外壁)の表面に付着させることにより、その表面に微細藻類が生育することを阻害することが期待される。
【0126】
〔実施例12〕
固体表面で藻類増殖抑制剤として効果が発現するために必要な最小限のシアノアクリレートナノ粒子の粒子数はどの程度か、その面積密度(平米当り質量)を求める実験を行った。
【0127】
1.5%の寒天を含むTAP培地(pH7.0)上の異なる位置に、所定の濃度(10,30,100,300ppm)に希釈したシアノアクリレートナノ粒子(粒径30nm)の分散液を20μL滴下してTAP培地に吸着させた。分散液を20μL滴下したときにTAP培地上で広がる面積は約0.785cmであった。
各濃度において、シアノアクリレートナノ粒子の質量、個数、平米当り質量g/m等を求めた結果を表2に示した。
【0128】
【表2】
【0129】
対数増殖期に達したクラミドモナス(CC-124株)の培養液を綿棒に吸着させてTAP培地上に塗り広げ、10日間培養した。その結果、10,30,100ppm(水準1~3)のシアノアクリレートナノ粒子滴下位置においてはクラミドモナスの細胞が増殖していると認められたが、300ppm(水準4)のシアノアクリレートナノ粒子滴下位置においてはクラミドモナスの細胞が増殖していないと認められた(結果は示さない)。
【0130】
水準4のシアノアクリレートナノ粒子は、平米当り質量が0.076g/mであった。
【0131】
〔実施例13〕
シアノアクリレートナノ粒子(粒径30nm)の分散液を寒天培地表面上に均一に付着させた試料上にクラミドモナス(CC-124株)を塗布し、培養試験を行った。各試料A~Dに添加したシアノアクリレートナノ粒子液の添加量、シアノアクリレートナノ粒子の質量、シアノアクリレートナノ粒子の粒子数を求めた結果を表3に示した。試料Eはシアノアクリレートナノ粒子を添加しないコントロールとした。
【0132】
【表3】
【0133】
1.5%の寒天を含むTAP培地(表面積64cm)に各試料A~Dのシアノアクリレートナノ粒子液(濃度1%)をそれぞれ別々に添加し、50℃に設定した恒温器の中にシャーレを入れ、シアノアクリレートナノ粒子液を乾燥させた。対数増殖期に達したクラミドモナス(CC-124株)の培養液を綿棒に吸着させてTAP培地上に塗り広げ、室温(25±2℃)にて2週間培養した。結果を図19(培養0日目)、図20(培養7日目)、図21(培養11日目)に示した。
【0134】
この結果、試料Aについては培養11日目でクラミドモナスの増殖が目視で明確に確認された。一方、試料B~Dについては培養11日目でもクラミドモナスの増殖が目視で確認されなかった。即ち、試料B~Dのシアノアクリレートナノ粒子は、平米当り質量が0.108~1.078g/mであった。
【0135】
実施例12の結果と合せて、シアノアクリレートナノ粒子は、平米当り質量が0.076g/m、或いは0.108g/m以上であれば、固体表面でのクラミドモナスの増殖を予防あるいは抑制することができるものと認められた。尚、クラミドモナス以外の微細藻類についても同様の結果が得られた(結果は示さない)。
【0136】
従って、例えば建材用の外壁に、平米当り質量が0.076g/m、或いは0.108g/m以上となるようにシアノアクリレートナノ粒子液を予め塗布しておけば、建材用の外壁の表面で微細藻類の増殖を予防あるいは抑制することが期待できる。
【0137】
尚、実際に建材用の外壁の表面にシアノアクリレートナノ粒子液を塗布するには、以下のようにしておこなうとよい。即ち、0.1gのシアノアクリレートナノ粒子分散液の体積は分散濃度が1%の場合10cmである。10cmの場合には分散液をスプレーで吹き付けて、乾燥させる方法が可能である。塗布する場合には、これを10倍希釈し、100cmの液にすると均一に作業しやすい。乾燥する時間を考えると、希釈する液量は少ない方が有利である。
【0138】
〔実施例14〕
屋外の池において、シアノアクリレートナノ粒子を添加し、微細藻類の増殖にどのような影響を与えるかを調べた。
【0139】
高知工科大キャンパス内に並列して配置された水容量42トンの池の一方に、直径25nmのイソブチルシアノアクリレートナノ粒子を、最終濃度を100ppmとなるように投入した。対象実験区となるもう一方の池には、イソブチルシアノアクリレートナノ粒子は投入しなかった。24日経過後に、シアノアクリレートナノ粒子を添加した池と、対象実験区の池から、それぞれ500mLの水を採取して網目1μmのメッシュで濾過をし、微細藻類等の生物を採集した。
【0140】
フィルター上の生物に対して凍結および溶解を3回繰り返すことにより、細胞を破砕した。破砕された細胞からの全DNA抽出は、QIAamp DNA Mini Kit (キアゲン社製)を用いて行った。抽出されたDNAを用いて、下記のプライマーセットを用いたPCR法により増幅したアンプリコンを次世代シークエンサーMiSeq(イルミナ社製)を用いて、2×300bpの条件でエンドペア配列の解析を行った。
【0141】
1st-1422f
5’ACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCTATAACAGGTCTGTGATGCC3’
【0142】
1st-1642r
5’GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCTCGGGCGGTGTGTACAAAGG3’
【0143】
シアノアクリレートナノ粒子を投入した池から得られた生物のDNAを用いて得られたシークエンスデータの品質チェックを行い、最終的に49,376リード(bp)が得られた。また、対象実験区の池から得られた生物のDNAを用いて得られたシークエンスデータの品質チェックを行い、最終的に67,268リード(bp)が得られた。これらの配列データを米国生物工学情報センターが管理運営するGenBankの塩基配列データと比較することで、解析された18SrDNA配列に最も近い生物種を推定した。
【0144】
解析されたDNA配列のうち、7種類は渦鞭毛藻に最も高い相同性を持つことが判明した(表4)。これらのDNA配列はいずれも、シアノアクリレートナノ粒子液を投入した池からは、ごく限られた回数、あるいは全く検出されなかった。一方、対象実験区の池からは、いずれも60回以上検出されている。このことから、これらの渦鞭毛藻は、シアノアクリレートナノ粒子液の暴露で、生育していた個体のほとんどが死滅する種であると認められた。
【0145】
【表4】
【0146】
解析されたDNA配列のうち、3種類は黄金色藻に最も高い相同性を持つことが判明した(表5)。これらのDNA配列はいずれも、シアノアクリレートナノ粒子液を投入した池からは、ごく限られた回数、あるいは全く検出されなかった。一方、対象実験区の池からは、いずれも88回以上検出されている。このことから、これらの黄金色藻は、シアノアクリレートナノ粒子液の暴露で、生育していた個体のほとんどが死滅する種であると言える。
【0147】
【表5】
【0148】
解析されたDNA配列のうち、3種類は真正眼点藻に最も高い相同性を持つことが判明した(表6)。これらのDNA配列はいずれも、シアノアクリレートナノ粒子液を投入した池からは、ごく限られた回数しか検出されなかった。一方、対象実験区の池からは、いずれも243回以上検出されている。このことから、これらの真正眼点藻は、シアノアクリレートナノ粒子液の暴露で、生育していた個体のほとんどが死滅する種であると言える。
【0149】
【表6】
【0150】
解析されたDNA配列のうち、5種類は緑藻に最も高い相同性を持つことが判明した(表7)。これらのDNA配列において、シアノアクリレートナノ粒子液を投入した池から検出されたリード数は、対象実験区の池から検出されたリード数の約3分の1以下しか検出されなかった。このことから、これらの緑藻は、シアノアクリレートナノ粒子液の暴露で、生育していた個体が死滅し易い種であると言える。
【0151】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明は、藻類の増殖を抑制する藻類増殖抑制剤および藻類の増殖を抑制する方法に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【配列表】
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