(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】光偏向デバイス
(51)【国際特許分類】
G02B 6/122 20060101AFI20220905BHJP
【FI】
G02B6/122 301
(21)【出願番号】P 2019537667
(86)(22)【出願日】2018-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2018031052
(87)【国際公開番号】W WO2019039526
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2017160825
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)、「スローライト構造体を利用した非機械式ハイレゾ光レーダーの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願である。
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】馬場 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 萌江
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】楠 侑真
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/126386(WO,A1)
【文献】特表2008-511861(JP,A)
【文献】国際公開第2003/081303(WO,A1)
【文献】特開2008-310065(JP,A)
【文献】特開2006-184618(JP,A)
【文献】特開2005-208180(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0146738(US,A1)
【文献】特開2001-272555(JP,A)
【文献】特開2006-079706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12,6/122
G02F 1/29
G01N 21/49
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高屈折率部材の面内に
円孔を設けることによって低屈折率部位が周期的に配列され導波路を構成する格子配列を備えるフォトニック結晶導波路において、
前記格子配列は、
前記円孔の径が互いに異なることにより前記低屈折率部位の周期配列が異なる第1の周期配列と第2の周期配列の二重周期構造
、又は、前記格子配列において前記円孔の間隔を前記導波路の伝搬方向に対して異ならせることによって前記導波路の伝搬方向に対して互いに位置ずれして配置された第1の周期配列と第2の周期配列の二重周期構造を備え、
前記二重周期構造の少なくとも何れか一方の周期配列において、前記低屈折率部位は厚さ方向に対して非対称な断面形状を備え、これにより、前記格子配列に形成された導波路コアを伝搬した光の、厚さ方向のいずれか一方向への放射強度を高める、光偏向デバイス。
【請求項2】
前記非対称な断面形状の低屈折率部位の側壁は、それぞれ厚さ方向に対して、
傾斜壁、又は傾斜壁、垂直壁、及び水平壁の内少なくとも2つの壁部から成る段状壁の何れかの壁形状である、請求項1に記載の光偏向デバイス。
【請求項3】
前記二重周期構造は、
前記第1の周期配列及び第2の周期配列の各低屈折率部位は互いに径を異にする円孔が配列され、
前記円孔は、前記各周期配列の導波路の伝搬方向に対して所定間隔で配列され、
前記第1の周期配列の円孔と前記第2の周期配列の円孔は、導波路の伝搬方向に沿った列において交互に配列され構成であり、
径を異にする大径と小径の円孔において、小径の円孔は非対称な断面形状を備える、請求項1又は2に記載の光偏向デバイス。
【請求項4】
前記二重周期構造は、
前記第1の周期配列及び第2の周期配列の各低屈折率部位は互いに径を異にする円孔が配列され、
前記円孔は、前記各周期配列の導波路の伝搬方向に対して所定間隔で配列され、
前記第1の周期配列の円孔と前記第2の周期配列の円孔は、導波路の伝搬方向に沿った列において交互に配列され構成であり、
径を異にする大径と小径の円孔において、大径の円孔は非対称な断面形状を備える、請求項1又は2に記載の光偏向デバイス。
【請求項5】
前記二重周期構造は、
前記第1の周期配列及び第2の周期配列の各低屈折率部位は互いに径を異にする円孔が配列され、
前記円孔は、前記各周期配列の導波路の伝搬方向に対して所定間隔で配列され、
前記第1の周期配列の円孔と前記第2の周期配列の円孔は、導波路の伝搬方向に沿った列において交互に配列され構成であり、
径を異にする大径と小径の円孔は非対称な断面形状を備える、請求項1又は2に記載の光偏向デバイス。
【請求項6】
前記二重周期構造は、
前記第1の周期配列及び第2の周期配列の各低屈折率部位は互いに径を異にする円孔が、前記各周期配列の導波路の伝搬方向に対して所定間隔で配列され、
前記第1の周期配列の円孔と前記第2の周期配列の円孔は、導波路の伝搬方向に沿った同列上において交互に配列され構成であり、
第1の周期配列及び第2の周期配列の内、何れか一方の周期配列の円孔は非対称な断面形状を備える、請求項1又は2に記載の光偏向デバイス。
【請求項7】
前記非対称な断面形状を備える円孔の周期配列は、導波路の伝搬方向に沿った列において、円孔が配列されない線欠陥から2列目の周期配列である、請求項3又は6に記載の光偏向デバイス。
【請求項8】
前記格子配列が備える円孔において、導波路の伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の二重周期的な円孔は、他の位置にある円孔と比較して拡大又は縮小した径を有する、請求項3又は6に記載の光偏向デバイス。
【請求項9】
前記垂直壁面は、非対称な断面形状を有する複数の低屈折率部位及び高屈折率部材の表面の一部が除去された溝の側壁である、請求項2に記載の光偏向デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の進行方向を制御する光偏向デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
周囲の物体までの距離を2次元画像として取得するレーザ計測を用いたレーザレーダーもしくはライダー装置(LiDAR(Light Detection and Ranging、 Laser Imaging Detection and Ranging))の技術分野は、車の自動運転や3次元地図作製等に利用されており、その基盤技術はレーザプリンタ、レーザディスプレイ、レーザ加工機等にも適用可能である。
【0003】
この技術分野では、光ビームを物体に当て、物体で反射して戻ってくる反射光を検出し、その時間差や周波数差から距離の情報を取得すると共に、光ビームを2次元的に走査することによって広角の3次元情報を取得する。
【0004】
光ビーム走査には光偏向デバイスが必須である。従来は、機器全体の回転、多角形ミラー(ポリゴンミラー)、ガルバノミラーといった機械式ミラー、マイクロマシーン技術(MEMS技術)による小型集積ミラーなど、いずれも機械式の機構が用いられているが、大型、高価、振動する移動体での不安定性などの問題があり、近年、非機械式の光偏向デバイスの研究が盛んとなっている。
【0005】
非機械式の光偏向デバイスとして、光の波長やデバイスの屈折率を変えることで光偏向を実現するフェーズドアレイ型や回折格子型が提案されている。しかしながら、フェーズドアレイ型の光偏向デバイスはアレイ状に並べられた多数の光放射器の位相調整が非常に難しく、高品質な鋭い光ビームを形成することができないという課題がある。一方、回折格子型の光偏向デバイスは鋭いビームの形成が容易であるが、光偏向角が小さいという課題がある。
【0006】
小さな光偏向角の課題に対して、本発明の発明者は、スローライト導波路を回折格子等の回折機構に結合させることによって光偏向角を増大させる技術を提案している(特許文献1)。スローライト光はフォトニック結晶導波路のようなフォトニックナノ構造の中で発生し、低群速度を持ち、波長や導波路の屈折率のわずかな変化により、伝搬定数を大きく変化させるという特徴を持つ。このスローライト導波路の内部、もしくは直近に回折機構を設置すると、スローライト導波路が回折機構に結合して漏れ導波路となり、自由空間に光を放射する。このとき伝搬定数の大きな変化は放射光の偏向角に反映し、結果として大きな偏向角が実現される。
【0007】
低群速度をもつ光(スローライト)を伝搬するフォトニック結晶導波路に回折機構を導入したデバイス構造と、そこからの放射光ビームの概要を
図36Aに示す。回折機構は、例えば、フォトニック結晶の面内に導波路に沿って2種類の異なる直径の円孔を交互に繰り返す円孔パターンの二重周期構造、あるいはフォトニック結晶の面内に導波路に沿って2種類の周期で、長短の格子ピッチの円孔を交互に繰り返す円孔パターンの二重周期構造で構成され、入射光はスローライト導波路に入射され、スローライト伝搬光は放射条件に変換されて放射光ビームとして空間に放射される。
【0008】
図36Bは放射光ビームのビーム強度分布を説明するための図であり、
図36Bは縦方向のビーム強度分布を示し、放射光ビームは導波路に沿って徐々に漏れ出すことで縦方向のビーム強度分布は揃った鋭いビームとなる。
図36Cは横方向のビーム強度分布を示し、横方向のビーム強度分布は広い角度分布を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際特許公開WO2017/126386
【文献】特開2001-272555
【文献】特開2004-294517
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、光偏向デバイスによる放射光ビームの解析は、
図36Aに示したように、フォトニック結晶導波路から光が上方に放射する状況に基づいて行っている。しかしながら、前記したフォトニック結晶導波路は、導波路の厚さ方向に対して対称な構造である。このフォトニック結晶導波路の対称構造により、光偏向デバイスが利用する放射光ビームが放射される導波路側を上方向とした場合においても、光の放射はフォトニック結晶に対して上下対称に起こる。
【0011】
図37A~
図37Eは、導波路の厚さ方向に対して対称である従来のフォトニック結晶導波路において、異なる径の大径孔と小径孔をV字形状に配置してなる円孔パターンの二重周期構造の例を示している。
図37Eは導波路スラブの断面形状を示し、大径孔の口径を215nmとし小径孔の口径を205nmとして、口径差Δ2rを10nmとする二重周期構造である。また、各孔の断面形状は側壁が垂直であって、厚さ方向の上下の端部の孔の口径が同径であって、厚さ方向に対して上下対称である。また、この図では省略しているが、実際に製作されるフォトニック結晶導波路構造では、導波路が形成されるSiスラブを覆っているSiO
2クラッドの上に空気があり、下にSi基板がある。この計算においても、このような空気と基板を仮定している。
【0012】
図37A,
図37B,
図37C,
図37Dは、それぞれ、二重周期構造を備えるフォトニック結晶導波路の規格化周波数a/λ、群屈折率、放射係数(散乱損失)、及び放射比率Pupper/Plowerを示している。
図37Dにおいて、放射比率Pupper/Plowerが1より大きいほど上方放射量が下方放射量よりも大きいことを示し、放射比率Pupper/Plowerが1より小さいほど下方放射量が上方放射量よりも大きいことを示している。なお、
図37Dの放射比率は、導波路スラブを上下方向で挟むクラッド部分を通過する透過光の光パワーの比率である。
【0013】
図37Dは、全孔の断面形状が厚さ方向に対して上下対称である場合の放射比率Pupper/Plowerが、SiO
2クラッドの上下の空気と基板という非対称性がある状況でもほぼ1であることを示し、このことは導波路スラブからは上方向及び下方向にほぼ同量の光が放射されることを意味している。
【0014】
図38A~
図38Cは上下対称な構造のフォトニック結晶導波路の光放射を説明するための図である。前記した
図36A~
図36Cでは、便宜上から上方への光放射しか描いていないが、実際には
図38A~
図38Cに示す様に、上下対称構造のフォトニック結晶導波路の導波路スラブから放射された光は、上下に積層されたクラッドを介して上下方向に放射される。
図38Aは、上下対称な構造から上方向及び下方向に放射される光放射を模式的に示している。上下対称な構造のフォトニック結晶導波路の導波路スラブから放射された光は、上方だけでなく下方にも同じ光が放射されるため、発生した放射光の半分は利用されないことになる。
【0015】
また、このフォトニック結晶導波路を受光機構として用いた場合においても、
図38Bに示す様に受光される光の半分を利用することができない。反射光を受光する過程は、放射光を逆に戻す過程と等価であり、上方向のみの光を受光した場合には、下方向から戻ってくる光がないため、受光した光を導波路へ結合させる際に、上方向からの光のみが導波路に結合され、下方向からの光は結合されない。そのため、上方向及び下方向の両方向の光を受光する場合と比較して半分の光量しか結合されない。したがって、送信時及び受信時のそれぞれ3dBの損失が発生し、送受信で合わせて6dBの原理損が生じることになる。
【0016】
上述し、また
図38Cに示す様に、実際のフォトニック結晶導波路は、導波層(導波路スラブ)の下にSiO
2等のクラッド、その下にさらにSiなどの半導体基板が積層された構造であるため、導波路スラブから下方へ放射された光はその半導体基板の表面で一部が反射され、導波路スラブから上方に放射される光と混合し、結果として上方に放射される放射光ビームの形状が乱れる。例えば、導波路スラブから単峰性の光ビームが放射された場合であっても、半導体基板の表面からの反射光が混合することによって、放射光ビームは複数ピークを有する多峰性に変化する。
【0017】
光ビーム走査の技術分野では、光ビームの利用効率の向上が求められている。そのため、光偏向デバイスにおいて、放射光ビームの放射効率、受光の受光効率が高いこと、また、放射光ビームのビーム形状が良好であることが求められている。
【0018】
一方、フォトニック結晶導波路において、線状欠陥に加えて点状欠陥を設け、この点状欠陥の断面形状をスラブ面に対して上下非対称とすることによって、線状欠陥から点状欠陥に取り出した放射光について上下方向の放射光量の比率を変える構成が知られている(特許文献2,3)。しかしながら、特許文献2の構成は、線状欠陥による導波路とは別に点状欠陥を設けることによって分波、合波を行うものであり、また、特許文献3の構成は特定波長の光の取り出し効率を高めるものである。つまり、これらの文献には、何れも点状欠陥に係るものであるため、本発明の光偏向デバイスが利用される光ビーム走査の技術分野において求められる、線状欠陥から放射される放射光ビームの放射効率、受光の受光効率の向上、放射光ビームのビーム形状の単峰性等を高めるという技術的な志向性について言及されていない。
【0019】
本発明は、光偏向デバイスにおいて、放射光ビームの放射効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の光偏向デバイスは、高屈折率部材の面内に低屈折率部位が周期的に配列された格子配列を備えたフォトニック結晶導波路で構成される。この格子配列は、低屈折率部位の周期配列において、周期配列を異にする第1の周期配列と第2の周期配列の二重周期構造を備え、低屈折率部位が配列されない線状欠陥は入射光を伝搬する導波路コアを構成する。
【0021】
二重周期構造の周期配列が備える第1の周期配列及び第2の周期配列の少なくとも何れか一方の周期配列において、低屈折率部位は厚さ方向に対して非対称な断面形状を有する。非対称な断面形状により、低屈折率部位の厚さ方向の両側のサイズは異なり、低屈折率部位が円孔である場合には、厚さ方向の一方の側は大径であり、他方の側は小径となる。
【0022】
なお、光偏向デバイスにおいて、放射光ビームの放射効率を高める放射側を上方向とする場合には、厚さ方向に対して非対称な断面形状は上下非対称な断面形状として表すことができる。
【0023】
低屈折率部位の厚さ方向の断面形状が非対称な構成は、二重周期構造の少なくとも何れか一方の周期配列に設ける。非対称な断面形状を備えた周期配列は、フォトニック結晶の線状欠陥から放射される放射光ビームの放射効率に偏りを生じさせ、上方あるいは下方の一方の側への放射効率を高めて一方向性放射とし、これによって、一方向への放射光ビームの放射効率を向上させる。なお、ここで、一方向性放射は、必ずしも、上方向のみへの放射、あるいは下方向のみへの放射に限られるものではなく、一方の方向への放射効率が他方の方向への放射効率よりも高いという放射効率の偏りを含むものである。
【0024】
(A)断面形状の形態
非対称な断面形状は複数の形態とすることができる。非対称な断面形状の側壁は、厚さ方向に対して、傾斜壁である形態(Aa)、傾斜壁、垂直壁、及び水平壁の内少なくとも2つの壁部から成る段状壁である形態(Ab)等の壁形状について複数の形態とすることができる。
【0025】
(Aa)傾斜壁の断面形状の形態は、低屈折率部位の厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面が傾斜面により構成される。このとき、低屈折率部位の断面形状は台形形状となる。
【0026】
(Ab1)段状壁の断面形状の第1の形態は、低屈折率部位の厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面が傾斜面と垂直面とで構成され、傾斜面と垂直面は連結されて、段状の断面が構成される。
【0027】
(Ab2)段状壁の断面形状の第2の形態は、低屈折率部位の厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面が2つの垂直面と1つの水平面とで構成される。2つの垂直面の開口部の径は異なり、両垂直面は水平面を介して連結されて、段状の断面が構成される。
【0028】
(Ab3)段状壁の断面形状の第3の形態は、低屈折率部位の厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面が傾斜面、垂直面、及び水平面で構成される。傾斜面と垂直面とは水平面を介して連結されて、段状の断面が構成される。
【0029】
(Ab4)段状壁の断面形状の第4の形態は、低屈折率部位の厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面が2つの傾斜面と1つの水平面とで構成される。一方の傾斜面と、他方の傾斜面は水平面を介して連結されて、段状の断面が構成される。
【0030】
段状壁の断面形状の第1~第3の形態の断面形状において、垂直壁面は、円筒形状の円孔が備える側壁で構成する他、低屈折率部位及び高屈折率部材の表面の一部を浅く切削して溝を形成し、この溝部の側壁によって構成することができる。
【0031】
溝の側壁による垂直壁面の構成によれば、一つの溝で複数の円孔の垂直壁を形成することができるため、各円孔の孔径の調整を不要とすることができる。
【0032】
(B)二重周期
本発明のフォトニック結晶導波路の格子配列を構成する二重周期は、周期配列を異にする第1の周期配列と第2の周期配列を備える。周期配列される低屈折率部位を円孔によって構成する場合には、二重周期を構成する異なる周期配列は、以下の周期変調の形態(Ba),(Bb)で構成することができる。
【0033】
(Ba)円孔の直径を異ならせることによって第1の周期配列と第2の周期配列との間の周期配列を異ならせる周期変調の形態。
【0034】
(Bb)円孔の格子ピッチを異ならせることによって第1の周期配列と第2の周期配列との間の周期配列を異ならせる周期変調の形態。
【0035】
以下、(Ba)の円孔の直径2rを異ならせる周期変調を"Δ2r二重周期変調"で表記し、(Bb)の円の格子ピッチaを異ならせる周期変調を"Δa二重周期変調"で表記する。なお、rは円孔の半径であり、aは格子配列の格子定数である。
【0036】
(C)二重周期における断面形状の非対称の形態
二重周期における断面形状の非対称は、上記の周期変調(Ba),(Bb)に応じた形態(Ca),(Cb)を備える。
【0037】
(Ca)Δ2r二重周期変調の二重周期における断面形状の非対称の形態
Δ2r二重周期変調による二重周期では、第1の周期配列及び第2の周期配列の各低屈折率部位は互いに直径2rを異にする円孔が配列される。円孔は、各周期配列の導波路の伝搬方向に対して所定間隔で配列され、第1の周期配列の円孔と第2の周期配列の円孔は、導波路の伝搬方向に沿った列において交互に配列される。円孔を配列する所定間隔は、第1の周期配列の円孔と第2の周期配列の円孔の両方の円孔配列について等間隔とする他、第1の周期配列の円孔と第2の周期配列のそれぞれの周期配列内では等間隔とし、第1の周期配列と第2の周期配列とは異なる間隔としてもよい。
【0038】
(Ca1)Δ2r二重周期変調における第1の非対称の形態は、径を異にする大径と小径の円孔において、小径の円孔を非対称な断面形状とする。非対称な断面形状により、円孔の厚さ方向の両端の開口径に差が生じる。第1の非対称の形態によれば、非対称とした小径の円孔において、開口径が大きい側への放射効率が向上する。
【0039】
第1の非対称の形態は、小径の円孔の断面形状において、放射側の傾斜面の傾斜角度、垂直面の深さを調整することによって、放射比率、及び放射レートを制御することができる。ここで、放射比率は、厚さ方向の両側に放射される光パワーの比率であり一方向放射性を示す。厚さ方向を光偏向デバイスの放射光の上下方向として表したとき、放射比率は上方向への光パワーPupperと下方向への光パワーPlowerとの比率 Pupper/Plowerで表される。放射レートは、スローライド導波路において伝搬方向に沿って放射光ビームが放射される放射係数であり、例えば、101 dB/cm から102 dB/cmの範囲で光が放射されることが望ましい。
【0040】
(Ca2)第2の非対称の形態は、径を異にする大径と小径の円孔において、大径の円孔を非対称な断面形状とする。非対称な断面形状により、円孔の厚さ方向の両端の開口径に差が生じる。第2の非対称の形態によれば、大径の円孔の断面形状において、放射側の傾斜面の傾斜角度を調整することによって、一方向放射性の方向性を反転させることができる。例えば、傾斜面の傾斜角度が小さい角度である場合には大きな開口径側からの放射量が大となる放射比率を、傾斜面の傾斜角度を垂直壁の90°に近い大きな角度とすることによって、放射比率を反転させて、小さな開口径側からの放射量を大とすることができる。
【0041】
(Ca3)第3の非対称の形態は、径を異にする大径と小径の円孔において、小径及び大径の両方の円孔を非対称な断面形状とする。第3の非対称の形態によれば、小さな開口径側からの放射比率を高めることができる。
【0042】
(Cb)Δa二重周期変調の二重周期における断面形状の非対称の形態
Δa二重周期変調は、円孔の配列間隔を伝搬方向に対して長短の異なる格子ピッチで繰り返す二重周期構造により変調される。Δa二重周期構造は、第1の周期配列と第2の周期配列を導波路の伝搬方向に対して互いに位置ずれして配置され、格子配列内の円孔は導波路の伝搬方向に対して長短の異なる格子ピッチで繰り返される。Δa二重周期変調においても、Δ2r二重周期変調と同様に、円孔の断面形状を非対称とすることによって放射比率を制御して一方向放射性を高めることができる。
【0043】
(D)Δ2r二重周期変調、及びΔa二重周期変調による二重周期における円孔の配置形態
Δ2r二重周期変調、及びΔa二重周期変調の何れの二重周期においても、円孔配列に対して以下の配列形態を適用することができる。
【0044】
(Da)第1の配列形態
第1の配列形態は、非対称な断面形状を備える円孔を、特定列の円孔配列に適用する形態である。非対称な断面形状を備える円孔を、導波路の伝搬方向に沿って円孔が配列された円孔配列において、円孔が配列されない線状欠陥から2列目の列に適用する。
【0045】
2列目に周期配列する第1の配列形態によれば、放射光ビームのビーム形状の波数依存性を低減して単峰ビームに近づけることができ、放射方向に対してサイドローブが少ない高品質なビームを形成することができる。
【0046】
(Db)第2の配列形態
第2の配列形態は、特定の周期位置にある円孔の開口径を調整することによって、断面形状を非対称とする形態である。
【0047】
第2の配列形態は、導波路の伝搬方向に沿った、導波路から数えて偶数番目の格子列の位置にある円孔について、他の位置にある円孔と比較して、その開口径を二重周期的な拡大又は縮小を導入する。第2の配列形態によれば、上記の位置にある円孔の径を拡大又は縮小することによって、放射レートを保持したまま放射比率を高めることができる。
【0048】
本発明の光偏向デバイスによれば、上方または下方への放射効率を改善し、同様に上方または下方から到来する光の受光効率も同時に改善する。また上方に光を取り出す場合は、基板表面での反射によって上方へ放射する光の放射パターンが乱れることを抑制する。
【発明の効果】
【0049】
以上説明したように、本発明の光偏向デバイスは、放射光ビームの放射効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1A】本発明の光偏向デバイスの概略構成を説明するための図である。
【
図1B】本発明の光偏向デバイスの概略構成を説明するための図である。
【
図2A】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成するΔ2r二重周期変調を説明するための図である。
【
図2B】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成するΔ2r二重周期変調を説明するための図である。
【
図2C】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成するΔ2r二重周期変調を説明するための図である。
【
図2D】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成するΔ2r二重周期変調を説明するための図である。
【
図2E】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成するΔ2r二重周期変調を説明するための図である。
【
図2F】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成するΔ2r二重周期変調を説明するための図である。
【
図2G】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成するΔ2r二重周期変調を説明するための図である。
【
図2H】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成するΔ2r二重周期変調を説明するための図である。
【
図3】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成するΔa二重周期変調を説明するための図である。
【
図4A】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路の非対称な断面形状を説明するための図である。
【
図4B】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路の非対称な断面形状を説明するための図である。
【
図4C】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路の非対称な断面形状を説明するための図である。
【
図4D】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路の非対称な断面形状を説明するための図である。
【
図4E】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路の非対称な断面形状を説明するための図である。
【
図4F】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路の非対称な断面形状を説明するための図である。
【
図4G】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路の非対称な断面形状を説明するための図である。
【
図4H】本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路の非対称な断面形状を説明するための図である。
【
図5】本発明の光偏向デバイスの計算モデルを説明するための概略図である。
【
図6】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、小径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例を説明するための図である。
【
図7A】非対称形状を小径の円孔に適用した形態の特性データを示す図である。
【
図7B】非対称形状を小径の円孔に適用した形態の特性データを示す図である。
【
図7C】非対称形状を小径の円孔に適用した形態の特性データを示す図である。
【
図7D】非対称形状を小径の円孔に適用した形態の特性データを示す図である。
【
図7E】非対称形状を小径の円孔に適用した形態の特性データを示す図である。
【
図8】
図7A~
図7Eと同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合の特性データを示す図である。
【
図9A】
図7A~
図7Eと同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合の特性データを示す図である。
【
図9B】
図7A~
図7Eと同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合の特性データを示す図である。
【
図10A】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例の特性データを示す図である。
【
図10B】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例の特性データを示す図である。
【
図10C】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例の特性データを示す図である。
【
図10D】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例の特性データを示す図である。
【
図10E】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例の特性データを示す図である。
【
図11A】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、小径と大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例の特性データを示す図である。
【
図11B】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、小径と大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例の特性データを示す図である。
【
図11C】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、小径と大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例の特性データを示す図である。
【
図11D】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、小径と大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例の特性データを示す図である。
【
図11E】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、小径と大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例の特性データを示す図である。
【
図12】Δ2r二重周期変調及び横一列配列の格子配列において、小径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例を説明するための図である。
【
図13】
図12と同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合の特性データを示す図である。
【
図14A】
図12と同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合の特性データを示す図である。
【
図14B】
図12と同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合の特性データを示す図である。
【
図15】Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、1列から10列の小径の円孔の側壁が段状壁である形態例を説明するための図である。
【
図16A】
図15と同様の構造において、非対称な段状の側壁の一例及び特性データを示す図である。
【
図16B】
図15と同様の構造において、非対称な段状の側壁の一例及び特性データを示す図である。
【
図16C】
図15と同様の構造において、非対称な段状の側壁の一例及び特性データを示す図である。
【
図16D】
図15と同様の構造において、非対称な段状の側壁の一例及び特性データを示す図である。
【
図16E】
図15と同様の構造において、非対称な段状の側壁の一例及び特性データを示す図である。
【
図17A】断面形状が段状の側壁において、小径の円孔の側壁を傾斜壁と垂直壁との組み合わせで構成する例を示す図である。
【
図17B】断面形状が段状の側壁において、小径の円孔の側壁を傾斜壁と垂直壁との組み合わせで構成する例を示す図である。
【
図17C】断面形状が段状の側壁において、小径の円孔の側壁を傾斜壁と垂直壁との組み合わせで構成する例を示す図である。
【
図17D】断面形状が段状の側壁において、小径の円孔の側壁を傾斜壁と垂直壁との組み合わせで構成する例を示す図である。
【
図17E】断面形状が段状の側壁において、小径の円孔の側壁を傾斜壁と垂直壁との組み合わせで構成する例を示す図である。
【
図18】V字形状配列の格子配列において、1列目のみをΔa二重周期変調し、1列目の小径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例を説明するための図である。
【
図19】
図18と同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合の特性データを示す図である。
【
図20A】
図18と同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合の特性データを示す図である。
【
図20B】
図18と同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合の特性データを示す図である。
【
図21】格子配列の1列~10列を二重周期変調し、小径の円孔の側壁を傾斜壁として非対称な断面形状とした場合の放射成分の強度分布を示す図である。
【
図22】格子配列の円孔列をΔ2r二重周期変調し、小径の円孔の側壁の傾斜角θgを85°で傾斜させたときのビームパターンを示す図である。
【
図23】
図22に示した各例について、波長に対する放射比率Pupper/Plowerを示す図である。
【
図24】格子配列の円孔列をΔa二重周期変調し、小径の円孔の側壁の傾斜角θgを85°で傾斜させたときのビームパターンを示す図である。
【
図25】Δ2r二重周期変調及び逆V字形状配列の格子配列において、小径の円孔の側壁を傾斜壁とし、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示す図である。
【
図26A】Δ2r二重周期変調及び逆V字形状配列の格子配列において、小径の円孔の側壁を傾斜壁とし、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示す図である。
【
図26B】Δ2r二重周期変調及び逆V字形状配列の格子配列において、小径の円孔の側壁を傾斜壁とし、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示す図である。
【
図27】Δ2r二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、小径の円孔の側壁を傾斜壁とし、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示す図である。
【
図28A】Δ2r二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、小径の円孔の側壁を傾斜壁とし、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示す図である。
【
図28B】Δ2r二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、小径の円孔の側壁を傾斜壁とし、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示す図である。
【
図29】Δa二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、1列目のみをシフトさせ、円孔の側壁を傾斜壁とし、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示す図である。
【
図30A】Δa二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、1列目のみをシフトさせ、円孔の側壁を傾斜壁とし、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示す図である。
【
図30B】Δa二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、1列目のみをシフトさせ、円孔の側壁を傾斜壁とし、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示す図である。
【
図31】Δa二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、1列目のみをシフトさせ、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的な円孔を貫く浅堀回折格子によって周期調整する多重周期変調する例を示す図である。
【
図32A】Δa二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、1列目のみをシフトさせ、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列上にある二重周期的な円孔を貫く浅堀回折格子によって周期調整する多重周期変調する例を示す図である。
【
図32B】Δa二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、1列目のみをシフトさせ、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列上にある二重周期的な円孔を貫く浅堀回折格子によって周期調整する多重周期変調する例を示す図である。
【
図33A】浅堀回折格子を説明するための図である。
【
図33B】浅堀回折格子を説明するための図である。
【
図34】伝搬方向に対して直交する横方向に浅堀された浅堀回折格子を示す図である。
【
図35】伝搬方向に対して斜め方向に浅堀された浅堀回折格子を示す図である。
【
図36A】フォトニック結晶導波路に回折機構を導入したデバイス構造、及び放射光ビームの概要を説明するための図である。
【
図36B】フォトニック結晶導波路に回折機構を導入したデバイス構造、及び放射光ビームの概要を説明するための図である。
【
図36C】フォトニック結晶導波路に回折機構を導入したデバイス構造、及び放射光ビームの概要を説明するための図である。
【
図37A】導波路の厚さ方向に対して断面形状が対称である従来のフォトニック結晶導波路のV字形状配列の二重周期構造の例を示す図である。
【
図37B】導波路の厚さ方向に対して断面形状が対称である従来のフォトニック結晶導波路のV字形状配列の二重周期構造の例を示す図である。
【
図37C】導波路の厚さ方向に対して断面形状が対称である従来のフォトニック結晶導波路のV字形状配列の二重周期構造の例を示す図である。
【
図37D】導波路の厚さ方向に対して断面形状が対称である従来のフォトニック結晶導波路のV字形状配列の二重周期構造の例を示す図である。
【
図37E】導波路の厚さ方向に対して断面形状が対称である従来のフォトニック結晶導波路のV字形状配列の二重周期構造の例を示す図である。
【
図38A】上下対称な構造のフォトニック結晶導波路の光放射を説明するための図である。
【
図38B】上下対称な構造のフォトニック結晶導波路の光放射を説明するための図である。
【
図38C】上下対称な構造のフォトニック結晶導波路の光放射を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。以下、
図1A,
図1Bを用いて本発明の光偏向デバイスの概略構成を説明し、
図2A~
図2H,
図3を用いて本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成する二重周期構造について説明し、
図4A~
図4Hを用いて本発明の光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路の非対称な断面形状について説明し、
図5~
図35を用いて非対称な断面形状の各形態について説明する。
【0052】
図6~
図21を用いて本発明の光偏向デバイスによる放射光ビームの放射比率を説明し、
図21~
図24を用いて光偏向デバイスによる放射光ビームの単峰性を説明し、
図25~
図32Bを用いて二重周期に更に周期性を追加した多重周期構成について説明し、
図33A~
図35を用いて溝構造による非対称な断面形状の構成について説明する。
【0053】
[1.光偏向デバイスの概略構成]
はじめに、本発明の光偏向デバイスの概略構成について
図1A~
図1Bを用いて説明する。
図1A~
図1Bは本発明の光偏向デバイスの概略構成を説明するための図である。
図1Aの(a)において、光偏向デバイス1は高屈折率部材10の面内に低屈折率部位11が周期的に格子配列されたフォトニック結晶導波路2を備える。
【0054】
フォトニック結晶導波路2は、Si等の半導体からなる高屈折率部材10に低屈折率部位11を周期的に配した格子配列3により形成される。低屈折率部位11は、例えば、高屈折率部材10に設けた円孔により構成することができる。フォトニック結晶導波路2は、Si基板15上にBOX(埋め込み酸化膜)14を介して配されたSiO2の低屈折率材のクラッド13の上に設けられる。
【0055】
フォトニック結晶導波路2の格子配列3は、高屈折率部材10のSi内に低屈折率部位11を周期配列したSiスラブの一部に、低屈折率部位を設けない部分を設けることによって光を伝搬する導波路コア12が形成される。低屈折率部位11を円孔とする構成では、格子配列3の一部に円孔を配置しない線状欠陥を設けることによって導波路コア12が形成される。導波路コア12に入射された入射光は、導波路コア12を長さ方向に伝搬しながら、導波路コア12から外部に放射される。
【0056】
図1Aの(b)は異なる径の円孔によるΔ2r二重周期構造の例を示している。このΔ2r二重周期構造の場合には、フォトニック結晶導波路2のSiスラブにおいて導波路コア12を挟む両側に、SiO
2に埋め込まれた直径の異なる円孔20が格子定数aの2倍の周期で配置される。周期配列される円孔20は、直径が2r1の小径の円孔21と直径が2r2(r2>r1)の大径の円孔22からなり、小径の円孔21及び大径の円孔22はそれぞれ格子定数aの2倍の周期で配置される。
【0057】
従来知られている円孔の断面形状は厚さ方向に対して垂直であり対称な形状である。これに対して、本発明の光偏向デバイス1が備える円孔20は、厚さ方向に対して非対称な形状であり、この非対称な断面形状によって放射比率に一方向放射性を与える。光偏向デバイスが利用する放射光ビームが放射される導波路側を上方向とした場合には、上下非対称な断面形状によって上下の放射比率を偏らせ、一方向への放射強度を高める。
【0058】
図1Aの(b)の右上方の円内の断面形状は、非対称な断面形状の一例であり、傾斜面等を示している。
【0059】
非対称な断面形状の側壁は、それぞれ厚さ方向に対して、傾斜壁の形態、あるいは段状壁の形態とすることができる。段状壁は傾斜壁、垂直壁、及び水平壁の内少なくとも2つの壁部を組み合わせて構成される。
図1A中の円内に示す断面形状は、傾斜壁、垂直壁と水平壁との組み合わせ、傾斜壁と垂直壁との組み合わせの例を示している。
【0060】
図1Bは、非対称な断面形状の各例について、波長に対する各放射比率を示している。なお、放射比率は、放射光ビームについて下方への放射パワーPlowerに対する上方への放射パワーPupperの比率Pupper/Plowerであり、1を越える放射比率は上方への放射パワーが下方への放射パワーよりも大きいことを示している。
【0061】
図1Bに示す例では、円孔の径を小さく(又は大きく)して、円孔の断面形状を非上下非対称とした場合、上方(又は下方)への照射が強くなることを示している。例えば、傾斜角θg=75°、厚さ方向の深さが70nmで異なる径の円孔を重ねたときには、上下対称な場合と比較して放射比率は約3倍となる。
【0062】
[2.二重周期変調]
本発明の光偏向デバイス1は、格子配列3において、低屈折率部位11が周期配列された第1の周期配列と第2の周期配列の二重周期構造を備える。二重周期構造は放射光を変調し、導波路コア12の伝搬光を偏向させて外部に放射光ビームを放射する回折機能と共に、放射光ビームの横方向角度分布の波長や屈折率に対する依存性を低減させ、横方向において広い角度で均質な光ビームとする機能に寄与する。
【0063】
二重周期構造は、二つの周期配列の位置ずれに係る二重周期構造と、二つの周期配列が備える円孔の径に係る二重周期構造の2種類がある。
【0064】
第1の二重周期構造は、第1の周期配列及び第2の周期配列が導波路の伝搬方向に対して等間隔で配列され、第1の周期配列及び第2の周期配列の各低屈折率部位は円孔の径を異にする。第1の二重周期構造では、異なる径の、小径の円孔と大径の円孔の低屈折率部位が、導波路の伝搬方向に対して繰り返される。
【0065】
第2の二重周期構造は、第1の周期配列及び第2の周期配列が導波路の伝搬方向に対して互いに位置ずれし、導波路の伝搬方向に沿って配列された低屈折率部位の列において、同一径の円孔の低屈折率部位が導波路の伝搬方向に対して長短の異なる格子ピッチで繰り返される。
【0066】
したがって、2種類の二重周期構造の内、第1の二重周期構造は異なる径の円孔の低屈折率部位が繰り返される周期配列であり、第2の二重周期構造は低屈折率部位の円孔が長短の異なる格子ピッチで繰り返される周期配列である。以下、円孔の直径を異ならせる二重周期構造による周期変調を"Δ2r二重周期変調"と称し、円の格子ピッチを異ならせる二重周期構造による周期変調を"Δa二重周期変調"と称して説明する。なお、rは円孔の半径であり、aは格子配列の格子定数である。
【0067】
円孔パターンの二重周期構造は、加工工程が少ないことに加え、円孔の格子ピッチ、あるいは円孔の径の大小の変化量を面内で変えることによって、放射角度を変えることなく放射量を変えることができるため、導波路の伝搬方向に向かって徐々に放射される放射光ビームの縦方向分布(導波路に沿った方向の分布)をガウス分布とすることができ、縦方向に対してサイドローブが少ない高品質なビームを形成できる。
【0068】
(Δ2r二重周期変調)
Δ2r二重周期変調は、2種類の異なる直径の円孔を繰り返す二重周期構造により変調される。二重周期構造は、例えば、大径の円孔を繰り返す周期構造と、小径の円孔を繰り返す周期構造とよりなる。二重周期構造を形成する円孔の大径及び小径は、基準の円孔の直径に対して、あるいは互いの直径の比較において、大小の関係を示し、各円孔の直径は、例えば、基準の円孔の直径を2rとし、直径の口径差を2Δrとしたとき、大径の円孔の直径2r1は2(r+Δr)であり、小径の円孔の直径2r2は2(r-Δr)である。
【0069】
図2A~
図2Hは、Δ2r二重周期変調を行う二重周期構造の例を示している。ここでは、直径を異にする円孔の周期部位を、導波路の伝搬方向に沿って交互に配列し、伝搬方向に対して鋭角、鈍角、あるいは横方向に配置する配置形態を示している。以下、第1の配置形態~第6の配置形態について示す。
【0070】
(a)第1の配置形態:
第1の配置形態は、各周期部位を導波路の伝搬方向に対してV字形状又は逆V字形状に配置する。
図2AはV字形状の配置を示し、
図2Bは逆V字形状の配置を示している。
【0071】
二重周期構造をV字形状又は逆V字形状とする配置形態では、導波モードが導波路コアから横方向に染み出すことによって、導波路コアへの光の閉じ込めを漸次に弱め、放射角度分布を例えば±25°程度まで狭める効果を奏する。また、このV字形状に配置した周期部位のパターンは、導波モードの横方向分布において同符号を持つ電磁界からの放射を促進して遠方での干渉を抑制し、単峰性ビームを形成する効果を奏する。
【0072】
(b)第2の配置形態:
図2Cにおいて、第2の配置形態は、格子配列中の周期部位の一部の低屈折率部位の円孔の直線配列を導波路の伝搬方向に対して位置ずれさせて配置する構成であり、格子シフトと呼ばれる配置形態である。第2の配置形態は、位置ずれしていないフォトニック結晶導波路2の偏向角特性を均一化する。
【0073】
(c)第3の配置形態:
図2Dにおいて、第3の配置形態は、格子配列において、導波路コアの近傍の格子配列については二重周期構造とし、第1の配置形態と同様にV字形状又は逆V字形状の形状に配置し、その他の格子配列については同一の周期構造とする。
【0074】
格子配列3の一部を第1の配置形態のV字形状とすることによって、導波モードが主に集中する導波路コアの近傍にだけ二重周期構造を設ける構成とすることができ、放射パターンをより単純化させる効果を奏する。
【0075】
(d)第4の配置形態:
図2E,
図2Fにおいて、第4の配置形態は、第1の配置形態と同様にV字形状又は逆V字形状の形状に配置すると共に、二重周期構造の2種類の周期部位について、低屈折率部位の円孔の大きさをグラデーション配列し、V字形状又は逆V字形状とグラデーション配列とを組み合わせた形態である。
【0076】
図2EはV字形状とグラデーション配列とを組み合わせた形態を示し、導波路コアから離れるにしたがって二重周期構造を徐々に均一化する構成とすることによって、放射光ビームの横方向分布をより滑らかにする効果を奏する。
図2Fは逆V字形状とグラデーション配列とを組み合わせた形態を示し、導波モードが放射される幅を実効的に広げ、横方向分布をより狭くする効果を奏する。
【0077】
(e)第5,6の配置形態:
図2Gにおいて、第5の配置形態はV字形状と逆V字形状の形状とを混合した配置形態であり、
図2Hにおいて、第6の配置形態は2種類の円孔の直線配列を、導波路の伝搬方向と直交する横方向に交互に配置する形態である。
【0078】
(Δa二重周期変調)
Δa二重周期変調は、円孔の配列間隔を伝搬方向に対して長短の異なる格子ピッチで繰り返す二重周期構造により変調される。Δa二重周期構造は、第1の周期配列と第2の周期配列を導波路の伝搬方向に対して互いに位置ずれして配置され、格子配列内の円孔は導波路の伝搬方向に対して長短の異なる格子ピッチで繰り返される。
【0079】
図3は、Δa二重周期変調を行う二重周期構造の例を示している。
図3の(a)~(f)は同一径の円孔が異なる格子ピッチで配列される例を示し、
図3の(g),(h)は異なる径の円孔が異なる格子ピッチで配列される例を示している。以下、Δa二重周期変調の第1の配置形態~第4の配置形態について示す。
【0080】
(a)第1の配置形態:
第1の配置形態は、格子配列の全体について、円孔が異なる格子ピッチで配列される配置形態であり、
図3の(a)は円孔が三角配置された格子配列の例を示し、
図3の(b)は円孔がV字形状に配列された例を示している。
【0081】
(b)第2の配置形態:
第2の配置形態は、格子配列の内、特定の一格子列について、円孔が異なる格子ピッチで配列される配置形態である。
【0082】
図3の(c)は三角配置された円孔の格子配列において、導波路に隣接する1列目について、格子ピッチの二重周期構造を適用した例を示し、
図3の(d)は三角配置された円孔の格子配列において、導波路から2列目について、格子ピッチの二重周期構造を適用した例を示している。
【0083】
(c)第3の配置形態:
第3の配置形態は、格子配列の内、特定の複数の格子列について、円孔が異なる格子ピッチで配列される配置形態である。
【0084】
図3の(e)は三角配置された円孔の格子配列において、導波路から1列目~3列目について、格子ピッチの二重周期構造を適用した例を示し、
図3の(f)はV字形状に配列された円孔の格子配列において、導波路から1列目~3列目について、格子ピッチの二重周期構造を適用した例を示している。
【0085】
(d) 第4の配置形態:
第4の配置形態は、格子配列について、格子ピッチによる二重周期と、円孔の径による二重周期とを組み合わせた配置形態である。
【0086】
図3の(g)は三角配置された円孔の格子配列において、導波路から1列目について異なる格子ピッチによる二重周期構造を適用し、導波路から2列目について異なる径による二重周期構造を適用した例を示し、
図3の(h)は三角配置された円孔の格子配列において、導波路から1列目と3列目について異なる格子ピッチによる二重周期構造を適用し、導波路から2列目と4列目について異なる径による二重周期構造を適用した例を示している。
【0087】
[3.非対称形態]
本発明の光偏向デバイスの格子配列において、低屈折率部位が厚さ方向について非対称な断面形状の例を、
図4A~
図4Hを用いて説明する。
【0088】
なお、
図4A~
図4Gは、直径を異にする円孔によるΔ2r二重周期構造において、小径の円孔の断面形状が非対称である例であり、
図4Hは、格子ピッチを異にする円孔の配列によるΔa二重周期構造において、小径の円孔の断面形状が非対称である例である。なお、ここでは、格子配列の一列についてその一部のみの断面を模式的に示している。
【0089】
非対称な断面形状は複数の形態とすることができ、非対称な断面形状の側壁は、厚さ方向に対して、傾斜壁の形態、傾斜壁、垂直壁、及び水平壁の内少なくとも2つの壁部から成る段状壁の形態等の種々の形態の壁形状とすることができる。
【0090】
(a)第1の形態
第1の形態は、非対称な断面形状の側壁を厚さ方向に対して傾斜壁で構成する形態である。
図4Aにおいて、傾斜壁の断面形状の形態は、低屈折率部位の厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面が傾斜面で構成され、低屈折率部位の断面形状は台形形状となる。
【0091】
(b),(c)第2,3の形態
第2,3の形態は、非対称な断面形状の側壁を厚さ方向に対して段状壁で構成する形態であり、大きい開口径の円孔と小さい開口径の円孔とを厚さ方向で組み合わせた構成である。第2の形態は2つの円孔の組み合わせに相当し、第3の形態は3つの円孔の組み合わせに相当する。
【0092】
図4Bにおいて、第2の形態の段状壁の断面形状は、低屈折率部位の厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面は垂直面と水平面とから構成され、大きい開口径の円孔の垂直面と、小さい開口径の円孔の垂直面とが、水平面を介して連結されて構成される。
【0093】
図4Cにおいて、第3の形態の段状壁の断面形状は、低屈折率部位の厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面は垂直面と水平面とから構成され、大きい開口径の垂直面と、小さい開口径の垂直面と、中間部分において形成された垂直面とが、それぞれ2つの水平面を介して連結されて構成される。
【0094】
(d)第4の形態
第4の形態は、非対称な断面形状の側壁を厚さ方向に対して段状壁で構成する形態である。
図4Dにおいて、第4の形態の段状壁の断面形状は、低屈折率部位の厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面は傾斜面と垂直面とで構成され、大きい開口径の傾斜面と、小さい開口径の垂直面とが連結されて構成される。
【0095】
(e)第5の形態
第5の形態は、非対称な断面形状の側壁を厚さ方向に対して段状壁で構成する形態である。
図4Eにおいて、第5の形態の段状壁の断面形状は、低屈折率部位の厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面は傾斜面と水平面と垂直面とで構成され、大きい開口径の傾斜面と、小さい開口径の垂直面とが水平面を介して連結されて構成される。
【0096】
(f)第6の形態
第6の形態は、非対称な断面形状の側壁を厚さ方向に対して段状壁で構成する形態である。
図4Fにおいて、第6の形態の段状壁の断面形状は、低屈折率部位の厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面は垂直面と水平面と傾斜面とで構成され、大きい開口径の垂直面と、小さい開口径の傾斜面とが水平面を介して連結されて構成される。
【0097】
(g)第7の形態
第7の形態は、非対称な断面形状の側壁を厚さ方向に対して段状壁で構成する形態である。
図4Gにおいて、第7の形態の段状壁の断面形状は、低屈折率部位の厚さ方向において、上下を連結する傾斜面において、一方の側に溝部を設けることによって、傾斜面の一方の側の径を大きくして非対称とする構成である。
【0098】
(h)第8の形態
第8の形態は、格子ピッチを異にする円孔の配列によるΔa二重周期構造において、非対称な断面形状の側壁を厚さ方向に対して傾斜壁で構成する形態である。
図4Hにおいて、小径の円孔は厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面は傾斜面で構成され、低屈折率部位の断面形状は台形形状である。一方、大径の円孔は厚さ方向において、一方の端部と他方の端部との間の壁面は垂直面で構成され、低屈折率部位の断面形状は矩形形状である。小径の円孔と大径の円孔とは異なる格子ピッチを繰り返して配置される。
【0099】
図4A~
図4Hにおいて、大径の円孔については、厚さ方向において一方の端部と他方の端部との間の壁面が垂直面で構成され、低屈折率部位は円筒形状であり、断面形状は矩形形状である。
【0100】
なお、
図4A~
図4Hでは小径の円孔の断面形状を非対称とした例を示しているが、大径の円孔の断面形状を厚さ方向に非対称な形状とする構成、あるいは、小径と大径の両方の円孔の断面形状を厚さ方向において非対称形状とする構成としても良い。なお、この場合には、放射効率は異なる一方向放射性となる。
【0101】
[4.光偏向デバイスの計算モデル]
図5は本発明の光偏向デバイスの計算モデルを説明するための概略図である。以下、この計算モデルに基づいて、放射光ビームの放射効率、単峰性のビーム形状等について示す。
【0102】
図5の(d)は、本発明の光偏向デバイスの断面を示し、x方向は導波路を伝搬するスローライト光の伝搬方向と直交する方向であり、z方向は光偏向デバイスを構成する積層の厚さ方向である。光偏向デバイスは、Siの基板15上に、上下をSiO
2のクラッド13で挟まれた格子は配列3が設けられる。格子配列3は、高屈折率部材10内に低屈折率部位11が所定間隔で配列されて構成される。Δ2r二重周期変調では、低屈折率部位11は2r1の小径の円孔21と2r2の大径の直径が異なる円孔22により構成される。なお、格子配列3において、低屈折率部位が配置されない直線欠陥は導波路を構成している。
【0103】
この計算モデルでは、図中のmonitor-A~monitor-Eで表記される箇所において、離散フーリエ変換(DFT)、及び時間領域有限差分(FDTD)法を用いた数値計算により放射光のパワーを算出する。
【0104】
図5の(a)~
図5の(c)は、光偏向デバイスの格子配列3をx,y平面で見た図であり、
図5の(a),(b)はΔ2r二重周期変調において、通常の横一列配列、及びV字形状配列の例を示し、
図5の(c)はΔaの二重周期変調の例を示している。また、DFT解析とモニタを行う箇所、及び計算の際の励振箇所を×印で示している。なお、
図5の(a),(b)において、S3はスローライトを広帯域で低分散とするために3列目に施した格子シフト量を表している。この格子シフト量S3は光の放射に関わらないため、格子シフトの有無によって本発明の効果に大きな影響は生じない。
【0105】
[5.放射比率]
以下、低屈折率部位の厚さ方向に対する非対称な断面形状による放射比率の寄与をΔ2r二重周期変調、及びΔa二重周期変調について説明する。
【0106】
5.1:Δ2r二重周期変調
以下、Δ2r二重周期変調において、非対称な断面形状の側壁が傾斜壁、及び段状壁の例について示す。傾斜壁は、壁面が厚さ方向に対して傾斜し、円孔の一方の端部の開口径が他方の端部の開口径よりも大径となり、台形形状を呈する。段状壁は、傾斜壁、垂直壁、及び水平壁の内少なくとも2つの壁部の組み合わせから構成される。なお、垂直壁は、壁面が厚さ方向に対して垂直であり、円孔は円筒形状を呈する。また、水平壁は、壁面が厚さ方向に対して水平であり、円孔では環状のフランジ形状を呈する。
【0107】
5.1a:Δ2r二重周期変調、V字形状配列、傾斜壁の形態
以下、Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、非対称な断面形状の側壁が傾斜壁である形態について、非対称形状を小径の円孔に適用した場合、大径の円孔に適用した場合、及び小径と大径の両方の円孔に適用した場合の各例を示す。
【0108】
(a)非対称形状を小径の円孔に適用した形態例
図6はΔ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、小径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例を示している。
図6の(a)は断面図であり、
図6の(b)は模式的な斜視図である。
図6の形態例では、V字形状配列した格子配列において、異なる直径の円孔の内、小径の円孔のみについて側壁を傾斜壁としtq断面形状を非対称としている。
【0109】
図7A~
図7Eに示す各特性データは、Δ2r二重周期の直径の口径差Δ2rを10nmとし、傾斜壁の傾斜角θgを65°~90°の間で変えた場合を示している。
【0110】
図7Aは波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図7Bは波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図7Cは波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図7Dは波長[μm]に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
図7Eは断面形状を示している。
【0111】
図7Dの放射比率の特性によれば、傾斜角θgが65°~87°であるときに2.5:1以上の比率が得られる。
【0112】
光偏向デバイスの放射光ビームは、一方向放射の要請から高い放射比率の特性が求められると共に、導波路を伝搬するスローライトを徐々に放射して、放射ビームが縦方向(伝搬方向)に分布される必要がある。放射ビームが良好な縦方向分布となるためには、
図7Cの放射係数の特性において10~100dB/cmの範囲であることが求められる。
【0113】
したがって、放射比率の特性と放射係数の特性との両方の特性を考慮すると、円孔の傾斜角θgが75°~85°の範囲であれば、放射比率が2.5:1以上の高比率で、且つ、放射係数が10~100dB/cmの範囲の放射光ビームが得られる。
【0114】
図8,
図9A~
図9Bは、
図7A~
図7Eと同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合について示し、
図8の(a)は波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図8の(b)は波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図8の(c)は波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図8の(d)は波長[μm]に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
図8において、S3はスローライトを広帯域で低分散とするために3列目に施した格子シフト量を表している。この格子シフト量S3は光の放射に関わらないため、格子シフトの有無によって本発明の効果に大きな影響は生じない。
【0115】
図8の(d)の放射比率の特性によれば、傾斜角θgが75°~85°であるときにほぼ2:1前後の比率が得られる。
【0116】
図9A~
図9Bは発光ビームパターン解析(FFP:Far Field Pattern)を示している。
図9Aは
図5の(d)中のmonitor-Aにおける空気中の開口分布のFFPを示し、
図9Aは
図5の(d)中のmonitor-Bにおけるクラッド中の開口分布のFFPを示している。
【0117】
図9A~
図9Bは、傾斜角θgが75~85°の傾斜壁の場合には、放射光ビームはおよそ単峰となるが、傾斜角θgが90°の場合(垂直壁)には放射光ビームは多峰性となることを示している。これは、傾斜角θgが90°の場合には、下方への放射がやや強くなり、厚さ方向の上下方向に放射が生じるため、下方に放射された光が基板で反射された反射光によって、放射光ビームが双方性となって多峰性を呈するためである。
【0118】
なお、
図9A~
図9Bのkは光の波数を表し、これを変えるということは光の波長を変えること、あるいは進行方向の光の偏向角度を変えることに相当する。光偏向器では、この波数kの変化が少ないことが望ましい。
【0119】
(b)非対称形状を大径の円孔に適用した形態例
図10A~
図10EはΔ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例を示している。
図10A~
図10Eに示す各特性データは、Δ2r二重周期の直径の口径差Δ2rを10nmとし、傾斜壁の傾斜角θgを60°~90°の間で変えた場合である。
【0120】
図10Aは波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図10Bは波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図10Cは波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図10Dは波長[μm]に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
図10Eは断面形状を示している。
【0121】
図10Dの放射比率の特性によれば、傾斜角θgが60°~75°であるときに上下の放射を偏らせることができるが、小径の円孔側壁を傾斜壁した場合と比較して放射の偏りの効果は小さい。
【0122】
また、放射係数が10~100dB/cmとなる条件を満たす傾斜角θgは75°~80°である。80°の傾斜角における放射比率はほとんど1:1であり、上下から放射される光パワーは同程度となるため、上下方向から同程度の光が放射されることが求められる用途への適用に適している。
【0123】
(c)非対称形状を小径と大径の両方の円孔に適用した形態例
図11A~
図11EはΔ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、小径と大径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例を示している。
図11A~
図11Eに示す各特性データは、Δ2r二重周期の直径の口径差Δ2rを10nmとし、傾斜壁の傾斜角θgを60°~90°の間で変えた場合である。
【0124】
図11Aは波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図11Bは波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図11Cは波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図11Dは波長[μm]に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
図11Eは断面形状を示している。
【0125】
図11Dの放射比率の特性によれば、傾斜角θgが60°~90°の範囲において、放射比率は1以下であり、主に下方に向かって放射される。
【0126】
また、放射係数が10~100dB/cmとなる条件を満たす傾斜角θgは70°~80°である。この傾斜角では、上方向に対して下方向に2倍の放射が得られることから、下方向に放射に適用することができる。また、非対称形状を上下で反転させ、開口部の径が小さい側を上方に向けた構成とすることによって、上方向に対する放射効率を高めることができる。
【0127】
5.1b:Δ2r二重周期変調、横一列配列、傾斜壁の形態
以下、Δ2r二重周期変調及び横一列配列の格子配列において、非対称な断面形状の側壁が傾斜壁である形態について、非対称形状を小径の円孔に適用した例を示す。
【0128】
図12はΔ2r二重周期変調及び横一列配列の格子配列において、小径の円孔の側壁が傾斜壁である形態例を示している。なお、横一列配列では、各円孔を三角配置すると共に、小径及び大径を、伝搬方向と直交する横方向に配置している。
【0129】
図12の(a)は断面図であり、
図12の(b)は模式的な斜視図である。
図12の形態例では、横一列配列した格子配列において、異なる直径の円孔の内、小径の円孔のみについて側壁を傾斜壁として断面形状を非対称としている。
【0130】
図13,
図14A~
図14Bは、
図12と同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合について示し、
図13の(a)は波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図13の(b)は波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図13の(c)は波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図13の(d)は波長[μm]に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
図13において、S3はスローライトを広帯域で低分散とするために3列目に施した格子シフト量を表している。この格子シフト量S3は光の放射に関わらないため、格子シフトの有無によって本発明の効果に大きな影響は生じない。
【0131】
図13の(d)の放射比率の特性によれば、傾斜角θgが75°~85°であるときにほぼ2:1前後の比率が得られる。
【0132】
図14A~
図14Bは発光ビームパターン解析(FFP:Far Field Pattern)を示している。
図14Aは
図5の(d)中のmonitor-Aにおける空気中の開口分布のFFPを示し、
図14Bは
図5の(d)中のmonitor-Bにおけるクラッド中の開口分布のFFPを示している。
【0133】
図14A~
図14Bは、傾斜角θgが75~85°の傾斜壁の場合には、放射光ビームは傾斜角θgが90°の場合(垂直壁)である場合と比較して単峰性が強い傾向を示す。なお、
図14A~
図14Bのkは光の波数を表し、波数kの変更は、光の波長の変更、あるいは進行方向の光の偏向角度の変更に相当する。
【0134】
図7A~
図9Bで示したV字形状配列に代えて通常の横一列配列とした形態は、V字形状配列の場合と比較して放射光ビームの単峰性が低く、双峰性の傾向が強くなる。
【0135】
5.1c:Δ2r二重周期変調、V字形状配列、段状壁の形態
以下、Δ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、非対称な断面形状の側壁が段状壁である形態の例を示す。
【0136】
図15はΔ2r二重周期変調及びV字形状配列の格子配列において、一列から10列の小径の円孔の側壁が段状壁である形態例を示している。ここでは、段状壁として、2つの垂直壁の間が水平壁で連結された階段状の非対称な断面形状の例を示し、低屈折率部位は直径が異なる2つ円筒を厚さ方向に組み合わせた形状である。
【0137】
図15の(a)は断面図であり、
図15の(b)は模式的な斜視図である。
図15の形態例では、V字形状配列した格子配列において、直径を異にする小径と大径の円孔の内、小径の円孔のみについて側壁を段状壁として断面形状を非対称としている。
【0138】
図16A~
図16Eは、
図15と同様の構造において、非対称な段状の側壁の一例及び特性データを示している。この非対称な段状側壁は、小径の円孔において、開口径が小さい側の直径を205nm、開口径が大きい側の直径を215nmとする。段状の非対称な側壁において、開口径が小さい側の垂直壁の厚さ方向の深さtgとし、tgが0nm~190nmの場合を示している。
【0139】
図16Aは波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図16Bは波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図16Cは波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図16Dは波長[μm]に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
図16Eは断面形状を示している。
図16Dの放射比率の特性によれば、深さtgが70nm~190nmであるときほぼ2:1以上の比率が得られる。
【0140】
図17A~
図17Eは、断面形状が段状な構造において、小径の円孔を傾斜壁と垂直壁との組み合わせで構成する例である。小径の円孔について、厚さ方向の一方の側(上側)を傾斜角θgのロート形状の傾斜壁として、他方の側(下側)を円筒状の垂直壁として段状の断面形状とする。ここでは、傾斜壁の深さを70nmとする場合を示している。
【0141】
図17Aは波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図17Bは波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図17Cは波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図17Dは波長[μm]に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
図17Eは断面形状を示している。
【0142】
図17Dの放射比率の特性によれば、傾斜角θgが50°~85°であるときほぼ1.5:1以上の比率が得られ、さらに、傾斜角θgが65°~80°であるときはほぼ2:1以上の比率が得られる。
【0143】
5.2:Δa二重周期変調(1列目)、V字形状配列、傾斜壁の形態
以下、V字形状配列の格子配列において、1列目において一方の周期配列を他方の周期配列に対して位置ずれさせ、長短の格子ピッチを繰り返させてΔa二重周期変調とし、さらに、Δa二重周期変調の一方の周期配列の円孔について、非対称な断面形状の側壁を傾斜壁とする形態例を示す。
【0144】
図18は、導波路に近い1列目のみについてΔa二重周期変調を行って長短の格子ピッチの繰り返しにより円孔を配列し、さらに、1列目において、位置をずらした円孔のみ又は位置をずらさなかった円孔のみの側壁を傾斜壁とする。
図18の(a)は断面図であり、
図18の(b)は模式的な斜視図である。
図18の形態例では、V字形状配列した格子配列において、1列目に長短の格子ピッチで配列された同径の円孔の内、一方の周期配列の円孔のみについて側壁を傾斜壁として断面形状を非対称としている。
【0145】
図19,
図20A~
図20Bは、
図18と同様の構造において、傾斜角θgを75°~90°の範囲とした場合について示し、
図19の(a)は波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図19の(b)は波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図19の(c)は波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図19の(d)は波長[μm]に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
【0146】
図19の(d)の放射比率の特性によれば、傾斜角θgが75°~85°であるときにほぼ1:1以上の比率が得られる。
【0147】
図20A~
図20Bは発光ビームパターン解析(FFP:Far Field Pattern)を示している。
図20Aは
図5の(d)中のmonitor-Aにおける空気中の開口分布のFFPを示し、
図20Bは
図5の(d)中のmonitor-Bにおけるクラッド中の開口分布のFFPを示している。
【0148】
図20A~
図20Bによれば、傾斜角θgが75~85°の傾斜壁の場合には、放射光ビームは傾斜角θgが90°の場合(垂直壁)である場合と比較して単峰性の傾向を示す。なお、
図20A~
図20Bのkは光の波数を表し、これを変えるということは光の波長を変えている、あるいは進行方向の光の偏向角度を変えていることに相当する。
【0149】
5.3:非対称による放射の寄与範囲
次に、二重周期変調したフォトニクス導波路に対して傾斜壁によって非対称な断面形状を設けた構成において、放射に寄与する配列の範囲について説明する。
【0150】
図21は、格子配列の1列~10列を二重周期変調し、小径の円孔の側壁を傾斜壁として非対称な断面形状とした場合の放射成分の強度分布を示している。
【0151】
図21の(a),(b)は、V字形状配列の格子配列において1列~10列をΔ2r二重周期変調し、傾斜角θgを垂直壁に相当する90°の場合、及び傾斜角θgを80°とした場合を示し、
図21の(c),(d)は、通常の横一列配列の格子配列において1列~10列をΔ2r二重周期変調し、傾斜角θgを垂直壁に相当する90°とした場合、及び傾斜角θgを80°とした場合を示し、
図21の(e),(f)は、格子配列において1列目だけをΔa二重周期変調し、傾斜角θgを垂直壁に相当する90°とした場合、及び傾斜角θgを80°とした場合を示している。
【0152】
図21の放射成分の電界強度分布は、放射ビームの強度を逆フーリエ変換し、導波路上のモードパターンに変換したものである。このモードパターンは、モードの中で放射ビームに寄与する成分が何れにあるかを判定する指標となる。
図21の(a)~(f)のいずれの場合も中央の導波路から外側に円孔の直線列で3列程度の範囲までモードパターンが存在しており、その範囲まで二重周期変調が有効に働くことを表している。なお、
図21において、波数kが0.39と0.41であるモードパターンは光偏向器として使用範囲外であるため、光偏向器としては、波数kが0.43~と0.49のモードパターンが有意である。
【0153】
したがって、
図21の(a)~(f)の各放射成分の電界強度分布によれば、側壁の傾斜角θgによらず、導波路を形成する線状欠陥から3列目までの伝搬方向に沿った直線列が放射に寄与する。
【0154】
[6.単峰性]
以下、低屈折率部位の厚さ方向に対して非対称な断面形状による放射光ビームのビーム形状について、Δ2r二重周期変調とΔa二重周期変調の各場合について説明する。
【0155】
6a:Δ2r二重周期変調
図22は、円孔の格子配列において、種々の円孔列に対してΔ2r二重周期変調を導入し、かつ小径の円孔の側壁の傾斜角θgを85°で傾斜させたときのビームパターン(規格化された放射光の強度)を示している。
図22はΔ2r二重周期変調を導入する列として、(a)1列目のみ、(b)2列目のみ、(c)3列目のみ、(d)1列目~3列目、(e)2列目及び3列目、(f)1列目~5列目、(g)1列目及び3列目、(h)1列目及び2列目、(i)1列目及び3列目~5列目の各例を示している。
図22の(a)~(i)において、左方の二つは空気中の開口分布を示し、右方の二つはクラッド中の開口分布を示している。また、
図22の(a)~(i)では、規格化された放射光の強度を
図5中のz方向とx方向についてそれぞれphi及びthetaで示している。
【0156】
なお、
図22に示すビームパターンにおいて、上から一つ目及び二つ目の放射条件は光偏向器として使用範囲外であるため、上から3つ目以降のビームパターンが利用可能である。
【0157】
これら各例において、枠で囲んだ(b)、(d)、(e)、及び(f)の各例は比較的単峰性が強い放射光ビームを示している。これらの例は、全て2列目の円孔列に二重周期変調を導入した場合である。
【0158】
図23は、
図22に示した各例について、波長に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
図23は、何れの構成についても放射比率は2:1~3:1であり、およそ2倍~3倍の上方への放射が得られることを示している。
【0159】
また、
図22と
図23によれば、2列目の円孔列の二重周期変調を導入することで、ビーム形状を良好としたまま、放射比率を増大して一方向性放射を向上させることができる。
【0160】
6b:Δa二重周期変調
図24は、円孔の格子配列において、種々の円孔列に対してΔa二重周期変調を導入し、かつ小径の円孔の側壁の傾斜角θgを85°としたときのビームパターンを示している。
【0161】
図24はΔa二重周期変調を導入する列として、(a)1列目(Δa=-10nm)、(b)1列目(Δa=+10nm)、(c)2列目(Δa=-10nm)、(d)2列目(Δa=+10nm)、(e)3列目(Δa=-10nm)、(f)3列目(Δa=+10nm)、(g)1列目~3列目(Δa=-10nm)、(h)1列目~3列目(Δa=+10nm)、(i)1列目及び2列目(Δa=-10nm)、(j)1列目及び2列目(Δa=+10nm)、(k)1列目及び3列目(Δa=+10nm)、(l)2列目及び3列目(Δa=+10nm)の各例を示している。
【0162】
図24の(a)~(l)において、左方の二つは空気中の開口分布を示し、右方の二つはクラッド中の開口分布を示し、Δaのシフト方向は伝搬方向を正としている。また、
図24の(a)~(i)では、規格化された放射光の強度を
図5中のz方向とx方向についてそれぞれ φ(phi) 及び θ(theta) で示している。なお、
図24に示すビームパターンにおいて、上から一つ目及び2つ目の放射条件は光偏向器として使用範囲外であるため、上から3つ目以降のビームパターンが利用可能である。
【0163】
これら各例において、枠で囲んだ(c)、及び(d)の2列目のみ二重周期変調を導入した例は波数依存が少ない単峰性の放射光ビームに近いことを示している。
【0164】
[7.偶数列に導入する二重周期的な調整による多重周期調整]
以下、前記したΔ2r二重周期調整あるいはΔa二重周期調整に加えて、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期調整について説明する。
【0165】
7a.:Δ2r二重周期変調、逆V字形状配列、偶数列に導入する二重周期の形態
図25,
図26A~
図26BはΔ2r二重周期変調及び逆V字形状配列の格子配列において、小径の円孔の側壁を傾斜角θgが80°の傾斜壁とし、さらに伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示している。
【0166】
図25の(a)は波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図25の(b)は波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図25の(c)は波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図25の(d)は波長[μm]に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
【0167】
図26A~
図26Bは発光ビームパターン解析(FFP:Far Field Pattern)を示している。
図26Aは
図5の(d)中のmonitor-Aにおける空気中の開口分布のFFPを示し、
図26Bは
図5の(d)中のmonitor-Bにおけるクラッド中の開口分布のFFPを示している。
【0168】
多重周期調整は、二重周期調整に加えて、さらに横一列配列される円孔において、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に拡大又は縮小する周期調整を行う。
【0169】
図25に示す格子配列の二重周期調整では、小径の円孔と大径の円孔を逆V字形状配列し、小径の円孔の側壁を傾斜壁として放射光ビームに一方向の放射性を与えている。この格子配列において、伝搬方向に対して直交する横一列方向に並ぶ小径及び大径の円孔の並びについて、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に拡大又は縮小する第3の周期調整を施す。これにより、二重周期調整に加えて、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期調整を行う。
【0170】
図25に示す格子配列において、横一列方向に並ぶ小径及び大径の円孔の並びの内、円孔の孔径を拡大又は縮小した円孔について円孔の円周を太線で示している。
【0171】
なお、格子配列において、同径の円孔の格子定数をaとしたとき、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の格子定位数はフォトニック結晶のオリジナルな格子定数aと一致する。
【0172】
図25の(d)の放射比率の特性によれば、
図8の(d)に示した側壁を傾斜壁としたときの放射比率と場合と同様に、傾斜角θgが75°~85°であるときにほぼ2:1前後の比率が得られる。
【0173】
図26A~
図26Bは、調整前の小径及び大径の直径をそれぞれ205nm、215nmとし、径調整を行う大径の円孔の孔径2rgを200nm~250nmとしたときの放射光ビームを示している。
【0174】
図26A~
図26Bは、偶数番目の格子列の二重周期的な孔径調整を行う場合は、側壁が傾斜壁であって偶数番目の二重周期的な孔径調整を行わない場合(
図8に示す例)と比較して、放射光ビームのビーム形状が単峰化されることを示している。
【0175】
また、
図25の(c)の放射係数(散乱損失)と、
図25の(d)の放射比率Pupper/Plowerは、波長変化に対して放射係数を保持したまま、上下の放射比率の調整が可能であることを示している。
【0176】
7b.:Δ2r二重周期変調、通常の横一列配列、偶数番目の格子列の開口径の二重周期の形態
図27,
図28A,
図28BはΔ2r二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、小径の円孔の側壁を傾斜角θgが80°の傾斜壁としさらに伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示している。Δ2rは10nmとしている。
【0177】
図27(a)は波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図27(b)は波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図27(c)は波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図27(d)は波長[μm]に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
【0178】
図28A,
図28Bは発光ビームパターン解析(FFP:Far Field Pattern)を示している。
図28Aは
図5(d)中のmonitor-Aにおける空気中の開口分布のFFPを示し、
図28Bは
図5(d)中のmonitor-Bにおけるクラッド中の開口分布のFFPを示している。
【0179】
多重周期調整は、二重周期調整に加えて、さらに、横一列配列される円孔において、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に拡大又は縮小する周期調整を行う。
【0180】
図27に示す格子配列の二重周期調整では、小径の円孔と大径の円孔を通常の横一列配列し、小径の円孔の側壁を傾斜壁として放射光ビームに一方向の放射性を与えている。この格子配列において、伝搬方向に対して直交する横方向に並ぶ小径及び大径の円孔の並びについて、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に拡大又は縮小する第3の周期調整を施す。これにより、二重周期調整に加えて、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期調整を行う。
【0181】
図27に示す格子配列において、横一列に並ぶ小径及び大径の円孔の並びの内、円孔の孔径を拡大又は縮小した円孔について円孔の円周を太線で示している。
【0182】
なお、格子配列において、同径の円孔の格子定数をaとしたとき、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の格子周期は格子定数aと一致しする。
【0183】
図27の(c)の放射係数(散乱損失)と、
図27の(d)の放射比率 Pupper/Plower は、波長変化に対して放射係数を保持したまま、上下の放射比率の調整が可能であることを示している。
【0184】
図28A~
図28Bは、調整前の小径及び大径の直径をそれぞれ205nm、215nmと、径調整を行う大径の円孔の孔径2rgを200nm~250nmとしたときの放射光ビームを示している。
【0185】
7c.:Δa二重周期変調、1列目、偶数番目の格子列の開口径の二重周期的な形態
図29,
図30A~
図30BはΔa二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、1列目のみをシフトさせ、シフトさせた円孔の側壁を傾斜角θgが80°の傾斜壁とし、さらに伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の格子周期を二重周期的に調整する多重周期変調の例を示している。
【0186】
図29の(a)は波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図29の(b)は波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図29の(c)は波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図29の(d)は波長[μm]に対する放射比率Pupper/Plowerを示している。
【0187】
図30A~
図30Bは発光ビームパターン解析(FFP:Far Field Pattern)を示している。
図30Aは
図5の(d)中のmonitor-Aにおける空気中の開口分布のFFPを示し、
図30Bは
図5の(d)中のmonitor-Bにおけるクラッド中の開口分布のFFPを示している。
【0188】
多重周期調整は、導波路から1列目の円孔の直線配列をΔa分だけシフトさせる二重周期調整に加えて、さらに、横一列配列される円孔において、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に拡大又は縮小する周期調整を行う。
【0189】
図29に示す格子配列の二重周期調整では、小径の円孔と大径の円孔を配列すると共に通常の横一列配列し、小径の円孔の側壁を傾斜壁として放射光ビームに一方向の放射性を与えている。この格子配列において、伝搬方向に対して直交する横方向に並ぶ小径及び大径の円孔の並びについて、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に拡大又は縮小する第3の周期調整を施す。これにより、二重周期調整に加えて、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の開口径を二重周期的に調整する多重周期調整を行う。
【0190】
図29に示す格子配列において、横一列に並ぶ小径及び大径の円孔の並びの内、円孔の孔径を拡大又は縮小した円孔について円孔の円周を太線で示している。
【0191】
なお、格子配列において、同径の円孔の格子定数をaとしたとき、伝搬方向沿った偶数番目の格子列の格子周期は格子定数aと一致する。
【0192】
図29の(c)の放射係数(散乱損失)と、
図29の(d)の放射比率 Pupper/Plower は、波長変化に対して放射係数を保持したまま、上下の放射比率の調整が可能であることを示している。
【0193】
図30A~
図30Bは、調整前の小径及び大径の直径をそれぞれ205nm、215nmと、径調整を行う大径の円孔の孔径2rgを200nm~250nmとしたときの放射光ビームを示している。
【0194】
7d.:Δa二重周期変調、一列目、偶数列の円孔を貫く二重周期的な回折格子(浅堀回折格子)
図31,
図32A~
図32BはΔa二重周期変調及び通常の横一列配列の格子配列において、1列目のみをΔa分だけシフトさせることで二重周期調整を行い、さらに伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の二重周期的な円孔を貫く浅堀回折格子によって周期調整を行って多重周期変調する例を示している。
【0195】
浅堀回折格子は、格子配列を構成する高屈折率部材及び低屈折率部位の上方面をエッチングによって浅く切削することで回折格子を構成する。
図31は、浅堀回折格子の2つのモデルModel-A,Model-Bを示している。Model-Aは、回折格子の伝搬方向の一列の幅が円孔の横一列分に相当し、回折格子の各列は二重周期的な間隔で配置される構成である。また、Model-Bは、回折格子の伝搬方向の一列の幅が円孔の横二列分に相当し、回折格子の各列は二重周期的な間隔で配置される構成である。Model-AとModel-Bは切削パターンを反転させた関係にある。
【0196】
Model-A及びModel-Bにおいて、濃く示された部分は浅く掘られた部分を示している。切削の深さは、例えば70nmとしている。また、ここでは、Δa二重周期調整のシフトΔaは10nmとしている。
【0197】
図31に示す格子配列の多重周期調整は、導波路から1列目の円孔の直線配列をΔa分だけシフトさせる二重周期調整に加えて、さらに、伝搬方向に沿った偶数番目の格子列の二重周期的な円孔を貫く浅堀回折格子によって周期調整を行う。これにより、二重周期調整に加えて、沿った偶数番目の格子列の二重周期的な円孔を貫く回折格子による多重周期調整を行う。
【0198】
図31の(a)は波数[2π/a]に対する規格化周波数a/λを示し、
図31の(b)は波長[μm]に対する群屈折率を示し、
図31の(c)は波長[μm]に対する放射係数(散乱損失)[dB/cm]を示し、
図31の(d)は波長[μm]に対する放射比率 Pupper/Plower を示している。
【0199】
図32A~
図32Bは発光ビームパターン解析(FFP:Far Field Pattern)を示している。
図32Aは
図5の(d)中のmonitor-Aにおける空気中の開口分布のFFPを示し、
図32Bは
図5の(d)中のmonitor-Bにおけるクラッド中の開口分布のFFPを示している。
図32A,
図32Bにおいて、左方は空気中の開口分布を示し、右方はクラッド中の開口分布を示している。
【0200】
図31の(c)の放射係数(散乱損失)と、
図31の(d)の放射比率 Pupper/Plower は、波長変化に対して放射係数を保持したまま、上下の放射比率の調整が可能であることを示している。
【0201】
図31の(d)の放射比率によれば、Model-AとModel-Bとは切削パターンの反転によって放射比率が反転することを示し、Model-Bは裏面反射を行うことを示している。また、
図32A~
図32Bの発光ビームパターンによれば、Model-Bの裏面反射においても良好な単峰ビームが得られることを示している。
【0202】
[8.浅堀回折格子]
図33A~
図35を用いて浅堀回折格子の例を説明する。
図33A~
図33Bは、浅堀回折格子を示し、斜線部分で示す表面を浅く切削して浅堀部分が形成される。
図33A~
図33Bでは、浅堀部分を塗りつぶした模様字で示し、浅堀していない部分を斜線の模様字で示している。
図33Aと
図33Bとは浅堀部分が反転した状態を示している。
図34は
図33Aの浅堀回折格子の斜視図である。
【0203】
図34は伝搬方向に対して直交する横方向に浅堀された浅堀回折格子を示し、
図35は伝搬方向に対して斜め方向に浅堀された浅堀回折格子を示している。
【0204】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に基づいて種々変形することが可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0205】
上記した実施例では、光偏向デバイスのフォトニック結晶導波路を構成する高屈折率部材としてSiを想定して近赤外光の波長域の光を用いているが、光偏向デバイスを構成する高屈折率部材として可視光材料へ適用することができる。また、本発明の光偏向デバイスは、自動車、ドローン、ロボットなどに搭載することができ、パソコンやスマートフォンに搭載して周囲環境を手軽に取り込む3Dスキャナ、監視システム、光交換やデータセンター用の空間マトリックス光スイッチなどに適用することができる。
【0206】
この出願は、2017年8月24日に出願された日本出願特願2017-160825を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0207】
a 格子定数
k 波数
Δa シフト
Δ2r 口径差
θg 傾斜角
1 光偏向デバイス
2 フォトニック結晶導波路
2r1 直径
2r2 直径
2rg 孔径
3 格子配列
10 高屈折率部材
11 低屈折率部位
12 導波路コア
13 クラッド
14 BOX
15 基板
20 円孔
21 小径の円孔
22 大径の円孔