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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1506 20190101AFI20220905BHJP
   G02F 1/15 20190101ALI20220905BHJP
   G02F 1/17 20190101ALI20220905BHJP
   G02F 1/19 20190101ALI20220905BHJP
【FI】
G02F1/1506
G02F1/15 501
G02F1/15 502
G02F1/15 508
G02F1/17
G02F1/19
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017243370
(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公開番号】P2019109404
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】小林 範久
(72)【発明者】
【氏名】戸田 壮馬
(72)【発明者】
【氏名】中村 一希
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0146276(US,A1)
【文献】特開2010-256436(JP,A)
【文献】特開2010-164861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極の間に保持される電解液と、前記一対の電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記電解液は、溶媒、当該溶媒に溶解した銀イオンを含有するエレクトロクロミック材料、メディエータ及びチオール誘導体を含有し、前記電解液におけるハロゲン原子のモル濃度は前記エレクトロクロミック材料のモル濃度よりも高く、前記一対の電極に電圧を印加した場合、前記一対の電極の少なくとも一方に直接析出する析出銀上に前記チオール誘導体の自己組織化膜が形成されるエレクトロクロミック表示素子。
【請求項2】
前記電圧印加手段が前記一対の電極に電圧を印加した後、前記電圧印加手段の回路を開放してから3000秒経過時の前記エレクトロクロミック表示素子の透過率が40%以下であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項3】
前記メディエータは、銅イオンを含有することを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光素子及びそれを含む製品に関し、より詳細には、エレクトロクロミック材料を含み、エレクトロクロミック材料の光物性を変化させることで調光する素子及びこれを用いた製品、例えばディスプレイなどの表示装置、外部から入射する光量を調節する調光フィルタ、防眩ミラー等に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
透過する光量を調節する素子は、例えば表示装置、調光フィルタ等として現在市販されている。テレビやパソコンモニタ、携帯電話ディスプレイを始めとした情報を表示するための装置(表示装置)は、近年の情報化社会において欠かすことのできない装置である。また、外部から入射する光量を調節する調光フィルタ、防眩ミラー等は、屋内、車、航空機等の空間において、外部からの光を調節することができるためカーテン等と同様の効果を有し、生活において非常に役立つものである。
【0003】
上記のうち、表示装置の表示方式は、一般に反射型、透過型、発光型の3つに大きく分けることができる。表示装置を製造する者は、表示装置の製造において、表示装置の置かれる環境を想定して好ましい表示方式を選択するのが一般的である。
【0004】
ところで近年の表示装置の小型化、薄膜化により表示装置の携帯性が向上し、様々な明るさの環境に携帯移動して表示装置を使用する機会が非常に多くなってきており、ユーザーのニーズも多様化してきている。表示装置のモードとして、例えば、明暗の表示だけでなく、表示画面を鏡面状態にするニーズ等も求められてきている。この点は、調光フィルタ等においても同様である。
【0005】
特許文献1には、銀を透明電極上に析出させることで、透明状態から鏡状態又は黒状態への可逆的な色変化を可能にする素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2012/118188
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された発明では、電圧の印加をしている状態で素子の回路を開放すると、発色状態が維持されず消色状態に戻ってしまうため、発色状態を維持するためには電圧を印加し続けなければならないため、発色状態を維持するために電力を消費してしまうという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、素子の回路を開放した状態でも一定時間発色状態を維持することができるエレクトロクロミック表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの観点によれば、上記課題を解決するために、エレクトロクロミック表示素子を、一対の電極と、前記一対の電極の間に保持される電解液と、前記一対の電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記電解液は、溶媒、銀イオンを含有するエレクトロクロミック材料、メディエータ及びチオール誘導体を含有するものとした。
【0010】
さらに、前記メディエータは、銅イオンを含有するものとすると望ましい。
【0011】
また、本発明の他の観点によれば、エレクトロクロミック表示素子を、一対の電極と、前記一対の電極の間に保持される電解液と、前記一対の電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記電解液は、溶媒、銀イオンを含有するエレクトロクロミック材料、メディエータ及びチオール誘導体を含有し、前記一対の電極に電圧を印加した場合、前記一対の電極の少なくとも一方に自己組織化膜が形成されるものとした。前記電圧印加手段が前記一対の電極に電圧を印加した後、前記電圧印加手段の回路を開放してから3000秒経過時の前記エレクトロクロミック表示素子の透過率が40%以下であると望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エレクトロクロミック素子において、素子の回路を開放した状態でも一定時間発色状態を維持することができ、電力消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の表示装置の概略断面図を示す図である。
図2】本実施形態の表示原理を説明する図である。
図3】実施例1の表示装置の概略を示す図である。
図4】素子への印加電圧と透過率、電流の関係を示す図である。
図5】発色電圧印加後に回路を開放したときの透過率の変化を示す図である。
図6】1-Octanethiolを電解液に添加した場合の発色電圧印加後に回路を開放したときの透過率の変化を示す図である。
図7】周波数変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の調光素子の一例である本実施形態に係る表示装置(エレクトロクロミック表示素子ともいう。以下「本表示装置」という。)1の概略断面を示す図である。図1で示すように、本表示装置1は、一対の基板2、3と、一対の基板の対向する面に形成される一対の電極21、31と、一対の電極21、31の間に挟持され、銀を含むエレクトロクロミック材料及びメディエータを含む電解質層4と、を有する。
【0016】
本実施形態において一対の基板2、3は、電解質層4を挟み保持するために用いられるものであって、基板2、3の少なくとも一方が透明であればよいが、双方透明であれば、透過型の表示装置を実現することができる。本実施形態では説明のため双方透明な場合で説明する。なお、基板の材料としては、ある程度の硬さ、化学的安定性を有し、安定的に材料層を保持することができる限りにおいて限定されるわけではないが、ガラス、プラスチック、金属、半導体等を採用することができ、透明な基板として用いる場合はガラスやプラスチックを用いることができる。
【0017】
また本実施形態において、一対の基板2、3のそれぞれには、対向する面側(内側)に電極21、31が形成されている。この電極は一対の基板2、3によって挟持される材料層に電圧を印加するために用いられるものである。電極の材料としては、好適な導電性を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えば基板の材質が透明な基板である場合はITO、IZO、SnO、ZnO等の少なくともいずれかを含む透明電極であることが好ましい。
【0018】
また本実施形態に係る電極は、基板上に、表示したい文字などのパターンにあわせた形状として形成してもよく、また、同じ複数の領域毎に区分された電極パターンを複数基板上に並べて形成したものであってもよい。複数の領域毎に区分すると、この各領域を画素とし、画素毎に表示を制御し、複雑な形状の表示にも対応できるといった利点がある。
【0019】
電極間の距離としては、後に詳述するエレクトロクロミック材料における銀が微粒子として十分析出し、消失する電界を印加することができる限りにおいて限定されるわけではないが、1μm以上10mm以下が可能であり、望ましくは1μm以上1mm以下の範囲である。
【0020】
なお本実施形態に係る電極は、それぞれ導電性を有する配線を介して電源に接続されており、この電源のON、OFFにより材料層に電圧の印加、印加の解除を制御することができる。
【0021】
また本実施形態に係る電解質層(電解液)4は、支持塩としての電解質を含むとともに、銀イオンを含むエレクトロクロミック材料及びメディエータを含んでいる。また本実施形態に係る電解質層4は、上記銀を含むエレクトロクロミック材料41及びメディエータ42のほか、これら材料を保持するための溶媒を含んでいる。
【0022】
さらに本実施形態においては、チオール又はチオール誘導体を電解質層4に溶解していることが特徴である。チオールは、R-SH(Rは炭化水素基)で表される水素化硫黄を末端に持つ有機化合物の一種である。チオールの持つチオール基(SH)は、金属表面(銀、金等)にて自己組織化膜(SAM)を形成する。
【0023】
本実施形態の電解質層における電解質は、エレクトロクロミック材料の酸化還元等を促進するためものであり支持塩であることは好ましい一例である。電解質は、臭素イオンを含むことが好ましく、例えばLiBr、KBr、NaBr、臭化テトラブチルアンモニウム(TBABr)等を例示することができる。なお、電解質の濃度としては、限定されるわけではないが、モル濃度でエレクトロクロミック材料の5倍程度、具体的には3倍以上6倍以下含んでいることが好ましく、例えば3mM以上6M以下であることが好ましく、より好ましくは5mM以上5M以下、より好ましくは6mM以上3M以下、更に好ましくは15mM以上600mM以下、更に好ましくは25mM以上500mM以下、30mM以上300mM以下の範囲である。
【0024】
また本実施形態において溶媒は、上記エレクトロクロミック材料、電気化学発光材料及び電解質を安定的に保持することができる限りにおいて限定されるわけではないが、水等の極性溶媒であってもよいし、極性のない有機溶媒等一般的なものも用いることができる。溶媒としては、限定されるわけではないが、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)を用いることができる。
【0025】
本実施形態においてエレクトロクロミック材料とは、直流電圧を印加することによって酸化還元反応を起こす材料であり、銀イオンを含む塩であることが好ましい。このエレクトロクロミック材料は酸化還元反応によって銀微粒子を析出、又は消失させ、これに基づく色の変化を生じさせ表示を行なうことができる。銀を含むエレクトロクロミック材料としては限定されるわけではないが、AgNO3、AgClO、AgBr、AgBr3を挙げることができる。なお、エレクトロクロミック材料の濃度については、上記機能を有する限りにおいて特に限定されるわけではなく、材料によって適宜調整が可能であるが、5M以下であることが望ましく、より望ましくは1mM~1M、さらに望ましくは5mM~100mMである。
【0026】
本実施形態においてメディエータとは、銀よりも電気化学的に低いエネルギーで酸化還元を行なうことのできる材料をいう。メディエータの酸化体が銀から随時電子を授受することによって酸化による消色反応を補助することができる。なお、メディエータとしては、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、銅(II)イオンの塩であることが好ましく、例えばCuCl2、CuSO4、CuBr2を挙げることができる。
【0027】
なおメディエータの濃度としては、上記機能を奏する限りにおいて限定されず、また材料によって適宜調整が可能であるが、5mM以上20mM以下であることが望ましく、より望ましくは15mM以下である。20mM以下とすることで過度の色付きを防止することができる。なお、銀イオンと銅(II)イオンの濃度比としては、限定されるわけではないが、銀イオンを10とした場合、銅(II)イオンは1以上3以下の範囲であることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態においては、上記構成要件のほか、例えば増粘剤を加えることができる。増粘剤を加えることでエレクトロクロミック素子のメモリ性を向上させることができる。なお増粘剤の例としては、特に限定されるわけではないが、例えばポリビニルアルコールを例示することができる。なお増粘剤の濃度としては、特に限定されるわけではないが、例えば電解質層の総重量に対し5重量%以上20重量%以下の範囲で含ませておくことが好ましい。
【0029】
本表示装置は、例えば電圧を印加した状態で反射状態を実現することができる。本実施形態に係る素子の状態の概念図を図2に示しておく。図2は、鏡状態を示している。
【0030】
本表示装置では、電極間に電圧を印加すると、一方の電極ではエレクトロクロミック中の銀イオンが還元されて銀として析出する。この場合において、銀が平滑な電極状に形成されれば鏡状態となる。なお、この直流電圧印加の際の電圧の強度としては、一対の基板間の距離、一対の電極間の距離によって適宜調整が可能であり、限定されるものではなく、電界強度として例えば1.0×10V/m以上1.0×10V/m以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1.0×10V/m以下の範囲内である。
【0031】
従来技術の素子においては、消色補助剤である塩化銅(II)により析出銀の溶解が起きてしまい素子の発色状態を維持することが困難であった。そこで、この電解液にチオールを添加することで析出銀上に自己組織化膜を形成させ、銅のメディエーションを防ぐことで、素子の電圧印加後における発色保持特性を向上させた。
【0032】
なお、本実施形態の他に、電極31を粒子により修飾すると、電圧を印加することにより、銀が粒子上に形成され、光が乱反射され黒状態となるようにすることできるが、このような構成の素子であっても本発明の発色保持効果を得ることができる。
【実施例1】
【0033】
ここで、実際に表示装置を作成し、その効果の確認を行なった。以下説明する。
【0034】
図3は、本実施例の表示装置の概略を示す図である。電解液4は、溶媒DMSO中にAgBr300mM、LiCl2 5mM及びCuCl2 5mMを添加後、溶液をミックスローターで攪拌、その後1-Dodecanethiol 10mMを作製した。
【0035】
図4上に、素子への印加電圧と透過率の関係、図4下に素子への印加電圧と電流の関係を示す。電圧を負方向に掃引すると、-2.3Vより銀の析出に起因して還元電流が増加し、透過率が減少した。また、-2.5Vにて正方向に掃引を折り返すと、-0.2Vより銀の溶解に起因した酸化電流が増加した。
【0036】
図5に、発色電圧印加後に回路を開放したときの透過率の変化を示す。チオールを含有しない従来の電解液を使用した素子においては、回路を開放した際に即座に初期透過率まで透過率が増加し、発色が保持されなかった。これに対し、本実施例の素子においては、透過率が30%程度まで増加した後、約3500秒経過後においても良好な発色保持特性を示した。これは従来のエレクトロクロミック素子と比較すると、チオールの添加によって銅のメディエーションが防がれるため、回路開放後も析出銀が溶解せずに作用極上に保持されたままであり、発色保持特性が向上しているものと考えられる。回路開放後3500秒経過時点で透過率が40%以下であれば、十分な発色保持性、省エネルギー性が享受でき、30%以下とすると望ましい。
【0037】
図6に、1-Dodecanethiolではなく、1-Octanethiolを10mM添加した場合の透過率の変化、発色保持特性を示す。1-Octanethiolを添加した場合でも、良好な発色保持特性を示すことが確認できた。
【0038】
また、同電解液において、金属上にチオール分子が自己組織膜を形成することを観測するためquartz crystal micro balance method(QCM法)を用いた。作用極を金水晶電極、対極を白金線、作用極をAg/Ag+として測定を行った。図7に測定結果を示す。作用極を電解液に挿入した時間0秒付近から1200秒付近まで周波数の減少が観られ、電極上の質量が増加していることが明らかとなった。このことから、チオール分子を添加した電解液を用いることで電圧印加時においても貴金属上に自己組織膜を形成することが示された。
【0039】
以上、本実施例により、発色保持特性が高いエレクトロクロミック表示素子が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、エレクトロクロミック表示素子として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0041】
2、3 基板
21、31 電極
4 電解質層
41 エレクトロクロミック材料
42 メディエータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7