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特許7134461マラリア治療剤、マラリア予防剤及び抗マラリア自然免疫賦活剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】マラリア治療剤、マラリア予防剤及び抗マラリア自然免疫賦活剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/76 20150101AFI20220905BHJP
   A61P 33/06 20060101ALI20220905BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
A61K35/76 ZNA
A61P33/06
A61P37/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018057311
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167312
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 栄人
(72)【発明者】
【氏名】伊從 光洋
【審査官】吉川 阿佳里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/059911(WO,A1)
【文献】特開2016-086728(JP,A)
【文献】特表2000-516083(JP,A)
【文献】特表2001-523961(JP,A)
【文献】Malaria Journal,2017年,Vol. 16, No. 390,p. 1-10
【文献】SCIENTIFIC REPORTS,2018年03月01日,Vol. 8, No. 3896,p. 1-13
【文献】BLOOD,2003年,Vol. 101, No. 6,p. 2300-2306
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バキュロウイルス科(Baculoviridae)ウイルスを含むマラリア治療剤であって、ここで、該バキュロウイルス科ウイルスがオートグラファ核多角体病ウイルス(Autographa CalifornicaNuclear Polyhedorosis Virus)である、マラリア治療剤
【請求項2】
前記バキュロウイルス科ウイルスはDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む、請求項1に記載のマラリア治療剤
【請求項3】
感染後42時間以内に投与することを特徴とする請求項1又は2に記載のマラリア治療剤。
【請求項4】
感染後24時間以内に投与することを特徴とする請求項1又は2に記載のマラリア治療剤。
【請求項5】
投与方法が筋肉内投与であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のマラリア治療剤。
【請求項6】
マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含まないバキュロウイルス科ウイルスを含むマラリア予防剤であって、ここで、該バキュロウイルス科ウイルスがオートグラファ核多角体病ウイルスである、マラリア予防剤
【請求項7】
前記バキュロウイルス科ウイルスはDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む、請求項6に記載のマラリア予防剤
【請求項8】
6時間~13日間隔で1又は複数回投与することを特徴とする請求項6又は7に記載のマラリア予防剤。
【請求項9】
投与方法が筋肉内投与であることを特徴とする請求項6~8のいずれか1に記載のマラリア予防剤。
【請求項10】
マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含まない バキュロウイルス科ウイルスを含む抗マラリア自然免疫賦活剤であって、ここで、該バキュロウイルス科ウイルスがオートグラファ核多角体病ウイルスである、抗マラリア自然免疫賦活剤
【請求項11】
前記バキュロウイルス科ウイルスはDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む、請求項10に記載の抗マラリア自然免疫賦活剤
【請求項12】
マラリアワクチン添加剤である、請求項10~11のいずれか1に記載の抗マラリア自然免疫賦活剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バキュロウイルスを含むマラリア治療剤、マラリア予防剤及び抗マラリア自然免疫賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
(マラリア)
マラリアは依然として重大な公衆衛生上の問題であり、世界的に大きな経済的損失を引き起こす。世界人口のほぼ半分がマラリアの危険にさらされている。2015年には、約2億1,200万人のマラリア患者があり、推定42万9,000人のマラリア死亡者があり、その大部分は5歳未満の子供である(非特許文献1)。マラリア感染は、ハマダラカ属の蚊(Anopheles mosquitoes)による吸血中に、マラリア原虫(Plasmodium)スポロゾイトが皮膚に注入されて開始される。スポロゾイトは肝臓に移動し、肝細胞に侵入する。肝臓内では5~6日間「静かに」増殖し(肝臓期)、その後肝臓細胞から血液中へ出て赤血球に感染する(赤内期)。熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)は、肝臓で5~6日間で放血症性シゾント(exoerythrocytic schizonts)に発達する。P. vivaxおよびP. ovaleの場合、一部の感染肝細胞中の原虫は休眠性肝臓期形態と呼ばれるヒプノゾイト(hypnozoites)として数ヶ月または数年間過ごす。そして後に赤内期を再発させる。
【0003】
現在のところ、P. vivaxヒプノゾイトの根治治療薬はプリマキン(PQ)のみであるが、PQはグルコース-6-リン酸-デヒドロゲナーゼ酵素(G6PD)欠損症において、生命を脅かす溶血性貧血の高いリスクを伴う(非特許文献2)。マラリア撲滅戦略のためには、ヒプノゾイトを効果的に殺滅する、より安全で効果的な根治薬が必要である。
【0004】
以上により、現状のマラリア感染防御効果は不十分であり、新たな治療剤、予防剤の開発が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】WHO. World Malaria Report 2015. WorldMalaria Report 2015 (2015).
【文献】Alving, A. S., Carson, P. E., Flanagan, C. L. & Ickes, C. E.Enzymatic deficiency in primaquine-sensitive erythrocytes. Science 124,484-485 (1956).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、新規なマラリア治療剤、マラリア予防剤及び抗マラリア自然免疫賦活剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究した結果、バキュロウイルス(特に、DAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウイルス)を含むマラリア治療剤、マラリア予防剤及び抗マラリア自然免疫賦活剤を開発して、本発明を完成した。
【0008】
本発明は以下の通りである。
1.バキュロウイルス科(Baculoviridae)ウイルスを含むマラリア治療剤。
2.前記バキュロウイルス科ウイルスが、オートグラファ核多角体病ウイルス(Autographa CalifornicaNuclear Polyhedorosis Virus)、核多角体病ウイルス(Nucleopolyhedrovirus)、カイコガ核多角体病ウイルス(Bombyxmori NuclearPolyhedorosis Virus)、オルギア・シュードツガタ核多角体病ウイルス(Orgyia pseudotsugataNuclear Polyhedorosis Virus)、マイマイガ核多角体病ウイルス(Lymantriadisper NuclearPolyhedorosis Virus)、サクサン核多角体病ウイルス(Antheraea pernyi NuclearPolyhedorosis Virus)及び顆粒病ウイルス(Granulovirus)からなる群から選択されるいずれか1以上である、前項1に記載のマラリア治療剤。
3.感染後42時間以内に投与することを特徴とする前項1又は2に記載のマラリア治療剤。
4.感染後24時間以内に投与することを特徴とする前項1又は2に記載のマラリア治療剤。
5.投与方法が筋肉内投与であることを特徴とする前項1~4のいずれか1に記載のマラリア治療剤。
6.バキュロウイルス科ウイルスを含むマラリア予防剤。
7.前記バキュロウイルス科ウイルスが、オートグラファ核多角体病ウイルス(Autographa CalifornicaNuclear Polyhedorosis Virus)、核多角体病ウイルス(Nucleopolyhedrovirus)、カイコガ核多角体病ウイルス(Bombyxmori NuclearPolyhedorosis Virus)、オルギア・シュードツガタ核多角体病ウイルス(Orgyia pseudotsugataNuclear Polyhedorosis Virus)、マイマイガ核多角体病ウイルス(Lymantriadisper NuclearPolyhedorosis Virus)、サクサン核多角体病ウイルス(Antheraea pernyi Nuclear PolyhedorosisVirus)及び顆粒病ウイルス(Granulovirus)からなる群から選択されるいずれか1以上である、前項6に記載のマラリア予防剤。
8.6時間~13日間隔で1又は複数回投与することを特徴とする前項6又は7に記載のマラリア予防剤。
9.投与方法が筋肉内投与であることを特徴とする前項6~8のいずれか1に記載のマラリア予防剤。
10.バキュロウイルス科ウイルスを含む抗マラリア自然免疫賦活剤。
11.前記バキュロウイルス科ウイルスが、オートグラファ核多角体病ウイルス(Autographa CalifornicaNuclear Polyhedorosis Virus)、核多角体病ウイルス(Nucleopolyhedrovirus)、カイコガ核多角体病ウイルス(Bombyxmori NuclearPolyhedorosis Virus)、オルギア・シュードツガタ核多角体病ウイルス(Orgyia pseudotsugataNuclear Polyhedorosis Virus)、マイマイガ核多角体病ウイルス(Lymantriadisper NuclearPolyhedorosis Virus)、サクサン核多角体病ウイルス(Antheraea pernyi NuclearPolyhedorosis Virus)及び顆粒病ウイルス(Granulovirus)からなる群から選択されるいずれか1以上である、前項10に記載の抗マラリア自然免疫賦活剤。
12.前記バキュロウイルスは、マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むバキュロウイルス以外の組換えウイルスを患者に投与した後に、該患者に投与することを特徴とする、前項10又は11に記載の抗マラリア自然免疫賦活剤。
13.前記マラリア抗原が、CSPである前項12に記載の抗マラリア自然免疫賦活剤。
14.前記バキュロウイルス以外の組換えウイルスは、組換えアデノウイルスである前項12又は13に記載の抗マラリア自然免疫賦活剤。
15.前項10~14のいずれか1に記載の抗マラリア自然免疫賦活剤、並びにマラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子及び該遺伝子を発現可能なプロモーターを含む組換えアデノウイルスを含む抗マラリア自然免疫賦活剤組成物。
16.マラリアワクチン添加剤である、前項10~14のいずれか1に記載の抗マラリア自然免疫賦活剤。
17.バキュロウイルス科ウイルスを含むIFN-α及びIFN-γ産生促進剤。
18.前記バキュロウイルス科ウイルスが、オートグラファ核多角体病ウイルス(Autographa Californica NuclearPolyhedorosis Virus)、核多角体病ウイルス(Nucleopolyhedrovirus)、カイコガ核多角体病ウイルス(Bombyxmori NuclearPolyhedorosis Virus)、オルギア・シュードツガタ核多角体病ウイルス(Orgyia pseudotsugata NuclearPolyhedorosis Virus)、マイマイガ核多角体病ウイルス(Lymantriadisper NuclearPolyhedorosis Virus)、サクサン核多角体病ウイルス(Antheraea pernyi NuclearPolyhedorosis Virus)及び顆粒病ウイルス(Granulovirus)からなる群から選択されるいずれか1以上である、前項17に記載のIFN-α及びIFN-γ産生促進剤。
19.前項17又は18に記載のIFN-α及びIFN-γ産生促進剤を含む、癌治療剤。
20.前項17又は18に記載のIFN-α及びIFN-γ産生促進剤を含む、肝臓疾患治療剤。
21.前記肝臓疾患が肝炎ウイルス由来の肝臓疾患である、前項20に記載の肝臓疾患治療剤。
22.前項17又は18に記載のIFN-α及びIFN-γ産生促進剤を含む、マラリアワクチン以外のワクチンに添加するワクチン添加剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、マラリア治療剤、マラリア予防剤及び抗マラリア自然免疫賦活剤を提供することができる。
バキュロウイルスは、カイコに感染する昆虫ウイルスで、人には感染しない。日本の長い養蚕業の歴史からその駆除法のノウハウを蓄積されている。また、現在、タンパク質の高発現ベクターとして広く世界中で使用されている。これらにより、安全性・汎用性が高く、技術的にも確立されている。
以上により、本発明の抗マラリア自然免疫賦活剤は、実用化までの課題が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】BV投与による炎症誘発性サイトカインの誘導、及びそれに続く肝臓期寄生虫の排除。(A、B)BES-GL3(BVと記載)のi.m.(108 pfu)(A)またはi.v.(107 pfu)(B)投与後の異なる時点でのルシフェラーゼ発現。(C、D)BV のi.v.投与(107 pfu)(n = 6)後の異なる時点での血清における炎症促進性サイトカインであるIFN-γ(C)およびTNF-α(D)のキネティクス。(E、F)肝臓損傷マーカーのキネティクス。BV のi.v.投与(107 pfu)(n = 6)後の異なる時点での血清におけるALT(E)およびAST(F)。(G、H)BV(n = 6)のi.m.(108 pfu)の6時間後の血清及びi.v.投与(107 pfu)の6時間後の血清におけるALT(G)およびAST(H)の比較。(I、J)0時間後におけるPb-Lucスポロゾイトのチャレンジ感染、それに続く示された時点でのBVのi.m.投与(108 pfu)。肝臓からの発光は寄生虫の成長を示し、大腿中の発光はBV源由来である。(K、L)感染マウスの寄生虫血症の遅延。感染24時間後のBV106pfuまたは104 pfu投与した感染マウス群、表2(感染42時間後のBV108 pfu投与および感染24時間後のPQ低用量)および表3(感染24時間後のCpG)に示された感染マウス群の寄生虫血症。(A、B、I、J)マウス中に可視化したヒートマップ画像は、当該領域における光子の総流速(p / sec / cm2)を表す。(C-H、K、L)バーまたは点は平均±SDを示す。(G、H)PBS群との差異をDunnの補正を伴うKruskal-Wallis検定(a Kruskal-Wallis test with Dunn’scorrection)により評価した。(K、L)PBS群との差をtwo-way ANOVAにより評価した。* P<0.05、** P<0.01、*** P<0.001、**** P<0.0001。
図2】BVのi.m.投与により誘導されたIFN-αの肝臓期寄生虫の排除への寄与。(A-C)BES-GL3(BVとして記載)(108 pfu)、CpGまたはPBSのi.m.投与(n = 9~10)の6時間後のWTおよびTLR9-/-マウスの両方の血清中のサイトカインであるIFN-α(A)、IFN-γ(B)およびIL-12(C)レベル。バーは平均±SDである。(D-E)1%寄生虫血症に到達するまでの時間の予測。(D)肝臓期寄生虫の排除における両方のタイプのIFNの役割を決定するための血清移入アッセイ。マウスにBVをi.m.投与した6時間後に血清を採取し、抗IFN-α抗体または抗IFN-γ抗体のいずれかにより中和した。24時間前にスポロゾイト感染したマウス(n = 5)に、抗体処理血清、未処理血清またはPBSを静注(i.v.投与)した。(E)不活性化BVに対する熱処理の効果。スポロゾイト感染の24時間後にBV、HI-BVまたはPBSをi.m.投与した(n = 5)。(A-C)PBS群との差異をDunnの補正を伴うKruskal-Wallis検定により評価した。(D、E)PBS群との差異をKaplan-Meier対数ランク(Mantel-Cox)検定により評価した。** P <0.01、**** P <0.0001。
図3】BVのi.m.投与による肝臓におけるISG誘導。BES-GL3(BVとして記載)(108 pfu)のi.m.投与の6時間後のWTおよびTLR9-/-マウスの肝臓における抗ウイルスタンパク質(A)、IFITs(B)およびIRFs(C)の遺伝子発現をリアルタイムRT-PCR(n = 5~7)により測定した。バーは平均±SEMを示す。PBS群との差異は、Mann-Whitney検定により評価した。* P <0.05、** P <0.01。
図4】BVの熱不活性化。(A)形質導入されたHepG2細胞におけるルシフェラーゼ発現。BES-GL3(BVとして記載)またはHI-BV(56℃で30分間の熱処理)をHepG2細胞に形質導入した。細胞溶解物をルシフェラーゼアッセイに供した。ルシフェラーゼ活性を相対発光単位(RLU)として表す。(B-C)PBS、BVまたはHI-BV投与マウス(n = 5)からの血清中のサイトカインであるIFN-α(B)およびIFN-γ(C)レベル。バーおよびエラーバーは、それぞれ平均±SDを示す。
図5】実験計画。(A)マウスにBES-GL3(BVとして記載)をi.v.、i.m.またはi.n.投与し、続いて様々な時間間隔(6時間~14日)で1,000匹のPb-conGFPスポロゾイトまたは1,000匹のiRBCをi.v.チャレンジした。結果は表1に示す。(B)マウスに1,000匹のPb-conGFPスポロゾイトをi.v.注射した。肝臓期発達の24または42時間後に、マウスにBV、CpGまたはPQのいずれかを投与した。結果は表2および3に示す。(C)マウスに3週間隔でAdHu5-prime(プライム)およびPBS-boost(ブースト)レジメンで免疫した。マウスにブースティングの24時間後に1,000匹のPfCSP-Tc/Pbスポロゾイトをi.v.チャレンジした。結果は表4に示す。(D)マウスに異種AdHu5-プライムおよびBDES-ブーストレジメンで3週間隔でi.m.免疫した。マウスにプライミングした3週間後に1,000匹のPfCSP/Pbスポロゾイトをi.v.チャレンジ(1回目のチャレンジ)し、24時間後にブースティングした。防御されたマウスを1回目のブースティングの21日後に同様の方法により再チャレンジした(2回目のチャレンジ)。結果は表4に示す。(E)マウスをBVでi.m.免疫した6時間後、1000匹のPfCSP-Tc/Pbスポロゾイトでi.v.チャレンジした(1回目のチャレンジ)。防御されたマウスは1回目のチャレンジの21日後に再チャレンジした(2回目のチャレンジ)。(F)BVを6時間前にi.m.投与したドナーマウスから得た血清をプールした。レシピエントマウスに1,000匹のPb-conGFPスポロゾイトをi.v.注射した。24時間後、レシピエントマウスに抗IFN-α抗体または抗IFN-γ抗体で処理した又は未処理の血清をi.v.投与した。結果は図2Dに示す。
図6】組換えバキュロウイルスBES-GL3及びBDES-sPfCSP2-WPRE-Spiderの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明のマラリア治療剤、マラリア予防剤及び抗マラリア自然免疫賦活剤)
本発明の「マラリア治療剤」は、バキュロウイルス、あるいはDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子、並びに必要に応じて該遺伝子を発現可能なプロモーター及びマラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウイルスを含むことを特徴とするマラリア治療剤である。なお、本発明の「バキュロウイルス(バキュロウイルス科(Baculoviridae)ウイルス)」は、野生型のバキュロウイルス及び組換えバキュロウイルスの両方を意味する。
本発明の「マラリア予防剤」は、バキュロウイルス、あるいはDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子、並びに必要に応じてマラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子、及びDAF遺伝子及び/若しくはマラリア抗原遺伝子を発現可能なプロモーターを含む組換えバキュロウイルスを含むことを特徴とするマラリア予防剤(マラリア発症予防剤)である。
本発明の「抗マラリア自然免疫賦活剤」は、バキュロウイルス、あるいはマラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子及び/又はDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子、並びに必要に応じてマラリア抗原遺伝子及び/若しくはDAF遺伝子を発現可能なプロモーターを含む組換えバキュロウイルスを含むことを特徴とする抗マラリア自然免疫賦活剤である。
また、本発明の「抗マラリア自然免疫賦活剤」は、マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むバキュロイルス以外の組換えウイルス、マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子が導入されたプラスミドDNA、又はマラリア抗原のアミノ酸配列を有するタンパク質を患者に投与した後に、該患者に投与することができる。
以下に本発明のマラリア治療剤、マラリア予防剤及び抗マラリア自然免疫賦活剤を説明する。
【0012】
本発明は、以下を含む。
1.以下を含む組換えバキュロウイルスを含むマラリア治療剤。
(1)DAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子、又は、マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子及びDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子
(2)該遺伝子を発現可能なプロモーター
2.以下を含む組換えバキュロウイルスを含むマラリア予防剤。
(1)DAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子、又は、マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子及びDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子
(2)該遺伝子を発現可能なプロモーター
3.以下を含む組換えバキュロウイルスを含む抗マラリア自然免疫賦活剤。
(1)マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子及びDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子、マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子、又は、DAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子
(2)該遺伝子を発現可能なプロモーター
【0013】
(遺伝子)
本明細書において、遺伝子(DNA分子)とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖という各1本鎖DNAを包含する趣旨であり、またその長さに制限されるものではない。
従って、本発明のDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びマラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子(ポリヌクレオチド)には、特に言及しない限り、ゲノムDNAを含む2本鎖DNA及びcDNAを含む1本鎖DNA(センス鎖)並びに該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)及び合成DNA、それらの断片のいずれもが含まれる。
【0014】
(マラリア抗原)
本発明の「マラリア抗原」とは、マラリア原虫のスポロゾイト期の抗原CSP(CircumsporozoiteProtein)、TRAP(Thrombospondin-RelatedAdhesiveProtein:トロンボスポンジン関連接着タンパク質)、メトロゾイト期抗原のMSP (MerozoiteSurface Protein)1、AMA1(ApicalMembraneAntigen 1)等を例示することができるが、特に好ましいのはCSPである。
【0015】
(マラリア抗原のアミノ酸配列を有するタンパク質)
本発明で使用する「マラリア抗原のアミノ酸配列を有するタンパク質」は、バキュロウイルスが提示する(提示可能な)マラリア抗原のアミノ酸配列と同じアミノ酸配列又は同じ機能を有しかつ相同性が90%以上、95%以上、98%以上、99%以上であれば、特に限定されない。さらに、自体公知の方法により、該アミノ酸配列に修飾等をしても良い。
【0016】
(CSP)
CSPは、蚊から人に侵入するスポロゾイト期原虫の主要膜タンパク質である。約50kDaの分子量で、中央部には高い抗原性を有するアスパラギン-アラニン-アスパラギン-プロリンの4つのアミノ酸配列(NANP)の約40回の繰り返し配列が存在する。NANPに対するモノクローナル抗体をスポロゾイトと混ぜて肝細胞に振りかける侵入阻害実験により非常に高い侵入阻害を示すことから、CSPは肝細胞への侵入に重要な役割を果たしていると考えられている。
数あるマラリアの抗原の中でもCSPは、特にワクチン候補抗原として期待されており長年研究されている。マラリアのワクチンとして最も開発の進んでいるRTS,SもCSPを抗原としている。また、熱帯熱マラリア原虫に発現しているPfCSPは4つのシステインで、立体構造を維持しており、この立体構造がマラリア原虫の肝臓侵入機構に重要な働きをしているという報告もある。
なお、本発明で使用するCSPは、好ましくは、原虫由来の塩基配列であるPfCSP(配列番号24)又は哺乳類に塩基配列を最適化し更に4つ目のシステインを含んだsPfCSP2(配列番号25)を用いる。
【0017】
加えて、本発明で使用するCSPは、以下も含む。
(1)上記いずれか1に記載のCSPの保護化誘導体、糖鎖修飾体、アシル化誘導体、又はアセチル化誘導体。
(2)上記いずれか1に記載のCSPと90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつ該CSPと実質的同質の作用を持つタンパク質。
(3)上記いずれか1に記載のCSPにおいて、100~10個、50~30個、40~20個、10~5個、5~1個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ該CSPと実質的同質の作用を持つタンパク質。
さらに、本発明で使用するCSPの遺伝子は、以下を含む。
(1)上記いずれか1以上のCSPのアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)上記いずれか1以上のCSPのアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつCSPと実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)上記いずれか1以上のCSPのアミノ酸配列と90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつCSPと実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
【0018】
(ウイルス表面に提示させるタンパク質)
本発明の組換えバキュロウイルスでは、マラリア抗原タンパク質以外のタンパク質(例えば、マラリア防御効果を向上させる作用を有するタンパク質)を、ウイルス表面に、マラリア抗原と同一又は別々に発現させることもできる。
本発明では、補体制御因子であるDAF{糖タンパク質でありdecay-acceleratingfactor (DAF)としても知られるCD55抗原}、TRAP等を例示することができるが、好ましくはDAF、より好ましくはヒトDAF(hDAF:配列番号26)を例示することができるが、特に限定されない。
【0019】
加えて、本発明で使用するDAFは、以下も含む。
(1)上記いずれか1に記載のDAFの保護化誘導体、糖鎖修飾体、アシル化誘導体、又はアセチル化誘導体。
(2)上記いずれか1に記載のDAFと90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつ該DAFと実質的同質の作用を持つタンパク質。
(3)上記いずれか1に記載のDAFにおいて、100~10個、50~30個、40~20個、10~5個、5~1個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ該DAFと実質的同質の作用を持つタンパク質。
さらに、本発明で使用するDAFの遺伝子は、以下を含む。
(1)上記いずれか1以上のDAFのアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)上記いずれか1以上のDAFのアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつDAFと実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)上記いずれか1以上のDAFのアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつDAFと実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
【0020】
上記変異を有するタンパク質は、天然に存在するものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する)などを単独でまたは適宜組合せて使用できる。
例えば成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(ウルマー(Ulmer, K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666-671)を利用することもできる。ペプチドの場合、変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性または免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
【0021】
(バキュロウイルス)
本発明に用いるバキュロウイルスは、昆虫に感染を起す昆虫病原ウイルスで環状の二本鎖DNAを遺伝子として保有するDNAウイルスの一群(バキュロウイルス科)である。その中で、核多角体病ウイルス(Nuclear Polyhedorosis Virus: NPV)といわれる一群のウイルスは感染後期には感染細胞の核内に多角体と呼ばれる封入体を作る。多角体遺伝子の代わりに発現したい外来遺伝子を挿入してもウイルスは問題なく感染、増殖し、所望の外来遺伝子産物を大量に産生することから、所望のタンパク質の製造に利用されている。
本発明に用いられるバキュロウイルスとしては、オートグラファ核多角体病ウイルス(Autographa Californica Nuclear Polyhedorosis Virus: AcNPV)、カイコガ核多角体病ウイルス(Bombyx mori Nuclear Polyhedorosis Virus: BmNPV)、オルギア・シュードツガタ核多角体病ウイルス(Orgyia pseudotsugata Nuclear Polyhedorosis Virus: OpNPV)、マイマイガ核多角大病ウイルス(Lymantria disper Nuclear Polyhedorosis Virus: LdNPV)を例示できるが、特に好ましいのがAcNPVである。
なお、本発明に用いるバキュロウイルスは、野生型、変異型、及び組換えバキュロウイルスのいずれであってもよい。コトランスフェクトされる宿主細胞として、例えばヨトウガ細胞(Spodoptera frugiperda)などの昆虫細胞等が挙げられる。
本発明のマラリア治療剤、マラリア予防剤及び抗マラリア自然免疫賦活剤は、バキュロウイルスを含むことにより、マラリアを完全防御及び/又は部分防御する。完全防御とは、完全に赤内期寄生虫が出現しない(寄生虫血症 0%)ことをいう。部分防御とは、寄生虫血症が1%になるまでにかかる時間が、投与しない場合と比較して遅延(発症遅延)があることをいう。
【0022】
(プロモーター)
本発明で使用可能なプロモーターは、組換えバキュロウイルス(特に、組換えバキュロウイルスの表面)にDAF及び/又はマラリア抗原(マラリア抗原のアミノ酸配列)を発現させることができれば特に限定されない。
特に、本発明者である吉田博士が開発したデュアル・プロモーター{哺乳類細胞内で働くプロモーター(例、CMVプロモーター)と昆虫細胞内で働くプロモーター(例、ポリへドリンプロモーター、pPolh)の2つのプロモーター制御下に、所望のタンパク質をコードする遺伝子を導入することを特徴とするプロモーター}が好ましい。
【0023】
1つの実施形態において、一方が脊椎動物プロモーターで他方がバキュロウイルスのプロモーターである連結したデュアル・プロモーターの制御下に、一つのマラリア抗原をコードした遺伝子と昆虫細胞で発現可能なウイルス膜タンパク質をコードする遺伝子とを含む融合遺伝子、又はDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子が組み込まれた構造体を含むトランスファーベクターを提供する。
このトランスファーベクターを、昆虫細胞中でバキュロウイルスDNAとコトランスフェクトすることにより、相同組換えを誘発し、バキュロウイルスのプロモーターの制御下にあり、昆虫細胞で発現し、発芽したウイルス粒子の構成成分となり得る融合タンパク質を産生することが可能な前記融合遺伝子をバキュロウイルスに組み込んだ組換えバキュロウイルスを得ることができる。
【0024】
本発明に用いられるトランスファーベクターの構成成分の一つである哺乳動物プロモーター(哺乳動物細胞で機能し得るプロモーター)としては、サイトメガロウイルスプロモーター、SV40プロモーター、レトロウイルスプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロテインプロモーター、CAGプロモーター、エロンゲーションファクター1αプロモーター、アクチンプロモーター、ユビキチンプロモーター、アルブミンプロモーター、MHCクラスIIプロモーター等を例示できる。
鳥類のプロモーター(鳥類細胞で機能し得るプロモーター)としては、アクチンプロモーター、ヒートショックプロテインプロモーター、エロンゲーションファクタープロモーター、ユビキチンプロモーター、アルブミンプロモーター等を例示できる。
魚類のプロモーター(魚類細胞で機能し得るプロモーター)としては、アクチンプロモーター、ヒートショックプロテインプロモーター、エロンゲーションファクタープロモーター等を例示できる。
バキュロウイルスプロモーター(昆虫細胞で機能し得るプロモーター)としては、ポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター、IE1プロモーター、p35プロモーター、p39プロモーター、gp64プロモーター等を例示できる。
【0025】
(組換えバキュロウイルスの製造方法)
組換えバキュロウイルスの製造は、所望のマラリア抗原遺伝子とウイルス粒子の構成成分になり得るタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子とが融合した遺伝子、又は、DAF遺伝子が組み込まれたトランスファーベクターを製造する工程、該トランスファーベクターとバキュロウイルスDNAとを宿主細胞にコトランスフェクションする工程、組換えバキュロウイルスを分離する工程を含む。
【0026】
上記組換えバキュロウイルスの製造方法において、トランスファーベクターの宿主細胞への導入法及びこれによる形質転換法としては、特に限定されず一般的なこの分野で周知慣用技術となっている各種方法を採用することができる。
得られる組換えバキュロウイルスは、常法に従い培養でき、該培養によりマラリア抗原タンパク質がウイルス粒子の構成成分に融合した融合タンパク質及び/又はDAFタンパク質がウイルス粒子上に提示される。
【0027】
1つの実施形態において、一方が脊椎動物プロモーターで他方がバキュロウイルスのプロモーターである連結したデュアル・プロモーターの制御下に、一つのマラリア抗原をコードした遺伝子と昆虫細胞で発現可能なウイルス膜タンパク質をコードする遺伝子とを含む融合遺伝子、DAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び/又はIL-12のアミノ酸配列をコードする遺伝子が組み込まれた構造体を含むトランスファーベクターを提供する。
このトランスファーベクターを、昆虫細胞中でバキュロウイルスDNAとコトランスフェクトすることにより、相同組換えを誘発し、バキュロウイルスのプロモーターの制御下にあり、昆虫細胞で発現し、発芽したウイルス粒子の構成成分となり得る融合タンパク質を産生することが可能な前記融合遺伝子をバキュロウイルスに組み込んだ組換えバキュロウイルスを得ることができる。
【0028】
(ウイルス粒子の構成成分になり得るタンパク質)
前記ウイルス粒子の構成成分になり得るタンパク質のアミノ酸をコードする遺伝子としては、例えば、gp64タンパク質(GenBank Accession No. L22858)、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質G(VSVG:GenBank Accession No. M21416 )、単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(KOS:GenBank Accession No. K01760)、1型ヒト免疫不全ウイルスgp120 (GenBank Accession No. U47783)、ヒト呼吸器合胞体ウイルス膜糖タンパク質(GenBank Accession No. M86651)、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンタンパク質(GenBank Accession No. U38242)などの遺伝子、或いはバキュロウイルスに近縁のウイルスエンベロープタンパク質などの遺伝子を例示できる。
本発明において、組換えバキュロウイルスを脊椎動物に投与するとバキュルウイルス表面に提示されたマラリア抗原タンパク質がコンポーネントワクチンとして機能する。さらにマラリア抗原タンパク質が哺乳動物の細胞内で産生され、その免疫賦活作用により、マラリア感染症の予防ないし治療剤として機能する。また、組換えバキュロウイルスを脊椎動物に投与するとバキュロウイルス表面に提示されたDAFタンパク質が、血清中に含まれる補正成分による攻撃からバキュロウイルスを保護し、ワクチン効果を向上させる。
【0029】
(バキュロウイルス以外の組換えウイルス)
本発明で使用する「バキュロウイルス以外の組換えウイルス」は、バキュロウイルスが保有するマラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子(及び/又はバキュロウイルスが保有するDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子)と同じ遺伝子(又は実質的に同じ遺伝子)を含み、バキュロウイルス以外のウイルスを意味する。
例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクチニアウイルス、鶏痘ウイルスレンチウイルス等を例示することができるが、好ましくはアデノウイルスである。
【0030】
(アデノウイルス及びその製造方法)
アデノウイルスは、単一の二重鎖直鎖状DNAからなるウイルスである。
組換えアデノウイルスの製造方法として、マラリア抗原遺伝子を自体公知(市販)のアデノウイルスベクター作製用プラスミドに導入し、導入後のプラスミドを公知の方法によりヒト胎児腎臓由来細胞に形質導入し、培養する。次に、培養上清、あるいは培養細胞から、マラリア抗原を発現する組換えアデノウイルスを得る。
【0031】
(マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子が導入されたプラスミドDNA)
本発明で使用する「マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子が導入されたプラスミドDNA」は、バキュロウイルスが保有するマラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子と同じ遺伝子(又は実質的に同じ遺伝子)をプラスミドDNAに導入されていれば、特に限定されない。
なお、プラスミドDNAは自体公知の方法により作製することができる。
【0032】
(組換えトランスファーベクターの製造)
本発明では、昆虫細胞と脊椎動物細胞(特に哺乳動物細胞)の両細胞においてマラリア抗原、DAFを発現可能な構造を有するトランスファーベクターを利用することができる。本発明において、作製されるトランスファーベクターの構造は、一方が脊椎動物のプロモーター(特に哺乳動物プロモーター)で、他方がバキュロウイルスのプロモーターが連結されたデュアルプロモーターの下流に所望のマラリア抗原タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列とウイルス粒子の構成成分になり得るタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列とが連結した構造を有し、別の遺伝子カセットとしてバキュロウイルスのプロモーターの下流にDAFのタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有することを特徴としてもよい。
連結される脊椎動物のプロモーター(特に哺乳動物プロモーター)とバキュロウイルスプロモーターの2つのプロモーターのDNA配列を含むDNA領域は、直接連結してもよいし、互いのプロモーターのDNA配列の間に介在DNA配列が存在してもよい。
【0033】
前記構造において、ウイルス粒子の構成成分になり得る遺伝子のタンパク質をコードする遺伝子と、所望のマラリア抗原遺伝子含む融合遺伝子は、これらの2つの遺伝子を直接連結したDNA配列からなるものであってもよいし、これらの間に介在DNA配列が存在していてもよい。
所望のマラリア抗原遺伝子のタンパク質の抗原提示領域が、ウイルス粒子の構成成分になり得るタンパク質と融合されることが好ましい。
また、これらの2つの遺伝子を含む融合遺伝子を、予め形成し、これをベクターに組み込んでも良いし、先にいずれか一方の遺伝子をベクターに組み込み、次いで、他の遺伝子をベクターに組み込んでベクター内で融合遺伝子を形成してもよい。
【0034】
上記操作は、哺乳動物プロモーターやバキュロウイルスプロモーター等のプロモーター領域やウイルス粒子の構成成分になり得るタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子領域を既に有する市販の発現ベクターをそれぞれ使用し、任意に制限酵素で切り出し、別のプロモーターを組み込むなどして、該ベクターのクローニング領域に所望のマラリア抗原遺伝子とウイルス粒子の構成成分になり得るタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子とが融合した遺伝子、DAF遺伝子を挿入するか、或いは所望のマラリア抗原遺伝子、DAF遺伝子を既にプラスミドに組み込まれているウイルス粒子の構成成分になり得るタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子のDNA領域のN末端側に挿入するなどして、必要な構成要素を挿入することができる。
以上により、所望のマラリア抗原をコードした遺伝子及び/又はDAF遺伝子をバキュロウイルス粒子中(ウイルス表面)に発現可能なウイルス粒子の構成成分になり得るタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子が融合した形態で、発現可能なトランスファーベクターを製造することができる。
【0035】
(組換えバキュロウイルスをマラリア予防剤としての使用例)
本発明の組換えバキュロウイルスをマラリア予防剤としての使用方法としては、本発明の組換えバキュロウイルスを脊椎動物、特にヒトを含む哺乳動物に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に1回又は複数回投与する。本発明のマラリア予防剤は、非溶血性単回用製剤とすることができる。
下記の実施例により、バキュロウイルス、あるいはDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウイルス108 pfu~1012 pfu、好ましくは109 pfu~1011 pfuより好ましくは0.5×1010 pfu~9.9×1010 pfu、さらに好ましくは1.0×1010 pfu~5.0×1010 pfuをマラリア感染の13日、12日、11日、10日、9日、8日、7日、6日、5日、4日、3日、2日、1日、12時間又は6時間前、あるいは、それらの間の任意の期間(例えば、13日~6時間前、13日~12時間前又は7日~12時間前)に投与(好ましくはi.v.投与又はi.m.投与、より好ましくはi.m.投与、さらに好ましくは大腿筋若しくは左大腿筋でのi.m.投与)することによりマラリア、特に寄生虫血症の発症を予防できることを見出している。例えば、バキュロウイルス、あるいはDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウイルスを13日に1回若しくは複数回、12日に1回若しくは複数回、11日に1回若しくは複数回、10日に1回若しくは複数回、9日に1回若しくは複数回、8日に1回若しくは複数回、7日に1回若しくは複数回、6日に1回若しくは複数回、5日に1回若しくは複数回、4日に1回若しくは複数回、3日に1回若しくは複数回、2日に1回若しくは複数回、1日に1回若しくは複数回、12時間に1回若しくは複数回又は6時間に1回若しくは複数回、あるいは、それらの間の任意の期間に1回(例えば、13日~6時間に1回若しくは複数回、13日~12時間に1回若しくは複数回、又は7日~12時間に1回若しくは複数回)投与(好ましくはi.v.投与又はi.m.投与、より好ましくはi.m.投与、さらに好ましくは大腿筋若しくは左大腿筋でのi.m.投与)することによりマラリア、特に寄生虫血症の発症を予防できる。
【0036】
(組換えバキュロウイルスをマラリア治療剤としての使用例)
本発明の組換えバキュロウイルスをマラリア治療剤としての使用方法としては、本発明の組換えバキュロウイルスを脊椎動物、特にヒトを含む哺乳動物に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に1回又は複数回投与する。本発明のマラリア治療剤は、非溶血性単回用製剤とすることができる。
下記の実施例により、バキュロウイルス、あるいはDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウイルス108pfu~1012pfu、好ましくは109pfu~1011pfuより好ましくは0.5×1010 pfu~9.9×1010 pfu、さらに好ましくは1.0×1010 pfu~5.0×1010 pfuをマラリア感染後の1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、25時間、26時間、27時間、28時間、29時間、30時間、31時間、32時間、33時間、34時間、35時間、36時間、37時間、38時間、39時間、40時間、41時間、42時間、43時間、44時間、45時間、46時間、47時間、48時間、49時間又は50時間以内に1回又は複数回、好ましくは1回投与(例えばi.v.投与又はi.m.投与、好ましくはi.m.投与、より好ましくは大腿筋でのi.m.投与)することによりマラリア、特に寄生虫血症の発症を治療できることを見出している。
【0037】
(組換えバキュロウイルスを抗マラリア自然免疫賦活剤としての使用例)
本発明の組換えバキュロウイルスを抗マラリア自然免疫賦活剤としての使用方法としては、本発明の組換えバキュロウイルスを脊椎動物、特にヒトを含む哺乳動物に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に1回又は複数回投与する。本発明の抗マラリア自然免疫賦活剤は、非溶血性単回用製剤とすることができる。
本発明の抗マラリア自然免疫賦活剤は、バキュロウイルスを含む、マラリアワクチン添加剤とすることができる。この場合、本発明の抗マラリア自然免疫賦活剤を添加するマラリアワクチンの効果を妨げない範囲内で添加できる。該マラリアワクチンは、特に限定されず、例えばRTS,S、CpG等が挙げられる。
加えて、本発明の組換えバキュロウイルスを抗マラリア自然免疫賦活剤としての使用方法としては、Priming-boosting法により、最初に、マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むバキュロイルス以外の組換えウイルス、マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子が導入されたプラスミドDNA、又はマラリア抗原のアミノ酸配列を有するタンパク質を脊椎動物、特にヒトを含む哺乳動物に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に1回又は複数回投与した後、次に、本発明の組換えバキュロウイルスを1回又は複数回投与する。さらに、必要に応じて、バキュロウイルス、あるいはDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子並びに該遺伝子を発現可能なプロモーターを含む組換えウイルス(特に、組換えバキュロウイルス)を併用投与(混合投与)しても良い。
下記の実施例により、マラリア抗原(特に、CSP)のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウイルスを、該マラリア抗原(特に、CSP)のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノウイルス(特に、アデノウイルス)を患者に投与した後(例えば投与した15日後、16日後、17日後、18日後、19日後、20日後、21日後、22日後、23日後、24日後、25日後、26日後、27日後又は28日後、好ましくは投与した19~24日後、より好ましくは21~22日後)に該患者に投与することにより高い感染防御効果を示すことを見出している。
より詳しくは、ヒトへの投与方法は、すでに知られている投与方法も採用することができ、以下を例示することができるが、特に限定されない。
GSKのRTS,S/AS01ワクチンの第三相臨床試験 (N Engl J Med 367 (2012) 2284-95)を基にして行う。
1回目免疫:6-12週の乳児に筋肉注射 ChAd63-CS (5x1010 vp) (オックスフォード ジェンナー研究所作製、参考文献:J Infect Dis 211 (2014) 1076-86)
2回目免疫:1-3ヶ月後に筋肉注射本発明のワクチン(1x109 pfu)
【0038】
(マラリア治療剤、マラリア予防剤、抗マラリア自然免疫賦活剤又は抗マラリア自然免疫賦活剤組成物)
本発明のマラリア治療剤、マラリア予防剤、抗マラリア自然免疫賦活剤又は抗マラリア自然免疫賦活剤組成物の組合せは、以下を例示することができるが特に限定されない。
(1)バキュロウイルス
(2)マラリア抗原とDAFを同時に発現する組換えバキュロウイルス
(3)マラリア抗原とDAFを同時に発現する組換えバキュロウイルス並びにマラリア抗原を発現する組換えアデノウイルス
(4)マラリア抗原を発現する組換えバキュロウイルス
(5)マラリア抗原を発現する組換えバキュロウイルス及びマラリア抗原を発現する組換えアデノウイルス
(6)DAFを発現する組換えバキュロウイルス
本発明で使用する組換えバキュロウイルスは、異なる遺伝子カセットを同時に入れることができる (参照文献:Kanai et al., Protein Expr Purif 91 (2013) 77-84)。よって、CSP以外のマラリア抗原、HIV、結核の抗原遺伝子を入れ込むことも可能となる。すなわち、この組換えバキュロウイルスを用いたシステムを使用すれば、細胞性免疫誘導が不可欠な感染症に対し、多価ワクチンの作製が可能となる。
【0039】
本発明の抗マラリア自然免疫賦活剤組成物は、下記の実施例の結果より、アジュバントと併用することなく高い防御効果を示したので、アジュバントを必須の成分とする必要はないが、含めても良い。
本発明の抗マラリア自然免疫賦活剤組成物(抗マラリア自然免疫賦活剤も含む)は、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)又は生理食塩水等に懸濁した組換えバキュロウイルス懸濁液を局所(例えば、肺組織内、肝臓内、筋肉内及び脳内など)への直接注入、経鼻的・経気道的に吸入、又は血管内(例えば、動脈内、静脈内及び門脈内)への投与が行われる。
【0040】
(マラリアの予防方法及び治療方法)
本発明では、マラリアの予防方法及び治療方法も対象とする。より詳しくは、本発明のバキュロウイルスを脊椎動物、特にヒトを含む哺乳動物に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に1回又は複数回投与する。
あるいは、本発明のバキュロウイルスを、Priming-Boosting法により、最初に、マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むバキュロイルス以外の組換えウイルス、マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子が導入されたプラスミドDNA、又はマラリア抗原のアミノ酸配列を有するタンパク質をマラリア患者(マラリア発症前の予防対象者も含む)に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に1回又は複数回投与した後、次に、本発明のバキュロウイルスを1回又は複数回投与する。さらに、必要に応じて、バキュロウイルス、あるいはDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子並びに該遺伝子を発現可能なプロモーターを含む組換えウイルス(特に、組換えバキュロウイルス)を併用投与(混合投与)する。
【0041】
(バキュロウイルスをIFN-α及びIFN-γ産生促進剤としての使用例)
本発明は、バキュロウイルスを含むIFN-α及びIFN-γ産生促進剤を対象とする。
バキュロウイルスをIFN-α及びIFN-γ産生促進剤としての使用方法としては、バキュロウイルスを脊椎動物、特にヒトを含む哺乳動物に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に、マラリアワクチン以外のワクチンと併用して、1回又は複数回投与する。本発明のIFN-α及びIFN-γ産生促進剤は、非溶血性単回用製剤とすることができる。
本発明のIFN-α及びIFN-γ産生促進剤の投与量、投与回数及び投与間隔は、特に限定されず、予防(特に再発防止)及び/又は臨床的治療の目的、疾患のタイプ、患者の体重、年齢、疾患の重篤さ等の条件に応じて適宜選定される。
例えば、以下の投与形態を利用することができるが、特に限定されない。
バキュロウイルス換算量で108 pfu~1012 pfu、好ましくは109 pfu~1011 pfuより好ましくは0.5×1010 pfu~9.9×1010 pfu、さらに好ましくは1.0×1010 pfu~5.0×1010 pfuを1日に1回又は1日数回(朝、昼、夕)に分けて投与する。
【0042】
(癌治療剤としての使用例)
本発明は、IFN-α及びIFN-γ産生促進剤を含む癌治療剤を対象とする。
癌治療剤としての使用方法としては、バキュロウイルスを含むIFN-α及びIFN-γ産生促進剤を脊椎動物、特にヒトを含む哺乳動物に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に、好ましくは他の癌治療剤と併用して、1回又は複数回投与する。本発明の癌治療剤は、非溶血性単回用製剤とすることができる。本発明の癌治療剤と併用投与する他の癌治療剤は、特に限定されず、自体公知の抗癌剤でもよく、臨床的治療の目的、腫瘍の種類、患者の年齢、疾患の重篤さ等の条件に応じて適宜選定される。
本発明の癌治療剤の投与量、投与回数及び投与間隔は、特に限定されず、予防(特に再発防止)及び/又は臨床的治療の目的、疾患のタイプ、患者の体重、年齢、疾患の重篤さ等の条件に応じて適宜選定される。
例えば、以下の投与形態を利用することができるが、特に限定されない。
バキュロウイルス換算量で108 pfu~1012 pfu、好ましくは109 pfu~1011 pfuより好ましくは0.5×1010 pfu~9.9×1010 pfu、さらに好ましくは1.0×1010 pfu~5.0×1010 pfuを1日に1回又は1日数回(朝、昼、夕)に分けて投与する。加えて、連日投与が好ましいが、数日に1回投与又は隔週に数回投与とすることもできる。
本明細書において、癌とは、悪性腫瘍、すなわち、膵癌、乳癌、肺腺癌、大腸癌、肝細胞癌、胃癌、甲状腺癌、卵巣癌、唾液腺腺様嚢胞癌、前立腺癌、バーキットリンパ腫、急性骨髄性白血病、粘液性脂肪肉腫、膠芽腫、胞巣状横紋筋肉腫、ウィルムス腫瘍、乏突起膠細胞腫、副腎皮質癌、多発性骨髄腫、結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫、形質細胞白血病、髄芽腫、B細胞性慢性リンパ性白血病、肺線癌、肺扁平上皮癌、II型子宮内膜癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、食道癌、末梢T細胞リンパ腫、未分化大細胞型リンパ腫、ユーイング肉腫及び前駆T細胞リンパ芽球性白血病から選択される一種又は複数種の癌であり、特に好ましくは膵癌、乳癌、肺腺癌及び大腸癌から選択される一種又は複数種の癌である。
【0043】
(肝臓疾患治療剤としての使用例)
本発明は、IFN-α及びIFN-γ産生促進剤を含む肝臓疾患治療剤を対象とする。
肝臓疾患治療剤としての使用方法としては、バキュロウイルスを含むIFN-α及びIFN-γ産生促進剤を脊椎動物、特にヒトを含む哺乳動物に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に、単独で又は他の肝臓疾患治療剤と併用して、1回又は複数回投与する。本発明の肝臓疾患治療剤は、非溶血性単回用製剤とすることができる。肝臓疾患は特に限定されないが、肝炎が好ましく、C型肝炎がより好ましい。
本発明の肝臓疾患治療剤の投与量、投与回数及び投与間隔は、特に限定されず、予防(特に再発防止)及び/又は臨床的治療の目的、疾患のタイプ、患者の体重、年齢、疾患の重篤さ等の条件に応じて適宜選定される。
例えば、以下の投与形態を利用することができるが、特に限定されない。
バキュロウイルス換算量で108 pfu~1012 pfu、好ましくは109 pfu~1011 pfuより好ましくは0.5×1010 pfu~9.9×1010 pfu、さらに好ましくは1.0×1010 pfu~5.0×1010 pfuを1日に1回又は1日数回(朝、昼、夕)に分けて投与する。加えて、連日投与が好ましいが、数日に1回投与又は隔週に数回投与とすることもできる。
【0044】
(マラリアワクチン以外のワクチン添加剤としての使用例)
本発明は、IFN-α及びIFN-γ産生促進剤を含むマラリアワクチン以外のワクチン添加剤を対象とする。
マラリアワクチン以外のワクチン添加剤としての使用方法としては、バキュロウイルスを含むIFN-α及びIFN-γ産生促進剤を脊椎動物、特にヒトを含む哺乳動物に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に、マラリアワクチン以外のワクチンと併用して、1回又は複数回投与する。本発明のマラリアワクチン以外のワクチン添加剤は、非溶血性単回用製剤とすることができる。
本発明のマラリアワクチン以外のワクチン添加剤の投与量、投与回数及び投与間隔は、特に限定されず、予防(特に再発防止)及び/又は臨床的治療の目的、疾患のタイプ、患者の体重、年齢、疾患の重篤さ等の条件に応じて適宜選定される。
例えば、以下の投与形態を利用することができるが、特に限定されない。
バキュロウイルス換算量で108 pfu~1012 pfu、好ましくは109 pfu~1011 pfu、より好ましくは0.5×1010 pfu~9.9×1010 pfu、さらに好ましくは1.0×1010 pfu~5.0×1010 pfuを1日に1回又は1日数回(朝、昼、夕)に分けて投与する。加えて、併用するワクチンと同時に、あるいは、数日に1回投与又は隔週に数回投与できる。
【0045】
本発明の各種剤には、薬理学的に許容しうる担体を含ませることができる。該担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤若しくは崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤若しくは溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。
【0046】
(本発明の特徴)
本発明のバキュロウイルス、あるいは組換えバキュロウイルスについて、下記の実施例より以下のいずれか1以上の効果を確認した。
(1)BVのi.m.投与はi.v.投与と比較して侵襲性が低い。
(2)BVのi.v.投与は、癌等の標的疾患に依存して、i.m.投与よりも強い全身性自然免疫応答を誘導できる
(3)スポロゾイト感染6時間前のBVのi.v.投与は、赤内期寄生虫血症の発症を完全防御できる(完全に赤内期寄生虫が出現しない状態を維持できる)。
(4)スポロゾイト感染12時間~7日前のBVのi.m.投与は、赤内期寄生虫血症の発症を完全防御できる。
(5)スポロゾイト感染24時間後のBVのi.v.投与又はi.m.投与は、赤内期寄生虫血症の発症を完全防御できる。
(7)感染24~42時間後のBVのi.m投与は、赤内期寄生虫血症の発症を部分防御できる(寄生虫血症が1%になるまでにかかる時間を遅延できる)。
(8)BVはTLR9非依存性経路により寄生虫を殺滅できる。
(9)BVはTLR9非依存性経路及びIRF3依存性経路を介してIFN-α及びIFN-γ産生を誘導できる。よって、BVはIFN-α及びIFN-γ産生促進効果を有する。
(10)BVはIFN産生を誘導し、IFNsにより活性化されるエフェクター機構により寄生虫を殺滅できる。
(11)BVは、熱感受性ウイルス成分が細胞への導入に重要な役割を果たしDNAセンシングによる自然免疫によるI型IFN産生を引き起こし、BVの耐熱性成分がIFN非依存性機構により寄生虫を殺滅できる。
(12)BVはIFN産生を誘導し、全身性I型IFN分泌が肝臓においてISG遺伝子発現を強力に誘導できる。
(13)AdHu5-PfCSP/BDES-sPfCSP2-WPRE-Spiderワクチンは、自然免疫による短期間の治療・予防効果があり、獲得免疫(CSP特異的)として一般的なワクチン効果を21日以降に発揮する。
より詳しくは、BDES-sPfCSP2-WPRE-Spiderによるブーストは、そのブースト前24時間からブースト後7日目まで(合計8日間)効果がある。すなわち、ブースト前24時間からブーストまでに感染しても完全な治療効果があり、ブースト後7日目までは予防効果がある。
AdHu5-PfCSPによるプライム/BDES-sPfCSP2-WPRE-Spiderによるブーストは、ブースト後21日目から一般的な獲得免疫による予防効果を発揮する。
(14)BVの投与は、癌の治療効果に有効である。
(15)BVのi.m.投与は、C型肝炎等の肝臓疾患の治療に有効である。
(16)感染6時間前のBVのi.m.投与は肝臓期寄生虫を殺滅し、寄生虫血症を予防できる。
(17)スポロゾイト感染24時間後のBES-GL3のi.v.投与又はi.m.投与は、感染0時間後~8日後(投与24時間前~7日後)までの8日間、赤内期寄生虫血症の発症を完全防御及び/又は部分防御できる(抗マラリア自然免疫賦活効果)。
これにより、本発明の抗マラリア自然免疫賦活剤をワクチンに混合して打つことにより接種前24時間から接種までに感染しても完全な治療効果があり、接種後7日目までは予防効果があるので、マラリアワクチン添加剤としても利用できる。
さらに、BVにより産生されるIFN-α及びIFN-γは、ともに抗ウイルス活性があることが知られており、他のワクチンに混合して打つことにより上記の合計8日間の効果が期待でき、マラリアワクチン以外のワクチン添加剤として利用できる。
【実施例
【0047】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明に係る技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
全ての動物の飼育及び取扱い手順は金沢大学動物衛生審査委員会(第22118-1号)及び自治医科大学(第09193号)によって承認された。全ての動物実験は動物の苦しみを最小限に抑えた。必要に応じてケタミン{100mg / kg; i.m.(筋肉内投与);東京第一三共}及びキシラジン(10mg / kg; i.m.; Bayer)でマウスを麻酔した。
【0049】
<材料と方法>
(動物、細胞系、寄生虫及び蚊)
雌の近交系BALB / c(H-2d)マウスはJapan SLCから入手し、全ての実験において7~8週齢で使用した。BALB / cバックグラウンド上のTLR9欠損マウス(TLR9-/-)は大阪大学から贈与を受けた。本実施例において、単に「BALB/cマウス」と記載する場合は野生型(WT)を意味する。スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda:Sf9)及びHepG2細胞は文献{Iyori, M. et al. Protective efficacy of baculovirusdual expression system vaccine expressing Plasmodium falciparumcircumsporozoite protein. PLoS One8, e70819, doi:10.1371/journal.pone.0070819 (2013).}の記載に従って維持した。3種のトランスジェニックP. berghei ANKA寄生虫である緑色蛍光タンパク質(GFP)-P. Berghei(Pb-conEGFP){Franke-Fayard, B.et al. A Plasmodium berghei reference line that constitutivelyexpresses GFP at a high level throughout the complete life cycle. Mol Biochem Parasitol 137, 23-33, doi:10.1016/j.molbiopara.2004.04.007(2004).}、ルシフェラーゼ-P. Berghei(Pb-Luc){Matsuoka, H., Tomita, H., Hattori, R., Arai, M.& Hirai, M. Visualization of Malaria Parasites in the Skin Using theLuciferase Transgenic Parasite, Plasmodium berghei. Tropical medicine and health 43, 53-61,doi:10.2149/tmh.2014-18 (2015).}及びPfCSP-P. Berghei(PfCSP-Tc/Pb){Sumitani, M. etal. Reduction of malaria transmission by transgenic mosquitoesexpressing an antisporozoite antibody in their salivary glands. Insect Mol Biol 22, 41-51, doi:10.1111/j.1365-2583.2012.01168.x(2013).}は、標準プロトコル{Yoshida, S., Kawasaki, M., Hariguchi, N., Hirota,K. & Matsumoto, M. A baculovirus dual expression system-based malariavaccine induces strong protection against Plasmodium berghei sporozoitechallenge in mice. Infect Immun77, 1782-1789, doi:IAI.01226-08 [pii]及びYamamoto, D. S., Sumitani, M., Nagumo, H.,Yoshida, S. & Matsuoka, H. Induction of antisporozoite antibodies by bitingof transgenic Anopheles stephensi delivering malarial antigen via blood feeding.Insect Mol Biol 21, 223-233(2012).}に従って、金沢大学及び自治医科大学にてBALB/cマウスおよびステフェンスハマダラカ(Anopheles stephensi、SDA 500株)に循環的に通過することによって維持された。B6バックグラウンド上のiNOS KO(iNOS-/-)マウスは杏林大学から贈与を受けた。
【0050】
(組換えウイルス)
組換えバキュロウイルスBES-GL3及びBDES-sPfCSP2-WPRE-Spiderは文献{Iyori, M. et al. DAF-shielded baculovirus-vectoredvaccine enhances protection against malaria sporozoite challenge in mice. Malar J 16, 390,doi:10.1186/s12936-017-2039-x (2017).}に記載の通りである(参照:図6)。精製したバキュロウイルス粒子は、Endospecy(登録商標)エンドトキシン測定キット(生化学工業株式会社)によりエンドトキシンを含まないことを確認した(<0.01 endotoxin units/109 pfu)。組換えアデノウイルスAdHu5-Luc及びAdHu5-sPfCSP2は文献{Yoshida, K. etal. Adenovirus-prime and baculovirus-boost heterologous immunizationachieves sterile protection against malaria sporozoite challenge in a murinemodel. Scientific reports 8,3896, doi:10.1038/s41598-018-21369-y (2018).}に記載の通りである。本明細書では、BDES-sPfCSP2-WPRE-Spider及びAdHu5-sPfCSP2をそれぞれBDES-PfCSP及びAdHu5-PfCSPと記載する。
【0051】
(スポロゾイトの採取)
ステフェンスハマダラカは、蚊の感染の標準的な方法を使用して、3種のトランスジェニックP. berghei ANKA寄生虫に感染済のマウスの血を吸わせることにより感染した。感染21日目~24日目に蚊の唾液腺を手で切開して採取した。唾液腺をDMEM(Thermo Fisher Scientific K.K.)に回収し、プラスチックホモジェナイザー中でホモジナイズした。遊走スポロゾイトは位相差顕微鏡法を用いてディスポーサブル血球計算盤中で計数した。
【0052】
(スポロゾイト寄生虫に対する防御効果の解析)
BALB/cマウスに104~108 pfuのBES-GL3をi.v.(静脈内)投与、i.m.(筋肉内)投与又はi.n.(鼻腔内)投与した。あるいは、BALB/cマウスにBES-GL3の代わりに50 μgのCpG ODN1826(TCCATgACgTTCCTgACgTT:配列番号1、Fasmac Inc.)をi.m.(筋肉内)で投与した。これらのマウスに1,000匹のPb-conGFPスポロゾイト又は1,000匹の感染赤血球を様々な時間間隔(6時間~14日)でi.v.チャレンジ感染した。チャレンジ感染後5、6、7、8、11及び14日目に調製した尾血をギムザ染色した薄い塗抹標本の顕微鏡検査により各マウスのP. berghei赤内期(blood-stage)感染を確認した。1%寄生虫血症に達するのに必要な時間は文献{Epstein, J. E. et al. Live attenuated malaria vaccinedesigned to protect through hepatic CD8 T cell immunity. Science 334, 475-480,doi:10.1126/science.1211548 (2011).}に記載されたように決定した。マウスが感染に対して陰性であるとみなされるために、少なくとも20の視野(倍率×1,000)を検査した。チャレンジ感染後14日目における赤内期寄生虫血症の完全な欠如を「防御」(protection)と定義した。
【0053】
(肝臓期寄生虫に対する除去効果の解析)
BALB/cマウスに1000匹のPb-conGFPスポロゾイトをi.v.で注入し、BES-GL3を様々な時間間隔(6時間、24時間又は42時間)でi.v.(107 pfu)又はi.m.(108 pfu)で投与した。なお、マウスの筋注108 pfuは、おおよそヒトの筋注1010 pfuに相当する。上述の方法により各マウスのP. berghei赤内期感染を確認し、1%寄生虫血症を評価した。
あるいは、BVの代わりにそれぞれ20 mg/kg体重~40 mg/kg体重の濃度範囲で単一の低用量(0.1 mg)又は単一の高用量(2 mg)のプリマキン(PQ)(Primaquine diphosphate 98%;Aldrich)を1,000匹のPb-conGFPスポロゾイト注射の24時間後に腹腔内(i.p.)投与した。上述の方法により各マウスのP. berghei赤内期感染を確認し、1%寄生虫血症を評価した。
【0054】
(インビボ生物発光イメージング1)
0日目にBALB/cマウスにBES-GL3をi.v.又はi.m.で投与し、適切な時点でD-ルシフェリン(15mg/ml;OZ Biosciences)をi.p.で投与した(150μl/マウス)。
10分後、マウスをケタミン(100 mg/kg)/キシラジン(10 mg/kg)混合物で麻酔し、ルシフェラーゼ発現をIVIS(登録商標)Lumina LT in vivo imaging system(PerkinElmer)で検出した。
【0055】
(インビボ生物発光イメージング2)
BALB/cマウスに1,000 Pb-lucスポロゾイトをi.v.で注入し、24時間又は42時間後にBES-GL3(108 pfu)を左大腿筋にi.m.で投与した。
スポロゾイト注射の72時間後にマウスをケタミン(100 mg/kg)/キシラジン(10 mg/kg)混合物で麻酔し、ルシフェラーゼ発現をIVIS(登録商標)Lumina LT in vivo imaging systemで検出した。感染後5~14日に同じマウスを尾血のギムザ染色した薄い血液膜中の寄生虫血症の経過(course)の決定により赤内期感染について分析した。
【0056】
(サイトカイン、AST及びALTのアッセイ)
BALB / cマウスにBVをi.v.又はi.m.で投与し、様々な時点で心臓穿刺全血を採取し、分析まで-20℃で保存した。血清中のサイトカインの濃度をMouse IFN-γELISA MAX(商標)standard kit(Biolegend Inc.)、Mouse IL-12 / IL-23(p40)ELISA MAX(商標)standard kit(Biolegend Inc.)、mouse TNF-α ELISA MAX(商標)deluxe kit(Biolegend Inc.)を製造者の指示に従って使用したサンドイッチELISAにより決定した。IFN-αの濃度はサンドイッチELISAにより決定した。より詳しくは、マウスIFN-αに対するラットモノクローナル抗体(PBL Biomedical Laboratories clone RMMA-1)を捕捉抗体(コーティング用に2 μg/ml)として使用し、マウスに対するウサギIFN-αポリクローナル抗体(PBL Biomedical Laboratories)を検出用に80中和単位(neutralizing units)で使用し、HRP結合ヤギ抗ウサギIgG(Bio-Rad)を二次試薬として使用した。組換えマウスIFN-α(PBL Biomedical Laboratories)をスタンダードとして使用した。IFN-γ及びIL-12イムノアッセイの検出下限はそれぞれ<20 pg/ml及び<10 pg/mlであり、IFN-α及びTNF-αイムノアッセイの検出下限はそれぞれ<20 pg/ml及び<10 pg / mlであった。血清中のALT及びASTの濃度は、GPT/GOT assay kit(Transaminase CII-試験;和光純薬工業株式会社)を用いて製造者の指示に従って測定した。
【0057】
(血清移入分析)
6時間前(-6時間)にBES-GL3をi.m.で投与した5匹のBALB / cマウスから心臓穿刺により採取した血清をプールし、直後に血清中のIFN-α及びIFN-γの濃度を測定した。血清100μl中のIFN-α及びIFN-γをそれぞれ抗IFN-α(Anti-Mouse Interferon Alpha, Rabbit Serum; PBLBiomedical Laboratories)及び抗IFN-γ{Ultra-LEAF(商標) Purified anti-mouse IFN-γAntibody; BioLegend Inc.}抗体と共に氷上で6時間インキュベートすることによって中和した。適切な量の抗IFN-αまたは抗IFN-γとのインキュベーションにより血清100μl中のIFN-αまたはIFN-γを中和した。BALB/cマウスに1,000匹のPb-conGFPスポロゾイトをi.v.注射した24時間後に、抗IFN-αまたは抗IFN-γのいずれかで処理した100μlの血清をi.v.投与した。上述の方法により各マウスのP. berghei赤内期感染を確認し、1%寄生虫血症を評価した。
【0058】
(BVの熱不活性化)
HI-BV(熱不活性化BV)は56℃で30分間の熱不活性化によりBES-GL3から調製した。HepG2細胞を48ウェル細胞培養プレート(Sigma-Aldrich)に1 wellあたり4×104細胞を播種し、24時間後にMOI 100でHI-BV(108 pfu) あるいは BES-GL3 (108 pfu)をトランスデュース(形質導入)した。
細胞を100のMOIでHI-BV(108 pfu)またはBES-GL3(108 pfu)のいずれかで形質導入した。24時間後に培地を除去し、メーカーの指示(Promega)に従って細胞培養溶解試薬(Promega Corporation)を添加することにより細胞抽出物を調製した。マイクロプレートリーダー(GloMax(登録商標)96 Microplate Luminometer、Promega)を用いて試料の発光強度を測定し、各ウェルの光反応を5秒間測定した。ルシフェラーゼ活性は相対発光単位(RLU)として表す。BALB / cマウスは、1,000匹のPb-conGFPスポロゾイトをi.v.注射した24時間後にHI-BVまたはBES-GL3をi.m.投与した。上述の方法により各マウスのP. berghei赤内期感染を確認し、1%寄生虫血症を評価した。BALB / cマウスの別の群にHI-BVまたはBES-GL3をi.m投与し、6時間後に血清を採取し、上述のELISAによりIFN-αおよびIFN-γのレベルを測定した。
【0059】
(肝臓からのRNA単離およびqRT-PCR定量)
BALB/c(WT又はTLR9-/-)マウスに1×108pfuのBES-GL3をi.m.で投与した。あるいは、BVの代わりに50 μgのCpG ODN1826をi.m.で投与した。6時間後、処理済みマウスの切開により全肝臓を得た。各全肝臓を1%2-メルカプトエタノール含有Buffer RLT(Qiagen)4mlと共にキャップ付きの5mlプラスチックチューブに入れた。2つのステンレスビーズ(外径5 mm)を添加した。チューブに蓋をし、μT-12ビーズクラッシャー(TAITEC)に取り付け、2,500rpmで3分30秒間激しく振盪した。RNeasy kit(Qiagen)を用いて100 μlのホモジネートから全RNAを単離した。ランダムヘキサマー及びMultiscribe reverse transcriptase(AppliedBiosystems)を用いてcDNAを合成した。SYBR(登録商標)Green Premix Ex Taq(商標)(タカラバイオ株式会社)及び以下のプライマーセットを用いたリアルタイムPCRによってRNA転写産物の定量分析を行った。
gapdh(F:TGCCCCCATGTTTGTGATG:配列番号2、R:TGTGGTCATGAGCCCTTCC:配列番号3)、
mx1(F:AACCCTGCTACCTTTCAA:配列番号4、R:AAGCATCGTTTTCTCTATTTC:配列番号5)、
oas1a(F:ACTCCTTTGTGGCTCAGTGG:配列番号6、R:ACCAGCTCCACGTCTGTAGTG:配列番号7)、
oas1b(F:TTCTACGCCAATCTCATCAGTG:配列番号8、R:GGTCCCCCAGCTTCTCCTTAC:配列番号9)、
oasl1(F:ATGTTAATACTTCCAGCAAGC:配列番号10、R:GCAAAGACAGTGAGCAACTCT:配列番号11)、
pkr(F:GATGGAAAATCCCGAACAAGGAG:配列番号12、R:AGGCCCAAAGCAAAGATGTCCAC:配列番号13)、
ifit1(F:CCTTTACAGCAACCATGGGAGA:配列番号14、R:GCAGCTTCCATGTGAAGTGAC:配列番号15)、
ifit3(F:CTGAACTGCTCAGCCCACAC:配列番号16、R:TGGACATACTTCCTTCCCTGA:配列番号17)、
ifit44(F:TCGATTCCATGAAACCAATCAC:配列番号18、R:CAAATGCAGAATGCCATGTTTT:配列番号19)、
irf3(F:GATGGCTGACTTTGGCATCT:配列番号20、R:ACCGGAAATTCCTCTTCCAG:配列番号21)、及び
irf7(F:CTTCAGCACTTTCTTCCGAGA:配列番号22、R:TGTAGTGTGGTGACCCTTGC:配列番号23)。
gapdhの増幅は各実験で行った。各サンプルのCt値をgapdhのCt値により標準化し(ΔCt)、各ΔCt値をPBSコントロール野生型マウスのΔCt値で正規化した(ΔΔCt)。結果を相対的発現(1/2ΔΔCt)として示した。
【0060】
(免疫及びチャレンジ感染)
スポロゾイトチャレンジ感染に対する異種AdHu5-prime/em (envelopedmodified) BDES-boost免疫の防御効果を評価した。
文献{Yoshida, K. et al. Adenovirus-prime andbaculovirus-boost heterologous immunization achieves sterile protection againstmalaria sporozoite challenge in a murine model. Scientific reports 8, 3896, doi:10.1038/s41598-018-21369-y(2018).}に記載の方法により、BALB/cマウスを3週間の間隔で異種Ad63-prime/emBDES-boostレジメンでi.m.で免疫した。ワクチン用量は、AdHu5-PfCSPについては5×107 pfuを含有する100 μl、BDES-PfCSPについては1×108 pfuを含有する100 μlであった。文献{Bauza, K. et al. Efficacy of a Plasmodium vivaxmalaria vaccine using ChAd63 and modified vaccinia Ankara expressingthrombospondin-related anonymous protein as assessed with transgenic Plasmodiumberghei parasites. Infect Immun82, 1277-1286, doi:10.1128/iai.01187-13 (2014).}に記載の方法により、各マウスにプライミングの3週間後に1,000匹のPfCSP-Tc/Pbスポロゾイトをi.v.チャレンジ感染し(1回目のチャレンジ感染)、24時間後にブースティングした。上述の方法により各マウスのP. berghei赤内期感染を確認し、1%寄生虫血症を評価した。防御されたマウスをブースティングの21日後に1,000匹のPfCSP-Tc/Pbスポロゾイトでi.v.再チャレンジ感染し、1回目及び2回目のチャレンジ感染後14日目における赤内期寄生虫血症の完全な欠如を「防御」と定義した。
【0061】
(統計分析)
SPSSソフトウェア(version 19)を用いてtwo-tailed Fisher’s exact probability testを行い、ワクチンの防御効果の差の有意性を決定した。0.05未満のp値は統計的に有意であるとした。統計分析は、Prism version 7.0a(GraphPad Software Inc.)又はMicrosoft(登録商標)Excel(Microsoft)を用いて行った。
【0062】
<結果>
(BV投与によるin vivoトランスジーン発現と自然免疫応答)
導入遺伝子の発現及び自然免疫応答のための静脈内経路(i.v.)及び筋肉内経路(i.m.)によるBV投与の結果を図1に示す。
BVがマラリア感染に惹起する自然免疫反応の効果を評価するために、CMVプロモーターの制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子およびp10プロモーターの制御下にあるDAF遺伝子からなる2つの遺伝子カセットを有するBES-GL3を使用した。これらのカセットは、形質導入マーカーとしてルシフェラーゼを発現し、補体攻撃(complement attack)からのBVの保護のためのDAFをウイルス粒子上に提示するように設計した{Iyori, M. et al. DAF-shieldedbaculovirus-vectored vaccine enhances protection against malaria sporozoitechallenge in mice. Malar J 16, 390, doi:10.1186/s12936-017-2039-x (2017).}。すなわち、本実施例で用いたDAFの役割は、バキュロウイルスを補体攻撃から遮蔽しバキュロウイルスの部分的破壊を防ぐことにより該ウイルス内のルシフェラーゼ(GL3)遺伝子を保護することである。ルシフェラーゼ遺伝子は肝臓や筋肉における導入遺伝子の発現をモニタリングするためのものであって、本発明に係る自然免疫応答とは無関係である。よって、野生型のオートグラファ核多角体病ウイルス(Autographa Californica NuclearPolyhedorosis Virus) は、補体攻撃により部分的に破壊されてもIFN-α産生及び抗寄生虫効果に関して、本実施例で用いたBES-GL3と同様の効果を発揮できると考えられる。
マウスの左大腿筋へのBES-GL3 i.m.投与は、ルシフェラーゼ発現レベルを強く増加させたが、徐々に減少し、28日目に2%になった(図1A)。
図1Bに示す通り、BES-GL3の静脈内(i.v.)投与が、発現レベルがわずか1日で急速に減少するが、インビボで肝細胞に効果的に形質導入することを確認した。
【0063】
(BES-GL3 のi.v.投与後の血清中の炎症誘発性サイトカインであるALTおよびASTのキネティクス)
BVのi.v.投与後の血清中サイトカイン濃度を測定した結果、IFN-γおよびTNF-αは、急速に増加し6時間後に最大値に到達し、24時間後までにベースラインまで減少した(図1C及びD)。ALT及びASTは、急速に増加し12時間後に最大値に到達し、48時間後までにベースラインまで低下した(図1E及びF)。BVのi.m.投与は、BVのi.v.投与と比較して、ALTレベルに影響を及ぼさなかったが、ASTレベルは高くなる傾向があった(図1G及びH)。ALTは、肝臓損傷の高感度指標として使用されるため、BVのi.m.投与はi.v.より侵襲性が低いことを示唆した。
また、BVのi.v.投与は、癌等の標的疾患に依存して、i.m.投与よりも強い全身性自然免疫応答を必要に応じて誘導できることを示唆した。すなわち、BVの投与は、癌の治療効果に有効であることを確認した。より詳しくは、BVのi.v.投与は、i.m.投与と比較して侵襲性が高い分誘導される自然免疫応答が高いと予想される。また、i.v.投与は、i.m.投与と比較してIFN-γの産生量は80倍であった(図1C及び図2B)。よって、癌のように強力な自然免疫応答が要求される疾患の場合は、疾患の進行度等によりi.v.投与が好ましい場合もある。
また、BVのi.m.投与によりC型肝炎治療で使用されるIFN-αの産生が誘導されたことから(図2A)、BVは、C型肝炎等の肝臓疾患の治療に有効であることを確認した。
【0064】
(スポロゾイト感染に対するBV投与による滅菌防御(sterile protection:無菌保護))
BVのi.v.投与及びi.m.投与によるマラリアスポロゾイト感染に対する滅菌防御効果の解析の結果を表1に示す。
ここでは、マラリア感染に対するBVにより誘導された自然免疫反応の効果に焦点を当てた。表1は、マラリアスポロゾイトチャレンジ感染に対するBV投与の防御効果の結果の概要である。まず、BVのi.v.投与の効果を調べるため、マウスを1×107 pfuのBES-GL3でi.v.投与し、IFN-γ産生のピーク時である6時間後に、マウスに1,000 Pb-conEGFPスポロゾイトをi.v.チャレンジ感染した。BV投与マウスは全て防御したが、PBS処理マウス及びAdHu5処理マウスは全て感染した(表1の1行目~3行目)。
次に、BES-GL3のi.m.投与(1×108 pfu)後に種々のチャレンジ感染間隔のスポロゾイトチャレンジ感染を行った。全てのマウスは少なくとも7日間は保護されていた。
BES-GL3のi.n.投与の6時間後にスポロゾイト接種を受けたマウスでは防御は観察されなかった(表1の11行目)。
BVが赤内期寄生虫に残留効果を持たないことが、BES-GL3のi.v.投与の6時間後に1,000匹の感染赤血球のチャレンジ感染に対して感染が起こったことによっても確認された(表1の12行目)。
チャレンジ感染の6時間又は24時間前のCpGのi.m.投与は、スポロゾイトチャレンジ感染に対してそれぞれ90%又は80%防御した(表1の13行目及び14行目)。これは、100匹のP. yoeliiスポロゾイトチャレンジ感染に対するCpGのi.m投与(50 μg)による短期間(2日間)の保護を示す以前の知見{Gramzinski, R. A. et al. Interleukin-12- and gammainterferon-dependent protection against malaria conferred by CpGoligodeoxynucleotide in mice. Infect Immun69, 1643-1649, doi:10.1128/iai.69.3.1643-1649.2001 (2001).}と一致した。しかし、CpGのi.m処理及びチャレンジ感染の間により長い期間(7日間)を置いた場合、防御は部分的(50%)であった。
以上より、BES-GL3のi.m投与により誘導された防御効果は、CpGと比較して、より効果的かつより長く持続する(7日間)ことが示唆された。BES-GL3を投与されたこれらのマウスで観察された優れた防御効果は、BV介在性の自然免疫反応に起因する可能性が最も高い。
十分に制御された条件下での全ての実験において、100%のPBS処理対照マウスは、1,000匹のPb-conGFPスポロゾイトの注射後6日以内に赤内期感染(寄生虫血症)を確認した。
【0065】
(BV投与による肝臓期寄生虫の完全排除)
BVのi.v.及びi.m.投与が肝臓期寄生虫を完全に排除するか否かを評価した結果を表2に示す。
I型及びII型IFNs刺激経路により肝臓期寄生虫に感染した肝細胞が死滅することが報告されている。
スポロゾイトチャレンジ感染後のマウスにBES-GL3をi.v.又はi.m.投与し、BV誘導I型IFN及びII型IFNのインビボでの肝臓期寄生虫に対する影響を評価した。
スポロゾイトチャレンジ感染後の2つの間隔、すなわち24時間及び42時間により、それぞれトロホゾイト期及び寄生虫が赤血球外(成熟)シゾント期{exoerythrocytic (mature) schizont stages}に対する排除効果を調べた。表2は、肝臓期寄生虫に対するBES-GL3投与の排除効果に関するこれらの結果の要約である。
Pb-conGFPスポロゾイト感染24時間後のBES-GL3のi.v.投与により全てのマウスが赤内期寄生虫を完全に阻止したが、BES-GL3を感染42時間後のマウスにi.v.投与した場合には排除効果は消失した(表2の2行目~3行目)。BES-GL3をマウスにi.m.投与した場合にも同様の結果が得られた。
【0066】
BVによる寄生虫の除去を視覚化するために、ルシフェラーゼを構成的に発現するトランスジェニックP. bergheiであるPb-Lucをマウスに感染させ、肝臓期及びその後に続く血液内(赤内期)の寄生虫を検出するための高感度な方法であるIVISでルシフェラーゼ発現を検出した結果を図1に示す。
感染24時間後及び42時間後に、寄生虫が肝臓で観察された(図1I及びJの左パネル)。
感染24時間後のBES-GL3の左大腿筋でのi.m.投与は、感染72時間後に肝臓期寄生虫を完全に除去したが、PBS対照マウスは赤内期寄生虫を発生させた(図1Iの右パネル)。
感染42時間後のBES-GL3の右大腿筋でのi.m.投与は、赤内期寄生虫を発生させた(図1Jの右パネル)。
感染42時間後のBES-GL3のi.m投与において寄生虫血症の有意な遅延が観察された(図1K)。
蚊から注入されたスポロゾイトは1時間以内に肝臓に達する。P. bergheiの赤血球外メロゾイト(exoerythrocyticmerozoites)は、肝臓期の44~48時間後に感染肝細胞から血流に放出されることから{Garnham, P. C. Malaria in its various vertebrate hosts. In J. P. Kreier (ed.), Malaria, vol. 1. Epidemiology,Chemotherapy, Morphology, and Metabolism. Academic Press, Inc., New York,96-144 (1980).}、BVのi.m.投与の排除効果は、寄生虫が赤血球外シゾント期(感染42時間後)において、2~6時間以内に肝臓内の自然免疫系の急速な下流殺滅機構(downstream killingmechanism)により誘導された。感染24時間後の低用量(104 pfu及び106 pfu)のBES-GL3は赤内期寄生虫感染を完全防御すること(赤内期寄生虫を完全に出現させず寄生虫血症0%とすること)はできなかった。しかし、感染24時間後の106 pfu及び感染42時間後の108 pfuのBES-GL3投与において寄生虫血症を部分防御(寄生虫血症1%に到達するまでにかかる時間を有意に遅延)できたことを観察した(図1K及びL)。このことから、BVのi.m.投与の排除効果は、BVの投与量に依存したことが確認した。
【0067】
BVの排除効果をP. vivaxヒプノゾイトの根治治療薬として認可された唯一の薬剤であるプリマキン(PQ){Edgcomb JH, et al. (1950) Primaquine, SN 13272, a new curative agentin vivax malaria; a preliminary report. J Natl Malar Soc 9(4):285-292.}と比較することは非常に重要であった。ヒトの体重あたりのWHO推奨用量よりもそれぞれ533及び27倍高い、高用量(2 mg/マウス)及び低用量(0.1 mg/マウス)の2つの異なる用量のPQを投与した。高用量PQの単回投与は肝臓期寄生虫を完全に排除した(表2)。一方、低用量PQでは最終的には全て発症するが、発症遅延(コントロール群と比べて寄生虫血症が1%になるまでにかかる時間の遅延)が見られる(図1K)。このことは肝臓における寄生虫負荷の減少(肝臓内で多くの寄生虫が死滅した結果、血液中で検出される時間が延びること)を示している。しかし、低用量PQではWHOが推奨する量の27倍も投与しており、なお最適な治療方法ではない。
低用量PQは肝臓における寄生虫負荷の減少及び寄生虫血症の有意な遅延について最適量に達していなかった(図1K)。高用量のPQは悪心、嘔吐、胃痙攣の副作用を引き起こすことが多いため、WHOが推奨するPQの治療スケジュールは14日間(15日)15mg /日であり、PQ抵抗が生じ得る患者のコンプライアンスを制限している{Collins, W. E. & Jeffery, G.M. Primaquine resistance in Plasmodium vivax. Am J Trop Med Hyg 55, 243-249(1996).及びBaird, J. K. Resistance to therapies for infection byPlasmodium vivax. Clin Microbiol Rev 22, 508-534, doi:10.1128/cmr.00008-09(2009).}。これらの結果は、BVのi.m.投与はPQよりも大きな利点を有することを示した。
【0068】
(TLR9非依存性経路によるBV介在性肝臓期寄生虫の殺滅)
CpGのi.m.投与は初期肝臓期(感染6時間後)の寄生虫を完全に排除したが、成熟シゾント(感染24時間後)には寄生虫の有意な遅延は示したものの(図1K)ほとんど効果が無かった(表3)。
BVは、MyD88/TLR9依存性経路及び非依存性経路を介して樹状細胞(DC)介在性自然免疫を活性化する独自の特徴を有する{Abe, T. et al. Baculovirus induces type I interferon productionthrough toll-like receptor-dependent and -independent pathways in acell-type-specific manner. J Virol83, 7629-7640, doi:JVI.00679-09 [pii]}。したがって、TLR9が肝臓におけるBV介在性の寄生虫殺滅において重要な役割を果たすかどうかを検討した。表3に示すように、肝臓期の寄生虫に感染した全てのTLR9-/-マウスは、BES-GL3のi.mの単回投与後の赤内期寄生虫を完全に防止した。しかし、TLR9-/-マウスにCpGをi.m.投与した場合、寄生虫血症の遅延の非存在下における排除効果は観察されなかった。
以上の結果は、BV介在性寄生虫殺滅がTLR9非依存性経路であることを明確に証明した。
【0069】
(TLR9非依存性経路によるIFN介在性肝臓期寄生虫の殺滅)
BVのi.v.投与は、マウスにおいてTLR非依存性およびIRF3依存性経路を介してI型IFNを産生することが報告されている{Abe, T. et al. Baculovirus induces type I interferon productionthrough toll-like receptor-dependent and -independent pathways in acell-type-specific manner. J Virol83, 7629-7640, doi:JVI.00679-09 [pii]}。BVのi.m.投与によるIFNs産生を明らかにするため、野生型(WT)及びTLR9-/-マウスにおけるIFNの血清レベルを、BES-GL3のi.m.投与の6時間後に測定した。BES-GL3のi.m.投与はWTマウス(6,311±2,363 pg/ml)だけでなくTLR9-/-マウス(1,590±737 pg/ml)においてIFN-αを産生したが、PBS処理マウス又はCpGのi.m.投与マウスにおいてIFN-αを産生しなかった(<20.0 pg/ml、検出限界)(図2A)。すなわち、BVのI型IFN産生はTLR非依存性経路及びIRF3依存性経路を介することを示した。
IFN-αは、C型肝炎ウイルス(HCV)の感染により発症する慢性C型肝炎の標準治療薬であるが、自己免疫性甲状腺炎などの様々な副作用の可能性が伴う。本実施例は、BVのi.m.によってIFN-α産生が促進されたことを示した。よって、BVのi.m.及び/又はi.v.投与により、現行のIFN-α治療よりも優れた、高い生物学的活性、費用対効果、非侵襲性および有害性の低い効果を有する肝臓疾患治療剤を提供できることを示した。
WTマウス(1,367±1,303 pg/ml)及びTLR9-/-マウス(488±132 pg/ml)の両方において、II型IFN及びIFN-γが産生された(図2B)。CpGのi.m.投与はBVより非常に少ない量のIFN-γを誘導したが、CpGのi.v.投与は高侵襲性の高レベルのIFN-γを誘導したものの{Kawabata, T. et al. Functional alterations of liverinnate immunity of mice with aging in response to CpG-oligodeoxynucleotide. Hepatology (Baltimore, Md.) 48, 1586-1597,doi:10.1002/hep.22489 (2008).}、強力なIL-12応答をもたらした(図2C)。
以上より、BVはIFN-α及びIFN-γ産生促進効果を有する。IFN-α及びIFN-γは、ともに抗ウイルス活性があることが知られており、マラリアワクチン以外のワクチンに混合して投与することにより、マラリアワクチン以外のワクチン添加剤として利用できる。
また、IFN-α及びIFN-γは、ともに抗腫瘍効果があることが知られており、単独で、又は、他の癌治療剤と併用して投与することにより、癌治療剤として利用できる。
【0070】
血清中のサイトカインが肝臓期寄生虫に対するエフェクターとして作用するか否かを決定するために、血清移入アッセイを実施した。プールした血清を6時間前にBES-GL3をi.v.投与したドナーマウスから採取した。100μlの血清を24時間前に1,000匹のスポロゾイトにi.v.感染したレシピエントマウスに移した。5匹のレシピエントマウスのうちの1匹は肝臓期寄生虫を効果的に排除し、他の4匹の感染レシピエントマウスはPBS処理マウスと比較して1%寄生虫血症に至る時間の有意な遅延を示し、平均遅延は3.54日であった(図2D)。次に、血清中のIFN-αまたはIFN-γの中和が肝臓期寄生虫に影響を与えるか否かを調べた。100μlの血清を抗IFN-α抗体または抗IFN-γ抗体のいずれかと共にインキュベートした。IFN-αおよびIFN-γの完全な中和は、ELISAによって確認された(図4BおよびC)。抗IFN-α抗体または抗IFN-γ抗体のいずれかで処理した血清100μlを24時間前にスポロゾイト1000匹をi.v.注射したレシピエントマウスにi.v.投与した。抗IFN-α抗体で処理した血清は、寄生虫血症の遅延を完全に排除したが、排除効果は抗IFN-γAb処理によって部分的に損なわれた(図2D)。これらのデータは、IFN-γ介在性殺滅が、IFN-αによって活性化されるものとは異なるエフェクター機構により介在され得ることを示唆する。IFN-αおよびIFN-γによって誘導されたエフェクター機構が相乗的に作用している可能性がある。
【0071】
BVのどの要素が寄生虫の排除に重要な役割を果たすかを解明するために、BES-GL3を56℃で30分間の熱処理により不活性化した(熱不活性化BV;HI-BV)。HepG2細胞への形質導入におけるルシフェラーゼ活性の完全な消失によって生存BES-GL3の不活性化を確認した(図4A)。HI-BVを投与したマウスの血清においてIFN-αもIFN-γも検出されなかった(図4B及びC)。生存BES-GL3は寄生虫を完全に排除し、HI-BVはそれらを完全に排除しなかったが、1%寄生虫血症に至る時間の有意な遅延を示した(平均遅延2.17日、PBS群と比較してp = 0.0018)(図2E)。当該結果は、熱感受性ウイルス成分が細胞への導入に重要な役割を果たし、DNAセンシングによる自然免疫によるI型IFN産生を引き起こす一方で、BVの耐熱性成分もまたIFN非依存性機構による除去に寄与したことを示唆した。
【0072】
(BVのi.m.投与による肝臓におけるIFN刺激遺伝子(ISG)の上方制御)
I型IFNのシグナル伝達は、多数のIFN刺激遺伝子(ISG)の誘導をもたらす{Der, S. D., Zhou, A., Williams, B.R. & Silverman, R. H. Identification of genes differentially regulated byinterferon alpha, beta, or gamma using oligonucleotide arrays. Proc Natl Acad Sci U S A 95, 15623-15628(1998).}。ISGの中には、アポトーシスの誘導や抗ウイルス作用を中心とした微生物殺滅のための転写後イベントの制御などの直接的な抗菌活性に関わるものもある。遺伝子ターゲティング研究により、Mx GTPアーゼ経路、2'-5 'オリゴアデニル酸シンテターゼ(OAS)-誘導リボヌクレアーゼL経路、プロテインキナーゼR(PKR)経路およびISG15ユビキチン様経路といったIFN介在性抗ウイルス応答の4つのエフェクター経路に分けられている{Sadler, A. J. & Williams, B.R. Interferon-inducible antiviral effectors. NatRev Immunol 8, 559-568, doi:10.1038/nri2314 (2008).}。さらに、転写因子IRF3およびIRF7と同様に、テトラトリペプチドリピート(IFITs)を有するIFN誘導タンパク質などのいくつかのISGが、マラリア原虫(Plasmodium)スポロゾイトによる肝臓感染の感知に関与していることが知られている{Liehl, P. et al. Host-cell sensors for Plasmodiumactivate innate immunity against liver-stage infection. Nat Med 20, 47-53, doi:10.1038/nm.3424(2014).}。
ISGsの関与を確認するために、BES-GL3をi.m.投与したマウスの肝臓における遺伝子発現を定量的RT-PCR(qRT-PCR)によってを測定した。BES-GL3は、野生型(WT)マウスにおいて抗ウイルスタンパク質(Isg15、Mx1、Oas1a / b、Oasl1およびPkr)の遺伝子発現を有意に誘導した(図3A)。Oas1a / bを除くこれらの遺伝子は、おそらくは遺伝子座に起因して、BVによってTLR9-/-マウスにおいて上方制御された(図3A)。Ifit1、Ifit3およびIfit44などのIFITタンパク質の遺伝子発現は、WTおよびTLR9-/-マウスの両方において顕著かつ有意に増強された(図3B)。転写因子(Irf3およびIrf7)の遺伝子も、BVによって同様に誘導された(図3C)。これらの結果は、大腿筋でのBVのi.m投与による全身性I型IFN分泌が肝臓においてISGを強力に誘導したことを示唆した。
【0073】
(AdHu5-prime/BDES-boost異種免疫療法による滅菌防御および完全排除)
AdHu5-prime/BDES-boost異種免疫レジメンが肝臓期寄生虫を排除し、スポロゾイトチャレンジ感染を防御するか否かの評価結果を表4に示す。
AdHu5-prime/BDES-boost異種免疫レジメン{Yoshida, K. etal. Adenovirus-prime and baculovirus-boost heterologous immunizationachieves sterile protection against malaria sporozoite challenge in a murinemodel. Scientific reports 8,3896, doi:10.1038/s41598-018-21369-y (2018).}(AdHu5-PfCSPによるプライムの3週間後にBDES-sPfCSP2-WPRE-Spiderによるブースト)に基づいて新たに開発されたマラリアワクチンを評価した。AdHu5-prime及びそれに続くBDES-sPfCSP2-boostの前後にマウスに2回チャレンジ感染した。マウスは、1回目及び2回目のチャレンジ感染に対して何らの症状もなく全て生存した(表4のグループ2)。対照的に、AdHu5-prime免疫のみでは防御効果を発揮しなかった(表4のグループ1)。BES-GL3のi.v.投与は1回目のチャレンジ感染に対して完全防御したが(表4のグループ4)、ブースティングの21日後(1回目のチャレンジ感染の22日後)の2回目のチャレンジ感染に対する防御は無かった。PBSのi.m.対照マウスは全て感染した(表4のグループ3及び5)。
以上の結果は、AdHu5-prime/BDES-boost異種免疫療法が、BV介在性自然免疫応答によるワクチン接種前後の短期間(ブースト前24時間からブースト後7日目までの合計8日間)の治療・予防効果(ブースト前24時間からブーストまでの感染に対する完全な治療効果、及びブースト後7日目までの感染に対する予防効果)だけでなく、獲得免疫(ワクチン特異的適応免疫応答)によるワクチン接種後の長期間(ブースト後21日目以降)にわたり一般的なワクチン効果を発揮し、ワクチン接種者を防御(保護)できることを示唆した。すべての動物実験設計を図5に示す。
【0074】
<総論>
本実施例によりBVのi.m.投与がスポロゾイト感染に対する短期間の滅菌防御を誘導するばかりでなく、肝臓期寄生虫も完全に排除することを示した。感染から24時間後に激しく増殖する肝臓期寄生虫について、BV誘導性速効性自然免疫応答は、それらを完全に殺滅し、臨床症状がない場合には赤内期寄生虫を予防することを示した。特に、BVが新型の独立した治療用免疫賦活剤としての抗P. vivaxヒプノゾイト薬の開発を可能にすることを示した。現在のところ、PQがP.vivaxの休止期のヒプノゾイトを殺滅する唯一の利用可能な薬であるが、G6PD欠乏の人々における重度の副作用のため該薬の広範な使用には至っていない{Clyde, D. F. Clinical problems associated with the use of primaquineas a tissue schizontocidal and gametocytocidal drug. Bull World Health Organ 59, 391-395 (1981).}。ヒプノゾイトの存在とその薬物不感受性は、排除計画の大きな障害となっており、マラリアを根絶する計画{Roberts, L. & Enserink, M. Malaria. Did they really say ...eradication? Science 318, 1544-1545, doi:10.1126/science.318.5856.1544 (2007).}は、この隠れたヒプノゾイトの蓄積を取り除く有効手段を講じて初めて達成できる{Wells, T. N., Burrows, J. N. & Baird, J. K. Targeting thehypnozoite reservoir of Plasmodium vivax: the hidden obstacle to malariaelimination. Trends Parasitol 26, 145-151, doi:10.1016/j.pt.2009.12.005 (2010).及びMueller, I. et al. Keygaps in the knowledge of Plasmodium vivax, a neglected human malaria parasite. Lancet Infect Dis 9, 555-566,doi:10.1016/S1473-3099(09)70177-X (2009).}。本実施例は、霊長類の抗ヒプノゾイト活性と相関すると考えられている{Fracisco, S. et al.Anti-relapse activity of mirincamycin in the Plasmodium cynomolgisporozoite-infected Rhesus monkey model. MalarJ 13, 409, doi:10.1186/1475-2875-13-409 (2014).}早期肝臓期P. bergheiを有するマウスモデルにおいて、BVがPQよりも有効であることを示した。BVは臨床現場で使用されていないが、本発明者らによる以前の研究では、BVベースのワクチンベクターは安全であり、霊長類モデルにおいて許容可能な反応原性及び全身毒性であり耐容性が高いことが示された{Iyori, M. et al.Protective efficacy of baculovirus dual expression system vaccine expressingPlasmodium falciparum circumsporozoite protein. PLoS One 8, e70819, doi:10.1371/journal.pone.0070819 (2013).}。 以上より、BVを用いてヒトにおける初回臨床試験のためにPQの代わりに有望な新しい非溶血性単回用量製剤を提供できることを確認した。
【0075】
BVは、(i)低い細胞傷害性、(ii)哺乳動物細胞で複製できないこと、(iii)既存の抗体が存在しないこと、(iv)ほぼ抗原刺激を受けていない(near-naive)な形態(「バキュロファージ」として知られている)のウイルスエンベロープ上にワクチン抗原を提示すること、(v)哺乳動物細胞(「BacMam」として知られている)の形質導入、および(vi)ワクチン成分およびDNAワクチンの両方としての機能(「バキュロウイルス二重特異性抗体発現システム(BDES)」として知られている)を含む、新しいワクチンベクターとして優れた魅力的な特性を有する{Yoshida, S., Kawasaki, M., Hariguchi, N., Hirota, K. & Matsumoto,M. A baculovirus dual expression system-based malaria vaccine induces strongprotection against Plasmodium berghei sporozoite challenge in mice. Infect Immun 77, 1782-1789,doi:IAI.01226-08 [pii]}。本実施例は、本質的な強力な免疫刺激特性による短期間の防御を有する治療用ワクチンベクターとしてのBVのさらなる独自の利点を提供する。現行ワクチンは、感染防御効果が誘導されるには接種後数週間必要である。一般に、ワクチンによって誘導される適応免疫は効果的になるには数日かかり、しばしば2~3回の投与が必要となる。ワクチン接種の直前後での感染は防ぐことは出来ない。効果的な認可されたワクチンでさえ、ワクチン接種直後に標的病原体から個人を保護することはできない。理想的なワクチンは、ワクチン接種直前後での感染を防御できる機能が求められている。したがって、長期の防御免疫に加えて、次世代のワクチンが効果的な短期間の非特異的免疫を誘導し、ワクチン接種スケジュール中の感染リスクを最小限に抑えることが理想的である。
フェーズII~IIIマラリアワクチン試験において、最後のワクチン接種の1週間前にすべての被験者を1日3回抗マラリア薬で仮定的に治療(presumptively treated)し、最後のワクチン接種の1週間後に無性のP. falciparum寄生虫血症を再検査した。寄生虫陽性を試験する被験者は、第二選択薬で治療されるか、試行から除外される{Polhemus, M. E. et al.Evaluation of RTS,S/AS02A and RTS,S/AS01B in adults in a high malariatransmission area. PLoS ONE 4,e6465, doi:10.1371/journal.pone.0006465 [doi] (2009).}。このように、臨床試験は、すべてのワクチンスケジュールが完了した後にその効果が最大に達したときにそのワクチン効力を試験することを目的とする。しかし、臨床応用については、改善された有効なワクチンが開発されたとしても、ワクチン接種者は完全にスケジュールされたワクチン接種が完了するまで感染の危険に依然としてさらされる。本実施例では、新たに開発された異種AdHu5-PfCSP-primeおよびBDES-PfCSP-boostワクチンが、BDES-ブーストの24時間前に感染した肝臓期寄生虫を排除した後、BDESブーストの2週間後に、ワクチン誘導PfCSP特異的後天性免疫応答による寄生虫感染に対する滅菌防御を誘導した。したがって、BDES-PfCSPブースティングは、ワクチン接種前後の短期間でマウスを治癒および防御することができる。
従来のマラリアワクチンでは、いつ感染するか予測できない実際の患者に対してワクチンを接種するため、例えばワクチン接種の前日に感染していた場合やワクチン接種の翌日に感染した場合には感染してしまう問題があった。
本発明はこのような従来のワクチンでは感染を防御できないワクチン接種前後の感染を防御できるという大きな利点を有する。
すなわち、本発明のBVベースのワクチンは、ワクチン接種スケジュール中にワクチン接種者の感染のリスクを最小限に抑えることができるだけでなく、自然免疫系の刺激によって強く持続的な適応免疫応答を生み出すと考えられる。また、BV自体をRTS,Sまたはその他の認可ワクチンにこの短期的な防御を与えるためのマラリアワクチン添加剤として使用できると考えられる。
【0076】
本実施例は、BVのi.m.投与がTLR9非依存的様式で血清中のIFN-αおよびIFN-γを強力に誘導し、肝臓におけるISG発現を上方制御することを示した。さらに、血清のインビボ受動的移入は、肝臓期寄生虫を効果的に排除した。この血清中のIFN-αを抗IFN-α抗体で中和すると、その寄生虫排除効果は消失した。このように、I型IFNシグナル伝達経路が肝臓期寄生虫の殺滅機構において重要な役割を果たすことを観察した。
さらに、組換えIFN-αタンパク質を用いて肝臓期寄生虫に対する治療効果を確かめた。これにより血清中に含まれるIFN-αがBV接種により誘導され、肝臓に作用して肝臓寄生虫期を殺傷すること(マラリア発症予防効果)が明らかになった。よって、BV投与、特に感染6時間前のBVのi.m.投与は肝臓期寄生虫を殺滅し、寄生虫血症を予防できることを確認した。
一方、Plasmodiumマラリア原虫の自然感染でも肝臓期感染に自然免疫応答が誘導されることが報告されているが、この自然免疫応答能はすべての寄生虫を排除することはできず感染・発症が起こる。すなわち、マラリア原虫の自然感染が誘導する内因性自然免疫応答が排除するのに十分強くないこと、および/または自然免疫応答のピークが肝臓期発達の終わり、すなわち赤血球外メロゾイト放出の直前またはそれと同時に起こることを示唆する。または、寄生虫は、おそらくそれを回避するための、例えば宿主肝細胞のアポトーシス経路の阻害のような戦略を自身の生存を確実にするためにとったと考えられる{van de Sand, C. et al.The liver stage of Plasmodium berghei inhibits host cell apoptosis. Mol Microbiol 58, 731-742,doi:10.1111/j.1365-2958.2005.04888.x (2005).}。BV誘導性I型IFNは、宿主感受性による寄生虫誘導性I型IFNと比較して、その量および速効性のタイミングのためにより効果的かつ強力であり、その独立した治療効果および予防効果を達成することができる。最近、宿主細胞が、形質導入後に、細胞質DNAセンサーSTING認識を介して(via the cytosolic DNAsensor STING recognizes)BVゲノムdsDNAを感知し、TLR9非依存性経路を介したBV形質導入に応答してI型IFNの産生を引き起こすことが報告された{Ono, C. et al. Innateimmune response induced by baculovirus attenuates transgene expression inmammalian cells. J Virol 88,2157-2167, doi:10.1128/JVI.03055-13 (2014).}。しかし、インビボでのSTINGの関与は依然として不明である。II型IFNに関しては、インビトロでの外因性IFN-γ刺激がオートファジー関連タンパク質依存様式で、肝臓期P. vivaxに感染した肝細胞の殺滅を引き起こすことが報告された{Boonhok, R. et al.LAP-like process as an immune mechanism downstream of IFN-gamma in control ofthe human malaria Plasmodium vivax liver stage. Proc Natl Acad Sci U S A 113, E3519-3528,doi:10.1073/pnas.1525606113 (2016).}。
本実施例は、IFN-αおよびIFN-γが、BV投与後6時間で血清中で迅速かつ強力に産生されることを示した。I型IFNシグナル伝達経路に繋がる約300個のISGsが存在することが報告されている{Der, S. D., Zhou, A., Williams, B. R. & Silverman, R. H.Identification of genes differentially regulated by interferon alpha, beta, orgamma using oligonucleotide arrays. ProcNatl Acad Sci U S A 95, 15623-15628 (1998).及びSchoggins,J. W. & Rice, C. M. Interferon-stimulated genes and their antiviraleffector functions. Curr Opin Virol1, 519-525, doi:10.1016/j.coviro.2011.10.008 (2011).及びde Veer, M.J. et al. Functionalclassification of interferon-stimulated genes identified using microarrays. J Leukoc Biol 69, 912-920 (2001).}。このうち、抗ウイルスエフェクター{Sadler, A. J. & Williams, B. R. Interferon-inducible antiviraleffectors. Nat Rev Immunol 8,559-568, doi:10.1038/nri2314 (2008).}としてよく知られているIsg15、Mx1、OAS1、OASLおよびPKR遺伝子の発現は、BVのi.m.投与により肝細胞中で大きく促進された。HI-BVのi.m.投与は、IFN-αおよびIFN-γ非存在下でも実質的な寄生虫殺傷効果を誘導した。
【0077】
IFN-αは、様々な疾患状態でその有効性について広範に研究されており、これらのいくつか、特にIFN-αが1991年以来唯一の承認された治療として使用されている慢性C型肝炎の標準治療として現在使用されている。しかし、その使用には、自己免疫性甲状腺炎などの多種多様な副作用が伴う可能性がある{Sleijfer, S., Bannink, M., Van Gool, A. R., Kruit, W. H. &Stoter, G. Side effects of interferon-alpha therapy. Pharmacy world & science : PWS 27, 423-431,doi:10.1007/s11096-005-1319-7 (2005).}。さらに、IFN-αおよびリバビリンによるC型肝炎の標準治療は、平均22,000米ドルの費用がかかり、遺伝子型にもよるが、治療された個体のわずか42%しか感染を除去できない{Lang, K. & Weiner, D. B. Immunotherapy for HCV infection: nextsteps. Expert Rev Vaccines 7,915-923, doi:10.1586/14760584.7.7.915 (2008).}。
本実施例は、BVのi.m.投与により誘導されたマウス血清中の6.3 ng/mlのIFN-αが正常レベルのALTの下で肝臓期寄生虫を完全に殺滅することを示した。BVの製造コストは、組換えIFN-αよりはるかに安価である。このように、BVのi.m.投与は、静脈内投与による組換えIFN-αを用いた現行のIFN-α療法よりも優れた、高い生物学的活性、費用対効果、非侵襲性および有害性の低い効果を有するIFN-αベースの免疫療法の代替療法として有用である。
【0078】
以上より、BVは前赤内期(pre-erythrocytic)の寄生虫に対する強力な第一線の防御的および攻撃的攻撃(defensiveand offensive attacks)の両方をもたらす速効性自然免疫応答を効果的に誘導する。本実施例の結果は、バキュロウイルスが肝臓期寄生虫に対する新しい優れた予防的および治療的免疫賦活剤となる大きな可能性を有することを示した。
【0079】
本実施例より以下の知見を得た。
(1)BVのi.m.投与はi.v.より侵襲性が低い。
(2)BVのi.v.投与は、癌等の標的疾患に依存して、i.m.投与よりも強い全身性自然免疫応答を必要に応じて誘導できる。
BVは前赤内期(pre-erythrocytic)の寄生虫に対する速効性自然免疫応答を効果的に誘導する。
(3)BES-GL3のi.m投与により誘導された防御効果は、CpGと比較して、より効果的かつより長く持続する(7日間)。
(4)BVは肝臓期寄生虫を完全に排除し、マラリア発症を完全に阻止する。
BVのi.m.投与がスポロゾイト感染に対する短期間の完全防御を誘導し、BV誘導性速効性自然免疫応答は、20時間以内に肝臓期寄生虫を完全に殺滅し、マラリア発症を完全に阻止する。
感染24時間後のBES-GL3のi.v.又はi.m.投与は、肝臓期寄生虫を完全に除去し、これによりマラリア発症を完全に阻止する。
BVは肝臓期寄生虫に対する新しい優れた予防的および治療的免疫賦活剤となる。
(5)BVは寄生虫血症を遅延する。
感染42時間後のBES-GL3のi.m投与により寄生虫血症を有意に遅延する。
BVのi.m.投与はPQよりも肝臓期原虫を効果的に殺傷し、寄生虫血症を有意に遅延する。
BVは、本質的な強力な免疫刺激特性による短期間の防御を誘導する治療用ワクチンベクターとして有用であり、治療用免疫賦活剤としての抗P. vivaxヒプノゾイト薬の開発を可能とし、BVを用いてPQに代わる有望な新しい非溶血性単回用量製剤を提供できる。
(6)BVのi.m.投与の寄生虫排除効果は、BVの投与量に依存する。
(7)BVがTLR9非依存性及びIFN介在性経路により寄生虫を殺滅する。
BVによるIFN-γ介在性殺滅は、IFN-αによって活性化される機構とは異なるエフェクター機構により介在され、IFN-αおよびIFN-γによって誘導されたエフェクター機構は相乗的に作用する。
BVの熱感受性ウイルス成分が細胞への導入に重要な役割を果たし、DNAセンシングによる先天性免疫によるI型IFN産生を引き起こす一方で、BVの耐熱性成分もまたIFN非依存性機構による除去に寄与する。
BVのi.m投与による全身性I型IFN分泌が肝臓においてISGを強力に誘導する。
BVのi.m.投与によりTLR9非依存的様式で血清中のIFN-αおよびIFN-γを強力に誘導し、肝臓におけるISG発現を促進・増強する。
BVをi.m.投与した個体由来の血清のインビボ受動的移入は、肝臓期寄生虫を効果的に排除する。この血清中のIFN-αを抗IFN-α抗体で中和すると、その寄生虫排除効果は消失する。
IFN-αおよびIFN-γが、BV投与後6時間で血清中で迅速かつ強力に産生される。
HI-BVのi.m.投与は、IFN-αおよびIFN-γ非存在下で実質的な寄生虫殺傷効果を誘導する。
BVのi.m.投与により誘導されたマウス血清中の6.3 ng/mlのIFN-αが正常レベルのALTの下で肝臓期寄生虫を完全に殺滅する。
BVのi.m.投与は、静脈内投与による組換えIFN-αを用いた現行のIFN-α療法よりも優れた、高い生物学的活性、費用対効果、非侵襲性および有害性の低い効果を有するIFN-αベースの免疫療法の代替療法として有用である。
(8)AdHu5-prime/BDES-boost異種免疫療法が、BV介在性自然免疫応答によるワクチン接種前後の短期間だけでなく、ワクチン特異的適応免疫応答によるワクチン接種後の長期間にわたりワクチン接種者を防御(保護)できる。
BVベースのワクチンは、ワクチン接種スケジュール中にワクチン接種者の感染のリスクを最小限に抑えることができるだけでなく、自然免疫系の刺激によって強く持続的な適応免疫応答を生み出す。BVはRTS,Sまたはその他の認可ワクチンに短期的な防御を与えるための添加物としても使用できる。
BDES-PfCSPブースティングは、ワクチン接種前後の短期間でマウスを治癒および防御することができる。より詳しくは、異種AdHu5-PfCSP-プライムBDES-PfCSP-ブーストワクチンが、BDES-ブーストの24時間前に感染した肝臓期寄生虫を排除した後、BDESブーストの2週間後に、ワクチン誘導PfCSP特異的後天性免疫応答による寄生虫感染に対する滅菌防御を誘導できる。
【0080】
【表1】
a)BALB/cマウスにBES-GL3(BVと記載)を表中に示された経路で注射した。表中に示された間隔の後、マウスに1,000匹のPb-conGFPスポロゾイトをi.v.チャレンジ感染した。スポロゾイトチャレンジ感染5日、6日、7日、8日、11日および14日後に寄生虫血症をモニターした。寄生虫が血液に出現した全てのマウスが死亡した。b)実験設計の概要を図5Aに示す。c)i.v.は静脈内、i.n.は鼻腔内、i.m.は筋肉内 を示す。d)防御(protection)はチャレンジ後14日目の赤内期寄生虫血症の完全な欠如として定義した。e)2回または4回の実験からの累積データ。f)BALB/cマウスにAdHu5-lucをi.v.注射した。g)BALB/cマウスに1,000匹の生存Pb-conGFP感染赤血球(iRBC)をi.v.チャレンジ感染した。h)BALB/cマウスに50 μgのCpG ODN 1826(CpGと記載)をi.m.投与した。
【0081】
【表2】
a)BALB/cマウスに1000匹のPb-conGFPスポロゾイトをi.v.注射した。表中に示された間隔の後、マウスにBES-GL3(BVとして記載)またはPQのいずれかを投与した。スポロゾイト注射の5、6、7、8、11および14日後に寄生虫血症をモニターした。寄生虫が血液に出現した全てのマウスが死亡した。b)実験設計の概要を図5Bに示す。c)3回の実験からの累積データ。d)図1KおよびLに示すように、PBS群と比較して、すべてのマウスにおいて寄生虫血症の有意な遅延を観察した。e)2つの異なる用量のPQを肝臓期寄生虫を殺滅するために投与した。高用量(2 mg/100 μl)および低用量(0.1 mg / 100 μl)は、WHO推奨のヒト体重あたりの投与量よりもそれぞれ533倍および27倍高かった。
【0082】
【表3】
a)TLR9-/-(BALB/cバックグラウンド)またはWTマウスに1000匹のPb-conGFPスポロゾイトをi.v.注射した。24時間後、マウスにBES-GL3(BVとして記載)またはCpG ODN 1826(CpGと記載)のいずれかを投与した。スポロゾイト注射の5、6、7、8、11および14日後に寄生虫血症をモニターした。寄生虫が血液に出現した全てのマウスが死亡した。b)図1Kに示すようにPBS群と比較して、全てのマウスにおいて寄生虫血症の有意な遅延を観察した。
【0083】
【表4】
a)BALB/cマウスにAdHu5-PfCSP(AdHu5と記載)をi.m.免疫した。3週間後、マウスに1,000匹のPfCSP-Tc/Pbスポロゾイトをi.v.注射した。この24時間後にPBSをi.m.注射した。スポロゾイト注射の5、6、7、8、11および14日後に寄生虫血症をモニターした。全てのマウスが寄生虫血症を発症し、死亡した。実験設計の概要を図5Cに示す。b)BALB/cマウスにAdHu5をi.m.免疫した。3週間後、マウスに1,000匹のPfCSP-Tc/Pbスポロゾイトをi.v.注射し、24時間後にBDES-PfCSP(BDESと記載)をi.m.注射した。感染防御したマウスに1回目チャレンジの21日後に再チャレンジした。実験設計の概要を図5Dに示す。c)BALB/cマウスにPBSをi.m.免疫した。3週間後、マウスに1,000匹のPfCSP-Tc/Pbスポロゾイトをi.v.注射し、24時間後にPBSをi.m.注射した。グループ3は、グループ1およびグループ2の1回目の感染の対照感染として使用した。d)BALB/cマウスにBES-GL3(BVと記載)をi.v.免疫した。6時間後、マウスに1,000匹のPfCSP-Tc/Pbスポロゾイトをi.v.チャレンジ感染した。感染防御したマウスに1回目チャレンジの21日後に再チャレンジした。実験設計の概要を図5Eに示す。e)BALB/cマウスに0日目および21日目にPBSを2回i.m.免疫した。3週間後、マウスに1,000匹のPfCSP-Tc/Pbスポロゾイトをi.v.チャレンジ感染した。グループ5は、グループ4の2回目の感染の対照感染として使用した。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明では、マラリア治療剤、マラリア予防剤及び抗マラリア自然免疫賦活剤を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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