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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】回転ダンパー付きヒンジ並びに各種機器
(51)【国際特許分類】
   F16C 11/04 20060101AFI20220905BHJP
   F16F 9/14 20060101ALI20220905BHJP
   F16C 11/10 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
F16C11/04 F
F16F9/14 A
F16C11/10 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018097041
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019203517
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】513014628
【氏名又は名称】株式会社ナチュラレーザ・ワン
(74)【代理人】
【識別番号】100076831
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 捷雄
(72)【発明者】
【氏名】林 廷翰
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-529303(JP,A)
【文献】特開2014-083451(JP,A)
【文献】特開平06-033966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00-11/12
F16F 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器本体とこの機器本体へ取り付けられる蓋体のいずれか一方の側に取り付けられるシリンダー部材と、前記機器本体と前記蓋体のいずれか他方の側にその一端部が取り付けられ、前記シリンダー部材内に一方向へスライド規制されて回転可能に収容されるシャフト部材と、前記シリンダー部材内で当該シリンダー部材と共に回転可能かつ軸線方向へスライド可能に設けられたピストン部材と、前記ピストン部材を介した前記シリンダー部材と前記シャフト部材の相対回転に必要な回転トルクを軽減するように制御する回転トルク制御手段と、前記シリンダー部材と前記シャフト部材の相対回転を緩和する流体ダンパー手段とから成り、
前記回転トルク制御手段は、前記シャフト部材の端部に設けたカム部と、前記ピストン部材の前記カム部と対向する端部に設けられたカムフォロアー部と、前記シリンダー部材内で前記ピストン部材を付勢して前記カムフォロアー部を前記カム部に圧接させる弾性部材とを有し、
前記流体ダンパー手段は、前記シリンダー部材内で前記ピストン部材を挟んで前記シャフト部材側に設けたところの流体が充填された第1流体室と、前記シリンダー部材内で前記ピストン部材を挟んで前記シャフト部材と反対側に設けたところの流体が充填された第2流体室と、前記ピストン部材の外周と前記シリンダー部材の内周との間に形成される流体の第1通路と、前記ピストン部材の中心部を軸線方向に貫通させて設けられた流体の第2通路と、前記第2通路内に設けられ前記蓋体の開閉方向により前記第2通路を流通する流体を遮断する弁体を有すると共に
前記ピストン部材本体の中心に前記弾性部材側から挿入されて前記弾性部材の支持面を形成するシート部材を有し、前記第2通路は、前記ピストン部材を貫通する中心孔と、前記シート部材を貫通する中心孔と、前記ピストン部材本体に挿入された前記シート部材と前記ピストン部材本体の間に形成された隙間とで構成され、この隙間に前記弁体が設けられてい ることを特徴とする、回転ダンパー付きヒンジ。
【請求項2】
前記ピストン部材は、前記シリンダー部材の内周面に形成された軸線方向の凸条部に係合して前記ピストン部材の回転を規制する放射状の案内溝を有し、前記第1通路は、前記ピストン部材の外周と前記シリンダー部材の内周との間に形成される隙間であることを特徴とする、請求項1に記載の回転ダンパー付きヒンジ。
【請求項3】
前記シート部材は、前記弁体に当接して前記弁体と前記シート部材の間に流体の通路を形成する突起部を有し、前記弁体は、前記ピストン部材本体側へ移動することにより前記ピストン部材本体の前記第2通路を前記シート部材の前記第2通路から遮断し、前記シート部材側へ移動することにより前記突起部が形成する前記隙間が前記ピストン部材本体の前記第2通路を前記シート部材の前記第2通路に連通させることを特徴とする、請求項に記載の回転ダンパー付きヒンジ。
【請求項4】
前記シリンダー部材は、その一端側の開口から前記シャフト部材を挿入してその他端側の開口から前記シャフト部材の一部を突出させた状態で前記シャフト部材に係合して前記他端側への移動を規制する段差部を有し、前記シャフト部材は、前記段差部と前記カム部との間に前記第1流体室のシール構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の回転ダンパー付きヒンジ。
【請求項5】
前記シリンダー部材の前記一端側の開口に固定され、前記弾性部材を圧縮状態で支持して前記段差部に前記シャフト部材を係合させる栓部材を有し、前記栓部材に前記第2流体室のシール構造を有することを特徴とする、請求項に記載の回転ダンパー付きヒンジ。
【請求項6】
前記シリンダー部材は、その側面から回転軸線に沿って放射状に突出させた取付板を有し、この取付板を用いて前記シリンダー部材が前記蓋体に固定されることを特徴とする、請求項1に記載の回転ダンパー付きヒンジ。
【請求項7】
前記ピストン部材の傾きを規制するピストン軸を有さず、前記ピストン部材の直径よりも大きい前記ピストン部材と前記シリンダー部材の軸線方向の接触長さを有して前記ピストン部材の傾きが規制されることにより、前記ピストン部材は、軸線方向に垂直な断面のほぼ全体が流体からの受圧面であることを特徴とする請求項1に記載の回転ダンパー付きヒンジ。
【請求項8】
前記回転トルク制御手段は、前記蓋体の閉成状態において、前記カム部の頂上部の上面と前記カムフォロワーの頂上部の上面が共に平坦に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の回転ダンパー付きヒンジ。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の回転ダンパー付きヒンジを有し、前記シリンダー部材が前記蓋体に取り付けられ、前記シャフト部材が前記機器本体に取り付けられ、前記蓋体が閉じられる過程で前記弾性部材が圧縮されると共に弁体が前記第通路を遮断し、前記蓋体が開かれる過程で前記弾性部材の圧縮が減じられると共に弁体が前記第通路を開放するように構成したことを特徴とする、各種機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば洗濯機、食器洗い機、冷凍庫、事務機器、家具、及び便器などの各種機器において、機器本体に対して蓋体を開閉する用途に用いて好適な、回転ダンパー付きヒンジ並びにこの回転ダンパー付きヒンジを用いた各種機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車内、洗濯機、家具、トイレ等の各種機器において,機器本体に対して蓋体を開閉させる際に用いる回転ダンパー付きヒンジとしては、例えば下記特許文献1に記載されているように、ロータリーヒンジ部に回転トルク制御手段と流体ダンパー手段を組み合わせたものが公知である。この特許文献1の回転ダンパー付きヒンジは、機器本体に取り付けられるシリンダー部材と、蓋体にその一端部が取り付けられ、その他端部がカム部を有してシリンダー部材内に回転可能に収容されるシャフト部材と、このカム部に圧接して駆動されるカムフォロアー部を有すると共にシリンダー部材内に回転可能かつ軸線方向へスライド可能に収容されるピストン部材と、このピストン部材をシャフト部材側へ圧接する弾性部材とから成るロータリーヒンジ部に、シリンダー部材内でピストン部材を挟んでシャフト部材側に設けたところの流体が充填された第1流体室と、シリンダー部材内でピストン部材を挟んでシャフト部材と反対側に設けたところの流体が充填された第2流体室と、ピストン部材を軸線方向に貫通させて設けられた流体の第1通路と、から成る流体ダンパー手段を組み合わせ、蓋体の開閉操作に伴って流体が第1通路を通して第1流体室と第2流体室との間を流通することによりヒンジ部による蓋体の開閉操作に伴う急激な開閉動作を緩和する回転ダンパー付きヒンジが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-247522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の回転ダンパー付きヒンジは、ロータリーヒンジ部による機器本体に対する蓋体の開成操作時と閉成操作時とで流体ダンパー手段による緩和能力は同じである。しかしながら、ロータリーヒンジ部を用いて機器本体に対して上下方向に開閉される蓋体の場合、蓋体の急速な落下を防止するために閉成操作時では大きな緩和能力を有することが望まれる一方、開成操作時では、主として蓋体を持ち上げる負荷を軽減し、蓋体の急激な跳ね上げを防止するために閉成操作時よりも比較的に小さな緩和能力を発揮できるようにすることが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、機器本体に対する蓋体の開成操作時と閉成操作時とでロータリーヒンジ部による回転トルクに対する緩和性能に差を設け、蓋体の閉成操作時には大きな緩和性能を発揮して蓋体の急激な落下を防止し、開成操作時には比較的に小さな緩和性能を発揮して軽い力で蓋体を開くことができる流体ダンパー手段を用いた回転ダンパー付きヒンジ並びにこの回転ダンパー付きヒンジを用いた各種機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の回転ダンパー付きヒンジは、機器本体とこの機器本体へ取り付けられる蓋体のいずれか一方の側に取り付けられるシリンダー部材と、前記機器本体と前記蓋体のいずれか他方の側にその一端部が取り付けられ、前記シリンダー部材内に一方向へスライド規制されて回転可能に収容されるシャフト部材と、前記シリンダー部材内で当該シリンダー部材と共に回転可能かつ軸線方向へスライド可能に設けられたピストン部材と、前記ピストン部材を介した前記シリンダー部材と前記シャフト部材の相対回転に必要な回転トルクを軽減するように制御する回転トルク制御手段と、前記シリンダー部材と前記シャフト部材の相対回転を緩和する流体ダンパー手段とから成り、前記回転トルク制御手段は、前記シャフト部材の端部に設けたカム部と、前記ピストン部材の前記カム部と対向する端部に設けられたカムフォロアー部と、前記シリンダー部材内で前記ピストン部材を付勢して前記カムフォロアー部を前記カム部に圧接させる弾性部材とを有し、前記流体ダンパー手段は、前記シリンダー部材内で前記ピストン部材を挟んで前記シャフト部材側に設けたところの流体が充填された第1流体室と、前記シリンダー部材内で前記ピストン部材を挟んで前記シャフト部材と反対側に設けたところの流体が充填された第2流体室と、前記ピストン部材の外周と前記シリンダー部材の内周との間に形成される流体の第1通路と、前記ピストン部材の中心部を軸線方向に貫通させて設けられた流体の第2通路と、前記第2通路内に設けられ前記蓋体の開閉方向により前記第2通路を流通する流体を遮断する弁体とを有すると共に
前記ピストン部材本体の中心に前記弾性部材側から挿入されて前記弾性部材の支持面を形成するシート部材を有し、前記第2通路は、前記ピストン部材を貫通する中心孔と、前記シート部材を貫通する中心孔と、前記ピストン部材本体に挿入された前記シート部材と前記ピストン部材本体の間に形成された隙間とで構成され、この隙間に前記弁体が設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2発明では、前記ピストン部材は、前記シリンダー部材の内周面に形成された軸線方向の凸条部に係合して前記ピストン部材の回転を規制する放射状の案内溝を有し、前記第1通路は、前記ピストン部材の外周と前記シリンダー部材の内周との間に形成される隙間であることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項発明では、前記シート部材は、前記弁体に当接して前記弁体と前記シート部材の間に流体の通路を形成する突起部を有し、前記弁体は、前記ピストン部材本体側へ移動することにより前記ピストン部材本体の前記第2通路を前記シート部材の前記第2通路から遮断し、前記シート部材側へ移動することにより前記突起部が形成する前記隙間が前記ピストン部材本体の前記第2通路を前記シート部材の前記第2通路に連通させることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項発明では、前記シリンダー部材は、その一端側の開口から前記シャフト部材を挿入してその他端側の開口から前記シャフト部材の一部を突出させた状態で前記シャフト部材に係合して前記他端側への移動を規制する段差部を有し、前記シャフト部材は、前記段差部と前記カム部との間に前記第1流体室のシール構造を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項発明では、前記シリンダー部材の前記一端側の開口に固定され、前記弾性部材を圧縮状態で支持して前記段差部に前記シャフト部材を係合させる栓部材を有し、前記栓部材に前記第2流体室のシール構造を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項発明では、前記シリンダー部材は、その側面から回転軸線に沿って放射状に突出させた取付板を有し、この取付板を用いて前記シリンダー部材が前記蓋体に固定されることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項発明では、前記ピストン部材の傾きを規制するピストン軸を有さず、前記ピストン部材の直径よりも大きい前記ピストン部材と前記シリンダー部材の軸線方向の接触長さを有して前記ピストン部材の傾きが規制されることにより、前記ピストン部材は、軸線方向に垂直な断面のほぼ全体が流体からの受圧面であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項発明では、前記蓋体の閉成状態において、前記カム部の頂上部の上面と前記カムフォロワーの頂上部の上面が共に平坦に形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の各種機器では、請求項1~のいずれか1項に記載の回転ダンパー付きヒンジを有し、前記シリンダー部材が前記蓋体に取り付けられ、前記シャフト部材が前記機器本体に取り付けられ、前記蓋体が閉じられる過程で前記弾性部材が圧縮されると共に弁体が前記第通路を遮断し、前記蓋体が開かれる過程で前記弾性部材の圧縮が減じられると共に弁体が前記第通路を開放するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1発明によれば、機器本体に対する蓋体の閉成操作時と開成動作時とで回転トルク制御手段が創出する回転トルクの緩和性能に差を設け、蓋体の閉成操作時には大きな緩和性能を発揮できるが、開成操作時には比較的小さな緩和性能を発揮して、蓋体の開閉時の操作性を向上させた回転ダンパー付きヒンジを提供することができる。そして、ねじ等の固定部材を使用しない簡単な構造で弁体を軸線方向へ移動可能に保持することができる。
【0017】
本発明の請求項2発明によれば、簡単な構造でピストン部材をシリンダー部材に対して回転止めできる。そして、シャフト部材からピストン部材へ大きなトルクが伝達されて溝部と突起部の接触圧力が大きくなった場合でも、流体を潤滑材にしてピストン部材が軸線方向に滑らかに移動できる。
【0019】
本発明の請求項発明によれば、弁体が弾性部材シート部材側へ移動した際に、弁体と弾性部材シート部材の隙間を介して流体を第2通路から第3通路へ抵抗少なく流すことができる。
【0020】
本発明の請求項発明によれば、シリンダー部材の一端側の開口からシャフト部材を挿入してその他端側の開口からシャフト部材の一部を突出させると、シリンダー部材の段差部がシャフト部材に係合してシャフト部材が軸線方向の所定位置に位置決められる。
【0021】
本発明の請求項発明によれば、栓部材に一端を支持された弾性部材によりピストン部材を介してシャフト部材を押圧してシャフト部材をシリンダー部材の段差部に係合させてシャフト部材を位置決めることができる。
【0022】
本発明の請求項発明によれば、取付板を用いて蓋体からシリンダー部材の軸線方向のほぼ全体に等しくトルクを伝達することができる。
【0023】
本発明の請求項発明によれば、ピストン部材の軸線方向に垂直な断面のほぼ全体が流体からの受圧面であるため、ピストン部材が小口径であってもピストン部材の移動に伴って二つの空間の間を移動する流体の流量を確保して大きな減衰力を発揮させることができる。
【0024】
本発明の請求項発明によれば、蓋体の閉成状態において、回転トルク制御手段がより安定的に回転トルクを創出しないので、蓋体の閉成状態が安定するという作用効果を発揮し得る。
【0025】
本発明の請求項発明によれば、蓋体を開く際には蓋体本来の重量を感じさせることなく開くことができた上で、急激な跳ね上がりを防止でき、蓋体を閉じる際には大きな減衰力を出力して蓋体の急激な落下を防止できる各種機器を提供できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本願発明に係る回転ダンパー付きヒンジを用いた各種機器の1例としての洗濯機を示し、(a)は蓋体の開成状態の正面図、(b)は蓋体の閉成状態の正面図である。
図2図1に示した回転ダンパー付きヒンジの取付部分の拡大図であって、(a)は蓋体の開成状態の正面図、(b)は蓋体の閉成状態の正面図である。
図3図2に示した回転ダンパー付きヒンジの斜視図である。
図4図2に示した回転ダンパー付きヒンジの分解斜視図である。
図5図2に示した回転ダンパー付きヒンジの軸線に沿った断面図であって、(a)は全体の断面図、(b)はピストン部材及びシート部材の断面図である。
図6図2に示した回転ダンパー付きヒンジのシリンダー部材の説明図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA1-A1断面図、(c)は(a)のA2-A2断面図、(d)は(a)のA3-A3断面図、(e)は(d)のA4-A4縦断面図である。
図7図2に示した回転ダンパー付きヒンジのシャフト部材の説明図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は左側面図である。
図8図2に示した回転ダンパー付きヒンジのピストン部材の説明図であり、(a)は斜視図、(b)は左側面図、(c)は右側面図である。
図9図2に示した回転ダンパー付きヒンジのシート部材の説明図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)の軸線に沿った縦断面図である。
図10図2に示した回転ダンパー付きヒンジの栓部材の説明図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)の軸線に沿った縦断面図である。
図11図2に示した回転ダンパー付きヒンジの軸線方向から見た第1通路及び第2通路の説明図である。
図12図2に示した回転ダンパー付きヒンジの開成操作時の説明図であり、(a)は蓋体の閉成状態、(b)は閉成状態と開成状態の中間状態、(c)は蓋体の開成状態である。
図13図2に示した回転ダンパー付きヒンジの開成操作時の中間状態における弁体の動作の説明図である。
図14図2に示した回転ダンパー付きヒンジの閉成操作時の説明図であり、(a)は蓋体の開成状態、(b)は開成状態と閉成状態の中間状態、(c)は蓋体の閉成状態である。
図15図2に示した回転ダンパー付きヒンジの閉成操作時の中間状態における弁体の動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付した図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では洗濯機に用いられる蓋体の回転ダンパー付きヒンジの実施例を説明するが、本発明に係る回転ダンパー付きヒンジは、上述したように、洗濯機以外の家電機器、業務用機器、複写機などの事務機器においても用いることができる。したがって、本発明の回転ダンパー付きヒンジを用いる機器を広く各種機器とする。
【0028】
また、複写機、複合機、印刷機、ファクシミリ、スキャナーなどの事務機器において本発明の回転ダンパー付きヒンジを原稿圧着板の回転ダンパー付きヒンジとして用いる場合、発明の目的の項と発明の要約の項、並びに以下の説明及び特許請求の範囲においては、蓋体を原稿圧着板と読み替え、発明の名称を原稿圧着板の回転ダンパー付きヒンジと読み替えることができる。
【0029】
また、本願明細書並びに特許請求の範囲に記載された支持板部、取付部、シリンダー部材、シャフト部材、ピストン部材、弾性部材、回転トルク制御手段、流体ダンパー手段等の用語は、その一実施例として用いた具体的な取付板11e、取付部12e、シリンダー部材11、シャフト部材12、ピストン部材C、弾性部材15、回転トルク制御手段A、流体ダンパー手段B等には限定されず、以下に記載したものよりさらに広い概念のものである。
【実施例1】
【0030】
図1(a)、(b)に示すように、各種機器の1例としての洗濯機5を例にとるが、本発明に係る回転ダンパー付きヒンジ3、4は、洗濯機5以外の上記した各種機器に広く用いられるものである。蓋体2は、一対の回転ダンパー付きヒンジ3、4を用いて機器本体1に対して上下に開閉可能に取り付けられている。洗濯機5の操作者は、図1(a)の開成状態と図1(b)の閉成状態との間で蓋体2を上下に開閉して洗濯機5に対する必要な開閉操作を行う。
【0031】
一対の回転ダンパー付きヒンジ3、4は、左右対称の部品を用いて左右対称に組み立てられている。このため、以下の説明では、右側の回転ダンパー付きヒンジ3について説明し、左側の回転ダンパー付きヒンジ4については、重複するので説明を省略する。また、本発明においては、左右一対の回転ダンパー付きヒンジ3、4で、蓋体2の開閉操作に伴う回転トルクを制御し、その開閉動作時の緩衝動作を行うが、以下の説明では、回転ダンパーヒンジ3の説明のみをもってこれに代えている。
【0032】
図2(a)、(b)に示すように、回転ダンパー付きヒンジ3のシャフト部材12は、シリンダー部材11内に軸線方向の一方向へスライド規制されて回転可能に収容されている。
【0033】
回転ダンパー付きヒンジ3は、シャフト部材12が機器本体1の取付部1aの変形挿入孔1eに挿入して固定され、シリンダー部材11が蓋体2に固定され、非回転のシャフト部材12に対してシリンダー部材11が相対回転することにより、蓋体2を機器本体1に対して開閉させる。
【0034】
図3に示すように、シリンダー部材11は、その側面から回転軸線に沿って放射状に突出させた取付板11eを有し、この取付板11eに形成された孔11gを用いて、蓋体2のフレーム2aに形成された雌ねじ2bに取付ねじ11nを締め付けることにより、シリンダー部材11が蓋体2に固定される。
【0035】
しかし、シリンダー部材11は、機器本体1とこの機器本体1へ取り付けられる蓋体2のいずれか一方の側に取り付け、シャフト部材12は、機器本体1と蓋体2のいずれか他方の側にその一端部が取り付けることができる。したがって、別の実施例として、回転ダンパー付きヒンジ3は、シリンダー部材11を機器本体1側に固定して、シャフト部材12を蓋体2側に取り付けてもよい。
【0036】
図4に示すように、回転ダンパー付きヒンジ3は、シリンダー部材11の図中右側の開口11cからシャフト部材12、ピストン部材C、弾性部材15、栓部材16等の部品を挿入して組み立てられている。
【0037】
図5(a)に示すように、シリンダー部材11内でピストン部材Cを挟んでシャフト部材12側に第1流体室S1が設けられ、シャフト部材12と反対側に第2流体室S2が設けられている。第1流体室S1および第2流体室S2には、流体Fのオイルが充填されている。栓部材16に第2流体室S2のシール構造D2が設けられ、シャフト部材12の段差部11kとカム部12nとの間に第1流体室S1のシール構造D1が設けられている。シール構造D1、D2は、シリンダー部材11の両端を封止して、ピストン部材Cによって区画されたシリンダー部材11内の第1流体室S1と第2流体室S2に流体Fを閉じ込めている。シール構造D1は、シャフト部材12のリング溝12mにOリング12rを取り付けて構成され、シリンダー部材11の内周面11iとシャフト部材12との隙間をOリング12rにより封止する。シール構造D2は、栓部材16のリング溝16mにOリング16rを取り付けて構成され、シリンダー部材11の内周面11iと栓部材16との隙間をOリング16rにより封止する。
【0038】
図5(b)に示すように、第1流体室S1と第2流体室S2は、第1通路G1および第2通路G2により相互に連結されている。第1通路G1は、ピストン部材Cの外周面13aとシリンダー部材11の内周面11iとの間に形成され、第1流体室S1と第2流体室S2との間で双方向に流体Fが移動可能である。しかし、第2通路G2は、ピストン部材Cの中心部を軸線方向に貫通させて設けられ、第1流体室S1から第2流体室S2へ流体Fが移動可能であるが、その逆方向の移動は弁体18により規制されている。弁体18は、第2通路G2内に設けられ、蓋体2の開閉方向により第2通路G2を流通する流体Fを遮断する。なお、流体Fとしては、液体の他に空気その他の気体を用いてもよい。なお、図5(b)では、ピストン部材Cの外周面13aとシリンダー部材11の内周面11iの隙間は、第1通路G2を図示する都合上、誇張して実際よりも広く図示している。
【0039】
図6(a)に示すように、シリンダー部材11は、樹脂成型により一体に形成され、シリンダー壁11aの表面には、補強のための不図示の網目状のリブ構造が形成されている。
【0040】
図6(e)に示すように、シリンダー壁11aの軸線方向の一端に円筒部11bが接続され、図中右側の開口11cよりも内径の大きな内周面11iを経て、内周面11iよりもさらに内径の大きな開口11dに接続している。内周面11iは、ピストン部材Cのスライド面を形成している。開口11cと開口11dの中間に段差部11k及び複数の凸条部11j、11j・・が形成され、この凸条部11jにより同じく複数の案合溝部11m、11m・・が形成されている。図5(a)に示すように、段差部11kは、軸線方向の一端側の開口11dから挿入されたシャフト部材12の取付部12eを他端側の開口11cから外部へ突出させた状態で他端側へ向かうシャフト部材12の移動を規制する。凸条部11jは、ピストン部材本体13の案内溝13cを保持してピストン部材Cを軸線方向に移動可能にしつつピストン部材Cを円周方向に拘束してシリンダー部材11と一体に回転させる。凸条部11jは、シリンダー部材11に対してピストン部材Cを回転止めする。
【0041】
図6(a)に示すように、シリンダー部材11は、軸線方向のほぼ全長にわたって放射方向(接線方向)の取付板11eが接続されている。図6(b)~(d)に示すように、取付板11eの一方の面は、シリンダー壁11aの外周との間を三角形に埋めて多数のリブ壁11hを設けることにより回転方向に補強されている。図3に示すように、取付板11eの他方の面は、蓋体2のフレーム2aを取り付けるために平面となっている。
【0042】
図7(a)に示すように、シャフト部材12は、外径の等しい大径部12aと大径部12cの間にリング溝12mを形成し、大径部12aに段差部12fを介して小径部12bを接続している。小径部12bに接続する取付部12eは、小径部12bと同一の外径を有し、平行な2面のDカットが形成されている。
【0043】
図5(a)に示すように、シャフト部材12の大径部12a、12cは、シリンダー部材11の内周面11iに回転自在に保持され、シャフト部材12の小径部12bは、シリンダー部材11の開口11cに回転自在に保持される。ピストン部材Cを介して弾性部材15により軸線方向に付勢されたシャフト部材12は、段差部11kに段差部12fを係合させて軸線方向に位置決められている。
【0044】
図7(a)に示すように、シャフト部材12の先端には、カム部12nが形成されている。図7(b)に示すように、カム部12nは、上面が平坦な一対の頂上部12iと底面が平坦な一対の谷底部12jとをそれぞれ傾斜部12kにより構成されている。カム部12nは、円周方向に180度位相をずらせて同じ形状のものが配置されて一対となっている。
【0045】
カム部12nに対応させて、図8(a)に示すように、ピストン部材本体13に一対のカムフォロアー部13nが配置されている。カム部12nとカムフォロアー部13nの接触位置は、中心軸に対して点対称に2か所形成されるので、それぞれの接触点で発生する軸線方向に垂直な方向の力(ラジアル力)が相殺されてトルクのみがピストン部材本体13に作用する。これにより、カム部12nとカムフォロアー部13nの間で大きなトルクが伝達された場合でも、ピストン部材本体13とシリンダー部材11との間に偏った大きな摩擦力が作用することを回避している。
【0046】
なお、図7図8に示すように、シャフト部材12のカム部12nおよびピストン部材本体13のカムフォロアー部13nのカム形状は、蓋体2の約90度の開閉動作に伴って専ら片側の傾斜部12k、13kを摺擦させて使用するため、上面が平坦な頂上部12i、13iを挟む2つの傾斜部が非対称である。しかし、図5(a)では説明を簡略化するために、1つの頂上部12i、13iを挟む2つの傾斜部を対称に図示している。
【0047】
図5(a)に示すように、ピストン部材Cは、中心に第2通路G2が形成されたピストン部材本体13と、このピストン部材本体13の中心に弾性部材15側から挿入されて弾性部材15の支持面を形成するシート部材14とを有する。図5(b)に示すように、弁体18は、ピストン部材本体13に挿入されたシート部材14とピストン部材本体13の間の隙間Eに設けられている。
【0048】
ピストン部材Cは、シリンダー部材11内に回転規制されて軸線方向へスライド可能に収容される。ピストン部材Cは、非回転のシャフト部材12に対するシリンダー部材11の回転に伴って回転し、シャフト部材12のカム部12nとカムフォロアー部13nの当接位置を変化させて軸線方向に移動する。ピストン部材Cの軸線方向の移動に伴って第1流体室S1と第2流体室S2の間で流体Fが移動する。
【0049】
図8(a)に示すように、ピストン部材本体13は樹脂成型により円柱状に形成され、その一端部にカムフォロアー部13nが形成されている。カムフォロアー部13nは、頂上部13iと谷底部13jを傾斜部13kにより滑らかに連絡しており、頂上部13iの上面部と谷底部13jの底面は平坦に形成してある。カムフォロアー部13nは、円周方向に180度位相をずらせて同じ形状のものが配置されて一対となっている。
【0050】
ピストン部材本体13は、カムフォロアー部13nが形成された反対側の外周面13aに90度ごとの4か所の凸条部13bを設けている。図8(b)に示すように、凸条部13bは、外周面13aから直径方向に突出している。
【0051】
図8(c)に示すように、ピストン部材本体13のカムフォロアー部13nと反対側の端面にシート部材14の円柱状の挿入部14bが挿入される挿入穴13dが形成されている。図5(b)に示すように、挿入穴13dの入口側に円錐面状のテーパ13hを設けてシート部材14の円柱状の挿入部14bとの間に隙間ができるようにしている。
【0052】
挿入穴13dの底面13fは、平坦で中央にピストン部材本体13を貫通する中心孔13eが形成されている。ピストン部材本体13の底面13fには、挿入穴13dの底面13fを囲むように4つの扇形の突起部13gが形成されている。図11に示すように、4つの突起部13gは、弁体18の外周を保持して弁体18を中心孔13eに位置決め、シート部材14の挿入部14bの先端とピストン部材本体13の底面13fとの隙間Eに配置された円板状の弁体18の外周を案内して、弁体18を軸線方向へ移動可能に保持する。
【0053】
図9(a)に示すように、シート部材14は、弾性部材15を受け止めるフランジ部14aに続いて円柱状の挿入部14bが設けられている。挿入部14bをピストン部材本体13の挿入穴13dに挿入することにより、ピストン部材本体13の中心孔13eとシート部材14の中心孔14eとが連通する。シート部材14の挿入部14bの端面14cには、中心孔14eを囲んで4つの突起部14dが形成されている。
【0054】
図5(a)に示すように、弾性部材15に付勢されてピストン部材本体13とシート部材14のフランジ部14aとが密着して挿入部14bの先端とピストン部材本体13の底面13fとの間に弁体18を保持した隙間Eが形成される。弁体18は、隙間Eに保持されて隙間Eの範囲で軸線方向に移動して中心孔14eを開放/遮断する。
【0055】
図5(b)に示すように、突起部14dは、ピストン部材本体13の底面13fとの隙間Eに配置された弁体18の一方の面に当接して弁体18を端面14cから離れた位置に保持する。このため、弁体18が突起部14dに当接した状態で弁体18と端面14cとの間隔を流体Fが自由に流れることができる。
【0056】
図5(a)に示すように、栓部材16は、シリンダー部材11の一端側の開口11dに固定され、弾性部材15を圧縮状態で支持して段差部11kにシャフト部材12を係合させる。シャフト部材12から弾性部材15までの部品を開口11dからシリンダー部材11内に収納した後、開口11dに栓部材16を挿入して固定することにより回転ダンパー付きヒンジ3が組み立てられている。この組立状態において、シート部材14のフランジ面14fと栓部材16の底面16bとの間に弾性部材15が圧縮状態で挟み込まれている。弾性部材15は、シート部材14を栓部材16から遠ざけるように付勢して、シャフト部材12のカム部12nにピストン部材本体13のカムフォロアー部13nを圧接させる。
【0057】
図10(a)に示すように、栓部材16は、有底円筒状の外観を有し、底面16b側の外周面16aにリング溝16mが形成され、リング溝16mと反対側の外周面16aには、周方向の90度ごとの4か所にピン19が挿入されるピン孔16fが形成されている。ピン19は、溝付きのノックピンであって、ピン孔16fに圧入して保持され、栓部材16をシリンダー部材11の軸線方向の所定位置に位置決める。
【0058】
図10(b)に示すように、栓部材16の中心を軸線方向に貫通させて、シリンダー部材11内の第2流体室S2に流体Fを注入するための注入口16eが形成されている。シリンダー部材11内に流体Fを注入した後、Oリング17rを介して封止ねじ17を注入口16cに装着することにより、シリンダー部材11内に流体Fが閉じ込められている。
【0059】
図11は、シリンダー部材11に挿入されたピストン部材Cからシート部材(14)を取り除いて弁体18の設置状態を図示している。図11に示すように、ピストン部材本体13は、シリンダー部材11の内周面11iに中心に向かって形成された軸線方向に連続する凸条部11jに係合する放射状の案内溝13cを有する。案内溝13cは、凸条部11jに係合してピストン部材Cの回転を規制すると共に、ピストン部材Cを軸線方向に案内する。案内溝13cは、ピストン部材本体13の周方向における2つの凸条部13bの間に、外周面13aと同一外径を持たせて形成されている。シリンダー部材11の複数の凸条部11jは、ピストン部材本体13の複数の案内溝13cにそれぞれ係合し、複数の案合溝部11mはピストン部材本体13の複数の凸条部とそれぞれ係合している。このことによって、シリンダー部材11はピストン部材Cと係合し、軸方向へは単独でスライド可能であるが、共に回転するように構成されている。即ち、シリンダー部材11は、ピストン部材本体13と共に回転し、ピストン部材本体13はシリンダー部材11内で軸方向へスライドしつつ、シリンダー部材1を回転させる。


【0060】
図5(a)に示すように、回転ダンパー付きヒンジ3は、蓋体2の開閉操作に伴うシリンダー部材11の回転動作により、二種類の回転トルクを創出させて蓋体2の開閉動作を制御する回転ダンパーを備えている。また、図1に示すように、洗濯機5は、シリンダー部材11が蓋体2に取り付けられ、シャフト部材12が機器本体1に取り付けられている。そして、蓋体2が開かれる過程では、図12に示すように弾性部材15の圧縮が減じられると共に図13に示すように弁体18が第2通路G2を開放する。一方、蓋体2が閉じられる過程では、図14に示すように弾性部材15が圧縮されると共に図15に示すように弁体18が第2通路G2を遮断する。
【0061】
図5(a)に示すように、回転トルク制御手段Aは、シャフト部材12の端部に設けたカム部12nと、ピストン部材本体13のカム部12nと対向する側に設けられたカムフォロアー部13nと、ピストン部材Cを付勢してカムフォロアー部13nをカム部12nに圧接させる弾性部材15とで構成され、シリンダー部材11とシャフト部材12の相対角度に応じた回転トルクを出力する。
【0062】
図5(a)に示すように、回転トルク制御手段Aは、シャフト部材12とシリンダー部材11の間の蓋体2を閉じる方向の相対回転を、コンプレッションスプリングから成る弾性部材15の付勢に抗したピストン部材Cの移動に変換することにより、弾性部材15を圧縮してアシスト力を蓄積させる。そして、回転トルク制御手段Aは、シャフト部材12とシリンダー部材11の間の蓋体2を開く方向の相対回転を、弾性部材15の付勢に従ったピストン部材Cの移動に変換することにより、弾性部材15の圧縮を減じつつ蓋体2にアシスト力を作用させる。
【0063】
図5(a)に示すように、流体ダンパー手段Bは、シリンダー部材11内でピストン部材Cを挟んでシャフト部材12側に設けたところの流体Fが充填された第1流体室S1と、シリンダー部材11内でピストン部材Cを挟んでシャフト部材12と反対側に設けたところの流体Fが充填された第2流体室S2と、ピストン部材Cの外周とシリンダー部材11の内周との間に形成される流体Fの第1通路G1と、ピストン部材Cの中心部を軸線方向に貫通させて設けられた流体の第2通路G2と、第2通路G2内に設けられ蓋体2の開閉方向により第2通路G2を流通する流体Fを遮断する弁体18とで構成され、シリンダー部材11とシャフト部材12の相対速度に応じた回転トルクを出力する。
【0064】
第1流体室S1と第2流体室S2との間には、図11に示すように、ピストン部材本体13の外周面13aとシリンダー部材11の内周面11iとの間に設けられた第1通路G1と並行させて、ピストン部材Cを貫通させて設けられた第2通路G2が形成されている。なお、第1通路は、ピストン部材本体13の外周面13aとシリンダー部材11の内周面11iのうち少なくとも一方に設けた軸線方向の溝で形成してもよく、ピストン部材本体13を中心孔13eから離れた位置で貫通させた小口径の別の貫通孔で形成してもよい。
【0065】
図5(b)に示すように、第1通路G1は、ピストン部材本体13の外周面13aとシリンダー部材11の内周面11iとの間に形成される軸線方向の隙間である。図11に示すように、シリンダー部材11の内周面11iは、ピストン部材本体13の外周面13aを軸線方向へスライド可能に保持する。シリンダー部材11の内周面11iとピストン部材本体13の外周面13aとの間にはわずかな隙間が確保されていて、この隙間に流体Fによる潤滑層が形成されている。このため、図14に示すように、ピストン部材Cの軸線方向の移動に伴って第1流体室S1と第2流体室S2の流体Fに圧力差が発生すると、圧力の高い側から圧力の低い側へシリンダー部材11とピストン部材Cの隙間を流体Fが少しずつ漏れ出す。
【0066】
図5(b)に示すように、第2通路G2は、ピストン部材本体13の中心を貫通する中心孔13e、シート部材14の中心を貫通する中心孔14e、およびピストン部材本体13とシート部材14の隙間Eとが連通して形成される。シート部材14は、弁体18を介してピストン部材本体13の中心孔13eに連通する中心孔14eと、弁体18に当接して弁体18とシート部材14の間に隙間を形成する突起部14dと、を有する。弁体18は、図15に示すようにピストン部材本体13側へ移動することにより、ピストン部材本体13の中心孔13eをシート部材14の中心孔14eから遮断し、図12に示すようにシート部材14側へ移動することにより突起部14dが形成する隙間がピストン部材本体13の中心孔13eをシート部材14の中心孔14eに連通させる。
【0067】
回転ダンパー付きヒンジ3においては、ピストン部材Cは、中心にピストン部材Cを支持もしくは案内してピストン部材Cの傾きを規制するピストン軸を有さず、ピストン部材Cの直径よりも大きいピストン部材Cとシリンダー部材11の軸線方向の接触長さを有して、この接触長さによりピストン部材Cの傾きを規制して、ピストン部材Cとシリンダー部材11の間に偏った大きな摩擦や引っ掛かりが発生することを回避している。すなわち、ピストン部材Cは、シリンダー部材11の内周面11iに対する軸線方向の接触長さを長くすることにより、シリンダー部材11の軸線方向に垂直な断面に対するピストン部材Cの面の傾きを抑制している。このため、シリンダー部材11の内周面11iに対するピストン部材Cの摩擦を安定させ、ピストン部材Cの滑らかな軸線方向の移動を実現している。そして、ピストン部材Cは、ピストン軸を有しないため、軸線方向に垂直な断面のほぼ全体が流体Fからの受圧面である。このため、小口径のピストン部材Cであっても軸線方向の移動に伴って大量の流体Fを移動させて蓋体2に大きな減衰力を作用させることができる。
【0068】
以上のように構成された回転ダンパー付きヒンジ3の開成操作時の動作を、図12図13を参照して説明する。図1(b)に示すように、蓋体2の閉成状態においては、回転ダンパー付きヒンジ3の閉成操作時において弾性部材15を圧縮して弾性エネルギーを蓄積した状態で、蓋体2がその重量モーメントにより閉成状態を保っている。図12(a)に示すように、蓋体2の閉成状態では、シャフト部材12の平坦な頂上部12iとピストン部材本体13の平坦な頂上部13iとが圧接して圧接状態を安定的に保持しているため、ピストン部材Cとシャフト部材12の間には回転トルクが発生せず、回転ダンパー付きヒンジ3は蓋体2に回転トルク(アシストトルク)を作用していない。したがって、機器本体1の多少の振動や揺れに対しても、蓋体2が自然に開いてしまうことはない。
【0069】
操作者が蓋体2を開成状態へ移行させるべく、蓋体2の手前側に手を添えて蓋体2を少し持ち上げると、最初はそれぞれ平坦の上面部を有する頂上部12iと13iとが圧接状態で擦れ合う抵抗に遭遇するが、非回転のシャフト部材12に対してピストン部材本体13が相対回転して、シャフト部材12の傾斜部12kとピストン部材本体13の傾斜部13kとが圧接を開始され、ピストン部材本体13に回転トルクが発生することから、このピストン部材本体13と係合しているシリンダー部材11に蓋体2を持ち上げる方向の回転トルクが発生して、蓋体2はそれ本来の重量を感じさせることなく開くことができる。
【0070】
操作者が蓋体2を持ち上げると、蓋体2は、回転トルク制御手段Aが出力する回転トルクにアシストされた軽い力で持ち上げられる。そして、蓋体2を60度以上まで持ち上げると、蓋体2の重心がシャフト部材12に近付いて蓋体2の重量モーメントが回転トルク制御手段Aの回転トルクよりも小さくなるので、蓋体2から手を放しても回転トルク制御手段Aの回転トルクによって自律的に蓋体2が上昇して90度の開成位置で停止する。このとき、流体ダンパー手段Bが蓋体2の回転を緩衝して蓋体2の急激な跳ね上がりを防止する。また、操作者が勢いよく蓋体2を上方へ回転させた場合でも、流体ダンパー手段Bに緩衝されて蓋体2の速度が低下し、蓋体2は緩やかに開かれる。
【0071】
図12(b)に示すように、開成操作時の回転トルク制御手段Aでは、シャフト部材12の傾斜部12kとピストン部材本体13の傾斜部13kとが圧接し、弾性部材15に付勢されたピストン部材Cが非回転のシャフト部材12に向かって軸線方向に移動しつつ回転して蓋体2を持ち上げる方向の回転トルクを出力する。その後、図12(c)に示すように、シャフト部材12の頂上部12iがピストン部材本体13の谷底部13jに落ち込み、ピストン部材本体13の頂上部13iがシャフト部材12の谷底部12jに落ち込むと、ピストン部材Cの回転が停止して、回転トルクは出力されなくなり、蓋体2を開成状態に位置決めた状態でピストン部材Cが停止して位置保持される。
【0072】
図13に示すように、開成操作時の流体バンパー手段Bでは、非回転のシャフト部材12の傾斜部12kに案内されたピストン部材本体13の矢印R1方向の移動に伴って、第1流体室S1の流体Fが第2通路G2を通じて第2流体室S2へ流れ込む。このため、流体Fの粘性抵抗と流量に応じて、第1流体室S1の流体Fの圧力は、第2流体室S2の流体Fの圧力よりも高くなる。そして、この第1流体室S1と第2流体室S2の圧力差が、弾性部材15に付勢されて矢印R1方向の移動するピストン部材Cの移動を緩衝して移動速度を低下させる。
【0073】
このとき、図13に示すように、ピストン部材Cが矢印R1方向へ移動して第1流体室S1の流体Fがピストン部材本体13の中心孔13eへ流れ込む。第2通路G1に矢印R1と反対方向に流体Fが流れ、この流体Fの流れが弁体18をシート部材14側へ移動させて中心孔13eをシート部材14の中心孔14eに連通させる。このため、第2通路G2を通じて第1流体室S1から第2流体室S2へ流体Fが流れ込み、ピストン部材Cを挟む第1流体室S1と第2流体室S2との間には大きな圧力差が発生しない。蓋体2の開成操作時は、第2通路G2を通じて流体Fの流量が確保されるため、流体ダンパー手段Bは、蓋体2の急激な回転には応答して蓋体2の回転速度を緩衝するが、通常の回転速度の範囲では蓋体2の回転速度をほとんど緩衝しない。したがって、各種機器の1例である洗濯機5の操作者は、流体ダンパー手段Bによる強い緩和力に遭遇することはないが、弾性部材15からアシスト力を得て、軽い力で速やかに蓋体2を開成状態へ移動させることができる。しかしながら、この流体ダンパー手段Bにより、蓋体2は急激に跳ね上がることはない。
【0074】
次に、図14図15を参照して、回転ダンパー付きヒンジ3の閉成操作時の動作を説明する。図1(a)に示すように、蓋体2の開成状態においては、図14(a)に示すように、非回転のシャフト部材12の頂上部12iがピストン部材本体13の谷底部13jに落ち込んで保持され、ピストン部材本体13の頂上部13iがシャフト部材12の谷底部12jに落ち込んで保持されている。このため、蓋体2に外部から振動や衝撃が加えられても開成状態の蓋体2が閉成状態へ向かって自然に落下してしまうことはない。
【0075】
操作者が蓋体2を閉成状態へ移行させるべく、蓋体2の先端側に手を添えて手前側へ引き下げると、蓋体2は、シャフト部材12を支点にして手前側へ回転を開始し、図14(b)に示すように、非回転のシャフト部材12の傾斜部12kに対してピストン部材本体13の傾斜部13kが圧接を開始する。閉成操作時の回転トルク制御手段Aでは、シャフト部材12の傾斜部12kとピストン部材本体13の傾斜部13kとが圧接し、弾性部材15の付勢に抗してピストン部材Cを非回転のシャフト部材12から軸線方向に遠ざけるように回転させる。操作者は、蓋体2の重力モーメントを利用して、非回転のシャフト部材12の傾斜部12kに沿ってピストン部材Cを押し上げるように回転させて弾性部材15を圧縮することにより弾性部材15に弾性エネルギーを蓄積する。
【0076】
そして、操作者が蓋体2を60度未満まで下降させると、上述したように、蓋体2の重量モーメントが回転トルク制御手段Aの回転トルクよりも大きくなって、蓋体2から手を放しても重量モーメントにより自律的に蓋体2が下降して閉成位置で停止する。その後、図14(c)に示すように、シャフト部材12の平坦な頂上部12iがピストン部材本体13の平坦な頂上部13iの上に押し上げられて保持されることにより、蓋体2を閉成状態に位置決めた状態でピストン部材Cが位置保持される。
【0077】
図15に示すように、蓋体2の閉成操作時、操作者は、流体ダンパー手段Bの大きな抵抗に逆らって蓋体2を閉成位置へ向かって下降させることになる。蓋体2を引き下げて閉成状態へ向かって下降させている間、弁体18によって第2通路G2が遮断されるため、流体ダンパー手段Bが大きな緩衝力を作用する。ピストン部材Cの矢印R2方向の移動に伴って圧縮された第2流体室S2から第2通路G2へ矢印R2と逆方向に流体Fが流れ込むと、流体Fが弁体18をピストン部材C側へ押し流して弁体18が中心孔13eを塞いでしまう。このため、中心孔14eから流れ込んだ流体Fが中心孔13eへ流れ込むことが阻止されて、流体Fが圧縮される第2流体室S2の圧力が第1流体室S1の圧力よりも高くなり、ピストン部材Cを挟む第1流体室S1と第2流体室S2との間に大きな圧力差が発生する。この圧力差にピストン部材Cの受圧面積を乗じた抗力が流体ダンパー手段Bの出力となって弾性部材15の付勢力に加算されて蓋体2の下降に抵抗する。その後、第1流体室S1と第2流体室S2との間の圧力差は、第1通路G1を通じた流体Fの移動に伴って徐々に解除されるが、第2通路G2が遮断されているので、第1流体室S1と第2流体室S2との間の圧力差は、第2通路G2が開放されている蓋体2の開成操作時よりも長時間、大きく維持される。これにより、洗濯機の操作者が蓋体2から手を放していても、蓋体2が自重モーメントに駆動されて、静かに沈み込むように閉成状態へ移行する。
【0078】
本実施例に係る回転ダンパー付きヒンジ3は、機器本体1に対して上下方向へ開閉可能に蓋体が取り付けられた各種機器において、蓋体2の開成操作時には閉成操作時よりも流体ダンパー手段Bの効果を小さくする。回転ダンパー付きヒンジ3は、ピストン部材Cが弾性部材15の付勢に抗して移動する場合には弾性部材15の付勢に従って移動する場合よりも流体ダンパー手段Bの緩衝力を大きくする。これにより、蓋体の閉成操作時において蓋体の落下や急な加速を十分に阻止しつつ、蓋体の開成操作時においては蓋体の急激な跳ね上げを阻止しつつも蓋体の持ち上げ操作を軽く速やかなものとすることができる。
【0079】
本実施例に係る回転ダンパー付きヒンジ3は、シリンダー部材11の内側に弾性部材15、シャフト部材12、及びピストン部材Cが直列に配置されるため、シリンダー部材11の口径を小さくして回転ダンパー付きヒンジ3を小型化することが容易である。シリンダー部材11の外側に弾性部材を含むアシスト機構や筐体が不要なため部品点数も少なくて済む。
【0080】
本実施例に係る回転ダンパー付きヒンジ3は、図4に示すように、樹脂成型されたシリンダー部材11の内部に回転トルク制御手段Aや流体ダンパー手段Bが密封され、流体Fとしてのオイルに浸漬されている。このため、洗濯機5のような水が多くて金属が腐食し易い環境でも回転ダンパー付きヒンジ3の正常な機能を長期間保つことができる。オイルに浸漬されて鋼製の弾性部材15も錆びにくい。
【0081】
本実施例に係る各種機器の1例としての洗濯機5は、図2に示すように、回転ダンパー付きヒンジ3が機器本体1の上面から離間した位置に保持され、従来公知の回転ダンパー付きヒンジのように機器本体に取付部材を埋め込んで取り付ける必要が無い。このため、機器本体の上面に取付部材の取付穴を設ける必要が無く、取付穴に水がたまったり、ゴミがたまったりしないで済む。機器本体の上面に取付穴の無い、機器本体上面の排水や清掃が容易な洗濯機を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、以上のように構成したので、流体ダンパー手段によって、回転トルク制御手段の創出する回転トルクを緩和する緩和力を蓋体の閉成操作時と開成操作時によって異ならせることにより、蓋体の急激な落下と、蓋体の急激な跳ね上げを防止して、操作性の向上を図ることンできる回転ダンパー付きヒンジとして、及びこの回転ダンパー付きヒンジを用いた各種機器として好適に用いられるものである。
【符号の説明】
【0083】
1 機器本体
1a 取付部
1e 変形挿通孔
2 蓋体
3、4 回転ダンパー付きヒンジ
5 洗濯機
11 シリンダー部材
11a シリンダー壁
11b 円筒部
11c、11d 開口
11e 支持板部
11f ピン孔
11g 取付孔
11h リブ壁
11i 内周面
11j 凸条部
11k 段差部
12 シャフト部材
12a、12c 大径部
12b 小径部
12e 取付部
12f 段差部
12i 頂上部
12j 谷底部
12k 傾斜部
12m リング溝
12n カム部
12r Oリング
13 ピストン部材本体
13a 外周面
13b 凸条部
13e 中心孔
13f 底面
13i 頂上部
13j 谷底部
13k 傾斜部
13n カムフォロアー部
14 シート部材
14e 中心孔
15 弾性部材
16 栓部材
16a 円柱部
16b ばね受面
16e 注入口
16f ピン孔
16r Oリング
17 封止ねじ
17r Oリング
18 弁体
19 ピン
A 回転トルク制御手段
B 流体ダンパー手段
C ピストン部材
D1,D2 シール構造
E 弁手段
F 流体
G1 第1通路
G2 第2通路
S1 第1流体室
S2 第2流体室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15