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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】ヘッドホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20220905BHJP
   H04R 1/28 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
H04R1/10 101Z
H04R1/28 310B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018098622
(22)【出願日】2018-05-23
(65)【公開番号】P2018207483
(43)【公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2017110726
(32)【優先日】2017-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】米山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大塚 幸治
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 裕美
【審査官】米倉 秀明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-141293(JP,U)
【文献】特表2015-531560(JP,A)
【文献】特開2009-033768(JP,A)
【文献】米国特許第09591398(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバユニットと、
前記ドライバユニットの背面側に第1空気室を形成する第1ハウジングと、
前記第1ハウジングにおける前記ドライバユニットの側の内面と異なる内面の反対側に第2空気室を形成する第2ハウジングと、
前記第1空気室と前記第2空気室とを連通させるための第1連通手段と、
前記第2空気室と外部とを連通させるための第2連通手段と、
を備え、
前記第1連通手段及び前記第2連通手段は、音響抵抗及び開口の少なくともいずれかを含み、
前記第1連通手段は、前記第1ハウジングに形成された第1開口であり、
前記第2連通手段は、前記第2ハウジングに設けられた第1音響抵抗であり、
前記第1音響抵抗には、前記第1開口と直列に第2開口が形成されている、
ヘッドホン。
【請求項2】
前記第1ハウジングに複数の前記第1開口が形成されている、
請求項に記載のヘッドホン。
【請求項3】
前記複数の第1開口の少なくとも一部の第1開口を覆うように設けられた第2音響抵抗をさらに有する、
請求項に記載のヘッドホン。
【請求項4】
前記第2ハウジングは、前記第1ハウジングにおける前記ドライバユニットが設けられている内面と直交する方向の内面の反対側に設けられている、
請求項1からのいずれか一項に記載のヘッドホン。
【請求項5】
ドライバユニットと、
前記ドライバユニットの背面側に第1空気室を形成する第1ハウジングと、
前記第1ハウジングにおける前記ドライバユニットの側の内面と異なる内面の反対側に第2空気室を形成する第2ハウジングと、
前記第1空気室と前記第2空気室とを連通させるための第1連通手段と、
前記第2空気室と外部とを連通させるための第2連通手段と、
を備え、
前記第1連通手段及び前記第2連通手段は、音響抵抗及び開口の少なくともいずれかを含み、
前記第1連通手段は、前記第1空気室と前記第2空気室との間に設けられた音響抵抗に形成された第3開口であり、
前記第2連通手段は、前記第3開口と直列に前記第2ハウジングに形成された第4開口である、
ヘッドホン。
【請求項6】
ドライバユニットと、
前記ドライバユニットの背面側に第1空気室を形成する第1ハウジングと、
前記第1ハウジングにおける前記ドライバユニットの側の内面と異なる内面の反対側に第2空気室を形成する第2ハウジングと、
前記第1空気室と前記第2空気室とを連通させるための第1連通手段と、
前記第2空気室と外部とを連通させるための第2連通手段と、
を備え、
前記第1連通手段及び前記第2連通手段は、音響抵抗及び開口の少なくともいずれかを含み、
前記第2ハウジングは、前記第1ハウジングにおける前記ドライバユニットが設けられている内面と直交する方向の内面の反対側に、前記第1ハウジングの側の壁以外の複数の壁が外部に露出した状態で設けられており、
前記ドライバユニットが設けられている内面と直交する方向における、前記第2ハウジングの前記第1ハウジングの側の壁に対向する壁の高さが、前記第1ハウジングの高さよりも小さく、
前記第2ハウジングは、前記第1連通手段が設けられている面と異なる、前記第2連通手段としての音響抵抗が設けられた外部に露出する面を有する、
ヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドホンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドホンのハウジングに開口を形成することによりヘッドホンの音響特性を調整する技術が知られている。特許文献1には、ヘッドホンの後側空洞と外部とを連通する音響抵抗材で閉塞した通気孔、及び音響質量を有するポートをハウジングに設けることにより、音響特性を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-33768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術においては、ポートの内径及び長さを調整することにより音響特性を調整することができる。しかしながら、ポートの内径及び長さを変更して音響特性を調整するには多くの工数が必要になるとともに、音響特性の微調整をすることが困難であるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、音響特性を微調整しやすい構造のヘッドホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様のヘッドホンは、ドライバユニットと、前記ドライバユニットの背面側に第1空気室を形成する第1ハウジングと、前記第1ハウジングにおける前記ドライバユニットの側の内面と異なる内面の反対側に第2空気室を形成する第2ハウジングと、前記第1空気室と前記第2空気室とを連通させるための第1連通手段と、前記第2空気室と外部とを連通させるための第2連通手段と、を備え、前記第1連通手段及び前記第2連通手段は、音響抵抗及び開口の少なくともいずれかを含む。
【0007】
前記第1連通手段は、例えば、前記第1ハウジングに形成された第1開口であり、前記第2連通手段は、前記第2ハウジングに設けられた第1音響抵抗である。前記第1ハウジングに複数の前記第1開口が形成されていてもよい。また、前記複数の第1開口の少なくとも一部の第1開口を覆うように設けられた第2音響抵抗をさらに有してもよい。
【0008】
前記第1音響抵抗には、前記第1開口と直列に第2開口が形成されていてもよい。また、前記第2ハウジングは、前記第1ハウジングにおける前記ドライバユニットが設けられている内面と直交する方向の内面の反対側に設けられていてもよい。
【0009】
前記第1連通手段は、前記第1空気室と前記第2空気室との間に設けられた音響抵抗に形成された第3開口であり、前記第2連通手段は、前記第3開口と直列に前記第2ハウジングに形成された第4開口であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヘッドホンの音響特性を微調整しやすくなるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係るイヤーカップ(第1の例)の断面を模式的に示す図である。
図2】本実施形態に係るイヤーカップ(第1の例)の機械音響回路を示す図である。
図3】本実施形態に係るイヤーカップ(第2の例)の断面を模式的に示す図である。
図4】本実施形態に係るイヤーカップ(第3の例)の断面を模式的に示す図である。
図5】本実施形態に係るイヤーカップ(第4の例)の断面を模式的に示す図である。
図6】本実施形態に係るイヤーカップ(第5の例)の断面を模式的に示す図である。
図7】ヘッドホンの効果を検証するための比較実験に用いた従来のイヤーカップの断面を模式的に示す図である。
図8】イヤーカップの音響特性を示す図である。
図9】イヤーカップを分解した状態の斜視図である。
図10】イヤーカップの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本実施形態の概要)
以下、本実施形態に係る各種のヘッドホンのイヤーカップを例示する。本実施形態に係るイヤーカップは、第1空気室を形成する第1ハウジングと、第2空気室を形成する第2ハウジングと、第1空気室と第2空気室とを連通させるための第1連通手段と、第2空気室と外部とを連通させるための第2連通手段と、を備え、第1連通手段及び第2連通手段は、音響抵抗及び開口の少なくともいずれかを含む。イヤーカップが上記の構成を有することで、イヤーカップは、第1ハウジングと、第2ハウジングと、等価的な機械音響回路において直列に設けられた音響抵抗及び音響質量とを有するように構成される。その結果、音響質量としてハウジングに形成された開口の数若しくは大きさ、又は音響抵抗に形成された開口の数若しくは大きさを変更することで、音響特性を容易に微調整することが可能になる。
【0013】
(第1の例)
図1は、本実施形態に係るヘッドホンのイヤーカップ100の断面を模式的に示す図である。図2は、イヤーカップ100の機械音響回路を示す図である。
【0014】
イヤーカップ100は、イヤーパッド1と、ドライバユニット2と、振動板(放音部)3と、第1ハウジング4と、第2ハウジング5と、ダンパー61とを有する。イヤーパッド1は、ユーザの耳の周辺に接するパッドである。
【0015】
第1ハウジング4は、ドライバユニット2の背面側に第1空気室11を形成する部材である。第1ハウジング4は、例えば樹脂により形成されている。第1ハウジング4は、第1板部41と、第2板部42と、第3板部43とにより第1空気室11を形成している。ドライバユニット2の側の第1板部41は円形の板状部材であり、バッフル板として機能し、中央付近にドライバユニット2が挿入されている。第2板部42は、第1板部41と直交する方向に延在する円環状の板状部材である。第3板部43は、第1板部41と対向する円形の板状部材である。なお、第1ハウジング4は、一体成形されていてもよく、個別に成形された第1板部41、第2板部42及び第3板部43を接合することにより形成されていてもよい。
【0016】
第2ハウジング5は、ドライバユニット2の側の内面と異なる内面の反対側に第2空気室12を形成する部材である。ドライバユニット2の側の内面と異なる内面は、例えば第1板部41を除く第2板部42の内面又は第3板部43の内面である。図1においては、第2ハウジング5が、ドライバユニット2の側の内面と平行な方向の内面である第3板部43の内面の反対側の位置に第2空気室12を形成するように設けられている。第2ハウジング5の形状は任意であるが、図1においては円環状の板により構成されている。第2ハウジング5の内径は、例えば第1ハウジング4の内径以下である。この場合、第2空気室12の容積は第1空気室11の容積よりも小さい。
【0017】
ダンパー61は、例えば可撓性を有するメッシュ状の部材であり、第2空気室12と外部とを連通させるための第2連通手段である第1音響抵抗として機能する。連通手段は、音響質量又は音響抵抗等の0以上の所定のインピーダンスを介して2つの空間を繋ぐ手段である。ダンパー61は、第2ハウジング5における第3板部43と接していない側の端部に固定されている。ダンパー61は、例えば接着剤又は両面テープにより第2ハウジング5の開口端部に固定されている。
【0018】
第1ハウジング4には、第1空気室11と第2空気室12とを連通させるための第1連通手段として、第1開口である開口44(44a,44b)が形成されている。開口44は、音響質量として機能する。開口44の形状は例えば円形状であるが、開口44の形状は任意である。
【0019】
イヤーカップ100は、以上の構成を有することにより、図2の機械音響回路(音響等価回路)が示すように、ドライバユニット2と外部との間において、音響質量として機能する開口44a及び開口44bと、音響抵抗として機能するダンパー61とが、音響的に直列に接続されている。そして、音響スチフネスを有する第1空気室11及び第2空気室12が並列に接続されている。イヤーカップ100が、このような構造を有することで、音響特性の調整のしやすさが向上する。
【0020】
例えば、開口44の個数を変更したり、開口44の内径を変更したり、ダンパー61の大きさ又は厚みを変更したりすることで、設計段階で容易に音響特性を調整ないし微調整することができる。さらに、第1空気室11及び第2空気室12のいずれかの容量を変更することによっても、音響特性を調整ないし微調整することができる。イヤーカップ100は、このように微調整をしやすい構造を有するので、個体ばらつきが発生しづらく、かつ良好な音響特性を有するヘッドホンを提供することが可能になる。
【0021】
なお、図1においては、ダンパー61が外部に露出しているが、イヤーカップ100は、ダンパー61及び第3板部43の少なくとも一部を覆うハウジングをさらに有してもよい。
【0022】
(第2の例)
図3は、本実施形態の第2の例としてのイヤーカップ200の断面を模式的に示す図である。イヤーカップ200においては、ダンパー61に、音響質量として機能する第2開口である開口62が形成されている点で図1に示したイヤーカップ100と異なり、他の点で同じである。開口62は、例えばダンパー61の中央付近に形成されている。開口62の形状は例えば円形状であるが、開口62の形状は任意である。
【0023】
ダンパー61に開口62が形成されている場合、音響抵抗として機能するダンパー61と音響質量として機能する開口62とが、機械音響回路において互いに並列に接続されている状態になる。このように、ダンパー61に開口62が形成されていることにより、開口62の個数を変更したり、開口62の内径を変更したりすることで音響特性を微調整することが可能になり、音響特性の調整の自由度がさらに向上する。
【0024】
(第3の例)
図4は、本実施形態の第3の例としてのイヤーカップ300の断面を模式的に示す図である。イヤーカップ300においては、図3に示したイヤーカップ200における複数の開口44のうち一部の開口44bを覆うように、音響抵抗として機能するダンパー45が設けられている点でイヤーカップ200と異なり、他の点で同じである。ダンパー45は、開口44bを覆う位置における第1空気室11の側に設けられている。ダンパー45は、第2空気室12の側に設けてもよい。
【0025】
このように、複数の開口44のうち少なくとも一部の開口44を覆うダンパー45が設けられていることにより、音響抵抗としてのダンパー45と、音響質量としての開口44bと、音響抵抗として機能するダンパー61及び音響質量として機能する開口62とが、機械音響回路において直列に接続された状態になる。その結果、ダンパー45の厚みや、ダンパー45を設ける開口44の数を変更することによっても音響特性を微調整することが可能になり、音響特性の調整の自由度がさらに向上する。なお、ダンパー45が開口44bを覆う場合、ダンパー45は開口44bの一部の領域を覆うようにしてもよい。ダンパー45が開口44bを覆う領域を調整できるようにすることにより、音響特性の調整の自由度がさらに向上する。
【0026】
(第4の例)
図5は、本実施形態の第4の例としてのイヤーカップ400の断面を模式的に示す図である。図5(a)は、第1空気室11及び第2空気室13が並ぶ方向におけるイヤーカップ400の断面図(B-B線断面図)であり、図5(b)は、第1空気室11の長手方向におけるイヤーカップ400の断面図(A-A線断面図)である。
【0027】
イヤーカップ400においては、第1ハウジング4におけるドライバユニット2が設けられている内面と直交する方向の内面の反対側に設けられている点で、図3に示したイヤーカップ200と異なる。具体的には、イヤーカップ400においては、第1板部41と直交する第2板部42の内面の反対側に第2空気室13を形成する第2ハウジング7が設けられている。第2板部42には、第1空気室11と第2空気室13とを連通させる開口44c、開口44d及び開口44eが所定の間隔で設けられている。
【0028】
第2ハウジング7は、第1板部41の面の方向の水平板部71と、水平板部71と直交する方向の垂直板部72とを有する。ドライバユニット2が設けられている内面と直交する方向における第2ハウジング7の高さは、第1ハウジング4の高さよりも小さい。図5(a)に示す例においては、垂直板部72の高さが第2板部42の高さよりも低い。そして、第2ハウジング7は、外側に向かうほどドライバユニット2が設けられている内面と直交する方向において低くなり、かつ開口を有する音響抵抗が設けられた傾斜面を有する。具体的には、垂直板部72と第3板部43との間を跨ぐように傾斜して、音響抵抗として機能するダンパー63が設けられており、ダンパー63には、音響質量として機能する第2開口である開口64が形成されている。
【0029】
このように、第2空気室13が第1空気室11の長手方向において第1空気室11に隣接する位置に設けられていることにより、イヤーカップ400の厚みを小さくすることができる。また、第2空気室13の上側(装着時に耳から離れる方向の側)が傾斜していることで、イヤーカップ400は第2板部42から垂直板部72に向かうにつれて厚みが小さくなり、意匠性を向上させることができる。なお、図5に示す第2ハウジング7には開口64が形成されているが、第2ハウジング7に開口が形成されていなくてもよい。
【0030】
なお、上記の説明では第1ハウジング4に2個又は3個の開口44が形成されている構成を例示したが、1個の開口44が形成されていてもよく、4個以上の開口44が形成されていてもよい。同様に、ダンパー61及びダンパー63に形成されている開口の数も任意である。
【0031】
(第5の例)
図6は、本実施形態の第5の例としてのイヤーカップ500の断面を模式的に示す図である。イヤーカップ500は、イヤーパッド1と、ドライバユニット2と、振動板3と、第1ハウジング8と、第2ハウジング9と、ダンパー65とを有する。
【0032】
イヤーパッド1、ドライバユニット2及び振動板3は、イヤーカップ100におけるイヤーパッド1、ドライバユニット2及び振動板3と同一である。第1ハウジング8は、イヤーカップ100における第1ハウジング4に対応し、第1空気室11を形成している。第1板部81は第1板部41と同一であり、第2板部82は第2板部42と同一である。しかし、第3板部83が第1空気室11と第2空気室12との境界になっていない点でイヤーカップ100における第3板部43と異なる。
【0033】
第2ハウジング9は、イヤーカップ100における第2ハウジング5に対応し、第2空気室12を形成している。第2ハウジング9は、円環部91と外側部92とを有する。円環部91は第2ハウジング5と同等の形状をしており、一端が第3板部83に結合している。外側部92は、円環部91の他端側に設けられており、音響質量として機能する第4開口である開口93(93a、93b)が形成されている。
【0034】
ダンパー65は、第1空気室11と第2空気室12との境界位置において、第3板部83における第1空気室11側の面に接着剤又は両面テープで固定されている。ダンパー65には、第3開口である開口66が形成されている。イヤーカップ500は、以上の構成を有することにより、ドライバユニット2と外部との間において、音響抵抗として機能するダンパー65と音響質量として機能する複数の開口93とが、機械音響回路において直列に接続されている状態になる。
【0035】
このように、イヤーカップ500が第1空気室11及び第2空気室12を有しているとともに、機械音響回路において音響抵抗と音響質量とが直列に接続されていることで、音響特性の調整のしやすさが向上する。例えば、開口93の個数を変更したり、開口93の内径を変更したり、ダンパー65の厚み又は大きさを変更することで、設計段階で容易に音響特性を微調整することができる。
【0036】
[本実施の形態のヘッドホンによる効果]
以上説明したように、本実施の形態に係るヘッドホンのイヤーカップ100~500は、第1空気室11を形成する第1ハウジング4又は第1ハウジング8と、第2空気室12を形成する第2ハウジング5又は第2ハウジング9と、等価的な機械音響回路において直列に設けられた音響抵抗及び音響質量とを有する。このような構成により、本実施の形態に係るイヤーカップ100~500は、音響質量としてハウジングに形成された開口の数及び大きさ、並びに音響抵抗に形成された開口の数及び大きさを変更することで、音響特性を容易に微調整することが可能になる。
【0037】
<比較実験結果>
図7は、本実施の形態に係るヘッドホンの効果を検証するための比較実験に用いた従来のイヤーカップの断面を模式的に示す図である。図7(a)は、図1に示したイヤーカップ100から第2ハウジング5及びダンパー61を除去した状態のイヤーカップ600の断面図である。図7(b)は、イヤーカップ600における開口44を覆うようにダンパー46が設けられたイヤーカップ610の断面図である。図7(c)は、開口44bの外側にダンパー47が設けられたイヤーカップ620の断面図である。
【0038】
図8は、イヤーカップ100、イヤーカップ600、イヤーカップ610及びイヤーカップ620の音響特性を示す図である。図8の横軸は周波数を示しており、縦軸は音圧を示している。実線はイヤーカップ600の音響特性、破線はイヤーカップ610の音響特性、2点鎖線はイヤーカップ620の音響特性、2本線はイヤーカップ100の音響特性を示している。
【0039】
図8における実線が示すように、第1ハウジング4に開口44だけが設けられたイヤーカップ600の音響特性においては、100Hzと1000Hzの間に大きな音圧の低下が見られる。また、図8における破線が示すように、開口44を覆うようにダンパー46が設けられたイヤーカップ610においては、100Hzと1000Hzの間に大きな音圧の低下は見られないが、100Hz以下の低音域の音圧が大きく低下してしまう。図8における2点鎖線が示すように、開口44bを覆うようにダンパー47が設けられたイヤーカップ620の場合、イヤーカップ600に比べて音圧変動の量は小さくなるが、100Hzと1000Hzの間に大きな音圧の低下が見られる。
【0040】
これに対して、イヤーカップ400の音響特性においては、1000Hz以下の周波数で大きな音圧の低下が見られず、かつ100Hz以下の音圧もイヤーカップ600及びイヤーカップ620と同等レベルに維持されている。このように、本実施の形態のヘッドホンは、音響特性の改善に適していることが確認できた。
【0041】
<実施例>
図9及び図10は、図5に示したイヤーカップ400に対応する実施例に係るイヤーカップ700の構成を示す図である。図9は、イヤーカップ700を分解した状態の斜視図である。図10は、イヤーカップ700の断面図である。図10(a)は、イヤーカップ700を組み立てた状態でダンパー63を外した状態の上面視図である。図10(b)は、図10(a)におけるC-C線断面図である。
【0042】
図10に示すように、イヤーカップ700においては、第2空気室12が、第1空気室11の長手方向において第1空気室11に隣接して設けられているので、イヤーカップ700は、第2ハウジング7が設けられていることにより厚みが増加していない。また、ダンパー63が、第1空気室11の長手方向に対して傾斜して第2ハウジング7に設けられているので、イヤーカップ700は、第2ハウジング7が設けられていることによる体積の増加が最小限に抑えられるので、従来のポートを用いる場合には実現が困難なデザインのヘッドホンを提供することが可能になる。
【0043】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の分散・統合の具体的な実施の形態は、以上の実施の形態に限られず、その全部又は一部について、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を合わせ持つ。
【符号の説明】
【0044】
1 イヤーパッド
2 ドライバユニット
3 振動板
4、8 第1ハウジング
5、7、9 第2ハウジング
11 第1空気室
12、13 第2空気室
41、81 第1板部
42、82 第2板部
43、83 第3板部
44、62、64、66、93 開口
45、46、47、61、63、65 ダンパー
71 水平板部
72 垂直板部
91 円環部
92 外側部
100、200、300、400、500、600、610、620、700 イヤーカップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10