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特許7134502メチオニルtRNA合成酵素を利用した膵臓癌の診断方法及びこれを利用した膵臓癌の診断キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】メチオニルtRNA合成酵素を利用した膵臓癌の診断方法及びこれを利用した膵臓癌の診断キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20220905BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20220905BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220905BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220905BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20220905BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20220905BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20220905BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220905BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20220905BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220905BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20220905BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220905BHJP
【FI】
G01N33/574 A
G01N33/574 Z
G01N33/543 545A
G01N33/48 P
G01N33/53 Y
G01N33/543 595
C12Q1/04
C12N15/115 Z
C12Q1/6886 Z
C12N15/09 Z
C07K16/40
G01N33/68 ZNA
C12N15/52 Z
C12N15/13
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020514540
(86)(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 KR2018010369
(87)【国際公開番号】W WO2019050275
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-06-17
(31)【優先権主張番号】10-2017-0113255
(32)【優先日】2017-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520077894
【氏名又は名称】オンコタグ ダイアグノスティクス シーオー., エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】ONCOTAG DIAGNOSTICS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】キム サンフン
(72)【発明者】
【氏名】クォン ナム フン
(72)【発明者】
【氏名】リー ドン キ
(72)【発明者】
【氏名】リム ビョン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン スン イル
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】Yi-Yong Baek et al.,Su2031 Methionyl-tRNAsynthetaseServes as a New Prognostic Marker in Pancreatic Cancer,Gastroenterology,2016年,150(4),S-616
【文献】Ali Abdullah et al.,The Predictive Value of CK19 and CD99 in Pancreatic Endocrine Tumors,The American Journal of Surgical Pathology,2006年12月,Volume 30 - Issue 12,,PP.1588-1594
【文献】Mark L. Mitchell et al.,Cytologic Criteria for the Diagnosis of Pancreatic Carcinoma,American Journal of Clinical Pathology,Volume 83, Issue 2,1985年02月,PP.171-176
【文献】Sunghoon Kim et al.,Aminoacyl-tRNA synthetases and tumorigenesis: more than housekeeping,Nature Reviews Cancer,2011年11月,PP.708-718
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)潜在患者から採取した膵臓試料におけるメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase;MRS)蛋白質及びサイトケラチン-19(Cytokeratin 19;CK19)蛋白質の発現レベルを測定するステップ;及び
(b)前記(a)ステップで測定したMRS蛋白質及びCK19蛋白質の発現レベルを陰性対照群と比較するステップであって、MRS蛋白質及びCK19蛋白質の発現レベルが増加している場合、前記潜在患者が膵臓癌患者であることを示す、ステップ;
を含むことを特徴とする膵臓癌診断のためのデータの作成方法。
【請求項2】
膵臓試料が、膵臓細胞であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
膵臓細胞が、微細針吸引法(Fine needle aspiration)で分離された膵臓細胞であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
MRS蛋白質の発現レベル測定前に、同時に、又は後に、下記ステップ(i)をさらに含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の方法:
(i)潜在患者から採取した膵臓細胞を、細胞核を染色するDAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)、メチレンブルー(methylene blue)、酢酸カルミン(acetocarmine)、トルイジンブルー(toluidine blue)、ヘマトキシリン(hematoxylin)及びヘキスト(Hoechst)からなる群から選択されるいずれかの一つ以上の染色溶液、及び
細胞質を染色するエオシン(eosin)、クリスタルバイオレット(crystal violet)及びオレンジG(orange G)からなる群から選択されるいずれかの一つ以上の染色溶液で染色するステップであって、前記細胞染色が、前記膵臓細胞を悪性腫瘍細胞、異型細胞(atypical cell)又は正常細胞と判定するための指標となる、ステップ。
【請求項5】
細胞染色の結果から、膵臓細胞が、細胞が3次元で塗抹される;細胞核/細胞質比率が高い;染色質の凝集現象出現;不整な形状の核膜;核小体の出現;及び有糸分裂の出現からなる群から選択されるいずれかの二つ以上の形態学的異常を示す場合、悪性腫瘍細胞であることを示し、
細胞が一層で塗抹されていて、細胞核/細胞質比率(N/c ratio)が小さく、核膜が滑らかな場合には、正常細胞であることを示し、
細胞の変化が悪性腫瘍細胞にまでは及ばないものの、正常と判定できない場合、異型細胞であることを示すことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
MRS蛋白質及びCK19蛋白質の発現レベルが、ウエスタンブロット、酵素免疫測定法(ELISA)、放射線免疫測定、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、免疫染色法、免疫沈降法、補体結合法、FACS(Fluorescence activated cell sorter)アッセイ、SPR(surface plasmon resonance)アッセイ又は蛋白質チップアッセイのうち、いずれかを利用して測定されることを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の方法。
【請求項7】
メチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase;MRS)蛋白質及びサイトケラチン-19(Cytokeratin 19;CK19)蛋白質の発現レベルを測定するための製剤を含む膵臓癌診断用組成物であって、
前記製剤が、MRS蛋白質及びCK19蛋白質に特異的に結合する抗体又はアプタマー、あるいは、MRS蛋白質及びCK19蛋白質をコードするmRNAに特異的に結合するプライマー又はプローブであることを特徴とする、前記膵臓癌診断用組成物。
【請求項8】
MRS蛋白質が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項7記載の膵臓癌診断用組成物。
【請求項9】
抗体が、MRS蛋白質における配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む領域のエピトープ(epitope)に特異的に結合することを特徴とする抗体又はその機能的断片であることを特徴とする請求項7記載の膵臓癌診断用組成物。
【請求項10】
抗体が、
配列番号28で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL);及び
配列番号30で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)を含むか;又は
配列番号32で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL);及び
配列番号34で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)を含むことを特徴とする請求項9記載の膵臓癌診断用組成物。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか記載の膵臓癌診断用組成物を含む膵臓癌診断用キット。
【請求項12】
膵臓癌に対する細胞診(cytodiagnosis)検査又は組織検査において、下記のステップ(a)を含むことを特徴とする感受性又は特異性を向上させる方法:
(a)潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase;MRS)蛋白質及びサイトケラチン-19(Cytokeratin 19;CK19)蛋白質の発現レベルを測定するステップであって、MRS蛋白質及びCK19蛋白質の発現レベルが増加している場合、潜在患者が膵臓癌患者であることを示す、ステップ。
【請求項13】
感受性が80%以上であることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
感受性及び特異性が80%以上であることを特徴とする請求項12又は13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase、MRS)を利用した膵臓癌の診断方法及びこれを利用した膵臓癌の診断キットに関するもので、より詳細には、膵臓癌の診断に必要な情報を提供するために、潜在患者から採取した膵臓試料からMRS蛋白質を検出する方法、MRS蛋白質の発現水準を測定する製剤を含む膵臓癌診断用組成物及びこれを含む膵臓癌診断用キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2017年09月05日に出願された大韓民国特許出願第10-2017-0113255号を優先権主張し、前記明細書全体は本出願の参考文献である。
【0003】
癌とは、主に統制されていない細胞の増殖から始まり、周囲の正常組織又は器官に浸潤して破壊させ、新たな成長場所を作成することができ、個体の生命を奪うことができる疾患群を総称する。過去10余年間癌を克服するために、細胞周期や細胞死滅(apoptosis)の調節と発癌遺伝子や、癌抑制遺伝子らを含む新たな標的を模索するにおいて、目覚ましい発展を重ねて来たにも拘らず癌の発生率は文明の発達と共に増加している。
【0004】
このうち、膵臓癌は5年の生存率が1~4%、中央生存期間5ヶ月に及ぶ致命的な癌で人体の癌の中で最も不良な予後を示している。80~90%の患者において、診断時に完治を期待する根治的切除が不可能な状態で発見されるため、予後が不良で、治療は主に抗癌療法に依存しているので、その如何なる人体癌よりも早期診断法の開発が切実に要望されている。現在まで膵臓癌に効果があると知られている5-フルオロウラシル、ゲムシタビン(gemcitabine)、タルセバ(tarceva)を含む幾つかの抗癌剤の治療効果は、極めて失望的であり、抗癌治療に対する反応率は15%前後に過ぎず、これらの事実は、膵臓癌患者の予後を向上させるためには、より正確で迅速な診断方法が必要であることを示唆している。
【0005】
一方、病理検査(pathological examination)とは、摘出した細胞、組織又は臓器を利用して、主に形態学的立場から疾病の根源を解明しようとする検査を意味し、肉眼的所見の把握、光学、電子顕微鏡検索などの方法で疾病の診断に応用されいる重要な検査である。これらの病理検査には、組織病理検査と細胞病理検査がある。一方、組織検査と細胞診(cytodiagnosis)検査は、多くの差を有し、よく知られている癌マーカーを利用した分析実験で組織検査と細胞診検査の間には、診断感受性(sensitivity)、特異性(specificity)などその予測正確性で多くの差を示すことが知られた。従って、従来知られている癌マーカーであっても、具体的な検体(組織又は細胞)によって、実質的に診断実効性が得られるかは別問題とされる。
【0006】
体内で分離された細胞を病理学的に検査するにおいて、障害となるものの中で異型細胞(atypical cell)に対する判断の難しさも一役買っているのが実情である。1976年Melamedなどが炎症性変化ではないながらも異形成(dysplasia)に診断するには不十分な細胞変化を扁平細胞異型性に発表した後、異型的細胞に対する診断、解析及び治療方針決定に多くの論難があった。従って、これの改善のためにThe bethesda system(TBS)が制定され、TBSでは異型的細胞(atypical cell)と言う用語の使用を炎症性、全癌性又は腫瘍性細胞変化に診断することができない本質が分らない場合(undetermined significance)にのみ極めて制限して使用している。異型細胞に対する治療的方針と関連して、他の見解があり得るため問題となる。特に、実際に癌が進行している状態にもかかわらず、組織又は細胞水準の検査で異型細胞と診断されるか又は組織検体でのみ結果が判定される場合がかなりあることに問題がある。不定形の組織構造や細胞形態が炎症性病変であるのか又は新生物なのかの区別が明確でない場合、atypism又はcellular atypiaと診断する場合が多い。従って、他の検査手段等により、何度も繰り返し再検査の必要性が伴い、これに伴う時間的、経済的費用が大幅に消耗されているのが実情である。
【0007】
膵臓は、身体の奥深く位置するので、癌が膵臓に存在する場合、これを検出することは極めて難しい。映像学的検査を通じて手術が可能な膵臓癌の場合、手術の施行を受ける前に腫瘤に対する組織検査や内視鏡、超音波下で細胞診検査を通じて膵臓癌の確定診断が必要である。また、手術ができない場合でも、抗癌治療や放射線治療のための組織学的診断のために、組織検査や細胞診検査が必要である。膵臓癌を診断するための腫瘍マーカーは、CEA(参照値:5.0ng/mL)及びCA 19-9(参照値:37U/mL)が代表的である。しかし、CA19-9の場合、膵臓癌診断用マーカーとしては特異性が低い問題がある。或る報告によると健康診断を受けた人の中でCA19-9の数値が増加した場合が約1%であったのが、症状なしのCA19-9の数値が上昇した人の中から癌が発見された場合は、実際2%に過ぎなかったと言う。米国癌学会のガイドラインによると、膵臓癌の選別検査でCA19-9は感受性や特異性が落ちると判断したことがある。
【0008】
この他にも膵臓癌を診断するためのバイオマーカー開発が活発に行われており、その例として大韓民国特許第10-0819122号は、マトリリン(matrilin)、トランスサイレチン(transthyretin)及びストラティフィン(stratifin)を膵臓癌マーカーとして利用した技術を開示しており、大韓民国出願公開第2012-0082372号は、複数の膵臓癌マーカーを利用した技術を開示している。また、韓国出願公開第2009-0003308号は、個体の血液試料からREG4蛋白質の発現量を検出して膵臓癌を診断する方法を開示しており、韓国出願公開第2012-0009781号は、個体の膵臓癌の診断に必要な情報を提供するために、個体から分離した癌組織の中でXIST RNAの発現量を測定する分析方法を、韓国出願公開第2007-0119250号は、通常なヒトの膵臓組織と比較してヒトの膵臓癌組織で異なって発現された新規遺伝子LBFL313ファミリーを開示しており、米国出願公開第2011/0294136号は、ケラチン8蛋白質などのバイオマーカーを利用した膵臓癌の診断方法を開示している。
【0009】
しかし、前記のマーカーらは、マーカー毎にその診断効率及び正確性において大きな差を示す限界点があり、特に細胞学的分析(Cytologycal analysis)方法によるものではなく、臨床的に腫瘍細胞であるか又はその他の疾患状態にある細胞であるかに対する区別が明確でない異型(atypical)細胞の場合、膵臓癌の可否に対する明確な診断の重要性がさらに高いと言わざるを得ないにも拘らず、これを明確に判断できるマーカーが存在していない。つまり、従来報告された膵臓癌の診断マーカーの場合、細胞診検査の適用において、組織検査の場合とは異なった細胞水準の診断では、感受性及び特異性が良くないので実効性を収めていないのが実情である。
【0010】
従って、膵臓癌を診断するためには、前記腫瘍マーカー以外にも、コンピュータ断層撮影術(CT)、内視鏡逆行胆膵間造影術(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)、超音波内視鏡検査法(EUS)、血管造影術などのような高価な徹底した検査が要求されているが、これを通じても膵臓癌を正確に診断することが極めて難しいのが実情である。また膵臓癌は、診断当時すでに切除が不可能な進行癌の場合が多く、手術が可能な例は、10~15%に過ぎないので手術ができない患者から膵臓癌の診断は、内視鏡、超音波微細針吸引術検査を通じて実施している。しかし、内視鏡、超音波微細針吸引術検査を通じた細胞診断の場合、手術後の膵臓癌組織に比べて周辺構造や細胞との比較が難しく、診断の確診に限界がある。
【0011】
そこで、未だに膵臓癌細胞と他の疾患(例えば、膵臓炎)の細胞を鑑別するにおいて、主に H&E染色又はpap染色などの一般的な染色を基盤とする病理学的診断に依存している。しかし、前記従来の染色方法により膵臓癌を確定することは医療陣の経験と解析技術に基づいて異なる診断が下されることもあって、特に H&E染色又はpap染色を通じた膵臓細胞の観察から、異型(atypical)細胞に判定された場合、膵臓癌であるのか又は他の良性(benign)疾患であるのか否かに対する区別が極めて難しく、患者の疾患に対する正確な診断及び治療が速かに行われていない。細胞診に対する診断が正確ではないため、手術を受けることができる膵臓癌患者に適切な治療が行えず、逆に不必要な手術を避けることも難しい問題がある。従って、臨床的に膵臓癌の治療効果を増大させるためには、細胞診に対する正確な診断法が必要な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明者らは、膵臓癌の臨床患者から得られた膵臓細胞試料を利用して、細胞水準においてより正確に膵臓癌を診断することができるマーカーを見出だすために、細胞学的分析(cytological analysis)を綿密に行った結果、膵臓細胞試料から MRS(methionyl tRNA synthetase)の(高)発現の検出を通じて悪性腫瘍細胞を明確に区別することができ、特にこれらの区分は、H&E染色又はpap染色を利用する従来の細胞病理学的検査法によって異型細胞(atypical cell)と判定され、腫瘍の可否に対する確診が不可能であった細胞試料からも可能であることを最初に究明して本発明を完成した。
【0013】
従って、本発明の目的は、膵臓癌診断に必要な情報を提供するために、潜在患者から採取した膵臓試料からメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase, MRS)蛋白質を検出する方法を提供することである。
【0014】
本発明の目的は、(a)潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase)蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階で測定したメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準を陰性対照群と比較して、メチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階を含むことを特徴とする膵臓癌の診断方法を提供するものである。
【0015】
本発明の他の目的は、メチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase, MRS)蛋白質の発現水準を測定する製剤を含む膵臓癌診断用組成物及びこれを含む膵臓癌診断用キットを提供することである。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、膵臓癌に対する細胞診(cytodiagnosis)検査又は組織検査において、下記の段階を含むことを特徴とする感受性及び特異性を向上させる方法を提供することである:
(a)潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase)蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階でメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、膵臓癌に対する細胞診(cytodiagnosis)検査又は組織検査において、形態学的検査と併用して
(a)潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase)蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階でメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階を含むことを特徴とする膵臓癌細胞判別法をさらに遂行することを特徴とする、膵臓癌診断に必要な情報を提供する方法(膵臓癌診断方法)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記のような目的を達成するために、本発明は膵臓癌診断に必要な情報を提供するために、潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase, MRS)蛋白質を検出する方法を提供する。
【0019】
本発明は、(a)潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase)蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階で測定したメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準を陰性対照群と比較して、メチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階を含むことを特徴とする膵臓癌の診断方法を提供する。
【0020】
本発明の他の目的を達成するために、本発明はメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase, MRS)蛋白質の発現水準を測定する製剤を含む膵臓癌診断用組成物及びこれを含む膵臓癌診断用キットを提供する。
【0021】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は膵臓癌に対する細胞診(cytodiagnosis)検査又は組織検査において、下記の段階を含むことを特徴とする感受性及び特異性を向上させる方法を提供する:
(a)潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase)蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階でメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階。
【0022】
本発明のさらに他の目的を達成するために、膵臓癌に対する細胞診検査又は組織検査において、形態学的検査と併用して、
(a)潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階でメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階を含むことを特徴とする膵臓癌細胞の判別法をさらに、含むことを特徴とする膵臓癌診断に必要な情報を提供する方法(膵臓癌診断方法)を提供する。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書に開示された内容全般にわたって、本発明と関連する様々な様相又は条件らが範囲形式で提供されることがある。本明細書で範囲値の記載は、別の言及がない限り、その境界値を含むものであって、すなわち、下限値以上乃至上限値以下の値を全て含む意味である。範囲形式の記述は単に便宜性及び簡潔性のためのものであって、本発明の範囲に対する融通性のない制限(inflexible limitation)として解釈されてはならないものと理解されるべきである。従って範囲の叙述は、前記範囲内の個別的な数値だけでなく、全ての可能な下部範(subrange)囲を具体的に開示したもので考慮されるべきである。例えば、1乃至5のような範囲の叙述は、前記の範囲内の個別的数値、例えば、1、2、2.7、3、3.5、4.3及び5だけでなく、1乃至3、1乃至4、2乃至5、2乃至3、2乃至4、3乃至4などのような下部範囲を具体的に開示したものと見做されるべきである。これは範囲の幅とは関係無く適用される。
【0024】
本発明の用語“~を含む(comprising)”とは、“含有する”又は“特徴とする”と同じく使用され、組成物又は方法において、言及されていない追加的な成分要素又は方法の段階等を排除しない。用語“~で構成される(consisting of)”とは、“~からなる”と同じく使用され、別に記載されていない追加的な要素、段階又は成分などを除外することを意味する。用語“必須的に構成される(essentially consisting of)”とは、組成物又は方法の範囲において、記載された成分要素又は段階等を含むこと意味する。
【0025】
本明細書において、用語“診断”とは、病理状態の存在又は特徴を確認することを意味する。具体的には本発明において前記診断はMRS蛋白質の発現可否又は発現水準を測定して膵臓癌の存在又は発症の可否を確認するものでもある。
【0026】
本発明で“MRS”とは、メチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase)を意味するものであり、前記MRSは、アミノ酸メチオニンとtRNAのアミノアシル化(aminoacylation)反応を媒介する酵素である。本発明のMRS蛋白質は、当業界に公知されたMRSアミノ酸配列を含むものであれば、その具体的な配列及びその生物起源が特に制限されない。一例として、ヒトでは、MARSの遺伝子にコードされていて、MRSの配列情報はNM_004990(mRNA)、NP_004981.2(蛋白質)、P56192.2などのGenbank(NCBI)accession numberに公知されている。好ましくは本発明のMRSは、配列番号1で表されるヒトのMRS蛋白質のアミノ酸配列を含むものでもある。さらに好ましくは、本発明のMRS蛋白質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるものでもある。前記MRSはcytoplasmic form(cytoplasmic methionyl-tRNA synthetase)とmitochondrial form(mitochondrial methionyl-tRNA ynthetase)の二つの亜型(isoform)がある。本発明でのMRSは好ましくはcytoplasmic formでもある。
【0027】
本発明において、用語“発現(expression)”とは、細胞から蛋白質又は核酸が生成されることを意味する。
【0028】
本発明において、用語“蛋白質”とは、“ポリペプチド(polypeptide)”又は“ペプチド(peptide)”と互換性をもって使用され、例えば、自然状態の蛋白質から一般的に発見されたように、アミノ酸残基の重合体を意味する。
【0029】
本発明において、用語“膵臓癌(pancreatic cancer)”とは、膵臓に発生した悪性(malignant)腫瘍又は癌を意味するもので、増殖速度が速く、周囲の組織に浸透及び他の器官に転移する特徴を有する悪性(malignant)新生物を意味する。前記悪性腫瘍又は癌は、成長速度が遅く転移されない特性を有する良性腫瘍(benign tumor)に区別される。
【0030】
膵臓に生じる癌の内、90%以上が膵管細胞に生じ膵臓癌は普通膵管癌又は膵管腺癌を意味する。従って、好ましくは本発明での膵臓癌は、膵管(腺)癌(pancreatic ductal(adeno)carcinoma)を意味するものでもある。
【0031】
本発明で診断の目的とする膵臓癌は、これが原発癌であれ、転移により膵臓に2次的に癌が生じたものであれ、その発生原因が特に制限されない。好ましくは原発癌を対象とするものでもある。
【0032】
本発明において、用語“正常”とは、悪性腫瘍又は癌ではない状態(Negative for malignancy、悪性腫瘍細胞陰性)を意味するものであり、何等の疾患がない完全正常状態、悪性腫瘍(癌)でない膵臓炎などの他の疾病状態、又は/及び“Benign(良性)”に該当する判定状態を含む意味である。本明細書での臨床的な(最終)疾患状態判定において“Benign”に記載される良性表示は“positive”で表示される該当検査法での良性表示と区別されるものであり、前記“positive”と表示される良性は該当検査法で反応があるものと示し、又は該当検査法で癌の可能性を意味する結果を示す。
【0033】
膵臓癌の患者のうち、約5~10%は遺伝素因を有しているが、膵臓癌患者で膵臓癌の家族歴がある場合は、約7.8%程度で、一般人における膵臓癌の発生率0.6%に比べて頻度が高い。膵臓癌は5年の生存率が5%以下で予後が極めて悪い癌である。その理由は、殆どの癌が進行した後で発見されるので、発見当時手術切除が可能な場合が20%以内であり、外観上完全に切除されたとしても、微細遷移によって生存率の向上が少なく、抗癌剤及び放射線治療に対する反応が低いからである。
【0034】
現在、膵臓癌を診断する方法には、コンピュータ断層撮影(computed tomography; CT)や磁気共鳴画像装置(magnetic resonance imaging; MRI)を使用する組織検査があり、映像学的な方法であるCT又はMRIが使用されるが、これは間接的な診断方法であり、最終的には病理学的方法の組織検査や細胞診検査を通じて膵臓癌を診断する。組織検査は周辺の構造や細胞と比較することにより、特定の領域に癌があること確診可能であるが、細胞診検査の場合には、個々の細胞を選び出して塗抹したものであるので周囲の組織との関係を証明できないので、組織検査と細胞診検査は基本的に多くの差がある。
【0035】
最近では、膵臓癌を診断できる臨床試料として血漿のような体液での蛋白質の分析を同時に測定して、膵臓癌の存在又は発症の可能性可否を判断している。しかし、臨床的に血清学的方法は、膵臓癌の診断において参考資料としての意味だけを有するのみ、膵臓癌の診断に決定的な情報は提供していない。現在、膵臓癌と関連して最もよく使われる腫瘍マーカーは、糖鎖抗原19-9(carbohydrate antigen 19-9: CA19-9)又は癌胎児性抗原(carcinoembryogenic antigen:CEA)が挙げられる。しかし、CA19-9は肝炎、肝硬変、膵臓炎などの非癌性疾患でも血中濃度が上昇するので、膵臓癌の診断への使用は不適切であることが知られていて、膵臓細胞自体で検出が可能なものではなく、血液から検出されるマーカーであるため、膵臓癌特異的とは言えない。従って、手術後のCA19-9血清水準を監視することにより、患者の予後判断に使用されている。また、CEAの場合にも、膵臓癌に対して十分な感受性、特異性、陽性予測率及び/又は陰性予測率を見せられず、膵臓癌を正確に診断するには限界点があり、これは本明細書の実施例によく示されている。
【0036】
これに反して本発明者らは、膵臓癌でMRSが(高)発現されたことを最初に究明し、のみならず、MRSを膵臓癌マーカーとして利用する際に組織検査だけでなく、細胞診でも高精度の診断結果を収得できることを究明した。つまり、正常膵臓細胞(つまり、非腫瘍性膵臓細胞)と対比的に、MRSが膵臓癌で特異的に高発現され、MRSが従来膵臓癌マーカーとして多く使われているCEAよりも高い正確性で膵臓細胞試料について膵臓癌の判定が可能であり、特に細胞診診断で、従来の細胞病理学的検査方法(例えば、H&E染色又はpap染色等)では、確定診断が困難な異型(atypical)細胞に対しても高い正確性で膵臓癌細胞の区別を可能にする顕著な効果を明らかにした。
【0037】
従って、本発明は膵臓癌の診断に必要な情報を提供するために、潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase, MRS)蛋白質を検出する方法を提供する。すなわち、本発明は、被検体試料内のメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase, MRS)蛋白質の発現水準を測定することを特徴とする膵臓癌の診断方法を提供する。
【0038】
具体的には前記方法は、
(a)潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase)蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階でメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階を含むことでもある。
【0039】
本発明の前記被検体とは、動物好ましくは哺乳動物特にヒトを含む動物でもあって、前記動物由来の細胞、組織、器官などを含む。より好ましくは診断が必要なヒト又は患者(patient)でもある。本発明では前記(a)段階以前に被検体又は潜在患者から試料を提供する段階を遂行することができる。
【0040】
本発明において用語“潜在患者”とは、膵臓癌に疑われる患者を意味するもので、臨床症状、血液学的検査又は画像学的検査など、様々な検査らを通じて膵臓癌があると疑われる患者を意味する。
【0041】
すなわち、前記潜在患者は、映像学的検査で膵臓癌に判定可能な患者及び判定不可能な患者を含めて、映像学的検査で膵臓癌の判定が不可能であっても、臨床症状、血液学的検査で膵臓癌が疑われる患者を意味する。膵臓癌患者から表れ易い臨床症状には、腹部痛症、黄疸、体重減少、消化障害、糖尿病などがあるが、これらの症状が膵臓癌のみに限られた特異症状ではない。また、血液学的検査で黄疸や糖尿検査値、CEA、CA19-9と同じ腫瘍標識が上昇することがある。映像学的検査は、腹部超音波、腹部CT、腹部MRI、PET-CTを施行することができ、これらの映像学的検査で膵臓の腫瘤がある場合、膵臓癌を疑うようになる。これらの映像学的検査としては、膵臓癌を疑うことはできるが、膵臓癌を確診することはできない。膵臓癌の最終的な確診は病理学的検査で行われ、手術が可能な患者では、手術後得られた組織を通じて確診され、手術が不可能な患者では、主に細胞診(cytodiagnosis)検査を利用して確定することになる。
【0042】
好ましくは、本発明の前記潜在患者(膵臓癌疑心患者)は、膵臓癌で一般的に観察される症状の腹部痛症、黄疸、体重減少、消化障害、糖尿病などの一般的な症状があり、CT、超音波、MRIなどの診断装備を通じて膵臓癌に確診できない患者を意味することでもある。さらに好ましくは、前記潜在患者は、広い部位の侵襲的組織検査が不可能又は不要な患者(つまり、手術による膵組織検査が不可能または不要であるため)として、細胞検査(細胞診)に依存的に膵臓癌を明確に診断する必要性のある患者でもある。つまり、細胞水準の分析によって膵臓癌を明確に診断する必要性のある患者でもあるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
前記試料は、膵臓癌の存在可否を診断しようとする個体(患者)又は被検体から採取されたものであれば特に制限されないが、好ましくは膵臓組織又は膵臓細胞でもある。前記膵臓組織は、膵管(pancreatic duct)を含む膵臓の全ての部位(特に、病変疑心部位)から収得できる。前記膵臓組織は、一般的に膵臓から生検(biopsy)又は手術によって収得されるものでもある。前記膵臓細胞を分離する方法は特に制限されず、当業界で現在人体組織の細胞を分離するために使用される方法だけでなく、将来同じ目的で開発される新しい方法(Fine needle aspiration(FNA)、微細針吸引法)も含まれる概念で理解される。好ましくは、ブラシ細胞診(brushing cytology)又は微細針吸込み法でもあって、最も好ましくは内視鏡超音波微細針吸引法(EUS-FNA)でもある。
【0044】
本発明において、用語“ブラシ細胞診(brush cytology)の方法で採取”とは、通常の細胞診ブラシ(cytology brush)を利用して、膵臓特に膵管表面(特に、患部疑心部位)を擦って細胞を採取する方法を意味する。
【0045】
本発明において、用語“微細針吸引法の方法(穿刺吸引法)で分離された”とは、細胞診(cytodiagnosis)に通常的に使用される細い針を利用して病変(膵臓癌疑心部位)の細胞を吸込み抜き出す採取方式を意味する。
【0046】
好ましくは一実施態様(embodiment)において、前記膵臓組織又は膵臓細胞試料には、必須的に膵管細胞が含まれる。膵管は膵臓実質とは区別される。
【0047】
収得した膵臓細胞又は組織は、当業界に公知された通常の試料前処理(例えば、固定、遠心分離、スライドに塗抹など) 方式に基づいて前処理されて提供される。
【0048】
好ましい一実施態様としては、前記膵臓細胞又は組織試料は、通常のパラフィンブロック(paraffin block)又はパラフィン切片(paraffin section)作製法によって前処理されて、実験用スライド(slide)上に提供されるものでもある。
【0049】
また、好ましい一実施様態として、前記膵臓細胞又は組織試料は、通常の液状断層細胞スライド製作法(液状細胞検査用スライド製作法)によって前処理されて準備されるものでもあり、例えばThinPrep、SurePath、CellPrepなどを使用して液状ベース断層付着法によって実験用スライド(slide)上に提供されされるものでもある。
【0050】
本発明の前記膵臓癌の診断方法は、好ましくは膵臓細胞を分析するものでもある。膵臓細胞を直接分析する細胞学的分析(Cytologycal analysis)方法は、組織検査とは多くの差があり、よって本明細書で前述した先行技術文献で報告している膵臓癌の診断方法とは多くの差がある。また、膵臓細胞自体を利用するので、他の臓器の腫瘍と混同される余地がない。
【0051】
従来の組織検査は、目的の部位を内視鏡的に観察したり、癌への形質転換が疑われる組織から1g乃至109cells程度の一定領域の組織を採取した後、染色などの生化学的方法を通じて癌診断を行う。これらの組織検査は周囲の構造や細胞と比較することにより、特定の領域に癌があると確定することが比較的容易なことと知られている。また、組織水準におけるマーカー発現形態は、周囲の正常組織と全体的に傾向性の比較を通じて確診がより容易である。しかし、細胞診検査の場合には、個々の細胞を抜き出して塗抹したものであるので周囲の組織との関係を証明することができず診断にかなりの困難が伴うため、細胞水準での疾患診断が大きい意味を有する。
【0052】
本発明において、用語“検出”とは、目的とする物質(本発明でのマーカー蛋白質、MRS又は/及びCK19)の存在(発現)の可否を測定及び確認すること、又は目的とする物質の存在水準(発現水準)の変化を測定及び確認することを全て含む意味である。同じく関連して本発明において、前記蛋白質の発現水準を測定することは発現の可否を測定すること(つまり、発現の有無を測定するもの)、又は前記蛋白質の質的、量的変化水準を測定することを意味する。前記測定は、定性的な方法(分析)と定量的な方法を全て含めて制限なく行うことができる。蛋白質水準の測定において定性的方法と定量的方法の種類は、当業界によく知られており、本明細書で記述した実験法等がこれに含まれる。それぞれの方法別に具体的な蛋白質の水準比較方法は、当業界でよく知られている。従って、前記MRS蛋白質の検出は、MRS蛋白質の存在の可否検出、又は前記蛋白質発現量の増加(上方調節)を確認することを含む意味である。
【0053】
本発明で蛋白質の“発現増加(又は高発現)”の意味は、発現されなかったものが発現されたこと(つまり、検出されなかったものが検出されたこと)、又は正常的な水準よりも相対的に過剰発現されたもの(つまり、検出量が多くなること)を意味する。これは陰性対照群との比較又は対照を含む過程を遂行することを内包することができる。これの反対的用語の意味は、当業者であれば前記の定義に準じて、反対の意味を有するものと理解可能である。
【0054】
本発明でMRS蛋白質の検出は、当業界に公知された蛋白質の発現水準測定法によるものであれば、その方法が特に制限はされないが、一例として前記蛋白質に特異的に結合する抗体を利用して検出又は測定することができる。具体的には、本発明で蛋白質の検出は、これに限定はされないが、例えばウエスタンブロット、酵素免疫測定法(ELISA)、放射線免疫測定(radioimmunoassay)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、免疫染色法(免疫組織化学染色、免疫細胞化学染色及び免疫蛍光染色などを含む)、免疫沈降法(immunoprecipitation assay)、補体結合法(complement fixation assay)、FACS(Fluorescence activated cell sorter)アッセイ、SPR(surface plasmon resonance)アッセイ又は蛋白質チップアッセイ(protein chip assay)からなる群から選択されるいずれか一つによるものでもある。この他にも前記測定方法は本願発明で提供するMRS発現水準測定製剤及びこれを含むキットについて、以下で後述されることに準じてその測定方法が理解される。
【0055】
具体的には、膵臓癌の診断に必要な情報を提供するために、潜在患者から採取した膵臓試料からメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase)蛋白質を検出する方法は、潜在患者から採取した膵臓試料においてメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase)蛋白質の発現の可否、または発現水準を測定して、メチオニルtRNA合成酵素が(高)発現されると膵臓癌患者であると判断することができる。前記の方法は他の対照群との比較がなくてもMRSの(高)発現の検出を通じて、かなりの水準の正確性ですぐに膵臓癌の判断が可能であることを長所とする。これは、本発明の明細書の実施例によく表れている。
【0056】
本発明の一実施例によると、悪性腫瘍細胞では、MRSが強く(高)発現することが確認された。つまり、MRSが膵臓癌の診断マーカーとしてかなりの一定水準の正確性を表して使用できることを確認したものである。
【0057】
特に、従来の細胞病理学的診断方法(H&E染色、pap染色など基盤)としては、異型細胞(atypical)に分類されて確診が不可能であったが、今後の患者を追跡観察した結果、最終的に膵臓癌と診断が確定された患者の膵臓細胞からも、MRSが高発現されて検出されることが確認された。癌を診断するために、一般的に使われている従来の細胞病理学的診断方法(H&E染色、pap染色など基盤)では、腫瘍であるか、又は膵臓炎などのようなその他の良性疾患であるのかの区分が極めて難しい異型細胞(atypical)において腫瘍の可否の判定が臨床的に極めて重要であるが、このような異型細胞からMRSの(高)発現が確認されると、腫瘍細胞に判定することができる点で極めて意味があると言える。
【0058】
従来報告された膵臓癌の診断マーカーの場合、細胞診検査の適用において、組織検査とは異なる細胞水準の診断では、感受性及び特異性が良くないので、実効性を収めていないのが実情である。本発明の他の一実施例によると、膵臓癌の診断に最も一般的に使われている腫瘍マーカーの一つである CEAの場合、膵臓腫瘍細胞からその発現が観察されなかったり、又は発現がされてもその程度が極めて弱く、H&E染色結果、異型細胞に判定された細胞(後日最終的に膵臓がんと確定される)では、CEAが全く発現されないことが分かった。すなわち、従来報告された膵臓癌の診断マーカーの場合、従来のH&E染色などを利用した病理学的細胞診断方法では、膵臓癌であるか否かが不明確な異型細胞から一貫性のある発現が表示されないので明確な診断が不可能であるが、本発明に係るMRSの場合には、異型と判定される膵臓細胞においても腫瘍であるか否かに対する明確な判断が可能なため、より正確に膵臓癌を診断することができる顕著な効果を示す。
【0059】
従来の膵臓癌診断のために、コンピュータ断層撮影(CT)、内視鏡逆行胆膵間造影術(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)、超音波内視鏡検査法(EUS)、血管造影術などの高価な徹底した検査が必要とされているが、これを通じても膵臓癌を正確に診断することが極めて難しいのが実情である。結局、膵臓癌の確診のためには病理学的な方法である組織検査や細胞診検査を遂行しなければならない。一方、膵臓癌は、診断当時すでに切除が不可能な進行癌の場合が多く、手術が可能な例は、10~15%しかならず、手術することができない患者において膵臓癌の診断は、内視鏡超音波微細針吸引術検査を通じて実施している。ところが、このような内視鏡超音波微細針吸引術検査を通じた細胞診断の場合、手術後の膵臓癌組織に比べて周辺の構造や細胞との比較が難しく、診断を確診するのに限界がある。
【0060】
従来の細胞病理学的診断は、膵臓癌細胞とは他の疾患(例えば、膵臓炎)の細胞を鑑別するのに主に H&E染色又はpap染色など一般染色に依存している。しかし、このような伝統的な一般染色に基づいた従来の細胞病理学的診断方法により膵臓癌を確診することは医療陣の経験と解析技術によって異なる診断が下されることもあって、さらに、このような従来の検査の場合、膵臓癌であるか又は正常細胞(非膵臓癌細胞を包括的に意味するもので、例えば膵炎細胞等を含む)あるか否かが不明確なため、異型細胞(atypical cell)として病理所見を出すことが多く、このような場合、追加的で多数の反復的な再検査を必要とする。
【0061】
特に、H&E染色又はpap染色を通じた膵臓細胞の観察において、異型(atypical)細胞と判定された場合、膵臓癌であるか又は、他の良性疾患であるか否かの区別が極めて困難で、患者の疾患に対する正確な診断及び治療が速かに行われていない。細胞診に対する正確な診断が遅れることによって、手術が受けられる膵臓癌患者に適切な治療を行うことができず、逆に不必要な手術を避けることも難しい問題点がある。従って、臨床的に膵臓癌の治療効果を増大させるためには、細胞診に対する正確な診断法が必要な実情である。
【0062】
このように、癌を診断するために一般的に使用されているH&E染色、pap染色を通じては、腫瘍であるか又は非腫瘍であるかの区別が極めて難しい異型細胞(atypical)において、腫瘍である否かの判定が臨床的に極めて重要であるが、このような異型細胞からMRSの(高)発現が確認されると腫瘍細胞に判定できることで極めて意味があると言える。また、相対的に多量の生検を必要とする組織検査の場合、細胞診検査よりも試料取得において患者に身体的負担が加重され、ある場合には癌の進行状態によって手術が不可及び組織の採取が不可能な問題点があることを考慮したとき、細胞水準でも正確な診断を提供する本発明のMRSマーカーはさらに大きな長所を有すると言える。
【0063】
そこで本発明は、前記MRS蛋白質検出(またはMRSタンパク質発現水準の測定段階)の前に、同時に又は後に、従来使用されてきた形態学的診断方法の病理検査を行うことができる。つまり、MRS蛋白質の検出(またはMRSタンパク質発現水準の測定段階)の前に、同時に又は後に下記(i)及び(ii)の段階を追加的に行うことができる:
(i)潜在患者から採取した膵臓細胞を、細胞核を染色するDAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)、メチレンブルー(methylene blue)、酢酸カルミン(acetocarmine)、トルイジンブルー(toluidine blue)、ヘマトキシリン(hematoxylin)及びヘキスト(Hoechst)からなる群から選択された一つ以上の染色溶液、及び
細胞質を染色するエオシン(eosin)、クリスタルバイオレット(crystal violet)及びオレンジ G(orange G)からなる群から選択された一つ以上の染色溶液で細胞染色する段階;及び
(ii)前記細胞染色により膵臓細胞を悪性腫瘍細胞、異型細胞(atypical cell)又は正常細胞に判断する段階。
【0064】
前記(ii)段階で判別される異型細胞は、未確診及び確診不可細胞に理解され、これに限定はされないが、具体的には前記の形態学的診断方法の病理検査でSuspicious of malignancy(悪性腫瘍細胞の疑い)の判定も全て含む意味でもある。
【0065】
前記(i)及び(ii)段階は、形態学的診断方法の従来の病理検査による細胞診(cytodiagnosis)方法であり、本発明の一実施例で使用している H&E染色及びpap染色に準ずるものである。本発明で、用語“形態学的診断方法の病理検査”又は“形態学的検査”とは、正常細胞が癌に変化するときの非正常的な形態学的変化を検査することを意味する。
【0066】
前記非正常的な形態学的変化に関する具体的な検査項目又は基準は、当業界に癌細胞が有する形態学的変化の種類であれば、その具体的内容が特に制限はされないが、好ましくは細胞の群集性;細胞核/細胞質比率(N/C ratio);核膜の形状;染色質の凝集現象(chromatin clumping);核内核小体の出現;及び有糸分裂(mitosis)の出現からなる群から選択される一つ以上を検査することでもある。前記形態学的検査は、前述したMRS検出を通じて膵臓癌診断に必要な情報を提供する方法(膵臓癌診断方法)と同時に(simultaneous)、別途で(separate)又は順次的(sequential)に行われる。
【0067】
そこで、前記(ii)段階で、前記(i)段階の細胞染色の結果から、膵臓細胞試料を、悪性腫瘍細胞、異型細胞又は正常細胞に判別することは、正常細胞が癌に変化したときの非正常的な形態学的変化に基づいて判別されることでもあって、その具体的な判別基準は、当業界でよく知られている。この時、異型細胞とは形態学的変化では、悪性腫瘍細胞(癌細胞)又は正常細胞に明確な判定が不可能な細胞を意味する。
【0068】
本発明の好ましい一実施態様で、前記(ii)段階で、前記(i)段階の細胞染色の結果から、膵臓細胞試料を悪性腫瘍細胞、異型細胞又は正常細胞に判別することは、好ましくは下記のような基準により遂行されるものでもある;
【0069】
細胞が3次元で塗抹される(three-dimensional smear of cells);細胞核/細胞質比率(N/C ratio, Nuclear to cytoplasmic ratio)が高い;染色質の凝集現象出現;不整な形状の核膜(rough-shaped nuclear membrane)(核膜の不規則の度合いが大きくなる);核小体の出現;有糸分裂の出現からなる群から選択された二種以上の形態学的異常を示す場合に悪性腫瘍細胞と判定し、
細胞が一層で塗抹されていて、細胞核/細胞質比率(N/C ratio)が小さく核膜が滑らかな場合には、正常細胞と判定し、
細胞の変化が悪性細胞にまでは及ばないものの、正常(benign)と判定することができない場合、異型細胞(atypical cell)と判定する。
【0070】
前記(i)及び(ii)段階をMRS検出(発現レベル測定)段階以前に、同時に又は以後に併行して追加的に行えると、細胞水準の検査(つまり、細胞診検査)だけでも極めて高精度の診断結果を得られるのが特徴である。一例として、MRS検出以前に、(i)及び(ii)の段階を行う場合において、前記細胞染色を通じて悪性腫瘍細胞又は正常細胞に判断された膵臓細胞の場合には、後続的に遂行されるMRS検出段階でMRS蛋白質の発現水準(または否か)を追加的に再分析することにより、より確実に膵臓癌であるか否かを判断することができて、診断エラーを大幅に減らすことができ、前記細胞染色を通じて、異型細胞に判断された場合には、後続的に遂行されるMRS検出段階でMRS発現水準(または否か)を分析することにより、腫瘍の可否に対する明確な判断が可能である。このように、細胞水準の検査で精度の高い確定診断が可能であるのは、従来に異型細胞で検診結果が出た時、組織生検を再び遂行して再診断を余儀なく強いられる煩わしさと、生検組織試料から正確な膵臓癌確定のためには、多数の組織標本が必要なため、患者に身体的負担を引き起こすなど、従来の病理組織検査の問題点を画期的に改善したものであり、極めて優れた診断効果を有すると言える。
【0071】
膵臓癌診断の基準となるMRS検出水準(MRS発現水準、特に増加水準)については、当業者が選択した測定方法によって検出(発現)の有無で、或いは検出(発現)程度の等級を分けて決定することができる。例えば、多数の正常人と患者の試料からMRSの発現水準を測定してデータを蓄積して分析することにより、MRS検出(発現)水準の程度によって正常範疇、膵臓癌発症範疇等に区分して適切な診断の基準を提供することができる。
【0072】
また、前記の方法は、陰性対照群(特に、正常対照群)試料と比較的に行わられる。従って、前記の方法は、MRS検出(MRS発現水準測定)の後に潜在的な患者から採取した膵臓試料において、検出されたMRS蛋白質の水準を陰性対照群試料と比較する段階をさらに含むことができる。本発明において、用語正常対照群は、検査対象の潜在患者(つまり、上記(a)段階で検査対象となった患者と同一個体)の膵臓から、正常部位から採取された膵臓試料又は他の正常個体(膵臓癌のない個体)から採取された膵臓試料の全てを含む意味である。この時、前記潜在患者から採取した膵臓試料より検出されたMRS蛋白質水準が陰性対照群(特に、正常対照群)の水準よりも高いと膵臓癌患者であると判断することができる。
【0073】
これらの対照群に対する情報(例えば、検出強度又は発現強度)は、後述された本願発明で提供するMRS発現水準測定製剤及びこれを含むキットに記載される形態で提供することができ、或いは他の形態で付随的に提供できることもある。これらの対照群に比べて検査対象試料からMRSの発現水準が高いと膵臓癌患者であると判断することができる。
【0074】
ここに一実施様態として、
本発明は、(a)潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase)蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階で測定したメチオニルtRNA合成酵素水準を陰性対照群と比較して、メチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階を含むことを特徴とする膵臓癌の診断方法を提供する。
【0075】
本発明において、用語“正常膵臓細胞”または“正常対照群”とは、非腫瘍(癌)性膵臓細胞を意味するもので、腫瘍(癌)ではない他の疾病(例えば、膵炎など)状態にある膵臓細胞、Benign(良性)状態の細胞及び完全に健康な膵臓細胞(無疾病膵臓細胞)を全て含む意味である。
【0076】
また、本願発明は、前述した(a)及び(b)段階を含めて、異型細胞(悪性腫瘍細胞)を癌細胞と正常細胞 (非-癌細胞)に区分する方法を提供すると言える。
【0077】
本発明において、用語“感受性”とは、最終臨床病理学的診断が膵臓癌である試料又は患者に対して、対象検査法(ex.本件発明の検査法)を通じて膵臓癌の判定が下された割合を意味する。
【0078】
本発明において、用語“特異性”とは、最終臨床病理学的診断が正常な試料又は患者に対して、対象検査(ex.本件発明の検査法)を通じて正常判定が下された割合を意味する。
【0079】
膵臓癌の診断において、マーカーとしてMRS単独でその増加を検出する方式を採用する場合、組織及び細胞水準の検査において診断の感受性が80%以上の水準を示すのが特徴である。前記水準の具体的数値は80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%及び100%からなる群から選択される2つの数字を境界値とする範囲値を全て含む。本願発明の一実施態様(embodiment)において、前記の数値範囲の中で具体的に80%及び95%の境界値が選択することができ、これにより、80%乃至95%の範囲内のすべての値が、本発明で意図されたことは当業者に自明である。さらに他の一実施態様(embodiment)で、好ましくは80%乃至93%の感受性を示すことができ、さらに好ましくは80%乃至92%、最も好ましくは85%乃至92%の感受性を示すことができるがこれらに限定されるものではない。
【0080】
また、マーカーとしてMRSを単独で使用する場合、組織及び細胞水準の検査において、特異性は60%乃至70%水準を示すことができる。さらに好ましくは、62%乃至68%の水準を示すのが特徴である。前記水準の具体的数値は60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%及び70%からなる群から選択される2つの数字を境界値とする範囲値を全て含む。本願発明の一実施態様(embodiment)から前記数値範囲の中で具体的に60%及び65%の境界値が選択されることができ、これにより、60%乃至65%の範囲内のすべての値らが、本発明で意図されることは当業者に自明である。さらに他の実施態様(embodiment)で、好ましくは60%乃至64%の特異性を示すことができ、これらに限定されるものではない。
【0081】
ここで本発明は、
膵臓癌に対する細胞診(cytodiagnosis)検査又は組織検査において、下記の段階を含むことを特徴とする感受性又は/及び特異性を向上させる方法を提供する:
(a)潜在患者から採取した膵臓試料からメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase)蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階でメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階。
【0082】
前記感受性及び特異性の向上が正確性の向上につながるものであることは当業者に自明である。従って、本発明の方法は正確性を向上させる方法として理解することができ、マーカーとしてMRSを単独で使用する場合、正確性が80%乃至100%、好ましくは正確性が82%乃至98%、より好ましくは85%乃至95%水準を示すものでもある。前記水準の具体的数値は80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%及び100%からなる群から選択される二つの数字を境界値とする範囲値を全て含む。本願発明の一実施態様(embodiment)において、前記数値範囲の中で具体的に80%及び90%の境界値が選択でき、これにより、80%乃至90%の範囲内の全ての値らが、本発明で意図されたことは当業者に自明である。さらに他の一実施態様(embodiment)で、好ましくは80%乃至88%の正確性を示すことができ、これらに限定されるものではない。
【0083】
また、本発明は、膵臓癌に対する細胞診(cytodiagnosis)検査又は組織検査において、形態学的検査と併用して
(a)潜在患者から採取した膵臓試料においてメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase)蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階でメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階を含むことを特徴とする膵臓癌細胞判別法をさらに遂行することを特徴とする膵臓癌診断に必要な情報を提供する方法(膵臓癌診断方法)を提供する。
【0084】
前記形態学的検査とは、好ましい一例として、前述した(i)及び(ii)段階の過程を含めて行われる検査を含めて、このような方法に準ずる他の形態学的検査方法も全て含まれる意味である。これに対する説明は前述したことを参照して、当業者であればその方法を適宜選択して使用可能である。
【0085】
前記(a)及び(b)の段階を含む方法が形態学的検査に加えて補助的に(つまり、補助療法として)遂行される場合、前記の形態学的検査と同時に(simultaneous)、別途に(separate)又は順次的に(sequential)遂行することができる。また、前記(a)及び(b)段階を含む方法は形態学的検査の前に、同時に又は後に遂行可能である。
【0086】
前述した通り、MRSは細胞診(cytodiagnosis)用マーカーとして優れた膵臓腫瘍(癌)の診断効果を有する。従って、本発明はメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase, MRS)蛋白質の発現水準を測定する製剤を含む膵臓癌診断用組成物又は膵臓癌診断用キットを提供する。
【0087】
また、メチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase, MRS)蛋白質の発現水準を測定する製剤で構成される膵臓癌診断用組成物又は膵臓癌診断用キットを提供する。
【0088】
また、メチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase, MRS)蛋白質の発現水準を測定する製剤で必須的に構成される膵臓癌診断用組成物又は膵臓癌診断用キットを提供する。
【0089】
また、本発明は膵臓癌の診断用製剤を製造するためのメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase, MRS)蛋白質の発現水準を測定する製剤の使用を提供する。
【0090】
前記MRS蛋白質の発現水準を測定する製剤は、当業界に蛋白質の発現水準の測定に使用可能なものであれば、その種類は特に制限されないが、好ましくはMRS蛋白質に特異的に結合する抗体またはアプタマーでもある。
【0091】
本発明において、用語“抗体(antibody)”とは、抗原性部位に特異的に結合する免疫グロブリン(immunoglobulin)を意味する。より具体的には、ジスルフィド結合により互いに連結された少なくとも二つの重(H)鎖及び二つの軽(L)鎖を含む糖蛋白質を指す。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(以下、HCVRまたはVHと略記)及び重鎖不変領域からなる。重鎖不変領域は3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3からなる。それぞれの軽鎖は軽鎖可変領域及び(以下、LCVRまたはVLと略記)軽鎖不変領域からなる。軽鎖不変領域は一つのドメイン、CLからなる。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるさらに保存された領域が散在された超可変性領域(相補性結晶域(CDR)と呼ばれる)で、さらに細分することができる。VH及びVLのそれぞれは下記順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端に配列された三つのCDR及び4つのFRで構成される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の不変領域は、免疫体系の様々な細胞(例えば、効果器細胞)及び伝統的な相補体系の最初の成分(C1q)を含めて、宿主組織または因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0092】
本発明における抗-MRS抗体はMRSの他に、他の種類のアミノアシルtRNA合成酵素を含む他の蛋白質には反応せず、MRS蛋白質にのみ特異的に結合する抗体である。本発明でMRS蛋白質に特異的に結合する抗体は、好ましくは配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む蛋白質(MRS)に特異的に結合する抗体でもある。抗-MRS抗体はMRS遺伝子を発現ベクターにクローニングして、前記遺伝子によってコードされる蛋白質を収得して、収得した蛋白質を動物に注入して生成される抗体を収得するなどの、当該技術分野の通常的な方法によって製造することができる。前記MRS抗体はMRS全長配列蛋白質を通じて製作されるものもあり、又はMRS抗原性部位を含むMRS蛋白質の断片を利用して、MRS蛋白質の特異的な抗体を製造することもできる。本発明の抗体の具体的な配列とその形態は特に制限されず、多クローン抗体(polyclonal antibody)又は単クローン抗体(monoclonal antibody)を含む。また、前記抗体は提供される免疫グロブリンとしての種類が特に制限されず、一例にIgG、IgA、IgM、IgE及びIgDからなる群から選択されるものでもあって、好ましくはIgG抗体でもある。さらには本発明の抗体には、MRS蛋白質に特異的に結合することができるものであれば人間化抗体、キメラ抗体などの特殊抗体と組換え抗体も含まれる。また、抗原抗体結合性(反応)を有するものであれば、全体抗体の一部も、本発明の抗体に含まれて、MRSに特異的に結合する全ての種類の免疫グロブリン抗体が含まれる。例えば、二つの全長の軽鎖及び二つの全長の重鎖を有する完全な形態の抗体だけでなく、抗体分子の機能的な断片、すなわち、抗原結合機能を有するFab、F(ab')、F(ab')2、Fv、ジアボディ(diabody)、scFvなどの形態でもある。
【0093】
Fab(fragment antigen-binding)は、抗体の抗原結合断片で、重鎖と軽鎖それぞれの一つの可変ドメインと不変ドメインで構成されている。F(ab')2は、抗体をペプシンで加水分解させて生成される断片で、二つのFabが重鎖ヒンジにおいて、二硫化結合で連結された形態をしている。F(ab')は、F(ab')2断片の二硫化結合を還元して分離させたFabに重鎖ヒンジが付加された形態の単量体抗体断片である。Fv(variable fragment)は、重鎖と軽鎖それぞれの可変領域でのみ構成された抗体断片である。scFv(single chain variable fragment)のは重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)が柔軟なペプチドリンカーで連結されている組換え抗体断片である。ディアボディ(diabody)はscFvのVHとVLが極めて短いリンカーで連結されて互いに結合できず、同じ形態の他のscFvのVLとVHとそれぞれ結合して二量体を形成している型態の断片を意味し、本発明の目的上抗体の断片は、ヒトから由来したMRS蛋白質に対する結合特異性を維持しているものであれば構造や形態の制限を受けない。
【0094】
本願発明における、前記抗-MRS抗体(その機能的断片を含む)は、MRS蛋白質に特異的に結合することができるものであれば、前記抗体がMRSと相互作用(つまり、結合)する部位などが特に制限されないが、好ましくはMRSにおける配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む領域のエピトープ(epitope)に特異的に結合することを特徴とする抗体又はその機能的断片でもある。より好ましくは配列番号1で表されるMRS(methionyl-tRNA synthetase)蛋白質の861番目乃至900番目のアミノ酸領域を含むエピトープ(epitope)に特異的に結合することを特徴とする抗体又はその機能的断片が好ましくもある。
【0095】
本発明の一実施例で、本発明者らは、膵臓癌細胞に対するMRSの高感度の検出(染色)のために、MRSにおける配列番号2で表されるアミノ酸配列領域をエピトープにする抗体を収得して、これらの抗体がMRSに対する高感度の検出能を提供可能であることを確認している。
【0096】
前記配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む領域のエピトープ(epitope)に特異的に結合する抗体は、目的とする特異的結合能を有する限り、その具体的な配列が特に制限はされないが好ましくは、
【0097】
配列番号4または配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1);配列番号6又は配列番号18で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2);配列番号8又は配列番号20で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む軽鎖可変領域(VL)及び、
【0098】
配列番号10又は配列番号22で表されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1);配列番号12又は配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2);配列番号14又は配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む軽鎖可変領域(VH)を含むものでもある。
【0099】
前記CDR構成を有する好ましい一例として、本発明の抗体(その機能的断片を含む)は、軽鎖可変領域が配列番号28で表されるアミノ酸配列を含むことができ、重鎖可変領域は配列番号30で表されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0100】
前記CDR構成を有するさらに他の好ましい一例として、本発明の抗体(その機能的断片を含む)は、軽鎖可変領域が配列番号32で表されるアミノ酸配列を含むことができ、重鎖可変領域は、配列番号34で表されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0101】
最も好ましい一例として、本願発明は配列番号36のアミノ酸配列からなる軽鎖及び配列番号37のアミノ酸配列からなる重鎖でなる抗体を提供する。
【0102】
さらに、他の最も好ましい一例として、本願発明は、配列番号38のアミノ酸配列からなる軽鎖及び配列番号39のアミノ酸配列からなる重鎖でなる抗体を提供する。
【0103】
本発明で検出製剤(代表的に抗体およびその機能的断片など)らは、その“検出”のために一般的に検出可能な部分(moiety)で標識することができる。例えば、文献 [Current Protocols in Immunology,Volumes 1 and 2,1991,Coligenなど,Ed.Wiley- Interscience,New York,NY.,Pubs]に記述された技術を利用して、放射性同位元素又は蛍光標識で標識することができる。又は様々な酵素基質標識が利用可能であり、前記酵素的標識の例は、ショウジョウバエルシフェラゼ及び細菌ルシフェラゼ(米国特許第4,737,456号)のようなルシフェラーゼ、ルシフェリン(luciferin)、2,3-ダイハイドロープタラジンディオネス、マレートジヒドロゲナーゼ、ウラゼ(urase)、ホースラディシュパーオキシダーゼ(HRPO)のようなパーオキシダーゼ、アルカラインホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サカライドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ及びグルコース-6ホスフェートジヒドロゲナーゼ)、ヘテロサイクリックオキシダーゼ(例えば、ユリカ剤及びジャンチンオキシダーゼ)、ラクトパーオキシダーゼ、マイクロパーオキシダーゼなどを含む。抗体に酵素を接合させる技術は、例えば、文献[O'Sullivanなど、1981,Methods for the Preparation of Enzyme抗体 Conjugates for use in Enzyme Immunoassay、in Methods in Enzym.(J.Langone&H.Van Vunakis、eds)、Academic press、NY、73:147-166 ]に記述されている。標識は様々な公知された技術を利用して、抗体に直接又は間接的に接合することができる。例えば、抗体はビオチン(biotin)に接合することができ、前記で言及された3種の広範囲なカテゴリに属する任意の標識らがアビジン(avidin)と、又はその反対に接合することができる。ビオチンはアビジンに選択的に結合し、従ってこの標識はこのような間接的な方法で抗体に接合することができる。又は抗体に標識の間接接合を達成するために、抗体は小さいハプテン(hapten)(例えば、ジゴキシン[digoxin]と接合することができ、前記で言及された相異する類型の標識らの一つが抗ハプテン抗体に接合することができる(例えば、抗-ジゴキシン抗体)。従って、抗体に対する標識の間接的接合が達成することができる。
【0104】
本発明において、用語“アプタマー”とは、試料内の検出しようとする分析物質と特異的に結合することができる物質で、それ自体で安定した三次構造を有する単一鎖核酸(DNA、RNA、または変形核酸)を意味するもので、特異的に試料内の標的蛋白質の存在を確認することができる。アプタマーの製造は、一般的なアプタマーの製造方法によって確認しようとする標的蛋白質に対して選択的で高い結合力を有するオリゴヌクレオチドの配列を決定して合成した後、オリゴヌクレオチドチドの5'末端や3'末端をアプタマーチップの官能基に結合することができるように、-SH、-COOH、-OH、又はNH2に変形させることにより為すことができるがこれらに限定されない。
【0105】
本発明の膵臓癌診断用キットには、MRS蛋白質の発現水準を測定するために、選択的に前記蛋白質を特異的に認識する抗体又はアプタマーだけでなく、分析方法に適した一種類又はそれ以上の他の構成成分組成物、溶液又は装置が含まれる。
【0106】
具体的な様態として、前記キットは、ウエスタンブロット、ELISA、放射線免疫測定、放射線免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、免疫染色法、免疫沈降法、補体結合法、FACS、SPR又は蛋白質チップアッセイを行うために必要な公知の必須要素及び付随要素を含むことを特徴とする診断キットでもあるがこれらに制限されない。
【0107】
一例に、前記キットはMRS蛋白質に対する特異的な抗体を含む。前記抗体は、目的のマーカー蛋白質に対する特異性及び親和性が高く、他の蛋白質に対する交差反応性が殆どない(実質的にない)抗体で、単クローン抗体、多クローン抗体又は組換え抗体である。また、前記キットは、追加的に任意の対照群蛋白質に特異的な抗体を含むことができる。キットに提供される抗体は、それ自体で検出可能な部分で標識することができ、これは、前述した通りである。その他に前記キットは、結合された抗体を検出することができる別の試薬、例えば、標識された二次抗体、発色団(chromophores)、酵素(抗体とコンジュゲートされた形で)及びその基質、又は抗体と結合できる他の物質などを含むことができる。また、本発明のキットは、余剰の発色基質及び結合されていない蛋白質などは削除して、抗体と結合された蛋白質マーカーだけを保有できる洗浄液又は溶離液を含むことができる。
【0108】
前記MRS蛋白質の発現水準を測定する製剤は、また、MRS遺伝子(MARS)の発現水準を検出する製剤を含む意味でもある。蛋白質の発現水準の増加は、前記蛋白質をコードする遺伝子からの転写物(例えば、mRNA)の増加が伴うものであるので、当業者であれば前述した通り、MRS蛋白質を検出する手段だけでなく、間接的にMRS蛋白質発現と直接的に関係した転写物を検出する手段を使用可能であることが明らかに理解可能である。
【0109】
前記MRS mRNAを検出する製剤は、MRS mRNAに特異的に付着又は混成化(hybridization)するリガンドであれば、その種類は特に制限されないが、例えばプライマー(対)又はプローブでもある。
【0110】
前記“プライマー”とは、短いフリー3'末端水酸基(free 3'hydroxyl group)を有する核酸配列で相補的なテンプレート(template)と塩基対を形成することができ、テンプレート鎖複写のための開始時点として作用する短い核酸配列を指す。プライマーは適切な緩衝溶液及び温度で重合反応のための試薬(つまり、DNAポリメラーゼまたは逆転写酵素)及び相異する4つのヌクレオシドトリホスフェートの存在下でDNA合成を開始することができる。PCR条件、センス及びアンチセンスプライマーの長さは、当業界に公知された技術に基づいて適切に選択することができる。
【0111】
プライマーの配列は鋳型の一部の塩基配列と完全に相補的な配列を有する必要はなく、鋳型と混成化されてプライマー固有の作用をすることができる範囲内での十分な相補性を有すれば十分である。従って、本発明でMRS mRNAの発現水準を測定するためのプライマーは、MRSコーティング遺伝子配列に完全に相補的な配列を有する必要はなく、DNA合成を通じてMRS mRNA又はMRS cDNAの特定の区間を増幅してMRS mRNAの量を測定しようとする目的に合った長さと相補性を有するものであれば十分である。前記増幅反応のためのプライマーは、増幅しようとするMRS mRNAの特定区間の両端部分の鋳型(またはセンス、sense)と反対側(アンチセンス、antisense)にそれぞれ相補的に結合する一組(対)で構成される。プライマーは、当業者であれば、MRS mRNA又はcDNAの塩基配列を参照して容易に設計することができる。
【0112】
“プローブ(probe)”とは、特定の遺伝子のmRNAやcDNA(complementary DNA)に特異的に結合できる短くは数個乃至長くは数百個の塩基(base pair)の長さのRNA又はDNAなどのポリヌクレオチドの断片を意味し、標識(labeling)されていて結合する対象 mRNAやcDNAの存在の有無、発現量などを確認することができる。本発明の目的のためにはMRS mRNAに相補的なプローブを被検体の試料と混成化反応(hybridization)を行い、MRS mRNAの発現量を測定することにより、診断に利用することができる。プローブの選択及び混成化条件は、当業界に公知された技術に基づいて適切に選択することができる。
【0113】
本発明のプライマー又はプローブは、ホスホロアミダイト(phosphoramidite)固体支持体合成法やその他の広く公知された方法を利用して化学的に合成することができる。また、プライマー又はプローブは、MRS mRNAとの混成化を妨げない範囲で、当該技術分野で公知の方法によって多様に変形することができる。このような変形の例としては、メチル化、キャップ化、天然ヌクレオチド一つ以上の同族体への置換及びヌクレオチド間の変形、例えば荷電されていない連結体(例:メチルホスホネート、ホスホリエステル、ホスホアミデート、カーバメートなど)又は荷電された連結体(例:ホスポロチオエイト、ホスポロジチオエイトなど)、及び蛍光又は酵素を利用した標識物質(labeling material)の結合などがある。
【0114】
本発明の診断用キットには、MRSの発現水準を測定するためにMRS mRNAをマーカーとして認識するプライマー又はプローブだけでなく、分析方法に適した一種類又はそれ以上の他の構成成分組成物、溶液又は装置が含まれる。前記キットは、当業界にプライマー (プライマー対) 又はプローブを部品として提供する分析キットとして知られているものであれば、その種類は特に制限されないが、例えばPCR (polymerase chain reaction、ポリメラーゼ連鎖反応) 、RNase保護分析法、ノーザンブルラトチン、サザンブラトチンまたはDNAマイクロアレイチップ用キットなどを含む。
【0115】
一例として、前記診断キットは、重合酵素反応を遂行するために必要な必須要素を含むことを特徴とする診断用キットでもある。重合酵素反応キットは、マーカー遺伝子(mRNA)に対する特異的なそれぞれのプライマー対を含む。プライマーは各マーカー遺伝子(mRNA)の核酸配列に特異的な配列を有するヌクレオチドであって、約7bp乃至50bpの長さ、より好ましくは約10bp乃至30bpの長さである。また、対照群の遺伝子の核酸配列に特異的なプライマーを含むことができる。その他、重合酵素反応キットは、テストチューブ又は他の適切なコンテナー、反応緩衝液(pH及びマグネシウム濃度は多様)、デオキシヌクレオチド(dNTPs)、DNAポリメラーゼ (例えば、taq-ポリメラーゼ)及び逆転写酵素、DNAse、RNAse抑制剤水(DEPC-water)、滅菌水などを含むことができる。
【0116】
また、本発明者らは、膵臓癌の診断において正常細胞では殆どMRSが全く発現されなかったが、少数の正常試料から、MRSが発現されて偽陽性を示す場合があるが、これらの偽陽性判断は正常、通常の腺房細胞(acinar cell)からMRSが高発現される現象に起因することが分かった。これらの偽陽性反応を排除して、より正確性 (感受性及び特異性を含む) の高い方法を見つけるために、様々なマーカーの組合せに対して検討を行った結果、本発明のMRS及びCK19を対象とする二重染色法を開発した。本発明者らは、膵臓癌の診断においてMRSの他に、特異的にCK19を追加の二重マーカーとして使用する場合、細胞診(cytodiagnosis)において膵臓癌診断の正確性が実質的に(ほとんど)100%の水準に表示されることを最初に究明した。これを通じて従来の細胞診検査で異型細胞に分類された試料を極めて高い正確性で膵臓癌と非膵臓癌(正常)に区分することができる。
【0117】
本願発明は、膵臓癌の診断に必要な情報を提供するために、潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase, MRS)蛋白質及びサイトケラチン-19Cytokeratin 19、CK19)蛋白質を検出する方法を提供する。すなわち、本発明は被検体試料内のメチオニルtRNA合成酵素(methionyl tRNA synthetase, MRS)蛋白質及びサイトケラチン-19(Cytokeratin 19、CK19)蛋白質の発現水準を測定することを特徴とする膵臓癌の診断方法を提供する。
【0118】
具体的に前記方法は、
(a)潜在患者から採取した膵臓試料でMRS蛋白質及びCK19蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階でCK19蛋白質が検出(発現)されてメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階を含むものでもある。
【0119】
本発明で“CK19”はサイトケラチン19(Cytokeratin 19)を意味するもので、前記CK19はタイプIケラチン(type I keratin)に属する中間フィラメント蛋白質(intermediate filament protein)として、主に上皮細胞で発現され、上皮細胞の構造的完全性を担当する。本発明のCK19蛋白質は、当業界に公知されたCK19アミノ酸配列を含むものであれば、その具体的な配列及びその生物起源が特に制限されない。一例にヒトからはKRT19遺伝子にコードされており、CK19の配列情報は、NM_002276.4(mRNA)、NP_002267.2(蛋白質)などのGenbank(NCBI)accession numberで公知されている。好ましくは本発明のCK19は、配列番号3で表されるヒトのCK19蛋白質アミノ酸配列を含むものでもある。さらに好ましくは本発明のCK19蛋白質は、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるものでもある。
【0120】
本発明でMRS蛋白質及びCK19の検出は、当業界に公知された蛋白質の発現水準の測定法によるものであれば、その方法は特に制限されないが、一例として前記蛋白質のそれぞれに特異的に結合する抗体を利用して検出又は測定することができる。具体的に、本発明で蛋白質の検出はこれに制限はされないが、例えばウエスタンブロット、酵素免疫測定法(ELISA)、放射線免疫測定、放射線免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、免疫染色法(免疫組織化学染色、免疫細胞化学染色及び免疫蛍光染色などを含む)、免疫沈殿法、補体結合法、FACSアッセイ(Fluorescence activated cell sorter)、SPR(surface plasmon resonance)又は蛋白質チップアッセイからなる群から選択されるいずれか一つによるものでもある。
【0121】
具体的には、膵臓癌の診断に必要な情報を提供するために、潜在患者から採取した膵臓試料からMRS蛋白質及びCK19蛋白質を検出する方法は、潜在患者から採取した膵臓試料でMRS蛋白質及びCK19蛋白質の発現の可否、又は発現水準を測定してCK19蛋白質が発現されてMRS蛋白質が(高)発現している場合、膵臓癌患者であると判断することでもある。前記の方法は、特別な比較過程がなくてもCK19蛋白質と一緒にMRS蛋白質の(高)発現検出を通じて、極めて優れた正確性で直ちに膵臓癌(特に、膵管癌または膵管腺癌)の判断が可能であることを長所とする。これは、本発明の明細書の実施例によく現れている。
【0122】
また、前記の判断は陰性対照群(特に、正常対照群試料)と比較的に遂行されることもあり、このような検出強度又は発現強度の比較は、前述した内容を参照に理解される。具体的には、CK19蛋白質が発現されて陰性対照群と比較してMRS蛋白質の発現が増加すると、膵臓癌細胞であると判断することができる。
【0123】
ここに一実施態様(embodiment)において、本発明は、
(a)潜在患者から採取した膵臓試料でMRS蛋白質及びCK19蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階で測定したメチオニルtRNAの合成酵素蛋白質の発現水準を陰性対照群と比較してメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加し、CK19蛋白質が発現している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階を含むことを特徴とする膵臓癌の診断方法を提供する。
【0124】
特に、従来の細胞病理学的診断方法(H&E染色、pap染色など基盤)では、異型細胞(atypical)に分類されて確診が不可能であったが、今後患者を追跡観察した結果、最終的に膵臓癌と診断が確定された患者の膵臓細胞でもMRS及びCK19が高発現されて検出されることが確認された。癌を診断するために、一般的に使われている従来の細胞病理学的診断方法を通じては、腫瘍であるか、又は膵臓炎などのようなその他の陽性(benign)疾患であるのかの区分が極めて困難な異型細胞(atypical)から腫瘍の可否判定が臨床的に極めて重要であるが、このような異型細胞からMRSの(高)発現が確認されると、腫瘍細胞に判定することができる点で極めて意味があると言えて、特に、CK19と併用されたとき腺房細胞による偽陽性判断のエラーを大幅に減少させるため、膵臓癌の診断の正確性が著しく上昇する効果を有する。
【0125】
また、相対的に大量の生検を必要とする組織検査の場合、細胞診検査よりも試料取得において患者に身体的負担が加重され、或る場合には癌の進行状態によって、手術が不可及び多量の組織水準の採取が不可能な問題があることを考慮したとき、細胞水準において正確な診断を提供する本発明の方法はさらに大きな長所を有すると言える。
【0126】
膵臓癌の診断において、MRS及びCK19を同時にマーカーとして使用して、その増加を検出する方法を採用する場合、組織及び細胞水準の検査において診断の感受性、特異性、陽性予測率及び/又は陰性予測率が殆ど100 %水準を示すことが特徴である。
【0127】
具体的には、前記感受性、特異性、陽性予測率及び陰性予測率からなる群から選択される一つ以上が80%以上の水準(80%ないし100%、望ましくは85%ないし95%、さらに望ましくは90ないし98%の水準)を示すのが特徴である。前記水準の具体的数値は80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%及び100%からなる群から選択される二つの数字を境界値とする範囲値を全て含む。本願発明の一実施態様(embodiment)、前記の数値範囲の中で具体的に80%及び95%の境界値が選択され、これにより、80%乃至95%の範囲にある全ての値が、本発明で意図されたことは当業者に自明である。さらに他の一つの実施態様(embodiment)から好ましくは前記感受性、特異性、陽性予測率及び/又は陰性予測率が85%以上の水準(85%ないし100%、望ましくは87%ないし99%、さらに望ましくは90ないし98%の水準)を示すことができるが、これに限定されるものではない。
【0128】
そこで、本願発明は膵臓癌の細胞診(cytodiagnosis)検査又は組織検査において、前記段階を含むことを特徴とする感受性又は特異性を向上させる方法を提供する:
(a)潜在患者から採取した膵臓試料からメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase)蛋白質及びサイトケラチン-19(Cytokeratin 19, CK19)蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階でサイトケラチン-19蛋白質が検出(発現)されてメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階。
【0129】
前記感受性、特異性、陽性予測率及び/又は陰性予測率の向上が正確性の向上につながるものであることは当業者に自明である。従って、本発明の方法は、正確性を向上させる方法として理解することができ、好ましくは正確性が90%乃至100%、より好ましくは正確性が90%乃至99%の水準を示すものでもある。前記水準の具体的数値は90%、90.5%、91%、91.5%、92%、92.5%、93%、93.5%、94%、94.5%、95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.5%及び100%からなる群から選択される二つの数字を境界値とする範囲値を全て含む。本願発明の一実施態様(embodiment)で、前記の数値範囲の中で具体的に92.5%及び99.5%の境界値を選択することができ、これにより、93.5%乃至99.5%の範囲内の全ての値が本発明で意図されたことは当業者に自明である。さらに他の一実施態様(embodiment)でさらに好ましくは93%乃至98%、最も好ましくは95%乃至98%水準を示すものでもあるが、これらに限定されるものではない。
【0130】
また、本願発明は、膵臓癌に対する細胞診(cytodiagnosis)検査又は組織検査において、形態学的検査と併用して
(a)潜在患者から採取した膵臓試料でメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase)蛋白質とサイトケラチン-19(Cytokeratin 19, CK19)蛋白質の発現水準を測定する段階;及び
(b)前記(a)段階でサイトケラチン-19蛋白質が検出(発現)されてメチオニルtRNA合成酵素蛋白質の発現水準が増加している場合、前記潜在患者を膵臓癌患者であると判断する段階を含むことを特徴とする膵臓癌細胞判定法を追加して行うことを特徴とする膵臓癌診断に必要な情報を提供する方法(膵臓癌診断方法)を提供する。
【0131】
前記形態学的検査とは、好ましい一例として前述した(i)及び(ii)段階の過程を含めて行われる検査も含めて、このような方法に準ずる他の形態学的検査方法も全て含むとの意味である。これに対する説明は前述した内容を参照して当業者であればその方法を適宜選択して使用可能である。
【0132】
前記(a)及び(b)段階に対する具体的な説明は前述した通りであり、これらの段階が補助的に(つまり、補助療法として)遂行される場合、前記形態学的検査と同時に(simultaneous)、別に(separate)又は順次的(sequential)に遂行することができる。また、前記(a)及び(b)の段階を含む判別法は形態学的検査の前に同時に、又は後に遂行可能である。
【0133】
さらに、本願発明はメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase, MRS)蛋白質とサイトケラチン-19(Cytokeratin 19, CK19)蛋白質の発現水準を測定する製剤(特に、MRS又はCK19それぞれに対する製剤)を含む膵臓癌診断用組成物又は膵臓癌診断用キットを提供する。
【0134】
また、MRS蛋白質及びCK19蛋白質の発現水準を測定する製剤で構成される膵臓癌診断用組成物又は膵臓癌診断用キットを提供する。
【0135】
また、MRS蛋白質及びCK19蛋白質の発現水準を測定する製剤で、必須的に構成される膵臓癌診断用組成物又は膵臓癌診断用キットを提供する。
【0136】
また、本発明は、膵臓癌診断用製剤を製造するためのMRS蛋白質及びCK19蛋白質の発現水準を測定する製剤の使用を提供する。
【0137】
本発明で、前記CK19蛋白質の発現水準を測定する製剤は、当業界に蛋白質の発現水準の測定に使用可能なことが知られたものであれば、その種類は特に制限されないが、好ましくはCK19蛋白質に特異的に結合する抗体又はアプタマーでもあって、これに対する具体的な説明は、前述した抗-MRS抗体及びアプタマーに対して記述された事項に準ずる。
【0138】
また、前記CK19蛋白質の発現水準を測定する製剤は、CK19遺伝子(KRT19)の発現水準を検出する製剤を含む意味でもある。蛋白質の発現水準の増加は、前記蛋白質をコードする遺伝子からの転写物(例えば、mRNA)の増加が伴うので、当業者であれば前述した通り、CK19蛋白質自体を検出するための手段だけでなく、間接的にCK19蛋白質の発現と直接的に関係する転写物を検出する手段を使用可能であることが明らかに理解可能である。前記CK19 mRNAを検出する製剤は、CK19 mRNAに特異的に付着又は混成化(hybridization)するリガンドであれば、その種類は特に制限されないが、例えば、プライマー(対)又はプローブでもあって、これに対する具体的な説明は、前述したMRS mRNAに対するプライマー(対)又はプローブについて記述された事項に準ずる。
【0139】
本発明の膵臓癌診断用キットには、MRS蛋白質又は/及びCK19蛋白質の発現水準を測定するために、選択的に前記蛋白質をそれぞれ特異的に認識する抗体、アプタマー、前記蛋白質をコーティングするmRNAに特異的に付着(混成化)するリガンド、プライマー(対)又はプローブなどを含めて、のみならず分析方法に適した一種類又はそれ以上他の構成成分組成物、溶液又は装置を含むことができる。具体的な検出方法によるキットの種類及びそれに伴う具体的構成品については、前述したことを参照して理解される。
【発明の効果】
【0140】
膵臓癌マーカーとしてMRSを利用すれば、従来のCEAのような膵臓癌マーカーよりも診断正確性が著しく高く、膵臓細胞からMRS(methionyl-tRNA synthetase)の発現の可否を分析することにより、膵臓癌であるか否かを明確に判断することができる効果があり、これらの効果は、一般染色法により異型細胞(Atypical cell)と判断された細胞からも同じく現れる点で、膵臓癌診断に極めて有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
図1】si-MRSを処理したH460細胞の細胞溶出液を使用して本発明のanti-MRS抗体(1E8, 8A12)のMRS結合強度及び特異性を公知の市販MRS抗体(Ab50793)と比較したウエスタンブロット結果である。
図2】PANC-1細胞株 (膵臓癌細胞株)及びSCK細胞株(非膵臓癌細胞株)の細胞溶出液を使用して、本発明のanti-MRS抗体(1E8, 8A12)のMRS結合強度及び特異性を公知の市販MRS抗体(Ab137105)と比較したウエスタンブロットの結果である。
図3】1E8抗体の他のARS(aminoacyl-tRNA synthetase)、AIMP蛋白質に対する交叉活性を確認するためにELISAを実施した結果をグラフで示したものである。
図4】8A12抗体の他のAR(aminoacyl-tRNA synthetase)S、AIMP蛋白質に対する交叉活性を確認するためにELISAを実施した結果をグラフで示したものである。
図5】1E8抗体のMRS + AIMP3蛋白質に対する抗体の親和力を確認するために行ったSPR(Surface plasmon resonance)実験結果を示したものである。
図6】1E8抗体がAIMP3に対しては反応性がないことを確認したSPR (Surface plasmon resonance)実験結果を示したものである。
図7】8A12抗体のMRS + AIMP3蛋白質に対する抗体の親和力を確認するために遂行したSPR(Surface plasmon resonance)実験結果を示したものである。
図8】8A12抗体がAIMP3に対しては反応性がないことを確認したSPR(Surface plasmon resonance)実験結果を示したものである。
図9】PANC-1細胞株(膵臓癌細胞株)及びSCK細胞株(非膵臓癌細胞株)に対して、本発明のanti-MRS抗体(1E8, 8A12)と市販のMRS抗体(Ab137105)を利用して免疫蛍光染色を行った結果を比較して示す。
図10】臨床現場で患者の細胞試料processingに使用するThinprep装備(Hologic. Inc)を活用してPANC-1細胞株で臨床条件と類似したThinprepスライドを製作して、本発明の1E8抗体及び8A12抗体の免疫蛍光染色を行った結果を示す。
図11】正常患者から分離した膵臓細胞の H&E染色の結果、MRSの発現可否の観察結果及びCEAの発現の可否の観察結果を示す(それぞれの数字は患者コード番号)。
図12】膵臓癌患者から分離した膵臓細胞への H&E染色の結果、MRSの発現可否の観察結果及びCEAの発現の可否の観察結果を示す(それぞれの数字は患者コード番号)。
図13】H&E染色の結果、異型細胞に判断され、追後膵臓癌に確診された患者の膵臓細胞診試料についてMRSの発現の可否観察結果及びCEAの発現可否の観察結果を示す(それぞれの数字は患者コード番号)。
図14】正常膵臓組織の中で正常腺房細胞(acinar cell)からMRS発現強度を観察した結果を示す。
図15】膵臓癌細胞(PANC-1 cell line)からMRS及びCK19蛋白質に対する二重検出を行った結果であって、各マーカーの染色強度を示す。
図16】非膵臓癌細胞(CT26 cell line)からMRS及びCK19蛋白質に対する二重検出を行った結果であって、各マーカーが検出されないことを示している。
図17】多数の膵臓腺房細胞を含む細胞試料に対して、従来の細胞病理検査上(pap staining)の染色イメージと、本発明の二重染色法を行った結果を示す。
図18】従来の細胞病理検査上(pap staining)では、異型細胞(atypical cells)に分類されて確診が不可能であったが、最終的に膵臓癌に確診された患者の膵臓細胞試料において、本願発明の二重染色法を行った結果を示す。
図19】従来の細胞病理検査上(pap staining)では、膵臓癌の疑い(Suspicious of malignancy)に未確診されたが、最終的に膵臓癌確診された患者の膵臓細胞試料において、本願発明の二重染色法を行った結果を示す。
図20】従来の細胞病理検査上(pap staining)では、膵臓癌に確診され最終的にも膵臓癌に確診された患者の膵臓細胞試料において、本願発明の二重染色法を行った結果を示す。
図21】従来の組織病理学検査法(H&E stain)を通じて膵臓癌組織と判定された組織を対象(膵臓癌細胞と正常細胞が共存する組織)に、本発明のMRS検出法及び追加のCK19の検出を行った結果を示す。
図22】従来の組織病理学検査法(H&E stain)を通じて正常膵臓組織と判定された組織で、本発明のMRS検出法、追加のCK19の検出を行った結果を示す (矢印はCK19が染色された膵管領域を指す) 。
【発明を実施するための形態】
【0142】
以下、本発明を詳細に説明する。
但し、下記の実施例は本発明を例示するものであり、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。
【0143】
実施例1:本発明の膵臓癌検査法に対する有用抗体作製 (MRSに対する特異性の高い抗体の修得)
生体内でMRS(methyonyl-tRNA synthetase)はAIMP3(Aminoacyl tRNA synthetase complex-interacting multifunctional protein 3)と結合された状態で存在し、UV照射などによって、これらの結合状態が分離されるものと知られている。従って、実質的にMRSの正確な検出のためには、MRSがAIMP3と結合している状態などの状況でもMRSのみを特異的に検出する必要があるが、現在AIMP種類及びARS種類には、蛋白質構造上類似点が多く、市販の抗体の場合、他のAIMP及びARSの種類と交差反応性が表れる問題点がある。そこで、本発明の膵臓癌検査法の診断正確性のために、本発明者は他の蛋白質には交差反応性がない高感度のMRS抗体を、以下のような方法で製造した。
【0144】
1-1.MRS-AIMP3蛋白質の製造
大腸菌(E.coli)上でMRS-AIMP3 co-purified蛋白質を発現及び精製し、具体的な実験方法は以下の通りである。BL21DE3 strainを利用して、MRS(配列番号1)とAIMP3(配列番号40, NCBI ref. NM_004280.4)が発現するように形質転換し、LB培地で培養した後、単一コロニーをアンピシリン(ampicilin)を含む5ml LB液体培地にOD 600値が0.6乃至0.8になるように培養した。以後1mMのIPTGを入れた後、37℃で3時間培養してその次の10分間遠心分離して細胞だけを獲得した。細胞液でSDS-PAGEを実施してクマシ溶液(coomassie stain)を利用して前記蛋白質の発現を確認した。その後、IPTGで過発現を 誘導した細胞液を集めて遠心分離を実施して細胞を獲得した。1ml DPBSで細胞を放した後、超音波破砕機を利用して、細胞を溶解してその次に溶解された細胞で遠心分離を実施して、MRS-AIMP3 co-purified蛋白質を分離した。
【0145】
1-2.MRS-AIMP3蛋白質の注入を通じたマウス免疫化
ハイブリドーマ細胞の製造に必要な免疫化されたマウスを得るために前記実施例1-1で収得したMRS-AIMP3 co-purified蛋白質を8~10週齢のマウス4匹の腹腔内に1次注射した。体重25乃至30gの10週齢BALB/cマウスをOrient Bio Co.(Sungnam, KyungKiDo, Republic of Korea)から購入して、動物らは一定の条件(温度:20±2℃、湿度:40~60%、明暗:12時間 light/dark cycle) 下で十分に適用させた後で本研究に利用した。動物実験はソウル大学校の大学動物管理及び使用委員会の指針を遵守した。1次免疫化後、マウスの免疫性を高めるために、2週間後に同じ容量のMRS-AIMP3 co-purified蛋白質をマウスの腹腔内に2次注射した。その後1週間後に、細胞融合実験を実施する3日前にMRS-AIMP3 co-purified蛋白質をマウスの尾静脈にブースター(booster)注射した。前記免疫化されたマウスをエーテルで麻酔した後、ヘパリン処理された注射器で心臓から採血した後、血液を4℃で一夜静置して、遠心分離して血清を分離した。分離した血清を適当に分けて-80℃で保管した。
【0146】
1-3.ハイブリドーマ細胞(hybridoma cell)製造
先ず、細胞融合のために骨髄腫細胞(myeloma cell)を準備した。骨髄腫細胞を培養して細胞密度を2.5~5×104cell/mlにした。細胞融合24時間前に骨髄腫細胞を1/3に希釈して準備した。前記実施例1-2で免疫化されたマウスをエーテルで麻酔させて脾臓を採取し、B細胞を分離した後、SF-DMEM2(DMEM+2XAA)で洗浄して細胞を溶出させた。細胞懸濁液を回収してチューブに入れて静置させ、重い塊を沈めて上澄み液を新しいチューブに移した後、1500rpmで5分間遠心分離した。遠心分離された脾臓細胞の上澄み液を除去してタッピングした(tapping)後でSF-DMEM2を満たした。B細胞と骨髄腫細胞をそれぞれ遠心分離して洗浄した後、洗浄工程を1回さらに繰り返した。洗浄した骨髄腫細胞の上澄み液を除去して、タッピングした後、SF-DMEM2を満たした。また、洗浄したB細胞の上澄み液を除去し、タッピングした後、LB(lysis buffer)1mlに赤血球(RBC, red blood cell)を入れて処理した後、SF-DMEM2を満たした。次に、B細胞と骨髄腫細胞をそれぞれ遠心分離し、遠心分離されたB細胞と骨髄腫細胞の上澄み液を除去した後タッピングしてSF-DMEM2 10mlを満たした。B細胞と骨髄腫細胞をそれぞれe-チューブで100倍に希釈した後、計数して濃度を決定した[B細胞の濃度(1×108、8×107、5×107)、骨髄腫細胞の濃度(1×107、8×106、5×106)]。B細胞と骨髄腫細胞は、10:1の比率で決定した。決定された濃度の B細胞と骨髄腫細胞をチューブに一緒に入れて遠心分離した。遠心分離された細胞の上澄み液を除去した後、アルコール綿の上に伏せておいて、30秒~1分間半乾燥させてタッピングした。ここでPEG(2ml)を1分間除々に入れながらピペッティングして反応させて、SF-DMEM2を入れながらチューブを振り次に遠心分離した。遠心分離後、上澄み液を除去してタッピングしていない状態で、HT培地 [ HT50×(HT(sigma)1 vial + SF-DMEM1 10 ml) 1ml、FBS 10 ml、SF-DMEM1(DMEM + 1×AA)30 ml]を点々と落として、少しずつ速度を上げながら50 mlになるようにした。この懸濁液を再び37℃、5%CO2培養器で3時間培養した。
【0147】
1-4.MRS特異的単クローン抗体を生産するハイブリドーマ細胞の選別
前記実施例1-3で製造した融合細胞群の中でMRSをよく認識しながら、AIMP3を認識しない細胞を選別して、抗体の生成可否を確認するために次のように実験を実施した。
【0148】
先ず、細胞融合後8~9日目に培地を交換して96ウェルで培養する時、及び24ウェルで培養する時、よく育つまでcDMEM2で培養した。培地を交換した後、5~7日目に色が変わったウェルの上澄み液を収めてcDMEM2で満たした後、各融合細胞で生産された抗体とMRS及びAIMP3との結合性に対するELISA試験を行った。ELISA試験後ウェルを選択して、24ウェルに移して培養した。24ウェルで培養した後、再度ELISA試験を行った。具体的には、24ウェルの融合細胞濃度を確認し、96ウェルプレートに0.5 cell/wellになるように15 mlの培養液に融合細胞を希釈した。融合細胞希釈液を各ウェル当り150μ・ずつ分注した。顕微鏡で検鏡して、一個の細胞が含まれているウェルをチェックした。細胞がある程度育ったウェルの上澄み液を収めてELISA及びウエスタンブロットで、各融合細胞で生産された抗体とMRS及びAIMP3との結合性を確認して一次スクリーニングを行った。一次スクリーニングを基に選択された融合された細胞を24ウェルに移して培養し、遠心分離した後、上澄み液を収めてELISA及びウエスタンブロットで確認して、2次スクリーニングを行った。24ウェルで育てた融合細胞の吸光度(O.D値)をELISAで確認し、吸光度が1.0を超える融合細胞のみを選択して25T/C培養フラスコに移して培養して遠心分離した後、上澄み液を収めてELISAとウエスタンブロットで確認して、3次スクリーニングを行った。3次スクリーニングを基に選択された融合細胞を再び75T/C培養フラスコに移して培養し、ELISAで吸光度を確認して、MRSをよく認識しながらAIMP3を認識しない細胞を選択し、最終的に“1E8”及び“8A12”クローンを確保した。
【0149】
1-5.MRS特異的単クローン抗体を生産するハイブリドーマ細胞の培養及び抗体精製
MRSに対する単クローン抗体は、前記実施例1-4で選択された最終融合細胞(ハイブリドーマ細胞“1E8”または“8A12”)から、それぞれ次の二つの方法を通じて得ることができる。
【0150】
1)7~8週齢の雌マウスの腹腔(abdominal cavity)にプリスタン(pristane)500μlを注射した。75T/C培養フラスコで培養した融合細胞を回収して遠心分離した後、上澄み液を除去し、リン酸緩衝液に入れてピペッティングした。プリスタン投与7~10日後前記実施例1-4で選択した融合細胞を、それぞれ8×105~4×107でマウスの腹腔(ascites)内に注射した。1~2週間後にマウスの腹腔内に腹水がいっぱい溜まったとき18G注射針を用いて、腹水を抜いた。腹水を4℃で一夜静置した後、翌日遠心分離して黄色の脂肪層を含む塊物質を除去して上澄み液だけを分離した。分離した上澄み液は分注して-20℃に保管した。
【0151】
前記腹水液から抗体精製のために、貯蔵液(20% エタノール)に貯蔵されているProtein Aを適量のカラムに満たして、20%エタノールを流した後、5 Bed Volumeの結合緩衝液(20mM sodium phosphate, pH7.0)で洗浄した。腹水液をリン酸塩緩衝液で適量希釈した後、Protein Aカラムにローディングした。3 Bed Volumeの結合緩衝液(20mM sodium phosphate, pH7.0)で結合した後、3 Bed Volumeの溶出緩衝液(0.1M glycine buffer, pH3.0~2.5)で0.5mlずつ分画を溶出した。各分画を35μlの中和緩衝液で中和させた。SDS-PAGEを通じて分画の純度を確認してAmmersharm GEカラムで脱塩(desalting)した。
【0152】
2)前記実施例1-4で得られたハイブリドーマ細胞をGlutaMAX(Gibco)(最終5mM)と1x Cholesterol lipid concentrate(Gibco)が添加された無血清培地(Thermo)で順応させた(8A12抗体生産ハイブリドーマ細胞は34-8F2とも命名)。以後Cellstack-5(Corning, Corning, NY)を使用して最大培養体積860 mLで培養を行った。無血清培地(Thermo)にGlutaMAX(Gibco)(最終5mM)と1x Cholesterol lipid concentrate(Gibco)を添加し、初期細胞濃度は1.4~2.0 X 105cell/mLで接種した。接種4~5日後、2000 rpmで10分間遠心分離して細胞を除去し、培養液の上澄み液を回収した。上澄み液のpHを確認した後、製造された20X結合溶液(1M Potassium phosphate dibasic)(pH9.0)を使用してpH7.6を合わせた。以後0.22umフィルターを使用して濾過後中和された抗体の培養液を収得した。
【0153】
収得した抗体培養液をprotein Aカラムを通じて精製を行った。protein Aカラムに10カラム嵩の蒸留水を流した後、同量の1Xの結合溶液を流した。以後、収得した抗体培養液を流して抗体をprotein Aに結合させた後、1X 結合溶液(50mM Potassium phosphate dibasic)(pH9.0)で洗浄した。その次に、protein Aに結合された抗体を溶出するために、2カラム嵩の溶出溶液を流して溶出液を得た。1M Trisで(0.2M Citric acid)(pH 3.0)中和した後、抗体の濃度を280nmの吸光度で測定して確認した。
【0154】
その後、GE PD-10カラムを生理食塩水25 mlで平衡させた後、遠心分離(1000g, 2分)した。以後protein Aカラムから得られた抗体溶出液2.5mlを、前記GE PD-10カラムに入れて遠心分離(1000g, 2分)して、生理食塩水で溶液交換された抗体を回収した。抗体濃度を280nmの吸光度で測定して確認して分注後-80℃に保管した。
【0155】
1-6.抗体の配列情報の分析及びクローニング
それぞれ1E8 、8A12クローン発現抗体のクローニング及び配列分析はYBIO inc、及びアブクーロン(Abclon Inc. Korea)に依頼して行った。簡略に、先ず1E8又は8A12ハイブリドーマ細胞からRNAを抽出してcDNAを合成した。その次に、それぞれVL、CL、VH及びCH1に特異的なプライマーを用いてPCRを行った。予想されるサイズのPCR productをagarose gelで精製してsequencingを通じて配列を確認し、Kabat numberingを通じてCDR regionを確認した。1E8抗体の抗原結合部位配列確認結果を表1に示し、8A12抗体の抗原結合部位配列確認結果を表2に示す。確認された配列でFabを合成してMRSに高い結合力を示すことをELISAで確認した。
【0156】
また、前記で確認された配列は、前記実施例1-5でハイブリドーマ細胞をマウス腹腔内に注入した後、腹水精剤を通じて得られた抗体の蛋白質配列分析の結果(mass spectrimetry 結果)とも一致することを確認した。
【0157】
収得した1E8 Fab又は8A12 Fab配列をそれぞれmouse IgG heavy chain(pFUSE-mIgG2a-fc, InvivoGen)及びmouse light chain配列ベクター(pFUSE2-CLIg-mK, InvivoGen)にクローニングした。その後、前記ベクターをfreestyle 293F細胞にPEI(Polysciences, 23966-2)を利用して、共同形質転換させて抗体の軽鎖と重鎖が細胞内で一緒に同時に発現されるようにした。型質転換された293F細胞を37℃、8% CO2 の条件で7日間培養した。その後細胞を収得して遠心分離した後、上澄み液を収得した。上澄み液のpHを確認した後、製造された20X結合溶液(1M Potassium phosphate dibasic)(pH9.0)を使用して上澄み液のpHを7.6に調整した。その後、0.22μmフィルターで上澄み液を濾過して中和された抗体の培養液を得た。抗体培養液から前記実施例1-5の2に記述された方法で抗体を収得した。このように得られた1E8 IgG全体の抗体は、配列番号36のアミノ酸配列からなる軽鎖及び配列番号37のアミノ酸配列からなる重鎖で構成されることを確認した。また、8A12 IgGの全体の抗体は、配列番号38のアミノ酸配列からなる軽鎖及び配列番号39のアミノ酸配列からなる重鎖で構成されることを確認した。
【0158】
【表1】
【0159】
【表2】
【0160】
1-7.MRSに対する抗体の結合特異性比較確認ウエスタンブロット実験
前記実施例で獲得した1E8抗体及び8A12抗体のMRS結合能力を確認するために、次のようにウエスタンブロット実験を実施した。H460細胞を10%FBS(Fetal bovine serum, Hyclone, GE lifesciences)、1%ペニシリン(Hyclone, GE lifescience)を含むDMEM(Hyclone, GE lifesciences)培地で培養した。各細胞は5%CO2 、37℃の条件で培養した。前記培養されたH460細胞にsi-MRSを72時間処理した。その次にH460細胞を収得して溶解させた後、H460細胞溶解物でウエスタンブロットを実施した。実験は2回繰り返された。1次抗体として1E8抗体又は8A12抗体を1:5000(0.2 μg/ml)で希釈して使用し、結合能力の比較のために市販のMRS抗体(Abcam,Ab50793)を同じ方法で使用して対照群にはチューブリン(Tublin)を使用した。
【0161】
実験の結果、図1に示した通り、市中に流通されている従来のMRS抗体はsi-MRSを処理した群ではMRSを全く検出できず、si-MRSを非処理した群でも本願発明の8A12抗体及び1E8抗体と比較して大幅に低い水準の検出能(MRSとの結合能)を示した。反面、本願発明の1E8抗体及び8A12抗体は、従来の市販MRS抗体よりも大幅にMRS特異的結合能及び感度が優れていることを確認し、特に8A12抗体は極めて優れた結合能及び感度を示すことを確認した。
【0162】
また、PANC-1膵臓癌細胞株とSCK(非膵臓癌細胞株)細胞株を利用して、1E8抗体及び8A12抗体のMRS結合能力をさらに確認した。この時対照群としては市販されているMRS抗体(Abcam,AB137105)を使用し(抗体は1:1000に希釈して使用した。0.137μg/ml)、si-MRSを処理する過程を除いて、前述したような同じ方法でウエスタンブロット実験を行った。
【0163】
実験結果、図2に示した通り、本発明の1E8抗体及び8A12抗体は、MRS特異的に検出を行ったが、同じ条件で従来の市販抗体のAb137105抗体は非特異的バンドが多く表われるもので、選択的検出能が極めて劣るものと表れた。本実験条件下ではSCK細胞株(非膵臓癌細胞株)でMRSは殆ど検出されなかった。
【0164】
1-8.他の蛋白質に対する交差反応性の可否確認 - ELISA
前記実施例で獲得した8A12抗体が他のARS(aminoacyl-tRNA synthetase)蛋白質に対する交叉活性(cross activity)があるか否かを確認するために、次のように実験を実施した。
【0165】
96ウェルプレート(Corning 3690 flat bottom, 96-well half-area plates)にMRS蛋白質(His-MRS, MRS full)と他のARS蛋白質(DX2 tag free、34S-DX2、34S-AIMP2、His-CRS、His -AIMP1、His-GRS、His-WRS、His-KRS)をそれぞれ 1μg/ mlの濃度でコーティングした。1E8抗体又は8A12抗体を500 ng / mlの濃度でそれぞれのARS蛋白質がコーティングされた96ウェルプレートに入れた後、1時間反応させた。その後、HRP-conjugated anti-mouse IgG二次抗体を添加して1時間反応させ、ELISAを実施して450nmで吸光度を測定した。基質としてはTMB(3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine)を使用した。
【0166】
その結果、図3に示した通り、1E8抗体はMRSのみに結合して反応し、他のARS蛋白質とAIMP蛋白質には反応しないことが分かった。また、図4に示した通り、8A12抗体はMRSのみに結合して反応し、他のARS蛋白質とAIMP蛋白質には反応しないことが分かった。これにより、1E8抗体及び8A12抗体は、他のARS蛋白質とAIMP蛋白質に対して交差活性がなく、MRSだけを特異的に検出することを確認することができた。
【0167】
1-9.表面プラズモン共鳴を利用して抗体の親和性を確認
1E8抗体及び8A12抗体のMRS特異的親和性を確認するために、MRS-AIMP3 co-purified蛋白質(以下、MRS+AIMP3蛋白質)及びAIMP3蛋白質を利用して、SPR(Surface plasmon resonance、表面プラズモン共鳴)の実験を実施した。MRS + AIMP3又はAIMP3蛋白質をCM5chipにコーティングして、1E8抗体又は8A12抗体を様々な濃度で流しながら、蛋白質との結合反応の程度を測定した。分析試料やバッファは30μl/ minの流速で8分間注入して20分間洗浄した。
【0168】
その結果、図5及び図6に示した通り、1E8抗体はMRS + AIMP3蛋白質には結合するが、AIMP3蛋白質には結合しないことを確認することができた。また、1E8抗体はMRSに対して5.42nM KD valueを有することが確認できた
【0169】
また、図7及び図8に示した通り、8A12抗体はMRS + AIMP3蛋白質には結合するが、AIMP3蛋白質には結合しないことを確認できた。また、8A12抗体は、MRSに対して1.56nM KD valueを有することを確認できた。
【0170】
1-10.MRS抗体の結合部位確認
前記1E8抗体又は8A12抗体が結合する部位(エピトープ、main binding site)を確認するために次のように実験を行った。先ず、MRS全体蛋白質からGST、catalytic domain、tRNA binding domain部位を考慮して、それぞれの長さと位置が異なる複数のMRS断片を製作し、pcDNA3 vector(EV)にMRS全体蛋白質又はそれぞれのMRS断片(MRS fragment)をクローニングした。各MRS断片の位置は、配列番号1のMRS全体のアミノ酸配列の中から1~266aa断片、267~597aa断片、1~598aa断片、598~900aa断片、660~860aa断片、660~900断片、730~900の断片などをはじめ、さまざまな小単位領域を含む位置から選定された。このとき、Myc蛋白質をそれぞれのペプチドN-末端に結合させ、Myc蛋白質を対照群として使用した。その後H460細胞に、クローニングしたベクターDNA 2μgを製造社の指針に従ってTurbofect(Thermo)を使用してトランスフェクション(transfection)させた。24時間後、細胞を収得してウエスタンブロットを実施した。この時、1次抗体として1E8抗体及び8A12抗体を1:5000(0.2ug/mL)で希釈して使用した。
【0171】
前記実験を通じて1E8抗体及び8A12抗体は、配列番号1のMRS蛋白質の中で少なくとも598~900aa領域にepitopeが存在するものと表れた。
【0172】
そこで、811-840aa断片、821-850aa断片、831-860aa断片、841-870aa断片、846-875aa断片、851-880aa断片、856-885aa断片、861-890aa断片、866-895aa断片、871-900aa断片をはじめ、様々な小単位断片ペプチドを製作してそれぞれのペプチドを300 ng/well ずつ96 well ELISA plateにcoatingし、通常のプロトコルに基づいてELISAを行った。1次抗体として1E8抗体又は8A12抗体を10nMの濃度(1x PBST-Tween 0.05%)に希釈して使用し、2次抗体としてHRP conjugated Goat anti-mouse IgG(Thermo)を 1:10000に希釈(1xPBST-Tween0.05%)して使用して450 nmで吸光度を測定した。
【0173】
実験結果、1E8抗体と8A12抗体は、MRS蛋白質の中で861-900 aa領域をエピトープとして特異的に認識することを確認した。これらの実験の結果は、861-900 aa領域(AQKADKNEVA AEVAKLLDLK KQLAVAEGKP PEAPKGKKKK, 配列番号2)をエピトープに認識する他の結合分子(他の抗体およびその機能的断片など)も、MRS特異的結合及びMRS区分能が優れることを示唆している。
以下で、本発明者らが新規に考案した膵臓癌検査法に対して前記で製作したMRS検出能が優れた抗体を適用した一実施例を示す。
【0174】
1-11.本願発明のanti-MRS抗体を利用した膵臓癌細胞染色及び市販抗体との効果対比
PANC-1膵臓癌細胞株とSCK(非膵臓癌細胞株)細胞株に対して、それぞれ1E8抗体又は8A12抗体を利用して、MRS蛍光染色を行った。この時、対照群としては市販されているMRS抗体(Abcam, Ab137105)を使用した。具体的には、次のような過程で染色を行った。スライド上に用意されたそれぞれの対象細胞に0.2%tween 20を含むPBSを処理して透過性を増加させた後、2%goat serumで1時間ブロックキング(blocking)処理した。1次抗体として本発明の抗体等(1E8抗体または8A12抗体、Oncotag社製作)又はAb137105抗体(Abcam)を 1μg/ ml37℃で1時間処理して0.05%TBST(500ul)で3回洗浄した。その後蛍光物質が結合されている2次antibodyとしてAlexa-488-conjugated secondary antibodies(購入元:Molecular probes、Cat.No.A11001)を1:100に希釈して、常温の暗所で1時間処理して、0.05%TBST(500ul)で3回洗浄した。DAPIが添加されているマウンティングソリューション(ProLong Gold antifade regent with DAPI/ Molecular probes、Cat.No.P36931)をスライド上の組織に20μl処理後、カバースリップ(coverslip)を覆い、共焦点レーザー顕微鏡及び蛍光顕微鏡で観察した。
【0175】
図9に示した通り、前記実施例1-7でMRS特異性が低下することが確認された市販の1E8抗体及び8A12抗体はMRSのみを特異的に染色できることを確認した。
【0176】
また、臨床現場で患者の細胞試料processingに使用するThinprep装備(Hologic. Inc)を活用してPANC-1細胞株で臨床条件と類似したThinprepスライドを製作して(下記実施例2参照)、本発明の1E8抗体及び8A12抗体の染色効果を確認した。
【0177】
その結果、図10に示した通り、本発明の1E8抗体及び8A12抗体は、臨床現場でよく使用される試料提供方法(Thinprepスライドなど)と共に使用できることを確認した。
【0178】
実施例2:細胞診(cytodiagnosis)検査法において、膵臓癌細胞特異的MRS発現検出法の定立及び効果確認
実験方法
1)検体として膵臓細胞を、通常的な内視鏡超音波細針吸込み術(EUS-FNA)により収得した。先ず、内視鏡超音波機器(alineararray echoendoscope EUS、製品名:GF-UCT140またはGF-UCT180、会社:オリンパス、Japan)を胃腸や十二指腸に進行して内視鏡先端に装着した超音波装備を利用して、膵臓腫瘤を超音波映像で確認した。超音波映像で照準された腫瘤に対して細針吸込みのための針を進入(製品名:22G Echo-ultraTM, 会社:Cook Medical, Cork, Ireland)して膵臓細胞を採取した。
【0179】
その後、前記採取された膵臓細胞をCellient Automated Cell Block Systemを利用する通常的な方法(Antonio Ieni et al., Cell-block procedure in endoscopic ultrasound-guided-fine-needle-aspiration of gastrointestinal solid neoplastic lesions、 World J Gastrointest Endosc 2015 August 25;7(11):1014-1022)にパラフィン切片(Cellient paraffin sections)としてスライド上に提供された。また、前記膵臓細胞試料は、ThinPrep(Hologic, Inc)を利用して、通常的な方法でThinPrepスライドに塗抹したり、direct smearして提供することができる(de Luna R et al., Comparison of ThinPrep and conventional preparations in pancreatic fine-needle aspiration biopsy.Diagnostic Cytopathology、2004 Feb;30(2):71-6)。これらの細胞試料は、それぞれ下記の検査を適用して結果が比較された。
【0180】
2)従来の細胞学的検査方法による病理所見(Conventional pathologic cytology)は、現在までによく使われている H&E staining方法を利用した染色結果によって下すことができる。前記H&E stainingはhematoxylin及びeosinを通常的なプロトコルに基づいて使用して遂行された(下記実施例3の詳細プロトコル参照)。また、Pap staining方法を通じた染色結果によってなすことができる。前記Pap stainingはhematoxylin、OG-6(Orange G-6)、eosin azureを通常的なプロトコルに基づいて使用して遂行された(下記実施例3の詳細プロトコル参照)。パラフィン切片試料を利用する場合には、通常的な方法でパラフィン除去及び水和(hydration)を行った後、染色物質を処理した。
【0181】
スライド上に細胞が一層で塗抹されており、細胞核/細胞質比率(N/C ratio)が小さく核膜が滑らかな場合陽性(benign、正常)細胞に判定し、細胞が3次元的に塗抹されて細胞核/細胞質比率が高く染色 質の凝集現象が見られ核膜が不整な形状であり、核小体及び類似分裂が出現する場合、悪性腫瘍細胞に判定し、細胞の変化が悪性細胞にまでは及ばないものの、良性(benign)に判定することができない場合、異型細胞(atypical cell)と判定する。
【0182】
3)臨床的最終診断結果は、映像学的検査(腹部超音波、腹部電算化断層撮影、腹部磁気共鳴映像、内視鏡逆行胆膵間造影術、陽電子放出断層撮影)と病理学的検査(細胞診検査、組織検査)によって測定された結果により医師が総合的に最終判断した。
【0183】
4)本発明者らは、膵臓癌細胞と正常膵臓細胞(癌ではなく良性(benign)膵炎細胞を含む)でのMRS発現度を測定するための免疫組織化学法を(特に、免疫蛍光染色)下記のように開発した。具体的には前記パラフィン切片を使用する場合は下記の通り処理した。
(1) パラフィン除去:60℃のオーブンでパラフィンを溶かす
(2)水和(Hydration):キシレン(Xylene)で5分ずつ3回洗浄、100%エタノールで2分洗浄、95%エタノールで2分洗浄、90%エタノールで2分洗浄、70%エタノールで2分洗浄、DWで2分洗浄、PBSで5分洗浄
(3)透過性(permeabilize)増加処理:0.2%Triton X-100で30分間処理してPBSで5分洗浄
(4)前処理:2% goat serumで1時間ブロッキング(blocking)
(5)1次抗体処理:anti-MRS抗体(代表的に本発明の8A12抗体使用艦、Oncotag社製作)を1:300に希釈して4℃でovernight処理してPBSで5分ずつ3回洗浄
(6)発色:蛍光物質が結合されている2次antibodyとしてAlexa-488-conjugated secondary antibodies(購入元:Molecular probes, Cat. No. A11001)を1:200~1:300に希釈して常温の暗所で1時間処理してPBSで5分ずつ3回洗浄
(7)DAPIが添加されているマウンティングソリューション(ProLong Gold antifade regent with DAPI/ Molecular probes, Cat. No. P36931)をスライド上の組織に20μl処理後カバースリップを覆った。
【0184】
thinprepスライド試料の場合には、パラフィン除去過程なしに前記3乃至7の過程を含む方法で処理され、前記の方法で準備された標本試料は共焦点レーザー顕微鏡及び蛍光顕微鏡で観察した。
【0185】
前記標本試料で陽性細胞(PANC-1、図15参照)のサンプル及び陰性細胞サンプル(CT-26, 図16参照)を基準にMRS染色強度を判断し、陰性対照群に比べて2倍以上増加した細胞を膵臓癌細胞であると判断した。これらの結果を、前記検体に対する病理所見及び臨床的最終診断結果と比較して診断の正確性(感受性及び特異性)を確認した。
【0186】
実験結果
具体的実験結果は下記の表3、表4及び表5に示した通りである。良性(Benign)膵臓細胞試料14個及び膵臓癌(Malignancy)細胞試料94個を対象に本願発明のMRS染色を通じた膵臓癌判別方法を適用した結果,H&E staining方式を使用する従来の細胞病理学的検査の結果は、感受性が75.5%程度に過ぎなかったことと対比して本発明のMRS染色は感受性(Sensitivity)が92.6%に示された。特に、従来の細胞学的病理検査方法では、異型(atypia)に分類されるしかなかった細胞試料に対しても膵臓癌の可否判別が可能であったため、従来の細胞学的病理検査では、陰性予測率(NPV)が36%水準であったのに比べてMRS染色を通じては陰性予測率が著しく高まる効果を示した。これらの結果は、膵臓癌においてMRSをマーカーとして利用する本発明の染色法は、細胞水準での診断でも高い判別能(診断能)を有することを示したもので、後述する実施例3で示した通り、従来市販の膵臓癌マーカー(CEAと同じお知らせのすい臓がんマーカー)らが、細胞水準の診断(つまり、cytodiagnosis)では実効性を示すことが難しかったことと明確に区別されることであった。
【0187】
【表3】
【0188】
【表4】
【0189】
【表5】
【0190】
実施例3:細胞水準で商用膵臓癌マーカーCEAと本願発明のMRSの膵臓癌判別能比較
実験方法
1)患者群及び細胞診(cytodiagnosis)のための膵臓細胞試料の収得
26人の膵臓癌が疑われる患者から内視鏡、超音波下細胞吸込み施術 (微細針吸引法、Fine needle aspiration)で採取及び収得された膵臓細胞試料26例で研究を実行し、本研究は韓国ソウル江南セブランス病院の研究倫理委員会の承認を得た。前記患者らから膵臓細胞試料は前記実施例2と同じ方法で、内視鏡超音波細針吸込み術(EUS-FNA)を通じて収得した。その後採取された膵臓細胞をCellient Automated Cell Block System(Hologic)を利用する通常的な方法でパラフィン切片状態(Cellient paraffin sections)態、又はThinprep方法で準備した(実施例2参照)。
【0191】
26人の膵臓癌が疑われる患者は、追跡観察を通じて膵臓癌(13例)、正常膵臓(13例)で最終診断された。前記膵臓癌に最終診断された13人の患者のうち、病理学者による組織学的観察によって膵臓癌細胞に区別されたのは7例であり、残りの6例は組織学的観察では、異型細胞に区分された患者であり追跡観察を通じて、最終的には膵臓癌と診断された患者群であった。
【0192】
膵臓細胞採取時の患者から書類による同意を得て膵臓癌細胞、異型細胞、正常細胞は、病理学者によって組織学的に確認された(実施例2の判断基準参照)。収得した26例のサンプルの中で正常細胞、腫瘍細胞及び異型細胞の各類型別に代表的な診断事例を各実験別の図面に示す。
【0193】
2)従来の細胞診染色方法
H&E染色:パラフィン切片試料は、Xyleneで5分ずつ3回処理、100%エタノールで2分処理、95%エタノールで2分処理、90%エタノールで2分処理、70%エタノールで2分処理、水道水で10分処理をそれぞれ実施し、Paraffin除去とHydrationを実施した。常温でhematoxylineを30秒間反応させ、水道水で10分間洗浄した。常温でeosinを1分間反応させ、水道水で10分間洗浄した。70%エタノールで1分、90%エタノールで1分、95%エタノールで1分、100%エタノールで1分、Xyleneで5分ずつ3回処理を実施してdehydrationとclearingを実施した。Mounting solutionをスライド組織に落とした後、coverslideで細胞を覆った後、サンプルを光学顕微鏡で観察した。
【0194】
pap染色:Papanicolaou stainはThermo ScientificのVaristain 24-4染色基を使用して機器に内蔵されたプロトコルに基づいて実施した。プロトコルは下記の表6の通りである。
【0195】
【表6】
【0196】
3)従来の染色法による形態学的病理検査による細胞診(cytodiagnosis)で判別基準
悪性腫瘍を形態学的に診断しようとする時、最も決定的な証拠は、周辺の正常組織で浸潤性成長をするとのことであるが、癌組織と周囲組織との関係の証明に容易な組織検査とは異なり、細胞診検査の場合、個別の細胞を抜き出して塗抹したものである為、周囲の組織との関係を証明することができない。従って、次善策として個々の細胞の異型性(atypia)を評価することになるが、この時、異型性とは、細胞の核(nucleus)が大きくなり細胞質(cytoplasm)は減って、細胞核/細胞質比率(Nuclear to cytoplasmic ratio, N/c ratio)が大きくなること、染色質(chromatin)が核内に均等に分布されず、部分的に凝集する現象(clumping)、核内核小体(nucleolus)の出現、類似分裂(mitosis)出現などを意味する。これらの異型性の所見がすべて表れ、程度が著しいとき細胞診検査でも悪性腫瘍を診断することが可能であるが、これらの所見が部分的に表れたり、程度が微弱な場合には、異型細胞(atypical cell)に分類しなければならない。重度の炎症などの良性病変でも、このような所見が部分的に表れるからである。逆に、このような所見がいずれも表示されない場合は、正常細胞に判定することができる。勿論、細胞を採取した部位で観察することができる細胞であることが前提されなければならない。
【0197】
4)公知の商用膵臓癌マーカーであるCEAと本願発明のMRSを利用した比較染色
MRSに対する免疫染色は、前記実施例2に記載された方法と同様に行われた。CEAに対する免疫染色の場合、1次抗体としてCarcinoembryonic Antigen(CEA) antibody(購入元:Dako、Cat.No.M7072)をその最適処理条件で使用したこと以外は実施例2と同じ過程で行われた。
【0198】
5)統計分析
実験結果は、少なくとも3回以上の独立的な実験結果をもとに平均±標準偏差で示した。統計的有意性は、多数のグループ間の差が観察のためにStudent's t testを活用してデータを分析した。P-valueが0.05未満の場合の実験結果が有意性があると判断した。
【0199】
実験結果
3-1.正常細胞の免疫染色
正常患者または膵臓癌患者の膵臓からEUS-FNAの方法で分離した細胞を、H&E染色を通じて分析した結果、正常と判断された細胞をMRS又はCEA抗体を利用して免疫蛍光染色を行った。これに対する結果を図11に示した。
【0200】
図11に示した通り、四人の患者から収得した膵臓細胞はH&E染色で何等の腫瘍所見を示さない正常細胞に判断され、前記正常と判断された膵臓細胞ではMRS及びCEAの全て染色されていないものと確認された。
【0201】
3-2.腫瘍細胞の免疫染色
膵臓癌患者の膵臓から分離した細胞を H&E染色を通じて分析した結果、腫瘍と判断された細胞をMRS又はCEA抗体を利用した免疫蛍光染色を行った。これに対する結果を図12に示した。
【0202】
図12に示した通り、四人の患者から収得した膵臓細胞は H&E染色で腫瘍細胞に判断された。四人の膵臓癌患者の腫瘍細胞全てからMRS染色が強く現れ、これは正常細胞のMRS染色群と比較して統計学的に有意性のある結果で表れた(p=0.019)。しかし、CEA染色は二人の患者のサンプルでのみ弱く染色がされており、これは正常細胞のMRS染色群と比較して統計学的な有意性がなかった(p=0.187)。
【0203】
3-3.異型細胞の免疫染色
H&E染色だけでは腫瘍細胞であるか否かを明確に判断し難い異型(atypical)細胞として、今後の患者の予後を追跡観察した結果、最終的に腫瘍と判明した患者の膵臓細胞を利用して、MRS又はCEA染色を行った。これに対する結果を図13に示した。
【0204】
図13に示した通り H&E染色を通じて、異型細胞(atypical cell)に区分された膵臓細胞は、腫瘍であるか又は正常細胞であるのかの区分が明確でないことが分った。一方、異型細胞群に含まれた患者らは、全て向後の膵臓癌に確定診断された患者である。四人の異型膵臓細胞の全てからMRS染色が強く現れ、これは正常細胞のMRS染色群と比較して統計学的に有意性のある結果で表れた(p=0.020)。しかし、四人の異型膵臓細胞の全てからCEA染色が全く現れなかった。
【0205】
前記実施例3の結果を通じて、膵臓癌が疑われる患者から分離した膵臓細胞に H&E染色及びMRS染色を一緒に行う場合には、他の腫瘍マーカーよりもはるかに高い正確性で膵臓癌を診断できることが分った。のみならず H&E染色でも腫瘍細胞であるか又は正常細胞であるか否かを明確に判断できない異型細胞から、従来の腫瘍マーカーらは腫瘍であるか否かを明確に区別することができなかったが、MRSはこれらの異型膵臓細胞も亦、腫瘍細胞であるか否かをかなり高い正確性で明確に区分できる点で極めて意味のある膵臓癌診断マーカーと言える。
【0206】
実施例4:正確性の高い膵臓癌判別方法樹立_MRS二重染色法
4-1.偽陽性結果の原因探索
前記実施例3に示した通り、MRSはCEAなど従来の膵臓癌マーカーより高い精確度で膵臓癌の診断が可能であると立証されたが、前述した実施例での実験は既に全て確定判断を有する試料に対して行ったものであるので、膵臓癌の発症が疑われる患者からの組織採取後blind(未知)の状態で、どの程度の正確性をもって診断可能であるかを確認する必要がある。また前記実施例2に示した通り、MRSは膵臓癌の診断において極めて優れた感受性を示すものの、MRSを単独で膵臓癌を判断する際に感受性に比べて特異性が多少低い傾向を示した。そこで、本研究者らは、新しい患者から収得した膵臓試料においてMRSの膵臓癌判別能の試験中に細胞組織病理検査上negative(非膵臓癌)に示された10件のサンプルの中から3件のサンプルでMRS発現が示されるような様子を観察した。つまり、通常膵臓細胞試料からMRS発現度が高い場合があり、偽陽性(膵臓癌でないものを膵臓癌が発生したと判断できるもの)の結果が含まれる問題があることを確認した。
【0207】
そこで、全体の検体に対して H&E stainで癌組織、正常組織を鑑別した後、再びMRS染色を行うことを通じて、前記偽陽性判断の原因を把握した結果、図14に示した通り、正常膵臓組織の中で正常人腺房細胞(acinar cell、膵管実質に存在する細胞)において、MRS発現が高い状態であることを確認した。
【0208】
4-2.MRS診断正確性の向上戦略樹立
前記実施例4-1項目の結果に示した通り、正常人腺房細胞(acinar cell)でも、MRSが高い水準で発現されていて、その単独では膵臓癌判断の疑陽性率に寄与しているので(つまり、MRS単独だけで判断する際には診断の特異性が相対的に低い)、これらの腺房細胞を結果解釈から除外して疑陽性率を減らすための戦略を模索した。
【0209】
本発明者らは、様々な試みの末、いくつかの補助マーカー候補のうち、MRSとCK19(Cytokeratin 19)を二重マーカーとして使用すると、極めて高い正確性で細胞水準において膵臓癌(特に、膵管癌)判別が可能であることを最初に究明した。そこでMRSとCK19を利用した二重染色法を下記のように考案した。
【0210】
4-3.二重染色法樹立
パラフィン切片試料を利用する場合には、先ず60℃のオーブンでパラフィンを溶かしてXyleneで5分間ずつ3回洗浄、100%エタノールで2分洗浄、95%エタノールで2分洗浄、90%エタノールで2分洗浄、70%エタノールで2分洗浄、DWで2分洗浄してParaffin除去とHydrationを実施した。
【0211】
MRS及びCK19の二重染色のために、MRSは緑色(Alexa Fluor 488)で検出されCK19は赤色(Texas Red)で検出されるように、具体的実験プロトコルを樹立した。先ず0.2%Triton X-100を処理して細胞透過性を増加させた。blocking solutionである2%の山羊の血清で1時間反応させた。その後膵臓細胞(検体)に1次抗体であるMethionyl tRNA synthetase antibody(1:200)及びAnti-CK19 antibody(1:100)と4℃でovernight反応させた。その後1X TBSTで30回以上dipping(1回と見なす) して3回以上洗浄した後、それぞれAlexa Fluor 488及びTexas Redが付着された2次抗体(1:200~1:300, ThermoFisher Scientific, catalog no.A-11001/ SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY, INC., catalog no.sc-278)を暗所で常温で1時間処理した。1X TBST PBSで30回以上dipping(1回と見なす)して3回以上洗浄した後、DAPIが添加されているmounting solution(ProLong Gold antifade regent with DAPI, Molecular probes, Cat.No.P36931)をスライド組織に落とした後coverslideで細胞を覆った後サンプルを蛍光顕微鏡で観察した。
【0212】
膵臓癌判別基準は下記表7の通り判断した。MRS及びCK19が全て高い水準で検出されると(発現増加すれば)、膵臓癌細胞であると判断した。つまり本発明の検査上MRS(+)及びとCK19(+)である場合に膵臓癌Positiveに分類し、残りの場合にはNegativeに分類する。
【0213】
【表7】
【0214】
試料標本でCK19が発現されると同時に、陽性細胞のサンプル(PANC-1)及び陰性細胞サンプル(CT-26)の強度を基準に、MRSが陰性対照群に比べて2倍以上増加した細胞を膵臓癌細胞であると判断した。
【0215】
図15は本願発明の二重染色法による細胞診(cytodiagnosis)膵臓癌判別において、positive control設定のために膵臓癌細胞(PANC-1 cell line)を培地に培養した後、MRS及びCK19に対する染色を行ったときの染色様相(各マーカーの染色強度)を示す。膵臓癌細胞では、MRSとCK19が全て高い強度で検出されたことを確認した。
【0216】
図16は本願発明の二重染色法による細胞診膵臓癌判別において、negative control設定のために非膵臓癌細胞(CT26 cell line)を培地に培養した後、MRS及びCK19に対する染色を行ったときの染色様相(各マーカーの染色強度)を示す。非膵臓癌細胞では、MRSとCK19が実質的に検出されない水準であった。
【0217】
図17は本願発明の二重染色による細胞診(cytodiagnosis)において、腺房細胞(acinar cell)に対する染色様相を調べるために、患者から採取した膵臓腺房細胞試料からMRS及びCK19に対する染色を行ったとき各マーカーの染色強度を示す。腺房細胞の場合には、MRSだけが検出強度が高く、緑色のシグナルのみが強く見える。
【0218】
実施例5:細胞診(cytodiagnosis)において、本発明の二重染色法の膵臓癌判別能の評価
前述した実施形態で使用されたものとは異なる被検体から収得した新しい膵臓細胞試料29個について、本発明の二重染色法を適用して膵臓癌を判別した。これらの膵臓癌細胞は、上述したのと同じくEUS-FNAの方法で採取された。本発明の二重染色法を行う上で、病理学的診断結果や最終臨床的診断は未知(blind)の状態で行われた。
【0219】
5-1.従来の細胞病理検査上では、異型細胞(atypical cells)に分類されて確診が不可能であったが、最終的に膵臓癌確診された患者の場合の染色様相
pap stainingを通じて従来の細胞病理検査上で異型細胞に分類されたが、最終的な臨床診断で悪性腫瘍細胞と診断された細胞試料において、本願発明の二重染色法を適用して膵臓癌の可否を判別した。
【0220】
図18に示した通り、本発明の二重染色法を行った結果、MRS(緑色)及びCK19(赤色)が全て高い水準の検出強度を示しており、悪性腫瘍細胞(つまり、膵臓癌)に判断可能であることを確認した。従来の細胞病理検査上異型細胞に分類されると確診が不可能なため再検査を必要とする。本願発明の染色法は再検査の危険性を減らし、異型細胞の膵臓癌鑑別(判別)において極めて有用であることを確認した。
【0221】
5-2.従来の細胞病理検査上では膵臓癌の疑い(suspicious)で未確診されたが最終的に膵臓癌確診された患者の場合の染色様相
pap stainingを通じて従来の細胞病理検査上で膵臓癌に確診されずに、膵臓癌の疑い(Suspicious of malignancy)のある状態で一次診断されたが、最終的に臨床診断で悪性腫瘍細胞に診断された細胞試料において、本願発明の二重染色法を適用して膵臓癌の可否を判別した。
【0222】
図19に示した通り、本発明の二重染色法を行った結果、MRS(緑色)及びCK19(赤色)が全て高い水準の検出強度を示していて、悪性腫瘍細胞(つまり、膵臓癌)と判断可能であることを確認した。従って、本願発明の染色法は、未確診された細胞において再検査の危険性を減らして膵臓癌の鑑別(判別)において極めて有用であることを再確認した。
【0223】
5-3.従来の細胞病理検査上、膵臓癌に確診されて最終的にも膵臓癌確診された患者の場合の染色様相
pap stainingを通じた従来の病理検査の方法で分析した結果、悪性腫瘍細胞であると判断されて、最終的な臨床診断でも悪性腫瘍細胞に診断された試料において、本願発明の二重染色法を適用して膵臓癌であるか否かを判別した。
【0224】
図20に示した通り、MRS(緑色)及びCK19(赤色)が全て高い水準の検出強度を示しており、悪性腫瘍細胞(つまり、膵臓癌)に判断可能であることを確認した。
【0225】
5-4.結果綜合
それぞれの細胞試料検体について、本発明の二重染色法を行い判断した結果と、最終的な臨床診断結果及び従来の細胞病理学的診断の結果を比較してこれを下記表8に示した。本発明の二重染色結果、MRS(+)及びCK19(+)である場合に膵臓癌Positiveに分類して残りの場合(つまり、MRSまたはCK19一つだけ染色された場合か、MRS(-)およびCK19(-)で現れた場合)にはNegativeに分類する。
【0226】
【表8】
【0227】
前記表8に示した通り、本願発明のMRS及びCK19の二重染色法を通じた膵臓癌の判定は、感受性100%、特異性100%、陽性予測値(PPV)100%、陰性予測値(NPV)100%で診断正確性が向上されたことを確認した。
【0228】
このように前記実施例5に示した通り、本発明の二重染色法は、異型細胞を含めて、従来の方法では、確診不可及び未確診された細胞に対しても明確に悪性腫瘍細胞の可否を判別可能で、細胞診での診断効率を著しく上昇させることが確認された。
【0229】
実施例6:手術組織検査法において、本発明の二重染色法の膵臓癌判別能の評価
膵臓癌組織と組織に含まれている周辺正常膵臓組織試料に対して本願発明の二重染色法を適用した。手術で得られた組織らは、通常的な方法でパラフィン包埋した後、薄切して提供された。本発明に係る二重染色及び判断結果を下記表9に示し、下記表9に示した通り組織試料は細胞診サンプルとは異なり、膵臓組織内でacinarとpancreatic ductが区別可能で領域別に個別判断が可能であった。
【0230】
【表9】
【0231】
実験結果、前記表9に示した通り、本願発明で提供する二重染色法を通じて、膵臓癌組織と正常膵臓組織に対する区分正確性が100%に達することが確認された (感受性100%、特異性100%)。特に本願発明の二重染色法を利用すれば、腺房細胞に関する情報を与えることができ、診断正確性が著しく上昇することを確認した。
【0232】
図21及び図22は、膵臓の組織検体に対する各類型別の代表的診断事例を示している。図21は、膵臓癌組織に対する染色様相を示したもので、H&E染色を通じた病理所見上、膵臓癌組織に判定され、MRS単独染色上、膵臓癌組織からMRSが高発現していることを確認して、CK19単独染色上、膵臓癌組織でCK19が発現されることを示しており、最終的に同時染色(本発明の二重染色)でもMRS及びCK19それぞれが高い水準で同時検出されることを示している。
【0233】
図22は正常組織に対する染色様相を示したもので、H&E染色を通じて正常膵臓組織に判定され、この時腺房細胞と膵管細胞が一緒にいることが確認できた。MRS単独染色上で腺房細胞のみが染色され、CK19単独染色上膵管細胞でのみCK19が高検出されて赤色で表示される。最終的に同時染色(本発明の二重染色)する場合MRSは腺房細胞にCK19は膵管細胞で高検出されて赤色で検出される(矢印)。
【産業上の利用可能性】
【0234】
以上察した通り、本発明はメチオニルtRNA合成酵素(methionyl-tRNA synthetase, MRS)を利用した膵臓癌の診断方法に関するものである。膵臓癌マーカーとしてMRSを利用すれば、従来のCEAのような膵臓癌マーカーよりも診断正確性が著しく高く、膵臓細胞から MRS(methionyl-tRNA synthetase)の発現可否を分析することにより、膵臓癌であるか否かを明確に判断できる効果があり、これらの効果は一般的な染色法により、異型細胞と判断された細胞でも同じく現れる点で、膵臓癌診断に極めて有用に使用することができるので、体外診断産業などの分野において、産業上の利用可能性が極めて優れている。
図1
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【配列表】
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