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▶ スタリクラ ソシエテ アノニムの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】キットの使用方法およびキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220905BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/48 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020526315
(86)(22)【出願日】2018-11-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 EP2018080375
(87)【国際公開番号】W WO2019086724
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】17200220.6
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】62/582,213
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518394097
【氏名又は名称】スタリクラ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】STALICLA SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ダラム,リン
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089755(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0303031(US,A1)
【文献】Yasuko Kitagishi,Neuron Membrane Trafficking and Protein Kinases Involved in Autism and ADHD,Int. J. Mol. Sci,2015年,Vol.16,Page.3095-3115
【文献】Kim Nuytens,Platelets of mice heterozygous for neurobeachin, a candidate gene for autism spectrum disorder, display protein changes related to aberrant protein kinase A activity,Molecular Autism,2013年,Vol.4 No.1,Page.43
【文献】Catherine E. Barrett,Developmental disruption of amygdala transcriptome and socioemotional behavior in rats exposed to valproic acid prenatally,Molecular Autism,2017年08月01日,Vol.8,Page.42
【文献】Yun Tian,Melatonin reverses the decreases in hippocampal protein serine/ threonine kinases observed in an animal model of autism,J. Pineal Res.,2014年,Vol.56 No.1,Page.1-11
【文献】Jason J. Yi,An Autism-Linked Mutation Disables Phosphorylation Control of UBE3A,Cell,2015年08月13日,Vol.162 No.4,Page.795-807
【文献】Lina J,Brain Region-Specific Decrease in the Activity and Expression of Protein Kinase A in the Frontal Cortex of Regressive Autism,PLoS ONE,2011年08月31日,Vol.6 No.8,Page.e23751
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
C12Q 1/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASD患者における自閉症スペクトラム障害(ASD)表現型1の診断のためのキットの使用方法であって、
患者の血液サンプル、血清サンプル、または血漿サンプルのプロテインキナーゼAレベルを測定し、測定されたプロテインキナーゼAレベルと、年齢と性別が一致したコントロールサンプルのプロテインキナーゼAレベルと、を比較することを含むキットの使用方法。
【請求項2】
ASD患者のASD重症度の変動のモニタリングのためのキットの使用方法であって、
患者の血液サンプル、血清サンプル、または血漿サンプルのプロテインキナーゼAレベルを測定し、測定されたプロテインキナーゼAレベルと、前記患者の以前のサンプルで測定されたプロテインキナーゼAレベルと比較することを含むキットの使用方法。
【請求項3】
ASD表現型1患者におけるASD治療の有効性のモニタリングのためのキットの使用方法であって、
患者の血液サンプル、血清サンプル、または血漿サンプルのプロテインキナーゼAレベルを測定し、
測定されたプロテインキナーゼAレベルと、治療前の前記患者のベースラインプロテインキナーゼAレベルと比較することを含むキットの使用方法。
【請求項4】
測定されたプロテインキナーゼAレベルと、年齢と性別が一致したコントロールサンプルのプロテインキナーゼAレベルとを比較して、ASD患者のASD表現型1を診断するためのキットであって、
-前記患者の血液サンプル、血清サンプル、または血漿サンプル中のプロテインキナーゼAレベルの測定をするための手段を含むキット。
【請求項5】
測定されたプロテインキナーゼAレベルと、患者の以前のサンプルで測定されたプロテインキナーゼAレベルとを比較して、ASD表現型1患者におけるASD重症度の変動をモニタリングするためのキットであって、
-前記患者の血液サンプル、血清サンプル、または血漿サンプルから選択されるサンプル中のプロテインキナーゼAレベルの測定をするための手段を含むキット。
【請求項6】
測定されたプロテインキナーゼAレベルと、治療前の患者のベースラインプロテインキナーゼAレベルと比較して、ASD表現型1患者におけるASD治療の有効性をモニタリングするためのキットであって、
-前記患者の血液サンプル、血清サンプル、または血漿サンプルから選択されるサンプル中のプロテインキナーゼAレベルの測定をするための手段を含むキット。
【請求項7】
ASD患者におけるASD表現型1の診断に使用するためのキットであって、前記患者の血液サンプル、血清サンプル、または血漿サンプルから選択されるサンプル中のプロテインキナーゼAレベルを測定するための手段を含むキット。
【請求項8】
ASD表現型1患者のASD疾患活性のモニタリングに使用するためのキットであって、前記患者の血液サンプル、血清サンプル、または血漿サンプルから選択されるサンプル中のプロテインキナーゼAレベルを測定する手段を含むキット。
【請求項9】
ASD表現型1患者におけるASD治療の有効性をモニタリングする際に使用するためのキットであって、前記患者の血液サンプル、血清サンプル、または血漿サンプルから選択されるサンプル中のプロテインキナーゼAレベルを測定する手段を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)、特にASD表現型1のモニタリングに使用するバイオマーカーアッセイに関する。さらに、本発明のアッセイは、ASD表現型1の診断にも有用である。
【背景技術】
【0002】
cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)は、分子の調節サブユニット(R)へのcAMPの結合によって活性化され、アクティブな触媒キナーゼサブユニット(C)の放出をもたらす。真核生物系におけるcAMPの影響のほとんどは、PKAによるセリンまたはスレオニン残基でのタンパク質のリン酸化の結果である。PKAの両方のサブユニットにはいくつかのアイソフォームがある。PKAは、ホロ酵素のRサブユニットに結合するAKAPとして知られるマルチドメイン足場タンパク質に結合することにより、細胞内に局在する(Pearce, L.R., D. Komander, and D.R. Alessi, The nuts and bolts of AGC protein kinases. Nat Rev Mol Cell Biol, 2010. 11 (1): p.9-22)。PKAは神経発達において重要な役割を果たす。
【0003】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、多くの場合、社会的相互作用の障害、言語及びコミュニケーションの障害、並びに反復的で固執的な行動の存在によって特徴付けられる神経発達障害群である(Abrahams BS, Geschwind DH; Advances in autism genetics: on the threshold of a new neurobiology Nat Rev Genet. 2008 Jun;9(6):493), (Zoghbi HY, Bear MF; Synaptic dysfunction in neurodevelopmental disorders associated with autism and intellectual disabilities, Cold Spring Harb Perspect Biol. 2012 Mar 1;4(3))。ASDの特徴的な症状または行動的特徴は、通常、最初の3年間に現れ、大多数の患者において一生存在し続ける。症状の強さは患者によって異なり、患者の適応能力が発達するにつれて低下する場合がある。環境的要因、発達(思春期への移行・・・)、またはてんかんなどの併存症も症状の悪化につながる可能性がある。
【0004】
精神疾患の診断および統計マニュアルの第5版(DSM.5th Edition. Washington, DC: American Psychiatric Association; 2013. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)によると、ASDは2セットの中核的な障害:社会的コミュニケーションと相互作用の持続的な欠損、および限局的で反復的な行動、興味、活動、を特徴とする。前版(DSM-IV-Text Revision) (DSM-IV-TR4th Edition. Washington, DC: American Psychiatric Association; 2000. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders.)と比較すると、DSM-5は重要な変更を導入した。診断基準では、社会的コミュニケーションで使用されていない言語能力は重視されていない。さらに、診断のサブカテゴリ、すなわち、自閉症障害、アスペルガー障害、レット障害、小児期崩壊性障害、および特定不能の広汎性発達障害(PDD)は、自閉症スペクトラム障害の診断基準に含まれるようになった。さらにDSM-5では、ASDの重症度の段階的な3つのレベル(1)(「サポートが必要」)から(2)(「実質的なサポートが必要」)、そして(3)(「非常に重要なサポートが必要」)までに、患者が適合するかどうかを特定する必要がある。
【0005】
自閉症の定義に基づく他の関連する行動は、WHO-ICD-10自閉性障害の定義を含む他の診断マニュアルおよび分類システムにおいてさまざまな用語で提案されている(2017/18 ICD-10-CM Diagnosis Code F84.0)(World Health Organization. (1992). The ICD-10 classification of mental and behavioral disorders: Clinical descriptions and diagnostic guidelines. Geneva: World Health Organization.)。
【0006】
増え続けるASD感受性遺伝子が実際には限られた数の分子経路に集中する可能性がある、という理論を支持する証拠が最近蓄積されてきた。シナプスおよび回路形成またはシナプス伝達を媒介する遺伝子は、適応および自然免疫応答の変調を含む他の生理学的プロセスにも関与しているため、この増大する仮定は重要な変換の機会を提供する(Myka L. Estes ML, McAllister AK (2015), Nature Reviews Neuroscience 16, 469-486), cell proliferation, survival and protein synthesis (Subramanian M, Timmerman CK, Schwartz JL, Pham DL and Meffert MK (2015), Front. Neurosci. 9:313. Tang G. et al. (2014), Neuron. 83, 1131-1143.)。
【0007】
ただし、ASDの行動ベースのDSM-5診断では、分子的および遺伝的変化に関して合理的な分類ができず、むしろさまざまな病因を持つ障害の大規模なグループの行動ベースの包括的な用語として機能する、という科学コミュニティによる認識が高まっている。これらの違いは、遺伝的変化と遺伝子発現パターンの特定のバリエーションによって引き起こされる。
【0008】
以前に、特定の遺伝的シグネチャー(Bernier et al; Disruptive CHD8 mutations define a phenotype of autism early in development; Cell 2014 Jul 17; 158 (2): 263-276.)、または行動的および臨床的エンドフェノタイプ(Eapen V. and Clarke R.A.; Autism Spectrum Disorder: From genotypes to phenotypes; Front Hum Neurosci. 2014;8:914) を利用することにより、ASD患者をより小さく、より均質なサブグループに階層化する試みが行われた。ただし、これらの戦略はASDの遺伝的および表現型の不均一性を包含する困難に直面しており、疾患の根底にある特定の神経生物学的経路の同定を支援しない可能性がある。
【0009】
分子ベースのアッセイは、ASD患者を分類したり、疾患の経過をモニタリングする方法を提供する可能性がある。ただし、ASDの本質的な複雑さのために、および遺伝的要因と環境的要因の複雑な絡み合いのため、そのようなアッセイを確立するために使用できるASDの特有のバイオマーカーはまだ特定されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、解決すべき問題は、ASD患者の表現型を効率的かつ簡単に識別し、使いやすいバイオマーカーアッセイを使用して疾患の活動をモニタリングする手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ASD患者における自閉症スペクトラム障害(ASD)表現型1の診断にプロテインキナーゼAを使用することを提供することによりこの課題を解決する。プロテインキナーゼAレベルは患者のサンプルで測定され、測定されたプロテインキナーゼAレベルが、年齢と性別が一致したコントロールサンプルのプロテインキナーゼAレベルよりも低い場合にASD表現型1が診断される。
【0012】
同様に、ASD患者のASD重症度の変動のモニタリングにプロテインキナーゼAを使用することによって課題は解決される。プロテインキナーゼAレベルは患者のサンプルで測定され、患者の以前のサンプルで測定されたプロテインキナーゼAレベルと比較したプロテインキナーゼAレベルの減少によってASD重症度の増加が特徴付けられる。
【0013】
第3に、ASD患者のASD表現型1を診断する方法によって課題は解決され、この方法は以下を含む
-患者のサンプルの提供、および
-サンプル中のプロテインキナーゼAレベルの測定、および
-サンプルで測定されたプロテインキナーゼAレベルが、年齢と性別が一致したコントロールサンプルのプロテインキナーゼAレベルよりも低い場合のASD表現型1の診断。
【0014】
さらに、ASD表現型1患者におけるASD重症度の変動をモニタリングするための方法によって課題は解決され、この方法は以下を含む
-患者のサンプルの提供、および
-サンプル中のプロテインキナーゼAレベルの測定。
【0015】
最後に、ASD表現型1患者におけるASD治療の有効性をモニタリングする方法によって課題は解決され、この方法は以下を含む
-患者のサンプルの提供、および
-サンプル中のプロテインキナーゼAレベルの測定。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一態様では、本発明は、ASD患者の自閉症スペクトラム障害(ASD)表現型1の診断にプロテインキナーゼAを使用することに関し、プロテインキナーゼAレベルは患者のサンプルで測定され、ASD表現型1は以下の場合に診断される。測定されたプロテインキナーゼAレベルは、年齢と性別が一致したコントロールサンプルのプロテインキナーゼAレベルよりも低い。
【0017】
本明細書で使用される場合、自閉症スペクトラム障害(ASD)という用語は、社会的コミュニケーションと相互作用の欠損、および行動、興味または活動の限局的で反復的なパターンを特徴とする神経発達障害のファミリーを網羅すると理解される。以下では、「自閉症スペクトラム障害」、「自閉症」および「ASD」という用語は互換的に使用される。
【0018】
当業者は、患者がどのようにしてASDと診断され得るかについてよく認識している。例えば、当業者は、「米国精神医学会、精神疾患の診断および統計マニュアル(DSM-5)第5版」に設定された基準に従って、対象にASDの診断を下してもよい。同様に、ASD患者は、DSM IV、ICD-9、ICD-10、DISCO、ADI-R、ADOS、CHATなどの標準化された評価ツールに従って診断されてもよい。
【0019】
他のケースにおいて患者は、自閉症障害、アスペルガー障害、または特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)の確立されたDSM-IV診断を有し得る。
【0020】
プロテインキナーゼAは、2つの触媒サブユニットと2つの調節サブユニットからなるcAMP依存性プロテインキナーゼのファミリーである。本明細書で理解されるように、「プロテインキナーゼA」という用語は、この酵素ファミリーの任意のメンバーをカバーする。特に、この用語は、哺乳動物プロテインキナーゼAの2つの主要なタイプ、タイプIおよびタイプII(PKA IおよびPKA II)を指すと理解されている。これらのキナーゼは、RIおよびRIIと呼ばれる異なるRサブユニットの存在によって区別される。生化学的研究と遺伝子クローニングにより、Cサブユニットの3つのアイソフォーム、Cα、Cβ、Cγ、およびRサブユニットの4つのアイソフォーム、RIα、RIβ、RIIα、およびRIIβが同定された。本発明は、プロテインキナーゼAのホロ酵素の測定だけでなく、各サブユニットの測定も想定している。好ましい実施形態において、血清中に存在するイソ酵素プロテインキナーゼAが測定される。
【0021】
プロテインキナーゼAの測定は、当業者に知られている任意の方法を使用して行うことができる。測定方法の例には、イムノアッセイ、免疫蛍光アッセイ、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラテラルフローアッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および磁気イムノアッセイ(MIA)が含まれる。好ましい実施形態において、プロテインキナーゼAレベルは、改変されたMESACUPプロテインキナーゼA活性アッセイを使用して測定される。別の好ましい実施形態において、プロテインキナーゼAレベルは、抗プロテインキナーゼA抗体を使用するELISAによって測定される。
【0022】
患者のサンプルは、体液の任意のサンプルであってよい。好ましい実施形態において、サンプルは、血液サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、唾液サンプル、尿サンプルから選択される。全血サンプルの場合、例えば、精製により、または個々の成分の分離により、プロテインキナーゼAの測定を容易にするためにサンプルは処理されてもよい。
【0023】
「年齢および性別が一致した対照サンプル」という用語は、ASD患者に対応する年齢および性別を有する個人または健康な対象のグループから採取されたサンプルを指す。本発明を実施するために、本発明が実施されるたびに、対照サンプルのプロテインキナーゼAレベルを新たに測定する必要はない。代わりに、本発明は、それぞれのASD患者のプロテインキナーゼAレベルの測定値を、大規模コホートグループについて決定された平均参照値を意味するものと比較する可能性を想定している。
【0024】
本発明は、ASD患者におけるASD表現型1を診断するために有用である。ASD表現型1の患者は、次の臨床的徴候および症状によって定義できる:1)少なくとも1つの必須の特徴:コントロールの母集団に対して、24か月の平均頭囲(HC)を超える少なくとも1つの標準偏差を特徴とする拡大した頭部サイズ、および/または正式な大頭症(HC>一般集団の97%)、および/または感染症の期間、乳歯の喪失、心的外傷後の損傷、内因性および外因性の温度変化によって増強される中核または補助的な自閉症の症状の周期的な悪化;2)および以下の20の特徴のうちの少なくとも2つ、最も好ましくは少なくとも3つ:コントロールの母集団に対して毛髪および爪の成長の加速;同じ民族の人と比較して、肌や目の色が薄くなる傾向の増加;同じ民族の対照被験者よりも実質的に長いまつ毛;特に患者の背中に現れる、少なくとも5つの隣接しない領域の色素沈着のない皮膚;感染症、乳歯喪失、心的外傷後の損傷、または体温を変化させる内因性および外因性の要因の期間中の浮腫の兆候;より具体的には、眼窩周囲および額領域にある顔面浮腫;同じ年齢と民族の一般的に発達している個人と比較して、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の血中濃度の上昇;先天性泌尿生殖器奇形および/または排尿を開始する機能障害;膝蓋骨の形成不全;特に5歳未満で下痢が頻繁に発生する;耳鳴りの頻繁に発生する;脳梁の薄化;特に骨髄腫と急性前骨髄球性白血病に限定されないが、血液悪性腫瘍の陽性家族歴;関節リウマチの陽性の家族歴、すなわち連続した2世代で少なくとも2人の第1度近親者が罹患している;アセチルサリチル酸またはその誘導体に反応する有害事象;片側性または両側性の虹彩欠損;特に新生児、幼児および小児における睡眠多汗症(特に乳児期および小児期の寝汗の増加-親類からベッドリネンの交換が必要と報告されることが多い);Th1/Th2比の増加(すなわち、インターロイキン1ベータ、インターロイキン6、TNF-アルファ、インターフェロンガンマのレベルの上昇);先天性アクセサリーまたは重複脾臓;先天性乳腺の先天性欠如;妊娠中のウイルスまたは細菌感染症に罹患している母親、および/または妊娠中に生物学的に確認された母親の免疫活性化について報告されている病歴。
【0025】
同様に、ASD表現型1患者は、Nrf2転写因子のアップレギュレーションと、増殖関連経路の発現亢進の臨床徴候によって特徴付けられる。同時に、これらの患者は、ストレス、アポトーシスまたは細胞分化、細胞増殖、細胞周期進行、細胞分裂および分化への適応に関与する経路のアップレギュレーションを示す(特に、PI3K、AKT、mTOR/MAPK、ERK/JNK-P38などだが限定しない)。
【0026】
この表現型の患者では、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1β、IL-17A、IL-22及びGM-CSF)、Th1サイトカイン(INF-γ)およびケモカイン(IL-8)が、健康な対照患者と比較して脳内で有意に増加する可能性がある。Th2サイトカイン(IL-4、IL-5及びIL-10)は、有意な差を示さない場合がある。Th1/Th2比は、表現型1の患者で大幅に増加する可能性がある。
【0027】
上記の臨床徴候および症状は、ASD患者におけるASD表現型1の存在のヒントを提供するが、本発明は、ASD患者におけるASD表現型1を同定および/または診断するために使用できるバイオマーカーを初めて提供する。結果として、本発明は、ASD表現型1患者を同定するための迅速かつ簡便な方法を提供する。
【0028】
別の実施形態では、本発明はまた、ASD患者のASD重症度の変動をモニタリングする際にプロテインキナーゼAを使用することに関する。プロテインキナーゼAレベルは患者のサンプルで測定され、ASD重症度の増加は、患者の以前のサンプルで測定されたプロテインキナーゼAレベルと比較したプロテインキナーゼAレベルの減少によって特徴づけられる。
【0029】
好ましい実施形態において、本発明は、ASD表現型1患者におけるASD重症度の変動をモニタリングする際にプロテインキナーゼAを使用することを提供する。本発明による方法に加えて、ASD表現型1患者はまた、PCT/EP2018/080372に記載されているようなチャレンジテストの助けを借りて特定されてもよい。簡単に言うと、チャレンジテストの概念は、ASD患者へNrf2活性化因子の投与に基づいている。すでにそれぞれの経路のアップレギュレーションを示しているASD表現型1の患者では、Nrf2のさらなる活性化が中核症状の悪化につながる。その結果、ASD表現型1患者は、チャレンジテストで否定的な応答によって識別される場合がある。
【0030】
ASD表現型1の患者を特定する別の方法は、Nrf2のアップレギュレーションをチェックすることである。当業者は、Nrf2などの特定の遺伝子のアップレギュレーションをどのようにチェックできるかをよく認識している。たとえば、qPCRやRT-qPCRなどの定量的PRC手法を使用して、mRNAレベルで確認することができる。同様に、遺伝子のアップレギュレーションは、ウエスタンブロットや定量的ドットブロットなどのタンパク質定量技術を使用して、タンパク質レベルで決定することができる。アップレギュレーションは、健康な被験者からのサンプルと比較したときに、mRNAレベルまたはタンパク質レベルが少なくとも20%増加することを意味すると理解されている。
【0031】
ASD重症度の変動は、本明細書では、発熱、温度変化などの環境要因、感染症、またはアレルギー症状によって引き起こされる可能性がある、患者のASD中核および補助症状の両方の重症度の変動として定義される。ASDの主な症状には、社会的相互作用の困難、コミュニケーションの課題、反復的な行動をする傾向などがあるが、これらに限定されない。ASD補助症状には、知的障害、学習障害、泌尿生殖器の機能不全(すなわち、排尿を開始する障害)、下痢のエピソードが含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
ASD表現型1の患者では、ASDの重症度の増加に伴い、場合によってはプロテインキナーゼAレベルの減少が先行する。その結果、本発明は、患者のサンプル中のプロテインキナーゼAレベルを測定することにより、ASD患者、好ましくはASD表現型1患者におけるASD重症度の変動をモニタリングするのに有用である。ここで、ASD重症度の増加は、患者の以前のサンプルで測定されたプロテインキナーゼAレベルと比較して、プロテインキナーゼAレベルが低いことを特徴とする。好ましい実施形態において、本発明によるASD重症度の変動のモニタリングは、ASDまたはASD表現型1患者の少なくとも2つのサンプルにおけるプロテインキナーゼレベルを測定することを含む。
【0033】
さらに別の実施形態では、本発明は、ASD表現型1患者におけるASD治療の有効性をモニタリングする際にプロテインキナーゼAを使用することに関する。プロテインキナーゼAレベルは患者のサンプルで測定され、ASD治療に対する陽性反応は、治療前の患者のベースラインプロテインキナーゼAレベルと比較したプロテインキナーゼAレベルの増加を特徴とする。
【0034】
本発明は、ASD表現型1患者におけるASD治療の有効性をモニタリングするために有用である。ASD表現型1の患者では、ASDの成功した効果的な治療により、プロテインキナーゼAレベルが上昇する。その結果、治療に対する肯定的な反応は、治療前の患者のベースラインプロテインキナーゼAレベルと比較して、プロテインキナーゼAレベルが上昇することによって特徴付けられる。不十分な応答は、増加の欠如によって特徴付けられ、応答の停止は、陽性応答中に患者において測定されたプロテインキナーゼAのレベルと比較したプロテインキナーゼAレベルの減少によって特徴付けられる。患者において、肯定的な反応か不十分な反応か反応の停止が決定されたかどうかに応じて、陽性反応の場合は治療を維持することができ、不十分な反応または反応の停止の場合は治療を強化することができる。不十分な反応または反応の停止の場合、治療は別の治療に置き換えてもよい。
【0035】
本明細書で使用する場合、「ASD治療」という用語は、当業者に知られているASDの任意の治療を指す。ASD治療の例としては、リスペリドン、アリピプラゾール、クロザピン、ハロペリドール、セルトラリン、オキシトシン、セクレチン、メチルフェニデート、ベンラファキシン、フルオキセチン、シタロプラム、ブメタニド、メマンチン、リバスチグミン、ミルタザピン、メラトニン、アカンプロセート、アトモキセチン、髄腔内バクロフェン、DMXB-A(ネメルチン毒素アナバセインの誘導体)、EPI-743:ビンセリノン、RG7314:V1Aバソプレッシン受容体の拮抗薬、スルフォラファン、スラミンの投与が含まれる。さらに、本発明を用いてモニタリングされるべき可能な治療は、EP18204763.9に見出すことができる。
【0036】
別の実施形態では、本発明は、ASD患者のASD表現型1を診断するための方法に関しこの方法は以下を含む
-患者のサンプルの提供、および
-サンプル中のプロテインキナーゼAレベルの測定、および
-サンプルで測定されたプロテインキナーゼAレベルが、年齢と性別が一致したコントロールサンプルのプロテインキナーゼAレベルよりも低い場合のASD表現型1の診断。
【0037】
さらに別の実施形態では、本発明は、ASD表現型1患者におけるASD重症度の変動をモニタリングするための方法に関し、この方法は以下を含む
-患者のサンプルの提供、および
-サンプル中のプロテインキナーゼAレベルの測定。
【0038】
さらに別の実施形態では、本発明は、ASD表現型1患者におけるASD治療の有効性をモニタリングする方法に関し、この方法は以下を含む
-患者のサンプルの提供、および
-サンプル中のプロテインキナーゼAレベルの測定。
【0039】
別の実施形態では、本発明は、ASD患者におけるASD表現型1の診断に使用するためのキットを提供し、キットは、患者のサンプル中のプロテインキナーゼAレベルを測定するための手段を含む。
【0040】
さらに別の実施形態では、本発明は、ASD表現型1患者のASD疾患活性のモニタリングに使用するためのキットを提供し、キットは患者のサンプル中のプロテインキナーゼAレベルを測定する手段を含む。
【0041】
別の実施形態では、本発明は、ASD表現型1患者におけるASD治療の有効性をモニタリングする際に使用するためのキットを提供し、キットは、患者のサンプル中のプロテインキナーゼAレベルを測定する手段を含む。
【0042】
サンプル中のプロテインキナーゼAレベルを測定するための手段は、例えば、抗プロテインキナーゼA抗体を含んでもよい。さらに、本発明によるキットはまた、適切な緩衝液、検出剤および参照値を伴うチャートを含んでもよい。
【実施例
【0043】
3人のASD患者(DSM-5基準に基づいて診断)の血清サンプルを2つの異なる時点で収集した。血清サンプルの1回目のラウンドは、治療前に収集され、治療前のベースライン値を表している。2回目のラウンドの血清サンプルは、イブジラスト0.6mg/kgを1日3回、ブメタニド1日2回の総摂取量0.08mg/kgと組み合わせて投与した1か月の治療後に収集した。
【0044】
血清サンプルのプロテインキナーゼAレベルは、MESACUPプロテインキナーゼアッセイキット(Medical & Biological laboratories CO., LTD)を使用して測定した。アッセイは、製造元から提供された仕様に従って実施した。
【0045】
3人の患者がASD表現型1として分類され、以下を示した:
・少なくとも1つの必須の特性:
・コントロールの母集団に対して、24か月の平均頭囲を超える少なくとも1つの標準偏差を特徴とする拡大した頭部サイズ、および/または正式な大頭症(HC>一般集団の97%)
・感染症の期間、乳歯の喪失、心的外傷後の損傷、内因性および外因性の温度変化によって増強される中核または補助自閉症の症状の周期的な悪化

そして

・以下の20の特徴のうちの少なくとも2つ、最も好ましくは少なくとも3つ
・コントロールの母集団に対して毛髪および爪の成長の加速
・同じ民族の人と比較して、肌や目の色が薄くなる傾向の増加
・同じ民族の対照被験者よりも実質的に長いまつ毛
・特に患者の背中に現れる、少なくとも5つの隣接しない領域の色素沈着のない皮膚
・感染症、乳歯喪失、心的外傷後の損傷、または体温を変化させる内因性および外因性の要因の期間中の浮腫の兆候;より具体的には、眼窩周囲と額領域にある顔面浮腫
・同じ年齢と民族の一般的に発達している個人と比較して、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の血中濃度の上昇
・先天性泌尿生殖器奇形および/または排尿を開始する機能障害
・膝蓋骨の形成不全
・特に5歳未満で下痢が頻繁に発生する
・耳鳴りが頻繁に発生する
・脳梁の薄化
・特に骨髄腫および急性前骨髄球性白血病に限定されないが、血液悪性腫瘍の陽性家族歴
・関節リウマチの陽性の家族歴、すなわち連続した2世代で少なくとも2人の第1度近親者が罹患している
・アセチルサリチル酸またはその誘導体に反応する有害事象
・片側性または両側性の虹彩欠損
・特に新生児、幼児および小児における睡眠多汗症(特に乳児期および小児期の寝汗の増加-親類からベッドリネンの交換が必要と報告されることが多い)
・Th1/Th2比の増加(すなわち、インターロイキン1ベータ、インターロイキン6、TNF-アルファ、インターフェロンガンマのレベルの上昇)
・先天性アクセサリーまたは重複脾臓
・先天性乳腺の先天性欠如
・妊娠中のウイルスまたは細菌感染症に罹患している母親、および/または妊娠中に生物学的に確認された母親の免疫活性化について報告されている病歴
【0046】
以下の表2に測定結果を示す。
【表2】
表2:イブジラスト0.6mg/kgを1日3回、ブメタニド1日2回の総摂取量0.08mg/kgと組み合わせて投与した治療前後のPKA測定