(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】給水システム
(51)【国際特許分類】
A01K 39/02 20060101AFI20220905BHJP
【FI】
A01K39/02 Z
(21)【出願番号】P 2020552489
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2018039933
(87)【国際公開番号】W WO2020084780
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390030661
【氏名又は名称】株式会社ハイテム
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】今村 芳敬
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-039908(JP,A)
【文献】実開平03-043955(JP,U)
【文献】特開昭52-024855(JP,A)
【文献】特開昭52-122543(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0163280(US,A1)
【文献】堀田真紀子,簡易パッド&ファンを利用したバラの夏期高温対策,[オンライン],2011年05月30日,http://www.pref/aichi/jp/nogyo-keiei/nogyo-aichi/gijutu_keiei/kaki1105.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏舎の内部でケージに収容されて飼育されるトリに水を摂取させるための給水システムであって、
複数の前記ケージが水平方向に並設されたケージ列に沿って配された給水パイプと、
該給水パイプ一つ当たり複数が設けられており、弁体を押し上げることにより前記給水パイプ内の水を流出させる給水器と、
前記給水パイプの上流端に接続されており、水供給源から送られる水を、水圧を低減させて前記給水パイプに流入させる減圧装置と、
前記給水パイプの下流端に接続されており、前記給水パイプの下流端が封止された封止モード、及び、前記給水パイプの下流端が排出パイプと連通している排出モードの何れかに切り替える開閉弁と、
通気性を有し前記鶏舎の入気口を被覆しているパネル材、及び、該パネル材の上面に水を供給する供給パイプを備え、前記パネル材に浸透した水の気化熱により低温となった前記パネル材で前記入気口を通過する空気を冷却するクーリングパネルと、
該クーリングパネルの下方に設けられて前記パネル材を流下した水を受ける貯水槽と、
該貯水槽の水を前記供給パイプに送るポンプと、を具備し、
前記排出パイプは、前記給水パイプから排出された水を前記貯水槽へ導くものであ
り、
前記給水パイプとの接続部より下流側で、前記排出パイプは鶏舎の床面に沿って単一の高さで延びて前記貯水槽に至っており、
前記給水パイプから排出された水を前記貯水槽に送るポンプは備えておらず、前記貯水槽の水位を前記排出パイプの下流端より低く設定する定水弁が前記貯水槽に設けられていることにより、前記給水パイプから排出された水は、前記減圧装置を経て減圧された水圧と重力の作用のみによって貯水槽まで送られる
ことを特徴とする給水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養鶏施設で飼育されるトリに水を摂取させるための給水システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多数のケージで多数羽のトリを飼育する大型の養鶏施設では、トリへの給水も省力化されている。一般的には、複数のケージが水平方向に並設されたケージ列に沿って給水パイプが配されており、上水道などの水供給源から水圧を低減させた水が給水パイプに供給される。給水パイプには複数の給水器が設けられており、給水パイプの下流端は封止されている。給水器は、本体に対して上下方向に出没する弁体によって流路が開閉するものである。トリが嘴で弁体を押し上げることにより、流路が開放されて水が流下し、トリが飲むことができる。そして、給水器を介して流出した水、すなわち、トリが飲んだ分の水が、水供給源から給水パイプに新たに供給される。
【0003】
上記のようなしくみでは、給水パイプ内に水が滞留しやすいため、夏季など気温の高いときに水が温まってしまうという問題がある。上記の給水器は、トリが自ら動作させなければ水が流出しない構造であるが、トリは気温が高い時期に温かい水を飲みたがらない傾向があるため、水の摂取量が減少する。水の摂取量が減少すると、トリの健康状態が悪化すると共に、水の消費量の減少に伴って水の滞留の程度が増し、水がより温まるという悪循環に陥ることとなる。
【0004】
そこで、給水パイプに供給される水をタンクを介して循環させ、水温が高くなるとタンク内の水をポンプで冷却装置に送り、冷却された水をタンクに戻す給水装置が提案されている(特許文献1参照)。この給水装置では、気温の高いときでも冷却された水が給水パイプに供給される利点があるが、タンク、冷却装置、タンクから冷却装置に送水するポンプ、タンクから給水パイプに送水するポンプなど、必要な構成が多く複雑な構造となるため、設置コストが嵩むと共にランニングコストも高くなるという問題がある。また、飲用水が循環式であるため、水の汚染を防ぐために高度な注意を払う必要がある。
【0005】
また、給水パイプを内管と外管との二重構造とし、外管に給水器を設けて外管と内管との間に飲用水を流通させる一方で、内管に冷却用の水を流し、内管の内部の水と外部の水とで熱交換させる給水装置が提案されている(特許文献2参照)。冷却用の水はタンクを介して循環させ、タンクの水は温度の検知に基づいて冷却装置に送られ、冷却された水がタンクに戻される。この給水装置は、特許文献1の装置と同様に、タンク、冷却装置、タンクから冷却装置に送水するポンプ、タンクから内管に送水するポンプなど、必要な構成が多く複雑な構造となるため、設置コストが嵩むと共にランニングコストも高くなるという問題がある。加えて、二重構造の特殊な給水パイプを使用する。そのため、コスト高となると共に、既存の養鶏施設では従来の給水パイプと交換するために大掛かりな工事が必要であり、導入しにくいものであった。
【0006】
この問題を解決することを意図して、冷却用パイプを給水パイプに沿わせて外付けで配設し、冷却用パイプと給水パイプとを断熱部材で被覆する給水装置が提案されている(特許文献3参照)。冷却用の水はタンクを介して循環させ、タンクの水は温度の検知に基づいて冷却装置に送られ、冷却された水がタンクに戻される点は特許文献2の装置と同様である。そのため、必要な構成が多く複雑な構造であることにより、コスト高となる点も同様である。特許文献2の装置とは異なり、既存の給水パイプをそのまま使用できる利点はあるが、給水パイプに沿わせて冷却用パイプを配設し、更に断熱部材で被覆する作業は煩雑である。大型の養鶏施設では、多数のケージが水平方向に並設されたケージ列が多段に積重されている上、多数列が並設されているため、給水管は相当数あり、それぞれの長さも長い。そのため全ての給水管に沿って冷却用パイプを配設し、両者を断熱部材で被覆する作業は、かなり大掛かりなものとならざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-237241号公報
【文献】特開2009-296943号公報
【文献】特開2015-80415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、ケージで飼育されるトリの飲用水を流通させる給水パイプ内での水の滞留に起因する水温の上昇を、簡易な構成で抑制することができる給水システムの提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる給水システムは、
「鶏舎の内部でケージに収容されて飼育されるトリに水を摂取させるための給水システムであって、
複数の前記ケージが水平方向に並設されたケージ列に沿って配された給水パイプと、
該給水パイプ一つ当たり複数が設けられており、弁体を押し上げることにより前記給水パイプ内の水を流出させる給水器と、
前記給水パイプの上流端に接続されており、水供給源から送られる水を、水圧を低減させて前記給水パイプに流入させる減圧装置と、
前記給水パイプの下流端に接続されており、前記給水パイプの下流端が封止された封止モード、及び、前記給水パイプの下流端が排出パイプと連通している排出モードの何れかに切り替える開閉弁と、
通気性を有し前記鶏舎の入気口を被覆しているパネル材、及び、該パネル材の上面に水を供給する供給パイプを備え、前記パネル材に浸透した水の気化熱により低温となった前記パネル材で前記入気口を通過する空気を冷却するクーリングパネルと、
該クーリングパネルの下方に設けられて前記パネル材を流下した水を受ける貯水槽と、
該貯水槽の水を前記供給パイプに送るポンプと、を具備し、
前記排出パイプは、前記給水パイプから排出された水を前記貯水槽へ導く」ものである。
【0010】
本構成の給水システムは、大型の養鶏施設で換気の際に外部から取り込まれる空気を冷却するために使用されるクーリングパネルを、トリに給水するためのシステムに組み込んだ新規な構成である。
【0011】
給水パイプ内に水が滞留することにより温まってしまうときは、開閉弁を開くことにより、封止モードから排出モードに切り替える。これにより、給水パイプ内の水は排出パイプへ流出し、水供給源から給水パイプへ温まっていない新鮮な水が供給される。従って、夏季など気温が高い時期であっても、温まっていない水をトリに摂取させることができる。
【0012】
仮に、給水パイプから排出させた水を単に廃棄対象とすると、資源としてもコストの面からも無駄となる。これに対し、本構成では、排出された水をクーリングパネルの下方の貯水槽まで導き、パネル材に供給する水として循環使用される水に加えられる。従って、給水パイプから排出させた水を、無駄なく使用することができる。
【0013】
クーリングパネルは、大型の養鶏施設が備えていることが望ましい設備である。そして、給水パイプ内の水が温まるような気温の高い時期には、クーリングパネルを養鶏施設の換気に使用しており、貯水槽から供給パイプに水を送るポンプも動作させている。そのため、本構成の給水システムの導入のために、従来の施設に新たに付加すべき構成が少なく、システムを簡易な構成にとどめたまま、給水パイプ内での水の滞留に起因する水温の上昇を抑制することができる。
【0014】
加えて、排出モードの際も、給水パイプに送られる水は減圧装置を経て水圧を低減させている。そのため、排出モードであっても給水パイプ内の水圧が高まる訳ではなく、給水器を介したトリの飲水に支障をきたすことがない。また、減圧装置を経て水圧を低減させた水が排出パイプを介して貯水槽に送られるため、単位時間当たりの送水量を押さえることができ、貯水槽に水が大量に送られ続ける事態を回避することができる。
【0015】
本発明にかかる給水システムは、上記構成に加え、
「前記給水パイプとの接続部より下流側で、前記排出パイプは鶏舎の床面に沿って単一の高さで延びて前記貯水槽に至っており、
前記給水パイプから排出された水を前記貯水槽に送るポンプは備えておらず、前記貯水槽の水位を前記排出パイプの下流端より低く設定する定水弁が前記貯水槽に設けられていることにより、前記給水パイプから排出された水は、前記減圧装置を経て減圧された水圧と重力の作用のみによって貯水槽まで送られる」ものである。
【0016】
本構成では、給水パイプから排出された水を貯水槽まで送るためのポンプなどの動力を要することなく、減圧装置を経て低減された水圧と重力の作用のみによって、簡易に貯水槽まで水を送ることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、ケージで飼育されるトリの飲用水を流通させる給水パイプ内での水の滞留に起因する水温の上昇を、簡易な構成で抑制することができる給水システムを、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態の給水システムを備える鶏舎の概略構成図である。
【
図4】
図4(a)は
図1におけるC-C範囲の拡大図であり、
図4(b)はクーリングパネルの縦断面図である。
【
図5】
図5は
図4(a),(b)のクーリングパネルの斜視図である。
【
図6】
図6は
図1の給水システムと異なる減圧装置を使用している場合のA-A範囲に相当する範囲の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を用いて説明する。まず、本実施形態の給水システムを備える鶏舎10の構成について説明する。鶏舎10は四つの壁に囲まれた直方体形状の建物であり、四つの壁のうち対向する一対の壁11,12間の長さが50メートルから200メートルで、他の一対の壁13間の長さがそれより短く5メートルから40メートルの細長い形状である。
【0020】
鶏舎10の内部空間には、複数のケージ60が水平な一方向に連設されたケージ列70が多数収容されている。ケージ列70は多段に積重されていると共に、ケージ列70が延びる方向に直交する方向に多数列が並設されている。ケージ列70が延びる方向は、壁11と壁12とを結ぶ鶏舎10の長手方向である。
【0021】
対向する一対の壁11,12には、それぞれ入気口21と排気口22が設けられている。入気口21及び排気口22は、それぞれ壁11,12全体の面積の1/2以上の大きな面積で設けられている。ケージ列70と平行な他の一対の壁13それぞれの上部には、側壁入気口(図示を省略)が設けられている。
【0022】
排気口22には、大型の排気ファン22fが縦横に複数取り付けられている。排気ファン22fを動作させて排気口22から空気を強制的に排出することにより、鶏舎10の内部空間を陰圧にして、入気口21及び側壁入気口の少なくとも一方を介して外部から空気を取り込むことにより、鶏舎10内の換気を行うことができる。
【0023】
より具体的には、冬季など外気温が低いときは、入気口21を閉塞し、側壁入気口から外気を取り込む第一モードで換気が行われる。側壁入気口には、その開閉及び開度を調整する装置(図示を省略)が設けられており、外気温に応じて側壁入気口の部分的な開閉や開度が調整される。
【0024】
一方、夏季など外気温の高いときは、入気口21から空気を取り込む第二モードで換気が行われる。第二モードでは、対向する壁11,12間でストレートに空気を流通させるため、空気の流通が高速であり、鶏舎10内の温度より低温の外気で内部空間を冷却しつつ、換気を行うことができる。また、入気口21及び側壁入気口の双方を介して空気を取り込む第三モードで、換気を行うこともできる。
【0025】
入気口21は、クーリングパネル30のパネル材35で被覆されており、入気口21を介して鶏舎10内に流入する空気がパネル材35によって冷却される。具体的に説明すると、クーリングパネル30は、
図5及び
図4(b)に示すように、一対の側部枠31、一対の側部枠31の上端を連結する上部枠32、及び、一対の側部枠31の下端を連結する下部枠33によって、複数のパネル材35が保持されたものである。上部枠32は、入気口21より上方で壁11に固定されており、下部枠33は入気口21より下方で壁11に固定されている。
【0026】
上部枠32は、パネル材35の上面に水を供給する供給パイプ36を保持しており、供給パイプ36は側部枠31に貫設された孔部31hを介して、上部枠32とパネル材35との間の空間に挿入されている。供給パイプ36において、上部枠32の内部に位置する部分の周面には、多数の小孔部(図示を省略)が貫設されている。
【0027】
下部枠33は、その底面33bより上方に網状の支持部材33cを備えており、ここにパネル材35を載置している。従って、パネル材35の下端と下部枠33の底面33bとの間には、樋状の空間Sが形成されている。下部枠33の底面33bには孔部33hが貫設されており、ここに接続されたパイプ51が下方に向かって延びている。
【0028】
パネル材35は、吸水性・保水性に富むと共に、湿潤に対して耐性を有する紙材料によって形成されている。このような紙材料を、小さな波形が反復する形状に成形し、波形をずらしつつ多数積層することにより、表面積を増大させると共に、通気性を持たせている。
【0029】
上記構成のクーリングパネル30では、供給パイプ36に水を送ると、供給パイプ36の周面の小孔部から流出した水がパネル材35の上面に滴下され、水の浸透によりパネル材35が湿潤する。この水分が蒸発する際、気化熱が奪われてパネル材35が低温となる。これにより、入気口21を介して鶏舎10内に流入する空気が、パネル材35を通過する際に冷却される。
【0030】
気化することなくパネル材35を流下した水は、網状の支持部材33cを通過し、樋状の空間Sで集められ、パイプ51を介して外部に排出される。パイプ51の下方には貯水槽40が設けられており、パイプ51を流下した水がここに貯められる。貯められた水は、ポンプPの作動によりパイプ52を介して供給パイプ36に送られ、再びパネル材35の上面に滴下される。パネル材35を流下した水は、樋状の空間Sで集められ、以降は同様に循環する。
【0031】
貯水槽40には、気化して拡散した分の水を補充するため、パイプ53を介して外部から水が供給される。ここでは、貯水槽40の水位に応じた浮き玉42の変位により、弁41が開閉して水位を一定に保つ場合を例示している。本実施形態における浮き玉42を有する弁41が、本発明の「定水位弁」に相当する。
【0032】
次に、本実施形態の給水システムについて説明する。給水システムは、上記のように鶏舎10の換気に当たり使用されるクーリングパネル30を、トリに給水するためのシステムに組み込んだものである。給水システムは、給水器4を備える給水パイプ3と、上流パイプ1と、排出パイプ6とからなるパイプ構造を備えている。このパイプ構造は、上流パイプ1と給水パイプ3との間に設けられた減圧装置2と、給水パイプ3と排出パイプ6との間に設けられた開閉弁5とを、更に備えている。
【0033】
また、給水システムは、鶏舎10の入気口21を被覆するパネル材35を有するクーリングパネル30と、パネル材35に水を供給する供給パイプ36と、クーリングパネル30の下方に設けられた貯水槽40と、貯水槽40の水を供給パイプ36に送るポンプPと、を備えている。
【0034】
より具体的に説明すると、給水パイプ3は、各ケージ列70に沿って長手方向に配されている。各給水パイプ3には、ケージ60一つ当たりの数が同じになるように複数の給水器4が設けられている。各給水器4は、上下動により本体4aに対して出没する弁体4bを備えており、トリが嘴で弁体4bを押し上げると、流路が開放されて水が流下する。
【0035】
なお、給水パイプ3の下方には、給水パイプ3と平行に、上方に開放した受け樋9が配されている。受け樋9は、トリが給水器4を操作して飲水する際に、こぼしたり飛散させたりした水を受けるものであり、トリの居住スペースや除糞ベルト(図示を省略)が濡れることを防止するためのものである。
【0036】
上流パイプ1は、上水道などの水供給源から給水パイプ3へ水を送るパイプである。上流パイプ1は、給水パイプ3と同数に分岐した後、給水パイプ3の上流端に減圧装置としての減圧弁2を介して接続されている。減圧弁2は、水供給源から送られる水の圧力を低減させて、給水パイプ3に流入させる。これにより、トリが給水器4を操作したときに、水が勢いよく噴出してトリの飲水に支障をきたすことが防止される。
【0037】
減圧弁2には、給水パイプ3に流入させる水の圧力を確認するための水圧指示器7が取り付けられている。ここでは、水圧指示器7として、上方に向かって立設させた透明なパイプ7pと、パイプ7p内に収容されたフロート7fとを備えており、給水パイプ3内の水圧をフロート7fの高さで確認できる簡易な構成のものを例示している。また、給水パイプ3の下流端の近傍にも、同様の構成の水圧指示器7が取り付けられている。
【0038】
各給水パイプ3の下流端は、それぞれ開閉弁5を介して排出パイプ6に接続されている。本実施形態では、複数段に積重されたケージ列70それぞれに沿って配された給水パイプ3の複数が、一つの排出パイプ6に接続されている場合を例示している。排出パイプ6は、最上段の給水パイプ3の下流端から、一段下の給水パイプ3の下流端を順に接続しつつ下降し、その後は鶏舎10の床面近くを単一の高さで延び、壁11を貫通して貯水槽40の上方に至っている。すなわち、排出パイプ6は、その上流端から下流端に向かって、高さが増加する部分を有していない。そして、浮き玉42を有する弁41によって一定に保たれている貯水槽40の水位は、排出パイプ6の下流端の高さより低く設定されている。
【0039】
上記構成の給水システムにおいて、開閉弁5を閉じて給水パイプ3の下流端を封止した封止モードでは、トリの操作により給水器4から流出した分の水が、上流パイプ1から減圧弁2を経て給水パイプ3に供給される。気温が高くない時期など、給水パイプ3内に水が滞留しても温まりにくい場合は、この封止モードでトリへの給水を行う。
【0040】
給水パイプ3には、水圧指示器7が取り付けられているため、給水パイプ3内の水圧が、トリの飲水に適した水圧となっているか否かを確認することができる。また、水圧指示器7は、給水パイプ3において上流端近くと下流端近くの二カ所に取り付けられているため、給水パイプ3の途中でパイプ詰まりや漏水が生じたとしても、速やかに察知することができる。
【0041】
給水パイプ3内に水が滞留することにより温まってしまうときは、開閉弁5を開いて排出モードとする。間歇的に封止モードから排出モードに切り替えても良いし、連続的に排出モードとしてもよい。排出モードでは、給水パイプ3から排出パイプ6へ水が流出し、水供給源から温まっていない新鮮な水が給水パイプ3に供給される。従って、夏季など気温が高い時期であっても、温まっていない水をトリに摂取させることができる。
【0042】
仮に、給水パイプ3から排出された水を廃棄対象とすると、資源としてもコストの面からも無駄となる。これに対し、本実施形態では、給水パイプ3から排出パイプ6へ流出させた水は、排出パイプ6を下流端まで流通し、クーリングパネル30の下方の貯水槽40に導かれる。貯水槽40の水は、パネル材35に供給される水として循環して使用されるものであるため、給水パイプ3から排出させた水も無駄なく使用することができる。
【0043】
クーリングパネル30は、大型の養鶏施設が備えていることが望ましい設備である。しかも、給水パイプ3内の水が温まってしまうような気温の高い時期には、クーリングパネル30は鶏舎10の換気に使用されており、貯水槽40から供給パイプ36に水を送るポンプPも動作させている。そのため、本実施形態の給水システムの導入のために、新たに付加する必要がある構成は、開閉弁5と排出パイプ6程度であり、既存の設備を有効に活用しつつシステムを簡易な構成にとどめたまま、給水パイプ3内での水の滞留に起因する水温の上昇を抑制することができる。
【0044】
加えて、排出モードの際も、給水パイプ3に送られる水は、減圧弁2を経て水圧を低減させたものであり、給水パイプ3内の水圧が高まる訳ではない。そのため、排出モードであっても、給水パイプ3内を流通する水を、トリが給水器4を介して支障なく摂取することができる。また、減圧弁2を経て水圧を低減させた水が排出パイプ6を介して貯水槽40に送られるため、単位時間当たりの送水量を押さえることができ、貯水槽40に水が大量に送られ続ける事態を回避することができ、貯水槽40から供給パイプ36に送られる水量とのバランスを取りやすい。
【0045】
更に、排出パイプ6は、その上流端から下流端まで高さが増加する部分を有しておらず、一定に保持されている貯水槽40の水位は、排出パイプ6の下流端の高さより低く設定されている。従って、給水パイプ3から排出された水を貯水槽40まで送るためのポンプなどの動力を要することなく、減圧弁2を経て低減された水圧と重力の作用のみによって、簡易に貯水槽40まで水を送ることができる。
【0046】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0047】
例えば、封止モードと排出モードとを切り替える開閉弁5は、手動で開閉されるものであっても、給水パイプ3内の水温や気温の検知に基づき制御装置によって開閉されるものであってもよい。
【0048】
また、水圧指示器7は、給水パイプ3内の水圧を知ることができるものであれば、上記の構成に限定されない。更に、定水位弁は、貯水槽40における水位を一定に保つことができるものであれば、上記の構成に限定されない。
【0049】
更に、上記では、減圧装置として減圧弁2を例示したが、水供給源から送られる水を、水圧を低減させて給水パイプ3に流入させることができるものであれば、減圧弁2に限定されない。例えば、
図6に示すように、減圧装置としてシスターン80を使用することができる。シスターン80は大気に解放された容器であり、給水パイプ3と同数に分岐した上流管1それぞれの下流端に接続されている。分岐した上流管1の下流端は、それぞれシスターン80の周壁の上部を貫通して内部に延び、給水口81となっている。給水口81には弁85が設けられており、水位に応じた浮き玉86の変位による弁85の開閉により、水位が一定に保持されている。シスターン80の下部には流出パイプ88が接続されている。流出パイプ88は給水パイプ3より高い位置にあり、垂直方向の連結パイプ89によって給水パイプ3の上流端と接続されている。
【0050】
このような構成により、上流管1を介して水供給源から送られる水は、いったんシスターン80に溜められて水供給源と切り離される。トリの飲水のために給水器4から水が流出すると、その分の水がシスターン80から給水パイプ3に供給されるが、供給される水にはシスターン80の水位と給水パイプ3の高さの差に相当する水圧がかかる。従って、水供給源から送られる水の圧力より低減された圧力の水を、給水パイプ3に流入させることができる。なお、給水パイプ3に流入する水の圧力は、弁85及びによって一定に保持されるシスターン80内部の水位と給水パイプ3の高さとの差によって所望の値とすることができため、給水パイプ3の上流端近傍には上記の水圧指示器7を設けなくてもよい。夏季など気温が高く給水パイプ3内の水が温まってしまうときは、開閉弁5を開いて排出モードとすることにより、シスターン80に収容されていた水も排出され、水供給源から新鮮な水が補給される。