(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】光干渉断層撮影システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20220905BHJP
【FI】
G01N21/17 630
(21)【出願番号】P 2021011306
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2022-01-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514277260
【氏名又は名称】シンクランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細田 真希
(72)【発明者】
【氏名】太田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】志賀 代康
(72)【発明者】
【氏名】及川 陽一
(72)【発明者】
【氏名】宮地 邦男
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-536037(JP,A)
【文献】特開平11-149734(JP,A)
【文献】特開2002-092649(JP,A)
【文献】特開2006-322905(JP,A)
【文献】特開2000-224390(JP,A)
【文献】特開2013-207012(JP,A)
【文献】特開2015-190826(JP,A)
【文献】特開2018-160530(JP,A)
【文献】特開2018-132466(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098850(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/017017(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/091993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
G01B 11/00-11/30
A61B 3/10-3/12
A61B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状またはシート状の被検体に被検光を照射するとともに、当該被検体からの戻り光を受光するプローブと、
前記プローブに接続され、前記被検光を生成して前記プローブに出力するとともに前記プローブからの戻り光を受信して光干渉効果に基づく前記被検体の内部構造を表す信号を生成する断層撮影部と、
前記プローブから出力された被検光が被検体の内部にフォーカスするように、前記プローブと前記被検体との距離を調整する調整手段と、
前記被検体を載せるステージと、
前記被検体の表面と前記プローブとの距離を保ったまま、前記被検光の照射範囲に前記被検体の外側の領域を少なくとも部分的に含む平面上で、前記ステージまたは前記プローブを移動させる移動制御手段と、
前記戻り光に基づいて、前記被検体の平面内の基準位置を特定する位置特定部と
を有する光干渉断層撮影システムであって、
前記移動制御手段は、前記基準位置に基づいて定められる前記平面内の複数の位置において前記被検光の照射が行われるように、前記ステージまたは前記プローブを移動させる
光干渉断層撮影システム。
【請求項2】
前記ステージは、前記被検体の縁において前記被検体を前記ステージに抑えつける透明体部材を更に有する請求項1に記載の光干渉断層撮影システム。
【請求項3】
前記ステージは、前記被検体を保持する陰圧発生機構を備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光干渉断層撮影システム。
【請求項4】
前記ステージは、前記被検体を保持する静電チャック機構を備える
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の光干渉断層撮影システム。
【請求項5】
前記ステージは、前記被検体を、当該被検体の縁以外の場所において、前記ステージの
載置面に押し付けることにより前記被検体を固定する固定機構を有する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の光干渉断層撮影システム。
【請求項6】
前記断層撮影部は、前記基準位置を特定する際に前記戻り光と光干渉させる参照光を遮断する遮断機構を有する
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の光干渉断層撮影システム。
【請求項7】
前記位置特定部は、前記戻り光に基づいて前記被検体の縁または頂点を特定し、該特定された縁または頂点の位置に基づいて前記基準位置を決定する
請求項1~6のいずれか一項に記載の光干渉断層撮影システム。
【請求項8】
ステージに載せられた板状またはシート状の被検体に被検光を照射するとともに、該被検体からの戻り光を受光するプローブと、前記プローブに接続され前記被検光を生成して前記プローブに出力するとともに前記プローブからの戻り光を受信して光干渉効果に基づく前記被検体の内部構造を表す信号を生成する生成部とを有する光干渉断層撮影システムの
コンピュータに、
前記プローブから出力された被検光が
前記被検体の内部にフォーカスするように、前記プローブと前記被検体との距離を調整するステップと、
前記被検体の表面と前記プローブとの距離を保ったまま、前記被検光の照射範囲に前記被検体の外側の領域を少なくとも部分的に含む平面上で前記ステージまたは前記プローブを移動させることにより、前記戻り光に基づいて前記被検体の平面内の基準位置を特定する
ステップと、
該特定された基準位置に基づいて定められる前記平面内の複数の位置において前記被検光の照射が行われるように、前記ステージまたは前記プローブを移動させるステップと
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光干渉断層撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光干渉断層撮影装置(OCT;Optical Coherence Tomography)は、サンプルからの戻り光と参照光を干渉させることでサンプル内部の屈折率差を画像化する技術である。眼科をはじめとして皮膚科や循環器内科など様々な医療分野で応用が進んでいる。また、産業用途として、光をある程度透過するガラスや樹脂などのサンプルの内部構造を計測する装置の開発も進められている(特許文献等1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
OCT計測によって、サンプル全体の内部の構造(例えば均一性など)を確認する場合、被検光(以下、プローブ光という)を照射するサンプル上の位置を変えて測定を繰り返す必要がある。この際、例えばサンプルの不具合(構造の不均一性など)がどこにあるのかを正確に特定することが要求される場合がある。この場合、被検光を照射している場所(すなわち、サンプル上のどの場所を測定しているか)を正確に特定する必要がある。この点、従来技術においては、サンプル上におけるOCT計測対象の位置を正確に特定することができなかった。
本発明は、サンプルにおける、OCTの計測対象となっている位置を正確に決定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一の態様において、板状またはシート状の被検体に被検光を照射するとともに、当該被検体からの戻り光を受光するプローブと、前記プローブに接続され、前記被検光を生成して前記プローブに出力するとともに前記プローブからの戻り光を受信して光干渉効果に基づく前記被検体の内部構造を表す信号を生成する断層撮影部と、前記プローブから出力された被検光が被検体の内部にフォーカスするように、前記プローブと前記被検体との距離を調整する調整手段と、前記被検体を載せるステージと、前記戻り光に基づいて、前記被検体の平面内の基準位置を特定する位置特定部とを有する光干渉断層撮影システムであって、前記被検体の表面と前記プローブとの距離を保ったまま、前記被検光の照射範囲に前記被検体の外側の領域が少なくとも部分的に含まれるように前記被検体又は前記プローブを移動可能である光干渉断層撮影システムを提供する。
好ましい態様において、前記ステージは、前記被検体の縁において前記被検体を前記移動ステージに抑えつける透明体部材を更に有する。
好ましい態様において、前ステージは、前記被検体を保持する陰圧発生機構を備える。
好ましい態様において、前記ステージは、前記被検体を保持する静電チャック機構を備える。
好ましい態様において、前記ステージは、前記被検体を、当該被検体の縁以外の場所において、前記移動ステージの載置面に押し付けることにより前記被検体を固定する固定機構を有する。
好ましい態様において、前記断層撮影部は、前記基準位置を特定する際に前記戻り光と光干渉させる参照光を遮断する遮断機構を有する。
本発明は、他の観点において、光干渉断層撮影用のプローブから出力された被検光が、前記被検体の内部にフォーカスするように、前記プローブと当該被検体との距離を調整する調整手段と、前記被検体を載せるステージであって、前記被検体の表面と前記プローブとの距離を保ったまま前記被検体を移動可能であり、前記被検光の照射範囲には前記被検体の外側の領域が少なくとも部分的に含まれるように、前記被検体を保持する移動ステージとを有する光学ステージを提供する。
本発明は、さらに他の観点において、コンピュータに、光干渉断層撮影用のプローブから出力された被検光が、前記被検体の内部にフォーカスするように、前記プローブと前記被検体との距離を調整するステップと、前記被検体の内側の領域および外側の領域へ前記被検光を照射してそれぞれ戻り光を受光することにより、前記被検体の縁上の位置を基準位置として決定するステップと、前記基準位置に基づいて決定された前記被検体の複数の測定位置へ前記被検光を照射することにより、各測定位置において前記被検体からの戻り光との干渉信号に基づく信号を取得するステップとを実行させるためのプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、サンプルにおける、OCTの計測対象となっている位置が正確に特定される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2C】静電チャックユニット210の平面図及び断面図。
【
図4】光干渉断層撮影システム10の機能ブロック図。
【
図5】光干渉断層撮影システム10の動作例を示す図。
【
図7】(a)は基準位置の決定を説明するための図であり、(b)は基準位置を決定するために用いる反射光強度を示す図。
【
図8】(a)、(b)、(c)は、それぞれ陰圧発生ユニット220の平面図、断面図、組み立て側面図。
【
図9】(a)、(b)、(c)は、それぞれ抑えつけ部材240の平面図、断面図、組み立て側面図。
【
図10】(a)、(b)、(c)は、それぞれ透明枠体230の平面図、断面図、組み立て側面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<実施例>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の符号を付して説明を省略する。
【0009】
図1は光干渉断層撮影システム10の概要を示す。光干渉断層撮影システム10は、プローブユニット130と撮影ユニット140と複合ステージ150とコンピュータユニット190とを含む。
【0010】
撮影ユニット140はプローブユニット130と接続され、コンピュータユニット190の制御の下、被検光を生成してプローブユニット130に出力するとともにプローブユニット130にて受光した照射対象物(被検体)からの戻り光を受信して、光干渉効果に基づく被検体の内部構造を表す信号を生成する。撮影ユニット140は、広帯域光源102と光ファイバ103と光カプラ104と光ファイバ105と回折格子114とセンサ115とコリメータレンズ112とレトロリフレクタ113とシャッタ116を含む。シャッタ116を除き、撮影ユニット140は一般的なOCT計測装置と同様の機能を有する。シャッタ116は、手動でもしくはコンピュータユニット190の制御の下で開閉し、参照光を透過/遮断する。参照光を透過する場合は、通常のOCT計測と同様の光学配置となる。参照光を透過する場合は、光干渉が起きず、プローブユニット130からの戻り光のみがセンサ115にて検出され、その信号がコンピュータユニット190に供給されることになる。
【0011】
プローブユニット130は、コンピュータユニット190の制御の下、測定対象であるサンプル110(被検体)に被検光(以下、プローブ光という)を照射するとともに、当該被検体からの戻り光を受光する。プローブユニット130は、コリメータレンズ107とスキャンミラー108とスキャンレンズ109とを含む。図中のスキャンミラー108は1つであるが2つ以上のスキャンミラーを用いても良い。プローブユニット130は一般的なOCT計測装置のプローブと同様の機能を有する。
【0012】
広帯域光源102より出射された広帯域光は、光ファイバ103を通り光カプラ104に入射される。光カプラ104は、光ファイバ105および光ファイバ106へ入射光を分岐する。光ファイバ105から出射された光は、プローブユニット130内のコリメータレンズ107に導かれる。コリメータレンズ107を透過した光はスキャンミラー108で反射された後スキャンレンズ109を透過してサンプル110内部で略集光される。ここで、略集光とは空気中もしくは水中の光束の径w0が最小値となる状態のことである。スキャンミラー108は光軸OAの方向を変えることによりサンプル110内部で略集光される位置をXY平面内でスキャンする(Bスキャン)。
【0013】
サンプル110内部における光の屈折率差により反射した光は再びスキャンレンズ109を透過しスキャンミラー108で反射されコリメータレンズ107を透過して光ファイバ105に入射する。一方、光カプラ104から光ファイバ106側に進んだ光は、コリメータレンズ112を透過しレトロリフレクタ113によって反射し、再びコリメータレンズ112を透過して光ファイバ106に入射する。サンプル110からの戻り光とレトロリフレクタ113からの戻り光は干渉し、干渉光は回折格子114によって波長毎に分離されセンサ115によって波長毎に電気信号に変換され、その電気信号はコンピュータユニット190に送られる。これにより、サンプル110のある位置を基準とするXY平面上の所定の照射範囲についての情報が得られることになる。そして、サンプル110を保持する複合ステージ150をXY平面内において動かすことで、サンプル110の照射範囲を逐次変えて(換言すると、プローブユニット130をXY平面上で走査して)測定を繰り返すことで、サンプル110全体の内部構造の情報が取得されることになる。
【0014】
サンプル110は、例えば板状またはシート状である。そのサイズは、例えば数十cm×数十cmで厚みは~1cm程度であるが、サンプル110のサイズ、厚み、形状(輪郭)は任意である。サンプル110は、少なくともプローブ光に対して所定値以上の光透過性を有していれば、その物性は問わず、フィルム、膜状、その他、少なくともプローブ光が照射される面を有する実質的な三次元形状である物体であればよい。例えば、偏光フィルム、樹脂フィルム、シリコンフィルム、ゲル、ガラス、生体、食品用フィルム、プラスチックフィルム、生分解性フィルム、フッ素樹脂、セラミック、である。なお、サンプル110の表面は、平たんである必要はなく、凹凸があってもよいし、曲面で構成されていてもよい。
また、以下の図において表されるサンプル110の厚みやサイズその他の縮尺は、説明の便宜上採用しているものであって、必ずしも実際のものを表しているとはかぎらない。
【0015】
複合ステージ150は、サンプル110を固定するとともに、プローブユニット130との相対位置を調整する機構である。複合ステージ150は、サンプル110の表面がプローブユニット130の走査面と略水平(XY面)になるように設置される。
【0016】
以下、複合ステージ150について詳説する。
図2Aは複合ステージ150の斜視図、
図2Bは複合ステージ150の側面図である。複合ステージ150は、Zステージ119とXYステージ118と含む。XYステージ118の上には静電チャックユニット210が設けられている。
図2Cは静電チャックユニット210の平面図および断面図、静電チャックユニット210は、XYステージ118上にサンプル110に保持する保持手段の一例である。
【0017】
図2Cに示すように、静電チャックユニット210は、その内部に電極211が複数設けられたものであり、電極211とサンプル110との間に発生させたクーロン力を用いることによってサンプル110を均一に保持する。これにより、XYステージ118が移動してもサンプル110が確実にXYステージ118に保持されるとともに、サンプル110の厚みが小さい場合であってもその表面に皺がよったり波打ったりすることが抑制される。この結果、プローブユニット130とサンプル110(内の測定対象領域)との距離が一定に保たれる。
【0018】
Zステージ119は、プローブユニット130から出力された被検光が被検体の内部にフォーカスするように、プローブとサンプル110(内の照射対象領域)との距離を調整する。Zステージ119は、プローブユニット130を固定する梁131と、図示せぬレール機構等を備え、梁131を垂直方向上下(Z方向)に移動させる支柱132とを含む。Zステージ119は、マイクロネジを備え、ユーザが手動で動かしてもよいし、ステッピングモータ(図示せず)とコンピュータユニット190との通信インタフェースを備え、コンピュータユニット190から信号を供給することで自動的に動かしてもよい。
【0019】
より正確には、プローブユニット130(より正確にはスキャンレンズ109)とサンプル110内部の測定対象領域との相対的位置を調整することで、プローブ光の略集光された位置をサンプル110の内部の領域においてZ軸方向に調整する。これにより、様々なサンプル110の厚みに対応することができる。ここで、
図3に示すように、Zステージ119は、少なくとも計測対象領域(サンプル110の厚み方向全体であってもよいし、厚み方向のうちの一部領域であってもよい)がDOF(Depth of Focus)領域内に入るように、プローブユニット130と光干渉断層撮影システム10とのZ軸方向の距離Dを調整することができるようになっている。
【0020】
ここで、DOFとは、サンプル110の内部情報を計測する際に重要な指標のひとつであり、またはとして定義される。サンプル110のZ軸方向のDOF領域内において、サンプル110内部に存在し光の屈折率差を有する界面を含む計測対象領域を最適に計測する事が可能である。特に液浸レンズに代表される高NA(Numerical Aperture)のスキャンレンズ109を用いる場合DOFは小さくなるため、DOF領域内にサンプル110を調整することは重要である。
【0021】
XYステージ118は、サンプル110とプローブユニット130との距離を保ったままサンプル110を移動可能であり、且つプローブ光の照射範囲にサンプル110の外側の領域が少なくとも部分的に含まれるように、サンプル110を保持する。ここで、距離を保つとは、厳密に距離が一定である必要はなく、要するに、XYステージ118を動かしても、少なくとも測定対象領域がDOFに入っている状態が維持されていればよい。具体的には、ステッピングモータなどのモータを備え、コンピュータユニット190の制御の下でXY方向のそれぞれの移動量を変える2軸の移動ステージである。なお、静電チャックユニット210の表面は、プローブ光の散乱による影響等を軽減するため、サンプル110よりも反射率が低い素材で形成されている。具体的には、合成樹脂や顔料を含む黒色塗料が塗布されている。さらに、静電チャックユニット210の表面構造は、メソポーラス構造やカーボンナノチューブ、ミクロンオーダの突起構造を含む構造体であっても良い。
【0022】
図4はコンピュータユニット190の機能ブロック図である。コンピュータユニット190は、入力装置、プロセッサ、表示装置を有する例えば汎用のパーソナルコンピュータであって、位置決定部191と干渉信号処理部192とプローブ制御部193とXYステージ制御部194とZステージ制御部195と記憶部199を含む。コンピュータユニット190は、撮影ユニット140、プローブユニット130、および複合ステージ150を制御する。
【0023】
干渉信号処理部192は、センサ115からの信号を受け取って解析することにより、サンプル110の内部構造を表す情報を出力する。具体的には、センサ115より受信した信号を逆フーリエ変換し、各測定ポイントのXY座標における深さ方向の情報(Aスキャンデータ)を計算する。そして、得られた複数のAスキャンデータをつなぎ合わせることにより、サンプル110全体の内部構造を表す3次元データを生成する。生成した3次元データに基づいて、例えばサンプル110の任意の位置の断面の構造を可視化した画像データを生成することが可能である。
【0024】
プローブ制御部193は、スキャンミラー108の光軸OAの方向を変えることにより、サンプル110内部で略集光される位置をXY平面内でスキャンする(Bスキャン)を行う。なお、サンプル110表面からの反射光が強い場合、Aスキャンデータにノイズとして影響を及ぼす場合がある。この場合、サンプル110表面からの直接反射光を低減するために、プローブ制御部193は、サンプル110上のXY平面での各計測位置における光軸OAとサンプル110の表面の法線との成す角度を傾けるように調整してもよい。その角度は例えば5度以上30度以下である。また傾ける方向は、プローブユニット130が光軸OAを移動させながら計測する方向と垂直方向に傾けるように調整されている。この方向とすることで光軸OAを移動させることによって生じる非点収差の影響を低減することができる。
【0025】
XYステージ制御部194は、サンプル110の平面内のどの位置に対してプローブ光を照射するか(換言すると、どのような態様の走査を行うか)を所定のアルゴリズムに従って決定し、決定した各位置で順次計測ができるように、XYステージ118を移動させるための制御信号をXYステージ118へ供給する。
【0026】
Zステージ制御部195は、Zステージ119に制御信号を供給することよって梁131のZ方向の移動量を調整する。ここで、サンプル110のXY平面内の位置によって120のZ軸方向の位置が異なる場合(例えばサンプル110の表面に凹凸がある場合や、サンプル110が複数の素材の複合体(例えば積層構造体)であって測定対象とする素材のZ方向の位置が一様でないような場合)は、Zステージ119は、計測するXY面の位置の計測対象領域が存在する深さ(Z軸方向の位置)に応じて、Z方向の移動量を調整してもよい。具体的には、Zステージ制御部195は、プローブユニット130の走査中、取得した干渉信号に基づいて計測対象領域にずれかないかを監視し、ずれがあると判定した場合は、Zステージ119に対してZ方向の移動量を調整する信号を出力してもよい。具体的には、光干渉信号の自己相関に起因する輝度が最大値となるプローブユニット130とサンプル110とのZ軸方向の距離よりもその距離があらかじめ決められた量だけ短くなるように調整する。一般的に、逆フーリエ変換処理した深さ方向の情報(Aスキャンデータ)において自己相関起因の輝度が最大値となるのはサンプル110の最表面であり、最も光屈折率差が大きい界面である。そのサンプル110最表面よりサンプル110の内部方向にDOFが位置するように、予め決められたZ軸方向距離分だけ調整する。
【0027】
計測対象領域の深さ方向の分布が予め把握できる場合は、計測対象領域の深さを示す情報をコンピュータユニット190に入力しておき、当該情報に基づいてコンピュータユニット190が制御信号をZステージ119に出力してもよい。なお、Zステージ制御部195の機能は省略してもよい。この場合、ユーザが例えば干渉信号を確認しながら、マイクロネジを操作してZ方向の位置を手動で調整することになる。
【0028】
位置決定部191は、プローブユニット130が受信した戻り光に基づいて、サンプル110の平面内の基準位置を特定する。
具体的には、位置決定部191はシャッタ116の開閉を制御して、通常の測定および基準位置の決定を切り替える。参照光と戻り光との干渉信号を生成する場合はシャッタ116を開ける一方、基準位置を決定する際はシャッタ116を閉じる。シャッタ116を閉じた状態では、プローブ光を受光した対象(サンプル110上の領域、サンプル110が存在しない保持部材上の領域、サンプル110と保持部材の境界付近で両方を含む領域)からの戻り光(反射光)が、光ファイバ105および光カプラ104を介してセンサ115で受光され、当該領域の反射光の強度を計測する。基準位置の特定方法の詳細については後述する。
【0029】
記憶部199は、半導体メモリやハードディスク等の記憶装置であって、位置決定部191と干渉信号処理部192によって生成されたサンプル110の内部構造を示す情報を記憶するほか、位置決定部191、プローブ制御部193、XYステージ制御部194、Zステージ制御部195を制御するためのプログラムを記憶する。
【0030】
図5は光干渉断層撮影システム10の動作例を示す。ユーザがXYステージ118にサンプル110を載せて計測の準備を終えると、まずコンピュータユニット190によってまたはユーザが手動で、プローブユニット130のZ方向の位置を調整する(S301)続いて、コンピュータユニット190は、サンプル110におけるXY面上の基準点を決定する(S302)。続いて、コンピュータユニット190はサンプル110上における測定ポイントを設定(S303)する。そして、コンピュータユニット190は各測定ポイントにおけるOCT測定を実行する(S304)。最後に、コンピュータユニット190は、計測したデータに基づいてサンプル110内部全体の3次元画像データを生成する(S305)。
【0031】
図6は、
図5のS304におけるプローブ光の走査の例を説明するための図である。ここでは、サンプル110は、頂点C1~C4と縁(辺)Eを有する矩形のシート部材であるとする。この例では、基準位置として、頂点C1~C4の位置座標、および縁E上の任意の位置座標のうち少なくともいずれかが特定される。好ましくは、矩形状であることが予め分かっている場合、頂点C1~C4の全ての位置が特定される。少なくとも頂点C1~C4のうち2つの位置が特定されることが好ましい。一つの頂点しか特定されない場合、サンプル110の向きが判定できない可能性があるからである。こうして特定された基準位置に基づいて、各計測ポイントが決定される。
図6において、P1、P2、P3などは決定された計測ポイントを基準とした矩形領域であって、プローブ光のスキャンミラー108による計測領域を示している。同図の例では、プローブユニット130をサンプル110の左上から右下へ向かって走査する。なお、測定ポイント間の間隔は任意であり、例えば隣り合う照射領域が重なっていてもよいし、離れていていもよい。また、スキャンミラー108による計測領域の形状は一例であって、例えば円や六角形など多角形であってもよい。
【0032】
図7を用いて基準位置の決定方法を説明する。同図(a)はC1付近の拡大図である。ユーザはサンプル110をXYステージ118に載せる際に、サンプル110のC1位置を、保持機構上にあらかじめ決められたCTを中心とする予め定められた領域RE(この例では円)に配置する。CTを中心に、サンプル110の基準位置となる辺や頂点を探索する。具体的には、所定のアルゴリズムに従って、CTから所定の距離にある領域RE内を所定の方向に走査するようにXYステージ118を動かし、複数の測定ポイントにて反射光の強度を測定する。この結果、例えば、ラインT1に沿って走査した場合、同図(b)に示す縁からの距離と規格化された反射光強度の関係が得られる。規格化された反射光強度が急激に増加している位置が、サンプル110の境界(同
図E1)であると推定される。こうしてE1の位置(X座標、Y座標)が決定される。
【0033】
同様に、例えばラインT2に沿って走査して反射光の強度を測定すると、縁上の点E2が特定され、例えばラインT3に沿って走査して得られた反射光の強度から他の辺の縁上E3が特定される。こうして推定された縁上の複数の点から頂点C1の座標(x0、y0)を計算する。同様にして、サンプル110の他のいずれか一つ以上の頂点の位置座標を決定する。こうして保持部材に載せられているサンプル110の正確な位置(および向き)が特定される。そして、縁上の位置(頂点であってもよい)を基準位置として、測定開始ポイント(例えば
図6のP1)を設定する。この例では頂点から所定の位置にある場所を最初の測定ポイントと決定している。
【0034】
上記実施例によれば、板状またはシート状のサンプル全体の内部構造の物性をOCT測定する際に、プローブ光を用いてサンプルの縁(エッジ)の位置を特定できるので、各測定ポイントの位置を正確に決定することができる。測定ポイントの決定は戻り光に基づいて行うので、OCT測定機構とは別途位置測定のための機構を設けるといった必要がない。また、XYステージ118の最小移動量を考えなければ、照射範囲が3μm程度であれば、3μm程度またはそれ以下の精度で測定ポイントを決定することができる。
【0035】
<他の変形例>
静電チャックユニット210に替えてあるいは加えて、
図8に示すように、負圧によってサンプル110をXYステージ118に保持してもよい。
図8の(a)、(b)、(c)は、それぞれ陰圧発生ユニット220の平面図および断面図、XYステージ118と組み合わされた全体の側面図を示す。陰圧発生ユニット220は、サンプル110と接触する面にXY方向に溝221が格子状に形成されている。221は流路222に接続された、この先に接続された真空ポンプ(図示せず)によって、溝内の気圧が大気圧よりも負圧となっている。これにより、サンプル110がXYステージ118に確実に保持されるとともに、サンプル110に作用する下向きZ方向の力が略均一となる。
【0036】
あるいは、XYステージ118はサンプル110内部にかかる応力が略一定になるように、XY平面内で略均一に押圧力を作用させる機構を具備していても良い。例えば、
図9に示すように、抑えつけ部材240は、サンプル110上において計測しない水平面上の位置においてサンプル110をXYステージ118へ保持する格子状の構造体をサンプル110上に配置し、重力によりXYステージ118へ押し付ける。
【0037】
あるいは、
図10に示すように、サンプル110の縁の全部または一部を覆う幅がW1の透明枠体230を、サンプル110の上から被せることにより、サンプル110をXYステージ118へ押さえつけてもよい。よって、透明枠体230はある程度重量があることが好ましい。透明枠体230は、クランプ機構(図示せず)を用いてXYステージ118への押圧力を高めてもよい。このように、サンプル110をXYステージ118と透明枠体230との間に挟み込むことで固定することにより、例えばサンプル110が薄いもしくは軽いフィルム状等の素材であっても、その縁が捲れたり位置がずれたりすることが抑制されるので、基準位置の決定や縁付近での正確な計測が担保される。なお、抑えつけ部材240は、静電チャックユニット210、陰圧発生ユニット220、透明枠体230の少なくともいずれかと組み合わせて用いてもよい。
【0038】
XYステージ118は、サンプル110内部にかかる応力が略一定になるようにXY平面内で略均一に力をかける陽圧発生機構を具備していても良い。陽圧発生機構は、例えば、プローブユニット130の下部から水や空気その他の流体をサンプル110に当てることで、サンプル110に対してZ軸マイナス方向に力を作用させるものである。要するに、サンプル110をXYステージ118に固定させる手段であればどのようなものでも構わない。
【0039】
<変形例>
サンプル110の物性やXYステージ118の表面素材によっては両者の位置がずれないことが事実上担保されている場合は、静電チャックユニット210その他の保持手段を省略し、XYステージ118に直接サンプル110に載せてもよい。
【0040】
基準位置の決定は、反射光の強度でなく、参照光と戻り光との干渉信号に基づいて行ってもよい。反射光の強度と同様、サンプル110内の領域とそうでない領域とでは干渉信号に大きなギャップが現れるからである。この場合、シャッタ116を省略できる。
【0041】
全ての測定ポイントを初めに基準位置に基づいて決定するのではなく、逐次補正してもよい。例えば
図6において、一ライン(換言すると一回のY方向の走査)ごとにサンプル110の左右端を判定し、判定した端部を基準位置として、当該走査に係る各測定ポイントの位置を決定し、必要に応じて補正する。これによれば、例えばサンプルが矩形でない場合あるいはXYステージ118の精度(各移動量)が十分でない場合でも、測定ポイントの位置をより正確に決定することができる。
【0042】
広帯域光源102のかわりに波長掃引型光源を、回折格子114とセンサ115のかわりにフォトダイオードを、それぞれ用いることで干渉信号を得ても良い。本発明は、周波数ドメインOCT(SS-OCT、SD-OCT)や時間ドメインOCT(TD-OCT)といった方式を問わず適用可能である。
【0043】
シャッタ116を設ける場所は、コリメータレンズ112とレトロリフレクタ113の間であってもよいし、106内の任意の位置でもよい。
【0044】
上記実施例では、XY方向については、プローブユニット130を固定しサンプル110を動かしてたが、プローブユニット130を動かしサンプル110を固定してもよい。具体的には、Zステージ119に替えて、XYZの3軸のステージを設けるとともに、可動するXYステージ118に替えて固定ステージを設ける。あるいは、プローブユニット130とサンプル110の両方を動かしてもよい。要するに、プローブユニット130とサンプル110とが相対的に移動することで、サンプル110の平面内の全ての領域に亘ってプローブユニット130が走査することができればよい。
【0045】
要するに、本発明に係る光干渉断層撮影システムにおいては、板状またはシート状の被検体に被検光を照射するとともに、当該被検体からの戻り光を受光するプローブと、
前記プローブに接続され、前記被検光を生成して前記プローブに出力するとともに前記プローブからの戻り光を受信して光干渉効果に基づく前記被検体の内部構造を表す信号を生成する断層撮影部と、前記プローブから出力された被検光が被検体の内部にフォーカスするように、前記プローブと前記被検体との距離を調整する調整手段と、前記被検体を載せるステージと、前記戻り光に基づいて、前記被検体の平面内の基準位置を特定する位置特定部とを備え、前記被検体の表面と前記プローブとの距離を保ったまま、前記被検光の照射範囲に前記被検体の外側の領域が少なくとも部分的に含まれるように前記被検体および前記プローブの少なくともいずれか一方が移動可能に保持されればよい。
【符号の説明】
【0046】
10・・・光干渉断層撮影システム、190・・・コンピュータユニット、150・・・複合ステージ、130・・・プローブユニット、140・・・撮影ユニット、191・・・位置決定部、192・・・干渉信号処理部、193・・・プローブ制御部、194・・・XYステージ制御部、195・・・Zステージ制御部、199・・・記憶部、131・・・梁、132・・・支柱、118・・・XYステージ、119・・・Zステージ、113・・・レトロリフレクタ、112・・・コリメータレンズ、116・・・シャッタ、108・・・スキャンミラー、107・・・コリメータレンズ、109・・・スキャンレンズ、110・・・サンプル、103・・・光ファイバ、104・・・光カプラ、105・・・光ファイバ、106・・・光ファイバ、102・・・広帯域光源、114・・・回折格子、115・・・センサ、211・・・電極、210・・・静電チャックユニット、220・・・陰圧発生ユニット、240・・・抑えつけ部材、230・・・透明枠体