IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社松井三郎環境設計事務所の特許一覧

<>
  • 特許-有用物の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】有用物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20220905BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20220905BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20220905BHJP
   C05F 17/80 20200101ALI20220905BHJP
   C05B 13/06 20060101ALI20220905BHJP
   C02F 11/10 20060101ALI20220905BHJP
   B09B 101/25 20220101ALN20220905BHJP
【FI】
B09B3/40
B09B3/70
C09K3/00 S ZAB
C05F17/80
C05B13/06
C02F11/10 Z
B09B101:25
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021122896
(22)【出願日】2021-07-28
【審査請求日】2022-06-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518171650
【氏名又は名称】株式会社松井三郎環境設計事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【弁理士】
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】松井 三郎
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-308322(JP,A)
【文献】国際公開第2013/150660(WO,A1)
【文献】特開2021-73090(JP,A)
【文献】特開2002-320952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B
C09K 3/00
C05F 17/80
C05B 13/06
C02F 11/10
C10B 53/00
C05F 9/00-15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類が混在する有機性廃棄物を処理して、炭化物を含有する有用物を製造する有用物の製造方法であって、
前記重金属類が混在する有機性廃棄物に、該混在する重金属類をトバモライト結晶内に封じ込めるのに充分な量のトバモライト原料であるCa成分原料およびSiO成分原料を添加するトバモライト原料添加工程、
このトバモライト原料が添加された有機性廃棄物を、乾式炭化処理して、前記有機性廃棄物を炭化し炭化物を形成する炭化物形成工程、
この炭化物形成工程で形成された炭化物と前記トバモライト原料とを、前工程での高温状態を維持したままで、反応容器内に投入し、水の存在下で撹拌しつつ徐冷し、前記有機性廃棄物中に混在していた重金属類を封じ込めたトバモライト結晶鉱物を形成して、炭化物とトバモライト結晶鉱物が分散したスラリーを形成する重金属類封じ込め工程、および
前工程で形成されたスラリーを乾燥または脱水して、前記トバモライト結晶鉱物が混在した炭化物を含有する有用物を製造する有用物製造工程
を備えていることを特徴とする有用物の製造方法。
【請求項2】
重金属類が混在する有機性廃棄物を処理して、炭化物を含有する有用物を製造する有用物の製造方法であって、
重金属類が混在する有機性廃棄物、乾式炭化処理して、前記有機性廃棄物を炭化し炭化物を形成する炭化物形成工程、
この炭化物形成工程で形成された炭化物と前記重金属類とを、前工程での高温状態を維持したままで、反応容器内に投入するとともに、前記混在する重金属類をトバモライト結晶内に封じ込めるのに充分な量のトバモライト原料であるCa成分原料およびSiO成分原料を添加し、これらを、水の存在下で撹拌しつつ徐冷し、前記有機性廃棄物中に混在していた重金属類を封じ込めたトバモライト結晶鉱物を形成して、炭化物とトバモライト結晶鉱物が分散したスラリーを形成する重金属類封じ込め工程、および
前工程で形成されたスラリーを乾燥または脱水して、前記トバモライト結晶鉱物が混在した炭化物を含有する有用物を製造する有用物製造工程
を備えていることを特徴とする有用物の製造方法。
【請求項3】
前記有機性廃棄物がリンを含有するものである場合、前記有用物中に、リン酸カルシウムを含有する請求項1または2の有用物の製造方法。
【請求項4】
前記重金属類が、クロム、鉛、カドミウム、砒素、水銀、亜鉛、銅、ニッケルから選択される少なくとも1つである請求項1~3のいずれかの有用物の製造方法。
【請求項5】
重金属類が混在する有機性廃棄物中に予め含まれるCa成分の含有量(A-1)およびSiO成分の含有量(A-2)を分析して求め、かつ処理中に少なくとも前記重金属類を5CaO・6SiO・5HO結晶(トバモライト)構造中に封じ込めるための5CaO・6SiO・5HO結晶(トバモライト)が形成されるのに十分な量のCa成分(B-1)およびSiO成分の量(B-2)を算出し、下記の式(1)および式(2)により、用いるCa成分原料の必要量(C-1)およびSiO成分原料の必要量(C-2)を求め、これらの必要量(C-1)のCa成分原料および必要量(C-2)のSiO成分原料を用いて前記処理を行う請求項1~4のいずれかの有用物の製造方法。
[(B-1)-(A-1)]=(C-1) ・・・式(1)
[(B-2)-(A-2)]=(C-2) ・・・式(2)
【請求項6】
前記重金属類が、前記処理によって得られた有用物中の5CaO・6SiO・5HO結晶(トバモライト)構造中に封じ込められているので、この有用物は、土壌環境基準および/または特殊肥料基準を満足させるものである請求項1~5のいずれかの有用物の製造方法。
【請求項7】
前記炭化物形成工程中に、有機性廃棄物を撹拌する請求項1~6のいずれかの有用物の製造方法。
【請求項8】
前記乾式炭化物処理をロータリーキルン式の処理装置で行う請求項1~7のいずれかの有用物の製造方法。
【請求項9】
前記乾式炭化処理における加熱温度が、5~600℃である請求項1~8のいずれかの有用物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有用物の製造方法に関し、特に、重金属類を含む有機性廃棄物を処理して、炭化固形物を含有する有用物(例えば、肥料、土壌改良剤等)を製造する有用物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物、例えば、食品産業廃棄物からなる有機性汚泥には、リン(リン化合物)や窒素などの窒素族元素が多く含まれていることはよく知られている。しかも、活性汚泥法により処理した場合には、汚泥中のこれらの成分は一層多くなることも知られている。
【0003】
有機性汚泥に含有する窒素族元素を有効に活用するものとしては、食品工場から出る食物残渣や製紙工場から出るペーパースラッジ等の有機物残渣を、ほぼ密閉された焼却炉で該炉内に充満された完全燃焼ガスで炭化してこの炭化物を土壌改良材として利用する方法(特開平10-330745)などが知られている。
【0004】
又は、窒素成分を含有する有機性汚泥と、吸湿性を有するリン化合物とを混合して乾燥してこれを肥料として利用する方法などが知られている。
【0005】
このように、有機性汚泥に含有するリン、リン化合物、窒素などの農産物育成に必要な成分を活用して有機性汚泥を土壌改良材又は肥料の原料として利用することは提案されているが、実際には、出発原料の汚泥には種々の資質のものがあり有益な物質を多量に含む反面、有害物質(重金属など)を含む場合もある。従って、利用するためにはJIS K0102に定めてある溶出試験により定められた有害物質が一定量以下であることを確認する必要があることや、出発原料が、下水汚泥の場合には、これを再生して得た資源を肥料として再利用することには少なからず抵抗があり、積極的に受け入れられていないのが実状である。
【0006】
この点、食品残渣を各家庭でコンポストにして肥料として再利用することには抵抗がなく一般に行われるようになってきている。
【0007】
即ち、出発原料の資質が受け入れられるものであれば再利用が容易に行われる傾向にある現状を認識する必要がある。
【0008】
このような現状把握に基づいて、特に、リン、リン化合物を多量に含有する活性汚泥法により処理された重金属を含まない有機性汚泥を、乾燥、炭化又は灰化処理することで、リン、リン化合物を多量に含む処理物を得、これを土壌改良材、肥料として再利用できる処理方法及び処理施設を提供することを目的として、特開2002-1395号では、次のような構成の有機性汚泥の処理方法等が提案されている。
【0009】
すなわち、この公開公報で提案された有機性汚泥の処理方法は、活性汚泥法により処理された重金属を含まない汚泥を加熱処理してリン又はリン化合物を含む乾燥、炭化又は灰化された処理物を得るようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
以上のように上記公開公報に記載された技術は、有機性汚泥の処理技術に関するものであり、特に、有機性汚泥を処理して土壌改良剤、肥料として再利用できるようにする技術であるが、段落[0014]で、汚泥が重金属を含むものである場合は、その中の重金属を除去し、重金属を含まない状態として熱処理をする旨記載されている。
しかしながら、上記公開公報には、有機性廃棄物(汚泥)から重金属を除去する具体的技術が一切記載されていない。
【0011】
一方、特開2004-250284号公報では、重金属の除去を確実、かつ効率よく行って、再利用製品である液体肥料の低価格化および品質の一定化を課題とし、この課題を解決する重金属を含む有機性廃棄物からの液体肥料製造方法の提供を目的とし、次のような発明が提案されている。
【0012】
具体的には、上記特開2004-250284号公報で提案された技術的手段は、有機性廃棄物と植物系資材を混合攪拌するとともに、高温・高圧により蒸煮して、液体肥料を構成する液状体と植物系資材由来の未分解固形炭化物に分離しながら、有機性廃棄物に含まれる重金属を前記未分解固形炭化物に吸着除去させて製造することを特徴とするものである。
【0013】
ところで、前記重金属の炭化物への吸着固定は、金属単体の状態で行われるのではなく、硫化金属、酸化金属の状態で行われる。したがって、上記公報に記載された重金属の除去方法では、液体肥料中に、少なくとも砒素が残留してしまう。
【0014】
一方、重金属を吸着した炭化物に目を向けると、この炭化物は、肥料や土壌改良剤としては用いることができない。
それは、経年により、あるいは強酸の作用により、吸着されている重金属が溶出する可能性があるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平10-2482号公報
【文献】特開2002-1395号公報
【文献】特開2004-250284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで本発明は、重金属を含む有機性廃棄物を、重金属を無害化しつつ、有機物を炭化し、無害な、肥料や土壌改良剤等である有用物を製造する有用物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題は、下記(1)~(9)の構成の有用物の製造方法により達成される。
(1)
重金属類が混在する有機性廃棄物を処理して、炭化物を含有する有用物を製造する有用物の製造方法であって、
前記重金属類が混在する有機性廃棄物に、該混在する重金属類をトバモライト結晶内に封じ込めるのに充分な量のトバモライト原料であるCa成分原料およびSiO成分原料を添加するトバモライト原料添加工程、
このトバモライト原料が添加された有機性廃棄物を、乾式炭化処理して、前記有機性廃棄物を炭化し炭化物を形成する炭化物形成工程、
この炭化物形成工程で形成された炭化物と前記トバモライト原料とを、前工程での高温状態を維持したままで、反応容器内に投入し、水の存在下で撹拌しつつ徐冷し、前記有機性廃棄物中に混在していた重金属類を封じ込めたトバモライト結晶鉱物を形成して、炭化物とトバモライト結晶鉱物が分散したスラリーを形成する重金属類封じ込め工程、および
前工程で形成されたスラリーを乾燥または脱水して、前記トバモライト結晶鉱物が混在した炭化物を含有する有用物を製造する有用物製造工程
を備えていることを特徴とする有用物の製造方法。
(2)
重金属類が混在する有機性廃棄物を処理して、炭化物を含有する有用物を製造する有用物の製造方法であって、
重金属類が混在する有機性廃棄物、乾式炭化処理して、前記有機性廃棄物を炭化し炭化物を形成する炭化物形成工程、
この炭化物形成工程で形成された炭化物と前記重金属類とを、前工程での高温状態を維持したままで、反応容器内に投入するとともに、前記混在する重金属類をトバモライト結晶内に封じ込めるのに充分な量のトバモライト原料であるCa成分原料およびSiO成分原料を添加し、これらを、水の存在下で撹拌しつつ徐冷し、前記有機性廃棄物中に混在していた重金属類を封じ込めたトバモライト結晶鉱物を形成して、炭化物とトバモライト結晶鉱物が分散したスラリーを形成する重金属類封じ込め工程、および
前工程で形成されたスラリーを乾燥または脱水して、前記トバモライト結晶鉱物が混在した炭化物を含有する有用物を製造する有用物製造工程
を備えていることを特徴とする有用物の製造方法。
(3)
前記有機性廃棄物がリンを含有するものである場合、前記有用物中に、リン酸カルシウムを含有する前記(1)または(2)の有用物の製造方法。
(4)
前記重金属類が、クロム、鉛、カドミウム、砒素、水銀、亜鉛、銅、ニッケルから選択される少なくとも1つである前記(1)~(3)のいずれかの有用物の製造方法。
(5)
重金属類が混在する有機性廃棄物中に予め含まれるCa成分の含有量(A-1)およびSiO成分の含有量(A-2)を分析して求め、かつ処理中に少なくとも前記重金属類を5CaO・6SiO・5HO結晶(トバモライト)構造中に封じ込めるための5CaO・6SiO・5HO結晶(トバモライト)が形成されるのに十分な量のCa成分(B-1)およびSiO成分の量(B-2)を算出し、下記の式(1)および式(2)により、用いるCa成分原料の必要量(C-1)およびSiO成分原料の必要量(C-2)を求め、これらの必要量(C-1)のCa成分原料および必要量(C-2)のSiO成分原料を用いて前記処理を行う前記(1)~(4)のいずれかの有用物の製造方法。
[(B-1)-(A-1)]=(C-1) ・・・式(1)
[(B-2)-(A-2)]=(C-2) ・・・式(2)
(6)
前記重金属類が、前記処理によって得られた有用物中の5CaO・6SiO・5HO結晶(トバモライト)構造中に封じ込められているので、この有用物は、土壌環境基準および/または特殊肥料基準を満足させるものである前記(1)~(5)~5のいずれかの有用物の製造方法。
(7)
前記炭化物形成工程中に、有機性廃棄物を撹拌する前記(1)~(6)のいずれかの有用物の製造方法。
(8)
前記乾式炭化物処理をロータリーキルン式の処理装置で行う前記(1)~(7)のいずれかの有用物の製造方法。
(9)
前記乾式炭化処理における加熱温度が、5~600℃である前記(1)~(8)のいずれかの有用物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有害な重金属をトバモライトに取り込み、溶出できないようにするので、安全な肥料、土壌改良材等である有用物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明による有用物の製造方法を実施するための装置の一例を示す構成概念図である。
【発明の実施の形態】
【0020】
図1は、本発明に係る有用物の製造方法を実施するための製造装置の一実施形態を示す構成概念図である。
同図に示すように、本実施形態の有用物の製造装置10は、原料である有機性廃棄物を乾式炭化処理して、肥料や土壌改良材等となる炭化物の有用物を製造するもので、内筒12と外筒14とを備えて横置円筒状に形成されたロータリーキルン型の炭化炉本体16と、炭化炉本体16の原料取り入れ口18側に取り付けられた原料供給装置20と、炭化炉本体16の炭化物排出口22側に設けられ、移送されてきた炭化された有機性廃棄物を落下させるホッパー24と、このホッパー24からの炭化物を受ける反応容器26とを備えている。この反応容器26内には、ポンプWにより水が供給されるようになっており、受けた炭化物を撹拌・混合する撹拌部材28が設けられている。
ここで、乾式炭化とは、有機性廃棄物を炭化する時、炭化装置内に外部から熱水を提供して炭化する湿式炭化方法―例えば亜臨界水(蒸煮等)炭化方法とは異なり、有機性廃棄物自身が水分を保有していても、炭化装置外部に熱を加えたり(間接的)、或いは内部に熱風を導入して(直接的)水分を蒸発排除され乾燥した有機性廃棄物が還元雰囲気で熱分解して炭化物になる方法を指す。
【0021】
前記原料供給装置20は、有機性廃棄物である原料を一次貯留する原料投入ホッパー30と、原料投入ホッパー30内の原料を炭化炉本体16内に送り込む原料スクリューコンベア32と、この原料スクリューコンベア32を駆動する電動機34とを備えている。
【0022】
炭化炉本体16の炭化物排出口22側にはまた、原料(有機性廃棄物)の炭化処理によって発生する乾留ガスGを排出する乾留ガス排出流路40aとなる排気塔40が設けられている。
【0023】
前記原料供給装置20は、下水汚泥等である有機性廃棄物である原料を供給するための第1原料供給機50、トバモライトのCa成分原料を供給するための第2原料供給機52、およびトバモライトのSiO2成分原料を供給するための第3原料供給機54を備えており、これら3つの原料供給機は、それぞれ、必要な原料を前記原料投入ホッパー30に供給する。
【0024】
炭化炉本体16は、円筒形の回転ドラム式、すなわちロータリーキルン型のものであって、駆動電動機16aの駆動力によって回転することにより炭化物排出口22側へ炭化された原料を搬送する。なお、この搬送を促進するために、勾配を設けたり、内周面にスクリュー羽根を設けたりすることもできる。また、炭化炉本体16の内筒12と外筒14との間には加熱ヒーター56が設けられており、この加熱ヒーター56による熱によって、投入された有機性廃棄物である原料が乾燥・炭化されつつ炭化物排出口22側まで搬送され、炭化物Cとして排出されるようになっている。
ここで、炭化炉本体16として、ロータリーキルン型のものを用いたのは、炭化炉本体16の回動により、有機性廃棄物等が転動し、それらの加熱をむらなく均等に行えることと、有機性廃棄物の重金属類と前記トバモライトのCa成分原料およびSiO2成分原料を、後の処理のため、充分に撹拌混合できるからである。
【0025】
前記反応槽26の下部は、逆円錐台状になっており、底部に排出口60が設けられており、この排出口60には、開閉バルブ62が配設されている。
【0026】
前記反応容器26の下方には、貯蔵槽72が設けられており、前記開閉バルブ62が開放されたとき、反応容器26から炭化物等が分散した溶液が排出落下し、貯蔵槽72がこれを受けるようになっている。
前記貯蔵槽72の上下方向の中間部には、濾過函74が設けられており、前記反応容器26から排出落下した炭化物等分散溶液は、この濾過函74により固液分離が行われる。
これにより、前記濾過函74に炭化物、トバモライト結晶鉱物等を含有する固形分S(あるいはスラリー)が収容され、分離された液体分Lのみが濾過函74を通過して、貯蔵槽72の底部に貯蔵される。
【0027】
前記有機性廃棄物である原料を供給するための第1原料供給機50、トバモライトのCa成分原料を供給するための第2原料供給機52、およびトバモライトのSiO2成分原料を供給するための第3原料供給機54は、制御装置100が接続されており、それぞれが供給する供給物の量が制御されるようになっている。
【0028】
前記制御装置100は、後述するように、前記原料供給装置20をトータルで制御するための中央処理回路102,前記第1原料供給機50を制御するための第1原料供給機制御回路104,前記第2原料供給機52を制御するための第2原料供給機制御回路106、前記第3原料供給機54を制御するための第3原料供給機制御回路108を備えている。
【0029】
次に、前記制御装置100の前記中央処理回路102の機能について説明する。
この前記制御装置100の前記中央処理回路102は、前記重金属類が混在する、有用物である炭化物となる有機性廃棄物(原料)に、該混在する重金属類をトバモライト結晶内に封じ込めるのに充分な量のトバモライト原料であるCa成分原料およびSiO成分原料を添加するため、前記第1、第2、第3原料供給機50、52、54を制御するための第1原料供給機制御回路104,第2原料供給機制御回路106、第3原料供給機制御回路108を制御するためのものであって、下記に基づいて作動する。
【0030】
まず、有機性廃棄物中に含まれるCa成分の含有量(A-1)およびSiO成分の含有量(A-2)を分析して求めておく。また、所定量の有機性廃棄物について、処理中に前記重金属類を5CaO・6SiO・5HO結晶(トバモライト)構造中に封じ込めるための5CaO・6SiO・5HO結晶(トバモライト)が形成されるのに十分な量のCa成分(B-1)およびSiO成分の量(B-2)を算出し、下記の式(1)および式(2)により、重金属類が散在する有機性廃棄物に添加するCa成分原料の添加量(C-1)およびSiO成分原料の添加量(C-2)を求める。そして、第1原料供給機制御回路104をして前記第1原料供給機50が前記所定量の有機性廃棄物(重金属類が散在する)を前記原料投入ホッパー30に供給するように制御する。また、第2原料供給機制御回路106をして前記第2原料供給機52が添加量(C-1)のCa成分原料を前記原料投入ホッパー30に供給するように制御し、第3原料供給機制御回路108をして、前記第3原料供給機54が添加量(C-2)のSiO成分原料を前記原料投入ホッパー30に供給するように制御する。
[(B-1)-(A-1)]=(C-1) ・・・式(1)
[(B-2)-(A-2)]=(C-2) ・・・式(2)
【0031】
以上の構成において、制御装置100を作動させて、前記第1原料供給機50から、所定量の有機性廃棄物(重金属類が混在する)を、前記第2原料供給機52から、上記のようにして計算で求められた添加量のCa成分原料を、そして前記第3原料供給機54から、上記のようにして計算で求められた添加量のSiO成分原料を原料投入ホッパー30に供給する。
【0032】
このように有機性廃棄物等が原料投入ホッパー30に所定量供給されると、この有機性廃棄物等は原料スクリューコンベア32により炭化炉本体16内に供給される。炭化炉本体16は、モータ16aの駆動力を得て回転し、前方へ有機性廃棄物等を搬送する。有機性廃棄物は炭化炉本体16を移動する間に、概ね500~600℃で加熱され、徐々に乾燥・炭化されて炭化物となり、発生した乾留ガスGは排気塔40から排出される。
以上により、有機性廃棄物が炭化されてできた炭化物、重金属類、トバモライト原料は、炭化炉本体16の炭化物排出口22で上記の概ね500~600℃となっている。
なお、炭化処理する対象の有機性廃棄物が下水汚泥、生ごみ、家畜糞等でリン酸を含んでいる場合、このリン酸は、上記炭化処理中に炭化物から分離される。
【0033】
前記炭化物、重金属類、トバモライト原料、存在することがあるリン酸は、上記の温度状態で、炭化炉本体16の炭化物排出口22から排出され、ホッパー24を介して、所定量の水が予め入れられた反応容器26内に供給される。
このような状態で反応容器26内を撹拌しつつ自然冷却すれば、前記トバモライト原料は、200℃~180℃の温度過程で最も速くトバモライトの準結晶の合成が始まり、そこから更に130℃までの温度低下過程で安定なトバモライト結晶の合成反応が行われて、トバモライト結晶鉱物が形成される。
これと同時に、前記リン酸は、Ca成分原料であるCaOと反応して、リン酸カルシウムとなる。
ここで、重要なことは、前記200℃から180℃までの温度低下過程を少なくとも1時間、更に180℃から130℃までの温度低下過程を少なくとも1時間、好ましくは、2~3時間維持するようにすることである。
このような反応時間を維持するため、すなわち温度状態を維持するため、前記反応容器26には、温度センサおよび加熱手段を設けておき、好ましい温度範囲に維持するようにしてもよい。
【0034】
前記反応容器26内のトバモライト原料を前記温度状態にすることにより
、下記式(3)により廃棄物に予め含まれるCa成分や新たに添加したCa成分と廃棄物に予め含まれるSiO成分や新たに添加したSiO成分が水和反応して、安定なケイ酸カルシウム(トバモライト:5CaO・6SiO・5H2O)と称される鉱物の結晶が形成される。
【0035】
6SO+5CaO+5H2O→5CaO・6SiO・5H2O ・・・式(3)
トバモライトの結晶は、Si-O四面体層、Ca-O八面体層、Si-O四面体層が繰り返され、Si-O四面体層とSi-O四面体層の間にカルシウムイオンがインターカレートされた層状に成長する構造になっている。
【0036】
そしてこの層状結晶構造形成過程で、重金属類は前記カルシウムイオンとイオン交換反応によりカルシウムイオンを置換して層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められる。重金属類はトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められ、そのために溶出が抑制される。
【0037】
以上のようにして、反応容器26内は、前記炭化物と、重金属類を完全に取り込んだトバモライト結晶鉱物、リン酸カルシウムが分散した溶液となる。
この後、バルブ62を開放すると、前記炭化物と、重金属類を完全に取り込んだトバモライト結晶鉱物、リン酸カルシウムが分散した溶液は、排出落下し、上記したように固形分は前記濾過函74に受けられ、液体分が分離される。このように濾過函74で受けられた固形分である炭化物、重金属類を完全に取り込んだトバモライト結晶鉱物、リン酸カルシウムは、肥料や土壌改良材等(有用物)として用いることができる。
一方、上記のように分離された液体分は、更に落下して貯蔵槽72の底部に貯蔵される。この貯蔵槽72に貯められた液体分は、栄養分(窒素、カリ)を含んだ液肥として用いることができる。
【0038】
以上説明した実施の形態では、トバモライト原料の添加を、炭化物形成工程の前に行ったが、これは、トバモライト原料を有機性廃棄物とともに加熱することにより、トバモライト原料も高温状態となり、後の重金属類封じ込め工程(トバモライト結晶合成工程)を効率良く行えるようになるからである。
【0039】
前記より長い反応時間を要するが、反応容器26内に入れる水に予めトバモライト原料を溶解させておき、炭化物(重金属類を含有する)をその水の中に供給し、撹拌して合成反応を進行させてもよい。
【要約】      (修正有)
【課題】重金属類を含む有機性廃棄物を、重金属類を無害化しつつ炭化し、無害な肥料や土壌改良剤等である有用物を製造する有用物の製造方法を提供する。
【解決手段】重金属類が混在する有機性廃棄物に混在する重金属類をトバモライト結晶内に封じ込めるのに充分な量のトバモライト原料であるCa成分原料およびSiO成分原料を添加するトバモライト原料添加工程、トバモライト原料が添加された有機性廃棄物を乾式炭化処理する炭化物形成工程、炭化物とトバモライト原料とを高温状態を維持したままで、反応容器内に投入し、水の存在下で撹拌しつつ徐冷し、重金属類を封じ込めたトバモライト結晶鉱物を形成して、炭化物とトバモライト結晶鉱物が分散したスラリーを形成する重金属類封じ込め工程、および形成されたスラリーを乾燥または脱水して、トバモライト結晶鉱物が混在した炭化物を含有する有用物を製造する有用物製造工程を備えていることを特徴とする。
【選択図】図1
図1