(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】加工食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 3/34 20060101AFI20220905BHJP
A23L 7/122 20160101ALI20220905BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20220905BHJP
【FI】
A23G3/34 109
A23L7/122
A23L5/00 F
(21)【出願番号】P 2021204826
(22)【出願日】2021-12-17
【審査請求日】2022-03-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598104274
【氏名又は名称】株式会社 徳倉
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】徳倉 基宏
(72)【発明者】
【氏名】木山 晴文
(72)【発明者】
【氏名】三▲橋▼ 雅
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-057850(JP,A)
【文献】実開平06-081293(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G,A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形食品と、
前記固形食品の表面全体に付着した粉末食品と、
前記粉末食品の全体を被覆している固体油脂の膜とを備え
ており、
前記固形食品は黒糖、氷砂糖又はシリアル食品であり、
前記粉末食品は澱粉粉末、澱粉分解物粉末、粉末セルロース、粉末キサンタンガム又は米粉であることを特徴とする加工食品。
【請求項2】
請求項
1に記載の加工食品を製造する方法であって、
前記方法は、
前記固形食品の表面全体に
前記粉末食品を付着させる付着工程と、前記粉末食品の全体を液体油脂により被覆する被覆工程と、前記液体油脂を冷却して固化させる
ことにより前記固体油脂の膜を形成する固化工程とを備えることを特徴とする加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記被覆工程における前記液体油脂の温度が80℃以下であることを特徴とする請求項
2に記載の加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工食品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、可食性植物質芯材の周囲に可食性粉末を主材とする被覆層を有するスナック食品が記載されている。この文献によれば、被覆層に食用油脂を含浸させるとスナック食品の耐湿性が向上するとされている。
【0003】
しかし、被覆層に食用油脂を含浸させると、食用油脂が被覆層を通って可食性植物質芯材に浸透し、これにより可食性植物質芯材の表面が溶けたり柔らかくなったりするおそれがある。すると、スナック食品における固形食品としての食感が劣化してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記の状況に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、固形食品の食感の劣化を抑制しつつ、高い耐湿性を発揮し得る加工食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1項目に係る加工食品は、固形食品と、前記固形食品の表面全体に付着した粉末食品と、前記粉末食品の全体を被覆している固体油脂の膜とを備える。前記固形食品は、例えば、黒糖、氷砂糖又はシリアル食品である。前記粉末食品は、例えば、澱粉粉末、澱粉分解物粉末、粉末セルロース、粉末キサンタンガム又は米粉である。
【0007】
第1項目に係る加工食品によれば、固体油脂の膜が妨げとなっているため、空気中の水分が固形食品に吸収されにくい。このため、この加工食品は、高い耐湿性を発揮し得るものとなっている。また、固形食品の表面に付着した粉末食品のさらに外側に固体油脂の膜を形成する構造としたため、加工食品の製造時、保管時及び搬送時において油脂が固形食品に浸透することが抑制される。このため、固形食品の食感の劣化が抑制される。
【0008】
本発明の第2項目に係る製造方法は、前記第1項目に係る加工食品を製造する方法である。前記方法は、固形食品の表面全体に粉末食品を付着させる付着工程と、前記粉末食品の全体を液体油脂により被覆する被覆工程と、前記液体油脂を冷却して固化させる固化工程とを備える。
【0009】
第2項目に係る製造方法によれば、粉末食品の全体を液体油脂により被覆するため、粉末食品が妨げとなって固形食品に液体油脂が浸透しにくくなっている。これにより、固形食品の食感の劣化を抑制しつつ、加工食品の耐湿性を高めることができる。
【0010】
本発明の第3項目に係る製造方法では、前記被覆工程における前記液体油脂の温度が80℃以下である。
【0011】
第3項目によれば、液体油脂が粉末食品にも浸透しにくくなっている。これにより、固形食品における液体油脂の含浸を一層確実に抑制することができる。よって、固形食品の食感の劣化を一層確実に抑制しつつ、加工食品の耐湿性を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、固形食品の食感の劣化を抑制しつつ、高い耐湿性を発揮し得る加工食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る加工食品の実施例及びその比較例を示す写真である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る加工食品の実施例及びその比較例を示す写真である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る加工食品の実施例及びその比較例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の一実施形態に係る加工食品について説明する。この加工食品は、固形食品と、この固形食品の表面全体に付着した粉末食品と、この粉末食品の全体を被覆している固体油脂の膜とを備えている。
【0015】
本実施形態の固形食品としては、例えば、黒糖、氷砂糖又はシリアル食品を使用することができる。本実施形態の固体油脂としては、例えば、食用精製加工油脂を使用することができる。この固体油脂の融点は、好ましくは、加工食品の保管時及び輸送時において固体油脂が溶けない範囲にあり、例えば35℃以上、より好ましくは50℃以上である。
【0016】
本実施形態の粉末食品としては、例えば、澱粉粉末、澱粉分解物粉末、粉末セルロース、粉末キサンタンガム、または、米粉を使用することができる。これらの粉末食品の中でも澱粉分解物粉末は唾液に溶けやすい。このため、本実施形態の粉末食品として澱粉分解物粉末を使用すれば、本実施形態に係る加工食品の食感として、粉末食品の食感(粉っぽさ)が発現しにくくなるため固形食品の食感(カリカリ感)を相対的に強く発現させることができる。澱粉粉末としては、例えば、とうもろこし澱粉を使用することができる。澱粉分解物粉末としては、例えば、デキストリン粉末又は水飴粉末を使用することができる。澱粉分解物粉末の加水分解度(DE値)は、例えば、5以上30以下である。
【0017】
次に、本実施形態に係る加工食品の製造方法について説明する。この製造方法は、付着工程と被覆工程と固化工程とを備えている。
【0018】
付着工程では、固形食品の表面全体に粉末食品を付着させる。付着させる方法としては、例えば、固形食品に粉末食品を塗すか、あるいは、固形食品に粉末食品を吹き付けることが挙げられる。
【0019】
被覆工程では、付着工程において固形食品の表面全体に付着した粉末食品の全体を液体油脂により被覆する。この液体油脂の温度は80℃以下であることが好ましい。この温度が80度以下であると、80度を超えている場合に比較して、液体油脂が粉末食品を通過して固形食品に浸透するおそれを低減でき、固形食品の食感の劣化を一層確実に防止することができる。
【0020】
被覆工程の具体的な実施方法としては、例えば、固形食品の表面全体に粉末食品を付着させたもの(中間品)を液体油脂に浸すことが挙げられる。ここで、液体油脂の温度を80℃以下とした場合、この中間品の液体油脂への浸漬時間を30秒以上60秒以下とすることが好ましい。
【0021】
この浸漬時間が30秒未満であると、粉末食品の表面全体のうち液体油脂が密着していない箇所が多くなるおそれがあり、粉末食品の全体を液体油脂により十分に被覆することができないおそれが生じる。一方、この浸漬時間が60秒を超えると、液体油脂が粉末食品を通過して固形食品に浸透して固形食品の食感が劣化するおそれが生じる。しかし、この浸漬時間が30秒以上60秒以下であれば、液体油脂が粉末食品を通過して固形食品に浸透しないため固形食品の食感が劣化せず、かつ、粉末食品の全体を液体油脂により十分に被覆することができる。
【0022】
固化工程では、被覆工程において粉末食品の全体を被覆した液体油脂を冷却して固化させる。この液体油脂の固化物により、本実施形態に係る加工食品における固体油脂の膜を形成することができる。
【0023】
次に、本実施形態に係る加工食品及びその製造方法についての実施例及びその比較例について説明する。
【0024】
(実施例1Aの条件)
実施例1Aにおいては、固形食品である固形黒糖の表面全体に粉末食品として澱粉粉末であるとうもろこし澱粉(日本食品化工株式会社製の日食コーンスターチIPW:DE値=0)を付着させた。これにより得られたもの(中間品)を、60℃~80℃の液体油脂(食用精製加工油脂、具体的には太陽油脂株式会社製のRHPL)に30秒~60秒程度浸した。この際に、この液体油脂を攪拌し続けた。30秒~60秒程度経過後、この中間品を液体油脂の中から取り出して室内で放置した。すると、この中間品の表面全体に付着した液体油脂が固化した。これにより得られたもの(加工食品)を室内で24時間放置し、24時間経過後の加工食品を撮影してから試食した。なお、室内は、平均温度31.8℃であって平均湿度87%の環境であった。
【0025】
(比較例1Aの条件)
実施例1Aの固形黒糖と同じものを室内でそのまま(澱粉粉末の付着や液体油脂による被覆を行わずに)24時間放置してから撮影した。その他の条件は実施例1Aと同様である。
【0026】
(実施例1A及び比較例1Aの結果)
図1は、実施例1A及び比較例1Aにおける撮影写真である。
図1に示すように、実施例1Aの加工食品における固形黒糖は溶けなかったのに対し、比較例1Aの固形黒糖の一部は空気中の水分により溶けた。つまり、実施例1Aの加工食品は、比較例1Aの固形黒糖よりも高い耐湿性を有している。また、実施例1Aの加工食品の食感は、カリカリと歯ごたえがあるものであって良好であった。さらに、実施例1Aの加工食品の製造工程において、固形黒糖が液体油脂により溶けてしまうことはなかった。
【0027】
(実施例2A-4Aの条件)
実施例1Aにおいてとうもろこし澱粉を使用したことに代えて、実施例2A-4Aにおいては澱粉分解物粉末を使用した。澱粉分解物粉末としては、実施例2Aにおいては三和澱粉工業株式会社製のサンデック(登録商標)♯70(DE値が7のデキストリン粉末)を使用し、実施例3Aにおいては松谷化学工業株式会社製のTK-16(DE値が16のデキストリン粉末)を使用し、実施例4Aにおいては松谷化学工業株式会社製のパインオリゴ20(DE値が26の水飴粉末)を使用した。その他の条件は実施例1Aと同様である。
【0028】
(実施例2A-4Aの結果)
実施例2A-4Aそれぞれの加工食品における固形黒糖も溶けなかった。つまり、実施例2A-4Aそれぞれの加工食品も、比較例1Aの固形黒糖よりも高い耐湿性を有している。また、実施例2A-4Aの加工食品の食感も、カリカリと歯ごたえがあるものであって良好であった。さらに、実施例2A-4Aの加工食品の製造工程においても、固形黒糖が液体油脂により溶けてしまうことはなかった。
【0029】
(実施例1Bの条件)
実施例1Aにおいて固形黒糖を使用したことに代えて、実施例1Bにおいてはシリアル食品を使用した。また、実施例1Aにおいて加工食品を室内で放置した後に撮影及び試食したことに代えて、実施例1Bにおいては加工食品を牛乳に60分間浸してから試食した。このシリアル食品には、カルビー株式会社のフルグラ(登録商標)を使用した。その他の条件は実施例1Aと同様である。
【0030】
(比較例1Bの条件)
実施例1Bのシリアル食品と同じものをそのまま(澱粉粉末の付着や液体油脂による被覆を行わずに)60分間牛乳に浸してから試食した。それ以外の条件は実施例1Bと同様である。
【0031】
(実施例1B及び比較例1Bの結果)
実施例1Bの加工食品の食感は、カリカリと歯ごたえがあるものであって良好であった。一方、比較例1Bのシリアル食品の食感は、柔らかく歯ごたえがないものであって良好なものではなかった。比較例1Bにおいては、シリアル食品が牛乳に含まれる水分を吸収して柔らかくなった。つまり、実施例1Bの加工食品は、比較例1Bのシリアル食品よりも高い耐水性を有している。
【0032】
(実施例2B-4Bの条件)
実施例1Bにおいてとうもろこし澱粉を使用したことに代えて、実施例2Bにおいては実施例2Aで使用した澱粉分解物粉末を使用し、実施例3Bにおいては実施例3Aで使用した澱粉分解物粉末を使用し、実施例4Bにおいては実施例4Aで使用した澱粉分解物粉末を使用した。その他の条件は実施例1Bと同様である。
【0033】
(実施例2B-4Bの結果)
実施例2B-4Bそれぞれの加工食品の食感も、カリカリと歯ごたえがあるものであって良好であった。つまり、実施例2B-4Bそれぞれの加工食品も、比較例1Bのシリアル食品よりも高い耐水性を有している。
【0034】
(その他)
実施例1Aの加工食品(澱粉粉末を使用したもの)と実施例2A-4Aの加工食品(澱粉分解物粉末を使用したもの)とを比較すると、実施例1Aの加工食品の食感は、実施例2A-4Aの加工食品の食感に比較して、カリカリと歯ごたえがあるものであって特に良好であった。また、実施例1Bの加工食品(澱粉粉末を使用したもの)と実施例2B-4Bの加工食品(澱粉分解物粉末を使用したもの)とを比較すると、実施例1Bの加工食品の食感は、実施例2B-4Bの加工食品の食感に比較して、カリカリと歯ごたえがあるものであって特に良好であった。
【0035】
(実施例1C-3C及び比較例1Cの条件)
実施例1Aにおいて澱粉粉末を使用したことに代えて、実施例1Cにおいては粉末セルロース(バブルスター株式会社製)を使用し、実施例2Cにおいては粉末キサンタンガム(DSP五恊フード&ケミカル株式会社製)を使用し、実施例3Cにおいては米粉(共立食品株式会社製)を使用した。比較例1Cにおいては、実施例1Aの固形黒糖と同じものを室内でそのまま(粉末食品の付着や液体油脂による被覆を行わずに)24時間放置してから撮影した。さらに、実施例1C-3C及び比較例1Cにおいて、加工食品を室内で6日経過させてから再度撮影した。実施例1C-3C及び比較例1Cにおいては、加工食品を放置した室内の平均温度は30.3℃であって平均湿度は80%であった。これら以外の点に関しては、実施例1Aと実施例1C-3C及び比較例1Cとの条件は共通している。
【0036】
(実施例1C-3C及び比較例1Cの結果)
図2は、実施例1C-3C及び比較例1Cにおいて24時間経過後の加工食品を撮影した写真である。
図3は、実施例1C-3C及び比較例1Cにおいて6日経過後の加工食品を撮影した写真である。
図2及び
図3に示すように、実施例1C-3Cの加工食品における固形黒糖は、6日経過後であってもほぼ溶けなかったのに対し、比較例1Cの固形黒糖は、24時間経過後の時点で空気中の水分により大部分溶けており、6日経過後においては空気中の水分により完全に溶けてしまった。つまり、実施例1C-3Cの加工食品は、比較例1Cの固形黒糖よりも高い耐湿性を有している。また、実施例1C-3Cの加工食品の食感は、カリカリと歯ごたえがあるものであって良好であった。さらに、実施例1C-3Cの加工食品の製造工程において、固形黒糖が液体油脂により溶けてしまうことはなかった。
【要約】
【課題】固形食品の食感の劣化を抑制しつつ、高い耐湿性を発揮し得る加工食品を提供する。
【解決手段】この加工食品は、固形食品と、この固形食品の表面全体に付着した粉末食品と、この粉末食品の全体を被覆している固体油脂の膜とを備える。この固形食品は、例えば、黒糖、氷砂糖又はシリアル食品である。この粉末食品は、例えば、澱粉粉末、澱粉分解物粉末、粉末セルロース、粉末キサンタンガム又は米粉である。この加工食品の製造方法は、固形食品の表面全体に粉末食品を付着させる付着工程と、この粉末食品の全体を液体油脂により被覆する被覆工程と、この液体油脂を冷却して固化させる固化工程とを備える。この被覆工程における液体油脂の温度が80℃以下であると好ましい。
【選択図】なし