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特許7134531磁気抵抗水素センサ、およびその感知方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】磁気抵抗水素センサ、およびその感知方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/74 20060101AFI20220905BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20220905BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20220905BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20220905BHJP
   G11B 5/39 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
G01N27/74
H01L29/82 Z
H01L43/08 Z
G01N27/12 C
G11B5/39
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021527102
(86)(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 CN2019118051
(87)【国際公開番号】W WO2020103740
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】201811377334.5
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514116947
【氏名又は名称】江▲蘇▼多▲維▼科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】MULTIDIMENSION TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Building D & E, No.2 Guangdong Road,Zhangjiagang Free Trade Zone,Zhangjiagang,Jiangsu,215634 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディーク、ジェイムズ ゲーザ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、シュアンツオ
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-535651(JP,A)
【文献】特表2015-503085(JP,A)
【文献】特開2017-059591(JP,A)
【文献】特開2018-006598(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033464(WO,A1)
【文献】特開昭60-194347(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0328902(US,A1)
【文献】古澤隆史,Pd層を有するGMR素子を応用した水素検知歪みセンサの作成,令和2(2020)年度修士論文発表内容要旨,2021年,[令和4年5月11日検索],インターネット<URL:https://www.nuee.nagoya-u.ac.jp/labs/kato-lab/paper/thesis/R02/Furusawa_abstract.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
H01L 29/82
H01L 27/22
H01L 43/00-43/14
G01N 27/12
G11B 5/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X-Y平面上に位置する基板と、
該基板上に位置する磁気抵抗感知ユニットおよび磁気抵抗参照ユニットと、を備え、該磁気抵抗感知ユニットは感知アームを形成するように電気的に結合され、該磁気抵抗参照ユニットは参照アームを形成するように電気的に結合され、該感知アームおよび該参照アームは参照ブリッジ構造を形成するように電気的に相互接続されており、該磁気抵抗感知ユニットおよび該磁気抵抗参照ユニットは同じ磁気多層薄膜構造を有するAMRユニットまたは同じ磁気多層薄膜構造を有するGMRユニットであり、該磁気抵抗感知ユニットおよび該磁気抵抗参照ユニットはPd層でそれぞれ覆われ、不動態化絶縁層は該磁気抵抗参照ユニットを覆う該Pd層の上をさらに覆い、
該磁気多層薄膜構造は半導体マイクロマシニング・プロセスによって曲がりくねったストリップ回路の中に作製され、該曲がりくねったストリップ回路の平行線セグメントはX方向に従い、該曲がりくねったストリップ回路のコーナはY方向に従い、該曲がりくねったストリップ回路の隣接した平行線セグメント間に間隙が形成され、該間隙の長軸は該X方向に従い、該間隙の短軸は該Y方向に従い、
該磁気抵抗感知ユニットを覆う該Pd層は、該磁気抵抗感知ユニット内の強磁性層の磁気異方性を変化させるように水素を吸収し、該不動態化絶縁層は、該磁気抵抗参照ユニット内の強磁性層の磁気異方性を変化させるのを防ぐように水素を隔離し、水素濃度は、水素を吸収する前後に該参照ブリッジ構造の出力電圧値の変化に基づいて検出される、磁気抵抗水素センサ。
【請求項2】
該半導体マイクロマシニング・プロセスは、フォトエッチング技術およびイオン・エッチング技術を含み
前記AMRユニットの前記磁気多層薄膜構造は、下から上に、シード層、および複合中間層を備え、該複合中間層は、[PMA界面層/強磁性層]であり、nは整数である、請求項1に記載の磁気抵抗水素センサ。
【請求項3】
前記GMRユニットはGMRスピン・バルブ構造であり、前記磁気多層薄膜構造は、下から上に、シード層、反強磁性層、PMA強磁性層、バッファ層、Cuスペーサ層、バッファ層、強磁性層、複合中間層、およびPd層を備え、または下から上に、シード層、PMA界面層、PMA強磁性層、バッファ層、Cuスペーサ層、バッファ層、強磁性層、および複合中間層を備え、該複合中間層は、[PMA界面層/強磁性層]であり、mは整数であり、あるいは
前記GMRユニットが層間反強磁性結合を有するGMR多層フィルム・スタックであるとき、前記磁気多層薄膜構造は、下から上に、シード層およびマルチ・フィルム中間層を備え、該マルチ・フィルム中間層は、[強磁性層/非磁性中間層/強磁性層]であり、pは整数である、請求項1に記載の磁気抵抗水素センサ。
【請求項4】
前記強磁性層の容易軸はX-Y平面に直交し、前記強磁性層の磁気モーメントは10°~80°の角度範囲内でX-Z平面内の隣接したPd層の方へ偏向し、前記強磁性層はFe、Co、またはNiの単一元素のうちの1つ、あるいはCoFe、NiFe、CoPt、CoPd、CoFeB、またはNiFeCoの合金のうちの1つを含む磁歪材料で作製され、前記シード層の材料はTaまたはWのうちの1つを含み、前記PMA界面層の材料は酸化マグネシウム、パラジウム、または白金のうちの1つを含む、請求項2または3に記載の磁気抵抗水素センサ。
【請求項5】
ブロック永久磁石は前記基板の下方に設けられ、該ブロック永久磁石はZ軸の正の方向に沿って磁場を発生させ、
あるいは薄膜永久磁石は前記基板と前記ブリッジ構造の間に設けられ、該薄膜永久磁石は該Z軸の該正の方向に沿って磁場を発生させ、
あるいはストリップ状永久磁石アレイは前記曲がりくねったストリップ回路の上方または下方に設けられ、該ストリップ状永久磁石アレイは前記曲がりくねったストリップ回路の前記平行線セグメント間で前記間隙間に配置された複数のストリップ状永久磁石を備え、Y軸の正の方向に沿って磁場を発生させる、請求項1に記載の磁気抵抗水素センサ。
【請求項6】
前記参照ブリッジ構造は、ハーフブリッジ構造、またはフルブリッジ構造を含む、請求項1に記載の磁気抵抗水素センサ。
【請求項7】
前記基板の材料はSi、SiO、または溶融石英のうちの1つを含み、前記不動態化絶縁層の材料はフォトレジスト、Al、またはSiNのうちの1つを含む、請求項1に記載の磁気抵抗水素センサ。
【請求項8】
前記PMA強磁性層の材料はCoまたはCoFeBのうちの1つを含み、前記バッファ層の材料はTaまたはRuのうちの1つを含み、前記非磁性中間層の材料はは、Cu、Ru、Pd、Cr、Au、またはAgのうちの1つを含む、請求項4に記載の磁気抵抗水素センサ。
【請求項9】
水素含有ガス環境内に前記水素センサを配置し、前記磁気抵抗感知ユニットの前記磁気多層薄膜構造内で前記強磁性層の垂直磁気異方性を変化させるように前記磁気抵抗感知ユニットを覆う前記Pd層によって水素を吸収し、それによって前記強磁性層の磁気モーメントが回転して前記水素濃度に正に相関する磁気抵抗値の変化をもたらす、ステップと、
該磁気抵抗値の変化に基づいてブリッジ構造の出力電圧値の変化を取得し、前記ブリッジ構造の該出力電圧値の変化に基づいて前記水素濃度を検出するステップと
を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の磁気抵抗水素センサを用いる水素濃度を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス・センサ技術の分野に関し、詳細には、磁気抵抗水素センサ、およびそれを用いた水素を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の代用品として、または有害な排出物のない再生可能エネルギーとして、水素は、世界の注目をますます集めており、近年急速に発展してきている。今のところ、米国、欧州連合、日本などの世界中の主要な全ての経済的主体は、未来の自動車および家庭のための燃料として使用するために水素を研究している。トヨタなどの企業は、水素燃料自動車を設計および製造し始めている。
【0003】
水素は、人間の感覚器官によって検出することができず、残念なことに非常に可燃性および爆発性である。空気中の水素の燃焼性の閾値は、約4%である。したがって、信頼できかつ非常に感度のよい水素センサが、水素燃料装備の安全性を確実にするために必要とされる。
【0004】
多くのタイプの従来の水素センサが存在する。例えば、特許CN108169185Aは、スペクトログラフを用いて金属ナノロッド・アレイの表面から反射した光のスペクトル中の表面プラズモン共鳴ピークのピーク位置および強度変化をモニタし、それによって環境中の水素のリアルタイム・センシングを実現する表面プラズモン共鳴に基づく光学センサを開示する。欠点は、光学測定法があまりに複雑であり、透明な試験容器が必要とされることである。別の例をあげると、特許CN207586166Uは、反応の前後で周波数差をモニタすることによって結晶基板の共鳴周波数に対するPt上の水素と酸素の間の発熱化学反応により発生した熱の影響に基づいて水素濃度を検出する燃料セル式の水素センサを開示する。欠点は、検出可能な水素濃度の範囲が小さい(わずか4%未満)ことである。
【0005】
先行技術では、成熟した抵抗薄膜水素センサの大部分は、Pdが良好な水素吸収体であるという原理に基づくPd/Pd合金薄膜抵抗センサである。Pdは、水素吸収に対して非常に選択的であり、この吸収は可逆性であり、水素化パラジウムが吸収後に形成される。吸収中、Pdの抵抗性は変化しており、水素濃度を検出する目的はPdの抵抗値の変化を検出することによって実現することができる。そのような水素センサの主な欠点は、主に低い感度と長い応答時間である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の技術的な制限を解決するために、本開示は、Pd被覆層が水素を吸収した後に、一方では、下方で隣接した強磁性層中に引き起こされた垂直磁気異方性が変化し、これにより外部環境中の水素濃度に正に相関する磁気抵抗変化をもたらし、他方で、Pd薄膜格子中に拡散された水素原子の溶解がPd被覆層の抵抗を変化させ、これら2つの効果の組合せた作用の結果として、水素濃度の高感度センシングが実現され得るという作動原理に基づく磁気抵抗水素センサ、およびそれを用いて水素を検出する方法を提示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の技術的解決策を用いて実施される。
【0008】
第1の態様では、本開示の一実施形態は、X-Y平面上に位置する基板と、
基板上に位置する磁気抵抗感知ユニットおよび磁気抵抗参照ユニットと、を含み、磁気抵抗感知ユニットは感知アームを形成するように電気的に結合され、磁気抵抗参照ユニットは参照アームを形成するように電気的に結合され、感知アームおよび参照アームは参照ブリッジ構造を形成するように電気的に相互接続されており、磁気抵抗感知ユニットおよび磁気抵抗参照ユニットは同じ磁気多層薄膜構造を有する異方性磁気抵抗(AMR)ユニットまたは同じ磁気多層薄膜構造を有する巨大磁気抵抗(GMR)ユニットであり、磁気抵抗感知ユニットおよび磁気抵抗参照ユニットはPd層でそれぞれ覆われ、不動態化絶縁層は磁気抵抗参照ユニットを覆うPd層の上をさらに覆い、
磁気多層薄膜構造は半導体マイクロマシニング・プロセスによって曲がりくねったストリップ回路の中に作製され、曲がりくねったストリップ回路の平行線セグメントはX方向に従い、曲がりくねったストリップ回路のコーナはY方向に従い、曲がりくねったストリップ回路の隣接した平行線セグメント間に間隙が形成され、間隙の長軸はX方向に従い、間隙の短軸はY方向に従い、半導体マイクロマシニング・プロセスは、限定されるものではないが、フォトエッチング技術およびイオン・エッチング技術を含み、
磁気抵抗感知ユニットを覆うPd層は、磁気抵抗感知ユニット内の強磁性層の磁気異方性を変化させるように水素を吸収し、不動態化絶縁層は、磁気抵抗参照ユニット内の強磁性層の磁気異方性を変化させるのを防ぐように水素を隔離し、水素濃度は、水素を吸収する前後に参照ブリッジ構造の出力電圧値の変化に基づいて検出される、磁気抵抗水素センサを提供する。
【0009】
さらに、AMRユニットの磁気多層薄膜構造は、下から上に、シード層、および複合中間層を備え、複合中間層は、[垂直磁気異方性(PMA)界面層/強磁性層]であり、nは整数である。
【0010】
さらに、GMRユニットはGMRスピン・バルブ構造であり、磁気多層薄膜構造は、下から上に、シード層、反強磁性層、PMA強磁性層、バッファ層、Cuスペーサ層、バッファ層、強磁性層、複合中間層、およびPd層を備え、または上から下に、シード層、PMA界面層、PMA強磁性層、バッファ層、Cuスペーサ層、バッファ層、強磁性層、および複合中間層を備え、複合中間層は、[PMA界面層/強磁性層]、であり、mは整数であり、あるいは
GMRユニットが層間反強磁性結合を有するGMR多層フィルム・スタックであるとき、磁気多層薄膜構造は、下から上に、シード層およびマルチ・フィルム中間層を備え、マルチ・フィルム中間層は、[強磁性層/非磁性中間層/強磁性層]であり、pは整数である。
【0011】
さらに、強磁性層の容易軸はX-Y平面に直交し、強磁性層の磁気モーメントは10°~80°の角度範囲内でX-Z平面内の隣接したPd層の方へ偏向し、強磁性層は、限定されるものではないが、Fe、Co、またはNiの単一元素のうちの1つ、あるいはCoFe、NiFe、CoPt、CoPd、CoFeB、またはNiFeCoの合金のうちの1つを含む磁歪材料で作製される。
【0012】
さらに、ブロック永久磁石は基板の下方に設けられ、ブロック永久磁石はZ軸の正の方向に沿って磁場を発生させ、あるいは薄膜永久磁石は基板と参照ブリッジ構造の間に設けられ、薄膜永久磁石はZ軸の正の方向に沿って磁場を発生させ、あるいはストリップ状永久磁石アレイは曲がりくねったストリップ回路の上方または下方に設けられ、ストリップ状永久磁石アレイは曲がりくねったストリップ回路の平行線セグメント間で間隙間に配置された複数のストリップ状永久磁石を備え、Y軸の正の方向に沿って磁場を発生させる。
【0013】
さらに、参照ブリッジ構造は、限定されるものではないが、半ブリッジ構造、フルブリッジ構造、または準ブリッジ構造を含む。
【0014】
さらに、基板の材料は、限定されるものではないが、Si、SiO、または溶融石英のうちの1つを含み、不動態化絶縁層の材料は、限定されるものではないが、フォトレジスト、Al、またはSiNのうちの1つを含む。
【0015】
上記の技術的解決策では、PMA強磁性層の材料は、限定されるものではないが、CoまたはCoFeBのうちの1つを含み、バッファ層の材料は、限定されるものではないが、TaまたはRuのうちの1つを含み、非磁性中間層の材料は、限定されるものではないが、は、Cu、Ru、Pd、Cr、Au、またはAgのうちの1つを含む。
【0016】
本開示の一実施形態は、上記の磁気抵抗水素センサを用いて水素濃度を検出する方法であって、
水素含有ガス環境内に水素センサを配置し、磁気抵抗感知ユニットの磁気多層薄膜構造内で強磁性層の垂直磁気異方性を変化させるように磁気抵抗感知ユニットを覆うPd層によって水素を吸収し、それによって強磁性層の磁気モーメントが回転して水素濃度に正に相関する磁気抵抗値の変化をもたらす、ステップと、
磁気抵抗値の変化に基づいてブリッジ構造の出力電圧値の変化を取得し、ブリッジ構造の出力電圧値の変化に基づいて水素濃度を検出するステップとを含む方法をさらに示す。
【0017】
先行技術と比較すると、本開示は、以下の有益な技術的な効果を有する。
本開示の実施形態における全てのブリッジ・アームは、外部磁場の干渉と同じ応答を有し、したがって、本開示は、外部磁場の干渉の影響を受けない。ブリッジ構造として、本開示は、とても好ましい温度補償および高感度を有するとともに、サイズが小さく、低消費電力であり、水素濃度の検出範囲が広いなどの利点を有する。
【0018】
下記の添付図面を参照して非限定の実施形態の詳細な説明を読んだ後に、本開示の他の特徴、目的、および利点は、より明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の一実施形態で与えられる磁気抵抗水素センサの概略構造図である。
図2A】本開示の一実施形態で与えられるAMRユニットの磁気多層薄膜構造の概略図である。
図2B】GMRユニットが本開示の一実施形態で与えられるGMRスピン・バルブであるときの磁気多層薄膜構造の概略図である。
図2C】本開示の一実施形態で与えられる、GMRユニットがGMRスピン・バルブであるときの別の磁気多層薄膜構造の概略図である。
図2D】本開示の一実施形態で与えられる、GMRユニットが強い層間反強磁性結合を有するGMR多層フィルム・スタックであるときの磁気多層薄膜構造の概略図である。
図3】本開示の一実施形態で与えられる強磁性層の磁化方向の概略図である。
図4A】本開示の一実施形態で与えられる、磁気多層薄膜構造に対するブロック永久磁石の位置の概略図である。
図4B】本開示の一実施形態で与えられる、磁気多層薄膜構造に対する薄膜永久磁石の位置の概略図である。
図4C】本開示の一実施形態で与えられる、ストリップ状永久磁石アレイと曲がりくねったストリップ回路との間の相対的な位置の概略図である。
図5】本開示の一実施形態で与えられる磁気抵抗水素センサのフルブリッジ構造の概略図である。
図6A】本開示の一実施形態で与えられる水素がない場合の磁気抵抗水素センサの概略図である。
図6B】本開示の一実施形態で与えられる水素が存在する場合の磁気抵抗水素センサの概略図である。
図7A】本開示の一実施形態で与えられる水素がない場合の磁気抵抗水素センサの概略図である。
図7B】本開示の一実施形態で与えられる水素が存在する場合の磁気抵抗水素センサの概略図である。
図8A】本開示の一実施形態で与えられる水素がない場合の磁気抵抗水素センサの概略図である。
図8B】本開示の一実施形態で与えられる水素が存在する場合の磁気抵抗水素センサの概略図である。
図9】この実施形態に与えられる異なるΔθmaxの条件下の水素センサの水素濃度と出力電圧の間の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の目的、技術的解決策、および利点をより明らかにするために、本開示の実施形態における技術的解決策は、本開示の実施形態において添付図面と共に以下に明確におよびより完全に説明される。明らかに、以下に説明される実施形態は、本開示の実施形態の全部ではなく、本開示の実施形態の一部である。
【0021】
以下、添付図面を参照しておよび実施形態の組合せで本開示を詳細に説明する。
【0022】
図1は、本開示の一実施形態で与えられる磁気抵抗水素センサの概略構造図である。図1に示されるように、磁気抵抗水素センサは、X-Y平面上に位置する基板1と、
基板1上に位置する磁気抵抗感知ユニット2および磁気抵抗参照ユニット3と、を備え、磁気抵抗感知ユニット2は感知アーム4を形成するように電気的に結合され、磁気抵抗参照ユニット3は参照アーム5を形成するように電気的に結合され、感知アーム4および参照アーム5は参照ブリッジ構造6を形成するように電気的に相互接続されており、磁気抵抗感知ユニット2および磁気抵抗参照ユニット3は、同じ磁気多層薄膜構造を有するAMRユニットまたは同じ磁気多層薄膜構造を有するGMRユニットであり、磁気抵抗感知ユニット2および磁気抵抗参照ユニット3はPd層でそれぞれ覆われ、不動態化絶縁層7は磁気抵抗参照ユニット3を覆うPd層の上をさらに覆う。
【0023】
磁気多層薄膜構造は半導体マイクロマシニング・プロセスによって曲がりくねったストリップ回路の中に作製され、曲がりくねったストリップ回路の平行線セグメントはX方向に従い、曲がりくねったストリップ回路のコーナはY方向に従い、間隙は曲がりくねったストリップ回路の隣接した平行線セグメント間に形成され、間隙の長軸はX方向に従い、間隙の短軸はY方向に従い、半導体マイクロマシニング・プロセスは、限定されるものではないが、フォトエッチング技術およびイオン・エッチング技術を含む。電流は、X-Y平面内の曲がりくねった回路に沿って流れる。
【0024】
磁気抵抗感知ユニット2を覆うPd層は、磁気抵抗感知ユニット2内の強磁性層の磁気異方性を変化させるように水素を吸収し、不動態化絶縁層7は、磁気抵抗参照ユニット3内の強磁性層の磁気異方性を変化させるのを防ぐように水素を隔離し、水素濃度は、水素を吸収する前後に参照ブリッジ構造6の出力電圧値の変化に基づいて検出される。
【0025】
さらに、基板1の材料は、限定されるものではないが、Si、SiO、溶融石英などのうちの1つを含む。
【0026】
さらに、図1に示されるように、感知アーム4および参照アーム5はフルブリッジ構造を形成するように相互接続され、感知アーム4は第1の感知アーム41および第2の感知アーム42を含み、参照アーム5は第1の参照アーム51および第2の参照アーム52を含む。感知アーム4および参照アーム5は参照ブリッジ構造6を形成するように電気的に相互接続される。
【0027】
不動態化絶縁層7は、磁気抵抗参照ユニットを覆うPd層の上をさらに覆う。不動態化絶縁層7の材料は、限定されるものではないが、フォトレジスト、Al、またはSiNのうちの1つを含む。
【0028】
具体的には、図2Aは、本開示の一実施形態で与えられるAMRユニットの磁気多層薄膜構造の概略図である。図2Aに示されるように、AMRユニットの磁気多層薄膜構造100は、下から上に、シード層11、[PMA界面層12/強磁性層13]、およびPd層14を含み、ただし、nは整数である。
【0029】
具体的には、図2Bは、GMRユニットが本開示の一実施形態で与えられるGMRスピン・バルブであるときの磁気多層薄膜構造の概略図である。図2Bに示されるように、GMRスピン・バルブの磁気多層薄膜構造200は、下から上に、シード層11、反強磁性層21、PMA強磁性層22、バッファ層23、Cuスペーサ層24、バッファ層23、強磁性層13、[PMA界面層12/強磁性層13]、およびPd層14を含み、ただし、mは整数である。
【0030】
具体的には、図2Cは、本開示の一実施形態で与えられる、GMRユニットがGMRスピン・バルブであるときの別の磁気多層薄膜構造の概略図である。図2Cに示されるように、GMRスピン・バルブの別の磁気多層薄膜構造300は、下から上に、シード層11、PMA界面層12、PMA強磁性層22、バッファ層23、Cuスペーサ層24、バッファ層23、強磁性層13、[PMA界面層12/強磁性層13]k、およびPd層14を含み、ただし、kは整数である。
【0031】
具体的には、図2Dは、本開示の一実施形態で与えられる、GMRユニットが強い層間反強磁性結合を有するGMR多層フィルム・スタックであるときの磁気多層薄膜構造の概略図である。図2Dに示されるように、GMR多層フィルム・スタックの磁気多層薄膜構造400は、下から上に、シード層11、[Pd層14/強磁性層13/非磁性中間層25/強磁性層13]、およびPd層14を含み、ただし、pは整数である。
【0032】
この実施形態では、Pd層14は、隣接した強磁性層13内に垂直磁気異方性を含む。Pd層14は、強磁性層13の磁気モーメントは、水素濃度に正に相関する磁気抵抗変化をもたらすように回転するように、強磁性層13内に引き起こされる垂直磁気異方性を変化させるように水素を吸収する。
【0033】
具体的には、シード層11の材料は、限定されるものではないが、TaまたはWのうちの1つを含む。PMA界面層12の材料は、限定されるものではないが、MgO、Pd、またはPtのうちの1つを含む。不動態化絶縁層7の材料は、限定されるものではないが、フォトレジスト、AL、またはSiNのうちの1つを含む。
【0034】
PMA強磁性層22の材料は、限定されるものではないが、CoまたはCoFeBのうちの1つを含み、バッファ層23の材料は、限定されるものではないが、TaまたはRuのうちの1つを含み、非磁性中間層25の材料は、限定されるものではないが、Cu、Ru、Pd、Cr、Au、またはAgのうちの1つを含む。
【0035】
さらに、図3は、本開示の一実施形態で与えられる強磁性層の磁化方向の概略図である。図3に示されるように、強磁性層13の容易軸はX-Y平面に直交し、Pd層14は、強磁性層13の磁気モーメントが10°~80°の角度範囲内でX-Z平面内の隣接したPd層14の方へ偏向するように、強磁性層13内に垂直磁気異方性を引き起こし、強磁性層13は、限定されるものではないが、Fe、Co、またはNiの単一元素のうちの1つ、あるいはCoFe、NiFe、CoPt、CoPd、CoFeB、またはNiFeCoの合金のうちの1つを含む磁歪材料で作製される。
【0036】
さらに、ブロック永久磁石は基板1の下方にン設けられ、ブロック永久磁石はZ軸の正の方向に沿って磁場を発生させ、または薄膜永久磁石は基板1と参照ブリッジ構造6の間に設けられ、薄膜永久磁石はZ軸の正の方向に沿って磁場を発生させ、またはストリップ状永久磁石アレイは、曲がりくねったストリップ回路の上方または下方に設けられ、ストリップ状永久磁石アレイは、曲がりくねったストリップ回路の平行線セグメント間の間隙間に配置された複数のストリップ状永久磁石を備え、Y軸の正の方向に沿って磁場を発生させる。
【0037】
この実施形態では、好ましい範囲内のX-Z平面内に強磁性層13の磁気モーメントMの偏向角度を作るために、X-Y平面上の永久磁石が、必要に応じてさらに設けられてもよい。この実施形態で与えられる永久磁石のタイプは、基板1の下方に位置するブロック永久磁石を主に含む。図4Aは、本開示の一実施形態で与えられる、磁気多層薄膜構造に対するブロック永久磁石の位置の概略図である。図4Aに示されるように、ブロック永久磁石30は、基板1の下方に位置し、ブロック永久磁石30は、Z軸の正の方向に沿って磁場を発生させる。代替として、このタイプは、基板1と磁気多層薄膜構造の間に位置する薄膜永久磁石を備えてもよい。図4Bは、本開示の一実施形態で与えられる、磁気多層膜構造に対する薄膜永久磁石の位置の概略図である。図4Bに示されるように、薄膜永久磁石40は、基板1と磁気多層薄膜構造Aの間に位置し、薄膜永久磁石40は、Z軸の正の方向に沿って磁場を発生させる。代替として、このタイプは、曲がりくねったストリップ回路の平行線セグメント間に形成された間隙内に位置するストリップ状永久磁石アレイを含んでもよい。図4Cは、本開示の一実施形態で与えられる、ストリップ状永久磁石アレイと曲がりくねったストリップ回路との間の相対的な位置の概略図である。図4Cに示されるように、ストリップ状永久磁石アレイ50は、曲がりくねったストリップ回路の平行線セグメント間に形成された間隙内に位置し、ストリップ状永久磁石アレイ50は複数のストリップ状永久磁石を含み、ストリップ状永久磁石はY軸の正の方向に沿って磁場を発生させる。磁気抵抗参照ユニット3を一例としてとると、ストリップ状永久磁石アレイ50は、複数のストリップ状薄膜永久磁石501、502、・・・、50i、・・・、50Mを含み、ただし、iは、Mよりも小さい整数である。
【0038】
さらに、感知アーム4および参照アーム5は、フルブリッジ、ハーフブリッジ、または準ブリッジを形成するように相互接続されてもよい。例えば、図5は、本開示の一実施形態で与えられる磁気抵抗水素センサのフルブリッジ構造の概略図である。図5に示されるように、第1の感知アーム41の第1の端は第1の参照アーム51の第1の端に接続され、第1の感知アーム41の第2の端は第2の参照アーム52の第1の端に接続され、第1の参照アーム51の第2の端は第2の感知アーム42の第1の端に接続され、第2の参照アーム52の第2の端は第2の感知アーム42の第2の端に接続される。
【0039】
図6Aは、本開示の一実施形態で与えられる水素がない場合の磁気抵抗水素センサの概略図である。図6Bは、本開示の一実施形態で与えられる水素が存在する場合の水素センサの概略図である。この実施形態は、磁気抵抗感知ユニット2および磁気抵抗参照ユニット3が同じ磁気多層薄膜構造を有するAMRユニットである一例を用いて説明されることに留意されたい。
【0040】
図7Aは、本開示の一実施形態で与えられる水素がない場合の磁気抵抗水素センサの概略図である。図7Bは、本開示の一実施形態で与えられる水素が存在する場合の磁気抵抗水素センサの概略図である。この実施形態は、磁気抵抗感知ユニット2および磁気抵抗参照ユニット3が同じ磁気多層膜構造を有するGMRスピン・バルブである一例を用いて説明されることに留意されたい。
【0041】
図8Aは、本開示の一実施形態で与えられる水素がない場合の磁気抵抗水素センサの概略図である。図8Bは、本開示の一実施形態で与えられる水素が存在する場合の磁気抵抗水素センサの概略図である。この実施形態は、磁気抵抗感知ユニット2および磁気抵抗参照ユニット3は同じ磁気多層薄膜構造を有するGMR多層フィルム・スタックである一例を用いて説明されることに留意されたい。
【0042】
本開示の磁気抵抗水素センサの作動原理は、図6A図6B図7A図7B図8B、および図8Bを参照して簡単に説明される。水素が外部環境中にないとき、磁気抵抗感知ユニット2において、磁気多層薄膜構造の上部に位置するPd層14の抵抗はR0であり、下方の強磁性層13の磁気モーメントMと電流I+との間の角度はθであり、強磁性層13の異方性磁気抵抗はΔRcosθであり、磁気抵抗感知ユニット2の全抵抗RSは、R=R+ΔRcosθである。
【0043】
磁気抵抗参照ユニット3では、磁気多層薄膜構造の上部に位置するPd層14の抵抗はR0であり、下方の強磁性層13の磁気モーメントMと電流I-との間の角度はπ-θであり、強磁性層13の異方性磁気抵抗はΔRcos(π-θ)=ΔRcosθであり、磁気抵抗参照ユニット3の全抵抗RrはR=R+ΔRcosθである。
【0044】
したがって、電圧信号出力は、
【数1】
である。
【0045】
水素が環境中に存在するとき、磁気抵抗感知ユニット2では、磁気多層薄膜構造の上部に位置するPd層14は、水素を吸収し、次いで膨張し、その抵抗がR’へ増大する。同時に、下方で強磁性層13内の磁気多層薄膜構造の上部にあるPd層14によって引き起こされる垂直磁気異方性も変化し、これによって強磁性層13の磁気モーメントMがX-Z平面内で回転し、回転角Δθは水素濃度に正に相関し、磁気モーメントMと電流I+の間の角度はθ’=θ-Δθになり、強磁性層13の異方性磁気抵抗はΔRcosθ’へ増大する。したがって、磁気抵抗感知ユニット2の全抵抗Rs’は、Rs’=R’+ΔRcosθ’である。
【0046】
磁気抵抗参照ユニット3では、不動態化絶縁層7が水素を阻止するので、磁気抵抗参照ユニット3の全抵抗Rrは、変わらないままであり、未だにR=R+ΔRcosθである。
【0047】
したがって、電圧信号出力は、
【数2】
である。
【0048】
θ’’=θ-Δθの最大値は、Δθmaxとして示される。Δθmaxは、磁気多層薄膜構造内の薄膜の材料および厚さに依存し、薄膜の積み重ねの程度によってやはり影響を受ける。図9は、本開示の磁気抵抗水素センサを用いて外部水素濃度を検出する効果をより直観的に示すために、この実施形態に与えられる異なるΔθmaxの条件下の水素センサの水素濃度と出力電圧の間の概略図である。さらに、Δθmaxが50、150,および350であるときの水素センサの水素濃度と出力電圧の間の関係が、図9に示される。図9から理解できるように、Δθmaxが高くなるほど、水素センサの水素濃度検出効果がより良くなる。
【0049】
本開示の実施形態に与えられる磁気抵抗水素センサは、X-Y平面上に位置する基板と、この基板上に位置する磁気抵抗感知ユニットおよび磁気抵抗参照ユニットとを備える。磁気抵抗感知ユニットは感知アームを形成するように電気的に結合され、磁気抵抗参照ユニットは参照アームを形成するように電気的に結合され、感知アームおよび参照アームは参照ブリッジ構造を形成するように電気的に相互接続されており、磁気抵抗感知ユニットおよび磁気抵抗参照ユニットは、同じ磁気多層薄膜構造を有するAMRユニット、あるいは同じ磁気多層薄膜構造を有するGMRスピン・バルブまたはGMR多層フィルム・スタックである。磁気多層薄膜構造は、半導体マイクロマシニング・プロセスによって曲がりくねったストリップ回路の中に作製され、磁気抵抗参照ユニットは、不動態化絶縁層で覆われる。本開示は、とても好ましい温度補償および高感度を有するとともに、サイズが小さく、低消費電力であり、水素濃度の検出範囲が広いなどの利点を有する。
【0050】
上記実施形態に基づいて、本開示の一実施形態は、上記磁気抵抗水素センサを用いて水素濃度を検出する方法であって、
水素含有ガス環境内に水素センサを配置し、磁気抵抗感知ユニットの磁気多層薄膜構造内で強磁性層の垂直磁気異方性を変化させるように磁気抵抗感知ユニットを覆うPd層によって水素を吸収し、それによって強磁性層の磁気モーメントが回転して水素濃度に正に相関する磁気抵抗値の変化をもたらす、ステップと、
磁気抵抗値の変化に基づいてブリッジ構造の出力電圧値の変化を取得し、ブリッジ構造の出力電圧値の変化に基づいて水素濃度を検出するステップとを含む方法をさらに提供する。
【0051】
上記の説明は、本開示の好ましい実施形態を提供するものにすぎない。当業者が創作的作業を伴わずに本開示の実施形態に基づいて得る全て他の実施形態は、本開示の保護範囲内に入る。当業者は、本開示の原理から逸脱することなく、いくらかの改善および修正をさらに行うことができることが指摘されるべきである。これらの改善および修正は、本開示の保護範囲としてやはりみなされるべきである。
【符号の説明】
【0052】
参照番号:1-基板、2-磁気抵抗感知ユニット、3-磁気抵抗参照ユニット、4-感知アーム、5-参照アーム、6-ブリッジ構造、7-不動態化絶縁層、100-磁気多層薄膜構造、11-シード層、12-PMA界面層、13-強磁性層、14-Pd層、21-反強磁性層、22-PMA強磁性層、23-分散層、24-Cuスペーサ層、25-非磁性中間層、30-ブロック永久磁石、40-薄膜永久磁石、50-ストリップ状永久磁石アレイ、A-磁気多層薄膜構造。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9