(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】熱伝導性ポリオルガノシロキサン組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20220905BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20220905BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220905BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20220905BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/01
C08K3/22
C09K5/14 101E
H01L23/36 D
(21)【出願番号】P 2021089467
(22)【出願日】2021-05-27
(62)【分割の表示】P 2018022924の分割
【原出願日】2017-07-20
【審査請求日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2016144431
(32)【優先日】2016-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016144432
(32)【優先日】2016-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016144433
(32)【優先日】2016-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】高梨 正則
(72)【発明者】
【氏名】飯田 勲
(72)【発明者】
【氏名】平川 大悟
(72)【発明者】
【氏名】竹中 健治
(72)【発明者】
【氏名】谷川 英二
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-210856(JP,A)
【文献】特開2014-084403(JP,A)
【文献】特開2015-140395(JP,A)
【文献】特開2008-266449(JP,A)
【文献】特開2009-203373(JP,A)
【文献】国際公開第2005/030874(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 3/01
C08K 3/22
C09K 5/14
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナからなる
熱伝導性充填剤と、
ポリオルガノシロキサン樹脂と、
一般式(1):
【化21】
(式中、
R
1:炭素数1~4のアルコキシシリル基を有する基
R
2:下記一般式(2):
【化22】
(式中、R
4は、それぞれ独立して炭素数1~12の1価の炭化水素基であり、Yはメチル、ビニル及びR
1からなる群より選択される基であり、dは1~
70の整数である)で示される直鎖状オルガノシロキシ基
X:それぞれ独立して炭素数2~10の2価の炭化水素基
a及びb:それぞれ独立して1以上の整数
c:0以上の整数
a+b+c:4以上の整数
R
3:それぞれ独立して、炭素数1~6の1価の炭化水素基又は水素原子
である)
で示されるシロキサン化合物(ただし、一般式(1)で示されるシロキサン化合物1分子あたりの、-SiR
4
2O-で示される単位の数は、合計で
20~70である)から実質的になる、熱伝導性シリコーングリース。
【請求項2】
前記一般式(1)においてbが2である、請求項1記載の熱伝導性シリコーングリース。
【請求項3】
前記一般式(1)においてbが1であり、前記一般式(2)においてdが20~70である、請求項1記載の熱伝導性シリコーングリース。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項記載の熱伝導性シリコーングリースを含む、電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性ポリオルガノシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスタ、IC、CPU等に代表される電子部品には、発熱体の蓄熱を防ぐために、熱伝導性の高い熱伝導性グリースや熱伝導性シートが用いられている。熱伝導性シートは他の部品の汚損やオイル分の流出がなく、精密さが求められる電子部品において広く用いられる。熱伝導性シートは、密着性ではグリースの方が高いことが多いが、熱伝導性シートの硬度を下げて密着性を高めるといった手法がとることで対応がされている。熱伝導性グリースは、高粘度の流動体であるため、発熱体と放熱器の間に生じる微細な空間を埋め、高い放熱性能を発揮することができる。また熱伝導性グリースには、電子部品の形状に影響されることなく手軽に塗布できるという利点もある。
【0003】
熱伝導性シート又は熱伝導性グリースには、広い温度範囲で粘度変化が少ないという利点がある、シリコーンゴムが多く用いられている。ただし、シリコーン単体では熱伝導性を高めることはできないため、シリコーンゴムの熱伝導性を改良するために、熱伝導性充填剤が併用される。熱伝導性充填剤として、シリカ粉、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム等に代表されるような、バインダーとなるシリコーンより熱伝導性の高い材料を添加することが知られている(特開2002-003831号公報)。
【0004】
最近の電子部品等は高出力化に伴って発熱量も大きくなり、より高い熱伝導率を有する放熱部材が必要とされてきている。かかる要請に応じるための高い熱伝導率を有するシリコーン組成物を得るためには、熱伝導性充填剤をより高充填する必要がある。しかし、その充填性には流動性の悪化などを原因として限界がある。そのため、熱伝導性充填剤に表面処理を施して充填性を改善することが知られている(再表2005/030874号公報;特開2000-256558号公報;特開2003-213133号公報を参照されたい)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-003831号公報
【文献】再表2005/030874号公報
【文献】特開2000-256558号公報
【文献】特開2003-213133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱伝導性充填剤とシリコーンとの組成物は、熱伝導性という本質的な要求のため、高い放熱性を達成するために、微粒径のアルミナ等の無機粒子が表面処理されて使用されている。しかしながら、高い放熱性を備えていても、従来知られていた表面処理剤では、熱伝導性組成物を硬化させた後、硬さが経時的に低下する現象が観察されており、組成物としての安定性の面で問題があった。熱伝導性組成物の硬度が一定せずに低下すると電子部品自体の信頼性にも悪影響がでるため、安定性に優れた熱伝導性材料の探索が求められていた。また、熱伝導性充填剤とシリコーンとの組成物は、電子部品に塗布する際に取扱いやすい粘度であることや、電子部品の緩衝のため硬化後にある程度弾性を有することが求められる。しかしながら、粘度/硬度を低下させるためにオイルなどの流動性が高い成分を添加すると、熱伝導率の低下を招いてしまう。さらに、電子部品に塗布された組成物には少なからず部品による圧力が掛かるため、経時的に熱伝導性組成物から添加したオイルが染み出す、ブリーディングと呼ばれる現象が起きてしまう。ブリーディングは熱伝導性組成物の劣化、ひいては電子部品に不具合を生じる原因ともなる。
【0007】
このように、高い放熱特性を備えた熱伝導性組成物であっても、まだ改善すべき特性は多く存在しており、熱伝導性組成物に要求される特性を保ち、さらなる特性を有する組成物の開発が望まれていた。本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、作業性や熱伝導性に優れた性能を保ちつつも、取扱い性にさらに優れ、又は硬化物の安定性や耐ブリーディング性等に優れた、熱伝導性シート又は熱伝導性グリースに有用な熱伝導性ポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討したところ、適切な表面処理剤の設計、添加剤の種類の特定により、扱い易い粘度をそなえ、さらに熱伝導性ポリシロキサン組成物を硬化させた際の安定性が向上すること、耐ブリーディング性が向上することのような更なる特性が得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、以下の各項に関する。
[1](A)熱伝導性充填剤と、
(B)分子内に硬化性官能基を一つ有するポリシロキサンを少なくとも1種含むポリオルガノシロキサン樹脂と、
(C)アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物と、
を含む、熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[2]前記(B)ポリオルガノシロキサン樹脂全体に対する、分子内に硬化性官能基を一つ有するポリシロキサンの含有量が、20~80質量%の範囲である、前記[1]記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[3]分子内に硬化性官能基を一つ有するポリシロキサンが、末端にビニル基を一つ有する直鎖状ポリオルガノシロキサンである、前記[1]又は[2]記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[4](C)アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物が、一般式(1):
【化1】
(式中、
R
1:炭素数1~4のアルコキシシリル基を有する基
R
2:下記一般式(2):
【化2】
(式中、R
4は、それぞれ独立して炭素数1~12の1価の炭化水素基であり、Yはメチル、ビニル及びR
1からなる群より選択される基であり、dは2~60の整数である)で示される直鎖状オルガノシロキシ基
X:それぞれ独立して炭素数2~10の2価の炭化水素基
a及びb:それぞれ独立して1以上の整数
c:0以上の整数
a+b+c:4以上の整数
R
3:それぞれ独立して、炭素数1~6の1価の炭化水素基又は水素原子
である)
で示されるシロキサン化合物である、前記[1]~[3]のいずれか記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[5]一般式(1)においてbが2であり、dが11~30である、前記[4]記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[6]一般式(1)においてbが1である、前記[4]記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[7](A)熱伝導性充填剤と、
(B’)1分子中に硬化性官能基を少なくとも二つ有するポリオルガノシロキサン樹脂と、
(C)アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物を含む、熱伝導性ポリシロキサン組成物であって、前記(C)が、前記一般式(1):
【化3】
(上記式及びR
2に含まれる式(2)中、R
1~R
4、Y、X、a、b、c、a+b+cは、先に定義したとおりであり、dは、1~60の整数である)で示されるシロキサン化合物(ただし、一般式(1)で示されるシロキサン化合物1分子あたりの、-SiR
4
2O-で示される単位の数は、合計で10~60である)である、熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[8]前記一般式(1)においてbが2であり、前記一般式(2)においてdが10~30である、前記[7]記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[9]前記一般式(1)においてbが1である、前記[7]記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[10]付加反応硬化型である、前記[1]~[9]のいずれか記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[11]更に、ケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び白金触媒を含む、前記[10]記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[12]付加反応硬化型である前記[1]~[6]のいずれか記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物と、ケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び白金触媒を含む、熱伝導性ポリシロキサン組成物であって、該組成物中に含まれる、ケイ素に直接結合した水素とビニル基との物質量の比(H/Vi比)が0.2~2.0の範囲である、熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
[13]熱伝導性充填剤と、
ポリオルガノシロキサン樹脂と、
一般式(1):
【化4】
(式中、R
1~R
4、Y、X、a、b、c、a+b+cは、先に定義したとおりであり、dは1~100の整数である)で示されるシロキサン化合物(ただし、一般式(1)で示されるシロキサン化合物1分子あたりの、-SiR
4
2O-で示される単位の数は、合計で1~150である)から実質的になる、熱伝導性シリコーングリースである。
[14]前記一般式(1)においてbが2である、前記[13]記載の熱伝導性シリコーングリースである。
[15]前記一般式(1)においてbが1であり、前記一般式(2)においてdが20~70である、前記[13]記載の熱伝導性シリコーングリースである。
[16]前記[10]~[12]のいずれか記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物を硬化した、シリコーンゴムである。
[17]前記[13]~[15]のいずれか記載の熱伝導性シリコーングリース又は前記[16]記載のシリコーンゴムを含む、電子部品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、より、従来どおり作業性や耐熱性に優れつつも、ブリーディングを抑制することができる、又は、硬化物の安定性に優れた、熱伝導性ポリシロキサン組成物を提供することが可能となる。また、熱伝導性に優れつつ、取扱い性にも優れた、熱伝導性シリコーングリースを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<<第1の発明>>
第1の発明における一つの態様は、熱伝導性充填剤と、表面処理剤としてのシロキサン化合物と、分子末端のうち1箇所に硬化性官能基を有するシロキサンを少なくとも1種有するポリシロキサン樹脂とを含む、熱伝導性ポリシロキサン組成物である。以下、組成物に含まれる各種成分、組成物の製造方法等について、詳細に説明する。
【0012】
[熱伝導性充填剤]
熱伝導性充填剤としては、一般的に公知の無機充填剤が例示され、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、シリカ粉、炭化ケイ素、金属粉体、ダイヤモンド、水酸化アルミニウム、カーボン等が挙げられる。特に好ましいものはアルミナ、酸化亜鉛、窒化アルミニウム又は炭化ケイ素である。これらの無機充填剤としては、熱伝導性充填剤として利用可能なグレードのものであれば特に制限されず、市販のものを利用することができる。また、無機充填剤としては、異なる化学種である複数種類のものを組み合わせて用いることもできる。
【0013】
熱伝導性充填剤は、利用可能なグレードのものであれば平均粒子径の大きさに特に制限はないが、平均粒子径が300μm以下のものを用いることが好ましい。平均粒子径がこの範囲にあるものの中でも、平均粒子径が大きいものを配合すると、充填率を上げることができず、平均粒子径が小さいものでは、粘度が大きくなる傾向があるが、熱伝導性充填剤の平均粒子径を適宜選択し、配合することで、目的に適った粘度の組成物を得ることができる。
【0014】
熱伝導性充填剤には、粒子径が相対的に大きな充填剤と、粒子径が相対的に小さな充填剤とを併用することも好ましい。複数種類の粒子径を有する充填剤を併用することによって、相対的に粒子径の大きい充填剤の間隙に相対的に粒子径の小さい充填剤が入り込み、より高充填が可能になる。充填剤は平均粒子径によって大粒径(例えば粒子径30μm以上)、中粒径(例えば粒子径1μm以上~30μm未満)、小粒径(例えば粒子径1μm未満)のものに分類することができ、これらから少なくとも2種類以上、特に3種類を用いることが好ましい。複数種類の異なる粒径を有する充填剤を用いる場合には、それらの配合割合は任意とすることができるが、組成物調製の作業性、得られる組成物の熱伝導性の面から、大粒径の充填剤を30~70質量%用いることが好ましく、35~65質量%用いることがより好ましい。大粒径、中粒径、小粒径の3種類の充填剤を用いる場合には、中粒径及び小粒径の充填剤の配合比は、1:40~40:1の範囲とすることが好ましく、1:7~7:1の範囲とすることがより好ましい。
【0015】
熱伝導性充填剤に用いられる無機粒子の形状は、特に制限されない。例えば球状、丸み状、不定形の粒子のいずれも用いることができ、更にこれらのうち少なくとも2種類を併用することもできる。無機粒子の形状が丸み状、不定形である場合の平均粒子径は、当業者に公知の方法によって定義される。平均粒子径は、例えば、レーザー光回折法等による粒度分布測定装置を用いて、重量平均値(又はメジアン径)等として求めることができる。
【0016】
熱伝導性ポリシロキサン樹脂中の熱伝導性充填剤の配合量は、シロキサン化合物と硬化性官能基を少なくとも二つ有するポリオルガノシロキサン樹脂の全体量100質量部に対し、10~5000質量部の範囲である。好ましくは50~4000質量部、より好ましくは100~3000質量部の範囲において本発明の効果が顕著に発揮される。
【0017】
[シロキサン化合物]
第1の発明において熱伝導性ポリシロキサン組成物には、表面処理剤として、(i)アルコキシシリル基及び(ii)直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物が含まれる。
【0018】
表面処理剤としてのシロキサン化合物としては、前記(i)及び(ii)で表される構造を有するものであれば、その分子構造に特に制限されず、直鎖状、分岐状、環状のものをいずれも用いることができる。シロキサン化合物の好ましい例としては、環状シロキサンの側鎖に前記(i)及び(ii)で表される構造を有するもの、例えば、下記一般式(1):
【化5】
(式中、
R
1:炭素数1~4のアルコキシシリル基を有する基
R
2:下記一般式(2):
【化6】
(式中、R
4は、それぞれ独立して炭素数1~12の1価の炭化水素基であり、Yはメチル、ビニル及びR
1からなる群より選択される基であり、dは2~60の整数である)で示される直鎖状オルガノシロキシ基
X:それぞれ独立して炭素数2~10の2価の炭化水素基
a及びb:それぞれ独立して1以上の整数
c:0以上の整数
a+b+c:4以上の整数
R
3:それぞれ独立して、炭素数1~6の1価の炭化水素基又は水素原子
である)
で示される、シロキサン化合物が挙げられる。ここで、当該シロキサン化合物においては、R
1を含む単位、R
2を含む単位、SiR
3
2Oで表される単位が上記一般式(1)で示されるとおりに配列している必要はなく、例えばR
1を含む単位とR
2を含む単位との間にSiR
3
2Oで表される単位が存在していてもよいことが理解される。
【0019】
一般式(1)で示される環状構造を有するシロキサン化合物を用いる場合、加水分解性基を環状構造中に多く導入することができ、更にそれが位置的に集中しているため、熱伝導性充填剤の処理効率が高くなり、より高充填化を可能にすると考えられる。加えて、上記シロキサン化合物自体の耐熱性が高いため、熱伝導性ポリシロキサン組成物に高い耐熱性を与えることができる。また、このようなシロキサン化合物は、例えば、水素基が含有された環状シロキサンと、片末端にビニル基を有するシロキサン、ビニル基と加水分解性基を含有したシラン化合物とを付加反応させることで容易に得ることができるという利点がある。
【0020】
一般式(1)において、R
1は、炭素数1~4のアルコキシシリル基を含有する加水分解性の官能基であり、より具体的には以下の構造を有する基が例示される。R
1は、ケイ素で直接Xと結合していてもよいが、エステル結合等の連結基により結合していてもよい。R
1としてより具体的には以下の構造を有する基が例示される。
【化7】
なかでも、R
1は、熱伝導性充填剤の処理効率がより向上する傾向にある点から、アルコキシシリル基を2つ以上、特に3つ有する構造の基であることが好ましい。また、原料を得ることが容易である点から、R
1は、メトキシシリル基を含有することが好ましい。
【0021】
R2は、オリゴシロキサン類及び長鎖アルキルからなる基から選択される。R2が長鎖アルキル基の場合、その炭素数は6~18の範囲、好ましくは6~14である。ここで「長鎖アルキル基」とは、アルキル基中の最も長い炭素鎖部分の炭素数が6以上であることを指し、合計の炭素数が上記範囲内であれば、分岐構造を有していてもよい。炭素数をこの範囲とすることで、流動性に対する効果を高め、高配合を可能にする。また、取り扱い性に優れ、均一に分散させることが容易になる。
【0022】
R
2がオリゴシロキサン類の場合、R
2は、一般式(2):
【化8】
(式中、R
4、Y及びdは、先に定義したとおりである)で示される基である。
【0023】
一般式(2)において、dの数は2~500の範囲、好ましくは4~400の範囲、より好ましくは10~200の範囲、特に好ましくは10~60の範囲である。この範囲とすることで、流動性に対する効果を高め、高配合を可能とし、シロキサン化合物自体の粘度を抑えることができる。R4は、それぞれ独立して、炭素数1~12の1価の炭化水素基であり、直鎖状又は分岐鎖状のC1-12アルキル基、フェニルやナフチル等のアリール基が挙げられる。また、塩素、フッ素、臭素等のハロゲンで置換されていてもよく、そのような基として、トリフルオロメチル基等のパーフルオロアルキル基が例示される。合成が容易であることから、R4はメチル基であることが好ましい。Yは、R1、R4及び脂肪族不飽和基からなる群より選択される基である。脂肪族不飽和基は、炭素数が2~10であることが好ましく、2~6であることがより好ましい。また、脂肪族不飽和基は、硬化反応が起こりやすくなることから、末端に二重結合を有していることが好ましい。合成が容易であることから、Yはメチル基又はビニル基であることが好ましい。熱伝導性充填剤とベースポリマーを仲介して親和性を高め、組成物の粘度を下げる等取扱い性に優れるものが得られる傾向があるため、R2は上記オリゴシロキサンであることが好ましい。
【0024】
R1及びR2は、基Xを介し、一般式(1)で示されるシロキサンの環状シロキサン部分と結合される。基Xは、炭素数2~10の2価の炭化水素基であり、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH2CH(CH3)CH2-等のアルキレン基が例示される。合成が容易となる点から、Xは-CH2CH2-又は-CH2CH(CH3)-であることが好ましい。
【0025】
R3は、それぞれ独立して、炭素数1~6の1価の炭化水素基又は水素原子である。各々のR3は同一でも異なっていてもよい。合成が容易であることから、R3はメチル基又は水素原子であることが好ましい。
【0026】
aは1以上の整数であり、好ましくは1である。bは1以上の整数であり、1又は2であることが好ましい。cは0以上の整数、好ましくは0~2である。また、a+b+cの和は、4以上の整数であるが、合成が容易であることから4であることが好ましい。ここで、bが2である場合は、R2のうち-SiR4
2O-で表される単位の合計が、10~60になるようにR2を選択すると、取扱い性の面から好ましい。このような態様は、例えば、bを1とすること、又は、bが2であり、dが11~30であるように選択することで達成される。
【0027】
以上説明したようなシロキサン化合物の代表例として下記の構造式で示される化合物を挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【化9】
【0028】
さらに好ましいシロキサン化合物の例として、下記の構造式で示される化合物を挙げることができる。
【化10】
【0029】
ここで、シロキサン化合物の構造を説明するにおいては、シロキサン化合物の構造単位を以下のような略号によって記載することがある(以下、これらの構造単位をそれぞれ「M単位」「D単位」などということがある)。
M:-Si(CH3)3O1/2
MH:-SiH(CH3)2O1/2
MVi:-Si(CH=CH2)(CH3)2O1/2
D:Si(CH3)2O2/2
DH:SiH(CH3)O2/2
T:Si(CH3)O3/2
Q:SiO4/2
例えば、前記一般式(2)においてR4がメチル基であり、Yがビニル基であるような構造は、-DnMViと記述される。ただし、例えばDH
20D20と記した場合には、DH単位が20個続いた後D単位が20個続くことを意図するものではなく、各々の単位は任意に配列していてもよいことが理解される。
【0030】
表面処理剤としてのシロキサン化合物の配合量は、熱伝導性充填剤100質量部に対して0.01~20質量部の範囲である。シロキサン化合物の量をこの範囲とすることで、熱伝導性充填剤の充填性を高めつつ、熱伝導性を高くすることができる。シロキサン化合物の配合量は、より好ましくは0.1~15質量部の範囲である。また、硬化性官能基を有するポリシロキサン樹脂100質量部に対しては、0.01質量部以上用いることが好ましい。シロキサン化合物の量がポリシロキサン樹脂に対し0.01質量部未満であると熱伝導性充填材の表面処理効果が少なくなり、高配合ができなくなる。また過剰であると、硬化後の機械的物性や耐熱性に悪影響を与えることがあるため、より好ましくは0.1~500質量部の範囲である。
【0031】
[ポリオルガノシロキサン樹脂]
第1の発明においては、熱伝導性ポリシロキサン組成物は、分子内に硬化性官能基を一つ有するシロキサンを少なくとも1種有するポリオルガノシロキサン樹脂を含む。ここで、本明細書において「硬化性官能基」とは、樹脂の硬化反応に関与し得る官能基を指す。硬化性官能基の例としては、ビニル基、(メタ)アクリル基、ケイ素に直接結合した水素基等が挙げられる。硬化反応の機構は特に制限されず、付加反応、縮合反応などの、樹脂の硬化に一般的に用いられる方法を採用することができる。
【0032】
ポリオルガノシロキサン樹脂には、分子内に硬化性官能基を一つ有するポリオルガノシロキサンが、少なくとも1種類含まれる。特定の理論に束縛されるものではないが、当該ポリオルガノシロキサンが1箇所のみに硬化性官能基を有することで、架橋ネットワークを複雑化することなく結合して遊離しづらくなるため、熱伝導性組成物の粘度/硬度を下げつつもブリーディングを抑制することが可能になると考えられる。
【0033】
分子内に硬化性官能基を一つ有するポリオルガノシロキサンの種類は、特に限定されず、硬化性官能基を1箇所に有するものである限り利用することができる。硬化性官能基の位置も、分子末端、内部を問わない。1種類のポリオルガノシロキサンを単独で用いてもよく、異なる種類のポリオルガノシロキサンを2種類以上組み合わせて用いてもよい。分子内に硬化性官能基を一つ有するポリオルガノシロキサンの例として、以下の一般式(3):
【化11】
(式中、
R
aは、脂肪族不飽和基であり、
Rは、それぞれ独立して、C
1-6アルキル基又はC
6-12アリール基であり、
nは、23℃における粘度を0.01~50Pa・sとする数である)で示される、脂肪族不飽和基を含有する直鎖状ポリオルガノシロキサンが例示されるが、このような構造の樹脂に限定されるものではない。入手又は調製が容易な点から、R
aがビニル基である、すなわち、末端にビニル基を一つ有する直鎖状ポリオルガノシロキサンであることが好ましく、さらには、Rがメチルである直鎖状シロキサンを用いることが入手の容易性の点からより好ましい。
【0034】
熱伝導性ポリシロキサン組成物には、組成物を硬化させるため、分子内に硬化性官能基を一つ有するポリオルガノシロキサンに加えて、硬化性官能基を二つ以上有するポリシロキサン樹脂が含まれる。硬化性官能基の硬化機構や種類は特に限定されないが、付加反応によって硬化するポリシロキサン樹脂が好ましい。硬化性官能基を有するポリシロキサン樹脂の一態様として、以下の一般式(4):
【化12】
(式中、
R
aは、それぞれ独立して、脂肪族不飽和基であり、
Rは、それぞれ独立して、C
1-6アルキル基又はC
6-12アリール基であり、
nは、23℃における粘度を0.01~50Pa・sとする数である)で示される、脂肪族不飽和基を含有する直鎖状ポリオルガノシロキサンが例示されるが、このような構造の樹脂に限定されるものではない。このような直鎖状ポリオルガノシロキサンのなかでも、Rが全てメチルであり、R
aがビニル基であるようなポリオルガノシロキサンが、入手の容易性から好ましく用いられる。
【0035】
分子内に硬化性官能基を一つ有するポリオルガノシロキサンの配合量は、ポリシロキサ分子内に硬化性官能基を持つポリオルガノシロキサン全体に対して、20~80質量部の範囲であることが好ましく、30~70質量部の範囲であることがより好ましい。この範囲とすることで、硬化物の硬さを下げることができ、かつブリーディングをより抑制することができる傾向がある。
硬化性官能基を有するポリオルガノシロキサン樹脂の配合量は、熱伝導性充填剤100質量部に対して3~30質量部の範囲であることが好ましく、3~10質量部の範囲であることがより好ましい。また分子内に硬化性官能基を一つ有するポリオルガノシロキサンの配合量は、熱伝導性充填剤100質量部に対して3~24質量部の範囲であることが好ましく、3~8質量部の範囲であることがより好ましい。この範囲とすることで、熱伝導性充填剤の有する高い熱伝導率を損なうことなく、ブリーディングを有効に抑制することができる。
【0036】
硬化性官能基が不飽和結合である場合には、組成物を硬化させるために後述の水素基含有ポリオルガノシロキサンが添加される。分子内に硬化性官能基を一つ有するポリオルガノシロキサンの量は、当該水素基含有ポリオルガノシロキサンの有するSi-H結合と不飽和結合、特にビニル基の物質量の比(H/Vi比)で調整することもできる。H/Vi比は、0.2~2.0の範囲であることが好ましく、0.4~1.5の範囲であることがより好ましい。H/Vi比を0.2以上とすることで、過剰なブリーディングを抑制することができる。また、H/Vi比を2.0以下とすることで、組成物の硬化を十分な量で達成し、硬度を適度に保つことができる。
【0037】
<<第2の発明>>
第2の発明における一つの態様は、熱伝導性充填剤と、表面処理剤として特定のシロキサン化合物と、1分子中に硬化性官能基を少なくとも二つ有するポリオルガノシロキサン樹脂とを含む、熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
【0038】
[熱伝導性充填剤]
第2の発明においては、第1の発明において説明したものと同様な熱伝導性充填剤を用いることができる。
【0039】
[シロキサン化合物]
第2の発明において用いられる表面処理剤には、前記一般式(1):
【化13】
(上記式及びR
2に含まれる式(2)中、R
1~R
4、Y、X、a、b、c、a+b+cは、先に定義したとおりであり、dは1~60の整数である)
で示されるシロキサン化合物(ただし、一般式(1)で示されるシロキサン化合物1分子あたりの、-SiR
4
2O-で示される単位の数は、合計で10~60である)が用いられる。
【0040】
R
2は、一般式(2):
【化14】
(式中、R
4及びYは、先に定義したとおりであり、dは、1~60の整数である)で示される基である。
【0041】
一般式(2)において、dの数は1~60の範囲、好ましくは4~40の範囲、より好ましくは10~30の範囲である。ただし、上記一般式(1)で示されるシロキサン化合物中に含まれる-SiR4
2O-単位の数が10~60の範囲になるように設計される。この範囲とすることで、流動性に対する効果を高め、高配合を可能とし、シロキサン化合物自体の粘度を抑えることができ、さらに安定性が向上する。
【0042】
aは1以上の整数であり、好ましくは1である。bは1以上の整数であり、1又は2であることが好ましいが、bの値は、上記一般式(2)中に含まれる-SiR4
2O-単位の数が1~60の範囲になるように、前記dの値と連動して設計される。例えば、bを1とするか、又は、bが2であり、dが10~30であるように設計することができる。cは0以上の整数、好ましくは0~2である。また、a+b+cの和は、4以上の整数であるが、合成が容易であることから4であることが好ましい。また、a又はbが2以上である場合において、シロキサン化合物中に含まれる、基R1を含む構造及び基R2を含む構造は、各々異なっていてもよい。
【0043】
以上説明したようなシロキサン化合物の代表例として、先に具体例として示した構造式を有する化合物を挙げることができるが、本発明の組成物はこれらを含むものに限定されるものではない。
【0044】
一般式(1)で示されるシロキサン化合物の配合量は、熱伝導性充填剤100質量部に対して0.01~20質量部の範囲である。シロキサン化合物の量をこの範囲とすることで、熱伝導性充填剤の充填性を高めつつ、熱伝導性を高くすることができる。シロキサン化合物の配合量は、より好ましくは0.1~15質量部の範囲である。また、硬化性官能基を有するポリシロキサン樹脂100質量部に対しては、0.01質量部以上用いることが好ましい。シロキサン化合物の量がポリシロキサン樹脂に対し0.01質量部未満であると熱伝導性充填剤の表面処理効果が少なくなり、高配合ができなくなる。また過剰であると、硬化後の機械的物性や耐熱性に悪影響を与えるため、より好ましくは0.1~500質量部の範囲である。
【0045】
[ポリオルガノシロキサン樹脂]
第2の発明において、付加反応によって硬化する、硬化性官能基を有するポリオルガノシロキサン樹脂は、1分子中に硬化性官能基を少なくとも二つ有するポリオルガノシロキサン樹脂である。上記条件を満足する限りにおいて、ポリオルガノシロキサン樹脂の構造に特段の制限はない。そのようなポリオルガノシロキサン樹脂の例としては、以下の一般式(3):
【化15】
(式中、
R
aは、それぞれ独立して、脂肪族不飽和基であり、
Rは、それぞれ独立して、C
1-6アルキル基又はC
6-12アリール基であり、
nは、23℃における粘度を0.01~50Pa・sとする数である)で示される、脂肪族不飽和基を両末端に含有する直鎖状ポリオルガノシロキサンが例示されるが、このような構造の樹脂に限定されるものではない。このような直鎖状ポリオルガノシロキサンのなかでも、Rが全てメチルであり、R
aがビニル基であるようなポリオルガノシロキサンが、入手の容易性から好ましく用いられる。
【0046】
硬化性官能基を有するポリオルガノシロキサン樹脂は、前記表面処理剤としてのシロキサン化合物との合計量が、熱伝導性充填剤100質量部に対して3~50質量部の範囲で用いられることが好ましく、3~40質量部の範囲であることがより好ましい。この範囲とすることで、熱伝導性充填剤の有する高い熱伝導率を損なうことなく、均一な熱伝導性ポリオルガノシロキサン組成物を得ることができる。
【0047】
ポリオルガノシロキサン樹脂は、付加反応硬化型、縮合反応硬化型などの硬化反応の機構により分類することができる。反応機構により分類した場合には、生産性及び作業性の観点から、付加反応硬化型ポリオルガノシロキサンを用いることが好ましい。付加反応硬化型ポリオルガノシロキサンとしては、(a)ベースポリマーである不飽和基含有ポリオルガノシロキサン、(b)架橋剤である水素基含有ポリオルガノシロキサン、(c)硬化用触媒である白金化合物、からなるものが知られている。第1の発明及び第2の発明においては、不飽和基を有するポリオルガノシロキサン樹脂が組成物中に含まれるため、付加反応硬化型ポリオルガノシロキサンとして、(a)を含むものとして第1の発明又は第2の発明において特定される熱伝導性ポリシロキサン組成物に加えて、上記(b)及び(c)成分と、場合によりさらに(a)成分を含むことにより構成されるポリオルガノシロキサン組成物とすることが好ましい。
【0048】
(a)成分の不飽和基含有ポリオルガノシロキサンとしては、1分子中にケイ素原子に結合した有機基のうち、少なくとも平均して0.5個以上の不飽和基が含有されていることが好ましい。不飽和基の数が1分子あたり0.5個より少ないと架橋にあずからない成分が増加するため、十分な硬化物が得られない。不飽和基の数が1分子あたり0.5個以上であれば基本的に硬化物は得られるが、余りに過剰であると硬化物の耐熱性が低下し、本来の目的を達成できなくなってしまうため、0.5~2.0個の範囲であることが好ましい。不飽和基は、ポリオルガノシロキサンを調製しやすいことからビニル基が好ましい。不飽和基は、分子鎖末端、分子鎖側端、いずれの位置に結合していてもよいが、硬化速度が高まり、硬化物の耐熱性も保てる点から、分子鎖末端にあることが好ましい。
【0049】
不飽和基含有ポリオルガノシロキサンにおけるその他の官能基としては、1価の置換又は非置換の炭化水素基が挙げられ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、ドデシル等のアルキル基;フェニル等のアリール基;2-フェニルエチル、2-フェニルプロピル等のアラルキル基;クロロメチル、3,3,3-トリフルオロプロピル等の置換炭化水素基等が例示される。メチル基又はフェニル基が合成の容易さから好ましい。
【0050】
不飽和基含有ポリオルガノシロキサンの構造は、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。また、その粘度は特に制限されないが、23℃における粘度が、0.01~50Pa・sであることが好ましい。
【0051】
一般的に、不飽和基含有ポリオルガノシロキサンは、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサンと、R3SiO0.5(ここで、Rは1価の炭化水素基である)単位を有するオルガノシロキサンとを、アルカリ、酸等の適切な触媒にて平衡化重合させ、その後、中和工程、余剰の低分子シロキサン分を除去することにより得られる。
【0052】
(b)成分の水素基含有ポリオルガノシロキサンは、Si-H結合を有するシロキサン化合物であり、架橋剤となる成分である。その配合量は、(a)成分の不飽和基1個に対し、ケイ素原子に直接結合した水素原子が0.2~5.0個となる量である。0.2個より少ないと、硬化が十分に進行せず、5.0個を超えると、硬化物が固くなり、また硬化後の物性にも悪影響を及ぼすことがある。また、1分子に含まれるケイ素原子に結合した水素基数は少なくとも2個以上であることが必要であるが、その他の条件、水素基以外の有機基、結合位置、重合度、構造等については特に限定されず、また2種以上の水素基含有ポリオルガノシロキサンを使用してもよい。
【0053】
水素基含有ポリオルガノシロキサンは、代表的には、一般式(4):
(Rb)x(Rc)ySiO(4-x-y)/2 (4)
(式中、
Rbは、水素原子であり、
Rcは、C1-6アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、好ましくはメチル)又はフェニル基であり;
xは、1又は2であり;
yは、0~2の整数であり、ただし、x+yは1~3である)
で示される単位を分子中に2個以上有する。
水素基含有ポリオルガノシロキサンにおけるシロキサン骨格は、環状、分岐状、直鎖状のものが挙げられるが、好ましくは、環状又は分岐状の骨格である。
【0054】
(c)成分の白金化合物は、(a)成分の不飽和基と(b)成分の水素基を反応させ、硬化物を得るための硬化用触媒である。この白金化合物としては、塩化白金酸、白金オレフィン錯体、白金ビニルシロキサン錯体、白金リン錯体、白金アルコール錯体、白金黒等が例示される。その配合量は、(a)成分の不飽和基含有ポリオルガノシロキサンに対し、白金元素として0.1~1000ppmとなる量である。0.1ppmより少ないと十分に硬化せず、また1000ppmを超えても特に硬化速度の向上は期待できない。また、より長いポットライフを得るために、反応抑制剤の添加により、触媒の活性を抑制することができる。公知の白金族金属用の反応抑制剤として、2-メチル-3-ブチン-2-オール、1-エチニル-2-シクロヘキサノール等のアセチレンアルコール、マレイン酸ジアリルが挙げられる。
【0055】
熱伝導性充填剤を配合させた組成物を調製する方法としては、シロキサン化合物と硬化性官能基を有するポリシロキサン樹脂と熱伝導性充填剤とを、混練機器を使用しそのまま調製してもよく、あるいはシロキサン化合物と充填剤とを先に混合し表面処理を施した後、硬化性官能基を有するポリシロキサン樹脂へ分散し調製してもよい。また、必要に応じ、加熱、減圧又はその他公知の方法による処理を実施してもよい。また、先に述べた付加反応硬化型ポリオルガノシロキサンを含む場合には、前述の(a)成分を先に配合した樹脂組成物を調製しておき、硬化させる直前に(b)成分及び(c)成分の混合物を添加することもできる。
【0056】
第1及び第2の発明において熱伝導性ポリシロキサン組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、当業者に公知の顔料、難燃剤、接着付与剤、耐熱付与剤、希釈剤、有機溶剤等を適宜配合することができる。
【0057】
第1及び第2の発明において熱伝導性ポリシロキサン組成物は、ポリシロキサン樹脂が有する硬化性官能基を硬化させて、シリコーンゴムとすることができる。ポリシロキサン組成物の硬化反応は、ポリシロキサン樹脂が有する硬化性官能基の種類に応じて適宜選択される方法によって行うことができる。
【0058】
硬化性官能基として、エポキシ基等熱により硬化反応を起こす官能基を有するポリオルガノシロキサンを用いる場合には、熱伝導性ポリシロキサン組成物に熱を掛けることにより硬化することもできる。熱硬化の条件は当業者に公知であるが、熱による硬化反応に用いることができる機器としては、例えば、恒温槽等の当業者に公知の装置が挙げられる。加熱条件は、組成物が適用される部材の耐熱温度に合わせて適宜調整することができ、硬化時間を決めることができる。例えば、40~100℃の熱を、1分~5時間の範囲で加えることができる。加熱温度は、操作性の観点から、50~90℃であることが好ましく、60~80℃であることがより好ましい。加熱時間は、硬化工程の簡便さの観点から、5分~3時間であることが好ましく、10分~2時間であることがより好ましい。
【0059】
<<第3の発明>>
本発明の一つの態様は、熱伝導性充填剤と、表面処理剤としてのシロキサン化合物と、ポリシロキサン樹脂から実質的になる、熱伝導性シリコーングリースである。
【0060】
[熱伝導性充填剤]
第3の発明においては、第1の発明において説明したものと同様な熱伝導性充填剤を用いることができる。
【0061】
[ポリオルガノシロキサン樹脂]
第3の発明においては、熱伝導性シリコーングリースには、グリースのベースとなるポリオルガノシロキサン樹脂が含まれる。ポリオルガノシロキサン樹脂としては、グリースのベースとして用いられるものであれば、直鎖状、分岐鎖状、環状のもの等、その構造に特に限定されることなく用いることができる。また、官能基を導入した変性シリコーンを用いることもできる。例えば、グリースの硬度を変化させる等の目的のために、ポリオルガノシロキサン樹脂は、硬化反応の反応点となるような硬化性官能基を有していてもよい。例えば、第1の発明及び第2の発明において説明したポリオルガノシロキサン樹脂を使用することができる。
【0062】
[シロキサン化合物]
第3の発明において熱伝導性シリコーングリースには、表面処理剤として、下記一般式(1):
【化16】
(上記式及びR2に含まれる式(2)中、R
1~R
4、Y、X、a、b、c、a+b+cは、先に定義したとおりであり、dは1~100の整数である)で示されるシロキサン化合物(ただし、一般式(1)で示されるシロキサン化合物1分子あたりの、-SiR
4
2O-で示される単位の数は、合計で1~150である)が用いられる。
【0063】
第3の発明における熱伝導性シリコーングリースは、上記三成分から実質的になるものであるが、ここでの「から実質的になる」とは、グリースにおいて従来公知の添加剤を加えることを排除するものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、当業者に公知の顔料、難燃剤、接着付与剤、耐熱付与剤、希釈剤、有機溶剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0064】
本発明の熱伝導性ポリシロキサン組成物を硬化させることによって得られるシリコーンゴム又はシリコーングリースは、電子機器、集積回路素子等の電子部品の放熱部材として使用することができる。
【実施例】
【0065】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例によって限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、部はすべて質量部を示す。
【0066】
以下の実施例及び比較例にて用いた材料は、以下のとおりである。
<熱伝導性充填剤>
平均粒径0.4μmの丸み状アルミナ(スミコランダムAA-04:住友化学製)
平均粒径5μmの球状窒化アルミ(HF-05:トクヤマ製)
平均粒径100μmの不定形窒化アルミ(TFZ-N100P:東洋アルミ製)
<ポリオルガノシロキサン樹脂>
α,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン;粘度0.35Pa・s
α,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン;粘度0.03Pa・s
α-ビニルポリジメチルシロキサン;粘度0.35Pa・s
α-ビニルポリジメチルシロキサン;MD
30M
Viで示される組成を有するシロキサン:粘度0.03Pa・s
<表面処理剤:一般式(1)で示されるシロキサン化合物>
以下の化学式(A-1)~(A-3)で示されるシロキサンを、各々の実施例及び比較例にて用いた。
【化17】
(式中、Dは、-Si(CH
3)
2O
2/2-単位(D単位)であり、nは、D単位の数を表す)
各実施例及び比較例で用いたシロキサン化合物の種類及びジメチルシリルオキシ基(D単位)の数は、表1に示すとおりである。以下において、「重合数」とは、シロキサン化合物中に含まれるD単位の数の合計を表す。ここで、シロキサン化合物の重合数の限度が熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化物(第1及び第2の発明)と熱伝導性シリコーングリースに用いられる場合とで異なっていることに注意されたい。
【0067】
【0068】
<<硬化用組成物>>
<不飽和基含有ポリオルガノシロキサン>
α,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン;粘度0.35Pa・s
<水素基含有ポリオルガノシロキサン>
MHDH
3D22MHで表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン:粘度0.02Pa・s
MDH
20D20Mで表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン:粘度0.03Pa・s
MHD20MHで表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン:粘度0.02Pa・s
<白金触媒>
Pt-DVi
4錯体(白金のテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン錯体)
Pt-MViMVi錯体(白金の1,2-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体)
<反応抑制剤>
マレイン酸ジアリル(東京化成工業株式会社製)
【0069】
実施例1~7、比較例1~6
[アルミナのシロキサン化合物による表面処理(1)]
ポリオルガノシロキサン樹脂及び必要に応じてシリコーンオイルを所定量、表面処理剤として、前記(A-3)で示される、重合数20のシロキサン化合物を2質量部、熱伝導性充填剤として平均粒径0.4μmの丸み状アルミナ(スミコランダムAA-04:住友化学製)を19.31質量部、平均粒径5μmの球状窒化アルミ(HF-05:トクヤマ製)を32質量部、平均粒径100μmの不定形窒化アルミ(TFZ-N100P:東洋アルミ製)を52質量部、プラネタリーミキサーにて所定の方法により混練し、無機充填剤を表面処理した熱伝導性ポリシロキサン組成物を得た。
【0070】
次に、得られた熱伝導性ポリシロキサン組成物に、白金触媒として前述した白金‐ビニルシロキサン錯体触媒(Pt-DVi
4錯体)を、触媒濃度が白金原子換算で2.5ppmとなる量加え、プラネタリーミキサーにて所定の方法により混練し、更に水素基含有ポリメチルシロキサンを各々所定量、プラネタリーミキサーにて所定の方法により混練し、実施例1~7及び比較例1~6の熱伝導性ポリシロキサン組成物を得た。得られた組成物について、JIS K6249に準拠して、回転粘度計(ビスメトロン VDH)(芝浦システム株式会社製)を使用して、No.7ローターを使用し、2rpm、5分間で、23℃における粘度を測定した。粘度の結果を表2に示す。
また、熱伝導性ポリシロキサン組成物を、内寸6mm(深さ)×60mm(縦)×30mm(横)のテフロン(登録商標)コートしたアルミニウム製の金型に流し込み、熱風循環式乾燥機を用い、150℃1時間で硬化させた。23℃まで硬化物を冷却後、JIS K6249に準拠してTypeE硬度を測定した。また、その硬化物の熱伝導率を、TPS1500(京都電子工業製(株))を用い測定した。結果を以下の表1に示す。
【0071】
(1)ブリーディングの測定
150℃1時間の硬化条件で、内寸6mm(深さ)×30mm(縦)×30mm(横)のテフロン(登録商標)コートしたアルミニウム製の金型を用い作成した実施例1~7、比較例1~6の硬化した熱伝導性ポリシロキサン組成物を23℃、相対湿度50%の環境下で、ろ紙の上に置いた状態で530gの荷重を1週間かけることにより、ブリーディングの量を測定した。1週間の試験前後でのろ紙の質量変化を、ろ紙に吸収されたオイル分の量、すなわちブリーディング量とした。結果を以下の表2に示す。
【0072】
(2)熱伝導率
熱伝導率計(TPS 1500)(京都電子工業製)を使用して、150℃1時間の硬化条件で、内寸6mm(深さ)×30mm(縦)×30mm(横)のテフロン(登録商標)コートしたアルミニウム製の金型を用い作成した2個のサンプルで、熱伝導率計のセンサーを挟み、熱伝導率を測定した。熱伝導率の単位はW/mKである。
【0073】
【0074】
表2より、分子末端の1箇所に硬化性官能基を有するシロキサン化合物をポリシロキサン樹脂に混合して用いることにより、当該シロキサンを用いていない比較例1~6と比べて、取扱いが可能な粘度でありブリーディングが少なく、かつ適度な硬度及び熱伝導率を保った組成物が得られることが示された(実施例1~7)。同じ程度の硬度であっても、実施例の熱伝導性ポリシロキサン組成物は、分子末端の1箇所に硬化性官能基を有するシロキサン化合物を用いていない組成物と比べて、ブリーディングの量が抑制されることが示された(実施例7と比較例6等)。また、従来用いられるオイルを配合すると、同様の配合を有する組成物と比較して熱伝導率の低下及びブリーディングが見られるようになり(実施例2と比較例3)、ブリーディングの抑制には不飽和基を1つ有するポリシロキサン樹脂を用いることが重要であることが示された。
【0075】
実施例8~19、比較例7~10
[アルミナのシロキサン化合物による表面処理(2)]
・配合例A
一般式(1)で示されるシロキサン化合物として実施例8~19及び比較例5~8に対応するシロキサン化合物を各々所定量、ポリオルガノシロキサン樹脂としてα,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン又はα-ビニルポリジメチルシロキサン(各々粘度0.35Pa・s)を所定量、及びアルミナとしてスミコランダムAA-04を100質量部、プラネタリーミキサーにて所定の方法により混練し、アルミナを表面処理した熱伝導性ポリシロキサン組成物Aを得た。得られた組成物Aについて、JIS K6249に準拠して、回転粘度計(ビスメトロン VDH)(芝浦システム株式会社製)を使用して、No.7ローターを使用し、10rpm、1分間で、23℃における粘度を測定した。実施例及び比較例での各成分の配合量及び粘度の測定結果を表3に示す。
【0076】
・配合例B
配合例Aにて調製した熱伝導性ポリシロキサン組成物A 66.65重量部に、不飽和基含有ポリオルガノシロキサンとしてα,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン(粘度0.35Pa・s)を4.5質量部及び前述した白金‐ビニルシロキサン錯体(Pt-MViMVi錯体)を触媒濃度が白金原子換算で2ppmとなる量、また、熱伝導性ポリシロキサン組成物A 残り66.65重量部に、水素基含有ポリメチルシロキサンとしてMDH
20D20M及びMHD20MHを各々0.7及び1.06質量部ずつ、反応抑制剤としてマレイン酸ジアリルを0.002質量部加え、プラネタリーミキサーにて所定の方法によりそれぞれ混練し、熱伝導性ポリシロキサン組成物B-1及びB-2を得た。得られた組成物B-1及びB-2を所定の割合になるように配合、均一に撹拌した後、内寸6mm(深さ)×60mm(縦)×30mm(横)のテフロン(登録商標)コートしたアルミニウム製の金型に流し込み、熱風循環式乾燥機を用い、70℃30分で硬化させた。23℃まで硬化物を冷却後、JIS K6249に準拠してTypeE硬度を測定した。また、その硬化物の熱伝導率を、TPS1500(京都電子工業製(株))を用いて実施例1と同様にして測定した。また、ポリシロキサン組成物B-1及びB-2を70℃の環境下に3日間置き、23℃まで冷却後、B-1及びB-2を所定の割合になるように配合、均一に撹拌した後、内寸6mm(深さ)×60mm(縦)×30mm(横)のテフロン(登録商標)コートしたアルミニウム製の金型に流し込み、熱風循環式乾燥機を用い、70℃30分で硬化させた。23℃まで硬化物を冷却後、JIS K6249に準拠してTypeE硬度を測定した。それらの結果を以下の表3に示す。
【0077】
【0078】
表3より、所定の範囲の重合数により適度な長さのシロキサン鎖構造を有するシロキサン化合物を表面処理剤として用いることにより、取扱いが可能な粘度であり、かつ加速試験においても硬さがほとんど変化しない、安定性に優れた組成物が得られることが示された。また、この性質はポリオルガノシロキサン樹脂の種類にもよらず発揮されることが示された(実施例13~15)。一方、D単位の重合数が60より大きいシロキサン化合物を用いた場合には、組成物の硬さが経時的に低下してしまい、安定性の点で問題が残る結果となった。
【0079】
実施例20~29、比較例11~13
[アルミナのシロキサン化合物による表面処理(3):グリースの調製]
・配合例A
一般式(1)で示されるシロキサン化合物として実施例20~28及び比較例9~11に対応するシロキサン化合物を各々所定量、ポリオルガノシロキサン樹脂としてα,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン(粘度0.35Pa・s)を所定量、及びアルミナとしてスミコランダムAA-04を100質量部、プラネタリーミキサーにて所定の方法により混練し、アルミナを表面処理した熱伝導性ポリシロキサン組成物Aを得た。なお、比較例3では表面処理剤としてのシロキサン化合物を用いなかった。得られた組成物Aについて、JIS K6249に準拠して、回転粘度計(ビスメトロン VDH)(芝浦システム株式会社製)を使用して、No.7ローターを使用し、10rpm、1分間で、23℃における粘度を測定した。各実施例及び比較例の成分の配合及び粘度測定結果を表4に示す。
【0080】
【0081】
表4より、適切な長さの直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物を用いることにより、表面処理剤を用いない場合(比較例11)よりも大きく粘度が低下し、取扱い性が良好な粘度の組成物が得られることが示された。一方、長い直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物を用いた場合には、均一な組成物こそ得られるものの、表面処理剤を用いない場合と粘度が大きく変わらず、取扱い性の面で満足のいくものではなかった(比較例9、10)。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の熱伝導性ポリシロキサン組成物によれば、流動性が良く取扱い性に優れ、かつ安定性に優れた、ブリーディングが抑制された組成物が得られる。また、本発明の熱伝導性シリコーングリースによれば、熱伝導性充填剤が高配合されるため、高い熱伝導性がもたらされる。更にその際の組成物の流動性も低下せず、優れた加工性、耐熱性も付与される。そのため、各種電子機器、集積回路素子等の電子部品の放熱部材として幅広く有効に利用することができる。