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7134598光学フィルム、これを備えたフレキシブルデバイス部材、及び樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】光学フィルム、これを備えたフレキシブルデバイス部材、及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220905BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20220905BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220905BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220905BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20220905BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L79/08
C08K3/36
C08J5/18 CEZ
C08J5/18 CFG
C08K5/5415
G02B1/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017093002
(22)【出願日】2017-05-09
(65)【公開番号】P2017203159
(43)【公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2016094348
(32)【優先日】2016-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】望月 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】上田 和正
(72)【発明者】
【氏名】岸田 明子
(72)【発明者】
【氏名】李 宗銘
(72)【発明者】
【氏名】呂 奇明
(72)【発明者】
【氏名】林 志成
(72)【発明者】
【氏名】曾 永隆
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-215412(JP,A)
【文献】特開平11-012465(JP,A)
【文献】特開2006-152173(JP,A)
【文献】国際公開第2016/060213(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08J 5/00 - 5/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、走査型電子顕微鏡の画像解析により測定される平均一次粒子径が22nm以上40nm以下であるシリカ微粒子と、を含み、
前記シリカ微粒子の含有量が、前記樹脂及び前記シリカ微粒子の合計の含有量を基準として15質量%以上80質量%以下であり、
前記シリカ微粒子の変動係数が0より大きく、かつ0.5以下であり、
膜厚が20μm以上200μm以下である 、光学フィルム。
【請求項2】
前記樹脂がポリイミド系高分子を含む、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記シリカ微粒子の平均一次粒子径が25nm以上40nm以下である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記シリカ微粒子の含有量が、前記樹脂及び前記シリカ微粒子の合計の含有量を基準として25質量%以上60質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記樹脂及び前記シリカ微粒子の合計の含有量100質量部に対して、0.1質量部以上3質量部以下の、反応性基を有するアルコキシシラン化合物をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
膜厚50μmにおける全光線透過率が85%以上であり、ヘイズが2.0以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の光学フィルムを備えたフレキシブルデバイス部材。
【請求項8】
ポリイミド系高分子を含む樹脂と、BET法により測定される平均一次粒子径が16nm以上40nm以下であり、かつ、動的光散乱法により測定される体積平均粒子径が25nm以上65nm以下であるシリカ微粒子と、を含み、
前記シリカ微粒子の多分散指数が13%以下である、 樹脂組成物。
【請求項9】
前記シリカ微粒子の含有量が、前記樹脂及び前記シリカ微粒子の合計の含有量を基準として15質量%以上80質量%以下である、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の樹脂組成物を用いてなる、光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、これを備えたフレキシブルデバイス部材、及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近のディスプレイの傾向として、軽量で、スリムな形状を有し、非平坦な表面においてムラのない表示が可能であることが求められている。そのため、ソフトでフレキシブルなディスプレイ基板がガラス基板に代わるものとして最近開発が進められてきている。
【0003】
その目的を達成するために、フレキシブルなプラスチック基板として、ポリカーボネート基板、ポリエチレンテレフタレート基板及びポリイミド基板などがフラットパネルディスプレイ用に開発されてきている。
【0004】
例えば、特許文献1では、微粒子化したシリカを分散させたポリイミド樹脂組成物から、従来の物性を保持したまま、透明性、フレキシブル性、耐折性に優れたポリイミドフィルムを得ることができる旨が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-215412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂組成物中のシリカ微粒子の割合を増やすと、形成されるフィルムの弾性率が向上する一方で耐屈曲性が低下する傾向があることから、耐屈曲性の改善がフレキシブルディスプレイ用の部材として使用するための課題となっている。また、シリカ微粒子を含む樹脂組成物の粘度の経時変化の抑制は、連続製膜を行う際の膜厚安定化にとって重要である。
【0007】
本発明は、透明性、全光線透過率及びYI値などの光学特性を維持しつつ、耐屈曲性を向上させた光学フィルム、これを備えたフレキシブルデバイス部材、並びに、透明性、全光線透過率及びYI値などの光学特性を維持しつつ、耐屈曲性を向上させた光学フィルムを形成可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の範囲の平均粒子径のシリカ微粒子を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、下記[1]~[11]に関する。
[1]樹脂と、走査型電子顕微鏡の画像解析により測定される平均一次粒子径が21nm以上40nm以下であるシリカ微粒子と、を含み、前記シリカ微粒子の含有量が、前記樹脂及び前記シリカ微粒子の合計の含有量を基準として15質量%以上80質量%以下である、光学フィルム。
[2]前記樹脂がポリイミド系高分子を含む、[1]に記載の光学フィルム。
[3]前記シリカ微粒子の平均一次粒子径が25nm以上40nm以下である、[1]又は[2]に記載の光学フィルム。
[4]前記シリカ微粒子の含有量が、前記樹脂及び前記シリカ微粒子の合計の含有量を基準として25質量%以上60質量%以下である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[5]前記樹脂及び前記シリカ微粒子の合計の含有量100質量部に対して、0.1質量部以上3質量部以下の、反応性基を有するアルコキシシラン化合物をさらに含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[6]膜厚50μmにおける全光線透過率が85%以上であり、ヘイズが2.0以下である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[7]膜厚が20μm以上200μm以下である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[8][1]~[7]のいずれか一項に記載の光学フィルムを備えたフレキシブルデバイス部材。
【0010】
[9]ポリイミド系高分子を含む樹脂と、BET法により測定される平均一次粒子径が16nm以上40nm以下であり、かつ、動的光散乱法により測定される体積平均粒子径が25nm以上65nm以下であるシリカ微粒子と、を含む樹脂組成物。
[10]前記シリカ微粒子の含有量が、前記樹脂及び前記シリカ微粒子の合計の含有量を基準として15質量%以上80質量%以下である、[9]に記載の樹脂組成物。
[11][9]又は[10]に記載の樹脂組成物を用いてなる、光学フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、含有するシリカ微粒子の粒子径を最適化することによって、光学フィルムの透明性、全光線透過率及びYI値などの光学特性を維持しつつ、耐屈曲性を向上させることができる。また、本発明によれば、前記光学フィルムを備えたフレキシブルデバイス部材を提供することができる。さらに、本発明によれば、透明性、全光線透過率及びYI値などの光学特性を維持しつつ、耐屈曲性を向上させた光学フィルムを形成可能であると共に、粘度の安定性が改善された樹脂組成物(ハイブリッドワニス)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2で得た光学フィルムのSEM画像である。
図2】実施例4で得た光学フィルムのSEM画像である。
図3】実施例5で得た光学フィルムのSEM画像である。
図4】実施例6で得た光学フィルムのSEM画像である。
図5】実施例7で得た光学フィルムのSEM画像である。
図6】比較例4で得た光学フィルムのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本明細書においてポリイミドとは、イミド基を含む繰り返し構造単位を主とする重合体であり、ポリアミドとは、アミド基を含む繰り返し構造単位を主とする重合体であり、ポリイミド系高分子とは、ポリイミドと、イミド基を含む構造単位及びアミド基を含む構造単位を主とする重合体とを示す。イミド基及びアミド基の両方を含む繰返し構造単位を含有する重合体の例としては、ポリアミドイミドが挙げられる。
【0015】
本発明に係る光学フィルム(以下、単にフィルムと表記することもある)は、少なくとも1種類以上の樹脂と、走査型電子顕微鏡の画像解析により測定される平均一次粒子径が21nm以上40nm以下であるシリカ微粒子とを含み、シリカ微粒子の含有量が、上記樹脂及び上記シリカ微粒子の合計の含有量を基準として15質量%以上80質量%以下であることを特徴とするフィルムである。
【0016】
本実施形態に係る樹脂としては、例えばポリイミド系高分子、ポリアミド、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、アセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シクロオレフィンポリマー及びそれらの共重合体等が挙げられる。透明性、耐熱性、各種機械物性に優れる点から、好ましくはポリイミド系高分子及びポリアミドであり、さらに好ましくはポリイミド系高分子である。含まれる樹脂は1種類であっても、2種類以上であってもよい。
【0017】
本実施形態に係るポリイミド系高分子は、後述するテトラカルボン酸化合物とジアミン化合物とを主な原料として製造することができ、式(10)で表される繰り返し構造単位を有する。ここで、Gは4価の有機基であり、Aは2価の有機基である。ポリイミド系高分子は、G及び/又はAが異なる、2種類以上の式(10)で表される構造を含んでいてもよい。また、本実施形態に係るポリイミド系高分子は、得られるポリイミド系高分子フィルムの各種物性を損なわない範囲で、式(11)~式(13)で表される構造の1種以上を含んでいてもよい。
【0018】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】
【0019】
G及びGは4価の有機基であり、好ましくは炭素数1~8の炭化水素基又はフッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基で置換されていてもよい炭素数4~40の有機基であり、式(20)~式(29)で表される基及び4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。式中の*は結合手を表し、Zは、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-Ar-、-SO-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH-Ar-、-Ar-C(CH-Ar-又は-Ar-SO-Ar-を表す。Arはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、具体例としてはフェニレン基、ナフチレン基、フルオレン環を有する基が挙げられる。得られるフィルムの黄色度を抑制しやすいことから、なかでも、式(20)~式(27)のいずれかで表される基が好ましい。
【0020】
【化5】
【0021】
は3価の有機基であり、好ましくは炭素数1~8の炭化水素基又はフッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基で置換されていてもよい炭素数4~40の有機基であり、式(20)~式(29)で表される基の結合手のいずれか1つが水素原子に置き換わった基及び3価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0022】
は2価の有機基であり、好ましくは炭素数1~8の炭化水素基又はフッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基で置換されていてもよい炭素数4~40の有機基であり、式(20)~式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基及び炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0023】
A、A、A及びAはいずれも2価の有機基であり、好ましくは炭素数1~8の炭化水素基又はフッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基で置換されていてもよい炭素数4~40の有機基であり、式(30)~式(38)で表される基;それらがメチル基、フルオロ基、クロロ基若しくはトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。式中の*は結合手を表し、Z、Z及びZは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又は-CO-を表す。1つの例は、Z及びZが-O-であり、かつ、Zが-CH-、-C(CH-、-C(CF-又は-SO-である。ZとZ、及び、ZとZは、それぞれ、各環に対してメタ位又はパラ位であることが好ましい。
【0024】
【化6】
【0025】
本実施形態に係るポリアミドは、式(13)で表される繰り返し構造単位を主とする重合体である。好ましい例及び具体例は、ポリイミド系高分子におけるG及びAと同じである。ポリアミドは、G及び/又はAが異なる、2種類以上の式(13)で表される構造を含んでいてもよい。
【0026】
ポリイミド系高分子は、例えば、ジアミンとテトラカルボン酸化合物(テトラカルボン酸二無水物等)との重縮合によって得られ、例えば特開2006-199945号公報又は特開2008-163107号公報に記載されている方法にしたがって合成することができる。ポリイミド系高分子の市販品としては、三菱瓦斯化学(株)製ネオプリムなどを挙げることができる。
【0027】
ポリイミド系高分子の合成に用いられるテトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。テトラカルボン酸化合物は、二無水物の他、酸クロライド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
【0028】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物及び4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式又は非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、その具体例としては、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル3,3’-4,4’-テトラカルボン酸二無水物及びこれらの位置異性体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
上記テトラカルボン酸二無水物の中でも、高透明性及び低着色性の観点から、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物が好ましい。
【0031】
なお、本実施形態に係るポリイミド系高分子は、得られるポリイミド系高分子を含むフィルムの各種物性を損なわない範囲で、上記のポリイミド系高分子の合成に用いられるテトラカルボン酸の無水物に加えて、テトラカルボン酸、トリカルボン酸及びジカルボン酸並びにそれらの無水物及び誘導体を更に反応させたものであってもよい。
【0032】
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-もしくはフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0033】
ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。具体例としては、テレフタル酸;イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-もしくはフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0034】
ポリイミド系高分子の合成に用いられるジアミンとしては、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン又はそれらの混合物でもよい。なお、本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環である。また「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香環やその他の置換基を含んでいてもよい。
【0035】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン及び1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
芳香族ジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の、芳香環を1つ有する芳香族ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等の、芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
上記ジアミンの中でも、高透明性及び低着色性の観点からは、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミンからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上を用いることがさらに好ましく、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンが含まれることがよりさらに好ましい。
【0038】
式(10)~式(13)で表される繰り返し構造単位を少なくとも1種含む重合体であるポリイミド系高分子及びポリアミドは、ジアミンと、テトラカルボン酸化合物(酸クロライド化合物、テトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸化合物類縁体)、トリカルボン酸化合物(酸クロライド化合物、トリカルボン酸無水物等のトリカルボン酸化合物類縁体)及びジカルボン酸化合物(酸クロライド化合物等のジカルボン酸化合物類縁体)からなる群に含まれる少なくとも1種類の化合物との重縮合生成物である縮合型高分子である。出発原料としては、これらに加えて、さらにジカルボン酸化合物(酸クロライド化合物等の類縁体を含む)を用いることもある。式(11)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びテトラカルボン酸化合物から誘導される。式(12)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン及びトリカルボン酸化合物から誘導される。式(13)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン及びジカルボン酸化合物から誘導される。ジアミン及びテトラカルボン酸化合物の具体例は、上述のとおりである。
【0039】
本実施形態に係るポリイミド系高分子及びポリアミドは、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が10,000~500,000であり、好ましくは50,000~500,000であり、さらに好ましくは100,000~400,000である。ポリイミド系高分子及びポリアミドの重量平均分子量が過度に小さいと、フィルム化した際の耐屈曲性が低下する傾向がある。ポリイミド系高分子及びポリアミドの重量平均分子量が大きいほどフィルム化した際に高い耐屈曲性を発現しやすい傾向があるが、ポリイミド系高分子及びポリアミドの重量平均分子量が大きすぎると、ワニスの粘度が高くなり、加工性が低下する傾向がある。
【0040】
ポリイミド系高分子及びポリアミドは、含フッ素置換基を含むことにより、フィルム化した際の弾性率が向上するとともに、YI値が低減される傾向がある。フィルムの弾性率が高いと、キズ及びシワ等の発生が抑制される傾向がある。フィルムの透明性の観点から、ポリイミド系高分子及びポリアミドは、含フッ素置換基を有することが好ましい。含フッ素置換基の具体例としては、フルオロ基及びトリフルオロメチル基が挙げられる。
【0041】
ポリイミド系高分子及びポリアミドにおけるフッ素原子の含有量は、ポリイミド系高分子又はポリアミドの質量を基準として、好ましくは1質量%以上40質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以上40質量%以下である。
【0042】
本実施形態に係るシリカ微粒子は二酸化ケイ素の粒子であり、非晶質であることが好ましい。その形状は球状、回転楕円体状、扁平楕円体状、鎖状などが挙げられる。
【0043】
本実施形態に係るシリカ微粒子は、フィルムにおいて良好な光学特性を示すという観点からは走査型電子顕微鏡の画像解析により測定される平均一次粒子径が小さいことが好ましい。一方、フィルムにおいて耐屈曲性に優れる、或いは、シリカ微粒子の凝集力が弱まるために樹脂組成物の状態で取り扱いやすいという観点からは平均一次粒子径が比較的大きいことが好ましく、その平均一次粒子径は、21nm以上40nm以下であり、好ましくは23nm以上40nm以下であり、さらに好ましくは25nm以上40nm以下である。本発明の一態様では、より好ましくは25nm以上35nm以下であり、ことさら好ましくは26nm以上33nm以下である。本発明の別の一態様では、より好ましくは28nm以上37nm以下であり、ことさら好ましくは31nm以上37nm以下、最も好ましくは32nm以上36nm以下である。
【0044】
フィルム中のシリカ微粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)の画像解析により求めることができる。
【0045】
また、本実施形態に係るシリカ微粒子の粒子径の分布は、平均一次粒子径をその標準偏差で割って求めた変動係数によって数値化することができる。シリカ微粒子の変動係数が小さいと、比較的粒子径が大きい微粒子の存在に伴う光学特性の低下が避けられることから、好ましくは0より大きく、かつ0.5以下であり、より好ましくは0より大きく、かつ0.4以下である。なお、前記の変動係数は、本評価方法では0.2以上となることが一般的である。
【0046】
本実施形態に係るフィルムにおける、シリカ微粒子の含有量は、樹脂及びシリカ微粒子の合計の含有量を基準(100質量%)として、15質量%以上80質量%以下である。シリカ微粒子の含有量は、フィルムの全光線透過率向上、弾性率向上及び原材料費抑制の観点からは高いことが好ましく、耐屈曲性に優れるという観点からは低いことが好ましい。シリカ微粒子の含有量の下限は、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、ことさら好ましくは30質量%以上である。シリカ微粒子の含有量の上限は、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下、ことさら好ましくは50質量%以下、最も好ましくは40質量%以下である。本発明の一態様として、シリカ微粒子の含有量は、好ましくは25質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以上55質量%以下である。
【0047】
本実施形態に係るフィルムは、以上説明した成分に加えて、更に添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、pH調整剤、シリカ分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤などの着色剤、難燃剤、滑剤及びレベリング剤が挙げられる。
【0048】
添加剤の具体例としては、反応性基を有するアルコキシシラン化合物が挙げられる。上記反応性基の具体例としてはビニル基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、イソシアネート基が挙げられ、好ましくはアミノ基である。反応性基を有するアルコキシシラン化合物の含有量は、樹脂及びシリカ微粒子の合計の含有量100質量部に対して、0.1質量部以上3質量部以下であることができる。
【0049】
本実施形態に係るフィルムは、膜厚50μmにおける全光線透過率が85%以上、ヘイズが2.0以下であることが好ましく、全光線透過率は90%以上であることがより好ましい。このような光学特性のフィルムは、光学用途に好適である。
【0050】
本実施形態に係るフィルムの厚さは、該フィルムが用いられるフレキシブルデバイス等で求められる特性に応じて調整されるが、通常10μm以上500μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下、さらに好ましくは30μm以上120μm以下、より好ましくは40μm以上90μm以下である。このような構成のフィルムは、耐久性と耐屈曲性とが両立する傾向がある。本実施形態に係るフィルムは耐屈曲性に優れ、フレキシブルデバイスの部材として特に有用である。
【0051】
また、本実施形態に係るフィルムに、紫外線吸収層、ハードコート層、粘着層、色相調整層などの機能層を付加した積層体とすることもできる。
【0052】
本実施形態に係るフィルムを適用可能なフレキシブルデバイスは、表示装置に限らない。例えば、光電変換素子が形成された基板と、基板表面に設けられた前面板とを有する太陽電池にも本実施形態に係るフィルムを前面板として採用できる。この場合、太陽電池が全体として優れた耐屈曲性を有することができる。
【0053】
次に、本実施形態に係るフィルムの製造方法の一例を説明する。
【0054】
本実施形態に係るフィルムの作製に用いる樹脂組成物は、例えば、上記テトラカルボン酸化合物、上記ジアミン及び上記添加剤から選択して反応させて得られる、ポリイミド系高分子及び/又はポリアミドの反応液、上記シリカ微粒子、有機溶媒並びに必要に応じて用いられる上記添加剤を混合、攪拌することにより調製することができる。ポリイミド系高分子等の反応液に変えて、購入したポリイミド系高分子等の溶液や、購入した固体のポリイミド系高分子等の溶液を用いてもよい。
【0055】
本実施形態に係る樹脂組成物に含まれる溶媒は、樹脂を溶解可能であればよい。例えば樹脂がポリイミド系高分子又はポリアミドであれば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶剤、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒を用いることができるが、これらの溶媒の中でも、アミド系溶剤又はラクトン系溶媒が好ましい。また、これら溶媒は単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0056】
次いで、調整した樹脂組成物を、例えばロール・ツー・ロール又はバッチ方式により基材に塗布して塗膜を形成する。その塗膜を乾燥してフィルムを形成させた後、基材からフィルムを剥離することによって、本実施形態に係るフィルムが得られる。基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材、SUSベルト、又はガラス基材が挙げられる。剥離後に更にフィルムの乾燥を行ってもよい。
【0057】
塗膜からのフィルムの形成及び乾燥は、温度50~350℃に加熱して、ワニスに含まれる溶媒を蒸発させることで、光学フィルムを得ることができる。溶媒は、除去されることが好ましい。必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下で実施してもよい。
【0058】
本実施形態に係る機能層は、例えば、ロール・ツー・ロール又はバッチ方式により、本実施形態に係るフィルム上に形成することができる。
【0059】
次に、本発明に係る樹脂組成物、それを用いてなるフィルム及びそれらの製造方法の一例を説明する。
【0060】
一実施形態に係る樹脂組成物は、ポリイミド系高分子を含む樹脂と、BET法により測定される平均一次粒子径が16nm以上40nm以下であり、かつ、動的光散乱法により測定される体積平均粒子径(以下、DLS径と表記することもある)が25nm以上65nm以下であるシリカ微粒子とを含む。
【0061】
本実施形態に係るポリイミド系高分子の具体例及び好ましい例は、フィルムの説明の項に記載のポリイミド系高分子の具体例及び好ましい例と同じである。本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリイミド系高分子以外の樹脂を含んでいてもよい。樹脂の具体例及び好ましい例は、フィルムの説明の項に記載の樹脂の具体例及び好ましい例と同じである。
【0062】
本実施形態に係る樹脂組成物の調製に用いられるシリカ微粒子は、有機溶剤等にシリカ微粒子を分散させたシリカゾルであっても、気相法で製造したシリカ微粒子粉末を用いてもよいが、ハンドリングが容易であることからシリカゾルであることが好ましい。
【0063】
本実施形態に係るシリカゾルは、ゾルゲル法などの各種公知の方法で調製することができる。シリカゾルの溶媒は、減圧濃縮や限外濾過などを利用する公知の溶媒置換方法によって調製することができる。シリカ微粒子の分散媒の具体例及び好ましい例は、フィルムの製造方法の項に記載の、樹脂組成物に含まれる溶媒の具体例及び好ましい例と同じである。
【0064】
シリカ微粒子の平均一次粒子径は、BET法により測定することができる。その平均一次粒子径は、16nm以上40nm以下であり、好ましくは21nm以上40nm以下であり、さらに好ましくは25nm以上40nm以下であり、さらにより好ましくは25nm以上35nm以下であり、最も好ましくは26nm以上33nm以下である。
【0065】
また、シリカ微粒子のDLS径は、十分に希釈された状態におけるDLS径である。シリカ微粒子のDLS径は、十分に希釈して調製されたシリカゾル組成物に対して動的光散乱法(DLS測定)にて評価することで、シリカ微粒子の特徴の特定が可能な値を得ることができる。具体的には、測定値が±1nm以内に収束するまで希釈と測定を繰り返し、一定になった際の測定値を採用することができる。その際のシリカ微粒子の濃度は、DLS径が20~100nmであれば、典型的には0.02~0.2質量%程度である。シリカ微粒子のDLS径は、25nm以上65nm以下であり、好ましくは30nm以上60nm以下であり、さらに好ましくは38nm以上60nm以下であり、さらにより好ましくは38nm以上57nm以下であり、最も好ましくは40nm以上53nm以下である。
【0066】
シリカ微粒子の多分散指数(PDI)は、シリカ微粒子の粒子径の分布(粒度分布)の広がりを示すパラメータであり、この値が大きいほど分布が広いことを意味する。PDIが15%以下の範囲内であると、シリカ微粒子の粒度分布が適度な広がりを有し、シリカ微粒子を添加することによるポリイミド系高分子を含むフィルムの弾性率の向上効果を充分に得ながら、シリカ微粒子がいくらか大きめである場合でも、添加による光学特性の悪化を抑制し耐屈曲性と透明性を両立しやすくなると期待される。シリカ微粒子のPDIは、13%以下であることが好ましく、11%以下であることがさらに好ましく、9%以下であることがさらにより好ましく、6%以下であることが特に好ましい。
【0067】
本実施形態に係る樹脂組成物におけるシリカ微粒子の含有量は、上記樹脂及び上記シリカ微粒子の合計の含有量を基準として、15質量%以上80質量%以下であることができる。シリカ微粒子の含有量は、フィルムの全光線透過率等の光学特性及び原材料費の観点からは高いことが好ましく、耐屈曲性に優れるという観点からは低いことが好ましい。シリカ微粒子の含有量の下限は、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、ことさら好ましくは30質量%以上である。シリカ微粒子の含有量の上限は、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下、ことさら好ましくは50質量%以下、最も好ましくは40質量%以下である。本発明の一態様として、シリカ微粒子の含有量は、好ましくは25質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以上55質量%以下である。
【0068】
本実施形態に係る樹脂組成物は更に溶媒を含む。樹脂組成物の調製に用いる溶媒は、樹脂を溶解可能であればよく、具体例及び好ましい例は、フィルムの製造方法の項に記載の、樹脂組成物に含まれる溶媒の具体例及び好ましい例と同じである。
【0069】
本実施形態に係る樹脂組成物は更に添加剤を含有していてもよく、具体的には、フィルムの説明の項に記載の添加剤が挙げられる。
【0070】
本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、上記ポリイミド系高分子及び必要に応じて用いられるポリアミド等の樹脂の溶液、上記シリカ微粒子、上記溶媒並びに必要に応じて用いられる上記添加剤を混合、攪拌することにより調製することができる。
【0071】
本実施形態に係る樹脂組成物を用いてなるフィルムは、上記樹脂組成物を例えばロール・ツー・ロール又はバッチ方式により基材に塗布して塗膜を形成する。その塗膜を乾燥してフィルムを形成させた後、基材からフィルムを剥離することによって、本実施形態に係るフィルムが得られる。基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材、SUSベルト、又はガラス基材が挙げられる。剥離後に更にフィルムの乾燥を行ってもよい。フィルムの製造方法は、大量生産に好適であるという理由から、ロール・ツー・ロール方式が好ましい。
【0072】
塗膜からのフィルムの形成及び乾燥は、温度50℃~350℃に加熱して溶媒を蒸発させることで行われる。必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下で実施してもよい。
【実施例
【0073】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0074】
(GBL置換シリカゾルの作製)
[合成例1~6]
ゾル-ゲル法により作製された、BET法により測定された平均一次粒子径が異なるアモルファスシリカゾルを原料とする溶媒置換により、γ-ブチロラクトン(以下、GBLと表記することもある)置換シリカゾルを得た。得られたGBL置換シリカゾルはいずれも、シリカ成分が30~32質量%であり、水分値が1.0質量%以下であった。原料のアモルファスシリカゾル及びGBL置換シリカゾルの一部を蒸留水で0.1質量%に希釈し、動的光散乱法によりGBL置換ゾルのDLS測定を行い、体積平均粒子径(DLS径)がそれぞれの原料と同等であることを確認した(表1参照)。また、得られたGBL置換シリカゾルの多分散指数(PDI:Polydispersity Index)を評価した。DLS径及び多分散指数の分析装置としては、Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments Ltd.製)を用いた。
【0075】
【表1】
【0076】
(ポリイミド系高分子)
樹脂AのGBL溶液及び樹脂Bは、市販品を用いた。また、樹脂Cを合成した。
樹脂A:三菱瓦斯化学(株)製「ネオプリム 6A20S」(ガラス転移温度390℃)
樹脂B:河村産業(株)製「KPI-MX300F(100)」
樹脂C:ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル及び2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンの共重合体であるポリイミド
【0077】
[合成例7]
樹脂BをGBLに溶解させ、GBL溶液とした。
【0078】
[合成例8]
公知文献(例えば、United States Patent; Patent No. US8,207,256B2)に準拠して、ポリイミド系高分子である樹脂を合成した。窒素置換した重合槽に、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物75.0g、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル76.4g、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン36.5g、GBL438.4g及び1-エチルピペリジン1.50gを仕込んだ。内温40℃にて攪拌して溶液とした後、続いて15分ごとに内温を10℃ずつ上昇させ、液中の水を留去しつつ内温200℃まで昇温した。
更に200℃で4時間保温した後に降温しつつ、N,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略すことがある)313.2gを加え、樹脂CのGBL/DMAc溶液を得た。
【0079】
(実施例1~17、比較例1~7)
上記ポリイミド樹脂の溶液に、合成例1~6で得たGBL置換シリカゾル、アミノ基を有するアルコキシシランのDMAc溶液及びGBLを加えて十分に混合することで、樹脂とシリカの質量比を変えた、樹脂/シリカ混合ワニス(以下、混合ワニスと表記することもある)を得た(表2参照)。その際の原料の仕込み比率は、混合ワニス中のGBLとDMAcの質量比が85:15となるように、アミノ基を有するアルコキシシランの量が樹脂とシリカの合計100質量部に対して1.67質量部になるように調節した。得られた混合ワニスを目開き10μmのフィルターでろ過した後、膜厚188μmのポリエチレンテレフタレートのフィルムに塗布した後、50℃から140℃の温度で乾燥させた。自己支持性となった樹脂を金枠に固定して210℃で乾燥させることで膜厚50μmのフィルムを得た。
【0080】
(評価方法)
実施例1~17及び比較例1~7で得たフィルムに対して、以下に記載の評価手法により、光学特性及び耐屈曲性を判定した。また、実施例5~8並びに比較例3及び4の混合ワニスに対して、以下に記載の評価手法により、粘度の安定性を判定した。評価結果を表2及び表3に示す。
【0081】
A.光学特性
透明性、全光線透過率及びYI値について、全ての評価結果の判定が○である場合、光学特性の評価を良好と判定して表2中、○で表記し、それ以外を不良と判定して表2中、×で表記した。透明性、全光線透過率及びYI値のそれぞれの評価手法及び評価基準は以下の通りとした。
a.透明性
フィルムを30mm×30mmの大きさにカットし、ヘーズコンピューター(スガ試験機(株)製HGM-2DP)を用いてヘイズ(%)を測定し、下記規準に基づいて判定した。
ヘイズが2.0%以下であるものを良好として、○と判定した。
ヘイズが2.0%を超えるものを不良として、×と判定した。
b.全光線透過率
フィルムを30mm×30mmの大きさにカットし、ヘーズコンピューター(スガ試験機(株)製HGM-2DP)を用いて全光線透過率(%)を測定し、下記規準に基づいて判定した。
透過率が85%以上であるものを良好として、○と判定した。
透過率が85%未満であるものを不良として、×と判定した。
c.イエローインデックス(YI値)
フィルムを30mm×30mmの大きさにカットし、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製V-670)を用いて、三刺激値(X,Y,Z)を求め、下記計算式に代入することにより、YI値を算出した。
YI=100×(1.2769X-1.0592Z)/Y
評価は下記規準に基づいて判定した。
YI値が4.0以下であるものを良好として、○と判定した。
YI値が4.0を超えるものを不良として、×と判定した。
【0082】
B.耐屈曲性
フィルムを、ダンベルカッターを用いて10mm×100mmの短冊状にカットした。カットしたフィルムをMIT耐折疲労試験機(東洋精機(株)製MIT-DA)本体にセットして、試験速度175cpm、折り曲げ角度135°、加重750g、折り曲げクランプのR 2.0mmの条件で、裏表両方向への折り曲げ強度を、破断までの屈曲回数として示す。評価基準は、各実施例で得たフィルムの耐屈曲回数を、樹脂の種類並びにポリイミド及びシリカの質量比が同一であり、かつ、GBL置換シリカゾルのグレードがGBLゾル3であるフィルムを基準として、その耐屈曲回数で除した値(以下、相対耐屈曲性と表記することもある)を算出し、下記基準に基づいて判定した。
相対耐屈曲性>1.2であるものを非常に良好とし、表2中、Aと表記した。
1.2≧相対耐屈曲性≧1.0であるものを良好とし、表2中、Bと表記した。
1.0>相対耐屈曲性≧0.8であるものを概ね良好とし、表2中、Cと表記した。
0.8>相対耐屈曲性であるものを不良とし、表2中、Dと表記した。
【0083】
C.ワニス安定性
混合ワニスの粘度をE型粘時計(BROOKFIELD製 DV-2+Pro VISCOMETER、使用コーンサイズ CPE-52)を用いて、回転数0.3rpm、室温25℃の条件で調製より3~4時間後及び27~28時間後に粘度を測定し、24時間あたりの粘度上昇の倍率(以下、増粘倍率と表記することもある)を算出し、下記基準に基づいて判定した。混合ワニスの粘度上昇が抑制されることにより、製膜を行う際に膜厚の安定化が容易になる。
1.1≧増粘倍率≧0.9を、非常に良好とし、表2中、◎で表記した。
2.0≧増粘倍率>1.1を、良好とし、表2中、○で表記した。
増粘倍率>2.0を不良とし、表2中、×で表記した。
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
D.フィルム中のシリカ微粒子の平均一次粒子径(SEM画像解析)
実施例2及び4~7、並びに、比較例4で得たフィルムに対して、以下に記載の評価手法及び評価基準により、フィルム中のシリカ微粒子の平均一次粒子径を確認した。実施例2及び4~7並びに、比較例4で得たフィルムのSEM画像をそれぞれ図1~6に示す。
【0087】
実施例2及び4~7、並びに、比較例4で得たフィルムについてSEM画像(画像粗さ:1.24nm/pix)を取得し、画像解析ソフト(ソフトウェアプログラム名:Image J)を用いて平均粒子径の解析を行った。
【0088】
<SEM観察条件>
装置:S4800((株)日立ハイテクノロジーズ製)
加速電圧:2kV
Work Distance:1.5mm
観察倍率:×80k
【0089】
<画像解析条件>
Filter:median 2pix
二値化:Auto Threshold Otsu
解析範囲:1200pix×860pix(x=70~1270pix、y=20~880pix)
Analyze Particle:Exclude on edges、Include holes
【0090】
Area>25pixのものについて楕円近似を行い長径・短径を算出した後、それらの平均値を算出し、平均一次粒子径とした。本評価方法で求められる平均一次粒子径は、原料シリカゾルのBET径に対して、下記式;
平均一次粒子径=BET径×0.7+11
の関係性があることが認められた。平均一次粒子径及び上記式に基づく計算値を表4に示す。
また、平均一次粒子径の標準偏差を算出した後、この値を平均一次粒子径で割ることで、変動係数を算出した。いずれの実施例においても、変動係数は、0.2以上0.5以下であった。実施例1、3、8~17および比較例1~3および5~7の平均一次粒子径は、それぞれフィルムの製造に用いたGBLゾルに応じた平均一次粒子径になる。
【0091】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6