(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】液状調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20220905BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20220905BHJP
A23L 27/60 20160101ALI20220905BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20220905BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L29/269
A23L27/60 A
A23L23/00
(21)【出願番号】P 2017138752
(22)【出願日】2017-07-18
【審査請求日】2020-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2016149194
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 允
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04342866(US,A)
【文献】特開2007-049908(JP,A)
【文献】Front Microbiol.,2015年,vol.6, Article 288
【文献】FFI Reports,2016年05月01日,vol.221, no.2,pp.179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 29/00
A23L 23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状調味料に対してウェランガムを0.1~0.5質量%添加することを特徴とする、液状調味料のフレーバーリリースを向上する方法であって、前記液状調味料がドレッシング類、ソース類及びタレ類からなる群から選択されるものである液状調味料のフレーバーリリースを向上する方法。
【請求項2】
ウェランガムを含有することを特徴とする液状調味料用フレーバーリリース向上剤であって、前記液状調味料がドレッシング類、ソース類及びタレ類からなる群から選択されるものである液状調味料用フレーバーリリース向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェランガムを含有する液状調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
食品に使用される多糖類には種々の起源のものがあり、その機能も多種多様である。起源としては、例えば、種子、根茎、樹液、果実、海藻、微生物等があり、それぞれ代表的な物質として、種子ではグアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、水溶性ヘミセルロース、タマリンドシードガム、及びサイリウムシードガム;根茎ではコンニャク粉、グルコマンナン、及びでん粉;樹液ではアラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、及びガティガム;果実ではペクチン;海藻では寒天、カラギナン、アルギン酸、及びアルギン酸塩;微生物ではキサンタンガム、ジェランガム、プルラン、及びカードラン等を挙げることができる。
【0003】
従来、液状調味料の品質を改良する目的で、上記の種々の多糖類が使用されている。例えば、特許文献1には油相と水相とからなり、該水相にキサンタンガム及びグアーガムを含有することを特徴とする分離型液状調味料が開示されている。また、特許文献2にはグアーガム0.02~1重量%を含む、食品からの離水防止効果を有する液状調味料が開示されている。また、特許文献3には未糊化澱粉、ローカストビーンガム及び食塩6.5質量%以上を含有することを特徴とする濃縮液体調味料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-78358号公報
【文献】特開2011-92186号公報
【文献】特開2013-39101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多様化する市場のニーズに応えるため、液状調味料用の品質改良剤として有用な新規の多糖類が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は新規の多糖類としてウェランガムに着目した。ウェランガムは、インキ組成物、コンクリート・セメント系材料、未加硫ゴム用材料、化粧組成物としての用途が知られているが、食品に用いることにより発揮される物性及び機能性の向上や改良についての検討はほとんどなされていない。本発明者は鋭意研究を重ねた結果、ウェランガムを使用することにより、液状調味料に対して種々の優れた効果を付与できることを見出した。
【0007】
詳細には、本発明は以下の態様を有するものである。
項1.ウェランガムを0.01~1質量%含有する液状調味料。
項2.液状調味料に対してウェランガムを0.01~1質量%添加することを特徴とする、液状調味料の製造方法。
項3.液状調味料に対してウェランガムを0.01~1添加することを特徴とする、液状調味料の保形性を向上する方法。
項4.ウェランガムを含有することを特徴とする液状調味料用保形性向上剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液状調味料にウェランガムを含有させることにより、液状調味料の保形性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で使用するウェランガムは、スフィンゴモナス属細菌(Sphingomonas sp.)の培養液から得られた多糖類を主成分とするものである。簡便には、一般に流通している市販製品を利用することが可能であり、具体的には三栄源エフ・エフ・アイ株式会社のビストップW等が例示できる。
【0010】
本発明において液状調味料とは、セパレートタイプドレッシング、乳化タイプドレッシング、ノンオイルドレッシング等のドレッシング類;ウスターソース、オイスターソース、トンカツソース、焼きそばソース、お好みソース等のソース類;ケチャップ、ピザソース等のトマト加工品類;醤油、チリソース、ドレッシングタイプ調味料等の各種調味料類;焼肉のタレ、団子のタレ、蒲焼のタレ、あんかけ用あん等の各種タレ類;パスタソース、カレーソース、ホワイトソース等の調味液類;又はこれらに類する食品を指す。
【0011】
本発明の液状調味料は、ウェランガムを0.01~1質量%、好ましくは0.05~0.8質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%含有することを特徴とする。液状調味料中のウェランガム含量が0.01質量%未満だと、保形性が十分に付与されない場合があり、1質量%を超えると、液状調味料の粘度が高くなり過ぎて液状調味料として適さなくなる場合がある。
【0012】
本発明の液状調味料に対するウェランガムの配合方法は特に制限されず、各種液状調味料における公知の製造方法に従い、その製造工程において適宜配合することができる。
【0013】
本発明によれば、液状調味料の保形性を向上させることができる。なお、本発明において「保形性が高い」とは液状調味料の流動性が低いことを意味し、「保形性が低い」とは液状調味料の流動性が高いことをする。
【0014】
通常、液状調味料は、野菜、果物、肉類、魚介類、穀類等の食品や、それらが調理された食品といった主食品の上にかけられ、主食品と一緒に喫食される場合が多い。そのため、液状調味料には、主食品との絡まりを良好にするため、また主食品への乗りを良好にするために、保形性が求められる。保形性が低いと、液状調味料が主食品の下に容易に流れ落ちてしまい、主食品と液状調味料を一緒に喫食するのが困難となる。
しかし、本発明によれば、液状調味料の保形性が向上することにより、例えば主食品の下に液状調味料が容易に流れ落ちるのが抑制され、主食品と液状調味料との付着性が向上し、主食品と液状調味料を同時に喫食できる。
【0015】
また、従来、保形性を向上させるために液状調味料に粘度を付与すると、液状調味料のフレーバーリリースが大きく損なわれるという問題があった。しかし、本発明によれば、粘度を付与してもフレーバーリリースが大きく損なわれることなく、良好な風味発現を有したまま液状調味料の保形性を向上することができる。
【0016】
さらに、従来、保形性を向上させるために液状調味料に粘度を付与する際、キサンタンガム等の増粘多糖類が使用されることが多いが、液状調味料に糊感、べたつき、ぬめり等といった食感の悪化が生じ、またその糊感、べたつき、ぬめり等が口腔内で長く残るという問題があった。しかし、本発明によれば、前記のように液状調味料の食感を損ねることなく、良好な食感を有したまま液状調味料の保形性を向上することができる。
【0017】
また、本発明は、ウェランガムを含有する液状調味料用保形性向上剤に関する。本発明の液状調味料用保形性向上剤は、各種液状調味料における公知の製造方法に従い、その製造工程において適宜配合することができる。
【0018】
本発明の液状調味料用保形性向上剤は、ウェランガム以外に各種添加剤を含有してもよい。前記各種添加剤としては、食品に使用されるものであり、本発明の効果を損ねないものであれば特に制限されない。例えば、増粘多糖類であれば、キサンタンガム、ガラクトマンナン(例えば、ローカストビーンガム、グアーガム、タラガム等)、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、カラギナン(例えば、カッパ型、イオタ型、ラムダ型等)、タマリンドシードガム、グルコマンナン、サイリウムシードガム、マクロホモプシスガム、寒天、ゼラチン、ペクチン(例えば、HMペクチン、LMペクチン等)、アルギン酸、アルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム等)、プルラン、カードラン、トラガントガム、ガティガム、アラビアガム、アラビノガラクタン、カラヤガム、ファーセレラン、キチン、スクシノグリカン、セルロース類(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、発酵セルロース、結晶セルロース等)、デンプン類(例えば、デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、α化デンプン、リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプン等)、デキストリン類(例えば、ポリデキストロース、難消化性デキストリン等)及び大豆多糖類等を挙げることができる。
【0019】
また、例えば、乳化剤であれば、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、蒸留モノグリセライド、反応モノグリセライド、ジ・トリグリセライド、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル等)、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ユッカ抽出物、サポニン、ステアロイル乳酸塩(例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩等)、ポリソルベート、大豆レシチン、卵黄レシチン及び酵素処理レシチン等を挙げることができる。
【0020】
その他、例えば、糖類、甘味料、酸味料、香料、着色料、可食性金属塩、賦形剤、有機酸、アミノ酸、ビタミン類、ミネラル類、保存料、日持ち向上剤、抗菌剤、静菌剤、酸化防止剤等を添加剤として使用することができる。
【0021】
本発明の液状調味料用保形性向上剤の剤形は特に制限されない。例えば、固体状(例えば、粉末、顆粒、錠剤等)、半固体状(例えば、ゲル、ペースト等)、及び液体状等を挙げることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、文中の「%」は質量%を示し、「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、「※」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0023】
実験例1 セパレートタイプドレッシングの調製
表1に掲げる処方にて、セパレートタイプドレッシングを調製した。詳細には、以下のとおりである。
1)80℃の水にウェランガム又はキサンタンガムを添加し、80℃で10分間撹拌した。
2)1)にサラダ油以外の材料を添加し、さらに5分間撹拌した。
3)容器にサラダ油と2)を充填し、室温まで冷却した。
【0024】
調製されたセパレートタイプドレッシングを撹拌し、各評価を行なった。詳細には、市販のカット野菜(ミックス野菜)10gの上に、セパレートタイプドレッシング10gをかけ、5分後の状態を観察することにより、保形性の評価を行なった。また、B型回転粘度計を用いて、60rpm、10℃の条件で、粘度計の測定開始ボタンを押してから1分後のセパレートタイプドレッシングの粘度を測定した。また、セパレートタイプドレッシングを喫食し、フレーバーリリース及び食感の官能評価を行なった。
結果を表1に示す。
【0025】
【0026】
キサンタンガムを含有するセパレートタイプドレッシング(比較例1)は保形性が悪く、カット野菜の下に容易に流れ落ちてしまった。一方、ウェランガムを含有する本発明のセパレートタイプドレッシング(実施例1-1)並びにウェランガム及びキサンタンガムを含有するセパレートタイプドレッシング(実施例1-2及び1-3)は保形性が向上し、カット野菜の下に流れ落ちることなく、カット野菜と同時に喫食することができた。
また、比較例1はセパレートタイプドレッシングが有するスパイス感や酸味といった風味の発現強度が弱く、また風味の発現開始もやや遅く、フレーバーリリースが悪かった。一方、実施例1-1~1-3は、比較例1と比べてフレーバーリリースが良好であり、セパレートタイプドレッシングが有する風味を感じやすかった。
また、比較例1は食感にぬめりが生じ、そのぬめりが口腔内で長く残った。一方、実施例1-1~1-3は食感にぬめりが生じることなく、すっきりとした食感を有していた。
以上のとおり、本発明によれば、フレーバーリリースを大きく損ねることなく、また食感の悪化を生じることなく、液状調味料の保形性を向上させることができると示された。
【0027】
実施例2 あんかけ用あんの調製
表2に掲げる処方にて、あんかけ用あんを調製した。詳細には、以下のとおりである。
1)水にウェランガム又はキサンタンガムを添加し、85℃で10分間撹拌した。
2)残りの材料を添加し、さらに5分間撹拌した。
3)2)を耐熱袋に充填し、85℃の湯浴中で30分間殺菌後、室温まで冷却した。
【0028】
調製されたあんかけ用あんについて、各評価を行なった。詳細には、ステンレス製バット上にあんかけ用あんを5g垂らし、60℃で1時間静置後の広がり具合(直径)を測定することにより、保形性の評価を行なった。また、B型回転粘度計を用いて、60rpm、60℃の条件で、粘度計の測定開始ボタンを押してから1分後のあんかけ用あんの粘度を測定した。また、あんかけ用あんを喫食し、フレーバーリリース及び食感の官能評価を行なった。
結果を表2に示す。
【0029】
【0030】
加工デンプンを3.8%含有するあんかけ用あん(比較例2)は、保形性の評価において、60℃で1時間静置後の直径が55mmだった。一方、ウェランガムを0.2%、加工デンプンを2%含有する本発明のあんかけ用あん(実施例2)は、60℃で1時間静置後の直径が40mmであり、比較例2と比べて優れた保形性を有していた。
また、比較例2はあんかけ用あんが有するスパイス感や酸味といった風味の発現強度が弱く、また風味の発現開始もやや遅く、フレーバーリリースが悪かった。一方、実施例2は、比較例2と比べてフレーバーリリースが良好であり、あんかけ用あんが有する風味を感じやすかった。
また、比較例2は食感に糊感、べたつきが生じ、その糊感、べたつきが口腔内に長く残った。一方、実施例2は食感に糊感、べたつきが生じることなく、すっきりとした食感を有していた。
以上のとおり、本発明によれば、フレーバーリリースを大きく損ねることなく、また食感の悪化を生じることなく、液状調味料の保形性を向上させることができると示された。
【0031】
実施例3 ソースの調製
表3に掲げる処方にて、ソースを調製した。詳細には、以下のとおりである。
1)水にウェランガム又はキサンタンガムを添加し、85℃で10分間撹拌した。
2)残りの材料を添加し、さらに5分間撹拌した。
3)2)を耐熱袋に充填し、85℃の湯浴中で30分間殺菌後、室温まで冷却した。
【0032】
調製されたソースについて、各評価を行なった。詳細には、B型回転粘度計を用いて、60rpm、20℃の条件で、粘度計の測定開始ボタンを押してから1分後のソースの粘度を測定した。また、ソースを喫食し、フレーバーリリース及び食感の官能評価を行なった。
結果を表3に示す。
【0033】
さらに、調製されたソースを焼きそば麺と混合し、焼きそばを調製した。詳細は以下のとおりである。
1)フライパンを中火で熱し、焼きそば麺を加える。
2)水50gを加え、焼きそば麺をほぐす。
3)上記で調製されたソース50gを加え、焼きそば麺に絡ませる。
4)調製された焼きそばを冷まし、10℃にて24時間静置後、電子レンジで加熱した(500W、2分間)。
【0034】
調製された焼きそばを喫食し、焼きそば麺と混合後のソースについて、食感の官能評価を行なった。
結果を表3に示す。
【0035】
【0036】
加工デンプンを2.5%含有するソース(比較例3)は、ソースが有するスパイス感や酸味といった風味の発現強度が弱く、フレーバーリリースが悪かった。一方、ウェランガムを0.2%、加工デンプンを1%含有する本発明のソース(実施例3)は、比較例2と比べてフレーバーリリースが良好であり、ソースが有する風味を感じやすかった。
また、比較例3はべたつきのある食感であり、焼きそば麺との混合後もべたつきを有していた。一方、実施例3は食感にべたつきが生じず、焼きそば麺との混合後もべたつきがなく、つるつるとした舌触りを有していた。
以上のとおり、本発明によれば、フレーバーリリースを大きく損ねることなく、また食感の悪化を生じることなく、液状調味料に粘度(保形性)を付与することができた。