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  • 特許-電気絶縁層を含む転がり軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】電気絶縁層を含む転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/64 20060101AFI20220905BHJP
   C23C 4/10 20160101ALI20220905BHJP
   C23C 4/18 20060101ALI20220905BHJP
   C23C 4/134 20160101ALI20220905BHJP
【FI】
F16C33/64
C23C4/10
C23C4/18
C23C4/134
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018025984
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2018162883
(43)【公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-01-18
(31)【優先権主張番号】10 2017 205 015.2
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】20 2017 101 725.7
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508282993
【氏名又は名称】アクティエボラゲット・エスコーエッフ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド・ベルガー
(72)【発明者】
【氏名】カール・プライス
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート・ヴェニンガー
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189887(JP,A)
【文献】特開2015-175500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/64
C23C 4/10
C23C 4/18
C23C 4/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1リング要素および第2リング要素を含み、前記第1および第2リング要素の間に転動体が回転可能に配置され、前記第1および/または第2リング要素の表面に電気絶縁層を含む転がり軸受であって、前記電気絶縁層は、セラミック層として構成され、かつ酸化アルミニウムAlおよび酸化チタンを含む金属酸化物の混合物から製造され、
前記絶縁層は、還元された酸化チタンTiOおよび/または金属チタンTiを含むか、またはこれらからなるチタン化合物を含み、かつ前記絶縁層は、硬化した合成樹脂からなるシーラーをさらに含み、
前記セラミック層中の金属チタンを含む還元された酸化チタンの還元されていない酸化チタンに対する比率は、少なくとも20%であることを特徴とする、転がり軸受。
【請求項2】
前記合成樹脂が、硬化したフェノール樹脂または硬化した嫌気性接着剤、好ましくメタクリル樹脂を含むか、または、これからなることを特徴とする、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
硬化したメタクリル樹脂が、重合したポリエチレングリコールメタクリレート、好ましくトリエチレングリコールメタクレート、および/またはテトラエチレングリコールメタクレートを含むことを特徴とする、請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記硬化したフェノール樹脂が、フェノール、フェノール-2-メチル、および/またはプロピレンを含むことを特徴とする、請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記セラミック層の気孔率が40%未満、好ましくは12%未満であり、気孔の平均直径が0.5μm~20μm、好ましくは0.5μm~7μmであり、前記気孔は、前記硬化した合成樹脂によって充填されていることを特徴とする、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項6】
セラミック層中の酸化アルミニウムAlの割合は、96~99.7重量%であり、かつ前記チタン化合物の割合は、0.3~4重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項7】
リング要素の表面に電気絶縁層を含む、転がり軸受のリング要素を製造する方法であって、前記電気絶縁層は、溶射法によって製造され、
- 酸化アルミニウムAlおよび酸化チタンを含む粉末を提供するステップと、
- 前記リング要素の表面に前記粉末を溶射するステップと、
- 有機シーラーを溶射層に適用するステップと、
を含み、
前記粉末を溶射するステップによって、前記粉末に含まれる酸化チタンがTiOおよび/またはTiOおよび/または金属チタンTiに少なくとも部分的に化学的に還元され、金属チタンを含む還元された酸化チタンの還元されていない酸化チタンに対する比率は、少なくとも20%となる方法。
【請求項8】
前記溶射がプラズマ溶射であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
燃料ガスの成分としてアルゴンおよび/または水素によって、溶射法が行なわれることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
メタクリル樹脂を含むシーラーが有機シーラーとして適用され、前記還元された酸化チタンの介在下で前記溶射層の気孔に嫌気的に重合されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
ハウジング要素内に回転可能に配置された機械部品を含む機械アセンブリであって、転がり軸受を用いて前記機械部品が前記ハウジング要素内に支持され、前記転がり軸受の第1の表面は、前記ハウジング要素の表面に接触し、かつ前記転がり軸受の第2の表面が前記機械部品の表面に接触し、前記ハウジング要素の前記表面および/または前記機械部品の前記表面が酸化アルミニウムAlおよび酸化チタンを含む金属酸化物の混合物から製造された電気絶縁セラミック層を含み、
前記電気絶縁セラミック層は、還元された酸化チタンTiOおよび/またはTiOおよび/または金属チタンTiを含むか、またはこれらからなるチタン化合物を含み、かつ前記電気絶縁セラミック層は、硬化した合成樹脂からなるシーラーをさらに含み、
前記電気絶縁セラミック層中の金属チタンを含む還元された酸化チタンの還元されていない酸化チタンに対する比率は、少なくとも20%であることを特徴とする、機械アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受けのリング要素の表面に電気絶縁層を有する転がり軸受に関し、さらには表面に電気絶縁層を含む転がり軸受けのリングを製造する方法に関する。さらに、本発明は、ハウジング要素または機械部品の表面に電気絶縁層を含む機械アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
ベアリングを通る電流の通過を防止するために外側リングの表面にセラミックコーティングを含む転がり要素ベアリングは、既に知られている。セラミックコーティングは、電気絶縁層として機能する。
【0003】
表面にセラミックコーティングを含むベアリングリングは、特許文献1から公知であり、コーティングは、プラスチックで充填された10%~50%の孔の割合を含む。
【0004】
さらに、リング要素の表面に電気絶縁層を含む転がり軸受ユニットが特許文献2から知られており、電気絶縁層は、TiOと混合されたAlを含む灰色の酸化アルミニウムから作られており、TiOの量は、1重量%未満である。TiOの割合を含むコーティングは、純粋な酸化アルミニウムAlでできたコーティングよりも電気抵抗が小さいが、選択されたコーティングは、二酸化チタンの割合によりコーティングがリングの金属表面によく接着するという利点がある。
【0005】
さらに、2%から6%の多孔度を有する表面上に溶射されたセラミック層を含む、転がり軸受のリングが特許文献3から知られている。多孔性は、有機シーラーで充填される。
【0006】
特許文献4から、表面上にスプレーコートされたセラミック層を含む転がり軸受けのリングが知られており、このスプレーコートされたセラミック層は、2%~40%の二酸化チタンTiOの割合を含む。
【0007】
特許文献5から、酸化アルミニウムと二酸化チタンからなるリング上のセラミックコーティングが知られており、0.01重量%~0.02重量%の二酸化チタンTiOの割合を含み、酸化アルミニウムの粒径が10μm~50μmに及び、平均サイズは、15μm~25μmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】独国特許出願公開第10 2013 104 186号明細書
【文献】欧州特許第1 528 274号明細書
【文献】特開2008-050669号公報
【文献】特許第5850464号明細書
【文献】米国特許第8,425,120号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、動作時に、層の薄い断面を有すると共に、異なる動作条件下で、層の電気抵抗を確実に高い値に維持するような、電気絶縁コーティングを含む転がり軸受をさらに開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるこの目的の解決法は、電気絶縁層がセラミック層として構成され、酸化アルミニウムAlと酸化チタンを含む金属酸化物の混合物から製造され、絶縁層が還元された酸化チタンTiOおよび/または金属チタンTiを含むか、またはこれらから構成されたチタン化合物を含み、絶縁層は、さらに硬化した合成樹脂からなるシーラーを含む。
【0011】
本発明によれば、セラミック層は、粉末形態の金属酸化物からなる粉末から製造される。製造に使用される粉末は、本質的に酸化アルミニウムAlと酸化チタンからなる。ここで、酸化チタンは、本質的に二酸化チタンTiOとして存在するが、二次量の準化学量論的な酸化チタンTiOx、例えばTiO1.7を含有することもできる。リング要素の表面の本発明のセラミック層は、化学的に還元された酸化チタンTiOおよび/または金属Tiを本質的に含有する。ここで、還元された酸化チタンTiOは、酸化チタン(II)TiO、酸化チタン(III)Ti、および非化学量論的亜酸化物TiO、例えばTiO1.7として様々な原子価で存在することができる。さらに、チタンは、非還元型酸化チタン、酸化チタン(IV)TiOとして存在することもできる。しかし、セラミック層中の金属チタンを含む還元された酸化チタンの還元されていない二酸化チタンに対する比率は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも80%であることが必須である。
【0012】
粉末形態およびセラミック層の両方において、「酸化チタン」は、酸化チタン(II)TiO、酸化チタン(III)(TiO)、酸化チタン(IV)(TiO)およびTiOからTiOの範囲の組成を有する非化学量論的亜酸化チタンのような酸素を含むチタンの化合物を意味する。
【0013】
本発明によれば、セラミック層はさらに、硬化した合成樹脂からなるシーラーを含む。還元された酸化チタンおよび/または金属チタンを含むセラミック層と合成樹脂との組み合わせが、電気的絶縁層をもたらし、これは永続的に湿気の多い環境において、今日既知のセラミック層と比較して電気絶縁効果が著しく改善されるという点で有利である。電気的特性に関して、セラミック層の耐水性は、従来知られているセラミック層よりも著しく優れている。理想的な乾燥環境での抵抗値から最大湿潤環境での抵抗値になると、電気抵抗は、もっぱら純粋な白色酸化アルミニウムAlからなる比較的密閉されたセラミック層と比較して少なくとも10倍以上高い抵抗値を保つ抵抗値に設定されていることが分かった。
1つの好ましい設計によれば、合成樹脂は、硬化フェノール樹脂または硬化嫌気性接着剤を含むか、またはこれからなる。
【0014】
嫌気硬化性接着剤は、ジメタクリル酸エステルであると理解することができ、これは例えばメタクリル酸とテトラエチレングリコールとのテトラエチレングリコールジメタクリレートへのエステル化によって生成され、次いで重合によって硬化メタクリル樹脂に変化する。
【0015】
ここで、還元した酸化チタンまたはチタンを含むセラミック層をフェノール樹脂でシールすることにより、フェノール樹脂の硬化をサポートし、硬化したフェノール樹脂の安定化につながるため有利である。共同でこの原因となるのは、例えばTiOの強い還元性質である。さらに、フェノール樹脂のアルケンラジカルの金属触媒による硬化をもたらす、層に含まれる還元された酸化チタン含有物は、安定化を助けることができる。さらに、本発明のセラミック層とフェノール樹脂との組み合わせは、シールセラミック層の均一な着色が硬化直後に実質的に設定されるので、時間の経過におけるシール層の変色が防止されるという利点を有する。ここでは、フェノール、フェノール-2-メチル、および/またはプロピレンを含むフェノール樹脂が特に有利であることが判明している。さらなる利点は、毛細管現象により、フェノール樹脂がセラミック層の最も細かい中間空間および細孔に浸透することができ、そうでなければ、例えば真空含浸を使用してこれらの中に押し込まれ、そこで硬化され得ることである。
【0016】
メタクリル樹脂のような嫌気性接着剤を用いたセラミック層のさらに好ましいシールは、メタクリル樹脂と還元された酸化チタンまたはチタンを含むセラミック層との組み合わせがメタクリル樹脂のラジカル重合をサポートするという利点を有する。ここでは、毛細管作用により、メタクリル樹脂がセラミック層の最も細かい中間空間及び細孔に浸透することができ、又は、例えば真空含浸を使用してこれらに押し込まれ、嫌気的に、つまり無酸素条件化で硬化されるという点で有利である。層に存在するチタン化合物、金属チタンおよび還元された酸化チタンは、ここでメタクリル樹脂の架橋、すなわち硬化のための触媒として作用する。セラミック層中の金属チタンおよび/または還元された酸化チタンの有機シーラーとしてのメタクリル樹脂との好ましい組合せにより、驚くべきことに、湿った環境条件下では、層が導電体としての金属チタンまたはTiOおよび/または半導体としての還元されたチタン酸化物を含んでいるとしても、セラミック層は、電気絶縁層として理想的に適している。ここで、還元された酸化チタンおよび/または金属チタンの存在により、樹脂で満たされた細孔に隣接する、つまり直接的に樹脂と接触する還元された酸化チタンおよび/または金属チタンが、嫌気性ラジカル重合のための個々の出発点として役立つため、樹脂の硬化を完全に進行させることができる。これらの出発点がセラミック層に均一に分布していると、樹脂の完全な重合が層全体で起こる。メタクリル樹脂の代わりに、還元された酸化チタンと相互作用する類似の方法で触媒的に硬化する他の嫌気性接着剤を使用することもできる。
【0017】
好ましい設計は、硬化した嫌気性メタクリル樹脂が重合したポリエチレングリコールジメタクリレートを含有する。トリエチレングリコールジメタクリレートおよびテトラエチレングリコールジメタクリレートは、ここではメタクリル樹脂の成分として特に有利であることが分かっている。さらに、シクロヘキサジエンまたはイソベンゾフランジオンまたは無水マレイン酸は、単独でまたは組み合わせて、追加の成分として有利である。
【0018】
1つの好ましい設計は、セラミック層の気孔率が40%未満、好ましくは12%未満であり、気孔の平均直径が0.5μm~20μm、好ましくは0.5μm~7μmであり、気孔は、硬化した合成樹脂によって充填されている。この多孔度と平均孔径の組み合わせによって、使用する合成樹脂が硬化前にセラミック層全体に確実に浸透するという点で有利である。なぜなら、選択された気孔率と孔径により、樹脂リザーバが層内に均一に分布し、樹脂リザーバは、毛細管現象によって可能な限り相互に接続されるからである。これにより、液状の合成樹脂をセラミックス層の表面に塗布し、毛細管現象などにより深部まで確実に浸透させることができる。
【0019】
さらに好ましい設計は、セラミック層に含まれる還元された酸化チタンおよび金属チタンが、介在物として形成され、これは、通常、セラミック層の表面に垂直な方向に比べて、セラミック層の表面に平行な方向に、著しく大きな平均的な広がりを有する。介在物は、薄板状または鱗片状(英語の「フラット」)で形成されることが好ましい。
ここで、介在物は、好ましくは、セラミック層の表面に垂直な方向に15μm未満、好ましくは5μm未満の平均的な広がりを有する。セラミック層の表面に平行、すなわち鱗片状の介在物の長手方向の広がりにおいて、これらは、5μm~80μmの平均的な広がりを有する。還元された酸化チタンおよび/またはチタンを含む介在物のこの鱗片状の設計では、これらの介在物は、球状介在物に比べてその容積に対して非常に大きな表面積を有することが有利である。少なくとも、より大きな介在物は、このような鱗片状構造を有する。表面積が大きいため、これらの介在物の表面に十分な孔が直接隣接していることが保証される。したがって、それらは、樹脂と触媒的に接触することができる。表面に平行な鱗片状の介在物の配向により、表面に垂直に浸透する樹脂がセラミック層の深さへの途中で還元された酸化チタンまたはチタンの鱗片状の介在物にあう可能性は、介在物が浸透方向に対して垂直に配向にされているため、かなり多い。少なくともより大きな介在物の体積に対する表面積の有利な比のために、樹脂と接触している介在物の表面積を、信頼できる触媒重合に必要な値以下にすることなく、セラミック層中のチタン化合物の全体の割合を低く保つことができる。チタン化合物は、電気半導体や電気導体でもあるので、この観点からは、チタン化合物の割合を低くすることが望ましい。言い換えれば、セラミック層中のチタン化合物の介在物がすべてのサイズにわたって同じ割合で球状に形成されれば、樹脂との接触に利用可能な表面積は著しく小さくなる。同じ表面積を得るために、チタン化合物の割合を増やす必要があり、これは、セラミック材料の電気抵抗に悪影響を及ぼす。
【0020】
好ましい設計は、セラミック層中の酸化アルミニウムAlの割合が96~99.7重量%であり、チタン化合物の割合が0.3~4重量%である。セラミック層中のチタン化合物の1%~2%の割合が特に好ましい。セラミック層中の各チタン化合物、すなわち二酸化チタンTiO、酸化チタン(II)(TiO)、酸化チタン(III)(Ti)、準化学量論的酸化チタンTiO、および金属チタンTiが、チタン化合物の割合としてカウントされる。
【0021】
ここで好ましい層の厚さは、10μm~3000μm、さらに好ましくは750μm~3000μmである。
【0022】
本発明のさらなる態様によれば、本発明の転がり軸受のリング要素を製造する方法が提案される。本発明によれば、リング要素の表面に電気絶縁層が設けられ、電気絶縁層は、溶射法によって製造され、
- 酸化アルミニウムAlおよび酸化チタンを含む粉末を提供するステップと、
- 粉末をリング要素の表面に溶射するステップと、
- 溶射層に有機シーラーを塗布するステップと、
を含む。
【0023】
本発明によれば、酸化アルミニウムAlおよび酸化チタンを含む粉末を溶射することにより、粉末に含まれる酸化チタンは、少なくとも部分的に化学的にTiOおよび/またはTiOおよび/または金属チタンTiに還元される。
【0024】
さらに好ましい工程として、シーラーは、少なくとも部分的に化学的にTiOおよび/またはTiOおよび/または金属チタンTiに還元された酸化チタンとの相互作用によって塗布後に硬化する。
【0025】
より良好な層の接着のためには、リング要素の被覆すべき表面は、好ましくは、溶射に先立って洗浄され、続いて乾燥および/または追加のサンドブラストが施される。
【0026】
ここで有利には、完成した製造されたセラミック層において、還元された酸化チタンの割合は、最初の粉末と比較して著しく増加することができる。好ましくは、粉末は本質的に還元された酸化チタンを含有する必要はなく、酸化チタン(IV)(TiO)のみを酸化チタンとして含有することができる。溶射法により、二酸化チタンTiOは、酸化チタン(II)、酸化チタン(III)、非化学量論的亜酸化物TiO、例えばTiO1.7に化学的に還元することができる。さらに、二酸化チタンTiOを金属チタンTiに還元することができる。しかし、粉末は初期の粉末として使用することもでき、この粉末は、二酸化チタンTiOに加えて還元された酸化チタンの割合を既に含んでいる。本発明によれば、溶射法により、還元された酸化チタンおよび/または金属チタンの割合を増加させることができる。
【0027】
本方法の1つの好ましい実施形態は、溶射法がプラズマ溶射法である。また、溶射法は高速フレーム溶射も可能である。また、溶射法は、サーマルサスペンション溶射法も可能である。
【0028】
プラズマ溶射または高速フレーム溶射によって、溶射層に還元された酸化チタンおよび/または金属チタンが含まれるように、チタン化合物の化学的還元を正確に制御することが有利である。
【0029】
この方法の1つの好ましい実施形態は、プロセスガスの成分としてアルゴンおよび/または水素を用いて溶射法が実施される。
【0030】
ここで、供給されたコーティング粉末を溶融するために使用されるガス混合物は、プロセスガスと呼ばれる。プロセスガスは、プラズマ形態になることができるほど熱い。
【0031】
ここで、プラズマに含まれる水素は、チタン化合物の化学還元を行う。化学還元の量は、プラズマ溶射によって特に確実に制御することができる。したがって、例えば、プラズマ中のアルゴン対水素の比によって、溶射層中の還元成分およびその割合を正確に設定することができる。プラズマ中の水素の割合の増加は、例えば、化学還元の最終生成物中の金属チタンの割合を増加させる。また、プラズマプロセスガスとして窒素またはヘリウムを用いて溶射法を実施することもできる。溶射層中の還元成分およびその割合は、異なるプロセスガスによって正確に設定することもできる。
【0032】
さらに、還元比は、プラズマ中の粉末の滞留時間によって制御することができ、それは、プラズマのガス流および/またはガス圧および経路によって設定することができる。溶射層の還元成分およびその割合は、同様にプラズマの温度によって制御することができる。好ましくは、プラズマ溶射は、10,000ケルビンを超えるプラズマ温度で行われる。
【0033】
さらに、溶射層中の細孔サイズならびに溶射層中のチタン化合物を含む介在物のサイズおよび形状は、プラズマ溶射における適切なパラメータによって設定することができる。本方法の1つの好ましい実施形態は、上記のように溶射層の表面に対して様々な方向で溶射層に気孔率、平均細孔径、および介在物の平均サイズが生じるような方法を実施することである。
【0034】
本方法の1つの好ましい実施形態では、メタクリル樹脂を含有するシーラーが、有機シーラーとして適用され、それは、還元された酸化チタンの介在下で溶射層の気孔内で嫌気的に重合される。電気絶縁層は、それによって特に良好な耐湿性を有するという点で有利である。還元された酸化チタンは、既に記載されているように、樹脂の嫌気的重合のための金属触媒として作用する。
【0035】
本方法のさらに好ましい実施形態では、酸化アルミニウムAlおよび二酸化チタンを含む粉末を提供するステップが、溶射法に応じて平均粒径が0.01μm~63μm、好ましくはプラズマ溶射法の場合は、5μm~63μm、最も好ましくは10μm~30μmの粉末を用いることが効果的である。好ましい一実施形態では、粉末が提供される前に、第1の粉末は、溶射層中の酸化アルミニウムAlと全てのチタン化合物の比に対応する所望の混合比での酸化アルミニウムAlを含む粉末および二酸化チタンを含む粉末から作られる。好ましくは、対応する混合第1の粉末は、溶融され、均質化される。冷却した固体金属酸化物ブロックを引き続き粉砕して第2の粉末を形成する。ここでは、第1および第2の粉末全体におけるチタン化合物の割合が同じままであることが有利である。しかし、第1の粉末中の粒子が酸化アルミニウムAlまたは二酸化チタンのいずれかからなるため、チタン化合物を含有する粉末中の粒子の割合は、第1の粉末よりも第2の粉末中で著しく大きい。第2の粉末では、個々の粒子はすでに酸化アルミニウムAlとチタン化合物の混合物で構成されている。このようにして製造された第2の粉末により、チタン化合物を含む介在物の平均サイズは、同じ割合のチタン化合物を有する第1の粉末と比較して低減することができる。さらなる利点は、溶射層中のチタン化合物を含む介在物の均一性の向上とより均一な分布である。あるいは、粉末は、溶融された酸化アルミニウムAlを含む粉末と、所望の混合比で溶融酸化アルミニウムAlに添加され、溶融物に均質化された二酸化チタンを含む粉末から製造することができる。ここでは、溶融物の混合比の両方の製造方法において、メルト損失による濃度シフトを考慮している。冷却した固体金属酸化物ブロックを引き続き粉砕して第2の粉末を形成する。上記の利点は、粉末の両方の製造方法に適用される。
【0036】
本発明のさらなる態様は、ハウジング要素内に回転可能に配置された機械部品を含む機械アセンブリに関し、機械部品は、転がり軸受を使用してハウジング要素内に支持され、転がり軸受の第1の表面は、ハウジング要素の表面と接触し、転がり軸受の第2の表面は、機械部品の表面と接触し、ハウジング要素の表面および/または機械部品の表面が、酸化アルミニウムAlと酸化チタンを含有する金属酸化物の混合物から製造される電気絶縁セラミック層を含み、絶縁層は、還元された酸化チタンTiOおよび/またはTiOおよび/または金属チタンTiを含有するか、またはこれらからなるチタン化合物を含み、絶縁層は、硬化した合成樹脂からなるシーラーをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】機械アセンブリのハウジングに取り付けられた本開示による転がり軸受の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
ここで、本開示の実施形態を説明する目的で提供されたものであって、限定する目的ではない図面を参照すると、図は、機械ハウジング10を示しており、シャフトの形の機械部品12が回転するように取り付けられている。外輪16と内輪18と複数のローラ要素20とを有する軸受14が、機械部品12をハウジング10に対して回転可能に支持する。ハウジング10の表面22および/または軸受14の表面24および/または機械部品の表面26は、本開示による絶縁コーティングでコーティングされている。図中の絶縁コーティングの位置は例示であり、コーティングはハウジングおよび/またはベアリングおよび/または機械部品の任意の表面に形成することができる。
【0039】
本発明の代表的で非限定的な実施例を添付の図面を参照して詳細に説明した。この詳細な説明は、本教示の好ましい態様を実施するためのさらなる詳細を当業者に教示するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。さらに、上に開示された追加の特徴および教示の各々は、絶縁層を有する改良された転がり軸受を提供するために、別々にまたは他の特徴および教示と併せて利用されてもよい。
【0040】
さらに、上記の詳細な説明に開示された特徴およびステップの組み合わせは、最も広い意味で本発明を実施するために必要でなくてもよく、代わりに単に本発明の代表的な例を説明するために教示される。さらに、上述の代表例の様々な特徴、ならびに以下の様々な独立請求項および従属請求項は、本教示のさらなる有用な実施形態を提供するために具体的および明示的に列挙されない方法で組み合わせることができる。
【0041】
本明細書および/または特許請求の範囲に開示されている全ての特徴は、実施形態および/または特許請求の範囲における特徴の組み合わせから独立して請求された主題を制限する目的のためだけでなく、元の書面による開示の目的で、互いに個別に独立して開示されることを意図されている。さらに、実体のすべての値の範囲または指定は、請求された主題を制限する目的と同様に、元の書面による開示の目的のために、すべての可能な中間値または中間実体を開示することを意図している。
【符号の説明】
【0042】
10 機械ハウジング
12 機械部品
14 軸受
16 外輪
18 内輪
20 ローラ要素
22 ハウジングの表面
24 軸受の表面
26 機械部品の表面
図1