(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】車両干渉防止システム、接近判定装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20220905BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20220905BHJP
B60W 30/08 20120101ALI20220905BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20220905BHJP
B60W 40/11 20120101ALI20220905BHJP
【FI】
G08G1/16 A
G08G1/09 H
B60W30/08
B60W40/04
B60W40/11
(21)【出願番号】P 2018110048
(22)【出願日】2018-06-08
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 航
(72)【発明者】
【氏名】石本 英史
(72)【発明者】
【氏名】魚津 信一
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-042845(JP,A)
【文献】特開2004-199494(JP,A)
【文献】特開2013-190936(JP,A)
【文献】特開2008-090663(JP,A)
【文献】特開2004-185179(JP,A)
【文献】特開平7-149193(JP,A)
【文献】特開2018-073431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G01C 21/00-21/13
G01C 23/00-25/00
G09B 23/00-29/14
G05D 1/00- 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1車両の現在の位置情報、速度の値、
および、方位角の値を含んだ第1車両測位情報を算出する測位算出装置と、前記第1車両とは異なる第2車両から当該第2車両の現在の位置情報、速度の値、
および、方位角の値を含んだ第2車両測位情報を受信する無線通信装置と、前記第2車両測位情報を取得し、前記第1車両測位情報および前記第2車両測位情報に基づき、前記第1車両と前記第2車両とが接近しているかを判定する接近判定装置とが、前記第1車両に搭載されている車両干渉防止システムであって、
前記接近判定装置は、
前記第1車両が他車両に接近する際に採用する速度である接近時速度を記憶する接近時速度記憶部と、
前記第1車両の減速度を記憶する減速度記憶部と、
前記接近時速度記憶部に記憶されている前記接近時速度、前記減速度記憶部に記憶されている前記減速度、および前記測位算出装置により算出される前記第1車両測位情報に基づき、前記第1車両の現在の走行速度から前記接近時速度に減速するまでの時間である第1車両移動時間に、前記
第1車両の移動距離を算出する第1車両移動距離算出部と、
前記第2車両測位情報に基づき、前記第1車両移動時間に前記
第2車両の移動距離を算出する第2車両移動距離算出部と、
前記第1車両が、前記第1車両移動距離算出部により算出される距離を移動したとするときの到達点を、ゼロ度から規定角度刻みで増やしていった場合の各操舵角ごとに求め、当該各到達点を含み、且つ、前記第1車両の直進方向の前方に中心が位置している領域である第1車両予測移動領域の、その中心および当該第1車両予測移動領域の範囲を規定する長さを算出する第1車両予測移動領域算出部と、
前記第2車両が、前記第2車両移動距離算出部により算出される距離を移動したとするときの到達点を、ゼロ度から規定角度刻みで増やしていった場合の各操舵角ごとに求め、当該各到達点を含み、且つ、前記第2車両の直進方向の前方に中心が位置している領域である第2車両予測移動領域の、その中心および当該第2車両予測移動領域の範囲を規定する長さを算出する第2車両予測移動領域算出部と、
前記第1車両予測移動領域の前記中心および前記長さと、前記第2車両予測移動領域の前記中心および前記長さとに基づき、前記第1車両予測移動領域と前記第2車両予測移動領域とが相互で干渉しているかを判定する干渉判定部と、
前記干渉判定部での判定結果が、相互に干渉しているとの結果である場合、前記第1車両の走行モータおよび操舵モータを制御するとともに前記第1車両の電気ブレーキ
および機械ブレーキのいずれか一方もしくは両方を制御する走行制御装置に向けて、前記接近時速度まで減速するための指令を出力する減速指令生成部と、
前記第2車両の最大加速度を記憶する最大加速度記憶部とを有し、
前記第2車両移動距離算出部は、前記第2車両が前記最大加速度記憶部に記憶されている最大加速度で加速したとして、前記第2車両の移動距離を算出することを特徴とする
車両干渉防止システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両干渉防止システムにおいて、
前記接近判定装置は、さらに、前記第2車両との間の通信で生じる遅延時間を記憶する通信遅延時間記憶部を有し、
前記第2車両移動距離算出部は、前記通信遅延時間記憶部に記憶されている前記遅延時間を前記第1車両移動時間に加算し、この加算後の時間を用いて、前記第2車両の移動距離を算出することを特徴とする車両干渉防止システム。
【請求項3】
請求項1に記載の車両干渉防止システムにおいて、
前記接近判定装置は、さらに、
安全上設定する余裕時間を記憶する安全余裕時間記憶部を有し、
前記第1車両移動距離算出部または前記第2車両移動距離算出部のいずれか一方または両方は、前記安全余裕時間記憶部に記憶されている前記余裕時間を前記第1車両移動時間に加算し、この加算後の時間を用いて、前記距離を算出することを特徴とする車両干渉防止システム。
【請求項4】
請求項1に記載の車両干渉防止システムにおいて、
前記接近判定装置は、さらに、車両の減速動作の際に生ずるブレーキ遅延時間を記憶するブレーキ遅延時間記憶部を有し、
前記第1車両移動距離算出部または前記第2車両移動距離算出部のいずれか一方または両方は、前記ブレーキ遅延時間記憶部に記憶されている前記ブレーキ遅延時間を前記第1車両移動時間に加算し、この加算後の時間を用いて、前記距離を算出することを特徴とする車両干渉防止システム。
【請求項5】
請求項1に記載の車両干渉防止システムにおいて、
前記減速度記憶部は、前記電気ブレーキによる減速度、および前記機械ブレーキによる減速度を記憶しており、
前記第1車両移動距離算出部は、前記第1車両と前記第2車両との距離が所定の値以下の場合、前記機械ブレーキによる減速度を用いて前記第1車両の移動距離を算出し、前記所定の値より大きい場合、前記電気ブレーキによる減速度を用いて前記第1車両の移動距離を算出することを特徴とする車両干渉防止システム。
【請求項6】
請求項1に記載の車両干渉防止システムにおいて、
さらに、前記第1車両の積載量を検出する積載量検出装置を有し、
前記第1車両移動距離算出部は、前記積載量検出装置により検出される値に応じた減速度を用いて、前記第1車両の移動距離を算出することを特徴とする車両干渉防止システム。
【請求項7】
請求項1に記載の車両干渉防止システムにおいて、
さらに、前記第1車両の車体前後方向のピッチ角を検出するピッチ角検出装置を有し、
前記第1車両移動距離算出部は、前記ピッチ角検出装置により検出される値に応じた減速度を用いて、前記第1車両の移動距離を算出することを特徴とする車両干渉防止システム。
【請求項8】
第1車両の現在の位置情報、速度の値、および、方位角の値を含んだ第1車両測位情報を算出する測位算出装置と、前記第1車両とは異なる第2車両から当該第2車両の現在の位置情報、速度の値、および、方位角の値を含んだ第2車両測位情報を受信する無線通信装置と、前記第2車両測位情報を取得し、前記第1車両測位情報および前記第2車両測位情報に基づき、前記第1車両と前記第2車両とが接近しているかを判定する接近判定装置とが、前記第1車両に搭載されている車両干渉防止システムであって、
前記接近判定装置は、
前記第1車両が他車両に接近する際に採用する速度である接近時速度を記憶する接近時速度記憶部と、
前記第1車両の減速度を記憶する減速度記憶部と、
前記接近時速度記憶部に記憶されている前記接近時速度、前記減速度記憶部に記憶されている前記減速度、および前記測位算出装置により算出される前記第1車両測位情報に基づき、前記第1車両の現在の走行速度から前記接近時速度に減速するまでの時間である第1車両移動時間に、前記第1車両の移動距離を算出する第1車両移動距離算出部と、
前記第2車両測位情報に基づき、前記第1車両移動時間に前記第2車両の移動距離を算出する第2車両移動距離算出部と、
前記第1車両が、前記第1車両移動距離算出部により算出される距離を移動したとするときの到達点を、ゼロ度から規定角度刻みで増やしていった場合の各操舵角ごとに求め、当該各到達点を含み、且つ、前記第1車両の直進方向の前方に中心が位置している領域である第1車両予測移動領域の、その中心および当該第1車両予測移動領域の範囲を規定する長さを算出する第1車両予測移動領域算出部と、
前記第2車両が、前記第2車両移動距離算出部により算出される距離を移動したとするときの到達点を、ゼロ度から規定角度刻みで増やしていった場合の各操舵角ごとに求め、当該各到達点を含み、且つ、前記第2車両の直進方向の前方に中心が位置している領域である第2車両予測移動領域の、その中心および当該第2車両予測移動領域の範囲を規定する長さを算出する第2車両予測移動領域算出部と、
前記第1車両予測移動領域の前記中心および前記長さと、前記第2車両予測移動領域の前記中心および前記長さとに基づき、前記第1車両予測移動領域と前記第2車両予測移動領域とが相互で干渉しているかを判定する干渉判定部と、
前記干渉判定部での判定結果が、相互に干渉しているとの結果である場合、前記第1車両の走行モータおよび操舵モータを制御するとともに前記第1車両の電気ブレーキおよび機械ブレーキのいずれか一方もしくは両方を制御する走行制御装置に向けて、前記接近時速度まで減速するための指令を出力する減速指令生成部と
を有し、
前記第1車両予測移動領域および前記第2車両予測移動領域は、いずれも円形状の領域であり、前記範囲を規定する前記長さは、前記円形状の半径であることを特徴とする車両干渉防止システム。
【請求項9】
請求項
8に記載の車両干渉防止システムにおいて、
前記第1車両予測移動領域算出部、および前記第2車両予測移動領域算出部は、前記各到達点から車両直進方向に伸ばした垂線の長さをそれぞれ算出してこの長さが最長となる到達点を選択し、前記車両直進方向と、選択した前記到達点から前記車両直進方向に伸ばした垂線との交点を、前記円形状の領域の中心とすることを特徴とする車両干渉防止システム。
【請求項10】
請求項
9に記載の車両干渉防止システムにおいて、
前記第1車両予測移動領域算出部、および前記第2車両予測移動領域算出部は、前記円形状の領域の前記中心から前記車両直進方向における到達点までの距離と、前記最長の長さとを比較し、いずれか長い方を、前記円形状の領域の半径とすることを特徴とする車両干渉防止システム。
【請求項11】
請求項
10に記載の車両干渉防止システムにおいて、
前記第1車両予測移動領域算出部および前記第2車両予測移動領域算出部は、前記円形状の領域内に全ての到達点が含まれない場合、全ての到達点が含まれるまで、前記半径の長さに規定の調整量分加算し続けて、前記半径を延長させることを特徴とする車両干渉防止システム。
【請求項12】
請求項1に記載の車両干渉防止システムにおいて、
前記接近時速度記憶部は、前記接近時速度を複数記憶しており、
前記第1車両移動距離算出部は、前記第1車両測位情報内の前記位置情報に基づき、前記第1車両の現在位置している走行エリアを特定し、当該走行エリアに応じた接近時速度を、前記複数の
接近時速度の中から選択し、選択した接近時速度を用いて、前記第1車両の移動距離を算出することを特徴とする車両干渉防止システム。
【請求項13】
第1車両の現在の位置情報、速度の値、および方位角の値を含んだ第1車両測位情報と、前記第1車両とは異なる第2車両の現在の位置情報、速度の値、および方位角の値を含んだ第2車両測位情報とに基づき、前記第1車両と前記第2車両とが接近しているかを判定する接近判定装置であって、
前記第1車両が他車両に接近する際に採用する速度である接近時速度を記憶する接近時速度記憶部と、
前記第1車両の減速度を記憶する減速度記憶部と、
前記接近時速度記憶部に記憶されている前記接近時速度、前記減速度記憶部に記憶されている前記減速度、および前記第1車両測位情報に基づき、前記第1車両の現在の走行速度から前記接近時速度に減速するまでの時間である第1車両移動時間に、前記
第1車両の移動距離を算出する第1車両移動距離算出部と、
前記第2車両測位情報に基づき、前記第1車両移動時間に前記
第2車両の移動距離を算出する第2車両移動距離算出部と、
前記第1車両が、前記第1車両移動距離算出部により算出される距離を移動したとするときの到達点を、ゼロ度から規定角度刻みで増やしていった場合の各操舵角ごとに求め、当該各到達点を含み、且つ、前記第1車両の直進方向の前方に中心が位置している領域である第1車両予測移動領域の、その中心および当該第1車両予測移動領域の範囲を規定する長さを算出する第1車両予測移動領域算出部と、
前記第2車両が、前記第2車両移動距離算出部により算出される距離を移動したとするときの到達点を、ゼロ度から規定角度刻みで増やしていった場合の各操舵角ごとに求め、当該各到達点を含み、且つ、前記第2車両の直進方向の前方に中心が位置している領域である第2車両予測移動領域の、その中心および当該第2車両予測移動領域の範囲を規定する長さを算出する第2車両予測移動領域算出部と、
前記第1車両予測移動領域の前記中心および前記長さと、前記第2車両予測移動領域の前記中心および前記長さとに基づき、前記第1車両予測移動領域と前記第2車両予測移動領域とが相互で干渉しているかを判定する干渉判定部と、
前記第2車両の最大加速度を記憶する最大加速度記憶部とを有し、
前記第2車両移動距離算出部は、前記第2車両が前記最大加速度記憶部に記憶されている最大加速度で加速したとして、前記第2車両の移動距離を算出することを特徴とする
接近判定装置。
【請求項14】
第1車両の現在の位置情報、速度の値、および方位角の値を含んだ第1車両測位情報と、前記第1車両とは異なる第2車両の現在の位置情報、速度の値、および方位角の値を含んだ第2車両測位情報とに基づき、前記第1車両と前記第2車両とが接近しているかを判定する接近判定装置であって、
前記第1車両の予測移動範囲である第1車両予測移動領域の中心位置を示す値およびその領域の範囲を規定する長さを、走行速度に対応付けて記憶し、前記第2車両の予測移動範囲である第2車両予測移動領域の中心位置を示す値およびその領域の範囲を規定する長さを、走行速度に対応付けて記憶する記憶装置と、
前記第1車両測位情報に含まれる速度の値を用いて、前記記憶装置から前記第1車両予測移動領域の中心を示す前記値および前記長さを抽出する第1車両予測移動領域抽出部と、
前記第1車両測位情報に含まれる速度の値および前記第2車両測位情報に含まれる速度の値を用いて、前記記憶装置から前記第2車両予測移動領域の中心を示す前記
値および前記長さを抽出する第2車両予測移動領域抽出部と、
前記第1車両予測移動領域の中心を示す前記値および前記長さと、前記第2車両予測移動領域の中心を示す前記値および前記長さとに基づき、前記第1車両予測移動領域と前記第2車両予測移動領域とが相互で干渉しているかを判定する干渉判定部と、
を有し、
前記第1車両予測移動領域は、前記第1車両が、現在の走行速度から他車両に接近する際に採用する速度である接近時速度に減速するまでの第1車両移動時間の間に走行した場合の到達点であり、操舵角をゼロ度から規定角度刻みで増やしていった場合の各到達点を含んでおり、且つ、前記第1車両の直進方向の前方に中心が位置している領域であり、
前記第2車両予測移動領域は、前記第2車両が、前記第1車両移動時間の間に走行した場合の到達点であり、操舵角をゼロ度から規定角度刻みで増やしていった場合の各到達点を含んでおり、且つ、前記第2車両の直進方向の前方に中心が位置している領域であることを特徴とする、接近判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の接近を検知して車両同士の干渉を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山現場では、多数のダンプトラックを無人化して搬送路を巡回走行させる自律走行システムが導入されている場合がある。このような鉱山現場では、有人で運転操作される補助作業車両も走行するため、無人車両と有人車両とが混在する。
【0003】
また鉱山現場では、巡回走行している自律走行ダンプの近傍を、他の自律走行ダンプもしくは有人の補助作業車両が走行する場合が想定される。各車両の安全性、特に有人車両の安全性を向上させるためには、車両同士が接近した際に、自律走行ダンプの速度を落として低速走行させることが考えられる。この低速化を実現するためには、車両同士の位置関係などに基づき、接近を判定する必要がある。
【0004】
特許文献1には、車載端末が、自己の現在位置から所定時間後に移動可能なエリアを自己危険エリアとして設定し、歩行者端末が現在位置から所定時間後に移動可能なエリアを相手危険エリアとして設定し、自己危険エリアと相手危険エリアとが重なるか否かを判定し、車両と歩行者とが衝突する可能性を判定する技術が開示されている。また、特許文献1には、衝突の可能性があると特定されると、これを通知することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、その瞬間の自車両および他車両の移動速度の値のみで、車両左右方向における移動可能エリアを推定しているが、車両は操舵することによって大きく進行方向が変化する。このことから、走行速度のみで左右の移動可能エリアを推定する場合、精度の低い推定結果となる可能性がある。また特許文献1では、所定の固定時間を用いて移動可能エリアを推定しているが、各車両の走行速度などによって、この時間は変化するため、固定した時間では正確なエリアを推定するのが難しい場合がある。
【0007】
また一方で、鉱山現場などの運搬作業が発生する現場では、安全性を確保するために頻繁に減速走行すると、逆に運搬効率が低下してしまう。このことから、好適な減速制御が求められる。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、各車両がこれから移動する可能性のある範囲をより適切に設定し、これに基づき車両同士の干渉を防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の車両干渉防止システムは、第1車両の現在の位置情報、速度の値、方位角の値を含んだ第1車両測位情報を算出する測位算出装置と、前記第1車両とは異なる第2車両から当該第2車両の現在の位置情報、速度の値、方位角の値を含んだ第2車両測位情報を受信する無線通信装置と、前記第2車両測位情報を取得し、前記第1車両測位情報および前記第2車両測位情報に基づき、前記第1車両と前記第2車両とが接近しているかを判定する接近判定装置とが、前記第1車両に搭載されている車両干渉防止システムであって、前記接近判定装置は、前記第1車両が他車両に接近する際に採用する速度である接近時速度を記憶する接近時速度記憶部と、前記第1車両の減速度を記憶する減速度記憶部と、前記接近時速度記憶部に記憶されている前記接近時速度、前記減速度記憶部に記憶されている前記減速度、および前記測位算出装置により算出される前記第1車両測位情報に基づき、前記第1車両の現在の走行速度から前記接近時速度に減速するまでの時間である第1車両移動時間に、前記第1車両が移動する距離を算出する第1車両移動距離算出部と、前記第2車両測位情報に基づき、前記第1車両移動時間に前記第2車両が移動する距離を算出する第2車両移動距離算出部と、前記第1車両が、前記第1車両移動距離算出部により算出される距離を移動したとするときの到達点を、ゼロ度から規定角度刻みで増やしていった場合の各操舵角ごとに求め、当該各到達点を含み、且つ、前記第1車両の直進方向の前方に中心が位置している領域である第1車両予測移動領域の、その中心および当該第1車両予測移動領域の範囲を規定する長さを算出する第1車両予測移動領域算出部と、前記第2車両が、前記第2車両移動距離算出部により算出される距離を移動したとするときの到達点を、ゼロ度から規定角度刻みで増やしていった場合の各操舵角ごとに求め、当該各到達点を含み、且つ、前記第2車両の直進方向の前方に中心が位置している領域である第2車両予測移動領域の、その中心および当該第2車両予測移動領域の範囲を規定する長さを算出する第2車両予測移動領域算出部と、前記第1車両予測移動領域の前記中心および前記長さと、前記第2車両予測移動領域の前記中心および前記長さとに基づき、前記第1車両予測移動領域と前記第2車両予測移動領域とが相互で干渉しているかを判定する干渉判定部と、前記干渉判定部での判定結果が、相互に干渉しているとの結果である場合、前記第1車両の走行モータおよび操舵モータを制御するとともに前記第1車両の電気ブレーキまたは機械ブレーキのいずれか一方もしくは両方を制御する走行制御装置に向けて、前記接近時速度まで減速するための指令を出力する減速指令生成部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
各車両の移動可能な範囲の領域をより適切に設定することができ、車両同士の干渉を防止するとともに、運搬効率が低下傾向となることを低減することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施形態の車両干渉防止システムの構成例を示す図である。
【
図3】実施形態の自律走行制御装置が使用する情報の一部を、第2測位算出装置で演算する場合の構成例を示す図である。
【
図4】第1実施形態の接近判定装置の構成例を示す図である。
【
図6】第1実施形態の他車両移動距離算出部の構成例を示す図である。
【
図7】通信遅延時間算出部を備えた場合の第1実施形態の他車両移動距離算出部の構成例を示す図である。
【
図8】第1実施形態の自車両移動距離算出部の構成例を示す図である。
【
図9】電気ブレーキと機械ブレーキを想定した場合の第1実施形態の自車両移動距離算出部の構成例を示す図である。
【
図10】積載量検出装置およびピッチ角検出装置を備えた場合の第1実施形態の自車両移動距離算出部の構成例を示す図である。
【
図11】自律走行ダンプの操舵角ごとの走行軌道を例示した図である。
【
図12】実施形態の予測移動領域円の中心位置および半径の算出方法を説明するための図である。
【
図13】実施形態の自車両の予測移動領域円の中心位置および半径を算出する際の動作例を示すフローチャートである。
【
図14】実施形態の他車両の予測移動領域円の中心位置および半径を算出する際の動作例を示すフローチャートである。
【
図15】接近判定装置の全体の動作をまとめたフローチャートである。
【
図16】実施形態の自律走行制御装置の構成例を示す図である。
【
図17】実施形態の接近判定装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図18】自車両位置を中心とし直進距離を半径とした場合の円と、実施形態の予測移動領域円とを対比した図である。
【
図19】第2実施形態の構成例を示す図であり、主に接近判定装置の構成を示す図である。
【
図20】第2実施形態の、他車両の走行速度と他車両の予測移動領域円の半径との関係、および他車両の走行速度と他車両の予測移動領域円の中心位置(オフセット)との関係を示す図である。
【
図21】第2実施形態の、自車両の走行速度と自車両の予測移動領域円の半径との関係、および自車両の走行速度と自車両の予測移動領域円の中心位置(オフセット)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面などを用いて実施形態について説明する。以下の説明では、本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、鉱山車両運行システム1の概略図である。
図1に示すように、鉱山現場には、鉱物や表土をショベルやホイールローダなどの掘削機械10により掘削し、自律走行ダンプ20に積み込む積込場601と、自律走行ダンプ20に積み込まれた鉱物や表土を降ろす放土場602とがある。また鉱山現場には、鉱山内で運用される車両や機械を駐機しておく駐機場がある。これら積込場601、放土場602および駐機場は、搬送路600により連結されている。
【0014】
上記鉱山現場内に設置された鉱山車両運行システム1は、1台もしくは複数台の自律走行ダンプ20の其々と、管制局30に設置された交通管制装置300との間を、無線通信回線40により通信接続した構成となっている。自律走行ダンプ20は、無人で自律走行する無人車両であり、交通管制装置300から送信される管制指示情報を受信し、これにしたがって自律走行する。
【0015】
搬送路600や積込場601では、グレーダ、ドーザ、散水車、ライトビークルなどの補助作業車両90も走行する。これら補助作業車両90や掘削機械10は、本実施形態では有人車両とする。
【0016】
<車両干渉防止システム1000の全体構成>
図2は、車両干渉防止システム1000の構成図である。また以降の説明では、自律走行ダンプ20のうちの1台に着目して、この車両を自車両とし、自車両15と称する。また、補助作業車両90、掘削機械10など、自車両15以外の車両を他車両とし、他車両70と称する。他車両70は、本実施形態では有人車両であるものとするが、無人車両であってもよく、自車両15以外の自律走行ダンプ20であってもよい。
【0017】
他車両70は、測位装置71と、測位算出装置72と、無線通信装置73とを備えている。測位装置71は、GNSS(Global Navigation Satellite System)などを用いて他車両70の自らの位置を検出する。測位算出装置72は、測位装置71から得られた位置情報、および時刻情報を元に、鉱山現場内での当該他車両70の位置情報、現在の速度値、方位角を算出する。また、速度センサや方位センサを用いて、速度値や方位角を取得する実装でもよい。無線通信装置73は、測位算出装置72により得られた位置情報、速度値、方位角を電波にのせて送信する。この送信の際、無線通信装置73は、当該他車両70の属性を示す情報を付与して送信してもよい。さらに無線通信装置73は、どの時間の情報であるかを判別可能なように、例えばGNSSから得られる時刻情報を付与して送信してもよい。
【0018】
自律走行ダンプ20は、地図データ記憶部19と、測位装置21と、測位算出装置22と、無線通信装置23と、接近判定装置24と、自律走行制御装置25と、車両制御装置26と、走行モータ27と、操舵モータ28と、機械ブレーキ61と、電気ブレーキ62とを備えている。尚、ここで示される自律走行ダンプ20を自車両15として説明する。
【0019】
測位装置21は、GNSSなどを用いての自律走行ダンプ20自身の位置を検出する。測位算出装置22は、測位装置21から得られた位置情報、および時刻情報を元に、鉱山現場内での自律走行ダンプ20自身の位置情報、現在の速度値、および方位角を算出する。また、速度センサや方位センサを用いて、速度値や方位角を取得する実装でもよい。このようにして得られた位置情報、現在の速度値、および方位角を1組のセットとし、このセットを自車両測位情報とする。
【0020】
無線通信装置23は、他車両70から送信される位置情報、速度値、および方位角を受信する。この他車両70から送信される位置情報、速度値、および方位角を1組のセットとし、このセットを他車両測位情報とする。
【0021】
接近判定装置24は、自車両測位情報と他車両測位情報とに基づき、自律走行ダンプ20(自車両15)と他車両70との干渉のおそれの有無を判定する。
【0022】
自律走行制御装置25は、自律走行ダンプ20を自律的に走行させるために必要な走行速度と操舵角を生成する。自律走行制御装置25は、交通管制装置300から送信される、車載通信部170を介して得られる管制指示情報と、測位算出装置22から得られる、自律走行ダンプ20自身の位置情報、現在の速度値、方位角の情報を元にして、走行速度や操舵角を決定する。また自律走行制御装置25は、接近判定装置24による判定結果を取得し、これに基づき走行速度の制御を行う。
【0023】
車両制御装置26は、自律走行制御装置25から通知される走行速度および操舵角を実現するように、走行モータ27、操舵モータ28、および、電気ブレーキ62または機械ブレーキ61のいずれか一方もしくは両方を制御する。
【0024】
地図データ記憶部19には、自律走行ダンプ20自身が鉱山内のどの位置にいるかを判定するために必要な情報が記憶されており、例えばGNSSで得られる位置情報と比較、照合可能な形式で、各種情報が記憶されている。接近判定装置24は、現在搬送路600を走行しているのか、それとも積込場601、放土場602の作業エリア内にいるのかを、GNSSで得られる位置情報および地図データ記憶部19に記憶されている情報に基づき判定する機能も有している。
【0025】
図3は、自律走行制御装置25が使用する情報を、第2測位算出装置29で演算する場合の構成例を示している。尚、
図3では、
図2との差分の構成を太枠線で示している。
図3に示すように、自律走行制御に用いる情報については、GNSSで得られる情報よりも高い精度とするため、IMU(慣性計測装置:Inertial Measurement Unit)150や車輪速センサ151から得られる値を用いてもよい。
【0026】
<接近判定装置24の構成>
以下、
図2および
図3に示される接近判定装置24の詳細構成について説明する。
図4は、接近判定装置24の構成例を示す図である。接近判定装置24は、自車両移動距離算出部31と、自車両予測移動領域算出部32と、他車両移動距離算出部33と、他車両予測移動領域算出部34と、干渉判定部35と、減速指令生成部36と、を備えている。
【0027】
自車両移動距離算出部31は、自車両15の現在の走行速度から接近時速度に達するまでに要する時間(この時間を自車両移動時間とする)、およびその移動距離を算出する。自律走行ダンプ20は、他車両が近傍を走行している際には、所定の速度、例えば時速10km程度の低速で走行するようにすることで、安全性を向上させることができる。この所定の速度を、ここでは接近時速度と呼ぶ。
【0028】
自車両予測移動領域算出部32は、自車両15の予測移動領域円の中心位置と半径とを算出する。自車両15の予測移動領域円とは、自車両15が現在の走行速度から接近時速度に減速するまでに要する時間(すなわち自車両移動時間)内に、当該自車両15が移動する範囲を平面で示した領域である。また自車両予測移動領域円の中心位置は、本実施形態では、自車両の現在位置からのオフセット位置として示される。自車両予測移動領域円の半径やオフセットについては、
図5を用いて後述する。
【0029】
他車両移動距離算出部33は、他車両70の現在の走行速度に基づき、他車両70が自車両移動時間の間で移動する距離を算出する。自車両15が接近時速度に減速するまでの間、他車両70も移動する。他車両移動距離算出部33は、この移動距離を算出する。
【0030】
他車両予測移動領域算出部34は、他車両70の予測移動領域円の中心位置と半径を算出する。他車両70の予測移動領域円とは、自車両15が接近時速度に減速するまでの間(すなわち自車両移動時間)に、当該他車両70が移動する範囲を平面で示した領域である。また他車両予測移動領域円の中心位置は、本実施形態では、他車両70の現在位置からのオフセット位置として示される。他車両70の予測移動領域円の半径やオフセットについては、下記の
図5を用いて説明する。
【0031】
<予測移動領域円の中心および半径>
図5は、自車両予測移動領域算出部32、他車両予測移動領域算出部34の算出結果を説明するための図である。予測移動領域円とは、上記のとおり、自車両15が現在速度から接近時速度に減速するまでの間に、自車両15および近傍の他車両70が移動すると予測される領域を円で示したものである。本実施形態は、この予測移動領域円同士が接する、または交わるなど、相互で干渉している場合、これらの車両が接近していると判定する。また予測移動領域円は、車両の位置から進行方向前方にオフセットを持った位置に、中心がある円で表現される。
【0032】
自車両15が現在速度から接近時速度へ到達するまでの移動距離を、ここではDAとする。また、自車両15が接近時速度となるまで減速している最中に他車両70が移動する距離を、ここではDMとする。DAとDMの合計の距離だけ離れたところで、自車両15が他車両70の接近を検知し、減速を開始できれば、必要十分な距離を保った位置で接近時速度に到達することができる。つまり、自車両15が他車両70の接近を、少なくともDAとDMの合計で求められる距離Dだけ離れている瞬間までに判定し、減速を開始することができれば、自車両15は、他車両70に対して機械ブレーキで緊急停車をかけても安全に停車させられる距離を有した地点までに、接近時速度に到達することができる。尚、どのようにして予測移動領域円を求めるかについては、後に
図11~
図14を参照しながら説明する。
【0033】
自律走行ダンプ20は、上記のとおり、他車両70の接近を検知してから接近時速度に到達するまでの間、すなわち自車両移動時間が経過する間に他車両70も移動する。したがって、この自車両移動時間などを考慮して、自車両15と他車両70の接近を予測する必要がある。また、接近を検知してからブレーキが駆動するまでの間でも遅延が生じる。さらに、他車両70から位置情報が通知されるまでの間でも遅延が生じ、これに加えて安全余裕のための時間を考慮すると、自律走行ダンプ20が他車両70の接近を検知してから接近時速度に減速するまでにかかる時間は、自車両移動時間にこれらの値の合計を加えて求める必要がある。以下では、この点を考慮した自車両移動距離算出部31および他車両移動距離算出部33の実装例について説明する。
【0034】
<他車両移動距離算出部33の構成>
図6は、接近判定装置24に組み込まれている他車両移動距離算出部33の構成例を示した図である。他車両移動距離算出部33は、自車両減速度記憶部41と、接近時速度記憶部42と、自車両減速必要時間算出部43と、通信遅延時間記憶部44と、最大加速度記憶部45と、安全余裕時間記憶部46と、ブレーキ遅延時間記憶部47と、移動距離算出部48とを有する。
【0035】
通信遅延時間記憶部44、最大加速度記憶部45、安全余裕時間記憶部46、ブレーキ遅延時間記憶部47は、パラメータとして各種数値データを事前に記憶している記憶部である。通信遅延時間記憶部44は、他車両70との間の通信で生じる遅延時間を記憶する。最大加速度記憶部45は、他車両70の最大加速度を記憶する。最大加速度を記憶させるのは、他車両70が加速することも想定されることに起因する。
【0036】
ブレーキ遅延時間記憶部47は、ブレーキを要するものと検知されてから、当該他車両70が減速動作に入るまでの遅延時間、すなわち車両の減速動作の際に生ずる遅延時間を記憶する。安全余裕時間記憶部46は、安全のための余裕時間を記憶する。
【0037】
自車両減速必要時間算出部43は、自車両減速度記憶部41に記憶されている自律走行ダンプ20の減速度を取得し、接近時速度記憶部42に記憶されている接近時速度を取得する。そして自車両減速必要時間算出部43は、これら取得した情報を用いて、現在の走行速度から近接時速度となるまでの減速に要する時間を算出する。
【0038】
本実施形態では、自車両減速必要時間算出部43の算出結果に、安全余裕時間記憶部46、ブレーキ遅延時間記憶部47、通信遅延時間記憶部44から取得される各時間を合計することで、最終的な時間(ここでは時間Tとする)を求めることができる。移動距離算出部48は、時間Tを求め、他車両70から得られた現在の速度値および時間Tとを用いて、他車両70の移動距離を算出する。尚、移動距離算出部48は、最大加速度記憶部45に記憶されている最大加速度で他車両70が加速するものと想定し、移動距離を算出してもよい。
【0039】
尚、通信遅延については、他車両70から送信される情報から時刻情報を取得し、この時刻情報と、自律走行ダンプ20で計時した、もしくは測位装置21から取得したGNSSの時刻情報との差分を取ることで、算出できるようにしてもよい。
図7は、この場合の構成例を示す図である。図中の太枠線で示される通信遅延時間算出部49は、他車両70から無線通信装置23を介して得られた時刻情報と、自車両15で計時される時刻を比較して、通信遅延時間を算出する。移動距離算出部48は、通信遅延時間算出部49から通信遅延時間を取得し、この値を用いて時間Tを算出する。このように、通信遅延時間を実測データとすることで、時間Tをより精度よく求めることができる。
【0040】
<自車両移動距離算出部31の構成>
図8は、自車両移動距離算出部31の構成例を示した図である。自車両移動距離算出部31は、自車両減速必要時間算出部51と、自車両減速度記憶部52と、安全余裕時間記憶部53と、ブレーキ遅延時間記憶部54と、接近時速度記憶部55と、移動距離算出部56とを備えている。これらは、上記
図6で説明したものと同等の機能を有していが、安全余裕時間記憶部53、ブレーキ遅延時間記憶部54は、自律走行ダンプ20用の値が記憶されている。
【0041】
自車両15の移動距離DAは、その瞬間の走行速度と、予め設定した接近時速度と、予め設定した自律走行ダンプ20の減速度を用いて計算することができるように構成されている。また、移動距離算出部56は、安全余裕時間記憶部53、ブレーキ遅延時間記憶部54に記憶されている各パラメータ値を時間に加えて、自車両15の移動距離DAを算出する。
【0042】
また自律走行ダンプ20は、電気ブレーキ62と機械ブレーキ61の2種類の減速手段を備えているため、それぞれの減速度を個別に設定できるように構成されていてもよい。
図9は、自車両減速度記憶部52を、機械ブレーキ減速度記憶部57および電気ブレーキ減速度記憶部58(いずれも太枠線で図示)の2つに分けた構成を示した図である。機械ブレーキ減速度記憶部57は、機械ブレーキ61による減速度を記憶し、電気ブレーキ減速度記憶部58は、電気ブレーキ62による減速度を記憶している。
図9に示す移動距離算出部56は、他車両70との距離が、安全面を考慮して事前に設けられる所定の値以下、つまり、相対的に近い場合、減速度のより強い機械ブレーキ61の減速度を採用して移動距離を算出し、所定の値より大きい場合、電気ブレーキ62の減速度を採用して移動距離を計算する。
【0043】
また、自律走行ダンプ20は、積載状態に応じて大きく重量が異なり、それに伴い発生できる減速度が異なる。そこで、
図10に示すように、積載量検出装置159(太枠線で図示)を設け、積載量に応じて減速度を変更する実装でもよい。この場合、自車両減速度記憶部52には、積載量と減速度とを対応付けて記憶しておく。移動距離算出部56は、積載量検出装置159の検出値を用いて、減速度を自車両減速度記憶部52から抽出し、これを用いて移動距離を算出する。
【0044】
また、搬送路600や作業エリア内の路面勾配によって減速にかかる距離や時間が異なる。この点を対処するため、同じく
図10に示すように、車体前後方向のピッチ角を検出可能なピッチ角検出装置160(太枠線で図示)を設ける。この場合、自車両減速度記憶部52には、勾配と減速度とを対応付けて記憶しておく。移動距離算出部56は、ピッチ角検出装置160の検出値を用いて、減速度を自車両減速度記憶部52から抽出し、これを用いて移動距離を算出する。
【0045】
このように積載量検出装置159、ピッチ角検出装置160の検出値に基づき減速度を変更することで、移動距離の精度をより高めることができる。
【0046】
<自車両予測移動領域算出部32、他車両予測移動領域算出部34による算出手法>
次に、自車両予測移動領域算出部32、他車両予測移動領域算出部34による、予測移動領域円の中心位置(オフセット)、およびその半径を算出する方法について説明する。自車両予測移動領域算出部32は、自車両15の現在位置から予測移動領域円の中心位置までのオフセット、および半径を算出できるように構成されている。他車両予測移動領域算出部34は、他車両70の現在位置から予測移動領域円の中心位置までのオフセット、および半径を算出できるように構成されている。ここでは主として自車両予測移動領域算出部32について説明するが、他車両予測移動領域算出部34でも同じ手法となる。
【0047】
自律走行ダンプ20などの車両は、操舵によって進行方向を変更することが可能である。
図11は、自律走行ダンプ20が上記で求めた移動距離DAで、操舵角を左方向に規定角度刻み(例えば1度刻み)で最大操舵角まで増やしていった場合の各走行軌道を示す図である。それぞれの軌道の端点が到達位置となり、太線で示す各円弧の長さが移動距離DAとなる。
図11では、各到達点を囲む円を示している。いかなる操舵を行おうとも、この円より外に車両が到達することはないといえる。この円内の領域が予測移動領域であり、当該円が予測移動領域円である。
【0048】
図12は、予測移動領域円の中心位置(自車両からのオフセット)、および半径の算出の様子を示した図である。また
図13は、主として自車両予測移動領域算出部32の処理を示したフローチャートである。自車両予測移動領域算出部32は、到達点すべてを含む円を、
図13に示すフローチャートの手順で数値的に算出する。ここで、
図13に示す各ステップを説明するが、必要に応じて
図12も参照される。
【0049】
まず、自車両移動距離算出部31は、自車両15の位置、方位角、現在の速度値を、測位算出装置22から取得し(S001)、上記の
図8~
図10で説明した各構成を用いて、自車両15の移動距離DAを算出する(S002)。
【0050】
自車両予測移動領域算出部32は、操舵角をゼロ度から自律走行ダンプ20の最大操舵角度まで取ったときのすべての到達点を求める(S003)。そして自車両予測移動領域算出部32は、各到達点から自車両15の直進方向(操舵を行わなかったときの方向)に伸ばした垂線を求め、その交点と当該到達点との距離を求める(S004)。ここでは、
図12中の距離Eを、各到達点ごとに求める動作となる。この距離を、ここでは「垂線の足までの距離」と称する。
【0051】
自車両予測移動領域算出部32は、全ての「垂線の足までの距離」のうち、最も長いものを選択し、この選択された到達点に対応した垂線の足の位置を求める(S005)。
図12中において、「垂線の足までの距離」が最も長くなる到達点として、到達点Aが選択されるとすると、対応する垂線の足の位置は点Bとなる。また自車両予測移動領域算出部32は、到達点Aから垂線の足の位置Bまでの距離(
図12中の距離KA)を求める(S005)。
【0052】
自車両予測移動領域算出部32は、直進方向における到達点(
図12中の点C)から垂線の足の位置Bまでの距離(
図12中の距離D)と、距離KAとを比較し、大きい方の長さを半径RAに仮選定する(S006)。そして自車両予測移動領域算出部32は、垂線の足の位置(
図12中の点B)を中心とし、半径をRAとした円を求める(S007)。
【0053】
自車両予測移動領域算出部32は、S007で求めた円の中に全ての到達点が入っているかどうかを判定する(S008)。入っていない到達点が存在する場合(S008:No)、その到達点が円の中に入るように、現在の半径に規定の調整量を加えることで半径を伸長し(S009)、改めてS008の判定処理を行う。
図12の場合、距離KAが半径RAと仮選定されたとすると、距離Fの分だけさらに伸ばすと、全ての到達点が円に含まれるようになる。自車両予測移動領域算出部32は、距離Fの長さに到達するまで、S008、S009のループを繰り返し実行し、半径に調整量を加算していく。
【0054】
全ての到達点が円の中に入る場合(S008:Yes)、自車両予測移動領域算出部32は、オフセット位置(
図12中の位置B)、および最終的に得られた半径を出力し(S010)、
図13の処理は終了となる。
【0055】
以上のようにして求めた予測移動領域円は、車両進行方向にオフセットした位置(
図12中の位置B)に中心があることがわかる。
【0056】
図14は、他車両予測移動領域算出部34の動作例を示したフローチャートである。他車両予測移動領域算出部34も、他車両70用の情報を用いること以外は、上記
図13と同様の処理となるため、ここでの説明は割愛する。
【0057】
<干渉判定部35>
引き続き、干渉判定部35について説明する。干渉判定部35は、自車両15の予測移動領域円と他車両70の予測移動領域円とが相互に干渉し合っているかを判定することで、自車両15と他車両70とが接近しているか否かを判定する。自車両15の予測移動領域円および他車両70の予測移動領域円は、例えば
図5に示すように、それぞれ円の形で表現されているので、各円の中心間の距離と、各円の半径の合計値とを比較することで、各円が接しているか、もしくは交わっているかを判定することができる。上記のとおり、自車両15の予測移動領域円の中心は、自車両15のオフセット位置であり、他車両70の予測移動領域円の中心は、他車両のオフセット位置である。よって干渉判定部35は、オフセット位置間の距離と半径の合計とを比較し、半径の合計の方が数値上大きい場合、各車両が接近していると判定し、オフセット位置間の距離の方が数値上大きい場合、各車両が接近していないと判定する。
【0058】
<減速指令生成部36>
減速指令生成部36について説明する。減速指令生成部36は、干渉判定部35から判定結果を入力し、接近しているとの判定結果である場合、自律走行制御装置25に減速を指令する。減速指令生成部36は、接近しているとの判定結果を継続して受けている場合、減速指令を出し続け、これが解消された時点で減速指令を解除する。
【0059】
<接近判定装置24の全体動作例>
図15は、接近判定装置24の全体の動作をまとめたフローチャートである。尚、
図15のフローチャートは、
図4に示す接近判定装置24内の各構成が動作主体となって行われるものとして説明する。
【0060】
自車両移動距離算出部31および他車両移動距離算出部33は、自車両15の位置情報、方位角、速度値を測位算出装置22から取得し(S201)、他車両移動距離算出部33は、他車両70の位置情報、方位角、速度値を無線通信装置23を介して取得する(S202)。他車両移動距離算出部33は、受信可能な近隣位置に存在する1もしくは複数の他車両から、位置情報、方位角、速度値を取得する。ここでは、この他車両の数を数値Nとする。
【0061】
鉱山内現場には、多数の車両が走行しており、自律走行ダンプ20である自車両15の周辺には、複数の車両が存在する可能性がある。よって本実施形態では、無線通信で情報を取得するすべての車両に対して、S203以降の処理を行う。このとき、通信で情報を取得した順番でS203以降の処理を行ってもよいし、直線距離が近い順にS203以降の処理を行ってもよい。また、直線距離が一定以上離れている車両は、接近判定の必要は無いとして扱うことができるため、直線距離がある閾値以下の車両に対してのみ、S203以降の処理を行ってもよい。
【0062】
他車両移動距離算出部33は、他車両ごとの位置情報、方位角、速度値のセットから、処理対象とするセットを1つ選定し、選定した位置情報、方位角、速度値に基づき、処理対象の他車両の移動距離を算出する(S203)。他車両移動距離算出部33は、算出した移動距離を他車両予測移動領域算出部34に出力する。
【0063】
自車両移動距離算出部31は、自車両15の位置情報、方位角、速度値に基づき、自車両15の移動距離を算出し(S204)、算出した移動距離を自車両予測移動領域算出部32に出力する。
【0064】
自車両予測移動領域算出部32は、自車両移動距離算出部31から得られた移動距離に基づき、自車両の予測移動領域円の中心位置(オフセット)および半径を算出し(S205)、算出結果を干渉判定部35に出力する。他車両予測移動領域算出部34は、他車両移動距離算出部33から得られた移動距離に基づき、他車両の予測移動領域円の中心位置(オフセット)および半径を算出し(S206)、算出結果を干渉判定部35に出力する。
【0065】
干渉判定部35は、得られた2つの中心位置間の距離(オフセット間の距離)と、得られた2つの半径の合計値とを比較する(S207)。そして干渉判定部35は、この比較結果に基づき、これら2台の車両が接近しているか否かの判定を行う(S208)。
【0066】
半径の合計値の方が数値上大きく、接近しているとの判定結果である場合(S209:Yes)、干渉判定部35は、減速指令生成部36にこの判定結果を出力する。減速指令生成部36は、接近しているとの判定結果を取得すると、自律走行制御装置25に減速を指令する(S212)。尚、本フローチャートでは、1回でも減速指令が生成されると、たとえ未処理の位置、方位、速度情報のセットが残っていても終了となる。
【0067】
一方、中心位置間の距離(オフセット間の距離)の方が数値上大きく、接近していないとの判定結果である場合(S209:No)、干渉判定部35は、S202で得られる他車両の数を示す数値Nと、処理完了したセット数を示す変数nとを比較する(S210)。数値nが数値Nよりも小さい場合(S210:Yes)、干渉判定部35は、数値nを1つ増加させて(S211)、S203に処理を戻す。これにより、次の他車両を処理対象としたS203以降の動作となる。
【0068】
数値nが数値N以上である場合(S210:No)、全ての他車両についての処理が完了したため、本フローチャートは終了となる。
【0069】
<自律走行制御装置25>
次に、自律走行制御装置25について説明する。
図16は、主として自律走行制御装置25の構成例を示した図である。
【0070】
自律走行制御装置25は、経路取得部101と、自車両位置取得部102と、自車両位置リンク取得部103と、出力切替え部104とを有する。経路取得部101は、自車両15が走行すべき経路情報を、車載通信部170を介して管制局30の交通管制装置300から取得する。そして自律走行ダンプ20は、与えられた経路を終端に向かって走行する。
【0071】
経路情報は、目的地までの経路を複数のノードおよび複数のリンクで表現したデータ構成となっている。各ノードは、位置情報(座標値)で示されており、経路上に沿って設けられている。このノード同士の間が1つのリンクとなる。すなわち経路情報は、ノードで区切られた複数のリンクにより形成されている。
【0072】
自車両位置取得部102は、測位算出装置22、もしくは第2測位算出装置29から現在の位置情報を取得し、自車両位置リンク取得部103に出力する。
【0073】
自車両位置リンク取得部103は、自車両位置取得部102から得られる自律走行ダンプ20の位置に基づき、自車両15がいるリンクである自車両位置リンクを選択する。そして経路情報に含まれる当該リンクに付加された目標速度を読み取り、出力切替え部104に出力する。
【0074】
出力切替え部104は、原則的に、自車両位置リンク取得部103から出力される目標速度をそのまま車両制御装置26に出力するが、接近判定装置24から減速指令を入力している場合は、出力を目標速度から接近時速度に切り替えて、この接近時速度を車両制御装置26に出力する。出力切替え部104は、減速指令が停止した場合、出力を接近時速度から目標速度に切り替えて、この目標速度を車両制御装置26に出力する。
【0075】
一方、管制局30内の交通管制装置300は、地図データ管理部301と、経路生成部302とを有している。地図データ管理部301は、リンクやノードに関するマスタデータを記憶している。また地図データ管理部301は、リンクに関する情報として、少なくとも、リンクを一意に識別するためのリンク識別情報、当該リンクの両端ノードのノード識別情報、当該リンク内での目標速度などの情報を、1つのレコードとして対応付けて記憶する。また、両端ノード間を埋めるように補完した補完位置情報も、リンク識別情報に対応付けて記憶してもよい。
【0076】
経路生成部302は、地図データ管理部301に記憶されている情報、および自律走行ダンプ20から受信する、当該自律走行ダンプ20の現在位置の情報から、次の走行経路(次リンクと称する)を特定する。経路生成部302は、特定した次リンクに紐付けられた識別情報、両端ノード、目標速度、補完位置情報などを付与した管制指示情報を、通信部310を介して自律走行ダンプ20に送信する。
【0077】
<車両制御装置26>
車両制御装置26は、自車両位置リンク取得部103が取得した目標速度となるように、または減速指令生成部36から減速指令が通知されている場合は接近時速度となるように走行速度を設定し、この走行速度を実現するように各車輪の走行モータ27を制御する。また車両制御装置26は、現在位置情報、補完位置情報、方位角、および現在の走行速度に基づき、操舵角を決定して操舵モータ28を制御する。
【0078】
<接近時速度の切り替え>
上記では、接近時速度を一律同じ値(例えば10km/h)として説明したが、この接近時速度を場所によって変更してもよい。例えば、
図1に示すように、鉱山内には、積込場601や放土場602のような作業エリアと、搬送路600が存在するが、搬送路600を走行する場合の方が、作業エリアを走行する場合より、相対的に走行速度が速いと考えられる。
【0079】
搬送路600の場合、各車両が対向車線とすれ違う際に近接・干渉が判定されることが想定されるが、搬送路600は、車間距離が十分確保できる程度に幅が設けられている。したがって、搬送路600の場合は安全性は高いため、接近時速度をそれほど下げる必要は無いものと考えられる。一方で、積込場601などの作業エリアでは、もともと低速で走行することに加え、積込作業の都合などにより車両同士(車両と積込機械)が接近しやすい状況であるため、搬送路に比較して安全性が相対的に低い。したがって、作業エリアの近接時速度は、搬送路600の接近時速度よりも小さく設定する方が望ましい。以上のように、自律走行ダンプ20の走行場所に応じて、接近時速度を変更することで、より適切な車両接近判定システムを実現可能である。
【0080】
図2などに示した地図データ記憶部19には、上記のとおり、自律走行ダンプ20が自身でどのエリアを走行しているかを判定するのに必要な情報が記憶されている。自車両移動距離算出部31は、測位算出装置22から得られる自車両の位置情報と、地図データ記憶部19に記憶された地図データとを比較して、走行エリアを判定し、現在の走行エリアが搬送路600である場合、上記のように接近時速度を例えば10km/hとし、作業エリアである場合、接近時速度を0km/h以上10km/h未満の値とする。接近時速度記憶部42は、走行エリアごとに接近時速度を記憶できるように構成され、また走行エリアに応じた接近時速度を出力できるように構成されている。
【0081】
<接近判定装置24のハードウェア構成>
図17は、接近判定装置24のハードウェア構成例を示す図である。接近判定装置24は、コンピュータ構成と同様の構成を有している。
【0082】
CPU701(CPU:Central Processing Unit)は、ROM703やストレージ704に記憶されているプログラムを、RAM702に展開して演算実行する処理装置である。CPU701は、プログラムを演算実行することで、接近判定装置24の内部の各ハードウェアを統括的に制御する。RAM702は揮発性メモリであり、CPU701との間で直接的にデータの入出力を行うワークメモリである。RAM702は、CPU701がプログラムを演算実行している間、必要なデータを一時的に記憶する。
【0083】
ROM703は不揮発性メモリであり、CPU701で実行されるファームウェアを記憶している。ストレージ704は、フラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)、ハードディスクドライブなどの補助記憶装置である。ストレージ704は、CPU701が演算実行するプログラムや、パラメータなどの制御データを不揮発的に記憶する。
【0084】
ネットワークI/F705は、他車両70との間での無線通信や、交通管制装置300との間での無線通信を制御するネットワークカードを含んでいる。他車両70との間の通信制御を行うネットワークカードと、交通管制装置300との間の通信制御を行うネットワークカードとをそれぞれ個別に設けてもよい。汎用I/F706は、例えばUSB(Universal Serial Bus)規格に準拠したシリアルバス端子や、GPIO(General Purpose Input/Output)インターフェイスを備える。
【0085】
接近判定装置24は、上記のような構成を有しているが、一部もしくは全てを、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路で実装してもよい。尚、一部もしくは全てが集積回路などで実装されている場合においても、当該構成はコンピュータの一形態とみなされる。また、測位算出装置22、無線通信装置23、地図データ記憶部19、車両制御装置26も、
図17に示す構成で実装されてもよい。さらには、
図17に示すハードウェア構成を、測位算出装置22、無線通信装置23、接近判定装置24、地図データ記憶部19、車両制御装置26で共用してもよい。
【0086】
<実施形態の予測移動領域円を用いることによる利点>
図18は、実施形態の予測移動領域円S1と、自車両15の現在位置を中心とし直進方向の移動距離DAを半径とした場合の円S2とを対比した図である。円S2は、実施形態の予測移動領域円S1よりも半径が長い分、接近とみなす領域が大きくなる。よって円S2を自車両15の予測移動範囲として用いると、検知範囲が広いため、自律走行ダンプ20は頻繁に減速することとなり、これに伴い運搬効率も低下する。
【0087】
一方、予測移動領域円S1のように、自律走行ダンプ20の現在位置よりも前方にオフセットをとり、当該オフセットの位置を中心とした円を予測移動範囲とすることで、車両の前方の領域を広く、後方の領域は狭くなるように、領域を規定することができる。このように、移動すると想定される車両前方が広くなるように領域を規定付けることで、自律走行ダンプ20が現実的に移動する範囲に則った検知範囲を設定することができる。また、前方にオフセットをとり、当該オフセットの位置を中心とすることで、各到達点を全て含む円の半径を、約オフセット分短くすることができる。よって検知領域も小さくなり、近接したとみなす機会を減少させ、不必要な減速の発生を低減させることができる。
【0088】
このように本実施形態によって、各車両の移動可能な範囲の領域をより適切に設定することができ、車両同士の干渉を防止するとともに、運搬効率が低下傾向となることを低減することができる。
【0089】
(第2実施形態)
自車両および他車両の予測移動領域円は、車両位置にオフセットを考慮した中心位置と半径で表される円で表現される。このオフセットと半径を、第1実施形態のように計算で求めることを考えると、CPUなどによる計算負荷が高くなり、ハードウェア資源を圧迫する。一方で、遅延時間など計算に用いるための値を予め決めておくことで、自車両の走行速度および他車両の走行速度に応じて、オフセットと半径が一意に決まる。
【0090】
第2実施形態では、第1実施形態に対して計算負荷を低減させる実装例を説明する。
【0091】
図19は、第2実施形態の自律走行ダンプ20の構成例を示す図である。第2実施形態の自律走行ダンプ20は、オフセット・半径記憶装置80が設けられており、また接近判定装置24には、自車両予測円抽出部81、他車両予測円抽出部82が設けられている。この構成以外は、第1実施形態と同様である。
【0092】
オフセット・半径記憶装置80は、走行速度から予測移動領域円の中心位置までのオフセットと半径の値を記憶する。このオフセットと半径の値は、上記第1実施形態で説明した手法を用いて、自車両15、他車両70の走行速度ごとに、事前に算出した結果であり、走行速度に対応付けて記憶されている。
【0093】
自車両予測円抽出部81は、自車両15の走行速度を元に、オフセット・半径記憶装置80から、自車両15の予測移動領域円のオフセットと半径を抽出する。
【0094】
他車両予測円抽出部82は、無線通信装置23を介して取得した他車両70の走行速度と、自車両15の走行速度とを元に、オフセット・半径記憶装置80から、他車両70の予測移動領域円のオフセットと半径を抽出する。
【0095】
図20(A)は、他車両70の走行速度と予測移動領域円の半径との関係を例示した図であり、
図20(B)は、他車両70の走行速度と予測移動領域円のオフセットとの関係を例示した図である。この
図20(A)、(B)で表現される対応関係が、オフセット・半径記憶装置80に記憶されている。すなわちオフセット・半径記憶装置80には、自車両15の走行速度と、他車両70の走行速度と、事前に算出した後の他車両70の予測移動領域円の半径と、事前に算出した後のオフセットとを対応付けたデータが記憶されている。
【0096】
他車両予測円抽出部82は、自車両15の現在の走行速度を取得し、また無線通信装置23を介して他車両の走行速度を取得する。他車両予測円抽出部82は、自車両の走行速度と、他車両の走行速度とを検索キーとして用いて、オフセット・半径記憶装置80から、他車両70の予測移動領域円の半径、オフセットを抽出する。
【0097】
また、
図20(A)、(B)に図示するような関係式を用いて、他車両70の予測移動領域円の半径、オフセットを求めてもよい。ここで関係式を用いた他車両70の予測移動領域円の半径の求め方について、
図20(A)を用いて説明する。他車両予測円抽出部82は、自車両15の現在の走行速度を取得し、この自車両速度に対応した関係式を、オフセット・半径記憶装置80から取得する。オフセット・半径記憶装置80は、自車両15の走行速度と、関係式とが対応付けられたデータ構造を記憶しており、自車両15の現在の走行速度を入力すると、一意に対応付けられた関係式を検索結果として出力する。ここでは
図20(A)に図示する関係式F1が出力されるものとする。他車両予測円抽出部82は、無線通信装置23を介して他車両の走行速度を取得し(ここではV1とする)、走行速度V1を関係式F1に代入して、他車両の予測移動領域円の半径R1を求める。
【0098】
他車両予測円抽出部82による、関係式を用いた他車両70の予測移動領域円のオフセットの求め方についても同様の手法となる(
図20(B)参照)。他車両予測円抽出部82は、自車両15の現在の走行速度を取得し、この自車両速度に対応した関係式F2を、オフセット・半径記憶装置80から取得する。そして他車両予測円抽出部82は、他車両70の走行速度V1を関係式F2に代入して、他車両70の予測移動領域円のオフセットL1を求める。
【0099】
図21(A)は、自車両15の走行速度と自車両15の予測移動領域円の半径との関係を例示した図であり、
図21(B)は、自車両15の走行速度と自車両15の予測移動領域円のオフセットとの関係を例示した図である。この
図21(A)、(B)で表現される各種情報が、オフセット・半径記憶装置80に記憶されている。すなわちオフセット・半径記憶装置80には、自車両15の走行速度と、事前に算出した後の自車両15の予測移動領域円の半径と、事前に算出した後のオフセットとを対応付けたデータが記憶されている。
【0100】
自車両予測円抽出部81は、自車両15の現在の走行速度を検索キーとして、オフセット・半径記憶装置80から、自車両15の予測移動領域円のオフセットおよび半径を抽出する。
【0101】
また、
図21(A)、(B)に図示するような関係式を用いて、自車両15の予測移動領域円の半径、オフセットを求めてもよい。まずは自車両予測円抽出部81による自車両15の予測移動領域円の半径の求め方について、
図21(A)を用いて説明する。自車両予測円抽出部81は、自車両15の現在の走行速度V3を取得し、また関係式F3を、オフセット・半径記憶装置80から取得する。自車両予測円抽出部81は、走行速度V3を関係式F3に代入して、自車両15の予測移動領域円の半径R3を求める。自車両15の予測移動領域円のオフセットの求め方についても同様の手法となる(
図21(B)参照)。すなわち、自車両予測円抽出部81は、関係式F4をオフセット・半径記憶装置80から取得し、自車両15の走行速度V3を関係式F4に代入して、自車両の予測移動領域円のオフセットL3を求める。
【0102】
第2実施形態の態様により、第1実施形態の態様に比べて計算負荷を低減させることができる。また、オフセット・半径記憶装置80には代表的な値を記録しておき、その値を元に内挿や外挿を用いて求めてもよい。
【0103】
上記各実施形態では、予測移動領域を真円形状として説明したが、これに限定されず、楕円形状でもよく、多角形形状であってもよい。また、車両進行方向の後方の一部が欠けた閉領域の円形状でもよい。これら以外にも、予測移動領域は、操舵角ごとに設けた各到達点を領域内に含み、且つ、中心が車両の進行方向の前方となる領域であればよい。尚、真円形状の場合、半径が決まると円領域の範囲が決まることから、半径が、範囲を規定する長さとの位置付けとなる。同様に、楕円の場合、範囲を規定する長さは、例えば長径や短径などとなり、多角形の場合、範囲を規定する長さは、例えば中心から特定の頂点までの長さなどとなる。
【0104】
上記各実施形態では、接近判定装置24を自律走行ダンプ20に搭載した構成について説明したが、交通管制装置300のサーバシステム(コンピュータ)の機能として導入し、一元管理してもよい。この場合、交通管制装置300は、自律走行ダンプ20、補助作業車両90から、各車両の識別情報、および各車両の位置情報、現在の速度値、方位角を取得し、上記のとおり予測移動領域をそれぞれ作成して接近しているかの判定を行う。そして交通管制装置300は、接近しているとの判定結果である場合、該当する自律走行ダンプ20にこの旨を通知し、減速制御を行う。
【0105】
また交通管制装置300で一元管理する場合、交通管制装置300が、例えば
図5に示すような各車両の位置や予測移動領域をモニタなどの表示装置に表示させる、との実装であってもよい。この場合、例えばマウスポインタなどで表示画面内の車両を選択すると、当該選択車両を自車両として、自車両予測移動領域および他車両予測移動領域が表示される実装でもよい。
【0106】
このように、接近判定装置24を交通管制装置300のサーバシステム側に備えさせたシステム構成としてもよいし、各実施形態で説明したように自律走行ダンプ20の車両側に備えさせたシステム構成としてもよい。また、補助作業車両90などの有人車両に接近判定装置24を備え、有人車両に対して上記各実施形態と同様の減速制御、もしくは通知を行ってもよい。
【0107】
尚、交通管制装置300で一元管理する場合、自車両、他車両など自他を区別するのではなく、各車両をそれぞれ区別することになる。よって、上記の説明における自車両は例えば第1車両となり、他車両は例えば第2車両などとなる。
【0108】
自車両移動距離算出部31、他車両移動距離算出部33は、各記憶部や積載量検出装置159、ピッチ角検出装置160を内部に有した構成であるものとして説明したが、あくまでも例示である。これら各記憶部や装置の一部もしくは全てを、自車両移動距離算出部31、他車両移動距離算出部33の外部に設ける実装でも構わない。この場合、記憶部を記憶装置としてもよい。
【0109】
上記実施形態では、車両同士の干渉のおそれを判定する実装例について説明したが、車両と人との干渉のおそれを判定することにも応用することができる。例えば搬送路や作業エリアを歩行している作業者に、他車両70に備えられる測位装置71、測位算出装置72、無線通信装置73と同機能を有する端末装置を保持させ、各種パラメータを作業者の歩行速度などに則った値に置き換える(もしくは停止状態とみなす)ことで、上記同様の接近判定を行うことが可能となる。また、補助作業車両90を運転操作するオペレータに、このような端末装置を保持させることで、補助作業車両90に測位装置71、測位算出装置72、無線通信装置73を搭載することなく、上記実施形態と同等の態様を行うことができる。
【0110】
図11や
図12に示す走行軌道は、走行中に操舵角を変えずに、操舵角を固定にして走行させ続けた場合の軌道とするが(すなわちクロソイド曲線を含まない軌道)、クロソイド曲線を含めた走行軌道としてもよい。
【0111】
自車両を第1車両とし、他車両を第2車両と見立てた装置構成や機能構成としてもよい。この場合、第1車両移動距離算出部は、自車両移動距離算出部31に相当し、第2車両移動距離算出部は、他車両移動距離算出部33に相当する。第1車両測位情報は、自車両測位情報に相当し、第2車両測位情報は、他車両測位情報に相当する。第1車両予測移動領域は、自車両15の予測移動領域に相当し、第2車両予測移動領域は、他車両70の予測移動領域に相当する。第1車両予測移動領域算出部は、自車両予測移動領域算出部32に相当し、第2車両予測移動領域算出部は、他車両予測移動領域算出部34に相当する。第1車両移動時間は、自車両移動時間に相当する。第1車両予測移動領域抽出部は自車両予測円抽出部81に相当する。第2車両予測移動領域抽出部は他車両予測円抽出部82に相当する。
【0112】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0113】
1:鉱山車両運行システム
15:自車両
20:自律走行ダンプ
21:測位装置
22:測位算出装置
23:無線通信装置
24:接近判定装置
25:自律走行制御装置
26:車両制御装置
31:自車両移動距離算出部
32:自車両予測移動領域算出部
33:他車両移動距離算出部
34:他車両予測移動領域算出部
35:干渉判定部
36:減速指令生成部
40:無線通信回線
41:自車両減速度記憶部
42:接近時速度記憶部
43:自車両減速必要時間算出部
44:通信遅延時間記憶部
45:最大加速度記憶部
46:安全余裕時間記憶部
47:ブレーキ遅延時間記憶部
48:移動距離算出部
49:通信遅延時間算出部
51:自車両減速必要時間算出部
52:自車両減速度記憶部
53:安全余裕時間記憶部
54:ブレーキ遅延時間記憶部
55:接近時速度記憶部
56:移動距離算出部
57:機械ブレーキ減速度記憶部
58:電気ブレーキ減速度記憶部
61:機械ブレーキ
62:電気ブレーキ
70:他車両
71:測位装置
72:測位算出装置
73:無線通信装置
80:オフセット・半径記憶装置
81:自車両予測円抽出部
82:他車両予測円抽出部
151:車輪速センサ
159:積載量検出装置
160:ピッチ角検出装置
170:車載通信部
300:交通管制装置
1000:車両干渉防止システム