(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】既存杭の調査および補強方法
(51)【国際特許分類】
E02D 33/00 20060101AFI20220905BHJP
E02D 37/00 20060101ALI20220905BHJP
E02D 5/64 20060101ALI20220905BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
E02D33/00
E02D37/00
E02D5/64
E02D3/12 102
(21)【出願番号】P 2018127539
(22)【出願日】2018-07-04
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390002233
【氏名又は名称】ケミカルグラウト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(74)【復代理人】
【識別番号】100156410
【氏名又は名称】山内 輝和
(72)【発明者】
【氏名】中村 佳大
(72)【発明者】
【氏名】高野 卓
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】粂川 政則
(72)【発明者】
【氏名】野呂 善孝
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-008487(JP,A)
【文献】特開2007-270492(JP,A)
【文献】特開2017-115397(JP,A)
【文献】特開2007-271587(JP,A)
【文献】特開2017-089263(JP,A)
【文献】特開2005-180112(JP,A)
【文献】特開2016-098529(JP,A)
【文献】特開平07-305332(JP,A)
【文献】特開2017-179904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 33/00
E02D 37/00
E02D 5/64
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔ロッドに振動を、ないしは前記削孔ロッドの先端ビットに打撃を加えつつ、前記削孔ロッドの回転と非回転を制御することにより、構造物の周囲の地上から既存杭の下端部付近に向けて曲線状の第1の孔を削孔する工程aと、
前記第1の孔を用いて、前記既存杭の状態を調査する工程bと、
前記工程bでの調査において前記既存杭が健全でないことが判明した場合に、前記削孔ロッドを所定の位置に誘導して第2の孔を削孔し、前記第2の孔を用いて前記既存杭の補強を行う工程cと、
を具備
し、
前記工程bで前記既存杭が支持層に達していないことが認められた場合、
前記工程cで、前記削孔ロッドを前記既存杭の下端部と前記支持層との間に誘導し、前記既存杭と前記支持層とを連結する地盤改良体を形成することを特徴とする既存杭の調査および補強方法。
【請求項2】
削孔ロッドに振動を、ないしは前記削孔ロッドの先端ビットに打撃を加えつつ、前記削孔ロッドの回転と非回転を制御することにより、構造物の周囲の地上から既存杭の下端部付近に向けて曲線状の第1の孔を
前記先端ビットが支持層に入ったかどうかを判断しつつ削孔
し、前記先端ビットを前記支持層内で前記既存杭に到達させる工程aと、
前記第1の孔を用いて、前記既存杭の状態を調査する工程bと、
前記工程bでの調査において前記既存杭が健全でないことが判明した場合に、前記削孔ロッドを所定の位置に誘導して第2の孔を削孔し、前記第2の孔を用いて前記既存杭の補強を行う工程cと、
を具備することを特徴とする既存杭の調査および補強方法。
【請求項3】
前記工程bで、発振器を前記第1の孔に挿入し、受信器を前記既存杭の上部付近に設置して前記既存杭の弾性波計測を行って、前記既存杭の
損傷箇所の有無を調査することを特徴とする請求項
2記載の既存杭の調査および補強方法。
【請求項4】
前記工程bで、発振器および受信器を前記第1の孔に挿入し、前記既存杭付近に設置して前記既存杭の弾性波計測を行って、前記既存杭の
損傷箇所の有無を調査することを特徴とする請求項
2記載の既存杭の調査および補強方法。
【請求項5】
前記工程bで、サンプラまたはコアバーレルを前記第1の孔に挿入し、前記既存杭または周辺地盤のサンプルを取得して前記既存杭の状態を確認することを特徴とする請求項
2から請求項
4のいずれかに記載の既存杭の調査および補強方法。
【請求項6】
前記工程bで前記既存杭に損傷箇所が認められた場合、
前記工程cで、前記削孔ロッドを前記既存杭の損傷箇所の近傍に誘導し、少なくとも前記損傷箇所を覆うように地盤改良体を形成することを特徴とする請求項
2から請求項
5のいずれかに記載の既存杭の調査および補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存杭の調査および補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物を支持する杭は、下端部を支持層に所定の長さ貫入させることで支持力を確保する。支持層の位置は、予め局所的に実施されたボーリング調査等に基づいて推定する。しかし、地層が傾斜や褶曲を伴う場合や、ボーリング調査の本数が少ない場合には、支持層の実際の位置と推定した位置とが異なり、杭を設計通りに施工しても下端部が支持層に到達しないことがある。
【0003】
そのため、杭が支持層に到達しているか否かを確認する方法として、支持層内に起振点を設定して弾性波を発生させ、起振点から平面視で離れた位置に形成された杭に設けた受信器によって弾性波を受信する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、既設構造物下の地盤を改良する方法として、施工基地から既設構造物下の要改良地盤部に向けて曲線状に削孔して複数の基礎杭の周囲に湾曲柱状の補強体を敷設する方法や、建物の側面側に掘削した立坑から複数の支持杭を連結するように地盤改良材を注入する方法が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-115397号公報
【文献】特開2005-180112号公報
【文献】特開2017-179904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された確認方法では、平面視で杭から離れた位置の支持層に起振点を設定するため、弾性波が減衰して杭に伝わりにくいという問題点があった。
特許文献2、3に記載された方法は、補強体によって複数の杭を連結するものであるが、杭の事前調査については記載されていない。
【0007】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、構造物の周囲の地上から既存杭の状態を調査して補修することができる既存杭の調査および補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために第1の発明は、削孔ロッドに振動を、ないしは前記削孔ロッドの先端ビットに打撃を加えつつ、前記削孔ロッドの回転と非回転を制御することにより、構造物の周囲の地上から既存杭の下端部付近に向けて曲線状の第1の孔を削孔する工程aと、前記第1の孔を用いて、前記既存杭の状態を調査する工程bと、前記工程bでの調査において前記既存杭が健全でないことが判明した場合に、前記削孔ロッドを所定の位置に誘導して第2の孔を削孔し、前記第2の孔を用いて前記既存杭の補強を行う工程cと、を具備し、前記工程bで前記既存杭が支持層に達していないことが認められた場合、前記工程cで、前記削孔ロッドを前記既存杭の下端部と前記支持層との間に誘導し、前記既存杭と前記支持層とを連結する地盤改良体を形成することを特徴とする既存杭の調査および補強方法である。
第2の発明は、削孔ロッドに振動を、ないしは前記削孔ロッドの先端ビットに打撃を加えつつ、前記削孔ロッドの回転と非回転を制御することにより、構造物の周囲の地上から既存杭の下端部付近に向けて曲線状の第1の孔を前記先端ビットが支持層に入ったかどうかを判断しつつ削孔し、前記先端ビットを前記支持層内で前記既存杭に到達させる工程aと、前記第1の孔を用いて、前記既存杭の状態を調査する工程bと、前記工程bでの調査において前記既存杭が健全でないことが判明した場合に、前記削孔ロッドを所定の位置に誘導して第2の孔を削孔し、前記第2の孔を用いて前記既存杭の補強を行う工程cと、を具備することを特徴とする既存杭の調査および補強方法である。
【0009】
削孔ロッドに振動を、ないしは前記削孔ロッドの先端ビットに打撃を加えつつ、削孔ロッドの回転と非回転とを制御すれば、地盤に三次元的に曲がりボーリング孔を削孔することができる。これにより、構造物の周囲の地上から既存杭の下端部付近に向けて第1の孔を削孔し、既存杭の状態を調査することができる。また、削孔ロッドを地盤中で所定の位置に誘導して第2の孔を削孔し、既存杭の補強を行うことができる。本発明では、調査の結果に基づいて補強を行うので、補修や補強の無駄を省くことができる。本発明で削孔ロッドに加える振動成分は、軸方向であってもよいし、複数方向であってもよい。複数方向の振動成分を加えることにより、地盤が硬い場合や、地盤の硬さが変化する場合にも、削孔方向がぶれることなく、計画された方向に削孔を行うことができる。
【0010】
第2の発明の前記工程bでは、例えば、発振器を前記第1の孔に挿入し、受信器を前記既存杭の上部付近に設置して前記既存杭の弾性波計測を行って、前記既存杭の損傷箇所の有無を調査する。
発振器を第1の孔に挿入して既存杭の表面に設置し、既存杭の上部付近に設置した受信器で弾性波計測を行うことにより、弾性波を確実に受信して既存杭の状態を確認することができる。
【0011】
第2の発明の前記工程bでは、発振器および受信器を前記第1の孔に挿入し、前記既存杭付近に設置して前記既存杭の弾性波計測を行って、前記既存杭の損傷箇所の有無を調査してもよい。同一孔内に発振器および受信器を取り付けた場合にも、弾性波を確実に受信して既存杭の状態を確認することができる。
【0012】
第2の発明の前記工程bでは、サンプラまたはコアバーレルを前記第1の孔に挿入し、前記既存杭または周辺地盤のサンプルを取得して前記既存杭の状態を確認してもよい。
サンプルを取得することにより、既存杭または周辺地盤の品質を直接確認することができる。
【0013】
第2の発明の前記工程bで前記既存杭に損傷箇所が認められた場合、前記工程cで、前記削孔ロッドを前記既存杭の損傷箇所の近傍に誘導し、少なくとも前記損傷箇所を覆うように地盤改良体を形成することが望ましい。
これにより、構造物の周囲の地上から損傷箇所を補修することができる。
【0014】
第1の発明では、前記工程bで前記既存杭が支持層に達していないことが認められた場合、前記工程cで、前記削孔ロッドを前記既存杭の下端部と前記支持層との間に誘導し、前記既存杭と前記支持層とを連結する地盤改良体を形成する。
これにより、構造物の周囲の地上から既存杭と支持層との間の地盤を補強することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、構造物の周囲の地上から既存杭の状態を調査して補修することができる既存杭の調査および補強方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図5】既存杭5および調査のための孔13の平面視での配置を示す図
【
図10】地盤改良体31の施工を完了した状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、第1の孔13を削孔する工程を示す図である。
図1(a)は孔13を削孔している状態を示す図である。
【0018】
図1(a)に示すように、地盤1上には構造物3が存在する。構造物3は、既存杭5によって支持されている。既存杭5は、下端部が地盤1の支持層2に所定の長さ貫入される。支持層2は、例えばN値>50の層である。
【0019】
構造物3の周囲の地盤1上には、削孔ロッド9を駆動するためのボーリングマシン7が設置される。ボーリングマシン7には、図示しないジャイロ挿入引き込み装置が一体化される。
【0020】
図1(b)は削孔ロッド9の先端ビット11付近の断面図であり、
図1(a)に示す範囲Aの拡大図である。
【0021】
図1(b)に示すように、削孔ロッド9は、管状材であり、先端ビット11に削孔方向決定部材15が設けられる。削孔ロッド9は、大きな靱性を有する。削孔方向決定部材15は、削孔ロッド9の軸方向(
図1(b)に示す矢印Xの方向)に対して所定の角度をなすように取り付けられる。削孔ロッド9の先端ビット11には、詰め物17および位置探査のための図示しない発信器が設置される。
【0022】
ボーリングマシン7は、削孔ロッド9の全体を矢印Bに示すように回転させることができる。さらに、必要に応じて削孔ロッド9を先端方向に押し出すことが可能である。削孔ロッド9は、ボーリングマシン7によって軸方向に振動が加えられるような構成、ないしは、先端ビット11の基端部側に設置された図示しないハンマー等で先端ビット11に打撃が加えられるような構成とする。
【0023】
削孔ロッド9は、回転と、削孔ロッド9への軸方向の振動ないしは先端ビット11への打撃とを組み合わせることで直進する。また、削孔ロッド9の回転を停止して非回転の状態で削孔ロッド9への軸方向の振動ないしは先端ビット11への打撃を加えることで、削孔方向決定部材15の方向への削孔が行われ、削孔方向を任意の方向に曲げることができる。なお、掘削対象となる地盤の状況に応じて単位時間あたりの打撃回数を増減するなどして、振動ないしは打撃の加え方と押し出し力を調整することによって、削孔の曲率を調整することもできる。
【0024】
図1(a)に示す工程では、ボーリングマシン7および削孔ロッド9を用いて、調査対象となる既存杭5の下端部に向けて孔13を削孔する。このとき、地中埋設物や他の既存杭5等に接触しないよう、先端ビット11の位置計測や削孔方向の修正を繰り返しつつ削孔する。孔13の削孔工程では、削孔に要する時間やトルク、掘進速度などを取得することにより、先端ビット11が支持層2に入ったかどうかを判断する。
【0025】
図2、
図3は、既存杭5の調査を行う工程を示す図である。
図2(a)は、先端ビット11が所定の既存杭5に到達した状態を示す図である。削孔ロッド9は、
図2(a)に示すように先端ビット11が調査対象となる既存杭5に到達すると、孔13の削孔を停止する。
【0026】
図2(b)は、孔13を用いて調査を行っている状態を示す図である。削孔ロッド9による削孔を停止したら、図示しない撤去用部材を地表側から削孔ロッド9に挿入して削孔ロッド9の詰め物17(
図1(b))を撤去して、
図2(b)に示すように、孔13を用いて調査手段19を設置する。
【0027】
図3(a)は、
図2(b)に示す範囲Cの拡大図である。調査手段19は、
図3(a)に示すように、発振器19a、ロッド19b、受信器19cからなる。発振器19aはロッド19bの先端に設けられる。発振器19aは、孔13に残置された削孔ロッド9内にロッド19bを挿入することにより、既存杭5の表面に押し当てて設置される。受信器19cは、既存杭5の上部付近に設置される。受信器19cは、例えば、図示しない曲がりボーリング孔を地表から掘削して設置される。
【0028】
図2(b)に示す工程では、調査手段19を設置した後、弾性波計測を行って既存杭5の状態を調査する。すなわち、発振器19aで弾性波を発生させて、既存杭5内を伝播した弾性波を受信器19cで受信する。
【0029】
図3(b)は、受信器19cで受信した弾性波の例を示す図である。調査対象の既存杭5が健全である場合は、
図3(b)の上側のグラフに示すように、発振器19aから発振された弾性波の反射波が所定の時間間隔T1をおいて受信される。一方、調査対象の既存杭5に例えば
図3(a)に示すようなひび割れ21が存在する場合は、
図3(b)の下側のグラフに示すように、発振器19aから発振された弾性波の反射波が、既存杭5が健全である場合の時間間隔T1よりも短い時間間隔T2で受信される。なお、ひび割れ21までの距離は生じた時間差によって推定される。
【0030】
図4は、ひび割れ21の補修を行う工程を示す図である。
図4(a)(b)は地盤改良体31を施工している状態を示す図であり、
図4(c)は地盤改良体31の施工を完了した状態を示す図である。
図4(b)(c)は、
図4(a)に示す矢印D-Dに沿った断面に対応する。
【0031】
調査手段19を用いた調査の結果、既存杭5にひび割れ21があると判断された場合には、まず、削孔ロッド9から
図3(a)に示す発振器19aおよびロッド19bを撤去して、削孔ロッド9を削孔が可能な状態(
図2(b))に戻す。そして、
図4(b)に示すように、孔13から削孔ロッド9を所定の距離だけ引き戻し、曲がり方向を変更して既存杭5の一方の側を通過するように第2の孔13a-1を再削孔する。
【0032】
孔13a-1を所定の位置まで削孔したら、
図2(b)に示す詰め物17を先端ビット11から撤去して、削孔ロッド9の内部にジェットツールス23を挿入する。ジェットツールス23は、ロッド25、ロッド25の先端に設けられたノズル27等からなる。
【0033】
その後、削孔ロッド9およびジェットツールス23を引き戻しつつ、ノズル27からジェット29を噴出する。ジェット29は、高圧のセメントミルクである。また、圧縮空気と混合させる場合もある。すると、ジェット29によって既存杭5の一方の側の地盤1が掘削され、高圧のセメントミルクおよび圧縮空気と地盤1の土砂とが撹拌されて、地盤改良体31が形成される。このとき、ジェット29によって既存杭5の表面が粗されることにより、既存杭5と地盤改良体31との付着が良くなる。地盤改良体31は、損傷箇所であるひび割れ21の位置を含む深さ範囲において既存杭5の外周面を覆うように、必要強度に見合う範囲に形成される。
【0034】
次に、削孔ロッド9を孔13a-1から所定の距離だけ引き戻し、ジェットツールス23を一旦撤去して削孔ロッド9を削孔が可能な状態(
図2(b))に戻し、
図4(c)に示すように曲がり方向を変更して既存杭5の他方の側を通過するように第2の孔13a-2を再削孔する。そして、上記した手順によって既存杭5の他方の側にも必要強度に見合う範囲で地盤改良体31を形成する。これにより、地盤改良体31が、ひび割れ21の位置を含む深さ範囲において既存杭5の外周面の全体を覆うように形成され、調査対象の既存杭5の補強が終了する。なお、補強の終了後、孔13または孔13aを用いて地盤改良体31の強度の確認を行ってもよい。
【0035】
調査対象の既存杭5の調査および補強が終了したら、他の既存杭5についても順次調査を行い、必要に応じて補強を行う。
【0036】
図5は、既存杭5および調査のための孔13の平面視での配置を示す図である。第1の実施形態では、
図5に示すように、1ケ所に設置したボーリングマシン7から削孔ロッド9を発進させて、地盤1中で削孔方向を変更することにより複数の既存杭5に到達する孔13を削孔する。
【0037】
このように、第1の実施形態では、削孔ロッド9に軸方向に振動を加えつつ、ないしは削孔ロッド9の先端ビット11に打撃を加えつつ、削孔ロッド9の回転と非回転とを制御することにより削孔方向を任意の方向に曲げることができる削孔ロッド9を用いることにより、構造物3の周囲の地上から削孔ロッド9を発進させて、地盤1中の既存杭5に向けて第1の孔13を削孔し、孔13を用いて既存杭5の状態を調査することができる。このとき、発振器19aを孔13に挿入して既存杭5の表面に設置し、既存杭5の上部付近に受信器19cを設置することにより、弾性波を確実に受信して既存杭5の状態を確認することができる。
【0038】
また、既存杭5の状態を確認した後、削孔ロッド9を所定の距離だけ引き戻して既存杭5のひび割れ21の近傍に誘導して第2の孔13aを削孔し、孔13aを用いて既存杭5の補修をすることができる。このとき、孔13aにジェットツールス23を挿入することにより、ひび割れ21を覆うように地盤改良体31を形成することができる。第1の実施形態では、調査の結果に基づいて補強を行うので、調査を行わずに補強する場合と比較して、材料や時間の無駄を省くことができる。
【0039】
なお、第1の実施形態では、孔13に挿入した発振器19aと既存杭5の上部付近に設置した受信器19cとを有する調査手段19を用いたが、調査手段はこれに限らない。
【0040】
図6は、調査手段19の代わりに調査手段19’を設置した例を示す図である。
図6(a)は、調査手段19’を用いて調査を行う工程を示す。
図6(b)は、
図6(a)に示す範囲C’の拡大図である。
【0041】
調査手段19’は、
図6(b)に示すように、ロッド19b’と、ロッド19b’の先端に設けられた発振器19a’および受信器19c’とからなる。発振器19a’および受信器19c’は、孔13に残置された削孔ロッド9内にロッド19b’を挿入することにより、既存杭5の表面に押し当てて設置される。調査手段19’は、発振器19a’および受信器19c’が同一の孔13内に設置される点で調査手段19と異なる。
【0042】
図6に示す工程では、孔13を用いて調査手段19’を設置した後、弾性波計測を行って既存杭5の状態を調査する。すなわち、発振器19a’で弾性波を発生させて、既存杭5内を伝播した弾性波の反射波を受信器19c’で受信する。
【0043】
同一の孔13内に発振器19a’および受信器19c’を取り付けた調査手段19’を用いた場合でも、調査手段19を用いた場合と同様に、調査対象の既存杭5に例えば
図6(b)に示すようなひび割れ21が存在すると、既存杭5が健全である場合と比較して、短い時間間隔で反射波が受信される。調査手段19’は、調査手段19よりも設置が容易である。
【0044】
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる点について説明し、同様の点については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。また、各実施形態で説明する構成は必要に応じて組み合わせることができる。
【0045】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に既存杭5の調査および補強を行うが、調査手段19のかわりに調査手段33を用いる。また、既存杭5の下端部が支持層2aに貫入されておらず、地盤改良体31の形成位置が異なる。
【0046】
図7は、既存杭5の調査を行う工程を示す図である。第2の実施形態では、
図7に示すように先端ビットが所定の既存杭5に到達すると、削孔ロッド9による削孔を停止し、図示しない撤去用部材を地表側から削孔ロッド9に挿入して削孔ロッド9の詰め物17(
図1(b))を撤去して、削孔ロッド9に調査手段33を設置する。
【0047】
図8は、
図7に示す範囲Eの拡大図である。
図8に示すように、調査手段33は、サンプラ33a、ロッド33b等からなる。サンプラ33aはロッド33bの先端に設けられる。サンプラ33aは、孔13内に残置された削孔ロッド9内にロッド33bを挿入することにより、既存杭5の表面付近に設置される。
【0048】
図7に示す工程では、調査手段33を設置した後、サンプラ33aを用いて既存杭5のサンプル35を取得して既存杭5の状態を確認する。すなわち、サンプル35を地上に回収して、各種試験や目視による観察を行い、既存杭5の所定の箇所の品質を把握する。
【0049】
図9は、既存杭5の補強を行う工程を示す図である。
図9(a)は第2の孔13bを削孔している状態を示す図である。
【0050】
図7に示すように、第2の実施形態では、調査の対象となっている既存杭5の下端部が地盤1の支持層2aに貫入されていない。このことは、例えば、支持層2aの深さの事前調査から判断される。また、既存杭5の下端部に到達する孔13を削孔する際に削孔に要する時間やトルク、掘進速度などから判断されることもある。調査手段33を用いた調査の結果は正常であるが、既存杭5が支持層2aに貫入されていないと判断された場合には、まず、削孔ロッド9から
図7に示す調査手段33を撤去して、削孔ロッド9を削孔が可能な状態(
図2(b))に戻す。そして、
図9(a)に示すように、孔13から削孔ロッド9を所定の距離だけ引き戻し、曲がり方向を変更して既存杭5と支持層2aとの間を通過するように第2の孔13bを再削孔する。
【0051】
図9(b)は、地盤改良体31を施工している状態を示す図である。孔13bを所定の位置まで削孔したら、第1の実施形態と同様の手順で削孔ロッド9の内部にジェットツールス23を挿入し、削孔ロッド9およびジェットツールス23を引き戻しつつ、ノズル27からジェット29を噴出して、地盤改良体31を形成する。地盤改良体31は、調査対象の既存杭5の下端部付近の外周面の全体を覆うとともに、既存杭5と支持層2aとを連結するように形成される。
【0052】
図10は、地盤改良体31の施工を完了した状態を示す図である。
図10は、
図9(b)に示す矢印F-Fに沿った断面に対応する。
図10に示す例では、第2の孔13bを2本削孔して、4つの地盤改良体31によって既存杭5の外周面の全体を覆っている。地盤改良体31による改良は、必要強度に見合う範囲で行う。
【0053】
対象となる既存杭5の調査および補強が終了したら、他の既存杭5についても順次調査を行い、必要に応じて補強を行う。なお、補強の終了後、孔13または孔13bを用いて地盤改良体31の強度の確認を行ってもよい。
【0054】
このように、第2の実施形態においても、削孔ロッド9に軸方向に振動を加えつつ、ないしは削孔ロッド9の先端ビット11に打撃を加えつつ、削孔ロッド9の回転と非回転とを制御することにより削孔方向を任意の方向に曲げることができる削孔ロッド9を用いることにより、構造物3の周囲の地上から削孔ロッド9を発進させて、地盤1中の既存杭5に向けて第1の孔13を削孔し、孔13を用いて既存杭5の状態を調査することができる。このとき、サンプラ33aを孔13に挿入して既存杭5の表面からサンプル35を取得することにより、既存杭5の所定の箇所の品質を把握することができる。
【0055】
また、既存杭5の状態を確認した後、削孔ロッド9を既存杭5と支持層2aとの間に誘導して第2の孔13bを削孔し、孔13bを用いて既存杭5と支持層2aとを連結する地盤改良体31を形成することができる。これにより、既存杭5と支持層2aとの間の地盤1の強度を支持層2aと同等程度にまで改良して、支持層2aに下端部が貫入されていない既存杭5の支持力を補強することができる。第2の実施形態では、調査の結果に基づいて補強を行うので、調査を行わずに補強する場合と比較して、材料や時間の無駄を省くことができる。
【0056】
次に、第3の実施の形態について説明する。
第3の実施の形態では、
図1(a)に示すボーリングマシン7が、
図1(b)に示す削孔ロッド9に複数方向の振動を加えるとともに、削孔ロッド9の全体を
図1(b)に示す矢印Bに示すように回転させる。ボーリングマシン7は、削孔ロッド9に、例えば、
図1(b)に示す矢印Yの方向などに振動成分を加えてもよく、三次元的に振動を付与してもよい。さらに、ボーリングマシン7は、必要に応じて削孔ロッド9を先端ビット11の方向に押し出すことが可能である。
【0057】
削孔ロッド9は、回転と振動とを組み合わせることで直進する。また、削孔ロッド9の回転を停止して非回転状態として複数方向の振動を加えることで、削孔方向決定部材15の方向への削孔が行われ、削孔方向を任意の方向に曲げることができる。なお、振動の加え方と押し出し力を調整することによって、削孔の曲率を調整することもできる。
【0058】
第3の実施形態では、ボーリングマシン7を用いて削孔ロッド9に複数方向の振動を加えつつ削孔ロッド9の回転と非回転とを制御することにより、地盤1上から削孔ロッド9を発進させて、地盤1に第1の孔13や第2の孔13a、13bを削孔する。
【0059】
第3の実施形態においても、第1、第2の実施形態と同様の効果が得られる。加えて、第1、第2の実施形態で削孔ロッド9に加えられる振動や先端ビット11に加えられる打撃は、軸方向への衝撃であるため、ロッドが長い場合には衝撃力が減衰するが、第3の実施形態の削孔ロッド9の振動は、複数方向に加えられ、ロッドが長い場合にも減衰せずに伝播するため、長距離の削孔が可能である。
【0060】
第1、第2の実施形態では、軸方向への振動や打撃で前方の掘削と掘進を行うため、硬さが固い地盤の掘削は困難である。しかし、第3の実施の形態では、削孔ロッド9が、複数方向の振動によって地盤を破壊して削孔し、後方からの軸方向への押し出し力は、削孔にほとんど寄与せずにロッドの前進にのみ利用される。このため、固い地盤やコンクリートなどであっても、振動によって前方の地盤等の削孔が可能である。また、固い地盤と軟らかい地盤との境界部近傍を削孔する際にも、第1、第2の実施形態では、軸方向への振動や打撃で前方への掘進を行うため、ロッド先端が軟らかい地盤側に逃げてしまうが、第3の実施形態では、削孔ロッド9が、複数方向の振動によって前方の地盤を破壊して削孔するため、進行方向がぶれることがない。このように、第3の実施形態によれば、地盤が硬い場合や、地盤の硬さが変化する場合にも、削孔方向がぶれることなく、計画された方向に曲線状に削孔を行うことができる。また、複数方向の振動を付与することで、排泥が促進されるとともに、孔13、13a、13bの孔壁を安定させることができる。
【0061】
なお、既存杭5の調査に用いる調査手段は、上記の各実施形態で用いたものに限らない。例えば、サンプラ33aの代わりにコアバーレルを用いてサンプル35を取得してもよいし、サンプルを既存杭5の表面付近の地盤1から取得してもよい。また、孔13にボアホールカメラを挿入して、既存杭5の表面の状態を観察してもよい。
【0062】
さらに、調査手段19を用いる場合、受信器19cの設置位置は既存杭5の上部付近の構造物3の表面に限らない。発振器19aを設置した既存杭5の上部に受信器19cを設置してもよい。
【0063】
既存杭5の損傷箇所を覆うように地盤改良体31を形成する際や、既存杭5と支持層2aとを連結するように地盤改良体31を形成する際の第2の孔の削孔位置は、
図4(c)の孔13a、
図10の孔13bに示す配置に限らない。第2の孔は、適切な位置に地盤改良体31を形成できるように削孔されればよい。
【0064】
補強の対象となる損傷箇所はひび割れに限らない。本発明の方法は、既存杭が地震で折れている場合や、既存杭が耐震基準を満たしていない場合の補強にも適用することができる。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0066】
1………地盤
2、2a………支持層
3………構造物
5………杭
7………ボーリングマシン
9………削孔ロッド
11………先端ビット
13、13a、13a-1、13a-2、13b………孔
15………削孔方向決定部材
17………詰め物
19、19’、33………調査手段
19a、19a’………発振器
19b、19b’、33b………ロッド
19c、19c’………受信器
21………ひび割れ
23………ジェットツールス
25………ロッド
27………ノズル
29………ジェット
31………地盤改良体
33a………サンプラ
35………サンプル