(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】制振装置および制振装置の改造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220905BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
F16F15/02 C
E04H9/02 341C
E04H9/02 341B
(21)【出願番号】P 2018146624
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】久保 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】久保 充司
(72)【発明者】
【氏名】小林 利之
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】城田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】立花 篤史
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-266111(JP,A)
【文献】特開2004-301220(JP,A)
【文献】特開2016-151278(JP,A)
【文献】実開平05-042790(JP,U)
【文献】特開平10-281216(JP,A)
【文献】特開2002-188688(JP,A)
【文献】特開平09-196116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体と、
該振動体を取り囲むフレーム構造と、
前記振動体を支持するとともに鉛直方向に積層された積層ゴムと、
前記振動体の鉛直方向の変位を所定値以内に制限する鉛直変位制限機構と、
を備え
、
前記鉛直変位制限機構は、
前記振動体に対して接続され鉛直方向に延在する軸部と、
該軸部の上部に設けられ、該軸部の前記フレーム構造に対する鉛直方向下向きの変位を制限する脱落防止面と、
該脱落防止面の下方に設けられ、前記軸部の前記フレーム構造に対する鉛直方向上向きの変位を制限する引抜防止面と、
水平面内で移動自在、かつ、鉛直方向の変位が拘束された状態で前記フレーム構造に対して設けられ、前記脱落防止面と前記引抜防止面との間の前記軸部が挿通される軸保持部と、
を備えることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
振動体と、
該振動体を取り囲むフレーム構造と、
前記振動体を支持するとともに鉛直方向に積層された積層ゴムと、
前記振動体の鉛直方向の変位を所定値以内に制限する鉛直変位制限機構と、
を備え、
前記鉛直変位制限機構は、
水平方向に延在して前記フレーム構造に取り付けられた棒状部材と、
一端が前記振動体に接続されるとともに、他端に前記棒状部材が挿入され前記棒状部材の延在方向にスライド可能なリンクと、
を備えることを特徴とす
る制振装置。
【請求項3】
振動体と、
該振動体を取り囲むフレーム構造と、
前記振動体を支持するとともに鉛直方向に積層された積層ゴムと、
前記振動体の鉛直方向の変位を所定値以内に制限する鉛直変位制限機構と、
を備え、
前記鉛直変位制限機構は、
水平面内に広がり前記フレーム構造に取り付けられた固定側すべり面を有するすべり板と、
該固定側すべり面に隙間を設けて対向する移動側すべり面を有し前記振動体に回転自由に接続された移動側すべり部材と、
を備えることを特徴とす
る制振装置。
【請求項4】
振動体と、
該振動体を取り囲むフレーム構造と、
前記振動体を支持するとともに鉛直方向に積層された積層ゴムと、
を備えた制振装置の改造方法であって、
前記振動体の鉛直方向の変位を所定値以内に制限する鉛直変位制限機構を、前記フレーム構造と前記振動体との間に設置する
工程を含み、
前記鉛直変位制限機構は、
前記振動体に対して接続され鉛直方向に延在する軸部と、
該軸部の上部に設けられ、該軸部の前記フレーム構造に対する鉛直方向下向きの変位を制限する脱落防止面と、
該脱落防止面の下方に設けられ、前記軸部の前記フレーム構造に対する鉛直方向上向きの変位を制限する引抜防止面と、
水平面内で移動自在、かつ、鉛直方向の変位が拘束された状態で前記フレーム構造に対して設けられ、前記脱落防止面と前記引抜防止面との間の前記軸部が挿通される軸保持部と、
を備える制振装置の改造方法。
【請求項5】
振動体と、
該振動体を取り囲むフレーム構造と、
前記振動体を支持するとともに鉛直方向に積層された積層ゴムと、
を備えた制振装置の改造方法であって、
前記振動体の鉛直方向の変位を所定値以内に制限する鉛直変位制限機構を、前記フレーム構造と前記振動体との間に設置する工程を含み、
前記鉛直変位制限機構は、
水平方向に延在して前記フレーム構造に取り付けられた棒状部材と、
一端が前記振動体に接続されるとともに、他端に前記棒状部材が挿入され前記棒状部材の延在方向にスライド可能なリンクと、
を備える制振装置の改造方法。
【請求項6】
振動体と、
該振動体を取り囲むフレーム構造と、
前記振動体を支持するとともに鉛直方向に積層された積層ゴムと、
を備えた制振装置の改造方法であって、
前記振動体の鉛直方向の変位を所定値以内に制限する鉛直変位制限機構を、前記フレーム構造と前記振動体との間に設置する工程を含み、
前記鉛直変位制限機構は、
水平面内に広がり前記フレーム構造に取り付けられた固定側すべり面を有するすべり板と、
該固定側すべり面に隙間を設けて対向する移動側すべり面を有し前記振動体に回転自由に接続された移動側すべり部材と、
を備える制振装置の改造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置および制振装置の改造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物や煙突などの構造物の頂部に設置され、構造物の振動を抑制する制振装置は、主として振動体、減衰機構、水平剛性機構で構成される。
【0003】
特許文献1のように、積層ゴムが採用される制振装置においては、振動体の重量支持、水平剛性機構、減衰機構を積層ゴムが負担している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
構造物の振動の原因としては地震などが考えられるが、近年、より大きな地震や長周期地震への対応が望まれている。仮に、想定を超える大きな地震や長周期地震が発生した場合、振動体は許容範囲を超えて水平方向に振動することになり、振動体を取り囲むフレーム構造に振動体が衝突することが考えられる。このとき、フレーム構造との衝突によって、振動体に過大な鉛直方向の変位が生じるおそれがある。
【0006】
積層ゴムが採用される制振装置においては、水平方向における振動体の振動時(設計範囲内の振動時)に、わずかに鉛直方向に変位するが、このわずかな変位は積層ゴムで吸収可能となるように設計されることがある。
【0007】
しかしながら、鉛直方向に過大な変位が発生した場合、過大な変位を積層ゴムで吸収できずに、積層ゴムが破断するおそれがある。そうなると、積層ゴムが負担していた振動体の支持力が失われて振動体が脱落することで、制振機能の損失、振動体による周囲の構造物の損傷、構造物からの振動体の落下の危険性がある。
【0008】
本発明はこのような事情を鑑みてなされたものであって、過大な鉛直方向の変位の発生を抑制することで、積層ゴムの損傷を防止することができる制振装置および制振装置の改造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の制振装置および制振装置の改造方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の一態様に係る制振装置は、振動体と、該振動体を取り囲むフレーム構造と、前記振動体を支持するとともに鉛直方向に積層された積層ゴムと、前記振動体の鉛直方向の変位を所定値以内に制限する鉛直変位制限機構とを備える。
【0010】
本態様に係る制振装置によれば、鉛直変位制限機構によって、鉛直方向の変位を所定値以内に制限することができる。仮に、積層ゴムに支持された振動体が、外乱によって設計上の許容範囲を超えて水平方向に振動した場合、周囲のフレーム構造に衝突する可能性がある。振動体が周囲のフレーム構造に衝突すると、過大な引抜方向(鉛直方向上向き方向)の変位や脱落方向(鉛直方向下向き方向)の変位が発生して、積層ゴムに鉛直方向の過大な荷重(引抜荷重や圧縮荷重)が作用するおそれがある。本態様に係る制振装置では、鉛直方向の変位を所定値以内に制限して鉛直方向の過大な変位の発生を抑制することで、積層ゴムの損傷を防止することができる。なお、ここで言う「変位を所定値以内に制限する」とは、変位しないように鉛直方向に拘束することではなく、所定値以内においては抵抗なく変位可能であるが、所定値を超えるとそれ以上変位しないように鉛直方向に拘束することを意味する。
【0011】
また、本発明の一態様に係る制振装置において、前記鉛直変位制限機構は、前記振動体に対して接続され鉛直方向に延在する軸部と、該軸部の上部に設けられ、該軸部の前記フレーム構造に対する鉛直方向下向きの変位を制限する脱落防止面と、該脱落防止面の下方に設けられ、前記軸部の前記フレーム構造に対する鉛直方向上向きの変位を制限する引抜防止面と、水平面内で移動自在、かつ、鉛直方向の変位が拘束された状態で前記フレーム構造に対して設けられ、前記脱落防止面と前記引抜防止面との間の前記軸部が挿通される軸保持部とを備える。
【0012】
本態様に係る制振装置の鉛直変位制限機構の構成によれば、脱落防止面と引抜防止面とによって、軸部がフレーム構造に対して鉛直方向に変位可能な範囲が制限されることになる。これによって、軸部に接続される振動体の鉛直方向の変位(フレーム構造に対する鉛直方向の変位)を所定値以内に制限することができる。
【0013】
また、本発明の一態様に係る制振装置において、前記鉛直変位制限機構は、水平方向に延在して前記フレーム構造に取り付けられた棒状部材と、一端が前記振動体に接続されるとともに、他端に前記棒状部材が挿入され前記棒状部材の延在方向にスライド可能なリンクとを備える。
【0014】
本態様に係る制振装置の鉛直変位制限機構の構成によれば、リンクの他端とその他端に挿入される棒状部材との間の隙間を設定することで、リンクが棒状部材に対して鉛直方向に変位可能な範囲が制限されることになる。また、棒状部材はフレーム構造に取り付けられているので、リンクに接続される振動体の鉛直方向の変位(フレーム構造に対する鉛直方向の変位)を所定値以内に制限することができる。
【0015】
また、本発明の一態様に係る制振装置において、前記鉛直変位制限機構は、水平面内に広がり前記フレーム構造に取り付けられた固定側すべり面を有するすべり板と、該固定側すべり面に隙間を設けて対向する移動側すべり面を有し前記振動体に回転自由に接続された移動側すべり部材とを備える。
【0016】
本態様に係る制振装置の鉛直変位制限機構の構成によれば、固定側すべり面と移動側すべり面との間の隙間を設定することで、移動側すべり面が固定側すべり面に対して鉛直方向上向きに変位可能な範囲は制限されることになる。これによって、移動側すべり面を有する移動側すべり部材が回転自由に接続された振動体の鉛直方向上向きの変位(フレーム構造に対する鉛直方向の変位)を所定値以内に制限することができる。
【0017】
本発明の一態様に係る制振装置の改造方法は、振動体と、該振動体を取り囲むフレーム構造と、前記振動体を支持するとともに鉛直方向に積層された積層ゴムとを備えた制振装置の改造方法であって、前記振動体の鉛直方向の変位を所定値以内に制限する鉛直変位制限機構を、前記フレーム構造と前記振動体との間に設置する。
【0018】
本態様に係る制振装置の改造方法は、振動体の鉛直方向の変位を所定値以内に制限する鉛直変位制限機構を、フレーム構造と振動体との間に設置することを特徴とする。これによれば、既設の制振装置に対して、積層ゴムに作用する過大な鉛直方向の変位を抑制することで積層ゴムの損傷を防止することができる制振装置への改造工事が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る制振装置および制振装置の改造方法によれば、積層ゴムに作用する過大な鉛直方向の変位を抑制し、積層ゴムの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ステージに設置された本発明の第1実施形態に係る制振装置の平面図である。
【
図2】
図1の切断線I-Iにおける縦断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る制振装置の平面図である。
【
図4】
図3の切断線II-IIにおける縦断面図である。
【
図5】
図3の切断線III-IIIにおける縦断面図である。
【
図6】振動体がX軸方向にスライドしたときの
図1の切断線I-Iにおける縦断面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る制振装置の平面図である。
【
図8】
図7の切断線IV-IVにおける縦断面図である。
【
図9】振動体がX軸方向にスライドしたときの本発明の第2実施形態に係る制振装置の正面図である。
【
図10】本発明の第3実施形態に係る制振装置の正面図である。
【
図11】本発明の第3実施形態に係る制振装置の平面図である。
【
図13】振動体がX軸方向にスライドした際の本発明の第3実施形態に係る制振装置の正面図である。
【
図14】振動体がX軸方向にスライドした際の本発明の第3実施形態に係る制振装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る制振装置および制振装置の改造方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明の第1実施形態について
図1乃至6を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る制振装置1Aは、鉛直方向(
図1で示すZ軸方向)に延びる構造物10の頂部付近に設けられたステージ12上に設置されている。ステージ12は、構造物10に対して固定されており、Z軸に対して垂直に交わる水平面(
図1で示すX-Y平面)に沿って設けられている。
【0023】
制振装置1Aは、複数のフレーム部材22,24を有するフレーム構造20と、フレーム構造20に収容された振動体16を備えている。
【0024】
図2に示すように、フレーム構造20に収容された振動体16は、鉛直方向に積層された複数の積層ゴム18によってステージ12に対して支持されている。積層ゴム18は、振動体16の下面とステージ12との間に複数設けられている。積層ゴム18の数は、振動体16の大きさや重量によって適宜設定される。
【0025】
図3に示すように、フレーム構造20は固定フレーム22と可動フレーム24とを有する。固定フレーム22はステージ12に設置されていて、ステージ12に対してX軸方向,Y軸方向,Z軸方向の全ての方向の動きが拘束されている。複数の固定フレーム22によって、振動体16を囲う略直方体形状の枠が構成される。
【0026】
図3に示す固定フレーム22のうち、Y軸方向に延在し、X軸方向にて対向する1対の固定フレーム22のそれぞれには、Y方向リニアガイド26Yが設置されている。対向するY方向リニアガイド26Y間に、X軸方向に亘って2対(合計4本)の可動フレーム24が設置されており、可動フレーム24は、Y方向リニアガイド26YによってY軸方向にスライド可能となっている(
図4参照)。すなわち、
図4に示すように、Y方向リニアガイド26Y上を可動フレーム24が走行するようになっている。
【0027】
本実施形態に係る制振装置1Aは、
図2,3,5に示すように、振動体16の鉛直方向の変位を所定値以内に制限する鉛直変位制限機構30Aを備える。
【0028】
鉛直変位制限機構30Aは、振動体16の上面に対して接続された複数の軸部40を備えている。各軸部40は、フレーム構造20を構成する複数のフレーム部材22,24のうち、可動フレーム24にX方向リニアガイド26Xを介して取り付けられた軸保持部48に挿通されている。
【0029】
図5に示すように、軸保持部48は、一対の可動フレーム24に挟まれた位置に設けられている。軸保持部48の下部の上面は、一対の可動フレーム24の下面に設けられたX方向リニアガイド26XによってX方向にスライド可能に取り付けられている(
図6参照)。すなわち、X方向リニアガイド26Xに沿って軸保持部48が走行するようになっている。
【0030】
前述の通り、可動フレーム24はY軸方向にスライド可能とされおり、さらに、可動フレーム24に取り付けられている軸保持部48はX軸方向にスライド可能とされているので、軸保持部48は、ステージ12やフレーム構造20の固定フレーム22に対して、X-Y平面(水平面)内で自在に移動することができる。ただし、Z軸方向(鉛直方向)に対しては、その変位は拘束されている。
【0031】
軸保持部48の上面と下面には、軸部40が挿通可能な穴が形成されている。
図5に示すように、軸部40の脱落防止面42(後述)と引抜防止面44(後述)との間の部分が軸保持部48に挿通されている。軸部40の下端は、自在継手などのジョイント46を介して、振動体16に対して回転自在に接続されている。また、軸部40の上端には、軸部40が挿通される軸保持部48の穴の直径よりも大きい面を有する脱落防止面42が設けられている。さらに、軸部40には、脱落防止面42の下方に、脱落防止面42と離間して、軸部40が挿通される軸保持部48の穴の直径よりも大きい面を有する引抜防止面44が設けられている。
【0032】
軸保持部48は、軸部40をZ軸方向(鉛直方向)にスライド可能に保持しているが、脱落防止面42および引抜防止面44は、軸部40が挿通される穴の直径よりも大きな面とされているので、脱落防止面42および引抜防止面44が、軸保持部48の下面および上面に当接することで、軸部40がZ軸方向(鉛直方向)にスライド可能な範囲を制限している。換言すれば、軸部40、および軸部40に接続された振動体16がZ軸方向(鉛直方向)に変位可能な範囲は、脱落防止面42と引抜防止面44とによって制限されていることになる。また、脱落防止面42と引抜防止面44との離間距離を調節することで、軸部40、および軸部40に接続された振動体16がZ軸方向(鉛直方向)に変位可能な範囲を設定することができる。
【0033】
次に、上記構成の制振装置1Aの動作について説明する。
制振装置1Aが備える振動体16は、地震や風などの外乱によって構造物10が振動した際に、構造物10の振動に同調して振動する。このとき、振動体16を支持する積層ゴム18が、その減衰効果によって振動体16の振動エネルギを消費する。結果として、構造物10の振動エネルギが、振動体16と積層ゴム18とによって消費され、構造物10の振動が抑制される。しかしながら、仮に、設計範囲を超えた地震によって過大な外乱が加えられた場合、振動体16の水平方向の振動を積層ゴム18によって吸収しきれずに、振動体16が周囲のフレーム構造20に衝突する可能性がある。振動体16がフレーム構造20に衝突すると、振動体16は鉛直方向においても過大に変位してしまうおそれがある。振動体16が鉛直方向に過大に変位し、その変位量が脱落防止面42と引抜防止面44との離間距離によって設定された所定値を超えると、軸部40の脱落防止面42または引抜防止面44が、軸保持部48の上面または下面に接触する。これにより、軸部40に接続された振動体16の鉛直方向の変位が規制され、振動体16はこれ以上鉛直方向に変位することはない。
【0034】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
脱落防止面42と引抜防止面44とによって、軸部40がフレーム構造20に対してZ軸方向(鉛直方向)に変位可能な範囲が制限されることになる。また、軸保持部48はフレーム構造20に対してZ軸方向(鉛直方向)には変位しないように設置される。これによって、軸部40に接続された振動体16のZ軸方向(鉛直方向)の変位を所定値以内に制限することができる。これにより、振動体16に過大なZ軸方向(鉛直方向)の変位が発生することを抑制できるので、積層ゴム18の損傷を防止することができる。
【0035】
また、仮に、積層ゴム18が損傷して振動体16を支持できない状態になった場合でも、脱落防止面42と軸保持部48の上面とによって振動体16が吊られる形態で保持されるので、振動体16が可動フレーム24から落下することを防止できる。
【0036】
〔第2実施形態〕
以下に、本発明の第2実施形態について
図7乃至9を参照して説明する。本実施形態は第1実施形態に対して鉛直変位制限機構の形態が異なり、その他の点については同様である。したがって、第1実施形態と異なる点についてのみ説明し、その他は同一の符号を用いてその説明を省略する。
【0037】
図7に示すように、本実施形態の制振装置1Bの鉛直変位制限機構30Bは、棒状部材60と、振動体16に接続されたリンク62とを備える。
【0038】
Y軸方向にて対向する1対の固定フレーム22のそれぞれには、Y軸方向に亘ってX軸方向で対向する1対のY方向リニアガイド26Yが設置されている。棒状部材60は、X軸方向で対向するY方向リニアガイド26Y間に、X軸方向に亘って2本設置されており、1対のY方向リニアガイド26Yによって、Y軸方向にのみスライド可能となっている。すなわち、Y方向リニアガイド26Yに沿って棒状部材60が走行するようになっている。なお、棒状部材60は、Z軸方向(鉛直方向)には変位しない。
【0039】
図8に示すように、Y軸方向にスライド可能な棒状部材60は、一端が振動体16に対して接続されたリンク62の他端に形成された挿通穴64に挿通されている。このとき、棒状部材60はリンク62の挿通穴64に挿通されているので、リンク62およびリンク62に接続された振動体16は、棒状部材60の延在方向(X軸方向)にスライド可能になっている(
図9参照)。
【0040】
前述の通り、棒状部材60はY軸方向にスライド可能とされおり、さらに、棒状部材60が挿通されるリンク62はX軸方向にスライド可能とされているので、リンク62はステージ12やフレーム構造20に対して、X-Y平面(水平面)内で自在に移動することができる。
【0041】
また、棒状部材60とリンク62の挿通穴64との間にはZ軸方向(鉛直方向)に変位可能な隙間が設定されており、リンク62に接続された振動体16がZ軸方向(鉛直方向)に変位可能な所定の範囲とすることができる。
【0042】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
リンク62の挿通穴64と挿通穴64に挿通される棒状部材60との間の隙間を設定することで、リンク62が棒状部材60に対してZ軸方向(鉛直方向)に変位可能な範囲は制限されることになる。また、棒状部材60はフレーム構造20に対してZ軸方向(鉛直方向)には変位しないように設置されている。これによって、リンク62に接続された振動体16のZ軸方向(鉛直方向)の変位を所定値以内に制限することができる。これにより、振動体16に過大なZ軸方向(鉛直方向)の変位が発生することを抑制できるので、積層ゴム18の損傷を防止することができる。
【0043】
また、仮に、積層ゴム18が損傷して振動体16を支持できない状態になった場合でも、棒状部材60とリンク62の挿通穴64とによって振動体16が吊られる形態で保持されるので、振動体16が棒状部材60から落下することを防止できる。
【0044】
〔第3実施形態〕
以下に、本発明の第3実施形態について
図10乃至14を参照して説明する。本実施形態は第1及び第2実施形態に対して鉛直変位制限機構の形態が異なり、その他の点については同様である。したがって、第1及び第2実施形態と異なる点についてのみ説明し、その他は同一の符号を用いてその説明を省略する。
【0045】
図10,11,12に示すように、本実施形態の制振装置1Cの鉛直変位制限機構30Cは、X-Y平面内に広がる固定側すべり面82を有するすべり板80と、一端が固定側すべり面82に隙間を設けて対向する移動側すべり面86とされ、他端が振動体16に回転自由に接続された移動側部材84とを備える。
【0046】
すべり板80は、その下面(固定側すべり面82)が、フレーム構造20内にてZ軸方向(鉛直方向)下向きになるようにフレーム構造20が有する固定フレーム22に設置されている。
【0047】
一端に移動側すべり面86を有する移動側部材84は、移動側すべり面86が固定側すべり面82に隙間を設けて対向するように配置されている。また、移動側部材84の他端には、振動体16が回転自在に接続されている。
【0048】
図12に示すように、固定側すべり面82と移動側すべり面86との間には、Z軸方向(鉛直方向)に隙間が設定されており、移動側部材84に回転自在に接続された振動体16がZ軸方向(鉛直方向)上向きに変位可能な所定の範囲とすることができる。
【0049】
なお、振動体16はX-Y平面(水平面)においてはその変位を制限されていないので、
図13,14に示すように、X-Y平面(水平面)においては自在に移動することができる。
【0050】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
固定側すべり面82と移動側すべり面86との間の隙間を設定することで、移動側すべり面86が固定側すべり面82に対してZ軸方向(鉛直方向)上向きに変位可能な範囲が制限されることになる。また、固定側すべり面82(すべり板80)はフレーム構造20の固定フレーム22に対して固定されている。これによって、移動側すべり面86を有する移動側部材84が回転自由に接続された振動体16のZ軸方向(鉛直方向)上向きの変位を所定値以内に制限することができる。これにより、振動体16に過大なZ軸方向(鉛直方向)上向きの変位が発生することを抑制できるので、積層ゴム18の損傷を防止することができる。
【0051】
なお、前述の第1乃至第3実施形態の鉛直変位制限機構30は、既設の制振装置に対しても設置可能であり、既設の制振装置が備えるフレーム構造と振動体との間に前述の第1乃至第3実施形態の鉛直変位制限機構30を設置することで、既設の制振装置を制振装置1に改造可能である。例えば、既設の制振装置が備えるフレーム構造にすべり板80を設置し、振動体に移動側部材84を設置することで、既設の制振装置を前述の制振装置1Cとすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1(1A,1B,1C) 制振装置
10 構造物
12 ステージ
16 振動体
18 積層ゴム
20 フレーム構造
22 固定フレーム(フレーム部材)
24 可動フレーム(フレーム部材)
26X X方向リニアガイド
26Y Y方向リニアガイド
30(30A,30B,30C) 鉛直変位制限機構
40 軸部
42 脱落防止面
44 引抜防止面
46 ジョイント
48 軸保持部
60 棒状部材
62 リンク
64 挿通穴
80 すべり板
82 固定側すべり面
84 移動側部材
86 移動側すべり面