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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】合成樹脂製点字タイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   E01F 9/553 20160101AFI20220905BHJP
   G09B 21/00 20060101ALI20220905BHJP
   E01F 9/512 20160101ALI20220905BHJP
   B29C 39/22 20060101ALI20220905BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
E01F9/553
G09B21/00 B
E01F9/512
B29C39/22
B29C33/38
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018163550
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020033832
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000175021
【氏名又は名称】三井化学産資株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】村上 順
(72)【発明者】
【氏名】加峰 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】梅田 佳裕
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-137323(JP,A)
【文献】特開2012-102586(JP,A)
【文献】特開2009-138367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 9/553
G09B 21/00
E01F 9/512
B29C 39/22
B29C 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
視覚障害者用の合成樹脂製点字タイルの製造方法であって、
互いに間隔をおいて複数の突起が上面に形成された金属製マスターモデルを準備する準備工程と、
前記マスターモデルの少なくとも前記複数の突起間にサンドブラストを施して凹凸を形成するサンドブラスト工程と、
前記サンドブラスト工程においてサンドブラストを施した前記マスターモデルの上面に第一の液状硬化性混合物を充填し硬化させ、合成樹脂製成形型を生成する成形型生成工程と、
前記成形型に対して離型性を有する第二の液状硬化性混合物を前記成形型に充填し硬化させ、合成樹脂製点字タイルを生成する点字タイル生成工程とを含む合成樹脂製点字タイルの製造方法。
【請求項2】
前記点字タイル生成工程で用いる前記第二の液状硬化性混合物はアクリル系樹脂を含む、請求項1記載の合成樹脂製点字タイルの製造方法。
【請求項3】
前記点字タイル生成工程においては、前記成形型の周縁を枠体で固定した状態で前記第二の液状硬化性混合物を前記成形型に充填し硬化させる、請求項1又は2記載の合成樹脂製点字タイルの製造方法。
【請求項4】
前記サンドブラスト工程で用いる研磨剤は、JIS R6001において規定されている粒度の種類がF8からF1200までの研磨剤である、請求項1から3までのいずれかに記載の合成樹脂製点字タイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚障害者用の合成樹脂製点字タイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歩道や駅のプラットホーム等には、視覚障害者に前方の危険の可能性を警告し、あるいは歩行方向を誘導するために、複数の点状突起を有する警告用のコンクリート製点字ブロックや複数の線状突起を有する誘導用のコンクリート製点字ブロックが敷設されている。しかし、コンクリート製点字ブロックを歩道等に敷設するには敷設箇所を掘削する必要があり、多大の時間と経費を要するという問題がある。そこで、このような問題を解決するため、上面に複数の点状又は線状の突起を有するシート状の合成樹脂製点字タイルを歩道等に敷設することが行われるようになっている(たとえば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-105811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合成樹脂製点字タイルの上面には、雨天時等でも視覚障害者が滑ることなく安全に歩行することができるように滑り止めのための多数の凹所が形成されている。一般に、合成樹脂製点字タイルの上面に形成される多数の凹所は、エッチングに起因する凹所であり、良好な防滑性を確保するために深さ300μm程度に形成されている。なお、エッチングは、金属製マスターモデルにマスキングを施して実施するため、エッチングに起因する凹所の深さの基準となる各凹所間の上端位置は一定である。
【0005】
しかし、合成樹脂製点字タイルの上面にエッチング起因の凹所を形成すると、付着した汚れが残存しやすくなり防汚性が損なわれるという問題がある。特に、突起間や突起の根元部分が汚れやすい。そこで、防汚性を向上させるために合成樹脂製点字タイルの上面に別の樹脂でコーティングする方法が考えられるが、コーティングによって防滑性が低下してしまうという問題がある。
【0006】
上記事実に鑑みてなされた本発明の課題は、防滑性および防汚性の双方が良好である合成樹脂製点字タイルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明が提供するのは以下の合成樹脂製点字タイルの製造方法である。すなわち、視覚障害者用の合成樹脂製点字タイルの製造方法であって、互いに間隔をおいて複数の突起が上面に形成された金属製マスターモデルを準備する準備工程と、前記マスターモデルの少なくとも前記複数の突起間にサンドブラストを施して凹凸を形成するサンドブラスト工程と、前記サンドブラスト工程においてサンドブラストを施した前記マスターモデルの上面に第一の液状硬化性混合物を充填し硬化させ、合成樹脂製成形型を生成する成形型生成工程と、前記成形型に対して離型性を有する第二の液状硬化性混合物を前記成形型に充填し硬化させ、合成樹脂製点字タイルを生成する点字タイル生成工程とを含む合成樹脂製点字タイルの製造方法である。
【0008】
好ましくは、前記点字タイル生成工程で用いる前記第二の液状硬化性混合物はアクリル系樹脂を含む。前記点字タイル生成工程においては、前記成形型の周縁を枠体で固定した状態で前記第二の液状硬化性混合物を前記成形型に充填し硬化させるのが好ましい。前記サンドブラスト工程で用いる研磨剤は、JIS R6001において規定されている粒度の種類がF8からF1200までの研磨剤であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明が提供する合成樹脂製点字タイルの製造方法では、サンドブラスト工程において、各凹所の深さが一様でなく且つ各凸部の上端の上下方向位置も一様でない凹凸を金属製マスターモデルの上面に形成することができる。また、成形型生成工程で生成する合成樹脂製成形型は、サンドブラストを施したマスターモデルの上面形状に対応する片面形状を有するので、点字タイル生成工程で生成する合成樹脂製点字タイルは、サンドブラストを施したマスターモデルの上面形状と実質上同一の上面形状を有することになる。したがって、合成樹脂製点字タイルは、各凹所の深さが一様でなく且つ各凸部の上端の上下方向位置も一様でない凹凸を上面に有するから、良好な防滑性が達成されるエッチング起因の凹所の深さと比較して深さが十分浅い凹凸であっても良好な防滑性を有すると共に、エッチング起因の凹所の深さよりも十分浅いので防汚性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)マスターモデルの平面図、(b)(a)におけるA-A線断面図。
図2図1に示すマスターモデルの上面にサンドブラストを施した状態を示す平面図。
図3図2に示すマスターモデルの上面に第一の液状硬化性混合物を充填した状態を示す断面図。
図4】カバー板の平面図。
図5図3に示すマスターモデルの周壁の上部に図4に示すカバー板を載せると共に、第一の液状硬化性混合物を硬化させて成形型を生成している状態を示す断面図。
図6】(a)成形型の平面図、(b)(a)におけるB-B線断面図。
図7図6に示す成形型の周縁を枠体で固定した状態を示す平面図。
図8図7に示す成形型に第二の液状硬化性混合物を充填した状態を示す断面図。
図9】(a)点字タイルの平面図、(b)(a)におけるC-C線断面図、(c)点字タイルの上面側の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る合成樹脂製点字タイルの製造方法の好適実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0015】
本発明に係る合成樹脂製点字タイルの製造方法では、まず、互いに間隔をおいて複数の突起が上面に形成された金属製マスターモデルを準備する準備工程を実施する。準備工程で準備する金属製マスターモデルは、たとえば、図1に全体を符号2で示す矩形板状のマスターモデルでよい。
【0016】
このマスターモデル2は、炭素鋼板、ステンレス鋼板等の適宜の金属板から形成されている。図示の実施形態のマスターモデル2は点字タイル2枚分のマスターモデルであり、マスターモデル2の上面には点字タイル1枚分の正方形状の領域4が2個形成されている。各領域4の周縁には区画溝6が形成され、各領域4は区画溝6によって区画されている。また、各領域4内には互いに間隔をおいて複数(図示の実施形態では4個)の線状突起8が形成されている。すなわち、図示の実施形態のマスターモデル2は誘導用点字タイルのマスターモデルである。また、区画溝6よりも外側のマスターモデル2の上面周縁には、上方に延びる周壁10が形成されている。
【0017】
なお、マスターモデル2は、複数の点状突起を有する警告用点字タイルのマスターモデルや、単一の線状突起および複数の点状突起を有する鉄道用点字タイルのマスターモデルであってもよい。また、図示の実施形態のマスターモデル2は点字タイル2枚分のマスターモデルであるが、点字タイル1枚分のマスターモデルでもよく、あるいは点字タイル3枚分以上のマスターモデルであってもよい。
【0018】
準備工程を実施した後、マスターモデル2の少なくとも複数の突起8間にサンドブラストを施して凹凸を形成するサンドブラスト工程を実施する。サンドブラスト工程を実施することにより、各凹所の深さが一様でなく且つ各凸部の上端の上下方向位置も一様でない凹凸をマスターモデル2の上面に形成することができる。また、マスターモデル2の上面に形成された凹凸の深さは、良好な防滑性が達成されるエッチング起因の凹所の深さ(300μm程度)よりも十分浅い。図示の実施形態では図2に示すとおり、マスターモデル2’の各領域4’内の全体にサンドブラストを施して凹凸を形成している。サンドブラスト工程で用いる研磨剤は、JIS R6001において規定されている粒度の種類がF8からF1200までの研磨剤であるのが好ましい。なお、線状突起8’の上面に、エッチングを施してサンドブラストの凹凸とは別の凹凸を形成してもよい。
【0019】
サンドブラスト工程を実施した後、サンドブラスト工程においてサンドブラストを施したマスターモデル2’の上面に第一の液状硬化性混合物を充填し硬化させ、合成樹脂製成形型を生成する成形型生成工程を実施する。
【0020】
成形型生成工程では、まず、図3に示すとおり、マスターモデル2’の上面に第一の液状硬化性混合物12を充填する。第一の液状硬化性混合物12としては、ウレタン樹脂やシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの柔軟性のある樹脂を主体としたものを用いるのが好ましい。
【0021】
次いで、図4に示すカバー板14を周壁10の上部に固定する。図示の実施形態のカバー板14は、ステンレス鋼等から長方形状に形成されており、周壁10の内側部分を覆うサイズに形成されている。また、カバー板14には間隔をおいて複数(図示の実施形態では3個)の円形の貫通開口14aが形成されており、図5に示すとおり、カバー板14を周壁10の上部に載せて固定すると、各貫通開口14aから第一の液状硬化性混合物12の余剰分が流出する。
【0022】
第一の液状硬化性混合物12が硬化した後、カバー板14をマスターモデル2’から取り外す。次いで、第一の液状硬化性混合物12が硬化した成形型16をマスターモデル2’から取り外す。このようにして生成した成形型16は、図6に示すとおり、サンドブラストを施したマスターモデル2’の上面形状に対応する片面形状を有する。すなわち、成形型16の片面には、サンドブラストによってマスターモデル2’の各領域4’内の全体に形成された凹凸に対応する凹凸が形成されている。成形型16の片面に凹凸が形成されている部分を図6において符号18で示す。また、成形型16の片面には、マスターモデル2’の複数の線状突起8’に対応する複数(図示の実施形態では4個)の線状凹所20が互いに間隔をおいて形成されている。さらに、成形型16の片面周縁には、マスターモデル2’の区画溝6に対応する区画壁22が形成されている。
【0023】
なお、図示の実施形態では、成形型16の片面における区画壁22以外の部分にマスターモデル2’の凹凸に対応する凹凸を形成しているが、マスターモデル2’の線状突起8’の上面にエッチングによって凹凸を形成し、このエッチング起因の凹凸に対応する凹凸を成形型16の線状凹所20の底面に形成してもよい。また、成形型16に離型剤などを塗布して、成形型16に充填される第二の液状硬化性混合物に対して離型性を付与してもよい。
【0024】
成形型生成工程を実施した後、成形型16に対して離型性を有する第二の液状硬化性混合物を成形型16に充填し硬化させ、合成樹脂製点字タイルを生成する点字タイル生成工程を実施する。第二の液状硬化性混合物はアクリル系樹脂を主成分として含むのが好ましい。アクリル系樹脂とはアクリル系モノマーを用いて得られる樹脂であり、アクリル系樹脂の例としては、アクリル系モノマーを主体とする硬化性混合物を硬化させて得られる樹脂を挙げることができる。
【0025】
このアクリル系樹脂には骨材、充填材およびその他の添加材が混合されていてもよい。アクリル系樹脂に骨材を混合すると、アクリル系樹脂が硬化する際の収縮が低減されると共に、硬化したアクリル系樹脂の強度が向上する。また、アクリル系樹脂に充填材を混合すると、アクリル系樹脂と骨材との分離が防止され、硬化したアクリル系樹脂の表面の傷や磨耗、変形等が抑制される。さらに、アクリル系樹脂に顔料や染料等の適宜の着色剤を混合することにより、生成すべき合成樹脂製点字タイルの色(たとえば黄色)を任意に選択することができる。
【0026】
骨材としては、平均粒径0.5~3mm程度の粉状ないし粒状のものを用いることができ、たとえば、珪砂、ガーネット、エメリー等の硬質骨材、クロム鉱屑、粉砕セラミックスを挙げることができる。なお、色調や耐磨耗性等の物性の観点から珪砂または白色セラミックスを用いるのが好ましい。
【0027】
充填材としては、平均粒径0.01~50μm程度の粉末を用いることができ、この範囲のうち0.5~5μm程度の粉末を用いるのが好ましい。充填材の具体例としては、重質炭酸カルシウム、タルク、アルミナ粉、ベントナイト、微紛シリカ、クレーおよびカオリン等のカオリナイト質粘土、マイカ、ウォラストナイト、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、セビオライトを挙げることができる。
【0028】
点字タイル生成工程においては、成形型16の周縁を枠体で固定した状態で第二の液状硬化性混合物を成形型16に充填し硬化させるのが好ましい。図示の実施形態では図7および図8に示す枠体24に成形型16を収容して成形型16の周縁を固定している。図示の枠体24は、ステンレス鋼等から上部が開放された箱状に形成され、且つ内寸が成形型16の寸法に対応している。成形型16の素材として用いることができるウレタン樹脂やシリコーン樹脂などの柔軟性のある樹脂は、第二の液状硬化性混合物26として用いることができるメタクリル酸メチルなどによって膨潤することがあるが、成形型16の周縁を枠体24で固定することによって成形型16の膨潤が防止される。
【0029】
図示の実施形態の点字タイル生成工程では、枠体24に成形型16を収容した後、図8に示すとおり、第二の液状硬化性混合物26を成形型16に充填し硬化させる。これによって、図9に示すとおり、成形型16の片面形状に対応する上面形状を有する合成樹脂製点字タイル28を生成することができる。このようにして生成した点字タイル28は、マスターモデル2’の上面形状と実質上同一の上面形状を有する。すなわち、点字タイル28の上面には互いに間隔をおいて複数(図示の実施形態では4個)の線状突起30が形成されていると共に、点字タイル28の上面全体には、図9(c)を参照することによって理解されるとおり、各凹所の深さが一様でなく且つ各凸部の上端の上下方向位置も一様でない凹凸(サンドブラストに起因する凹凸)が形成されている。また、点字タイル28の上面全体に形成された凹凸の深さは、良好な防滑性が達成されるエッチング起因の凹所の深さ(300μm程度)よりも十分浅い。
【0030】
なお、図示の実施形態では、点字タイル28の上面全体にサンドブラストに起因する凹凸が形成されているが、各線状突起30は歩行者の靴底等に接触することが多く比較的汚れが除去されやすいことから、各線状突起30の上面部分にはエッチングに起因する凹凸が形成されていてもよい。
【0031】
以上のとおりであり、図示の実施形態の合成樹脂製点字タイルの製造方法では、サンドブラスト工程において、各凹所の深さが一様でなく且つ各凸部の上端の上下方向位置も一様でない凹凸をマスターモデル2の上面に形成することができる。また、成形型生成工程で生成する成形型16は、サンドブラストを施したマスターモデル2’の上面形状に対応する片面形状を有するので、点字タイル生成工程で生成する点字タイル28は、サンドブラストを施したマスターモデル2’の上面形状と実質上同一の上面形状を有することになる。したがって点字タイル28は、各凹所の深さが一様でなく且つ各凸部の上端の上下方向位置も一様でない凹凸を有するから、良好な防滑性が達成されるエッチング起因の凹所の深さと比較して深さが十分浅い凹凸であっても良好な防滑性を有すると共に、エッチング起因の凹所の深さよりも十分浅いので防汚性も良好である。
【0032】
ここで、以下に示すとおりの複数種類の試験片を用いて、本発明者等が行った防滑性試験および防汚性試験について説明する。
【0033】
本発明者等は、防滑性試験および防汚性試験に用いる試験片として、上面にサンドブラストに起因する凹凸を有する3種類の黄色の板状試験片A、B、C(縦200mm、横200mm、厚さ3mm)を製作した。
【0034】
各試験片AないしCを製作した手順は次の通りである。まず、第一の液状硬化性混合物を充填する上面の領域(縦200mm×横200mm)の周囲が区画溝によって区画されていると共に、区画溝の外側に周壁が形成された炭素鋼製マスターモデルを3個準備した。次いで、各マスターモデルにサンドブラストを施して、各マスターモデルの上面に異なる凹凸を形成して、マスターモデルA、B、Cとした。マスターモデルAの上面の凹凸はJIS R6001において規定されている粒度の種類がF24の研磨剤、マスターモデルBの上面の凹凸は同F60の研磨剤、マスターモデルCの上面の凹凸は同F220の研磨剤を用いたサンドブラストに起因する凹凸である。
【0035】
次いで、各マスターモデルA、B、Cの上面からややオーバーフローするまで、第一の液状硬化性混合物を各マスターモデルA、B、Cの上面に充填し24時間硬化させて、3種類の合成樹脂製成形型A、B、Cを生成した。第一の液状硬化性混合物としては、ウレタン樹脂を主成分とするウレタンゴム混合物を用いた。具体的には、ウレタンゴムのA剤およびB剤(サック株式会社製、商品名「Vytaflex10」)各1000gを3分間混合攪拌したものを用いた。
【0036】
次いで、第二の液状硬化性混合物を各成形型A、B、Cに充填し硬化させて3種類の黄色の板状試験片A、B、Cを生成した。なお、試験片Aの上面の凹凸はJIS R6001において規定されている粒度の種類がF24の研磨剤、試験片Bの上面の凹凸は同F60の研磨剤、試験片Cの上面の凹凸は同F220の研磨剤を用いたサンドブラストに起因する凹凸である。
【0037】
第二の液状硬化性混合物としては、まず、メタクリル酸メチル(三井化学株式会社製、商品名「メチルメタアクリレート」)400g、メタクリル酸n-ブチル(三菱ガス化学株式会社製、商品名「n-BMA」)80g、多官能アクリルモノマーとして1,4-ブタンジオールジメタクリレート(日立化成株式会社製、商品名「FA-124M」)40g、アクリルポリマーとしてポリメタクリル酸メチル(旭化成株式会社製、商品名「デルペット 60N」)600g、可塑剤としてフタル酸ジ2-エチルヘキシル(大八化学工業株式会社製、商品名「DOP」)100g、パラフィンワックス(日本精蝋株式会社製、商品名「Paraffin Wax-125」、融点52℃品)6g、ジメチルパラトルイジン(株式会社三星化学研究所製、商品名「DMpT」)6gを混合し60℃に加熱攪拌してシロップ状に調合し、予めアクリルシロップAを作成した。
【0038】
次いで、アクリルシロップA400gに、黄色粉体顔料(三井化学産資株式会社製、商品名「PG-101」)40g、骨材として白色骨材(日本銀砂株式会社製、商品名「カラーセルベンホワイト3-2m/m」)700g、充填材としてカオリナイト質粘土(独国ホフマンミネラル社製、商品名「アクティジルMAM」、平均粒径2μm、密度2.6g/cc)80gを配合して十分に攪拌混合し、更に硬化剤として50%濃度過酸化ベンゾイル粉末状希釈物(三井化学産資株式会社製、商品名「シリカルBPO」)30gを加え、十分に攪拌溶解させて、第二の液状硬化性混合物とした。
【0039】
防滑性試験においては、英国式ポータブル・スキッド・レジスタンス・テスターを用いて、ASTM E303において規定されている試験方法で試験片AないしCの湿潤時の滑り抵抗値を測定した。滑り抵抗値の測定結果については、防汚性試験の結果と共に後述する。
【0040】
防汚性試験においては、まず、試験片AないしCの上面(凹凸形成面)に対して、クレヨン(株式会社サクラクレパス製、商品名「クレパス」、黒、No.49)を45度の角度で傾斜させた状態で擦り付け、試験片AないしCのそれぞれの上面に幅5mm程度、長さ40mm程度の着色領域を形成した。次いで、霧吹きを用いて、試験片AないしCの上面全体に水滴が行き渡る程度に水を吹きかけた。次いで、40mm角程度の立方体形状に切り出したメラミンスポンジ(販売元:株式会社カインズ、商品名「メラミンスポンジL」)を用いて、円を描くように試験片AないしCの着色領域を3秒程度擦り、試験片AないしCに擦り付けたクレヨン(汚れ)を除去した。そして、試験片AないしCの上面に残った水滴を紙製ウエス(日本製紙クレシア株式会社製、商品名「キムワイプS-200」)で吸い取った後、汚れの状態を目視で確認して、防汚性を評価した。防汚性の評価については、汚れがきれいに除去され元の状態に戻った場合には「○」、汚れがほとんど除去されるが薄い色が残った場合には「△」、汚れがほとんど除去されず濃い色が残った場合には「×」とした。
【0041】
試験片AないしCの滑り抵抗値の測定結果および防汚性試験の結果を以下に示す。
<試験結果>
粒度の種類 滑り抵抗値 防汚性
試験片A F24 61BPN ○~△
試験片B F60 59BPN ○
試験片C F220 56BPN ○
【0042】
一般社団法人インターロッキングブロック舗装技術協会発行の「インターロッキングブロック舗装設計施工要領」において規定されている視覚障害者用点字タイルの防滑性の合格基準は、湿潤時の滑り抵抗値が40BPN(British Pendulum Number)以上であるところ、試験片AないしCの湿潤時の滑り抵抗値は40BPNを十分超えており、試験片AないしCの防滑性はいずれも上記合格基準を満足した。試験片Aの防汚性については、上面に色が僅かに残っていることがようやく確認できるレベルであり、上述した防汚性評価基準における「○」ないし「△」であると判断した。また、試験片BおよびCの防汚性は「○」と判断できるレベルであった。したがって、防滑性試験および防汚性試験の結果、試験片AないしCの防滑性および防汚性の双方が良好であることを確認することができた。
【実施例
【0043】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。実施例および比較例では以下の方法に従って試験を行った。
【0044】
(防滑性試験)
英国式ポータブル・スキッド・レジスタンス・テスターを用いて、ASTM E303において規定されている試験方法で実施例および比較例で作成した点字タイルの滑り抵抗値を測定した。
【0045】
(防汚染試験)
実施例および比較例で作成した点字タイルの上面(凹凸形成面)に対して、クレヨン(株式会社サクラクレパス製、商品名「クレパス」、黒、No.49)を45度の角度で傾斜させた状態で擦り付け、上面に幅5mm程度、長さ40mm程度の着色領域を形成した。次いで、霧吹きを用いて、上面全体に水滴が行き渡る程度に水を吹きかけた。次いで、40mm角程度の立方体形状に切り出したメラミンスポンジ(販売元:株式会社カインズ、商品名「メラミンスポンジL」)を用いて、円を描くように着色領域を3秒程度擦り、擦り付けたクレヨン(汚れ)を除去した。そして、上面に残った水滴を紙製ウエス(日本製紙クレシア株式会社製、商品名「キムワイプS-200」)で吸い取った後、汚れの状態を目視で確認して、防汚性を評価した。防汚性の評価については、汚れがきれいに除去され元の状態に戻った場合には「○」、汚れがほとんど除去されるが薄い色が残った場合には「△」、汚れがほとんど除去されず濃い色が残った場合には「×」とした。
【0046】
(実施例1)
図1に示された形状で、区間4の形状が30cm×30cmである炭素鋼製マスターモデルに対して、区画4部分の上面全体に、JIS R6001において規定されている粒度の種類がF24の研磨剤でサンドブラストを施して凹凸を形成し、図2に示された形状のサンドブラストを施したマスターモデルを作成した。
【0047】
次いで、第一の液状硬化性混合物として、ウレタンゴムのA剤およびB剤(サック株式会社製、商品名「Vytaflex10」)各3000gを3分間混合攪拌したものを準備し、図2に示された形状のサンドブラストを施したマスターモデルに、上面からややオーバーフローするまで充填し、図4に示されるカバー板を図5に示されるように上部に乗せて固定し、24時間硬化させて、図6に示される形状の合成樹脂製成形型を生成した。更に得られた合成樹脂製成型の周縁を図7に示されるように枠で固定した。
【0048】
次いで、第二の液状硬化性混合物としては、メタクリル酸メチル(三井化学株式会社製、商品名「メチルメタアクリレート」)800g、メタクリル酸n-ブチル(三菱ガス化学株式会社製、商品名「n-BMA」)160g、多官能アクリルモノマーとして1,4-ブタンジオールジメタクリレート(日立化成株式会社製、商品名「FA-124M」)80g、アクリルポリマーとしてポリメタクリル酸メチル(旭化成株式会社製、商品名「デルペット 60N」)1200g、可塑剤としてフタル酸ジ2-エチルヘキシル(大八化学工業株式会社製、商品名「DOP」)200g、パラフィンワックス(日本精蝋株式会社製、商品名「Paraffin Wax-125」、融点52℃品)12g、ジメチルパラトルイジン(株式会社三星化学研究所製、商品名「DMpT」)12gを混合し60℃に加熱攪拌してシロップ状に調合し、予めアクリルシロップAを作成した。
【0049】
次いで、アクリルシロップA800gに、黄色粉体顔料(三井化学産資株式会社製、商品名「PG-101」)80g、骨材として白色骨材(日本銀砂株式会社製、商品名「カラーセルベンホワイト3-2m/m」)1400g、充填材としてカオリナイト質粘土(独国ホフマンミネラル社製、商品名「アクティジルMAM」、平均粒径2μm、密度2.6g/cc)160gを配合して十分に攪拌混合し、更に硬化剤として50%濃度過酸化ベンゾイル粉末状希釈物(三井化学産資株式会社製、商品名「シリカルBPO」)60gを加え、十分に攪拌溶解させた。この第二の液状硬化性混合物を上記の図7に示される状態の合成樹脂製成形型に充填し、24時間硬化させ、点字タイル1を2枚得た。
【0050】
防滑性試験においては、1枚の点字タイル1の突起間の部分から短冊状に試験片を切出し、横に並べて20cm×20cmの大きさの試験体として湿潤時の滑り抵抗値を測定した。滑り抵抗値の測定結果は61BPNであった。
【0051】
防汚性試験においては、もう1枚の点字タイル1の突起以外の部分を用いて行った。防汚性は〇~△であった。
【0052】
(実施例2)
図1に示された形状で、区間4の形状が30cm×30cmである炭素鋼製マスターモデルに対して、区画4部分の上面全体に、JIS R6001において規定されている粒度の種類がF60の研磨剤でサンドブラストを施して凹凸を形成した以外は、実施例1と同様に点字タイルを作成し、点字タイル2を2枚得た。点字タイル1と同様に、点字タイル2の防滑性試験および防汚性試験を行った結果、滑り抵抗値の測定結果は59BPN、防汚性は〇であった。
【0053】
(実施例3)
図1に示された形状で、区間4の形状が30cm×30cmである炭素鋼製マスターモデルに対して、区画4部分の上面全体に、JIS R6001において規定されている粒度の種類がF220の研磨剤でサンドブラストを施して凹凸を形成した以外は、実施例1と同様に点字タイルを作成し、点字タイル3を2枚得た。点字タイル1と同様に、点字タイル3の防滑性試験および防汚性試験を行った結果、滑り抵抗値の測定結果は56BPN、防汚性は〇であった。
【0054】
(実施例4)
図1に示された形状で、区間4の形状が30cm×30cmである炭素鋼製マスターモデルに対して、区画4部分の上面全体に、JIS R6001において規定されている粒度の種類がF800の研磨剤でサンドブラストを施して凹凸を形成した以外は、実施例1と同様に点字タイルを作成し、点字タイル4を2枚得た。点字タイル1と同様に、点字タイル4の防滑性試験および防汚性試験を行った結果、滑り抵抗値の測定結果は46BPN、防汚性は〇であった。
【0055】
(実施例5)
図1に示された形状で、区間4の形状が30cm×30cmである炭素鋼製マスターモデルに対して、区画4部分の上面全体に、JIS R6001において規定されている粒度の種類がF1200の研磨剤でサンドブラストを施して凹凸を形成した以外は、実施例1と同様に点字タイルを作成し、点字タイル5を2枚得た。点字タイル1と同様に、点字タイル5の防滑性試験および防汚性試験を行った結果、滑り抵抗値の測定結果は43BPN、防汚性は〇であった。
【0056】
(実施例6)
図1に示された形状で、区間4の形状が30cm×30cmである炭素鋼製マスターモデルに対して、区画4部分の上面全体に、JIS R6001において規定されている粒度の種類がF8の研磨剤でサンドブラストを施して凹凸を形成した以外は、実施例1と同様に点字タイルを作成し、点字タイル6を2枚得た。点字タイル1と同様に、点字タイル6の防滑性試験および防汚性試験を行った結果、滑り抵抗値の測定結果は66BPN、防汚性は△であった。
【0057】
(比較例1)
図1に示された区間4の形状が30cm×30cmである炭素鋼製マスターモデルに対して、区画4部分の上面全体に、JIS R6001において規定されている粒度の種類が#6000の研磨剤を用いて研磨処理を施して凹凸を形成した以外は、実施例1と同様に点字タイルを作成し、点字タイル7を2枚得た。点字タイル1と同様に、点字タイル7の防滑性試験および防汚性試験を行った結果、滑り抵抗値の測定結果は37BPN、防汚性は○であった。
【0058】
(比較例2)
図1に示された区間4の形状が30cm×30cmである炭素鋼製マスターモデルに対して、区画4部分の上面全体に、エッチングを施して凹凸を形成した以外は、実施例1と同様に点字タイルを作成し、点字タイル8を2枚得た。点字タイル1と同様に、点字タイル8の防滑性試験および防汚性試験を行った結果、滑り抵抗値の測定結果は74BPN、防汚性は×であった。
【0059】
実施例1および比較例1の滑り抵抗値の測定結果および防汚性試験の結果を表1に示す。
表1<試験結果>
区間4の凹凸の形成方法 滑り抵抗値 防汚性
実施例1 サンドブラスト(粒度F24) 61BPN ○~△
実施例2 サンドブラスト(粒度F60) 59BPN ○
実施例3 サンドブラスト(粒度F220) 56BPN ○
実施例4 サンドブラスト(粒度F800) 46BPN ○
実施例5 サンドブラスト(粒度F1200)43BPN 〇
実施例6 サンドブラスト(粒度F8) 66BPN △
比較例1 鏡面磨き(粒度#6000) 37BPN 〇
比較例2 エッチング 74BPN ×
【符号の説明】
【0060】
2:金属製マスターモデル
2’:サンドブラストを施した金属製マスターモデル
8:線状突起(金属製マスターモデル)
12:第一の液状硬化性混合物
16:合成樹脂製成形型
26:第二の液状硬化性混合物
28:合成樹脂製点字タイル
30:線状突起(合成樹脂製点字タイル)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9