(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】送電線保護リレー装置
(51)【国際特許分類】
H02H 3/28 20060101AFI20220905BHJP
【FI】
H02H3/28 A
(21)【出願番号】P 2018218636
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 秀昌
(72)【発明者】
【氏名】大野 博文
(72)【発明者】
【氏名】森田 義昭
(72)【発明者】
【氏名】三井 秀太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 聡
【審査官】山本 香奈絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-200271(JP,A)
【文献】特開2004-020284(JP,A)
【文献】特開2003-240813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の送電線を保護する送電線保護リレー装置であって、
前記電力系統の電流を取得する電流取得部と、
前記電力系統の電圧を取得する電圧取得部と、
前記電圧に基づいて、基準電気量を算出する基準電気量算出部と、
前記電流の実効値である第1実効値を算出する電流実効値算出部と、
前記電流と前記基準電気量との位相差である第1位相差を算出する位相差算出部と、
前記第1実効値と前記第1位相差とを、前記送電線の自装置とは異なる箇所に設置された他の送電線保護リレー装置に送信すると共に、前記他の送電線保護リレー装置において算出された電流の実効値である第2実効値と前記他の送電線保護リレー装置において算出された前記基準電気量との位相差である第2位相差とを前記他の送電線保護リレー装置から受信する通信部と、
前記第1実効値、前記第1位相差、前記第2実効値、および前記第2位相差に基づいて、前記送電線に発生する事故の判定に用いられる指標値を算出する指標値算出部と、
を備える送電線保護リレー装置。
【請求項2】
前記指標値は、自装置が取得する電流と前記他の送電線保護リレー装置が取得する電流との差電流であり、
前記指標値算出部は、前記第1実効値および前記第1位相差によって表される第1ベクトルと、前記第2実効値および前記第2位相差によって表される第2ベクトルとのベクトル合成によって前記差電流を算出する、
請求項1に記載の送電線保護リレー装置。
【請求項3】
前記基準電気量は、前記送電線の零相電圧である、
請求項2に記載の送電線保護リレー装置。
【請求項4】
前記指標値は、自装置が取得する電流と前記他の送電線保護リレー装置が取得する電流との差電流であり、
前記第1位相差に基づいて、電流が前記送電線に流入するのか、又は流出するのかを判定し、前記第2位相差に基づいて、電流が前記送電線に流入するのか、又は流出するのかを判定する判定部を更に備え、
前記指標値算出部は、前記判定部の判定結果と、前記第1実効値と、前記第2実効値とに基づいて、前記送電線に流入する電流の実効値の総和から、前記送電線から流出する電流の実効値の総和を減算し、前記差電流を算出する、
請求項1に記載の送電線保護リレー装置。
【請求項5】
前記基準電気量は、前記送電線の正相電圧である、
請求項4に記載の送電線保護リレー装置。
【請求項6】
電力系統の2回線の送電線に接続され、前記送電線を保護する送電線保護リレー装置であって、
前記電力系統の電流を前記回線毎に取得する電流取得部と、
前記電力系統の電圧を取得する電圧取得部と、
前記電圧に基づいて、基準電気量を算出する基準電気量算出部と、
前記電流取得部によって取得された前記回線毎の電流の差分を交差電流として算出する交差電流算出部と、
前記交差電流の実効値である第1実効値を算出する電流実効値算出部と、
前記交差電流と前記基準電気量との位相差である第1位相差を算出する位相差算出部と、
前記第1実効値と前記第1位相差とを、前記送電線の自装置とは異なる箇所に設置された他の送電線保護リレー装置に送信すると共に、前記他の送電線保護リレー装置において算出された交差電流の実効値である第2実効値と前記他の送電線保護リレー装置において算出された前記交差電流と前記基準電気量との位相差である第2位相差とを前記他の送電線保護リレー装置から受信する通信部と、
前記第1実効値、前記第1位相差、前記第2実効値、および前記第2位相差に基づいて、前記送電線に発生する事故の判定に用いられる指標値を算出する指標値算出部と、
を備える送電線保護リレー装置。
【請求項7】
前記指標値は、自装置が取得する電流と前記他の送電線保護リレー装置が取得する電流との交差電流であり、
前記指標値算出部は、前記第1実効値および前記第1位相差によって表される第1ベクトルと、前記第2実効値および前記第2位相差によって表される第2ベクトルとのベクトル合成によって前記交差電流の合成値を算出する、
請求項6に記載の送電線保護リレー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、送電線保護リレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統における送電線を保護する電流差動保護リレー装置が幅広く使用されている。電流差動保護リレー装置は、保護対象となる送電線の各箇所に設置され、各箇所において測定された電流データを、伝送路を介して互いに送受信し、自箇所の電流と他箇所の電流との差電流を算出することによって、送電線の事故の有無を判定する。また、同じ用途にデータ集約型回線選択保護リレー装置が使用される場合もある。データ集約型回線選択保護リレー装置は、複数の回線選択保護リレー装置によって測定された電流データを伝送路を介して集約し、仮想的にある箇所の回線選択保護リレー装置によって測定された電流データとして取り扱い、自箇所の電流と他箇所の電流との交差電流を算出することによって、送電線の事故の有無を判定する。
【0003】
ところで、これらの送電線保護リレー装置は、異なる地点の送電線保護リレー装置で導入した電流データに基づいて差電流や交差電流を算出する際に、同一のタイミングにおいて測定された電流データを特定し、特定したデータに基づいて差電流や交差電流を算出する必要がある。これに関連し、送電線保護リレー装置が電流データを測定する測定タイミングを一致させるサンプリング同期技術が知られている。また、電流データを、IP(Internet Protocol)ネットワークを介して送受信する場合に、伝送遅延時間変動の発生を抑制する技術や簡易な構成により送電線の事故の有無を判定する技術が知られている。
【0004】
しかしながら、従来のサンプリング同期技術では、送電線保護リレー装置間を専用の通信回線によって接続する必要があった。また、従来の伝送遅延変動時間の発生を抑制する
技術や簡易な構成により送電線の事故の有無を判定する技術では、伝送遅延時間変動が抑制されても正確な伝送遅延時間を取得することが困難であり、この場合、同一のタイミングにおいて測定された電流データを特定することが困難である場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】電気協同研究第71巻第1号「新しい通信技術による保護リレーシステムの設計合理化」、一般社団法人電気協同研究会、平成27年7月6日、第139頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、サンプリング同期技術を用いることなく精度よく差電流を算出することが可能な送電線保護リレー装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の送電線保護リレー装置は、電力系統の送電線を保護する送電線保護リレー装置であって、電流取得部と、電圧取得部と、基準電気量算出部と、電流実効値算出部と、位相差算出部と、通信部と、指標値算出部とを持つ。電流取得部は、前記電力系統の電流を取得する。電圧取得部は、前記電力系統の電圧を取得する。基準電気量算出部は、前記電圧に基づいて、基準電気量を算出する。電流実効値算出部は、前記電流の実効値である第1実効値を算出する。位相差算出部は、前記電流と前記基準電気量との位相差である第1位相差を算出する。通信部は、前記第1実効値と前記第1位相差とを、前記送電線の自装置とは異なる箇所に設置された他の送電線保護リレー装置に送信すると共に、前記他の送電線保護リレー装置において算出された電流の実効値である第2実効値と前記他の送電線保護リレー装置において算出された位相差である第2位相差とを前記他の送電線保護リレー装置から受信する。指標値算出部は、前記第1実効値、前記第1位相差、前記第2実効値、および前記第2位相差に基づいて、前記送電線に発生する事故の判定に用いられる指標値を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態の送電線保護リレー装置10が備えられる第1電気所Aの構成の一例を示す図である。
【
図2】取得部111Aと、取得部111Bとがそれぞれ測定した零相電流の経時変化の一例を示す図である。
【
図3】第1電気所Aと第2電気所Bとのそれぞれにおいて取得された、零相電圧算出結果と、零相電流測定結果との経時変化の一例を示す図である。
【
図4】零相差電流実効値I1Z
dveと、零相差電流位相差θ1Z
dvとに基づくベクトルのベクトル合成の一例を示す図である。
【
図5】送電線保護リレー装置10の動作の一連の流れを示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態の送電線保護リレー装置10aが備えられる第1電気所Aの構成の一例を示す図である。
【
図7】第3の実施形態の送電線保護リレー装置10bが備えられる第1電気所Aの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の送電線保護リレー装置を、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
[送電線保護リレー装置10の構成]
図1は、第1の実施形態の送電線保護リレー装置10が備えられる第1電気所Aの構成の一例を示す図である。送電線保護リレー装置10は、変電所や配電所等の電気所に設けられ、保護対象の送電線に事故が生じているかを判定する装置である。そして、送電線保護リレー装置10は、保護対象の送電線に事故が生じている場合、遮断器を開状態に制御することによって、保護対象の送電線と、他の電力系統とを切断する。第1の実施形態では、送電線保護リレー装置10が保護対象の送電線に地絡事故が生じていることを判定する場合について説明する。以下、保護対象の送電線が三相交流電力を送電する1回線の送電線PL1であり、送電線PL1のある箇所に存在する第1電気所Aと、第1電気所Aの位置とは異なる箇所に存在する第2電気所Bとに送電線保護リレー装置10がそれぞれ設けられる場合について説明する。第1電気所Aと第2電気所Bとにそれぞれ設けられる送電線保護リレー装置10の構成は、同一であるため、以降は、第1電気所Aに設けられる送電線保護リレー装置10の構成を一例に説明するが、第2電気所Bに係る送電線保護リレー装置10の構成については、第1電気所Aと第2電気所Bを逆に読み替えればよい。また、以下、第1電気所Aと、第2電気所Bとの構成を区別する場合、第1電気所Aの構成には符号の末尾に「A」を付し、第2電気所Bの構成には符号の末尾に「B」を付し、第1電気所A、及び第2電気所Bの構成を区別する必要がない場合には、末尾の「A」と「B」とを省略して記載する。
【0012】
第1電気所Aは、母線BS1と、遮断器SW1と、零相変流器CT1と、変圧器VT1と、送電線保護リレー装置10とを備える。母線BS1は、送電線PL1に接続される、送電線PL1と同電位の線路である。遮断器SW1は、送電線PL1の途中に設けられ、一端が母線BS1からの送電線PL1の引き出し口に接続され、他の一端が第1電気所Aと第2電気所Bとを接続する側の送電線PL1に接続される。そして、遮断器SW1は、送電線保護リレー装置10の制御に基づいて、開閉状態が制御され、開状態において送電線PL1を切断し、閉状態において送電線PL1を接続する。
【0013】
零相変流器CT1は、例えば、貫通型の変圧器により実現され、三相交流電流の各相の送電線PL1を一括して貫通させ、三相交流電流の零相電流を測定し、測定した零相電流を示す測定結果を送電線保護リレー装置10に供給する。変圧器VT1は、例えば、各相の対地電圧を測定し、測定した各相の対地電圧をそれぞれ示す測定結果を送電線保護リレー装置10に供給する。以下、零相変流器CT1が測定する零相電流は、送電線PL1に流入する場合、正の方向とし、送電線PL1から流出する場合、負の方向とするものとする。
【0014】
送電線保護リレー装置10は、制御部110と、通信部120とを備える。制御部110は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより、取得部111と、電流実効値算出部112と、零相電圧算出部113と、位相差算出部114と、指標値算出部115と、判定部116と、出力部117との各機能部を実現する。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0015】
通信部120は、NIC(Network Interface Card)などのネットワークインタフェースである。通信部120は、ネットワークNWを介して第2電気所Bの送電線保護リレー装置10と通信し、各種情報を送受信する。
【0016】
取得部111は、零相変流器CT1によって検出された零相電流測定結果と、変圧器VT1によって測定された各相の対地電圧測定結果とを取得する。取得部111は、例えば、所定のサンプリング周期によって零相電流測定結果と、各相の対地電圧測定結果とを取得する。取得部111は、「電流取得部」と、「電圧取得部」の一例である。
【0017】
図2は、取得部111Aと、取得部111Bとがそれぞれ測定した零相電流の経時変化の一例を示す図である。
図2に示される波形W1は、取得部111Aが取得した零相電流の経時変化を示し、波形W2は、取得部111Bが取得した零相電流の経時変化を示す。波形W1~W2は、零相変流器CT1のサンプリングタイミングにおいて取得された零相電流値を結び、分かりやすくした波形である。波形W1~W2に示す通り、零相電流は、所定の周期によって変動を繰り返す。
【0018】
ここで、取得部111Aと、取得部111Bとは、それぞれのサンプリング周期によって零相電流測定結果を取得する。したがって、取得部111Aによる零相電流の取得タイミング、及び取得部111Bによる零相電流測定の測定タイミングは、非同期である。このため、送電線保護リレー装置10Aや送電線保護リレー装置10Bは、取得部111A、及び取得部111Bが、おおよそ同時刻に取得した零相電流(図示する零相電流値st1~st2)であっても、サンプリングタイミングが一致しているのか否か、サンプリングタイミングが一致していない場合、サンプリングタイミングの差がどの程度かを把握することはできない。また、波形W1~W2に示す通り、送電線保護リレー装置10Aにおける零相電流と、送電線保護リレー装置10Bにおける零相電流とは、僅かでもサンプリングタイミングが異なると、全く異なる値を示すため、この零相電流同士を直接差し引きしても、第1電気所Aと第2電気所Bとの間の零相差電流を算出することはできない。
【0019】
図1に戻り、電流実効値算出部112は、取得部111によって取得された零相電流測定結果に基づいて、第1電気所Aにおける零相電流の実効値(以下、零相電流実効値I1)を算出する。電流実効値算出部112は、例えば、零相変流器CT1の零相電流を測定する測定周期(つまり、サンプリング周期)が、電気角15°(50Hz系統では1/1200秒周期、60Hz系統では1/1440秒周期)である場合、離散フーリエ演算を用いた式(1)によって、零相電流実効値I1を算出する。式(1)において、I
mは、あるサンプリングタイミングにおいて測定された零相電流値である。電流実効値算出部112は、算出した零相電流実効値I1を、通信部120に供給する。通信部120は、ネットワークNWを介して電流実効値算出部112によって算出された第1電気所Aにおける零相電流実効値I1Aを第2電気所Bの送電線保護リレー装置10に送信する。
【0020】
【0021】
零相電圧算出部113は、取得部111によって取得された各相の対地電圧測定結果に基づいて、零相電圧を算出する。零相電圧算出部113は、例えば、各相の対地電圧測定結果の総和を、零相電圧として算出する。零相電圧算出部113は、「基準電気量算出部」の一例であり、第1の実施形態における「基準電気量」は、零相電圧である。
【0022】
位相差算出部114は、零相電圧算出部113によって算出された零相電圧と、取得部111によって取得された零相電流測定結果とに基づいて、零相電圧に対する零相電流の位相差θ1
dvAを算出する。
図3は、第1電気所Aと第2電気所Bとのそれぞれにおいて取得された、零相電圧算出結果と、零相電流測定結果との経時変化の一例を示す図である。
図3に示される波形W3は、取得部111Aによって算出された、零相電圧値の経時変化を示し、波形W4は、取得部111Aによって取得された零相電流値の経時変化を示し、波形W5は、取得部111Bによって算出された、零相電圧値の経時変化を示し、波形W6は、取得部111Bによって取得された零相電流値の経時変化を示す。波形W3~W6は、例えば、零相変流器CT1のサンプリングタイミングにおいて取得された零相電流値、及び変圧器VT1のサンプリングタイミングにおいて取得された零相電圧値をそれぞれ時系列に伴って結び、分かりやすくした波形である。波形W3~W6に示す通り、零相電圧値と、零相電流値は、所定の周期によって変動を繰り返す。更に、波形W4に示される第1電気所Aにおける零相電圧と、波形W6に示される第2電気所Bにおける零相電圧とは、サンプリングタイミングが異なっていても同一の波形であるため、位相差θ1
dvAと、位相差θ1
dvBとは、同一の電圧に対する電流の位相差を示す。
【0023】
位相差算出部114は、例えば、離散フーリエ演算を用いた式(2)によって、第1電気所Aにおける零相変流器CT1のサンプリング周期を基準とした、零相電流の位相θ1を算出し、離散フーリエ演算を用いた式(3)によって、第1電気所Aにおける変圧器VT1のサンプリング周期を基準とした、零相電圧の位相θ2を算出する。式(3)において、Vmは、あるサンプリングタイミングにおいて算出された零相電圧値である。そして、位相差算出部114は、式(4)に示す通り、位相θ1から、位相θ2を差し引くことにより、第1電気所Aにおける零相電圧の位相に対する零相電流の位相差θ1dvである位相差θ1dvAを算出する。位相差算出部114は、算出した位相差θ1dvAを、通信部120に供給する。通信部120は、ネットワークNWを介して位相差算出部114によって算出された第1電気所Aにおける位相差θ1dvAを第2電気所Bの送電線保護リレー装置10に送信する。
【0024】
【0025】
指標値算出部115は、電流実効値算出部112によって算出された零相電流実効値I1Aと、位相差算出部114によって算出された位相差θ1dvAと、通信部120が第2電気所Bから受信した第2電気所Bにおける零相電流実効値I1Bと、位相差θ1dvBとに基づいて、式(5)によって各電気所における零相差電流の実効値(以下、零相差電流実効値I1Zdve)を算出する。そして、指標値算出部115は、零相電流実効値I1Aと、位相差θ1dvAと、零相電流実効値I1Bと、位相差θ1dvBとに基づいて、式(6)によって各電気所における零相差電流位相差θ1Zdvを算出する。零相差電流位相差θ1Zdvは、零相電圧の位相に対する零相差電流の位相差である。
【0026】
【0027】
図4は、零相差電流実効値I1Z
dveと、零相差電流位相差θ1Z
dvとの算出方法を模式的に示す図である。
図4に示すベクトルV1~V2は、零相電流実効値I1の大きさと零相電流の位相差θ1
dvとによって表されるベクトルである。具体的には、ベクトルV1は、零相電流実効値I1Aと、零相電流位相差θ1Aとによって表されるベクトルである。ベクトルV2は、零相電流実効値I1Bと、零相電流位相差θ1Bとによって表されるベクトルである。ベクトルV3は、ベクトルV1と、ベクトルV2とが合成された、合成ベクトルであり、零相差電流実効値I1Z
dveの大きさと、零相差電流位相差θ1Z
dvとによって表されるベクトルである。
【0028】
判定部116は、指標値算出部115によって算出された差電流に基づいて、送電線PL1に地絡事故が生じているか否かを判定する。判定部116は、例えば、指標値算出部115によって算出された零相差電流実効値I1Zdve、及び零相差電流位相差θ1Zdvと、電流実効値算出部112によって算出された各電気所の零相電流実効値I1A、及び零相電流実効値I1Bとに基づく一般的な判定によって、所定の条件が満たされた場合に、送電線PL1に地絡事故が生じていると判定する。判定部116は、例えば、比例特性に係る式(7)と、位相特性に係る式(8)、及び式(9)とを満たす場合に、送電線PL1に地絡事故が生じていると判定する。
【0029】
【0030】
出力部117は、判定部116の判定結果に基づいて、遮断器SW1を制御する制御信号を出力する。出力部117は、例えば、判定部116の判定結果が送電線PL1に地絡事故が生じていることを示す場合、遮断器SW1を開状態に制御する制御信号を出力し、遮断器SW1は、制御信号に応じて開状態に制御され、送電線PL1と、母線BS1とを切断する。
【0031】
[動作フロー]
以下、送電線保護リレー装置10の動作について説明する。
図5は、送電線保護リレー装置10の動作の一連の流れを示すフローチャートである。まず、取得部111は、零相変流器CT1から零相電流測定結果を所定のサンプリング周期によって取得する(ステップS100)。次に、取得部111は、変圧器VT1から各相の対地電圧測定結果を所定のサンプリング周期によって取得する(ステップS102)。次に、電流実効値算出部112は、取得部111によって取得された零相電流測定結果に基づいて、零相電流実効値I1を算出する(ステップS104)。次に、零相電圧算出部113は、取得部111によって取得された各相の対地電圧測定結果に基づいて、零相電圧を算出する(ステップS106)。
【0032】
次に、位相差算出部114は、零相電圧算出部113によって算出された零相電圧と、取得部111によって取得された零相電流測定結果とに基づいて、零相電圧に対する零相電流の位相差θ1dvを算出する(ステップS108)。次に、指標値算出部115は、電流実効値算出部112によって算出された零相電流実効値I1Aと、位相差算出部114によって算出された位相差θ1dvAと、通信部120が第2電気所Bから受信した第2電気所Bにおける零相電流実効値I1Bと、位相差θ1dvBとに基づいて、各電気所における零相差電流実効値I1Zdveを算出し、零相電流実効値I1Aと、位相差θ1dvAと、零相電流実効値I1Bと、位相差θ1dvBとに基づいて、各電気所における零相差電流位相差θ1Zdvを算出する。すなわち、零相電流実効値I1Aと、零相電流位相差θ1dvAとによって表されるベクトルV1と、零相電流実効値I1Bと、零相電流位相差θ1dvBとによって表されるベクトルV2とをベクトル合成によって合成し、合成ベクトルから零相差電流実効値I1Zdveと、零相差電流位相差θ1Zdvとを算出する(ステップS110)。次に、判定部116は、電流実効値算出部112、位相差算出部114、及び指標値算出部115によって算出された各種値に基づいて、送電線PL1に地絡事故が生じているか否かを判定する(ステップS112)。判定部116は、指標値算出部115によって算出された零相差電流実効値I1Zdve、及び零相差電流位相差θ1Zdvと、電流実効値算出部112によって算出された各電気所の零相電流実効値I1A、及び零相電流実効値I1Bとに基づく一般的な判定によって、所定の条件が満たされていない場合、送電線PL1に地絡事故が生じていないと判定し、処理を終了する。出力部117は、判定部116が、指標値算出部115によって算出された零相差電流実効値I1Zdve、及び零相差電流位相差θ1Zdvと、電流実効値算出部112によって算出された各電気所の零相電流実効値I1A、及び零相電流実効値I1Bとに基づく一般的な判定によって、所定の条件が満たされていると判定した場合、遮断器SW1を開状態に制御する制御信号を出力する(ステップS114)。
【0033】
[第1の実施形態のまとめ]
以上説明したように、本実施形態の送電線保護リレー装置10は、電力系統の送電線を保護する送電線保護リレー装置であって、電流取得部(この一例では、取得部111)と、電圧取得部(この一例では、取得部111)と、電流実効値算出部と、基準電気量算出部(この一例では、零相電圧算出部113)と、位相差算出部114と、通信部120と、指標値算出部115とを持つ。取得部111は、電力系統の電流(この一例では零相電流)の測定結果を取得し、当該電力系統の電圧(この一例では、各相の対地電圧)の測定結果を取得し、電流実効値算出部112は、取得部111によって取得された電流の実効値である第1実効値(この一例では、零相電流実効値I1A)を算出し、零相電圧算出部113は、取得部111によって取得された電圧に基づいて、基準電気量(この一例では、零相電圧)を算出し、位相差算出部114は、零相電流と零相電圧との位相差である第1位相差(この一例では、位相差θ1dvA)を算出し、通信部120は、零相電流実効値I1と位相差θ1dvとを、送電線PL1の自装置とは異なる箇所(この一例では、第2電気所B)に接続された他の送電線保護リレー装置10に送信すると共に、第2電気所Bの送電線保護リレー装置10において算出された電流の実効値である第2実効値(この一例では、零相電流実効値I1B)と第2電気所Bの送電線保護リレー装置10において算出された位相差である第2位相差(この一例では、位相差θ1dvB)とを第2電気所Bの送電線保護リレー装置10から受信し、指標値算出部115は、第1実効値、第1位相差、第2実効値、および第2位相差に基づいて、送電線PL1に発生する事故(この一例では、地絡事故)の判定に用いられる指標値を算出するものであり、指標値は、送電線保護リレー装置10Aが取得する電流と第2電気所Bの送電線保護リレー装置10が取得する電流との差電流であり、指標値算出部115は、第1実効値および第1位相差によって表される第1ベクトル(この一例では、ベクトルV1)と、第2実効値および第2位相差によって表される第2ベクトル(この一例では、ベクトルV2)とのベクトル合成によって差電流を算出する。
【0034】
これにより、本実施形態の送電線保護リレー装置10は、サンプリング同期技術を用いることなく、且つ伝送遅延時間などの不確定的な要素に依らずに、精度よく差電流を算出することが可能となり、精度よく地絡事故の発生の有無を判定することができる。
【0035】
上述では、第1電気所Aと第2電気所Bにおいて、送電線PL1を流れる零相電流実効値I1A、I1B、及び零相電圧に対する零相電流の位相差θ1dvA、θ1dvBが一定であることと、第1電気所Aと第2電気所Bとにおける零相電圧が同位相であることを前提条件に、ベクトル合成によって差電流を算出する場合について説明した。以下、これらの前提条件が成り立つことを説明する。なお、これらの前提条件が成り立つことが求められる期間は、第1電気所Aの送電線保護リレー装置10と第2電気所Bの送電線保護リレー装置10が地絡事故の判定処理を行い、遮断器SW1A、SW1Bに対して開状態の制御信号を出力するまでの、リレー動作時間(例えば、20[ms]~40[ms])程度の期間であればよい。
【0036】
電力系統に短絡や地絡事故が発生した場合、一般的にその事故が除去されるまでは、一定の事故電流が流れ、各電圧と電流との位相関係も一定となる。事故の状況によっては、事故発生後に状況が変化して次なる事故様相に進展する場合や、多重的に事故が発生して次々と事故様相が変化する場合もあるが、これらの場合であっても、次なる事故様相に変化した後の事故除去に至るまでは電圧、及び電流の実効値や位相関係が一定となる期間が存在する。したがって、第1電気所Aの送電線保護リレー装置10と第2電気所Bの送電線保護リレー装置10とにおいて、送電線PL1を流れる零相電流実効値I1、及び零相電圧に対する位相差θ1dvが一定であることの前提条件が成立する。また、抵抗接地系統の電力系統において一線地絡事故が発生した場合は、各電気所で算出することができる零相電圧はいずれも同位相となる。よって、第1電気所Aと第2電気所Bの各端子において、送電線保護リレー装置10Aと送電線保護リレー装置10Bが各々算出する零相電圧が同位相であることとの条件も成立する。
【0037】
(第2の実施形態)
[送電線保護リレー装置10aの構成]
以下、第2の実施形態の送電線保護リレー装置10aを、図面を参照して説明する。第1の実施形態では、送電線保護リレー装置10が送電線PL1に生じる地絡事故を判定する場合について説明した。第2の実施形態では、送電線保護リレー装置10aが送電線PL1の各相間に生じる短絡事故を判定する場合について説明する。なお、上述の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
図6は、第2の実施形態の送電線保護リレー装置10aが備えられる第1電気所Aの構成の一例を示す図である。第2の実施形態において、第1電気所Aは、母線BS1と、遮断器SW1と、変流器CT2と、変圧器VT1と、送電線保護リレー装置10aとを備える。変流器CT2は、例えば、各相の電流を測定し、測定した各相の電流をそれぞれ示す測定結果を送電線保護リレー装置10aに供給する。以下、変流器CT2が測定する各相の電流は、送電線PL1に流入する場合、正の方向とし、送電線PL1から流出する場合、負の方向とするものとする。また、以下、本実施形態の変流器CT2の測定結果と、変圧器VT1の測定結果とは、送電線保護リレー装置10aの制御に基づいて、同タイミングによって送電線保護リレー装置10aに取得されるものとする。
【0039】
送電線保護リレー装置10aは、制御部110aと、通信部120とを備える。制御部110aは、制御部110が備える構成に代えて(或いは、加えて)、取得部111と、電流実効値算出部112と、位相差算出部114と、指標値算出部115と、判定部116と、出力部117と、各相正相電圧算出部118との各種機能部を実現する。
【0040】
本実施形態の電流実効値算出部112は、取得部111によって取得された各相の電流測定結果に基づいて、第1電気所Aにおける電流の実効値(以下、電流実効値I2)を相毎に算出する。電流実効値算出部112は、例えば、変流器CT2の各相の電流を測定するサンプリング周期が、電気角15°である場合、上述した式(1)によって、電流実効値I2を算出する。本実施形態の式(1)において、Imは、あるサンプリングタイミングにおいて測定された各相の電流値である。電流実効値算出部112は、算出した各相の電流実効値I2を、通信部120に供給する。通信部120は、ネットワークNWを介して電流実効値算出部112によって算出された第1電気所Aにおける相毎の電流実効値I2Aを第2電気所Bの送電線保護リレー装置10aに送信する。
【0041】
各相正相電圧算出部118は、取得部111によって取得された各相の対地電圧測定結果に基づいて、三相の正相電圧をそれぞれ算出する。ここで、三相の正相電圧は、三相の各相を基準とした正相電圧であり、例えば、三相をA相、B相、及びC相とする場合、各相正相電圧算出部118は、A相基準の正相電圧、B相基準の正相電圧、C相基準の正相電圧をそれぞれ算出する。各相正相電圧算出部118は、例えば、電圧データの移相演算によって、三相の正相電圧を算出する。各相正相電圧算出部118は、「基準電気量算出部」の一例であり、第2の実施形態における「基準電気量」は、三相の正相電圧である。
【0042】
本実施形態の位相差算出部114は、各相正相電圧算出部118によって算出された三相の正相電圧と、取得部111によって取得された各相の電流測定結果とに基づいて、上述した式(2)によって、正相電圧の位相に対する電流の位相差θ2dvを、相毎に算出する。本実施形態の式(2)において、Imは、あるサンプリングタイミングにおいて測定された電流値である。位相差算出部114は、算出した位相差θ2dvAを、通信部120に供給する。通信部120は、ネットワークNWを介して位相差算出部114によって算出された第1電気所Aにおける位相差θ2dvAを第2電気所Bの送電線保護リレー装置10aに送信する。
【0043】
ここで、上述したように、取得部111Aと、取得部111Bとは、各送電線保護リレー装置10aのサンプリング周期によって各相の電流測定結果を取得する。したがって、取得部111Aによる各相の電流の取得タイミング、及び取得部111Bによる各相の電流測定の測定タイミングは、非同期である。この場合、送電線保護リレー装置10aAや送電線保護リレー装置10aBは、取得部111A、及び取得部111Bが、おおよそ同時刻に取得した各相の電流であっても、サンプリングタイミングが一致しているのか否か、サンプリングタイミングが一致していない場合、サンプリングタイミングの差がどの程度かを把握することはできない。また、送電線保護リレー装置10Aにおける各相の電流と、送電線保護リレー装置10Bにおける各相の電流とは、僅かでもサンプリングタイミングが異なると、全く異なる値を示すため、この各相の電流同士を直接差し引きして第1電気所Aと第2電気所Bとの間の差電流を算出することはできない。
【0044】
一方、上述したように、本実施形態の変流器CT2の測定結果と、変圧器VT1の測定結果とは、送電線保護リレー装置10aの制御に基づいて、同タイミングによって送電線保護リレー装置10aに取得されるものであるため、第1電気所Aにおいて測定されたある相(例えば、A相)の電流、及び第1電気所Aにおいて測定されたA相の正相電圧同士と、第2電気所Bにおいて測定されたある相(例えば、A相)の電流、及び第2電気所Bにおいて測定されたA相の正相電圧同士とは、各々、自装置の変流器CT2、変圧器VT1によって測定された電気量に基づいて取得されるものである。このため、電流と電圧の位相差(図示する位相差θ2dvA、及び位相差θ2dvB)は、最終的な事故様相に移行した後は、一定である。
【0045】
図6に戻り、本実施形態の指標値算出部115は、位相差算出部114によって算出された各相の位相差θ2
dvAに基づいて、各相の電流が送電線PL1に対して、流入する電流であるのか、又は流出する電流であるのかを判定する。また、通信部120は、第2電気所Bの送電線保護リレー装置10aBから、電流実効値算出部112Bによって算出された電流実効値I2Bと、位相差算出部114Bによって算出された各相の位相差θ2
dvBとを受信する。指標値算出部115は、受信した各相の位相差θ2
dvに基づいて、各相の電流が送電線PL1に対して、流入する電流であるのか、又は流出する電流であるのかを判定する。指標値算出部115は、例えば、正相電圧に対する電流の位相差が、遅れ位相であれば流入電流と判定し、進み位相であれば流出電流と判定する。そして、指標値算出部115は、第1電気所Aに係る判定結果と、第2電気所Bに係る判定結果とを用い、式(10)によって、差電流の実効値(以下、差電流実効値I2
dve)を相毎に算出する。
【0046】
【0047】
判定部116は、指標値算出部115によって算出された各相の差電流実効値I2dveに基づいて、送電線PL1に短絡事故が生じているか否かを判定する。判定部116は、例えば、指標値算出部115によって算出された差電流実効値I2dveと、電流実効値算出部112によって算出された各電気所の電流実効値I2A、及び電流実効値I2Bとに基づく一般的な判定によって、所定の条件が満たされていない場合、送電線PL1に短絡事故が生じていないと判定し、所定の条件が満たされている場合、送電線PL1に短絡事故が生じていると判定する。出力部117の処理については、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
[第2の実施形態のまとめ]
以上説明したように、本実施形態の送電線保護リレー装置10aにおいて、指標値は、送電線保護リレー装置10aAが取得する電流と第2電気所Bの送電線保護リレー装置10aBが取得する電流との差電流であり、指標値算出部115は、第1位相差に基づいて、電流が送電線PL1に流入するのか、又は流出するのかを判定し、第2位相差に基づいて、電流が前記送電線に流入するのか、又は流出するのかを判定し、判定結果と、第1実効値と、第2実効値とに基づいて、送電線PL1に流入する電流の実効値の総和から、送電線PL1から流出する電流の実効値の総和を減算し、差電流の実効値(この一例では、差電流実効値I2dve)を算出し、サンプリング同期技術を用いることなく、且つ伝送遅延時間などの不確定的な要素に依らずに、精度よく差電流を算出することが可能となり、精度よく短絡事故の発生の有無を判定することができる。
【0049】
ここで、第2の実施形態の基準電気量である三相の正相電圧は、第1の実施形態の基準電気量とした零相電圧とは異なり、一線地絡事故以外でも得られる電気量であるが必ずしも第1電気所Aと第2電気所Bとで同位相になるとは限らない。これは、送電線PL1を介して電力の送電を行うために送電端と受電端の電圧に位相差があるためである。よって、各相正相電圧算出部118Aで算出した三相の正相電圧の位相に対する電流の位相差(つまり、位相差θ2dvA)と、各相正相電圧算出部118Bで算出した三相の正相電圧の位相に対する電流の位相差(つまり、位相差θ2dvB)とは、同一の基準位相に対する電流の位相差を表すものではない。したがって、位相差θ2dvAと、位相差θ2dvBとを直接的に比較はできないが、指標値算出部115において、各相の電流が送電線PL1に対して、流入する電流であるのか、又は流出する電流であるのかを判定し、分類しているため、分類後の電流同士は比較することが可能となる。
【0050】
したがって、指標値算出部115によって算出された差電流実効値I2dveは、送電線保護リレー装置10aAと、送電線保護リレー装置10aBとのサンプリング同期技術を用いることなく、且つ伝送遅延時間などの不確定的な要素に依らずに、精度よく差電流を算出することが可能となり、精度よく地絡事故の発生の有無を判定することができる。
【0051】
なお、上述では、指標値算出部115は、流入電流の実効値の総和から流出電流の実効値の総和の差分によって差電流実効値I2dveを算出したが、差分の絶対値を差電流実効値I2dveとしても良い。
【0052】
なお、上述では、指標値算出部115が、各相の電流が送電線PL1に対して、流入する電流であるのか、又は流出する電流であるのかを判定する場合について説明したが、これに限られない。この判定処理は、例えば、位相差算出部114によって行われてもよい。この場合、位相差算出部114は、各相正相電圧算出部118によって算出された三相の正相電圧と、取得部111によって取得された三相の電流測定結果とに基づいて、正相電圧に対する電流の位相差を相毎に算出する。そして、位相差算出部114は、算出した位相差から、各相の電流が送電線PL1に対して、流入する電流であるのか、又は流出する電流であるのかを判定する。これにより、指標値算出部115は、位相差算出部114A、及び位相差算出部114Bによって既に流入、又は流出に分類された電流実効値I2の総和を算出し、簡便に差電流実効値I2dveを算出することができる。
【0053】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態の送電線保護リレー装置10bを、図面を参照して説明する。第1の実施形態、及び第2の実施形態において、保護対象の送電線PL1は、1回線の送電線であった。第3の実施形態では、保護対象の送電線が2回線の送電線PL2(図示する送電線PL2a、送電線PL2b)である場合について説明する。なお、上述した実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0054】
図7は、第3の実施形態の送電線保護リレー装置10bが備えられる第1電気所Aの構成の一例を示す図である。第3の実施形態において、第1電気所Aは、母線BS1と、母線BS2と、遮断器SW1と、遮断器SW2と、零相変流器CT1-1と、零相変流器CT1-2と、変圧器VT1-1と、変圧器VT1-2と、送電線保護リレー装置10bとを備える。母線BS1は、送電線PL2aに接続される、送電線PL2aと同電位の線路である。遮断器SW1は、送電線PL2aの途中に設けられ、一端が母線BS1からの送電線PL2aの引き出し口に接続され、他の一端が第1電気所Aと第2電気所Bとを接続する側の送電線PL2aに接続される。そして、遮断器SW1は、送電線保護リレー装置10bの制御に基づいて、開閉状態が制御され、開状態において母線BS1と送電線PL2aとを切断し、閉状態において母線BS1と送電線PL2aとを接続する。母線BS2、遮断器SW2、送電線PL2b、及び送電線保護リレー装置10bの関係は、母線BS1、遮断器SW1、送電線PL2aの関係と同様であるため、説明を省略する。
【0055】
第3の実施形態において、零相変流器CT1-1は、例えば、送電線PL2aの三相交流電流の零相電流を測定し、測定した零相電流を示す測定結果を送電線保護リレー装置10bに供給する。変圧器VT1-1は、例えば、各相の対地電圧を測定し、測定した各相の対地電圧をそれぞれ示す測定結果を送電線保護リレー装置10に供給する。この場合、零相変流器CT1-1が測定する零相電流は、送電線PL2aに流入する場合、正の方向とし、送電線PL2aから流出する場合、負の方向とするものとする。零相変流器CT1-2、変圧器VT1-2、送電線PL1b、及び送電線保護リレー装置10bの関係は、零相変流器CT1-1、変圧器VT1-1、送電線PL1a、及び送電線保護リレー装置10bの関係と同様であるため、説明を省略する。
【0056】
第3の実施形態において、送電線保護リレー装置10bは、制御部110と、通信部120とを備える。第3の実施形態において、取得部111は、零相変流器CT1-1によって測定された送電線PL2aの零相電流から、零相変流器CT1-2によって測定された送電線PL2bの零相電流を差し引いた交差電流を取得する。取得部111は、例えば、「交差電流算出部」の一例である。
【0057】
電流実効値算出部112は、取得部111によって算出された交差電流の実効値である交差電流実効値I3を算出する。位相差算出部114は、取得部111によって算出された交差電流と、零相電圧算出部113によって算出された零相電圧とに基づいて、零相電圧に対する交差電流の位相差θ3dvを算出する。指標値算出部115は、式(11)と、式(12)とを用い、交差電流実効値I3Aと、位相差θ3dvAと、通信部120によって受信された交差電流実効値I3Bと、位相差θ3dvBとに基づいて、交差電流実効値I3と、位相差θ3dvとによって表されるベクトルのベクトル合成を行うことにより、交差電流の合成値の実効値(以下、交流電流合成値実効値I2Zdve)と、交差電流の合成値の位相差(以下、位相差θ2Zdv)とを算出する。以降の処理は、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0058】
【0059】
[第3の実施形態のまとめ]
以上説明したように、本実施形態の送電線保護リレー装置10b(この一例では、送電線保護リレー装置10bA)は、電力系統の2回線(この一例では、送電線PL2a~PL2b)の送電線に接続され、送電線を保護するものであって、電流取得部(この一例では、取得部111)と、電圧取得部(この一例では、取得部111)と、基準電気量算出部(この一例では、零相電圧算出部113)と、交差電流算出部(この一例では、取得部111)と、電流実効値算出部112と、位相差算出部114と、通信部120と、指標値算出部115とを持つ。取得部111は、電力系統の電流を回線毎に取得する。取得部111は、電力系統の電圧を前記回線毎に取得する。零相電圧算出部113は、回線毎の前記電圧に基づいて、基準電気量(この一例では、零相電圧)を算出する。取得部111は、取得された回線毎の電流の差分を交差電流として算出する。電流実効値算出部112は、交差電流の実効値である第1実効値(この一例では、交差電流実効値I3A)を算出する。位相差算出部114は、交差電流と零相電圧との位相差である第1位相差(この一例では、位相差θ3dvA)を算出する。通信部120は、交差電流実効値I3Aと、位相差θ3dvAとを、第1電気所Aとは異なる箇所に設置された他の送電線保護リレー装置(つまり、第2電気所Bの送電線保護リレー装置10bB)に送信すると共に、第2電気所Bの送電線保護リレー装置10bBにおいて算出された交差電流の実効値である第2実効値(この一例では、交差電流実効値I3B)と、送電線保護リレー装置10bBにおいて算出された交差電流と零相電圧との位相差である第2位相差(この一例では、位相差θ3dvB)とを送電線保護リレー装置10bBから受信する。指標値算出部115は、交差電流実効値I3Aと、位相差θ3dvAと、交差電流実効値I3Bと、位相差θ3dvBとに基づいて、送電線PL2a~PL2bに発生する事故の判定に用いられる指標値(この一例では、交流電流合成値実効値I2Zdve、位相差θ2Zdv)を算出する。
【0060】
これにより、本実施形態の送電線保護リレー装置10bは、サンプリング同期技術を用いることなく、且つ伝送遅延時間などの不確定的な要素に依らずに、精度よく差電流を算出することが可能となり、複数回線の送電線PL2のそれぞれについて、精度よく地絡事故の発生の有無を判定することができる。
【0061】
本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0062】
10、10A、10B、10a、10aA、10aB、10b、10bA、10bB…送電線保護リレー装置、110、110a…制御部、111、111A、111B…取得部、112…電流実効値算出部、113…零相電圧算出部、114、114A、114B…位相差算出部、115…指標値算出部、116…判定部、117…出力部、118、118A、118B…各相正相電圧算出部、120…通信部、CT1、CT1-1、CT1-2…零相変流器、CT2…変流器、VT1、VT1-1、VT1-2…変圧器