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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】中空糸膜層積層体
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20220905BHJP
   A61M 1/16 20060101ALI20220905BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
A61M1/18 500
A61M1/18 525
A61M1/16 120
B01D63/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018542643
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2017034957
(87)【国際公開番号】W WO2018062271
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2016194542
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】平口 竜士
(72)【発明者】
【氏名】行天 章
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-518685(JP,A)
【文献】米国特許第06638479(US,B1)
【文献】国際公開第2012/133372(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115138(WO,A1)
【文献】特許第4378287(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18
A61M 1/16
B01D 63/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の中空糸膜を有し、該複数本の中空糸膜で構成された中空糸膜層が複数層積層された積層体で構成され、全体形状として円筒体の形状をなす中空糸膜層積層体であって、
複数の前記中空糸膜層は、前記円筒体の径方向に積層され、
複数本の前記中空糸膜は、前記円筒体の軸方向に前記中空糸膜のそれぞれが所定距離離間して、前記円筒体の中心軸に対して傾斜して、かつ、前記円筒体の中心軸回りに巻回されており、
前記円筒体の最内層に設けられる前記中空糸膜層における前記円筒体の軸方向および周方向に隣り合う前記中空糸膜の離間距離と、最内層に設けられる前記中空糸膜層よりも前記円筒体の径方向の外側に複数層積層される前記各中空糸膜層における前記円筒体の軸方向および周方向に隣り合う前記中空糸膜の離間距離との比が実質的に同一であることを特徴とする中空糸膜層積層体。
【請求項2】
前記円筒体の軸方向および周方向に隣り合う前記中空糸膜の離間距離は、50μm以上、300μm以下である請求項1に記載の中空糸膜層積層体。
【請求項3】
前記中空糸膜の外径は、300μm以上、1000μm以下である請求項1または2に記載の中空糸膜層積層体。
【請求項4】
前記中空糸膜の内側を熱媒体を通過させて熱交換器として用いられる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の中空糸膜層積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜層積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数本の中空糸膜で構成され、全体形状が円筒体形状をなす中空糸膜層積層体を有する熱交換器や人工肺が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載された中空糸膜層積層体は、複数本の中空糸膜を円筒体の中心軸回りに、各中空糸が円筒体の中心軸に対して傾斜した状態で巻回しつつ、円筒体の中心軸方向に往復動させることにより形成される。
【0004】
中空糸膜を巻回が進むにつれ、円筒体の外径は大きくなっていく。このため、中空糸膜を一定量繰り出しつつ、往復動させる速度を一定とした場合には、円筒体の内側、すなわち、巻き始めと、円筒体の外側、すなわち、巻き終わりとでは、円筒体の中心軸方向に隣り合う中空糸膜の離間距離が異なる。例えば、巻き初めに適切な離間距離で中空糸膜を巻回したとしても、巻き終わりには、隣り合う中空糸膜同士の離間距離が大きくなってしまう。一方、巻き終わりに適切な離間距離とするためには、巻き初めに離間距離を必要以上に小さくして中空糸膜を巻回する必要がある。前者の場合、血液充填量が大きくなってしまい、患者への負担が大きくなる。一方、後者の場合、初期充填時に隣り合う中空糸膜の間に気泡が残存した状態や血液流路の圧力損失が必要以上に高い状態となり、やはり患者への負担が大きくなる可能性が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/146277号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、血液の充填量を抑制することができるとともに、中空糸膜同士の間に気泡が残存することおよび血液流路の圧力損失が必要以上に大きくなることを防止することができる中空糸膜層積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)~(4)の本発明により達成される。
(1) 複数本の中空糸膜を有し、該複数本の中空糸膜で構成された中空糸膜層が複数層積層された積層体で構成され、全体形状として円筒体の形状をなす中空糸膜層積層体であって、
複数の前記中空糸膜層は、前記円筒体の径方向に積層され、
複数本の前記中空糸膜は、前記円筒体の軸方向に前記中空糸膜のそれぞれが所定距離離間して、前記円筒体の中心軸に対して傾斜して、かつ、前記円筒体の中心軸回りに巻回されており、
前記円筒体の最内層に設けられる前記中空糸膜層における前記円筒体の軸方向および周方向に隣り合う前記中空糸膜の離間距離と、最内層に設けられる前記中空糸膜層よりも前記円筒体の径方向の外側に複数層積層される前記各中空糸膜層における前記円筒体の軸方向および周方向に隣り合う前記中空糸膜の離間距離との比が実質的に同一であることを特徴とする中空糸膜層積層体。
【0010】
) 前記円筒体の軸方向および周方向に隣り合う前記中空糸膜の離間距離は、50μm以上、300μm以下である上記()に記載の中空糸膜層積層体。
【0011】
) 前記中空糸膜の外径は、300μm以上、1000μm以下である上記(1)または(2)に記載の中空糸膜層積層体。
【0012】
) 前記中空糸膜の内側を熱媒体を通過させて熱交換器として用いられる上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の中空糸膜層積層体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、巻回工程において、外側の中空糸膜層に行くに連れ、増速率zを小さくするため、外側の前記中空糸膜層に行くに連れ、円筒体の中心軸方向に隣り合う中空糸膜の離間距離が過剰に変化するのを防止することができる。その結果、血液の充填量が過剰に大きくなるのを抑制することができるとともに、中空糸膜同士の間に気泡が残存することや血液流路の圧力損失が必要以上に大きくなることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の中空糸膜層積層体を内蔵した人工肺の平面図である。
図2図2は、図1に示す中空糸膜層積層体を矢印A方向から見た図である。
図3図3は、図2中のB-B線断面図である。
図4図4は、図2中の矢印C方向から見た図である。
図5図5は、図1中のD-D線断面図である。
図6図6は、図5中のE-E線断面図である。
図7図7は、本発明の中空糸膜層積層体の製造方法によって製造された中空糸膜層積層体を示す図であって、(a)が、斜視図、(b)が、展開図、である。
図8図8は、本発明の中空糸膜層積層体の製造方法によって製造された中空糸膜層積層体の他の構成を示す図であって、(a)が、斜視図、(b)が、展開図である。
図9図9は、本発明の中空糸膜層積層体の製造方法で用いられる装置を示す図である。
図10図10は、本発明の中空糸膜層積層体の製造方法で用いられる装置を示す図である。
図11図11は、中空糸膜層積層体の製造過程における中空糸膜の固定状態を示す図である。
図12図12は、図7または図8に示す中空糸膜束を切断する工程を順に示す図である。
図13図13は、本発明の中空糸膜層積層体の製造方法での巻回工程を示す展開図であって、(a)が、1層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図、(b)が、2層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図、(c)が、3層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図である。
図14図14は、従来の中空糸膜層積層体の製造方法での巻回工程を示す展開図であって、(a)が、1層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図、(b)が、2層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図、(c)が、3層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図である。
図15図15は、(a)が、従来の中空糸膜層積層体の部分横断面図であり、(b)が、図1に示す中空糸膜積層体の部分横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の中空糸膜層積層体を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0016】
<第1実施形態>
図1は、本発明の中空糸膜層積層体を内蔵した人工肺の平面図である。図2は、図1に示す中空糸膜層積層体を矢印A方向から見た図である。図3は、図2中のB-B線断面図である。図4は、図2中の矢印C方向から見た図である。図5は、図1中のD-D線断面図である。図6は、図5中のE-E線断面図である。図7は、本発明の中空糸膜層積層体の製造方法によって製造された中空糸膜層積層体を示す図であって、(a)が、斜視図、(b)が、展開図、である。図8は、本発明の中空糸膜層積層体の製造方法によって製造された中空糸膜層積層体の他の構成を示す図であって、(a)が、斜視図、(b)が、展開図である。図9は、本発明の中空糸膜層積層体の製造方法で用いられる装置を示す図である。図10は、本発明の中空糸膜層積層体の製造方法で用いられる装置を示す図である。図11は、中空糸膜層積層体の製造過程における中空糸膜の固定状態を示す図である。図12は、図7または図8に示す中空糸膜束を切断する工程を順に示す図である。図13は、本発明の中空糸膜層積層体の製造方法での巻回工程を示す展開図であって、(a)が、1層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図、(b)が、2層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図、(c)が、3層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図である。図14は、従来の中空糸膜層積層体の製造方法での巻回工程を示す展開図であって、(a)が、1層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図、(b)が、2層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図、(c)が、3層目の中空糸膜層を形成する際の巻き方を示す図である。図15は、(a)が、従来の中空糸膜層積層体の部分横断面図であり、(b)が、図1に示す中空糸膜積層体の部分横断面図である。
【0017】
なお、図1図3図4図7図10図12図14中の左側を「左」または「左方(一方)」、右側を「右」または「右方(他方)」という。また、図1図6中、人工肺の内側を「血液流入側」または「上流側」、外側を「血液流出側」または「下流側」として説明する。
【0018】
図1図5に示す人工肺10は、全体形状がほぼ円柱状をなしている。この人工肺10は、内側に設けられ、血液に対し熱交換を行う熱交換部10Bと、熱交換部10Bの外周側に設けられ、血液に対しガス交換を行うガス交換部としての人工肺部10Aとを備える熱交換器付き人工肺である。人工肺10は、例えば血液体外循環回路中に設置して用いられる。
【0019】
人工肺10は、ハウジング2Aを有しており、このハウジング2A内に人工肺部10Aと熱交換部10Bとが収納されている。
【0020】
ハウジング2Aは、円筒状ハウジング本体21Aと、円筒状ハウジング本体21Aの左端開口を封止する皿状の第1の蓋体22Aと、円筒状ハウジング本体21Aの右端開口を封止する皿状の第2の蓋体23Aとで構成されている。
【0021】
円筒状ハウジング本体21A、第1の蓋体22Aおよび第2の蓋体23Aは、樹脂材料で構成されている。円筒状ハウジング本体21Aに対し、第1の蓋体22Aおよび第2の蓋体23Aは、融着や接着剤による接着等の方法により固着されている。
【0022】
円筒状ハウジング本体21Aの外周部には、管状の血液流出ポート28が形成されている。この血液流出ポート28は、円筒状ハウジング本体21Aの外周面のほぼ接線方向に向かって突出している(図5参照)。
【0023】
円筒状ハウジング本体21Aの外周部には、管状のパージポート205が突出形成されている。パージポート205は、その中心軸が円筒状ハウジング本体21Aの中心軸と交差するように、円筒状ハウジング本体21Aの外周部に形成されている。
【0024】
第1の蓋体22Aには、管状のガス流出ポート27が突出形成されている。ガス流出ポート27は、その中心軸が第1の蓋体22Aの中心と交差するように、第1の蓋体22Aの外周部に形成されている(図2参照)。
【0025】
また、血液流入ポート201は、その中心軸が第1の蓋体22Aの中心に対し偏心するように、第1の蓋体22Aの端面から突出している。
【0026】
第2の蓋体23Aには、管状のガス流入ポート26、熱媒体流入ポート202および熱媒体流出ポート203が突出形成されている。ガス流入ポート26は、第2の蓋体23Aの端面の縁部に形成されている。熱媒体流入ポート202および熱媒体流出ポート203は、それぞれ、第2の蓋体23Aの端面のほぼ中央部に形成されている。また、熱媒体流入ポート202および熱媒体流出ポート203の中心軸は、それぞれ、第2の蓋体23Aの中心軸に対してやや傾斜している。
【0027】
なお、本発明において、ハウジング2Aの全体形状は、必ずしも完全な円柱状をなしている必要はなく、例えば一部が欠損している形状、異形部分が付加された形状などでもよい。
【0028】
図3図5に示すように、ハウジング2Aの内部には、その内周面に沿った円筒状をなす人工肺部10Aが収納されている。人工肺部10Aは、円筒状の中空糸膜層積層体3Aと、中空糸膜層積層体3Aの外周側に設けられた気泡除去手段4Aとしてのフィルタ部材41Aとで構成されている。中空糸膜層積層体3Aとフィルタ部材41Aとは、血液流入側から、中空糸膜層積層体3A、フィルタ部材41Aの順に配置されている。
【0029】
また、人工肺部10Aの内側には、その内周面に沿った円筒状をなす熱交換部10Bが設置されている。熱交換部10Bは、中空糸膜層積層体3Bを有している。
【0030】
図6に示すように、中空糸膜層積層体3Aおよび3Bは、それぞれ、複数本の中空糸膜31で構成され、これらの中空糸膜31を層状に集積して積層させてなるものである。積層数は、特に限定されないが、例えば、2層以上、40層以下であるが好ましい。なお、中空糸膜層積層体3Aの各中空糸膜31は、それぞれ、ガス交換機能を有するものである。一方、中空糸膜層積層体3Bの各中空糸膜31は、それぞれ、熱交換を行なう機能を有するものである。
【0031】
図3に示すように、中空糸膜層積層体3Aおよび3Bは、それぞれ、その両端部が隔壁8および9により円筒状ハウジング本体21Aの内面に対し一括して固定されている。隔壁8および9は、例えば、ポリウレタン、シリコーンゴム等のポッティング材や接着剤等により構成されている。さらに、中空糸膜層積層体3Bは、その内周部が、第1の円筒部材241の外周部に形成された凹凸部244に係合している。この係合と隔壁8および9による固定により、中空糸膜層積層体3Bが円筒状ハウジング本体21Aに確実に固定され、よって、人工肺10の使用中に中空糸膜層積層体3Bの位置ズレが生じるのを確実に防止することができる。また、凹凸部244は、中空糸膜層積層体3B全体に血液Bを巡らせるための流路としても機能する。
【0032】
なお、図5に示すように、中空糸膜層積層体3Aの最大外径φD1maxは、20mm以上、200mm以下であるのが好ましく、40mm以上、150mm以下であるのがより好ましい。中空糸膜層積層体3Bの最大外径φD2maxは、10mm以上、150mm以下であるのが好ましく、20mm以上、100mm以下であるのがより好ましい。また、図3に示すように、中空糸膜層積層体3Aおよび3Bの中心軸方向に沿った長さLは、30mm以上、250mm以下であるのが好ましく、50mm以上、200mm以下であるのがより好ましい。このような条件を有することにより、中空糸膜層積層体3Aは、ガス交換機能に優れたものとなり、中空糸膜層積層体3Bは、熱交換機能に優れたものとなる。
【0033】
ハウジング2A内の隔壁8と隔壁9との間における各中空糸膜31の外側、すなわち、中空糸膜31同士の隙間には、血液Bが図6中の上側から下側に向かって流れる血液流路33が形成されている。
【0034】
血液流路33の上流側には、血液流入ポート201から流入した血液Bの血液流入部として、血液流入ポート201に連通する血液流入側空間24Aが形成されている(図3図5参照)。
【0035】
血液流入側空間24Aは、円筒状をなす第1の円筒部材241と、第1の円筒部材241の内側に配置され、その内周部の一部に対向して配置された板片242とで画成された空間である。そして、血液流入側空間24Aに流入した血液Bは、第1の円筒部材241に形成された複数の側孔243を介して、血液流路33全体にわたって流下することができる。
【0036】
また、第1の円筒部材241の内側には、当該第1の円筒部材241と同心的に配置された第2の円筒部材245が配置されている。そして、図3に示すように、熱媒体流入ポート202から流入した例えば水等の熱媒体Hは、第1の円筒部材241の外周側にある中空糸膜層積層体3Bの各中空糸膜31の流路(中空部)32、第2の円筒部材245の内側を順に通過して、熱媒体流出ポート203から排出される。また、熱媒体Hが各中空糸膜31の流路32を通過する際に、血液流路33内で、当該中空糸膜31に接する血液Bとの間で熱交換(加温または冷却)が行われる。
【0037】
血液流路33の下流側においては、血液流路33を流れる血液B中に存在する気泡を捕捉する機能を有するフィルタ部材41Aが配置されている。
【0038】
フィルタ部材41Aは、ほぼ長方形をなすシート状の部材(以下単に「シート」とも言う)で構成され、そのシートを中空糸膜層積層体3Aの外周に沿って巻回して形成したものである。フィルタ部材41Aも、両端部がそれぞれ隔壁8および9で固着されており、これにより、ハウジング2Aに対し固定されている(図3参照)。なお、このフィルタ部材41Aは、その内周面が中空糸膜層積層体3Aの外周面に接して設けられ、該外周面のほぼ全面を覆っているのが好ましい。
【0039】
また、フィルタ部材41Aは、血液流路33を流れる血液中に気泡が存在していたとしても、その気泡を捕捉することができる(図6参照)。また、フィルタ部材41Aにより捕捉された気泡は、血流によって、フィルタ部材41A近傍の各中空糸膜31内に押し込まれて入り込み、その結果、血液流路33から除去される。
【0040】
また、フィルタ部材41Aの外周面と円筒状ハウジング本体21Aの内周面との間には、円筒状の隙間が形成され、この隙間は、血液流出側空間25Aを形成している。この血液流出側空間25Aと、血液流出側空間25Aに連通する血液流出ポート28とで、血液流出部が構成される。血液流出部は、血液流出側空間25Aを有することにより、フィルタ部材41Aを透過した血液Bが血液流出ポート28に向かって流れる空間が確保され、血液Bを円滑に排出することができる。
【0041】
図3に示すように、第1の蓋体22Aの内側には、円環状をなすリブ291が突出形成されている。そして、第1の蓋体22Aとリブ291と隔壁8により、第1の部屋221aが画成されている。この第1の部屋221aは、ガスGが流出するガス流出室である。中空糸膜層積層体3Aの各中空糸膜31の左端開口は、第1の部屋221aに開放し、連通している。人工肺10では、ガス流出ポート27および第1の部屋221aによりガス流出部が構成される。一方、第2の蓋体23Aの内側にも、円環状をなすリブ292が突出形成されている。そして、第2の蓋体23Aとリブ292と隔壁9とにより、第2の部屋231aが画成されている。この第2の部屋231aは、ガスGが流入してくるガス流入室である。中空糸膜層積層体3Aの各中空糸膜31の右端開口は、第2の部屋231aに開放し、連通している。人工肺10では、ガス流入ポート26および第2の部屋231aによりガス流入部が構成される。
【0042】
ここで、本実施形態の人工肺10における血液の流れについて説明する。
この人工肺10では、血液流入ポート201から流入した血液Bは、血液流入側空間24A、側孔243を順に通過して、熱交換部10Bに流れ込む。熱交換部10Bでは、血液Bは、血液流路33を下流方向に向かって流れつつ、熱交換部10Bの各中空糸膜31の表面と接触して熱交換(加温または冷却)がなされる。このようにして熱交換がなされた血液Bは、人工肺部10Aに流入する。
【0043】
そして、人工肺部10Aでは、血液Bは、血液流路33をさらに下流方向に向かって流れる。一方、ガス流入ポート26から供給されたガス(酸素を含む気体)は、第2の部屋231aから人工肺部10Aの各中空糸膜31の流路32に分配され、該流路32を流れた後、第1の部屋221aに集積され、ガス流出ポート27より排出される。血液流路33を流れる血液Bは、人工肺部10Aの各中空糸膜31の表面に接触し、流路32を流れるガスGとの間でガス交換、すなわち、酸素加、脱炭酸ガスがなされる。
【0044】
ガス交換がなされた血液B中に気泡が混入している場合、この気泡は、フィルタ部材41Aにより捕捉され、フィルタ部材41Aの下流側に流出するのが防止される。
【0045】
以上のようにして熱交換、ガス交換が順になされ、さらに気泡が除去された血液Bは、血液流出ポート28より流出する。
【0046】
前述したように、中空糸膜層積層体3Aおよび中空糸膜層積層体3Bは、いずれも、複数本の中空糸膜31で構成されたものである。中空糸膜層積層体3Aと中空糸膜層積層体3Bとは、用途、材質(樹脂の微細構造等)、寸法の範囲等がそれぞれ異なる。また、本発明は、後述するが、熱交換部を構成する中空糸膜層積層体3Bに対して特に有効である。そのため、以下、中空糸膜層積層体3Bについて代表的に説明する。
【0047】
中空糸膜31の内径φdは、50μm以上、700μm以下であるのが好ましく、70μm以上、600μm以下であるのがより好ましい(図6参照)。中空糸膜31の外径φdは、300μm以上、1000μm以下であるのが好ましく、400μm以上、900μm以下であるのがより好ましい(図6参照)。これにより、後述するような本発明の効果が顕著に得られる。
【0048】
さらに、内径φdと外径φdとの比d/dは、0.5以上、0.9以下であるのが好ましく、0.6以上、0.85以下であるのがより好ましい。このような条件を有する各中空糸膜31では、自身の強度を保ちつつ、当該中空糸膜31の中空部である流路32にガスGを流すときの圧力損失を比較的小さくすることができるとともに、その他、中空糸膜31の巻回状態を維持するのに寄与する。例えば、内径φdが前記上限値よりも大きいと、中空糸膜31の厚さが薄くなり、他の条件によっては、強度が低下する。また、内径φdが前記下限値よりも小さいと、他の条件によっては、中空糸膜31にガスGを流すときの圧力損失が大きくなる。
【0049】
また、隣り合う中空糸膜31同士の離間距離は、50μm以上、300μm以下であるあるのが好ましく、100μm以上、250μm以下であるのがより好ましい。これにより、後述するような本発明の効果が顕著に得られる。
【0050】
このような中空糸膜31の製造方法は、特に限定されないが、例えば、押出成形を用いた方法や、その他、延伸法または固液相分離法を用いた方法が挙げられる。この方法により、所定の内径φdおよび外径φdを有する中空糸膜31を製造することができる。
【0051】
各中空糸膜31の構成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルペンテン、ポリアミド等の疎水性高分子材料が用いられ、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくは、ポリプロピレンである。このような樹脂材料を選択することは、中空糸膜31の巻回状態を維持するのに寄与するともに、製造時の低コスト化にも寄与する。
【0052】
そして、中空糸膜層積層体3Bは、このような複数本の中空糸膜31を集積して、全体形状として円筒体の形状をなすように巻回した母材3’から得られる。この母材3’は、本発明の製造方法の製造途中で製造されるものである。
【0053】
本製造方法は、中空糸膜層積層体3Bの製造のみならず、それよりも後に中空糸膜層積層体3Aの製造を行ない、人工肺10が完成するまでの工程も含むことができ、第1の工程と、第2の工程と、第3の工程と、第4の工程と、第5の工程と、第6の工程とを有している。次に、これについて説明する。
【0054】
[1]第1の工程(巻回工程)
第1の工程は、図7に示すように、複数本の中空糸膜31を全体形状として円筒体の形状をなすように巻回する巻回工程であり、これにより、母材(一次母材)3’を得る。なお、図7中(図12についても同様)では、1本の中空糸膜31が代表的に描かれている。
【0055】
この第1の工程では、図9図10に示す巻回装置60を用いる。巻回装置60は、筒状コア回転手段601と、ワインダ装置602と、固定装置600とを備える。
【0056】
筒状コア回転手段601は、モータ603と、モータシャフト604と、モータシャフト604に固定されたコア取付部材605を備える。人工肺10の一部である第1の円筒部材241は、コア取付部材605に取り付けられ、モータ603により回転される。
【0057】
ワインダ装置602は、内部に中空糸膜31を収納する収納部を備える本体部606と、中空糸膜31を吐出するとともに本体部606の軸方向(図9中の矢印M1方向)に移動する吐出部705を備えている。さらに、本体部606は、リニアレール607上を移動するリニアテーブル608およびボールナット部材704に固定されている。ボールナット部材704は、モータ703が駆動して、ボールネジシャフト609が回転することにより、本体部606の軸方向と平行に移動可能となっている。モータ703は、正逆回転可能であり、図示しないコントローラにより、駆動が調整される。
【0058】
固定装置600は、第1の円筒部材241に巻回された中空糸膜31を固定用糸(線状体)11で固定する装置である。固定装置600は、右側に配置された第1の繰出機構701Aと、左側に配置された第2の繰出機構701Bと、吐出機構702とを備えている。
【0059】
第1の繰出機構701Aは、吐出機構702に対し、図9中(図10についても同様)の右端側に向かって固定用糸11を繰り出す機構である。また、第2の繰出機構701Bは、吐出機構702に対し、図9中の左端側に向かって固定用糸11を繰り出す機構である。第1の繰出機構701Aと第2の繰出機構701Bとは、配置箇所が異なること以外は、同じ構成であるため、以下、第1の繰出機構701Aについて代表的に説明する。
【0060】
第1の繰出機構701Aは、固定用糸11が予め巻回されたボビン113を回転可能に支持する支持部708と、固定用糸11に張力を付与するテンショナ709と、テンショナ709を付勢するコイルバネ801と、固定用糸11の有無を検出する検出センサ802とを有している。
【0061】
支持部708は、固定用糸11の搬送方向最上流側に配置されている。なお、支持部708は、ボビン113とともに回転してもよいし、固定されていてもよい。
【0062】
テンショナ709は、支持部708に対して固定用糸11の搬送方向下流に配置されたローラである。このテンショナ709に固定用糸11の途中を掛け回すことにより、当該固定用糸11に張力を付与することができる。
【0063】
コイルバネ801は、テンショナ709の中心部をその中心軸方向に沿って付勢することができる。固定用糸11は、繰り出されながら揺動して弛緩しそうになるが、コイルバネ801がテンショナ709ごと固定用糸11を付勢することにより、その揺動の程度によらず、確実に張力が付与される。
【0064】
検出センサ802は、テンショナ709に対して固定用糸11の搬送方向下流に配置された、すなわち、テンショナ709と吐出機構702との間に配置されたセンサである。検出センサ802としては、特に限定されず、例えば、力覚センサ等を用いることができる。この検出センサ802により、例えば中空糸膜31の固定中に固定用糸11が使い切られたり、不本意に切断してしまったりした場合、その状態を確実に検出することができる。
【0065】
吐出機構702は、第1の繰出機構701Aから繰り出された固定用糸11と、第2の繰出機構701Bから繰り出された固定用糸11とをそれぞれ独立して、コア取付部材605上の第1の円筒部材241に向かって吐出する機構である。吐出機構702は、各固定用糸11をそれぞれ引張り出す(引き出す)本体部706と、第1の円筒部材241の両端部に向かってそれぞれ固定用糸11を吐出する吐出部707とを有している。そして、中空糸膜31に対して固定用糸11による固定を行なうときには、吐出部707から吐出された固定用糸11が、回転中の第1の円筒部材241上にある中空糸膜31に巻き付けられ、その固定がなされる(図11参照)。固定後は、その固定に供された固定用糸11が、例えばはさみやカッター等(図示せず)によって固定装置600から切断される。固定用糸11の切断部は、例えば、粘着テープや、超音波融着により固定される。
【0066】
なお、固定用糸11は、可撓性を有し、例えば、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6-12、ナイロン6-66)、ポリエステル(例:ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリブチレンテレフタレート)等のような熱可塑性樹脂で構成されている。これにより、固定に適した張力で中空糸膜31を固定することができる。また、固定用糸11の構成材料としては、熱可塑性樹脂の他に、ステンレス鋼等のような金属材料を用いてもよい。
【0067】
また、図11に示すように、固定用糸11の外径は、中空糸膜31の外径よりも細いのが好ましい。これにより、巻回数が増加した場合でも、母材3’の両端部の外径の増加を抑制することができると言う利点がある。
【0068】
以上のような構成の巻回装置60を用いて第1の工程を行なう。以下では、1本の中空糸膜31について代表的に説明する。
【0069】
図7図10に示すように、第1の工程では、中空糸膜31を第1の円筒部材241(円筒体)の中心軸O回りに巻回しつつ、中心軸O方向に往復動させる。その際、中空糸膜31は、中心軸O方向の左側の始点311から巻回が開始され、右側に向かう。右側では、中空糸膜31は、折り返し点(折り返し部)312で折り返される。その後、中空糸膜31は、再度左側に戻って終点313に至る。
【0070】
なお、本明細書中では、周方向に1周巻回する間に往復動に要した片道の数を分母にして、周方向に1周巻回したことを表す1を分子にして得た値をワインド比と言う。「周方向に1周巻回」とは、図7(b)、図8(b)、図13および図14に示す展開図において、上辺300Aから下辺300Bまで中空糸膜31が巻かれることを言う。また、「1往復」とは、図7(b)、図8(b)、図13および図14に示す展開図において、中空糸が左辺300Cから巻かれ始めて右辺300Dに至り、再度、左辺300Cに至ることを言う。
【0071】
例えば図7に示す巻回態様では、中空糸膜31は、矢印i→ii→iii→iv→vの順に巻回されていく。図7に示す巻回態様では、中空糸膜31を、周方向に1周巻回する間に、中心軸O方向に1往復動したこととなり、ワインド比=0.5となる。すなわち、ワインド比=0.5の時、片道の数は2となる。また、図8に示す巻回態様では、中空糸膜31は、矢印i→ii→iii→iv→v→vi→viiの順に巻回されていく。図8に示す巻回態様では、中空糸膜31を、周方向に1周巻回する間に、中心軸O方向に0.5往復動したこととなり、ワインド比=1となる。すなわち、ワインド比=1の時、片道の数は1となる。
【0072】
また、中空糸膜31は、始点311、折り返し点312、終点313を経由して一往復しており、その往復は、連続的に複数回繰り返される(図13参照)。これにより、円筒状の中空糸膜層が形成され、該中空糸膜層が複数層積層されてなる中空糸膜層積層体3B(母材3’)が形成される。また、中空糸膜31を第1の円筒部材241に向けて連続的に供給することにより、中空糸膜層積層体3B(母材3’)の製造を迅速に行なうことができ、製造時間を短縮して、コストを抑えることができる。
【0073】
なお、図7図8では、理解を容易にするため、ワインド比=0.5の場合と、ワインド比=1の場合とを例に挙げて説明したが、これらの場合、巻回された隣り合う中空糸膜31のそれぞれが重ならないように、実際は、各中空糸膜31が円筒体の中心軸O方向に所定距離を離間するように増速率zが設定され、中心軸O方向および周方向に隣り合う中空糸膜31の離間距離(以下、単に「離間距離」とも言う)が決定する。このことについては、後に詳述する。なお、増速率zは円筒体の中心軸O方向に隣り合う中空糸膜間の距離(ピッチ)をトラバースの往復距離で除算した値を言う。
【0074】
また、図7図8のいずれの巻回態様でも、中空糸膜31は、中心軸Oに対して傾斜角度(綾角)θで傾斜することとなる。そして、傾斜角度θが小さければ小さいほど、中空糸膜31の折り返し点312での固定が必要になる。
【0075】
図11に示すように、中空糸膜31は、折り返し点312で折り返す際に、その都度、折り返し点312付近が固定される。この固定は、巻回装置60の固定装置600から供給された固定用糸11を中心軸O回りに巻回しつつ、前記折り返し点312付近に重ねることにより行なわれる。これにより、中空糸膜31は、傾斜角度θの大小によらず折り返し点312で折り返して、安定して確実に巻回する。また、その巻回状態も維持されることとなる。なお、後述するように、この固定用糸11は、母材3’ではそのまま残るが、中空糸膜層積層体3Bでは除去される。
【0076】
前述したように、固定用糸11には、テンショナ709によって張力が付与されている。これにより、固定用糸11は、張力が作用した状態で中空糸膜31の固定を行なうことができる。このような固定は、中空糸膜31を過不足なく固定するのに寄与する。
【0077】
また、図11に示すように、第1の工程では、1つの折り返し点312に対して、1本の固定用糸11で固定している。なお、このような固定態様に限定されず、例えば、巻回される固定用糸11の糸張力によっては、1つの折り返し点312に対して、複数の固定用糸11で固定することもできる。
【0078】
図10に示すように、巻回装置60では、コア取付部材605上の第1の円筒部材241を中心軸O方向(矢印M2)に沿って移動させることができ、この移動に連動して(同期して)吐出機構702を中心軸O方向(矢印M3)に沿って移動させることができる。このような構成により、製造されつつある母材3’(中空糸膜層積層体3B)全体を中心軸O方向に沿って移動させ、その移動に固定用糸11を追従させる(横行させる)ことができる。これにより、例えば図11(b)に示すように、先発の折り返し点312aを固定した固定用糸11に隣接して、後発の折り返し点312bを固定した固定用糸11を並べて配置することができる。このような配置により、母材3’は、その両端部でそれぞれ外径が漸増して、全体形状がつづみ状をなってしまうのを防止することができる。すなわち、母材3’は、外径が中心軸Oに沿って一定のものとなる。また、中空糸膜31同士が交差した交差部が、他の交差部に重なってしまうのも防止することができる。なお、巻回装置60では、矢印M2、M3方向への移動は、M1方向への移動と独立している。
【0079】
また、巻回装置60は、固定用糸11を中空糸膜層積層体3Bの製造が完了するまで切断せずに用いるよう構成されている。これにより、例えば折り返し点312を1箇所固定するごとに固定用糸11を切断する場合に比べて、母材3’の製造を迅速に行なうことができ、製造時間の短縮が図られる。
【0080】
また、第1の工程では、折り返し点312に接着剤を塗布したり、粘着テープを貼付してもよい。これにより、固定用糸11による固定を補助することができる。
【0081】
[2]第2の工程(巻回工程)
第2の工程は、母材3’上に、中空糸膜層積層体3Aとなる中空糸膜31をさらに巻回する巻回工程である。これにより、図12(a)に示すような二次母材3’’が得られる。
【0082】
この第2の工程では、巻回装置60がそのまま用いられ、第1の工程と同様の巻回態様で中空糸膜31を巻回する。
【0083】
第2の工程が完了した後、二次母材3’’を第1の円筒部材241ごと巻回装置60から取り外す。
【0084】
[3]第3の工程(収納工程)
第3の工程は、二次母材3’’にフィルタ部材41Aを巻き付けて固定し、当該二次母材3’’を第1の円筒部材241とともに円筒状ハウジング本体21Aに収納する収納工程である。
【0085】
[4]第4の工程(固定工程)
第4の工程は、二次母材3’’を円筒状ハウジング本体21Aに対し固定する固定工程である。二次母材3’’の固定には、ポッティング材50が用いられ、当該ポッティング材50は、隔壁8および9となる。
【0086】
この固定を行なうには、まず、円筒状ハウジング本体21A内の二次母材3’’の両端部に向けて、ポッティング材50の構成材料である液状のポリウレタンを供給する。次いで、円筒状ハウジング本体21Aごと遠心分離器にかけ、その後、液状のポリウレタンを乾燥させる。これにより、二次母材3’’の両端部がポッティング材50で固定された状態となる(図12(a)参照)。なお、二次母材3’’の両端部には、第1の工程で固定用糸11により固定された折り返し点312や、始点311、終点313も含まれている。
【0087】
[5]第5の工程(切断工程)
第5の工程は、図12に示すように、ポッティング材50で固定された二次母材3’’の両端部をそれぞれ切断する切断工程である。これにより、人工肺10に用いられる中空糸膜層積層体3Aおよび中空糸膜層積層体3Bが一括して得られる。
【0088】
この第5の工程では、図12に示す切断装置90を用いる。切断装置90は、2つのカッター(刃物)901を有する。そして、各カッター901を二次母材3’’に接近させることにより、当該二次母材3’’の両端部が切断される。なお、切断装置90としては、カッター901を有する構成のものに限定されず、例えば、ウォータージェットを噴射する構成のもの、レーザ光を照射する構成のものであってもよい。
【0089】
図12(a)に示すように、二次母材3’’のポッティング材50で固定された部分のうち、左端部では、固定用糸11よりも右側の部分に第1の切断線351を設定し、右端部でも、固定用糸11よりも左側の部分に第2の切断線352を設定する。
【0090】
そして、切断装置90のカッター901を用いて、二次母材3’’を第1の切断線351、第2の切断線352に沿って切断する。これにより、図12(b)に示すように、二次母材3’’は、3つの部材に分割され、中央に位置する部材が中空糸膜層積層体3Aおよび中空糸膜層積層体3Bとなる。なお、両端の部材は、それぞれ、破棄される。
【0091】
また、この切断により、中空糸膜層積層体3B(中空糸膜層積層体3Aについても同様)は、折り返し点312が固定用糸11ごと除去されたものとなる。これにより、中空糸膜層積層体3Bを構成する各中空糸膜31の両端がそれぞれ開口し、当該中空糸膜31内を熱媒体Hが通過することができる。なお、中空糸膜層積層体3Aでは、各中空糸膜31内をガスGが通過することができる。
【0092】
[6]第6の工程(装着工程)
第6の工程は、円筒状ハウジング本体21Aに第1の蓋体22A、第2の蓋体23Aをそれぞれ装着する装着工程である。
【0093】
この装着を行なうことにより、人工肺10が得られる。なお、装着後、例えば接着剤等により、第1の蓋体22A、第2の蓋体23Aをそれぞれ円筒状ハウジング本体21Aに固定してもよい。
【0094】
さて、従来の中空糸膜層積層体では、等ピッチで中空糸膜31を巻回しても、円筒体の径方向の外側の層に行くに従って、離間距離dが漸増していた。例えば、図15(b)に示すように、中空糸膜層積層体が、中空糸膜層31B’、中空糸膜層32B’、中空糸膜層33B’、中空糸膜層34B’および中空糸膜層35B’が、円筒体の内側から順に積層された5層構造であった場合、中空糸膜層31B’での離間距離d1’よりも中空糸膜層32B’での離間距離d2’の方が大きい。また、中空糸膜層32B’での離間距離d2’よりも中空糸膜層33B’での離間距離d3’の方が大きい。中空糸膜層33B’での離間距離d3’よりも中空糸膜層34B’での離間距離d4’の方が大きい。中空糸膜層34B’での離間距離d4’よりも中空糸膜層35B’での離間距離d5’の方が大きい。このように、円筒体の径方向の内側から外側に向かうにつれて、離間距離d1’、離間距離d2’、離間距離d3’、離間距離d4’および離間距離d5’は、徐々に大きくなる。
【0095】
なお、ここで言う「ピッチ」とは、円筒体の中心軸方向における隣り合う中空糸膜31のそれぞれの中心軸間の距離のことを言い、次に述べる「中空糸膜31の離間距離」とは異なる。また、ここで言う「離間距離」とは、円筒体の中心軸方向および周方向に隣り合う中空糸膜31間の最短距離のことを言い、中空糸膜31の中心軸と直交する直線に沿った距離のことを言う(以下、同様)。なお、離間距離は、隣り合う中空糸膜のそれぞれの中心軸間の距離から隣り合う中空糸膜がそれぞれ有する半径の長さの和を引くことで算出される。上記のように離間距離d1’~d5’が漸増していくのは、中空糸膜層31B’~35B’を形成するに際し、増速率zを一定としているためである。以下、このことについて、図14に示す展開図を用いて詳細に説明する。
【0096】
まず、図14(a)に示すように、中空糸膜31を増速率z=z’で巻回していく。なお、各中空糸膜層32B’~35B ’を形成する際においても、中空糸膜31を増速率z=z’で巻回していく。1巻目の中空糸膜31は、展開図における上辺300A上の角部から開始し、右辺300Dの途中で折り返し、さらに左辺300Cの途中で折り返し、下辺300Bに到達する。そして、2巻目は、上辺300Aにおいて、1巻目の終点313a’の左辺300Cからの距離が同じ位置から開始される。そして、3巻目は、上辺300Aにおいて、2巻目の終点313b’の左辺300Cからの距離が同じ位置から開始される。このように、1巻目の終点313a’の左辺300Cからの距離がピッチP1’となり、このP1’は、後述する増速率zによって決定する。また、中空糸膜層31B’における中空糸膜間の離間距離d1’は、円筒体の中心軸方向および周方向に隣り合う中空糸膜31間の最短距離として図14(a)に図示されており、後述する離間距離dとピッチの関係式(1)より導かれる。
【0097】
なお、4巻目以降も前記と同様にして巻回することにより、中空糸膜層31B’が形成される。
【0098】
次いで、中空糸膜層31B’上に中空糸膜層32B’を形成、積層する。また、中空糸膜層32B’を積層する際、ピッチ=P2’で中空糸膜31を巻回していく。このP2’は、P1’と同じである。これは、中空糸膜層32B’において中空糸膜31を中空糸膜層31B’と同様の増速率z=z’で巻回するためである。この際、中空糸膜層31B’上に巻回する分、図14(b)に示すように、中空糸膜31を巻き付ける対象の円筒体の外径が大きくなる。すなわち、展開図における左辺300Cおよび右辺300Dが、図14(a)よりも長くなる。このため、中空糸膜31を増速率z=z’で巻回していくと、中空糸膜層31B’において巻回された中空糸膜31の綾角θ1’に比べて中空糸膜層32B’において巻回された中空糸膜31の綾角θ2’の方が大きくなる。その結果、中空糸膜層32B’における離間距離d2’は、中空糸膜層31B’における離間距離d1’よりも大きくなる。
【0099】
さらに、図14(c)に示すように、中空糸膜層33B’を形成すると、前記と同様に中空糸膜層32B’において巻回された中空糸膜31の綾角θ2’に比べて中空糸膜層33B’において巻回された中空糸膜31の綾角θ3’の方が大きくなる。よって、中空糸膜層33B’における離間距離d3’は、中空糸膜層32B’における離間距離d2’よりも大きくなる。なお、中空糸膜層33B’を積層する際、ピッチ=P3’で中空糸膜31を巻回していく。このP3’は、P1’、P2’と同じである。
【0100】
このように、円筒体の径方向の内側から外側に行くに連れて、離間距離d1’、離間距離d2’、離間距離d3’、離間距離d4’および離間距離d5’は、徐々に大きくなる。これは、離間距離dとピッチとの間に下記式(1)が成立するためである。
【0101】
d=P×sinθ-φ・・・(1)
なお、Pはピッチ、θは綾角(円筒体の中心軸に対する中空糸膜の傾斜角度)、φは中空糸膜の直径をそれぞれ指す。φは中空糸膜層積層体の形成のために適宜選択する中空糸膜の直径である。すなわち、φは一定値である。図14に示すように、円筒体の径方向の内側の中空糸膜層から外側の中空糸膜層に行くに連れて、θは増加していく。そのため、ピッチを一定にした場合、中空糸膜層31B’のsinθよりも中空糸膜層32B’のsinθの方が大きくなるため、中空糸膜層31B’における離間距離d1’よりも中空糸膜層32B’における離間距離d2’の方が大きくなる。なお、中空糸膜層32B’よりも外側に積層される複数の中空糸膜層における離間距離dが増加する根拠も上記式(1)を用いて同様に説明することができる。
【0102】
この離間距離d1’~d5’の増大によって、円筒体の最内層に設けられる中空糸膜層31B’における離間距離d1’を最適な距離に設定しても、円筒体の径方向の外側に行くに連れ、中空糸膜層31B’よりも外層の各中空糸膜層における離間距離が最適な離間距離よりも大きくなってしまう。また、円筒体の最外層に設けられる中空糸膜層35B’における離間距離d5’を最適な離間距離にしようとすると、中空糸膜層35B’よりも内層の各中空糸膜層における離間距離が最適な離間距離よりも小さくなってしまう。前者の場合、血液充填量が大きくなってしまい、患者への負担が大きくなる。さらに、熱交換部表面に接触せずに流れる血液の割合が大きくなることにより、十分な熱交換性能が得られない恐れもある。一方、後者の場合、初期充填時に隣り合う中空糸膜31の間に気泡が残存した状態となる可能性や、血液流路の圧力損失が必要以上に大きくなる可能性がある。
【0103】
とりわけ、中空糸膜層積層体を用いた熱交換部においては、多孔質中空糸膜を積層した人工肺部よりも内層に配置される事が知られており、これにより円筒形を成す熱交換部の内径は人工肺部に比べて相対的に小さくなり、同じ厚み分中空糸膜層を積層した際、熱交換部の径方向の直径の変動率は人工肺部の直径の変動率よりも大きくなる。さらに、熱交換部に用いられる中空糸膜は、人工肺部に用いられる中空糸膜に比して直径が大きい傾向にある。これは、熱交換部用の中空糸膜の内側に循環する熱媒体が水などの液体であるため、中空糸膜の内側にガスを吹送する人工肺部の中空糸膜よりも、熱交換部の中空糸膜の内側の流路抵抗を低減する必要があるためである。これにより、中空糸膜層31B’における離間距離d1’と中空糸膜層35B’における離間距離d5’の差分は、人工肺部のそれよりも大きくなる。すなわち、中空糸膜の離間距離が最適な離間距離よりも小さく、もしくは大きくなることによる前述の不具合は、熱交換部において特に顕著である。従って、熱交換部において、円筒体の径方向の内側から外側に向けて複数層積層される各中空糸膜層における中空糸膜の最適な離間距離を維持するためには、熱交換部の特性を考慮して中空糸膜を巻き付けなければならず、人工肺部における中空糸膜の巻き方よりも精密な制御が必要になる。
【0104】
本発明によれば、特に熱交換部におけるこのような不具合が生じるのを好適に防止することができる。以下、このことについて図13(a)~(c)を参照して説明する。なお、以下で説明する方法により形成される中空糸膜層積層体3Bは、中空糸膜層31B、中空糸膜層32B、中空糸膜層33B、中空糸膜層34Bおよび中空糸膜層35Bが円筒体の径方向の内側から外側に向かって積層された5層構造のものとする。
【0105】
まず、図13(a)に示すように、中空糸膜31を増速率z=z1で巻回していく。1巻目の中空糸膜31は、展開図における上辺300A上の左の角部から開始し、右辺300Dの途中で折り返し、さらに左辺300Cの途中で折り返し、下辺300Bに到達する。そして、2巻目は、上辺300Aにおいて、1巻目の終点313aの左辺300Cからの距離が同じ位置から開始される。そして、3巻目は、上辺300Aにおいて、2巻目の終点313bの左辺300Cからの距離が同じ位置から開始される。このように、1巻目の終点313aの左辺300Cからの距離がピッチP1となり、このピッチP1は、増速率zによって決定する。すなわち、ピッチP(N)は、下記式(2)で表わすことができる。
【0106】
【数1】

なお、TXは、往復幅、すなわち、図13(a)~(c)の上辺300Aおよび下辺300Bのそれぞれの長さの和のことを言う。
【0107】
そして、4巻目以降も前記と同様にして巻回することにより、中空糸膜層31Bが形成される。
【0108】
次いで、図13(b)に示すように、中空糸膜層31B上に中空糸膜31を巻回していき、中空糸膜層32Bを形成、積層する。この際、前記と同様に、中空糸膜層31B上に巻回する分、図13(b)に示すように、中空糸膜31を巻き付ける対象の円筒体の外径が大きくなる。すなわち、展開図における左辺300Cおよび右辺300Dが、図13(a)よりも長くなる。そこで、本発明では、中空糸膜層32Bを形成する際には、増速率zを増速率z1よりも小さい増速率z2で巻回していく。これにより、展開図における左辺300Cおよび右辺300Dが、図13(a)よりも長くなるにも関わらず、1巻目の終点313cの位置が、中空糸膜層31Bを形成する際の1巻目の終点313aの位置よりも図中左側にすることができる。よって、2巻目の始点313dの位置を、中空糸膜層31Bを形成する際の2巻目の始点313eの位置よりも図中左側にすることができる。その結果、ピッチP2は、ピッチP1よりも小さくなる。このことは、3巻目以降も同様である。
【0109】
次いで、図13(c)に示すように、中空糸膜層32B上に中空糸膜31を巻回していき、中空糸膜層33Bを形成、積層する。この際、前記と同様に、中空糸膜層32B上に巻回する分、図13(c)に示すように、中空糸膜31を巻き付ける対象の円筒体の外径が大きくなる。すなわち、展開図における左辺300Cおよび右辺300Dが、図13(b)よりも長くなる。本発明では、中空糸膜層33Bを形成する際には、増速率の絶対値zを増速率z2よりも小さい増速率z3で巻回していく。これにより、展開図における左辺300Cおよび右辺300Dが、図13(b)よりも長くなるにも関わらず、1巻目の終点313fの位置が、中空糸膜層32Bを形成する際の1巻目の終点313cの位置よりも図中左側にすることができる。よって、2巻目の始点313gの位置を、中空糸膜層32Bを形成する際の2巻目の始点313dの位置よりも図中左側にすることができる。その結果、ピッチP3は、ピッチP2よりも小さくなる。このことは、3巻目以降も同様である。
【0110】
なお、図示はしていないが、中空糸膜層34Bを形成する際には、増速率zを増速率z3よりも小さい増速率z4とし、中空糸膜層35Bを形成する際には、増速率の絶対値zを増速率z4よりも小さい増速率z5とする。
【0111】
このように、円筒体の径方向の外側の中空糸膜層に行くに連れて、巻き付ける対象の円筒体の外径が徐々に大きくなることに伴い、各中空糸膜層の増速率の絶対値zを小さくする。これにより、外側に行くに連れて、ピッチを小さくすることができる。これは、円筒体の径方向の内側から外側に向かうに連れて、各中空糸膜層の綾角θ1、θ2、θ3が大きくなることに逆らって、ピッチを小さくすることで、円筒体の径方向の内側から外側に向かうにつれて、各中空糸膜層において式(1)で与えられる離間距離dの変化を抑えることを意味する。よって、従来のように円筒体の径方向の外側の中空糸膜層に行くに連れて中空糸膜31の離間距離が増大してしまうのを防止することができる。よって、図15(b)に示すように、離間距離d1~d5を略同じにすることができる。その結果、前述したような、血液充填量が大きくなってしまい、患者への負担が大きくなるのを防止することができるとともに、隣り合う中空糸膜31の間に気泡が残存した状態となるのを防止することができる。
【0112】
このような増速率z1~z5は、以下の式(3)および式(4)を用いて決定することができる。
【0113】
1層目、すなわち、中空糸膜層31Bにおける離間距離d1は、以下の式(3)で表すことができる。
【0114】
【数2】

なお、TXは、往復幅、すなわち、図13(a)~(c)の上辺300Aおよび下辺300Bの長さのことを言う。Dは、巻き付ける円筒体の直径のことを言う。φは、中空糸膜31の外径(φd1)のことを言う。
【0115】
また、N層目(Nは、正の整数)の中空糸膜層における離間距離d(N)は、以下の式(4)で表すことができる。
【0116】
【数3】

なお、Nは、巻き付けられている層の総数のことを言う。例えば、中空糸膜層31Bを形成する際には、N=0であり、中空糸膜層32Bを形成する際には、N=1となる。
【0117】
d=d(N)となると仮定した場合、式(3)および式(4)に基づいて、増速率zが導き出され、すなわち、増速率z1~z5が決定する。例えば、N=0を代入することにより、増速率z1が導き出され、N=1を代入することにより、増速率z2が導き出される。
【0118】
なお、増速率z1~z5は、一定の割合で小さくなっている、すなわち、一定の漸減率で小さくなっているのが好ましい。これにより、離間距離d1~d5の変動を効果的に抑制することができ、本発明の効果を確実に得ることができる。
【0119】
また、増速率zの漸減率、すなわち、円筒体の径方向に隣り合う2つの中空糸膜層における増速率zの差Δzは、内側の中空糸膜層の増速率zの0.4%以上、1.1%以下であるのが好ましく、0.4%以上、0.5%以下であるのがより好ましい。これにより、離間距離d1~d5の変動を効果的に抑制することができ、本発明の効果を確実に得ることができる。
【0120】
以上説明したような製造方法により得られた中空糸膜層積層体3Bでは、離間距離d1~d5は、同じであってもよく、異なっていてもよいが、中空糸膜層積層体3Bの最内層から最外層に亘って円筒体の中心軸方向および周方向に隣り合う中空糸膜の離間距離の変動率が20%以下であれば本発明の効果を得ることができる。すなわち、離間距離d1と離間距離d2との比d1/d2、離間距離d1と離間距離d3との比d1/d3、離間距離d1と離間距離d4との比d1/d4、離間距離d1と離間距離d5との比d1/d5は、0.8以上、1.2以下であればよい。離間距離が上記条件を満たす時、円筒体の最内層に設けられる中空糸膜層における円筒体の周方向に隣り合う中空糸膜の離間距離と、最内層に設けられる中空糸膜層よりも円筒体の径方向の外側に複数層積層される各中空糸膜層における円筒体の周方向に隣り合う中空糸膜の離間距離との比が実質的に同一であると言える。
【0121】
これにより、中空糸膜層積層体の最内層と最外層のそれぞれにおける中空糸膜の離間距離の差分が、人工肺のそれに比べて大きくなる熱交換部に対して、中空糸膜層積層体3Bの最内層から最外層に亘って円筒体の中心軸方向および周方向に隣り合う中空糸膜の離間距離を、最適値の0.8倍以上、1.2倍以下の範囲に収めることができ、血液充填量、熱交換性能、血液流路の圧力損失を適正に保ち、かつ、気泡残りの低減を確実に図ることができる。
【0122】
また、上記では、第1の工程、すなわち、中空糸膜層積層体3Bを製造する工程を代表的に説明したが、本発明は、第2の工程、すなわち、中空糸膜層積層体3Aを製造する工程においても適用することができるのは言うまでもない。本発明によれば、従来のように円筒体の外側の中空糸膜層に行くに連れて中空糸膜の離間距離が過剰に増大してしまうのを防止することができる。よって、中空糸膜層積層体3Aを構成する人工肺部に関しても前述したような、血液充填量が大きくなってしまい、患者への負担が大きくなるのを防止することができる。
【0123】
なお、上記では、5層構造の中空糸膜層積層体を例に挙げて説明したが、2層~4層構造、または、6層構造以上のものであっても本発明を適応することができるのは言うまでもない。
【0124】
以上、本発明の中空糸膜層積層体を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の中空糸膜層積層体は、他の任意の構造物を有していてもよい。
【0125】
また、人工肺部の中空糸膜層積層体を構成する各中空糸膜と、熱交換部の中空糸膜層積層体を構成する各中空糸膜とは、前記実施形態では同じものであったが、これに限定されず、例えば、一方(前者)の中空糸膜が他方(後者)の中空糸膜よりも細くてもよいし、双方の中空糸膜が互いに異なる材料で構成されていてもよい。
【0126】
また、人工肺部と熱交換部とは、前記実施形態では熱交換部が内側に配置され、人工肺部が外側に配置されていたが、これに限定されず、人工肺部が内側に配置され、熱交換部が外側に配置されていてもよい。この場合、血液は、外側から内側に向かって流下する。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の中空糸膜層積層体は、複数本の中空糸膜を有し、該複数本の中空糸膜で構成された中空糸膜層が複数層積層された積層体で構成され、全体形状として円筒体の形状をなす中空糸膜層積層体であって、複数の前記中空糸膜層は、前記円筒体の径方向に積層され、複数本の前記中空糸膜は、前記円筒体の軸方向に前記中空糸膜のそれぞれが所定距離離間して、前記円筒体の中心軸に対して傾斜して、かつ、前記円筒体の中心軸回りに巻回されており、前記円筒体の最内層に設けられる前記中空糸膜層における前記円筒体の軸方向および周方向に隣り合う前記中空糸膜の離間距離と、最内層に設けられる前記中空糸膜層よりも前記円筒体の径方向の外側に複数層積層される前記各中空糸膜層における前記円筒体の軸方向および周方向に隣り合う前記中空糸膜の離間距離との比が実質的に同一であることを特徴とする。そのため、血液の充填量を抑制することができるとともに、中空糸膜同士の間に気泡が残存することおよび血液流路の圧力損失が必要以上に大きくなることを防止することができる。従って、本発明の中空糸膜層積層体は、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0128】
10 人工肺
10A 人工肺部
10B 熱交換部
2A ハウジング
201 血液流入ポート
202 熱媒体流入ポート
203 熱媒体流出ポート
205 パージポート
21A 円筒状ハウジング本体
22A 第1の蓋体
221a 第1の部屋
23A 第2の蓋体
231a 第2の部屋
24A 血液流入側空間
241 第1の円筒部材
242 板片
243 側孔
244 凹凸部
245 第2の円筒部材
25A 血液流出側空間
26 ガス流入ポート
27 ガス流出ポート
28 血液流出ポート
291 リブ
292 リブ
3' 母材
3'' 二次母材
3A 中空糸膜層積層体
3B 中空糸膜層積層体
31 中空糸膜
31B 中空糸膜層
31B' 中空糸膜層
32 流路
32B 中空糸膜層
32B' 中空糸膜層
33 血液流路
33B 中空糸膜層
33B' 中空糸膜層
34B 中空糸膜層
34B' 中空糸膜層
35B 中空糸膜層
35B' 中空糸膜層
351 第1の切断線
352 第2の切断線
300A 上辺
300B 下辺
300C 左辺
300D 右辺
311 始点
312 折り返し点
312a 折り返し点
312b 折り返し点
313 終点
313a 終点
313b 終点
313b' 終点
313c 終点
313d 始点
313e 始点
313f 終点
313g 始点
4A 気泡除去手段
41A フィルタ部材
8 隔壁
9 隔壁
11 固定用糸
113 ボビン
50 ポッティング材
60 巻回装置
600 固定装置
601 筒状コア回転手段
602 ワインダ装置
603 モータ
604 モータシャフト
605 コア取付部材
606 本体部
607 リニアレール
608 リニアテーブル
609 ボールネジシャフト
701A 第1の繰出機構
701B 第2の繰出機構
702 吐出機構
703 モータ
704 ボールナット部材
705 吐出部
706 本体部
707 吐出部
708 支持部
709 テンショナ
801 コイルバネ
802 検出センサ
90 切断装置
901 カッター
B 血液
G ガス
H 熱媒体
O 中心軸
d 離間距離
d1 離間距離
d1' 離間距離
d2 離間距離
d2' 離間距離
d3 離間距離
d3' 離間距離
d4 離間距離
d4' 離間距離
d5 離間距離
d5' 離間距離
P1 ピッチ
P2 ピッチ
P3 ピッチ
P1' ピッチ
P2' ピッチ
P3' ピッチ
z 増速率
z’ 増速率
z1 増速率
z2 増速率
z3 増速率
z4 増速率
z5 増速率
θ 傾斜角度(綾角)
θ1 綾角
θ2 綾角
θ3 綾角
θ1' 綾角
θ2' 綾角
θ3' 綾角
φD1max 最大外径
φD2max 最大外径
φd1 内径
φd2 外径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15