(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】遺伝子改変免疫不全非ヒト動物における改良されたヒト赤血球生存に関連する方法および組成物
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20220905BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220905BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220905BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220905BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220905BHJP
C12N 15/38 20060101ALN20220905BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N5/10
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N15/12
C12N15/38
(21)【出願番号】P 2019507122
(86)(22)【出願日】2017-08-11
(86)【国際出願番号】 US2017046566
(87)【国際公開番号】W WO2018031920
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-08-05
(32)【優先日】2016-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】398066918
【氏名又は名称】ザ ジャクソン ラボラトリー
【氏名又は名称原語表記】THE JACKSON LABORATORY
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ, レオナルド ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ワイルズ, マイケル ブイ.
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-512872(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0157470(US,A1)
【文献】Future Microbiol,Vol.7, No.5,2012年,p.657-665
【文献】The Journal of Immunology,Vol.174,2005年,p.6477-6489
【文献】Cancer Research,Vol.40,1980年,p.3934-3939
【文献】BLOOD,Vol.100, No.9,2002年,p.3175-3182
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lyst
null免疫不全マウスである、マクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損している、遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項2】
ベージュ変異Lyst
bgについてホモ接合であるNOD.Cg-Prkdc
scidIl2rg
tm1Wjl/SzJマウスである、マクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損している、遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項3】
ベージュ変異Lyst
bgについてホモ接合であるNOD.Cg-Rag1
tm1MomIl2rg
tm1Wjl/SzJマウスである、マクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損している、遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項4】
NOD.Cg-Prkdc
scidIl2rg
tm1Wjl/Lyst
em1Mvw/Szマウスである、マクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損している、遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項5】
NOD.Cg-Prkdc
scidCd47
tm1FplIl2rg
tm1WjlTg(CD47)2Sz/Szマウスである、マクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損している、遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項6】
遺伝子改変免疫不全マウスであって、前記マウスが、単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼをコードする導入遺伝子を含み、ヌクレオシドアナログと組み合わせると前記マウスのマクロファージを欠損させる単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼタンパク質を発現する、前記遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項7】
前記ヌクレオシドアナログが、ガンシクロビル、アシクロビルおよびその組み合わせから選択される、請求項6に記載の遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項8】
前記遺伝子改変免疫不全マウスの前記ゲノムにおいてLyst遺伝子のエキソン5からの25bp配列:GAGCCGGTAGCTTTGGTTCAACGGA(配列番号1)の欠失を含む、請求項1に記載の遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項9】
ヒト赤血球をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項10】
ヒト造血細胞をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項11】
ヒト赤血球が感染因子
に感染している、請求項
9または10に記載の遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項12】
前記感染因子が、プラスモディウム属寄生生物である、請求項11に記載の遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項13】
前記感染因子が、
熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum
)、
卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale
)、
三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax
)、または
四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae
)である、請求項11または12に記載の遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項14】
前記ヒト赤血球が、個々のヒトまたはヒト個体の集団に由来しており、前記個々のヒトまたはヒト個体の集団が鎌状赤血球貧血を有する、請求項
9~13のいずれか一項に記載の遺伝子改変免疫不全マウス。
【請求項15】
想定される治療剤の効果をアッセイする方法であって、
請求項9~14のいずれか一項に記載の遺伝子改変免疫不全マウスに、所定量の前記想定される治療剤を投与するステップ、および前記想定される治療剤の効果を測定するステップ
を包含する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援
本発明は、アメリカ国立衛生研究所によって授与された補助金番号第R24 ODO18259のもとの政府支援により行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の参照
本願は、2016年8月11日に出願された米国仮特許出願第62/373,671号の優先権を主張し、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0003】
本開示の一般的態様は、免疫不全遺伝子改変動物におけるヒト赤血球の評価のための方法および組成物に関する。具体的な態様では、免疫不全遺伝子改変マウスにおけるヒト赤血球の評価のための方法および組成物が提供される。
【背景技術】
【0004】
世界中の多くの人々、特にアフリカ系出身者が、マラリア、鎌状赤血球貧血および再生不良性貧血などの血液障害に罹っている。現在では、32億人がマラリア伝染のリスクがある地域で暮らしており、300万人が鎌状赤血球形質を有する(CDC2016年)。これらのおよび他の血液障害の先進的処置は限られており、想定される医薬治療法および他の処置のアッセイのための非ヒト動物モデルの必要性が引き続き存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物であって、そのゲノムが、前記非ヒト動物に投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記非ヒト動物のマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含む、動物が提供される。
【0006】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスであって、そのゲノムが、マウスに投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含む遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。
【0007】
本発明の態様によれば、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスであって、そのゲノムが、マウスに投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含む遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスが提供される。
【0008】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物であって、そのゲノムが、非ヒト動物に投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記非ヒト動物のマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含み、ここで遺伝子改変は、非ヒト動物が機能的リソソーム輸送レギュレーター(lysosomal trafficking regulator)タンパク質を発現せず、非ヒト動物のマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようなリソソーム輸送レギュレーター(Lyst)遺伝子の変異である、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物が提供される。
【0009】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスであって、そのゲノムが、マウスに投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含み、ここで遺伝子改変は、マウスが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようなマウスリソソーム輸送レギュレーター遺伝子の変異である、遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。
【0010】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスであって、そのゲノムが、マウスに投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含み、ここで遺伝子改変は、マウスが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようなマウスリソソーム輸送レギュレーター遺伝子の変異であり、ここで変異は、遺伝子改変免疫不全マウスのゲノムにおいてLyst遺伝子のエキソン5からの25bp配列:GAGCCGGTAGCTTTGGTTCAACGGA(配列番号1)の欠失を含む、遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。
【0011】
本発明の態様によれば、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスであって、そのゲノムが、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGに投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含み、ここで遺伝子改変は、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようなマウスリソソーム輸送レギュレーター(Lyst)遺伝子の変異である、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスが提供される。
【0012】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスは、Lystnull免疫不全マウスである。
【0013】
本発明の態様によれば、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスはLystnullNSG、NRG、またはNOGマウスである。
【0014】
本発明の態様によれば、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスは、ベージュ(beige)変異Lystbgについてホモ接合であるNSG、NRG、またはNOGマウスである。
【0015】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスは、ベージュ変異Lystbgについてホモ接合であるNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJマウスである。
【0016】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスは、ベージュ変異Lystbgについてホモ接合であるNOD.Cg-Rag1tm1MomIl2rgtm1Wjl/SzJマウスである。
【0017】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスは、ベージュ変異Lystbgについてホモ接合であるNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug/JicTacマウスである。
【0018】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスは、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/Lyst<em1Mvw>/Sz(NSG Lystノックアウト)マウスである。
【0019】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物であって、そのゲノムが、非ヒト動物に投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記非ヒト動物のマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含み、ここで遺伝子改変は、非ヒト動物がヒトCD47タンパク質を発現するようにヒトCD47をコードする導入遺伝子を含み、内因性CD47が発現されず、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物のマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようにその内因性CD47遺伝子の変異をさらに含む、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物が提供される。
【0020】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスであって、そのゲノムが、遺伝子改変免疫不全マウスに投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含み、ここで遺伝子改変は、マウスがヒトCD47タンパク質を発現するようにヒトCD47をコードする導入遺伝子を含み、さらに、マウスCD47が発現されず、遺伝子改変免疫不全マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようにマウスCD47遺伝子の変異を含む、遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。
【0021】
本発明の態様によれば、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスであって、そのゲノムが、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスに投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記NSG、NRG、またはNOGのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含み、ここで遺伝子改変は、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスがヒトCD47タンパク質を発現するようにヒトCD47をコードする導入遺伝子を含み、さらに、マウスCD47が発現されず、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようにマウスCD47遺伝子の変異を含む、遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスが提供される。
【0022】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスは、NOD.Cg-Prkdc<scid>Cd47<tm1Fpl>Il2rg<tm1Wjl>Tg(CD47)2Sz/Sz(NSG Cd47 KOヒトCD47Tg)マウスである。
【0023】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物であって、そのゲノムが、非ヒト動物に投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記非ヒト動物のマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含み、ここで遺伝子改変は、マウスが、ヌクレオシドアナログと組み合わせると非ヒト動物のマクロファージを欠損させる単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼタンパク質を発現するように、単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼをコードする導入遺伝子を含む、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物が提供される。
【0024】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスであって、そのゲノムが、遺伝子改変免疫不全マウスに投与されたときのヒト赤血球の生存が延長されるように、前記遺伝子改変免疫不全マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含み、ここで遺伝子改変は、遺伝子改変免疫不全マウスが、ヌクレオシドアナログと組み合わせると遺伝子改変免疫不全マウスのマクロファージを欠損させる単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼタンパク質を発現するように、単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼをコードする導入遺伝子を含む、遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。ガンシクロビル、アシクロビルまたはその組み合わせなどのヌクレオシドアナログを使用することが可能である。
【0025】
本発明の遺伝子改変免疫不全非ヒト動物は、腹腔内(IP)または静脈内(IV)投与などにより、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物の血液系に投与されるヒト赤血球をさらに含む。
【0026】
本発明の遺伝子改変免疫不全マウスは、腹腔内(IP)または静脈内(IV)投与などにより、遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球をさらに含む。
【0027】
任意選択で、ヒト造血細胞(HSC)は、遺伝子改変免疫不全マウスにおいてヒト赤血球が生成されるように、本発明の遺伝子改変免疫不全マウスに投与される。
【0028】
ヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスなどの免疫不全非ヒト動物よりも、本発明の遺伝子改変免疫不全マウスなどの遺伝子改変免疫不全非ヒト動物において長く生存する。例えば、ヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まないNSG、NRG、またはNOGマウスよりも、本発明の遺伝子改変NSG、NRG、またはNOGマウスにおいて長く生存する。
【0029】
任意選択で、本発明の遺伝子改変免疫不全マウスなどの、本発明の遺伝子改変免疫不全非ヒト動物に存在するヒト赤血球は、感染因子に感染している。
【0030】
任意選択で、ヒト赤血球に感染可能な感染因子は、本発明の遺伝子改変免疫不全マウスなどの、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物に投与される。特定の態様によれば、感染因子は、Plasmodium falciparum(P.falciparum)、Plasmodium ovale(P.ovale)、Plasmodium vivax(P.vivax)、またはPlasmodium malariae(P.malariae)などのプラスモディウム属寄生生物である。
【0031】
任意選択で、本発明の遺伝子改変免疫不全マウスなどの、本発明の遺伝子改変免疫不全非ヒト動物に投与されるヒト赤血球は、個々のヒトまたはヒト個体の集団に由来しており、個々のヒトまたはヒト個体の集団は鎌状赤血球貧血を有する。
【0032】
本発明の態様によれば、想定される治療剤の効果をアッセイする方法であって、ヒト赤血球を含む本発明の遺伝子改変免疫不全非ヒト動物に、所定量の想定される治療剤を投与すること、および想定される治療剤の効果を測定することを含む方法が提供される。
【0033】
本発明の態様によれば、想定される治療剤の効果をアッセイする方法であって、ヒト赤血球を含む本発明の遺伝子改変免疫不全マウスに、所定量の想定される治療剤を投与すること、および想定される治療剤の効果を測定することを含む方法が提供される。
【0034】
ある特定の遺伝子改変免疫不全マウス系統について使用される略語:
MD1:NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/Lyst<em1Mvw>/Sz(マウスLyst遺伝子からの配列番号1の欠失によりLystがノックアウトされたNSGマウス系統)
MD2:NSG CD47 KO Tg(hCD47)(マウスCD47がノックアウトされヒトCD47をコードする導入遺伝子を含むNSGマウス系統)
MD3:NSG CSF1r-HTK(CSF1rプロモーターがヘルペスチミジンキナーゼの発現を駆動する導入遺伝子を含むNSGマウス系統)
MD4:B6.129S-Rag1<tm1Mom>CD47 KO Il2rg<tm1Wjl>/Sz(マウスIL2rgがノックアウトされマウスCD47がノックアウトされたBL/6マウス系統で、BL/6 Rag1nullCD47 KO IL2rgnullとも呼ばれる)
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、NSG対照マウスと比較したNSG Lyst(MD1)ノックアウト(KO)マウスでのヒト赤血球(RBC)の生存を示し、ヒト赤血球の投与後24時間で免疫不全遺伝子改変マウスにおいて生き延びたヒト赤血球の数に2倍の増加があることを実証するグラフである。
【0036】
【
図2】
図2は、NSG対照マウスと比較したNSG HSV-1-tkトランスジェニック(Tg)マウスからの結果を示し、ヒト赤血球の投与後24時間までに免疫不全遺伝子改変マウスにおいて生き延びたヒト赤血球の数が有意に高いことを実証するグラフである。
【0037】
【
図3】
図3は、NSG対照マウスと比較したBL/6 RagガンマMD4マウスからの結果を示すグラフである。
【0038】
【
図4】
図4は、NSG対照マウスと比較したNSG MD2マウスからの結果を示し、ヒト赤血球の投与後24時間での免疫不全遺伝子改変マウスにおいて生き延びたヒト赤血球の数の増加が2倍よりも多く、ヒト赤血球の投与後48、72および96時間でのNSG対照マウスと比較したNSG MD2マウスにおける有意に多い数でのヒト赤血球の生存を実証するグラフである。
【0039】
【
図5】
図5は、NSG対照マウスと比較した本発明のいくつかの異なる遺伝子改変免疫不全系統におけるヒトRBC生存を比較した結果を示し、NSG対照マウスと比較した免疫不全遺伝子改変MD1およびMD2マウスにおいて生き延びたヒト赤血球の数の増加を実証するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書で使用される科学用語および専門用語は、当業者が一般に理解している意味を有することが意図されている。そのような用語は、J. SambrookおよびD.W. Russell、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press;第3版、2001年;F.M. Ausubel編、Short Protocols in Molecular Biology、Current Protocols;第5版、2002年;B. Albertsら、Molecular Biology of the Cell、第4版、Garland、2002年;D.L. NelsonおよびM.M. Cox、Lehninger Principles of Biochemistry、第4版、W.H. Freeman & Company、2004年;A. Nagy、M. Gertsenstein、K. Vintersten、R. Behringer、Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press;2002年12月15日、ISBN-10: 0879695919;Kursad Turksen(編)、Embryonic stem cells: methods and protocols in Methods Mol Biol.、2002年;185巻、Humana Press;Current Protocols in Stem Cell Biology、ISBN: 9780470151808;Chu, E.およびDevita, V.T.編、Physicians’ Cancer Chemotherapy Drug Manual、Jones & Bartlett Publishers、2005年;J.M. Kirkwoodら編、Current Cancer Therapeutics、第4版、Current Medicine Group、2001年;Remington: The Science and Practice of Pharmacy、Lippincott Williams & Wilkins、第21版、2005年;L.V. Allen, Jr.ら、Ansel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems、第8版、Philadelphia、PA: Lippincott、Williams & Wilkins、2004年;ならびにL. Bruntonら、Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、McGraw-Hill Professional、第12版、2011年を例示的に含む種々の標準参考文献において定義され、文脈中で使用されていることが見出される。
【0041】
単数の用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、そうではないことが明確に述べられていない限り、または文脈からそうではないことが明白に示されていない限り、限定的であることを意図しておらず、複数の指示物を含む。
【0042】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物であって、そのゲノムが、非ヒト動物のマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含む、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物が提供される。遺伝子改変免疫不全非ヒト動物は、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全非ヒト動物の血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全非ヒト動物よりも、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物において長く生存する。
【0043】
用語「免疫不全非ヒト動物」は、T細胞およびB細胞などの機能的免疫細胞の欠如;DNA修復欠陥;リンパ球上の抗原特異的受容体をコードする遺伝子の再配列の欠陥;ならびにIgM、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3およびIgAなどの免疫機能分子の欠如のうちの1つまたは複数を特徴とする非ヒト動物を指す。
【0044】
本発明の態様によれば、本発明の態様に従って提供されるそのゲノムが非ヒト動物のマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含む遺伝子改変免疫不全非ヒト動物は、マウスである。一方で、本明細書の記載は主に、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物がマウスである本発明の態様に言及するが、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物は、ラット、スナネズミ、モルモット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ヒツジ、または非ヒト霊長類などの哺乳動物でも可能である。
【0045】
本明細書で使用される語句「遺伝子改変免疫不全マウス」は、そのゲノムが、免疫不全マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含む、免疫不全マウスを指す。
【0046】
語句「マクロファージを欠損する」は、免疫不全マウスのマクロファージを欠損させる遺伝子変異を持たない匹敵する免疫不全マウスに存在するマクロファージの数と比較して、マクロファージの数が低減していることを指す。
【0047】
用語「免疫不全マウス」は、T細胞およびB細胞などの機能的免疫細胞の欠如;DNA修復欠陥;リンパ球上の抗原特異的受容体をコードする遺伝子の再配列の欠陥;ならびにIgM、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3およびIgAなどの免疫機能分子の欠如のうちの1つまたは複数を特徴とするマウスを指す。免疫不全マウスは、Rag1およびRag2などの免疫機能に関与している遺伝子の1つまたは複数の欠陥を特徴とすることが可能である(Oettinger, M.Aら、Science、248巻:1517~1523頁、1990年;およびSchatz, D. G.ら、Cell、59巻:1035~1048頁、1989年)。免疫不全マウスは、マウスにおいて異常な免疫機能をもたらすこれらのまたは他の欠陥のいずれかを有していてもよい。
【0048】
特に有用な免疫不全マウス系統は、以下の通りである:NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/Szj、これは、NODscidガンマ(NSG)マウスと一般に呼ばれ、Shultz LDら、2005年、J. Immunol、174巻:6477~89頁に詳細に記載されている;NOD.Cg-Rag1tm1MomIl2rgtm1Wjl/Szj、Shultz LDら、2008年、Clin Exp Immunol 154巻(2号):270~84頁、NRGマウスと一般に呼ばれている;およびNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug/JicTac、これは、Ito, M.ら、Blood 100巻、3175~3182頁(2002年)に詳細に記載され、NOGマウスと一般に呼ばれている。
【0049】
用語「重症複合免疫不全(SCID)」は、T細胞の非存在およびB細胞機能の欠如を特徴とする状態を指す。
【0050】
SCIDの一般形態は、IL2RG遺伝子におけるガンマ鎖遺伝子変異およびリンパ球表現型T(-)B(+)NK(-)を特徴とするX連鎖SCID;ならびにJak3遺伝子変異およびリンパ球表現型T(-)B(+)NK(-)、ADA遺伝子変異およびリンパ球表現型T(-)B(-)NK(-)、IL-7Rアルファ鎖変異およびリンパ球表現型T(-)B(+)NK(+)、CD3デルタまたはエプシロン変異およびリンパ球表現型T(-)B(+)NK(+)、RAG1/RAG2変異およびリンパ球表現型T(-)B(-)NK(+)、アルテミス遺伝子変異およびリンパ球表現型T(-)B(-)NK(+)、CD45遺伝子変異およびリンパ球表現型T(-)B(+)NK(+)を特徴とする常染色体劣性SCIDを含む。
【0051】
さらなる態様では、遺伝子改変免疫不全マウスはDNA依存性タンパク質キナーゼ触媒サブユニット(Prkdc)をコードするその内因性遺伝子に欠陥を有し、それにより、マウスは欠陥内因性DNA依存性タンパク質キナーゼ触媒サブユニットおよび/もしくは減少した量の内因性DNA依存性タンパク質キナーゼ触媒サブユニットを発現する、またはマウスは内因性DNA依存性タンパク質キナーゼ触媒サブユニットを全く発現しないこともある。免疫不全マウスは任意選択で、機能的内因性Prkdc遺伝子を欠くように、Prkdc nullであり得る。
【0052】
本発明の態様による遺伝子改変マウスは、重症複合免疫不全変異(Prkdcscid)を有し、これは一般にscid変異と呼ばれる。scid変異は周知であり、Bosmaら、Immunogenetics 29巻:54~56頁、1989年に記載されるように、マウス第16染色体上に位置している。scid変異についてホモ接合であるマウスは、機能的T細胞およびB細胞の非存在、リンパ球減少症、低グロブリン血症および正常な造血性微小環境を特徴とする。scid変異は、例えば、PCRまたはフローサイトメトリーなどの周知の方法を使用して、scid変異についてのマーカーの検出により検出可能である。
【0053】
本発明の態様による遺伝子改変マウスは、IL2受容体ガンマ鎖欠損を有する。用語「IL2受容体ガンマ鎖欠損」は、減少したIL2受容体ガンマ鎖を指す。減少したIL2受容体ガンマ鎖は遺伝子欠失または変異に起因する可能性がある。減少したIL2受容体ガンマ鎖は、例えば、周知の方法を使用する、IL2受容体ガンマ鎖欠失もしくは変異の検出および/または減少したIL2受容体ガンマ鎖発現の検出により検出可能である。
【0054】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全NSGマウスであって、そのゲノムが、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含む、遺伝子改変免疫不全NSGマウスが提供される。
【0055】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全NRGマウスであって、そのゲノムが、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含む、遺伝子改変免疫不全NRGマウスが提供される。
【0056】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全NOGマウスであって、そのゲノムが、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含む、遺伝子改変免疫不全NOGマウスが提供される。
【0057】
マクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損する免疫不全マウスを生産する遺伝子改変
【0058】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスであって、遺伝子改変は、マウスが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、非ヒト動物のマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようなリソソーム輸送レギュレーター(Lyst)遺伝子の変異である、遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。遺伝子改変免疫不全非ヒト動物は本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全非ヒト動物の血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全非ヒト動物よりも、遺伝子改変免疫不全非ヒト動物において長く生存する。Lyst遺伝子はマウスのChr13:13590409-13777440bp、+鎖に位置しており、ヒト、チンパンジー、アカゲザル、イヌ、ウシ、ラット、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、およびカエルを含む数多くの種で保存されている。
【0059】
本発明の態様によれば、Lyst遺伝子座に1つまたは複数の自然に起こるまたは誘導された変異を有し、マウスが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0060】
本発明の態様によれば、Lyst遺伝子座のエキソン5に欠失を有し、マウスが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0061】
本発明の態様によれば、Lyst遺伝子座のエキソン5に25bpの欠失を有し、マウスが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。本発明の特定の態様によれば、25bpの欠失は、ヌクレオチド配列GAGCCGGTAGCTTTGGTTCAACGGA(配列番号1)を有する、Lyst遺伝子座のエキソン5のゲノムDNAの25bpのセグメントの欠失である。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0062】
本発明の態様によれば、マウスがLystnullであるように、Lyst遺伝子座に1つまたは複数の自然に起こるまたは誘導された変異を有し、マウスが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0063】
本発明の態様によれば、ベージュ変異Lystbgについてホモ接合であり、マウスが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。Lystbg再変異(remutation)(Lystbg-J)はジャクソンラボラトリー(Jackson Laboratory)でC57BL/6J系統において自然に起こった(J:5311)。この対立遺伝子はLystbgを用いた非相補的試験により定義される。これは、タンパク質のカルボキシ末端近くのコドン3741でイソロイシン欠失を引き起こすLystのエキソン54での3bp欠失の結果である。この欠失はWD40ドメインに影響を及ぼす。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0064】
本発明の態様によれば、ベージュ変異Lystbgについてホモ接合であり、マウスが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変免疫不全NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJマウスが提供される。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0065】
本発明の態様によれば、マウスが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変免疫不全NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/Lyst<em1Mvw>/Sz(NSG Lystノックアウト-MD1)マウスが提供される。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0066】
本発明の態様によれば、ベージュ変異Lystbgについてホモ接合であり、マウスが機能的リソソーム輸送レギュレータータンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変免疫不全NOD.Cg-Rag1tm1MomIl2rgtm1Wjl/SzJマウスが提供される。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0067】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスであって、遺伝子改変が、マウスがヒトCD47タンパク質を発現するようにヒトCD47をコードする導入遺伝子を含み、マウスが機能的マウスCD47タンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようにマウスのゲノムにマウスCD47遺伝子の変異をさらに含む、遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0068】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全NSGマウスであって、遺伝子改変が、マウスがヒトCD47タンパク質を発現するようにヒトCD47をコードする導入遺伝子を含み、マウスが機能的マウスCD47タンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようにマウスのゲノムにマウスCD47遺伝子の変異をさらに含む、遺伝子改変免疫不全NSGマウスが提供される。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0069】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全NRGマウスであって、遺伝子改変が、マウスがヒトCD47タンパク質を発現するようにヒトCD47をコードする導入遺伝子を含み、マウスが機能的マウスCD47タンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようにマウスのゲノムにマウスCD47遺伝子の変異をさらに含む、遺伝子改変免疫不全NRGマウスが提供される。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0070】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全NOGマウスであって、遺伝子改変が、マウスがヒトCD47タンパク質を発現するようにヒトCD47をコードする導入遺伝子を含み、マウスが機能的マウスCD47タンパク質を発現せず、マウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させるようにマウスのゲノムにマウスCD47遺伝子の変異をさらに含む、遺伝子改変免疫不全NOGマウスが提供される。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0071】
本発明の態様によれば、遺伝子改変免疫不全NOD.Cg-Prkdc<scid>Cd47<tm1Fpl>Il2rg<tm1Wjl>Tg(CD47)2Sz/Sz(NSG Cd47 KOヒトCD47Tg)マウスが提供される。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0072】
本発明の態様によれば、マウスが、ヌクレオシドアナログと組み合わせるとマウスのマクロファージを欠損させる単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼタンパク質を発現するように、遺伝子改変が単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼをコードする導入遺伝子を含む、遺伝子改変免疫不全マウスが提供される。単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼタンパク質と組み合わせた、マクロファージに毒性である任意のヌクレオシドアナログが使用可能であり、ガンシクロビル、アシクロビルまたはその組み合わせにより例示されるがこれらに限定されない。遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。遺伝子改変免疫不全マウスの血液系に投与されるヒト赤血球は、そのゲノムが遺伝子改変を含まない同じタイプの免疫不全マウスよりも、遺伝子改変免疫不全マウスにおいて長く生存する。
【0073】
種々の方法のいずれかを使用して、そのゲノムが遺伝子改変を含む、マウスなどの遺伝子改変免疫不全非ヒト動物を生産することが可能である。遺伝子改変は、これらに限定されないが、化学的変異誘発、照射、相同組換えおよびアンチセンスRNAのトランスジェニック発現などの遺伝子操作の標準的な方法を使用して生産される。そのような技法は当技術分野において周知であり、前核マイクロインジェクションおよび胚性幹細胞の形質転換をさらに含むがこれらに限定されない。そのゲノムが使用可能な破壊された遺伝子を含む遺伝子改変動物を生成するための方法は、J. P. SundbergおよびT. Ichiki編、Genetically Engineered Mice Handbook、CRC Press;2006年;M. H. HofkerおよびJ. van Deursen編、Transgenic Mouse Methods and Protocols、Humana Press、2002年;A. L. Joyner、Gene Targeting: A Practical Approach、Oxford University Press、2000年;Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press;2002年12月15日、ISBN-10: 0879695919;Kursad Turksen(編)、Embryonic stem cells: methods and protocols in Methods Mol Biol.、2002年、185巻、Humana Press;Current Protocols in Stem Cell Biology、ISBN: 978047015180;Meyerら、PNAS USA、107巻(34号)、15022~15026頁に記載される方法を含むがこれらに限定されない。
【0074】
相同性ベースの組換え遺伝子改変戦略を使用して、外因性タンパク質(単数または複数)をコードする核酸、例えば、単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼをコードするヌクレオチド配列またはヒトCD47をコードするヌクレオチド配列を免疫不全マウスのゲノムに導入する「ノックイン」により免疫不全マウスを遺伝子改変することが可能である。同様に、相同性ベースの組換え遺伝子改変戦略を使用して、内因性タンパク質(単数または複数)をコードする遺伝子、例えば、マウスCD47またはマウスLystの「ノックアウト」または変異により免疫不全マウスを遺伝子改変することが可能である。
【0075】
相同性ベースの組換え遺伝子改変戦略は、ホーミングエンドヌクレアーゼ、インテグラーゼ、メガヌクレアーゼ、トランスポゾン、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を使用するヌクレアーゼ媒介プロセス、転写活性化因子様(TAL)、クラスター化した規則的配置の短い回文配列リピート(CRISPR)-Casを使用するアプローチ、またはショウジョウバエ組換え関連タンパク質(DRAP)アプローチなどの遺伝子編集アプローチを含む。例えば、Cerbiniら、PLoS One.、2015年;10巻(1号):e0116032頁;Shenら、PLoS ONE 8巻(10号):e77696頁;およびWangら、Protein & Cell、2016年2月、7巻、2号、152~156頁を参照されたい。
【0076】
ゲノム編集は、例えば、本明細書に記載されるおよびJ. P. SundbergおよびT. Ichiki編、Genetically Engineered Mice Handbook、CRC Press;2006年;M. H. HofkerおよびJ. van Deursen編、Transgenic Mouse Methods and Protocols、Humana Press、2002年;A. L. Joyner、Gene Targeting: A Practical Approach、Oxford University Press、2000年;Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press;2002年12月15日、ISBN-10: 0879695919;Kursad Turksen(編)、Embryonic stem cells: methods and protocols in Methods Mol Biol.、2002年;185巻、Humana Press;Current Protocols in Stem Cell Biology、ISBN: 978047015180;Meyerら、PNAS USA、2010年、107巻(34号)、15022~15026頁;ならびにDoudna, J.ら(編)CRISPR-Cas: A Laboratory Manual、2016年、CSHPに詳述される方法により実施される。いくつかのゲノム編集技法の簡単な説明が本明細書に記載されている。
【0077】
マウスの遺伝子改変のためのヌクレアーゼ技法
【0078】
これに限定されないが、ヌクレアーゼ遺伝子編集技法などの遺伝子改変方法、例えば、ホーミングエンドヌクレアーゼ、インテグラーゼ、メガヌクレアーゼ、トランスポゾン、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を使用するヌクレアーゼ媒介プロセス、転写活性化因子様(TAL)、クラスター化した規則的配置の短い回文配列リピート(CRISPR)-Cas、またはショウジョウバエ組換え関連タンパク質(DRAP)を使用する方法を使用して、所望のDNA配列をゲノムの所定の標的部位に導入することが可能である。手短に言えば、使用可能である遺伝子改変方法は、ES細胞、iPS細胞、体細胞、受精卵母細胞または胚中に標的化TALEN、ZFN、CRISPRまたはDRAPをコードするRNA分子および少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを導入し、次に所望の遺伝子改変を有するES細胞、iPS細胞、体細胞、受精卵母細胞または胚を選択することを含む。
【0079】
例えば、所望の核酸配列を、これらに限定されないが、CRISPR法、TAL(転写活性化因子様エフェクター法)、ジンクフィンガー媒介ゲノム編集またはDRAPなどのヌクレアーゼ技法によりマウスのゲノムの所定の標的部位に導入して、そのゲノムが、プロモーターに作動可能に連結したヒトCD47または単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼタンパク質をコードする核酸を含む本発明の実施形態に従って提供される遺伝子改変マウスを生産することが可能であり、動物はコードされたヒトCD47または単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼタンパク質を発現する。
【0080】
本明細書で使用される場合、ヌクレアーゼ遺伝子編集技法の文脈における用語「標的部位」および「標的配列」は、染色体配列の編集されるべき部分を規定する核酸配列を指し、ヌクレアーゼは、結合に十分な条件が存在すればそれを認識して結合するように操作される。
【0081】
CRISPR-Casシステム
【0082】
CRISPR(クラスター化した規則的配置の短い回文配列リピート)は、配列決定された細菌のおよそ40%および配列決定された古細菌の90%のゲノム中に見出され、外来DNAエレメントに対する抵抗性を与える複数の短いダイレクトリピートを含有する遺伝子座である。Horvath、2010年、Science、327巻:167~170頁;Barrangouら、2007年、Science、315巻、1709~1712頁;およびMakarovaら、2011年、Nature Reviews Microbiology.、9巻:467~477頁を参照されたい。
【0083】
CRISPRリピートはサイズが24から48塩基対に及ぶ。このリピートは通常、ある程度の二回転対称性(dyad symmetry)を示し、ヘアピンなどの二次構造の形成を意味するが、真の回文配列ではない。CRISPRリピートは類似の長さのスペーサーにより分離されている。
【0084】
CRISPR関連(cas)遺伝子はCRISPRリピートスペーサーアレイに関連することが多い。40を上回る異なるCasタンパク質ファミリーが記載されてきた(Haftら、2005年、PLoS Comput Biol.、1巻(6号):e60頁)。cas遺伝子とリピート構造の特定の組み合わせを使用して8つのCRISPRサブタイプを定義し、その一部は、リピート関連ミステリアスタンパク質(repeat-associated mysterious protein)(RAMP)をコードする追加の遺伝子モジュールと関連している。
【0085】
異なる生物において多様なCRISPRシステムが存在し、最も単純なシステムの1つは、Streptococcus pyogenes由来のCRISPRシステムII型であり;Cas9タンパク質をコードする1つの遺伝子ならびに2つのRNA、すなわち、成熟CRISPR RNA(crRNA)および部分的相補性トランス作動性RNA(tracrRNA)だけが必要であり、外来DNAのRNAガイドサイレンシングに十分である(Gasiunasら、2012年、PNAS 109巻:E2579~E2586頁;Jinekら、2012年、Science 337巻:816~821頁)。crRNAの成熟にはtracrRNAおよびRNaseIIIが必要である(Deltchevaら、2011年、Nature 471巻:602~607頁)。しかし、この要件は、tracrRNA-crRNA複合体を模倣するデザインヘアピン(designed hairpin)を含有する操作されたスモールガイドRNA(sgRNA)を使用することにより迂回することが可能である(Jinekら、2012年、Science 337巻:816~821頁)。sgRNAと標的DNA間の塩基対合により、Cas9のエンドヌクレアーゼ活性に起因して二本鎖切断(DSB)が引き起こされる。結合特異性は、DNA相補領域に並置されたsgRNA-DNA塩基対合と短いDNAモチーフ(プロトスペーサー隣接モチーフ[PAM]配列:NGG)の両方により決定される(Marraffini & Sontheimer、2010年、Nature Reviews Genetics、11巻:181~190頁)。例えば、CRISPRシステムは最小セットの2つの分子、Cas9タンパク質とsgRNAが必要であり、したがって、宿主非依存性遺伝子標的化プラットホームとして使用可能である。Cas9/CRISPRは、標的化挿入などの、部位選択性RNAガイドゲノム編集に利用可能である。(例えば、Carroll、2012年、Molecular Therapy 20巻:1658~1660頁;Changら、2013年、Cell Research 23巻:465~472頁;Choら、2013年、Nature Biotechnol 31巻:230~232頁;Congら、2013年、Science 339巻:819~823頁;Hwangら、2013年、Nature Biotechnol 31巻:227~229頁;Jiangら、2013年、Nature Biotechnol 31巻:233~239頁;Maliら、2013年、Science 339巻:823~826頁;Qiら、2013年、Cell 152巻:1173~1183頁;Shenら、2013年、Cell Research 23巻:720~723頁;およびWangら、2013年、Cell 153巻:910~918頁を参照)。特に、Wangら、2013年、Cell 153巻:910~918頁は、CRISPR/Cas9システムをオリゴヌクレオチドと組み合わせて使用する標的化挿入を記載している。
【0086】
本発明の態様による遺伝子改変マウスの生成は、CRISPRにおいて使用するための、cas9をコードする発現構築物および標的化される遺伝子に特異的なガイドRNAをコードする発現構築物などの適切な核酸の、胚性幹(ES)細胞または誘導多能性幹(iPS)細胞などの着床前胚または幹細胞中への注入またはトランスフェクションを含むことができる。任意選択で、cas9およびガイドRNAは単一の発現構築物にコードされている。
【0087】
TAL(転写活性化因子様)エフェクター
【0088】
転写活性化因子様(TAL)エフェクターまたはTALE(転写活性化因子様エフェクター)は植物病原性細菌属キサントモナスに由来しており、これらのタンパク質は植物転写活性化因子を模倣しており、植物転写物を操作する。Kayら、2007年、Science、318巻:648~651頁を参照されたい。
【0089】
TALエフェクターは、タンデムリピートの集中化ドメインを含有し、それぞれのリピートがおよそ34アミノ酸を含有し、これらのアミノ酸はこれらのタンパク質のDNA結合特異性にとり極めて重要である。さらに、TALエフェクターは、核局在化配列および酸性転写活性化ドメインを含有する。概論は、Schornackら、2006年、J. Plant Physiol.、163巻(3号):256~272頁;ScholzeおよびBoch、2011年、Curr Opin Microbiol、14巻:47~53頁を参照されたい。
【0090】
TALエフェクターの特異性はタンデムリピートに見出される配列に依存している。繰り返し配列はおよそ102bpを含み、リピートは典型的には、互いに91~100%相同である(Bonasら、1989年、Mol Gen Genet 218巻:127~136頁)。リピートの多型性は通常、12位および13位に位置しており、12位および13位での超可変二残基の正体とTALエフェクター標的配列における隣接するヌクレオチドの正体との間には1対1の対応が存在すると思われる。MoscouおよびBogdanove、2009年、Science 326巻:1501頁;ならびにBochら、2009年、Science 326巻:1509~1512頁を参照されたい。2つの超可変残基はリピート可変二残基(RVD)として知られており、それによれば、1つのRVDはDNA配列の1つのヌクレオチドを認識し、それぞれのTALエフェクターのDNA結合ドメインが大きな認識部位(15~30nt)を極めて正確に標的化することができることを保証する。実験的には、これらのTALエフェクターのDNA認識のためのコードは、12位および13位でのHD配列がシトシン(C)への結合をもたらし、NGはTに結合し、NIはA、C、GまたはTに結合し、NNはAまたはGに結合し、IGはTに結合するように決定されている。これらのDNA結合リピートは、新しい組み合わせと多数のリピートを含むタンパク質に組立てられて、新しい配列と相互作用して植物細胞中でレポーター遺伝子の発現を活性化することができる人工的な転写因子を作製する(Bochら、2009年、Science 326巻:1509~1512頁)。これらのDNA結合ドメインは、すべての細胞型での標的化ゲノム編集または標的化遺伝子調節の分野で一般的な適用性を有することが明らかにされている。Gajら、Trends in Biotechnol、2013年、31巻(7号):397~405頁を参照されたい。さらに、操作されたTALエフェクターは、ヌクレアーゼなどの外因性機能的タンパク質エフェクタードメインと関連して機能することが示されており、このヌクレアーゼは天然のキサントモナスTALエフェクターまたは哺乳動物細胞中のタンパク質には天然には見出されない。TALヌクレアーゼ(TALNまたはTALEN)は、TALとヌクレアーゼ、例えば、N末端またはC末端のFokIヌクレアーゼドメインと組み合わせることにより構築することが可能である。Kimら、1996年、PNAS 93巻:1156~1160頁;Christianら、2010年、Genetics 186巻:757~761頁;Liら、2011年、Nucleic Acids Res 39巻:6315~6325頁;および Millerら、2011年、Nat Biotechnol 29巻:143~148頁。NHEJにより欠失を引き起こすTALENの機能性は、ラット、マウス、ゼブラフィッシュ、ツメガエル、メダカ、ラットおよびヒト細胞で示されている。Ansaiら、2013年、Genetics、193巻:739~749頁;Carlsonら、2012年、PNAS、109巻:17382~17387頁;Hockemeyerら、2011年、Nature Biotechnol.、29巻:731~734頁;Leiら、2012年、PNAS、109巻:17484~17489頁;Mooreら、2012年、PLoS ONE、7巻:e37877頁;Stroudら、2013年、J. Biol. Chem.、288巻:1685~1690頁;Sungら、2013年、Nature Biotechnol 31巻:23~24頁;Wefersら、2013年、PNAS 110巻:3782~3787頁。
【0091】
TALENでは、そのようなものを作製する方法は、米国特許第8420782号、同第8450471号、同第8450107号、同第8440432号、同第8440431号、および米国特許出願公開第20130137161号、同第20130137174号にさらに記載されている。
【0092】
他の有用なエンドヌクレアーゼは、例えば、HhaI、HindIII、NotI、BbvCI、EcoRI、Bg/I、およびAlwIを含んでいてもよい。一部のエンドヌクレアーゼ(例えば、FokI)はダイマーとしてのみ機能するという事実は、TALエフェクターの標的特異性を増強するのに利用可能である。例えば、一部の場合、それぞれのFokIモノマーを異なるDNA標的配列を認識するTALエフェクター配列に融合させることが可能であり、2つの認識部位が近接しているときだけ不活性なモノマー同士が一体となって機能的酵素を創出する。ヌクレアーゼを活性化するDNA結合を必要とすることにより、高度に部位特異的な制限酵素を創出することが可能になる。
【0093】
一部の実施形態では、TALENは核局在化シグナルまたは配列(NLS)をさらに含んでもよい。NLSは、TALENヌクレアーゼタンパク質を核に標的化して、染色体の標的配列に二本鎖切断を導入することを促進するアミノ酸配列である。
【0094】
核局在化シグナルは当技術分野において公知であり、例えば、Makkerhら、1996年、Curr Biol.、6巻:1025~1027頁を参照されたい。NLSはSV40ラージT抗原由来の配列PKKKRKV、Kalderon 1984年、Cell、39巻:499~509頁;ヌクレオプラスミン由来のRPAATKKAGQAKKK(配列番号9)、Dingwallら、1988年、J Cell Biol.、107巻、841~9頁を含む。さらなる例は、McLaneおよびCorbett、2009年、IUBMB Life、61巻、697~70頁;Dopieら、2012年、PNAS、109巻、E544~E552頁に記載されている。
【0095】
切断ドメインは任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから入手し得る。切断ドメインが由来し得るエンドヌクレアーゼの非限定的な例は、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼを含むがこれらに限定されない。例えば、2002~2003年Catalog、New England Biolabs、Beverly、Mass.;およびBelfortら(1997年)Nucleic Acids Res.、25巻:3379~3388頁を参照されたい。DNAを切断する追加の酵素は公知であり、例えば、SIヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼ、膵DnaseI、小球菌ヌクレアーゼ、酵母HOエンドヌクレアーゼがある。Linnら(編)Nucleases、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1993年も参照されたい。これらの酵素の1つもしくは複数、またはその機能的断片は切断ドメインの供給源として使用してもよい。
【0096】
ジンクフィンガー媒介ゲノム編集
【0097】
相同性特異的修復プロセス(homology-directed repair process)を介した標的化挿入のためなどの遺伝子編集のためのジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)の使用は確立している。例えば、Carberyら、2010年、Genetics、186巻:451~459頁;Cuiら、2011年、Nature Biotechnol.、29巻:64~68頁;Hauschildら、2011年、PNAS、108巻:12013~12017頁;Orlandoら、2010年、Nucleic Acids Res.、38巻:e152~e152頁;およびPorteus & Carroll、2005年、Nature Biotechnology、23巻:967~973頁を参照されたい。
【0098】
ZFN媒介プロセスの構成成分は、DNA結合ドメインおよび切断ドメインを有するジンクフィンガーヌクレアーゼを含む。そのような構成成分は、例えば、Beerliら、(2002年)Nature Biotechnol.、20巻:135~141頁;Paboら、(2001年)Ann. Rev. Biochem.、70巻:313~340頁;Isalanら、(2001年)Nature Biotechnol.、19巻:656~660頁;Segalら、(2001年)Curr Opin. Biotechnol.、12巻:632~637頁;およびChooら、(2000年)Curr Opin. Struct. Biol.、10巻:411~416頁;ならびに米国特許第6,453,242号および同第6,534,261号に記載されている。標的配列へのジンクフィンガー結合ドメインを設計し選択する方法は当技術分野において公知であり、例えば、Seraら、Biochemistry 2002年、41巻、7074~7081頁;米国特許第6,607,882号;同第6,534,261号および同第6,453,242号を参照されたい。
【0099】
一部の実施形態では、ジンクフィンガーヌクレアーゼは、核局在化シグナルまたは配列(NLS)をさらに含んでもよい。NLSは、ジンクフィンガーヌクレアーゼタンパク質を核に標的化して、染色体の標的配列に二本鎖切断を導入することを促進するアミノ酸配列である。核局在化シグナルは当技術分野において公知である。例えば、Makkerhら、(1996年)、Current Biology、6巻:1025~1027頁を参照されたい。
【0100】
切断ドメインは任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから入手し得る。切断ドメインが由来し得るエンドヌクレアーゼの非限定的な例は、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼを含むがこれらに限定されない。例えば、2002~2003年Catalog、New England Biolabs、Beverly、Mass.;およびBelfortら(1997年)Nucleic Acids Res.、25巻:3379~3388頁を参照されたい。DNAを切断する追加の酵素は公知である(例えば、SIヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼ、膵DnaseI、小球菌ヌクレアーゼ、酵母HOエンドヌクレアーゼ)。Linnら(編)Nucleases、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1993年も参照されたい。これらの酵素の1つもしくは複数(またはその機能的断片)は切断ドメインの供給源として使用してもよい。切断ドメインは、上記のように、切断活性に二量体化を必要とする酵素またはその部分に由来していてもよい。
【0101】
それぞれのヌクレアーゼが活性酵素ダイマーのモノマーを含むので、切断には2つのジンクフィンガーヌクレアーゼが必要とされることがある。代わりに、単一のジンクフィンガーヌクレアーゼが活性酵素ダイマーを創出する両方のモノマーを含むことがある。制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は多くの種に存在しており、DNAに(認識部位で)配列特異的結合をして、結合部位でまたはその近傍でDNAを切断することができる。ある特定の制限酵素(例えば、IIS型)はDNAを認識部位から取り除かれた部位で切断し、分離可能な結合および切断ドメインを有する。例えば、IIS型酵素FokIは、一方の鎖上のその認識部位から9ヌクレオチドでおよびもう一方の鎖上のその認識部位から13ヌクレオチドで、DNAの二本鎖切断を触媒する。例えば、米国特許第5,356,802号、同第5,436,150号、および同第5,487,994号、ならびにLiら、(1992年)PNAS 89巻:4275~4279頁;Liら、(1993年)PNAS 90巻:2764~2768頁;Kimら、(1994年)PNAS 91巻:883~887頁;Kimら、(1994年)J. Biol. Chem.、269巻:31,978~31,982頁を参照されたい。したがって、ジンクフィンガーヌクレアーゼは、少なくとも1つのIIS型制限酵素由来の切断ドメインおよび1つまたは複数のジンクフィンガー結合ドメインを含んでいてもよく、これは操作されていてもされていなくてもよい。例示的なIIS型制限酵素は、例えば、国際公開第07/014275号に記載されており、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。追加の制限酵素は分離可能な結合および切断ドメインも含有し、これらの酵素も本開示により企図されている。例えば、Robertsら、(2003年)Nucleic Acids Res.、31巻:418~420頁を参照されたい。切断ドメインが結合ドメインから分離可能である例示的なIIS型制限酵素は、FokIである。この特定の酵素はダイマーとして活性である(Bitinaiteら、1998年、PNAS 95巻:10,570~10,575頁)。したがって、本開示の目的では、FokI酵素のうちジンクフィンガーヌクレアーゼで使用される部分は切断モノマーと見なされる。したがって、FokI切断ドメインを使用する標的化二本鎖切断では、それぞれがFokI切断モノマーを含む2つのジンクフィンガーヌクレアーゼは、活性酵素ダイマーを再構成するために使用してもよい。代わりに、ジンクフィンガー結合ドメインおよび2つのFokI切断モノマーを含有する単一のポリペプチド分子を使用してもよい。ある特定の実施形態では、切断ドメインは、例えば、米国特許出願公開第20050064474号、同第20060188987号、および同第20080131962号(これらのそれぞれは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、ホモ二量体化を最小限にするまたは妨げる1つまたは複数の操作された切断モノマーを含み得る。非限定的な例として、FokIの446、447、479、483、484、486、487、490、491、496、498、499、500、531、534、537および538位のアミノ酸残基は、すべてFokI切断半ドメインの二量体化に影響を及ぼすための標的である。偏性ヘテロダイマーを形成するFokIの例示的に操作された切断モノマーは、第1の切断モノマーがFokIのアミノ酸残基490位および538位に変異を含み、第2の切断モノマーがアミノ酸残基486位および499位に変異を含む対を含む。したがって、一実施形態では、アミノ酸490位の変異はGlu(E)をLys(K)で置き換え;アミノ酸残基538位の変異はIle(I)をLys(K)で置き換え;アミノ酸残基486位の変異はGln(Q)をGlu(E)で置き換え;499位の変異はIle(I)をLys(K)で置き換える。具体的には、1つの切断モノマーで490位をEからKに、538位をIからKに変異させて「E490K:I538K」と名付けた操作された切断モノマーを生産することにより、および別の切断モノマーで486位をQからEに、499位をIからLに変異させて「Q486E:I499L」と名付けた操作された切断モノマーを生産することにより、操作された切断モノマーを調製し得る。上記の操作された切断モノマーは、異常な切断が最小限にされるかまたは消失される偏性ヘテロダイマー変異体である。操作された切断モノマーは、適切な方法を使用して、例えば、米国特許出願公開第20050064474号に記載されている野生型切断モノマー(FokI)の部位特異的変異誘発により調製し得る。
【0102】
上記のジンクフィンガーヌクレアーゼは、組入れの標的化部位に二本鎖切断を導入するように操作し得る。二本鎖切断は組入れの標的化部位においてでもよく、または組入れ部位から1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、100または1000ヌクレオチドまで離れていてもよい。一部の実施形態では、二本鎖切断は、組入れ部位から1、2、3、4、5、10、15または20ヌクレオチドまで離れていてもよい。他の実施形態では、二本鎖切断は、組入れ部位から10、15、20、25、30、35、40、45または50ヌクレオチドまで離れていてもよい。さらに他の実施形態では、二本鎖切断は、組入れ部位から50、100または1000ヌクレオチドまで離れていてもよい。
【0103】
DRAP技術は米国特許第6534643号、米国特許第6858716号および米国特許第6830910号ならびにWattら、2006年に記載されている。
【0104】
そのゲノムがマウスのマクロファージおよび/またはマクロファージ抗ヒト赤血球活性を欠損させる遺伝子改変を含む遺伝子改変免疫不全マウスの生成は、遺伝子標的化ベクターを、胚性幹(ES)細胞または誘導多能性幹(iPS)細胞などの着床前胚または幹細胞中へ導入することにより達成することが可能である。
【0105】
用語「遺伝子標的化ベクター」は、標的化遺伝子内への挿入または標的化遺伝子の置き換えなどにより、特定の染色体遺伝子座と組み換え、そしてこれを変異させるのに有効な二本鎖組換えDNA分子を指す。
【0106】
標的化遺伝子破壊または所望の核酸配列の導入では、遺伝子標的化ベクターは組換えDNA技法を使用して作製され、幹細胞内因性標的遺伝子に相同な5’および3’配列を含む。遺伝子標的化ベクターは任意選択でおよび好ましくは、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ、ハイグロマイシンまたはピューロマイシンなどの選択可能マーカーを含む。当業者であれば、遺伝子標的化ベクターに含むための配列を選択し、ほんの慣例的な実験を用いてこれらの配列を使用することができる。遺伝子標的化ベクターは、周知の方法を使用して組換え的にまたは合成的に生成することが可能である。
【0107】
遺伝子標的化ベクターの着床前胚内へのDNA注入の方法では、遺伝子標的化ベクターは非ヒト着床前胚内への注入前に線状化される。遺伝子標的化ベクターは受精卵母細胞内へ注入されるのが好ましい。受精卵母細胞は、交配後の日(0.5dpc)に過排卵雌から収集され、発現構築物を注入される。注入された卵母細胞は一晩培養されるまたは0.5日p.c.偽妊娠雌の輸卵管内に直接移植される。過排卵、卵母細胞の回収、遺伝子標的化ベクター注入および胚移植のための方法は当技術分野において公知であり、Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press;2002年12月15日、ISBN-10: 0879695919に記載されている。子孫は、標的遺伝子破壊の存在について、PCR、サザンブロットまたは配列決定などのDNA分析により試験することが可能である。破壊された標的遺伝子を有するマウスは、ELISAもしくはウェスタンブロット分析を使用することなどにより標的タンパク質発現についておよび/またはRT-PCRなどによりmRNA発現について試験することが可能である。
【0108】
代わりに、遺伝子標的化ベクターは、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿およびリポフェクションなどの周知の方法を使用して幹細胞(ES細胞またはiPS細胞)内にトランスフェクトし得る。
【0109】
マウスES細胞は特定の株用に最適化された培地で生育する。典型的にはES培地は、15%のウシ胎仔血清(FBS)または合成もしくは半合成等価物、2mMのグルタミン、1mMのピルビン酸Na、0.1mMの非必須アミノ酸、50U/mlのペニシリンおよびストレプトマイシン、0.1mMの2-メルカプトエタノールならびに1000U/mlのLIF(加えて、一部の細胞株では分化の化学阻害剤)をダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に含有する。詳細な説明は当技術分野において公知である(Tremmlら、2008年、Current Protocols in Stem Cell Biology、第1章:第1C.4項)。ES細胞分化の阻害剤の概論は、Buehr, M.ら(2003年)、Genesis of embryonic stem cells. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences 358巻、1397~1402頁を参照されたい。
【0110】
細胞は、PCR、サザンブロットまたは配列決定などのDNA分析により、標的遺伝子破壊または所望の核酸配列の導入についてスクリーニングされる。標的遺伝子を破壊する正しい相同組換え事象を有する細胞は、ELISAもしくはウェスタンブロット分析を使用することなどにより標的タンパク質発現についておよび/またはRT-PCRなどによりmRNA発現について試験することが可能である。所望される場合、選択可能マーカーは、幹細胞をCreリコンビナーゼを用いて処理することにより取り除くことが可能である。Creリコンビナーゼ処理後、細胞は標的タンパク質をコードする核酸の存在について分析される。
【0111】
標的遺伝子を破壊するまたは所望の核酸配列を導入する正しいゲノム事象を有する選択された幹細胞は、着床前胚内へ注入することが可能である。マイクロインジェクションでは、ES細胞またはiPS細胞は、トリプシンとEDTAの混合物を使用して単一の細胞にされ、続いてES培地に再懸濁される。単一の細胞の群は微細に引き延ばされたガラス針(内径20~25マイクロメートル)を使用して選択し、マイクロマニピュレーターを装着した倒立顕微鏡を使用して胚透明帯を通じて胚盤胞腔(胞胚腔(blastocoel))に導入される。胚盤胞注入の代替として、幹細胞を初期胚(例えば、2細胞、4細胞、8細胞、プレ桑実胚(premorula)または桑実胚)中に注入することが可能である。注入は、穿孔させて透明帯を開くレーザーまたは圧力パルスを用いて支援してもよい。胚盤胞または8細胞期胚あたりおよそ9~10の選択された幹細胞(ES細胞またはiPS細胞)、4細胞期胚あたり6~9幹細胞、および2細胞期胚あたり約6幹細胞が注入される。幹細胞導入に続いて、胚は、偽妊娠レシピエント雌に移植する前に、37℃、窒素中5%CO2、5%O2で数時間回復させるまたは一晩培養する。幹細胞注入のさらなる代替では、幹細胞は桑実期胚と一緒に凝集させることが可能である。これらの方法はすべて十分確立しており、幹細胞キメラを生産するのに使用することが可能である。さらに詳細な説明は、Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual、第3版(A. Nagy、M. Gertsenstein、K. Vintersten、R. Behringer、Cold Spring Harbor Laboratory Press;2002年12月15日、ISBN-10: 0879695919、Nagyら、1990年、Development 110巻、815~821頁;米国特許第7576259号:Method for making genetic modifications、米国特許第7659442号、米国特許第7,294,754号、Krausら、2010年、Genesis 48巻、394~399頁)を参照されたい。
【0112】
偽妊娠胚レシピエントは当技術分野で公知の方法を使用して調製される。手短に言えば、生後6~8週間の繁殖力のある雌マウスを精管切除したまたは不稔雄と交配させて、外科的に導入された胚の支援を助長するホルモン状態を誘導する。性交後2.5日(dpc)で、最大15個の幹細胞含有胚盤胞を子宮輸卵管接合部に極めて近い子宮角に導入する。初期胚および桑実胚では、そのような胚はin vitroで胚盤胞内に培養されるまたは胚胎期(embryo stage)に応じて0.5dpcもしくは1.5dpcの偽妊娠雌の輸卵管に移植される。移植胚由来のキメラ仔は、移植時の胚年齢に応じて移植の16~20日後に誕生する。キメラ雄は育種のために選抜される。子孫は、毛色(coat color)およびPCR、サザンブロットまたは配列決定などの核酸分析によりES細胞ゲノムの伝達について分析することが可能である。さらに、標的遺伝子の発現は、タンパク質分析、例えば、イムノアッセイ、または機能アッセイなどにより標的mRNAまたはタンパク質発現について分析し、標的遺伝子破壊を確認することが可能である。標的遺伝子破壊または所望の核酸配列の導入を有する子孫は交雑させて、標的遺伝子破壊または所望の核酸配列の存在についてホモ接合の非ヒト動物を創出する。トランスジェニックマウスは免疫不全マウスと交配させて、標的遺伝子破壊または所望の核酸配列の存在を有するコンジェニック免疫不全系統を創出する。
【0113】
マウスが標的遺伝子を発現させる能力を欠くように標的遺伝子が破壊されているかどうかまたはマウスが所望のコードされたタンパク質を発現するように所望の核酸配列が導入されているかどうかを決定するために遺伝子改変マウスを評価する方法は周知であり、核酸アッセイ、分光測定アッセイ、イムノアッセイおよび機能アッセイなどの標準技法を含む。
【0114】
1つまたは複数の標準を使用して、試料中の標的タンパク質の定量的決定が可能になる。
【0115】
標的遺伝子の想定される破壊を有する動物での機能的標的タンパク質の評価のためのアッセイを実施することが可能である。標的遺伝子の想定される破壊を有する動物での標的タンパク質の機能の評価のためのアッセイは当技術分野において公知であり、Deeringら、Clin Vaccine Immunol、2006年1月、13巻、1号、68~76頁で例証されている。
【0116】
用語「野生型」は、天然に存在するまたは変異していない生物、タンパク質または核酸を指す。
【0117】
任意選択で、本発明の態様による遺伝子改変免疫不全マウスは選抜育種により生産される。第1の所望の遺伝子型を有する非ヒト動物の第1の親系統は、第2の所望の遺伝子型を有する非ヒト動物の第2の親系統と交配させて、第1および第2の所望の遺伝子型を有する遺伝子改変非ヒト動物である子孫を生産してもよい。例えば、免疫不全である第1のマウスは、Lystの発現がないまたは低減するようにLyst遺伝子破壊を有する第2のマウスと交配させて、免疫不全でありLystの発現がないまたは低減するようにLyst遺伝子破壊を有する子孫を生産してもよい。さらなる例では、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJマウス、NOD.Cg-Rag1tm1MomIl2rgtm1Wjl/SzJマウスまたはNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug/JicTacマウスを、標的遺伝子の発現がないまたは低減するように標的遺伝子破壊を有するマウスと交配させて、免疫不全であり標的タンパク質の発現がないまたは低減されるように標的遺伝子破壊を有する子孫を生産してもよい。またさらなる例では、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJマウス、NOD.Cg-Rag1tm1MomIl2rgtm1Wjl/SzJマウスまたはNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug/JicTacマウスを、ゲノムに発現されるタンパク質をコードする導入された核酸を有するマウスと交配させて、免疫不全でありゲノムに導入された核酸によりコードされる所望のタンパク質を発現する子孫を生産してもよい。
【0118】
本発明の態様は、その細胞の実質的にすべてにおいて標的遺伝子破壊を含む遺伝子改変マウス、ならびに、すべての細胞ではなく、一部の細胞に標的遺伝子破壊を含む遺伝子改変マウスを提供する。
【0119】
本発明の実施形態は、その細胞の実質的にすべてにおいてヒトCD47または単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼなどの所望のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子改変免疫不全マウス、ならびに、すべての細胞ではなく、一部の細胞にヒトCD47または単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼなどの所望のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子改変免疫不全マウスを提供する。ヒトCD47または単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼなどの所望のタンパク質をコードするヌクレオチド配列の1つまたは複数のコピー(コンカテマーなどの)を、本発明の態様による免疫不全マウスの細胞のゲノム内に組み入れることが可能である。
【0120】
ヒト赤血球を含むマウスモデル
【0121】
遺伝子改変免疫不全マウスは、本発明の態様によるヒト赤血球をさらに含む。
【0122】
ヒト赤血球は、これらに限定されないが、静脈内または腹腔内投与などの種々の経路を介して非ヒト動物に投与することが可能である。
【0123】
ヒト赤血球は遺伝子改変免疫不全マウスに1回または複数回投与することが可能である。本発明の遺伝子改変免疫不全マウスにおけるヒト赤血球の生存の増加により、ヒト赤血球の注射回数の低減を可能にし、本明細書に記載されるアッセイによるなどでのヒト赤血球の評価が可能になる。
【0124】
ヒト赤血球は、任意選択で、本発明の遺伝子改変免疫不全マウスへの投与に先立って、他の血液構成成分を取り除くために洗浄される。ヒト赤血球の洗浄は、ヒト赤血球をペレットにするためのヒト全血試料の穏やかな遠心分離、バフィーコートおよび血漿の除去、ならびに等浸透圧緩衝液(iso-osmolar buffer)などの適切な液体へのヒト赤血球の再懸濁によるなどの種々の周知の方法により達成される。任意選択で、洗浄されたヒト赤血球の再懸濁に使用される液体の体積は、洗浄されたヒト赤血球が「無希釈洗浄ヒト赤血球」と呼ばれるように、ヒト全血試料の元の体積に実質的に等しい(±5%)。
【0125】
本発明の態様によれば、ヒト赤血球は、ヒト造血幹細胞(HSC)の投与により免疫不全遺伝子改変マウスに導入され、HSCは免疫不全マウスに生着してHSCの分化によりヒト赤血球を生産する。
【0126】
本明細書で使用される用語「ヒト幹細胞」および「ヒトHSC」は、c-Kit受容体を発現する多能性幹細胞を指す。c-Kit受容体を発現する多能性幹細胞の例は造血幹細胞を含むがこれに限定されず、この幹細胞は血球始原細胞としても知られる。c-Kit受容体は、例えば、Vandenbark GRら、1992年、Cloning and structural analysis of the human c-kit gene、Oncogene 7巻(7号):1259~66頁;およびEdling CE、Hallberg B、2007年、c-Kit--a hematopoietic cell essential receptor tyrosine kinase、Int. J. Biochem. Cell Biol.、39巻(11号):1995~8頁に記載されるように、当技術分野において周知である。
【0127】
ヒトHSCの単離、ヒトHSCの宿主マウスへの投与およびその宿主マウスにおける生着を評価するための方法は当技術分野において周知である。
【0128】
免疫不全マウスへの投与用のヒトHSCは、これらに限定されないが、臍帯血、骨髄、GM-CSF動員末梢血および胎児肝臓などのヒトHSCを含有する任意の組織から入手可能である。
【0129】
ヒトHSCは、これらに限定されないが、心臓、肝臓および/または顔面静脈中などの種々の経路を介する投与により、新生仔マウスに投与することが可能である。ヒトHSCは、これらに限定されないが、尾部静脈中への、大腿骨骨髄腔中へのまたは脾臓中への投与などの種々の経路により成体マウスに投与することが可能である。さらなる例では、ヒトHSCを含有する胎児肝臓を腎被膜下に生着させることが可能である。
【0130】
ヒトHSCをマウスに投与することは、ヒトHSCを含む組成物をマウスに投与することを含むことが可能である。組成物は、例えば、水、張度調整剤(例えば、塩化ナトリウムなどの塩)、pH緩衝液(例えば、クエン酸塩)、および/または糖(例えば、グルコース)をさらに含むことが可能である。
【0131】
免疫不全マウスでのヒトHSCの生着は、免疫不全マウスでの分化したヒト造血細胞の存在を特徴とする。ヒトHSCの生着は、これらに限定されないが、ヒトHSCの投与に続く1つまたは複数時点でのヒトHSCが投与される動物の細胞のフローサイトメトリー分析などの種々の方法のいずれによっても評価することが可能である。
【0132】
ヒトHSCの単離のための、ヒトHSCの宿主マウスへの投与のための例示的な方法およびその生着を評価するための方法は、本明細書およびT. Pearsonら、Curr. Protoc. Immunol.、81巻:15.21.1~15.21.21頁、2008年;Ito, M.ら、Blood 100巻:3175~3182頁;Traggiai, E.ら、Science 304巻:104~107頁;Ishikawa, F.ら、Blood 106巻:1565~1573頁;Shultz, L. D.ら、J. Immunol.、174巻:6477~6489頁;Holyoake TLら、Exp Hematol.、1999年、27巻(9号):1418~27頁に記載されている。
【0133】
本発明の態様によれば、免疫不全マウスに投与されるヒトHSCは、ヒトHSCが濃縮された細胞の集団を得るための元の供給源材料から単離される。単離されたヒトHSCは純粋であっても純粋でなくてもよい。態様によれば、ヒトHSCは、CD34などの細胞マーカーの選択により精製される。態様によれば、投与されるヒトHSCは、CD34+細胞が全細胞の約1~100%を構成する細胞集団であるが、CD34+細胞が全細胞の1%未満しか構成しない細胞集団も使用可能である。実施形態によれば、投与されるヒトHSCは、CD34+細胞が全細胞の約1~3%を構成するT細胞枯渇臍帯血細胞、CD34+細胞が全細胞の約50%を構成する系譜枯渇臍帯血細胞、またはCD34+細胞が全細胞の約90%を構成するCD34+陽性選択細胞である。
【0134】
投与されるHSCの数は、本発明の免疫不全遺伝子改変マウスでのヒト赤血球の生成に関して限定的だとは考えられていない。単一のHSCは宿主免疫不全遺伝子改変マウスで赤血球を生成することが可能である。したがって、投与されるHSCの数は一般に、レシピエントがマウスである場合、1×103から1×106(1,000~1,000,000)個のCD34+細胞の範囲であるが、これよりも多くてもまたは少なくても使用可能である。
【0135】
したがって、本発明の態様による方法は、約103(1000)から約106(1,000,000)、約103(1000)から約105(100,000)、約104(10,000)から約106(1,000,000)、約105(100,000)から約107(10,000,000)、約1×103(1,000)から約1×104(10,000)、約5×103(5,000)から約5×104(50,000)、約1×104(10,000)から約1×105(100,000)、約5×104(50,000)から約5×105(500,000)、約1×105(100,000)から約1×106(1,000,000)、約5×105(500,000)から約5×106(5,000,000)、約1×106(1,000,000)から約1×107(10,000,000)、約2×104(20,000)から約5×105(500,000)、または約5×104(50,000)から約2×105(200,000)個のヒトHSCを免疫不全遺伝子改変マウスに投与することを含むことが可能である。方法は、少なくとも約1×102、約2×102、約3×102、約4×102、約5×102、約6×102、約7×102、約8×102、約9×102、約1×103、約2×103、約3×103、約4×103、約5×103、約6×103、約7×103、約8×103、約9×103、約1×104、約2×104、約3×104、約4×104、約5×104、約6×104、約7×104、約8×104、約9×104、約1×105、約2×105、約3×105、約4×105、約5×105、約6×105、約7×105、約8×105、約9×105、約1×106、約2×106、約3×106、約4×106、約5×106、約6×106、約7×106、約8×106、約9×106、または約1×107個のヒトHSCを免疫不全遺伝子改変マウスに投与することを含むことが可能である。当業者であれば、ほんの慣例的な実験を使用して特定のマウスに投与されるヒトHSCの数を決定することができる。
【0136】
任意の投与された非HSCの大部分が変質した時点で、レシピエント免疫不全遺伝子改変マウスにおいてヒトHSCおよび/またはヒトHSCから分化した細胞が検出される場合には、生着は成功している。分化したHSCの検出は、ヒトHSCの投与に続いてマウスから得られる試料中のヒト赤血球の検出により達成することが可能である。
【0137】
本発明の態様による免疫不全遺伝子改変マウスでのヒトHSCの生着は、例えば、一般に、ガンマ線を使用する高周波電磁放射線を用いたレシピエント動物の致死量以下の照射、またはブスルファンもしくはナイトロジェンマスタードなどの放射線様作用薬を用いた処置による、ヒトHSCの投与に先立つ免疫不全遺伝子改変マウスの「コンディショニング」を含む。コンディショニングは、宿主造血細胞の数を低減し、ヒトHSCの生着のための適切な微小環境要因を創出し、および/またはヒトHSCの生着のための微小環境ニッチを創出すると考えられている。コンディショニングのための標準的な方法は当技術分野において公知であり、例えば、本明細書およびJ. Hayakawaら、2009年、Stem Cells、27巻(1号):175~182頁に記載されている。
【0138】
本発明の態様によれば、ヒトHSCの投与に先立って免疫不全遺伝子改変マウスを「コンディショニング」することなく免疫不全遺伝子改変マウスにヒトHSCを投与することを含む方法が、提供される。本発明の態様によれば、ヒトHSCの投与に先立って免疫不全遺伝子改変マウスの放射線または放射線様作用薬による「コンディショニング」なしで免疫不全遺伝子改変マウスにヒトHSCを投与することを含む方法が提供される。
【0139】
感染
【0140】
特定の態様によれば、本発明の遺伝子改変免疫不全マウスに投与されるヒト赤血球に感染因子を感染させる。
【0141】
特定の態様によれば、本発明の遺伝子改変免疫不全マウスに投与されるヒト赤血球にプラスモディウム属寄生生物を感染させる。プラスモディウム属寄生生物は、本発明の態様によるPlasmodium falciparum(P.falciparum)である。プラスモディウム属寄生生物は、本発明の態様によるPlasmodium ovale(P.ovale)、Plasmodium vivax(P.vivax)、またはPlasmodium malariae(P.malariae)である。
【0142】
特定の態様によれば、感染因子は本発明の遺伝子改変免疫不全マウスに投与され、遺伝子改変免疫不全マウスはヒトRBCを含み、感染因子はヒトRBCに感染可能である。特定の態様によれば、遺伝子改変免疫不全マウスに投与される感染因子は、プラスモディウム属寄生生物である。プラスモディウム属寄生生物は、本発明の態様によるPlasmodium falciparum(P.falciparum)である。プラスモディウム属寄生生物は、本発明の態様によるPlasmodium ovale(P.ovale)、Plasmodium vivax(P.vivax)、またはPlasmodium malariae(P.malariae)である。
【0143】
疾患
【0144】
特定の態様によれば、本発明の遺伝子改変免疫不全マウスに投与されるヒト赤血球は障害または疾患に冒される。
【0145】
特定の態様によれば、本発明の遺伝子改変免疫不全マウスに投与されるヒト赤血球は、個々のヒトまたはヒト個体の集団(例えば、プールされた試料)に由来しており、個々のヒトまたはヒト個体の集団は鎌状赤血球貧血を有する。
【0146】
アッセイ
【0147】
本発明の態様によれば、想定される治療剤の効果をアッセイする方法であって、ヒト赤血球を含む遺伝子改変免疫不全マウスに、所定量の想定される治療剤を投与すること、および想定される治療剤の効果を測定することを含む方法が提供される。
【0148】
本発明の方法で使用される想定される治療剤は、例示的に、合成もしくは天然に存在する化合物または合成もしくは天然に存在する化合物の組み合わせ、小型の有機分子もしくは無機分子、タンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物、オリゴ糖、脂質またはこれらのいずれかの組み合わせを含む、任意の化学実体であり得る。
【0149】
本発明の態様によれば、想定される治療剤の効果をアッセイする方法であって、マウスをマクロファージ毒素で処置して、正常よりも少ないマクロファージを有する処置されたマウスを生産すること;処置されたマウスにヒト赤血球を投与すること;処置されたマウスに、所定量の想定される治療剤を投与すること;および想定される治療剤の効果を測定することを含む方法が提供される。マクロファージ毒素の非限定的な例は、これらに限定されないが、ゾレドロネート、クロドロネート、パミドロネートおよびイバンドロネートなどのビスホスホネートを含む。
【0150】
本発明の態様によれば、想定される治療剤の効果をアッセイする方法であって、本発明の態様による遺伝子改変免疫不全マウスである遺伝子改変免疫不全マウスをマクロファージ毒素で処置して、正常よりも少ないマクロファージを有する処置された遺伝子改変免疫不全マウスを生産すること;処置された遺伝子改変免疫不全マウスにヒト赤血球を投与すること;処置された遺伝子改変免疫不全マウスに、所定量の想定される治療剤を投与すること;および想定される治療剤の効果を測定することを含む方法が提供される。マクロファージ毒素の非限定的な例は、これらに限定されないが、ゾレドロネート、クロドロネート、パミドロネートおよびイバンドロネートなどのビスホスホネートを含む。
【0151】
本発明の態様によれば、ヒト赤血球を含む遺伝子改変免疫不全マウスに想定される治療処置を施すること;および想定される治療処置の効果を測定することを含む、想定される治療処置の効果をアッセイする方法が提供される。非限定的な例として、遺伝子改変免疫不全マウスは、赤血球の障害または疾患を処置する遺伝子治療などにより、さらに遺伝子改変することが可能である。赤血球の障害および疾患は、マラリアおよび赤血球の他の感染性疾患、鎌状赤血球貧血などを含むがこれらに限定されない。
【0152】
マラリアの処置のための治療剤はヒト赤血球を含む遺伝子改変免疫不全マウスに投与することが可能であり、ヒト赤血球は、本発明の態様によるP.falciparum、P.ovale、P.vivax、またはP.malariaeなどのプラスモディウム属寄生生物が感染していてもよい。マラリアの処置のための治療剤の例は、アモジアキン;アルテミシニン;アーテスネート、アルテメテル、ジヒドロアルテミシニン、アルテリン酸(artelinic acid)、およびアルテモチルなどのアルテミシニン誘導体;アトバコン;クロログアニド(プログアニル);クロロキン;シンコニン(cinchoine);シンコニジン(cinchonidine);クリンダマイシン;ドキシサイクリン;ハロファントリン、ヒドロキシクロロキン;ルメファントリン;メフロキン;ピペラキン;プリマキン、ピリメタミン;ピロナリジン(pyronaridine);キニーネ;キニジン;スルファドキシン;タフェノキン(tafenoquine);ならびにテトラサイクリンを含む。
【0153】
本発明の態様によれば、治療剤の効果を決定するために1つまたは複数の治療剤がヒト赤血球に組み込まれ、免疫不全遺伝子改変マウスに投与される。治療剤は、例えば、治療剤とRBCを一緒にインキュベートし、RBC内への治療剤の拡散もしくは能動的な取込みを可能にする、またはマイクロインジェクションによるなどの投与により、ヒトRBC内に組み込むことが可能である。治療剤は、これに限定されないが、リポソームなどのRBCによる取込みを刺激する担体と会合させてもよい。
【0154】
アッセイに適した標準は当技術分野において周知であり、使用される標準は任意の適切な標準であり得る。
【0155】
アッセイ結果は、パラメトリックもしくはノンパラメトリック検定、分散分析、共分散分析、多変量分析のためのロジスティック回帰分析、フィッシャー直接検定、カイ二乗検定、スチューデントt検定、マン・ホイットニー検定、ウィルコクソン符号順位検定、マクネマー検定、フリードマン試験およびページL傾向試験(Page’s L trend test)に例示される、種々の方法のいずれかにより統計分析を使用して分析可能である。これらのおよび他の統計検定は当技術分野において周知であり、Hicks, CM、Research Methods for Clinical Therapists: Applied Project Design and Analysis、Churchill Livingstone(出版元);第5版、2009年、およびFreund, RJら、Statistical Methods、Academic Press;第3版、2010年に記載されている。
【0156】
本発明の組成物および方法の実施形態は以下の実施例において例示される。これらの実施例は説明目的で提供され、本発明の組成物および方法の範囲を限定するものと考えられてはいない。
【実施例】
【0157】
実施例
【0158】
方法および材料
【0159】
動物
【0160】
本研究で使用されるマウスは、NSGまたはC57BL/6系統バックグラウンドでありジャクソンラボラトリー(Bar Harbor、ME)で飼育された。生後2から4か月の雄および雌マウスが使用された。ヒト血液の注射がプロジェクトの主構成要素であったことから、すべての動物がBSL2認定済み実験室に収容された。標準的な寝床、餌および水は、自由に利用できるようにした。ケージは23℃、12時間明/暗周期(6:00点灯)で維持された。NSGマウスは「標準」系統を表し、したがって、他の新たに開発された系統に対する対照として使用された。
【0161】
ヒト血液試料
【0162】
ヘパリン中のヒト血液試料は毎週受け取った。入手したら、血液は使用前にリンパ球性Choriomeningitisウイルス(LCMV)および細菌について試験された。
【0163】
試験手順
【0164】
それぞれの別々の実験は、5匹のNSGマウスおよび5匹の次世代NSGマウスまたはBL/6 RagガンマCD47(MD4)KOマウスからなっていた。実験はすべて指定のBSL2認定済み実験室で行われた。200μlの洗浄した無希釈ヒト赤血球は静脈または腹腔内注射によりマウスに注入された。注入のタイプは各々それぞれの実験を通して一定に保たれた。それぞれの最初の注入後、マウスは所定の時点で尾部から採血した。
【0165】
ガンシクロビルの投与
【0166】
ガンシクロビル(GVC)は、マクロファージの除去を誘導するためにNSG MD3マウス系統に投与された。GVCは、実験の開始に先立って連続4日間5匹のマウスに投与された。
【0167】
抗体カクテル
【0168】
2つの異なる抗体混合物:1)APC Ter-119と混合させたFITCグリコホリンA(GPA)およびFACS緩衝液ならびに2)APC Ter-119、PEグリコホリンAと混合させたFITC CD41bおよびFACS緩衝液を使用した。前者を作製するために、FITC GPAは1:500希釈で使用し、一方で、APC Ter-119は1:50希釈で使用した。後者はFITC CD41Bを1:20希釈で、APC Ter-119を1:50希釈でおよびPE GPAを1:500希釈で使用して作製された。混合物はすべてボルテックスして完全な混合を確実にした。
【0169】
フローサイトメトリー
【0170】
末梢血由来の細胞集団を定量化し分化させるため、2μlの血液あたり50μlの抗体カクテルを用いて、試料ごとにヒトグリコホリンA(GPA)では1:500希釈で(E-Biosciences)およびアロフィコシアニン(APC)では1:50希釈でフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を使用する。抗体は血液と混合し、4℃で30~60分間冷蔵して、十分な染色を確実にした。次に、血液は1mLのPBSアジドに再懸濁された。フローサイトメトリーは、製造業者のプロトコールによりAttuneフローサイトメーター(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)を使用して実施した。次に、試料は細胞分析ソフトウェアFlowJo(FlowJo LLC、Ashland、OR)を使用して定量化した。
【0171】
結果
【0172】
改良されたヒトRBC生存のためにマウスを遺伝子操作する
【0173】
NSG Lyst(MD1)KOマウス系統(NSG MD1マウス)
【0174】
このマウスは、変異される/存在しないとヒト疾患症候群をもたらすことがある遺伝子である、Lyst遺伝子をノックアウトされている点で独特である。この遺伝子がないと、マウスの生得的な免疫系は損なわれて、リソソーム機能障害および免疫細胞機能障害をもたらす。
【0175】
免疫不全遺伝子改変マウス-NSG LystノックアウトMD1の生成
【0176】
NSG LystノックアウトMD1マウスは、Cas9 RNA(100ng)および単一のガイド配列(50ng)、sgRNA-1537(ATCCGTTGAACCAAAGCTAC、配列番号2)のNSG受精卵母細胞への前核注入によりジャクソンラボラトリーで生成された。
【0177】
sgRNA-1537の場合:移植された55の胚(3つは偽)、14生産仔、2/14(14%)NHEJ
【0178】
CRISPR戦略により、マウスLyst遺伝子のエキソン5において25塩基対欠失(GAGCCGGTAGCTTTGGTTCAACGGA、配列番号1)の特定の欠失を生じた。
【0179】
4つのプライマーは遺伝子型判定のために設計された:
プライマー番号1578
GGGTGAATATTGAAGTTCTGAGAC(配列番号3)
プライマー番号1579
CATTTGAATCCTGTCTCAGAATGA(配列番号4)
プライマー番号1580
GCCACCAAAGAACAGGTCCTTT(配列番号5)
プライマー番号1581
GAAGTGGGAATACTCACAACGC(配列番号6)
【0180】
sg1537標的化変異体の遺伝子型を判定するため、遺伝子型判定PCRおよび配列決定用にプライマー1580/1581を使用する。産物は約903bpであるはずであり、NEB標準Taq(M0273)を使用する最適PCRプログラムは以下の通りである。
95℃-30秒間
95℃-15秒間}
60℃-30秒間}30×サイクル
68℃-1分間}
68℃-5分間
4℃-保持
【0181】
1537-sgRNA標的化セットから同定された樹立変異体(Founder mutants)は番号7および番号12である。
【0182】
>1580/1581アンプリコン(903bp)(配列番号7)
【化1】
【0183】
>1578/1581アンプリコン(1625bp)(配列番号8)
【化2】
【0184】
生殖系列に改変対立遺伝子を保有する子孫を交配させて、ホモ接合遺伝子改変ゲノムを生成した。F1交配はすべて、遺伝子座のメンデル分配を伴う正常な産仔数を生じた。マウスの得られた近親交配系統はNSG Lyst(MD1)KOマウス系統(NSG MD1マウス)と名付けられ、この系統は機能的Lystタンパク質を発現しない。
【0185】
図1は、NSG対照マウスと比較したこれらのNSG Lyst(MD1)ノックアウト(KO)マウス由来のヒトRBCの保持を示す。NSG Lyst(MD1)KOはNSGマウスよりも効率的にヒトRBCを保持していると思われるが、この実験では24時間を超えると統計的有意性は存在しない。
【0186】
図1:NSG対NSG MD1。グラフは、NSG MD1KO(破線)と比較した場合のNSG(実線)内でのRBC生存を示す。NSG MD1マウスはNSGよりも高い割合でヒトを保持していた。この実験ではデータは24時間まで有意ではなかった(P値>0.1)。腹腔内注射。
【0187】
CSF1rプロモーターがヘルペスチミジンキナーゼの発現を駆動する導入遺伝子を含むNSGマウス系統(NSG-MD3マウス)
【0188】
マウス細胞は典型的には、ヘルペスウイルスの派生物である、単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼ(HSV-1-tk)を発現しない。しかし、そのマクロファージ上で細胞特異的HSV-1-tkを発現するマウスモデルを達成することにより、マクロファージの条件付き除去が達成された。HSV-1-tk単独では哺乳動物細胞に致死性ではない。
【0189】
マクロファージコロニー刺激因子に対する受容体(CSF-1R)をコードする遺伝子は、もっぱら骨髄系譜の細胞ならびに栄養膜細胞で発現される。第2のイントロンの保存されたエレメント、Fmsイントロン調節エレメント(FIRE)は遺伝子のマクロファージ特異的転写に不可欠である。例えば、Sasmono R Tら、Blood 2003年;101巻:1155~1163頁を参照されたい。
【0190】
マウスCsf1r遺伝子:RP23-30G17を保有するBACクローンを使用して、マウスCsf1rプロモーターをベクターにクローニングし、次に、三方向ライゲーション(three-way ligation)を使用して、PCRアンプリコンとして提供されるIRESおよびHSV TK遺伝子/pAを導入し、HSV TKが、単にpUC57中のCsfr1rにより駆動される発現構築物を生産した。この導入遺伝子の総サイズは、エキソン3の5’末端に延びるマウスCsf1r5’隣接領域および配列の7,510bpを含む9,850bpである。HSV TK遺伝子はIRESエレメントの3’側で発現され、HSV TK遺伝子転写はTK pA配列で終結される。
【0191】
これらのマウスの生成では、CSF1r(コロニー刺激因子1受容体)プロモーターの制御下でHSV-1-tkをコードする発現構築物は、NOD×NODscid受精卵に注入される。次に、トランスジェニック樹立系統はNSGと交配されてNSG HSV-1-tk Tg系統を樹立する。NSG系統をHSV-1-tk導入遺伝子についてホモ接合にするためには、2つの系統を交雑させる。
【0192】
単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼ(HSV-1-tk)の細胞特異的発現は、トランスジェニックマウスでの標的化細胞型の条件付き除去を達成する簡単で高度に効率的な技法を提供する。除去は、HSV-1-tkを発現するトランスジェニック動物を抗ヘルペス薬のガンシクロビルで処置することにより誘導される。Csf1rプロモーターにより駆動されるHSV-1-tkを発現するマウスの組織では、ガンシクロビルの投与により、マクロファージ系譜内の細胞が破壊されると予想される。HSV-1-tkを発現しない組織は薬物処置に非感受性である。
【0193】
ガンシクロビルは2’-デオキシグアノシンの合成アナログである。ガンシクロビルはまずウイルスキナーゼによりガンシクロビルモノホスフェートにリン酸化される。これに続いて、細胞キナーゼがガンシクロビルジホスフェートおよびガンシクロビルトリホスフェートの形成を触媒し、ガンシクロビルトリホスフェートはCMVまたは単純ヘルペスウイルス(HSV)感染細胞では非感染細胞での10倍の濃度で存在している。ガンシクロビルトリホスフェートは、DNAへのデオキシグアノシントリホスフェート(dGTP)組込みの競合的阻害剤であり、細胞DNAポリメラーゼよりも優先的にウイルスDNAポリメラーゼを阻害する。さらに、ガンシクロビルトリホスフェートは、鎖伸張のための不十分な基質として働き、それによって第2の経路によりウイルスDNA合成を破壊する。トランスジェニックマウス(NSG-Tg(Csf1r-HSV-1-tk))内のマクロファージは、ヘルペスウイルス感染細胞に類似してガンシクロビルにより死滅する。
【0194】
しかし、HSV-1-kは特定のヌクレオシドアナログをリン酸化することができる。これらのヌクレオシドモノホスフェートは細胞キナーゼによりヌクレオシドトリホスフェートにリン酸化され、DNAに組み込まれて、このDNAは次に細胞死をもたらす。マクロファージ死滅を誘導するため、NSG-MD3マウスを、実験に先立って連続4日間抗ヘルペスガンシクロビルで処置した。
図2は、NSG対照マウスと比較したこれらのHSV-1-tk Tgマウスからの結果を図示する。再び、NSG MD3マウスにおいて生き延びたヒトRBCの数は測定した時点でNSG対照よりも高かった。生データを対応t検定にかけると、24時間までのわずかな有意差(P<0.05)があった。
【0195】
図2:NSG対NSG MD3。グラフは、NSG MD3(破線)と比較した場合のNSG内でのRBC生存(実線)を示す。NSG MD3マウスはNSGよりも高い割合でヒトを保持していた。データは24時間まで有意であった(P値<0.05)。腹腔内注射。
【0196】
B6.129S-Rag1<tm1Mom>CD47 KO Il2rg<tm1Wjl>/Sz(BL/6 RagガンマMD4)
【0197】
生成されたすべてのマウスの間で、これがBL/6バックグラウンドの唯一のマウス系統であった。さらに、このマウスはそのゲノムからCD47がノックアウトされている。マウスRBCは身体全体で遍在的に発現されるCD47を発現する。CD47は阻害免疫受容体と相互作用する。これは制御シグナルを管理する係合であり、このシグナルは次に細胞の食作用を阻害する。本質的には、このタンパク質は「don’t-eat-me」シグナルとして機能する。ヒトRBCはCD47を発現するが、これはマウスCD47と相同ではない。この相同性の欠如は主に、ヒトRBCを外来性だと認識し、続いて排除する原因となるものである。
図3は、NSG対照マウスと比較した場合のこれらのBL/6 RagガンマMD4マウスを図示する。
【0198】
興味深いことに、ヒトRBCは、NSG対照よりもこれらのBL/6 RagガンマMD4マウス内において速く排除された。
【0199】
図3:NSG対BL/6 RagガンマMD4。グラフはBL/6 ragガンマMD4(破線)と比較した場合のNSG内でのRBC生存(実線)を示す。BL/6 RagガンマMD4 KOマウスはNSGよりも高い割合でヒトを保持していなかった。データは有意であった(P値>0.01)。腹腔内注射。
【0200】
NOD.Cg-Prkdc<scid>CD47 KO Il2rg<tm1Wjl>Tg(hMD2)Sz/Sz(NSG MD2)
【0201】
BL/6 RagガンマMD4マウスに類似して、NSG MD2マウスはCD47のマウスバージョンをコードする遺伝子がノックアウトされていた。この遺伝子改変に加えて、CD47のヒトバージョンはそれぞれのゲノム内でノックアウトされている。
【0202】
これらのマウスの生成では、CD47ノックアウト対立遺伝子(例えば、Oldenborgら、Lethal autoimmune hemolytic anemia in CD47-deficient nonobese diabetic (NOD) mice、Blood、2002年5月15日;99巻(10号):3500~4頁参照)をNSGバックグラウンドに戻し交配して、NSG CD47ノックアウトマウスを生成した。ヒトCD47をコードしている細菌人工染色体、BAC RP11-121A9を、NOD×NODscid受精卵に注入した。32個の潜在的樹立系統のうち1つのトランスジェニックが存在していた。この樹立系統はNSGと交配されてNSGヒトCD47Tg系統を樹立した。NSG系統をマウスCD47 KOおよびヒトCD47導入遺伝子についてホモ接合にするため、2つの系統を交雑させ、CD47対立遺伝子のすべてをホモ接合性に固定した。
【0203】
図4は、NSG対照マウスと比較した場合のこれらのNSG MD2を図示する。
【0204】
マウスのNSG MD2系統を用いた複数の実験では、有意なデータが得られ、ヒトCD47をNSGマウスに遺伝子導入によって導入するとRBC生存が有効に改善された。
図4にあるように、一方で、NSGマウスでのヒトRBC生存はわずかに40時間を上回る時間しか続かなかったが、NSG MD2マウスでのヒトRBC生存はほぼ100時間続いた(P値:0.009)。
【0205】
図4:NSG対NSG MD2。グラフは、NSG MD2マウス(破線)と比較した場合のNSG内でのRBC生存(実線)を示す。NSG MD2マウスはNSGよりも高い割合でヒトを保持していた。データは有意であった(P値<0.001)。腹腔内注射。
【0206】
図5は、いくつかの異なる遺伝子改変免疫不全系統でのヒトRBC生存を比較している結果を示す。見られるように、データは、96時間までNSG MD1およびMD2マウス内で循環するヒトRBCを実証している。
【0207】
図5:NSG対NSG MD1対NSG MD2対BL/6 RagガンマMD4。比較は試験された複数の系統を一度に示す。腹腔内注射。
【0208】
本明細書で言及された任意の特許または刊行物は、あたかもそれぞれ個々の刊行物が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示される場合と同じ程度に参照により本明細書に組み込まれる。
【0209】
本明細書に記載される組成物および方法は、現時点での好ましい実施形態の代表例であり、これらは例示的なものであって本発明の範囲を限定するものとして意図されない。当業者であれば、その中での変更および他の使用を思い付くものと予想される。特許請求の範囲で述べた本発明の範囲を逸脱することなく、そのような変更および他の使用を行うことが可能である。
【配列表】