(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】苦丁茶加工物
(51)【国際特許分類】
A23F 3/20 20060101AFI20220905BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20220905BHJP
A23F 5/24 20060101ALI20220905BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20220905BHJP
A23L 21/00 20160101ALI20220905BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20220905BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20220905BHJP
C12C 5/02 20060101ALI20220905BHJP
C12G 3/055 20190101ALI20220905BHJP
【FI】
A23F3/20
A23F3/16
A23F5/24
A23L2/56
A23L21/00
A23L23/00
A23L27/10 C
C12C5/02
C12G3/055
(21)【出願番号】P 2019535719
(86)(22)【出願日】2018-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2018029930
(87)【国際公開番号】W WO2019031586
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2017154811
(32)【優先日】2017-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 正展
(72)【発明者】
【氏名】栄村 和浩
(72)【発明者】
【氏名】阪本 武
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知寛
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-504607(JP,A)
【文献】特開2001-103929(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119064(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/122777(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA/CABA(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表1に示される21種の化合物の総含有量100質量部に対して、ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナールの総量が1200質量部以下であることを特徴とする、苦丁茶加工物
であって、
当該苦丁茶加工物が、苦丁茶の基原植物の水蒸気蒸留処理後の残留植物の抽出物である、苦丁茶加工物:
【表1】
[UHPLC条件]
装置:SHIMADZU社製UHPLC(Nexera X2)
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 ( 100mm×2.1mm I.D.,1.7 μm)カラム槽温度:30℃
移動相:(A)0.1容量%ギ酸水溶液 (B)0.1容量%ギ酸含有アセトニトリルグラジエント:(B)5容量%→60容量%(70min, linear)→100容量%(75min, linear)流速:0.2 mL/min
注入量:5μL
[TOF/MS条件]
装置:AB SCIEX社製TOF/MS(Triple TOF 5600+ System)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)ネガティブ
質量範囲:m/z 50~2000。
【請求項2】
表1に示される21種の化合物の総含有量100質量部に対して、ヘキサナールの含有量が310質量部以下、2,4-ヘキサジエナールの含有量が40質量部以下、2,4-ヘプタジエナールの含有量が620質量部以下、及び/又は2,4-デカジエナールの含有量が160質量部以下である、請求項1記載の苦丁茶加工物。
【請求項3】
表1に示される21種の化合物の含有量100質量部に対して、ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナールの総量が280質量部以下であり、好ましくはヘキサナールの含有量が80質量部以下、2,4-ヘキサジエナールの含有量が10質量部以下、2,4-ヘプタジエナールの含有量が160質量部以下、及び/又は2,4-デカジエナールの含有量が40質量部以下であることを特徴とする、請求項1に記載する苦丁茶加工物。
【請求項4】
苦丁茶の基原植物が大葉冬青(Ilex latifolia Thunb.)、苦丁茶冬青(Ilex kudingcha C.J.Tseng,Ilex kaushue S.Y.Hu)、または紫茎女貞(Ligustrum purpurascens Y.C.Yang)である、請求項1~
3のいずれかに記載する苦丁茶加工物。
【請求項5】
下記(1)~(2)の工程、または下記(1)~(3)を有する、苦丁茶加工物の製造方法:
(1)苦丁茶の基原植物の一部または全部を水蒸気蒸留する工程、
(2)上記水蒸気蒸留工程後に残った基原植物の一部または全部を水または水と水溶性有機溶媒との混合液を用いて抽出処理し、抽出液を回収する工程、及び
(3)上記工程で得られる抽出液を、樹脂を用いて吸着・脱着処理することにより苦味を有する成分を含む画分を回収する工程。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれかに記載する苦丁茶加工物の製造方法である、請求項
5に記載する製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至
4のいずれに記載する苦丁茶加工
物を含む食品。
【請求項8】
ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナールの総含有量が80ppm未満、好ましくは20ppm未満である、請求項
7に記載する食品。
【請求項9】
さらに苦味素材、酸味素材及び鹹味素材からなる群より選択されるいずれか少なくとも1種を含有する請求項
7または
8に記載する食品。
【請求項10】
請求項1乃至
4のいずれに記載する苦丁茶加工
物を含む食品用組成物。
【請求項11】
前記食品用組成物が呈味改善剤である請求項
10に記載する食品用組成物。
【請求項12】
前記呈味改善剤が、苦味付与剤、酸味増強剤または塩味増強剤である請求項
11に記載する食品用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は苦丁茶加工物、及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は苦丁茶特有の不快な風味を低減することで風味を改善した苦丁茶加工物、及びその製造方法に関する。また本発明は、かかる風味を改善した苦丁茶加工物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
苦丁茶は、主に中国の南部地方で茶(Camellia sinensis (L.) Kuntzeを原料とする茶)の代用として古来より飲用されてきた茶である。中国では、古くから多くの薬効(解熱、解毒、炎症を治す、鎮痛、血液循環を良くする等)が知られ、治療に使用されていたが(非特許文献1)、近年では、さらにコレステロール及び血中脂質低下作用、アテローム性動脈硬化抑制作用、抗酸化作用、糖尿病改善作用(以上、特許文献1及び2等参照)等、生活習慣病を改善するうえで有用な多くの生理作用があることが知られるようになり、健康茶として注目されている。
【0003】
しかし、苦丁茶は、その名の通り、極めて苦味が強いため、飲用しづらいという問題がある。これを解消するための方法として、苦丁茶抽出物にγ-シクロデキストリンを配合する方法(特許文献3参照)、及び苦丁茶葉を乳酸発酵する方法(特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-315409号公報
【文献】国際公開パンフレットWO2012/100612号
【文献】特開2004-57153号公報
【文献】特開2006-296338号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】根岸紀、「苦丁茶の成分と機能性」、日本食生活学会誌、2007, 18, 1, p.25-31
【文献】根岸紀、「ポリフェノール化合物とポリフェノールオキシダーゼの反応系を利用した消臭方法」ソフト・ドリンク技術資料, 2005, No.145, p.21-33
【文献】横澤隆子、野中源一郎、「苦丁茶を探る」、FOOD Style 21, 2005, 7, p.77-80
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、嗜好性の多様化により「苦味」も呈味の一つとして好まれるようになってきている。また、飲食物に味の広がりや深みを付与する目的で、敢えて苦味を付与した飲食物も増えてきている。こうした状況に鑑み、本発明者らは、苦丁茶について、苦味成分としての利用を検討していたところ、苦丁茶には特有の青臭さ(グリーン臭)及び脂肪臭があり、これが苦丁茶の不快な風味に結びついており、苦丁茶に対する嗜好性を低下させている要因の一つであると考えた。
【0007】
そこで、本発明は、苦丁茶に不快な風味をもたらしている要因である青臭さ及び/又は脂肪臭を低減し、苦丁茶の風味を改善してなる苦丁茶加工物を提供することを目的とする。また、本発明は当該苦丁茶加工物を製造する方法、言い換えれば苦丁茶加工物の風味改善方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は青臭さ及び/又は脂肪臭が低減され、風味が改善されてなる苦丁茶加工物の用途、具体的には呈味改善剤としての用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきたところ、苦丁茶葉について、抽出処理に先立ち、水蒸気蒸留処理を行うことで、苦丁茶特有の青臭さ及び脂肪臭が低減されることを確認した。さらに、上記方法で得られた苦丁茶葉エキスは、苦丁茶葉を水蒸気蒸留処理することなく、単に抽出処理したものと比較して、雑味が有意に低減されており、その結果、苦丁茶特有の苦味がクリア(明快)に、またシャープ(鋭い)に感じられることを確認した。つまり、苦丁茶葉について、抽出処理に先立ち、水蒸気蒸留処理を行うことで、苦味に特徴づけられる苦丁茶の風味が総合的に改善されることを見出した。
【0009】
さらに本発明者らは、上記方法で製造される苦丁茶加工物の各種用途を検討していたところ、食品に添加することで当該食品に苦味を付与または増強するだけに留まらず、対象とする食品に応じて酸味または塩味を増強する効果を発揮することを確認した。以上のことから、前記の方法で製造される苦丁茶加工物は、それ自体、苦丁茶等の食品として使用されるほか、呈味改善剤、特に苦味付与剤、酸味増強剤または塩味増強剤など、食品用組成物として有効に使用できると考えられる。
【0010】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を包含するものである。
(I)苦丁茶加工物の製造方法
(I-1)下記の工程を有する、苦丁茶加工物の製造方法:
(1)苦丁茶の基原植物の一部または全部を水蒸気蒸留する工程(水蒸気蒸留工程)、及び
(2)上記水蒸気蒸留工程後に残った基原植物の一部または全部を水または水と水溶性有機溶媒との混合液を用いて抽出処理し、抽出液を回収する工程(抽出工程)。
(I-2)さらに下記の工程を有する、(I-1)に記載する製造方法:
(3)前記抽出工程で得られる抽出液を、樹脂を用いて吸着・脱着処理することにより苦味成分を含む画分を回収する工程。
(I-3)苦丁茶の基原植物が、大葉冬青(Ilex latifolia Thunb.)、苦丁茶冬青(Ilex kudingcha C.J.Tseng,Ilex kaushue S.Y.Hu)、または紫茎女貞(Ligustrum purpurascens Y.C.Yang)である、(I-1)または(I-2)に記載する製造方法。
(I-4)風味が改善された苦丁茶加工物、好ましくは青臭さと脂肪臭が低減された苦丁茶加工物を製造する方法である、(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する製造方法。
【0011】
(II)苦丁茶加工物の風味改善方法
(II-1)下記の工程を有する、苦丁茶加工物の風味改善方法:
(1)苦丁茶の基原植物の一部または全部を水蒸気蒸留する工程(水蒸気蒸留工程)、及び
(2)上記水蒸気蒸留工程後に残った基原植物の一部または全部を水または水と水溶性有機溶媒との混合液を用いて抽出処理し、抽出液を回収する工程(抽出工程)。
(II-2)さらに下記の工程を有する、(II-1)に記載する風味改善方法:
(3)前記抽出工程で得られる抽出液を、樹脂を用いて吸着・脱着処理することにより苦味成分を含む画分を回収する工程。
(II-3)苦丁茶の基原植物が、大葉冬青(Ilex latifolia Thunb.)、苦丁茶冬青(Ilex kudingcha C.J.Tseng,Ilex kaushue S.Y.Hu)、または紫茎女貞(Ligustrum purpurascens Y.C.Yang)である、(II-1)または(II-2)に記載する風味改善方法。
【0012】
(III)苦丁茶加工物
(III-1)前記(I-1)~(I-4)のいずれに記載する製造方法で得られる苦丁茶加工物。
(III-2)苦丁茶の基原植物が、大葉冬青(Ilex latifolia Thunb.)、苦丁茶冬青(Ilex kudingcha C.J.Tseng,Ilex kaushue S.Y.Hu)、または紫茎女貞(Ligustrum purpurascens Y.C.Yang)である、(III-1)に記載する苦丁茶加工物。
(III-3)下表に示される21種の化合物(トリテルペン配糖体)の含有量100質量部に対して、ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナールの含有量が総量で1200質量部以下、好ましくはヘキサナールの含有量が310質量部以下、2,4-ヘキサジエナールの含有量が40質量部以下、2,4-ヘプタジエナールの含有量が620質量部以下、及び2,4-デカジエナールの含有量が160質量部以下であることを特徴とする、苦丁茶加工物。
【表1】
[UHPLC条件]
装置:SHIMADZU社製UHPLC(Nexera X2)
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 (100mm×2.1mm I.D.,1.7 μm)
カラム槽温度:30℃
移動相:(A)0.1容量% ギ酸水溶液、 (B)0.1容量% ギ酸含有アセトニトリル
グラジエント(linear):(B)5容量%(0min)→60容量%(70min)→100容量%(75min)
流速:0.2 mL/min
注入量:5μL
[TOF/MS条件]
装置:AB SCIEX社製TOF/MS(Triple TOF 5600+ System)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)ネガティブ
質量範囲:m/z 50~2000。
【0013】
(III-5)上記21種の化合物(トリテルペン配糖体)の含有量100質量部に対して、ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナールの含有量が総量で280質量部以下、好ましくはヘキサナールの含有量が80質量部以下、2,4-ヘキサジエナールの含有量が10質量部以下、2,4-ヘプタジエナールの含有量が160質量部以下、2,4-デカジエナールの含有量が40質量部以下であることを特徴とする、(III-4)に記載する苦丁茶加工物。
(III-6)苦丁茶加工物が、苦丁茶の基原植物の水蒸気蒸留処理後の残留植物の抽出物である、(III-1)~(III-5)のいずれかに記載する苦丁茶加工物。
【0014】
(IV)食品または食品用組成物
(IV-1)(III-1)~(III-7)のいずれに記載する苦丁茶加工物を含む食品または食品用組成物。
(IV―2)前記食品が加工食品である(IV-1)に記載する食品または食品用組成物。
(IV―3)ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナールの総含有量が80ppm未満、好ましくは60ppm以下、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下、特に好ましくは20ppm未満である、(IV-1)または(IV-2)に記載する食品または食品用組成物。
(IV―4)前記食品がさらに苦味素材、酸味素材及び鹹味素材からなる群より選択されるのいずれか少なくとも1種を含有する加工食品である(IV-1)~(IV-3)のいずれかに記載する食品または食品用組成物。
(IV-5)前記食品用組成物が呈味改善剤である(IV-1)または(IV-3)に記載する食品または食品用組成物。
(IV-6)前記呈味改善剤が苦味付与剤、酸味増強剤または塩味増強剤である(IV-5)に記載する食品または食品用組成物。
【0015】
(V)被験食品の呈味改善方法
(V-1)(III-1)~(III-5)のいずれに記載する苦丁茶加工物を被験食品に配合する工程を有する、被験食品の呈味を改善する方法。
(V-2)上記被験食品の呈味の改善が、被験食品に苦味を付与する方法、被験食品の苦味を増強する方法、被験食品の酸味を増強する方法、被験食品の塩味を増強する方法、及び/または、これらの少なくとも1つの方法によって派生して得られる呈味増強または呈味改善方法である、(V-1)に記載する方法。
(V-3)上記被験物の呈味の改善がビール、コーヒー飲料、紅茶飲料若しくは茶飲料の風味を増強もしくは改善する方法、または果汁感若しくは果皮感(ピール感)の増強若しくは改善する方法である、(V-1)に記載する方法。
【0016】
なお、本発明でいう「食品」という用語には、アルコール飲料を含む飲料形態の食品も包含される。また本明細書において不快臭(青臭さ及び/または脂肪臭)または雑味が「低減された」という場合の「低減」には、不快臭(青臭さ及び/または脂肪臭)または雑味がゼロまで低減される場合のみならず、その一部が低減される場合も包含される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、苦丁茶の基原植物の一部または全部について、抽出処理に先立ち水蒸気蒸留処理を行うことで、苦丁茶特有の青臭さ及び/または脂肪臭が有意に低減された苦丁茶加工物を調製することができる。また、本発明の製造方法によれば、苦丁茶の基原植物の一部または全部を単に抽出処理したものと比較して、雑味が有意に低減された苦丁茶加工物を調製することができる。斯くして調製された苦丁茶加工物は、青臭さ及び/または脂肪臭が低減されるとともに、雑味が低減されているため、苦丁茶特有の苦味をクリア(明快)に、またシャープに(鋭く)感じることができ、苦丁茶特有の苦味を活かした風味のよい苦丁茶加工物として提供することができる。
【0018】
本発明の苦丁茶加工物は、前述する特徴を有するため、そのもの自体が健康茶(粉末、顆粒状の茶を含む)を始めとする各種食品(加工食品)またはその素材として有用であるほか、対象とする食品の呈味を改善する(例えば、苦味を付与する、酸味を増強する、及び/または塩味を増強する等)目的で、各種加工食品を製造する際に添加配合する食品用組成物(例えば、苦味付与剤、酸味増強剤、または塩味増強剤などの呈味改善剤)として、また調味料としても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(I)苦丁茶加工物の製造方法
本発明の苦丁茶加工物の製造方法は、下記(1)及び(2)の工程を有することを特徴とする。より詳細には、苦丁茶の基原植物を(2)の抽出処理に供する前に、(1)の水蒸気蒸留処理に供することを特徴とする:
(1)苦丁茶の基原植物の一部または全部を水蒸気蒸留する工程(水蒸気蒸留工程)、及び
(2)上記水蒸気蒸留工程後に残った基原植物の一部または全部(残留植物)を水または水と水溶性有機溶媒との混合液を用いて抽出処理し、抽出液を回収する工程(抽出工程)。
【0020】
また(2)の抽出処理によって得られた抽出液は、さらに下記の(3)の工程に供することもできる:
(3)上記抽出工程で得られる抽出液を、樹脂を用いて吸着・脱着処理することにより苦味成分を含む画分を回収する工程。
【0021】
苦丁茶の基原植物としては、従来より苦丁茶の原料として利用されている下記の5科5属10種の植物を挙げることができる(非特許文献1~3参照)。
(1) 紫茎女貞(学名:Ligustrum purpurascens Y.C.Yang,科名:モクセイ科(Oleaceae),産地:雲南)
(2) 序梗女貞(学名:Ligustrum pedunculare Rehd.,科名:モクセイ科(Oleaceae),産地:四川)
(3) 日本毛女貞(学名:L.japonicum var.pubescens Koidz.,科名:モクセイ科(Oleaceae),産地:貴州)
(4) 粗壮女貞(学名:L.robustum (Roxb.) Bl., 科名:モクセイ科(Oleaceae),産地:貴州)
(5) 枸骨(学名:Ilex cornuta Lindl. ex Paxt.,科名:モチノキ科(Aquifoliaceae),産地:浙江)
(6) 苦丁茶冬青(学名:Ilex kudingcha C.J.Tseng,Ilex kaushue S.Y.Hu,科名:モチノキ科(Aquifoliaceae),産地:広西)
(7) 大葉冬青(学名:Ilex latifolia Thunb.,科名:モチノキ科(Aquifoliaceae),産地:浙江・湖南)
(8) 毛葉牛黄木(学名:Cratoxylum prunifolium(Kurz)Dyer,科名:オトギリソウ科(Guttiferae),産地:広西)
(9) 厚売樹(学名:Ehretia thysiflora(S.etZ.)Nakai,科名:ムラサキ科(Boraginaceae),産地:広西)
(10) 石南(学名:Photinia serrulata Lindl.,科名:バラ科(Rosaceae),産地:浙江)。
【0022】
制限はされないが、上記のうち、好ましくはモチノキ科またはモクセイ科に属する植物である。なかでもモチノキ科に属する植物としては大葉冬青、及び苦丁茶冬青を、モクセイ科に属する植物として紫茎女貞を挙げることができる。より好ましくは大葉冬青である。
【0023】
上記基原植物の使用部位は、特に制限されず、例えば全草、またはその一部(葉、枝、枝葉、幹、花、花穂、花弁、根、根茎、又は種子)を広く用いることができる。好ましくは葉、枝、枝葉、及びそれを含む部位であり、より好ましくは葉、枝葉、及びそれを含む部位である。基原植物のこれらの部位は、上記(1)の水蒸気蒸留処理に供される前に、予め、細断(破砕及び粉砕を含む)処理や乾燥処理に供されていてもよく、また本発明の効果を妨げないことを限度として、萎凋処理、蒸熱処理、揉捻処理、及び乾燥処理等、一般的な茶の加工処理に供されていてもよい。また水蒸気蒸留処理の前に、予め水にて湿潤させておいてもよい。
【0024】
水蒸気蒸留処理は、植物から香気成分(アロマ)を得るための方法として、従来から広く知られている方法である(例えば、藤巻正生ら「香料の事典」p.366、1980年8月27日発行、朝倉書店)。具体的には、水蒸気蒸留処理は、上記原料とする基原植物(以下、使用部位を含めて「原料植物」と総称する)に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに濃縮させる方法である。より具体的には、制限されないものの、上記原料植物を仕込んだ水蒸気蒸留釜の底部から水蒸気を吹き込み、上部の留出側に接続した冷却器で留出蒸気を冷却することにより、凝集物として揮発性香気成分を含有する留出液を捕集する方法を例示することができる。本発明では、水蒸気蒸留処理は、上記原料植物から香気成分を除去し、当該香気成分が低減された原料植物を得るために使用される。次いで香気成分が低減された原料植物は(2)の抽出処理に供するために使用される。本発明において、水蒸気蒸留処理は、留出除去(留去)する香気成分に応じて、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留のいずれかの蒸留手段を採用することができる。好ましくは常圧水蒸気蒸留処理である。
【0025】
本発明では、水蒸気蒸留は、好ましくは原料植物に含まれる苦丁茶特有の青臭さ(グリーン臭)の原因となる香気成分が除去できるように設定することができる。また好ましくは苦丁茶特有の脂肪臭(脂っぽい匂い、アルデヒド臭)の原因となる香気成分が除去できるように設定することができる。なお、苦丁茶特有の青臭さ(グリーン臭)の原因となる香気成分としては、ヘキサナール(沸点119-124℃)を例示することができる。また制限されないものの、苦丁茶特有の脂肪臭(脂っぽい匂い、アルデヒド臭)の原因となる香気成分としては、2,4-ヘキサジエナール(沸点170-173℃)、2,4-ヘプタジエナール(沸点177.2-177.4℃)、及び/または2,4-デカジエナール(沸点244-245℃)等を例示することができる。水蒸気蒸留の温度条件としては、上記目的が達成できる限り制限されないものの、常圧水蒸気蒸留の場合は100℃以上の水蒸気で処理を行うことが好ましい。また水蒸気蒸留の蒸気流量や処理時間も、上記目的が達成できる限り制限されないものの、例えば処理時間としては10分~5時間程度を例示することができる。このようにして、原料植物1質量部に対して、原料植物の香気成分を含む例えば0.1~10質量部程度の留出液、好ましくは1~5質量部を留去することができる。
【0026】
上記水蒸気蒸留処理により香気成分が留去された後の植物(残留植物)は、次いで(2)の抽出処理に供される。
【0027】
抽出処理で使用される抽出溶媒としては、水または水と水溶性有機溶媒との混合液(含水有機溶媒)を挙げることができる。好ましくは水である。なお、水とともに使用される水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、及び1-ブタノール等を例示することができる。これらは1種または2種以上を組み合わせて、水と併用することができる。好ましくはエタノールである。かかる含水有機溶媒に含まれる有機溶媒の割合としては、制限されないものの、エタノールの場合は95容量%以下、好ましくは85容量%以下、より好ましくは75容量%以下とすることができる。
【0028】
抽出処理は、静置浸漬、振盪、撹拌または循環等の任意の条件で行うことができ、これらの条件は任意に組み合わせることもできる。かかる抽出処理は、公知の抽出装置を用いて行うことができる。かかる抽出装置としては、前記残留植物と抽出溶媒とが接触した状態で保持できるものであればよく、例えばカラム型抽出機、ニーダー型抽出機、向流抽出機などを挙げることができる。また抽出温度、抽出時間も任意に設定することができる。抽出温度は、使用する抽出溶媒に応じて4~100℃の範囲で適宜設定することができ、制限されないが、好ましくは20~100℃、より好ましくは40~95℃である。抽出時間も使用される抽出操作に依拠して、例えば10分~50時間の範囲から適宜選択することができる。より具体的には、制限されないものの、残留植物の重量に対して1~200倍量の抽出溶媒を用い、20~100℃、より好ましくは40~95℃の温度にて残留植物に通液する方法や、当該温度の抽出溶媒に残留植物を10分~120分程度浸漬保持する方法、さらにこれらの方法を組み合わせて抽出する方法を例示することができる。
【0029】
上記抽出処理後、濾過、遠心分離、沈殿またはデカント等の任意の固液分離方法により、抽出液を植物残渣から分離し回収する。なお、斯くして得られる植物残渣は、再度抽出処理に供することもでき、前記抽出処理を繰り返すことで回収される抽出液は、初回の抽出液と混合して、苦丁茶加工物として調製することもできる。
【0030】
前記抽出処理により回収される抽出液は、その後、濃縮し、必要に応じて乾燥することで苦丁茶加工物として調製することができる。なお、濃縮処理は、制限されないものの、エバポレーターを用いた減圧濃縮方法、機能性高分子膜(UF膜、RO膜)またはセラミック膜を用いた濃縮方法、噴霧乾燥方法、凍結乾燥方法など、任意の方法を用いて実施することができる。
【0031】
後述する実験例4に示すように、前述する(1)の水蒸気蒸留処理に加えて上記(2)の抽出処理を行うことで、苦丁茶特有の青臭さや脂肪臭が低減できるだけでなく、苦丁茶の基原植物に由来する雑味を低減することができ、その結果、苦丁茶の苦味がよりクリア(明快)に、またシャープ(鋭い)に感じられるようになる。
【0032】
上記で得られた抽出液は、さらに(3)の樹脂による吸着・脱着処理に供してもよい。 吸着・脱着処理は、前記抽出処理で得られる抽出液を吸着剤に吸着させ、次いで含水エタノールを用いて脱着させることで実施することができる。ここで使用される吸着剤としては、制限されないものの、例えばスチレンとジビニルベンゼンの共重合体、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼンの共重合体、2,6-ジフェニル-9-フェニルオキサイドの重合体、メタクリル酸とジオールの重縮合ポリマー、メタクリル酸エステル系樹脂、シリカゲル表面のシラノール基の反応性を利用して、これに例えばアルコール類、アミン類、シラン類などを化学結合させた化学結合型シリカゲル(修飾シリカゲル)等の合成吸着剤を例示することができる。かかる合成吸着剤の好ましい例としては、その表面積が、例えば300m2/g以上、より好ましくは500m2/g以上、細孔分布が好ましくは約10Å~約500Åである多孔性重合樹脂を例示することができる。かかる条件に該当する多孔性重合樹脂としては、例えばダイヤイオンHP樹脂(ダイヤイオンHP20、同HP21、HP2MG)、セパビーズSP樹脂(セパビーズSP825、同SP850、同SP207、同SP70、同SP700)(以上、三菱化学(株)製);アンバーライトXAD樹脂(アンバーライトXAD-4、同XAD-7HP、同XAD-16HP、同XAD1180、同XAD2000(以上、オルガノ(株)製);ピュロライトPAD樹脂(PAD300、PAD350、PAD400、PAD500、PAD550、PAD600、PAD610、PAD700、PAD900、PAD910、PAD950(以上、ピュロライト(株)製))等の疎水性合成吸着剤を例示することができる。好ましくはダイヤイオンHP20、同HP21、同HP2MG、セパビーズSP70、同700、アンバーライトXAD-7HP、同XAP-4、ピュロライト PAD610、同PAD900、同PAD910である。
【0033】
前記抽出処理で得られた抽出液は、まず、これらの吸着剤を充填したカラムに通液して吸着させる(カラム法)。カラムに充填する吸着剤(樹脂)の量は、抽出液に含まれる固形分の3倍(質量部)以上とすることが好ましい。抽出液を通液する際、SV(space velocity)を適度に調節することが好ましく、例えば吸着剤としてダイヤイオンHP樹脂やアンバーライトXAD樹脂を使用する場合は、通常SV0.5~10程度、好ましくはSV1~6程度の条件を例示することができる。他の樹脂を使用する場合も、これに準ずる条件を採用することができる。次いで、同様のSV条件でイオン交換水または水道水を通液して吸着剤を洗浄する。吸着剤からの脱着は、溶出液として水溶性有機溶媒(極性プロトン性溶媒、極性非プロトン性溶媒)を用いて行うことが好ましく、好ましくはエタノールまたは含水エタノールが使用される。含水エタノールを用いる場合のエタノール濃度としては、制限されないものの、例えば20~99.5容量%を例示することができ、この範囲から適宜選択設定することができる。なお、この場合の通液はSVを0.5~6程度、好ましくはSV1~5程度の条件に設定することが好ましい。なお、当該吸着・脱着処理は、常温~80℃程度の温度で実施することができる。斯くして、目的とする苦味成分を含む画分を溶出、回収することができる。
【0034】
後述する実験例4に示すように、前述する(1)の水蒸気蒸留処理及び(2)の抽出処理に加えて、上記(3)の吸着・脱着処理を行うことで、苦丁茶特有の青臭さや脂肪臭が低減できるだけでなく、苦丁茶の基原植物に由来する雑味をより一層低減することができ、その結果、苦丁茶の苦味がよりクリア(明快)に、またシャープ(鋭く)に感じられるようになる。
【0035】
回収された苦味成分を含む画分(苦味を有する画分)は、その後、濃縮し、必要に応じて乾燥することで苦丁茶加工物として調製することができる。また必要に応じて、濃縮前に、濾過処理;冷置ろ過による不溶物除去;機能性高分子膜(UF膜、RO膜)またはセラミック膜等の膜を用いた高分子成分の除去;活性炭、シリカゲル、ポリビニルピロリドン、活性白土、または酸性白土等の吸着剤を利用した不純物の吸着処理(脱色処理を含む)などの公知の精製処理を施してもよい。濃縮処理は、制限されないものの、前述するエバポレーターを用いた減圧濃縮方法、機能性高分子膜(UF膜、RO膜)またはセラミック膜等の膜を用いた濃縮方法、噴霧乾燥方法、凍結乾燥方法など、任意の方法を用いて実施することができる。
【0036】
斯くして調製された苦丁茶加工物は、その形態を特に限定されることなく、液状及び固形状の形態を有することができる。ここで液状には、濃縮液のような粘稠液の形状も含まれる。また固形状には、粉末状、顆粒状、錠剤、丸剤などの形状が含まれる。
【0037】
(II)苦丁茶加工物
本発明は、前記の製造方法で得られる苦丁茶加工物に関する。本発明が対象とする苦丁茶加工物には、前述する(1)~(10)の基原植物の一部または全部(原料植物)から、前記(1)及び(2)の処理、または(1)~(3)の処理を経て調製される苦丁茶加工物が含まれる。好ましくは基原植物のうち、大葉冬青(Ilex latifolia Thunb.)、苦丁茶冬青(Ilex kudingcha C.J.Tseng,Ilex kaushue S.Y.Hu)、または紫茎女貞(Ligustrum purpurascens Y.C.Yang)の一部または全部を用い、当該原料植物から前記(1)及び(2)の処理、または(1)~(3)の処理を経て調製される苦丁茶加工物である。本発明の苦丁茶加工物は、前述する(1)の水蒸気蒸留処理を経て調製されることにより、苦丁茶特有の青臭さや脂肪臭が低減されていることを特徴とする。また、(1)の水蒸気蒸留処理に加えて、(2)の抽出処理、または(2)の抽出処理及び(3)の吸着・脱着処理を経て調製されることにより、苦丁茶特有の青臭さや脂肪臭が低減されているだけでなく、苦丁茶の基原植物に由来する雑味が低減されており、その結果、苦丁茶の苦味がよりクリア(明快)、またシャープ(鋭い)に感じられるようになっていることを特徴とする。
【0038】
ここで苦丁茶の苦味を呈する成分(苦味成分)は、トリテルペン配糖体(サポニン)である(非特許文献1等参照)。例えば、大葉冬青の葉にはlatifoloside A~H(total 800mg/kg)等のトリテルペン配糖体が含まれていることが知られている(非特許文献1)。
【0039】
本発明が対象とする苦丁茶加工物には、前述する表1に示すように、当該トリテルペン配糖体(サポニン)に該当する21種の化合物の少なくとも1つを含有する苦丁茶加工物が含まれる。
【0040】
当該21種の化合物はいずれも、後述する実験例1に記載するように、大葉冬青及び苦丁茶冬青から調製した苦丁茶加工物に含まれるトリテルペン配糖体(サポニン)であり、各々が本発明の苦丁茶加工物の苦味を構成する成分であると考えられる。以下、本明細書において当該21種からなる化合物群に含まれる個々の化合物を総称して「本苦味成分」と記載する場合がある。
【0041】
当該苦丁茶加工物に含まれるこれらの各化合物は、下記条件の超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)及び飛行時間型質量分析計(TOF/MS)によるトータルイオンクロマトグラムにおいて、表1に記載する保持時間にピークを有する化合物として検出することができる。また、苦丁茶加工物における各化合物の含有量は、表1に記載する21ピークの各ピークエリア面積値と、外添した既知量の標準物質(サイコサポニンb2)のピークエリア面積値との比率から概算することができる。またこれら各化合物の含有量の合計量が、当該苦丁茶加工物に含まれる上記各化合物(本苦味成分)の合計含有量になる。
【0042】
[UHPLC条件]
装置:SHIMADZU社製UHPLC(Nexera X2)
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 ( 100mm×2.1mm I.D.,1.7 μm)
カラム槽温度:30℃
移動相:(A)0.1容量% ギ酸水溶液、(B)0.1容量% ギ酸含有アセトニトリル
グラジエント(linear):(B)5容量%(0 min)→60容量%(70 min)→100容量%(75 min)
流速:0.2 mL/min
注入量:5μL
[TOF/MS条件]
装置:AB SCIEX社製TOF/MS(Triple TOF 5600+ System)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)ネガティブ
質量範囲:m/z 50~2000。
【0043】
本発明の苦丁茶加工物には、上記21種の化合物(本苦味成分)の含有量100質量部に対して、ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナールの総量が1200質量部以下、好ましくは840質量部、より好ましくは560質量部、さらに好ましくは280質量部である苦丁茶加工物が含まれる。これらの苦丁茶加工物は、より詳細には、本苦味成分100質量部に対するヘキサナールの含有量が310質量部以下、好ましくは235質量部以下、より好ましくは160質量部以下、さらに好ましくは80質量部以下であり;2,4-ヘキサジエナールの含有量が40質量部以下、好ましくは25質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下であり;2,4-ヘプタジエナールの含有量が620質量部以下、好ましくは470質量部以下、より好ましくは310質量部以下、さらに好ましくは160質量部以下であり;及び/または2,4-デカジエナールの含有量が160質量部以下、好ましくは120質量部以下、より好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下である苦丁茶加工物である。ここで、ヘキサナールは、主として苦丁茶特有の青臭さ(グリーン臭)の原因となる香気成分であり、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナールは主として苦丁茶特有の脂肪臭の原因となる香気成分である。これらの苦丁茶加工物には、これらの香気成分のうち1種または2種以上を含まない(検出限界以下)苦丁茶加工物、並びに4種のいずれも含まない(検出限界以下)苦丁茶加工物が含まれる。なお、ここで「含まない」とは、全く含まない場合のみならず、上記括弧内に記載するように、下記の検出方法及び条件によっては検出できない、つまり検出限界以下の場合が含まれる。
【0044】
苦丁茶加工物中に含まれ得るこれら4種の香気成分は、苦丁茶加工物をジエチルエーテルで抽出し、回収した抽出液(ジエチルエーテル層)に含まれる香気成分を、下記条件のGC/MSに供することで検出し、定量することができる。なお、ジエチルエーテルによる抽出は、常温(25±2℃)、常圧(大気圧)条件下で、苦丁茶加工物10gに対して2mLのジエチルエーテルを加えて振盪抽出(1回)することで実施することができる。
[GC/MS条件]
GC:Agilent Technologies 6890N
MS:Agilent Technologies 5973 inert MSD
カラム:Agilent J&W GCカラム-DB-WAX(60m, 0.25mmID, 0.25μm)
オーブン温度:50℃(2min hold)-3℃/min-220℃(75min hold)
(2分間50℃で維持し、その後3℃/minの割合で温度上昇させ、220℃になった時点で温度を維持し、それから75分間220℃を保持する)
注入口温度:250℃
注圧:25spi 定圧モード
キャリアガス:ヘリウム
ディテクタートランスファーライン温度:230℃
イオン化電圧:70eV
注入量:4μL
スプリット:20:1
スキャン:m/z30-300。
【0045】
具体的には、上記GC/MS分析により得られたトータルイオンクロマトグラム(TIC)によって検出される、既知量の外添3-ヘプタノール(標準物質)のピーク面積と上記各香気成分のピーク面積との比較により、苦丁茶加工物に含まれる上記各香気成分の量を概算することができる。
【0046】
(III)食品または食品用組成物
前述するように、本発明の苦丁茶加工物は、苦丁茶特有の青臭さや脂肪臭が低減されている。また苦丁茶の基原植物に由来する雑味も低減されており、その結果、苦丁茶の苦味がよりクリア(明快)に、またシャープに(鋭く)感じられるようになっている。このため、本発明の苦丁茶加工物は、そのまま食品(加工食品。例えば健康茶など)として使用することができる他、食品の原料として使用することもできる。さらに、加工食品の呈味を改善する目的で(具体的には、例えば食品に苦味を付与する目的、食品の酸味を増強する目的、及び/又は食品の塩味を増強する目的で)、加工食品の製造過程で原材料の一つとして使用したり、また、加工食品の調理前または調理後に添加配合して使用することもできる。
【0047】
斯くして本発明の苦丁茶加工物が配合された加工食品は、呈味が改善され、例えば前述する本発明の苦丁茶加工物の特徴であるクリア(明快)でシャープ(鋭い)な苦味を呈することができる。この場合、本発明の苦丁茶加工物の配合割合としては、それに含まれる21種の化合物(本苦味成分)の総量が3.225ppt以上になる割合を例示することができる。より強い苦味を希望する場合は、苦丁茶加工物に由来する本苦味成分の総量が6.45ppt以上、好ましくは12.9ppt以上、より好ましくは25.8ppt以上になる割合を例示することができ、所望する苦味の強さに応じて適宜選択することができる。
【0048】
クエン酸などの有機酸を始めとする酸味料を含有する加工食品については、本発明の苦丁茶加工物を配合することで、その酸味を増強することができる。この場合、本発明の苦丁茶加工物の配合割合としては、それに含まれる21種の化合物(本苦味成分)の量に換算して、本苦味成分の総量が3.225ppt以上になる割合を例示することができる。より強い酸味増強効果を希望する場合は、本苦味成分の総量が6.45ppt以上、好ましくは12.9ppt以上、より好ましくは25.8ppt以上になる割合を例示することができ、所望する酸味の強さに応じて適宜選択することができる。
【0049】
食塩を含有する加工食品については、本発明の苦丁茶加工物を配合することで、その塩味を増強することができる。この場合、本発明の苦丁茶加工物の配合割合としては、それに含まれる21種の化合物(本苦味成分)の量に換算して、本苦味成分の総量が3.225ppt以上になる割合を例示することができる。より強い塩味増強効果を希望する場合は、本苦味成分の総量が6.45ppt以上、好ましくは12.9ppt以上、より好ましくは25.8ppt以上になる割合を例示することができ、所望する塩味の強さに応じて適宜選択することができる。
【0050】
なお、本発明において「食品」とは、口から摂取される生鮮食品を除く加工食品を意味し、飲料も含まれる。また本発明の「食品用組成物」には、加工食品の原材料として供されるものが含まれ、その一つとして食品添加剤を例示することができる。
【0051】
ここで加工食品とは、天然の食材(生鮮食品)に様々な加工を加えた食品を意味し、制限されないものの、例えば冷凍食品、レトルト食品、インスタント食品(即席麺、ドライフーズ、粉末飲料等)、練り製品、缶詰、乾物、佃煮、漬け物、乳製品、飲料(清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、果実飲料、コーヒー飲料、茶系飲料、アルコール飲料、乳飲料、乳酸菌飲料)、総菜類、魚介加工食品等を例示することができる。また加工食品には、健康食品(サプリメントを含む)、特別用途食品(病者用食品、高齢者用食品を含む)、及び保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)も含まれる。
【0052】
特に苦丁茶は各種の生理作用を有する。このため、本発明の苦丁茶加工物は健康茶等の飲料として使用されるほか、機能性表示食品、特定保健用食品、及び健康食品(サプリメントを含む)として好適に使用することができる。なお、本発明が対象とする飲料には、固形飲料(例えば粉末飲料、顆粒状飲料など)と称されるものが含まれる。当該飲料は、苦丁茶加工物を含む乾燥粉末や顆粒状の形状を有するものであり、用時、水や牛乳などに混ぜて飲用される加工食品である。
【0053】
本発明の苦丁茶加工物の食品用組成物としての使用としては、呈味改善剤を挙げることができる。当該呈味改善剤は、好ましくは苦丁茶特有の苦味を利用した呈味料、特に苦味付与剤としての使用を例示することができる。なお、本発明でいう「苦味付与剤」の用語には、苦味のない食品に苦味を付与するために使用される苦味料としての意味と、苦味を有する食品の苦味を量的および/または質的に増強するために使用される苦味増強剤としての意味が、区別することなく含まれる。また苦味付与剤には、食品に苦味付与するか、または食品の苦味を増強することによって派生的に食品の呈味を改善する効果を奏するものも含まれる。例えば、ビールの苦味を増強することで派生的にビールの風味を増強または改善する場合、ならびカフェインやクロロゲン酸の苦味を増強することで派生的にコーヒー飲料、紅茶飲料または茶飲料の風味を増強または改善する場合も、本願発明が対象とする苦味付与剤に包含される。また本発明が対象とする呈味改善剤には、酸味増強剤、及び塩味増強剤が含まれる。酸味増強剤は、酸味を有する食品の酸味を量的および/または質的に増強するために使用されるものである。このため、当該酸味増強剤は、酸味料を減量することで減少した食品の酸味を補助(補強)するためにも使用することができる。ここで酸味を有する食品は、制限されないが、クエン酸などの有機酸を含有する食品、及び有機酸を始めとする酸味料を含有する食品を例示することができる。また酸味付与剤には、食品の酸味を増強することによって派生的に食品の呈味を改善する効果を奏するものも含まれる。例えば、果汁の酸味を増強することで派生的に果汁の風味を増強または改善する場合も、本願発明が対象とする酸味増強剤に包含される。塩味増強剤は、食塩含有食品の塩味を量的および/または質的に増強するために使用されるものである。このため、当該塩味増強剤は、食塩を減量することで減少した食品の塩味を補助(補強)するためにも使用することができる。また塩味増強剤には、食品の塩味を増強することことによって派生的に食品の呈味を改善する効果を奏するものも含まれる。例えば、味噌汁、スープ、漬物、及び梅干等の加工食品:ポテトチップス等の菓子類:魚介類や畜肉類の乾製品:しょうゆ、ソース、味噌及びコンソメ等の調味料の塩味を増強することで派生的にこれらの風味を増強または改善する場合も、本発明が対象とする塩味増強剤に含まれる。また、本発明が対象とする呈味改善剤には、ビール、コーヒー飲料、紅茶飲料または茶飲料の風味を増強または改善する効果、果汁感、果皮感(ピール感)を増強または改善する効果などを奏するものも含まれる。これらの食品用組成物は、前述する苦丁茶加工物に、必要に応じて、乳化剤、分散剤、懸濁剤、湿潤剤、安定剤、賦形剤(増量剤)等を配合し、乳剤、粉剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤等の形状に調製することもできる。
【0054】
このように本発明の苦丁茶加工物を食品用組成物として使用する場合、当該苦丁茶加工物は、呈味を改善する対象の被験食品やその原材料(被験物)に添加配合して使用される。斯くして、対象の被験食品に所望の呈味(苦味、酸味または塩味)を付与または増強することができる。
【0055】
このため、本発明は、被験物の呈味を改善する方法を提供するものである。当該方法には、対象とする被験物や目的に応じて、被験物に苦味を付与する方法、被験物の苦味を増強する方法、被験物の酸味を増強する方法、または被験物の塩味を増強する方法が含まれる。なお、本発明が対象とする「呈味改善効果」には、被験物に苦味を付与する、被験物の苦味を増強する、被験物の酸味を増強する、及び/または被験物の塩味を増強する結果にくわえて、上記の効果の結果として、派生的に得られる呈味改善効果も包含される。こうした例として、例えば、苦味増強に伴うビール風味の増強または改善効果、苦味増強効果に伴うコーヒー飲料、紅茶飲料または茶飲料の風味の増強または改善効果、酸味増強効果に伴う果汁感の増強または改善効果、苦味や酸味増強効果に伴う果皮感(ピール感)の増強または改善効果が例示される。但し、通常、飲み手は、こうした呈味改善効果が、前記の各効果から派生した効果であることを認識することはない。このため、本発明が対象とする「呈味改善効果」には、単純にビール、コーヒー飲料、紅茶飲料または茶飲料の風味を増強または改善する効果、果汁感または果皮感(ピール感)を増強または改善する効果が含まれる。当該本発明の方法は、前述する本発明の苦丁茶加工物を被験物に配合する工程を有することを特徴とする。被験物に配合する本発明の苦丁茶加工物の割合は、調製される被験物が本発明の苦丁茶加工物に起因して苦丁茶特有の効果を発揮する量であればよく、それを限度として特に制限されるものではない。詳細は前述並びに実験例の記載を参考にして設定することができる。
【0056】
本発明の苦丁茶加工物を添加することにより苦味を付与する、あるいはその他の呈味(酸味、塩味)を改善する対象の被験物としては、例えば、以下の食品、並びに当該食品を製造するための原材料を挙げることができる。
栄養ドリンク、エネルギー飲料、おかき類、カクテル、果汁飲料、ガム、カレー、シチュー、グミ、ゼリー、炭酸飲料、チューハイ、果汁飲料、グミ、ゼリー、炭酸飲料、チューハイ、機能性飲料、キャラメル、キャラメルアイス、キャラメルソース、キャンディ、クッキー、ビスケット、ケーキ類、紅茶飲料、コーヒー飲料、コーヒーゼリー、清涼飲料、惣菜、茶飲料、チョコレート、チョコレートアイス、チョコレートソース、チョコレートプリン、トニックウォーター、ノンアルコールビール、ノンアルコールチューハイ、パスタソース、ビール、ビール風味飲料、モルト飲料、野菜果汁飲料、野菜ジュース、冷菓、ワイン風飲料、割材。
【0057】
本発明の苦丁茶加工物は、他の苦味素材と組合せて食品用組成物(例えば、苦味調味料)として調製使用することもできる。組合せとして使用できる苦味素材としては、例えば、アガリクス、アンゼリカ、イソアルファ苦味酸(イソα酸)、イソクエルシトリン、イソツツジ、イソフラボン類、ウコン、エラブ酸、オウレン、オリーブ、オールスパイス、オルガノ、カカオ、カキドオシ、カテキン類、カフェイン、カワラタケ、キナ、キハダ、キュンメル、クミン、グラントアイビー、クルミ、グレープフルーツ、クローブ、クロロゲン酸類、ケルセチン、ゲンチアナ、ゲントース、コーヒー、カフェ酸、コリアンダー、サフラン、サルビア、シナモン、ジャマイカカッシア、ジュニパーベリー、ショウガ、セイヨウノコギリソウ、セージ、セロリ、センブリ、ターメリック、ダイコン、ダイダイ、タイム、タチヤナギ、タマネギ、タラ、タラゴン、タンニン、チャ、ディル、テオブロミン、ナツミカン、ナリンギン、ニガウリ、ニガキ、ニガヨモギ、パセリ、ハーブ、ヒキオコシ、フェンネル、ブドウ種子抽出物、フムロン類、ベイリーブス、ベドニー、ペパーミント、ホップ、ボラペット、ポリメトキシフラボン類、マグワート、マジョラム、ミリシトリン、ミリセチン、メラノイジン、ヤマモモ抽出物、ユズ、ヨモギ、リモニン、リンドウ、ルチン、ルテオリン、ローズマリー、ローレル、ワイン濃縮物、苦味アミノ酸、苦味ペプチド、酵素処理イソクエルシトリン、酵素処理ルチン、香辛料抽出物、酵母エキス、高麗人参、小麦蛋白加水分解物、胆汁酸、霊芝、無機塩(塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三マグネシウムなど)などが挙げられる。これら苦味素材のうち、1種または数種と組み合わせることにより、特徴的な苦味を付与することができる。
【0058】
本発明の苦丁茶加工物は、他の酸味素材と組合せて食品用組成物(酸味調味料)として調製使用することもできる。組合せとして使用できる酸味素材としては、制限されないものの、例えばクエン酸、乳酸、酢酸(氷酢酸を含む)、DL-リンゴ酸、DL-酒石酸、L-酒石酸、フマル酸、フィチン酸、アジピン酸、イタコン酸、グルコン酸、α-ケトグルタル酸、及びコハク酸等の有機酸;リン酸、塩酸及び硫酸等の無機酸;並びにこれらのアルカリ金属塩(例えば、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、及びDL-リンゴ酸ナトリウムなど);グルコノデルタラクトン等が挙げられる。これら酸味素材のうち、1種または数種と組み合わせることにより、その酸味を増強することができる。好ましくはクエン酸などの有機酸またはその塩である。
【0059】
本発明の苦丁茶加工物は、他の鹹味素材と組合せて食品用組成物(鹹味調味料)として調製使用することもできる。組合せとして使用できる鹹味素材としては、制限されないものの、例えば食塩、塩化カリウム、塩水湖水低塩化ナトリウム液、粗製海水塩化カリウム、ホエイソルト、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸三ナトリウム等が挙げられる。これら鹹味素材のうち、1種または数種と組み合わせることにより、その塩味を増強することができる。好ましくは食塩、塩化カリウム、塩水湖水低塩化ナトリウム液、粗製海水塩化カリウム、ホエイソルトであり、より好ましくは食塩である。
【0060】
以上、本明細書において、「を含有する」または「を含む」という用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び実験例等に基づいて本発明を説明する。但し、当該実施例等は本発明の理解を容易にするために一例にすぎず、本発明はこれらの実施例等に何ら制限されるものではない。なお、以下、特に言及しない限り、製造及び実験における温度及び気圧条件は、常温(25±2℃)及び常圧(大気圧)である。
【0062】
製造例
苦丁茶の葉を原料として用いて、各種の苦丁茶加工物(サンプルA~E)を調製した。なお、苦丁茶葉として、サンプルA~C(比較例1、実施例1及び2)の調製には中国海南島産の大葉冬青の乾燥茶葉を、サンプルD~E(実施例3)の調製には中国広西省産の苦丁茶冬青の乾燥茶葉を使用した。下記に具体的な製造方法を説明する。
【0063】
(1)比較例1:サンプルAの調製
1cm角に裁断した乾燥苦丁茶葉18.1gを入れた容器に90℃のイオン交換水543.1gを投入し、これを93℃の湯浴を用いて加熱しながら浸漬抽出した。1時間にわたり加熱浸漬抽出を行った後、得られた抽出物を30℃まで冷却し、濾紙でろ過して抽出残渣(茶葉)を除去した。回収した抽出液481.0gを、苦丁茶化合物(サンプルA)とした。
【0064】
(2)実施例1:サンプルBの調製
1cm×5cm角に裁断した乾燥苦丁茶葉100gを、常圧下、蒸気温度100℃、蒸気流量0.29L/hrの条件で水蒸気蒸留に供し、アロマ留分(液状)500gを除去した。なお、後述する実験例2に示すように、当該アロマ留分は、それに含まれる香気成分を分析同定するために別途回収保存しておいた。
【0065】
水蒸気蒸留後の残留茶葉をカラム型抽出機に充填し、92℃のイオン交換水1200gを茶葉上部より投入した後、そのまま40分間、浸漬した。その後、カラム型抽出機下部より抽出液を回収し、1次エキス1439gを得た。さらにカラム型抽出機内に保持された抽出残茶葉に92℃のイオン交換水1200gを投入してそのまま20分間浸漬した。その後、カラム型抽出機下部より抽出液を回収し、2次エキス1159gを得た。さらにカラム型抽出機内に保持された抽出残茶葉に92℃のイオン交換水1200gを投入してそのまま20分間浸漬した。その後、カラム型抽出機下部より抽出液を回収し、3次エキス1182gを得た。上記で得られた1次エキス、2次エキス、及び3次エキスを混合して、苦丁茶加工物(サンプルB)3780gを得た。
【0066】
(3)実施例2:サンプルCの調製
上記で調製した苦丁茶加工物(サンプルB)3780gを、合成吸着剤(ダイヤイオンHP20:三菱化学株式会社製)0.135Lを充填した樹脂充填カラム(樹脂充填量:内径φ25mm×400mm)に、SV=5.0の条件で通液した。その後、イオン交換水0.54LをSV=4.0の条件で通液し、洗浄した。次いで、エタノール濃度が95容量%のエタノール水溶液をSV=2.0の条件で通液し、その溶出液を苦丁茶加工物(サンプルC)92.5gとして取得した(エタノール濃度:約90容量%)。なお、上記樹脂充填カラムは、苦丁茶加工物を通液する前に、予め4質量%水酸化ナトリウム水溶液700mLを通液後、水道水1Lで水洗し、ついで1質量%硫酸水溶液700mLを通液後、水道水1Lを流すことで平衡化したものを使用した。
【0067】
(4)実施例3:サンプルD及びEの調製
1cm×1cm角に裁断した乾燥苦丁茶葉5.0kgを、常圧下、蒸気温度100℃、蒸気流量225L/minの条件で水蒸気蒸留に供し、アロマ留分(液状)25kgを除去した。
【0068】
水蒸気蒸留後の残留茶葉をカラム型抽出機に充填し、92℃の水道水30kgを茶葉上部より投入した後、カラム型抽出機下部より抽出液を回収した。回収した抽出液を再加温(65℃以上)して、再びカラム型抽出機中の茶葉上部に回しかけながら投入した。カラム型抽出機下部より抽出液を回収し、上記操作を繰り返すことで、60分間循環抽出した。60分間の循環抽出処理後、カラム型抽出機下部より抽出液を回収することで、1次エキス22.6kgを得た。次いで、カラム型抽出機内に保持された抽出残茶葉に、新たに92℃の水道水15kgを茶葉上部より投入した後、前記と同様に、カラム型抽出機下部より抽出液を回収し、再加温(65℃以上)した液を順次茶葉上部に回しかける操作を繰り返すことで、20分間循環抽出した。20分間の循環抽出処理後、カラム型抽出機下部より抽出液を回収することで、2次エキス13.6kgを得た。さらにカラム型抽出機内に保持された抽出残茶葉に、新たに92℃の水道水10kgを投入し、10分間浸漬した。その後、カラム型抽出機下部より抽出液を回収することで、3次エキス10kgを得た。上記で得られた1次エキス、2次エキス、及び3次エキスを混合した後、これを0.5μmカートリッジフィルター(PALL社製)にてろ過して、苦丁茶加工物(サンプルD)46.2kgを得た。
【0069】
このうち30.3kgの苦丁茶加工物を、合成吸着剤(アンバーライトXAD-7HP:オルガノ株式会社製)5.0Lを充填した樹脂充填カラム(樹脂充填量:内径φ110mm×530mm)に、SV=4.0の条件で通液した。その後、イオン交換水15LをSV=4.0の条件で通液し、洗浄した。次いで、エタノール濃度が55容量%のエタノール水溶液を用いてSV=2.0の条件で通液し、その溶出液を苦丁茶加工物(サンプルE)5.0kgとして取得した。なお、上記樹脂充填カラムは、苦丁茶加工物(サンプルD)を通液する前に、予め4質量%水酸化ナトリウム水溶液10Lを通液後、水道水50Lで水洗し、ついで1質量%硫酸水溶液10Lを通液後、水道水50Lを流すことで平衡化したものを使用した。
【0070】
実験例1 苦丁茶加工物中のサポニン類の分析
前記製造例(比較例1、実施例1~2)で製造した苦丁茶加工物(サンプルA~C)に含まれるサポニン類(トリテルペン配糖体)を以下の方法で分析した。
【0071】
各苦丁茶加工物(サンプルA~C)約0.25gを秤量し、これを、所定量のサイコサポニンb2(標準物質)を含有する30容量%アセトニトリル水溶液に溶解して、試験液10mLを調製した(標準物質の濃度10μg/mL)。この試験液を、下記条件の超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)及び飛行時間型質量分析計(TOF/MS)に供して、サポニン類(トリテルペン配糖体)の含有量を分析した。
【0072】
[UHPLC条件]
装置:SHIMADZU社製UHPLC(Nexera X2)
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 (100mm×2.1mm I.D.,1.7 μm)
カラム槽温度:30℃
移動相:(A)0.1容量%ギ酸水溶液、(B)0.1容量%ギ酸含有アセトニトリル
グラジエント(linear):(B)5容量%(0min)→60容量%(70min)→100容量%(75min)
流速:0.2 mL/min
注入量:5μL
【0073】
[TOF/MS条件]
装置:AB SCIEX社製TOF/MS(Triple TOF 5600+ System)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)ネガティブ
質量範囲:m/z 50~2000
【0074】
トータルイオンクロマトグラムにおいて、表2に示す21種のピークのピークエリア面積値の合計と標準物質(サイコサポニンb2)のピークエリア面積の比率から、各苦丁茶加工物(サンプルA~C)中のサポニン類含有量を概算した。本発明では、この方法により算出されるサポニン類含有量を、苦丁茶加工物に含まれる21種のサポニン類の含有量とする。なお、これら21種のサポニン類は、各々が苦丁茶の苦味に寄与している成分(苦味成分)であると考えられる(参考文献:J. Pharm. Biomed. Anal., 2013, 84, 20-29.)。
【表2】
その結果、各苦丁茶加工物(サンプルA~C:抽出液)1g中に含まれる21種のサポニン類の総含有量は次の通りであった。
サンプルA:8.3μg/g 抽出液
サンプルB:6.4μg/g抽出液
サンプルC:64.5μg/g抽出液。
【0075】
実験例2 苦丁茶加工物の製造過程で取得したアロマ留分に含まれる香気成分の分析
実施例1の苦丁茶加工物(サンプルB)の製造工程中に得られたアロマ留分(液状)を10g秤量し、これに標準物質として3-ヘプタノール5μgを添加した。これにジエチルエーテル2mLを加えて振盪抽出した。次いで抽出液として有機層(ジエチルエーテル層)を回収し、これに硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。斯くして得られた抽出液を試験液として、その中に含まれる香気成分を下記条件のGC/MSを用いて分析した。
[GC/MS条件]
GC:Agilent Technologies 6890N
MS:Agilent Technologies 5973 inert MSD
カラム:Agilent J&W GCカラム-DB-WAX(60m, 0.25mmID, 0.25μm)
オーブン温度:50℃(2min hold)-3℃/min-220℃(75min hold)
注入口温度:250℃
注圧:25spi 定圧モード
キャリアガス:ヘリウム
ディテクタートランスファーライン温度:230℃
イオン化電圧:70eV
注入量:4μL
スプリット:20:1
スキャン:m/z30-300。
【0076】
その結果、苦丁茶葉から取得したアロマ留分から、香気成分として、ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナールが検出された。これらの香気成分のうち、ヘキサナールは主として青臭さ、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナールは主として脂肪臭を有していた。この結果から、これらの香気成分が、苦丁茶葉特有の臭い(青臭さ、脂肪臭)の原因成分であると考えられる。
【0077】
上記GC/MS分析により得られたトータルイオンクロマトグラム(TIC)における3-ヘプタノール(標準物質)のピーク面積と上記各香気成分のピーク面積との比較により、アロマ留分に含まれる上記各香気成分の量を概算した。その結果、実施例1において苦丁茶葉から取得したアロマ留分(液状)1gに含まれるヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナールの量は下記の通りであった。
・ヘキサナール:0.56μg/g
・2,4-ヘキサジエナール:0.05μg/g
・2,4-ヘプタジエナール:1.15μg/g
・2,4-デカジエナール:0.28μg/g。
なお、本発明が対象とする苦丁茶加工物についても同様にこの方法により算出される値を、各香気成分(ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナール)の含有量とする。
【0078】
実験例3 本発明における苦丁茶加工物に含まれる風味に好ましくない影響をあたえる成分の含有量
実施例2で製造した苦丁茶加工物(サンプルC)を200ppmの濃度で含む水溶液(サンプルC水溶液)(標準試料)を調製し、これに実施例1の苦丁茶加工物(サンプルB)の製造過程で回収したアロマ留分を、最終濃度が2、5、10、20、40、60、80または100ppmになるようにそれぞれ添加して、被験試料(アロマ添加サンプルC水溶液)を調製した。これらの被験試料の風味(青臭さ、脂肪臭)を、風味に関する官能評価について十分訓練をうけた経験1年以上のパネル14名に評価してもらった。具体的には、風味の官能評価は、各パネルに、イオン交換水で口を濯いでもらった後、各被験試料約20mlを口に含んで飲み込んでもらい、口腔内で感じる風味を、アロマ留分を添加しないサンプルC水溶液(200ppm)(標準試料)の風味と比較(2点比較法)して、不快な風味(青臭さ、脂肪臭)を感じ始めたアロマ添加濃度を記録してもらうことで実施した。なお、各被験試料間での試験の間には、必ずイオン交換水でよく口を濯いでもらい、前被験試料の評価結果が、次被験試料の評価に影響しないように注意をしてもらった。
【0079】
結果を表3に示す。
【表3】
上記表3に示すように、14名のパネルのうち半数にあたる7名がアロマ添加濃度20ppmで、当該アロマ留分由来の不快な風味(青臭さ、脂肪臭)を感じるようになった。また、アロマ留分添加濃度が80ppmにもなると14名のパネル全員が当該アロマ由来の不快な風味を感じる結果となった。
【0080】
このように、苦丁茶加工物(サンプルC)を200ppm濃度で含む水溶液に、苦丁茶から留去したアロマ留分(香気成分:ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナール)を添加した場合に、青臭さや脂肪臭が感じられにくくなるアロマの総濃度は80ppm未満であり、その濃度が低くなるほど、青臭さや脂肪臭は感じられなくなる。具体的には、上記の場合、アロマの総濃度が20ppm以下、特に20ppm未満になると、ほとんどの人が青臭さや脂肪臭を感じなくなる。言い換えると、苦丁茶加工物を用いて調製された食品(苦丁茶加工物を含む水溶液などの飲料も含まれる)中に、苦丁茶に由来する香気成分(残存アロマ)(ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナール)が総量で20ppm以上含まれていると、人によって相違はするものの、僅かながらも風味が損なわれることになり、80ppm以上含まれていると、かなりの程度で風味が損なわれることになる。
【0081】
実験例1で確認したように、当該苦丁茶加工物(サンプルC)には、1gあたり、前記21種類のサポニン類が64.5μgの総量で含まれている。前記被験試料(アロマ添加サンプルC水溶液)の苦丁茶加工物(サンプルC)濃度は200ppmであることから、当該被験試料中には上記サポニン類が12.9μg/L、つまり0.013ppm濃度で含まれていることになる。アロマ(ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナール)を総量で20~80ppmの割合で含む被験試料(アロマ添加サンプルC水溶液)のサポニン類及び各アロマの含有量を表4に示す。
【表4】
これからわかるように苦丁茶加工物に含まれている前記21種類のサポニン類の総量100質量部に対する前記アロマ(香気成分:ヘキサナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、及び2,4-デカジエナール)の割合を、総量で約1200質量部以下、それぞれヘキサナール310質量部以下、2,4-ヘキサジエナール40質量部以下、2,4-ヘプタジエナール620質量部以下、及び/または2,4-デカジエナール160質量部以下とすることで、青臭さや脂肪臭を感じにくい苦丁茶加工物とすることができる。これら各香気成分の割合が少なくなるほど、青臭さや脂肪臭が低減する。より好ましい香気成分の割合は、苦丁茶加工物に含まれている前記21種類のサポニン類の総量100質量部に対して、総量で約280質量部以下、それぞれヘキサナール80質量部以下、2,4-ヘキサジエナール10質量部以下、2,4-ヘプタジエナール160質量部以下、及び/または2,4-デカジエナール40質量部以下である。
【0082】
実験例4 苦丁茶加工物の官能評価(その1)
前記製造例(比較例1及び実施例1~3)で調製した苦丁茶加工物(サンプルA~C)を、乾燥茶葉換算量が同じになるようにイオン交換水に添加し(苦丁茶加工物添加量:サンプルA0.68質量%、サンプルB1.00質量%、サンプルC0.033質量%)、被験液(サンプルA~C)を調製した。これらの被験液の呈味(苦味、雑味)を、味に関する官能評価について十分訓練をうけた経験1年以上のパネル10名により、評価してもらった。呈味の官能評価は、各パネルに、イオン交換水で口を濯いだ後、各被験液約20mlを口に含んで飲み込んでもらい、口腔内で感じる呈味(苦味、雑味)を、下記の基準に従って5点評価法(scoring method)にて評価してもらった。なお、各被験液間での試験の間には、必ずイオン交換水でよく口を濯いでもらい、前被験液の評価結果が、影響しないように注意をしてもらった。
【0083】
なお、5点評価法は、苦味に関しては「鈍い」を1点、「やや鈍い」を2点、「どちらでもない(鈍くも鋭くもない)」を3点、「やや鋭い」を4点、「鋭い」を5点とし、また雑味に関しては「なし」を1点、「わずかに感じる」を2点、「感じる」を3点、「強く感じる」を4点、「かなり強く感じる」を5点とし、各被験液の苦味及び雑味がそれぞれ1点から5点の間のいずれかに該当するかを、各パネルに評価してもらった。またパネルには、各自1点から5点の数値間の心理的間隔が等しくなるように判断するように依頼した。なお、ここで「苦味」の評価において、「鋭い」とは苦味が明確に感じられることを意味し、「鈍い」とは苦味がぼんやりとぼやけて感じられることを意味する。
【0084】
各パネルの5点評価法による評価点から平均値±標準偏差を求めた結果を下表に示す。
【表5】
この結果に示すように、被験液(サンプルB)及び被験液(サンプルC)は、被験液(サンプルA)よりも苦味の鋭さが有意に高い一方で、雑味は有意に少ない結果となった。また、被験液(サンプルB)よりも被験液(サンプルC)のほうが、苦味の鋭さが高く、雑味は少なかった。なお、ここで「有意」とは、一元配置分析を使用し、各ペア〔被験液(サンプルA)と被験液(サンプルB)または被験液(サンプルC)とのペア〕のStudentのt検定で判定した結果に基づく(有意水準α=0.05)。この結果から、被験液(サンプルB)及び被験液(サンプルC)は、被験液(サンプルA)と比較して、雑味が少なくなったために、苦味を明確に感じることができるようになったものと考えられる。つまり、雑味にまぎれて感じにくくなっていた苦味が、雑味を低減することで、立ち上がりの初期の段階からはっきりと苦味として認識できるようになったものと考えられる。従って「苦味が鋭い」という感覚は、口内で苦味を早い段階で明確に感じられることを意味し、「苦味が鈍い」という感覚は、雑味にまぎれて感じにくくなっている苦味を、口内での雑味の経時的低下若しくは苦味の立ち上がりの強さに伴い、雑味よりもある程度苦味が強くなってから苦味と認識することを意味する。
【0085】
また、各被験液の臭い(香り)に関して、被験液(サンプルA)は、口に含んだ時点で苦丁茶葉特有の青臭さと脂肪臭が感じられたが、被験液(サンプルB)及び被験液(サンプルC)は口に含んでもいずれも青臭さ及び脂肪臭は感じられなかった。
【0086】
以上の実験で示すように、抽出処理に加えて、苦丁茶葉を水蒸気蒸留してアロマ成分を留去することで、苦丁茶葉特有の青臭さ及び/または脂肪臭が低減できるだけでなく、苦味の発現を妨げていた雑味が低減されることにより、苦丁茶特有の苦味がクリアに感じられるようになった。このため、本発明の苦丁茶加工物によれば、飲食物に対して、苦丁茶葉特有の青臭さ及び/または脂肪臭を抑えつつも、苦丁茶特有の鋭い苦味をクリアに付与することが可能である。
【0087】
実験例5 苦丁茶加工物の官能評価(その2)
前記製造例(比較例1及び実施例1~2)で調製した苦丁茶加工物(サンプルA~C)を、乾燥茶葉換算量が同じになるように炭酸水(炭酸ガス圧:約0.36MPa)に添加し(苦丁茶加工物添加量:サンプルA0.68質量%、サンプルB1.0質量%、サンプルC0.033質量%)、被験炭酸液(サンプルA~C)を調製した。これらの被験炭酸液の雑味の程度を、実験例4と同じパネル10名により、実験例4と同様に5点評価法(scoring method)にて評価してもらった。
【0088】
各パネルの5点評価法による評価点から平均値±標準偏差を求めた結果を下表に示す。
【表6】
この結果、被験炭酸液(サンプルA)と比較して、被験炭酸液(サンプルB)及び被験炭酸液(サンプルC)は、雑味が有意に少ない結果となった。「有意」の意味は実験例4と同じである。但し、被験炭酸液(サンプルB)と被験炭酸液(サンプルC)との間で有意差は認められなかった。このように、水蒸気蒸留することで雑味が低減された苦丁茶加工物は、炭酸ガスを含む炭酸水に配合した場合でも、その雑味低減効果を実感することができることが確認された。このため、本発明の苦丁茶加工物によれば、炭酸入り飲食物に対しても、苦丁茶葉特有の青臭さ及び/または脂肪臭を抑えつつも、苦丁茶特有の鋭い苦味をクリアに付与することが可能である。
【0089】
実験例6 苦丁茶加工物の苦味増強効果の評価(カテキン含有飲料)
本発明の苦丁茶加工物のカテキン含有飲料に対する苦味増強効果を評価した。
具体的には、カテキン(テアビゴ:DSMニュートリションジャパン株式会社製、エピガロカテキンガレート含量94質量%)を0.012質量%添加した茶飲料(標準飲料)、並びに当該カテキンを0.01質量%添加した茶飲料(カテキン減量飲料:標準飲料よりカテキン含量を20%減量)を調製した。カテキン減量飲料には、別に苦丁茶加工物(サンプルC)をそれぞれ0.05、0.1、0.2または0.4ppm添加した飲料(サンプルC添加カテキン減量飲料)を調製し、前記標準飲料、及びカテキン減量飲料と合わせて計6種類の被験試料を調製した。
【0090】
調製した6種類の被験試料について、実験例4と同様によく訓練された9名のパネルにより、下表に示す基準に基づいて5段階で官能評価を行い、苦丁茶加工物(サンプルC)の苦味増強効果を評価した。結果を下表に併せて示す。
なお、下表における総合評価は下記の基準に沿って行った(以下の実験例でも同じ)
[総合評価基準]
+:パネルの半数以上が3以上の評価
++:パネルの7割以上が3以上の評価
+++:パネル全員が3以上の評価またはパネルの半数以上が4以上の評価
++++:パネルの7割以上が4以上の評価
+++++:パネル全員が4以上の評価またはパネルの半数以上が5の評価
【0091】
【表7】
表7に示すように、評価の結果、カテキン減量飲料に苦丁茶加工物(サンプルC)を0.05ppm以上添加することで苦味が増強する傾向が認められた。特に苦丁茶加工物(サンプルC)を0.4ppm添加した飲料に対してパネル全員がカテキン減量飲料よりも強い苦味を感じると評価した。なお、これらの飲料に含まれるサンプルC由来の21種サポニン類(表1)の総含有量は上記表7に記載の通りである。このため、苦丁茶加工物を21種サポニン類の総含有量に換算して3.225ppt以上、好ましくは6.45ppt以上、より好ましくは12.9ppt以上、特に好ましくは25.8ppt以上配合することで苦味が増強された飲料を調製することができる。以上の結果から、本発明の苦丁茶加工物には、カテキン含有茶飲料に対して苦味を増強する効果があることが確認された。またこのことは、本発明の苦丁茶加工物を配合することで、カテキンなどの茶原料の配合量を減らすことが可能であることを意味する。つまり本発明の苦丁茶加工物は、カテキン等の茶原料の苦味を補助する食品素材として有用である。
【0092】
実験例7 苦丁茶加工物の苦味増強効果の評価(イソα酸含有飲料)
本発明の苦丁茶加工物のイソα酸含有飲料に対する苦味増強効果を評価した。
具体的には、ホップエキス(ホップエキストラクトMT6161-01:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を0.01%添加したビール風味飲料(標準飲料)、並びに当該ホップエキス(以下、「ホップEX」と略称する)を0.008質量%添加したビール風味飲料(ホップEX減量飲料:標準飲料よりホップEX含量を20%減量)を調製した。なお、上記ホップEXには、ビールの苦味成分であるイソα酸が5質量%の割合で含まれている。ホップEX減量飲料には、別に苦丁茶加工物(サンプルC)をそれぞれ0.05、0.1、0.2または0.4ppm添加した飲料(サンプルC添加ホップEX減量飲料)を調製し、前記標準飲料、及びホップEX減量飲料と合わせて計6種類の被験試料を調製した。これらの飲料の組成を表8に記載する。
【0093】
【表8】
(1)ホップエキストラクトMT6161-01:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
(2)株式会社林原製
(3)MOLDA社製
(4)ビールフレーバーMT6162-01:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
【0094】
調製した6種類の被験試料について、実験例4と同様によく訓練された9名のパネルにより、表9に示す基準に基づいて5段階で官能評価を行い、苦丁茶加工物(サンプルC)のビール風味飲料に対する苦味増強効果を評価した。結果を表9に併せて示す。
【0095】
【表9】
表9に示すように、評価の結果、ホップEX減量飲料に苦丁茶加工物(サンプルC)を0.05ppm以上添加することで苦味が増強する傾向が認められた。特に苦丁茶加工物(サンプルC)を0.1ppm添加した飲料に対してパネル全員がホップEX減量飲料よりも強い苦味を感じると評価し、さらに0.2ppm以上添加した飲料に対してパネルの半数以上が標準飲料と同等またはそれより強い苦味を感じると評価した。また苦丁茶加工物の添加量を21種サポニン類(表1)の総含有量に換算すると、当該サポニン類を3.225ppt以上、好ましくは6.45ppt以上、より好ましくは12.9ppt以上、特に好ましくは25.8ppt以上配合することでホップの苦味が増強されたビール風味飲料を調製することができる。以上の結果から、本発明の苦丁茶加工物には、ホップエキス(またはイソα酸)を含有するビール風味飲料に対して苦味を増強する効果があることが確認された。またこのことは、本発明の苦丁茶加工物を配合することで、ビール風味飲料についてホップエキス(またはイソα酸)の配合量を減らすことが可能であることを意味する。つまり本発明の苦丁茶加工物は、ビール風味飲料についてホップエキス(またはイソα酸)の苦味を補助する食品素材として有用である。
【0096】
実験例8 苦丁茶加工物の苦味増強効果の評価(カフェイン減量コーヒー)
本発明の苦丁茶加工物のカフェイン減量コーヒーに対する苦味増強効果を評価した。
具体的には、カフェイン減量コーヒーエキス(SDコーヒーエキスNO.19910:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、カフェイン含量0.6質量%)を0.8質量%含有するコーヒー(カフェイン減量飲料:カフェイン含量0.0048質量%)を調製した。調製したカフェイン減量飲料を用いて、別途、苦丁茶加工物(サンプルC)をそれぞれ0.05、0.1、0.2または0.4ppm添加したコーヒー(サンプルC添加カフェイン減量飲料)、並びにカフェイン(商品名「茶の素」白鳥製薬製、カフェイン純度99%)を0.05質量%添加したコーヒー(標準飲料:カフェイン含量0.0548質量%)の計6種類の被験試料を調製した。
【0097】
調製した6種類の被験試料について、実験例4と同様によく訓練された6名のパネルにより、表10に示す基準に基づいて5段階で官能評価を行い、苦丁茶加工物(サンプルC)のカフェインに対する苦味増強効果を評価した。結果を表10に併せて示す。
【0098】
【表10】
表10に示すように、評価の結果、カフェイン減量飲料に苦丁茶加工物(サンプルC)を0.05ppm以上添加することで苦味が増強する傾向が認められた。特に苦丁茶加工物(サンプルC)を0.1ppm以上添加した飲料に対してパネルの半数以上がカフェイン減量飲料よりも強い苦味を感じると評価し、さらに0.2ppm以上添加した飲料に対してはパネル全員がカフェイン減量飲料より強い苦味を感じると評価するとともに、半数が標準飲料と同等の苦味があると評価した。またこれを苦丁茶加工物に含まれる21種サポニン類(表1)の総含有量に換算すると、当該サポニン類を3.225ppt以上、好ましくは6.45ppt以上、より好ましくは12.9ppt以上、特に好ましくは25.8ppt以上配合することでカフェインの苦味が増強されたコーヒーを調製することができる。以上の結果から、本発明の苦丁茶加工物には、コーヒー等のカフェインを含有する食品に対してカフェインの苦味を増強する効果があることが確認された。またこのことは、本発明の苦丁茶加工物を配合することで、コーヒー等のカフェイン含有食品についてカフェインの配合量を減らすことが可能であることを意味する。つまり本発明の苦丁茶加工物は、コーヒー等のカフェインの苦味を補助する食品素材として有用である。このため、本発明の苦丁茶加工物を添加することにより、カフェインを減量したコーヒー(例えば、カフェインレスコーヒー)の苦味を増強し、コーヒーらしさを増強することが可能になる。
【0099】
実験例9 苦丁茶加工物の苦味増強効果の評価(カフェイン減量紅茶飲料)
本発明の苦丁茶加工物のカフェイン減量紅茶飲料に対する苦味増強効果を評価した。
具体的には、カフェイン減量紅茶エキス(FD紅茶エキスパウダーNO.19447:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、カフェイン含量0.5質量%)を0.2質量%含有する紅茶飲料(カフェイン減量飲料:カフェイン含量0.001質量%)を調製した。調製したカフェイン減量飲料を用いて、別途、苦丁茶加工物(サンプルC)をそれぞれ0.05、0.1、0.2または0.4ppm添加した飲料(サンプルC添加カフェイン減量飲料)、並びにカフェイン(商品名「茶の素」白鳥製薬製、カフェイン純度99%)を0.015質量%添加した紅茶飲料(標準飲料:カフェイン含量0.016質量%)の計6種類の被験試料を調製した。これらの飲料の組成を表11に記載する。
【0100】
【表11】
(1)FD紅茶エキスパウダー:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
(2)白鳥製薬製
(3)ブラックティーフレーバーMT6163-01:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
【0101】
調製した6種類の被験試料について、実験例4と同様によく訓練された10名のパネルにより、表11に示す基準に基づいて5段階で官能評価を行い、苦丁茶加工物(サンプルC)の紅茶カフェインに対する苦味増強効果を評価した。結果を表12に併せて示す。
【0102】
【0103】
表12に示すように、評価の結果、カフェイン減量紅茶飲料に苦丁茶加工物(サンプルC)を0.05ppm以上添加することで苦味が増強する傾向が認められた。特に苦丁茶加工物(サンプルC)を0.05ppm以上添加した飲料に対してパネル全員がカフェイン減量飲料よりも強い苦味を感じると評価し、さらに0.1ppm以上添加した飲料に対してはパネルの半数以上が、また0.4ppm以上添加した飲料に対してはパネル全員が標準飲料と同等または強い苦味を感じると評価した。またこの結果を苦丁茶加工物に含まれる21種サポニン類(表1)の総含有量に換算すると、当該サポニン類を3.225ppt以上、好ましくは6.45ppt以上、より好ましくは12.9ppt以上、特に好ましくは25.8ppt以上配合することで紅茶カフェインの苦味が増強された紅茶飲料を調製することができる。以上の結果から、本発明の苦丁茶加工物には、カフェインを含有する紅茶飲料に対して苦味を増強する効果があることが確認された。またこのことは、本発明の苦丁茶加工物を配合することで、紅茶飲料についてカフェインの配合量を減らすことが可能であることを意味する。つまり本発明の苦丁茶加工物は、紅茶飲料についてカフェインの苦味を補助する食品素材として有用である。このため、本発明の苦丁茶加工物を添加することにより、カフェイン量を減量した紅茶(例えば、カフェインレス紅茶)の苦味を増強し、紅茶らしさを増強することが可能になる
【0104】
実験例10 苦丁茶加工物の酸味増強作用
上記実験例4により、最も苦味が鋭く且つ雑味が少ないと評価された苦丁茶加工物(サンプルC)について、酸糖液に対する呈味作用を評価した。
【0105】
具体的には、酸糖液(果糖ぶどう糖7.0質量%、砂糖3.0質量%、クエン酸(無水)0.2質量%、及びクエン酸三ナトリウム(結晶)0.12質量%を含む水溶液)に、製造例で調製した苦丁茶加工物(サンプルC)を最終濃度が0.1ppm、または1ppmとなるように添加して、試料液(サンプルC含有量:0.1 ppm、または1 ppm)を調製した。実験例4と同じパネル10名に、上記各試料液の酸味の強さを、標準品との比較(2点試験法)にて、下記の基準に従って評価してもらった。なお標準品として、上記酸糖液に、苦丁茶加工物(サンプルC)の代わりに、同量の95容量%エタノール水溶液を添加したものを使用した。なお、95容量%エタノール水溶液は苦丁茶加工物(サンプルC)に含まれる抽出溶媒である。
[酸味の評価基準]
○:標準品よりも酸味が強い
-:標準品の酸味と同等
×:標準品よりも酸味が弱い。
結果を下記表に示す。
この結果からわかるように、酸糖液に苦丁茶加工物(サンプルC)を添加することにより、酸糖液の酸味が強くなる傾向が見られた。
【表13】
【0106】
実験例11 苦丁茶加工物の酸味増強効果
本発明の苦丁茶加工物のクエン酸含有飲料に対する苦味増強効果を評価した。
具体的には、クエン酸(酸味料)を0.1質量%添加したオレンジ風味の清涼飲料水(果糖ブドウ糖7.0質量%、砂糖3.0質量%、クエン酸三ナトリウム(結晶)0.0質量3%及びクエン酸0.1質量%を含む水溶液)(標準飲料)、並びにクエン酸を0.08質量%添加したオレンジ風味の清涼飲料水(酸味料減量飲料:標準飲料よりクエン酸含量を20%減量)を調製した。酸味料減量飲料には、別に苦丁茶加工物(サンプルC)をそれぞれ0.05、0.1、0.2または0.4ppm添加した飲料(サンプルC添加酸味料減量飲料)を調製し、前記標準飲料、及び酸味料減量飲料と合わせて計6種類の被験試料を調製した。
【0107】
調製した6種類の被験試料について、実験例4と同様によく訓練された9名のパネルにより、表14に示す基準に基づいて5段階で官能評価を行い、苦丁茶加工物(サンプルC)の酸味増強効果を評価した。結果を表14に併せて示す。
【0108】
【0109】
表14に示すように、評価の結果、酸味料減量飲料に苦丁茶加工物(サンプルC)を0.05ppm以上添加することで酸味が増強する傾向が認められた。特に苦丁茶加工物(サンプルC)を0.1ppm以上添加した飲料に対してパネル9名のうち8名が酸味料減量飲料よりも強い酸味を感じると評価した。添加濃度の増加に伴いその効果は高くなり、0.4ppm以上の添加でパネル全員が酸味料減量飲料よりも強い酸味を感じ、しかもパネルの半数以上が標準飲料と同等またはそれ以上の酸味を感じると評価した。またこの結果を苦丁茶加工物に含まれる21種サポニン類(表1)の総含有量に換算すると、当該サポニン類を3.225ppt以上、好ましくは6.45ppt以上、より好ましくは12.9ppt以上、特に好ましくは25.8ppt以上配合することでクエン酸の酸味が増強された清涼飲料水を調製することができる。以上の結果から、本発明の苦丁茶加工物には、酸味料を含有する食品に対して酸味を増強する効果があることが確認された。またこのことは、本発明の苦丁茶加工物を配合することで、酸味料の配合量を減らすことが可能となることを意味するものでもある。つまり本発明の苦丁茶加工物は、酸味という点で酸味料を補助する食品素材として有用である。
【0110】
実験例12 苦丁茶加工物の塩味増強効果
本発明の苦丁茶加工物の食塩含有飲料に対する塩味増強効果を評価した。
具体的には、食塩を0.5質量%添加したお吸い物(標準食品)、並びに食塩を0.4質量%添加したお吸い物(食塩減量食品:標準食品より食塩添加量を20%減量)を調製した。食塩減量飲料には、別に苦丁茶加工物(サンプルC)をそれぞれ0.05、0.1、0.2または0.4ppm添加した食品(サンプルC添加食塩減量食品)を調製し、前記標準食品、及び食塩減量食品と合わせて計6種類の被験試料を調製した。
【0111】
なお、お吸い物の組成は下記の通りである。
グルタミン酸Na 0.1(質量%)
食塩 0.5または0.4
鰹節エキス(NaCl含量11%)* 0.2
昆布エキス(NaCl含量8%)* 0.1
水 残 部
全 量 100.0質量%
*三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
【0112】
調製した6種類の被験試料について、実験例4と同様によく訓練された9名のパネルにより、表15に示す基準に基づいて5段階で官能評価を行い、苦丁茶加工物(サンプルC)の塩味増強効果を評価した。結果を表15に併せて示す。
【0113】
【表15】
表15に示すように、評価の結果、食塩減量飲料に苦丁茶加工物(サンプルC)を0.2ppm以上添加することで酸味が増強する傾向が認められた。具体的には苦丁茶加工物(サンプルC)を0.2ppm以上添加した食品に対してパネルの半数以上が食塩減量食品よりも強い酸味を感じると評価し、添加濃度の増加に伴いその効果が高くなった。またこの結果を苦丁茶加工物に含まれる21種サポニン類(表1)の総含有量に換算すると、当該サポニン類を12.9ppt以上、好ましくは25.8ppt以上配合することで塩味が増強された食品を調製することができる。以上の結果から、本発明の苦丁茶加工物には、食塩含有食品に対して塩味を増強する効果があることが確認された。またこのことは、本発明の苦丁茶加工物を配合することで、食塩の配合量を減らすことが可能となることを意味するものでもある。つまり本発明の苦丁茶加工物は、塩味という点で食塩を補助する食品素材(減塩素材)として有用である。
【0114】
実施例4 グレープフルーツ炭酸飲料
水に果糖ぶどう糖液糖、砂糖、クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム(結晶)を溶解したのち、水にて25質量部に全量補正した。これに、苦丁茶加工物(サンプルC)を0.02質量部加えた後、炭酸水で全量を100質量部に補正してグレープフルーツ炭酸飲料を調製した。グレープフルーツの自然な苦味や瑞々しい果皮を想起させる飲料となった。
【0115】
処方
果糖ぶどう糖液糖 9.8(質量%)
砂糖 0.5
クエン酸(無水) 0.2
クエン酸三ナトリウム(結晶) 0.115
水 14.385
苦丁茶加工物(サンプルC) 0.02
炭酸水 残 部
全 量 100.00
【0116】
実施例5 ビール風味炭酸飲料
水にアセスルファムカリウム(商品名:サネット(登録商標)(キリン協和フーズ(株)、砂糖の約200倍の甘さを有する高甘味度甘味料)0.005質量部、乳酸(50%)(商品名:第一乳酸(50%))(第一ファインケミカル(株))0.15質量部、クエン酸三ナトリウム0.06質量部、ビール香料0.03質量部、苦丁茶加工物(サンプルC)0.02質量部を加えて攪拌溶解後、水にて40質量部に全量補正した。これに炭酸水60質量部を加えて容器に充填してビール風味炭酸飲料を調製した。自然な苦味を呈し、ビールを想起させる飲料となった。
【0117】
処方
アセスルファムカリウム 0.005(質量%)
乳酸(50%) 0.15
クエン酸三ナトリウム 0.06
ビール香料 0.03
苦丁茶加工物(サンプルC) 0.02
炭酸水 60.00
水 残 部
合計 100.00
【0118】
実験例13 苦丁茶加工物の呈味改善作用
苦丁茶加工物(サンプルC)の呈味改善作用を評価した。
具体的には、製造例で調製した苦丁茶加工物(サンプルC)を、各種市販飲料(表16参照。炭酸飲料、清涼飲料、アルコール飲料、茶系飲料、コーヒー、エネルギー飲料等)に苦丁茶加工物(サンプルC)の最終濃度が0.1ppm、24ppm(コーヒーのみ)、または72ppmとなるように添加して試料液を調製した。なお、市販飲料はすべて賞味期限内の商品を使用した。味に関する官能評価について十分訓練をうけたパネル3~20名に、上記各試料液の呈味を、標準品との比較にて評価してもらった。なお標準品として、各市販飲料に、苦丁茶エキス(サンプルC)の代わりに同量の95容量%エタノール水溶液を添加したものを使用した。
結果を表16に示す。なお、結果は「○:標準品より好ましい」と判断したパネル数と総パネル数との比で示す。
【表16】
この結果からわかるように、本発明の苦丁茶加工物によれば、炭酸飲料(果汁入り飲料、無果汁飲料)、清涼飲料(果汁入り飲料)、アルコール飲料(ビール、酎ハイ)、ビール風味ノンアルコール飲料、茶系飲料(緑茶、ウーロン茶、紅茶、混合茶)、コーヒー(カフェインレスコーヒー)、コーヒー飲料、及びエネルギー飲料等の各種食品の呈味を改善することが確認された。