(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】密閉電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/107 20210101AFI20220905BHJP
H01M 50/56 20210101ALI20220905BHJP
H01M 50/128 20210101ALI20220905BHJP
H01M 50/145 20210101ALI20220905BHJP
H01M 50/536 20210101ALI20220905BHJP
H01M 50/545 20210101ALI20220905BHJP
H01M 50/559 20210101ALI20220905BHJP
H01M 50/562 20210101ALI20220905BHJP
H01M 50/566 20210101ALI20220905BHJP
H01M 50/571 20210101ALI20220905BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20220905BHJP
B23K 26/067 20060101ALI20220905BHJP
H01M 50/103 20210101ALN20220905BHJP
H01M 50/553 20210101ALN20220905BHJP
【FI】
H01M50/107
H01M50/56
H01M50/128
H01M50/145
H01M50/536
H01M50/545
H01M50/559
H01M50/562
H01M50/566
H01M50/571
B23K26/21 G
B23K26/21 N
B23K26/067
B23K26/21 W
H01M50/103
H01M50/553
(21)【出願番号】P 2019539062
(86)(22)【出願日】2018-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2018027473
(87)【国際公開番号】W WO2019044265
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2017165232
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨永 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】清水 一路
(72)【発明者】
【氏名】池田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】宮田 恭介
(72)【発明者】
【氏名】上田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】服部 貞博
(72)【発明者】
【氏名】森 信也
(72)【発明者】
【氏名】横尾 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】船見 浩司
(72)【発明者】
【氏名】葛西 孝昭
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-170395(JP,A)
【文献】特開2004-158318(JP,A)
【文献】特開2005-44691(JP,A)
【文献】再公表特許第2011/016194(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/56
H01M 50/103
H01M 50/107
H01M 50/128
H01M 50/145
H01M 50/536
H01M 50/545
H01M 50/553
H01M 50/559
H01M 50/562
H01M 50/566
H01M 50/571
B23K 26/21
B23K 26/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの正極と少なくとも1つの負極とがセパレータを介して積層された電極体と、
前記電極体を収容する有底筒状の外装缶とを備え、
前記外装缶は、ニッケルめっきされた鉄により形成され、
前記正極及び前記負極の一方に接続されたリードと前記外装缶とが前記外装缶の外側表面から前記リードに向けて形成された溶接部で溶接されており、
前記溶接部は、溶融痕により形成され、第1層と、前記第1層よりニッケルの含有濃度が高い第2層とを含み、
前記第1層が、前記リードから前記外装缶の内部にかけて形成されており、
前記第2層が、前記外装缶の外側表面側において前記第1層に隣接するように形成されており、
前記外装缶の外側から前記溶接部を見た場合に、前記第1層の全部は前記第2層に覆われている、密閉電池。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉電池において、
前記第1層は、前記外装缶の外側から見た場合の平面形状が線状であり、
前記第2層は、前記外装缶の外側から見た場合の平面形状が線状である、密閉電池。
【請求項3】
請求項2に記載の密閉電池において、
前記第1層の長尺方向両端部において長尺方向中央に向かって深さが徐々に大きくなる2つの第1傾斜底面を有し、
前記第2層の長尺方向両端部において長尺方向中央に向かって深さが徐々に大きくなる2つの第2傾斜底面を有する、密閉電池。
【請求項4】
請求項3に記載の密閉電池において、
前記第2層の外側表面を基準として、前記第1傾斜底面の勾配は前記第2傾斜底面の勾配より大きい、密閉電池。
【請求項5】
請求項1に記載の密閉電池の製造方法であって
前記リードと前記外装缶とを溶接する溶接工程が、
前記外装缶の外部から前記外装缶の外側表面に、第1エネルギービームを照射し前記外装缶と前記リードとを溶接する第1ビーム照射工程と、
前記第1ビーム照射工程後に、前記外装缶の外部から、前記第1エネルギービームの前記外装缶の外側表面への照射範囲より広い範囲に第2エネルギービームを照射する第2ビーム照射工程とを有する、密閉電池の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の密閉電池の製造方法において、
前記第1ビーム照射工程は、前記第1エネルギービームの照射部を前記外装缶の外側表面に対し第1方向に移動させながら照射し、
前記第2ビーム照射工程は、前記第2エネルギービームの照射部を前記外装缶の外側表面に対し前記第1方向とは逆方向の第2方向に移動させながら照射する、密閉電池の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の密閉電池の製造方法において、
前記第1層は、前記外装缶の外側から見た場合の平面形状が線状であり、かつ、長尺方向両端部において長尺方向中央に向かって深さが徐々に大きくなるように2つの第1傾斜底面が形成され、
前記第2層は、前記外装缶の外側表面から見た場合の幅が前記第1層の幅より大きい線状であり、かつ、長尺方向両端部において長尺方向中央に向かって深さが徐々に大きくなるように2つの第2傾斜底面が形成され、
前記第2ビーム照射工程は、前記第2層の長尺方向両端部において前記第2層の外側表面を基準とした前記2つの第2傾斜底面のそれぞれの勾配が前記第2層の外側表面を基準とした前記2つの第1傾斜底面のそれぞれの勾配より小さくなるように、前記第2層を形成する、密閉電池の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の密閉電池の製造方法であって、
前記リードと前記外装缶とを溶接する溶接工程が、
回折格子を用いて1つのエネルギービームを第1エネルギービームと第2エネルギービームとに分岐させるとともに、前記外装缶の外側表面の所定位置に、前記第1エネルギービームが前記第2エネルギービームより先に照射されるように前記第1エネルギービーム及び前記第2エネルギービームの照射部を前記外装缶に対し相対的に移動させることにより、前記外装缶と前記リードとを溶接して前記第1層及び前記第2層を形成する、密閉電池の製造方法。
【請求項9】
請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の密閉電池の製造方法において、
前記第1エネルギービーム及び前記第2エネルギービームは、レーザ光である、密閉電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、密閉電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の二次電池は、パソコン等の電子機器に組み込んで用いるだけでなく、車両の走行用のモータに電力を供給する電力源として期待されている。リチウムイオン二次電池は、高いエネルギーを得られる代わりに、電池内への金属異物などの混入による内部短絡が発生すると、電池自体の発熱等の問題が発生する可能性がある。
【0003】
従来、外装缶と、電極体の正極及び負極の一方に接続されたリードとは、主に抵抗溶接によって接続されている。しかしながらこの抵抗溶接は、溶接過程で電池内部でスパッタが発生し、金属異物が電池内に混入することで、電圧不良による電池の製造品質、安全性、及び信頼性が悪化する課題があった。そのため近年では、外装缶の外側からエネルギービーム、例えばレーザ光を照射して、外装缶とリードまたはリードに相当する集電タブとを溶接させて、スパッタの発生を防止しているものがある(例えば特許文献1~3参照)。
【0004】
また、特許文献4には、外装缶の外側から二段階に分けてエネルギービームを照射して、外装缶及びリードに相当する集電体の溶接と、焼き純し処理とを順次行って製造した電池が記載されている。この電池では、溶接部において、第一の層と、第一の層より微細な結晶粒からなる第二の層とが積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-3686号公報
【文献】特開2015-162326号公報
【文献】特開2016-207412号公報
【文献】特開2005-44691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外装缶として、ニッケルめっきされた鉄により形成したものを用いる場合がある。この場合において、外装缶の外部からエネルギービームを照射して、外装缶にリードを溶接した電池では、外装缶の外側表面におけるエネルギービームの照射部のニッケルめっき層と、外装缶の下地金属が溶融してニッケルと鉄が混ぜ合わされる。これにより、溶融痕全体が外装缶の下地金属の鉄とニッケルめっき層のニッケルとの合金となり、当該合金が外装缶の外側表面に露出した状態になる。このため、外装缶の外側表面に露出した溶融痕はエネルギービームにより溶融されていないニッケルめっき層に比べてニッケル含有濃度が低下するので錆びやすくなり、電解液がリークする起点になる可能性がある。
【0007】
特許文献4に記載された電池では、外装缶の外部から二段階でエネルギービームを照射しているが、二段階目のエネルギービームの照射で形成された第二の層は外装缶の内側面を貫通しリードに達している。二段階目のエネルギービームにより溶融した外装缶のニッケルめっき層のニッケル成分が外装缶の広い範囲に拡散するため、外装缶の外側表面に露出した溶融痕のニッケル含有濃度が低下する可能性がある。
【0008】
本開示は、リードが外装缶に溶接された密閉電池において、外装缶の表面に露出した溶融痕の防錆性を高くすることができる密閉電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る密閉電池は、少なくとも1つの正極と少なくとも1つの負極とがセパレータを介して積層された電極体と、電極体を収容する有底筒状の外装缶とを備え、外装缶は、ニッケルめっきされた鉄により形成され、正極及び負極の一方に接続されたリードと外装缶とが外装缶の外側表面からリードに向けて形成された溶接部で溶接されており、溶接部は、溶融痕により形成され、第1層と、第1層よりニッケルの含有濃度が高い第2層とを含み、第1層が、リードから外装缶の内部にかけて形成されており、第2層が、外装缶の外側表面側において第1層に隣接するように形成されており、外装缶の外側から溶接部を見た場合に、第1層の全部は第2層に覆われている、密閉電池である。
【0010】
また、本開示に係る密閉電池の製造方法は、本開示に係る密閉電池の製造方法であって、リードと外装缶とを溶接する溶接工程が、外装缶の外部から外装缶の外側表面に、第1エネルギービームを照射し外装缶とリードとを溶接する第1ビーム照射工程と、第1ビーム照射工程後に、外装缶の外部から、第1エネルギービームの外装缶の外側表面への照射範囲より広い範囲に第2エネルギービームを照射する第2ビーム照射工程とを有する、密閉電池の製造方法である。
【0011】
また、本開示に係る別の密閉電池の製造方法は、本開示に係る密閉電池の製造方法であって、リードと外装缶とを溶接する溶接工程が、回折格子を用いて1つのエネルギービームを第1エネルギービームと第2エネルギービームとに分岐させるとともに、外装缶の外側表面の所定位置に、第1エネルギービームが第2エネルギービームより先に照射されるように第1エネルギービーム及び第2エネルギービームの照射部を外装缶に対し相対的に移動させることにより、外装缶とリードとを溶接して第1層及び第2層を形成する、密閉電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る密閉電池及びその製造方法によれば、リードが外装缶に溶接された密閉電池において、外装缶の表面に露出した溶融痕の防錆性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態の一例の密閉電池の底面側半部の断面図である。
【
図6】実施形態の別例の密閉電池の底面側半部の断面図である。
【
図8】実施形態の別例の密閉電池において、
図4に対応する図である。
【
図9】実施形態の別例の密閉電池において、
図3に対応する図である。
【
図10】
図9に示す密閉電池の溶接部を外装缶の外側から見た図である。
【
図11A】実施形態の別例の密閉電池において、
図4に対応する図である。
【
図11B】実施形態の別例の密閉電池において、
図4に対応する図である。
【
図11C】実施形態の別例の密閉電池において、
図4に対応する図である。
【
図12】実施形態の一例の密閉電池の製造方法において、外装缶及びリードの溶接部の断面を模式的に示す図である。
【
図13】実施形態の別例の密閉電池の製造方法における
図12に対応する図である。
【
図14】実施形態の別例の密閉電池の底面側半部の断面図(a)と、(a)のD部拡大図(b)である。
【
図15】
図14に示す密閉電池の製造方法において、エネルギービームの照射工程における時間と照射エネルギーとの関係を示す図である。
【
図16】実施形態の密閉電池の製造方法の別例を示している
図1に対応する図である。
【
図17】
図16に示す密閉電池の溶接部を外装缶の外側から見た状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本開示の理解を容易にするための例示であって、密閉電池の仕様に合わせて適宜変更することができる。また、以下において「略」なる用語は、例えば、完全に同じである場合に加えて、実質的に同じとみなせる場合を含む意味で用いられる。さらに、以下において複数の実施形態、変形例が含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて用いることは当初から想定されている。
【0015】
また、以下では、密閉電池が円筒形の非水電解質二次電池である場合を説明するが、密閉電池は、角形電池等の円筒形電池以外としてもよい。また、密閉電池は、以下で説明するようなリチウムイオン二次電池に限定するものではなく、ニッケル水素電池、ニッカド電池等の他の二次電池、または乾電池またはリチウム電池等の一次電池であってもよい。また、電池が有する電極体は、以下で説明するような巻回型に限定するものではなく、複数の正極と負極がセパレータを介して交互に積層された積層型としてもよい。
【0016】
図1は、実施形態の一例の密閉電池20の底面側半部の断面図である。
図2は、密閉電池20の底面図である。以下では、密閉電池20は、電池20と記載する。
図1、
図2に例示するように、電池20は、巻回型の電極体22と、非水電解質(図示せず)と、外装缶50とを備える。巻回型の電極体22は、正極23と、負極24と、セパレータ25とを有し、正極23と負極24がセパレータ25を介して積層されるとともに、渦巻状に巻回されている。以下では、電極体22の軸方向一方側を「上」、軸方向他方側を「下」という場合がある。非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解したリチウム塩等の電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0017】
正極23は、帯状の正極集電体23aを有し、当該集電体23aに正極リード(図示せず)が接続される。正極リードは、正極集電体23aを正極端子(図示せず)に電気的に接続するための導電部材であって、電極群の上端から電極体22の軸方向αの一方側(
図1の上方)に延出している。ここで、電極群とは電極体22において各リードを除く部分を意味する。正極リードは、例えば電極体22の径方向βの略中央部に設けられている。
【0018】
負極24は、帯状の負極集電体24aを有し、当該集電体24aに負極リード26が接続される。負極リード26は、負極端子となる外装缶50に負極集電体24aを電気的に接続するための導電部材であって、電極群の巻き終わり側端部の下端から軸方向αの他方側(
図1の下方)に延出している。
【0019】
各リードの構成材料は特に限定されない。正極リードはアルミニウムを主成分とする金属によって、負極リード26はニッケルまたは銅を主成分とする金属によって、または、ニッケル及び銅の両方を含む金属によって、それぞれ構成することができる。
【0020】
負極リード26は、後述の外装缶50における底板部51の近くで略直角に曲げられて、絶縁板30を介して電極体22の巻き芯部29と対向する部分で底板部51の内面に重ねられ、この内面に接する。そして、この状態で、外装缶50の外部から底板部51に向けて第1レーザ光40及び第2レーザ光41を順に照射することで、外装缶50と負極リード26とを溶接部54により溶接する。各レーザ光40,41はエネルギービームに相当する。
【0021】
図2に示すように、溶接部54は、底板部51の外側(
図1の下側)から見た場合の平面形状が直線状である。なお、本開示で溶接部とは、外装缶50や負極リード26のうち各レーザ光40、41が照射されて溶融し、凝固した溶融痕により形成される部分をいう。第1レーザ光40及び第2レーザ光41の照射により、溶接部54には、負極リード26側の第1層56と、外装缶側の第2層58とが積層されて形成される。第2層58は、第1層56よりニッケルの含有濃度(質量%)が高い。溶接部54及び溶接工程については後で詳しく説明する。
【0022】
外装缶50は、ニッケルめっきされた鉄からなる材料を有底円筒状に加工して形成された容器である。
【0023】
外装缶50の開口部は、封口体(図示せず)によって封止される。外装缶50は、電極体22及び非水電解質を収容する。電極体22の下部には、絶縁板30が配置される。負極リード26は絶縁板30の外側を通って、外装缶50の底部側に延び、外装缶50の底板部51の内面に溶接される。外装缶50の底部である底板部51の厚みは、例えば0.2~0.5mmである。
【0024】
電極体22は、正極23と負極24がセパレータ25を介して渦巻状に巻回されてなる巻回構造を有する。正極23、負極24、及びセパレータ25は、いずれも帯状に形成され、渦巻状に巻回されることで電極体22の径方向βに交互に積層された状態となる。本実施形態では、電極体22の巻中心軸Oを含む巻き芯部29は、円柱状の空間である。
【0025】
正極23は、帯状の正極集電体23aと、当該集電体上に形成された正極活物質層とを有する。例えば正極集電体23aの両面に正極活物質層が形成されている。正極集電体23aには、例えばアルミニウムなどの金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等が用いられる。好適な正極集電体23aは、アルミニウムまたはアルミニウム合金を主成分とする金属などの正極の電位範囲で安定な金属の箔である。
【0026】
正極活物質層は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含むことが好ましい。正極23は、例えば正極活物質、導電剤、結着剤、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶剤を含む正極合剤スラリーを正極集電体23aの両面に塗布した後、乾燥および圧延することにより作製される。
【0027】
正極活物質としては、Co、Mn、Ni等の遷移金属元素を含有するリチウム含有遷移金属酸化物が例示できる。リチウム含有遷移金属酸化物は、特に限定されないが、一般式Li1+xMO2(式中、-0.2<x≦0.2、MはNi、Co、Mn、Alの少なくとも1種を含む)で表される複合酸化物であることが好ましい。
【0028】
上記導電剤の例としては、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料などが挙げられる。上記結着剤の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。また、これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
負極24は、帯状の負極集電体24aと、当該負極集電体上に形成された負極活物質層とを有する。例えば負極集電体24aの両面に負極活物質層が形成されている。負極集電体24aには、例えばアルミニウムや銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等が用いられる。
【0030】
負極活物質層は、負極集電体24aの両面において、後述の無地部を除く全域に形成されることが好適である。負極活物質層は、負極活物質及び結着剤を含むことが好ましい。負極活物質層は、必要により導電材を含んでいてもよい。負極24は、例えば負極活物質、結着剤、及び水等を含む負極合剤スラリーを負極集電体24aの両面に塗布した後、乾燥および圧延することにより作製される。
【0031】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、Si、Sn等のリチウムと合金化する金属、またはこれらを含む合金、複合酸化物などを用いることができる。負極活物質層に含まれる結着剤には、例えば正極23の場合と同様の樹脂が用いられる。水系溶媒で負極合剤スラリーを調製する場合は、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、CMCまたはその塩、ポリアクリル酸またはその塩、ポリビニルアルコール等を用いることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
負極24には、負極集電体24aを構成する金属の表面が露出した無地部が設けられる。無地部は、負極リード26が接続される部分であって、負極集電体24aの表面が負極活物質層に覆われていない部分である。無地部は、負極24の幅方向である軸方向αに沿って長く延びた正面視略矩形形状であり、負極リード26よりも幅広に形成される。
【0033】
負極リード26は、負極集電体24aの表面に例えば超音波溶接等の溶接により接合されている。なお、負極24の巻き終わり側端部だけでなく、巻き方向中間部、及び巻き始め側端部等に、負極リード26とは別の負極リードを設けて、電極群から底板部51側に延出させ、その延出させた負極リードを巻き芯部で負極リード26に重ねて、レーザ光の照射により外装缶50と溶接することもできる。この場合には、負極リードを負極24の複数位置に設けることで、集電性が向上する。無地部は、例えば負極集電体24aの一部に負極合剤スラリーを塗布しない間欠塗布により設けられる。
【0034】
正極リードは、正極集電体23aに形成された無地部に接合され、正極集電体23aから上方に突出した部分が正極端子または正極端子に接続された部分に接合される。
【0035】
セパレータ25には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布などが挙げられる。セパレータ25の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂が好ましい。
【0036】
溶接部54は、上記のように溶融痕により形成され、第1層56と、第2層58とが外装缶50の厚み方向に積層されて形成される。第1層56は、負極リード26から外装缶50の内部にかけて形成される。
【0037】
第2層58は、外装缶50の外側表面側において第1層56に隣接するように形成される。この第1層56と第2層58との境界は、外装缶50の底板部51の内部に位置し、この底板部51の内面(
図1の上面)からは、はみ出ない。また、
図2に示すように、外装缶50の底板部51の外側(
図1の下側)から溶接部54を見た場合に、
図4に示すように、第1層56の全部は、第2層58に覆われている。第2層58は、後述のように第1段階の後の第2段階で照射するレーザ光としての第2レーザ光41を外装缶50の外部から底板部51に向かって照射させることにより形成される。
【0038】
図4に示すように、第1層56は、外装缶50の底板部51の外側から見た場合の平面形状が直線状である。そして、第2層58も、底板部51の外側から見た場合の平面形状が直線状であり、第2層58の幅w2は第1層56の幅w1より大きい。また、第2層58は、第1層56よりニッケルの含有濃度(質量%)が高い。なお、第1層56及び第2層58の存在は、例えば溶融痕の外装缶50の厚み方向の断面を光学顕微鏡等により観察することで確認することができる。また、実際には、第1層56は、外装缶50の底板部51の外側から見ることはできない。上記の第1層56について、外装缶50の外側から見た場合の平面形状における「見た場合」は、単に視線方向を意味するものである。例えば、外装缶50の底板部51の外側表面に平行で、かつ第1層56を含む平面で切断した場合の断面形状を観察することで第1層56の平面形状を確認することができる。
【0039】
各レーザ光としては、ファイバーレーザのレーザ光を用いることが好適である。ファイバーレーザのスポット径は、例えば直径が0.02mm~0.05mm程度と非常に小さく、そのファイバーレーザにより形成される溶融痕の幅も約0.1mmと非常に小さくできる。このため、レーザ光の集光点のパワー密度を非常に高くできる。また、後述のように電池20をレーザ光の照射方向に対し直交する方向に相対的に移動させることで、レーザ光による溶接部54が底板部51の外側から見た場合に細い線状としやすい。このとき、電池20は底板部51を上にした状態で配置し、その底部に向けてレーザ光を照射させることができる。電池20は底板部51を横に傾けた状態で配置し、その底板部51に向けてレーザ光を照射させることもできる。
【0040】
後述の
図6、
図7に示す別例のように、線状の複数の溶接部54a、54b、54cを設けることで溶接強度を確保しやすい。局所的にこのような溶接部を形成するには、ファイバーレーザのレーザ光を用いることが好適である。
【0041】
次に、外装缶50と負極リード26とを溶接する溶接工程を含む実施形態の電池の製造方法を説明する。この製造方法において、溶接工程は、第1ビーム照射工程と、第2ビーム照射工程とを有する。
【0042】
第1ビーム照射工程を行う前には、外装缶50の底板部51の内面に負極リード26を対向させた状態で、外装缶50に電極体22を収容する。そして、この状態で、第1ビーム照射工程及び第2ビーム照射工程により、外装缶50の外部から底板部51に向けて2段階でレーザ光を照射する。具体的には、第1ビーム照射工程は、底板部51に向けて第1エネルギービームとしての第1レーザ光40を照射し、その照射位置において、外装缶50と負極リード26とを溶接し、直線方向に沿って一方側(例えば
図1の右側)に向かって、第1レーザ光40の照射部を外装缶50の底板部51の外側表面において移動させる。このとき、電池20をレーザ光の照射方向に対し直交する方向に相対的に移動させるように、レーザ光の光源を移動させる。
【0043】
次いで、第2ビーム照射工程は、外装缶50の外部から底板部51に向けて、第1レーザ光40の底板部51への照射範囲より広い範囲に第2エネルギービームとしての第2レーザ光41を照射する。このとき、第2レーザ光41のスポット径は、第1レーザ光40のスポット径より大きくすることが好ましい。また第2レーザ光41は、第2レーザ光41の照射により形成された溶融痕が外装缶50を貫通せず、負極リード26に達しないように照射する。このとき、例えば、上記の直線方向に沿って一方側(例えば
図1の右側)に向かって、第2レーザ光41の照射部を外装缶50の底板部51の外側表面において移動させて、第1層56と第2層58を形成する。第1層56は、第1レーザ光40の照射により形成された溶融痕のうち第2レーザ光41によって溶融しなかった範囲に形成される。そして、第2層58は第1層56に隣接するように形成される。このときも、電池20をレーザ光の照射方向に対し直交する方向に相対的に移動させるように、レーザ光の光源を移動させる。第2層58は、底板部51の外側表面に面し、第1層56との境界が底板部51の内部に位置する。上記のように第1レーザ光40及び第2レーザ光41は、照射部が底板部51の外側表面上を同一の直線方向に沿って移動するように照射する。これによって、第1層56及び第2層58の底板部51の外側から見た場合の平面形状が直線状に形成される。また、底板部51の外側から見た場合に、第1層56の全部は第2層58により覆われる。なお、レーザ光の照射部は外装缶50の外側表面に対して相対的に移動させればよく、レーザ光及び外装缶50のうち、実際に動かすのは外装缶50でもよい。
【0044】
上記の実施形態の電池20及びその製造方法によれば、電池20の溶接部54において、負極リード26側の第1層56に比べて外装缶50の表面側の第2層58のニッケルの含有濃度は高い。これにより、第2層58を有しない電池に比べて、電池20の外装缶50の外側表面に露出した溶融痕の防錆性を高くすることができる。
【0045】
実施形態の電池の製造方法によれば、第2層58を形成するための第2レーザ光41のスポット径は、第1層56を形成するための第1レーザ光40のスポット径に比べて大きいので、第1レーザ光40より第2レーザ光41の外装缶50の外側表面への照射面積が大きくなる。さらに、第1レーザ光40より第2レーザ光41の照射深度は小さい。そのため、外装缶50の広範囲のニッケルめっき層のニッケルが溶融するとともに、外装缶50の鉄の溶融量は抑えられるため、第2層58のニッケルの含有濃度を高くできる。したがって、第2レーザ光41の外装缶50への照射面積及び照射深度を制御することにより、第2層58のニッケルの含有濃度を容易に制御することができる。
【0046】
また、外装缶50の外側から溶接部54を見た場合に第1層56の全部が第2層58に覆われており、外装缶50の外側表面に第1層56が露出しない。これにより、外装缶を貫通するように形成された溶融痕が外装缶の外側表面に露出する電池の場合に比べて、外装缶50の外側表面に露出した溶融痕の防錆性を高くすることができる。
【0047】
第1層56よりニッケル含有濃度の高い第2層58を外装缶50の外側表面に形成することにより、外装缶50の表面に露出した溶融痕の防錆性が高くなる。そのため、第2層58のニッケル含有濃度は特に限定されない。しかし、第2層58のニッケル含有濃度は1.4質量%以上とすることが好ましい。第2層のニッケル含有濃度が1.4質量%以上の範囲では防錆効果のニッケル含有濃度の依存性は低いため、安定した防錆効果が得られる。
【0048】
さらに、実施形態によれば、溶接部54における第1層56及び第2層58を外装缶50の外側から見た場合の平面形状が直線状である。これにより、外装缶に負極リードがスポットで溶接された電池に比べて、外装缶50と負極リード26との接合面積が大きくなり、接合強度を大きくできる。特に、負極リード26を外装缶50に対し回転させる方向に加わるトルクに対する強度を高くできる。また、第1層56を外装缶50の外側から見た場合の平面形状が直線状であるので、第2層58で第1層56を覆う形状とすることで外装缶の外側から見た場合の第2層58で第1層56からはみ出す部分の面積を容易に大きくできる。これにより、第2層58のニッケル含有濃度を容易に高くできる。また、各レーザ光としてファイバーレーザを用いた場合には、第1レーザ光40及び第2レーザ光41の照射深度と、第2レーザ光41の照射面積とを精度よく制御できる。これにより、第1層56及び第2層58の寸法(厚み、幅、長さ)を精度よく制御できるとともに、第2層58のニッケル含有濃度を精度よく制御できる。なお、外装缶50の外側から溶接部54を見た場合における第1層56及び第2層58の平面形状は線状であればよく、直線状に限定するものではない。例えば、第1層56及び第2層58の平面形状は、曲線状としてもよい。
【0049】
次に、上記の実施形態の効果を確認するために行った実験結果を説明する。実験には、以下の実施例1の電池を用いた。
【0050】
[実施例1]
実施例1の構成の寸法を例示するが、本開示は以下の寸法に限定されるものではない。
図4を参照して、第2層58を外装缶50の外側から見た場合の短尺方向の幅w2が、第1層56を外装缶50の外側から見た場合の短尺方向の幅w1より大きく、かつ、幅w1の3倍以下である。また、第2層58を外装缶50の外側から見た場合の長尺方向の長さL2は、第1層56を外装缶50の外側から見た場合の長尺方向の長さL1より大きく、かつ、長さL1の2倍以下である。また、
図3を参照して、第2層58の厚みD2は、外装缶50の外側表面のニッケルめっき層(図示せず)の厚みより大きく、かつ、外装缶50の厚みDcの0.8倍以下である。
【0051】
より具体的な寸法として、外装缶50はニッケルめっきした鉄からなり、外側表面のニッケルめっき層は厚みが3.5μmである。また、外装缶50のニッケルめっき層を含む総厚みは、300μmである。さらに、溶接部54の第1層56及び第2層58の寸法は以下の通りである。
(第1層56)
(1)外装缶50の外側から見た場合の短尺方向の幅w1:80μm
(2)外装缶50の外側から見た場合の長尺方向の長さL1:1000μm
(3)厚み(第2層58との境界から負極リード26の内部における末端までの長さ)D1:230μm
(第2層58)
(1)外装缶50の外側から見た場合の短尺方向の幅w2:170μm
(2)外装缶50の外側から見た場合の長尺方向の長さL2:1600μm
(3)厚み(外装缶50の外側表面から第1層56との境界までの長さ)D2:120μm
【0052】
上記の実施例1の電池を用いて、溶融痕である溶接部54を、外装缶50の外側表面における溶接部54の短尺方向で、かつ外装缶50の厚み方向に切ったときの断面において、ニッケル含有濃度を調べた。この結果、第1層56のニッケル含有濃度は1.24質量%であったのに対し、第2層58のニッケル含有濃度は2.17質量%と、上記の好ましい含有濃度である1.4質量%以上であることを確認できた。これにより、実施例では、外装缶50の外側表面に露出した溶融痕の防錆性を高くできることを確認できた。
【0053】
[実施例2]
また、実施形態の製造方法の効果を確認するために、外装缶50及びレーザ光の照射条件として以下のものを用いて、実施例2の電池を作製した。
【0054】
外装缶50は、上記の実施例1の場合と同様に、ニッケルめっきした鉄からなり、外側表面のニッケルめっき層は厚みが3.5μmである。また、外装缶50のニッケルめっき層を含む総厚みは、300μmである。
【0055】
第1レーザ光40及び第2レーザ光41の照射条件は以下の通りである。
(第1レーザ光40)
(1)エネルギー:0.6J
(2)レーザスポット径:20μm
(3)移動速度:470mm/sec
【0056】
(第2レーザ光41)
(1)エネルギー:0.8J
(2)レーザスポット径:170μm
(3)移動速度:470mm/sec
【0057】
上記の条件で実施例2において、溶接部54を形成したところ、第1レーザ光40の照射によって、外装缶50から負極リード26にまたがって溶融痕が形成された。その溶融痕では、外装缶50の外側表面における短尺方向の幅が80μmで、長尺方向の長さが1000μmで、厚み(外装缶50の外側表面から負極リード26の内部における末端までの長さ)が350μmであった。続いて第2レーザ光41の照射によって、第1レーザ光40により形成された溶融痕のうち、外装缶50の外側表面から深さ120μmの部分が再度溶融した。そして、外装缶50の外側表面からの深さが120μmの位置から負極リード26の内部における末端までの部分が、第1層56として残った。これと同時に、外装缶50の外側表面における短尺方向の幅が170μmで、長尺方向の長さが1600μmで、外装缶50の外側表面からの厚みが120μmの第2層58が形成された。このとき、第1層56及び第2層58の境界は、外装缶50の内部で、外装缶50の外側表面からの深さが120μmの位置に形成された。
【0058】
このような条件で形成された溶接部54を、外装缶50の外側表面における短尺方向で、かつ外装缶50の厚み方向に切ったときの断面において、ニッケルの含有濃度を調べた。この結果、上記の実施例1の場合と同様に、第1層56の含有濃度が1.24質量%であったのに対し、第2層58の含有濃度は2.17質量%であった。これにより、第2レーザ光41の外装缶50への照射面積及び照射深度を制御することで、第2層58をニッケル含有濃度が1.4質量%以上となるように調整できることを確認できた。そしてこれにより、外装缶50の外側表面に露出した溶融痕の防錆性を高くできることも確認できた。
【0059】
図6は、実施形態の別例の電池20aの底面側半部の断面図である。
図7は、
図6に示す電池20aの底面図である。本例の場合には、負極リード26と外装缶50とが複数位置で溶接されている。具体的には、
図7に示すように、負極リード26と外装缶50とが、底板部51の外側から見た場合に3つの直線状の溶接部54a、54b、54cからなる溶接群60により溶接されている。それぞれの溶接部54a、54b、54cは、上記の
図1から
図5の構成と同様に、第1層56及び第2層58(
図3)により形成される。3つの溶接部54a、54b、54cは、底板部51の外側から見た場合に、略平行に並んでいる。このように直線状の溶接部54a、54b、54cが複数設けられることで、負極リード26と外装缶50との接合面積が増加するので、溶接強度を高くできる。溶接群に含まれる溶接部の数は2以上であることが好ましいが、特に限定されない。
【0060】
次に、
図6、
図7に示した電池20aの製造方法を説明する。本例の製造方法では、回折格子42を用いて、1つのレーザ光43を光学的に、3つのレーザ光43a、43b、43cに分岐させて、分岐後のレーザ光43a、43b、43cを底板部51の外側表面に照射する。なお、
図6には示されていないが、分岐後のレーザ光43a、43b、43cは集光レンズで集光されている。これにより、3つの溶接部54a、54b、54cの第1層56及び第2層58が、3つの溶接部で同時に形成される。
【0061】
上記の製造方法によれば、1つのレーザ光43から分岐された3つのレーザ光43a、43b、43cの2回の照射によって、複数の溶接位置に第1層56及び第2層58を同時に形成できる。これにより、生産工数が減るので、電池20aの生産性を高くできる。その他の構成及び作用は、
図1から
図5の構成と同様である。もちろん、複数の溶接位置にレーザ光を個別に照射することもできる。例えば、
図7に示す溶接群を形成する場合は、まず、溶接部54a、54b、54cのそれぞれの位置に第1エネルギービームとしてのレーザ光を順番に照射する。次に、溶接部54a、54b、54cのそれぞれの位置に第2エネルギービームとしてのレーザ光を順番に照射する。レーザ光を照射する順番は任意に決定することができる。
【0062】
図8は、実施形態の別例の電池において、
図4に対応する図である。本例の場合には、負極リード26(
図1)と外装缶50とを溶接する溶接群61が、底板部51の外側から見た場合に+状に直交する2つの溶接部54d、54eにより形成される。それぞれの溶接部54d、54eは、上記の
図1から
図5の構成と同様に、第1層56(
図3)及び第2層58により形成される。この場合も、
図6、
図7の構成と同様に、線状の溶接部54d、54eが複数設けられることで、負極リード26と外装缶50との接合面積が増加するので、溶接強度を高くできる。その他の構成及び作用は、
図1から
図5の構成と同様である。
【0063】
図9は、実施形態の別例の電池において、
図3に対応する図である。
図10は、
図9に示す電池20cの溶接部62を外装缶50の外側から見た図である。上記の各例では、負極リードと外装缶とを溶接する溶接部が線状である場合を説明したが、本例の場合には、負極リード26と外装缶50とを溶接する溶接部62がスポット状である。
【0064】
具体的には、溶接部62は、第1層64と、第2層66とが外装缶50の厚み方向に積層されて形成される。第1層64は、負極リード26から外装缶50の内部にかけて形成され、外装缶50と負極リード26とを溶接する。第2層66は、外装缶50の外側表面側において第1層64に隣接するように形成される。この第1層64と第2層66との境界は、外装缶50の底板部51の内部に位置する。また、
図10に示すように、外装缶50の底板部51の外側から溶接部62を見た場合の平面形状は円板状である。
【0065】
また、第1層64は、外装缶50の外側から見た場合の平面形状が円板状である。そして、第2層66も、外装缶50の外側から見た場合の平面形状は円板状であり、第2層66の外周の直径は第1層64より大きい。また、第2層66は、第1層64よりニッケルの含有濃度が高い。このような溶接部62は、第2層66を形成する第2レーザ光のスポット径を、第1層64を形成する第1レーザ光のスポット径より大きくし、第2レーザ光の照射深度を第1レーザ光より小さくすることで形成できる。
【0066】
本例の構成によれば、上記の各例の構成に比べて溶接部62の形状が単純であるため、製造工程を単純化でき、生産効率を高くできる。その他の構成及び作用は、
図1から
図5の構成と同様である。
【0067】
図11A~
図11Cは、それぞれ実施形態の別例の電池において、
図4に対応する図である。
図11A~
図11Cに示す各例では、負極リード26(
図1)と外装缶50とが複数の溶接部62からなる溶接群68a、68b、68cにより溶接される。
【0068】
例えば、
図11Aの構成では、外装缶50の外側から見た場合に直線状に並んだ3つの溶接部62により溶接群68aが形成される。
図11Bの構成では、正方形の頂点位置に配置された4つの溶接部62により溶接群68bが形成される。
図11Cの構成では、
図11Bの構成において、隣り合う溶接部62の距離が近くなり、隣り合う溶接部62が一部で重なっている。各溶接部62の構成は、
図9、
図10に示した構成と同様である。
【0069】
図11A~
図11Cの各例の構成によれば、
図9、
図10に示した構成に比べて、負極リード26と外装缶50との接合面積が増加するので、溶接強度を高くできる。
【0070】
図12は、実施形態の一例の電池20の製造方法において、外装缶50及び負極リード26の溶接部54の断面を模式的に示す図である。
図12は、溶接部54を外装缶50の底板部51の外側表面における長尺方向で、かつ底板部51の厚み方向に切ったときの断面を光学顕微鏡で観察したときの第1層56及び第2層58の断面を模式化して示している。
図12は、
図3の上下方向を逆にして示したものに対応する。
図12は、溶接部54の形成時に、レーザ光の照射部が底板部51の外側表面(
図12の上側面)上を直線方向(
図12の左右方向)に沿って一方側(
図12の右側)に向かって移動することを示している。この場合には、外装缶50の内部の組織がレーザ光のエネルギーで撹拌され、照射部が移動するのに従って、移動方向の後側で撹拌の作用が大きくなる。これにより、外装缶50の底板部51の外側表面が、照射開始端側(
図12の左側)で盛り上がり、照射終了端側(
図12の右側)でへこみが生じる。
図12に示す断面では、第1レーザ光の照射によって底板部51の外側表面に生じる凹凸の傾向と、第2レーザ光の照射によって底板部51の外側表面に生じる凹凸の傾向とが同じになる。具体的には、第1レーザ光及び第2レーザ光において、照射部が底板部51の外側表面上を同じ一方向に移動するように照射する場合には、底板部51の外側表面の盛り上がり側とへこみ側とが第1レーザ光及び第2レーザ光の照射でそれぞれ一致する。したがって、底板部51の外側表面の凹凸が大きくなる原因となる。
【0071】
一方、
図13は、実施形態の別例の電池20の製造方法における
図12に対応する図である。
図13に示す製造方法では、第1レーザ光の照射部の移動方向に対して、第2レーザ光の照射部の移動方向が逆になるようにしている。より具体的には、第1ビーム照射工程は、第1レーザ光の照射部を外装缶50の底板部51の外側表面に対し第1方向(
図13の右側)に移動させながら照射する。一方、第2ビーム照射工程は、第2レーザ光の照射部を底板部51の外側表面に対し第1移動方向とは逆方向の第2方向(
図13の左側)に移動させながら照射する。
【0072】
上記の製造方法によれば、
図13で示したように、第1レーザ光及び第2レーザ光の照射における照射開始端側と照射終了端側とが、第1レーザ光及び第2レーザ光で逆になる。これにより、底板部51の表面での盛り上がりとへこみとを相殺または緩和することができる。
図13は、
図12と同様に、溶接部70を外装缶50の底板部51の外側表面における長尺方向で、かつ底板部51の厚み方向に切ったときの断面を光学顕微鏡で観察したときの第1層56a及び第2層58aの断面を模式化して示している。
図13に示すように、第1層56a及び第2層58aで、底板部51の表面の盛り上がりとへこみとの位置が逆になることで、底板部51の外側表面の凹凸を小さくできる。これにより、密閉電池をモジュール化する際に密閉電池を安定して固定することが容易になる。
【0073】
図14(a)は、実施形態の別例の電池20の底面側半部の断面図であり、
図14(b)は
図14(a)のD部拡大図である。
図15は、
図14に示す電池20の製造方法において、レーザ光の照射工程における時間と照射エネルギーとの関係を示す図である。
【0074】
本例の電池20では、溶接部72において、第1層74の長尺方向(
図14の左右方向)両端部における第2層76の外側表面を基準とした傾斜底面S1a、S1bの勾配E1a、E1bに比べて、第2層76の長尺方向両端部における第2層76の外側表面を基準とした傾斜底面S2a、S2bの勾配E2a、E2bを小さくしている。具体的には、第1層74は、外装缶50の底板部51の外側から見た場合の平面形状が直線状であり、かつ、長尺方向(
図14の左右方向)両端部において長尺方向中央に向かって深さが徐々に大きくなるように2つの第1傾斜底面S1a、S1bが形成される。また、第2層76は、底板部51の外側から見た場合の幅(
図14の紙面の表裏方向の長さ)が第1層74の幅より大きい直線状であり、かつ、長尺方向両端部において長尺方向中央に向かって深さが徐々に大きくなるように2つの第2傾斜底面S2a、S2bが形成される。さらに、各第2傾斜底面S2a、S2bの勾配E2a、E2bが、各第1傾斜底面S1a、S1bの勾配E1a、E1bより小さくなっている。
【0075】
本例の電池20の製造方法では、上記の電池20を製造するために、第1ビーム照射工程は、
図15に示すように、第1層74の照射開始時間t1aで照射エネルギーを徐々に大きくする。その後、照射エネルギーを一定に維持し、次いで、照射終了時間t1bで照射エネルギーを徐々に小さくする。これにより、第1層74の照射開始端部(
図14の左端部)で、照射深度(
図14の上下方向長さ)が照射部の移動にしたがって徐々に大きくなるようにして、第1傾斜底面S1aが形成される。これとともに、第1層74の照射終了端部(
図14の右端部)で、照射深度が照射部の移動にしたがって徐々に小さくなるようにして、第1傾斜底面S1bが形成される。
【0076】
次いで、第2ビーム照射工程は、
図15に示すように、第2層76の照射開始時間t2aで照射エネルギーを徐々に大きくし、その後、照射エネルギーを一定に維持し、次いで、照射終了時間t2bで照射エネルギーを徐々に小さくする。このとき、照射開始時間t2aでは、照射エネルギーが大きくなる速度を第1ビーム照射工程での照射開始時間t1aで照射エネルギーが大きくなる速度より小さくする。また、照射終了時間t2bで、照射エネルギーが小さくなる速度を第1ビーム照射工程での照射終了時間t1bで照射エネルギーが小さくなる速度より小さくする。これにより、第2ビーム照射工程では、第2層76の長尺方向両端部における各第2傾斜底面S2a、S2bの勾配が、第1層56の長尺方向両端部における各第1傾斜底面S1a、S1bの勾配より小さくなるように第2層76が形成される。
【0077】
上記の製造方法により形成される電池20によれば、第2層76の各第2傾斜底面S2a、S2bの勾配E2a、E2bが、第1層74の各第1傾斜底面S1a、S1bの勾配E1a、E1bより小さくなる。これにより、第2層76の長尺方向両端部は、外装缶50の下地金属の鉄に対するニッケルめっき層のニッケルの比率が高くなるように溶融されるので、第2層76のニッケル含有濃度をより高くできる。このため、溶融痕における防錆性をより高くできる。その他の構成及び作用は、
図1から
図5の構成と同様である。
【0078】
第2層76のニッケル含有濃度を高めるためには、第2層76を形成する際に第2レーザ光41の照射面積を大きくすることが好ましい。ところが、第2レーザ光41の照射面積を大きくすると、一般的には外装缶50外側にスパッタやヒュームが発生しやすくなる。そこで、第2層76の各第2傾斜底面S2a、S2bと長尺方向とのなす角度E2a、E2bを小さくすることにより、スパッタやヒュームの発生は抑制されるため、密閉電池の生産性の向上が期待される。また、外装缶50の底板部51の外側へのスパッタやヒュームの付着が抑制されるため、密閉電池をモジュール化する際の底板部51と集電リードの接合性の向上も期待される。
【0079】
図16は、実施形態の電池20の製造方法の別例を示している
図1に対応する図である。
図17は、
図16に示す電池20の溶接部54fを外装缶50の外側から見た状態を示す模式図である。本例の製造方法によって製造する電池20の構成は、
図1から
図5に示した電池20と同様である。本例の製造方法では、負極リード26と外装缶50の底板部51とを溶接する溶接工程が、1回のビーム照射工程によって行われる。具体的には、溶接工程は、回折格子42aを用いて1つのレーザ光44を照射部の移動方向の前側(
図16の右側)と後側(
図16の左側)とに、第1レーザ光45及び第2レーザ光46を、それぞれ分岐させる。これとともに、底板部51の外側表面の所定位置に、第1レーザ光45が第2レーザ光46より先に照射されるように、第1レーザ光45及び第2レーザ光46を外装缶50に対し相対的に移動させる。これによって、外装缶50と負極リード26とを溶接して第1層56及び第2層58を形成する。
【0080】
このとき、
図17に示すように、第1レーザ光45の照射部の中心O1は第2レーザ光46の照射部の中心O2より常に前側(
図17の右側)に位置する。そして、各レーザ光45,46のスポット径を調整することにより、外装缶50の外側表面から見た場合に第1層56の全部を第2層58により覆うことができる。
図17では、第1層56の照射終了端部でのスポットを破線F1で示し、第2層58の照射終了端部でのスポットを破線F2で示している。
【0081】
上記の製造方法によれば、レーザ光の光源の数を少なくできるので、設備投資を少なくできる。また、設部のメンテナンスにかかる時間を削減できる。一方、レーザ光の光源の数が多くなる場合には、レーザ出力、スポット径等の照射条件について機差が多くなり、製品ばらつきが大きくなる可能性があるが、本例の製造方法によればこのばらつきを小さくできる。また、1つの光源による1回のレーザ光の照射によって同時に第1層56及び第2層58を形成できるので、生産工数が減ることにより生産性を向上できる。その他の構成及び作用は、
図1から
図5の構成と同様である。
【0082】
上記の各例では、負極に接続された負極リードを外装缶に溶接する場合を説明したが、正極に接続された正極リードを外装缶に溶接する場合にも、本開示の構成を適用することができる。
【0083】
上記の各例では、負極の巻き終わり側端部に接続された負極リードを外装缶に溶接する場合を説明したが、負極の巻き始め側端部に接続された負極リードを外装缶に溶接する場合にも本開示の構成を適用することができる。
【0084】
上記の各例では、負極に接続された1本の負極リードを外装缶に溶接する場合を説明したが、負極に接続された複数本の負極リードを外装缶に溶接する場合にも、本開示の構成を適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
20,20a 密閉電池(電池)、22 電極体、23 正極、23a 正極集電体、24 負極、24a 負極集電体、25 セパレータ、26 負極リード、29 巻き芯部、30 絶縁板、40 第1レーザ光、41 第2レーザ光、42,42a 回折格子、43,43a,43b,43c,44 レーザ光、45 第1レーザ光、46 第2レーザ光、50 外装缶、51 底板部、54,54a~54f 溶接部、56 第1層、58 第2層、60,61 溶接群、62 溶接部、64 第1層、66 第2層、68a,68b,68c 溶接群、70,72 溶接部、74 第1層、76 第2層。