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特許7134980所定のカソード材料除去を伴うカソードアーク蒸発
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】所定のカソード材料除去を伴うカソードアーク蒸発
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/32 20060101AFI20220905BHJP
【FI】
C23C14/32 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019541275
(86)(22)【出願日】2018-02-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2018053724
(87)【国際公開番号】W WO2018149894
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-01
(31)【優先権主張番号】62/458,631
(32)【優先日】2017-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 友和
(72)【発明者】
【氏名】フェッター,ヨルク
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラッハ,マルクス
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特表平03-500469(JP,A)
【文献】特表2004-523658(JP,A)
【文献】特開昭64-000262(JP,A)
【文献】特表2007-505997(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0050059(US,A1)
【文献】米国特許第06645354(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードのアーク蒸発プロセスを用いて真空チャンバー中でカソードを蒸発させる方法であって、
アークを点火させ、蒸発させられるべきカソード表面上の所定の軌道上でのアークのアークスポットの移動を、ガイド磁場を用いて行わせ、少なくとも内側磁場と外側磁場とをそれぞれ生成するために、前記真空チャンバーの内側で内側磁気手段を用い、前記真空チャンバーの外側で外側磁気手段を用い、前記ガイド磁場はトンネル形状のガイド磁場であり、かつ前記内側磁場と前記外側磁場の相互作用で生じる、方法において、
前記トンネル形状のガイド磁場は可変であり、前記アーク蒸発プロセスを実施する間に少なくとも2つの異なるガイド磁場(M1、M2)を生成し、前記方法は以下の工程を含み、すなわち、
・前記蒸発させられるべきカソード面上の第1軌道上で第1走行時間t1の間に前記アークのアークスポットをガイドするために用いられる前記トンネル形状の第1ガイド磁場(M1)を生成する工程であって、長さ(L1)の第1浸食路(W1)は、前記カソード面の第1領域中に生じ、前記第1走行時間(t1)は、前記第1浸食路(W1)の全長(L1)を一度走破するために前記アークスポットが必要とする時間に相当し、
・前記第1ガイド磁場とは異なるトンネル形状の第2ガイド磁場(M2)を設定するために、第1ガイド磁場の特性を変化させる工程であって、前記第2ガイド磁場は、第2走行時間(t2)の間に、前記蒸発させられるべきカソード面上での第2軌道上でアークのアークスポットをガイドするために用いられ、この際、長さ(L2)の第2浸食路(W2)は、前記カソード面の第2領域中に生じ、前記第2走行時間(t2)は、前記第2浸食路(W2)の全長(L2)を一度走破するために前記アークスポットが必要とする時間に相当し、
・前記アーク蒸発プロセスを実施する工程であって、前記アーク蒸発プロセスの全期間ttotの間に、前記第1ガイド磁場(M1)が、on時間tein1の間投入され、前記第2ガイド磁場(M2)が、on時間tein2の間投入され、tein1≧t1、tein2≧t2、およびtTot≧tein1+tein2であり、ここでt1およびt2は、それぞれ秒から分まで続くことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記トンネル形状の第1ガイド磁場の前記特性は、n個のトンネル形状のガイド磁場Miを設定するためにn回変化し、nは整数で、n≧2であり、iは整数でi=1~nであり、各トンネル形状のガイド磁場用に、走行時間tiの間、前記アークのアークスポットをガイドするための異なる軌道が結果として生じ、このようにして相応の長さLiの異なる浸食路Wiが生じ、前記走行時間tiは、それぞれ対応する浸食路Eiの全長Liを走破するためにアークスポットが必要とする時間に相当し、それぞれteini≦tiであり、tiは秒から分まで続き、前記アーク蒸発プロセスの全期間は、下式(2)で与えられる、請求項1に記載の方法。
【数2】
【請求項3】
ein1、tein2または妥当な場合にはteiniは、等しい係数k≧1の整数の倍数であり、tein1=k×t1であり、tein2=k×t2または妥当な場合には、teini=k×tiである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも2つの浸食路は円形である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも2つの円形の浸食路は、前記蒸発させられるべきカソード面の中央に中心合わせされている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
隣接する2つの円形の浸食路間の距離は、少なくとも1mm好ましくは3~10mmである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記内側磁場を生成するため、および/または、前記外側磁場を生成するために、少なくとも1つのコイルを用い、かつ、前記異なるトンネル形状のガイド磁場を設定するために、前記コイルを貫流する電流を変化させる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記蒸発させられるべきカソード面は、黒鉛材料から、または別の元素と合金された黒鉛材料からなる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記コイルは、鉄のコア(24)を有する外側コイル(22)である、請求項7、または請求項7および8に記載の方法。
【請求項10】
前記カソードは、プレート形状でありかつ円形の蒸発させられるべき面を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記内側磁場は、走行挙動が実質的に前記カソードの中央に集まるように生成される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
各ガイド磁場M1、M2および妥当な場合にはMiは、それぞれon時間tein1、tein2および妥当な場合にはteiniの間に、前記蒸発させられるべきカソード面の均一な浸食が達成されるように順次投入される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ein1、tein2および妥当な場合にはteiniは、必ずしも等しくはない独自の係数、それぞれk1、k2または妥当な場合にはkiの整数の倍数であり、tein1=k1×t1、tein2=k2×t2または妥当な場合にはteini=ki×tiである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
全ての浸食路Eiは円形である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
全ての浸食路Eiは、前記蒸発させられるべきカソード面の中央に中心合わせされている、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードアーク蒸発を用いて、カソードを蒸発させる方法に関し、この場合、アークスポットは、時間的および空間的に制御可能な磁場を用いて、カソード表面上の所定の軌道に定められるが、この際、カソード表面の所定の材料の除去が行われる。本発明は、本発明によるこの方法を実施するための装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
カソードとして用いられる材料のアーク蒸発(以下ではスパーク蒸発とも称し、本発明の枠内ではアーク蒸発=スパーク蒸発である)では、磁場が用いられない場合には、アークスポット(スポットまたはカソードアークスポットとも称される)は、大概予測不可能に移動する。とりわけ黒鉛材料の場合には、金属材料と比較すると、アークスポットは、特に任意にゆっくりと移動する。このような場合には、蒸発させられるべき黒鉛材料の表面のある場所にスポットが非常に長く滞在し続けるので、黒鉛材料中に深い穴が生じ、この際アークが消えることがしばしば起こる。
【0003】
カンダー他(Kandah et al)は、例えば、その論文である非特許文献1中に、カソードアークスポットが、黒鉛カソード上で、金属材料からなるカソードと比較して、いかにゆっくり動き、カソードアークスポットが全く動かなくなりさえし、この際黒鉛材料中で焼き付かれうることを記載している。同じ論文中で、カンダー他は、時間的および空間的に一定に保たれる強い磁場を使用することにより、アーク蒸発を用いて黒鉛カソードから製造される層中でマクロ粒子を減らすことができることを報告している。彼らの説明によれば、この強い磁場がアークスポットの速度を高め、したがって、カソードアークスポット領域中のアークスポットの熱の作用時間を短くすることができ、この結果、黒鉛カソードからのマクロ粒子の生成を低減することができるとしている。実施された実験で、カンダー他は、スポット走行距離をアーク期間で割って平均スポット速度を算出した。黒鉛カソード表面上でスポットを逆向きに移動するために、カソード表面に平行である外部静止磁場を用いているが、これは、横断する磁場の影響下にある、真空中のアークに典型的な方法である。様々なタイプの黒鉛上で、スポットは非常に異なって挙動し、スポット速度に関しても、除去プロフィールに関しても異なって挙動することが観察された。
【0004】
以下では、時間的および空間的に一定に保たれる磁場を、「時間的および空間的静止磁場」と称し、または単に「静止磁場」とも称する。
【0005】
しかし、この種の静止磁場を使用しつつ最適な除去プロフィールの設定することは、広い面積のカソード上では、ほぼ不可能であることが明らかである。これに関して、例えば、直径が数センチメートル、すなわち2cm以上である円形の活性カソード面ですでに該当する。
【0006】
これ以外の著者も、最近、磁場を使用して、黒鉛カソード上でのカソードアークスポットの移動を制御する方法について報告している。
【0007】
リウヘ リー他(Liuhe Li et al)は、例えば、その論文である非特許文献2中で、様々な強度の時間的および空間的静止磁場、アーク流、気体圧力および表面形態が、長方形形状の黒鉛カソード上でのカソードアークスポットの移動および動態に与える影響について報告している。適用される磁場は、永久磁石と電磁コイルとの組み合わせにより生成される。しかし、この時間的および空間的静止磁場は、走行軌道に大幅に作用しているので、結果として黒鉛カソードの不均等な材料除去が生じる。
【0008】
この文脈で、アクセノフ他(Aksenov et al)も、その論文である非特許文献3中で、スパーク蒸発の間に生じる黒鉛カソードの除去される表面の形状に対する時間的および空間的静止磁場の影響について報告している。これに関連して、とりわけ、気体圧力およびアーク流の作用を調べる実験が実施された。アクセノフ他は、さらに、黒鉛上のカソードスポットの移動速度は、金属上の移動速度に比べて、約2~3桁、より小さいと言及した。カソードの縁領域中では、磁場を最適化しているにも拘わらず、カソード材料の定義されない除去(浸食とも称される)を確認することができた。
【0009】
アークを金属カソード上で移動させるために複数の静止磁場を使用することは、従来技術からも公知である。これに関連して、例えばフェッター(Vetter)は、特許文献1中で、縁磁場を目的に応じて切り替えることにより、蒸発させられるべきカソード表面からアークが下方向に流れることが防がれうると説明している。
【0010】
しかし、本発明者らは、外部磁場の制御を含むこれらの従来の解決方法では、除去プロフィール(浸食プロフィールとも称する)の限定的で目的に応じた設定のみが従来可能であると確定した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】ドイツ国特許出願公開第4008850号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Kandah et al、「様々な種類の黒鉛カソード上での真空アークカソードスポットの移動(Vaccum arc cathode spot movement on various kinds of graphite cathodes)」、プラズマ源科学技術(Plasma Sources Sci. Technol.)第5号(1996年)、p.349-355
【文献】Liuhe Li et al、「外部磁場下でのカソードアークスポットの移動の制御(Control of cathodic arc spot motion under external magnetic field)」、真空(Vacuum)91号(2013年)、p.20-23
【文献】Aksenov et al、「黒鉛カソードの浸食表面の形状に対する磁場の影響(Magnetic Field influence on the shape of eroding surface of graphite cathodes)」、原子科学および技術の問題(Problems of Atomic Science and Technology)、2002年5号、プラズマ物理(Plasma Physics)(8)、p.142-144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、カソードアーク蒸発を用いてカソードを蒸発させる方法であって、この際に、特に蒸発させられるべきカソード材料が黒鉛の場合に、カソード表面の所定の材料除去が行われる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、驚くべきことに、とりわけ黒鉛材料のアーク蒸発における従来技術による従来の解決方法の上述の欠点を、時間的および空間的に制御可能な磁場を用いて理想的に克服することができ、この際カソード材料の浸食(以下では除去とも称し、本発明の枠内では浸食=除去である)は、時間的および空間的に制御可能な磁場を用いて、目標に応じて設定されることを明らかにした。
【0015】
本発明の枠内では、「時間的および空間的に制御可能な磁場」との表現は、磁力線を有し、かつ、磁場を一又は複数の場所中に投入する期間の少なくとものある部分の間に、目的に応じて磁力線の特性を変更可能である磁場のことを称する。
【0016】
これも同様に本発明の枠内では、「静止磁場」との表現は、とりわけ、磁力線を有する磁場であって、とりわけ外部磁場であって、この磁力線の特性は、磁場の投入時に時間的および空間的に制御可能ではない磁場のことを称し、すなわち、浸食が起きるカソードの場所を、磁力線の特性変化により時間的に変えるように、アーク蒸発の間にアークスポット軌道を変更することが可能ではない。
【0017】
以下に、本発明を、いくつかの図と実施形態に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る2つのトンネル形状の磁場(図1中では、M1およびM2の符号が付けられている)、ならびに、この結果生じる、カソード30上の浸食路(図1中、W1およびW2の符号が付けられている)を示す図であり、浸食路はそれぞれ円形で、相応の直径(図1中、D1およびD2の符号が付けられている)で示されている。
図2】本発明による方法を実施する装置を示す図である。
図3】本発明による方法を以下の実施例2で使用した結果生じた浸食路および浸食された領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
例えば、所定の黒鉛品質を有する黒鉛ターゲット(以下では、単にターゲットとも称する)を、カソードとして真空被覆チャンバー中で作動させ、この黒鉛ターゲットを、スパーク蒸発を用いて蒸発させ、かつこの際に炭素層を真空被覆チャンバー中に置かれた基板の表面上に析出させる際に、本発明により時間的および空間的に制御可能なトンネル形状のガイド磁場を設定することができ、これにより、例えば所定の黒鉛品質について一定の除去速度Rを想定して、時間積分してターゲット(以下では、単にカソードと称することもある)の様々な場所に等しい量のアンペア秒を給電することができる。
【0020】
これに関連して、黒鉛材料の除去速度をマイクログラム/アンペア秒(μg/As)で示すために、「RGraph」の記号を用いる。
【0021】
ここで、本発明を、図1に基づいて説明するが、この図中、本発明により設定された2つのガイド磁場(M1およびM2)が示されている。
【0022】
本発明によれば、カソード表面の第1領域を浸食するために、適切な第1ガイド磁場M1を設定する。この際、第1浸食路W1が生じる。この第1浸食路W1は、第1ガイド磁場M1が生成され設定され続けた場合の、アークスポットの軌道に一致する。
【0023】
この第1ガイド磁場M1の結果生じる第1浸食路W1と、スポットの第1積分速度v1とは、適切な方法で、例えば、視覚的な観察により計測される。
【0024】
同様に、少なくとも第2ガイド磁場M2が設定され、これは、カソード表面の第2領域の浸食を引き起こす。この際、第2ガイド磁場M2が生成されかつ設定され続ける場合、アークスポットの軌道に一致する第2浸食路W2が生じる。第2積分速度v2および第2ガイド磁場M2において結果として生じる第2浸食路も同様に計測される。
【0025】
第1浸食路W1は第1長さL1を有し、かつ、第2浸食路W2は第2長さL2を有し、かつ、L2>L1が当てはまる場合、双方の浸食路について積分スポット速度が同じである(v1=v2)と想定した場合、第2浸食路W2が一周する時間t2は、第1浸食路の一周する時間t1と比較してより長く、すなわち、t2>t1である。
【0026】
したがって、以下の結果となる。
ターゲット材料の品質が等しく所定の品質であると想定した場合には、このターゲット材料について、
v1=L1/t1=v2=L2/t2
となり、すなわち、
vi-1=Li-1/ti-1=vi=Li/ti、
となり、この際、i=1~nであり、n≧2であり、iは整数であり、nも整数である。
【0027】
浸食Eは、各領域についてE=R×tと定義され、ここで、Ei=R×tiであり、i=nの場合、除去速度Rが一定であると想定すると、En=R×tn=En-i=R×tn-i...である。
【0028】
本発明に係る実施例1
アーク蒸発器においてかけられた電流は、この例では、100Aであり、計測された第1領域中のスポットの滞在期間は、t1=40秒であり、計測された浸食速度は、R1=18μg/Asであり、この際、除去速度が一定であると想定した場合、R1=Rである。
【0029】
続いて、第1領域中の浸食E1は、以下のように算出できる。
E1=R×t1=R1×t1=18μg/As×100A×40s=72000μg
【0030】
ここで挙げた実施例においてガイド磁場を生成するための磁気手段は、円形のまたはほぼ円形の浸食路が生じるように設定した。第1浸食路の直径D1は、約8cmである。スポットの軌道が円形形状であるがゆえに、第1アークスポットの軌道の長さL1は、下式(1)のように算出された。
【数1】
【0031】
これにより、一方では積分スポット速度v1=L1/t1が約38cm/分であり、浸食路に関係する固有浸食Esp1=E1/L1(浸食を浸食路で割った値)は2880μg/cmとの結果になる。
【0032】
まず積分スポット速度が一定であると想定すると、より小さい直径D1の円形の浸食路が生成されるガイド磁場M1においては、等しい固有浸食が設定されるべき場合には、走行時間は、より短くなくてはならない。例えば上述の実施例と比較すると直径が半分の別の浸食路の場合(上述のD1=8cmではなく)直径D1=4cmになり、これにより、走行時間(軌道を一度走破する時間)t1は、約19秒の結果になるであろう。
【0033】
本発明のさらなる実施形態では、この方法は、複数の磁場Mi(i=1~n)が生成され、各設定されたガイド磁場Miについて各正確な走行時間tiは、上述のように算出されかつ設定されるように実施されうる。
【0034】
この線形の観点により、複数の浸食路Wiの設定が可能になり、このようにして驚くべきことに、非常に良好な浸食結果を達成することが可能になった。換言すれば、カソード表面の驚くべき均一な浸食が達成された。この発明による方法により、さらに驚くべきことに、この際に製造された炭素層中の小滴の数を明らかに少なくすることが可能になった。
【0035】
しかし、本発明に係る方法(例えば上述の発明に係る方法)を実施するためには、適切な装置も適用せねばならない。
【0036】
この種の適切な装置を、図2中に示す。この装置は、アーク蒸発器(30、10、18、20)を具備し、この装置は、真空被覆チャンバー1の内側にあり、かつ内側磁場を生成するために用いられる内側磁気手段10を備えていて、この内側磁気手段10はカソード30を取り囲む。外側磁場を生成するために、カソード30の後方で、真空被覆チャンバー1の外側に、外側磁気手段20がある。この外部磁気手段は、この例では、コイル22と、コア24とからなる。このコア24は、フェライト材料または適切な永久磁石材料からなる。この装置を用いて、カソード面の様々な領域中の浸食場所を、秒から分までのスポットの積分走行速度を考慮して、設定しうる。
【0037】
フェッター(Vetter)は、欧州特許第2140476号公報中で、アーク蒸発器を記載しており、これは、内側環状磁石と外側環状磁石とを有し、これらが、軸方向で変位可能な外側永久磁場の設定を可能にし、内側環状磁石はカソードの周りに配置されている。しかし、この永久磁場は静止磁場であり、これは、カソードのアーク蒸発を用いた層の析出時に時間的および空間的に可変ではなく、したがって、ある種のカソード材料のカソード蒸発の不適切な制御を引き起こしうる。カソード表面の均等な浸食を達成すべき場合、およびこれも同様にカソード面のある場所におけるカソードアークスポットの焼き付きを回避するべき時には、この種の静止磁場は、黒鉛蒸発にとってとりわけ不適切である。
【0038】
本発明のある実施形態によれば、上述の蒸発器を修正し、本発明によって、浸食面の時間的および空間的な設定を単純に制御するために、外側環状磁石の代わりに、好ましくは鉄のコア24を備えた適切なコイル22を少なくとも1つ用いるように構成する。このようにして浸食面の設定が制御可能になり、これは、例えば、カソード面のある選択された領域中での第1浸食面を設定するために、コイル22へのある定義された時間的に一定の第1給電(アンペアで)を設定し、カソード面の別の領域中でのさらなる浸食面を設定するために、コイル22への別の定義された時間的に一定の給電を設定することにより行われる。コイル22の定義された一定の給電を設定することにより、各浸食面中へのカソードアークスポットの滞在期間の長さ(秒から分まで)を定義することができる。従ってカソード面の各選択された領域中における浸食を制御することができる。
【0039】
本発明のある好適な実施形態によれば、カソード面の各領域中の局所的な浸食を設定するために、上述の方法を用い、この方法は以下の工程を含む、すなわち、
好ましくは永久磁石(しかし、これに限定されない)で生成されかつカソードの周りに円形で配置される内側磁場の生成工程であって、相対的な位置がカソード平面32中で、しかし、カソード平面前方の特定の距離Ak+、または、カソード平面下方の特定の距離Ak-(例えば、図2中の距離Ak+およびAk-参照)内にありうる。例えばカソードの上方10mmまで、または、カソードの下方で磁石長さの70%を越えない距離である。好ましくはこの内側磁場は、カソード表面(その密度はカソード縁に加わる)上にほぼ垂直な磁力線を生成する。
【0040】
この内側磁場は、好ましくは、走行挙動が実質的にカソードの中央に集まるように生成される。
【0041】
カソード30と外側磁気手段20との間には、カソード収容プレート18とがあり、これは例えば冷却機能を有し、かつ電流供給部を具備する。
【0042】
内側磁場とコイルの磁性極性形成とは、好ましくは、カソード表面上にガイド磁場が生じるように設定され、このガイド磁場は、好ましくはトンネル形状のガイド磁場であり、時間的および空間的に制御可能である。円形のカソードのために、この際、アークの走行半径(スパークのまたはスポットの走行半径とも称される)が変化する。カソードを取り囲みかつ永久磁石からなる内側磁場の場合には、カソードの方向に示された極およびコイルの極性形成は、極性が逆になるように設計される。こうすることにより、カソードの方向の内側磁石システムの磁場が北極である場合には、その南極がカソードの方向を示し、または逆になるように、コイルには極性を与えられる。このようにしてトンネル形状のガイド磁場が生じうる。
【0043】
上述の実施例1を実施するために、円形の蒸発させられるべき面を備えた、直径100mmで厚さ15mmの円板形状の黒鉛カソードを用いる。
【0044】
本発明は、蒸発させられるべきカソード面の別の形状について、特定の幾何学上の実情を顧慮して、用いることもできる。例えば、蒸発させられるべきカソード面に、楕円、長方形およびこれ以外の形状を用いることもできる。しかし、妥当な場合には、カソードの活用に制限が与えられている。
【0045】
好ましくは、円形の蒸発させられるべき面を備えた蒸発させられるべきカソードが用いられる。
【0046】
本発明のさらなる好適な実施形態によれば、発明に係る方法を実施するために、本発明により修正された上述の装置を用いることができ、この場合、トンネル形状のガイド磁場Mをかけるために、ガイド磁場は外側コイルにより変えられる。コイルの設定により磁場を時間的に変えることは、これに関連してすでに上で述べたが、好ましくはコイルの電流強度(給電)を変えることにより行われる。選択されるべき電流強度は、例えば、巻き線の数およびコア24の種類に依存している。
【0047】
コイルを様々な電流で作動させることにより、様々なガイド磁場ないし複数のn個のガイド磁場Mi(i=1~n、ここで、iは整数であり、nも整数であり、n≧2である)が生成され、各ガイド磁場Miが、アークスポットを、対応する浸食路Wiを生成するための各軌道上に導くように、上述のトンネル形状のガイド磁場が設定されうる。
【0048】
これらのスポットまたは浸食路の軌道は、例えば、カソード表面に対して同心かつ円形で生成されうる。
【0049】
各浸食路Wiが円形であり、かつカソード面の中央で中心合わせられている場合には、浸食路はそれぞれ異なる直径Diを有するはずで、例えば、n=4であれば、D1>D2>D3>D4であるべきである。
【0050】
トンネル形状のガイド磁場を、図1および2中に例示的に図示している。
【0051】
実施例2
以下のパラメータを、実施例2を実施するために用いた。図3も参照。
・アーク電流70A
・直径100mmの黒鉛カソード
・最大のコイル電流は、アークがカソード縁を越えて走行しないように選択した。
・第1ガイド磁場M1を設定するために、4Aのコイル電流を設定し、直径D1=8cmを計測し、対応する期間t1=38秒を計測した。実施例1参照。
・第2ガイド磁場M2を設定するために、3Aのコイル電流を設定し、直径D2=7cmを計測し、本発明に係る対応する期間t2=33秒を算出した。
・第3ガイド磁場M3を設定するために、2Aのコイル電流を設定し、直径D3=6cmを計測し、本発明に係る対応する期間t3=29秒を算出した。
・第4ガイド磁場M4を設定するために、1Aのコイル電流を設定し、直径D4=4cmを計測し、本発明に係る対応する期間t4=19秒を算出した。
【0052】
ガイド磁場M1~M4を生成するためのコイル電流の切り替えは、例えば時間積分で等しい頻度で実施可能である(例えば、順次次から次へと、すなわち、まず第1時間t1の間にM1、その後第2時間t2の間にM2、その後第3時間t3の間にM3、その後、時間t4の間にM4、その後再び時間1の間にM1などである)。
【0053】
0Aのコイル電流を用いる場合、すなわち、トンネル形状のガイド磁場が生成されない場合には、アークのアークスポットの移動で何が起こるのかをテストした。アークが確率論的にのみカソードの中心を走行可能であり、局所的な焼き付きの危険性が生じることが観察された。短時間通常数十秒の範囲では、このトンネル形状ではない磁場は、ガイド磁場M1~M4の順次切り替える範囲内では、例えば、アークの点火過程中では有利でありえることが確認された。
【0054】
この切り替えは、時間tiの倍数(ti=1~n)、例えば係数2で制御するように実施することもでき、この際、これは時間積分中で行われねばならない。この方法は、この際、例えば以下のように実施されうる。すなわち、
t1の間にM1、続いてt2の間にM2、続いてt3の間にM3、続いて2×t4の間にM4、続いてt3の間にM3、続いてt1の間にM1、続いてt2の間にM2などである。これにより、全ての浸食路が時間的に平均で等しい頻度で走行される。
【0055】
これらの実施例は、決して本発明に係る方法を限定する例として見なされるべきでない。当業者は、ガイド磁場の順次切り替えを、必要に応じて、カソード面上の所望の浸食プロフィールを考慮して適合させることができる。
【0056】
発明者らは、2つの隣接する軌道間の距離Aが、少なくとも1mmであり、好ましくは3~10mmである場合に有利であると確定した。
【0057】
定義された領域中で時間的および空間的浸食プロフィールを設定するための上述の発明による解決方法では、各時間は秒から分で、スパークの計測された積分速度から、および浸食されるべき距離から明らかになるが、適切なトンネル形状のガイド磁場を構築するためのこれ以外の解決方法を採用することもできる。
【0058】
しかし、本発明にとって本質的であるのは、トンネル形状のガイド磁場が生じ、この際、これを生成するために、当業者にとっては公知である適切な磁気手段を、これも当業者にとっては公知である適切な極性形成と共に用いることができる点である。
【0059】
例えば内側および外側コイルもしくは複数の永久磁石、またはコイルと永久磁石との組み合わせを用いることができる。
【0060】
図2は、例として、内側磁場および外側磁場を生成するために、内側磁気手段を(蒸発させられるべきカソード面がある真空チャンバーの内側に)配置し、外側磁気手段を(カソードの後方に)配置する例を示しているが、この際、これらの磁場の相互作用により、時間的および空間的に可変であるトンネル形状のガイド磁場が生じる。
【0061】
本発明の枠内では、複数の試みを実施したが、この際、アーク蒸発のために、様々な黒鉛品質を有し密度が1.6~1.9g/cmの範囲である黒鉛カソード(黒鉛ターゲットとも称する)を採用した。
【0062】
アーク放電(スパーク放電とも称される)は、機械的なトリガーを用いて開始される。しかし、これ以外の種類の点火装置を用いることもでき、例えば電気的な装置またはレーザを用いることもできる。磁場強度は、スパーク放電の所望の走行領域に応じて選択した。典型的には、制御可能なトンネル形状の磁場の垂直の磁場強度が、0.5~30mTの範囲であるように、磁場強度を選択した。プロセスは、真空中でも、真空中のプロセスガスであるArの導入下でも、また、反応性ガス、O2、N2、C2H2および/またはH2の供給下でも安定して実施された。典型的には、設定された反応性ガスの分圧は、0.1~1Paである。Arにおける最大のプロセス圧は、5Paであった。全プロセス条件において、浸食の傑出した制御を達成することができた。
【0063】
この本発明に係る、制御された黒鉛蒸発を用いた黒鉛カソードのアーク蒸発では、黒鉛層も硬質の非結晶質の層(DLC層)(a-C、ta-C、a-C:Hおよびa-C:Nのタイプ)も析出され、この際、最も硬い層(ta-C)は層析出のプロセス条件が適切な場合、80GPaまでの硬度を有する。
【0064】
純粋な黒鉛カソードのアーク蒸発について以外に、本発明に係る方法は、合金の黒鉛カソードのアーク蒸発についても適用可能である。例えば合金黒鉛カソードは、少なくとも1つの合金元素を有し、好ましくはこの少なくとも1つの合金元素は、以下の元素すなわちSi、B、F、Ti、Cr、Mo、W、AIおよびCuのうちの1つである。本発明による方法は、しかし、別の材料例えば銅などからなるカソードのスパーク蒸発にも用いられうる。
【0065】
合金の黒鉛カソードを用いる場合、黒鉛カソードは、好ましくは合金元素または合金元素の合計が、合金元素の濃度が原子百分率で、0.1~49at%、好ましくは1~25at%の範囲にあるように含むべきである。
【0066】
本発明は、具体的には以下を開示する、すなわち、
カソードのアーク蒸発プロセスを用いて真空チャンバー中でカソードを蒸発させる方法であって、アークを点火させ、蒸発させられるべきカソード表面上の所定の軌道上でのアークのアークスポットの移動を、ガイド磁場を用いて行わせ、少なくとも内側磁場と外側磁場とをそれぞれ生成するために、真空チャンバーの内側で内側磁気手段を用い、真空チャンバーの外側で外側磁気手段を用い、ガイド磁場はトンネル形状のガイド磁場であり、かつ磁場の相互作用で生じる、方法において、
トンネル形状のガイド磁場は可変であり、アーク蒸発プロセスを実施する間に少なくとも2つの異なるガイド磁場(M1、M2)を生成し、この方法は以下の工程を含み、すなわち、
・蒸発させられるべきカソード面上の第1軌道上で第1走行時間t1の間にアークのアークスポットをガイドするために用いられるトンネル形状の第1ガイド磁場(M1)を生成する工程であって、長さ(L1)の第1浸食路(W1)は、カソード面の第1領域中に生じ、第1走行時間(t1)は、第1浸食路(W1)の全長(L1)を一度走破するためにアークスポットが必要とする時間に相当し、
・第1ガイド磁場とは異なるトンネル形状の第2ガイド磁場(M2)を設定するために、第1ガイド磁場の特性を変化させる工程であって、第2ガイド磁場は、第2走行時間(t2)の間に、蒸発させられるべきカソード面上での第2軌道上でアークのアークスポットをガイドするために用いられ、この際、長さ(L2)の第2浸食路(W2)は、カソード面の第2領域中に生じ、第2走行時間(t2)は、第2浸食路(W2)の全長(L2)を一度走破するためにアークスポットが必要とする時間に相当し、
・アーク蒸発プロセスを実施する工程であって、アーク蒸発プロセスの全期間ttotの間に、第1ガイド磁場(M1)が、on時間tein1の間投入され、第2ガイド磁場(M2)が、on時間tein2の間投入され、tein1≧t1、tein2≧t2、およびtTot≧tein1+tein2であり、ここでt1およびt2は、それぞれ秒から分まで続くことを特徴とする。
【0067】
トンネル形状の第1ガイド磁場の特性は、本発明によれば、n個のトンネル形状のガイド磁場Miを設定するためにn回変化し、nは整数で、n≧2であり、iは整数でi=1~nであり、各トンネル形状のガイド磁場用に、第2走行時間tiの間、アークのアークスポットをガイドするための異なる軌道が結果として生じ、このようにして相応の長さLiの異なる浸食路Wiが生じ、走行時間tiは、それぞれ対応する浸食路Eiの全長Liを走破するためにアークスポットが必要とする時間に相当し、それぞれteini≦tiであり、tiは秒から分まで続き、アーク蒸発プロセスの全期間は、下式(2)で与えられる。
【数2】
【0068】
ein1、tein2または妥当な場合にはteiniは、等しい係数k≧1の整数の倍数でありえ、tein1=k×t1であり、tein2=k×t2または妥当な場合には、teini=k×tiである。
【0069】
少なくとも2つの浸食路は円形であるように、トンネル形状のガイド磁場の特性は選択される。
【0070】
好ましくは、少なくとも2つの円形の浸食路は、蒸発させられるべきカソード面の中央に中心合わせされているべきである。
【0071】
好ましくは、隣接する2つの円形の浸食路間の距離は、少なくとも1mm好ましくは3~10mmであるべきである。
【0072】
好ましくは、内側磁場を生成するため、および/または、外側磁場を生成するために、少なくとも1つのコイルを用い、かつ、異なるトンネル形状のガイド磁場を設定するために、コイルを貫流する電流を変化させるべきである。
【0073】
本発明の好適な実施形態によれば、蒸発させられるべきカソード面は、黒鉛材料から、または別の元素と合金された黒鉛材料からなる。
【0074】
好ましくは、上述のコイルは、鉄のコア(24)を有する外側コイル(22)である。
【0075】
好ましくは、カソードは、プレート形状でありかつ円形の蒸発させられるべき面を有する。
【0076】
好ましくは、内側磁場は、走行挙動が実質的にカソードの中央に集まるように生成される。
【0077】
好ましくは、各ガイド磁場M1、M2および妥当な場合にはMiは、それぞれon時間tein1、tein2および妥当な場合にはteiniの間に、蒸発させられるべきカソード面の均一な浸食が達成されるように順次投入される。
【0078】
本発明のさらに好適な実施形態によれば、tein1、tein2および妥当な場合にはteiniは、必ずしも等しくはない独自の係数、それぞれk1、k2または妥当な場合にはkiの整数の倍数であり、tein1=k1×t1、tein2=k2×t2または妥当な場合にはteini=ki×tiである。
【0079】
好ましくは、全ての浸食路Eiは円形である。
【0080】
好ましくは、全ての浸食路Eiは、蒸発させられるべきカソード面の中央に中心合わせされている。

図1
図2
図3