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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】造血移植片の改善方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0789 20100101AFI20220905BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220905BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
C12N5/0789
C12N5/10
C12N5/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019552057
(86)(22)【出願日】2018-03-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2018057197
(87)【国際公開番号】W WO2018172420
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】17305318.2
(32)【優先日】2017-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512132491
【氏名又は名称】エタブリスモン フランセ ドュ サン
【氏名又は名称原語表記】ETABLISSEMENT FRANCAIS DU SANG
【住所又は居所原語表記】20 avenue du Stade de France, F-93218 La Plaine Saint Denis, FRANCE
(73)【特許権者】
【識別番号】513246469
【氏名又は名称】インサーム(インスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
(73)【特許権者】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】508361416
【氏名又は名称】アンスティテュ ドゥ ラディオプロテクシオン エ ドゥ シュルテ ニュクレエール
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT DE RADIOPROTECTION ET DE SURETE NUCLEAIRE
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ギヨノ‐ハルマン, ロランス
(72)【発明者】
【氏名】エステルケ, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ジャフレド, ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】チャペル, アラン
(72)【発明者】
【氏名】ギャルソン, ロイック
(72)【発明者】
【氏名】ドゥエー, リュック
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-201574(JP,A)
【文献】Blood,1998年,Vol.92, No.1 ,pp4-10
【文献】Blood,2012年, Vol.119, No.26,pp6243-6254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血細胞移植片を調製する、または長期多系統生着および自己再生が可能な造血幹細胞の細胞の集団を濃縮する、インビトロの方法であって、前記方法は、
a)造血幹細胞を含む細胞の集団を提供すること、および
b)細胞表面抗原CD135および/またはCD110の発現に基づいて、前記集団の細胞を選別すること、および
c)CD135+および/またはCD110+である細胞を回収すること
を含
前記方法はさらに、ステップa)の前に、
多能性幹細胞を準備すること、
胚様体(EB)の形成を誘導すること、
内皮造血系統への多能性幹細胞の分化を誘発する、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)リガンド、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン1(IL1)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子1(IGF1)を含む液体培養培地中でEBを培養すること、および
EB細胞を解離すること
を含み、
それによって、ステップa)で提供される細胞の前記集団を得る、方法。
【請求項2】
ステップb)において、細胞は、細胞表面抗原CD110の前記発現に基づいて選別され、ステップc)において、回収された細胞は、CD110+である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)において、細胞は、細胞表面抗原CD135の前記発現に基づいてさらに選別され、ステップc)において、回収された細胞は、CD110+CD135+である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)の前、後、またはそれと同時に、アペリン受容体(APLNR)の前記発現に基づいて細胞を選別すること、および、APLNR+である細胞を回収することをさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞または胚性幹細胞、好ましくは人工多能性幹細胞から選択される、造血幹細胞を含む、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記多能性幹細胞は、14~19日間、好ましくは15~18日間、より好ましくは17日間、前記液体培養培地で培養される、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の方法に従って調製される造血細胞移植片。
【請求項8】
多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性疾患、慢性リンパ球性白血病、若年性慢性骨髄性白血病、神経芽細胞腫、卵巣癌および生殖細胞腫瘍などの悪性疾患、または、自己免疫疾患、アミロイドーシス、再生不良性貧血、発作性夜間血色素尿症、ファンコーニの貧血、ブラックファン・ダイアモンド貧血、重症型サラセミア、鎌状赤血球貧血、重症複合免疫不全症、ウィスコット・アルドリッチ症候群および先天性代謝異常などの非悪性疾患の処置に使用するための請求項に記載の造血細胞移植片。
【請求項9】
前記移植片は自家、同系または同種異系移植において使用される、請求項に記載の使用のための造血幹細胞移植片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野、具体的にはヒト造血移植片に関する。つまり、本発明は、長期多系統生着および自己再生が可能な造血幹細胞、すなわち、造血移植に適した造血幹細胞の同定および選択に関する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞(HSC)は、血液疾患における同種異系造血細胞移植または以下の放射線/化学療法の終生治療効果を担うヒトの骨髄(BM)および血液内の希少な細胞である。これらの細胞は、BM、動員末梢血またはヒト臍帯血を含むいくつかの供給源から採取されることができる。臍帯血は、いくつかの利点、すなわち、HLA適合の必要性の減少および移植片対宿主病のリスクの減少を提供する。しかし、HSCの操作における進歩にもかかわらず、その数は、多くの場合、同種異系移植には不十分なままであり、得られた細胞は、新たに単離されたHSCと比較して多系統および生着可能性の減少を示す。これらの知見に基づけば、非造血源からの移植可能HSCの生成が、再生医療における主要目標の1つとなっている。
【0003】
細胞融合を含む複数の細胞タイプの直接変換、転写因子の強制発現を介した分化細胞の再プログラミング、または、ヒト多能性幹細胞からの分化のいずれかを使用する、多数のプロトコルが開発された(WahlsterおよびDaley、Nature cell biology、2016、18、1111-1117)。多くの場合、癌遺伝子をコードするプラスミドの導入または非GMPグレードのフィーダー細胞の受容細胞への利用は、臨床応用についてのそれらの使用を不可能にする。結局、これらのプロトコルの多くは、真の移植可能臍帯血または成人HSCに近い表面表現型を有する細胞の集団の産生を目指し、戦略は、乏しい生着可能性を有する細胞を生成することしか実証していない。
【0004】
その結果、移植細胞の生着可能性の増強および骨髄置換の改良を含む、造血移植効率を向上させる産物および方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、造血移植効率を向上させる産物および方法を提供することを目的とする。具体的には、本発明は、インビボでの長期多系統生着および自己再生が可能な造血幹細胞を取得および選択する方法を提供する。本発明は、HSC移植についての細胞の供給源として、多能性幹細胞、具体的には人工多能性幹細胞の使用への道を開く。
【0006】
したがって、本発明は、造血細胞移植片を調製する、または長期多系統生着および自己再生が可能な造血幹細胞の細胞の集団を濃縮するインビトロの方法に関し、前記方法は、
a)造血幹細胞、好ましくは初期原始造血幹細胞を含む細胞の集団を提供すること、および、
b)細胞表面抗原CD135および/またはCD110の発現に基づいて、前記集団の細胞を選別すること、および、
c)CD135+および/またはCD110+である細胞を回収すること
を含む。
【0007】
好ましくは、ステップb)において、細胞は、細胞表面抗原CD110の発現に基づいて選別され、ステップc)において、回収された細胞は、CD110+である。任意でステップb)において、細胞は、細胞表面抗原CD135の発現に基づいてさらに選別され得、ステップc)において、回収された細胞は、CD110+CD135+であり得る。
【0008】
本方法はさらに、ステップb)の前、後またはそれと同時に、アペリン受容体(APLNR)の発現に基づいて細胞を選別すること、および、APLNR+である細胞を回収することを含み得る。
【0009】
ステップa)で提供される細胞の集団は、末梢血、胎盤血、臍帯血、骨髄、肝臓および/もしくは脾臓から得られる造血幹細胞を含み得、ならびに/または、不死化造血幹細胞を含み得る。
【0010】
あるいは、または、さらに、ステップa)において提供される細胞の集団は、好ましくは、人工多能性幹細胞または胚性幹細胞、より好ましくは人工多能性幹細胞から選択される、多能性幹細胞のインビトロ分化から得られる造血幹細胞を含み得る。
【0011】
いくつかの実施形態において、本方法はさらに、ステップa)の前に、
多能性幹細胞、好ましくは、胚様体(EB)の形成を誘導する人工多能性幹細胞を提供すること、
内皮造血系統への多能性幹細胞の分化を誘発する液体培養培地中でEBを培養すること、
EBを液体培養培地で培養し、多能性幹細胞を造血細胞内系統に分化すること、および
EB細胞を解離すること
を含み得、
それによって、ステップa)で提供される細胞の集団を得る。
【0012】
好ましくは、液体培養培地は、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)リガンド、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン1(IL-1)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子1(IGF1)を含む。
【0013】
好ましくは、多能性幹細胞は、14~19日間、好ましくは15~18日間、より好ましくは17日間、液体培養培地で培養される。
【0014】
別の態様において、本発明はまた、生着、具体的には、長期多系統生着および自己再生が可能な造血幹細胞のマーカとしてのCD135および/またはCD110の使用に関する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、細胞および薬学的に許容可能なキャリアを含む造血細胞移植片に関し、細胞の少なくとも10%は、CD135+および/またはCD110+造血幹細胞である。それはまた、本発明の方法に従って調製される造血細胞移植片に関する。
【0016】
別の態様において、本発明はまた、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性疾患、慢性リンパ性白血病、若年性慢性骨髄性白血病、神経芽細胞腫、卵巣癌および生殖細胞腫瘍などの悪性疾患、または、自己免疫疾患、アミロイドーシス、再生不良性貧血、発作性夜間血色素尿症、ファンコーニの貧血、ブラックファン・ダイアモンド貧血、重症型サラセミア、鎌状赤血球貧血、重症複合免疫不全症、ウィスコット・アルドリッチ症候群および先天性代謝異常などの非悪性疾患の処置に使用するための本発明の造血細胞移植片に関する。
【0017】
造血幹細胞移植片は自家、同系または同種異系移植において使用され得る。
【0018】
さらなる態様において、本発明はまた、(i)血漿、血清、血小板溶解物および/または血清アルブミン、ならびに(ii)トランスフェリンまたはその代替物、インスリンまたはその代替物、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3-L)、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン1(IL1)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子1(IGF1)を含む液体細胞培養培地、好ましくは(i)血漿、血清および/または血小板溶解物、ならびに(ii)トランスフェリン、インスリン、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3-L)、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン1(IL1)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子1(IGF1)を含む液体細胞培養培地に関する。
【0019】
具体的には、液体細胞培養培地は、
10~100ng/mLのSCF、好ましくは10~50ng/mLのSCF;
10~100ng/mLのTPO、好ましくは10~50ng/mLのTPO;
100~500ng/mLのFLT3-L、好ましくは250~350ng/mLのFLT3-L;
10~100ng/mLのBMP4、好ましくは10~50ng/mLのBMP4;
50~300ng/mLのVEGF、好ましくは150~250ng/mLのVEGF;
10~100ng/mLのIL3、好ましくは20~80ng/mLのIL3;
10~100ng/mLのIL6、好ましくは20~80ng/mLのIL6;
1~20ng/mLのIL1、好ましくは1~10ng/mLのIL1;
10~200ng/mLのGCSF、好ましくは50~150ng/mLのGCSF;および/または、
10~150ng/mLのIGF1、好ましくは10~100ng/mLのIGF1;
を含み得る。
【0020】
好ましくは、液体細胞培養培地は、
10~100ng/mLのSCF、好ましくは10~50ng/mLのSCF;
10~100ng/mLのTPO、好ましくは10~50ng/mLのTPO;
10~100ng/mLのFLT3-L、好ましくは10~50ng/mLのFLT3-L;
50~300ng/mLのBMP4、好ましくは150~250ng/mLのBMP4;
50~300ng/mLのVEGF、好ましくは150~250ng/mLのVEGF;
10~100ng/mLのIL3、好ましくは20~80ng/mLのIL3;
10~100ng/mLのIL6、好ましくは20~80ng/mLのIL6;
1~20ng/mLのIL1、好ましくは1~10ng/mLのIL1;
10~200ng/mLのGCSF、好ましくは50~150ng/mLのGCSF;および/または、
1~20ng/mLのIGF1、好ましくは1~10ng/mLのIGF1;
を含む。
【0021】
液体培養培地はさらに、(i)血漿、血清、血小板溶解物および/または血清アルブミン、好ましくは血漿、血清および/または血小板溶解物、ならびに(ii)インスリンまたはその代替物、およびトランスフェリンまたはその代替物、好ましくはインスリンおよびトランスフェリンを含み得る。具体的には、液体培養培地はさらに、
1%~20%の血漿もしくは血清、好ましくは2%~10%の血漿もしくは血清;または0.1%~2%の血小板溶解物、好ましくは0.2%~1%の血小板溶解物;および
5μg/mL~20μg/mL、好ましくは8μg/mL~12μg/mLのインスリン;および
10μg/mL~100μg/mLのトランスフェリン、好ましくは30μg/mL~60μg/mLのトランスフェリン;および
を含み得る。
【0022】
本発明はまた、造血系統の細胞の成長および/または分化のため、胚様体の分化のため、造血細胞移植片の産生のための、本発明の液体細胞培養培地の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、hiPSC由来細胞の特徴付けである。(A)実験スキーム。HiPSCは、成長因子およびサイトカインの連続的な存在下で17日間にわたってEBに分化した。EB細胞は、q-PCRおよびフローサイトメトリを使用して、異なる時点で特徴付けられた。画像はそれぞれ、D13および17での代表EBを描写した。(B)D3、D7、D9、D13、D15およびD17のEBおよびCD34臍帯血細胞の経時的な内皮、造血内皮および造血細胞の49の遺伝子特性のセットの発現を要約する階層的クラスタリング。(C)D13から17へのEB細胞分化のEHTバランスを代表する遺伝子でのQ-PCRパターン。各遺伝子について、倍率変化は6回の実験の平均+/-SEMである。(D)EB培養のD13および17でのヒトCD309、ITGA2、MPLおよびCKITのフローサイトメトリ分析。(E)EB培養のD7から17日目へのAPLNRおよびCXCR4の発現のフローサイトメトリ分析。
図2図2は、D15およびD17の間の機能的内皮造血プロファイリングである。(A)経時的なEBにおける内皮(1-3)および造血(4-5)前駆細胞の存在をプロービングするインビトロ試験。解離されたD15-17のEB細胞は、(1)CFC-EC、(2)擬似微小管、(3)いくつかの継代が可能なEC様細胞、(4)CFC、および(5)LTC-ICを生成する。(B)D16細胞の内皮能力をプロービングするためのインビボ試験についての実験スキーム。(C)D16細胞/hMSCプラグセクション。マッソンのトリクローム染色。(D)D16細胞/hMSCプラグセクション。ヒト血漿由来フォン・ヴィレブランド因子細胞(青色)免疫染色。(E)D16細胞/hMSCプラグセクションヒトCD31細胞(赤色)。
図3図3は、免疫無防備NSGマウスにおけるD17EB細胞のインビボ生着である。(A)実験計画。(B)一次レシピエントにおけるヒト対マウスCD45細胞生着の代表フローサイトメトリ分析。(C-D)移植後20週の一次(C)または二次(D)マウス骨髄におけるhCD34hCD43hCD45細胞のパーセンテージ。データは、平均+/-SEMである。(E)一次および二次レシピエントにおけるヒト造血系統分布。数値は100%に正規化されている。(F)一次および二次レシピエントから単離されたBM細胞に対するクローン原性試験。CFU-GM、BFU-EおよびCFU-GEMMコロニーの頻度。(G)一次および二次BMレシピエントからのCFU-GEMM(1)、BFU-E(2)およびCFU-GM(3)の代表コロニー。(H)サイトスピン。一次および二次レシピエントにて行われたクローン原性試験から単離された細胞のメイグリュンワルドギムザ染色。成熟マクロファージ(1)、組織単球(2)、骨髄球(2)および赤芽球(3)。(I)CB CD34赤血球培養、一次および二次レシピエントからのBM、ならびに一次レシピエントのBMからのBFU-Eにおけるヒトグロビン発現。データは、平均+/-SEMである。(J)ヒトT細胞の成熟。hTCRαβおよびhTCRγδに対する抗体で染色したhCD2末梢血選別細胞。(K)ヒトT細胞の機能性。全胸腺集団は、D0でCFSE標識され、hCD3(緑)で開閉する。D5において刺激されていない集団は赤である一方、刺激された親集団は青である。
図4図4は、APLNR集団の機能および分子特性である。(A)移植後18週のNOD-SCID BM一次レシピエントにおける、接種材料中のAPLNR細胞のパーセンテージと+hCD45細胞のパーセンテージとの相関。(B)APNLR(n=6、青色ドット)およびAPNLR(n=4、赤色ドット)集団の生着能力。再構成可能性を含む細胞は、APLNR集団にある。データは、移植後18週のヒト生着の平均+/-SEMパーセンテージとして表される。(C)CD45、TIE、ENGおよびCKIT抗ヒト抗体を用いたAPLNR集団のコンビナトリアルフローサイトメトリ分析。(D)変数として49個のmRNAのセットおよび観察として6個の細胞の集団を用いたPCA。PC1対PC2スコアプロット。PC1次元は、分散の44.9%を占める、形質≪造血分化≫におそらく対応している。HiPSCは、主軸から分離されている。(E)変数としての49個のmRNAのセットと移植可能性を有するまたは有しない集団とを用いたPCA。分散の19.23%を占めるPC3次元は、2つのグループに分離する。(F)2つのグループの分離を可能にする8つの遺伝子のヒートマップ。
図5図5は、APLNRおよび集団の特性である。D17のAPLNR(左)または細胞画分のいずれかで移植されたマウスBMにおけるhCD45およびhCD43発現の代表的なプロファイル。
図6図6は、主マップ上で4.75E-8のp値を有する有意に識別されたサンプルグループにされたグループ間の5859個の差次的遺伝子上で行われた、教師なし主成分分析である。
図7図7は、SRC-IPSCの各グループ内のHSCバイオマーカ発見のために各異種移植グループとHSCグループとの間でマイクロアレイ有意分析(SAM)による教師あり分析が行われたことを説明するサーコスプロットである。
図8図8は、共通の任意の遺伝子を示したSRC-IPSCの各グループにおいて濃縮されたHSCバイオマーカを比較するベン図である。
図9図9は、免疫無防備NSGマウスにおける選別されたD17EB細胞のインビボ生着の実験計画である。
図10図10は、移植後20週の一次または二次マウス骨髄におけるhCD34hCD43hCD45細胞のパーセンテージである。データは、平均+/-SEMである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1の移植可能HSCは、造血内皮と呼ばれる内皮細胞(EC)の特殊化集団から胚発生時に産生される。内皮から造血への移行(EHT)に続き、これらの造血ECは、HSCを含む造血細胞(HC)に分化し、循環に入り、胎児の肝臓で増幅され、定着の決定的な部位であるBMに到達する。発生的造血のこれらの初期ステップは、胚様体(EB)の培養、特に、造血ECの生成およびHCの出芽に完全に反復する。
【0025】
本発明者らはここで、内皮造血系統にヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)の分化を方向づける、1ステップのベクターフリーおよびストロマフリーのシステム手順を開発した。標準プロトコルにおいてCD34+CD45+前駆細胞が10日目(D)におけるバーストEBからl4日目まで出現したが、本発明者によって適用される培養条件により、D17胚様体が提供され、バーストのない明確に定義されたコンパクトな球状構造が示され、したがって、分化プロセスの劇的な遅延を評価した。これらの培養条件は、同様の分化効能を有する、例えばエピソームまたはレトロウイルスの、それらの再プログラミングプロトコルによって異なる、3つの異なるhiPSC細胞株に適用され、したがって方法の頑丈さが示された。
【0026】
これらの分化した胚様体細胞の分析、ならびに一次生着のみまたは一次および二次生着が可能な造血幹細胞のトランスクリプトームの生命情報科学分析に基づき、本発明者らは本明細書中で、高生着能力だけでなく堅牢で長期自己再生能力をも示す初期原始造血幹細胞のサブ画分を同定し、これらの細胞を造血移植についての理想的な供給源とした。本発明者らは、Fms様チロシンキナーゼ3受容体(FLT3またはCD135)、および/またはトロンボポエチン受容体(MPLまたはCD110)および/またはアペリン受容体(APLNR)の発現によってこのサブ画分を特徴付けることができることを見出した。
【0027】
したがって、第1の態様において、本発明は、造血細胞移植片を調製する方法、好ましくはインビトロの方法に関し、方法は、
a)造血幹細胞を含む細胞の集団を提供すること、および
b)細胞表面抗原CD135および/もしくはCD110、ならびに/またはアペリン受容体(APLNR)の発現に基づいて、好ましくは細胞表面抗原CD110に基づいて、前記集団の細胞を選別すること、および
c)CD135+および/もしくはCD110+ならびに/またはAPLNR+、好ましくはCD110+である細胞を回収すること
を含む。
【0028】
本発明はまた、造血移植に適している、すなわち、長期多系統生着および自己再生が可能である造血幹細胞についての細胞の集団を濃縮する方法、好ましくはインビトロの方法に関し、方法は、
a)造血幹細胞を含む細胞の集団を提供すること、および
b)細胞表面抗原CD135および/もしくはCD110、ならびに/またはアペリン受容体(APLNR)の発現に基づいて、好ましくは細胞表面抗原CD110に基づいて、前記集団の細胞を選別すること、および
c)CD135+、CD110+および/またはAPLNR+、好ましくはCD110+である細胞を回収すること
を含む。
【0029】
CD135+および/もしくはCD110+ならびに/またはAPLNR+回収細胞は、造血移植片として使用され得る、または、前記移植片の効力を改善するために造血移植片(例えば、骨髄または臍帯血移植)に含まれるか、もしくは添加され得る。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「CD135」または「FLT3」は、細胞外ドメインへのサイトカインFlt3リガンド(FLT3L)の結合により活性化されたクラスIII受容体チロシンキナーゼを指す。ヒトでは、この遺伝子はFLT3遺伝子(遺伝子ID:2322)によってコードされる。活性化時に、CD135は、骨髄中の造血細胞のアポトーシス、増殖、および分化に関与する過程において、複数の細胞質エフェクター分子をリン酸化および活性化する。この受容体の構成的活性化をもたらす突然変異は、急性骨髄性白血病および急性リンパ芽球性白血病をもたらす。
【0031】
本明細書で使用する場合、用語「CD110」または「MPL」は、骨髄増殖性白血病タンパク質としても知られるトロンボポエチン受容体を指す。ヒトでは、CD110は、MPL(骨髄増殖性白血病ウイルス)癌遺伝子(遺伝子ID:4352)によってコードされる。CD110は、2つの細胞外サイトカイン受容体ドメインおよび2つの細胞内サイトカイン受容体ボックスモチーフを有する、635アミノ酸膜貫通ドメインである。そのリガンド、すなわちトロンボポエチンは、巨核球形成および血小板形成の主要な調節因子であることが示された。
【0032】
用語「APLNR」は、本明細書で使用する場合、アペリン受容体、すなわち、アペリンと結合するGタンパク質共役受容体を指す。この受容体は、グルコース代謝において、胚および腫瘍血管新生において、および、ヒト免疫不全ウイルスコレセプターとして、心血管系および中枢神経系にて関与することが示された。ヒトでは、この受容体は、APLNR遺伝子(遺伝子ID:187)によってコードされる。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「造血細胞移植片」または「造血移植片」は、造血移植に使用するエクスビボでの細胞産物を指す。造血細胞移植片は、動員末梢血、胎盤血、臍帯血、羊水、骨髄、肝臓および/または脾臓から得られた造血幹細胞、ならびに、不死化HSC、ならびに/または、多能性幹細胞(例えば、人工多能性幹細胞)および/もしくは胚性幹細胞の分化から得られたHSCを含み得る。
【0034】
ステップa)で提供される細胞の集団は、造血幹細胞(HSC)、具体的には、初期原始HSCを含む。
【0035】
好ましくは、ステップa)で提供される細胞の集団は、ヒト細胞の集団である。
【0036】
本明細書で使用する場合、用語「造血幹細胞」または「HSC」は、多能性および自己再生の両方の能力を有する細胞を指す。多能性は、すべての機能的血液細胞、例えばB細胞、T細胞、NK細胞、リンパ樹状細胞、骨髄樹状細胞、顆粒球、マクロファージ、巨核球および赤血球細胞に分化する能力である。自己再生は、分化せずにHSC自体を生じさせる能力である。
【0037】
用語「初期原始HSC」は、本明細書中で使用する場合、CD34+/CD45+ HSCの前駆体であって多能性および自己再生の両方の能力を有するHSCを指す。初期原始HSCは、内皮から造血への移行が可能な造血内皮に属し、CD34-/CD45-またはCD34+/CD45-であり得る。初期原始HSCはまた、CXCR4を発現し得、および/または、初期造血コミットメント(例えばHOXB4、c-MYCおよびMITF)、自己再生(例えばHOXA9、ERGおよびRORA)および幹細胞性(例えばSOX4およびMYB)に関与する遺伝子のアップレギュレーションを示し得、および/または、長期培養開始細胞(LTC-IC)、すなわち、骨髄(BM)ストロマでの5~8週間(35~60日)の培養の後、コロニー形成単位細胞(CFU)を生成することができるHSCであり得る(MillerおよびEaves、Methods Mol Med.2002;63:123-41)。いくつかの好ましい実施形態では、用語「初期原始HSC」は、CD34-/CD45-またはCD34+/CD45- LTC-IC細胞を指す。いくつかの他の実施形態において、用語「初期原始HSC」はまた、CD34+/CD45+またはCD34-/CD45+ LTC-IC細胞を指し得る。
【0038】
ステップa)で提供される細胞の集団は、末梢血、胎盤血、臍帯血、羊水、骨髄、肝臓および/もしくは脾臓から得られるHSC、不死化HSC、多能性幹細胞ならびに/または胚性幹細胞を含み得る。
【0039】
実施形態では、ステップa)で提供される細胞の集団は、末梢血、胎盤血、臍帯血、羊水、骨髄、肝臓および/または脾臓から得られる細胞、好ましくは、末梢血、胎盤血、臍帯血および/または骨髄から得られる細胞を含む、またはそれらからなる。具体的には、ステップa)で提供される細胞の集団は、末梢血、胎盤血、臍帯血、羊水、骨髄、肝臓または脾臓から得られる細胞の集団、好ましくは、末梢血、胎盤血、臍帯血または骨髄から得られる細胞の集団であり得る。
【0040】
HSCは、当業者に公知の任意の方法を用いて、上述の異なる供給源から得られ得る。
【0041】
例えば、末梢血幹細胞は、総血液サンプル中に見出され得、アフェレーシスとして知られるプロセスを介して血液から収集され得る。末梢幹細胞の収率は、末梢循環へのドナーの骨髄からの幹細胞の遊走を刺激する化合物の投与でブーストされ得る。このような化合物は、例えば顆粒球コロニー刺激因子、またはMozobil(プレリキサフォル)を含む。このような処置の後、末梢血は通常、「動員末梢血」と命名される。
【0042】
HSCはまた、被験体の骨髄から取得できる。この場合、HSCは、骨の中心に達する大型針を通して、被験体の大きな骨、典型的には骨盤から取り出される。
【0043】
出産後、母親が自身の乳児の臍帯および胎盤を寄付したときに、臍帯血または胎盤血が得られ得る。臍帯血または胎盤血は、成人の血液中に通常、見られるよりもHSCの濃度が高い。
【0044】
より具体的な実施形態では、ステップa)で提供される細胞の集団は、末梢血、好ましくは、動員末梢血、骨髄、臍帯血または胎盤血のサンプルである。
【0045】
別の実施形態では、ステップa)で提供される細胞の集団は、不死化HSC、好ましくはヒト不死化HSCを含む、またはそれらからなる。HSCは、β-カテニンのレトロウイルス媒介遺伝子導入などの当業者に公知の任意の方法を用いて不死化され得る(Templinら、Exp Hematol.2008 Feb:36(2)204-15)。
【0046】
さらなる実施形態では、ステップa)で提供される細胞の集団は、多能性幹細胞、好ましくは、人工多能性幹細胞または胚性幹細胞から選択されるもの、より好ましくは、人工多能性幹細胞のインビトロ分化から得られるHSCを含む、またはそれらからなる。
【0047】
ヒト胚性幹細胞からHSCを産生することは、倫理的な課題に遭遇し得る。実施形態では、胚性幹細胞は、非ヒト胚性幹細胞である。別の実施形態では、胚性幹細胞は、方法自体またはいずれの関連作用もヒト胚の破壊を含まないとの条件で、ヒト胚性幹細胞である。
【0048】
胚性幹細胞は、着床前胚盤胞の内部細胞塊に由来する。胚性幹細胞は、未分化状態を維持することができる、または、外胚葉、内胚葉および中胚葉の3つのすべての胚葉由来の系統に沿って成熟するように方向づけられることができる。hESCは、インビトロでの不確定の増殖能を有し、造血細胞運命に分化することが示され、種々の分化手順を用いて赤血球、骨髄、およびリンパ系統を生じさせる(Bhatia、Hematology Am Soc Hematol Educ Program.2007:11-6)。
【0049】
好ましい実施形態では、ステップa)で提供される細胞の集団は、人工多能性幹細胞(iPSC)の分化から、好ましくはヒトiPSCの分化から得られるHSCを含む、または、それらからなる。
【0050】
iPSCは、非多能性細胞、典型的には成人体細胞に由来し、再プログラミングとして知られるプロセスによって、細胞を多能性にするのに少数の特定の遺伝子の導入を必要とするのみである。遺伝子の種々の組み合わせにより、Oct4/Sox2/Nanog/Lin28またはOct4/Sox2/KLF/cMycなどの細胞を多能性にすることが示された。iPSCの使用の1つの利点は、胚細胞使用の完全回避できることで、したがって、それに伴うすべての倫理的問題の完全回避である。
【0051】
iPSCは、処置すべき被験体(移植患者)から、または別の被験体から取得できる。好ましくは、iPSCは、処置すべき被験体、具体的にはこの被験体の線維芽細胞に由来する。
【0052】
多能性幹細胞、具体的にはiPSCまたは胚性幹細胞は、Bathia(前出)、Doulatovら(Cell Stem Cell.2013 Oct 3;13(4):10.1016)またはSandlerら(Nature.2014 Jul 17;511(7509):312-8)に記載された任意の方法などの、当業者に公知の任意の方法を使用して、HSC、より具体的には初期原始HSCに分化され得る。
【0053】
特定の実施形態では、本発明の方法は、ステップa)の前に、
多能性幹細胞、具体的にはiPSCまたは胚性幹細胞、好ましくはヒトiPSCまたはヒト胚性幹細胞、より好ましくはヒトiPSCを提供すること、
胚様体(EB)の形成を誘導すること、
内皮造血系統への多能性幹細胞の分化を誘発する液体培養培地でEBを培養すること、および
EB細胞を解離すること
をさらに含み、
それにより、本発明の方法のステップa)で提供される上記のような細胞の集団を取得する。
【0054】
多能性幹細胞からの胚様体の形成は、当業者に公知の任意のプロトコルによって得られ得る。例えば、多能性幹細胞は、コラゲナーゼIVで処理され、液体培養培地中の低接着プレートに移され得る。
【0055】
内皮造血系統への多能性幹細胞の分化はそして、前記分化を誘発する液体培養培地中で胚様体を培養することによって得られる。この液体培養培地は、胚様体の形成中に使用される培養培地と同じであり得る。
【0056】
内皮造血系統への多能性幹細胞の分化を誘発するいくつかの培養培地は、記載されており(例えば、Lapillonneら、haematological、2010;95(10)、Doulatovら、Cell Stem Cell.2013、13(4)を参照)、本発明において使用することができる。
【0057】
しかし、本発明者らは、サイトカインおよび成長因子の特定の組み合わせを含む培養培地が、バーストなしに明確に定義されたコンパクトな球状構造を呈する分化した胚様体を提供することを見出した。したがって、特定の実施形態において、内皮造血系統への多能性幹細胞の分化を誘発する培養培地は、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)リガンド、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン1(IL1)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子1(IGF1)を含む。この培養培地はさらに、血漿、血清、血小板溶解物、血清アルブミン、トランスフェリンもしくはその代替物、および/またはインスリンもしくはその代替物、好ましくは(i)血漿、血清、および/または血小板溶解物、ならびに(ii)トランスフェリンおよびインスリンを含み得る。
【0058】
好ましい実施形態では、内皮造血系統への多能性幹細胞の分化を誘発する培養培地は、以下に説明する本発明の培養培地である。
【0059】
好ましくは、胚様体は、14~19日間、より好ましくは15~18日間、さらに好ましくは17日間、液体培養培地で培養される。好ましい実施形態では、胚様体は、14~19日間、より好ましくは15~18日間、さらに好ましくは17日間、以下に説明される本発明の液体培養培地中で培養される。
【0060】
分化した胚様体はそして、例えば、コラゲナーゼBおよび細胞解離緩衝液でのインキュベーション、または当業者に公知の任意の他の方法により、解離される。
【0061】
本願の実験セクションに示されているように、解離した細胞の集団は、HSC、具体的には初期原始HSCを含み、本発明の方法のステップa)で提供され得る。
【0062】
HSCを含む細胞の集団における初期原始HSCの存在は、当業者に公知の任意の方法によって、例えば、Liuら、Methods Mol Biol.2013;946:241-56に記載のような長期培養開始細胞(LTC-IC)アッセイを用いて、評価され得る。
【0063】
初期原始HSCを含むHSCは、本発明の方法で使用される前に貯蔵され得る。具体的には、細胞は、必要に応じてDMSOなどの低温保存剤の存在下で、長期間、凍結保存されることができる。
【0064】
本発明の方法のステップb)において、ステップa)において提供される上述したような集団の細胞は、細胞表面抗原CD135および/もしくはCD110の発現、ならびに/またはAPLNRの発現に基づいて選別される。
【0065】
本明細書で使用される場合、細胞の「選別」という用語は、マーカ発現などの指定された基準に従ってグループに細胞を分離する操作を指す。蛍光活性化細胞選別(FACS)または磁気活性化細胞選別(MACS)を含むがこれらに限定されない、指定された基準に従って細胞を分離する当業者に公知の任意の方法が使用され得る。本明細書で使用する場合、特定のタンパク質、例えば細胞表面抗原「の発現に基づく選別」との表現は、前記タンパク質を発現する細胞および前記タンパク質を発現しない細胞を分離する操作を指す。好ましい実施形態において、CD135、CD110またはAPLNRの発現は、細胞の表面で検出される。しかし、mRNAを検出する方法(例えばRT-PCR)などの、当業者に公知であって、この発現の検出を可能にする任意の他の方法が使用され得る。
【0066】
細胞は、
細胞表面抗原CD135およびCD110の発現、ならびに、必要に応じてAPLNRの発現、または、
細胞表面抗原CD135の発現、ならびに、必要に応じてAPLNRおよびCD110の発現、または、
細胞表面抗原CD135の発現、および、必要に応じてAPLNRの発現、または、
細胞表面抗原CD135の発現、および、必要に応じてCD110の発現、または、
細胞表面抗原CD110の発現、および、必要に応じてAPLNRの発現、または、
細胞表面抗原CD110の発現、および、必要に応じて細胞表面抗原CD135の発現、または、
細胞表面抗原CD110の発現、ならびに、必要に応じてAPLNRおよびCD135の発現、または、
細胞表面抗原CD135およびCD110の発現、ならびに、APLNRの発現、または、
細胞表面抗原CD135の発現、および、APLNRの発現、または、
細胞表面抗原CD110の発現、および、APLNRの発現。または、
APLNRの発現、ならびに、必要に応じて細胞表面抗原CD135およびCD110の発現、または、
APLNRの発現、および、必要に応じて細胞表面抗原CD135の発現、または、
APLNRの発現、および、必要に応じて細胞表面抗原CD110の発現
に基づいて選別され得る。
【0067】
細胞が2つまたは3つのマーカ、例えばCD135、CD110およびAPLNRの発現に基づいて選別される実施形態では、これらのマーカのそれぞれに基づく選択は、同時または任意の順序で、連続的であり得る。
【0068】
特定の実施形態では、ステップb)において、細胞は、細胞表面抗原CD135および/またはCD110、好ましくはCD135またはCD110の発現に基づいて選別される。好ましい実施形態では、ステップb)において、細胞は、細胞表面抗原CD110の発現、必要に応じて細胞表面抗原CD135の発現に基づいて選別される。これらの実施形態では、方法はさらに、ステップb)の前、後、またはそれと同時に、APLNRの発現に基づいて細胞を選別することを含み得る。
【0069】
本発明の方法のステップc)において、CD135+および/またはCD110+および/またはAPLNR+である細胞を回収する。
【0070】
好ましい実施形態では、CD110+である細胞を回収する。
【0071】
本明細書で使用する場合、用語「+」は、好ましくは細胞表面での、関心対象のマーカの発現を指す。例えば、CD135+細胞は、細胞表面抗原CD135を発現する細胞であり、CD110+/APLNR+細胞は、細胞表面抗原CD110およびAPLNRを発現する細胞である。逆に、用語「-」は、好ましくは細胞表面での、関心対象のマーカの発現の欠如を指す。例えば、CD135-細胞は、細胞表面抗原CD135を発現しない細胞であり、CD110+/APLNR-細胞は、細胞表面抗原CD110を発現するがAPLNRを発現しない細胞である。
【0072】
細胞を選別するために使用される方法によれば、ステップb)およびc)は、連続的または同時であり得る。
【0073】
選別ステップ中に使用されるマーカによれば、回収される細胞は、CD135+細胞、CD110+細胞、APLNR+細胞、CD135+/CD110+細胞、CD135+/APLNR+細胞、CD110+/APLNR+細胞、またはCD135+/CD110+/APLNR+細胞であり得る。好ましくは、細胞は、CD110+細胞、CD135+/CD110+細胞、CD110+/APLNR+細胞、またはCD135+/CD110+/APLNR+細胞である。
【0074】
これらの細胞は、長期多系統生着および自己再生が可能であり、HSC移植のために使用され得る。
【0075】
必要であれば、本発明の方法は、CD135+、CD110+および/またはAPLNR+ HSCについての細胞産物を濃縮するために、CD135、CD110および/またはAPLNRの発現に基づく、いくつかの連続する選別ステップを含み得る。
【0076】
必要に応じて使用前に、これらの細胞は、貯蔵され得、具体的には、必要に応じてDMSOなどの低温保存剤の存在下で、短期または長期にわたって凍結保存され得る。
【0077】
別の態様において、本発明はまた、造血移植に適している、すなわち長期多系統生着および自己再生が可能である、造血幹細胞を同定および/または選択する方法、好ましくはインビトロの方法に関し、方法は、
a)造血幹細胞を含む細胞の集団を提供すること、および、
b)細胞表面抗原CD135および/もしくはCD110の発現、ならびに/またはアペリン受容体(APLNR)の発現について、好ましくは、細胞表面抗原CD110の発現について前記細胞を評価すること、および、
c)CD135+および/もしくはCD110+ならびに/またはAPLNR+、好ましくはCD110+である細胞を同定および/または選択すること
を含む。
【0078】
本発明の造血細胞移植片を調製する方法について上述したすべての実施形態はまた、この態様に包含される。
【0079】
細胞表面抗原CD135および/もしくはCD110の発現、ならびに/またはアペリン受容体(APLNR)の発現は、FACS、MACS、免疫組織化学、ウェスタンブロット、タンパク質もしくは抗体アレイ、RT-PCRまたはトランスクリプトームアプローチなどの当業者に公知の任意の方法によって評価され得る。
【0080】
CD135、CD110またはAPLNRの発現を評価するために使用される方法によれば、ステップb)およびc)は、連続的または同時であり得る。例えば、FACSまたはMACSを使用すると、発現の検出および選択は同時であり得る。
【0081】
CD135+および/またはCD110+および/またはAPLNR+が同定および/または選択された細胞は、造血移植片として使用され得、前記移植片の効力を改善するために造血移植片に含まれ、またはそれに添加され得る(例えば、骨髄または臍帯血移植)。
【0082】
さらなる態様において、本発明はまた、多能性幹細胞から移植可能HSCを産生する方法、好ましくはインビトロ方法に関し、方法は、
多能性幹細胞、具体的にはiPSCまたは胚性幹細胞、好ましくはヒトiPSCまたはヒト胚性幹細胞、より好ましくはヒトiPSCを提供すること、
胚様体(EB)形成を誘導すること、
内皮造血系統への多能性幹細胞の分化を誘発する液体培養培地でEBを培養すること、
EB細胞を解離すること、
細胞表面抗原CD135および/もしくはCD110、ならびに/またはアペリン受容体(APLNR)の発現に基づいて、好ましくは細胞表面抗原CD110に基づいて解離EB細胞を選別すること、および、
CD135+、CD110+および/またはAPLNR+、好ましくはCD110+である細胞を回収すること
を含む。
【0083】
本発明の造血細胞移植片を調製する方法について上述したすべての実施形態はまた、この態様に包含される。
【0084】
本明細書で使用する場合、用語「移植可能HSC」は、造血移植に適している、すなわち、長期多系統生着および自己再生が可能である造血幹細胞を指す。
【0085】
好ましくは、内皮造血系統への多能性幹細胞の分化を誘発する培養培地は、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)リガンド、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン1(IL1)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子1(IGF1)を含む。この培養培地はさらに、血漿、血清、血小板溶解物、血清アルブミン、トランスフェリンもしくはその代替物、および/またはインスリンもしくはその代替物、好ましくは(i)血漿、血清および/または血小板溶解物、ならびに(ii)トランスフェリンおよびインスリンを含み得る。
【0086】
好ましい実施形態では、内皮造血系統への多能性幹細胞の分化を誘発する培養培地は、以下で説明される本発明の培養培地である。
【0087】
好ましくは、胚様体は、14~19日間、より好ましくは15~18日間、さらに好ましくは17日間、液体培養培地で培養される。好ましい実施形態では、胚様体は、14~19日間、より好ましくは15~18日間、さらに好ましくは17日間、以下で説明される本発明の液体培養培地で培養される。
【0088】
本明細書で実証されるように、CD135+、CD110+および/またはAPLNR+ HSCは、インビボでの多系統造血再構成および自己再生をサポートする長期多能HSCであり、したがって、HSC移植についての細胞の優れた供給源を構成する。
【0089】
したがって、別の態様において、本発明は、造血移植に適している、すなわち生着、具体的には、長期多系統生着および自己再生が可能な造血幹細胞のマーカとしてのCD135、CD110および/またはAPLNRの使用に関する。
【0090】
本発明はまた、造血細胞移植片の効力を評価するためのマーカとしての、ならびに/または造血移植結果および/もしくは性能を予測するためのマーカとしての、CD135、CD110および/またはAPLNRの使用に関する。
【0091】
本発明はさらに、造血細胞移植片の効力を評価する方法、好ましくはインビトロの方法に関し、方法は、CD135、CD110および/またはAPLNRを発現するHSCの存在または不在、好ましくはCD110を発現するHSCの存在または不在、すなわち、長期多系統生着および自己再生が可能な細胞の存在または不在について、造血細胞移植片を評価することを含み、前記細胞の不在は、低効力または効力欠如を示す。逆に、CD135、CD110および/またはAPLNRを発現するHSCの存在は、良好な効力を示すと考えることができる。
【0092】
本明細書で使用する場合、用語「効力」は、所与の結果に影響を与える細胞産物の特定の能力、具体的には、移植の際にインビボでの多系統造血再構成および自己再生を提供する、すなわち、移植患者における免疫造血系を再生する造血細胞産物の能力を指す。
【0093】
低効力または効力欠如の造血細胞移植片の移植は、移植の失敗をもたらし得る。その結果、CD135、CD110および/またはAPLNRを発現するHSCをまったく含まない造血細胞移植片は、移植に使用されるべきではない。
【0094】
本発明はまた、HSC移植の転帰を予測する方法、好ましくはインビトロの方法に関し、方法は、CD135、CD110および/またはAPLNRを発現する、好ましくはCD110を発現するHSCの存在または不在を造血細胞移植片において検出することを含み、前記細胞の不在は、予後不良、すなわち、移植不全のリスクが高いことを示す。逆に、CD135、CD110および/またはAPLNRを発現するHSCの存在は、予後良好を示すものと考えることができる。
【0095】
本明細書で使用する場合、用語「予後不良」とは、患者の生存率低下および/または移植不全の高リスク、すなわち、移植が移植患者における免疫造血系を再生できない高リスクを指す。逆に、用語「予後良好」は、患者の生存率増加および移植成功確率増加、すなわち、移植が移植患者における免疫造血系の再生を可能にする確率の増加を指す。
【0096】
本発明はさらに、造血細胞移植片の生着可能性を予測する方法、好ましくはインビトロの方法に関し、方法は、CD135、CD110および/またはAPLNRを発現する、好ましくはCD110を発現するHSCの存在または不在を造血細胞移植片において検出することを含み、前記細胞の不在は、乏しい移植可能性、すなわち移植不全の高リスクを示す。逆に、CD135、CD110および/またはAPLNRを発現するHSCの存在は、良好な移植可能性、すなわち移植成功確率の増加を示すものと考えることができる。
【0097】
CD135、CD110および/またはAPLNRを発現するHSCの存在または不在は、当業者に公知のまたは上述の任意の方法によって評価され得る。例えば、CD135+、CD110+および/またはAPLNR+細胞は、蛍光活性化細胞選別(FACS)、磁気活性化細胞選別(MACS)、またはCD135、CD110またはAPLNRに対して向けられた抗体を使用する任意の免疫学的検査を使用して検出され得る。CD135、CD110またはAPLNRに対するモノクローナル抗体は市販されている。
【0098】
上記のような、造血細胞移植片の効力を評価する、HSC移植の結果を予測する、または造血細胞移植片の生着可能性を予測する方法は、総生存有核細胞数(TNC)のカウント、および/または生存可能なCD34+細胞総数の測定、および/または刺激性成長因子を補充したメチルセルロースベース培養培地中で造血細胞コロニーを産生可能な機能性前駆細胞の数の測定(CFUアッセイ)、および/またはLTC-IC頻度の測定などの、日常的に当業者によって使用される任意の他の表現型または機能的アッセイを含み得る。
【0099】
別の態様において、本発明は、本発明の任意の方法に従って調製された造血細胞移植片に関する。
【0100】
それはさらに、細胞の少なくとも1、5、10、20、30、40、50、60または70%がCD135+、CD110+および/またはAPLNR+造血幹細胞、好ましくはCD110+造血幹細胞である造血細胞移植片と、薬学的に許容可能なキャリアとに関する。好ましくは、造血細胞移植片の細胞の少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%が、CD135+、CD110+および/またはAPLNR+造血幹細胞、好ましくはCD110+造血幹細胞である。より好ましくは、造血細胞移植片の細胞の少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%が、CD135+および/またはCD110+ HSC、好ましくCD110+ HSCである。
【0101】
CD135+、CD110+および/またはAPLNR+ HSCの割合は、当業者に公知のまたは本明細書に記載の任意の方法を用いて容易に決定され得る。
【0102】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容可能」は、動物および/またはヒトにおける使用について欧州薬局方などの規制機関または認知された薬局方による承認を意味する。用語「キャリア」または「賦形剤」は、細胞が投与される希釈剤、アジュバント、キャリア、またはビヒクルを指す。当技術分野で公知のように、薬学的に許容可能な賦形剤は、比較的に不活性な物質、好ましくは当業者に公知の注射可能な物質である。
【0103】
本発明の造血細胞移植片を調製する方法について上述したすべての実施形態はまた、この態様に包含される。
【0104】
さらなる態様において、本発明は、疾患、状態、または骨髄破壊的処置により引き起こされる造血における欠陥に関連するさまざまな障害の処置に使用するため、具体的には、悪性または非悪性疾患の処置のための、本発明の造血細胞移植片に関する。
【0105】
それはまた、疾患、状態、または骨髄破壊的処置により引き起こされる造血における欠陥に関連する障害の処置のため、具体的には、悪性または非悪性疾患の処置のために、医薬を調製するための本発明の造血細胞移植片の使用に関する。
【0106】
それはさらに、疾患、状態、または骨髄破壊的処置により引き起こされる造血における欠陥に関連する障害の処置のため、具体的には、悪性または非悪性疾患の処置のための方法に関し、方法は、それを必要とする被験体において、その被験体に有効量の本発明の造血細胞移植片を投与することを含む。
【0107】
それはまた、疾患、状態、または骨髄破壊的処置により引き起こされる造血における欠陥に関連する障害の処置のため、具体的には、悪性または非悪性疾患の処置のための方法に関し、方法は、それを必要とする被験体において、上述した本発明の方法による造血細胞移植片の効力を評価すること、および、効力が良好であれば被験体に有効量の前記造血細胞移植片を投与することを含む。
【0108】
本発明の造血細胞移植片を調製する方法について、造血細胞移植片の効力の評価について、または本発明の造血細胞移植片について、上述したすべての実施形態はまた、この態様に包含される。
【0109】
悪性疾患の例としては、これらに限定されないが、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性障害、慢性リンパ球性白血病、若年性慢性骨髄性白血病、神経芽細胞腫、卵巣癌および生殖細胞腫瘍が挙げられる。
【0110】
非悪性疾患の例としては、これらに限定されないが、自己免疫疾患、アミロイドーシス、再生不良性貧血、発作性夜間血色素尿症、ファンコーニの貧血、ブラックファン・ダイアモンド貧血、重症型サラセミア、鎌状赤血球貧血、重症複合免疫不全症、ウィスコット・アルドリッチ症候群および先天性代謝異常が挙げられる。
【0111】
用語「被験体」または「患者」は、動物、好ましくは哺乳動物、さらにより好ましくは、成人、子供、および出生前段階のヒトを含むヒトを指す。
【0112】
本明細書で使用する場合、用語「処置」、「処置する」または「処置すること」は、疾患の治療、防止、予防および遅滞などの患者の健康状態を改善することを意図する任意の行為を指す。特定の実施形態では、そのような用語は、疾患または疾患に関連する症状の改善または根絶を指す。他の実施形態では、この用語は、そのような疾患を有する被験体への1つ以上の治療薬の投与に起因する疾患の拡散または悪化を最小限にすることを指す。いくつかの実施形態では、この用語は、移植患者における免疫造血系の再生を指し得る。
【0113】
「治療有効量」とは、上記で定義した悪性または非悪性疾患の処置を構成するのに十分である被験体に投与される造血細胞移植片の量を意図する。いくつかの実施形態では、この用語は、移植患者における免疫造血系を再生するのに必要な造血細胞移植片の量を指し得る。
【0114】
治療有効量は、患者の生理学的データ(例えば年齢、サイズ、および重量)および処置される疾患に応じて、造血細胞移植片におけるCD135+、CD110+および/またはAPLNR+細胞の割合に応じて変化し得る。
【0115】
実施形態では、10~10、好ましくは10~10、より好ましくは3.10~6.10のCD135+、CD110+および/またはAPLNR+細胞/患者体重kgを投与する。特定の実施形態では、10~10、好ましくは1.10~5.10のCD135+および/またはCD110+細胞、好ましくはCD110+細胞/患者体重kgを投与する。別の具体的な実施形態では、10~10、好ましくは3.10~8.10のAPLNR+細胞/患者体重kgを投与する。
【0116】
本発明による造血細胞移植片は、治療される疾患に応じて、他の化学療法、免疫療法、放射線療法または手術などの他の療法と組み合わせて使用され得る。
【0117】
用語「免疫療法」は、悪性腫瘍細胞または疾患を担う細胞を攻撃するために、患者の免疫系を刺激する治療処置を指す。それは、(例えば、癌ワクチンを投与することによる)特定の抗原を有する患者の免疫、サイトカインなどの免疫系を刺激する分子の投与、または薬物などの治療抗体の投与を含む。
【0118】
用語「放射線療法」は、内部および外部放射線療法、放射免疫療法、ならびにX線、ガンマ線、アルファ粒子、ベータ粒子、光子、電子、中性子、放射性同位元素、および電離放射線の他の形態などのさまざまな種類の放射線の使用を含む複数の種類の放射線療法を指すために当技術分野で一般に使用される用語である。具体的には、放射線療法を、幹細胞移植の前に骨の痛みを緩和するためにまたは全身照射のために、骨髄の外に広がっているかもしれない疾患を治療するために使用することができる。
【0119】
化学療法は、悪性疾患を処置するために使用され得、例えば、ビンクリスチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、シタラビン、アスパラギナーゼ、エトポシド、テニポシド、メルカプトプリン、メトトレキサート、シクロホスファミド、プレドニゾン、デキサメタゾン、ブスルファン、ヒドロキシ尿素またはインターフェロンアルファ、または任意の他の関連する化学療法を含み得る。
【0120】
造血細胞移植片は、自家、同系または同種異系移植で使用され得る。本明細書で使用する場合、「同種異系移植」は、遺伝的にレシピエントとは非同一であるが同じ種であるドナーに由来または起因する細胞の移植を指す。「自家移植」は、同じ被験体に由来または起因する細胞の移植を指す。ドナーおよびレシピエントが同一の人である。「同系移植」は、レシピエントと遺伝的に同一であるドナーに由来または起因する細胞の移植を指す。
【0121】
特定の実施形態において、造血細胞移植片は、自家移植において使用されることが意図され、HSC、具体的にはCD135+、CD110および/またはAPLNR+細胞は、処置される被験体に起因する人工多能性幹細胞に由来する。
【0122】
別の具体的な実施形態では、造血細胞移植片は、同種異系移植において使用されることが意図され、HSC、具体的にはCD135+、CD110および/またはAPLNR+細胞は、胎盤血または臍帯血に由来する。
【0123】
実験セクションに示すように、本発明者らは、多能性幹細胞から得られた胚様体の内皮造血系統への分化プロセスが遅延される液体細胞培養培地を開発した。この培養培地は、したがって、GMPグレード培養条件下での、インビボでの長期多系統生着および自己再生が可能な初期原始造血幹細胞、すなわちCD135+、CD110+および/またはAPLNR+ HSCの産生および選択を可能とする。
【0124】
したがって、別の態様において、本発明はまた、(i)血漿、血清、血小板溶解物および/または血清アルブミン、ならびに(ii)トランスフェリンまたはその代替物、インスリンまたはその代替物、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3-L)、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン1(IL1)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子1(IGF1)を含む、または本質的にそれらからなる液体細胞培養培地に関する。好ましくは、液体細胞培養培地は、(i)血漿、血清および/または血小板溶解物、ならびに(ii)トランスフェリン、インスリン、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3-L)、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン1(IL1)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子1(IGF1)を含む、または本質的にそれらからなる。
【0125】
本明細書で使用する場合、用語「細胞培養培地」は、真核細胞、具体的には哺乳動物細胞、より具体的にはヒト細胞の成長を維持しやすいベース培養培地を含む、任意の培養培地、具体的には、任意の液体培養培地に関する。ベース培養培地は、当業者に公知である。
【0126】
本明細書で使用される場合、用語「から本質的になる」は、(i)血漿、血清、血小板溶解物および/または血清アルブミン、好ましくは血漿、血清および/または血小板溶解物、ならびに(ii)トランスフェリンまたはその代替物、好ましくはトランスフェリン、インスリンまたはその代替物、好ましくはインスリン、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3-L)、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン1(IL1)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子1(IGF1)を含み、任意の他のサイトカインまたは成長因子を含まない培養培地を指す。
【0127】
具体的な実施形態において、本発明の培養培地は、(i)血漿、血清、血小板溶解物および/または血清アルブミン、好ましくは血漿、血清および/または血小板溶解物、ならびに、(ii)トランスフェリンまたはその代替物、好ましくはトランスフェリン、インスリンまたはその代替物、好ましくはインスリン、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3-L)、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン1(IL1)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子1(IGF1)が付加されたベース培養培地として、グルタミンまたはグルタミン含有ペプチドで必要に応じて補完されたイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)を含む。
【0128】
好ましくは、本発明の培養培地は、5μg/mL~20μg/mLのインスリン、より好ましくは8μg/mL~12/mL、さらにより好ましくは約10μg/mLのインスリンを含む。好ましい実施形態では、インスリンは、ヒトインスリン、好ましくはヒト組換えインスリンである。
【0129】
インスリン代替物は、細胞培養培地中のインスリンと同じ機能を果たすために当業者に公知の任意の化合物とすることができる。具体的には、この代替物は、小分子またはアプタマー作用物資などの任意のインスリン受容体作用物資とすることができる。小分子インスリン受容体作用物資は、例えば、Qiangら、Diabetes.2014 Apr;63(4):1394-409に記載され、アプタマー作用物資は、例えば、Yunnら、Nucleic Acids Res.2015 Sep 18;43(16):7688-701に記載されている。好ましくは、インスリンは、Wongら、Cytotechnology.2004 Jul;45(3):107-15に記載されているように、亜鉛塩で置換される。亜鉛塩の例としては、これらに限定されないが、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、臭化亜鉛または硫酸亜鉛が挙げられる。好ましい実施形態では、インスリン代替物は亜鉛塩である。インスリン代替物の濃度は、前記化合物の性質に依存し、当業者によって容易に決定することができる。
【0130】
好ましくは、本発明の培養培地は、10μg/mL~100μg/mLのトランスフェリン、好ましくは30μg/mL~60μg/mLのトランスフェリン、さらにより好ましくは約45μg/mLのトランスフェリンを含む。好ましい実施形態では、トランスフェリンは、鉄飽和ヒトトランスフェリン、好ましくは組換え鉄飽和ヒトトランスフェリンである。
【0131】
トランスフェリン代替物は、細胞培養培地中でトランスフェリンと同様の機能を果たすことが当業者に公知の任意の化合物とすることができる。具体的には、トランスフェリンは、クエン酸第二鉄、硝酸第二鉄または硫酸第一鉄などの鉄キレート剤または無機の鉄塩で置換され得る。適切な鉄キレート剤の例としては、これらに限定されないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルシアミン四酢酸(エグタジン酸)(EGTA)、メシル酸デフェロキサミン、ジメルカプロールまたはペンテト酸(DPTA)が挙げられる。トランスフェリン代替物の濃度は、前記化合物の性質に依存し、当業者によって容易に決定することができる。
【0132】
培養培地は、血漿、血清、血小板溶解物および/または血清アルブミン、好ましくは血漿、血清および/または血小板溶解物、より好ましくは血漿または血清または血小板溶解物または血清アルブミン、さらにより好ましくは血漿または血清または血小板溶解物を含み得る。培養培地は、1%~20%の血漿または血清、好ましくは2%~10%の血漿または血清、より好ましくは約5%の血漿または血清を含み得る。好ましい実施形態において、血漿または血清は、ヒト血漿または血清である。あるいは、またはさらに、培養培地は、0.1%~2%の血小板溶解物、好ましくは0.2%~1%の血小板溶解物、より好ましくは約0.5%の血小板溶解物を含み得る。好ましい実施形態では、血小板溶解物は、ヒト血小板溶解物である。あるいは、またはさらに、培養培地は、0.1%~2%の血清アルブミン、好ましくは0.5%~1%の血清アルブミンを含み得る。好ましい実施形態において、血清アルブミンは、ヒト血清アルブミンである。
【0133】
好ましくは、本発明の培養培地は、10ng/mL~100ng/mLのSCF、より好ましくは10ng/mL~50ng/mLのSCF、さらにより好ましくは約24ng/mLのSCFを含む。好ましい実施形態では、SCFは、ヒトSCF、好ましくは組換えヒトSCFである。
【0134】
好ましくは、本発明の培養培地は、10ng/mL~100ng/mLのTPO、より好ましくは10ng/mL~50ng/mLのTPO、さらにより好ましくは約21ng/mLのTPOを含む。好ましい実施形態では、TPOは、ヒトTPO、好ましくは組換えヒトTPOである。
【0135】
好ましくは、本発明の培養培地は、10ng/mL~100ng/mLのFLT3-L、より好ましくは10ng/mL~50ng/mLのFLT3-L、さらにより好ましくは約21ng/mLのFLT3-Lを含む。好ましい実施形態では、FLT3-Lは、ヒトFLT3-L、好ましくは組換えヒトFLT3-Lである。
【0136】
好ましくは、本発明の培養培地は、50ng/mL~300ng/mLのBMP4、より好ましくは150ng/mL~250ng/mLのBMP4、さらにより好ましくは約194ng/mLのBMP4を含む。好ましい実施形態では、BMP4は、ヒトBMP4、好ましくは組換えヒトBMP4である。
【0137】
好ましくは、本発明の培養培地は、50ng/mL~300ng/mLのVEGF、より好ましくは150ng/mL~250ng/mLのVEGF、さらにより好ましくは約200ng/mLのVEGFを含む。好ましい実施形態では、VEGFは、ヒトVEGF、好ましくは組換えヒトVEGF、より好ましくは組換えヒトVEGF-A165である。
【0138】
好ましくは、本発明の培養培地は、10ng/mL~100ng/mLのIL3、より好ましくは20ng/mL~80ng/mLのIL3、さらにより好ましくは約50ng/mLのIL3を含む。好ましい実施形態では、IL3は、ヒトIL3、好ましくは組換えヒトIL3である。
【0139】
好ましくは、本発明の培養培地は、10ng/mL~100ng/mLのIL6、より好ましくは20ng/mL~80ng/mLのIL6、さらにより好ましくは約50ng/mLのIL6を含む。好ましい実施形態では、IL6は、ヒトIL6、好ましくは組換えヒトIL6である。
【0140】
好ましくは、本発明の培養培地は、1ng/mL~20ng/mLのIL1、より好ましくは1ng/mL~10ng/mLのIL1、さらにより好ましくは約5ng/mLのIL1を含む。好ましい実施形態では、IL1は、ヒトIL1、好ましくは組換えヒトIL1である。
【0141】
好ましくは、本発明の培養培地は、10ng/mL~200ng/mLのGCSF、より好ましくは50ng/mL~150ng/mLのGCSF、さらにより好ましくは約100ng/mLのGCSFを含む。好ましい実施形態では、GCSFは、ヒトGCSF、好ましくは組換えヒトGCSFである。
【0142】
好ましくは、本発明の培養培地は、1ng/mL~10ng/mLのIGF1、より好ましくは1ng/mL~10ng/mLのIGF1、さらにより好ましくは約5ng/mLのIGF1を含む。好ましい実施形態では、IGF1は、ヒトIGF1、好ましくは組換えヒトIGF1である。
【0143】
特定の実施形態において、本発明の液体細胞培養培地は、
1%~20%の血漿もしくは血清、好ましくは2%~10%の血漿もしくは血清、または、0.1%~2%の血小板溶解物、好ましくは0.2%~1%の血小板溶解物、または、0.1%~2%の血清アルブミン、好ましくは0.5%~1%の血清アルブミン、および/または、
5μg/mL~20μg/mLのインスリンまたはその代替物、好ましくはインスリン、好ましくは8μg/mL~12/mLのインスリンまたはその代替物、好ましくはインスリン、および/または、
10μg/mL~100μg/mLのトランスフェリンまたはその代替物、好ましくはトランスフェリン、好ましくは30μg/mL~60μg/mLのトランスフェリンまたはその代替物、好ましくはトランスフェリン、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのSCF、好ましくは10ng/mL~50ng/mLのSCF、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのTPO、好ましくは10ng/mL~50ng/mLのTPO、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのFLT3-L、好ましくは10ng/mL~50ng/mLのFLT3-L、および/または、
100ng/mL~500ng/mLのBMP4、好ましくは150ng/mL~250ng/mLのBMP4、および/または、
50ng/mL~300ng/mLのVEGF、好ましくは150ng/mL~250ng/mLのVEGF、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのIL3、好ましくは20ng/mL~80ng/mLのIL3、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのIL6、好ましくは20ng/mL~80ng/mLのIL6、および/または、
1ng/mL~20ng/mLのIL1、好ましくは1ng/mL~10ng/mLのIL1、および/または、
10ng/mL~200ng/mLのGCSF、好ましくは50ng/mL~150ng/mLのGCSF、および/または、
1ng/mL~20ng/mLのIGF1、好ましくは1ng/mL~10ng/mLのIGF1
を含む。
【0144】
好ましくは、培地は、これらすべての特徴を満たしている。
【0145】
別の特定の実施形態において、本発明の液体細胞培養培地は、
1%~20%の血漿もしくは血清、好ましくは2%~10%の血漿もしくは血清、または、0.1%~2%の血小板溶解物、好ましくは0.2%~1%の血小板溶解物、および/または、
5μg/mL~20μg/mLのインスリン、好ましくは8μg/mL~12μg/mLのインスリン、および/または、
10μg/mL~100μg/mLのトランスフェリン、好ましくは30μg/mL~60μg/mLのトランスフェリン、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのSCF、好ましくは10ng/mL~50ng/mLのSCF、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのTPO、好ましくは10ng/mL~50ng/mLのTPO、および/または、
100ng/mL~500ng/mLのFLT3-L、好ましくは250ng/mL~350ng/mLのFLT3-L、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのBMP4、好ましくは10ng/mL~50ng/mLのBMP4、および/または、
50ng/mL~300ng/mLのVEGF、好ましくは150ng/mL~250ng/mLのVEGF、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのIL3、好ましくは20ng/mL~80ng/mLのIL3、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのIL6、好ましくは20ng/mL~80ng/mLのIL6、および/または、
1ng/mL~20ng/mLのIL1、好ましくは1ng/mL~10ng/mLのIL1、および/または、
10ng/mL~200ng/mLのGCSF、好ましくは50ng/mL~150ng/mLのGCSF、および/または、
10ng/mL~150ng/mLのIGF1、好ましくは10ng/mL~100ng/mLのIGF1
を含む。
【0146】
好ましくは、培地は、これらすべての特徴を満たしている。
【0147】
別の特定の実施形態において、本発明の液体細胞培養培地は、
1%~20%の血漿もしくは血清、好ましくは2%~10%の血漿もしくは血清、または、0.1%~2%の血小板溶解物、好ましくは0.2%~1%の血小板溶解物、および/または、
5μg/mL~20μg/mLのインスリン、好ましくは8μg/mL~12μg/mLのインスリン、および/または、
10μg/mL~100μg/mLのトランスフェリン、好ましくは30μg/mL~60μg/mLのトランスフェリン、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのSCF、好ましくは10ng/mL~50ng/mLのSCF、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのTPO、好ましくは10ng/mL~50ng/mLのTPO、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのFLT3-L、好ましくは10ng/mL~50ng/mLのFLT3-L、および/または、
100ng/mL~500ng/mLのBMP4、好ましくは150ng/mL~250ng/mLのBMP4、および/または、
50ng/mL~300ng/mLのVEGF、好ましくは150ng/mL~250ng/mLのVEGF、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのIL3、好ましくは20ng/mL~80ng/mLのIL3、および/または、
10ng/mL~100ng/mLのIL6、好ましくは20ng/mL~80ng/mLのIL6、および/または、
1ng/mL~20ng/mLのIL1、好ましくは1ng/mL~10ng/mLのIL1、および/または、
10ng/mL~200ng/mLのGCSF、好ましくは50ng/mL~150ng/mLのGCSF、および/または、
1ng/mL~20ng/mLのIGF1、好ましくは1ng/mL~10ng/mLのIGF1
を含む。
【0148】
好ましくは、培地は、これらすべての特徴を満たしている。
【0149】
別の具体的な実施形態において、本発明の液体細胞培養培地は、(i)約5%の血漿もしくは血清または約0.5%の血小板溶解物、および(ii)約10μg/mLのインスリン、約45μg/mLのトランスフェリン、約22ng/mLのSCF、約20ng/mLのTPO、約300ng/mLのFLT3-L、約22ng/mLのBMP4、約200ng/mLのVEGF、約50ng/mLのIL3、約50ng/mLのIL6、約5ng/mLのIL1、約100ng/mLのGCSFおよび約50ng/mLのIGF1を含む。
【0150】
さらに具体的な実施形態において、本発明の液体細胞培養培地は、(i)約5%の血漿もしくは血清または約0.5%の血小板溶解物、および(ii)約10μg/mLのインスリン、約45μg/mLのトランスフェリン、約24ng/mLのSCF、約21ng/mLのTPO、約21ng/mLのFLT3-L、約194ng/mLのBMP4、約200ng/mLのVEGF、約50ng/mLのIL3、約50ng/mLのIL6、約5ng/mLのIL1、約100ng/mLのGCSFおよび約5ng/mLのIGF1を含む。
【0151】
培養培地が血漿または血清を含む実施形態において、それは、有利にはさらにヘパリン、好ましくは0.5U/mL~5U/mLのヘパリン、より好ましくは2U/mL~4U/mLのヘパリン、さらにより好ましくは約3U/mLのヘパリンを含む。
【0152】
本発明はまた、具体的にはフィーダー細胞の不在時の、造血系統の細胞の成長および/または分化のための、胚様体の分化のための、造血細胞移植片の産生のための、本発明の液体細胞培養培地の使用に関する。
【0153】
本明細書で使用する場合、用語「成長」は、培養細胞の成長を指し、用語「分化」は、造血系統に細胞をコミットさせる細胞特性の培養培地中で培養される細胞による獲得を指す。本明細書で使用する場合、用語「造血系統の細胞」は、哺乳動物の、具体的にはヒトの血液中に見出される細胞を指す。
【0154】
本発明の細胞培養培地は、胚性幹細胞およびiPSCなどの多能性幹細胞、胚様体、ならびに、CD135+、CD110+および/またはAPLNR+ HSCなどの初期原始HSCを含むHSCの成長および/または分化について特に有用である。
【0155】
本明細書にて参照または引用されるすべての特許、特許出願、仮出願、および刊行物は、それらが本明細書の明白な教示と矛盾しない程度において、すべての図および表を含め、その全体が参照として援用される。
【0156】
以下の実施例は、例示目的のために与えられ、限定されるものではない。
【実施例
【0157】
実施例1
材料および方法
hiPSC増幅
本研究は、3つの異なるhiPSC株:レトロウイルスベクターおよびトムソンの組み合わせで再プログラムされたFD136-25(Oct4、Sox2、NanogおよびLin28の内因性発現);エピソームで再プログラムされたPci-1426およびPci-1432株(Phenocell社)(Sox2、Oct4、KLF、cMyc)、を用いて行った。hiPSCは、TESR2培地(Stem Cell Technologies社、Bergisch Gladbach、Germany)において、CellStart(Invitrogen社、Carlsbad、USA)で維持し、細胞を、TRYpleセレクト(Invitrogen社)での標準クランプ継代を使用して5日ごとに新たにコーティングされたプレート上に1:6で継代した。
【0158】
EB分化
24時間後、細胞を、24ng/mLのSCF、21ng/mLのTPO、21ng/mLのFLT3L、194ng/mLのBMP4、200ng/mLのVEGF、50ng/mLのIL3、50ng/mLのIL6、5ng/mLのIL1、100ng/mLのGCSF、5ng/mLのIGF1を含む分化培地に移した(PeproTech社、Neuilly-sur-seine、フランス)。培地は1日おきに交換された。EBは、15、16、17日目に解離させた。
【0159】
コロニーアッセイ
示された時間において、1×10の解離EB細胞または3×l0の異種移植レシピエントBMからの細胞を、SCF、IL-3、EPOおよびGM-CSFの存在下で3mLの完全メチルセルロース培地中に播種した(PeproTech社、Neuilly-sur-seine、フランス)。G-CSFがまたマウス前駆細胞を刺激するので、それは顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で置換された。混合物のアリコート(1mL)を2回、1つの30mmシャーレに分配し、14日間、加湿チャンバ中で維持した。コロニー形成細胞(CFC)は、14日目にスコアリングされた。
【0160】
長期培養開始細胞アッセイ
長期培養開始細胞(LTC-IC)アッセイを、EBについて17日目に、対照CD34+について0日目に、15~100,000細胞/ウェルで、前述のように実施した(例えば、MillerおよびEaves、Hematopoietic Stem Cell Protocols、Methods in Molecular MedicineシリーズのVolume 63 pp123-141を参照されたい)。絶対LTC-ICカウントは、ポアソン統計を用いて37%の陰性ウェルをもたらす細胞濃度に相当した。
【0161】
擬似微小管およびEPC様細胞
擬似微小管形成のために、細胞を、成長因子低減マトリゲル(Corning社)およびEGM2培地(Lonza社)での培養に移した。
【0162】
EPC様細胞の生成のために、細胞をまずゼラチンに播種し、EBM2(Lonza社)で培養し、数回分割し、最初の継代後、ゼラチンはもはや必須ではなくなった。
【0163】
フローサイトメトリ
BM細胞または解離EBの染色を、100μLの染色バッファ(2%FBSを含有するPBS)中の2×10細胞について、暗所において室温で20分間、各抗体の5:100希釈で行った。データ収集は、Becton Dickinson CantoIIサイトメータで行った。
【0164】
血管新生可能性のインビボ分析
1.750 10D16単一細胞またはhEPCおよび1.750 10hMSCを、100μlのマトリゲルフェノールレッドフリーおよび成長因子低減し(Corning社)と混合し、ヌードマウスの背中に皮下注入した(2つの異なるプラグ/マウス)。対照も同様に行ったが、3.5 10hMSCまたはD16単一細胞またはhEPCsであった:各条件についてn=3。2週間後、マウスを犠牲にし、マトリゲルプラグを切開し、パラフィン切片用に加工した。切片を、脱パラフィンし、水和させ、マッソントリクローム、ヘマトキシリンでの核染色を含む3色プロトコル、酸性フクシン/キシキジンポンソーでの細胞質染色およびライトグリーンSFでのコラーゲン染色(すべてVWR社から)で、または、ヒトフォンヴィレブランド因子(Dako社)で染色し、染色をヒストグリーン基質(Abcys社)で発色させ、Fast nuclear red(Dako Cytomation社)で対比染色し、脱水し、マウントし、または、一次抗体としてのhCD31(R&DSystem社)および二次抗体としてのロバ抗ウサギCy3(Jackson Immuno Reseach社)およびDAPIを用い、フルオロマウントGでマウントした。
【0165】
APLNR陽性細胞の選別
上記のように、細胞を抗体hAPJ-APCで染色した。選別は、Moflo ASTRIOS Beckman Coulter社装置上で実行され、純度は98.1%のAPLNR陽性細胞であった。
【0166】
マウス移植
NOD/SCID-LtSz-scid/scid(NOD/SCID)またはNOD.Cg-PrkdcscidI12rgtm1Wjl/SzJ(NSG)またはFoxn1-/-ヌードマウス(Charles River社、L’Arbresle、フランス)を、IRSN動物介護施設で飼育した。すべての実験および手順は、動物実験についてのフランス農務省規制を遵守して行われ、地元倫理委員会によって承認された。
【0167】
6~8週齢および無菌条件下飼育のマウスに、セシウム137源から2.5グレイ(2.115Gy/分)で細胞注入の24時間前に、致死量未満で照射した。実験間の整合性を確保するために、雄マウスのみを用いた。移植前に、マウスをケタミンおよびキシラジンの腹腔内注射で一時的に鎮静させた。細胞(0.4×10/マウス)を、28.5ゲージのインスリン針を用い、100μLの容量で眼窩後部注射により移植した。合計140匹のマウスを、この研究に使用した。
3つの異なるhiPSC株のD17細胞の生着可能性について:
70匹のNSGマウスを次のように使用した:30匹の一次レシピエント、30匹の二次レシピエントおよび対照としての10匹。
【0168】
48匹のNOD-SCIDマウスを次のように使用した:20匹の一次レシピエントおよび16匹の二次レシピエント、3匹の三次レシピエントおよび対照としての9匹。
APLNR+およびAPLNR-集団の生着可能性について:10匹のNOD-SCIDマウスを使用し、3匹のNOD-SCIDを対照とした。
【0169】
内皮および造血可能性のインビボ評価を、9匹のヌードマウスでプロービングした。
【0170】
ヒト細胞生着評価
マウスを12、18または20週で屠殺した。大腿骨、脛骨、肝臓、脾臓および胸腺を除去した。単一細胞懸濁液を標準的なフラッシングによって調製し、1×10個の細胞を含むアリコートを総容積200μLの染色緩衝液で染色した。
【0171】
サンプルを、次のマーカを用いて生着評価のために染色した:hCD45クローンJ33、hCD43クローンDFT1、hCD34クローン581(Beckman Coulter社)およびhCD45クローン5B1、mCD45クローン30F11(Miltenyi社)。
【0172】
BMをプールして、hCD45マイクロビーズ濃縮(Miltenyi社)を可能にし、多系統を、次のヒトマーカを用いて評価した:hCD3クローンUCHT1、hCD4クローン13B8.2、hCD8クローンB9.11、hCD14クローンRMO52、hCD15クローン80H5、hCD19クローンJ3-119、hCD20クローンB9E9、hCD41クローンP2、hCD61クローンSZ21、hCD43クローンDFT1、hCD34-APC、hCD71クローンYDJ1.2.2(すべてBeckman Coulter社、ブレア、USAの抗体から)、CD45クローン5B1(Miltenyi社)、CD235aクローンGA-R2(Becton-Dickinson社)。
【0173】
血液サンプルをプールし、hCD45マイクロビーズ選別(Miltenyi社)を可能にした。多系統可能性を、次のヒトマーカを用いて評価した:hCD3クローンUCHT1、hCD4クローン13B8.2、hCD8クローンB9.11、hCD14クローンRMO52、hCD15クローン80H5、hCD19クローンJ3-119、hCD20クローンB9E9、hCD41クローンP2、hCD61クローンSZ21(すべてBeckman Coulter社、ブレア、USAの抗体から)。
【0174】
非注入マウスBMを、非特異的染色のための対照として使用した。
【0175】
代償作用を抗マウスIgを用いたFMO法により行い、データをBDCantoIIサイトメータで得た。
【0176】
T細胞成熟および機能アッセイ
3匹のマウスの血液をプールしてhCD2マイクロビーズ選別(Miltenyi社)を可能にし、TCRαβおよびTCRγδの存在を、次のヒトマーカを用いてフローサイトメトリによって評価した:TCRαβクローンIP26AおよびTCRγδクローンIMMU510(すべてBeckman Coulter社、ブレア、USAの抗体から)。
【0177】
胸腺および脾臓細胞を単離し、CFSE標識し、hCD3およびhCD28(Beckman Coulter社、両方とも1μg/mL)で補完したかまたはしていない細胞培養培地中に播種した。5日後、細胞を採取し、抗hCD3クローンUCHT1で染色し、BDCantoIIサイトメータにて分析した。FlowJo分析ソフトウェアを使用して、CD3T細胞上でゲートし、重ね合わせヒストグラムプロットを生成した。
【0178】
胸腺細胞の存在を評価するために、胸腺細胞を、hCD1AクローンBL6(Beckman Coulter社、ブレア、USAの抗体から)でマークした。
【0179】
APLNR細胞安全性評価
3匹を致死量以下に照射したNOD/SCIDマウスにそれぞれ、300万のAPLNR陽性細胞を皮下注射した。奇形腫は、FDAガイドライン(材料および方法)による2ヶ月のフォローアップ後には発見されなかった。
【0180】
また、臓器分析後(140匹/140匹のマウス)、または異なる組織(脳、肺、腎臓、BM、肝臓および腸)の顕微鏡分析後(140匹/140匹のマウス)に、いずれのマウスにおいてもまったく腫瘍は肉眼で検出されなかった。
【0181】
定量的PCR
総mRNAを、RNAミニキット(Qiagen社、クルタブフ、フランス)を用いて単離した。mRNA完全性を、バイオアナライザー2100(Agilent Technologies社、マッシー、フランス)で確認した。cDNAを、スーパースクリプト(Life Technologies社、カールスバード、USA)での逆転写により構築した。TaqManPCRマスターミックス(Life Technologies社)および選択された遺伝子(下記の表を参照)についての特異的プライマー(Applied BioSystems社、カールスバード、USA)を配列検出システム(QuantStudio12K FlexReal-TimePCRシステム、Life Technologies社)とともに用いて、PCRアッセイを実施した。各サンプルにおいて、各標的遺伝子の蛍光PCR信号は、ハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の蛍光シグナルに正規化された。
【0182】
マウスBMからのmRNAのヒト起源を、hCD45、hCD15、hMPO、hITGA2およびhGAPDHを測定することによって評価した。マウスBMにおけるCFCポスト移植およびグロビン型発現から、我々は、Taqmanプローブを使用して、ベータ、ガンマおよびイプシロングロビンを測定した。
【0183】
対照は、臍帯血CD34から生成された培養赤芽球であった。
【0184】
【表1】
【0185】
統計分析
すべての統計は、Rソフトウェア3.1.1(2014年7月10日)(Rコアチーム社、2013)、INGENUITYおよびSAMソフトウェアを用いて決定した。データは、階層的クラスタリングおよびPCAで表現されている。
【0186】
結果
第1の移植可能HSCは、内皮細胞(EC)の特殊化集団から胚発生時に産生され、造血内皮と呼ばれる。内皮造血移行(EHT)に続き、これらの造血ECは、HSCを含む造血細胞(HC)に分化し、循環に入り、胎児の肝臓で増幅され、定着の決定的な部位であるBMを実現する。発達上の造血のこれらの初期ステップは、胚様体(EB)の培養、特に、造血ECの生成およびHCの出芽に完全に繰り返される。
【0187】
本発明者らは、内皮造血系統にhiPSCの分化を方向づける、1ステップのベクターフリーおよび間質フリーのシステム手順を開発した。すべてのサイトカインおよび成長因子は、任意の必要性を満たすために、0日目(D)から培養期間の最後まで存在する。多くの研究は、14D長プロトコルを使用し、EBにおける造血バーストの存在に基づいてD11~14間の細胞を単離する。本発明者らは、D17においてもバーストを得ることなく、したがって、分化プロセスの劇的な遅延を評価した(図1A)。これらの培養条件は、同様の分化効力を有する、例えばエピソームまたはレトロウイルスの、それらの再プログラミングプロトコルによって異なる、3つの異なるhiPSC細胞株に適用され、したがって方法の頑丈さが示された。
【0188】
造血EC/初期HCコミットメントの点を決定することを目指し、本発明者らは、多能性遺伝子の発現について、およびキーとなる内皮および造血特異的遺伝子の49個について、CD34臍帯血HSCの分子プロファイルを参照としつつ、D3、7、9、13、15、16および17におけるqRT-PCRによってEB細胞を分析した。階層的クラスタリング分析(図1B)は、2つの主要なグループ、すなわち、CD34臍帯血細胞に関連したもの、およびEB細胞に関連したもの、の存在を示した(D3~17日目)。後者は、2つの異なるクラスタに分割される:初期EB細胞(D3~13)を含むもの、および、D13~15の間のバランスポイントの存在を示唆する後期EB細胞(D15~17)を包含するもの。qPCRパターンのより徹底した分析により、D13がCD309(VEGFR2)mRNA発現に基づくECコミットメントの点として同定され、D16がRUNX1 mRNA発現に基づく推定造血内皮コミットメントの点とされた(図1C)。ITGA2(インテグリンアルファ-2)およびCEBPA(CCAATエンハンサー結合タンパク質アルファ)などの造血細胞特異的マーカも、RUNXl発現の開始に合わせてD16からアップレギュレートされた。D17細胞は、HC特異的遺伝子の発現の増加によって示されるように、CD34細胞プロファイルに向かって収束する傾向を示した(データは示さず)。バランスポイントを確認するために、本発明者らは、ECマーカとしてCD309の、初期HCマーカとしてMPL、CKITおよびITGA2の表面発現についてフローサイトメトリによって細胞集団を分析した。q-PCR分析(図1C)に合わせて、フローサイトメトリ分析は、D13~17のCD309の減少およびITGA2、CKITおよびMPLの増加を確認した(図1D)。彼らはさらに、D15~17細胞における初期造血コミットメントに関するアペリン受容体(APLNR)の発現を示す細胞集団を同定し、その中で、サブ画分は、運動およびホーミング受容体CXCR4の発現を徐々に獲得した(図1E)。
【0189】
彼らは次に、専用のインビトロ機能試験を使用して、D15、16および17におけるEB細胞の内皮および造血可能性を評価した(図2A)。内皮コロニー形成細胞(CFC-EC)(図2A1)、擬似微小管(図2A2)およびEC様細胞(図2A3)を生成するその能力によって明らかにされるように、D15細胞は、強力な内皮形成可能性を示したが、造血形成能力を欠いており、クローン原性コロニーを生成することができず、長期培養開始細胞の非常に低い頻度を示した。対照的に、D17細胞は、内皮可能性は欠けていたが、造血能の有意な増加を示し(図2A4、A5)、この期間内の造血コミットメントの開始が確認された。
【0190】
D16バランスポイントは、マトリゲル(成長因子減少)プラグにおいてヒト間葉系幹細胞(hMSC)を含むまたは含まない細胞を免疫無防備Foxn1-/-(ヌード)マウスに皮下移植することによってインビボで調査された(図2B)。移植後2週間で、ヒトCD31細胞およびフォン・ヴィレブランド細胞から作られたヒト血管構造(図2C、D)が、D16細胞および(/)hMSCを含む移植片において検出された。QRT PCRは、D16細胞/hMSCで作られた移植片において、そして予想通り、内皮前駆細胞/hMSCで作られた移植片において、hVEGFR2、hENG(ENDOGLIN)、hPECAM-1の発現を明らかにした(データは示していない)。また、D16細胞/hMSCプラグが、ヒトベータ、ガンマおよびイプシロングロビン転写物を発現する一方、D16細胞のみのプラグは、成熟のブロックを示すヒトイプシロングロビン転写物を発現するのみであった。D16細胞はしたがって、インビトロの結果に合わせてバランスされた内皮造血パターンを示した。
【0191】
D17細胞が最強の造血能力を示したので、本発明者らは、致死量以下の照射(3.5グレイ)した8週齢の免疫無防備マウスに20週間にわたって4×10個の細胞を移植し、続いて、20週間の追加期間にわたって同様に処理した免疫無防備レシピエントに困難な二次移植を行った(図3A)。ヒトHCの存在は、hCD34、hCD43およびhCD45のそれらの表面発現を介して定量化された(図3B、C、D)。多系統ヒト造血は、30匹/30匹の一次レシピエントマウスにおいて明らかであり(図3C)、総マウスBM単核細胞間で、平均20.3+/-2.9%のhCD45+細胞となり、すなわち、通常、NSGマウスにおけるヒトHC生着について陽性と考えられる0.1%の閾値の203倍であり(Tourinoら、The hematology journal:the official journal of the European Haematology Association/EHA2、108-116(2001))、12.2+/-1.5%のhCD43および7.29+/-1.0%のhCD34であった(図3C)。hCD45BM集団内で、いくつかのヒトHC系統は、B細胞(CD19CD45)、T細胞(CD3CD45、CD4CD45)、マクロファージ(CD14CD45、CD15CD45)(図3E図S3H)、および赤血球前駆細胞/前駆体(CD235aCD45)(図示せず)を含むことが検出された。選別されたhCD45末梢血細胞は、移植細胞の末梢化を示す同じ多系統パターンを示した。移植細胞のヒト起源が、CD45、CD15、MPO、ITGA2およびGAPDH遺伝子についてヒト特異的プライマーを用いたq-PCRによって確認された(n=30/30)。ヒト特異的クローン原性アッセイは、第1のレシピエントマウスから単離されたBM細胞上で行われ、CFU-GEMM、BFU-EおよびCFU-GMコロニー(図3G1、2、3)に分配された10個の総BM細胞(図3F)から17.5+/-4.3クローンとの全体的頻度を明らかにした。サイトスピン分析は、成熟マクロファージ、ヒスチオモノサイト、骨髄球および赤芽球の存在を明らかにした(図3H1、2、3)。一次レシピエントの7.10個のBM細胞は、二次(n=30)レシピエントに免疫試験され、および(図3B、D)、NOD-SCIDマウスの場合には最終的に三次レシピエント(n=3)免疫試験をされた(データは示さず)。ヒトCD45細胞は、単核BM細胞の12.6+/-3.9%を示し(図3B、D)、持続的再構成能力を示した。多系統生着は、30匹/30匹マウスにおいて見出された(図3E)。ヒトCFCの全体的なクローニング効率は、10個の総マウスBM細胞の5.5+/-3.1%であり、堅牢で長期の自己再生能力(図3F-H)を示した。移植された細胞のヒト起源は、上記のように確認された。
【0192】
移植細胞の機能性を確保するために、本発明者らは、マウス骨髄からヒト赤血球前駆体の能力を分析し、インビボでヘモグロビンスイッチングを行い、T細胞の表現型および機能性を試験した。一次および二次レシピエントの両方からの移植細胞は、高いβ(それぞれ39.51+/-4.95および36.61+/-5.86)およびγグロビン(それぞれ57.49+/-3.95および61.39+/-4.86)の量を示すヒト赤血球前駆体を生成することができた一方、εグロビンはそれぞれ総グロビンの3.0+/-1.2%、2.1+/-1.1%に劇的に減少した(図3I)。胚性サイレンシングおよび成人グロビン発現の活性化は、決定的な赤血球の指標である。末梢血単離hCD2T細胞は、ヒトT細胞能力の成熟を評価する多量のTCRαβ(図3J)および非常に少量のTCRγδを示した。hCD3およびhCD28刺激の下で、CSFE標識によって測定されるように、胸腺および脾臓細胞を、それらのインビトロの能力拡大について試験した。5日後、hCD3発現にてゲートされた胸腺(図3K)および脾臓(データは示していない)細胞は、高い増殖能力を示し、それによって、ヒトT細胞の機能性を実証した。
【0193】
図4Aは、移植後18週の一次NOD-SCIDレシピエントにおけるhCD45細胞のパーセンテージに対する、報告された培養起端におけるEBのAPLNR細胞のパーセンテージを示す。本発明者らは、APLNRおよび集団を選別し、NOD-SCIDモデルにおいてインビボでそれらの生着能力を比較した。APLNR細胞は、正常に18週間後に造血を再構成した(図4B)。移植されたマウス6匹/6匹において、ヒトCD45細胞は、マウスBMにおける単核細胞の6.6+/-1.9%を占め、3.4+/-2.5%がhCD43であり、1.1+/-0.4%がhCD34であった(図4B図5)。BM細胞のフローサイトメトリ分析は、ヒト多系統表現型を明らかにした(データは示していない)。D17のAPLNR細胞は、任意のCD45細胞を保有せず、したがって再構成能力がhCD45コミット前駆細胞の存在によるものではなかったことを示した(図4C)。対照的に、APLNR細胞は、マウスBM中の0.08+/-0.01%hCD45細胞を伴う4匹/4匹マウスでは、有意なレベルの生着に失敗した(図4Bおよび図5)。興味深いのは、APLNR画分は、マウスで説明したENG/TIE/CKIT図4C)の均質な集団が決定的造血を増強することを示した。
【0194】
APNLR集団をさらに特徴付けるために、本発明者らは、多能性状態および内皮、造血内皮または造血コミットメントを表す遺伝子セットの発現に関して、APLNRおよび細胞の分子プロファイルを、hiPSCの分子プロファイルおよび対照CD34HSCと比較した。研究される49個のmRNAのセットを変数として用い、6つの細胞集団を観察として用いる、ΔCtによって表されるときの遺伝子発現レベルの主成分分析(PCA)(図4D)は、第1の成分が、同様に因子「造血分化」に対応し、分散の44.9%を占めることを明らかにした。移植可能性に関わる特性をさらに明らかにすることを目指して、彼らはPCAによってAPLNR、D17およびHSC集団を、APLNRおよびhiPSC集団と比較した。分散の19.23%を占める第3の成分は、集団をそれらの移植可能性によって異なる2つのグループに分離した(図4E)。遺伝子発現および応答変数間の関係の強さを測定する統計SAM試験は、内皮遺伝子をそれらの間で移植できないグループにおいて有意によりアップレギュレートされる8つの遺伝子(FDR<10%)をTEK、PECAM、およびKDRと指摘した(図4F)。
【0195】
これらの知見に基づいて、本発明者らは、インビボでの多系統造血再構成および自己再生をサポートする長期多能HSCの生成は、初期分化細胞を通過して、EHTを受けてAPLNRを発現することを示した。これらの実験は、GMPグレード培養条件の下で行われ、それによって、HSC移植についての細胞の優先的供給源として多能性幹細胞の使用に道を開いた。
【0196】
実施例2
材料および方法
hiPSC増幅、EB分化、ヒト細胞生着の評価、T細胞の成熟および機能性アッセイ、定量的PCRを、上述のように行った。
【0197】
細胞選別
解離されたEB細胞を、抗体CD110-PE(MPL)またはCD135-PE(FLT3)で染色し、そしてPEマイクロビーズ(Miltenyi社)で再染色し、最終的にMACS(登録商標)細胞分離装置で選別した。
【0198】
マウス移植
NOD.Cg-PrkdcscidI12rgtm1Wjl/SzJ(NSG)(Charles River社、ラルブレル、フランス)を、IRSN動物介護施設で飼育した。すべての実験および手順は、動物実験についてのフランス農務省規制を遵守して行われ、地元倫理委員会によって承認された。
【0199】
6~8週齢および無菌条件下飼育のマウスに、セシウム137源から3.5グレイ(2.115Gy/分)で細胞注入の24時間前に、致死量未満に照射した。実験間の整合性を確保するために、雄マウスのみを用いた。移植前に、マウスをケタミンおよびキシラジンの腹腔内注射で一時的に鎮静させた。MPL+またはFLT3+細胞(10/マウス)を、28.5ゲージのインスリン針を用い、100μLの容量で後眼窩注射により移植した。
3つの異なるhiPSC株のD17細胞の生着可能性について:
50匹のNSGマウスを次のように使用した:25匹の一次レシピエント、25匹の二次レシピエント。
【0200】
バイオインフォマティクス
バイオインフォマティクス分析を、R環境ソフトウェア バージョン3.0.2で行った。公開利用可能なトランスクリプトームデータセットが、遺伝子発現オムニバス(GEO)データベースで、正規化されたマトリックス(GSEフォーマット:遺伝子発現マトリックス)としてダウンロードされた(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/)。
【0201】
結果
多能性細胞(IPSC:人工多能性細胞)の分化に由来するscid再増殖細胞(SRC)を良好に特徴付けるために、本発明者らは、行われる一次または二次移植の成功への異種移植能力を考慮してトランスクリプトームのサンプルを分析した。トランスクリプトームシリーズは統合され、一次異種移植能力のみを有するIPSCのグループ(グループGI、n=3)、ならびに、一次および二次異種移植能力を有するIPSCのグループ(グループGIおよびGII、n=3)と比較して、造血幹細胞(CD34+CD38-CD90+の表現型を有するHSC、n=3)を選別する対照グループを構築した。バッチ効果の数学的補正後、一方向ANOVA(分散分析、p値1E-4未満)の教師あり分析を、3つの定義サンプルグループ(HSC、GI、GI&II)間で行った。教師なし主成分分析を、グループ間の5859個の差次的遺伝子上で行い、主要マップ(図6)上で4.75E-8のp値を有するサンプルのグループを有意に識別することができた。これらの結果は、一次および/または二次移植を与える能力を考慮すると選択遺伝子がSRC-IPSCの異種移植表現型の研究に潜在的に関連があることを示唆している。また、トランスクリプトームデータセットに関連するバッチ効果は、この教師なし分析の間に表現型グループ判別に影響を与えないことを示した。各異種移植グループとHSCグループとの間のマイクロアレイ有意分析(SAM)による教師あり分析を、SRC-IPSCの各グループ内のHSCバイオマーカを発見するために行った。リレーショナルサーコスプロット(図7)において、HSCバイオマーカのより大きな多様性が、GIグループよりもGI&GIIグループについて見出された。GI&GIIグループについてのこの特定の多様性は、中胚葉、多能性幹細胞およびIPSCなどの機能カテゴリを構成した。GIグループについてのバイオマーカの特異性は、骨芽細胞および脂肪細胞などのより間葉系の表現型に関係する。他の方法では、共通のバイオマーカは、造血前駆細胞、赤芽球前駆細胞、CD34+細胞、骨髄およびCD14+細胞などの造血系統でより多く発見された。SRC-IPSCの特性におけるHSC発現プロファイル(CD34+38-90+)の影響を見るために、SRC-IPSCグループを比較するための教師あり分析にHSCグループが導入された。教師なし分類によって行われる発現ヒートマップは、各異種移植SRC-IPSCグループが、いくつかのHSC関連バイオマーカ、すなわち、SRC-IPSCのGIグループとの関係でのHSCバイオマーカ、SRC-IPSCのGIおよびGIIグループとの関係でのHSCバイオマーカを発現することを示した(データは示さず)。SRC-IPSCの各グループにおいて濃縮されたHSCバイオマーカを比較するベン図は、共通に任意の遺伝子を示した(図8)。GIおよびGII能力を有するSRC-IPSC細胞は、GIグループ:FLT3(CD135)およびMPL(CD110)と比較していくつかの細胞表面分子を特に発現した。
【0202】
このインシリコ研究に基づき、本発明者らは、その免疫磁気スクリーニングが可能である抗体が利用可能であるMPLおよびFLT3受容体をより具体的に研究することにした。
【0203】
適切な培地中でのEBにおけるhiPSC分化(実施例1を参照)の17日後、本発明者らは、スクリーニングを行い、そして、10,000細胞/NSG免疫抑制マウス(FLT3についてn=15およびMPLについてn=15)を移植した(図9)。20週後、マウスを屠殺し、その骨髄、脾臓、肝臓および胸腺ならびに血液サンプルを調べた。
【0204】
両方の集団(FLT3+およびMPL+細胞)について、高レベルの生着を得て(FLT3+集団について12.6+/-0.7%のhCD45+およびMPL+集団について9.9+/-1.7%)(図10)、すべての造血系統からのヒト細胞が見つかった。ヒト赤血球は、βグロビンを産生することが見出され、血液循環Tリンパ球は、その表面にTCRγδを発現し、胸腺または脾臓からのリンパ球は、活性化後にインビトロ増殖することができ、FLT3+またはMPL+細胞の決定的造血を可能とする基礎となった。
各一次マウスについて、700万個の骨髄細胞を、二次マウスに移植した。20週後、これらの二次マウスを屠殺し、上記のように分析した。
【0205】
すべての二次マウスは、高レベルの移植を示し(FLT3+集団について15.2+/-3.4%のhCD45+およびMPL+集団について9.8+/-2.1%)(図10)、多系統が示され、ヒト移植細胞は、決定的な造血が可能であった。
【0206】
それゆえ、発明者のプロトコルに従ったhiPSC分化を介して得られ、その表面にFLT3またはMPLを発現する細胞は、インビボでの長期多系統生着および自己再生が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10