IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インテュイティブ サージカル オペレーションズ, インコーポレイテッドの特許一覧

特許7135027手動でのロボットアームの運動によって制御される可動な手術用装着プラットフォーム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】手動でのロボットアームの運動によって制御される可動な手術用装着プラットフォーム
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/35 20160101AFI20220905BHJP
   B25J 3/00 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
A61B34/35
B25J3/00 A
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020078463
(22)【出願日】2020-04-27
(62)【分割の表示】P 2019001592の分割
【原出願日】2013-08-15
(65)【公開番号】P2020163163
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】61/683,621
(32)【優先日】2012-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510253996
【氏名又は名称】インテュイティブ サージカル オペレーションズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】グリフィス,ポール ジー
(72)【発明者】
【氏名】モーア,ポール ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】スワラップ,ニティシュ
(72)【発明者】
【氏名】コスタ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ラーキン,デイヴィッド キュー
(72)【発明者】
【氏名】クーパー,トーマス ジー
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-528130(JP,A)
【文献】国際公開第2006/124390(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0071541(US,A1)
【文献】米国特許第04979949(US,A)
【文献】特表2009-525098(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0013336(US,A1)
【文献】特開2019-088815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/35
B25J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
器具を支持するように構成される運動学的構造と、
プロセッサとを含む、
システムであって、
前記プロセッサは、
当該システムをクラッチングモードに置き、
前記運動学的構造の関節動作を検出することに応答して当該システムを前記クラッチングモードからセットアップモードに移行させ、
前記運動学的構造の部分に対するリンクの所望の基準場所を確立し、
前記部分に対する前記リンクの実際の基準場所と前記リンクの前記所望の基準場所との間の、前記リンクの手動の動きに起因するエラーを検出し、且つ
該エラーを減少させるように前記運動学的構造を駆動させる、
ように構成される、
システム。
【請求項2】
前記運動学的構造は、
前記運動学的構造のベースに対して前記部分を関節作動させるように構成される第1部と、
前記部分に連結され、前記器具に連結するように構成される、マニピュレータアームとを含む、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記所望の基準場所は、前記器具の遠隔運動中心と関係付けられる、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記関節動作を検出するために、前記プロセッサは、関節の運動限界の範囲に達する又は関節の運動限界の範囲に接近する前記運動学的構造の関節の動きを検出するように構成される、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記所望の基準場所は、前記プロセッサが前記エラーを減少させるために前記運動学的構造を駆動させる間に世界基準フレーム内で変更される、請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記エラーを減少させるように前記運動学的構造を駆動させるために、前記プロセッサは、前記リンクに速度命令を適用するように構成される、請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記エラーを減少させるように前記運動学的構造を駆動させるステップは、前記速度命令を飽和限界に維持する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記エラーを検出する前に、前記プロセッサは、運動限界の範囲で装着されるバネを模倣する前記部分に作用する仮想の力を計算して、該仮想の力を前記部分に適用することによって、前記運動学的構造の関節を前記運動限界の範囲から離れる方向に動かすように更に構成される、請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記プロセッサは、
カニューレが前記運動学的構造に取り付けられるときに、前記セットアップモードへの当該システムの移行を抑制し、或いは
前記カニューレが前記運動学的構造に取り付けられるときに、前記運動学的構造の1つ又はそれよりも多くの関節の運動を抑制し、或いは
前記運動学的構造への前記カニューレの取付けに応答して当該システムを前記セットアップモードから移行させる、
ように更に構成される、
請求項1乃至8のうちのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
器具を支持するように構成される運動学的構造を有するシステムを作動させる方法であって、
プロセッサによって、前記システムをクラッチングモードに移行させるステップと、
前記運動学的構造の関節動作を検出することに応答して、前記プロセッサによって、前記システムを前記クラッチングモードからセットアップモードに移行させるステップと、
前記プロセッサによって、前記運動学的構造の部分に対するリンクの所望の基準場所を確立するステップであって、前記リンクは、前記運動学的構造で前記部分に対して遠位にあるステップと、
前記プロセッサによって、前記部分に対する前記リンクの実際の基準場所と前記リンクの前記所望の基準場所との間のエラーを検出するステップであって、前記エラーは、前記リンクの手動の動きに起因するステップ
前記プロセッサによって、前記エラーを減少させるように前記運動学的構造を駆動させるステップを含む、
方法。
【請求項11】
前記所望の基準場所は、前記器具の遠隔運動中心と関連付けられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記関節動作を検出することは、関節の運動限界の範囲に達する或いは関節の運動限界の範囲に接近する前記運動学的構造の関節の動きを検出することを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記所望の基準場所は、前記運動学的構造が前記エラーを減少させるために駆動させられる間に世界基準フレーム内で変更される、請求項10乃至12のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記エラーを減少させるために前記運動学的構造を駆動させることは、前記リンクに速度命令を適用するステップを含む、請求項10乃至13のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
命令を格納する非一時的な機械可読媒体であって、
前記命令は、プロセッサによって実行されるときに、器具を支持するように構成される運動学的構造を含むシステムに請求項10乃至14のうちのいずれか1項に記載の方法を行わせる、
非一時的な機械可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ロボット及び/又は手術用の装置、システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低侵襲医療技術は、診断又は手術の手順中に損傷を受ける無関係な組織の量を低減し、それにより患者の回復期間、不快感及び有害な副作用を低減することを意図している。低侵襲手術の一つの効果は、例えば、手術後の院内回復期間の低減である。普通の手術のための平均入院期間は、類似した低侵襲手術のための平均入院期間よりも典型的に優位に長いため、低侵襲技術の使用の増加は、毎年数百万ドルの入院費用を節約することができるかも知れない。毎年米国内で行われる手術の多くが潜在的に低侵襲な方法で実行され得るが、低侵襲手術器具における制約及びそれらを習得することに伴う追加的な外科訓練の理由から、現在の手術のほんの一部分のみが、これらの有利な技術を使用する。
【0003】
低侵襲なロボット手術システム又は遠隔手術システムは、外科医の器用さを向上させ、従来の低侵襲技術における制約のいくつかを避けるように開発されてきた。遠隔手術において、外科医は、手術器具の動きを操作するために、器具を手で直接的に保持して動かすのではなく、いくつかの形式の遠隔制御(例えばサーボ機構又は同種のもの)を使用する。遠隔手術システムにおいて、外科医は、手術用ワークステーションに手術部位の画像を提供されることができる。外科医は、ディスプレイ上の手術部位の二次元画像又は三次元画像を見ながらマスター制御装置を操作し、次いでマスター制御装置がサーボ機構で操作される器具の動きを制御することによって、患者に外科的処置を施す。
【0004】
遠隔手術のために使用されるサーボ機構は、しばしは二つのマスター制御部(外科医の手のそれぞれについて一つ)からの入力を受け入れることができ、それぞれに手術器具が装着される(mounted)二つ以上のロボットアームを含み得る。マスター制御部と、関連するロボットアームアセンブリ及び器具アセンブリとの間の手術に関する通信は、典型的には制御システムを通して達成される。制御システムは、典型的には少なくとも一つのプロセッサを含み、そのプロセッサは、マスター制御部から関連するロボットアームアセンブリ及び器具アセンブリへの入力コマンドを中継して伝えると共に、例えば力のフィードバック又は同種のものについては、器具アセンブリ及びアームアセンブリから関連するマスター制御部への返信を中継して伝える。ロボット手術システムの一つの例は、カリフォルニア州サニーベールのIntuitive Surgical(登録商標), Inc.から入手可能なDA VINCI(登録商標)システムである。
【0005】
様々な構造的な配列が、ロボット手術の間に手術部位で手術器具を支持するために使用されることができる。駆動されるリンク機構又は“スレーブ”は、しばしばロボット手術マニピュレータ(manipulator)と呼ばれる。低侵襲ロボット手術の間にロボット手術マニピュレータとして使用されるための例示的なリンク機構配列は、米国特許第7,594,912号;第6,758,843号;第6,246,200号;及び第5,800,423号において記述されている。これらの米国特許の全ての開始は、参照により本出願に取り込まれる。これらのリンク機構は、シャフトを有する器具を保持するためにしばしば平行四辺形の配列を利用する。そのようなマニピュレータの構造は、硬質のシャフトの長さに沿う空間に配置された操縦の遠隔中心(remote center)の回りを器具が回動することができるように、器具の動きを拘束し得る。操縦の遠隔中心を体内の手術部位への切開点と合わせる(例えば、腹腔鏡手術中に腹壁でトロカール又はカニューレと合わせる)ことによって、手術器具のエンドエフェクタは、腹壁に対して潜在的に危険な力をかけることなく、マニピュレータリンク機構を使用してシャフトの近位側端部を動かすことにより安全に配置されることができる。代替的なマニピュレータの構造は、例えば、米国特許第7,763,015号;第6,702,805号;第6,676,669号;第5,855,583号;第5,808,665号;第5,445,166号;及び第5,184,601号において記述されている。これらの米国特許の全ての開示は、参照により本出願に取り込まれる。
【0006】
様々な構造的な配列が、ロボット手術の間にロボット手術マニピュレータ及び手術器具を手術部位で支持及び配置するためにも使用されることができる。時々セットアップ関節又はセットアップ関節アームと呼ばれる、支持リンク機構のメカニズムは、しばしば各マニピュレータをそれぞれの患者の身体の開口点に配置及び整列させるために使用される。支持リンク機構のメカニズムは、手術マニピュレータと所望の手術切開点及び目標の解剖学的構造とを整列させることを助ける。例示的な支持リンク機構のメカニズムは、米国特許第6,246,200及び第6,788,018号おいて記述されている。これらの米国特許の全ての開示は、参照により本出願に取り込まれる。
【0007】
新たな遠隔手術システム及び装置は、高度に効果的かつ有利であると判明しているが、更なる改良が望ましい。概して、改良された低侵襲ロボット手術システムが望ましい。これらの改良された技術がロボット手術システムの有効性及び使いやすさを高めるならば、特に有益であろう。例えば、これらの新たな手術システムの、操縦性を高めること、手術室における空間利用を改善すること、より早くかつより容易なセットアップを提供すること、使用中に複数のロボット装置間の衝突を防止すること及び/又は機械的な複雑さ及び寸法を低減することは、特に有益であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第7,594,912号明細書
【文献】米国特許第6,758,843号明細書
【文献】米国特許第6,246,200号明細書
【文献】米国特許第5,800,423号明細書
【文献】米国特許第7,763,015号明細書
【文献】米国特許第6,702,805号明細書
【文献】米国特許第6,676,669号明細書
【文献】米国特許第5,855,583号明細書
【文献】米国特許第5,808,665号明細書
【文献】米国特許第5,445,166号明細書
【文献】米国特許第5,184,601号明細書
【文献】米国特許第6,788,018号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の基本的な理解を提供するために、本発明のいくつかの実施形態の簡略化した概要を以下に提示する。この概要は、本発明の広範囲に及ぶ概観ではない。本発明の主要な/決定的に重要な意味を持つ要素を特定すること又は本発明の範囲を詳細に叙述することは意図されていない。その唯一の目的は、後に提示される、より詳細な記述の前置きとして、本発明のいくつかの実施形態を単純な形で提示することである。
【0010】
本発明は、概して、改良されたロボット及び/又は手術用の装置、システム及び方法を提供する。本明細書において記述される運動学的リンク機構の構造及び関連する制御システムは、システム使用者が、特定の患者への外科的処置のための準備を含む使用準備中のロボット構造を用意又は配列(arrange)することを助けることにおいて特に有益である。本明細書において記述される例示的なロボット手術システムは、一つ以上の運動学的リンク機構サブシステムを有してもよい。その運動学的リンク機構サブシステムは、マニピュレータ構造を手術作業部位と整列させる(align)ことを助けるように構成される。これらのセットアップシステムの複数の関節は、能動的に駆動されてもよく、(それらが手動で関節を動かされ、次いでマニピュレータが治療に使用される間、所望の構成、形状又は立体配置(configuration)にロックされることができるように)受動的であってもよく、又は両方の複合であってもよい。本明細書において記述されるロボットシステムの複数の実施形態は、セットアップモードを採用してもよい。セットアップモードにおいて、一つ以上の関節は、運動学的チェーンのうちの一つ以上の他の関節の手動での関節動作に応じて能動的に駆動される。多くの実施形態において、能動的に駆動される関節は、それらのマニピュレータのうちの一つの手動での動作に応じて、複数のマニピュレータを支持するプラットフォーム構造を動かすことができ、それらの複数のマニピュレータを一つのユニットとして、作業空間との初期的な方向及び/又は位置のアライメントに動かすことによって全システムの配列を容易にし、促進する。マニピュレータ動作の入力及びプラットフォームによって支持される複数のマニピュレータのうちの一つ、いくつか又は全ての独立した配置は、任意的に、プラットフォームに対して複数のマニピュレータのうちの一つの、いくつかの又は全てを支持する受動的なセットアップ関節システムを通して提供されてもよい。任意的に、マニピュレータとプラットフォームの間に配置されたセットアップ構造リンク機構の手動での動作は、馬を鼻で導くことに類似する動作でマニピュレータの手動での動作に追従するプラットフォーム(及びそれによって支持された他のマニピュレータ)の動作に結果し得る。
【0011】
したがって、第一の態様において、ロボット手術の準備をするための方法が提供される。その方法は、方向付けプラットフォームに対する初期位置から、変位させられた位置への、第一のロボットマニピュレータの第一のリンクの入力変位を感知するステップ、第一のマニピュレータの第一のリンクが初期位置に向かって戻るように、入力変位に応じてセットアップ構造リンク機構の動作を計算するステップ、及び計算された動作に従って、セットアップ構造リンク機構を駆動するステップ、を含む。入力変位は、第一のリンクが手術部位との所望のアライメントに向かって動くように、第一のマニピュレータを支持するセットアップ関節リンク機構を手動で関節動作させることに起因してもよい。セットアップ構造リンク機構は方向付けプラットフォームを支持してもよく、方向付けプラットフォームはセットアップ関節リンク機構及び第二のマニピュレータを介して第一のマニピュレータを支持してもよい。
【0012】
ロボット手術の準備をするための方法の多くの実施形態において、方法は、入力変位の間、第一のマニピュレータが実質的に一つの個体として動くように、第一のマニピュレータの固定されたポーズを維持するステップを含んでもよい。本実施形態において、セットアップ構造は、使用者が手動で第一のリンクを手術部位との所望のアライメントに向かって動かす間に駆動されてもよい。
【0013】
ロボット手術の準備をするための方法の追加的な実施形態において、第一のリンクは、手動での動作の前に方向付けプラットフォームに対する好ましい位置関係を有してもよい。そのとき、セットアップ構造リンク機構の計算された動作は、手動での動作の間に好ましい位置関係に向かって戻すように方向付けプラットフォームを動かしてもよい。好ましい位置関係は、第一のマニピュレータの方向付けプラットフォームに対する所望の可動域(desired range of motion)を維持することを助けるために使用されてもよい。
【0014】
ロボット手術の準備をするための方法の更なる実施形態において、セットアップ構造リンク機構の動作は、方向付けプラットフォームに対する第一のリンクの速度を使用して入力変位の間に計算されてもよい。セットアップ構造リンク機構の駆動は、この速度を低下させてもよい。方法は、速度が飽和閾値を超える場合に、飽和閾値に基づいて、方向付けプラットフォームに対する第一のリンクの速度を低減するステップを更に含んでもよい。複数の他の例示的な実施形態において、方向付けプラットフォームに対する第一のリンクの速度が、セットアップ構造をセットアップ関節リンク機構の望ましくない動作制限構成に向かって動かす場合には、計算された動作は、ある構成から離れるようにセットアップ構造を弾性的に付勢してもよい。複数の他の実施形態において、セットアップ構造の駆動は、プラットフォーム動作モードにおいて起こってもよい。そのモードは、セットアップリンク機構構造が望ましくない運動制限構成に接近又は到達するときに開始されてもよい。
【0015】
多くの実施形態において、ロボット手術の準備をするための方法は、複数のマニピュレータのそれぞれに結合した器具保持部を含んでもよい。マニピュレータは、器具保持部に装着された関連する手術器具をマニピュレータ基部に対して支持するように構成されてもよい。マニピュレータは更に、関連する手術器具を、関連する操作の遠隔中心(remote center of manipulation,RC)を通して挿入軸に沿って患者の体内に挿入するように構成されてもよい。加えて、マニピュレータは、器具保持部を、関連する遠隔中心(RC)と交差する一つ以上の軸の回りで回転させるように構成されてもよい。また、軸は挿入軸を横断してもよい。例えば、第一のマニピュレータ軸及び第二のマニピュレータ軸は、関連する遠隔中心(RC)と交差してもよく、それぞれは、挿入軸を横断してもよい。その上に、第二のマニピュレータ軸は第一のマニピュレータ軸を横断してもよい。
【0016】
多くの実施形態において、セットアップ構造リンク機構は、装着基部、柱部、部材及び延長可能なブーム(腕部)を含んでもよい。柱部は、装着基部にスライド可能に結合されてもよい。加えて、柱部は、垂直に方向付けられた第一の支持軸に沿って装着基部に対して選択的に配置可能であってもよい。部材は、肩部関節を通じて柱部に対して回転可能に結合する、ブーム基部部材であってもよい。部材は、垂直に方向付けられた第二の支持軸の回りで柱部に対して選択的に方向付けられてもよい。延長可能なブームは、水平に方向付けられた第三の支持軸に沿って、延長可能なブームを部材に対して選択的に配置するように、部材とスライド可能に結合してもよい。方向付けプラットフォームは延長可能なブーム部材に対して回転可能に結合してもよい。いくつかの実施形態において、第一のリンクは、器具保持部であるか又は器具保持部に隣接する。計算された動作はセットアップ構造リンク機構の複数の関節の動作を含んでもよく、複数の関節は、第一のマニピュレータが良好に調整されるように、計算された動作に基づいて駆動されてもよい。複数の他の例示的な実施形態において、手動での動作は、第一のマニピュレータの関連する第一の遠隔中心(RC)を、手術部位の要求される第一の遠隔中心(RC)と整列させてもよい。セットアップ構造リンク機構の駆動される動作は、第二のマニピュレータの関連する遠隔中心(RC)を手術部位の第二の所望の遠隔中心(RC)に向かって動かしてもよい。
【0017】
複数の追加的な実施形態において、ロボット手術の準備をするための方法は、第一のリンクに隣接して装着された方向付けプラットフォーム動作入力部を備えたマニピュレータを含んでもよい。動作入力部は、通常は第一の状態にあり且つ第二の状態に手動で作動可能であってもよい。動作入力部が第一の状態にある場合は、方向付けプラットフォームは、第一のリンクの動作に応じて動かなくてもよい。さらに、ロボット手術の準備をするための方法は、手動での動作の後に第一のマニピュレータにカニューレを装着するステップを含んでもよい。カニューレは、第一のマニピュレータによって支持された手術器具のための体内の手術部位へのアクセスを提供してもよい。この例示的な実施形態は更に、カニューレの装着に応じて方向付けプラットフォームの動作を抑制するステップを含んでもよい。例示的な方法は、第一の状態にある動作入力部に応じて又は第一のマニピュレータに装着されたカニューレに応じて、セットアップ構造リンク機構の関節に沿った動作を抑制するために、関節ブレーキを使用してもよい。
【0018】
第二の態様において、ロボット手術の準備をするための他の方法が提供される。方法は、マニピュレータの第一のリンクが手術部位との所望のアライメントに向かって動くように、第一のマニピュレータを手動で動かすステップ、プラットフォームに対する初期の位置関係から、プラットフォームに対する変位された位置関係への、第一のリンクの入力変位を感知するステップ、入力変位に応じてリンク機構の動作を計算するステップ、プラットフォームが第一のリンクに追従するように、計算された動作に基づいてリンク機構を駆動するステップ、及び第一のマニピュレータ及び第二のマニピュレータを駆動することによって、手術部位で組織を治療するステップ、を含む。計算される動作は、第一のマニピュレータの第一のリンクがプラットフォームに対する初期の位置関係に向かって戻るようなものであってもよい。リンク機構はプラットフォーム支持してもよく、プラットフォームは第一のマニピュレータ及び第二のマニピュレータを支持してもよい。
【0019】
複数の他の態様において、ロボット手術用のシステムが提供される。そのロボット手術システムは、マニピュレータの基部を支持するプラットフォーム、プラットフォームを支持する支持構造及びマニピュレータを支持構造に結合させるプロセッサを含む。プラットフォームによって支持された第一のロボットマニピュレータ及び第二のロボットマニピュレータは、第一のリンクを含むマニピュレータリンク機構、及び、手術中に第一のリンクを駆動するようにマニピュレータリンク機構に動作的に結合した駆動システムを有してもよい。支持構造は、基部を含む支持リンク機構、及び、プラットフォームを支持構造基部に対して駆動するように支持リンク機構に動作的に結合した駆動システムを含んでもよい。プロセッサは、第一のマニピュレータの第一のリンクのプラットフォームに対する手動での動作に応じてセットアップコマンドを計算する、プラットフォーム動作モードを有してもよい。プロセッサは、次いで、プラットフォーム及びマニピュレータを動かすために、プラットフォームコマンドを支持構造に送信してもよい。
【0020】
ロボット手術用のシステムの多くの例示的な実施形態において、プロセッサは、プラットフォームに対する第一の位置関係からプラットフォームに対する第二の位置関係への第一のマニピュレータの第一のリンクの入力変位を決定することに関する命令を具体化する非一時的な機械可読コードを含む。入力変位は、第一のリンクの手動での動作によるものあってもよい。非一時的な機械可読コードはまた、入力変位を使用して、第一のリンクが手動で動く間に方向付けプラットフォームが動くように、支持構造の所望の動作を生じさせるように、動作コマンドを計算することに関する命令を具体化してもよい。
【0021】
複数の他の例示的な実施形態において、システムは、プラットフォームと第一のマニピュレータとの間に配置された、手動で関節動作可能なリンク機構を更に含む。プロセッサは、プラットフォーム動作モードにある間、手動で関節動作可能なリンク機構の手動での動作を可能にしてもよく、且つ、第一のマニピュレータの関節動作を抑制してもよい。プロセッサは、マニピュレータが実質的に剛体として動き、第一のリンクの手動での動作の間にプラットフォームが第一のリンクに追従するように、支持構造を駆動してもよい。
【0022】
複数の追加的な実施形態において、プロセッサは、セットアップ構造のリンク機構の駆動が相対速度を低減するように、方向付けプラットフォームに対する第一のリンクの相対速度を使用してリンク機構の動作を計算するように構成されてもよい。プロセッサは更に、方向付けプラットフォームに対する第一のリンクの速度が飽和閾値を超えた場合に、飽和速度によって、方向付けプラットフォームに対する第一のリンクの速度が低減されるように、動作コマンドを計算するように構成されてもよい。複数の更なる実施形態において、プロセッサは、方向付けプラットフォームに対する第一のリンクの速度が、マニピュレータと方向付けプラットフォームとの間のセットアップ関節リンク機構の望ましくない動作制限構成に向かってセットアップ構造を動かす場合に、セットアップ構造の動作が、ある構成から離れるように弾性的に付勢されるように、動作コマンドを計算するように構成されてもよい。プラットフォーム動作モードは、セットアップリンク機構構造が望ましくない構成に接近又は到達することに応じて、開始されてもよい。
【0023】
多くの実施形態において、システムは、複数のマニピュレータのそれぞれに結合した器具保持部を含んでもよい。マニピュレータは、器具保持部に装着された関連する手術器具をマニピュレータ基部に対して支持するように構成されてもよい。マニピュレータは更に、関連する手術器具を、関連する操作の遠隔中心(RC)を通して挿入軸に沿って患者の体内に挿入するように構成されてもよい。加えて、マニピュレータは、器具保持部を、関連する遠隔中心(RC)と交差する一つ以上の軸の回りで回転させるように構成されてもよい。また、軸は、挿入軸を横断してもよい。例えば、第一のマニピュレータ軸及び第二のマニピュレータ軸は、関連する遠隔中心(RC)と交差してもよく、それぞれが挿入軸を横断してもよい。その上に、第二のマニピュレータ軸は第一のマニピュレータ軸を横断してもよい。
【0024】
システムの多くの実施形態において、セットアップ構造リンク機構は、装着基部、柱部、部材及び延長可能なブームを含んでもよい。柱部は、装着基部に対してスライド可能に結合してもよい。加えて、柱部は、垂直に方向付けられた第一の支持軸に沿って、装着基部に対して選択的に配置されてもよい。部材は、肩部関節を通して柱部に回転可能に結合したブーム基部部材であってもよい。部材は、垂直に方向付けられた第二の支持軸の回りで、柱部に対して選択的に方向付けられてもよい。延長可能なブームは、水平に方向付けられた第三の支持軸に沿って、延長可能なブームを部材に対して選択的に配置するように、部材とスライド可能に結合してもよい。方向付けプラットフォームは延長可能なブーム部材に対して回転可能に結合してもよい。いくつかの実施形態において、第一のリンクは、器具保持部であるか又は器具保持部に隣接する。計算された動作はセットアップ構造リンク機構の複数の関節の動作を含んでもよく、複数の関節は、第一のマニピュレータの第一のリンクがマニピュレータ基部に対して好ましい位置関係を有するように、計算された動作に基づいて駆動されてもよい。
【0025】
複数の追加的、例示的な実施形態において、システムの第一のマニピュレータは、第一のマニピュレータ上に又は隣接して装着された方向付けプラットフォーム動作入力部を含んでもよい。動作入力部は、通常は第一の状態にあってもよく、第二の状態に手動で作動可能であってもよい。動作入力部が第一の状態にある場合は、プロセッサは、第一のリンクの動作に応じて、方向付けプラットフォームの動作を抑制するように構成される。システムは、第一のマニピュレータに装着されるカニューレを更に含んでもよく、プロセッサは、カニューレの装着の間、方向付けプラットフォームの動作を抑制するように構成されていてもよい。多くの実施形態において、支持構造リンク機構は、複数の関節を含んでもよい。プロセッサは、第一の状態にある動作入力部に応じて又は第一のマニピュレータへのカニューレの装着に応じて関連する関節がブレーキをかけることによって、セットアップ構造リンク機構の各関節に沿った動作を抑制するように構成されてもよい。
【0026】
本発明の特質及び利点のより完全な理解のために、次の詳細な説明及び添付の図面への参照がなされるべきである。本発明の複数の他の態様、目的及び利点が、図面及び続く詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、多くの実施形態による、手術を実施するために使用される低侵襲ロボット手術システムの平面図である。
【0028】
図2図2は、多くの実施形態による、ロボット手術システムのための外科医用制御コンソールの斜視図である。
【0029】
図3図3は、多くの実施形態による、ロボット手術システム電子カートの斜視図である。
【0030】
図4図4は、多くの実施形態による、ロボット手術システムを図式的に示す。
【0031】
図5A図5Aは、多くの実施形態による、ロボット手術システムの患者側カート(手術ロボット)の部分図である。
【0032】
図5B図5Bは、多くの実施形態による、ロボット手術ツールの正面図である。
【0033】
図6図6は、多くの実施形態による、ロボット手術システムの透視図法による模式的な表示である。
【0034】
図7図7は、多くの実施形態による、他のロボット手術システムの透視図法による模式的な表示である。
【0035】
図8図8は、多くの実施形態による、図7の模式的な表示に一致するロボット手術システムを示す。
【0036】
図9図9は、図8のロボット手術システムの方向付けプラットフォームに対する、セットアップリンク機構の回転位置制限を示す。
【0037】
図10図10は、多くの実施形態による、ロボット手術システムのためのブームアセンブリの回転制限に関連する重心図を示す。
【0038】
図11図11は、手術のためにロボット手術システムを準備するための方法を模式的に示す流れ図である。準備は、複数のロボットマニピュレータアームのうちの一つのリンクの動作に応じて方向付けプラットフォームを駆動することによってなされ、複数のロボットマニピュレータアームは、方向付けプラットフォームによって支持される。
【0039】
図12図12は、複数のマニピュレータアームの所望のアライメントを提供するようにカートに装着されたセットアップ支持構造によって支持された方向付けプラットフォームの動作の、関連する複数の手術アクセス部位を含む、透視図法による模式的な表示である。
【0040】
図12A図12A及び図12Bは、方向付けプラットフォーム駆動システムの構成要素として使用される制御部を示し、特に例示的なプロセッサのソフトウェアシステム配列を示すブロック図である。
図12B図12A及び図12Bは、方向付けプラットフォーム駆動システムの構成要素として使用される制御部を示し、特に例示的なプロセッサのソフトウェアシステム配列を示すブロック図である。
【0041】
図12C図12C及び図12Dは、関連する座標系及び自由度を示す、方向付けプラットフォームの模式的な表示、及び、単一のマニピュレータアームの所望のアライメントを提供するために天井ガントリーセットアップ支持構造によって支持される方向付けプラットフォームの、関連する手術アクセス部位を含む、透視図法による表示である。
図12D図12C及び図12Dは、関連する座標系及び自由度を示す、方向付けプラットフォームの模式的な表示、及び、単一のマニピュレータアームの所望のアライメントを提供するために天井ガントリーセットアップ支持構造によって支持される方向付けプラットフォームの、関連する手術アクセス部位を含む、透視図法による表示である。
【0042】
図13図13は、受動的な関節の折れ曲がりに応じて能動的な関節が駆動される、単純化された4つの関節平面受動的/能動的ロボット運動学的システムを、模式的に示す。
【0043】
図14図14は、所望の関節制御の運動学的分析の記述において使用するための単純化された3つのリンク平面関節システムを模式的に示す。
【0044】
図15図15は、そのゼロ空間を使った、単純化された平面的な運動学的システムの動作を図式的に示し、一つ以上のそれらの関節の手動での関節動作に応じた、手動での関節動作が可能な関節システムを支持するセットアップ構造の駆動される運動を明示する。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下の説明において、本発明の様々な実施形態が説明される。説明の目的のため、複数の実施形態の完全な理解を提供するために具体的な構成及び詳細が説明される。しかしながら、本発明は上記の具体的な特有の詳細通りでなくとも実践し得ることも当業者には明らかであろう。さらに、周知な特徴は、本明細書に記述される実施形態を不明瞭にしない目的で省略又は単純化され得る。
【0046】
本明細書において記述される運動学的リンク機構構造及び制御システムは、システム使用者が、特定の患者への処置のロボット構造を用意又は配列することを助けることにおいて特に有益である。治療中に組織及び同種のものと相互作用するために使用される、能動的に駆動されるマニピュレータと共に、ロボット手術システムは、一つ以上の運動学的リンク機構システムを有してもよい。その運動学的リンク機構システムは、マニピュレータ構造を支持し、手術部位と整列することを助けるように構成される。これらのセットアップシステムは、それらが手動で関節動作され、次いでマニピュレータが治療に使用される間、所望の構成にロックされることができるように、能動的に駆動されてもよく又は受動的であってもよい。受動的にセットアップされる運動学的システムは、寸法、重量、複雑さ及び費用において利点を有し得る。複数のマニピュレータが各患者の組織を治療するために使用されることができ、複数のマニピュレータは、その器具によって支持された器具が作業空間の至る所で所望の動作をもつことを可能にするように正確に配置することから、それぞれ独立に恩恵を受けることができるが、残念なことに、隣接する複数のマニピュレータの相対的な位置における小さな変化が、(不適切に配置された複数のマニピュレータが潜在的に、衝突すること又は有意に低下したそれらの可動域若しくは運動の範囲及び/又は容易さを有することによって)複数のマニピュレータの間の相互作用に対して有意な影響を有する可能性がある。それ故に、手術のために準備中のロボットシステムを迅速に用意又は配列することの(難易度が高い)課題は、重要であり得る。
【0047】
一つの選択肢は、時には方向付けプラットフォーム(orienting platform)と呼ばれるマニピュレータ支持プラットフォームを用いて、多数のマニピュレータを単一のプラットフォームに装着することである。方向付けプラットフォームは、(本明細書において時々セットアップ構造と呼ばれ、典型的にセットアップ構造リンク機構等を有する、)能動的に駆動される支持リンク機構によって支持されることができる。システムはまた、方向付けプラットフォームを支持するロボットセットアップ構造のモータの付いた複数の軸を提供し、且ついくつかの種類の操作棒又は複数のボタンの組で制御してもよい。いくつかの種類の操作棒又は複数のボタンの組は、使用者がそれらの軸を、独立して要求通りに、能動的に駆動することを可能にするものである。このアプローチはいくつかの状況において有用であるが、一方でいくつかの不具合を経験する可能性がある。第一に、ロボット工学、運動学、可動域制限及びマニピュレータ対マニピュレータの衝突に十分に精通していない使用者は、良好なセットアップを得るためにどこに方向付けプラットフォームを配置するべきかを知ることを困難に感じるかも知れない。第二に、システム内の如何なる受動的な関節の存在であっても、装置の配置は、手動での調節の組み合わせ(手によって受動的な自由度を動かすこと)、及び、能動的な自由度を制御することを伴うことを意味する。これは、難しく且つ時間を消費する反復的な活動であり得る。
【0048】
ロボットマニピュレータの手動での配置及び能動的に駆動される配置の両方の利点を維持するために、本明細書において記述されるロボットシステムの複数の実施形態は、セットアップモードを利用する。セットアップモードにおいて、一つ以上の関節が、運動学的チェーンの一つ以上の他の関節の手動での関節動作に応答して能動的に駆動される。多くの実施形態において、能動的に駆動される関節は、複数のマニピュレータを支持するプラットフォーム支持リンク機構構造を動かし、それらのマニピュレータを一つのユニットとして作業空間との初期の方向及び/又は配置のアライメントに動かすことにより、全システムの配列を大いに促進することができる。プラットフォームに支持されたマニピュレータのうちの一つ、いくつか又は全ての独立した配置は、任意的に、複数のマニピュレータのうちの一つ、いくつか又は全てをプラットフォームに対して支持する受動的なセットアップ関節システムを通じて提供されることができる。
【0049】
低侵襲ロボット手術
【0050】
ここから、同様な参照数字はいくつかの図面を通じて同様な部品を代表する、複数の図面を参照すると、図1は低侵襲ロボット手術システム(MIRS)10の平面図である。低侵襲ロボット手術システム10は、手術台14上に横になった患者12への低侵襲診断又は外科的処置を実行するために典型的に使用される。システムは、処置の間外科医18によって使用されるための外科医用コンソール16を含んでもよい。一人又はそれ以上の助手20も処置に参加することができる。MIRSシステム10は、患者側カート22(手術ロボット)及び電子カート24を更に有してもよい。患者側カート22は、外科医18がコンソール16を通して手術部位を観察している間、患者12の体の低侵襲な切開を通じて、少なくとも一つの取り外し可能に連結されたツールアセンブリ26(以下、単に“ツール”を呼ぶ)を操作することができる。手術部位の画像は、内視鏡28によって取得されることができる。内視鏡28は、例えば内視鏡28を方向付けるように患者側カート22によって操作され得る、立体視内視鏡である。電子カート24は、処理に続く外科医用コンソール16を通じた外科医18への画像表示のために、手術部位の画像を処理するために使用されることができる。一度に使用される手術ツール26の数は一般的に、その他の要素の中でもとりわけ、その診断又は外科的処置及び手術室内の空間の制約に依存する。ある処置の間に、使用中の複数のツール26のうちの一つ以上を交換することが必要な場合は、助手20は患者側カート22からツール26を取り外し、手術室内のトレイ30からの他のツール26に交換することができる。
【0051】
図2は、外科医用コンソール16の斜視図である。外科医用コンソール16は、奥行き知覚を可能にする手術部位の協調された立体像(coordinated stereo view)を外科医18に提示するための左目用表示部32及び右目用表示部34を有する。コンソール16は、一つ又はそれ以上の入力制御装置36を更に有する。次いで入力制御装置36は、患者側カート22(図1参照)に一つ又はそれ以上のツールを操作させる。複数の入力制御装置36は、それらに関連するツール26(図1参照)と同じ自由度を提供し、外科医がツール26を直接的に制御しているという強い感覚を持つように、外科医にテレプレゼンス、又は入力制御装置36がツール26と一体化しているかのような知覚を提供することができる。この目的を達成するために、ポジション、力、及び触覚のフィードバックセンサ(図示せず)を採用して、入力制御装置36を通じて、ポジション、力、及び触覚の知覚をツール26から外科医の手に返してもよい。
【0052】
外科医用コンソール16は、外科医が直接処置を監視し、必要であれば物理的に居合わせ、そして電話又は他の通信媒体を通すよりもむしろ、助手に直接話すことができるように、通常患者と同じ部屋内に位置している。しかしながら、外科医は異なる部屋、完全に異なる建物又はその他の患者から離れた場所に位置することが可能であり、遠隔外科的処置が可能である。
【0053】
図3は、電子カート24の斜視図である。電子カート24は、内視鏡28と結合することができ、キャプチャーした画像を処理し、例えば現地に及び/又は遠隔地に位置する外科医用コンソール上又は他の適切な表示部上の外科医へ、続いて表示するためのプロセッサを有していてもよい。例えば、立体視内視鏡が使用される場合に、電子カート24は、キャプチャーされた画像を処理して、手術部位の協調立体像を外科医に提示することができる。そのような協調は、対向する複数の画像の間のアライメントを含むことができ、また、立体視内視鏡のステレオ作動距離を調節することを含むことができる。その他の例として、画像処理は、以前に決定されたカメラ校正パラメータを使用して、例えば光学収差のような、画像キャプチャー装置の結像誤差を補償することを含んでもよい。
【0054】
図4は、(例えば図1のMIRSシステム10のような)ロボット手術システム50を概略的に示す。前述のように、(例えば図1における外科医用コンソール16のような)外科医用コンソール52は、低侵襲処置の間に、(例えば図1における患者側カート22のような)患者側カート(手術ロボット)54を制御するために、外科医によって使用され得る。患者側カート54は、例えば立体視内視鏡のような画像装置を使用して、処置部位の画像をキャプチャーし、キャプチャーした画像を(例えば図1における電子カート24のような)電子カート56に出力することができる。前述のように、電子カート56は、如何なる後続の表示にも先立って、キャプチャーされた画像を様々な方法で処理することができる。例えば、電子カート56は、キャプチャーされた画像を仮想制御インターフェイスに重ねてから、外科医用コンソール52を介して組み合わされた画像を外科医に表示することができる。患者側カート54は、電子カート56の外部での処理のために、キャプチャーされた画像を出力することができる。例えば、患者側カート54は、キャプチャーされた画像を処理するために使用され得るプロセッサ58に、キャプチャーされた画像を出力することができる。画像はまた、電子カート56及びプロセッサ58の組み合わせによって処理され得る。これらは一体に結合されて、キャプチャーされた画像を合同で、順番に及び/又はこれらの組合せで処理することができる。一つ又はそれ以上の独立した表示部60もまた、例えば処置部位の画像又はその他の関係する画像の、現地での及び/又は遠隔での画像の表示のために、プロセッサ58及び/又は電子カート56に結合され得る。
【0055】
プロセッサ58は、典型的に、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせを含ものである。ソフトウェアは、本明細書において記述される制御の方法の複数のステップを機能的に実行するための、コンピュータ可読コード命令を具体化する有形媒体を有する。ハードウェアは、典型的に、一つ以上のデータ処理ボードを含む。そのデータ処理ボードは、同一箇所に位置してもよいが、しばしば、本明細書において記述されるロボット構造中に分配された複数の構成要素を有するものである。ソフトウェアは、しばしは不揮発性媒体を有するものであり、モノリシックなコードも有し得るが、より典型的には多数のサブルーチンを有するものであり、これらのサブルーチンは任意的に多種多様な分配されたデータアーキテクチャのいずれにおいても走る(作動する)。
【0056】
図5A及び図5Bは、それぞれ、患者側カート22及び手術ツール62を示す。手術ツール62は、手術ツール26の一つの例である。図示される患者側カート22は、3つの手術ツール26及び一つの画像装置28の操作を提供する。画像装置28は、例えば処置部位の画像のキャプチャーに使用される立体視内視鏡である。操作は、多数のロボット関節を有するロボット機構によって提供される。画像装置28及び手術ツール26は、運動学的な遠隔の中心が患者の切開の位置に維持されて切開の寸法を最小化するように、患者の切開を通じて配置及び操作されることができる。手術ツール26が画像装置28の視野内に配置される場合に、手術部位の画像は、手術ツール26の遠位側端部の画像を含むことができる。
【0057】
手術ツール26は、低侵襲なアクセス用開口、例えば切開、生来の開口部、経皮的な貫通又は同種のものを通して管状のカニューレ64を挿入することによって、患者体内に挿入される。カニューレ64はロボットマニピュレータアームに装着され、手術ツール26のシャフトはカニューレの管腔(lumen)を通過する。マニピュレータアームは、カニューレがそのアーム上に装着されたことを示す信号を送信してもよい。
【0058】
ロボット手術システム及びモジュラーマニピュレータ支持
【0059】
図6は、多くの実施形態による、ロボット手術システム70の透視図法による模式的な表示である。手術システム70は、取付け基部72、支持リンク機構74、方向付けプラットフォーム76、複数の外側セットアップリンク機構78(二つ図示されている)、複数の内側セットアップリンク機構80(二つ図示されている)及び複数の手術器具マニピュレータ82を含む。マニピュレータ82のそれぞれは、マニピュレータ82に装着された手術器具を選択的に関節動作させるように機能することができ、挿入軸に沿って患者体内に挿入可能である。マニピュレータ82のそれぞれは、複数のセットアップリンク機構78,80のうちの一つに取り付けられ、それによって支持される。外側セットアップリンク機構78のそれぞれは、第一のセットアップリンク機構関節84によって、方向付けプラットフォーム76に対して回転可能に結合させられ、それによって支持される。内側セットアップリンク機構80のそれぞれは、方向付けプラットフォーム76に対して固定的に結合させられ、それによって支持される。方向付けプラットフォーム76は、支持リンク機構74に対して回転可能に結合させられ、それによって支持される。そして、支持リンク機構74は、取付け基部72に対して固定的に取り付けられ、それによって支持される。
【0060】
多くの実施形態において、取付け基部72は動作可能であり、床に支持されている。それにより取付け基部72は、例えば手術室内での全手術システム70の選択的な再配置を可能にしている。取付け基部72は、選択的な再配置及び選択されたポジションからの取付け基部72の動きを選択的に防止することを提供する、可動な車輪アセンブリ及び/又は如何なる他の適切な支持機構でも含み得る。取付け基部72はまた、その他の適切な構成、例えば、天井取付け台、固定された床/台座取付け台、壁取付け台又は任意の他の適切な取付け面によって支持されるように構成された接合部分を有してもよい。
【0061】
支持リンク機構74は、方向付けプラットフォーム76を取付け基部72に対して選択的に配置し及び/又は方向付けるように機能することができる。支持リンク機構74は、柱状基部86、平行移動可能な柱状部材88、肩部関節90、ブーム基部部材92、ブーム第一段階部材94、ブーム第二段階部材96及び手首関節98を含む。柱状基部86は、取付け基部72に対して固定的に取り付けられている。平行移動可能な柱状部材88は、柱状基部86に対する平行移動のために、柱状基部86に対してスライド可能に結合している。多くの実施形態において、平行移動可能な柱状部材88は、垂直に方向付けられた軸に沿って柱状基部86に対して平行移動する。ブーム基部部材92は、肩部関節90によって、平行移動可能な柱状部材88に対して回転可能に結合している。肩部関節90は、ブーム基部部材92を水平面内で、平行移動可能な柱状部材88に対して選択的に方向付けるように機能することができる。平行移動可能な柱状部材88は、柱状基部86及び取付け基部72に対して固定された角度位置を有する。ブーム第一段階部材94は、水平方向にブーム基部部材92に対して選択的に平行移動する。多くの実施形態において、ブーム基部部材92及びブーム第一段階部材94の両方が、水平方向に一列に並ぶ。ブーム第二段階部材96は、同様に、水平方向にブーム第一段階部材94に対して選択的に平行移動する。多くの実施形態において、ブーム第一段階部材94及びブーム第二段階部材96の両方が、水平方向に一列に並ぶ。したがって、支持リンク機構74は、肩部関節90とブーム第二段階部材96の遠位側端部との間の距離を選択的に設定するように機能することができる。手首関節98は、ブーム第二段階部材96の遠位側端部を方向付けプラットフォーム76に対して回転可能に結合させる。手首関節98は、方向付けプラットフォーム76の取付け基部72に対する角度位置を選択的に設定するように機能することができる。
【0062】
複数のセットアップリンク機構78,80のそれぞれは、関連するマニピュレータ82を方向付けプラットフォーム76に対して選択的に配置し及び/又は方向付けるように機能することができる。複数のセットアップリンク機構78,80のそれぞれは、セットアップリンク機構基部リンク100、セットアップリンク機構延長リンク102、セットアップリンク機構平行四辺形リンク機構部104、セットアップリンク機構垂直リンク106、第二のセットアップリンク機構関節108及びマニピュレータ支持リンク110を含む。外側セットアップリンク機構78のセットアップリンク機構基部リンク100のそれぞれは、第一のセットアップリンク機構関節84の働きによって、方向付けプラットフォーム76に対して選択的に方向付けられることができる。図示された実施形態において、内側セットアップリンク機構80のセットアップリンク機構基部リンク100のそれぞれは、方向付けプラットフォーム76に対して固定的に取り付けられる。内側セットアップリンク機構80のそれぞれはまた、外側セットアップリンク機構と同じように、追加的な第一のセットアップリンク機構関節84を用いて、方向付けプラットフォーム76に対して回転可能に取り付けられてもよい。セットアップリンク機構延長リンク102のそれぞれは、水平方向に、関連するセットアップリンク機構基部リンク100に対して平行移動可能である。多くの実施形態において、関連するセットアップリンク機構基部リンクとセットアップリンク機構延長リンク102が、水平方向に一列に並ぶ。セットアップリンク機構平行四辺形リンク機構部104のそれぞれは、セットアップリンク機構垂直リンク106を垂直に方向付けられた状態に保ちながら、垂直方向に、セットアップリンク機構垂直リンク106を選択的に平行移動させるように構成され、機能することができる。複数の例示的な実施形態において、セットアップリンク機構平行四辺形リンク機構部104のそれぞれは、第一の平行四辺形関節112、結合リンク114及び第二の平行四辺形関節116を含む。第一の平行四辺形関節112は、結合リンク114をセットアップリンク機構延長リンク102に対して回転可能に結合させる。第二の平行四辺形関節116は、セットアップリンク機構垂直リンク106を結合リンク114に対して回転可能に結合させる。第一の平行四辺形関節112は、セットアップリンク機構垂直リンク106が選択的に垂直に平行移動する間、セットアップリンク機構垂直リンク106を垂直に方向付けられた状態に維持するために、セットアップリンク機構延長リンク102に対する結合リンク114の回転が、反対に作用する(counteracting)結合リンク114に対するセットアップリンク機構垂直リンク106の回転と同等になる(matched by)ように、第二の平行四辺形関節116に対して回転可能に結び付けられる。第二のセットアップリンク機構関節108は、マニピュレータ支持リンク110をセットアップリンク機構垂直リンク106に対して選択的に方向付け、それにより、関連する取り付けられたマニピュレータ82をセットアップリンク機構垂直リンク106に対して方向付けるように機能することができる。
【0063】
図7は、多くの実施形態による、ロボット手術システム120の透視図法による模式的な表示である。手術システム120は図6の手術システム70の構成要素と同様の構成要素を含むため、同様の構成要素については同一の参照番号が使用され、上記で説明した同様の構成要素の対応する記述は、手術システム120に対して適用可能であり、ここでは繰り返しを避けるために省略される。手術システム120は、取付け基部72、支持リンク機構122、方向付けプラットフォーム124、複数のセットアップリンク機構78(4つ図示されている)及び複数の手術器具マニピュレータ82を含む。マニピュレータ82のそれぞれは、マニピュレータ82に装着された手術器具を選択的に関節動作させることができ、挿入軸に沿って患者体内に挿入可能である。マニピュレータ82のそれぞれは、複数のセットアップリンク機構126のうちの一つに取り付けられ、それによって支持される。セットアップリンク機構126のそれぞれは、第一のセットアップリンク機構関節84によって、方向付けプラットフォーム124に対して回転可能に結合させられ、それによって支持される。方向付けプラットフォーム124は、支持リンク機構122に対して回転可能に結合させられ、それによって支持される。そして、支持リンク機構122は、取付け基部72に対して固定的に取り付けられ、それによって支持される。
【0064】
支持リンク機構122は、方向付けプラットフォーム124を取付け基部72に対して選択的に配置し及び/又は方向付けるように機能することができる。支持リンク機構122は、柱状基部86、平行移動可能な柱状部材88、肩部関節90、ブーム基部部材92、ブーム第一段階部材94及び手首関節98を含む。支持リンク機構122は、肩部関節90とブーム第一段階部材94の遠位側端部との間の距離を選択的に設定するように機能することができる。手首関節98は、ブーム第一段階部材94の遠位側端部を方向付けプラットフォーム124に対して回転可能に結合させる。手首関節98は、方向付けプラットフォーム124の取付け基部72に対する角度位置を選択的に設定するように機能することができる。
【0065】
複数のセットアップリンク機構126のそれぞれは、関連するマニピュレータ82を方向付けプラットフォーム124に対して選択的に配置し及び/又は方向付けるように機能することができる。複数のセットアップリンク機構126のそれぞれは、セットアップリンク機構基部リンク100、セットアップリンク機構延長リンク102、セットアップリンク機構垂直リンク106、第二のセットアップリンク機構関節108、トルネード(竜巻,tornado)機構支持リンク128及びトルネード機構130を含む。セットアップリンク機構126のセットアップリンク機構基部リンク100のそれぞれは、関連する第一のセットアップリンク機構関節84の働きによって、方向付けプラットフォーム124に対して選択的に方向付けられることができる。セットアップリンク機構垂直リンク106のそれぞれは、垂直方向に、関連するセットアップリンク機構延長リンク102に対して選択的に平行移動可能である。第二のセットアップリンク機構関節108は、トルネード機構支持リンク128をセットアップリンク機構垂直リンク106に対して選択的に方向付けるように機能することができる。
【0066】
トルネード機構130のそれぞれは、トルネード関節132、結合リンク134及びマニピュレータ支持部136を含む。結合リンク134は、マニピュレータ支持部136をトルネード関節132に対して固定的に結合させる。トルネード関節130は、マニピュレータ支持部136を、トルネード機構支持リンク128に対してトルネード軸136の回りで回転させるように機能することができる。トルネード機構128は、マニピュレータ82の操作の遠隔中心(RC)がトルネード軸136によって交差されるように、マニピュレータ支持部134を配置し及び方向付けるように構成されている。したがって、トルネード関節132の機能は、関連する操作の遠隔中心(RC)を患者に対して動かすことなく、関連するマニピュレータ82を患者に対して再方向付けするために使用されることができる。
【0067】
図8は、図7のロボット手術システム120の模式的な表示に一致する、多くの実施形態によるロボット手術システム140の簡略化された表示である。手術システム140は図7のロボット手術システム120と同じであるため、類似した構成要素については同一の参照番号が使用され、上記で説明した類似した構成要素の対応する記述は、手術システム140に対して適用可能であり、ここでは繰り返しを避けるために省略される。
【0068】
支持リンク機構122は、支持リンク機構122の複数のリンクの間の、複数のセットアップ構造軸に沿った相対的な動きによって、方向付けプラットフォーム124を取付け基部72に対して選択的に配置し及び方向付けるように構成されている。平行移動可能な柱状部材88は、第一のセットアップ構造(SUS)軸142に沿って、柱状基部86に対して選択的に再配置可能である。第一のSUS軸142は、多くの実施形態において垂直に方向付けられている。肩部関節90は、第二のSUS軸144の回りで、ブーム基部部材92を平行移動可能な柱状部材88に対して選択的に方向付けるように機能することができる。第二のSUS軸144は、多くの実施形態において垂直に方向付けられている。ブーム第一段階部材94は、第三のSUS軸146に沿って、ブーム基部部材92に対して選択的に再配置可能である。第三のSUS軸146は、多くの実施形態において水平に方向付けられている。また、手首関節98は、第四のSUS軸148の回りで、方向付けプラットフォーム124をブーム第一段階部材94に対して選択的に方向付けるように機能することができる。第四のSUS軸148は、多くの実施形態において垂直に方向付けられている。
【0069】
複数のセットアップリンク機構126のそれぞれは、セットアップリンク機構126の複数のリンクの間の、複数のセットアップ関節(SUJ)軸に沿った相対的な動きによって、関連するマニピュレータ82を方向付けプラットフォーム124に対して選択的に配置し及び方向付けるように構成される。第一のセットアップリンク機構関節84のそれぞれは、第一のSUJ軸150の回りで、関連するセットアップリンク機構基部リンク100を方向付けプラットフォーム124に対して選択的に方向付けるように機能することができる。第一のSUJ軸150は、多くの実施形態において垂直に方向付けられている。セットアップリンク機構延長リンク102のそれぞれは、第二のSUJ軸152に沿って、関連するセットアップリンク機構基部リンク100に対して選択的に再配置されることができる。第二のSUJ軸152は、多くの実施形態において水平に方向付けられている。セットアップリンク機構垂直リンク106のそれぞれは、第三のSUJ軸154に沿って、関連するセットアップリンク機構延長リンク102に対して選択的に再配置されることができる。第三のSUJ軸154は、多くの実施形態において垂直に方向付けられている。第二のセットアップリンク機構関節108のそれぞれは、第三のSUJ軸154の回りで、トルネード機構支持リンク128をセットアップリンク機構垂直リンク106に対して選択的に方向付けるように機能することができる。トルネード関節132のそれぞれは、関連するマニピュレータ82を関連するトルネード軸138の回りで回転させるように機能することができる。
【0070】
図9は、多くの実施形態による、方向付けプラットフォーム124に対する、セットアップリンク機構126の回転位置制限を示す。複数のセットアップリンク機構126のそれぞれは、方向付けプラットフォーム124に対する時計回りの制限位置で示されている。対応する反時計回り制限位置は、垂直に方向付けられた鏡面に対する図9の鏡像によって表される。図示されるように、二つの内側セットアップリンク機構126のそれぞれは、縦の基準156から一方の方向に5度から、縦の基準156から反対の方向に75度まで方向付けられることができる。また、図示されるように、二つの外側セットアップリンク機構126のそれぞれは、縦の基準156から、対応する方向に15度から95度まで方向付けられることができる。
【0071】
図10は、多くの実施形態による、ロボット手術システム160のための支持リンク機構の回転制限に関連する重心図を示す。ロボット手術システム160の複数の構成要素が、手術システム160の支持リンク機構164に対して最大限に一方側にロボット手術システム160の重心162の位置を動かすように配置及び方向付けされているので、取付け基部の所定の安定性制限を超えることを防止するために、支持リンク機構164の肩部関節は、セットアップ構造(SUS)肩部関節軸166の回りでの支持リンク機構164の回転を制限するように構成されてもよい。
【0072】
方向付けプラットフォームによって支持される運動学的チェーンの一つ以上の関節の手動での関節動作に応じた方向付けプラットフォームの配置
【0073】
図11及び図12は、ロボットシステムの使用のためのセットアップ中の、マニピュレータ82のリンク170の動作に応じた、方向付けプラットフォームを駆動するための方法を模式的に示す。複数の例示的な実施形態において、動作の基準位置は、リンク170上に置かれていなくてもよく、代わりに、リンク170からずれていてもよい。例えば、動作の基準位置は、マニピュレータリンク機構の基部(又は他の構造)からずれた遠隔中心位置、特に、そのマニピュレータが、マニピュレータの運動を、その基部に対して固定された遠隔中心位置での球面運動に機械的に拘束する場所に配置されてもよい。それ故に、マニピュレータの基部(又は他のリンク機構構造)は入力リンク170として働くことができるが、基準位置は、リンク自体から、しばしばリンクの基準のフレーム内の固定された位置で、空間的に離されていてもよい。
【0074】
方向付けプラットフォームの駆動の前に、プラットフォームは、(支持リンク機構170の関節の状態に依存して)装着基部72に対する初期の位置及び方向を有することができ、複数のマニピュレータは、それぞれ、(セットアップリンク機構78,80の関節の状態に依存して)方向付けプラットフォームに対する関連する位置及び方向を有することができる。同様に、マニピュレータ82のそれぞれのリンク170(及び/又はそのリンクに関連する基準位置)は、マニピュレータ基部(ここではボックスMによって模式的に示される)とプラットフォーム76との間のマニピュレータの関節の状態に依存する、プラットフォーム76に対する位置及び方向を有することができる。リンク170は、典型的に、マニピュレータの基部を有することができるが、代替的に、器具保持部又は運搬部(carriage)のような手術器具に運動学的に近接又は隣接したリンクを有してもよい。マニピュレータの関節状態は、一般にポーズベクトルΘによって記述されることができる。
【0075】
セットアップ中に、しばしば、複数のリンク170のうちの一つ、いくつか又は全てを、それらの初期の位置及び方向から、手術部位と整列された所望の(複数の)位置及び(複数の)方向に、動かすことが望ましい場合がある。加えて、しばしば、外科医に広い可動域を提供し、特異点を避けることを助けること等のために、マニピュレータが良好に調整された状態で外科的処置を開始することが望ましい場合がある。換言すれば、所与のマニピュレータについて、リンク170と手術作業部位(所望のアクセス部位位置RCD又はその近傍にマニピュレータの遠隔中心RCを有することを含む)との間の所望のアライメントを提供すること、及びマニピュレータを所望のマニピュレータの状態又はポーズΘD又はそれに近い状態にすることの両方が有益であり得る。マニピュレータは、リンク170の動作より前に既に所望のマニピュレータポーズ又はそれに近い状態であってもよく、又はそれは、所望の、良好に調整されたポーズから有意に異なる初期のポーズΘIであってもよい(ΘI≠ΘD)ことに留意されたい。複数のマニピュレータの互いに対する適切な配置及び構成もまた、マニピュレータ衝突防止の助けになり得る。マニピュレータが手術部位とのアライメントよりも前に良好に調整されたポーズにない場合は、マニピュレータのポーズは、任意的に、方向付けプラットフォームを動かす前、方向付けプラットフォームを動かした後又は方向付けプラットフォームを動かしている間に、良好に調整されたポーズに変えられてもよい。初期のポーズから良好に調整されたポーズに変えることは、マニピュレータの複数の関節を手動で関節動作させることによってなされてもよい。代替的に、マニピュレータを初期のポーズから良好に調整されたポーズに向かって及び/又は良好に調整されたポーズへ駆動することの利点が存在し得る。簡潔さのために、以下の記述は、マニピュレータがプラットフォームの動作の開始の前に所望の及び/又は良好に調整されたポーズにあると仮定する。それにも関わらず、一つの共通のプラットフォーム76への複数のマニピュレータ82の装着、及び複数のマニピュレータのうちの一つを支持する複数の関節のうちの一つのリンクのプラットフォームに対する動作に応じたそのプラットフォームの駆動された動作は、手術空間との所望のアライメントへの、複数のマニピュレータの動作を容易にすることができる。
【0076】
マニピュレータの複数の関節は、しばしば、方向付けプラットフォームの動作及び/又はセットアップリンク機構の手動での関節動作の間、固定された構成で維持されることができる。その維持は、任意的に、マニピュレータの複数の関節のそれぞれを、何れの手動での関節動作に対しても反対に作用する(counteract)ようにモータで駆動することによって、関節ブレーキを使ってマニピュレータの関節状態を固定することによって、両方の組み合わせによって、又は同種の方法によって、なされ得る。それ故に、方向付けプラットフォームの動作及びセットアップリンク機構の手動での関節動作の間に、リンクの多少の屈曲及び関節の小さな偏位が起こり得るが、マニピュレータは、典型的には実質的に剛体として動くことができる。その上に、使用者によって操作され且つ/或いは動作の基準として使用されるリンク170は、マニピュレータの(又はマニピュレータに運動学的に隣接したものでさえ)いずれか一つ又はそれ以上のリンクであってもよい。
【0077】
ここから、図11及び図12を参照すると、ロボットシステムプロセッサの方向付けプラットフォーム動作モードを開始する(180)ために、関連するリンク170上又はその近傍の入力部172が、起動されてもよい。入力部172は、任意的に単一の指定された入力ボタン又は同種のものを有してもよいが、いくつかの実施形態は、代替的な使用者インターフェイス手法から恩恵を受けてもよい。一つの実施例として、一つの例示的な入力部は、代わりにセットアップ関節操作に応じてプラットフォーム動作モードを開始することによって、指定されたボタンを避けてもよい。より具体的には、プラットフォーム動作モードは、第一に、そのマニピュレータの遠隔中心(又は“ポート”)位置が手動で再配置される手動での動作モードになることを可能にするために、関連するマニピュレータを支持するセットアップ関節を解放することによって開始されてもよい。手動での動作モードは、時々ポートクラッチングと呼ばれる。マニピュレータがその解放されたセットアップ関節リンク機構についての可動域の限界の閾値内において手動で動かされる(又はいくつかの実施形態において実際に閾値に到達する)場合に、システムは、応答して、プラットフォーム追従モードを開始してもよい。それ故に、セットアップ関節の可動域の限界に到達すること(又は接近すること)は、プラットフォーム動作モードの開始のための要請及び/又は起動入力のための方法となる。入力部172は、代替的に、単純な常時オフ型の入力部であってもよい。
【0078】
カニューレがマニピュレータに(又は方向付けプラットフォームによって支持された任意の他のマニピュレータに)装着されている場合は、プロセッサは、入力部の起動に関わらず、方向付けプラットフォーム動作モードを開始してはならない。所与のマニピュレータ82の入力部172が起動されている間及び/又は入力部172の起動に応じて、そのマニピュレータと方向付けプラットフォームとの間に配置されたセットアップリンク機構78,80は、しばしば、手動での関節動作を可能にするためにロック解除されることができる。セットアップリンク機構78,80のこの関節動作は、方向付けプラットフォーム76を動かすために、セットアップ構造の複数の関節を駆動するために、感知されることができ、入力として使用されることができる。リンク172がプラットフォーム及びシステムの基部72に対して動くときにマニピュレータが、典型的に、比較的硬質なものとしてために、システムは、しばしば、セットアップリンク機構の軸の回りで釣り合いがとられることができ、使用者は、マニピュレータをプラットフォーム内の操作プラットフォームに対して容易に再方向付け及び/又は再配置をすることができる。マニピュレータの駆動システムは、マニピュレータ変位の関節の関節動作に抵抗するように、プロセッサによって、エネルギーを与えられ且つ制御されてもよいこと、又は、マニピュレータの関節ブレーキは、関節動作を抑制してもよいこと、但し、マニピュレータリンク機構のいくらかの屈曲及び/又は関節状態の小さな偏位は、なおもリンク172に加えられる力の結果として生じ得ることに留意されたい。また、代替的な実施形態において、リンク172と方向付けプラットフォームとの間で関節動作することが可能とされる複数の関節は、(ソフトウェア中心のシステムにおけるように)動力を供給されることに留意されたい。それらの関節は、マニピュレータの関節状態感知システムが、所望の変位ベクトルを迅速に特定するために、十分にリンクが手動で動かされることを可能にするために、十分に軽い動作抵抗力を提供するように、エネルギーを与えられる。その所望の変位ベクトルは、システム使用者からの所望の動作入力又はコマンドとして使用するためのものである。
【0079】
さらに図11及び図12を参照すると、上で概略的に述べたように、(例えば入力部172のスイッチを押圧することによって)入力装置として使用されるべき一つの特定のマニピュレータ82についてひとたび方向付けプラットフォーム動作モードが開始されると、そのマニピュレータのリンク170は、手動でプラットフォームに対して動かされることができる。典型的には、一つ以上の(任意的に、全ての)セットアップ関節が開放されてもよく、リンク170の入力動作が、開放された(複数の)セットアップ関節の手動での関節動作を介して起こることが可能とされる。その解放は、任意的に、(例えば、動作を防ぐようにマニピュレータを駆動することによって、マニピュレータのブレーキシステムを使用して、等で)マニピュレータのリンク機構の関節動作が抑制されている間に、行われてもよい。それ故に、入力は、少なくとも部分的に、セットアップ関節システムの一つ以上の関節の関節動作として感知されてもよい。さらに他の選択肢、例えば、マニピュレータの一つ以上の関節の関節動作の選択的な組み合わせ、及びセットアップ関節システムの一つ以上の関節を介して、手動での入力を可能にすることが採用されてもよい。それに関わらず、運動学的分析を容易にするため、役立つ変形に関する入力を提供する等のために、セットアップ構造(方向付けプラットフォームを支持する関節を含む)、セットアップ関節システム及びマニピュレータの関節状態は、典型的に感知されることができる(182)。
【0080】
(リンク170の手動での動作によって入力され、そのリンクを支持する複数の関節の手動での関節動作を介して感知されたような)使用者による手動入力コマンドに基づいて、セットアップ構造を動作させるためにコマンドが計算される(183)。方向付けプラットフォームは、しばしば、使用者がリンク170を動かし続ける間に計算されたコマンドによって、方向付けプラットフォームによって支持されたマニピュレータの基部が手動でのリンクの動きに追従するように、駆動されることができる。第一のマニピュレータを手術部位との所望のアライメントに動かしている間、複数の他のマニピュレータはそれぞれ固定されたポーズのままであってもよい。同様に、方向付けプラットフォームとそれら他のマニピュレータとの間の何れのセットアップリンク機構であっても、プラットフォームの動作の間、ロックされたままであってもよい(且つ/或いは他の方法でそれらの関節動作が抑制されてもよい)。関節動作は他のマニピュレータのリンク170と方向付けプラットフォームとの間の全ての関節について抑制され得るため、全てのそれら他の入力リンク(及びマニピュレータの他の構造)は、入力部172が起動されたマニピュレータのリンク170を追従する。
【0081】
使用者が関連するリンク170を保持してワークピースとの所望のアライメントに向かって動かす間に、(入力部172が起動された)入力マニピュレータを支持する入力セットアップリンク機構が、(システムが方向付けプラットフォームモードを開始した場合のように)それらの初期の構成に留まるように付勢されるように、方向付けプラットフォームは駆動されてもよい。リンク170のポジションは、方向付けプラットフォームの動作の間、使用者によって手動で制御され続けてもよい。換言すれば、(両方とも、方向付けプラットフォームの動作中の)セットアップリンク機構78,80の現在のポーズΘ及び入力リンク170の現在の位置を所与として、方向付けプラットフォームの駆動システムが方向付けプラットフォームを動かし(185)、現在のポーズからそれらの初期のポーズに向かって(Θ‐>Θi)入力セットアップリンク機構78,80が関節動作されられるように、方向付けプラットフォームは動かされることができる。方向付けプラットフォームのこの動作の効果は、入力リンク170と方向付けプラットフォームとの間の初期の具体的な関係を大部分は維持し、方向付けプラットフォーム(及びそれに支持される全てのマニピュレータ)が、それが使用者の手によって動かされるように、その入力リンクに追従することである。方向付けプラットフォーム動作モードは、入力部172を解放することによって、入力マニピュレータにカニューレを装着することによって、又は同種の方法によって終了されることができる(184)。カニューレが患者の体内に延長した後でなければカニューレは装着されることができず、プロセッサシステムに関しては、カニューレが装着されるマニピュレータの入力部172の起動に応じた方向付けプラットフォーム動作モードの開始を抑制することが望ましい可能性があることに留意されたい。
【0082】
方向付けプラットフォーム76は、多くの処置のために有益な複数の相対位置でマニピュレータ80,82を支持することができる。それ故に、ひとたび第一のマニピュレータ80のリンク170が手術作業部位と所望のアライメントに動かされると、他のマニピュレータの器具保持部等は、しばしば、それらの関連する手術器具についての関連する初期のアライメント又はその近傍であってもよく、マニピュレータの追加的な再配置は、ほんの限られたものであってもよい。一つの特定のマニピュレータ配列に対する小さな調節は、そのマニピュレータを方向付けプラットフォームに対して支持するセットアップ関節腕部のブレーキシステムを解放すること、及び、そのマニピュレータを要求通りに全ての他のマニピュレータに対して動かすことによって、提供されることができる。例えば、ひとたびカメラマニピュレータが方向付けプラットフォームを配置するため、及び全ての器具マニピュレータを初期的に整列させるために使用されると、各器具マニピュレータと方向付けプラットフォームとの間のセットアップリンク機構は、開放されることができ、開放されたマニピュレータポジションは、必要であれば独立して調節されることができる。方向付けプラットフォーム動作モードの一つの例示的な実施形態において、第一の入力リンク170の手動での動作の感知は、効果上、初期の遠隔中心RCから所望の遠隔中心RCdへのマニピュレータの動作を感知する。方向付けプラットフォームの動作は、他のマニピュレータの遠隔中心RCを、それらの関連する所望の遠隔中心RCdに向かって動かす。それらの他の遠隔中心位置の追加的な調節は、次いで、関連するマニピュレータのセットアップリンク機構のそれぞれの連続的な解放、及び、解放されたマニピュレータRC及び所望の遠隔中心RCdとの間の所望のアライメントを提供するように、解放されたマニピュレータを動かすことによって実行されることができる。
【0083】
方向付けプラットフォーム動作コマンドの計算
【0084】
ここから図12A及び図12Bを参照すると、方向付けプラットフォームの動作コマンドを計算するための、一つの例示的なソフトウェア構造及び/又はプロセッサ配列が、理解されることができる。方向付けプラットフォーム及び他のマニピュレータは、しばしば、方向付け動作入力部172が起動された入力リンク170の動作を追従することができるため、
全体の動作は、“鼻で馬を導く(Lead-the-Horse-By-the-Nose)”(LHBN)制御モードにいくらか類似している(また、本明細書においてしばしばそのように呼ばれる)。LHBN制御モードは、使用者が操作プラットフォーム76を動かすことを可能にし、浮動している(floating)マニピュレータ82の遠隔中心を手動で動かすことによってセットアップ構造を駆動する。一つの基本的な形式において、制御の目標は、マニピュレータ82遠隔中心が操作プラットフォーム76のフレーム内の所望の位置に留まるように、操作プラットフォーム76を動かすことである。したがって、使用者が絶対的なフレーム(the world frame)内でマニピュレータ82を手動で変位させた場合に、制御部は、実際の遠隔中心と所望の遠隔中心との間のエラーがゼロになる方向に駆動するように、操作プラットフォーム76及びそのフレームを、その同一の変位を通して、動かすことができる
図12Aに示されるように、実際の遠隔中心RC位置と所望の中心RCd位置との間の生のエラーは、LHBN制御部に対する入力コマンド220を形成する。エラーを生の速度コマンドにスケールを変更する前に、小さな不感帯(dead zone)222(10cmよりも小さく、しばしば約3cm以下である)が、エラー信号に適用される。(約0.1Hzと10Hzとの間の、典型的には訳1Hzの)低域通過フィルタは、周波数帯が制限された速度コマンドを生成する。そのコマンドは次いで、操作プラットフォームフレーム内に速度コマンドを生成するために、飽和させられる(224)。LHBNモードが開始された場合に、コマンドを滑らかに増加させるために、短い時間帯(window)に渡って、コマンドに半余弦(half cosine)形状のスケーリングが適用される。同様に、そのコマンドは、モードが滑らかな減速に向かって終了させられる場合に、半コサイン形状のスケーリングによって、逆方向にスケールを変更される。速度コマンドは、起動/停止スケーリングの後に、セットアップ構造の逆運動学に提供される。関節がそれらのいくつかの制限内又はその近傍にある場合に、速度コマンドの更なるトリミングが、逆運動学計算において起こり得る。
【0085】
本明細書においてアンカーとも呼ばれる、所望の遠隔中心位置RCdは、LHBN制御モードが開始される場合に確立される。LHBN制御モードが開始された場合に、所望の遠隔中心位置RCd及び実際の遠隔中心RCは、同一の位置であり、従って、そのモードは、(入力リンク170が方向付けプラットフォームに対して動かなければ且つ動くまで、プラットフォームが動くことがないように、)ゼロエラーで開始する。LHBN制御モードの間のリンク170の手動での動作に起因して、プラットフォームは、操作プラットフォームのフレームにおいて実際の遠隔中心RCが概ね所望の遠隔中心RCdに留まるように駆動される。基礎的なLHBN操作へのいくつかの強化が、任意的に、振る舞いを微調整するために、実際の遠隔中心に対するアンカー又は所望の遠隔中心RCdの位置を、スライド又は変更してもよい。アンカーは、例えば、アンカードラッギング速度を命令すること及び図12Aに示されるように統合することによって、動かされることができる。一つのアンカー速度入力は、飽和した速度コマンドと飽和していない速度コマンドとの間の差異(226)であってもよい。この特徴の目的は、大きな飽和速度コマンドを避けることであってもよい。ひとたび速度コマンドが飽和に到達すると、遠隔中心の如何なる追加的な入力運動であっても、コマンドをちょうど飽和限度に保つように、アンカーをドラッグする(又はRCdを方向付けプラットフォームに対して動かす)。直感的に、アンカーと遠隔中心との間のエラーは、一つのボールとして視覚化されることができ、アンカーをドラッギングすることは、エラーベクトルがボールの半径に達するときはいつでも、ボールの中心をドラッギングすることを意味する。
【0086】
図12Bに示されるブロック図モデルを参照して理解されるように、可動域の制限又はセットアップリンク機構78,80のハードストップから離れるような運動はまた、アンカードラッギングを通じて達成される。ハードストップから離れるような、セットアップ構造74のいくつかの自動的な運動は、使用者が別の方法で容易に、手動で所望のセットアップ構造運動を命令することが可能であり得ないときに望ましい。一つの実施形態において、一つのサブルーチンは、セットアップリンク機構78,80の運動の限界に設置されたバネを模する、プラットフォーム76上に作用する仮想の力を算出してもよい(230)。その力は、ポートドラッギング力と呼ばれ得る。仮想の力は、セットアップ構造制御部が、セットアップ関節可動域の限界から離れて戻すことを可能にするために、各々の構成されたマニピュレータ82から送信されてもよい。LHBN制御モードソフトウェアは、入力マニピュレータ82からのポートドラッギングする仮想の力をスケール変更し、この量をアンカードラッギング速度に加えてもよい。この効果は、セットアップ構造76を駆動してセットアップリンク機構78,80のハードストップから離れるように動かすためのコマンド232を生成することである。
【0087】
LHBN制御モードにおいて使用される利得(ゲイン)、飽和及び/又は不感帯のうちのいくつか又は全ては、任意的に整調可能(tunable)である。図12A及び図12Bにおける各パラメータは、以下の表に列挙される。
【0088】
【表1】

セットアップ構造リンク機構をセットアップ関節リンク機構ハードストップから離れるように動かすために使用される仮想のバネ力は、図12Bに示されるように計算されることができる。また、不感帯部分(フラクション)は、可動域のうちのどれだけ多くが、仮想の力を全く生み出さないかを決定することができる。不感帯部分は1よりも小さくあるべきであること、及び有効部分は各関節上のハードストップの間で均等に分割されてもよいことに留意されたい。使用者が、セットアップ関節がハードストップにぶつかるように遠隔中心を動かす場合は、仮想の力を統合して、ハードストップから離れるように動かす速度コマンドを増大させるために、アンカードラッギングが使用されてもよい。滑らかに増大する速度コマンドが生成されることができ、その速度コマンドはセットアップ構造をセットアップ関節可動域の限界から離れるように動かす。速度コマンドは、飽和が到達されるまで増大することができ、その点においてセットアップ構造の定常状態速度が維持されることができる。
【0089】
したがって、仮想の力についての大きな利得は、エラーを有意に飽和へと至らせることができる。仮想の力の計算に関わるカーネル・キーの更なる記述については、上記の表を参照されたい。
【0090】
これから図12Cを参照すると、セットアップ構造及び方向付けプラットフォーム124のための一つの代替的な駆動システムは、好ましくは、マニピュレータRCを方向付けプラットフォームに対する所望のポジションへ駆動するために、x,y及びz軸に沿った動作を可能にする。空間内でマニピュレータ82の一つ以上のリンクを手動で動かすことによって(及び任意的にマニピュレータ全体を動かすことによって)、使用者は、単に実際のマニピュレータRCポジションへの(基準の方向付けプラットフォームフレームにおける)所望のマニピュレータRCポジションとの間のエラーベクトルを計算し、このベクトルを使用して所望のx,y,z速度を生成することによって、操作プラットフォームを追従させることができる。
【0091】
これから図12C及び図12Dを参照すると、方向付けプラットフォームのx,y,z及びΘ軸を動かすための方法は、概して、外科的処理を開始するときに良好に調整されたマニピュレータのポーズを提供するために、方向付けプラットフォーム124及びそれに装着された一つ以上のマニピュレータ82の所望の配置を達成しようとするものである(ツールが手術作業空間の所望の位置にあると同時に、望ましくはそれらの可動域の中心付近にある様々なマニピュレータの自由度を備え、マニピュレータの運動学は、運動を阻害する特異点からよく離れている、等)。上述されたもののような、カートに装着されたセットアップ構造によって支持される方向付けプラットフォームと共に、1自由度、2自由度、3自由度、4自由度又はそれ以上の自由度を備える天井設置式のセットアップ構造190及びその他の駆動されるロボットリンク機構が、採用されてもよい。同様に、運動についての入力は、任意的に手動で関節動作する受動的な関節(例えば、上述されたセットアップ関節構造に沿った複数の関節のうちの一つ)及び/又は一つ以上の能動的に駆動される関節(例えば、マニピュレータ80,82のうちの一つの関節)によって入力されてもよい。それ故に、システムは少数の例示的なロボット運動学的構造を参照して記述されてもよいが、その制御技術は、冗長な自由度及び/又は多数の関節を有する、ある範囲の他のロボットシステムに良好に適用されることができ、能動的な関節と受動的な関節の混合を有するようなシステム、セットアップの間に駆動される一組の関節及び手術の間に駆動される他の異なる関節の組(いくつかの重複する関節があっても、なくてもよい)を備えたシステム、個別のマニピュレータ制御部が限定的な状態情報のみを交換するシステム、等を考慮する場合に特に興味深い。
【0092】
セットアップ中にシステムのロボット能力を使用するために、ロボットシステムのプロセッサは、あるモードを実行するソフトウェアを含んでもよい。そのモードにおいて、ロボット構造は、マニピュレータのリンクの手動での動作の間、方向付けプラットフォームとマニピュレータ遠隔中心との間の所望の関係又はポーズに向かって駆動され及び/又は維持される。このアルゴリズムは、機能している場合、その入力として、方向付けプラットフォームとマニピュレータ遠隔中心との間の実際の関係及び所望の関係を取得し、任意的にはマニピュレータ遠隔中心のポジション及び方向を乱すことなく、実際のポーズを所望のポーズに向かって駆動する。換言すれば、使用者が受動的な軸をあちこち動かすにつれて、能動的な軸は、任意的に、ある特定のロボットポーズを達成又は維持するような方法で追従することができる。
【0093】
図13に示される単純化された4-リンクマニピュレータは、本明細書において記述される制御構造及び方法の一つの実施形態を説明することを助ける。この模式的なマニピュレータにおいて、リンク191及びリンク192は能動的である。すなわち、q1及びq2は、制御部によって制御される。一方で、リンク193及びリンク194は受動的であり、手で動かされることができる。点Qは、使用者にとって直接的に興味があるロボット上の点であり、使用者によって特定されるロボット基部に対する目標位置へ、手動で配置される。それ故に、点Qはマニピュレータの遠隔中心に対応してもよく、使用者は典型的に、マニピュレータが、例えば、カメラカニューレに接続されることができるように点Qを配置するものである。カメラカニューレは、既に患者体内に導入されていてもよく、又はロボット構造が適切なポジションに動かされた後に患者体内に挿入されてもよい。様々な理由(使用可能な可動域を最大化すること、衝突を最小化すること等を含む)により、しばしば、PとQとの間に特定の関係を得ることが望ましい。関節q3及びq4が自由であり、十分な可動域が存在し、マニピュレータが特異点に接近していない限り、PはQから独立して平行移動することができ、そのため、Qが単純に基部に対して固定的に保持されていれば、制御部は自由に所望の関係を確立することができる。この基本的性質は、使用者がQを空間内に固定的に保持している間に自動的にPとQの関係を確立するために利用されることができる。使用者がQのポジションを手動で調節するときに、能動的な軸q1及びq2は、所望のP-Q関係を維持するような方法で動くように、この自動配置アルゴリズムを継続的に作動させることも可能である。
【0094】
図13の単純化された実施例において、二つの能動的な自由度及び二つの受動的な自由度が示され、興味のある量は、平面上のP及びQの相対位置のみであった。天井設置式及び/又はカート設置式のロボット手術システムは、しばしば、より複雑なものである。すなわち、図12Dの実施形態において、7つの能動的な自由度(ガントリー上に4つ及び関係するECM上の軸に3つ)及び3つの受動的な軸(方向付けプラットフォーム124とマニピュレータ82との間のセットアップ関節198によって模式的に示されている)が存在し、全体として10自由度を得ている。マニピュレータ遠隔中心端点の位置及び方向を維持することは、しばしば、6自由度(DOF)の事柄であり、我々に4つの追加の自由度(DOFs)を残す。本実施形態においては、この4つの追加の自由度を使って我々の内部的な最適化を実行する。この議論の目的のために、要求されると考えられるものの正確な性質は如何なる数の基準を含んでもよく、本明細書において記述される多くの構想は、最適な目標位置を決定するために使用される方法に関わらず適用され得ることに留意されたい。この種の最適化を実行するための一つの戦略は、全システムを単一の10DOF冗長マニピュレータとして考慮することである。そのとき、第一の破ってはならない目標を課し、費用関数を最小化する所望の付属的な目標と組み合わせる技術を、使用することができる。我々の場合における第一の目標は、マニピュレータ遠隔中心の部屋に対するポジション及び方向を維持することであってもよく、補助的な目標は、方向付けプラットフォームとマニピュレータとの間の最適な関係を達成することであってもよい。
【0095】
第二の戦略は、その課題を二つの部分に分割することである。
(1)費用関数を最小化しようとする、セットアップ構造最適化課題。
この費用関数は、方向付けプラットフォームとポジション及び方向が最適又は所望のマニピュレータRCに対する位置に到達した場合に、最小値を得るように構成される。
(2)部屋に対する一定のマニピュレータ方向を維持しようとする、マニピュレータ制御課題。
この第二の戦略は、ECMとガントリーマニピュレータとの間で共有される必要がある情報は、それぞれの基部及び先端の位置のみである、すなわち、全ての関節のポジションを知ることは要求されないという事実から恩恵を受ける。この事実は、複数のマニピュレータの間のより小さな通信帯域幅しか必要としないことにおいて、この具体的な戦略に素晴らしい利点を与える。
【0096】
我々は、これから、遠隔中心を動かすことなくセットアップ構造を動かすために必要な数学的な枠組みを提供する。これから図14及び図15を参照すると、単純化された平面的なセットアップ構造を所望のポーズに再構成することは、(図13の上の記述によれば、Pが空間内の所望のx位置及びy位置へ駆動される間に、Qが不変のままで留まるように、)マニピュレータを、そのゼロ空間を使って動かすこととしてモデル化されることができる。数学的には、図14のリンク1乃至リンク3の長さをl乃至lとして、ヤコビ行列及び関節ポジションベクトルqは、以下のように特定される。
【0097】
【数1】
以下は、エンドエフェクタ運動とエンドエフェクタ運動を結果として生じない内部的な関節運動との合計としての関節速度の分解である。
【0098】
【数2】
それ故に、我々はQを動かすことができ、エンドエフェクタポジションを変えずにゼロ空間を使ってマニピュレータを動かすためにΘ及びΘを特定する必要がなかった。同様にMatlab(登録商標)シミュレーションから、我々は、他の関節を特定する必要なくゼロ空間を使って軸を動かすことができることを理解する。手順が平面的なセットアップ関節の最適化を実際に行うと同時に、枠組みは方向付けにまで及ぶ。
【0099】
複数の他の変形が、本発明の精神に含まれる。したがって、本発明は、様々な変更及び代替の構成を受け入れる余地があるが、本発明の特定の図解された実施形態が図面に示され、詳細に上記された。しかしながら、本発明を具体的な形式又は開示された形式に限定する意図は全くなく、対照的に、添付の特許請求の範囲において規定されたような本発明の精神及び範囲に含まれる全ての変更、代替の構成及び等価物を包含するように意図されていることが理解されるべきである。
【0100】
本発明の記述の文脈における(特に続く特許請求の範囲の文脈における)、用語“一つ”及び“ある”及び“前記の”並びに同様の参照の使用は、本明細書において異なる示唆がなされるか又は文脈によって明確に否定されない限り、単数及び複数の両方を包含するように解釈されるべきである。用語“有する”、“備える”、“含む”及び“包含する”は、特に断りのない限り、無制限の(すなわち、“含むが、これに限定されない”を意味する)用語として解釈されるべきである。用語“接続される”は、たとえ何かが間に位置する場合でも、部分的又は完全に内部に包含される、取り付けられる又は一体に接合されるものとして解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書において異なる示唆がなされない限り、その範囲内に含まれるそれぞれの別個の値を個別に参照することの簡単な方法として働くことを単に意図しており、それぞれの別個の値は、本明細書において個別に列挙された場合と同様に詳細な説明に組み込まれる。本明細書において記述される全ての方法は、本明細書において異なる示唆がなされるか又はそうでなければ文脈によって明確に否定されない限り、如何なる適切な順序でも実行されることができる。本明細書においてもたらされる如何なる及び全ての、例としての又は例示的な言葉(例えば、“のような”)の使用は、本発明の実施形態の理解を容易にすることを単に意図されており、別段の請求がなされない限り、本発明の範囲に限定を課さない。詳細な説明における如何なる言葉であっても、いずれかの特許請求の範囲にない要素を本発明の実践のために本質的なものとして示すものとして解釈されるべきでない。
【0101】
本発明の複数の好ましい実施形態が、発明者らが知る本発明を実施するための最良の形態を含め、本明細書に記載されている。それらの好ましい実施形態の様々な変形が、前述の説明を読むことによって当業者にとって明らかになるであろう。発明者らは、当業者が適宜このような変形を利用することを予期し、そして発明者らは、本発明が本明細書において具体的に記述された以外の方法で実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用可能な法によって許容される限り、本明細書に添付の特許請求の範囲に記載された対象物の全ての変更及び等価物を含む。その上に、明細書等にこれに反する示唆がなされるか又は文脈上明確に矛盾しない限り、そのすべての可能な変形における複数の上述の要素の任意の組合せが本発明に包含される。
【0102】
本明細書において引用した刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参考文献は、各参考文献が個別にかつ具体的に参照により組み込まれることが示され、その全体が本明細書に記載されている場合と同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
図14
図15