(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】活性酸素種発生材料及び使用方法
(51)【国際特許分類】
A61L 15/26 20060101AFI20220905BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20220905BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220905BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20220905BHJP
A61L 27/60 20060101ALI20220905BHJP
A61K 33/40 20060101ALI20220905BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
A61L15/26 100
A61L27/18
A61L27/54
A61L27/58
A61L27/60
A61K33/40
A61P17/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020115510
(22)【出願日】2020-07-03
(62)【分割の表示】P 2018088302の分割
【原出願日】2013-08-30
【審査請求日】2020-07-21
(32)【優先日】2012-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ティファニー ジェイ.ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】アダム エス.ラフルール
(72)【発明者】
【氏名】ケネス マジッチ
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー シー.トウラー
(72)【発明者】
【氏名】ジ ジャン
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-206189(JP,A)
【文献】特開2000-103891(JP,A)
【文献】国際公開第2011/146359(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0203564(US,A1)
【文献】国際公開第2010/024242(WO,A1)
【文献】Journal of Applied Polymer Science,米国,1995年,Vol.56, No.10,p.1275-1294
【文献】Appl.Radiat.Isot.,Vol.47, No.11/12 (1996),1669-1674
【文献】AAPS PharmSciTech,Vol.9, No.2 (2008),718-725
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61F 2/00- 4/00
A61F 13/00-13/84
A61F 15/00-17/00
A61B 13/00-18/28
A61M 25/00-99/00
A61K 33/40
A61P 17/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の半結晶性加水分解性重合体を含む生体適合性材料であって、前記重合体が約40kGy~約50kGyの総線量の電離放射線に照射済みであり、前記生体適合性材料が安定化フリーラジカルを含み、そして、前記重合体が、ポリ(グリコリド)(PGA)とトリメチレンカーボネート(TMC)の共重合体を含む、前記生体適合性材料。
【請求項2】
前記共重合体が、重量に基づいて2:1のPGA/TMCである、請求項1に記載の生体適合性材料。
【請求項3】
前記生体適合性材料を水性媒体と接触させると前記安定化フリーラジカルによって長期間にわたる活性酸素種の産生が可能になる、請求項1に記載の生体適合性材料。
【請求項4】
前記生体適合性材料の単位面積当たりの比表面積が約0.001m
2/g~約50m
2/gである、請求項1に記載の生体適合性材料。
【請求項5】
前記重合体が生体吸収性である、請求項1に記載の生体適合性材料。
【請求項6】
前記活性酸素種が、スーパーオキシド、過酸化水素、一重項酸素、ヒドロキシルラジカル、ペルヒドロキシラジカル、ペルオキシ亜硝酸、ヒポクロリット、及びそれらの組合せからなる群より選択される、請求項3に記載の生体適合性材料。
【請求項7】
活性酸素種と反応して一酸化窒素を産生することができる窒素を含む化合物をさらに含む、請求項1に記載の生体適合性材料。
【請求項8】
創傷用包帯、火傷用包帯、代用皮膚、組織スキャフォールド又はそれらの組合せの形状である、請求項1又は3に記載の生体適合性材料。
【請求項9】
移植可能器具の形状である、請求項1に記載の生体適合性材料。
【請求項10】
前記安定化フリーラジカルによって24時間を超える期間、任意には1週間を超える期間、任意には1か月を超える期間の活性酸素種の産生が可能になる、請求項2に記載の生体適合性材料。
【請求項11】
酸素発生物をさらに含む、請求項3に記載の生体適合性材料。
【請求項12】
基材及び前記基材と接触している請求項1に記載の
半結晶性加水分解性重合体を含む、スーパーオキシドを放出することができる生体適合性器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は2012年8月31日に提出された米国特許仮出願番号第61/695432号の優先権を主張する。
【0002】
本発明の分野
本発明は活性酸素種を発生することができる安定化フリーラジカルを含む材料及びそれらの材料の使用法に関する。
【背景技術】
【0003】
医療器具の滅菌は幾つかの方法によって行われ得る。エチレンオキシド滅菌(EO)と電離放射線への曝露による滅菌が2つの一般的な方法である。しかしながら、医療器具の製造において一般的なある特定の重合体と有機材料の電離放射線への曝露はその重合体又は有機材料にあるレベルの分解を引き起こすことが示されている。重合体又は有機材料が分解する程度は吸収された電離放射線の線量に関連すると考えられている。したがって、器具が高分子材料又は有機材料から構築される場合、適用される放射線線量はその器具を滅菌するために充分に高くあるべきであるが、同時に、生じる器具分解の量を最小にするようにできる限り低くあるべきである。耐久性、且つ、吸収性の重合体及び共重合体に用いられる場合、典型的な最終的な封入済み器具の滅菌は約25kGyの線量を用いて達成される。
【0004】
さらに、ある特定の重合体は電離放射線に曝露されると分子鎖切断を起こし、その分子鎖切断は影響を受ける重合体鎖に沿ってフリーラジカルの形成を引き起こすことがあり得る。この種のフリーラジカルは発生後にごく僅かな期間にだけ重合体に存在することが一般に知られている。フリーラジカルの高エネルギーによってフリーラジカルは不安定になり、可能であればいつでも急速に反応又は再結合する。フリーラジカルが別のフリーラジカルと結合し、且つ、それらのフリーラジカルが異なる重合体鎖上に存在する場合、架橋が起こり、効果的に分子量を増加させる。放射線照射を受けた重合体鎖上で形成されたフリーラジカルが、限定されないが、酸素などの別の要素と結合する場合、その結合によって分解反応が起こり、場合により重合体全体の分子量の減少が起こることがあり得る。どちらの場合でもフリーラジカル反応速度は、一度でも必要な条件が存在すると、非常に速いことが典型的である。フリーラジカルが酸素分子と反応する場合、活性酸素種(ROS)が生成され得る。
【0005】
ROSはスーパーオキシド、過酸化水素、一重項酸素、ヒドロキシルラジカル、ヒポクロリット、ペルオキシ亜硝酸、及びペルヒドロキシラジカル、及びそれらの組合せなどの化学的に反応性であり、生物学的に効力のある酸素含有種である。さらに、ROSは不対原子価殻電子の存在のために非常に反応性に富む。
【0006】
生物学では、ROSは免疫応答に関わる重要な機能を務める。例えば、スーパーオキシドは微生物を貪食中の活性化好中球による「呼吸バースト」の間に自然に生成されるものであり、細菌を破壊するために貪食性多形核白血球(PMN)によって用いられる機序である。このことを考慮すると、現在の抗菌薬治療はROS、特にヒドロキシルラジカルを殺菌作用の機序として使用している(Kohanskiら、Cell誌、第130巻、797~810頁(2007年))。
【0007】
ROSは、限定されないが、細胞増殖、分化、遊走、アポトーシス、及び血管形成を刺激すること(Klebanoff、Annals Internal Medicine、第93巻、480~9頁(1980年))(Turrens、Jrl Physiol誌、第552巻(第2号)、335~44頁(2003年))(Vealら、Molecular Cell誌、第26環、1~14頁(2007年))を含む細胞シグナル伝達においても活性がある。とりわけ、ROSは比較的に低い濃度(マイクロモル濃度からナノモル濃度)であっても血管形成、細胞増殖、及び細胞遊走などの様々な生物学的過程を調節する重要な細胞シグナル伝達分子として作用することが示されている(Vealら、Mol Cell誌、第26巻(第1号)、1~14頁(2007年))(D’Autreauxら、Nature Reviews Molecular Cell Biology誌、第8巻、813~824頁(2007年))。ROSは血小板活性化に大きな影響を及ぼすことも示されている(Krotzら、Arterioscler Throm Vase Biol誌、第24巻、1988~96頁(2004年))。これらの生物学的過程への関与は、幾つかの癌、心血管疾患、慢性的創傷、加齢、及び神経変性を含むが、これらに限定されない多数の生理状態及び病理状態を調節する重要な役割をROSに与える。例えば、臨床治療におけるROSの使用が癌治療のための光力学的治療法(PDT)において示されている(Dolmansら、Nature Reviews Cancer誌、第3巻、380~7頁(2003年))。
【0008】
高レベルのROSが細胞増殖を阻害することが知られており、且つ、細胞アポトーシスを誘導することさえも知られている。したがって、そのようなROSの発生物質の1つの用途は、血管、胆管、食道及び結腸を含む体液管における狭窄と再狭窄を治療するための医療器具、例えば、ステント及びバルーンを作製することである。
【0009】
狭窄は、細胞、細胞外マトリックス、脂質及び他の細胞内容物の非制御的な増殖及び沈着によって引き起こされる血管又は他の管の異常な狭小化である。したがって、そのような細胞増殖を阻害するため、及びアポトーシスの誘導を介して狭窄を解消するために高レベルのROSを放出する物質を使用することができる。
【0010】
再狭窄は元の狭窄を治療する医療介入の後に起こる狭窄の再発を指す。再狭窄は通常は、狭くなり、閉塞物を取り除くための治療を受け、その後に再び狭くなった血管に関係する。再狭窄は経皮経管冠動脈形成術及びステント治療術などの医療介入の後に起こることがあり得る。これらの心血管医療介入は血管平滑筋細胞の望まない増殖(新生内膜過形成)を誘導し、それによって結局は血管の再狭小化が引き起こされる。再狭窄を防止するために薬剤放出ステント(DES)が2000年代初頭に臨床心臓病学に導入された。抗細胞増殖薬、例えば、パクリタキセル(抗癌剤)及びシロリムス(免疫抑制剤)が心血管ステントの表面に被覆され、血管壁に対して局所的に放出された。これらの薬剤は血管平滑筋の細胞増殖を効果的に阻害し、そうしてステント内新生内膜過形成及び結果的に再狭窄を防止する。
【0011】
高レベルのROS、特に過酸化水素は効果的に平滑筋細胞(Deshpande、N.N.ら、Mechanism of hydrogen peroxide-induced cell cycle arrest in vascular smooth muscle. Antioxid Redox Signal誌、2002年、第4巻(第5号)845~54頁)及び他の細胞(Li、M.ら、Hydrogen peroxide induces G2 cell cycle arrest and inhibits cell proliferation in osteoblasts、 Anat Rec誌(ホボケン)、2009年、第292巻(第8号)1107~13頁、及びChen、Q.とB.N. Ames、Senescence-like growth arrest induced by hydrogen peroxide in human diploid fibroblast F65 cells、 Proc Natl Acad Sci USA誌、1994年、第91巻(第10号)4130~4頁)の増殖を阻害することができることが示されている。したがって、一度配置されると再狭窄を防止/治療するために高レベルのROSを局所的に送達することができる医療器具、例えば、ステント及びバルーンを作製するためにROS発生物質を使用することができる。
【0012】
現在では、ROSが短い期間しか存在しないこと、及び所望の治療部位にROSを治療レベルで治療期間供給することが困難であることのためにROSの利益が限定的になっている。驚くことに、ある特定の重合体では安定化フリーラジカルが形成され得ること、及びそのようなフリーラジカルは次に酸素含有水性環境に曝露されるとROSを発生することができることが示されている。ROSの生物学的関連性を考慮すると、治療部位における長期のROSの発生を可能にする材料、器具、及び方法は医療分野においては有利であり、本明細書において企図される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は安定化フリーラジカルを含む材料、及びそれらの材料の使用と製造に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
より具体的には、本発明は、約30kGyから約50kGyまでの総線量の電離放射線に照射済みである少なくとも1種類の半結晶性加水分解性重合体を含む生体適合性材料であって、安定化フリーラジカルを含む前記生体適合性材料を含む。別の実施形態では、約50kGy未満の線量率の電離放射線に照射済みであり、非電離放射線法により滅菌される少なくとも1種類の半結晶性加水分解性重合体を含む安定化フリーラジカル含有生体適合性材料が企図される。本発明は治療部位に安定化フリーラジカルを供給する方法であって、上記の生体適合性材料を適用することを含む前記方法にも関する。
【0015】
本発明の別の実施形態は、治療部位において生体適合性材料からの活性酸素種の産生を可能にする方法であって、安定化フリーラジカルを含む半結晶性加水分解性重合体を含む生体適合性材料を治療部位に適用すること、前記生体適合性材料を酸素含有水性媒体に曝露すること、及び前記生体適合性材料に供される酸素の量を大気酸素と比べて増やすことを含む前記方法に関する。
【0016】
本発明は、安定化フリーラジカルを含む少なくとも第1の加水分解性半結晶性重合体と安定化フリーラジカルを含む少なくとも第2の加水分解性半結晶性重合体を含む、活性酸素種の多相性産生を可能にする生体適合性複合物であって、前記の少なくとも第1の重合体が前記の少なくとも第2の重合体と同一ではないことを特徴とする前記生体適合性複合物をさらに含む。水性媒体と接触する状態に置かれると活性酸素種の産生を可能にする生体適合性複合物であって、安定化フリーラジカルを含む少なくとも第1の加水分解性半結晶性重合体と前記の活性酸素種の産生のプロファイルを修飾する少なくとも第2の物質を含む前記生体適合性複合物も本明細書において企図される。
【0017】
別の実施形態では、不活性雰囲気中に維持されている間に電離放射線の照射を受けた加水分解性半結晶性物質を含む、活性酸素種を発生する能力が増強された生体適合性材料が考えられる。
【0018】
本発明は10単位を超える結晶質融解エンタルピー当たりの安定化フリーラジカルの濃度を含む加水分解性半結晶性重合体も含む。
【0019】
本発明の材料を組み込む器具も本明細書において企図される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】区別のために各スペクトルがy軸に沿ってずらされている、結晶性材料とアモルファス材料を示す電子常磁性共鳴(EPR)スペクトルを表す図である。
【
図2】代表的な半結晶性加水分解性重合体の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
【
図3】所与の温度範囲にわたる代表的な半結晶性加水分解性重合体のフリーラジカル含量を表すEPRスペクトルを示す図である。
【
図4】アモルファス重合体のDSC曲線を示す図である。
【
図5】所与の温度範囲にわたるアモルファス重合体のフリーラジカル含量を表すEPRスペクトルを示す図である。
【
図6】代表的な半結晶性加水分解性重合体、具体的にはポリジオキサノンのDSC曲線を示す図である。
【
図7】所与の温度範囲にわたる代表的な半結晶性加水分解性重合体、具体的にはポリジオキサノンのフリーラジカル含量を表すEPRスペクトルを示す図である。
【
図8】所与の温度範囲にわたる代表的な半結晶性加水分解性重合体、具体的にはポリ(3-ヒドロキシブチレート)のフリーラジカル含量を表すEPRスペクトルを示す図である。
【
図9】代表的な半結晶性加水分解性重合体、具体的にはP3OHBのDSC曲線を示す図である。
【
図10】様々な条件の対象となる幾つかの材料の融解エンタルピー当たりのフリーラジカル含量のグラフ表示を示す図である。
【
図11】酸素含有水性媒体に曝露され、様々な時点で測定された2:1PGA/TMC共重合体放射線照射試料のEPRスペクトルを示す図である。
【
図12】酸素含有水性媒体に曝露され、様々な時点で測定された放射線照射2:1PGA/TMC共重合体ウェブにおけるROSの存在の指標である相対発光量、すなわち、RLUで報告される連続光ルミネセンス測定値のグラフ表示を示す図である。
【
図13】酸素含有水性媒体に曝露され、様々な時点で測定された放射線照射2:1PGA/TMC共重合体ウェブ試料における過酸化水素含量のグラフ表示を示す図である。
【
図13a】経時的に測定された放射線照射2:1PGA/TMC共重合体ウェブ試料からの過酸化水素放出のグラフ表示を示す図である。
【
図13b】90重量%2:1PGA/TMCと10重量%ポリジオキサノンから構成される放射線照射高分子顆粒混合物及び放射線照射2:1PGA/TMC共重合体ウェブの経時的過酸化水素放出を比較するグラフ表示を示す図である。
【
図14】様々な雰囲気条件下で放射線照射を受けた2:1PGA/TMC共重合体ウェブの試料のROS含量を表すRLUで報告される連続光ルミネセンス測定値の比較表示を示す図である。
【
図15】ガンマ照射を受け、後にエチレンオキシド(EO)滅菌に曝露された2:1PGA/TMC共重合体ウェブにおけるROS含量を表すRLUで報告される連続光ルミネセンス測定値のグラフ表示を示す図である。
【
図16】
図15の2:1PGA/TMCウェブの経時的なスーパーオキシド含量のグラフ表示を示す図である。
【
図17】固形クーポン型の放射線照射2:1PGA/TMC共重合体におけるROS含量を表すRLUで報告される連続光ルミネセンス測定値のグラフ表示を示す図である。
【
図18】酸素含有水性媒体に曝露された、様々な時点における電界紡糸放射線照射2:1PGA/TMC共重合体の経時的なスーパーオキシド含量のグラフ表示を示す図である。
【
図19】放射線照射2:1PGA/TMC共重合体試料のRLUで報告される連続光ルミネセンス測定値のグラフ表示を示す図である。試料測定値間の差異は、酸素含有水性媒体に曝露されるとそれらの試料によって生成される一重項酸素とスーパーオキシドのレベルを表す。
【
図20】様々な放射線照射線量レベルでの2:1PGA/TMC共重合体試料におけるROS含量を表すRLUで報告される連続光ルミネセンス測定値のグラフ表示を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は電離放射線への曝露後に安定化フリーラジカルを含有する半結晶性加水分解性生体適合性高分子材料である。その材料は、限定されないが、身体上又は身体中の創傷部位又は他の部位のような選択された標的部位へ安定化フリーラジカルを送達することができる。酸素含有水性媒体と接触するとそのフリーラジカル含有材料は長期間にわたって活性酸素種を発生することができる。
【0022】
1つの態様では、本発明は管理線量の電離放射線に曝露された半結晶性重合体を含む送達媒体に関する。本書の目的のため、「重合体」という用語は「ホモ重合体」と「共重合体」の両方を含むものとする。適切な重合体は、アモルファス領域と高次に組織化された分子構造を有する領域(結晶質領域)の存在ために半結晶性である。重合体が(結晶の融点より上で)粘性が有るアモルファス状態から固形状態まで冷却されると、化学構造に応じて高分子結晶が形成し得る。代替的実施形態では、ガラス状態の重合体をその重合体の結晶完全性温度まで加熱し、後に冷却することによって高分子結晶が形成され得る。
【0023】
結晶では重合体鎖自体が規則的に指向して密に充填された領域になることができる。隣接するアモルファス領域はより不規則に充填されており、同じほど密ではない。結晶における高分子コイルの比較的に密な充填のため、重合体鎖の移動がその重合体のこの相又は領域では制限されている。結晶性である重合体のパーセンテージは「パーセント結晶化度」と呼ばれる。パーセント結晶化度は重合体の特性に影響を及ぼす。パーセント結晶化度は、飽和結晶質状態において試験物質の結晶化度レベルを類似の対照物質の結晶化度レベルと関連付けることによる、示差走査熱量測定(DSC)又は分光学的方法などの分析手法によって決定され得る。DSCは(結晶質)融解の潜熱を定量するために用いられ、且つ、結晶質画分を融解するために必要なエネルギーの推定値を提供する。
【0024】
水性媒体と反応すると重合体又は共重合体は加水分解を起こし、それによって重合体鎖又は共重合体鎖の切断が生じる。加水分解は環境要因及び他の要因に応じて様々な程度と速度で進行することができる。重合体鎖又は共重合体鎖の全てではなく幾らかが水との反応によって分解されたとき、部分的加水分解が起こる。「加水分解によって実質的に分解される」は、固形重合体塊のかなりの部分が周囲の水性流体に溶解し、約20パーセント以上の固形塊が、1つの実施形態では約40パーセント以上の固形塊が、別の実施形態では約50パーセント以上の固形塊が、さらに別の実施形態では約75パーセント以上の固形塊が、及びさらに別の実施形態では約95パーセント以上の固形塊が失われることになることを意味する。本発明での使用に適切な重合体は加水分解性であり、その加水分解性はほぼ中性のpHを有する水性流体(例えば、水、血液、汗)に曝露されると0から24か月の内に、1つの実施形態では0から12か月の内に、別の実施形態では0から6か月の内に、及びさらに別の実施形態では0から1か月の内に加水分解により実質的に分解される化合物(例えば、重合体又は高分子付加物)の特徴として定義される。化合物が曝露される水性液体の温度は室温と約37℃の間であり得る。身体中には酵素攻撃などの他の分解手段も存在し得る。
【0025】
重合体又は高分子付加物が加水分解性であるかどうか決定するのに有用である1つの方法は、(a)重合体又は高分子付加物で被覆された基材を作製するためにその重合体又は高分子付加物をステントなどの安定基材に付着させること、(b)その残った固形の重合体又は高分子付加物で被覆された基材の重量を量ること、(c)ほぼ中性のpHを有する水性流体にその重合体又は高分子付加物で被覆された基材を浸漬すること、及び(d)その基材の重量を定期的に量ることによって適切な水性環境におけるその重合体の挙動を特徴解析することを含む。適切な期間の曝露の後に残った固形の重合体又は高分子付加物の量が少なくなって残っている場合、その重合体又は高分子付加物は「加水分解性」であると考えられる。
【0026】
医療用途では前記重合体は生体適合性であることが望ましく、生体適合性は「特定の用途において適切な宿主反応によって何事か実施する能力」を有する材料(The Williams Dictionary of Biomaterials、DF Williams、リバプール大学出版、1999年)を意味する。さらに、生体適合性重合体は生体吸収性であり得る。「生体吸収性」は、物質が1から24か月までの量の時間の内に、1つの実施形態では1から18か月までの量の時間の内に、別の実施形態では1から12か月までの量の時間の内にインビボ環境によって実質的に分解されることを意味する。本発明での使用に適切な生体適合性半結晶性加水分解性重合体にはポリ(ジオキサノン)(PDO)、ポリ(グリコリド)(PGA)、ポリ(ラクチド)(PLA)、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(セバシン酸)などのポリ(無水物)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)などのポリ(ヒドロキシアルカノエート)(P3OHB)、並びに生体適合性、半結晶性、及び加水分解性の定義に合致する他のあらゆる重合体が含まれるが、これらに限定されない。本発見での使用に適切な生体適合性半結晶性加水分解性共重合体にはポリ(グリコリド)/トリメチレンカーボネート(PGA/TMC)、ポリ(ラクチド)/トリメチレンカーボネート(PLA/TMC)、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバレレート(PHB/PHV)、並びに生体適合性、半結晶性、及び加水分解性である他のあらゆる共重合体のような上記の重合体の共重合体が含まれるが、これらに限定されない。本明細書において参照される共重合体は第1重合体対第2重合体の重量比に基づいて記載される(例えば、2:1PGA/TMCは重量に基づいて1部のTMCに対して2部のPGAを意味する)。
【0027】
電離放射線は、それぞれ原子又は分子から電子を解放することができる粒子又は光子から構成される放射線であって、イオンを作製することができる放射線ある。イオンは正味電荷を有する原子又は分子である。重合体鎖に影響することができる電離放射線の種類にはX線、電子ビーム(eビーム)、及びガンマ放射線が含まれるが、これらに限定されない。エネルギーと物体への透過深度は様々な種類の電離放射線の中で異なる。例えば、ガンマ放射線は放射線源から放射される(電磁)光子であり、通常は0.7メガエレクトロンボルト(MeV)(セシウム137)から最大で1.3メガエレクトロンボルト(MeV)(コバルト60)の範囲のエネルギーを有する。形状とエネルギーを考慮すると、ガンマ放射線は高密度の物体に対しても非常に透過性があり、したがって、一般には滅菌のための(全貨物輸送にまで範囲が拡大する)大量放射線照射モードとして用途を見出している。他方、eビーム照射は電子銃から放射される加速電子(粒子)であり、したがって、1eVから最大で1MeV超までの広いエネルギー範囲に調節され得る。形状とエネルギー範囲を考慮すると、eビーム照射は透過性がガンマ放射線の透過性に遠く及ばず、透過深度は放射線照射を受けた物体の密度によってさらに影響を受ける。したがって、eビームは器具全体の滅菌に、及び性質の改変又は後の化学反応のために物質を部分的に放射線照射し、それでいて基層の物質、構造、又は基材が影響されないままに残すことが望ましい場合に物質修飾に用途を見出している。
【0028】
吸収線量、すなわち、物体に当てられた照射の量は「グレイ」又は「ラド(rad)」という単位で報告されるのが典型的であり、1rad=0.01グレイ(Gy)である。さらにより典型的なことには、吸収線量は「キログレイ」又は「メガラド」で報告され、1kGy=0.1Mradである。医療用途では物質の照射は滅菌目的に有用であることが示されている。耐久性、且つ、吸収性の重合体及び共重合体に対して用いられる場合、典型的な最終的な封入済みの器具の滅菌は約25kGyの線量を用いて達成される。
【0029】
しかしながら、ある特定の重合体は電離放射線に曝露されると分子鎖切断を起こし、その分子鎖切断は影響を受ける重合体鎖に沿ってフリーラジカルの形成を引き起こすことがあり得る。本明細書において使用される場合、「フリーラジカル」という用語は不対電子又は開殻構成を有する原子、分子、又はイオンと定義される。フリーラジカルは正の電荷、負の電荷、又はゼロの電荷を有し得る。少数の例外があるが、ラジカルはこれらの不対電子のために非常に化学的反応性に富むことになる。本発明の材料は、中で安定化フリーラジカルを発生させるために当技術分野において知られているあらゆる方法により生体適合性半結晶性加水分解性重合体を電離放射線に曝露することによって獲得される。あらゆる種類の電離放射線照射、例えば、ガンマ照射及びeビーム照射を用いることができる。物体全体(バルク)照射はガンマ照射によって、及び(充分に高いeVエネルギーの)eビーム照射によって容易に実現される。部分的物体照射はより低いエネルギーのeビーム処理によって達成され得る。あらゆる量の電離放射線を用いることができ、1つの実施形態では線量は約50kGy未満であり、別の実施形態では線量は約30kGyから約50kGyまでである。別の実施形態では、代替的方法によって達成されている滅菌と共に低レベルの電離放射線を適用することができる。さらに別の実施形態では、生体適合性半結晶性加水分解性重合体は、滅菌に必要とされる線量を超えるが前記重合体を実質的に分解するのに必要とされる線量よりは少ない線量の電離放射線に照射済みである。
【0030】
次に、前記材料は制御可能な期間にわたるこれらの安定化フリーラジカルの標的部位への制御可能な送達に有用である。本明細書において使用される場合、「安定化フリーラジカル」が意味するものは、結晶又は結晶性構造体などの保護マトリックス中で形成されるラジカルであって、したがって周囲の環境へのラジカルの曝露が可能になるようにそのようなマトリックスが充分に分解されるまで化学反応において反応することができない、又は消費されることがあり得ないラジカルである。安定化フリーラジカルの濃度は、限定されないが、電離放射線曝露のレベル、持続期間、及びエネルギーレベル、半結晶性重合体内での結晶化度の程度、捕捉剤のような添加物の存在、及び処理工程の順序などの処理パラメーターを変えることによっても影響され得る。
【0031】
所与の材料においてフリーラジカルを検出及び分析するための適切な道具は電子常磁性共鳴(EPR)である。この方法は文献中でESR又は電子スピン共鳴として報告されているものと同義である。簡単に表現すれば、EPR「シグナル」又は「スペクトル」が存在するだけで、EPRによって印加される磁場と相互作用する所与の材料中のフリーラジカルの存在が確認される。フリーラジカルが存在しない状態ではEPRスペクトルを観察することは無く、代わりに平坦な線を見るだけになる。
図1に示されているEPR測定値は本発明の半結晶性高分子実施形態(PDO、2:1PGA/TMC、及びP3OHB)におけるフリーラジカルの存在を示している。対照的に、
図1におけるアモルファス重合体(d,l-ラクチド及びpTMC)はほとんど又は全くEPRシグナルを示さず、フリーラジカルの不在を表している。
【0032】
さらに、本発明の半結晶性加水分解性高分子実施形態は、その半結晶性重合体の温度が結晶質ドメインの融解温度に近づくとフリーラジカルピークの消失を示す。例えば、2:1PGA/TMC共重合体の結晶質融解温度は約200℃であり、
図2に示されるように、かなりの融解吸熱が180℃から200℃までに観察される。融解中に重合体鎖の移動度が大いに上昇し、フリーラジカルの再結合と他の物質との反応の可能性を増加させる。
図3に示されるように、45kGyガンマ照射2:1PGA/TMCのEPRシグナルが室温、80℃及び130℃で存在する。180℃では結晶質ドメインが融解し始め、EPRシグナルが減少する。EPRピークが無いことから分かるように、冷却して180℃から室温に戻すことではフリーラジカルは再生成されない。一度でも半結晶性重合体の結晶質ドメインの融解によってフリーラジカルが解放されると、フリーラジカルが自然に再形成することはない。
【0033】
図4はランダムな鎖構造を有し、且つ、ほとんど又は全く結晶質ドメインを有しない1:1PGA/TMCにおける上記の例と同じ共単量体[グリコリド(GA)及びトリメチレンカーボネート(TMC)]のDSC曲線である。45kGyでのガンマ照射の後にこの非結晶質アモルファス共重合体型は顕著なEPRシグナルを示さない。
図5に示されるように、そのシグナルは0.1(単位)未満である。
図4の尺度に対する
図5で反映されている尺度の変化に留意することが重要である。加熱すると最大で280℃までEPRシグナルのトレースに変化がない。その後に冷却して室温まで戻しても顕著なEPRシグナルは作り出されない。EPRシグナルの不在によって、この放射線照射アモルファス性ランダム共重合体が実質的に全く安定化フリーラジカルを含有しないことが確認される。
【0034】
この現象の別の例を、約110℃の結晶質融解温度を有するポリジオキサノン(PDO)の使用を組み込んでいる
図6に見ることができる。
図7に示されるように、45kGyでのガンマ照射の後にPDO半結晶性加水分解性重合体は室温で、及び80℃までの加熱時に強いEPRシグナルを示す。しかしながら、一旦、結晶質融解温度に達すると、EPRシグナルが消失し、残留するフリーラジカルが無い(
図7)。
【0035】
本発明の別の生体吸収性加水分解性半結晶性高分子実施形態であるポリ-3-ヒドロキシブチレート(P3OHB)においてもフリーラジカルの存在がEPR測定値によって示される。P3OHBは約170℃の結晶質融解温度を有する(
図9)。
図8に示されるように、45kGyでガンマ照射を受けたP3OHBのEPRシグナルは室温で、並びに80℃及び130℃までの加熱時に強いが、温度が結晶質融解を超えて180℃までさらに上昇すると消失する。冷却して180℃から室温まで戻すことではEPRシグナルは再形成されない。また、一度でも半結晶性重合体の結晶質ドメインの融解によってフリーラジカルが解放されると、新しいフリーラジカルが自然に再形成することはない。
【0036】
重合体鎖の移動は重合体の結晶相内に限定される。所与の線量の電離エネルギーについて、照射によって生成されたフリーラジカルの安定性は結晶相内の移動制限の程度と関連する。DSCは結晶質画分を融解するために(すなわち、結晶の拘束力に打ち勝つために)必要とされるエネルギーの推定値を提供するために融解潜熱を評価する。結晶質画分を融解するために必要とされるエネルギーはDSCトレース上の融解吸熱面積を積分することで決定され、それは融解エンタルピーと呼ばれる。上に記載したように、EPRはフリーラジカルを検出するために使用され、且つ、所与の材料におけるフリーラジカル濃度の推定値を提供することができる。フリーラジカル濃度のこの推定値は試料の単位重量当たりのEPRスペクトルの二重積分によって決定される(Eatonらによる書籍である「Quantitative EPR」、30頁、2010年を参照のこと)。それらの2つの値の組合せでは二重積分された試料の単位重量当たりのEPR強度が融解エンタルピーによって除算され、その組合せによって単位結晶化度当たりのフリーラジカル濃度の総合推定値が提供され得る。より頑強な結晶相を有する材料実施形態ほど形成されたフリーラジカルにとっての安全地帯を提供する可能性が高くなる。半結晶性加水分解性重合体における安定化フリーラジカルのこのより効果的な貯蔵は結晶当たりのより高濃度のフリーラジカルを提供することに有用である。
図10は45kGyのガンマ照射への曝露後と60kGyのガンマ照射後の半結晶性加水分解性生体吸収性2:1PGA/TMC試料の10単位を超える高濃度の結晶質融解エンタルピー当たりのフリーラジカルを表す。結果生じる効果は、上昇したレベルの電離放射線に曝露された生体適合性半結晶性加水分解性重合体の中に高濃度の安定化フリーラジカルが持続することができることを示している。1つの実施形態では、結晶質融解エンタルピー当たりのフリーラジカル濃度は10単位を超える。別の実施形態では、結晶質融解エンタルピー当たりのフリーラジカル濃度は15単位を超える。さらに別の実施形態では、結晶質融解エンタルピー当たりのフリーラジカル濃度は20単位を超える。
【0037】
生体適合性半結晶性加水分解性重合体の中に確保された安定化フリーラジカルは、重合体の加水分解が結果として起こる水性媒体への曝露によって制御可能な方法で入手され得る。水性媒体のpH及び/又は温度が加水分解速度に影響し、したがって、安定化フリーラジカルの入手速度に影響することもあり得る。適切な水性媒体には水、水性緩衝溶液、生体液、及び水蒸気が含まれるが、これらに限定されない。一度でも水性媒体中で入手されると、フリーラジカルは水性媒体中の溶解酸素との反応に利用できる。「酸素含有水性媒体」は水と酸素を含むあらゆる液体、又は他の場合では材料の加水分解が可能であり、且つ、酸素を含むあらゆる液体を意味する。生体システムにおいて、適切な酸素含有水性媒体には創傷浸出液、血液、血清、汗、及び細胞外液が含まれるが、これらに限定されない。例えば、身体内に、創傷床内に、皮膚表面に、あらゆる粘膜面に、並びに、他の領域に水性媒体が存在する。
【0038】
フリーラジカルが酸素分子と反応する場合、活性酸素種(ROS)が生成され得る。例えば、溶解酸素と反応すると、フリーラジカルは酸素分子を還元してスーパーオキシドO2・-を生成する。スーパーオキシドは活性酸素種、又はROSと呼ばれる活性化合物の広範なファミリーの構成要素である。スーパーオキシドは自然に、又は触媒により分解して過酸化水素(H2O2)になることがあり得る。スーパーオキシドは一酸化窒素(ΝΟ・)と反応してペルオキシ亜硝酸(ONOO-)を形成することもできることが報告されている。過酸化水素の水フェントン反応によってもヒドロキシルラジカル(・ΟΗ)とペルヒドロキシラジカル(・ΟΟΗ)が生じる。上記の化合物並びに一重項酸素(1O2)、ヒポクロリット(ClO-)、及びそれらの全ての組合せなどの他の化合物がROSファミリーに含まれる。
【0039】
本発明の材料の結晶質部分におけるフリーラジカルの安定性に起因して長期間にわたってROSが生成され得る。「長期間」は最少でも24時間を超えて、1つの実施形態では1週間を超えて、別の実施形態では1か月を超えて持続することを意味する。
【0040】
スーパーオキシドの消衰性が検出方法の選択を必要とする。スーパーオキシドを検出する1つの適切な方法はFLUOstar Omegaマイクロプレートリーダー(BMG Labtech社、ケーリー、ノースカロライナ州)などの適切な分光光度計と共にルミノールなどの化学発光化合物を、又はさらに別の方法は光タンパク質フォラシン(Pholasin)(登録商標)(Knight Scientific社、プリマス、英国)を使用することを伴う。フォラシン(登録商標)はスーパーオキシド及び他のROSと反応して光を発する、又は照明する。スーパーオキシドの寄与は、姉妹試料ウェル間のフォラシン(登録商標)化学発光シグナルの差異によって特定的に決定され、姉妹試料ウェルの1つはスーパーオキシドが酸素と過酸化水素に変換されるスーパーオキシド不均化反応を触媒する酵素であるスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)を含む。本明細書における放射線照射実施形態は安定化フリーラジカルの形成と存在を示し、且つ、一度でも酸素含有水性媒体に曝露されるとスーパーオキシド(O
2・-)の発生を示す。さらに、本明細書における放射線照射2:1PGA/TMC共重合体実施形態は照射線量と(スーパーオキシドを含む)ROS発生との間に非線形傾向を特に30kGyから50kGyのレベルの間で示す(
図10)。
【0041】
本発明の材料と方法によって生成され得る別のROS種は一重項酸素である。適切な分光光度計と共にMCLA(2-メチル-6-(p-メトキシフェニル)-3,7-(ジヒドロイミダゾ[1,2α]ピラジン-3-オン))を使用して一重項酸素を検出することができる。この例では、一重項酸素の寄与は姉妹試料間で決定され、姉妹試料のうちの1つはアジ化ナトリウム(NaN3)を含む。アジ化ナトリウムは一重項酸素を消去する(Bancirova、Luminescence誌、第26巻(第6号)、685~88頁(2011年))。本明細書における放射線照射実施形態は安定化フリーラジカルの形成と存在を示し、且つ、一度でも酸素含有水性媒体に曝露されると一重項酸素の発生を示す。
【0042】
過酸化水素は本発明の材料と方法によって生成され得るさらに別のROS種である。アンプレックス(Amplex)(登録商標)レッド(Molecular Probes社、ユージーン、オレゴン州)が、マイクロプレートリーダーを使用する過酸化水素用蛍光プローブとして使用され得る。過酸化水素の寄与は、酵素カタラーゼを含む姉妹試料において観察される発光低下によって定量される。酵素カタラーゼは過酸化水素を水と酸素に分解する。本明細書における放射線照射実施形態は安定化フリーラジカルの形成と存在を示し、且つ、一度でも酸素含有水性媒体に曝露されると過酸化水素の発生を示す。
【0043】
水性媒体中に存在する酸素に加えて、幾つかの実施形態では本発明の材料は酸素発生物をさらに含んでよい。本明細書において使用される場合、「酸素発生物」という用語は酸素を発生することができるあらゆる構成要素として定義される。酸素発生物が本発明の材料に組み込まれると、場合によっては活性酸素種のさらなる発生を引き起こすために追加の酸素が本材料の安定化フリーラジカルとの反応に利用可能になるので酸素発生物は有利である。様々な濃度及び/又は持続期間でROSによって影響を受ける生物学的過程の範囲を考慮すると、酸素の利用可能性を変えることによってROS発生を修飾する能力が望ましいことがあり得る。
【0044】
ROSの化学的反応性を考慮すると、ROSと反応することができる追加の化合物を本発明の材料に組み込むことが有利であり得る。例えば、窒素含有化合物はROSとの一酸化窒素を産生する反応が可能であり、本明細書に記載される材料又は器具に組み込まれ得る。ROSと同様に、一酸化窒素は複数の生物学的過程の介在因子であり、心血管の健康及び疾患を含むが、これらに限定されない生理状態及び病理状態において重要な役割を果たすことが知られている)。
【0045】
制御可能な様式で反応し、ROSなどの生物学的活性分子を生成する安定化フリーラジカルの能力を考慮すると、所望の治療部位に安定化フリーラジカルを供給するための方法は治療に使用するための基礎である。例えば、限定されないが、創傷などの治療部位に、又は治療部位の近くに本明細書に記載されるスーパーオキシド発生材料を設置することができ、それによって産生されたスーパーオキシドが治癒過程を支援することができる。治療部位と安定化フリーラジカルを含む本材料との間の接触は直接でも間接でもよい。例えば、治療部位と本材料との間に一層の治療組成物又は他の医用材料を負荷してよい。次に、その安定化フリーラジカル含有材料を治療部位の近くに所望の期間保持することができる。
【0046】
加えて、所望の治療部位において本発明の材料を適用した後にその治療部位においてROSの産生を増強するための様々な機序を利用することができる。例えば、安定化フリーラジカルを含む材料を適用すること、その材料を酸素含有水性環境に曝露すること、及びその材料に利用可能な酸素の量を調節することによってROS産生をさらに増強する。利用可能な酸素は例えば高圧酸素療法による大気酸素濃度の増加によって増加することができる。別の例では局所的酸素療法によって局所的大気酸素濃度を調節することができる。血液によって送達される酸素の量は血液中の酸素濃度を増加させることによって増加することができる。例えば、血液の酸素含量は利用可能な赤血球の数を増やすと増加することができる。さらに、赤血球による酸素の放出はボーア効果を介してpHを低下させると増加することができる。血液が供給する酸素の全体量を増加させるために治療部位において潅流を増加させることができる。潅流を増加させるための方法には陰圧創傷閉鎖療法、外科的処置又は医療介入処置の適用が含まれる。加えて、上で記載したように、酸素発生要素を生体適合性半結晶性加水分解性材料に組み込むことによって安定化フリーラジカルとの反応に利用可能な酸素を増加させることができる。
【0047】
安定化フリーラジカルを含む本材料は所望の用途に応じて、創傷用包帯、火傷用包帯、軟膏、懸濁液、代用皮膚、組織スキャフォールド、シート、ペースト、繊維、乳液、ゲル、ミセル、被覆、溶液、又は粉体、又はそれらの組合せを含むが、これらに限定されない二次元構成又は三次元構成などの複数の形状をとることができる。異なる形状の安定化フリーラジカルを含む本材料は異なる比表面積を有することがあり得、その比表面積が次にROSの発生に影響を与えることがあり得る。幾つかの例では、本生体適合性高分子材料は約0.001m2/gから約50m2/gまでの比表面積を有し得る。「比表面積」は、単位体積又は単位質量に存在する全ての粒子、繊維、泡、及び/又は多孔性構造体の利用可能な表面の合計を意味する。この比表面積はその材料の形、サイズ、多孔性、及び微小構造に左右される。比表面積はガス吸着法によって測定され得る。比表面積は、加熱脱離のガスクロマトグラムから決定される比保持容量に基づいてBETの式から計算される。通常、窒素が吸着質として使用される。
【0048】
1つの可能な形状は、柔軟層か剛体層のどちらかとして定義されるシートであって、厚みに対する横幅か幅のどちらかの比率が10:1を超えるシートである。この用途の目的のため、シートは比較的に平坦な編成に堆積されたフィラメントから成ることがあり得る。「フィラメント」はかなりの長さの繊維又は複数の繊維を意味する。繊維を堆積すること又は集合させることによって作られるシートはウェブとして知られる。ウェブと他の材料は不織性であり得、このことはそれらの材料が長い繊維から作られ、化学処理、機械的処理、加熱処理、又は溶媒処理により接着していることを意味する。さらに、繊維は、直径に対する長さの比率が一般に100:1を超え、直径が一般に約5mm未満である円筒状又は管状の構造体として定義される。適切なROS発生シート材料は1μmと20mmの間の厚みを有し得る。幾つかの好ましい実施形態は100μmと10mmの間の厚みを有する。所望の表面のトポグラフィーに対する順応性を高めるために、例えば、治療部位に対して順応するようにシートの厚みと密度を適合させることができる。
【0049】
本発明の材料のしなやかな形状は、ROSの発生が望まれる標的部位へ効果的にその材料が適用されるように選択され得る。乳液、泥状物、又は懸濁液の形状で使用される場合、注射筒又は他の適切な液体送達器具によって身体にROS発生材料を供給することができる。ペースト、ゲル、又は軟膏の形状で使用される場合、へら又は他の適切な粘性液体送達器具によって治療部位にROS発生材料を供給することができる。粉体又は粒子の形状で使用される場合、適切な手段によって所望の治療部位にROS発生材料を振りかけることができ、又は噴霧することができ、又は付着させることができる。異なる形状のROS発生材料は異なる比表面積及び/又は縦横比を有することがあり得るので、形状の選択は治療部位において産生されるROSの濃度と持続期間に影響を与える1つの方法である。
【0050】
本材料は多孔性である必要は無いが、ある特定の事例では酸素含有水性媒体が本材料の空き空間に浸透することができるように多孔性又は増加した表面積が望ましいことがあり得る。「多孔性」は、材料がその材料自体の固有の密度のかさ密度よりも低いかさ密度を有していることを意味する。5パーセントから最大で99パーセントまでの範囲の多孔性は通常は生体液の接触を高め、その部位におけるROS発生に影響を与えるのに充分である。幾つかの状況では10パーセントから最大で90パーセントまでの範囲の多孔性を有することが有用であり得る。本明細書に記載される多孔性ROS発生材料のその他の利点は組織スキャフォールドとして機能するそれらの材料の能力である。多孔性ROS発生材料は組織スキャフォールドとして新血管形成を誘導することができ、コラーゲン組織で満ちることができ、細胞増殖媒体として機能することができ、その材料への細胞遊走を刺激することができ、且つ、細胞増殖と分化を促進することができ、且つ/又は経時的に同化することができる。多孔性の変化は、生物学的過程に影響を与えるために必要に応じてROS発生特性を変えることがでるので、所望の用途に応じて調整され得る。
【0051】
本明細書におけるROS発生材料の別の有用な特性は、そのROS発生材料が三次元形状で提供され得ること、又は成形可能であることである。「成形可能」は、特定の外形、形状、模様、又は嵌めあいに順応又は適合する構造体の能力を意味する。空き空間を満たすために、又は治療部位若しくは治療場所における、若しくはその付近の不規則なトポグラフィーと接触するために三次元形状の材料又は成形可能材料が望ましいことがあり得る。考えられている実施形態にはプラグ、チューブ、ステント、ファズ、コイル、泡、スリング、クリップ、粒子、チップ、及びそれらの変形物が含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
本ROS発生材料のさらに別の利点は、視覚化を高めるためにそのROS発生材料が着色材料又は染色材料又は自然着色材料から形成され得ることである。例えば、肉芽組織の視覚化を容易にするために黄色のROS発生材料を使用することができ、その組織は明るい赤色で丸石状の外観によって特徴づけられる。
【0053】
本発明の材料がとることができる形状の前記の範囲に加え、複数の物質の複合物が考えられている。本明細書において使用される場合、複合物は、組み合わされると個々の構成要素と異なる特性を有する材料を作り出す、著しく異なる特性を有する2種類以上の構成物質から作られる材料である。具体的には、ROSの多相性発生を可能にする複合物はROSの存在によって影響を受ける多数の生物学的過程に影響を与えることに役立つであろう。例えば、これらの複合物は、それぞれ安定化フリーラジカルを含むが、ROS発生プロファイルに関して異なる2種類以上の異なる加水分解性半結晶性重合体を含むことができるだろう。水性媒体に曝露されるとこれらの複合材料は活性酸素種の多相性発生を示すことができる。その複合物の構成重合体が異なる量の安定化フリーラジカルを含有する場合にROSの多相性発生が達成され得る。1つの実施形態では、構成重合体のうちの少なくとも1つの加水分解速度を改変し、そうして安定化フリーラジカルへのアクセスを変えることによってROSの発生を変えることができる。別の実施形態では、構成重合体のうちの少なくとも1つの結晶化度の程度を改変し、そうしてフリーラジカルを安定化するそれらの重合体の能力を変えることによってROSの発生を変えることができる。さらに別の実施形態では、構成重合体のうちの少なくとも1つの放射線線量を改変し、そうして分子鎖切断の間に形成されるフリーラジカルの数を変えることによってROSの発生を変えることができる。さらに1つの実施形態では、放射線線量及び重合体又は重合体複合物における透過深度を改変することによってROSの発生を変えることができる。ある特定の用途について、構成重合体のうちの少なくとも1つが生体吸収性であり得ることが考えられている。
【0054】
あるいは、ROSの初期バーストと長期にわたるROS発生をもたらすことができるだろう複合材料を考えることができる。1つの実施形態では、ROSのバーストを高めるために2種類の異なる加水分解性半結晶性重合体からなる複合混合物であって、酸素含有水性媒体に曝露されるとその混合物によって産生される活性酸素種の量が所与の放射線線量の電離放射線に照射されたそれらの少なくとも2種類の個々の加水分解性半結晶性高分子材料によって産生される活性酸素種の加重平均よりも多いことを特徴とする前記複合混合物を使用することができる。
【0055】
構成重合体が安定化フリーラジカルを含有する複合物に加えて、少なくとも1種類の安定化フリーラジカル含有物質と安定化フリーラジカルを含有しない少なくとも第2の物質を含む複合物が考えらえており、ROSを発生することができ、強化されており、安定で、部分的に耐久性がある器具を提供する点でその複合物は価値がある。少なくとも1種類の安定化フリーラジカル含有物質と安定化フリーラジカルを含有しない少なくとも第2の物質を含むそのような複合物は前記第1物質を前記第2物質基材に被覆することによって獲得され得る。その被覆は所望の第1物質を溶かして溶液にし、その溶液を延伸PTFEなどの第2物質の基材に塗布し、且つ、溶媒を除去することによってなされ得る。さらに、前記第1物質の小粒の前記第2物質基材へのスパッタ蒸着及びその後の接着又は融合によって被覆を実施することもできる。そのような被覆は基材上の表面被覆率並びに厚み及び多孔性について変化し得る。その後、そのような被覆物は加水分解性半結晶性重合体層においてのみ安定化フリーラジカルを発生するために部分深度照射を受けることができる。
【0056】
少なくとも1種類の安定化フリーラジカル含有物質とROS発生のプロファイルを改変する少なくとも第2の物質を含む複合物が考えられている。その改変物質はROSの量、比率、又は持続期間、又はそれらの組合せを変えることによりその物質の効果を達成することができる。ROSのプロファイルを変えるための1つの機序は前記第2物質について安定化フリーラジカルへの接近可能性を変えることである。ROS発生を変えるためのその他のアプローチでは、前記改変物質は酸素発生物及び/又は乾燥剤を含有することができる。別の実施形態では、前記改変物質は捕捉要素を含有することができ、その場合に捕捉の可能性がある標的は酸素、一重項酸素、過酸化水素、スーパーオキシド及びそれらの組合せを含む。さらに、前記改変物質は、スーパーオキシドと反応するスーパーオキシドディスムターゼ、又は過酸化水素と反応するカタラーゼなどの酵素を含有することができる。前記第2物質中に酸素発生物、乾燥剤、捕捉要素及び/又は酵素を含むことは生成されるROSのプロファイルを変えることになり、且つ、特定の用途のために調整され得るだろう。さらに、前記改変物質はROSとの化学反応に関与し、そうしてROSのプロファイルを変えることができる。さらに、前記改変物質は水性媒体と接触すると発熱反応又は吸熱反応を起こすことが可能であり得る。熱エネルギーの付加又は除去は重合体鎖の移動及び/又は他の化学反応のキネティクスを改変し、そうしてROS発生のプロファイルを変更することができる。
【0057】
少なくとも1種類の安定化フリーラジカル含有物質と治療用生物活性剤を含む複合物が考えられている。この背景での生物活性剤は、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)、骨形成タンパク質(BMP)、抗生物質、抗菌薬、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、インスリン、免疫グロブリンG型抗体、及びそれらの組合せなどの骨再生性物質、骨誘導性物質、増殖因子、走化性因子、モルフォゲン、医薬品、タンパク質、ペプチド、並びに自己起源、同種異系起源、異種起源又は組換え起源の生物活性分子からなる群より選択され得る。
【0058】
ROSの生物学的関連性を考慮すると、他の治療化合物、例えば、抗生剤又は抗癌剤とROS発生物品を併用することも考えられている。あらゆるクラスの全身投与される抗生化合物、例えば、キノロン類、ベータ-ラクタム類、及びアミノグリコシドとROS発生移植器具を併用することもでき、そのROS発生移植器具は汚染混入した場所又は感染した場所に永久移植物を設置することを許すことによるより効果のある治療法になり得る。そのような組合せは少ない抗生剤の投与と共に有効であることもあり得、耐性を減らす、又はそのような化合物の寿命を延ばす。さらに、限定されないが、銀、クロルヘキシジン及びそれらの組合せを含む他の抗菌剤とROS発生器具を併用することができる。その結果の併用療法によって、細菌のコロニー形成に対して耐性であり、また、非常に汚染混入した、又は感染した場所への設置が可能である移植物が提供され得る。パクリタキセル(tm)などのトポイソメラーゼII阻害剤のような抗癌剤と併用されるROS発生器具は、その器具がROSの局所的送達を行い、且つ、投与される化学療法薬の全身用量を少なくすることを可能にする場合により有効な治療を可能にすることができる。
【0059】
前記改変物質は、限定されないが、水分及び/又は酸素を含む要素に対するバリアーとして作用することもでき、その要素はフリーラジカルによる酸素のROSへの還元に影響する。別の実施形態では、前記改変物質は拡散バリアーとして機能することができる。拡散の制限は反応性成分又は反応産物を含むことがあり得、したがって、ROS発生プロファイルを変えることができる。安定化フリーラジカル含有物質と改変物質の複合物中の構成物質のうちの1つ以上が酸素発生物及び/又はROSと反応して一酸化窒素を産生することができる窒素含有化合物のようなその他の化合物を含有することができる。
【0060】
本明細書に記載される複合物は、複数の形状で存在し、1日、1週間又は1か月を含む複数の期間にわたってROSの発生が可能であることが予期され、したがって、それらの複合物の可能性のある用途の範囲を増やす。
【0061】
1つの実施形態では、例えば多孔性について同じ物質又は異なる物質からなる複数の層を含む複合物が所望の厚みを達成するために考えられており、且つ、それらの層のうちの少なくとも1つが不織生体吸収性半結晶性物質であることを特徴とする。そのような複合物の適切な厚みは約100umからおよそ10mm超までの範囲である。例えば、組織内殖を促進するために孔がより開いた層がその物品の一面にあり、一方、組織内殖を阻害するために孔がより密な層を反対側の面に使用する。
【0062】
加えて、本発明の材料はステント、メッシュ、グラフトなどのあらゆる移植可能医療器具、又はあらゆる治療用組成物に組み込まれ得る。「移植可能医療器具」は、外科手術、注射、配置、又は塗布又は他の適切な手段を介して移植され、物理的存在又は機械的特性のどちらかを介して達成される主要な機能を有するあらゆる物体を意味する。
【実施例】
【0063】
実施例1:フォラシン(登録商標)アッセイを用いる検出のROS試験方法
特定の試料中に存在するROSの量を決定するために典型的には96ウェル試料プレートと共にFLUOstar Omegaマルチモードマイクロプレートリーダー(BMG Labtech社、ケーリー、ノースカロライナ州)を利用した。このリーダーは二重注射筒型注入器容を有し、試薬を試料ウェルに注入する能力を有する。マイクロプレートパラメーターについては、ROS感受性光タンパク質であるフォラシン(登録商標)を含むABELアッセイキット61M(Knight Scientific社、15 ウォルズリー・クロース・ビジネス・パーク、プリマス、PL2 3BY、英国)のプロトコルに従った。注入器ポンプを逆浸透/脱イオン(RO/DI)水で洗浄し、リーダーを適切な温度(通常は37℃)に設定した。
【0064】
前記重合体試料の試験では、典型的には、約0.5cmの直径のディスクを使用した。そのディスクは所与のウェルの直径よりもわずかに小さかった。分析する試料の標的数を考慮し、適切な数のウェルを緩衝溶液で満たし、次に前記重合体ディスクを各ウェルに配置した。
【0065】
試料ウェルプレートを急いでマイクロプレートに挿入し、連続光ルミネセンス測定値(相対発光量、すなわち、RLUで報告される)を開始して収集した。15分の平衡化の後に試料と緩衝溶液を含む各ウェルにフォラシン(登録商標)を注入するか、又はピペットで添加した。データ収集が追加時間に続いた。
【0066】
実施例2:フォラシン(登録商標)アッセイを用いるスーパーオキシド及び他のROSの決定
所与の試料についてスーパーオキシドに起因するシグナルを決定するため、実施例1に記載される方法に従って、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)により緩衝液が追加的に増加したマイクロプレート用の姉妹試料ウェルを同時に調製した。SODはABEL-61M試験キットの中に提供された。実施例1とSOD含有姉妹ウェルとの間の正規化されたRLUトレースの差異は、典型的には最大RLUとして報告されるスーパーオキシドに起因するシグナルを生み出した。スーパーオキシドを含まない「他のROS」はSODを含んだ試料ウェルについて記録されたデータである。
【0067】
実施例3:マイクロプレート上でのMCLAアッセイを用いる一重項酸素試験方法
典型的には96ウェル試料プレートと共にFLUOstar Omegaマルチモードマイクロプレートリーダーを利用した。試験チャンバー温度を37℃に設定した。前記重合体試料の試験では、典型的には、約0.5cmの直径のディスクを使用した。そのディスクは所与のウェルの直径よりもわずかに小さかった。スーパーオキシドと一重項酸素を検出するために用いられた化学発光指標はMCLA、すなわち、2-メチル-6-(p-メトキシフェニル)-3,7-(ジヒドロイミダゾ[1,2α]ピラジン-3-オン(Bancirova、Luminescence誌、第26巻(第6号)、685~88頁(2011年))であった。MCLAはオレゴン州、ユージーンのMolecular Probes社より購入した。姉妹試料ウェルを次のように調製した。
1.放射線照射クーポンと緩衝済みMCLA溶液
2.放射線照射クーポンと緩衝済みMCLAとSOD
3.放射線照射クーポンと緩衝済みMCLAとSODとNaN3
4.放射線照射クーポンと緩衝済みMCLAとNaN3
5.緩衝済みMCLAのみ
【0068】
ウェルの調製後、ウェルプレートを急いでマイクロプレートに挿入し、連続光ルミネセンス測定値(相対発光量、すなわち、RLUで報告される)を開始して約5分間収集した。試料1と2との間のRLUの差異はスーパーオキシドに起因する。1と4との間のRLUの差異は一重項酸素に起因する。1と3との間のRLUの差異はスーパーオキシドと一重項酸素に起因する。ウェル5のRLUは対照基線を設定する。
【0069】
実施例4:変調DSC試験方法
次の設定を用いる変調DSCモードを用いてTAインスツルメンツQ2000 DSC上で変調DSC(MDSC)を実施した:
2℃/分の基底加熱速度を用いる-50℃から250℃までの初期試料加熱。60秒の期間と共に+/-0.32℃の温度範囲を用いて変調を実施した。
【0070】
実施例5:標準DSC方法
次の設定を用いてTAインスツルメンツQ2000 DSC上でDSCを実施した:
10℃/分で-50℃から300℃までの初期試料加熱。
【0071】
実施例6:HC試料調製
供給業者から受領したときのペレット又は粉末を熱間圧縮することによって所与の高分子材料の固形クーポンを固形シートに調製した。それぞれのクーポンを、適切なことにはDSCにより確定した融点において、又は融点を超える温度において50PSIで5分間圧縮した。試料を放冷し、後に照射前の貯蔵のために-20℃の冷凍庫に入れた。全てのクーポンに45kGyで照射した(Sterigenics社、コロナ、カリフォルニア州)。
【0072】
実施例7:EPR試験方法
名目上は100kHz磁場変調と共に約9GHzで運用されているBroker Biospin X-バンドCW-EMX(ビレリカ、マサチューセッツ州)分光計を使用してEPRスペクトルを獲得した。典型的には、シグナル飽和を避けるために1mW未満のマイクロ波出力を用いてスペクトルを獲得し、EPRスペクトルに到達するためにマルチ重層スキャンを行った。
【0073】
実施例8:結晶質EPRの結果とアモルファスEPRの結果
ポリD,L-乳酸(Polysciences社、カタログ番号23976)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(Polysciences社、カタログ番号16916)、及びポリ(ジオキサノン)(Aldrich社、カタログ番号719846)のクーポンを実施例6のように調製した。ポリ(トリメチレンカーボネート)(pTMC)及び2:1PGA/TMCペレットのブロック共重合体のクーポンを実施例6に従って調製した。クーポンを個々の包装中に封入し、45kGyの標的線量までガンマ照射した(Sterigenics社、コロナ、カリフォルニア州)。試料を室温で維持した。照射とEPR測定との間の時間は約8週間であった。それぞれの照射を受けた試料について実施例(4又は5)によってDSCを実施して融解吸熱の存在を検出した。同様に、安定化フリーラジカルの存在をいくらかでも検出するために実施例7に従ってそれぞれの照射を受けた試料に対してEPRを実施した。結果が表1に作表されている。
【0074】
【0075】
実施例9
45kGy(標的線量)照射2:1PGA/TMCのフリーラジカル濃度を温度の関数としてEPRにより測定した。2:1PGA/TMCのブロック共重合体を米国特許第6165217号明細書に従って調製した。
図3は温度上昇と共に減少するEPRシグナルを示す。温度がこの半結晶性重合体の結晶質融解温度(Tm約200℃)に近づくにつれ、EPRシグナルと、したがって、フリーラジカル濃度が消失する。一旦、フリーラジカルが180℃で消失すると、
図3中の後の室温の線の平坦なEPR反応によって証明されるように、室温に冷却してもフリーラジカルは再形成されない。
【0076】
実施例10
45kGy照射PDOのフリーラジカル濃度を温度の関数としてEPRにより測定した。Aldrich社のカタログ番号719846から半結晶性PDO重合体を購入した。
図7は温度上昇と共に減少するEPRシグナルを示す。温度がこの半結晶性重合体の結晶質融解温度(Tm約110℃)に近づくにつれ、EPRシグナルと、したがって、フリーラジカル濃度が消失する。
【0077】
実施例11
45kGy照射1:1PGA/TMCのランダムブロックのフリーラジカル濃度を温度の関数としてEPRにより測定した。ペレット状の1:1PGA/TMCのランダムブロック共重合体を実施例6に従って調製した。
図5は室温で非常に小さいEPRを示す。この小さなシグナルは最大でPGAの結晶質融解温度(Tm約200℃)までの温度上昇と共に減少する。その後の室温での測定は最初の非加熱試料を用いたものよりもさらに小さいEPRシグナルを示す。この小さなEPRシグナルは、最初の試料の中に存在する少数のフリーラジカルがPGA融解温度まで加熱されて消失し、後に室温まで冷却されてもフリーラジカルが形成されないことを示唆している。
【0078】
実施例12
45kGy照射ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3OHB)のフリーラジカル濃度を温度の関数としてEPRにより測定した。Polysciences社のカタログ番号16916からp3OHBを入手した。その試料を45kGyで照射し、実施例7に従ってEPRシグナルを測定した。
図8は、比較的に高フリーラジカル濃度を有する放射線照射を受けた物質に応答する室温での強いEPRシグナルを示す。その後、このフリーラジカル濃度とEPRシグナルは温度上昇と共に減少する。温度がこの半結晶性重合体の結晶質融解温度(Tm約170℃)に近づくにつれ、EPRシグナルと、したがって、フリーラジカル濃度が消失する。一旦、フリーラジカルが180℃で消失すると、後の室温の線の平坦なEPR反応によって証明されるように、室温に冷却してもフリーラジカルは再形成されない。
【0079】
実施例13:フリーラジカルの経時的安定性
2:1PGA/TMCを米国特許第6165217号明細書に従って調製した。そのウェブを、前記重合体の非制御性早期加水分解を最小にするために乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中に封入した。次にその試料に25kGyの標的線量でガンマ照射した。その大きな放射線照射を受けたウェブ試料から二次試料クーポンを約2.5cm×約8cmのサイズにした。微量天秤で測定すると、各クーポンの最初の重量は1.5gと1.8gの間の範囲であった。約250mlの3倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Sigma Chemical社、P3813、セントルイス、ミズーリ州)を含む8オンス(約237ml)のスクリューキャップ付きジャーに各クーポンを入れた。ジャーの蓋をねじって密閉し、37℃に設定した加熱循環槽の中に置いた。水槽のレベルは各試料ジャー中の水レベルと一致するか、又はそれを越えた。
【0080】
選択した時間で個々の試料ジャーを取り出し、試料をジャーから取り出した。新しいペーパータオルに水を吸い取らせて試料を乾燥し、試料の重量を測定した。次に、緩衝液に浸漬された試料を外界真空チャンバー(非加熱)に移し、高真空に曝して残留している水を除去した。試料重量が一定に達したところで乾燥したと判定した。試料を真空下に一晩置くことが典型的であったが、4~8時間以内にこのことが起こることが観察された。乾燥したところで新しい乾燥剤を含む不浸透性のバリアー包装中に各試料を個々に包装した。放射線照射を受けた加水分解試料に対して実施例7に記載されるように室温でのXバンドEPR測定を実施した。
図11に示されているように最大で17日の時点までEPR反応を測定した。
【0081】
実施例14:経時的RQS
2:1PGA/TMCを米国特許第6165217号明細書に従って調製した。そのウェブを、前記重合体の非制御性早期加水分解を最小にするために乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中に封入した。次にその試料に25kGyの標的線量でガンマ照射した。その大きな放射線照射を受けたウェブ試料から二次試料クーポンを約2.5cm×約8cmのサイズにした。微量天秤で測定すると、各クーポンの最初の重量は1.5gと1.8gの間の範囲であった。約250mlの3倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Sigma Chemical社、P3813、セントルイス、ミズーリ州)を含む8オンス(約237ml)のスクリューキャップ付きジャーに各クーポンを入れた。ジャーの蓋をねじって密閉し、37℃に設定した加熱循環槽の中に置いた。水槽のレベルは各試料ジャー中の水レベルと一致するか、又はそれを越えた。
【0082】
選択した時間で個々の試料ジャーを取り出し、試料をジャーから取り出した。新しいペーパータオルに水を吸い取らせて試料を乾燥し、試料の重量を測定した。次に、緩衝液に浸漬された試料を外界真空チャンバー(非加熱)に移し、高真空に曝して残留している水を除去した。試料重量が一定に達したところで乾燥したと判定した。試料を真空下に一晩置くことが典型的であったが、4~8時間以内にこのことが起こることが観察された。乾燥したところで新しい乾燥剤を含む不浸透性のバリアー包装中に各試料を個々に包装した。実施例1に記載されるように放射線照射を受けた加水分解試料に対してROS測定を行った。
図12に示されているように最大で17日の時点までROSを検出した。
【0083】
実施例15:経時的スーパーオキシド
2:1PGA/TMCを米国特許第6165217号明細書に従って調製した。そのウェブを、前記重合体の非制御性早期加水分解を最小にするために乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中に封入した。次にその試料に25kGyの標的線量でガンマ照射した。その大きな放射線照射を受けたウェブ試料から二次試料クーポンを約2.5cm×約8cmのサイズにした。微量天秤で測定すると、各クーポンの最初の重量は1.5gと1.8gの間の範囲であった。約250mlの3倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Sigma Chemical社、P3813、セントルイス、ミズーリ州)を含む8オンス(約237ml)のスクリューキャップ付きジャーに各クーポンを入れた。ジャーの蓋をねじって密閉し、37℃に設定した加熱循環槽の中に置いた。水槽のレベルは各試料ジャー中の水レベルと一致するか、又はそれを越えた。
【0084】
選択した時間で個々の試料ジャーを取り出し、試料をジャーから取り出した。新しいペーパータオルに水を吸い取らせて試料を乾燥し、試料の重量を測定した。次に、緩衝液に浸漬された試料を外界真空チャンバー(非加熱)に移し、高真空に曝して残留している水を除去した。試料重量が一定に達したところで乾燥したと判定した。試料を真空下に一晩置くことが典型的であったが、4~8時間以内にこのことが起こることが観察された。乾燥したところで新しい乾燥剤を含む不浸透性のバリアー包装中に各試料を個々に包装した。実施例1及び2に記載されるように放射線照射を受けた加水分解試料に対してROS測定を行った。
図12に示されているように最大で17日の時点までスーパーオキシドを検出した。
【0085】
実施例16:アンプレックスレッドH2O2試験方法
試験物質を計量し、次に500μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の中に入れることによって過酸化水素(H2O2)測定用の試料溶液を調製した。室温でよく混合する条件下で30分後に100μlの結果生じた上清を試料採取した。
【0086】
50μlのアンプレックスレッドDMSO溶液(Molecular Probes社、ユージーン、オレゴン州)、100μlのホースラディッシュペルオキシダーゼ溶液(HRP、10単位/ml、Molecular Probes社)及び4.85mlの緩衝溶液を混合して反応溶液を新しく調製した。96ウェルプレートにおいて100μlの上清を各ウェルの中の等量の反応溶液と混合し、室温で30分間保温した。その後、540nm/580nm(励起光/発光)においてFluostar Omegaマイクロプレートリーダー上で蛍光シグナルを測定した。約700U/mlのカタラーゼ(ウシ肝臓由来、Sigma-Aldrich社、カタログ番号C30)を使用して姉妹試料ウェルを調製した。アンプレックスウェルとカタラーゼを含むアンプレックスウェルとの間のRLUの差異は過酸化水素に起因するものである。その差異は試料溶液を調製するために使用された試料の重量によって正規化された。
【0087】
実施例17:放射線照射2:1PGA/TMCからの過酸化水素の一時的放出
2:1PGA/TMCを米国特許第6165217号明細書に従って調製した。そのウェブを、前記重合体の非制御性早期加水分解を最小にするために乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中に封入した。次にその試料に25kGyの標的線量でガンマ照射した。その大きな放射線照射を受けたウェブ試料から二次試料クーポンを約2.5cm×約8cmのサイズにした。微量天秤で測定すると、各クーポンの最初の重量は1.5gと1.8gの間の範囲であった。約250mlの3倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Sigma Chemical社、P3813、セントルイス、ミズーリ州)を含む8オンス(約237ml)のスクリューキャップ付きジャーに各クーポンを入れた。ジャーの蓋をねじって密閉し、37℃に設定した加熱循環槽の中に置いた。水槽のレベルは各試料ジャー中の水レベルと一致するか、又はそれを越えた。
【0088】
選択した時間で個々の試料ジャーを取り出し、試料をジャーから取り出した。新しいペーパータオルに水を吸い取らせて試料を乾燥し、試料の重量を測定した。次に、緩衝液に浸漬された試料を外界真空チャンバー(非加熱)に移し、高真空に曝して残留している水を除去した。試料重量が一定に達したところで乾燥したと判定した。試料を真空下に一晩置くことが典型的であったが、4~8時間以内にこのことが起こることが観察された。乾燥したところで新しい乾燥剤を含む不浸透性のバリアー包装中に各試料を個々に包装した。実施例16に従って試料に対してH
2O
2を検出し、
図13に報告した。
【0089】
実施例17A:放射線照射2:1PGA/TMCからの過酸化水素の3か月の放出
2:1PGA/TMCを米国特許第6165217号明細書に従って調製した。そのウェブを、前記重合体の非制御性早期加水分解を最小にするために乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中に封入した。次にその試料に45kGyの標的線量でガンマ照射した。その大きな放射線照射を受けたウェブ試料から二次試料クーポンを約2.5cm×約8cmのサイズにした。各クーポンの最初の重量を微量天秤により測定した。約250mlの3倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Sigma Chemical社、P3813、セントルイス、ミズーリ州)を含む個々のスクリューキャップ付きジャーに各クーポンを入れた。ジャーの蓋をねじって密閉し、37℃に設定した加熱循環槽の中に置いた。水槽のレベルは各試料ジャー中の水レベルと一致するか、又はそれを越えた。
【0090】
選択した時間で個々の試料ジャーを取り出し、試料をジャーから取り出した。試料を乾燥させた。乾燥したところで新しい乾燥剤を含む不浸透性のバリアー包装中に各試料を個々に包装した。
【0091】
過酸化水素の検出のために実施例16からわずかに改変された方法に従った。試験物質を計量し、次に約200mg/mLの試料重量対緩衝液体積レベルでリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に入れることによってH2O2の試料溶液を調製した。室温でよく混合する条件下で60分後に結果生じた上清の二次試料を採取した。
【0092】
アンプレックスレッドDMSO溶液(Molecular Probes社、ユージーン、オレゴン州)反応溶液を調製した。96ウェルプレートにおいて上記の上清を各ウェルの中のDMSO反応溶液と混合し、37℃で保温した。その後、540nm/580nm(励起光/発光)においてFluostar Omegaマイクロプレートリーダー上で蛍光シグナルを測定した。約100U/mlのカタラーゼ(ウシ肝臓由来、Sigma-Aldrich社、カタログ番号C30)を使用して姉妹試料ウェルを調製した。アンプレックスウェルとカタラーゼを含むアンプレックスウェルとの間のRLUの差異は過酸化水素に起因するものである。希釈3%ストック過酸化水素溶液より作製された校正曲線に対する相関により、RLUシグナルを過酸化水素の絶対濃度に変換した。
【0093】
加水分解試料について、
図13aにおいて報告されるように過酸化水素が3か月を超えて検出された。
【0094】
実施例17B:重合体混合物による強化された過酸化水素産生
90重量%の2:1PGA/TMCと10重量%のポリジオキサノン(PDO)(Boehringer Ingelheim社より購入されたPDO、ロット番号76013)から構成される高分子顆粒混合物を米国特許第6165217号明細書に従って調製した。乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気不浸透性の重合体包装の中にウェブ試料を封入した。それらの試料に25kGyの標的線量で放射線照射した。より少ない二次試料から実施例16に従って過酸化水素発生を測定した。希釈ストック過酸化水素溶液より作製された校正曲線に対する相関により、RLUシグナルを過酸化水素の絶対濃度に変換した。
【0095】
45kGyという著しく高い標的線量で放射線照射されているが、米国特許第6165217号明細書に従って同様に調製された非混合性2:1PGA/TMCのみの試料に由来する以前のデータと上記の混合試料のシグナルを比較した。より少ない二次試料から実施例16に従って過酸化水素発生を測定した。希釈ストック過酸化水素溶液より作製された校正曲線に対する相関により、RLUシグナルを過酸化水素の絶対濃度に変換した。
図13bに報告されているように、より低い線量で照射を受けた混合物が非混合性相対物よりも著しく多くの量の過酸化水素を産生した。
【0096】
実施例18:不活性雰囲気と空気の間で増加したROSの比較
2:1PGA/TMC共重合体ウェブを米国特許第6165217号明細書に従って調製した。乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中にウェブ試料を封入した。包装を閉じる直前に乾燥窒素のパージにより包装内部の外界空気を除去した。別の試料包装は閉じる前に空気のパージを有しなかった。その後、45kGyの標的線量で封止された包装をガンマ照射した(Sterigenics社、コロナ、カリフォルニア州)。
【0097】
受領したらすぐに試料を取り出し、実施例1に記載されるようにフォラシン(登録商標)アッセイを行ってROSシグナルを測定した。実施例2に記載されるようにフォラシン(登録商標)アッセイによってスーパーオキシドの量を測定した。条件毎に2種類の試料を調製し、平均を報告した。窒素雰囲気放射線照射2:1PGA/TMCはフォラシン(登録商標)アッセイによって推測されるようにその空気相対物よりもかなり多くのROSを産生した(
図14を参照のこと)。
【0098】
実施例19:ガンマ処理EO滅菌例
2:1PGA/TMC共重合体ウェブを米国特許第6165217号明細書に従って調製し、20kGyの標的ガンマ照射(Sterigenics社、コロナ、カリフォルニア州)とその後のエチレンオキシド滅菌(Sterilization Services社、アトランタ、ジョージア州、30336)の対象とし、実施例1及び2に従って試験した。条件毎に2種類の試料を調製し、平均を報告した。ブランク対照試料と比べて高い約20分におけるピークによって証明されるように、試料は、
図6に示されているスーパーオキシドを含む
図15に示されているROSを産生した。
【0099】
実施例20:小表面積(HC’d)実施形態とROS
米国特許第4243775号明細書に従って材料から2:1PGA/TMCブロック共重合体固形クーポンを調製し、本書の実施例6に従って処理した。この物質の表面積は、後にROS測定のために使用される圧縮ディスクの幾何形状に基づいて約0.002m
2/gであると計算された。
図17に示されているようにROS測定を本書の実施例1に従って実施した。
【0100】
実施例21:大表面積電界紡糸2:1PGA/TMC
電界紡糸45kGyガンマ放射線照射2:1PGA/TMCにより生成されたスーパーオキシドが、フォラシンアッセイ方法を用いて時間の関数として測定された。ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)中の4重量%の2:1PGA/TMCの溶液から4層の電界紡糸試料を調製した。Elmarco NS Lab 500電界紡糸ユニットを使用してこの溶液から繊維を紡糸し、続いて120℃で5分間保温して冷結晶化した。金属プレート上に2:1PGA/TMCナノ繊維の薄い層を電界紡糸することによって第1層を作製した。層の厚みを増すために追加の溶液を添加し、さらに3層の電界紡糸2:1PGA/TMC繊維を堆積した。結果生じる試料は総計で4層の電界紡糸層から構成された。繊維の直径は100nm未満から約1.5ミクロン超までの範囲であった。45kGyの線量のeビームを用いて各試料に照射を行った(Sterigenics社、コロナ、カリフォルニア州)。実施例2に従って試験され、結果が
図18に示される。この材料の比表面積はBETにより測定され、約4.3m
2/gであることが分かった。
【0101】
実施例22:放射線照射物質上での一重項酸素検出
2:1PGA/TMCを米国特許第6165217号明細書に従って調製した。そのウェブを、前記重合体の非制御性早期加水分解を最小にするために乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中に封入した。その後、45kGyの標的ガンマ線量でその試料をガンマ照射した。放射線照射を受けた材料のクーポンを実施例3に従って試験した。スーパーオキシドと一重項酸素の両方に起因するシグナルを
図19に示されているように測定した。
【0102】
実施例23:血管形成に対する放射線照射材料と非放射線照射材料の比較
エチレンオキシド滅菌した非放射線照射半結晶性加水分解性高分子材料(グループA)を次のように調製した。2:1PGA/TMC共重合体ウェブを米国特許第6165217号明細書に従って調製し、120℃で一晩真空乾燥し、前記重合体の非制御性早期加水分解を最小にするために乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中に包装した。そのウェブから名目上1cmのウェブディスクを切り取り、次に乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中に再包装した。クーポンを滅菌するためにそれらのクーポンをエチレンオキシド(EO)透過性包装の中に移し、滅菌に充分なエチレンオキシド曝露(300分のEO曝露)(Nelson Labs社、ソルトレイクシティ、ユタ州)の対象とした。その材料を受け取り、後で使用するために必要になるまで、乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中に再包装した。
【0103】
ガンマ照射半結晶性加水分解性高分子材料(グループB)を次のように調製した。2:1PGA/TMC共重合体ウェブを米国特許第6165217号明細書に従って調製し、120℃で一晩真空乾燥し、前記重合体の非制御性早期加水分解を最小にするために乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中に包装した。そのウェブから名目上1cmのウェブディスクを切り取り、次に乾燥剤パック(Minipak、Multisorb Technologies社、バッファロー、ニューヨーク州)を含む空気/酸素不浸透性の重合体包装の中に再包装した。その後、それらのディスクに45kGyのガンマ照射の(名目上の)標的線量まで照射し(Sterigenics社、コロナ、カリフォルニア州)、後で使用するために必要になるまで包装を開封しないままでいた。
【0104】
apoE-/-マウスモデルはC57野生型類似体と比べて減退した血管発生を示すことが示されており(Couffinhalら、Circulation誌、第99巻、3188~98頁(1999年))、血管形成を研究するための広く使用される臨床前モデルになっている(Silvaら、Biomaterials誌、第31巻(第6号)、1235~41頁(2010年))ので、ROS発生器具のインビボでの血管形成性効果を評価するためにそのマウスモデルを選択した。グループAとグループBの滅菌ディスクを本研究の処置群として使用することによって同じ形状のROS発生材料の効果を比較した。
【0105】
ApoE-/-マウスと野生型対照の背中の左右に各処置群から1枚のディスクを皮下移植した。生存中の時点は3日、7日、及び14日であった。各種の6匹のマウスを各時点に捧げた。殺処理の後にそれぞれの移植物を取り出し、ひとまとめに固定し、組織学検査室に送った。ディスク当たり3枚の断面を処理し、H&E(ヘマトキシリン及びエオシン)とCD31抗体で染色した。その後、経験を積んだ組織学者が100倍の光学倍率下で移植物の境界内の血管数について各断面を手作業で評価し、データをJMPバージョン10.2.2(SAS Institute社、ケーリー、ノースカロライナ州)により分析した。全ての3日目の移植物では血管は観察されなかった。両方の条件とマウスの種類の中で7日目と14日目に血管を計数した。
【0106】
グループAの比較では、7日目においてapoE-/-マウスと野生型マウスの間で見られる血管の数に有意な差は無かった。しかしながら、この血管数の差異は下で示されるように14日目には統計学的に有意になり、apoE-/-マウスの血管数は野生型マウスの血管数よりも少なかった。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
ROS発生グループBでは、下で示されるように7日目と14日目の両方においてapoE-/-マウスと野生型マウスの間に血管数の有意な差異は無かった。このことは、apoE-/-マウスにおけるROS発生グループB材料の存在が野生型マウスと比べた血管数の差異を打ち消したことを表すようである。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
本発明の前記の説明によって当業者は、現在のところ最善の本発明の実施形態と考えられるものを作製し、使用することが可能になるが、当業者は本明細書における特定の実施形態、方法、及び実施例の変形、組合せ、及び同等のものの存在を理解し、認識する。したがって、本発明は上記の実施形態、方法、及び実施例によって制限されるべきではなく、本発明の範囲と精神の範囲内の全ての実施形態と方法によって制限されるべきである。