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特許7135049サンプルを含むマイクロ液滴を取り扱うための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】サンプルを含むマイクロ液滴を取り扱うための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/36 20060101AFI20220905BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220905BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20220905BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
G01N1/36
G01N37/00 101
G01N1/28 J
B01J13/00 D
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020171800
(22)【出願日】2020-10-12
(62)【分割の表示】P 2017520412の分割
【原出願日】2014-10-17
(65)【公開番号】P2021004900
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2020-10-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513008384
【氏名又は名称】エコール ポリテクニック
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シャルル・バルー
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエル・アムセレム
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・サール
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・トマシ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103084225(CN,A)
【文献】特開2008-116254(JP,A)
【文献】特開2007-075094(JP,A)
【文献】特開2011-232260(JP,A)
【文献】特表2005-533509(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0108012(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル(16)を含むマイクロ液滴(14)を、マイクロ流体デバイスにおいて取り扱うための方法であって、
i)サンプル(16)を含有する水溶液のマイクロ液滴(14)を、油中で形成する工程であって、油及びサンプル(16)を含有する水溶液の少なくとも一方がゲル化剤を含む、工程と、
ii)前記マイクロ流体デバイスの捕捉ゾーン(10)内に事前に配列されている表面張力トラップ(12)によって、マイクロ液滴(14)を捕捉する工程であって、前記マイクロ流体デバイスは、
-捕捉ゾーン(10)を形成するマイクロ流体チップと、
-サンプル(16)を含有する水溶液及び前記ゲル化剤又は形成されたマイクロ液滴(14)をマイクロ流体チップに注入するための単一の注入口であって、マイクロ流体チップ上に現れかつその上流に配置されている、単一の注入口と、を含み、
前記マイクロ流体チップは、
-上壁、下壁、及び2つの側壁によって少なくとも区切られ、油で充填された培養チャンバーと、
-各表面張力トラップ(12)を形成する培養チャンバーの上壁及び/又は下壁の多数の空洞と
を含み、
表面張力トラップ(12)は、それぞれが、少なくとも別の表面張力トラップ(12)によって培養チャンバーの2つの側壁の少なくとも1つから分離されている、工程と、
iii)捕捉ゾーン内の油の少なくとも一部及び捕捉されたマイクロ液滴(14)の少なくとも一部の少なくとも一方をゲル化する工程と
を含み、
上記の全ての工程を単一のマイクロ流体デバイスにおいて実施する、方法。
【請求項2】
工程iii)が、捕捉ゾーン内の油の少なくとも一部をゲル化することにある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程iii)が、マイクロ液滴の少なくとも一部をゲル化することにある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
サンプル(16)が、1種又は複数の細胞、分子を捕捉する1種又は複数のビーズ、又は1種又は複数の分子のうちの1つである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程iii)が、捕捉されたマイクロ液滴(14)内におけるサンプル(16)の沈降後に行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程iii)が、捕捉されたマイクロ液滴(14)内におけるサンプル(16)の沈降前に行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程iii)が、マイクロ液滴の少なくとも一部をゲル化することにあり、
iv)ゲル化したマイクロ液滴(14)を取り囲む油を水溶液と置き換える
ことにある工程を更に含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
油と置き換わる水溶液が生化学溶液、1種又は複数の栄養素、1種又は複数の成長因子、サイトカイン、1種又は複数の抗体、1種又は複数の抗原、1種又は複数の分子、1種又は複数の細胞、脂質、炭水化物、アミノ酸及び/又はタンパク質を含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(i)が、
a)サンプル(16)と、必要に応じてゲル化剤とを含有する水溶液を捕捉ゾーン(10)の上流のゾーンに単一の注入口によって注入し、
b)サンプル(16)を含有する水溶液を捕捉ゾーン(10)の出口に向かって追い出すために、必要に応じてゲル化剤を含有する油を捕捉ゾーンの上流のゾーンに、サンプル(16)を含有するマイクロ液滴(14)を形成するように注入し、その後、
c)マイクロ液滴(14)を捕捉ゾーン(10)に移動させ、捕捉ゾーン(10)においてマイクロ液滴(14)を捕捉する
ことにある、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程i)及び工程ii)が、
- サンプル(16)と、必要に応じてゲル化剤とを含有する水溶液で捕捉ゾーン(10)を充填し、その後、
- サンプル(16)を含有する水溶液を捕捉ゾーン(10)の出口に向かって追い出すために、捕捉ゾーン(10)に、必要に応じてゲル化剤を含有する油を注入し、表面張力トラップ(12)が、サンプル(16)を含有するマイクロ液滴(14)の破砕が表面張力トラップ(12)で可能となるように適合されている
ことにある作業を行うことによって、捕捉ゾーン(10)において同時に行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程iii)が、
- マイクロ液滴(14)及び/又は油を冷却又は加熱すること、
- 捕捉ゾーンに化学ゲル化剤を含有する溶液を注入すること、
- マイクロ液滴(14)及び/又は油を、ゲル化を引き起こす光に曝露すること
のうちの少なくとも1つにある、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
油が界面活性剤を含有し、工程iv)の前に界面活性剤を洗浄する工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
マイクロ液滴(14)の所望の形状に応じて表面張力トラップ(12)の形状を選択する工程を、工程i)の前に含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
捕捉ゾーン及びトラップが、
- 平坦な底部を有する捕捉されたマイクロ液滴(14)を形成する、又は
- 平坦ではない底部を有する捕捉されたマイクロ液滴(14)を形成する
ように選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程iii)が、マイクロ液滴の少なくとも一部をゲル化することにあり、
工程iii)においてゲル化したマイクロ液滴(14)の少なくとも一部を非ゲル化することにある工程v)を、工程iii)に続いて含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
非ゲル化したマイクロ液滴(14)及び/又はこれらの非ゲル化したマイクロ液滴(14)に含有されるサンプル(16)を捕捉ゾーン(10)から排出することにある工程vi)を、工程v)に続いて含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
捕捉されたマイクロ液滴、ゲル化したマイクロ液滴又は非ゲル化したマイクロ液滴(14)の少なくとも一部に含有されるサンプル(16)に刺激を与える工程を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程iii)が、捕捉ゾーン内の油の少なくとも一部をゲル化することにあり、
その周りで油がゲル化していないマイクロ液滴を捕捉ゾーンから追い出すことにある工程を、工程iii)に続いて含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲルマイクロ液滴内のサンプル、とりわけ生体サンプルを取り扱うためのマイクロ流体方法に関する。本発明はまた、このような方法を実施するためのデバイスに、及びこのような方法を実施することによって得られるサンプル生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
Guo、Rotem、Heyman、& Weitz、「Droplet microfluidics for high-throughput biological assays」、Lab. Chip. 12 (2012)から、化学反応又は生体反応を含有するようにマイクロ流体系における液滴(又は「マイクロ液滴」)を使用してもよいことは公知である。これらの系においては、液滴が集束レーザーの前を通過する際に液滴の蛍光を観測することによって、これらの液滴の含有量をアッセイすることができる。しかしながら、これらの系では、マイクロ流体デバイスから液滴を抽出することなくこれらの液滴の含有量の時間に伴う変化を観測することは可能とならない。
【0003】
マイクロ液滴における個別化細胞の研究もまた、たとえば、Joensson, H. N. & Andersson Svahn, H.、「Droplet microfluidics - a tool for single-cell analysis」、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 51、12176~12192頁(2012)から公知である。実際には、これらのマイクロ液滴は、明確に画定されている区画を形成し、それら区画により、たとえば細胞等の生体サンプルを単離することが可能となる。この文献では、培養チャンバー中、細長チャネル、又は静的トラップ中における液滴の蓄積によって、カプセル化細胞集団の局在化を制御することができることがとりわけ教示されている。この文献ではまた、油相に取り囲まれている官能化ハイドロゲル内に細胞をカプセル化することができることも教示されている。
【0004】
しかしながら、このようなデバイスにおける細胞への栄養素、又はより一般的には生物学的に関心のある分子の供給は制限されることが判明し、使用する方法(たとえば、電気融合又はピコインジェクション(picoinjection)による)が複雑であることが判明している。その結果として、これらのデバイスには、細胞挙動の研究に対して、特に時間の点で非常に多くの限界がある。
【0005】
更には、L. Yu、M. C.W. Chen及びK. C. Cheung、「Droplet-based microfluidic system for multicellular tumor spheroid formation and anticancer drug testing」、Lab Chip (2010)から、多細胞スフェロイドを含有するハイドロゲルマイクロ液滴を取り扱うための方法が公知である。この方法によれば、細胞を含むハイドロゲルマイクロビーズが第1のマイクロ流体系において生成される。その後、それらハイドロゲルマイクロビーズは回収され、槽内で洗浄された後、トラップを含む第2のマイクロ流体系に注入され、これによりマイクロ液滴を固定することが可能となる。
【0006】
しかしながら、このような方法は複雑で、2つの別個のマイクロ流体系及び3つのデバイスが全体で必要となる。加えて、この方法では、サンプルの連続観測は可能とならない。特に、液滴の形成とその捕獲との間の最初の瞬間を観測することが可能とならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】FR-A-2958186
【非特許文献】
【0008】
【文献】Guo、Rotem、Heyman、& Weitz、「Droplet microfluidics for high-throughput biological assays」、Lab. Chip. 12 (2012)
【文献】Joensson, H. N. & Andersson Svahn, H.、「Droplet microfluidics - a tool for single-cell analysis」、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 51、12176~12192頁(2012)
【文献】L. Yu、M. C.W. Chen及びK. C. Cheung、「Droplet-based microfluidic system for multicellular tumor spheroid formation and anticancer drug testing」、Lab Chip (2010)
【文献】S.L. Anna、N. Bontoux及びH.A. Stone、「Formation of dispersions using ‘Flow-Focusing’ in microchannels」、Appl. Phys. Lett. 82、364頁(2003)
【文献】T. Thorsen、R. W. Roberts、F. H. Arnold et S. R. Quake、「Dynamic pattern formation in a vesicle-generating microfluidic device」、Phys. Rev. Lett. 86、4163~4166頁(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、より簡潔で、且つそれでもなおサンプルについての幅広い試験を可能とする、サンプルを含有するマイクロ液滴を取り扱うための方法が必要である。また、マイクロ液滴のより効果的な選別を可能にする、マイクロ液滴を取り扱うための方法も必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的に向けて、本発明は、サンプルを含むマイクロ液滴をマイクロ流体系において取り扱うための方法であって、
i)サンプルを含有する水溶液のマイクロ液滴を、油中で形成する工程であり、油及び水溶液の少なくとも一方がゲル化剤を含む、工程と、
ii)捕捉ゾーン内に事前に配列されている表面張力トラップによって、マイクロ液滴を捕捉する工程と、
iii)捕捉ゾーン内の油の少なくとも一部及び捕捉されたマイクロ液滴の少なくとも一部の少なくとも一方をゲル化する工程とを含む
方法を提供する。
【0011】
したがって、本発明によれば、目的のマイクロ液滴、言い換えると、目的のサンプルを含有するマイクロ液滴を選別するために、これらのマイクロ液滴を、まず表面張力トラップ(又は毛細管トラップ)内に捕捉し、その後マイクロ液滴の一部及び/又はマイクロ液滴を取り囲む油の一部をゲル化する。マイクロ液滴及び/又はマイクロ液滴を取り囲む油のゲル化は、トラップ内のマイクロ液滴の捕捉の強度を高めることによって選別を容易にする。言い換えると、ゲル化工程により、目的のマイクロ液滴が失われることを防止することが可能となる。
【0012】
加えて、このゲル化により、これらのマイクロ液滴のサンプルの混合を引き起こし得る、マイクロ液滴が融合可能となることを防止することが可能となる。
【0013】
表面張力トラップとは、トラップとしてのマイクロ流体系のゾーンを意味するものとし、その幾何学的形状により、マイクロ液滴の界面張力を伴って、マイクロ液滴を所定の位置に保持することが可能となる。
【0014】
この方法の工程はすべて、単一のマイクロ流体系において実施する。マイクロ流体系とは、微細加工プロセスに従ってその一部が製造される系を意味するものとする。このような系は、その少なくとも1つの寸法が典型的にはミリメートル未満であるダクトを有する。
【0015】
マイクロ液滴の形状は制御することができる。このマイクロ液滴の形状制御は、とりわけ細胞操作の点で様々な用途を可能にするために、マイクロ液滴又はマイクロ液滴を取り囲む油の一部をゲル化する時点の制御と組み合わせることができる。
【0016】
細胞とは、真核細胞(たとえば、植物、キノコ、酵母又は哺乳類細胞)と、原核細胞(たとえば、細菌)とを意味するものとする。哺乳類細胞では、足場非依存性細胞(たとえば、血液細胞株の一部の細胞及び高度に形質転換した腫瘍細胞)と、その一部の亜型はスフェロイド形に組織化することができる足場依存性細胞(他の細胞型の大部分)とを区別する。スフェロイドとは、臓器に由来する組織の機能性とその機能性が類似しているマイクロ組織の形で組織化される多細胞性構造を意味するものとする。
【0017】
好ましい実施形態によれば、本発明による方法は、下記特徴の1つ又は複数を単独で、又は組み合わせて含む。
- 工程iii)は、マイクロ液滴を除いて、捕捉ゾーンの油の少なくとも一部をゲル化することにあること。
- 工程iii)は、捕捉ゾーン内のマイクロ液滴を取り囲む油を除いて、マイクロ液滴の少なくとも一部をゲル化することにあること。
- サンプルは、1種又は複数の細胞、とりわけ細胞のスフェロイド、分子を捕捉する1種又は複数のビーズであって、とりわけプラスチック製であるビーズ、又は1種又は複数の分子のうちの1つであること。
- 工程iii)は、捕捉されたマイクロ液滴内におけるサンプルの、とりわけ細胞の沈降後、特に、スフェロイドの形成後に行われること。
- 工程iii)は、捕捉されたマイクロ液滴内におけるサンプルの沈降前に行われること。
- この方法が、
iv)ゲル化したマイクロ液滴を取り囲む油を水溶液と置き換える
ことにある工程を更に含むこと。
- 油と置き換わる水溶液は生化学溶液を含有し、この生化学溶液は、好ましくは1種又は複数のpH緩衝剤又は生理食塩水緩衝剤、1種又は複数の栄養素、1種又は複数の成長因子、サイトカイン、1種又は複数の抗体、1種又は複数の抗原、とりわけ医薬品の1種又は複数の分子、1種又は複数の細胞、脂質、とりわけ単量体型又は多糖型の炭水化物、アミノ酸及び/又はタンパク質のうちの少なくとも1つを含むこと。
- 捕捉ゾーンが表面張力トラップを含むマイクロ流体チップによって形成されていること。
- 工程i)は、
a)サンプルと、必要に応じてゲル化剤とを含有する水溶液を捕捉ゾーンの上流のゾーンに注入し、
b)サンプルを含有する水溶液を捕捉ゾーンの出口に向かって追い出すために、必要に応じてゲル化剤を含有する油を捕捉ゾーンの上流のゾーンに、サンプルを含有するマイクロ液滴を形成するように注入し、その後、
c)マイクロ液滴を捕捉ゾーンに移動させ、捕捉ゾーンにおいてマイクロ液滴を捕捉する
ことにあること。
- 工程i)及び工程ii)は、
- サンプルと、必要に応じてゲル化剤とを含有する水溶液で捕捉ゾーンを充填し、その後、
- サンプルを含有する水溶液を捕捉ゾーンの出口に向かって追い出すために、捕捉ゾーンに、必要に応じてゲル化剤を含有する油を注入し、表面張力トラップが、サンプルを含有するマイクロ液滴の破砕が表面張力トラップで可能となるように適合されている
ことにある作業を行うことによって、捕捉ゾーンにおいて同時に行われること。
- 工程iii)は、
- マイクロ液滴及び/又は油を冷却又は加熱すること、
- 化学ゲル化剤を含有する溶液を注入すること、
- マイクロ液滴及び/又は油を、ゲル化を引き起こす光、とりわけUV光に曝露すること
のうちの少なくとも1つにあること。
- 油が界面活性剤を含有し、この方法が、工程iv)の前に界面活性剤を洗浄する工程を好ましくは含むこと。
- この方法が、マイクロ液滴の所望の形状に応じて表面張力トラップの形状を選択する工程を、工程i)の前に含むこと。
- 捕捉ゾーン及びトラップは、
- 平坦な底部を有する捕捉されたマイクロ液滴を形成する、又は
- 平坦ではない、とりわけ湾曲状、好ましくは凸状の底部を有する捕捉されたマイクロ液滴を形成する
ように選択されること。
- この方法が、工程iii)においてゲル化したマイクロ液滴の少なくとも一部を非ゲル化することにある工程v)を、工程iii)に続いて、好ましくは工程iv)に続いて含むこと。
- この方法が、非ゲル化したマイクロ液滴及び/又はこれらの非ゲル化したマイクロ液滴に含有されるサンプルを捕捉ゾーンから排出することにある工程vi)を、工程v)に続いて含むこと。
- この方法が、捕捉されたマイクロ液滴、ゲル化したマイクロ液滴又は非ゲル化したマイクロ液滴の少なくとも一部に含有されるサンプルに刺激を与える工程を含むこと。
- この方法が、その周りで油がゲル化しているマイクロ液滴を捕捉ゾーンに保持するだけのために、その周りで油がゲル化していないマイクロ液滴を捕捉ゾーンから追い出すことにある工程を、工程iii)に続いて含むこと。
【0018】
別の態様によれば、本発明は、上述のように方法を実施するためのデバイスであって、そのすべての組合せにおいて、
- サンプルを含有するマイクロ液滴を形成するための手段と、
- 所定の位置でマイクロ液滴を捕捉するための捕捉ゾーン、とりわけ、マイクロ流体チップと、
- 捕捉されたマイクロ液滴及び/又は油の少なくとも一部をゲル化するための手段と
を含む、デバイスに関する。
【0019】
ゲル化手段は、捕捉ゾーンに化学薬剤を注入するためのデバイスを含むことができる。
【0020】
このデバイスは、ゲル化したハイドロゲルマイクロ液滴の少なくとも一部及び/又はゲル化した油の一部を非ゲル化するための手段を含むこともできる。
【0021】
本発明はまた、ゲル化したマイクロ液滴の生成物であって、マイクロ液滴を捕捉するためのゾーン、特にマイクロ流体チップと、それぞれがサンプルを含み、捕捉ゾーンに捕捉されている、好ましくは凍結保存されているゲル化したマイクロ液滴とを含む、ゲル化したマイクロ液滴の生成物に関する。
【0022】
このため、このマイクロ液滴生成物の保存及び/又は流通を目的として、生化学溶液は、サンプルの凍結保存を可能とするために抗凍結剤(DMSO、グリセロール、トレハロース等)を含有することができる。
【0023】
ゲル化したマイクロ液滴は、流体中、好ましくは水溶液中又は油中に浸漬させることもでき、流体及びマイクロ液滴は、好ましくは凍結保存されている。
【0024】
本発明はまた、捕捉ゾーン、とりわけ、マイクロ流体チップと、それぞれがサンプルを含み、捕捉ゾーンに捕捉されているマイクロ液滴とを含むマイクロ液滴の生成物に関する。マイクロ液滴はゲル化した油に浸漬され、マイクロ液滴及びゲル化した油は好ましくは凍結保存されている。
【0025】
サンプルは、哺乳類細胞、好ましくは、ヒト細胞以外の哺乳類からの細胞、細菌、酵母、若しくはバイオプロセスで使用する他の細胞、分子、又は分子を表面で捕捉するビーズであってよい。
【0026】
本発明の例示的な実施形態についての以下の説明を、添付図面を踏まえて読み取ると、本発明が更に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】マイクロ流体チップを概略的に示す図である。
図2図1からのマイクロ流体チップを概略的に示す図であって、一部のトラップが、サンプルを含有するハイドロゲルマイクロ液滴によって占められている図である。
図3】ハイドロゲルと試験しようとするサンプルとの混合物を含有する、図1からのマイクロ流体チップを概略的に示す図である。
図4】マイクロ流体チップ内に捕捉されているハイドロゲルマイクロ液滴に含有されているサンプルの一部を、このマイクロ流体チップから排出するための手段を概略的に示す図である。
図5】マイクロ流体チップ内に捕捉されているハイドロゲルマイクロ液滴に含有されているサンプルの一部を、このマイクロ流体チップから排出するための手段を概略的に示す図である。
図6】マイクロ流体チップ内に捕捉されているハイドロゲルマイクロ液滴に含有されているサンプルの一部を、このマイクロ流体チップから排出するための手段を概略的に示す図である。
図7】表面張力トラップの幾何学的形状の、またそれにより得ることが可能となるマイクロ液滴の形状の例を概略的に示す図である。
図8】表面張力トラップの幾何学的形状の、またそれにより得ることが可能となるマイクロ液滴の形状の例を概略的に示す図である。
図9】表面張力トラップの幾何学的形状の、またそれにより得ることが可能となるマイクロ液滴の形状の例を概略的に示す図である。
図10】表面張力トラップの幾何学的形状の、またそれにより得ることが可能となるマイクロ液滴の形状の例を概略的に示す図である。
図11】表面張力トラップの幾何学的形状の、またそれにより得ることが可能となるマイクロ液滴の形状の例を概略的に示す図である。
図12】表面張力トラップの幾何学的形状の、またそれにより得ることが可能となるマイクロ液滴の形状の例を概略的に示す図である。
図13】ハイドロゲルマイクロ液滴内のサンプルの沈降の例を概略的に示す図である。
図14】ハイドロゲルマイクロ液滴内のサンプルの沈降の例を概略的に示す図である。
図15】ハイドロゲルマイクロ液滴内のサンプルの沈降の例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、試験しようとするサンプルを含むハイドロゲルマイクロ液滴を取り扱うための方法に関する。
【0029】
下記文書は、特に細胞の形のサンプルに関係しているが、他の種類のサンプルを使用することもできることは言うまでもない。
【0030】
この方法は、基本的に3つの工程を含み、それらの工程はすべて単一のマイクロ流体系において行われ、これらの3つの工程は、
- 1種又は複数の細胞を含有する液体水溶液のマイクロ液滴を、油中で形成する工程であって、油及び/又は水溶液がゲル化剤を含む、工程、
- 捕捉ゾーン内に事前に配列されている表面張力トラップによって、液体マイクロ液滴を捕捉する工程、並びに
- 油及び捕捉されたマイクロ液滴の少なくとも一部の少なくとも一方をゲル化する工程にある。
【0031】
下記文書は、水溶液がハイドロゲル溶液で、油はゲル化剤を含まず、また上記最後の工程が、油自体がゲル化されることなく捕捉されたマイクロ液滴の少なくとも一部をゲル化することにある場合に特に関係している。この場合、上記3つの工程に続き、とりわけ行うことが望まれる試験に応じて、異なる工程を行うことによってこの方法を継続することができる。
【0032】
表面張力トラップからマイクロ液滴を取り除くことなく、ゲル化したマイクロ液滴周辺の油を水溶液に置き換えることである工程によって、この方法をとりわけ継続することができる。水溶液は、栄養素、成長因子、抗体、薬剤分子並びにpH及び/又は生理食塩水緩衝剤のうち少なくとも1種を有する生化学溶液を含有することができる。
【0033】
別の態様によれば、この方法によって、その主な用途がこれらのマイクロ液滴内における細胞のカプセル化であると、マイクロ流体チャネル内及び/又は表面張力トラップ内のハイドロゲルビーズの三次元形状を制御することが可能となる。したがって、マイクロ液滴の形状及びマイクロ液滴当たりの細胞の濃度に応じて、ハイドロゲル内における細胞のカプセル化により、細胞に生化学溶液を注入しながら、又はたとえば、熱や光等の物理的刺激を細胞に与えながら、それら細胞を培養又は分析することが可能となる。
【0034】
ゲルとは、主に液体で構成される、たとえば、その安定状態では流動しない等、固体外観を与えるよう組織化することができる分子又は粒子を含有する媒体を意味するものとする。この溶液は液体状態で取り扱うことができ、その後化学的又は物理的手段によって「ゲル化」することができる。場合によっては、ゲル化は可逆的であってもよい。液体が水である場合には、ハイドロゲルを指す。
【0035】
前述の通り、提案するマイクロ流体方法は、油の中に生体細胞を含有するハイドロゲルマイクロ流体を形成する第1の工程を含む。
【0036】
この場合、マイクロ液滴(又はマイクロビーズ)の直径は、マイクロメートルオーダー、とりわけ10~1000マイクロメートルの間の直径である。
【0037】
ハイドロゲルは、たとえば、ゲル化剤を含む水溶液である。ゲル化剤は、使用者によって用途に応じて選択される。物理的にゲル化することができるゲル化剤の一例は、アガロースであり、これは室温で液体であるが、低温でゲル化する。化学的にゲル化することができるゲル化剤は、たとえば、アルギン酸塩であり、これは溶液中で液体であるが、カルシウムイオンCa2+が供給されるとゲル化する。
【0038】
生物学的レベルでは、ハイドロゲルの生化学的及び生体力学的特性により、足場感受性細胞が、このようにして形成したマトリックスと特異的相互作用を構築することを可能にすることができる。これらの相互作用は、足場依存性哺乳類細胞の生存には必須で、それら細胞の表現型制御に関与する。マトリックスの性質により、たとえば、細胞移動又はタンパク質分解(細胞によるマトリックスの消化)を観測することを可能にすることができる。アガロース、アルギン酸塩及びPEG-DA(ポリエチレングリコールジアクリレート)を用いるだけでなく、ゼラチン、I型コラーゲン又はMatrigel(登録商標)も用いて、特に決定的な実験を行った。たとえば、様々なタンパク質、グリコサミノグリカン、及び細胞外マトリックスの他の成分(たとえば、I型コラーゲン、ゼラチン又はMatrigel(登録商標))を含有するハイドロゲルにより、ハイドロゲルの、生存能力を維持する能力、増殖を援助する能力、及び移動する能力、並びにある特定の足場依存性細胞集団の表現型を維持する能力も実証された。たとえば、連続したマイクロ液滴を供給することによって、ゲルを組み合わせることができることに留意されたい。上記ハイドロゲルにはそれぞれ、特異的な対応するゲル化手順がある。PEG-DA等、一部のハイドロゲルは、ペプチド模倣薬を組み込むことによって、細胞の生存及び/若しくは発生を可能とするために官能化することも(たとえば、一部の哺乳類細胞種が特異的相互作用を構築することができるRGD型コンセンサス配列、又はメタロプロテアーゼに特異的であるPRCG[V/N]PD若しくはHEXGHXXGXXHコンセンサス配列により、ハイドロゲルを官能化することができる)、又は抗体若しくはアプタマーを組み込むことにより、たとえば、カプセル化リンパ球によって分泌されるサイトカインのその場捕獲により特異的分子のセンサーを可能とするために官能化することもできる。これらのハイドロゲルの機械的特性は、たとえば、それらハイドロゲルの架橋度及び/又は濃度を変化させることによって、異なる用途に対して改変することもできる。これらの物理化学的特性のすべてが、捕捉ゾーン内のトラップによって異なることがある。捕捉されたハイドロゲルマイクロ液滴内に剛性勾配を設定すると、たとえば、異なる細胞型への幹細胞分化を制御することが可能となる。最後に、トラップ内のゲル化したコア周辺で数種類の層を混合した、又は連続して形成した後に、同じマイクロ液滴内に数種のハイドロゲルが共存することができる。
【0039】
先験的にはマイクロ液滴の形成前に、細胞をハイドゲルと混合する。しかし、マイクロ液滴の形成前に、マイクロ流体デバイス内でハイドロゲル及び細胞を直接混合することができる。
【0040】
油等の移動相内でこのようなマイクロ液滴を形成するため、非常に多くの方法が既に提案されている。たとえば、下記方法例に言及することができる。
- たとえば、その内容が参照により本明細書中に組み込まれるS.L. Anna、N. Bontoux及びH.A. Stone、「Formation of dispersions using ‘Flow-Focusing’ in microchannels」、Appl. Phys. Lett. 82、364頁(2003)に記載されている「流れ集中(flow-focusing)」と称される方法、
- たとえば、その内容が参照により本明細書中に組み込まれるT. Thorsen、R. W. Roberts、F. H. Arnold et S. R. Quake、「Dynamic pattern formation in a vesicle-generating microfluidic device」、Phys. Rev. Lett. 86、4163~4166頁(2001)に記載されている「T-結合(T-junction)」法、又は
- たとえば、その内容が参照により本明細書中に組み込まれる出願FR-A-2958186に記載されている「閉じ込め勾配(confinement gradient)」法。
【0041】
これらの方法により、実質的に等しい寸法のマイクロ液滴を形成することが可能となる。
【0042】
これらのマイクロ液滴の形成後、マイクロ液滴は、それらマイクロゾーンが形成されたゾーンからマイクロチャネルによる捕捉ゾーンへと運搬されるが、油の流れによって、且つ/又はスロープ若しくはレールによって運ばれる。この運搬は、マイクロ液滴内におけるスフェロイド形成の助けとなることが観測されている。マイクロ液滴はその後、とりわけマイクロ流体チップ内の捕捉ゾーン内に配列されている表面張力トラップによって捕捉される。捕捉ゾーン(又はマイクロ流体チップ10)は、疎水表面処理によって処理され、界面活性剤を含有する油で充填される。界面活性剤を使用すると、マイクロ液滴の安定化及びそれらマイクロ液滴形成の再現性が可能となる。界面活性剤により、生産デバイスから捕捉ゾーンのトラップへとマイクロ液滴を搬送する間の接触の場合に、マイクロ液滴の合体を防止することも可能となる。
【0043】
マイクロ流体チップ10は、図1に示すように、場合によっては表又はマトリックスの形で組織化されている表面張力トラップを数多く含有する数平方センチメートルの培養チャンバーで構成される。表面張力トラップ12は様々な形状を取ることができる。たとえば、円筒形トラップの場合、それらトラップの直径は、所望の用途に応じて、数十ミクロン~数百ミクロンとすることができる。単細胞又はマイクロ液滴内で個別化されている細胞のカプセル化では、トラップの直径は、たとえば、50ミクロンでよく、これは1平方センチメートル当たりトラップ約5000個の密度に対応する。大きな細胞凝集体又はスフェロイドの研究では、この直径は最大250ミクロンとすることができ、これは1平方センチメートル当たりトラップ250個程度のトラップ密度に対応する。
【0044】
図1に示すように、マイクロ流体チップ10の外側に形成される、生体細胞16を含むマイクロ液滴14は、たとえば、矢印18が示す油の流れによって、これらのマイクロ液滴の一部が表面張力トラップ12内に捕捉されるように後者のチップへと運ばれる。
【0045】
しかし、変形形態として、油の中に生体細胞を含有するハイドロゲルマイクロ液滴を、油の中に生体細胞を含有するハイドロゲルの流れを精密に制御することなしに形成することをここで提案する。これは、適切な寸法を有するマイクロ液滴のみが後に捕捉ゾーンにおいて捕捉され、その結果、均質性の高い寸法、形状及び濃度の生体細胞を実際に有するマイクロ液滴によって、後者の捕捉ゾーンが占められるからである。
【0046】
図3に示す別の変形形態によれば、捕捉ゾーン、とりわけマイクロ流体チップ10は、生体細胞16を含有するハイドロゲル溶液20を含有する。その後、捕捉ゾーンに油を注入し(この注入は矢印18によって概略的に示してある)、この注入により、生体細胞16を含有するハイドロゲル溶液20が捕捉ゾーンから出口に向かって追い出される。マイクロ液滴はその後、図2に示す構成と実質的に同一の構成が得られるまでマイクロ流体チップの表面張力トラップ12内にハイドロゲルを捕捉することによって、これらのトラップ内で直接形成する。したがって、マイクロ液滴は、表面張力トラップ上で生体細胞を含有するハイドロゲル溶液を自発的に分割(又は破砕)することによって形成する。この場合もまた、流れを精密に制御することは不要であるが、精巧な機器を使用する必要なしに、注射器を手動で押すことさえも可能である。この場合、表面張力トラップでマイクロ液滴の破砕(すなわち、それらマイクロ液滴の形成)を可能にするためには、深い表面張力トラップが好ましい。続いてこのようなトラップについて説明する。
【0047】
とりわけ所望の用途に応じて、すなわち、特に捕捉されるマイクロ液滴の所望の形状に応じて、トラップの形状が非常に異なる場合があることをここで留意されたい。上壁、下壁、又は捕捉ゾーン、とりわけマイクロ流体チップの側壁の1つに、トラップを形成する空洞が、好みに構わずに位置する場合もある。
【0048】
図7図12に、マイクロ流体チップ10の表面張力トラップ12について想定することができる形状を、またこれらの表面張力トラップ12によって得ることができるマイクロ液滴14の形状を示す。
【0049】
特に、トラップ12の形状により、トラップ12が形成されるマイクロ流体チャネルの幾何学的パラメーター及び捕捉されるマイクロ液滴の体積に従って、捕捉されるマイクロ液滴の形状を制御することが可能となる。図7は、マイクロ液滴のプロファイルを決定するために考慮に入れるパラメーター、すなわち、トラップ12を含有するチャネルに閉じ込められるマイクロ液滴の半径Rと、チャネル内のマイクロ液滴の半径Rよりも小さい、このチャネルの高さhと、トラップ12の直径d及び深さpとを概略的に示す。
【0050】
図8図10に示すように、トラップ12が円筒形で、その直径dがチャネルのhの2倍よりも大きい場合には、マイクロ液滴14はトラップ12に可能な限り適合する。トラップ12及びマイクロ液滴14の相対体積によっては、マイクロ液滴14は半球体ドームを有していてもいなくてもよく、チャネルの壁によって閉じ込められている平坦部を有していてもいなくてもよい。したがって、図8においては、マイクロ液滴14の体積はトラップ12の体積よりも大きい。この場合、マイクロ液滴14はトラップ12をほぼ完全に充填し、チャネルの、またトラップの壁に対して平坦な形状を有する。図9においては、マイクロ液滴14の体積はトラップ12の体積よりもわずかに小さいので、マイクロ液滴14は半球体ドームを2つ有し、チャネルの壁にわずかに接しているだけである。最後に、マイクロ液滴14の体積が、図10に示すようにトラップ12の体積よりも大幅に小さい場合には、マイクロ液滴14(又は数個のマイクロ液滴14さえも)トラップ12内に完全に収容される。
【0051】
他方、図11の場合、トラップの直径dはチャネルの高さhの半分に満たない。その結果、マイクロ液滴14は基本的にはチャネル内に閉じ込められたままで、トラップ12内には小さい半球体ドームを有しているだけである。
【0052】
最後に、図12の場合、トラップ12は円すい形で、その直径dはチャネルの高さhの2倍大きい。したがって、マイクロ液滴14は、トラップ12内に半球体ドームを形成するためにトラップ12の壁の形状にぴったり合う。
【0053】
更には、図13に示すように、トラップ12内に捕捉されているマイクロ液滴14が平坦な底部を有する場合には、細胞16は沈降し、統計的には均一にマイクロ液滴14の底部にそれら細胞自体堆積する。その際、細胞は個々に観測することができるが、凝集しない。他方、トラップ12内に捕捉されているマイクロ液滴14が、図14及び図15に示すように平坦ではない底部、とりわけ凸部を有する場合には、細胞16はその沈降時にマイクロ液滴12の界面と接触するが、この界面に沿って滑らざるを得ない。したがって、細胞16は、マイクロ液滴14の底部に集結し、一部の足場依存性細胞の場合には任意に凝集し、スフェロイドを形成することがある。
【0054】
ここで提案するマイクロ流体方法は、これらのマイクロ液滴の捕捉に続き、マイクロ液滴をゲル化する工程を含む。
【0055】
この工程は、とりわけ、使用するハイドロゲル化剤に応じて、様々な方法で実施することができる。したがって、第1の例によれば、ハイドロゲルはアガロースを含有する、好ましくは、ハイドロゲルはアガロースである。マイクロ液滴をその後、マイクロ流体チップを冷却することによってゲル化する。ハイドロゲルがアガロースを含有する、又は好ましくはハイドロゲルがアルギン酸塩である場合、マイクロ液滴が浸漬している油の中にカルシウムイオンCa2+を提供すること、又は実際には石灰質粒子をアルギン酸塩と事前に混合し、マイクロ液滴が浸漬している油をCO中で飽和させることが可能である。したがって、アルギン酸塩は酸性化し、カルシウムイオンは放出される。他のゲル化剤を使用することもできるため、他のゲル化手段を使用することもできることは言うまでもない。
【0056】
更には、求められている用途に応じて、このゲル化工程を、取扱い方法の間の異なる時点で行うことができる。特に、細胞をマイクロ液滴内の所定の位置に固定し、それら細胞が沈降することを防止するように、捕捉直後にゲル化を行うことができる。その際には、互いに独立に細胞を観測することが可能である。或いは、細胞の沈降後にゲル化を行って、スフェロイドを形成する。これにより、スフェロイドを形成した細胞の挙動を観測することが可能となる。別の代替形態によれば、マイクロ液滴は、たとえば、ある特定の細胞、ゲル化していないマイクロ液滴中の細胞を選択的に抽出するために、液体媒体中の細胞を取り扱うための作業後にゲル化されるだけである。これは、足場非依存性である、細菌又は赤血球及び白血球等の細胞には有用であることがある。
【0057】
ゲル化後、マイクロ液滴が浸漬している油を、たとえば、栄養素、成長因子、抗体、薬物、薬剤分子等の生化学成分を含む生化学溶液をとりわけ含有する水溶液と置き換えることが可能である。これらの生化学成分はゲルを通して拡散し、細胞に到達する。したがって、独立した、又はスフェロイドの形の細胞の、これらの刺激に対する反応を研究することが可能である。したがって、ハイドロゲルにより、水性相による細胞の注入を可能にしながら、またマイクロ液滴内への細胞のカプセル化の間にあらかじめ生体サンプルを区分化しながら、細胞を正確な位置に維持することが可能となる。
【0058】
この作業を成功裏に行うためには、マイクロ液滴の界面から界面活性剤を押し出すことが好ましい。これは、界面活性剤がマイクロ液滴の界面で形成する殻が非常に効果的であるため、油を置き換えるために注入される水性相がマイクロ流体チップを充填し、マイクロ液滴をそのそれぞれのトラップ内でゲル化したままとすることを妨げることがあり得るからである。界面活性剤の存在によって合体が食い止められるため、トラップに水性相の界面が到達することにより、結果的にゲル化したマイクロ液滴に力が加わるが、このマイクロ液滴は、そのマイクロ液滴を構成するハイドロゲルが十分に圧縮性である場合にはトラップから押し出され得る。これが、界面における界面活性剤の濃度を低下させることによって合体を促進させることが好ましい理由である。このため、以前使用されていた油とは違って界面活性剤を含有しない油を、水性相の注入前に、マイクロ流体チップに注入する。マイクロ流体チップの油の中の界面活性剤の濃度は減少し、それにより界面における界面活性剤の吸着から脱着に向けて平衡を移動させることが可能となる。たとえば、数質量パーセント程度の高濃度の界面活性剤に対しては、マイクロ流体チップの体積の50倍に相当する量の油を、マイクロ流体チップに注入することが好ましい。この比率は、界面活性剤の性質に、また2つの相に対するその/それらの界面活性剤の親和性に依存する。
【0059】
ゲル化したマイクロ液滴をトラップ内で確実に定位置に保持するために、トラップの形状を最適化することもできる。したがって、十分に深い円筒形トラップの場合には、チャネルの高さがトラップの半径よりも大きい場合、トラップへのマイクロ液滴の進入は最小限となって、結果捕捉効率が低くなる。続いて、越えるとマイクロ液滴がトラップから押し出される外側の流れの速度には限度がある。逆に、チャネルの高さがトラップの半径よりも小さい場合には、マイクロ液滴は、十分に大きい限りはトラップの空洞に有意に入り込み、結果捕捉効率が高くなる。外側の流れの速度に関係なく、マイクロ液滴は所定の位置にとどまる。第1の場合には、マイクロ液滴の形状はチャネル内におけるその形状に非常に近いが、一方第2の場合には、局所的にトラップの形状となる。
【0060】
選択するハイドロゲルのゲル化剤が可逆性である場合には、図4図6に示すように、マイクロ液滴を非ゲル化し、その後それらマイクロ液滴の内容物をマイクロ流体チップから排出することが可能である。これらの図4図6の場合、たとえば、マイクロ液滴14はアガロースのゲル化したマイクロ液滴である。これらのアガロースのマイクロ液滴14は、とりわけ、赤外線レーザー又は電極によってマイクロ液滴を局所的に加熱する(稲妻21によって加熱を示している)ことによって、1つずつ非ゲル化される。この熱によりアガロースが液化される。マイクロ液滴14を取り囲む相が水性である場合、非ゲル化したアガロースの内容物16が水性相と混ざり合う。その場合、この内容物を、任意選択で回収するために、水性相の流れ22を用いて運ぶことが可能である。それにより、マイクロ流体チップ10によって興味なしと見なされる細胞を排除することも可能である。この場合もまた、トラップの形状及び大きさは、好ましくは細胞の抽出が可能となるように選択される。たとえば、細胞が生存したままでなくてはならない場合、トラップの寸法は、細胞死機構を誘導しないように、ハイドロゲルの加熱に対して十分に大きい。
【0061】
或いは、マイクロ液滴を取り囲む相が油性である場合、油の流れを適用してトラップから液体のマイクロ液滴を取り除くことができる。この場合、トラップの形状及び強度は、好ましくは選択したマイクロ液滴の抽出のみを可能とし、他のマイクロ液滴を抽出しないような寸法である。この寸法決定は、とりわけ、水性相と油との間の表面張力の値に依存し、またゲルマイクロ液滴の剛性及びトラップ内におけるそれらマイクロ液滴の形状にも依存する。
【0062】
別の代替形態は、懸濁細胞、たとえば、細菌を取り扱うために、マイクロ液滴を液体で維持することである。その際には、マイクロ液滴の選択的抽出のためにゲル化を行うだけである。この場合、抽出前にマイクロ液滴をすべてゲル化し、上述のプロトコルを適用することが、又は他方で、トラップ内に維持することが望まれるマイクロ液滴のみをゲル化することが可能である。
【0063】
若干の修正を加えることで、提示したプロセスにより、非常に多様な生物学的応用を検討することが可能になる。いずれの場合も、マイクロ流体チップ内のチャネルの高さ、及びトラップの幾何学的形状を調整することによって、デバイスを修正することもできることは言うまでもない。
【0064】
したがって、たとえば、低濃度の細胞を用いる急速なゲル化により、細胞の直接相互作用を制限しようと試みつつ、各マイクロ液滴内の数個の単細胞を個別化することが可能となる。これらの細胞は、たとえば、細菌、酵母、又は哺乳類細胞であってよい。
【0065】
或いは、やはり急速なゲル化を伴う高濃度の細胞により、やはり個別化されるが互いに近接している数多くの細胞を得ることが可能となる。その際、たとえば、細胞間の相互作用を、場合によっては共培養時に、パラクリン分泌を介して調査することが可能である。
【0066】
しかし、細胞は、ゲル化の前に液相中で長時間カプセル化され維持されることがある。その際、低濃度の細胞により、たとえば、懸濁しているリンパ球等の足場非依存性細胞を調査することが可能となる。高濃度の細胞、及びそれら細胞の沈降を可能にする捕捉されたマイクロ液滴の形状により、それら自体をスフェロイドへと再編成することができる細胞を寄せ集めることが可能となる。
【0067】
この方法により、制御してチップ内で直接スフェロイドを形成することも可能となる。作り出すマイクロ液滴の体積は、マイクロ流体チップの上流でマイクロ液滴を形成するためのデバイスによって制御することができる。この体積は、好ましくは、一旦捕捉されるとマイクロ液滴の直径がトラップの直径と等しく、形状が球状となるように調節される。このため、トラップの深さは、好ましくはそのトラップの直径に少なくとも等しい。捕捉したマイクロ液滴の直径がトラップの直径と一致することで、高い捕捉効率を確保することが可能となる。形状が球状であると、スフェロイドの形成が促進される。この特定の用途では、マイクロ液滴は、好ましくは、培養培地とハイドロゲルとを含む、又は培養培地とハイドロゲルとからなる水性相中に懸濁細胞を含有する。トラップがこのようなマイクロ液滴で一旦充填されると、油の外部流が停止し、それによりマイクロ液滴内の再循環が停止し、細胞の沈降が促進される。その際、トラップ内のマイクロ液滴の形状が球状であると、細胞の底部における集結が、細胞が接触するまで誘導される。とりわけ、温度の点で細胞の生存及び適切な代謝機能にとって好ましい条件下で、その後数時間から数日の範囲の持続期間チップを静置することにより、捕捉されたマイクロ液滴の底部に集結している細胞を、スフェロイドへと再編成することが可能となる。
【0068】
スフェロイド形成に必要となる持続期間は、とりわけ、使用する細胞型に、またハイドロゲルの組成に依存することがある。培養培地に希釈された1質量%アガロース溶液中のH4IIEC3ラット肝細胞では、この期間が24時間未満であることが観測されている。スフェロイド形成の期間中、ハイドロゲルが液体で維持されることは言うまでもない。
【0069】
この方法により、非常に均一な大きさのスフェロイドを数多く迅速に形成することが可能となる。実際には、スフェロイドの大きさは、各マイクロ液滴内にカプセル化される細胞数によって、したがってマイクロ流体チップに注入される細胞溶液の濃度によって与えられる。マイクロ液滴当たりの細胞数の分布、したがって形成されるスフェロイドの大きさの分布は、注入の時点で細胞が十分に個別化されている限り非常に均一である。本発明者らが行った実験では、平均98%のトラップが、24時間のインキュベーションの後、よく再編成されたスフェロイドを含有する液体アガロースのマイクロ液滴1つで充填されていた。
【0070】
マイクロ流体チップにおいて得られるスフェロイドは、培養下で数日間維持されることがある。たとえば、アガロース内にカプセル化されているH4IIEC3細胞のスフェロイドを、その生存能力を大幅に変化させることなく、また高い機能性(この例では、強く連続的なアルブミン分泌)を保全しつつ、一週間チップ内で培養することができる。
【0071】
ここで提示する方法及びその方法を行うことによって得られるマイクロ流体チップは、薬剤をスクリーニングするための優れたツールを構成する。たとえば、がん細胞のスフェロイドを作り出し、それらスフェロイドの生存能力が、試験する分子への曝露に応じて時間と共に減少するかどうかを観測することが可能である。チャンバー内で濃度勾配を設定することが可能となるデバイスをチップに加えることによって、又は並列チップを設置することによって、同じ系内で全濃度範囲を試験することが可能である。これらのスフェロイドを形成するための方法が高効率であることで、非常に限られたサンプルからスフェロイドを数多く作り出すことも可能となる。したがって、直径約70μmのスフェロイド500個を、細胞100000個のみで形成することができる。
【0072】
スフェロイドを構成する細胞はまた、共培養のテーマに取り組むために異なる型のものであってもよい。これらの細胞型は、チップへの注入前に溶液中で均一に混合することも、外部水性相に注入された後、連続した数層のハイドロゲル層内に、或いは単純にハイドロゲルに付着させることによって、ある特定の構造組織に従って配列することもできる。たとえば、皮膚モデルを形成し化粧料の毒性を試験するために線維芽細胞と上皮細胞とを、脳をモデル化するためにニューロンと星状膠細胞とを、又は血管壁と同様に内皮細胞と平滑筋細胞とを結合することが可能である。
【0073】
ここで提示する方法により、培養細胞の微環境の非常に高度な制御を実現することが可能となるため、この方法は、幹細胞の分化を研究するための優れたツールでもある。実際には、たとえばハイドロゲル濃度を調整しながら、分化因子の全濃度範囲に、また潜在的には同時に、マトリックスの全剛性範囲にカプセル化細胞を供することができる。同様に、この方法を使用して、外部媒体からの物理化学的因子と相互作用する胚発生を時間と共に観測することもできる。
【0074】
患者由来の初代細胞の場合には、この方法により、ある特定のマーカーに対する細胞の応答に基づく医療診断を行うことが可能となる。この場合、損失度が非常に低く細胞は捕獲される。その際、がん生検の特徴付け等、ある特定の疾患を診断するための公知の試験を細胞に施すことが可能である。たとえば、その場のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、又はFISH法によって、たとえば、カプセル化細胞のゲノムにおける突然変異の存在について試験することが可能である。標識法によって、たとえば、免疫標識のための、又はその場免疫酵素法、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)のための抗体を供給することによって、特異タンパク質の発現を検出することも可能である。
【0075】
上述の方法は、マイクロ流体チップ内におけるマイクロ液滴の捕捉に続くマイクロ液滴のゲル化により、チップ内において細胞分析及び細胞培養の工程すべてを行う可能性を提供する。これにより、マルチウェルプレート又は培養皿において行われる試験に対してよりも、はるかに少量の試薬を使用することが可能となる。これにより、異なる刺激の後に、時間と共に細胞応答を監視することも可能となる。
【0076】
上述の方法は、
- 細胞を含有するハイドロゲルマイクロ液滴を形成するための手段と、
- 所定の位置でハイドロゲルマイクロ液滴を捕捉するための捕捉ゾーン、とりわけ、マイクロ流体チップと、
- 捕捉されたマイクロ液滴の少なくとも一部をゲル化するための手段とを含むデバイスにおいて容易に実施することができる。
【0077】
ゲル化手段は、たとえば、捕捉ゾーンに化学薬剤を注入するためのデバイス及び/又はたとえば、マイクロ流体チップを冷却するための、温度調節用手段を含む。
【0078】
デバイスは、ゲル化したハイドロゲルマイクロ液滴の少なくとも一部を非ゲル化するための手段、たとえば、レーザーを含むこともできる。
【0079】
上述の方法により、マイクロ液滴を捕捉するためのゾーン、特に、マイクロ流体チップと、捕捉ゾーン内に捕捉されている1個又は複数の細胞をそれぞれが含む、好ましくは凍結保存されているゲル化したマイクロ液滴とを含むゲル化したマイクロ液滴生成物を製造することも可能となる。細胞は、クラスター又はスフェロイドの形で凝集していてもよい。ゲル化したマイクロ液滴は、流体中、好ましくは水溶液中又は油中に浸漬させてもよいが、流体及びマイクロ液滴は、好ましくは凍結保存される。この凍結保存により、とりわけ、後の分析のために細胞を輸送又は保存する目的で、安定した条件下で細胞を長期間維持することが可能となる。
【0080】
マイクロ液滴内にカプセル化されている生体細胞は、細菌、酵母、真核細胞、哺乳類細胞、好ましくはヒト細胞以外の哺乳類細胞、より好ましくは、ラット細胞若しくは他の哺乳類からの細胞、又はその自然環境から単離されたヒト細胞であってよい。
【0081】
本発明は、上述の例だけに限定されず、むしろ添付の特許請求の範囲内で、当業者に理解可能な数多くの変形形態に対する余地があることは言うまでもない。
【0082】
特に、使用するサンプルは、細胞は別として、とりわけ、分子又は分子に結合することによって官能化されたプラスチックビーズであってもよい。
【0083】
更には、捕捉されたマイクロ液滴は、水溶液の流れによって供給される他のマイクロ液滴と融合することもできる。
【0084】
マイクロ液滴を構成する水溶液は、生化学溶液を含有することもでき、この生化学溶液は、好ましくは脂質(脂肪酸等)、炭水化物(単量体型又は多糖型等)、アミノ酸及びタンパク質(成長因子、サイトカイン、抗体、抗原等)、また生理食塩水及び/又はpH緩衝剤のうちの少なくとも1つを含む。
【0085】
最後に、一変形形態によれば、マイクロ液滴を取り囲む油(又は油相)は、フッ素油(FC40タイプ)又は光架橋性水不混和性溶液(Norland Optical Adhesiveタイプ)を含有することができ、これらは、一旦重合すると、油をゲル化し、それによりマイクロ液滴を物理的に、且つ選択的に単離することを可能にする。したがって、マイクロ液滴同志を互いにより確実に区分化することが可能である。これにより、2つのマイクロ液滴が融合し、それらマイクロ液滴が含有するサンプルが混合してしまうことを防止することが可能となる。これにより、マイクロ液滴の周りに固体区画を形成するゲル化した油によるマイクロ液滴の区分化によりマイクロ液滴蒸発のリスクをとりわけ大幅に低減して、サンプルを永続的に保存することも可能となる。
【0086】
油の一部が一旦ゲル化すると、その周りで油がゲル化していないマイクロ液滴を、捕捉ゾーンから追い出すことが可能である。このため、マイクロ液滴を運ぶことができるほど十分に強い油の流れ又は別の流体を捕捉ゾーンにおいて使用することが可能である。したがって、その周りで油がゲル化しているマイクロ液滴のみを捕捉ゾーン内で保持することが可能である。
【0087】
油がゲル化している場合でさえ、マイクロ液滴がゲル化することがあることにここでは留意されたい。加えて、油の一部がゲル化している場合には、この方法が、ゲル化した油を非ゲル化する後続工程を含むことができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0088】
10 捕捉ゾーン
12 表面張力トラップ
14 マイクロ液滴
16 生体細胞
18 矢印
20 ハイドロゲル溶液
21 稲妻
22 流れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15