(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】バチルス・コアグランスを含有するアルコール飲料組成物
(51)【国際特許分類】
C12C 5/02 20060101AFI20220905BHJP
C12G 3/02 20190101ALI20220905BHJP
C12G 3/026 20190101ALI20220905BHJP
C12H 6/02 20190101ALI20220905BHJP
C12G 3/05 20190101ALI20220905BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20220905BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/02
C12G3/026
C12H6/02
C12G3/05
A23L33/135
(21)【出願番号】P 2020516593
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 US2018051879
(87)【国際公開番号】W WO2019060501
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-05-18
(31)【優先権主張番号】201741033477
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】501394435
【氏名又は名称】サミ-サビンサ グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100218578
【氏名又は名称】河井 愛美
(72)【発明者】
【氏名】マジード ムハンメド
(72)【発明者】
【氏名】ナガブシャナム カリヤナム
(72)【発明者】
【氏名】アルムガム シヴァクマール
(72)【発明者】
【氏名】アリ フルカン
(72)【発明者】
【氏名】マジード シャヒーン
(72)【発明者】
【氏名】ビーディ キランクマール
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】NUS researchers create novel probiotic beer that boosts immunity and improves gut health,2017年06月28日,pp.1-2,https://news.nus.edu.sg/nus-researchers-create-novel-probiotic-beer-that-boosts-immunity-and-improves-gut-health/
【文献】Front Microbiol.,2017年08月10日,vol.8, no.1490,pp.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 1/00-13/10
C12G 3/00-3/08
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)入りのアルコール飲料を醸造する方法であって、
a)製麦工程、
b)糖化工程、
c)濾過工程、
d)煮沸工程、
e)ホップ添加工程、
f)冷却工程、
g)酵母による発酵工程、
h)熟成および清澄化工程、
i)二次発酵工程、
j)カーボネーション/無カーボネーション工程、
k)低温殺菌および充填工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵前段階中、発酵段階中、および発酵後段階中に添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵前段階中に工程a)にて添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵前段階中に工程e)にて添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵段階中に工程g)にて添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、二次発酵段階中に工程i)にて添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵後段階中に工程j)にて添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵後段階中に工程k)にて添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アルコール飲料が、工程i)の後、60℃で低温殺菌されてから、バチルス・コアグランスの芽胞の添加後にカーボネーション/無カーボネーション工程に供される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵プロセス全体を通じて生存能および安定性の増加を呈した、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
バチルス・コアグランスを芽胞または細菌の形態で含む
アルコール飲料組成物であって、前記芽胞または細菌が、醸造後に芽胞および栄養細胞の高度な回復性、耐性、適合性および生存能を呈するアルコール飲料組成物。
【請求項12】
前記アルコール飲料が、発酵アルコール飲料または蒸留アルコール飲料であり、炭酸アルコール飲料または非炭酸アルコール飲料である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記アルコール飲料が、発酵アルコール飲料であり、前記発酵アルコール飲料が、ビール、エール、バーレイワイン、ビターエール、ブラウンエール、カスクエール、マイルドエール、オールドエール、ペールエール、スコッチエール、ポーター、スタウト、ストックエール、フルーツビール、ラガー、ペールラガー、ボック、メルツェン/オクトーバーフェストビール、ピルスナー、シュバルツビア、サハティ、スモールビール、小麦ビール、ヴィットビアからなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記アルコール飲料が、蒸留アルコール飲料であり、前記蒸留アルコール飲料が、スピリッツ、ジン、ホリルカ、ニュートラルグレーンスピリッツ、ポティーン、焼酎、ソジュ、ウォッカ、ウイスキー、バーボンウイスキー、カナディアンウイスキー、アイリッシュウイスキー、ジャパニーズウイスキー、マンクススピリッツ、スコッチウイスキー、テネシーウイスキー、リキュールからなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
アルコール含有量が1%~43%である、請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
前記バチルス・コアグランスの菌株が、バチルス・コアグランス MTCC5856、ならびに、バチルス・コアグランス ATCC31248およびバチルス・コアグランス ATCC7050から誘導された菌株からなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項17】
前記バチルス・コアグランスの生きた芽胞が、前記アルコール飲料中に1×10
6~1×10
12cfuの濃度で存在する、請求項11に記載の組成物。
【請求項18】
胃腸感染症、炎症性腸疾患、急性および慢性下痢、便秘、腸管内異常発酵、ディスバイオシス、機能性腹痛、乳糖不耐症、アレルギー、泌尿生殖器感染症、嚢胞性線維症、代謝障害、各種がん、抗生物質副作用の軽減、齲歯、歯周病および口臭の予防、有害細菌を減少させることによる良好な腸管内環境の維持の治療的管理において有用である、請求項11に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年9月21日に出願された印国特許仮出願第201741033477号の優先権を主張するPCT出願である。
本発明は、全体として、プロバイオティクスに関するものである。より詳細には、本発明は、プロバイオティック細菌バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)を含むアルコール飲料組成物および前記アルコール飲料を醸造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロバイオティクスは、広範な健康利益をもたらす。それらは、多様な疾患の効果的な管理、例えば、胃腸感染症、炎症性腸疾患、急性および慢性下痢、便秘、腸管内異常発酵、ディスバイオシス(dysbiosis)、機能性腹痛、乳糖不耐症、アレルギー、泌尿生殖器感染症、嚢胞性線維症、代謝障害、各種がん、口腔衛生における、例えば齲歯、歯周病および口臭の予防などにおける抗生物質副作用の軽減、良好な腸管内環境の維持、ならびに、有害細菌を減少させることによる腸管内菌叢のバランス維持などの効果的な管理のための栄養補助食品として投与される(Goldin BR (1998) Health benefits of probiotics, The British Journal of Nutrition 80(4):S203-7; Singh et al., (2013) Role of probiotics in health and disease: a review, JPMA. The Journal of the Pakistan Medical Association, 63(2):253-25)。
【0003】
過剰なアルコール消費は健康に副作用をもたらすことが知られてはいても、人付き合いのため、リラックスするため、楽しむためという口実でのアルコール消費は増えている。アルコールは、いくつかの重要なビタミンなどの栄養分の腸管吸収を妨害することにより腸に影響を及ぼす。アルコールが腸の粘膜免疫系を著しく変調させると報告する研究もある(Bode et al.,(2003) Effect of alcohol consumption on the gut, Best Practice & Research Clinical Gastroenterology; 17(4):575-592)。また、アルコール消費は、腸内微生物叢を変化させ、それにより、腸内微生物が全身の健康にもたらす有益な効果を無効化する(Bob Roehr, 2016, Drinking Causes Gut Microbe Imbalance Linked to Liver Disease, The Scientific American, https://www.scientificamerican.com/article/drinking-causes-gut-microbe-imbalance-linked-to-liver-disease/、2018年9月10日にアクセスした)。
【0004】
アルコールが腸内微生物叢に与える効果の減弱化には、これまで多くの努力が払われてきた。プロバイオティクスの補給は、腸の菌叢の復元、ならびに、アルコール性肝臓損傷および肝毒性における生きた酵素(live enzyme)の改善に効果的であることが見出されている(Kirpich et al. (2008) Probiotics restore bowel flora and improve liver enzymes in human alcohol-induced liver injury: a pilot study; Alcohol; 42(8):675-682)。ビール消費時に腸内菌叢に及ぶ有害な効果を回避するように、プロバイオティクスが入っているビールも開発された(SG 10201702468S、PROBIOTIC SOUR BEER)。しかし、生きたプロバイオティクス入りのアルコールドリンクの開発は、酸性条件の存在がプロバイオティクスの生育および生存を妨げることから、困難なタスクである。有害な条件下に置かれた際のプロバイオティクスの特性も、プロバイオティクスを含有するアルコール飲料の開発において主要な役割を担う。プロバイオティクスを含有するアルコール飲料の開発に向け適当なプロバイオティック菌株を見出すべきという未だ満たされない産業上の必要性は、依然として存在する。本発明は、バチルス・コアグランスを含有し、プロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの芽胞および栄養細胞の回復性、耐性、適合性および生存能が増加しているアルコール飲料組成物、ならびにこれを醸造する方法を開示することにより、上記の課題を解決する。
【0005】
本発明の原理的な目的は、プロバイオティック細菌バチルス・コアグランスを含有するアルコール飲料組成物を開示することである。
本発明の別の目的は、プロバイオティック細菌バチルス・コアグランスを含有するアルコール飲料組成物を醸造する方法を開示することである。
本発明は、上記の課題を解決し、さらなる関連した利点を提供する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、バチルス・コアグランスを芽胞または細菌の形態で含むアルコール飲料組成物であって、前記芽胞または細菌が、醸造後に芽胞および栄養細胞の高度な回復性、耐性、適合性および生存能を呈するアルコール飲料組成物を開示する。また本発明は、バチルス・コアグランスを含むアルコール飲料組成物を醸造する方法であって、前記芽胞または細菌が、発酵の前、発酵中、および発酵後に添加される方法も開示する。
本発明の他の特徴および利点は、以下のより詳細な説明を、本発明の原理を例証する添付の図面と併せて読むことにより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1a】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの安定性を示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の製麦工程中に行った場合のものである。
【
図1b】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの生存能パーセントを示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の製麦工程中に行った場合のものである。
【
図2a】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの安定性を示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造のホップ添加工程中に行った場合のものである。
【
図2b】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの生存能パーセントを示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造のホップ添加工程中に行った場合のものである。
【
図3a】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの安定性を示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の発酵工程中に行った場合のものである。
【
図3b】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの生存能パーセントを示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の発酵工程中に行った場合のものである。
【
図4a】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの安定性を示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の二次発酵工程中に行った場合のものである。
【
図4b】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの生存能パーセントを示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の二次発酵工程中に行った場合のものである。
【
図5a】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの安定性を示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造のカーボネーション工程中に行った場合のものである。
【
図5b】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの生存能パーセントを示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造のカーボネーション工程中に行った場合のものである。
【
図6a】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの安定性を示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の充填および低温殺菌工程中に行った場合のものである。
【
図6b】アルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの生存能パーセントを示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の充填および低温殺菌工程中に行った場合のものである。
【
図7a】25℃のアルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの安定性を示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の充填および低温殺菌工程中に行ってからカーボネーションに供した場合のものである。
【
図7b】25℃のアルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの生存能パーセントを示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の充填および低温殺菌工程中に行ってからカーボネーションに供した場合のものである。
【
図8a】40℃のアルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの安定性を示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の充填および低温殺菌工程中に行ってからカーボネーションに供した場合のものである。
【
図8b】40℃のアルコール飲料中でのプロバイオティック細菌バチルス・コアグランスの生存能パーセントを示すグラフであり、菌の添加を飲料醸造の充填および低温殺菌工程中に行ってからカーボネーションに供した場合のものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
最も好ましい実施形態において、本発明は、バチルス・コアグランスを芽胞または細菌の形態で含むアルコール飲料組成物であって、前記芽胞または細菌が、醸造後に芽胞および栄養細胞の高度な回復性、耐性、適合性および生存能を呈するアルコール飲料組成物を開示する。関連する一実施形態において、アルコール飲料は、発酵アルコール飲料および蒸留アルコール飲料である。別の関連する実施形態において、アルコール飲料は、炭酸アルコール飲料および非炭酸アルコール飲料である。
【0009】
また別の関連する実施形態において、発酵アルコール飲料は、ビール、エール、バーレイワイン、ビターエール、ブラウンエール、カスクエール、マイルドエール、オールドエール、ペールエール、スコッチエール、ポーター、スタウト、ストックエール、フルーツビール、ビール、ラガー、ペールラガー、ボック、メルツェン/オクトーバーフェストビール、ピルスナー、シュバルツビア、サハティ(Sahti)、スモールビール、小麦ビール、ヴィットビア、カウイン、チチャ、シードル、ペリー、プラムジャークム(Plum jerkum)、デシダル(Desi daru)、黄酒、イカリイン酒(Icariine Liquor)、カシリ(Kasiri)、キルジュ(Kilju)、クミス、ミード、ニハマンチ(Nihamanchi)、パームワイン、パラカリ(Parakari)、プルケ、サクラ(Sakura)、日本酒、ソンティ(Sonti)、テパチェ、チスウィン(Tiswin)、トント(Tonto)、ワイン、強化ワイン、ポート、マデイラ、マルサラ、シェリー、ヴェルモットヴィンサント、フルーツワイン、テーブルワイン、サングリア、スパークリングワイン、シャンパンからなる群から選択されるが、これらに限定されない。
【0010】
別の関連する実施形態において、蒸留アルコール飲料は、スピリッツ、アブサン、アクアビット、アップルジャック、アラク、アラック、泡盛、白酒、ボロヴィチカ、ブランデー、アルマニャック、コニャック、フルーツブランデー、オードヴィー(フランス)、シュナップス-オプストヴァッサー(ドイツ)、ダマシン、ヒンベアガイスト、キルシュ、ポワール・ウィリアムス、ウィリアミーヌ、カシャッサ、ジン、ダムソンジン、スロージン、ホリルカ、コウリャン、マオタイ、メタクサ、メスカル、ニュートラルグレーンスピリッツ、オゴゴロ、ウーゾ、パーリンカ、ピスコ、ポティーン、ラク、ラキア、スリヴォヴィッツ、ラム、焼酎、シンガニ、ソジュ、テキーラ、ツイカ、ウォッカ、ウイスキー、バーボンウイスキー、カナディアンウイスキー、アイリッシュウイスキー、ジャパニーズウイスキー、マンクススピリッツ(ManX Spirit)、ライウイスキー、スコッチウイスキー、テネシーウイスキー、リキュールからなる群から選択されるが、これらに限定されない。
【0011】
別の実施形態において、飲料組成物のアルコール含有量は、1%~43%である。
一実施形態において、バチルス・コアグランスの菌株は、好ましくは、バチルス・コアグランス MTCC5856、ならびに、バチルス・コアグランス ATCC31248およびバチルス・コアグランス ATCC7050から誘導された菌株である。別の関連する態様において、バチルス・コアグランスの生きた芽胞/栄養細胞は、アルコール飲料中に1×106~1×1012cfuの濃度で存在する。
【0012】
別の好ましい実施形態において、アルコール飲料とバチルス・コアグランスとを含有する組成物は、限定されるものではないが例えば、胃腸感染症、炎症性腸疾患、急性および慢性下痢、便秘、腸管内異常発酵、ディスバイオシス、機能性腹痛、乳糖不耐症、アレルギー、泌尿生殖器感染症、嚢胞性線維症、代謝障害、各種がん、口腔衛生における、例えば齲歯、歯周病および口臭の予防などにおける抗生物質副作用の軽減、良好な腸管内環境の維持、ならびに、有害細菌を減少させることによる腸管内菌叢のバランス維持などからなる群から選択される疾患の治療的管理のために使用される。
別の好ましい実施形態において、本発明は、バチルス・コアグランス入りのアルコール飲料を醸造する方法であって、
a)製麦工程
b)糖化(Mashing)工程
c)濾過工程
d)煮沸(Kettle boiling)工程
e)ホップ添加工程
f)冷却工程
g)酵母による発酵工程
h)熟成および清澄化工程
i)二次発酵工程
j)カーボネーション/無カーボネーション工程
k)低温殺菌および充填工程
を含む方法を開示する。
【0013】
関連する一態様において、バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞は、発酵前段階中、発酵段階中、および発酵後段階中に、添加される。別の関連する態様において、バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞は、発酵前段階中に工程a)にて添加される。別の関連する態様において、バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞は、発酵前段階中に工程e)にて添加される。別の関連する態様において、バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞は、発酵段階中に工程g)にて添加される。別の関連する態様において、バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞は、二次発酵段階中に工程i)にて添加される。別の関連する態様において、バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞は、発酵後段階中に工程j)にて添加される。別の関連する態様において、バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞は、発酵後段階中に工程k)にて添加される。
【0014】
また別の関連する態様において、アルコール飲料は、工程i)の後、60℃で低温殺菌されてから、バチルス・コアグランスの芽胞の添加後にカーボネーション/無カーボネーション工程に供される。
別の関連する態様において、バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞は、発酵プロセス全体を通じて生存能および安定性の増加を呈した。
【0015】
本明細書において以下に記載する具体例は、前述した本発明の最も好ましい実施形態を例証するものである。
【0016】
(実施例1)
プロバイオティック細菌バチルス・コアグランスを含有するアルコール飲料組成物
方法:ビールのサンプルはKingfisher製のものを現地市場から調達し、ウイスキーはMcDowell’s No.1のものを入手した。マイルドラガー、ラガー、およびストロングビールのアルコール含有量はそれぞれ、3.345%、3.48%、および4.81%であった。ウイスキーのアルコール含有量は42.8%であった。バチルス・コアグランス MTCC5856(LactoSpore(登録商標)としてSabinsa Corporation)、NJ、USAから市販されている)を、ビール(マイルドラガー、ラガー、およびストロングビール)ならびにウイスキーに添加した。ビールのサンプルは、カーボネーションを施して120ml容器に充填し、医薬品規制調和国際会議のガイドライン(ICH guidelines Q1A (R2) (ICH 2003)に従って安定性試験に供した。サンプルの説明は、視覚的および官能的測定法に基づいて行った。比重およびpHは、それぞれ米国薬局方(United State Pharmacopoeia )Chapter USP<841>および<791>に従って決定した。他の好気性微生物の数は、USP <61>の変法に従って検査した。酵母およびカビの数と、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)およびサルモネラ種(Salmonella spp.)については、USP method chapter <61>および<62>に従って検査した。USP chapter <2021>に従った腸内細菌科菌群の検査、および、BAM, Chapter 4に従った大腸菌群の検査を実施した。
【0017】
表1および表2は、標準的な混釈平板法により決定した、アルコール飲料中でのバチルス・コアグランス MTCC5856の芽胞の回復性および耐性を開示するものである。
表1.標準的な混釈平板法により決定した、アルコール飲料中でのバチルス・コアグランス MTCC5856の芽胞の回復性および耐性。
【0018】
【表1】
表2.フローサイトメトリー法により決定した、アルコール飲料中でのバチルス・コアグランス MTCC5856の芽胞の回復性および耐性
【0019】
【0020】
異なるアルコール飲料形態でのプロバイオティック組成物の安定性を決定するために、室温条件(25±2℃、相対湿度60%±5%)および加速条件(40±2℃、相対湿度65%±5%)での安定性試験も実施した。表3~10は、プロバイオティック細菌バチルス・コアグランス MTCC5856を含有するアルコール飲料の安定性試験を説明するものである。
表3.プロバイオティクス-マイルドラガービールの安定性試験 条件:40±2℃、相対湿度65%±5%
【0021】
【表3】
表4.プロバイオティクス-ラガービールの安定性試験 条件:40±2℃、相対湿度65%±5%
【0022】
【表4】
表5.プロバイオティクス-ストロングラガービールの安定性試験 条件:40±2℃、相対湿度65%±5%
【0023】
【表5】
表6.プロバイオティクス-ウイスキーの安定性試験 条件:40±2℃、相対湿度65%±5%
【0024】
【表6】
表7.プロバイオティクス-マイルドラガービールの安定性試験 条件:25±2℃、相対湿度60%±5%
【0025】
【表7】
表8.プロバイオティクス-ラガービールの安定性試験 条件:25±2℃、相対湿度60%±5%
【0026】
【表8】
表9.プロバイオティクス-ストロングラガービールの安定性試験 条件:25±2℃、相対湿度60%±5%
【0027】
【表9】
表10.プロバイオティクス-ウイスキー(バッチ:FT/WHL/02)の安定性試験 条件:25±2℃、相対湿度60%±5%
【0028】
【0029】
アルコール飲料(ビールおよびウイスキー)の安定性試験の結果から、プロバイオティック菌株バチルス・コアグランス MTCC5856を組み込んだ場合、室温条件(25±2℃、相対湿度60%±5%)で保存したときも加速条件(40±2℃、相対湿度65%±5%)で保存したときも、その適合性および安定性を示唆する比重、pHおよびアルコール含有量には影響が及ばないことが示唆された。
さらに、微生物のパラメーターに有意な変化は認められなかったことから、プロバイオティックアルコール飲料は微生物のプロファイルを改変しないことが示唆された。
【0030】
(実施例2)
プロバイオティクス入りのアルコール飲料を醸造する方法
プロバイオティック細菌バチルス・コアグランスを添加することによりアルコール飲料を醸造するための種々の方法をここに開示する。
方法1:発酵前段階でバチルス・コアグランスを添加
次に挙げるフローチャートは、製麦段階にてバチルス・コアグランスを添加することによりアルコール飲料を醸造する方法を説明するものである。
【0031】
【0032】
バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞の安定性および生存能を検査した。結果から、バチルス・コアグランスは、製麦段階にて添加した場合、安定性(
図1a)および生存能(
図1b)の増加を示すことが示された。
方法2:発酵前段階でホップ添加段階にてバチルス・コアグランスを添加
次に挙げるフローチャートは、ホップ添加段階にてバチルス・コアグランスを添加することによりアルコール飲料を醸造する方法を説明するものである。
【0033】
【0034】
バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞の安定性および生存能を検査した。結果から、バチルス・コアグランスは、ホップ添加段階にて添加した場合、安定性(
図2a)および生存能(
図2b)の増加を示すことが示された。
方法3:発酵中にバチルス・コアグランスを添加
次に挙げるフローチャートは、発酵段階中にバチルス・コアグランスを添加することによりアルコール飲料を醸造する方法を説明するものである。
【0035】
【0036】
バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞の安定性および生存能を検査した。結果から、バチルス・コアグランスは、発酵段階中に添加した場合、安定性(
図3a)および生存能(
図3b)の増加を示すことが示された。
方法4:二次発酵中にバチルス・コアグランスを添加
次に挙げるフローチャートは、二次発酵段階中にバチルス・コアグランスを添加することによりアルコール飲料を醸造する方法を説明するものである。
【0037】
【0038】
バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞の安定性および生存能を検査した。結果から、バチルス・コアグランスは、二次発酵段階中に添加した場合、安定性(
図4a)および生存能(
図4b)の増加を示すことが示された。
方法5:発酵後段階中にカーボネーション工程にてバチルス・コアグランスを添加
次に挙げるフローチャートは、カーボネーション工程にてバチルス・コアグランスを添加することによりアルコール飲料を醸造する方法を説明するものである。
【0039】
【0040】
バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞の安定性および生存能を検査した。結果から、バチルス・コアグランスは、発酵後段階のカーボネーション中に添加した場合、安定性(
図5a)および生存能(
図5b)の増加を示すことが示された。
方法6:発酵後段階中に充填および低温殺菌工程にてバチルス・コアグランスを添加
次に挙げるフローチャートは、充填および低温殺菌工程にてバチルス・コアグランスを添加することによりアルコール飲料を醸造する方法を説明するものである。
【0041】
【0042】
バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞の安定性および生存能を検査した。結果は、バチルス・コアグランスは発酵後段階の充填および低温殺菌中に添加した場合、安定性(
図6a)および生存能(
図6b)の増加を示すことが示された。
方法7:発酵後段階中にバチルス・コアグランスを添加
次に挙げるフローチャートは、充填および低温殺菌工程にてバチルス・コアグランスを添加することによりアルコール飲料を醸造する方法を説明するものである。
【0043】
【0044】
バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞の安定性および生存能を検査した。結果から、バチルス・コアグランスは、発酵後段階中に添加した場合、25℃での安定性(
図7a)および40℃での安定性(
図8a)ならびに25℃での生存能(
図4b)および40℃での生存能(
図8b)の増加を示すことが示された。
【0045】
上記の結果から、バチルス・コアグランスは、発酵プロセス全体を通して安定であり生存能を有し、アルコール飲料と共に添加するには第一に頼るべきプロバイオティクスであることが示される。
【0046】
本願において言及する受託番号MTCC5856をもつ生物学的材料バチルス・コアグランス SBC37-01の寄託は、2013年9月19日にMicrobial Type Culture Collection&Gene Bank(MTCC)、CSIR-Institute of Microbial Technology、Sector 39-A、Chandigarh-160036、インドにて行われている。
【0047】
本発明を好ましい実施形態に関して記載してきたが、本発明がそれに限定されないことは当業者には明確に理解されるはずである。むしろ、本発明の対象範囲は、添付の特許請求の範囲を併せて読むことによってのみ解釈が可能である。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)入りのアルコール飲料を醸造する方法であって、
a)製麦工程、
b)糖化工程、
c)濾過工程、
d)煮沸工程、
e)ホップ添加工程、
f)冷却工程、
g)酵母による発酵工程、
h)熟成および清澄化工程、
i)二次発酵工程、
j)カーボネーション/無カーボネーション工程、
k)低温殺菌および充填工程
を含む、方法。
〔2〕前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵前段階中、発酵段階中、および発酵後段階中に添加される、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵前段階中に工程a)にて添加される、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵前段階中に工程e)にて添加される、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵段階中に工程g)にて添加される、前記〔1〕に記載の方法。
〔6〕前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、二次発酵段階中に工程i)にて添加される、前記〔1〕に記載の方法。
〔7〕前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵後段階中に工程j)にて添加される、前記〔1〕に記載の方法。
〔8〕前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵後段階中に工程k)にて添加される、前記〔1〕に記載の方法。
〔9〕前記アルコール飲料が、工程i)の後、60℃で低温殺菌されてから、バチルス・コアグランスの芽胞の添加後にカーボネーション/無カーボネーション工程に供される、前記〔1〕に記載の方法。
〔10〕前記バチルス・コアグランスの芽胞/栄養細胞が、発酵プロセス全体を通じて生存能および安定性の増加を呈した、前記〔1〕に記載の方法。
〔11〕バチルス・コアグランスを芽胞または細菌の形態で含む前記〔1〕に記載の方法によって得られるアルコール飲料組成物であって、前記芽胞または細菌が、醸造後に芽胞および栄養細胞の高度な回復性、耐性、適合性および生存能を呈するアルコール飲料組成物。
〔12〕前記アルコール飲料が、発酵アルコール飲料または蒸留アルコール飲料であり、炭酸アルコール飲料および非炭酸アルコール飲料である、前記〔11〕に記載の組成物。
〔13〕前記発酵アルコール飲料が、ビール、エール、バーレイワイン、ビターエール、ブラウンエール、カスクエール、マイルドエール、オールドエール、ペールエール、スコッチエール、ポーター、スタウト、ストックエール、フルーツビール、ビール、ラガー、ペールラガー、ボック、メルツェン/オクトーバーフェストビール、ピルスナー、シュバルツビア、サハティ、スモールビール、小麦ビール、ヴィットビア、カウイン、チチャ、シードル、ペリー、プラムジャークム、デシダル、黄酒、イカリイン酒、カシリ、キルジュ、クミス、ミード、ニハマンチ、パームワイン、パラカリ、プルケ、サクラ、日本酒、ソンティ、テパチェ、チスウィン、トント、ワイン、強化ワイン、ポート、マデイラ、マルサラ、シェリー、ヴェルモットヴィンサント、フルーツワイン、テーブルワイン、サングリア、スパークリングワイン、シャンパンからなる群から選択される、前記〔11〕に記載の組成物。
〔14〕前記蒸留アルコール飲料が、スピリッツ、アブサン、アクアビット、アップルジャック、アラク、アラック、泡盛、白酒、ボロヴィチカ、ブランデー、アルマニャック、コニャック、フルーツブランデー、オードヴィー(フランス)、シュナップス-オプストヴァッサー(ドイツ)、ダマシン、ヒンベアガイスト、キルシュ、ポワール・ウィリアムス、ウィリアミーヌ、カシャッサ、ジン、ダムソンジン、スロージン、ホリルカ、コウリャン、マオタイ、メタクサ、メスカル、ニュートラルグレーンスピリッツ、オゴゴロ、ウーゾ、パーリンカ、ピスコ、ポティーン、ラク、ラキア、スリヴォヴィッツ、ラム、焼酎、シンガニ、ソジュ、テキーラ、ツイカ、ウォッカ、ウイスキー、バーボンウイスキー、カナディアンウイスキー、アイリッシュウイスキー、ジャパニーズウイスキー、マンクススピリッツ、ライウイスキー、スコッチウイスキー、テネシーウイスキー、リキュールからなる群から選択される、前記〔11〕に記載の組成物。
〔15〕アルコール含有量が1%~43%である、前記〔11〕に記載の組成物。
〔16〕前記バチルス・コアグランスの菌株が、好ましくは、バチルス・コアグランス MTCC5856、ならびに、バチルス・コアグランス ATCC31248およびバチルス・コアグランス ATCC7050から誘導された菌株である、前記〔11〕に記載の組成物。
〔17〕前記バチルス・コアグランスの生きた芽胞が、前記アルコール飲料中に1×10
6
~1×10
12
cfuの濃度で存在する、前記〔11〕に記載の組成物。
〔18〕胃腸感染症、炎症性腸疾患、急性および慢性下痢、便秘、腸管内異常発酵、ディスバイオシス、機能性腹痛、乳糖不耐症、アレルギー、泌尿生殖器感染症、嚢胞性線維症、代謝障害、各種がん、抗生物質副作用の軽減、齲歯、歯周病および口臭の予防、有害細菌を減少させることによる良好な腸管内環境の維持の治療的管理において有用である、前記〔11〕に記載の組成物。