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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】頭皮頭髪用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/65 20060101AFI20220905BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20220905BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20220905BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20220905BHJP
   A61K 35/614 20150101ALI20220905BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20220905BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20220905BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220905BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
A61K8/65
A61K8/49
A61K8/98
A61K31/506
A61K35/614
A61K38/39
A61P17/14
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61Q7/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020557731
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2019046121
(87)【国際公開番号】W WO2020111047
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2018221432
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511028135
【氏名又は名称】株式会社海月研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木平 孝治
(72)【発明者】
【氏名】馬場 崇行
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145106(JP,A)
【文献】特開平02-115112(JP,A)
【文献】特表2007-537135(JP,A)
【文献】特開2008-081483(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0271614(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108125892(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 31/00-31/80
A61K 35/00-35/768
A61K 38/00-38/58
A61P 17/00-17/18
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラゲコラーゲンを有効成分として含有する、ミノキシジル硫酸転移酵素活性増強剤。
【請求項2】
クラゲコラーゲンとミノキシジルとを含む、頭皮頭髪用組成物。
【請求項3】
クラゲコラーゲンとミノキシジルとの含有比が質量比で、1:10~1:10000である、請求項に記載の頭皮頭髪用組成物。
【請求項4】
化粧料、医薬部外品、又は医薬品の形態である、請求項又はに記載の頭皮頭髪用組成物。
【請求項5】
請求項のいずれか1項に記載の頭皮頭髪用組成物を頭皮又は頭髪に適用することを含む、美容方法(ただし、医療行為を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラゲコラーゲンを有効成分として含有するミノキシジル硫酸転移酵素活性増強剤、及び頭皮頭髪用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、加齢、ストレス、紫外線等の様々な要因により、薄毛や脱毛といった頭髪のトラブルが増加している。頭髪は美容上極めて重要な要素であり、薄毛や脱毛は、心理面にもマイナスの影響を与える。また、薄毛や脱毛は男性の悩みのように考えられがちであるが、女性ホルモンの減少などにより女性にも深刻な問題となっており、ヘアケア剤の開発や市場は拡大の一途をたどっている。
【0003】
従来より、男性型脱毛症(AGA)の原因の一つとして、男性ホルモンの過剰作用が挙げられている。特に、毛根、皮脂腺等の器官における男性ホルモン活性の本体は、テストステロンがテストステロン-5α-レダクターゼによって還元されて生成する5α-ジヒドロテストステロンであることが知られている。よって、テストステロン-5α-レダクターゼの阻害作用を有する天然物質等を有効成分とする育毛剤が多数提唱されている(特許文献1、2等)。
【0004】
一方、ミノキシジル(化学名:2、4-ジアミノ-6-ピペリジノピリミジン-3-オキサイド)は、その血管拡張作用から血圧降下剤として開発されたものであるが、副作用として多毛症現象が起こることがわかった。そのような知見から、ミノキシジルは、外用塗布により優れた発毛・育毛効果を発揮する薬剤として使用されるようになり、これを配合した外用剤が国内外で市販されている。ミノキシジルは、上記のテストステロン-5α-レダクターゼ阻害作用とは異なり、真皮内の毛根を包みこむ毛包に直接作用し、様々な成長因子を産生することで、優れた成長期延長作用、成長期誘導作用を持つことが報告されている(非特許文献1等)。
【0005】
また、ミノキシジルの発毛・育毛効果の増強、皮膚刺激性の副作用の軽減、溶液中での安定性などを目的として、ミノキシジルに他の成分を併用した育毛剤も開発されている。例えば、ミノキシジルと生薬のジャトバ抽出物及び/又はベチュラ抽出物を含有することを特徴とする育毛組成物(特許文献3)、ミノキシジルとダイズ又はカッコンなどの植物抽出物を含有する育毛剤(特許文献4)、ミノキシジルと塩化カルプロニウムを含有することを特徴とする育毛組成物(特許文献5)などが報告されている。このようにミノキシジルは優れた発毛・育毛効果があり、それを配合したヘアケア製品の需要が高い一方、ミノキシジルは、生体内で硫酸転移酵素により活性化されて薬効を発揮するため、頭皮中の硫酸転移酵素活性が低い場合は、ミノキジルの効果が低いという報告がある(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-229167号公報
【文献】特開2012-176921号公報
【文献】特開平9-87148号公報
【文献】特開2005-119996号公報
【文献】特開2008-56703号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Messenger AG, Rundegren J, Minoxidil:mechanisms of action on hair growth, Br J Dermatol, 150:186-94, 2004
【文献】Hamamoto T, Mori Y, Res CommunChem Pathol Pharmacol. 66(1):33-44. 1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、頭皮中のミノキジル硫酸転移酵素活性の増強効果を有する物質を見出し、これをミノキシジルとともに用いてミノキシジルの発毛・育毛効果を高めた薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、クラゲコラーゲンが、ミノキシジルを硫酸ミノキジルに変換するミノキシジル硫酸転移酵素活性を増強できることを見出した。また、クラゲコラーゲンを添加したヒト表皮角化細胞の遺伝子発現解析によれば、発毛、細胞増殖、毛周期、毛包形成といった頭髪の形成に関与する遺伝子群の発現量について有意な変動(増加又は減少)が認められ、クラゲコラーゲンをミノキシジルと併用すればミノキシジルの発毛・育毛効果をより向上できるという知見を得た。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)クラゲコラーゲンを有効成分として含有する、ミノキシジル硫酸転移酵素活性増強剤。
(2)クラゲコラーゲンを有効成分として含有する、BMP2、BMPR1A、GSK3B、BCL2、VEGFB、VEGFC、FGF7、NOG、SMAD4、TGFB1、GAS1、THBS2、BMP7、EFNA1、IRF6、及びSOX9から成る群より選択される1種又は2種以上の発毛・育毛関連因子の発現促進剤。
(3)クラゲコラーゲンを有効成分として含有する、IL1Aの発現抑制剤。
(4)クラゲコラーゲンとミノキシジル又はその誘導体とを含む、頭皮頭髪用組成物。
(5)クラゲコラーゲンとミノキシジル又はその誘導体との含有比が質量比で、1:10~1:10000である、(4)に記載の頭皮頭髪用組成物。
(6)化粧料、医薬部外品、又は医薬品の形態である、(4)又は(5)に記載の頭皮頭髪用組成物。
(7)(4)~(6)のいずれかに記載の頭皮頭髪用組成物を頭皮又は頭髪に適用することを含む、美容方法。
本願は、2018年11月27日に出願された日本国特許出願2018-221432号の優先権を主張するものであり、該特許出願の明細書に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
クラゲコラーゲンは頭皮内のミノキシジル硫酸転移酵素活性を増強することができるので、これをミノキシジルと併用することによってミノキシジルの発毛・育毛効果を高めることができる。よって、本発明のクラゲコラーゲンを配合した頭皮頭髪用組成物は、薄毛や脱毛の予防及び/又は改善に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について詳細に述べる。
1.ミノキシジル硫酸転移酵素活性増強剤
本発明のミノキシジル硫酸転移酵素活性増強剤は、クラゲ由来コラーゲン(以下、「クラゲコラーゲン」という)を有効成分として含有する。ここで、ミノキシジル硫酸転移酵素(minoxidil sulfotransferase)としては、SULT1A1(sulfotransferase family, cytosolic, 1A, phenol-preferring, member 1)、SULT1A2(sulfotransferase family, cytosolic, 1A, phenol-preferring, member 2)、SULT1A3(sulfotransferase family, cytosolic, 1A, phenol-preferring, member 3)が包含される。
【0013】
本発明に用いるクラゲコラーゲンは、典型的には、クラゲから抽出される水溶性の未変性コラーゲンであるが、上記効果を有する限り、加熱変性処理を行った変性コラーゲン、これらを酵素処理や酸処理により分解して低分子化したコラーゲンペプチドを包含するものとする。また本発明に用いるクラゲコラーゲンは、それを含むクラゲ抽出液でもよいが、該抽出液を濃縮、液液分配、各種クロマトグラフィーにより単離・精製されていることが好ましい。
【0014】
本発明において、クラゲとは、刺胞動物門に属するクラゲをいい、例えば、ミズクラゲ、アカクラゲ、オワンクラゲ、エチゼンクラゲ、アンドンクラゲ、ビゼンクラゲ、ハブクラゲ等が挙げられる。本発明に用いるクラゲコラーゲンとしては、クラゲより調製されるコラーゲンであれば特に限定はされないが、ヒトや動物に対する安全性が確認されているクラゲであるミズクラゲ、エチゼンクラゲ、ビゼンクラゲ由来のコラーゲンが好ましい。
【0015】
本発明に用いるクラゲコラーゲンは、緩衝液又は海水程度の塩分を含む水溶液でクラゲを処理後、この処理液からクラゲコラーゲンを抽出する方法により調製することができる。抽出に用いるクラゲの部位は特に限定されるものではなく、例えば、表皮、口腕、胃体部、体液など、また凍結保存や常温による保存において生じた液体成分を用いることができる。抽出は、例えば、リン酸緩衝液又は0.2%程度の塩化ナトリウム溶液でクラゲを処理し、4℃程度の低温下で一晩放置することで行うことができる。抽出されたクラゲコラーゲンは、凍結乾燥やスプレードライ等の処理を行うことにより水分を取り除くことができる。また、クラゲコラーゲンを含む水溶液に対しては、硫酸アンモニウム等の無機塩を用いた塩析や、エタノール等のアルコールを用いた沈殿法等によりクラゲコラーゲンを沈殿させて、遠心分離や濾過等の方法を用いてクラゲコラーゲンを分離することもできる。これらのクラゲの部位を材料としてクラゲコラーゲンを含む抽出物を得る方法、ならびに得られた抽出物をエタノール沈殿、液体クロマトグラフィーなどのタンパク質の精製に通常用いられる手段によって精製する方法は、特許第5775221号(WO2014/030323)公報、特開2013-27381号公報の記載に従えばよい。
【0016】
例えば、特許第5775221号公報に記載の方法は、クラゲのムチンとコラーゲンの分別抽出方法であって、(i)クラゲを破砕してなる含水破砕物を固液分離して得られる液成分と炭素数1~4の水溶性アルコール(好ましくはエチルアルコール及びプロピルアルコール)とを、炭素数1~4の水溶性アルコールの濃度が全体に対して少なくとも50容量%になるように、混合して得られる混合物を固液分離することにより固形分を得るタンパク質分離工程と、(ii) 前記タンパク質分離工程で得られる固形分と10~40質量%のアルコール濃度である炭素数1~4の水溶性アルコール(好ましくはエチルアルコール及びプロピルアルコール)水溶液とを混合し、次いで固液分離操作を行うことによりムチン含有液成分とコラーゲン含有固形分とを別々に得る工程を含む。次に、得られたコラーゲン含有固形分を、公知の精製操作、例えばイオン交換クロマトグラフィー、及び乾燥操作、例えば凍結乾燥をすることにより単離することができる。クラゲコラーゲンは、アミノ酸分析により、グリシン(Gly)の含有量を定量することにより同定することができる。
【0017】
上記の方法により調製されるクラゲコラーゲンは、1α2α3のヘテロ3量体で形成される哺乳動物のV型様コラーゲンと類似構造を有し、他種由来のコラーゲンと比較して、糖含量が多く、ヒドロキシプロリンに比較してヒドロキシリジン量が多いこと、グリシン(Gly)が総アミノ酸量の約1/3を占めるアミノ酸組成を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に用いるクラゲコラーゲンは商業的に入手可能であり、JelliCollagen(登録商標)が好適に使用できる。
【0019】
上記の方法等で調製されたクラゲコラーゲンは、粉末状、顆粒状及びペレット状等のいかなる形態にすることができ、あるいは、適当な溶媒に溶解させて溶液とすることもできる。クラゲコラーゲンを溶解させる溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液等の通常中性領域で用いられる溶媒や、塩酸、酢酸等の酸性溶媒などが使用できる。クラゲコラーゲンを粉末状とした場合は、-20~10℃で保管することが好ましく、さらにシリカゲル等の乾燥剤と合わせて保管することが好ましい。また、クラゲコラーゲンを溶液とした場合は、10℃以下で保管することが好ましい。
【0020】
クラゲコラーゲンの本発明の剤への使用に際し、上記のクラゲコラーゲン及びこれを含むクラゲ抽出物は、あらかじめエンドトキシンを含む病原性成分、抗原性成分、アレルギー源性成分を除去あるいは低減する処理をしておくことが好ましい。
【0021】
クラゲコラーゲンは、ミノキシジル硫酸転移酵素活性を増強させる作用を有する。ミノキシジル(minoxidil)は、毛乳頭細胞内のATP感受性カリウムチャネルを介して発毛効果を発揮する薬剤であり、ミノキシジルの薬効は、生体内で硫酸転移酵素 (minoxidil sulfotransferase)が作用して硫酸ミノキシジル(minoxidil sulfate)に変換されることによって発揮される。よって、クラゲコラーゲンは、頭皮中のミノキシジル硫酸転移酵素活性を増強することにより、ミノキシジルの発毛効果を高めることができる。
【0022】
2.発毛・育毛関連因子の発現制御剤
上記のクラゲコラーゲンは、頭皮における発毛・育毛関連因子の発現を変化(亢進又は低下)させる作用を有する。よって、クラゲコラーゲンは、発毛・育毛関連因子の発現制御(促進又は抑制)剤としても使用できる。本発明において、発毛・育毛関連因子の発現促進又は抑制とは、発毛・育毛関連因子をコードする遺伝子のmRNAへの転写促進又は抑制、mRNAの翻訳促進又は抑制等により、クラゲコラーゲンを施用しない頭皮と比較して、発毛・育毛関連因子の発現量を有意に増加又は減少させることをいう。例えば、クラゲコラーゲンの施用した頭皮における発毛・育毛関連因子の発現量がクラゲコラーゲンの施用していない頭皮の該発現量と比較して、1.1倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは5倍以上増加又は減少していることが望ましい。
【0023】
クラゲコラーゲンにより発現が亢進する因子としては、BMP2、BMPR1A、GSK3B、BCL2、VEGFB、VEGFC、FGF7、NOG、SMAD4、TGFB1、GAS1、THBS2、BMP7、EFNA1、IRF6、及びSOX9が挙げられる。
【0024】
BMP2(Bone Morphogenetic Protein-2)、骨形成タンパク質の1種であり、皮膚においてその働きを阻害すると、毛根の毛母細胞の増殖が異常に高まり、毛の分化が障害を受けることが知られている。また、男性型脱毛者で発現が低下していた増殖因子の遺伝子の内、特に低下が著しいことも確認されている(毛の発育制御機構解明における最近の進歩と育毛剤, 日本化粧品技術者会誌, 1999; 33: 220-228)。
【0025】
BMPR1A(Bone Morphogenetic Protein Receptor, type 1A)は、その遺伝子発現量又は下流の細胞内シグナルの低下が脱毛発症の一つの要因である可能性が示されている(BMPR1A signaling is necessary for hair follicle cycling and hair shaft differentiation in mice, Development 2004; 131: 1825-1833)。
【0026】
GSK3B(Glycogen Synthase Kinase 3 Beta)は、毛包幹細胞において発現し、毛根の形成に関与することが報告されている(Expression and function of glycogen synthase kinase-3 in human hair follicles, Arch Dermatol Res. 2010; 302: 263-270)。
【0027】
BCL2(B-cell CLL/lymphoma 2)は、毛乳頭細胞の細胞死(アポトーシス)を抑制することが知られている(Hair follicle apoptosis and Bcl-2, J Investig Dermatol Symp Proc. 1999; 4: 272-277)。
【0028】
VEGFB(Vascular endothelial growth factor B)、VEGFC(Vascular endothelial growth factor C)は、新たな血管を形成することにより血流を改善し、創傷治癒促進効果や肌色改善効果があり、さらには育毛・養毛効果等があるとされている。特に育毛・養毛効果に関しては、VEGFは、毛包成長及びサイクリングの主要なメディエーターとして同定されており、毛包周囲のVEGFの産生が増加すると、血管新生が促進されて成長期の毛髪に必要な栄養が効率よく供給され、育毛・養毛促進効果に繋がることが知られている(Control of hair growth and follicle size by VEGF-mediated angiogenesis, J Clin Invest. 2001; 107: 409-417)。
【0029】
FGF7(fibroblast growth factor 7)は、別名KGF(ケラチノサイト増殖因子)と呼ばれ、線維芽細胞などの様々な細胞に対して増殖、分化などの活性を示す多機能性シグナル分子である。FGF7は成長期の毛乳頭細胞から産生され、毛母細胞に作用し、毛母細胞の増殖、分裂を促すことで毛髪を成長させることが知られている(特許第3578761号公報)。
【0030】
NOG(Noggin)、SMAD4(SMAD family member 4)は、毛周期を休止期から成長期へ誘導する際に必要となる細胞シグナルとして知られている(Standardized Scalp Massage Results in Increased Hair Thickness by Inducing Stretching Forces to Dermal Papilla Cells in the Subcutaneous Tissue, Eplasty. 2016; 16: e8.)。
【0031】
TGFBI(transforming growth factor, beta-induced)、GAS1(growth arrest specific 1)、THBS2(thrombospondin 2)、BMP7(bone morphogenetic protein 7)、EFNA1(ephrin A1)、IRF6(interferon regulatory factor 6)は、毛包形成・再生能を有する毛乳頭細胞で特異的に発現することが知られている(特開2005-349081号公報)。
【0032】
SOX9(SRY (sex determining region Y)-box 9)は、軟骨細胞の分化に必須の役割を持つ転写因子であり、毛包の中の幹細胞の可塑性を支持することが報告されている(SOX9: a stem cell transcriptional regulator of secreted niche signaling factors, Genes Dev. 2014; 28: 328-341)。
【0033】
以上の各知見により、BMP2、BMPR1A、GSK3B、BCL2、VEGFB、VEGFC、FGF7、NOG、SMAD4、TGFB1、GAS1、THBS2、BMP7、EFNA1、IRF6、SOX9は、いずれも発毛促進因子として機能するものであり、これらの因子の発現促進は、発毛・育毛に有効である。
【0034】
一方、クラゲコラーゲンにより発現が低下する遺伝子としては、IL1Aが挙げられる。IL1A(Interleukin-1 alpha)は、炎症性の因子で、毛の成長を抑制する作用やアポトーシス(細胞死)を誘導する作用が知られており、脱毛を引き起こす因子と考えられており、特に女性の薄毛と関連することが報告されている(Association analysis of IL1A and IL1B variants in alopecia areata, Heredity (Edinb). 2001; 87: 215-219)。よって、IL1Aは脱毛を引き起こす因子であり、IL1Aの発現抑制は、発毛・育毛に有効である。
【0035】
3.頭皮頭髪用組成物
上記のクラゲコラーゲンの作用により、クラゲコラーゲンはミノキシジル又はその誘導体とともに、頭皮や頭髪に使用するのに適した製剤形態に製剤化した頭皮頭髪用組成物として提供することできる。本発明の頭皮頭髪用組成物は、化粧料、医薬部外品、医薬品などの組成物の形態とすることができ、具体的には、本発明の頭皮頭髪用組成物は、薄毛や脱毛症などの頭皮や毛髪(主として頭髪であるが、眉毛や睫毛も含まれる)の損傷に関連する疾患の治療及び/又は予防剤、発毛促進作用、育毛作用、養毛作用、脱毛(抜け毛)防止作用のいずれか1つ又は2つ以上の作用を有するヘアケア製品として使用することができる。上記脱毛症としては、男性型脱毛症(Androgenic Alopecia:AGA)、女性男性型脱毛症(Fstrongale Androgenetic Alopecia:FAGA)、女性型脱毛症(female pattern hair loss : FPHL)、円形脱毛症、若禿(壮年性脱毛症)、病後・分娩後脱毛症、びまん性脱毛症、脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症などが挙げられる。また、本発明において、発毛・育毛には、毛周期における成長期の早期誘導、成長期の延長、退行期の遅延、毛髪の伸びの促進、頭皮や頭髪に潤いを与えることを含む。
【0036】
ミノキシジル(化学名:2,4-ジアミノ-6-ピペリジノピリミジン-3-オキシド)は、市販されているミノキシジルを使用することができ、また、ミノキシジル誘導体としては、例えば、ピディオキシジル(化学名:6-ピロリジノ-2,4-ジアミノピリミジン3-オキシド)等が挙げられる。
【0037】
本発明の頭皮頭髪用組成物におけるミノキシジル又はその誘導体の配合量は、0.01~20(w/v)%が好ましく、0.1~10(w/v)%がより好ましい。また、クラゲコラーゲンの配合量は、0.00001~10(w/v)%が好ましく、0.0001~1(w/v)%がより好ましく、0.001~0.1(w/v)%がさらに好ましい。上記の量はあくまで例示であって、頭皮頭髪用組成物の種類(医薬品であるかヘアケア製品であるか等)や形態、適用対象、適用方法、一般的な使用量、効能・効果、及びコストなどを考慮して適宜設定・調整すればよい。また、クラゲコラーゲンとミノキシジル又はその誘導体との含有比はその併用効果を発揮させるために質量比で、1:10~1:10000が好ましく、1:100~1:1000がより好ましい。
【0038】
本発明において、頭皮頭髪用組成物は、頭皮や頭髪に使用するものを広く指し、頭皮や頭髪に適用可能なものであればいずれでもよく、剤型は特に問わない。例えば、液状、ゲル状、乳液状、クリーム状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。具体的な製品形態としては、ヘアローション、ヘアトニック、スカルプエッセンス、ヘアクリーム、ヘアジェル、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアスプレー、ヘアパックなどの外用剤であることが好ましく、ヘアローション、ヘアトニック、スカルプエッセンス等の外用液剤が特に好ましい。
【0039】
本発明の頭皮頭髪用組成物は、皮膚外用組成物において通常使用されている基剤、添加剤、各種の成分等をその種類、剤型、形状等に応じて適宜選択して配合し、常法に従って製造することができる。例えば、溶解剤(精製水、エタノール、変性エタノール等)、増粘剤(エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、メチルセルロース、ゼラチン等)、多価アルコール(ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等)、界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等)、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、N-アセチル-D-グルコサミン等)、抗酸化剤(酢酸トコフェロール、アスコルビン酸、ブチルヒドロキシトルエン、亜硫酸水素ナトリウム、ベンゾトリアゾール等)、血管拡張剤(塩化カルプロニウム、ニコチン酸ベンジル、センブリ抽出液、オタネニンジンエキス、トウガラシチンキ等)、抗ヒスタミン剤(塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸イソチペンジル等)、抗炎症剤(グリチルレチン酸、グリチルリチン酸塩、トラネキサム酸、グアイアズレン等)、紫外線防止剤(メトキシケイ皮酸オクチル、オキシベンゾン、ウロカニン酸等)、角質溶解剤(尿素、サリチル酸、レゾルシン等)、経皮吸収促進剤(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、オレイン酸エチル、乳酸オクチルドデシル等の脂肪酸エステル等)、清涼剤(メントール、メンチルグリセリルエーテル、カンファー、ボルネオール、シネオールメントン、サリチル酸メチル、スペアミント油、ペパーミント油、ハッカ油、ユーカリプタス油等)、保湿剤(ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸等)、殺菌剤(グルコン酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノール、第4級アンモニウム塩、ヒノキチオール、ピロクトンオラミン等)、アミノ酸類(パントテン酸及びその誘導体、グリチルリチン酸及びその誘導体、ニコチン酸エステル、セリン、メチオニン等)、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB、ビタミンE及びその誘導体、ビオチン等)、保存剤(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノール等)、香料、着色料等が挙げられる。上記の基剤、添加剤、各種の成分は、1種を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲において、他の育毛・養毛効果のある薬剤や植物抽出物との併用も可能である。
【0040】
本発明の頭皮頭髪用組成物は、例えば、1日1回~数回適量を頭皮又は頭髪に塗布、スプレー等することにより使用できる。よって、本発明はまた、上記頭皮頭髪用組成物を頭皮又は頭髪に適用することを含む、美容方法にも関する。本発明において、美容方法とは、ヒトに対する医療行為(医師法により、医師及び医師の指示を受けた看護師・助産師などの医療従事者のみ行うことが認められている治療や処置)は含まない。また、美容方法は、単に個人的に行う場合のみならず、他人に対して行う場合も含み、製品を提供する際に、販売員やエステティシャン等が行うこともできる。
【実施例
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(参考例)クラゲ由来コラーゲン(粗精製)の調製
後記実施例で用いるクラゲ(ミズクラゲ)由来コラーゲンは以下の方法で調製した。
1) 冷蔵状態にあるクラゲ個体を水洗し、ストレーナーで固形物と液体とに分離した。
2) 分離された固形物を、破砕機にて細断した。細断して得られた細断片を試料とした。
3) 2)にて得られた試料と水とを、抽出撹拌槽に装填し、4℃で撹拌抽出を行った。
4) 3)における撹拌抽出により得られた水溶液を4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して液成分を得た。
5) 4)にて得られた液成分に、イソプロピルアルコール濃度が70容量%となるように、イソプロピルアルコールを投入するとゲル状の沈殿物が生じた。
6) 5)において得られたゲル状の沈殿物を含有する液を一晩中4℃に維持しつつ撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。
7) 6)で得られた固形分質量に対して3倍質量の60質量%濃度のイソプロピルアルコール水溶液を加えた。
8) 7)において生成する混合物を4℃で5分間撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。
9) 8)で得られた固形分につき、再度7)及び8)による洗浄操作を行った。
以上のようにして蛋白質分離工程を終えた。
10) 前記9)で得られた固形分質量に対して3倍質量の25質量%濃度のイソプロピルアルコール水溶液を加えた。
11) 10)で得られた溶液を4℃で5分間撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。
12) 11)で得られた固形分につき10)及び11)の操作を更に2回行い、固形分と液成分とに分離した。
13) 12)で得られた固形分を水で懸濁した後に透析処理及び凍結乾燥を行って最終の固形分(コラーゲン)を得た。
【0043】
(実施例1)ミノキシジル硫酸転移酵素遺伝子の発現解析
(1)方法
表皮角化細胞株(PHK16-0b:JCRB細胞バンクより入手、JCRB0141)を、20×104 cells/mLとなるようにシャーレに播種した。COインキュベーター内(5%CO、37℃)でインスリン5 μg/mL、ヒドロコルチゾン0.5μg/mL、トランスフェリン10 μg/mL、エタノールアミンリン酸14.1μg/mL、エタノールアミン6 ng/mL、ウシ脳下垂体エキス(BPE)40μg/mL 、上皮細胞成長因子(EGF)10 ng/mLを含むMCDB153培地で、2、3日に1回培地交換して1週間培養した。培養後、参考例で調製したクラゲコラーゲン(固形)を、濃度30μg/mLになるように添加したMCDB153培地(クラゲコラーゲン添加培地)に変更し、2、3日に1回培地交換してさらに2週間培養した。並行してMCDB153培地のままで培養したサンプルも用意した(コントロール)。培養後、Rnase Mini kit を用いて細胞からtotal RNA を抽出した。このtotal RNA をAffimetry社のGeneChip遺伝子解析システムを用いてGeneChip 解析を行った。
【0044】
無添加群をコントロールとして、発現シグナルが検出限界以上又は以下であり、サンプル(クラゲコラーゲン溶液)添加群で発現シグナルがコントロールの発現シグナルに比較して上昇した遺伝子群(up)、低下した遺伝子群(down)を抽出してそれぞれ遺伝子オントロジー(Gene Ontology;GO)解析を行った。
【0045】
硫酸転移酵素遺伝子の発現解析結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、ミノキジシル硫酸転移酵素遺伝子であるSULT1A1(sulfotransferase family, cytosolic, 1A, phenol-preferring, member 1)、SULT1A2(sulfotransferase family, cytosolic, 1A, phenol-preferring, member 2)、SULT1A3(sulfotransferase family, cytosolic, 1A, phenol-preferring, member 3)は、いずれもクラゲコラーゲンを添加した表皮細胞では、末添加と比べて顕著にその発現量が増加した。
【0048】
(実施例2)発毛・育毛関連遺伝子の発現解析
実施例1と同様にして発毛・育毛関連遺伝子の発現解析を行った。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示すように、発現促進因子であるBMP2、BMPR1A、GSK3B、BCL2、VEGFB、VEGFC、FGF7、NOG、SMAD4、TGFB1、GAS1、THBS2、BMP7、EFNA1、IRF6、SOX9は、クラゲコラーゲンを添加した表皮細胞では、末添加と比べて顕著にその発現量が増加した。一方、脱毛因子であるIL1Aは、クラゲコラーゲンを添加した表皮細胞では、末添加と比べて顕著にその発現量が減少した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、薄毛や抜け毛を改善及び/又は予防し、発毛を促進することのできる化粧料、医薬部外品、医薬品の製造分野において利用できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書に組み入れるものとする。