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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】自動車用サイレンサー
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/08 20060101AFI20220905BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
B60R13/08
B32B5/26
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021508208
(86)(22)【出願日】2020-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2020005058
(87)【国際公開番号】W WO2020195244
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2019059636
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 亘
(72)【発明者】
【氏名】杉田 高朗
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-163869(JP,A)
【文献】特開2016-052817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/08
B32B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用のプレス成形されたサイレンサーであって、
熱可塑性繊維を含む第一繊維層と、該第一繊維層に含まれる熱可塑性繊維の重量比よりも多い重量比の熱可塑性繊維を含む第二繊維層と、を含み、
前記サイレンサーの厚さが20mm以上であり、
前記サイレンサーの密度が0.10g/cm3以下であり、
前記サイレンサーの厚さをXmmとし、前記第二繊維層の目付をYg/m2としたとき、前記目付YはY≧1.068・X2-23.12・X+176.4であり、
前記サイレンサーの表面に載せた直径50mmの円板に前記サイレンサーの厚さ方向へ50Nの荷重を加えた時に、前記サイレンサーが凹む距離が15mm以下である、サイレンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のプレス成形されたサイレンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に設置されるサイレンサーとして、例えば、フロアパネルとフロアカーペットとの間に介在するフロアサイレンサーが知られている。フロアサイレンサーは、防音性能を発揮するとともに、フロアパネルの凹凸がカーペットの表面に現れないようにする機能や、足で踏むときの良好な感触を乗員に与える機能も発揮する。これらの機能を実現するためのサイレンサーとして、例えば国際公開第2015/146428号に示されるように、安価な衣料反毛繊維を主成分とした繊維質のサイレンサーが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/146428号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サイレンサーを軽量化すると、フロアカーペットを足で踏んだ時の感触である足踏み性が低下する可能性がある。また、サイレンサーが低密度になると、フロアカーペットが足で踏まれた時にサイレンサーが厚さ方向へ圧縮されて元の厚みに戻らないという「へたり」が生じる可能性がある。
尚、上記のような問題は、フロアカーペット用のサイレンサーに限らず、ダッシュサイレンサー等、種々の自動車用サイレンサーについて同様に存在する。
【0005】
本発明は、軽量化しても適度な圧縮強度を得ることが可能な自動車用サイレンサーを開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、自動車用のプレス成形されたサイレンサーであって、
熱可塑性繊維を含む第一繊維層と、該第一繊維層に含まれる熱可塑性繊維の重量比よりも多い重量比の熱可塑性繊維を含む第二繊維層と、を含み、
前記サイレンサーの厚さが20mm以上であり、
前記サイレンサーの密度が0.10g/cm3以下であり、
前記サイレンサーの厚さをXmmとし、前記第二繊維層の目付をYg/m2としたとき、前記目付YはY≧1.068・X2-23.12・X+176.4であり、
前記サイレンサーの表面に載せた直径50mmの円板に前記サイレンサーの厚さ方向へ50Nの荷重を加えた時に、前記サイレンサーが凹む距離が15mm以下である、態様を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軽量化しても適度な圧縮強度を得ることが可能な自動車用サイレンサーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1はサイレンサー及び表皮材の車室側の外観を模式的に例示する斜視図。
図2図2はサイレンサーを車体パネル及び表皮材とともに図1のA1-A1に相当する位置で切断したときの垂直端面の要部を模式的に例示する図。
図3図3は第二繊維層における繊維構造の別の例を模式的に示す図。
図4図4は別のサイレンサーを車体パネル及び表皮材とともに図1のA1-A1に相当する位置で切断したときの垂直端面の要部を模式的に例示する図。
図5図5は別のサイレンサーを車体パネル及び表皮材とともに図1のA1-A1に相当する位置で切断したときの垂直端面の要部を模式的に例示する図。
図6図6はサイレンサーの例を模式的に示す図。
図7図7は厚さ方向へ荷重を加えた円板によるサイレンサーの凹み量を測定する例を模式的に示す図。
図8図8は第二繊維層の目付とサイレンサーの凹み量との関係を示す図。
図9図9はサイレンサーの厚さと第二繊維層の目付との関係を示す図。
図10図10はサイレンサー製造装置の例を模式的に示す図。
図11図11は成形工程例を説明するための垂直端面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0011】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、図1~11に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
また、本願において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。
【0012】
[態様1]
本技術の一態様に係る自動車用のプレス成形されたサイレンサー1は、第一繊維層110と第二繊維層120を含んでいる。第一繊維層110は、非溶融成分を含む主繊維115を60~99重量%含み、且つ、熱可塑性繊維116を1~40重量%含んでいる。第二繊維層120は、熱可塑性繊維126を50~100重量%含んでいる。
【0013】
繰り返し検討を行ったところ、非溶融成分を含む主繊維115を多く含む第一繊維層110に対して、熱可塑性繊維の重量比を多くした第二繊維層120を組み合わせることにより、軽量化しても適度な圧縮強度が得られることが分かった。プレス成形された第二繊維層120に熱可塑性繊維126が50重量%以上含まれていることにより、互いに融着した熱可塑性繊維126が第二繊維層120に高い剛性を与え、このことがサイレンサー1を軽量化してもサイレンサー1の圧縮強度を維持させていると推測される。また、プレス成形された第一繊維層110に非溶融成分を含む主繊維115が60重量%以上含まれていることにより、第一繊維層110に柔軟性を与え、このことがサイレンサー1の感触を向上させていると推測される。尚、プレス成形された第一繊維層110に熱可塑性繊維116が1重量%以上含まれていることにより、第一繊維層110の形状が保持されている。プレス成形されたサイレンサー1において、第二繊維層120の適度な剛性感と第一繊維層110の柔軟な感触とが組み合わされることにより、軽量化しても適度な圧縮強度が得られると推測される。
以上より、上記態様1は、軽量化しても適度な圧縮強度を得ることが可能な自動車用のプレス成形されたサイレンサーを提供することができる。
【0014】
ここで、本技術のサイレンサーを設置可能な場所は、車室フロア部、車室側壁部、車室天井部、デッキフロア部、ダッシュボード部、エンジンフード部、フェンダー部、等が含まれ、内装部分でもよいし、外装部分でもよい。
非溶融成分を含む主繊維には、衣料反毛繊維といった反毛繊維、セルロース系繊維といった非溶融繊維、等が含まれる。
本願における「第一」、「第二」、「第三」、…は、互いに類似点を有する複数の構成要素に含まれる各構成要素を識別するための用語であり、順番を意味しない。複数の構成要素のうちどの構成要素が「第一」、「第二」、「第三」、…に当てはまるのかは、相対的に決まる。
第一繊維層の熱可塑性繊維と第二繊維層の熱可塑性繊維とは、同じ種類の繊維でもよいし、異なる種類の繊維でもよい。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0015】
[態様2]
ところで、サイレンサー1の厚さT0は、20mm以上でもよい。サイレンサー1の密度は、0.10g/cm3以下でもよい。サイレンサー1の厚さT0をXmmとし、第二繊維層120の目付をYg/m2としたとき、目付YはY≧1.068・X2-23.12・X+176.4でもよい。サイレンサー1の表面10に載せた直径50mmの円板500にサイレンサー1の厚さT0方向へ50Nの荷重Fを加えた時にサイレンサー1が凹む距離(図7に示す凹み量L0)が15mm以下でもよい。
【0016】
繰り返し検討を行ったところ、第二繊維層120の目付YがY≧1.068・X2-23.12・X+176.4であって、凹み量L0が15mm以下であるサイレンサー1は、密度が0.10g/cm3以下でも厚さ方向D3へ押した時の感触がさらに向上することが分かった。従って、上記態様2は、さらに適度な圧縮強度を得ることが可能な自動車用サイレンサーを提供することができる。
【0017】
[態様3]
図2に例示するように、非溶融成分を含む主繊維135を60~99重量%含み、且つ、熱可塑性繊維136を1~40重量%含む第三繊維層130をサイレンサー1がさらに含んでいてもよい。第二繊維層120は、第一繊維層110と第三繊維層130との間にあってもよい。本態様は、厚さ方向へ押した時の感触をさらに向上させることが可能な自動車用サイレンサーを提供することができる。
ここで、第一繊維層の主繊維と第三繊維層の主繊維とは、同じ種類の繊維でもよいし、異なる種類の繊維でもよい。また、第一繊維層の熱可塑性繊維と第三繊維層の熱可塑性繊維とは、同じ種類の繊維でもよいし、異なる種類の繊維でもよい。
【0018】
[態様4]
ところで、本技術の一態様に係る自動車用のプレス成形されたサイレンサー1は、熱可塑性繊維116を含む第一繊維層110と、該第一繊維層110に含まれる熱可塑性繊維116の重量比よりも多い重量比の熱可塑性繊維126を含む第二繊維層120と、を含んでいる。サイレンサー1の厚さT0は、20mm以上である。サイレンサー1の密度は、0.10g/cm3以下である。サイレンサー1の厚さT0をXmmとし、第二繊維層120の目付をYg/m2としたとき、目付YはY≧1.068・X2-23.12・X+176.4である。サイレンサー1の表面10に載せた直径50mmの円板500にサイレンサー1の厚さ方向D3へ50Nの荷重Fを加えた時に、サイレンサー1が凹む距離(図7に示す凹み量L0)が15mm以下である。
【0019】
繰り返し検討を行ったところ、第一繊維層110に対して、熱可塑性繊維の重量比を多くした第二繊維層120を組み合わせ、第二繊維層120の目付YをY≧1.068・X2-23.12・X+176.4にし、サイレンサー1の凹み量L0を15mm以下にすることにより、サイレンサー1の密度が0.10g/cm3以下でも適度な圧縮強度が得られることが分かった。プレス成形された第二繊維層120の熱可塑性繊維126の重量比が多く、第二繊維層120の目付YがY≧1.068・X2-23.12・X+176.4であることにより、互いに融着した熱可塑性繊維126が第二繊維層120に高い剛性を与え、このことがサイレンサー1を軽量化してもサイレンサー1の圧縮強度を維持させていると推測される。また、プレス成形された第一繊維層110の熱可塑性繊維116の重量比が少ないことにより、第一繊維層110に柔軟性を与え、このことがサイレンサー1の感触を向上させていると推測される。さらに、サイレンサー1の凹み量L0が15mm以下であることにより、サイレンサー1の感触がさらに向上している。尚、プレス成形された第一繊維層110に熱可塑性繊維116が含まれていることにより、第一繊維層110の形状が保持されている。プレス成形されたサイレンサー1において、第二繊維層120の適度な剛性感と第一繊維層110の柔軟な感触とが組み合わされることにより、軽量化しても適度な圧縮強度が得られると推測される。
以上より、上記態様4は、軽量化しても適度な圧縮強度を得ることが可能な自動車用のプレス成形されたサイレンサーを提供することができる。
【0020】
(2)自動車用サイレンサーの具体例:
図1は、自動車用のプレス成形されたサイレンサー、及び、自動車用のプレス成形された表皮材を模式的に例示している。図1中、FRONT、REAR、LEFT、RIGHT、UP、DOWNは、それぞれ、前、後、左、右、上、下を示す。左右の位置関係は、自動車の前を見る方向を基準とする。図2は、サイレンサーを車体パネル及び表皮材とともに図1のA1-A1に相当する位置で切断したときの垂直端面の要部を模式的に例示している。
【0021】
自動車の乗員室内のフロアパネル(車体パネル80)上では、通常、図1に例示するようなフロアカーペット(表皮材)20を敷設することによりフロアパネルを被覆し遮蔽している。これにより、乗員室としての内装意匠性、及び、乗員が足で踏むときの良好な感触を意味する踏み心地性が付与される。フロアパネルに形成された凹凸を吸収しフロア面の平坦性を確保する為、嵩上材として機能するフロアサイレンサー1がフロアパネルとフロアカーペット20との間に設置される。
【0022】
車室内における静粛性の向上というニーズから、図1に例示するように、フロアカーペット裏面全体を覆うようにサイレンサー1を一体又は別体で形成し、フロアパネル全体を被覆している。図1に示す大型のサイレンサー1は、フロアパネルの凹凸に応じて領域毎に厚さや目付が異なるように成形されることによりフロアパネルの全面を覆うような一体成形品に形成され、嵩上材としての機能が付与されている。これにより、サイレンサー1は、車外から侵入してきた騒音に対して吸音及び遮音の機能を同時に発揮する。すなわち、自動車の車体パネル上に敷設されるフロアサイレンサーは、車体パネルの凹凸に沿う形状に成形されて敷設され、車両のフロア部の緩衝性、防音性、等の性能確保のために使用される。本技術の自動車用サイレンサーは、フロア部に設置する以外にも、車室側壁部、車室天井部、デッキフロア部、ダッシュボード部、エンジンフード部、フェンダー部、等の部位の形状に合わせて該部位に設置することも可能である。
【0023】
図1に示す自動車用サイレンサー1は、車体の床面を構成する略平坦なフロアパネル(車体パネル80の一種)、乗員室前部においてフロアパネル面から上方に立ち上がったトーボードパネル(車体パネル80の一種)、等の上に載置される機能材とされている。車室用のサイレンサー1は、車体パネル80の車室C1側に敷設される。図1に示すサイレンサー1は、車体パネルのトンネル部に合わせて上へ膨出して前後に延びたトンネル部14、及び、該トンネル部14から車幅方向外側において車体パネルの各略平坦部に合わせた各略平坦部13を有し、コンソールやロッカーパネル等の突出部の立壁に沿うように三次元形状に成形されている。サイレンサー1の車室C1側には、フロアカーペット20が敷設される。フロアカーペット20は、サイレンサー1の突出部の立壁に沿うように三次元形状に成形され、乗員室内を装飾する。
【0024】
図1に示すフロアカーペット20は、プレス成形されることより車室C1側の凹凸形状22が形成され、車室C1に面して配置される。凹凸形状22には、サイレンサー1の各略平坦部13の上にある足載せ部23が含まれている。カーペット20は、例えば、パイル26のバックステッチを基層25に有するタフテッドカーペットとされ、基層25の車室C1側に多数のパイル26が立毛している。基層25を構成する基布には、スパンボンド不織布といった不織布、各種繊維の編織物、等を用いることができる。基布の裏側(サイレンサー1側の面)には、裏打ちが施されてもよい。この裏打ちには、樹脂材料(エラストマーを含む)、繊維材料、等を用いることができる。むろん、カーペット20には、不織布をニードリングして繊維相互を絡め表面に毛羽を形成したニードルパンチカーペット等を採用することも可能である。
【0025】
図1,2に示すサイレンサー1は、厚さ方向D3において互いに反対側となる第一及び第二の成形面11,12に対してプレス成形による凹凸形状が形成され、車体パネル80とフロアカーペット20との間に設置される。ここで、第一の成形面11がカーペット20側にあり、第二の成形面12が車体パネル80側にある。この場合、第一の成形面11は、図7に示す円板500が載せられる表面10である。サイレンサー1は、第一の成形面11から第二の成形面12まで順に、第一繊維層110、第二繊維層120、及び、第三繊維層130を含んでいる。第一繊維層110は、第一の成形面11を含んでいる。第二繊維層120は、第一繊維層110が接着された第一の接着面121、及び、第二繊維層120が接着された第二の接着面122を含んでいる。第三繊維層130は、第二の成形面12を含んでいる。
繰り返し検討を行ったところ、後述する条件により、サイレンサー1を軽量化しても適度な圧縮強度が得られることが分かった。
【0026】
第一繊維層110は、非溶融成分を含む主繊維115を60~99重量%含み、且つ、熱可塑性繊維116を1~40重量%含んでいる。ここで、主繊維115と熱可塑性繊維116を繊維114と総称する。繊維114は、ランダムに配向している。第三繊維層130は、非溶融成分を含む主繊維135を60~99重量%含み、且つ、熱可塑性繊維136を1~40重量%含んでいる。ここで、主繊維135と熱可塑性繊維136を繊維134と総称する。繊維134は、ランダムに配向している。第一繊維層110と第三繊維層130との間にある第二繊維層120は、熱可塑性繊維126を50~100重量%含んでいる。すなわち、第二繊維層120の繊維124は、全て熱可塑性繊維126でもよいし、図3に示すように非溶融成分を含む副繊維125を熱可塑性繊維126とともに含んでいてもよい。ここで、熱可塑性繊維126と副繊維125を繊維124と総称する。繊維124は、ランダムに配向している。
【0027】
主繊維115,135と副繊維125は、非溶融成分を含んでいればよく、衣料反毛繊維といった反毛繊維、セルロース系繊維、動物繊維といった天然繊維、等を用いることができる。セルロース系繊維には、木綿や麻といった植物繊維、レーヨンといった合成繊維、等が含まれる。植物繊維は、天然繊維でもある。動物繊維には、ウール、絹、等が含まれる。尚、衣料反毛繊維には、ポリエステル繊維やポリアミド繊維といった融点220℃以上である高融点の熱可塑性繊維が混入することがある。
【0028】
主繊維115,135と副繊維125の繊度は、特に限定されないが、例えば2.2~16dtex程度とすることができる。主繊維115,135と副繊維125の長さは、特に限定されないが、例えば27~76mm程度とすることができる。主繊維115,135と副繊維125の断面形状は、特に限定されず、真円を含む楕円、三角形、扁平形状、等とすることができる。また、主繊維115,135と副繊維125は、中空形状の断面を有する中空繊維でもよい。
むろん、主繊維115,135と副繊維125には、複数の種類の繊維が組み合わされてもよい。
【0029】
さらに、主繊維115,135には、同じ種類の繊維が使用されてもよいし、互いに異なる種類の繊維が使用されてもよい。第二繊維層120に使用される場合の副繊維125は、主繊維115,135と同じ種類の繊維が使用されてもよいし、主繊維115,135とは異なる種類の繊維が使用されてもよい。
【0030】
熱可塑性繊維116,126,136の融点は、80~200℃が好ましい。自動車内の温度上昇による熱可塑性繊維の可塑化を抑制するため、熱可塑性繊維116,126,136の融点は、90℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。また、プレス成形時に熱可塑性繊維を溶融状態にし易くするため、熱可塑性繊維116,126,136の融点は、190℃以下がより好ましく、180℃以下がさらに好ましく、160℃以下が特に好ましい。このような低融点の熱可塑性繊維116,126,136は、熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む。)の繊維が好ましい。当該熱可塑性樹脂には、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂といったポリエステル樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂やポリエチレン(PE)樹脂といったポリオレフィン樹脂、これらの合成樹脂にエラストマーを添加した改質樹脂、これらの合成樹脂に着色剤といったといった添加剤を添加した材料、等を用いることができる。熱可塑性繊維116,126,136には、芯鞘構造やサイドバイサイド構造といったコンジュゲート構造のコンジュゲート繊維を用いることも可能である。この場合、コンジュゲート繊維に含まれる複数の成分のうち一部の成分は例えば200℃を超えるような高融点の成分でもよい。
【0031】
熱可塑性繊維116,126,136の繊度は、特に限定されないが、例えば2.2~16dtex程度とすることができる。熱可塑性繊維116,126,136の長さは、特に限定されないが、例えば27~76mm程度とすることができる。熱可塑性繊維116,126,136の断面形状は、特に限定されず、真円を含む楕円、三角形、扁平形状、等とすることができる。また、熱可塑性繊維116,126,136は、中空形状の断面を有する中空繊維でもよい。
むろん、熱可塑性繊維116,126,136には、複数の種類の繊維が組み合わされてもよい。
【0032】
さらに、熱可塑性繊維116,136には、同じ種類の繊維が使用されてもよいし、互いに異なる種類の繊維が使用されてもよい。第二繊維層120の熱可塑性繊維126は、熱可塑性繊維116,136と同じ種類の繊維が使用されてもよいし、熱可塑性繊維116,136とは異なる種類の繊維が使用されてもよい。
【0033】
第一繊維層110と第三繊維層130において、主繊維115,135の配合比は60重量%以上であり、熱可塑性繊維116,136の配合比は40重量%以下である。これは、サイレンサー1に適度に柔軟な感触(例えばカーペット20を介した足踏み性)を付与するためである。サイレンサー1の感触をさらに良好にする点で、主繊維115,135の配合比が65重量%以上で熱可塑性繊維116,136の配合比が35重量%以下であることがより好ましい。また、繊維層110,130において、主繊維115,135の配合比は99重量%以下であり、熱可塑性繊維116,136の配合比は1重量%以上である。これは、プレス成形後に繊維層110,130が崩れることを抑制するためである。繊維層110,130の形状をさらに良好に保持する点で、主繊維115,135の配合比が95重量%以下で熱可塑性繊維116,136の配合比が5重量%以上であることがより好ましく、主繊維115,135の配合比が90重量%以下で熱可塑性繊維116,136の配合比が10重量%以上であることがさらに好ましく、主繊維115,135の配合比が80重量%以下で熱可塑性繊維116,136の配合比が20重量%以上であることが特に好ましい。
むろん、主繊維115の配合比と主繊維135の配合比は、同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
第二繊維層120において、熱可塑性繊維126の配合比は50重量%以上であり、副繊維125の配合比は50重量%以下である。これは、互いに融着した熱可塑性繊維126により第二繊維層120に高い剛性を与えるためであり、ひいては軽量なサイレンサー1に良好な圧縮強度を付与するためである。第二繊維層120の剛性をさらに高める点で、熱可塑性繊維126の配合比が70重量%以上で副繊維125の配合比が30重量%以下であることがより好ましく、熱可塑性繊維126の配合比が90重量%以上で副繊維125の配合比が10重量%以下であることがさらに好ましく、熱可塑性繊維126の配合比が95重量%以上で副繊維125の配合比が5重量%以下であることが特に好ましい。
【0035】
上述した第三繊維層130は、図4,5に例示するように、省略可能である。
図4に示すサイレンサー1は、カーペット20に面する第一の成形面11が形成された第一繊維層110、及び、車体パネル80に面する第二の成形面12が形成された第二繊維層120を含んでいる。この場合、第一の成形面11は、図7に示す円板500が載せられる表面10である。第二繊維層120は、第一繊維層110が接着された接着面121を含んでいる。図4に示すサイレンサー1は、第二繊維層120が車体パネルに支えられることにより、カーペット20から柔軟な第一繊維層110に伝わった圧縮荷重が高い剛性の第二繊維層120に支えられる。従って、図4に示すサイレンサー1は、厚さ方向へ押した時の感触(例えば足踏み性)が良好であり、軽量化しても適度な圧縮強度を得ることができる。また、表皮材(例えばカーペット20)が厚さ方向への通気性を有する場合、車室C1から音波が表皮材を介してサイレンサー1に入ることによりサイレンサー1が吸音機能を発揮する。従って、第一繊維層110によって車室C1側の流れ抵抗値を制御することができ、吸音性を向上させることができる。
【0036】
図5に示すサイレンサー1は、カーペット20に面する第二の成形面12が形成された第二繊維層120、及び、車体パネル80に面する第一の成形面11が形成された第一繊維層110を含んでいる。この場合、第二の成形面12は、図7に示す円板500が載せられる表面10である。第二繊維層120は、第一繊維層110が接着された接着面121を含んでいる。図5に示すサイレンサー1は、第二繊維層120と車体パネル80との間に柔軟な第一繊維層110があることにより、カーペット20から高い剛性の第二繊維層120に伝わった圧縮荷重が柔軟な第一繊維層110の広い範囲で受け止められる。従って、図5に示すサイレンサー1は、さらに適度な圧縮強度を得ることができる。
【0037】
図2で示したサイレンサー1は、図4で示した場合と比べて第二繊維層120と車体パネル80との間に第三繊維層130があることにより、カーペット20から第一繊維層110を介して高い剛性の第二繊維層120に伝わった圧縮荷重が柔軟な第三繊維層130の広い範囲で受け止められる。従って、さらに適度な圧縮強度が得られる。また、図2で示したサイレンサー1は、図5で示した場合と比べて第二繊維層120の両側に繊維層110,130があることにより、カーペット20から柔軟な第一繊維層110に伝わった圧縮荷重が高い剛性の第二繊維層120に支えられる。従って、厚さ方向へ押した時の感触(例えば足踏み性)が良好であり、軽量化しても適度な圧縮強度が得られる。
【0038】
上述した第二繊維層120は、図6に例示するように、第一繊維層110における第一の成形面11とは反対側の対向面111の一部に配置されてもよい。図6は、プレス成形されたサイレンサー1の車体パネル80側を模式的に例示している。図6の下部には、サイレンサー1をA2-A2の位置で切断したときの垂直断面を模式的に例示している。第二繊維層120は、目付が部分的に異なり、略均一の目付を有する第一繊維層110における対向面111に一体化されている。第三繊維層130は、略均一の目付を有し、第一繊維層110上の第二繊維層120、及び、第二繊維層120の繊維が無い部分の第一繊維層110における対向面111に一体化されている。尚、各層110,120,130の目付、及び、サイレンサー1の目付は、サイレンサー1の厚さ方向D3と直交する仮想の平面における単位面積当たりの重量とする。
【0039】
第三繊維層130に形成された第二の成形面12は、凹凸面140とされている。この凹凸面140には、第二繊維層120の繊維が存在する部分にほぼ対応する凸部141、及び、第二繊維層120の繊維が存在しない部分にほぼ対応する凹部142が形成されている。凸部141には、比較的高い凸部141aや、比較的低い凸部141bが存在する。
また、図6に示す第三繊維層130の無いサイレンサーも、本技術に含まれる。
【0040】
上述したサイレンサー1全体の密度は、サイレンサーに良好な圧縮強度を付与する点で0.03g/cm3以上が好ましく、サイレンサーに適度に柔軟な感触を付与する点で0.10g/cm3以下が好ましい。
【0041】
図7は、サイレンサー1の圧縮強度を凹み量L0として測定する方法を模式的に例示している。サイレンサー1のサンプルSAは、200mm四方以上の面積を有していればよい。凹み量L0は、サンプルSAの表面SA1に載せた直径50mmの円板500にサンプルSAの厚さ方向D3へ50Nの荷重Fを不図示の加圧装置により加えた時にサンプルSAが凹む距離である。表面SA1は、図2,4,5で示したサイレンサー1の表面10に対応する。50Nの荷重Fは、自動車の座席に腰掛けている乗員の足からサイレンサー1に加わることを想定することにより設定された荷重である。
【0042】
第一繊維層110と第三繊維層130を合わせた目付は、サイレンサーに適度に柔軟な感触を付与する点で600g/m2以上が好ましく、サイレンサーに良好な圧縮強度を付与する点で1000g/m2以下が好ましく、800g/m2が特に好ましい。
【0043】
本具体例は、図2,4,5に示すサイレンサー1の厚さT0に応じて第二繊維層120の目付が設定されているという特徴を有する。以下、図8,9を参照して、第二繊維層120の目付の条件を説明する。
【0044】
図8は、繊維層110,130の目付がそれぞれ400g/m2、すなわち、繊維層110,130を合わせた目付が特に好ましい800g/m2である場合にサイレンサー1の目付に応じた凹み量L0をコンピューターシミュレーションにより求めた結果のグラフを示している。第二繊維層120の目付をY(g/m2)とすると、目付Yは、サイレンサー1の目付から800g/m2を差し引いた値となる。ここで、繊維層110,130における主繊維115,135の配合比は特に好ましい70重量%に設定され、第二繊維層120における熱可塑性繊維126の配合比は特に好ましい100重量%に設定されている。図8において、横軸はサイレンサー1の目付(g/m2)であり、縦軸は凹み量L0(mm)である。図8に示される10本の曲線は、一番下から一番上まで順に、サイレンサー1の厚さT0(単位:mm)を10、15、20、25、30、35、40、45、50、及び、60に変えた場合の対応関係を示している。
【0045】
ここで、サイレンサー1の第一の成形面11に載せた直径50mmの円板500に厚さ方向D3へ50Nの荷重Fを加えた時の凹み量L0が15mm以下であると、適度な圧縮強度が得られる。このことから、サイレンサー自体の厚さT0は、20mm以上が好ましい。厚さT0が20~60mmにある各曲線について凹み量L0が15mmとなる目付Yは、第二繊維層120に必要な最小限の目付となる。
【0046】
図9は、サイレンサー1の厚さT0と第二繊維層120の目付Yとの対応関係CO1,CO2のグラフを示している。図9において、横軸はサイレンサーの厚さT0(mm)であり、縦軸は第二繊維層の目付Y(g/m2)である。図9に示す対応関係CO1は、図8において厚さT0が20~60mmにある各曲線について凹み量L0が15mmとなる目付Yから求められた最小限の目付を示している。図9に示す対応関係CO2は、第二繊維層120の材質を繊維層110,130の材質に置き換えた場合に凹み量L0が15mmとなる目付Yから求められた最小限の目付を示している。サイレンサー1の厚さT0をX(mm)とし、第二繊維層120の目付をY(g/m2)としたとき、対応関係CO1は、
Y=1.068・X2-23.12・X+176.4 …(1)
で表される。また、対応関係CO2は、
Y=1.755・X2-24.97・X-48.35 …(2)
で表される。
【0047】
図9に示す対応関係CO1により、第二繊維層120の目付Yは、サイレンサー1の密度が0.10g/cm3以下となる範囲内で、
Y≧1.068・X2-23.12・X+176.4 …(3)
が好ましい。
尚、サイレンサー1の密度が0.10g/cm3以下であることにより第二繊維層の目付Yは制限されるものの、図9に示す対応関係CO2により、第二繊維層の目付Yは、
Y<1.755・X2-24.97・X-48.35 …(4)
が好ましい。
【0048】
実際に、主繊維115,135に衣料反毛繊維を用い、熱可塑性繊維116,126,136に融点100~120℃のPET樹脂繊維を用い、サイレンサー1のサンプルSAの密度が0.10g/cm3以下となり、且つ、サンプルSAの厚さXと第二繊維層120の目付Yが上記不等式(3)を満たすように、サンプルSAを試作した。得られたサンプルSAの凹み量L0は15mm以下であり、当該サンプルSAは適度な圧縮強度を有していた。また、第三繊維層130が無い場合も、適度な圧縮強度を有するL0≦15mmのサンプルSAを作製することができる。さらに、熱可塑性繊維116,126,136に芯部がPET樹脂で鞘部が融点130~140℃のPE樹脂であるコンジュゲート繊維を用いたり、第二繊維層120に50重量%以下の範囲で副繊維125を添加したり、繊維層110,130の主繊維115,135を60~99重量%の範囲で変えたり、繊維層110,130を合わせた目付を600~1000g/m2の範囲で変えたりしても、適度な圧縮強度を有するL0≦15mmのサンプルSAを作製することができる。
【0049】
尚、サイレンサー1全体の目付をYa(g/m2)とすると、第二繊維層120の目付Yに繊維層110,130の目付が加わるため、
Ya≧1.068・X2-23.12・X+976.4 …(5)
が好ましい。また、サイレンサー1の密度が0.10g/cm3以下であることにより目付Yaは制限されるものの、
Y<1.755・X2-24.97・X+751.7 …(6)
が好ましい。
【0050】
(3)自動車用サイレンサーの製造方法の具体例:
図10は、自動車用サイレンサー1を製造するためのサイレンサー製造装置の例を模式的に示している。図10の上部には、サイレンサー製造装置400を上から見た模式的な平面図を例示している。図11はプレス成形機200の垂直端面を模式的に例示している。
【0051】
図10に示すサイレンサー製造装置400は、繊維F1を下へ送り出す第一繊維供給部410、繊維F2を下へ送り出す第二繊維供給部420、繊維F3を下へ送り出す第三繊維供給部430、コンベヤ440、制御部450、プレス成形機200、を有している。ここで、繊維F1は第一繊維層110の繊維114となり、繊維F2は第二繊維層120の繊維124となり、繊維F3は第三繊維層130の繊維134となる。第三繊維層130の無いサイレンサー1を形成する場合、第三繊維供給部430は無くてもよい。
【0052】
第一繊維供給部410は、繊維F1用の原糸を解繊及び混綿し、移動方向D4へ移動するコンベヤ440上に繊維F1を厚さ及び目付が略一定となるように供給して第一供給繊維層310を形成する。従って、主に第一繊維供給部410とコンベヤ440とで第一繊維供給工程S1が実施される。第一供給繊維層310は、略平坦な第一の成形面11を有する第一繊維層110となる。
【0053】
移動方向D4において第一繊維供給部410よりも下流側に配置された第二繊維供給部420は、繊維F2用の原糸を解繊及び混綿し、移動方向D4へ移動する第一供給繊維層310上に繊維F2を厚さ及び目付が部分的に異なるように供給して第二供給繊維層320を形成する。従って、主に第二繊維供給部420とコンベヤ440とで第二繊維供給工程S2が実施される。第二供給繊維層320は、接着面121を有する第二繊維層120となる。図10に示す第二繊維供給部420は、繊維F2の供給箇所がコンベヤ440の幅方向D5において互いに異なる複数の分割繊維供給部425を有している。図10には第二繊維供給部420が分割繊維供給部#1~#10に分割されていることが示されているが、第二繊維供給部420に設置される分割繊維供給部425の数は10に限定されない。各分割繊維供給部425は、繊維F2の計量機能を有する。各分割繊維供給部425からは、コンベヤ440で移送される第一供給繊維層310の上面における任意の位置に任意の量の繊維F2を堆積させることができる。
【0054】
移動方向D4において第二繊維供給部420よりも下流側に配置された第三繊維供給部430は、繊維F3用の原糸を解繊及び混綿し、移動方向D4へ移動する供給繊維層310,320上に繊維F3を厚さ及び目付が略一定となるように供給して第三供給繊維層330を形成する。すなわち、繊維F3は、第二供給繊維層320、及び、該第二供給繊維層320の繊維F2が無い第一供給繊維層310上に堆積する。従って、主に第三繊維供給部430とコンベヤ440とで第三繊維供給工程S3が実施される。第三供給繊維層330は、第二の成形面12を有する第三繊維層130となる。
【0055】
コンベヤ440は、供給繊維層310,320,330を含む繊維集合物300を載せて移動方向D4へ移送する。コンベヤ440には、ベルトコンベヤ等を用いることができる。ベルトコンベヤのベルトに多数の通気孔が形成されていると、熱風加熱等により繊維集合物300を例えば熱可塑性繊維116,126,136の融点よりも少し高い温度まで予備加熱するのに好適である。
【0056】
制御部450は、コンベヤ440の移動速度V1、繊維供給部410,430からの繊維F1,F3の供給速度、各分割繊維供給部425からの繊維F2の供給速度V2、等を制御する。特に、制御部450は、第一供給繊維層310上の事前に設定した領域のみに繊維F2を供給する制御を行い、さらに、繊維F2を供給する領域において繊維F2の供給量も制御する。制御部450は、制御プログラムを構成するシーケンスに従って、分割繊維供給部425から第一供給繊維層310上に供給する繊維F2の目付を分割繊維供給部425の単位で可変制御する。
【0057】
繊維供給工程S1,S2,S3を経て形成される繊維集合物300は、プレス成形機200に搬入され、プレス成形される(成形工程S5)。成形工程S5の前に、繊維集合物300が予備加熱されてもよい(予備加熱工程S4)。予備加熱工程S4では、繊維集合物300をサクションヒーター(熱風循環ヒーター)等の加熱機に搬入し、熱風加熱等により例えば熱可塑性繊維116,126,136の融点よりも少し高い温度まで予備加熱してもよい。予備加熱時の熱量を増やすため、サクションヒーターによる加熱に加えて赤外線ヒーターによる輻射加熱を同時に行ってもよい。むろん、サクションヒーターを用いない加熱も可能である。また、予備加熱工程S4では、サイレンサー1の形状に合わせて予備成形してプリフォームを形成してもよい。
【0058】
マット状又はプリフォーム状の繊維集合物300は、図11に例示するようなプレス成形機200に搬入される。図11に示すプレス成形機200は、プレス成形型210を構成する上型212及び下型214が近接及び離隔可能に設けられている。上型212は、サイレンサー1の車体パネル80側の形状に合わせた型面213を対向面に有する金型とされている。下型214は、サイレンサー1のカーペット20側の形状に合わせた型面215を対向面に有する金型とされている。プレス成形は、加熱を伴う熱間プレスが好ましいものの、加熱を伴わない冷間プレスでもよい。
【0059】
下型214の上に繊維集合物300が配置され(プレス成形工程P1)、両型212,214が近接すると、トリミング前のサイレンサー1がプレス成形される(プレス成形工程P2)。これにより、第一供給繊維層310から第一繊維層110が形成され、第二供給繊維層320から第二繊維層120が形成され、繊維集合物300に第三供給繊維層330がある場合には第三供給繊維層330から第三繊維層130が形成される。第一繊維層110には、第一の成形面11が形成される。第二繊維層120は、第一繊維層110と一体化され、第三供給繊維層330がある場合に第三繊維層130と一体化される。第三供給繊維層330がある場合、第三繊維層130に第二の成形面12が形成される。第三供給繊維層330が無い場合、第二繊維層120、及び、第一繊維層110において第二繊維層120の繊維の無い部分に第二の成形面12が形成される。
【0060】
トリミング前のサイレンサー1は、冷却後にプレス成形機200から取り出されて外周裁断機へ搬入され、外周が裁断される。尚、裁断方法は、裁断刃による裁断、ウォータージェット裁断、カッターを用いた手裁断、等を採用することができる。また、必要に応じてサイレンサー1に厚さ方向D3へ貫通した穴が形成されてもよい。
【0061】
(4)具体例に係る自動車用サイレンサーの作用、及び、効果:
上述したように、プレス成形された第二繊維層120に熱可塑性繊維126が50重量%以上含まれていることにより、互いに融着した熱可塑性繊維126が第二繊維層120に高い剛性を与えている。このことがサイレンサー1を軽量化してもサイレンサー1の圧縮強度を維持させると推測される。また、プレス成形された繊維層110,130に非溶融成分を含む主繊維115,135が60重量%以上含まれていることにより、繊維層110,130に柔軟性を与えている。このことがサイレンサー1の感触を向上させると推測される。尚、プレス成形された繊維層110,130に熱可塑性繊維116,136が1重量%以上含まれていることにより、繊維層110,130の形状が保持されている。
本具体例のサイレンサー1は、非溶融成分を含む主繊維115,135を多く含む繊維層110,130に対して、熱可塑性繊維の重量比を多くした第二繊維層120が組み合わされることにより、軽量化しても適度な圧縮強度が得られている。これは、プレス成形されたサイレンサー1において、第二繊維層120の適度な剛性感と繊維層110,130の柔軟な感触とが組み合わされることにより、軽量化しても適度な圧縮強度が得られるためと推測される。
【0062】
さらに、繊維層110,130に対して熱可塑性繊維の重量比を多くした第二繊維層120が組み合わされ、サイレンサー1の厚さXmmと第二繊維層120の目付Yg/m2とが上記不等式(3)の関係を満たし、上記凹み量L0が15mm以下であるという特徴をサイレンサー1が有している。上述したように、プレス成形された第二繊維層120の熱可塑性繊維126の重量比が多く、第二繊維層120の目付YがY≧1.068・X2-23.12・X+176.4であることにより、互いに融着した熱可塑性繊維126が第二繊維層120に高い剛性を与えている。このことがサイレンサー1を軽量化してもサイレンサー1の圧縮強度を維持させると推測される。また、プレス成形された繊維層110,130の熱可塑性繊維116の重量比が少ないことにより、繊維層110,130に柔軟性を与えている。このことがサイレンサー1の感触を向上させると推測される。さらに、サイレンサー1の凹み量L0が15mm以下であることにより、サイレンサー1の感触がさらに向上している。
上記特徴により、サイレンサー1は、密度が0.10g/cm3以下でも適度な圧縮強度を有している。従って、本具体例のサイレンサー1は、軽量化しても適度な圧縮強度を得ることが可能である。
【0063】
尚、上記特徴を有しているサイレンサー1では、第一繊維層110に含まれる熱可塑性繊維116の重量比よりも多い重量比の熱可塑性繊維126を第二繊維層120に含んでいればよい。従って、上記特徴を有しているサイレンサー1において、繊維層110,130の熱可塑性繊維116,136は40重量%よりも多くてもよく、第二繊維層120の熱可塑性繊維126は50重量%未満でもよい。
【0064】
(5)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、本発明を適用可能な自動車用サイレンサーは、車室用のフロアサイレンサー以外にも、荷室用のサイレンサー、ドア部のサイレンサー、天井部のサイレンサー、ダッシュサイレンサー、エンジン部のサイレンサー、フェンダー部のサイレンサー、等でもよい。
【0065】
(6)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、軽量化しても適度な圧縮強度を得ることが可能な自動車用サイレンサー等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1…サイレンサー、10…表面、11…第一の成形面、12…第二の成形面、
20…カーペット(表皮材)、80…車体パネル、
110…第一繊維層、114…繊維、115…主繊維、116…熱可塑性繊維、
120…第二繊維層、124…繊維、125…副繊維、126…熱可塑性繊維、
130…第三繊維層、134…繊維、135…主繊維、136…熱可塑性繊維、
500…円板、
D3…厚さ方向、
L0…凹み量、
T0…サイレンサーの厚さ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11