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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】ハブシールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20220905BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20220905BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20220905BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
F16C33/78 K
F16C33/78 D
F16J15/3204 201
F16J15/3232 201
F16C19/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022003360
(22)【出願日】2022-01-12
【審査請求日】2022-01-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(74)【代理人】
【識別番号】100120846
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 雅也
(72)【発明者】
【氏名】首藤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】樽川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】廣田 一貴
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-161917(JP,A)
【文献】特開2018-84318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16J 15/16-15/43
F16C 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドリップを有し、ハブベアリングの外輪とハブとの間の空間の密封を図るためのハブシールの製造方法であって、
使用状態における前記サイドリップの反力の値であるリップ反力Fを前記ハブの径の値であるハブ径Dで除した値(リップ反力F/ハブ径D)と、前記サイドリップの前記ハブに接触する面であるシール面の表面粗さの値であるリップ表面粗さRとに基づいて予め設定された前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRの領域である設計領域内に含まれる前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRを選択し、
前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRが、前記選択された前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRとなるように、前記ハブシールを設計し、
前記設計したハブシールとなるように前記ハブシールを製造し、
前記設計領域は、前記リップ反力F/ハブ径Dと前記リップ表面粗さRとに基づいて予め設定された前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRの領域であるトルク乱れ領域と、前記リップ反力F/ハブ径Dと前記リップ表面粗さRとに基づいて予め設定された前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRの領域であるシール性能低下領域とに含まれない領域であり、
前記トルク乱れ領域は、トルク乱れが生じるとされる領域であり、
前記シール性能低下領域は、シール性能が低下するとされる領域である、
ハブシールの製造方法。
【請求項2】
前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRを、前記設計領域内の予め設定された領域である目標領域内から選択する、
請求項1に記載のハブシールの製造方法。
【請求項3】
前記選択される前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRを有する前記サイドリップが、前記ハブベアリングにおいて成立するか否かを判定して、前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRを選択する、
請求項1又は2に記載のハブシールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブシールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、例えば自動車において、車輪を回転自在に支持するハブベアリングは、雨水、泥水及びダスト等の異物に直接曝される環境にある。このため、従来から、ハブベアリングには、軸線について相対回転可能な外輪とハブとの間に形成された空間の密封を図るために密封装置としてのハブシールが取り付けられている。このハブシールは、ハブベアリングの内部の潤滑剤の密封を図ると共に内部に異物が進入することの防止を図っている。また、このようなハブシールには、低燃費化の要求等から、ハブシールのシールリップがハブベアリングに加える摺動抵抗(トルク抵抗)の低減や安定が求められるようになっている。このため、従来のハブシールには、トルク抵抗の低減や安定を図っているものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】登録実用新案第3201207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、ハブベアリングのハブの外周面は加工により形成されており、このため、ハブの外周面には加工の仕上痕(加工目)が残る場合がある。ハブベアリングによっては、この加工目が一定の方向性を有しており、つまり、螺旋状や直線状等の回転軸線周りや回転軸線に沿って延びる溝状の痕が複数形成されて成る加工目がハブベアリングの外周面に形成されている場合がある。ハブの外周面にこのような加工目が形成されている場合、加工目の方向性によっては、ハブベアリングの回転時に加工目に基づくポンプ作用が発生し、互いに隣接するシールリップにより形成される密閉空間内の空気やグリース等がこの密閉空間の外側へ放出されることがある。その結果、密閉空間内の圧力が大気の圧力よりも低くなって負圧になり、シールリップがハブの外周面に押し付けられることがある。そしてこの負圧により、ハブベアリングの回転トルクに乱れや異音が生じる場合がある。
【0005】
このようなハブベアリングの回転トルクの乱れや異音の発生を防止するために、シールリップがハブの外周面を締め付ける力(シールリップの締結力)を低下させる対策が考えられるが、シールリップの締結力の低下はシール性能を低下させる。このため、従来のハブベアリングのハブシールには、シール性能の低下を防ぎつつ、ハブベアリングの回転トルクの乱れや異音の発生を防止することができる構成が求められている。
【0006】
本発明の課題は、シールリップが接触する面に加工目が残っていても、シール性能の低下を抑制しつつ、内周側部材の回転トルクの乱れや異音の発生を抑制することができるハブシールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るハブシールの製造方法は、サイドリップを有し、ハブベアリングの外輪とハブとの間の空間の密封を図るためのハブシールの製造方法であって、前記使用状態における前記サイドリップの反力の値であるリップ反力Fを前記ハブの径の値であるハブ径Dで除した値(リップ反力F/ハブ径D)と、前記サイドリップの前記ハブに接触する面であるシール面の表面粗さの値であるリップ表面粗さRとに基づいて予め設定された前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRの領域である設計領域に内に含まれる前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRを選択し、前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRが、前記選択された前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRとなるように、前記ハブシールを設計し、前記設計したハブシールとなるように前記ハブシールを製造し、前記設計領域は、前記リップ反力F/ハブ径Dと前記リップ表面粗さRとに基づいて予め設定された前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRの領域であるトルク乱れ領域と、前記リップ反力F/ハブ径Dと前記リップ表面粗さRとに基づいて予め設定された前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRの領域であるシール性能低下領域とに含まれない領域であり、前記トルク乱れ領域は、トルク乱れが生じるとされる領域であり、前記シール性能低下領域は、シール性能が低下するとされる領域である。
【0008】
本発明の一態様に係るハブシールの製造方法においては、前記リップ反力Fを、前記ハブシールの軸線に直交する方向に対する前記サイドリップの延び方向の角度、前記サイドリップの前記延び方向の長さ、前記サイドリップの前記延び方向に直交する方向の厚さ、前記リップ表面粗さR、及び前記サイドリップの根元の形状の少なくとも1つに基づいて決める。
【0009】
本発明の一態様に係るハブシールの製造方法においては、前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRを、前記設計領域内の予め設定された領域である目標領域内から選択する。
【0010】
本発明の一態様に係るハブシールの製造方法において、前記目標領域における前記リップ反力F/ハブ径Dの範囲は、0.05N/mm以上0.09N/mm以下の範囲であり、前記目標領域における前記リップ表面粗さRの範囲は、RzJIS10μm-α以上RzJIS10μm+α以下の範囲内であり、前記αは、前記サイドリップの成形時の公差である。
【0011】
本発明の一態様に係るハブシールの製造方法においては、前記選択される前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRを有する前記サイドリップが、前記ハブベアリングにおいて成立するか否かを判定して、前記リップ反力F/ハブ径D及び前記リップ表面粗さRを選択する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るハブシールの製造方法によれば、シールリップが接触する面に加工目が残っていても、シール性能の低下を抑制しつつ、内周側部材の回転トルクの乱れや異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係るハブシールの概略構成を示すための軸線に沿う断面における断面図である。
図2図1に示すハブシールのサイドリップ、中間リップ、及び主リップの近傍を拡大して示す部分拡大断面図である。
図3】ハブベアリングに取り付けられたハブシールの使用状態を示すための軸線に沿う断面におけるハブベアリングの断面図である。
図4図3におけるハブシール近傍の部分拡大断面図である。
図5図2に示すサイドリップのリップ反力に影響する要素を説明するためのサイドリップの拡大図である。
図6】試験例に係るハブシールのサイドリップの反力を測定する反力測定装置の概略構成を示す図である。
図7】試験例に係るハブシールの評価試験を行う試験装置の概略構成を示す図である。
図8】試験例に係るハブシールのサイドリップの単位長さ当たりのリップ反力の値とリップ表面粗さとの関係を示すグラフを示す図である。
図9】試験例に係るハブシールのサイドリップの単位長さ当たりのリップ反力の値とリップ表面粗さとの関係を示す他のグラフを示す図である。
図10】本発明の実施の形態に係るハブシールの製造方法のフローチャートを示す図である。
図11図10のハブシール製造処理において参照されるサイドリップ設計標準データの作成処理のフローチャートを示す図である。
図12図10に示すハブシール製造処理において「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせを選択するサイドリップ要素選択処理のフローチャートを示す図である。
図13】従来のハブシールの製造方法のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明に係るハブシールの製造方法によって製造される、本発明の実施の形態に係るハブシール1の軸線xに沿う断面における断面図である。本発明に係るハブシールの製造方法によって製造されるハブシールは、サイドリップを有し、外周側部材とこの外周側部材に少なくとも部分的に包囲されたこの外周側部材に対し相対回転可能な内周側部材との間の空間の密封を図るためのハブシールである。本発明の実施の形態に係るハブシール1は、具体的には、後述するように、ハブベアリング50に用いられ、軸線について相対回転可能な外周側部材としての外輪51と内周側部材としてのハブ52との間の空間を密封するために用いられる(図3参照)。
【0016】
以下、説明の便宜上、軸線x方向において矢印a(図1参照)方向の側(軸線方向において一方の側)を外側とし、軸線x方向において矢印b(図1参照)方向の側(軸線方向において他方の側)を内側とする。より具体的には、外側とは、軸線x方向において、密封対象空間である外輪51とハブ52との間の空間から離れる方向の側であり、内側とは、軸線x方向において、この密封対象空間に近づく方向の側である。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(図1の矢印c方向)の側を外周側とし、軸線xに近づく方向(図1の矢印d方向)の側を内周側とする。なお、軸線xは仮想の線である。
【0017】
ハブシール1は、図1に示すように、軸線x周りに環状の補強環10と、補強環10に取り付けられ、軸線x周りに環状の弾性体から形成された弾性体部20とを備えている。弾性体部20は、サイドリップ30と、中間リップ21と、主リップ22とを有している。サイドリップ30は、後述するハブシール1がハブベアリング50に取り付けられた使用状態において、ハブ52に内側(矢印b方向側)から接触するように形成された外側(矢印a方向側)に向かって延びるシールリップである。中間リップ21は、使用状態においてハブ52に内側から接触するように形成された、サイドリップ30よりも内周側において外側に向かって延びるシールリップである。主リップ22は、使用状態においてハブ52に外周側から接触するように形成されたシールリップである。サイドリップ30は、ハブ52のトルク乱れ及びサイドリップ30のシール性能の低下を抑制するような形状となっており、サイドリップ30の形状は、使用状態におけるサイドリップ30の反力の値(リップ反力F)をハブ52の径の値(ハブ径D)で除した値(リップ反力F/ハブ径D)と、サイドリップ30のハブ52に接触する面であるシール面31の表面粗さの値(リップ表面粗さR)とに基づいている。以下、ハブシール1について具体的に説明する。
【0018】
補強環10は、例えば図1に示すように、軸線xを中心軸又は略中心軸とする環状の金属製の部材であり、後述するハブベアリング50の外輪51の貫通孔に圧入されて嵌合されるように形成されており、補強環10が外輪51に圧入されることにより、ハブシール1は、外輪51に固定される。補強環10は、例えば、図1に示すように、筒状の嵌合部11と、嵌合部11の内側の端部から内周側に曲がって外側に延びる位置調整部12と、嵌合部11の外側の端部から外周側に延びる円環状又は略円環状のフランジ部13とを有している。
【0019】
嵌合部11は、例えば、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円筒状又は略円筒状の部分であり、外周側の周面である外周面11aにおいて、後述するように、外輪51の外側開口部51aに圧入されてその内周面に嵌合されるように形成されている。位置調整部12は、サイドリップ30、中間リップ21、及び主リップ22がハブシール1において所望の位置に配置されるような形状となっている。位置調整部12は、例えば図1に示すように、戻り部12aと、接続フランジ部12bと、戻り部12cと、リップフランジ部12dとを有している。戻り部12aは、例えば、嵌合部11の内側の端から曲がって外側に戻る略円錐筒状又は略円筒状の部分を有する部分である。接続フランジ部12bは、例えば、戻り部12aの外側の端から内周側に延びる円環状又は略円環状の部分である。戻り部12cは、例えば、接続フランジ部12bの内周側の端から内側及び内周側に向かって斜めに延びる円錐筒状又は略円錐筒状の部分である。リップフランジ部12dは、例えば、戻り部12cの内周側の端から内周側に延びる円環状又は略円環状の部分である。フランジ部13は、例えば図1に示すように、軸線xを中心又は略中心とする径方向に広がる円環状又は略円環状の部分である。補強環10は、金属板からプレス加工や鍛造によって一体の部材として形成されており、嵌合部11、位置調整部12、及びフランジ部13は、同一の材料から一体に形成された補強環10の各部分であり、一体的に連続している。補強環10の金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。
【0020】
弾性体部20は、上述のように補強環10に取り付けられており、例えば図1に示すように、補強環10を外側から覆うように補強環10と一体的に形成されている。弾性体部20は、例えば、基体部23を有している。基体部23は、サイドリップ30、中間リップ21、及び主リップ22を支持する部分であり、サイドリップ30、中間リップ21、及び主リップ22は夫々、基体部23から延びている。中間リップ21及び主リップ22は、例えば、基体部23の内周側の端部から夫々延びており、また、サイドリップ30は、例えば、中間リップ21よりも外周側において、中間リップ21から径方向に離間されて、基体部23から延びている。基体部23は、例えば、補強環10のフランジ部13、嵌合部11、及び位置調整部12に亘って、補強環10の外側の表面に広がっている。
【0021】
図2は、ハブシール1のサイドリップ30、中間リップ21、及び主リップ22の近傍を拡大して示す部分拡大断面図である。サイドリップ30は、図1,2に示すように、軸線xを中心軸又は略中心軸として環状に基体部23から外側に向かって延びており、後述するハブシール1の使用状態において、シール面31の先端部が所定の締め代を持ってハブ52に接触するように形成されている。サイドリップ30は、例えば、軸線x方向において外側に向かうに連れて拡径する円錐筒状又は略円錐筒状の形状を有している。
【0022】
中間リップ21は、図1,2に示すように、軸線xを中心軸又は略中心軸として環状に基体部23から外側に向かって延びており、後述するハブシール1の使用状態において、シール面21aの先端部が所定の締め代を持ってハブ52に接触するように形成されている。中間リップ21は、例えば、軸線x方向において外側に向かうに連れて拡径する円錐筒状又は略円錐筒状の形状を有している。中間リップ21はサイドリップ30と平行に外側に向かって延びていてもよく、図1,2に示すように、サイドリップ30よりも軸線xに対する傾きが緩くなっていてもよい。またその逆であってもよい。主リップ22は、例えば図1,2に示すように、軸線xを中心軸又は略中心軸として環状に基体部23から内側及び内周側に向かって延びている。主リップ22は、後述するハブシール1の使用状態において、シール面22aの先端部が所定の締め代を持ってハブ52に外周側から接触するように形成されている。サイドリップ30のシール面31、中間リップ21のシール面21a、及び主リップ22のシール面22a夫々には、潤滑剤としてのグリース(不図示)が塗布されている。なお、サイドリップ30のシール面31、中間リップ21のシール面21a、及び主リップ22のシール面22aは夫々、サイドリップ30、中間リップ21、及び主リップ22の内周側に面する面である。
【0023】
シールリップの締め代は、外力によって変形していない自由状態のシールリップが、使用状態においてシールリップが接触する接触面よりも突き出る長さである。具体的には、サイドリップ30の締め代は、図2に仮想線Vで示す接触面であるハブ52の面(車輪取付フランジ55bの内周面55d)よりも突出するシール面31の部分の軸線x方向の長さである。また、中間リップ21の締め代は、仮想線Vで示すハブ52の接触面(車輪取付フランジ55bの移行部55c)よりも突出するシール面21aの部分の軸線x方向の長さである。また、主リップ22の締め代は、仮想線Vで示すハブ52の接触面(軸部55aの外周面55e)よりも突出するシール面22aの部分の径方向の長さである。
【0024】
また、弾性体部20には、例えば図1に示すように、外周環突起24が形成されている。外周環突起24は、サイドリップ30よりも外周側に設けられた外側に突出する軸線x周りに環状の突起であり、後述する使用状態において、外側の先端である外側端24aにおいてハブ52との間に環状の隙間を形成するように形成されている。外周環突起24は、例えば、基体部23の外周側の端部から外側に向かって突出しており、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円錐筒状又は略円錐筒状に延びている。
【0025】
また、弾性体部20は、例えば図1に示すように、外周環突起24よりも外周側に、外周側に向かって突出する環状の部分である堰部25を有している。堰部25は、後述するように、ハブシール1が外輪51に取り付けられた状態において、外輪51の外側端面よりも外周側に突出するように形成されている。堰部25は、例えば図1に示すように、補強環10のフランジ部13の外周側の端部を覆うように形成されている。また、弾性体部20は、例えば図1に示すように、補強環10のフランジ部13の内側の表面を少なくとも部分的に覆うガスケット部26を有している。ガスケット部26は、軸線x周りに環状に広がっており、堰部25の内周側の端に続いている。
【0026】
弾性体部20は、補強環10に一体的に取り付けられており、上述のサイドリップ30、中間リップ21、主リップ22、基体部23、外周環突起24、堰部25、及びガスケット部26は、同一材料から一体に形成された弾性体部20の各部分であり、一体的に連続している。弾性体部20の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材は、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
【0027】
なお、補強環10の形状は上述の形状に限られず、他の形状であってもよい。補強環10は、例えば、サイドリップ、中間リップ、及び主リップを有する公知のハブシールの補強環の形状であってもよい。例えば、補強環10は、フランジ部13を有していなくてもよい。また、弾性体部20の形状は上述の形状に限られず、他の形状であってもよい。弾性体部20は、例えば、サイドリップ、中間リップ、及び主リップを有する公知のハブシールの弾性体部の形状であってもよい。例えば、弾性体部20は、外周環突起24を有していなくてもよい。また、例えば、弾性体部20は、堰部25を有していなくてもよい。
【0028】
図3は、ハブベアリング50に取り付けられたハブシール1の使用状態を示すための軸線xに沿う断面(以下、単に「断面」ともいう。)におけるハブベアリング50の断面図であり、図4は、図3におけるハブシール1の近傍の部分拡大断面図である。なお、図示の例においては、ハブシール1の軸線xにハブベアリング50の軸線が一致又は略一致している。図3に示すように、ハブベアリング50は従来公知のハブベアリングであり、自動車等の車両等に設けられ、アクスル又は懸架装置において車輪を回転自在に支持する。ハブベアリング50は、具体的には、図3に示すように、外周側部材としての軸線xを中心軸又は略中心軸とする環状の外輪51と、外輪51に対して相対回転可能であり外輪51に部分的に包囲された軸線xを中心軸又は略中心軸とする内周側部材としてのハブ52と、外輪51とハブ52との間に配設された複数のベアリングボール53とを備えている。車両等に取り付けられたハブベアリング50の使用状態において、外輪51は固定され、ハブ52が外輪51に対して相対回動可能になる。ハブ52は、具体的には、内輪54とハブ輪55とを有しており、ハブ輪55は、軸線xに沿って延びる円筒状又は略円筒状の軸部55aと、車輪取付フランジ55bとを有している。車輪取付フランジ55bは、軸部55aの外側の一端から外周側に向かって円盤状に広がる部分であり、図示しない車輪が複数本のハブボルトによって取り付けられる部分である。軸部55aと車輪取付フランジ55bとは、内周側において滑らかに繋がっており、軸部55aと車輪取付フランジ55bとが内周側において繋がっている部分である移行部55cは、軸線xに沿う断面において円弧状の又は弧状の滑らかな曲線を描く輪郭を有している。内輪54は、外輪51と内輪54との間の空間内にベアリングボール53を保持するために、ハブ輪55の軸部55aの内側の端部に嵌合されている。外輪51とハブ52との間の空間内において、ベアリングボール53は保持器56によって保持されている。
【0029】
外輪51は、軸線x方向に延びる貫通孔57を有しており、この貫通孔57には、ハブ52のハブ輪55の軸部55aが挿入されており、軸部55aと貫通孔57との間に軸線xに沿って延びる環状の空間が形成されている。この空間内には、上述のようにベアリングボール53が収容されて保持器56によって保持されており、また、潤滑剤が塗布又は注入されている。軸部55aと貫通孔57との間の空間が外側において開放された開口を形成する外輪51の外側開口部51aには、ハブシール1が取り付けられ、軸部55aと貫通孔57との間の空間が内側において開放された開口を形成する外輪51の内側開口部51bには、他の密封装置58が取り付けられている。ハブシール1及び密封装置58によって、軸部55a及び内輪54と貫通孔57との間の空間の密封が図られており、内部の潤滑剤が外部に漏れ出ることの防止が図られており、外部から雨水や泥水、ダスト等の異物が内部に侵入することの防止が図られている。密封装置58は、従来公知の密封装置であり、詳細な説明は省略する。なお、密封装置58として、ハブシール1を適用することもできる。ハブシール1が適用されるハブベアリングの構成は、上述のハブベアリング50の構成に限られない。
【0030】
図3,4に示すように、ハブシール1は、外輪51の外側開口部51aに取り付けられている。具体的には、ハブシール1は、補強環10の嵌合部11が外輪51の外側開口部51a内に圧入されて嵌着されることにより、外輪51に固定されている。補強環10の嵌合部11の外周面11aは、外輪51の外側開口部51aの内周面51cに接触しており、補強環10と外輪51との間の密封が図られている。また、使用状態において、図3,4に示すように、補強環10は、そのフランジ部13が、内側に広がる弾性体部20のガスケット部26を外側開口部51aの外側に面する環状の面を形成する外側端面51dに押し付けるように、外輪51に取り付けられている。これにより、外側端面51dとフランジ部13との間において、ガスケット部26は圧縮されて、外輪51とハブシール1と間の密封性の向上が図られている。また、弾性体部20の外周環突起24や堰部25によっても、異物の進入の防止が図られている。
【0031】
使用状態において、サイドリップ30のシール面31の先端部が、上述の所定の締め代に対応する部分(接触幅)においてハブ輪55の表面、例えば、車輪取付フランジ55bの内側に面する面(内側面55d)にハブ輪55が摺動可能に接触している。また、中間リップ21の先端部が、上述の所定の締め代に対応する部分(接触幅)においてハブ輪55の表面、例えば、移行部55cにハブ輪55が摺動可能に接触している。また、主リップ22の先端部が、上述の所定の締め代に対応する部分(接触幅)においてハブ輪55の表面、例えば、軸部55aの外周側の面である外周面55eにハブ輪55が摺動可能に接触している。サイドリップ30及び中間リップ21によって、貫通孔57内への異物の進入の防止が図られており、主リップ22によって、貫通孔57内からの潤滑剤の流出の防止が図られている。
【0032】
上述のように、ハブシール1において、サイドリップ30のシール面31、中間リップ21のシール面21a、及び主リップ22のシール面22aには夫々グリースが塗布されている。このため、使用状態において、図4に示すように、サイドリップ30と車輪取付フランジ55bの内側面55dとの夫々の接触面の間にはグリースGが介在している。同様に、中間リップ21と車輪取付フランジ55bの移行部55cとの夫々の接触面の間にはグリースGが介在し、また、主リップ22と軸部55aの外周面55eとの夫々の接触面の間にはグリースGが介在している。
【0033】
サイドリップ30が接触するハブ輪55の車輪取付フランジ55bの内側面55dにハブベアリング50の製造の際の加工によって形成された加工目が残っている場合がある。この加工目が例えば一定の方向性を有している溝を形成していると、また、この加工目の面粗度の度合いによって、ハブ52の回転時にこの加工目に基づいてポンプ作用が発生することがある。このポンプ作用によって、サイドリップ30と、ハブ輪55の車輪取付フランジ55bと、中間リップ21と、基体部23とによって囲まれた空間S内の空気やグリースG等が空間Sから外部へ放出され、空間S内の圧力が外部の大気の圧力よりも低下して、空間S内が負圧になる場合がある。空間Sが負圧になると、サイドリップ30が車輪取付フランジ55b側に引き寄せられて、サイドリップ30が車輪取付フランジ55bの内側面55dに更に押し付けられる。これにより、ハブ52の回転トルクに乱れや異音が生じることがある。
【0034】
本発明者らは、上述のハブ52の回転トルクの乱れ(以下、「トルク乱れ」ともいう。)の発生と、サイドリップ30のリップ反力F及びサイドリップ30のシール面31のリップ表面粗さRとの関係について鋭意研究した結果、ハブ52のトルク乱れの発生と、サイドリップ30のリップ反力F及びハブ52のハブ径D、並びにサイドリップ30のシール面31のリップ表面粗さRとの間に関係性があるという知見を得た。また、サイドリップ30のシール性能の低下と、サイドリップ30のリップ反力F及びハブ52のハブ径D、並びにサイドリップ30のシール面31のリップ表面粗さRとの間に関係性があるという知見を得た。本発明はこの知見に基づいて成されたものである。以下、この知見とこの知見に基づく本発明に係るハブシール及びハブシールの製造方法ついて説明する。なお、ハブ52のハブ径Dは、ハブシール1の径方向の寸法が関連するハブ輪55の部分の径である。ハブ52のハブ径Dは、例えば、サイドリップ30の径の寸法の設定に関連するハブ輪55の部分の径である。具体的には例えば、ハブ径Dは、ハブ輪55の軸部55aの外周面55eの直径や、ハブ輪55の車輪取付フランジ55bの移行部55cのいずれかの位置の径である。
【0035】
本発明者らは、ハブシールの使用状態においてサイドリップの形成する空間(空間S参照)に負圧が発生した際に発生するハブの回転トルクの乱れや異音は、サイドリップのシール面の接触面(摺動面)にグリースの油膜が形成されなくなり、摺動するハブに断続的にサイドリップの接触面が引っ掛かり、スティックスリップが発生することが原因であると推定した。また、サイドリップのシール面の接触面(摺動面)にグリースの油膜が形成されなくなる理由は、サイドリップの反力の大きさ、及びサイドリップのシール面の表面粗さの大きさに関係すると推定した。そこで本発明者らは、サイドリップ30のリップ反力Fの値、及びサイドリップ30のシール面31のリップ表面粗さRの値が夫々異なるハブシール1を複数作成し、これら作成した複数のハブシール1に対して、ハブのトルク乱れの発生及びシール性能の低下を確認する評価試験を行った。
【0036】
<試験例>
サイドリップ30のリップ反力Fは、図4に示すように、ハブシール1の使用状態において、サイドリップ30がハブ輪55の車輪取付フランジ55bの内側面55dに加える軸線x方向の力である。サイドリップ30のリップ反力Fを決めるサイドリップ30の要素には、一例として、図5に示す、径方向に対するサイドリップ30の延び方向eの角度(リップ角度A)、サイドリップ30の延び方向の長さ(リップ長さL)、サイドリップ30の延び方向に直交する方向の厚さ(リップ厚さDL)、サイドリップ30のシール面31の表面粗さ(リップ表面粗さR)、及びサイドリップ30の根元の形状がある。
【0037】
図5に示すように、これらのサイドリップ30の要素は、サイドリップ30の軸線xに沿う断面における値である。サイドリップ30の延び方向eは、サイドリップ30の断面におけるシール面31の輪郭線が延びる方向である。なお、サイドリップ30の断面におけるシール面31の輪郭線は直線又は略直線である。また、リップ長さLは、図5に示すように、サイドリップ30の断面におけるシール面31の輪郭線の長さであり、サイドリップ30のシール面31の先端(シール面先端32)とサイドリップ30のシール面31の根本端(シール面根元端33)との間の長さである。また、サイドリップ30のリップ厚さDLは、サイドリップ30の延び方向に亘って一定となっており、サイドリップ30の外周側に面する面である外周面34とシール面31との間の間隔である。なお、サイドリップ30の断面における外周面34の輪郭線は直線又は略直線である。また、サイドリップ30のリップ厚さDLは、サイドリップ30の延び方向に亘って一定でなくてもよく、例えばサイドリップ30の延び方向に亘って略一定となっていてもよく、先細形状になっていてもよい。
【0038】
図2,5に示すように、サイドリップ30は、リップ先端部35とリップ根本部36とを有しており、サイドリップ30のリップ反力Fを決める要素であるサイドリップ30の根元の形状は、リップ根本部36の特定の部位の形状や寸法である。リップ根本部36において外周面36aは、例えば、基体部23に滑らかにつながるように湾曲した面となっており、図5に示すように、リップ根本部36の外周面36aは、断面において内周側に凸の曲線を描く。また、リップ根本部36の内周面36bは、図5に示すように、主として軸線xに沿って延びる円筒面又は略円筒面であり、内周面36bの両端部は夫々、シール面31及び基体部23に滑らかにつながっており、湾曲している。サイドリップ30のリップ反力Fを決める要素であるサイドリップ30の根元の形状は、具体的には例えば、リップ根本部36の径方向の厚さリップ厚さDLbや外周面36aの曲率、内周面36bの両端部の曲率等である。また、内周面36bが湾曲した面である場合は、内周面36bの曲率も、サイドリップ30のリップ反力Fを決める要素であるサイドリップ30の根元の形状となる。なお、リップ先端部35は、シール面31、外周面34、及びシール先端縁37が囲む部分であり、リップ根本部36は、基体部23につながる部分であり、リップ先端部35と基体部23との間の部分である。また、リップ根本部36の径方向の厚さDLbは、例えば図5に示すように、リップ根本部36の外周面36aの最も内周側の位置における径方向の厚さである。なお、図5における仮想線B1は、リップ先端部35とリップ根本部36との仮想の境界線であり、図5における仮想線B2は、リップ根本部36と基体部23との仮想の境界線である。
【0039】
上記評価試験を実施する試験例として、リップ反力Fが異なるハブシール1を25個(試験例1~25)作成した。上述のリップ反力Fを決めるサイドリップ30の要素である、リップ角度A、リップ厚さDL、リップ長さL、リップ表面粗さR、及びリップ根本部36の形状を種々の値や形状に夫々設定することにより、試験例1~25のリップ反力Fを夫々異なるリップ反力Fとした。また、試験例1~25のサイドリップ30以外の部分は、互いに同じとなるようにした。但し、試験例1~25のサイドリップ30以外の部分の間の製造上のバラツキ等の違いは許容するものとした。
【0040】
試験例1~25のリップ反力Fの測定は、図6に示す反力測定装置E1を用いて行った。具体的には、下アームE3にハブシール1(試験例1~25)を固定し、円盤E4が取り付けられたロードセルE5を上アームE2に取り付け、上アームE2を下アームE3側に動かし、ハブシール1のサイドリップ30に円盤E4を接触させ、この時サイドリップ30から円盤E4が受ける力をロードセルE5によって計測し、リップ反力Fを測定した。なお、下アームE3には、サイドリップ30が上アームE2側になるような姿勢でハブシール1を固定した。また、計測するリップ反力Fは、サイドリップ30の円盤E4に対する接触幅が、上記ハブシール1の使用状態におけるサイドリップ30の締め代に対応する幅となった時のリップ反力Fとした。
【0041】
<評価試験>
上述の試験例1~25に対して評価試験を行った。評価試験は、図7に示す試験装置E10を用いて行った。試験装置E10は、軸線周りに回転可能な回転軸E11を有しており、回転軸E11の先端には、ハブ疑似体E12が取り付けられている。ハブ疑似体E12は、図4に示すハブシール1の使用状態において、サイドリップ30、中間リップ21、及び主リップ22が接触する、ハブ輪55の車輪取付フランジ55bの内側面55d及び移行部55c、並びにハブ輪55の軸部55aの外周面55eと同じ形状の面E13を有している。また、試験装置E10は、外輪疑似体E14を有しており、外輪疑似体14は、図4に示すハブシール1の使用状態において補強環10が圧入される、外輪51の外側開口部51aと同じ形状の部分である固定部E15を有している。つまり、固定部15は、外輪51の外側開口部51aの内周面51c及び外側端面51dと同じ形状の面を有している。この外輪疑似体E14とハブ疑似体E12との間にハブシール1が取り付けられる。具体的には、外輪疑似体E14の固定部E15に補強環10が圧入され、サイドリップ30、中間リップ21、及び主リップ22が、ハブ疑似体E12の面E13に接触する。この時、サイドリップ30の面E13に対する接触幅が、上記ハブシール1の使用状態におけるサイドリップ30の締め代に対応する幅となっており、中間リップ21の面E13に対する接触幅が、上記ハブシール1の使用状態における中間リップ21の締め代に対応する幅となっており、主リップ22の面E13に対する接触幅が、上記ハブシール1の使用状態における主リップ22の締め代に対応する幅となっている。これにより、試験装置E10の内部が密閉される。試験装置E10において外輪疑似体E14及びハブ疑似体E12の外部には、泥水を貯める密閉空間を形成する密閉ヘッドE16が形成されており、密閉ヘッドE16内には泥水が封入されている。また、外輪疑似体E14の内周面には、ハブシール1近傍の位置に、漏水センサE17が取り付けられている。漏水センサE17は、泥水がハブシール1を超えて内部側に漏れ出た場合、この漏れ出た泥水を検知する。なお、ハブシール1を超えて漏れ出た泥水は、外輪疑似体E14の内周面の下側の部分上であって、ハブシール1の近傍の位置に溜まる。また、回転軸E11のトルクをトルク計測器E18を用いて検出する。例えば、トルク計測器E18は所定の周期で回転軸E11のトルクを検出する。
【0042】
試験時間経過後に漏水センサE17の検出結果を確認し、試験中に漏水センサE17が作動したか否かを確認した。試験中に漏水センサE17が作動した場合は、泥水の漏れが有ったと判断し、シール性能低下と評価した。また、トルク計測器E18の検出値若しくはこの検出値に基づく算出値が所定の閾値よりも大きい場合、トルク乱れ有りと判断した。トルク乱れの有無は、例えば、所定の試験時間の間に検出されたトルク計測器E18の検出値が記憶され、この記憶された所定の試験時間の間に検出された検出値又はこれらの検出値に基づく算出値が、所定の閾値からどの程度乱れているかが算出されることにより、判断される。例えば、所定のトルク測定時間の間に、所定のサンプリング周期でトルク計測器E18に検出されたトルク検出値又はこれらのトルク検出値に基づく算出値のうち、所定の閾値よりも小さいトルク検出値又は算出値の割合(トルク安定度)を算出し、この割合(トルク安定度)が他の所定の閾値以下の場合、トルク乱れ有りと判断する。また、所定のサンプリング周期でトルク計測器E18に検出されたトルク検出値又はこれらのトルク検出値に基づく算出値の平均値を求め、この平均値と更に他の所定の閾値とを比較して、トルク乱れの有無を判断してもよい。上記トルク検出値に基づく算出値は、例えば、所定のサンプリング周期でトルク計測器E18に検出されたトルク検出値の標準偏差である。上述のトルク乱れの有無の判断方法は一例であり、他の方法によってトルク乱れの有無の判断をしてもよい。
【0043】
試験例1~25の評価試験結果を図8のグラフに示す。また、試験例1~25夫々のサイドリップ30の単位長さ当たりのリップ反力Fの値と、サイドリップ30のリップ表面粗さRとを図8のグラフに示す。また、試験例1~25のサイドリップ30の単位長さ当たりのリップ反力Fの値と、サイドリップ30のリップ表面粗さRとの関係を図8のグラフに示す。なお、サイドリップ30の単位長さ当たりのリップ反力Fの値とは、サイドリップ30のリップ反力Fを、ハブ疑似体E12の面E13におけるハブ輪55の軸部55aの外周面55eに対応する部分の直径の値(ハブ疑似体径DE)で除した値(リップ反力F/ハブ疑似体径DE)である。なお、ハブ疑似体径DEはハブ径Dに対応する値である。図8のグラフには、各試験例1~25のリップ反力F/ハブ疑似体径DEの値が横軸に、各試験例1~25のリップ表面粗さRの値が縦軸に示されている。なお、図8において、白抜きの丸はトルク乱れが発生しなかった試験例に対応するプロットであり、黒塗りの丸はトルク乱れが発生した試験例に対応するプロットである。
【0044】
本評価試験の結果から、図8に示すような、トルク乱れ領域を設定することができ、また、シール性能低下領域を設定することができることが分かる。トルク乱れ領域は、トルク乱れが生じるとされる領域であり、トルク乱れ領域内の値となるサイドリップ30は、トルク乱れが発生するサイドリップ30であると判断できる。また、シール性能低下領域は、シール性能が低下するとされる領域であり、シール性能低下領域内の値となるサイドリップ30は、泥水が漏れ、シール性能が低下するサイドリップ30であると判断できる。リップ反力Fの値が小さいとシール性能は低下し、また、リップ表面粗さRの値が大きいとシール性能は低下する。
【0045】
このように、本評価試験の結果から、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値(リップ反力F/ハブ疑似体径DE)及びサイドリップ30のリップ表面粗さRと、トルク乱れの発生との間には関係があり、また、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値及びサイドリップ30のリップ表面粗さRと、シール性能の低下との間には関係があることが分かる。また、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値とサイドリップ30のリップ表面粗さRとの値に対して、トルク乱れの発生する領域を設定できることが分かり、また、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値とサイドリップ30のリップ表面粗さRとの値に対して、シール性能が低下する領域を設定できることが分かる。
【0046】
トルク乱れ領域及びシール性能低下領域の設定は、上述のような評価試験によって得られるサイドリップ30の単位長さ当たりのリップ反力F(リップ反力F/ハブ疑似体径DE)の値と、サイドリップ30のリップ表面粗さRの値に基づいて設定することができる。トルク乱れ領域の設定は、図8に示すようなグラフ上に評価試験結果をプロットし、トルク乱れ有りのプロット全てが含まれるような領域を設定してなされる。トルク乱れ領域の境界線は、トルク乱れ有りのプロットを滑らかな線でつなぐことによって設定することができる。また、トルク乱れ領域の境界線は、トルク乱れ有りのプロット含むような、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値が大きくなるほど、サイドリップ30のリップ表面粗さRの値が大きくなるような線を描くことによって設定できる。これは、リップ反力Fが増すほどスティックスリップが発生しやすくなると考えられるため、トルク乱れ領域の境界線は、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値が大きくなるほど、サイドリップ30のリップ表面粗さRの値が大きくなるような線となると考えられる。トルク乱れ領域の境界線は、例えば、傾斜した直線であり、また、例えば、リップ反力Fの単位長さ当たりの値が大きくなるに連れて接線の傾きが減少していく二次関数的な曲線である。トルク乱れ領域の境界線は、傾斜した直線や、上述の二次関数的な曲線に限られず、トルク乱れ有りのプロットに基づいて種々の線となる。
【0047】
シール性能低下領域の設定は、図8に示すようなグラフ上に評価試験結果をプロットし、シール性能低下有りのプロット全てが含まれるような領域を設定してなされる。シール性能低下領域の境界線は、シール性能低下有りのプロットを滑らかな線でつなぐことによって設定することができる。また、シール性能低下領域の境界線は、シール性能低下有りのプロット含むような、サイドリップ30のリップ表面粗さRの値が大きくなるほど、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値が大きくなるような線を描くことによって設定できる。リップ反力Fが増すほど泥水は進入し難くなり、また、リップ表面粗さRが大きくなるほど泥水は進入しやすくなると考えられるため、シール性能低下領域の境界線は、サイドリップ30のリップ表面粗さRの値が大きくなるほど、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値が大きくなるような線となると考えられる。シール性能低下領域の境界線は、例えば、傾斜した直線であり、サイドリップ30のリップ表面粗さRの値が大きくなるに連れて接線の傾きが減少していく二次関数的な曲線である。シール性能低下領域の境界線は、傾斜した直線や、上述の二次関数的な曲線に限られず、シール性能低下有りのプロットに基づいて種々の線となる。
【0048】
なお、図8に示すように、試作例1~25には、シール性能低下有りとなるサイドリップ30はなかった。このような場合は、評価試験結果の中から最もシール性能低下領域に近いと想定されるプロットを、リップ表面粗さR毎に又はリップ表面粗さRの所定の範囲毎に選択し、この選択されたプロットに基づいてシール性能低下領域を設定することができる。例えば、上述のように選択されたプロットを滑らかな線で結んでシール性能低下領域を設定することができる。また、上述のように選択されたプロット夫々をシール性能低下領域に近づく方向に所定の幅だけ移動させ、これらを滑らかな線で結んでシール性能低下領域を設定することができる。具体的には例えば図8に示すシール性能低下領域の境界線のように、評価試験結果(プロット)の中で、リップ表面粗さRが近接するプロットの群夫々においてリップ反力Fの単位長さ当たりの値が最も小さいプロットを選択し、これら選択されたプロットよりもリップ反力Fの単位長さ当たりの値が所定の幅だけ小さくなる側を通る線をシール性能低下領域の境界線とすることができる。
【0049】
図8に示すように、トルク乱れ領域及びシール性能低下領域を設定することにより、トルク乱れが起こらず、シール性能の低下も起こらないと考えられる、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値及びサイドリップ30のリップ表面粗さRの範囲である設計領域が設定できる。設計領域は、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値及びサイドリップ30のリップ表面粗さRが、トルク乱れ領域とシール性低下領域とに含まれない領域である。また、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値及びサイドリップ30のリップ表面粗さRの範囲として、設計領域内の特定の領域(目標領域)を設定してもよい。特定の目標領域は、例えば、トルク乱れ領域の境界線及びシール性能低下領域の境界線夫々から所定の幅離れた設計領域内の領域である。また、特定の目標領域は、例えば、設計領域内の特定のリップ反力Fの単位長さ当たりの値の範囲であり、設計領域内の特定のリップ表面粗さRの範囲である。
【0050】
具体的には例えば、図8に破線枠で示す領域(目標領域I)に入るサイドリップ30は、トルク乱れが発生せず、シール性能が低下せず、目標領域Iを、トルク乱れが発生せず且つシール性能が低下しないサイドリップ30の領域に設定できる。例えば、「リップ反力F/ハブ疑似体径DE」の値が0.05N/mm以上0.09N/mm以下、リップ表面粗さRの値がRzJIS10μm-α以上RzJIS10μm+α以下の領域を、目標領域Iに設定できる。なお、αは、例えば、サイドリップ30の成形時の公差であり、サイドリップ30の製造上発生し得るリップ表面粗さRのバラツキを考慮した値である。
【0051】
上述の評価試験の結果に基づき、本発明の実施の形態に係るハブシール1においては、サイドリップ30のリップ反力Fの単位長さ当たりの値であるサイドリップ30の「リップ反力F/ハブ径D」の値、及びリップ表面粗さRが、設計領域内に入るサイドリップ30となっている。具体的には例えば、本発明の実施の形態に係るハブシール1においては、サイドリップ30のリップ反力F/ハブ径Dの値及びリップ表面粗さRが、図8に示す目標領域I内に入るサイドリップ30となっている。つまり、ハブシール1のサイドリップ30の「リップ反力F/ハブ径D」の値は、0.05N/mm以上0.09N/mm以下である。サイドリップ30のリップ角度A、リップ厚さDL、リップ長さL、リップ表面粗さR、及びリップ根本部36の形状の少なくとも1つに基づいてリップ反力Fが調整され、ハブシール1のサイドリップ30の形状は、「リップ反力F/ハブ径D」の値が0.05N/mm以上0.09N/mm以下となるような形状になっている。例えば、サイドリップ30のリップ角度A、リップ厚さDL、リップ長さL、リップ表面粗さR、及びリップ根本部36の形状の少なくとも1つの値を調整することにより、ハブシール1のサイドリップ30の形状は、「リップ反力F/ハブ径D」の値が0.05N/mm以上0.09N/mm以下となるような形状になっている。また、ハブシール1のサイドリップ30のリップ表面粗さRの値は、RzJIS10μm-α以上RzJIS10μm+α以下である。αは、上述のように、サイドリップ30の製造上発生し得るリップ表面粗さRのバラツキを考慮した値であり、例えば、α=3μmである。
【0052】
上述のように、トルク乱れ領域の境界及びシール性能低下領域の境界は、評価試験の結果に基づいて、安全率についての設計思想等に基づいて、また、ハブシール1の形状等の他の要素に基づいて、種々の境界とすることができ、これに伴って、設計領域も種々の領域とすることができる。また、目標領域についても同様に、種々の領域にすることができる。例えば、図9に示すようなトルク乱れ領域、シール性能低下領域、設計領域、及び目標領域となってもよい。
【0053】
サイドリップ30のリップ反力Fの調整について、例えば、リップ角度Aを90°へ近づけるほど、リップ反力Fは高くなる。また、リップ厚さDLを大きくするほど、リップ反力Fは高くなる。また、リップ長さLを大きくすると、リップ反力Fは高くなる。但し、リップ厚さDLやサイドリップ30の弾性率との関係にて、リップ長さLが所定の長さを超えると反力は下がると考えられる。また、リップ表面粗さRを大きくするとリップ反力Fは下がる。また、リップ根本部36の形状をリップ根本部36の弾性率が高くなる形状にすると、リップ根本部36の剛性が上がり、リップ反力Fは高くなる。リップ根本部36の弾性率が高くなるようにするには、例えば、リップ根本部36のリップ厚さDLbを大きくすることが考えられる。
【0054】
<ハブシール1の製造方法>
上述のように、「リップ反力F/ハブ径D」の値及びリップ表面粗さRが、図8に示す設計領域内に入るサイドリップ30は、空間Sが負圧になってもトルク乱れが発生せず又はトルク乱れの発生が抑制され、これにより異音が発生せず又は異音の発生が抑制され、また、シール性能が低下しない又はシール性能の低下が抑制される。本発明の実施の形態に係るハブシールの製造方法においては、上述の評価試験を行って予め設計領域を設定しておき、ハブシール1の弾性体部20を弾性体から形成する弾性体部形成工程において、この予め設定された設計領域内に入る「リップ反力F/ハブ径D」の値及びリップ表面粗さRを選択し、この選択した「リップ反力F/ハブ径D」の値及びリップ表面粗さRとなるサイドリップ30を設計し、この設計したサイドリップ30を製造する。これにより、サイドリップ30が、トルク乱れ及びシール性能の低下を抑制するような形状となる。また、サイドリップ30が、トルク乱れ及びシール性能の低下を抑制するような形状となるハブシール1を簡単に且つ短期間で設計することができる。
【0055】
また、ハブシールの製造方法においては、上述の選択された「リップ反力F/ハブ径D」の値及びリップ表面粗さRとなるサイドリップ30を、サイドリップ30のリップ反力Fを、サイドリップ30のリップ角度A、リップ長さL、リップ厚さDL、リップ表面粗さR、及びリップ根本部36の形状の少なくとも1つを調整して設計する。
【0056】
具体的には例えば、ハブシールの製造方法においては、サイドリップ30の形状を、サイドリップ30の「リップ反力F/ハブ径D」の値及びリップ表面粗さRが、図8に示す目標領域I内に入るような形状に設計する。より具体的には例えば、ハブシールの製造方法は、サイドリップ30の「リップ反力F/ハブ径D」の値が0.05N/mm以上0.09N/mm以下となり、また、サイドリップ30のリップ表面粗さRがRzJIS10μm-α以上RzJIS10μm+α以下となるように、サイドリップ30を設計する。
【0057】
以下、ハブシール1の製造方法を具体的に説明する。図10には、ハブシール1の製造するハブシール製造処理のフローチャートが示されている。
【0058】
図10に示すように、ハブシール製造処理においては、先ず、リップ反力F/ハブ径Dとリップ表面粗さRとに基づいて予め設定された、設計領域、トルク乱れ領域、及びシール性能低下領域を有するサイドリップ設計標準データを参照する(ステップS1)。サイドリップ設計標準データは、設計領域に属する「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせと、トルク乱れ領域に属する「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせと、シール性能低下領域に属する「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせが格納されたデータであり、視覚的には、図8,9に示すデータである。
【0059】
次いで、ステップS2において、サイドリップ設計標準データから、設計領域に属する「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせを選択する。次いで、ステップ2において選択された「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRを有するサイドリップ30を有するハブシール1を設計する(ステップS3)。次いで、ステップ3において設計したハブシール1を製造する(ステップS4)。
【0060】
次いで、図10に示すハブシール製造処理のステップS1において参照されるサイドリップ設計標準データの作成処理について説明する。サイドリップ設計標準データの作成処理は、図10に示すハブシール製造処理に先だって予め行われている。サイドリップ設計標準データの作成処理によって一度作成されたサイドリップ設計標準データは、ハブシール製造処理の実施の度に使用することができる。図11には、図10に示すハブシール製造処理のステップ1において参照するサイドリップ設計標準データの作成処理を示すフローチャートが示されている。
【0061】
サイドリップ設計標準データ作成処理において、「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせが互いに異なるサイドリップ30を有する複数のハブシール1(サンプルハブシール)を準備する(ステップS11)。次いで、ステップS11において準備したサンプルハブシール夫々に対して、上述のハブのトルク乱れの発生及びシール性能の低下を確認する評価試験を実施する(ステップS12)。
【0062】
次いで、ステップS12における評価試験の結果から、各サンプルハブシールの「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせを、設計領域、トルク乱れ領域、又はシール性能低下領域に分類して、記憶する(ステップS13)。これによりサイドリップ設計標準データが作成される。ステップS13における分類は、図8,9で示すような「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRのグラフ上に、各サンプルハブシールの「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRをプロットし、また、ステップS12の各サンプルハブシールの評価結果を対応するプロットに結び付け、上述したように、トルク乱れ領域の境界及びシール性能低下領域の境界を夫々設定し、トルク乱れ領域、シール性能低下領域、及び設計領域を設定しておこなう。これにより、各サンプルハブシールの「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせが、設計領域、トルク乱れ領域、又はシール性能低下領域に分類される。なお、サンプルハブシールの「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせの、設計領域、トルク乱れ領域、又はシール性能低下領域への分類方法は、上述の視覚的な方法に限られない。例えば、サンプルハブシールの「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせの、設計領域、トルク乱れ領域、又はシール性能低下領域への分類方法は、計算に基づく方法であってもよい。
【0063】
また、図12には、図10に示すハブシールの製造方法のステップS2における「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせを選択するサイドリップ要素選択処理を示すフローチャートが示されている。サイドリップ要素選択処理においては、先ず、ハブシール1が適用されるハブベアリングの諸元に基づいて、ハブ径Dを設定する(ステップS21)。次いで、図10に示すハブシールの製造方法のステップS1において参照したサイドリップ設計標準データから、設計領域に属する「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせを選択する(ステップS22)。次いで、ステップS22において選択された「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRを有するサイドリップ30を設計する(ステップS23)。次いで、ステップS23において設計されたサイドリップ30がハブシール1の適用されるハブベアリングの構造上成立するかを判定する(ステップS24)。ステップS24において、成立すると判定された場合(ステップS24においてYes)、ステップS25において、ステップS22において選択された「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせを、選択する「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの組み合わせとして確定する。一方、ステップS24において、成立しないと判定された場合(ステップS24においてNo)、ステップS22に戻り、設計領域に属する「リップ反力F/ハブ径D」及びリップ表面粗さRの異なる組み合わせを選択する。
【0064】
図13は、従来のハブシールの製造方法のフローチャートを示す図である。従来のハブシールの製造方法では、ハブシールの適用対象のハブベアリングの諸元に基づいて、ハブシールを設計し、この設計したハブシールを試作し、試作されたハブシールに対してハブのトルク乱れの発生及びシール性能の低下を確認する評価試験を実施する。そして、この評価試験から設計したハブシールが要求を満たさないと判断されると、新たにハブシールを設計し、新たに設計されたハブシールを製造して、これに対して評価試験を実施する。この新たなハブシールの設計及びその製造、この新たに製造されたハブシールに対する評価試験の実施には長期間を要する。一方、本発明の実施の形態に係るハブシールの製造方法によれば、サイドリップ設計標準データを一度作成すれば、評価試験を行うことなくサイドリップ30の設計ができ、ハブシール1をより短期で製造できる。
【0065】
このように、本発明の実施の形態に係るハブシールの製造方法によれば、使用状態においてサイドリップ30が接触するハブ輪55の車輪取付フランジ55bの内側面55dや移行部55cに加工目が残っていても、シール性能の低下を抑制しつつ、ハブベアリング50の回転トルクの乱れや異音の発生を抑制することができる。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に係るハブシールの製造方法に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…ハブシール、10…補強環、11…嵌合部、11a…外周面、12…位置調整部、12a…戻り部、12b…接続フランジ部、12c…戻り部、12d…リップフランジ部、13…フランジ部、20…弾性体部、21…中間リップ、21a…シール面、22…主リップ、22a…シール面、23…基体部、24…外周環突起、24a…外側端、25…堰部、26…ガスケット部、30…サイドリップ、31…シール面、32…シール面先端、33…シール面根元端、34…外周面、35…リップ先端部、36…リップ根本部、36a…外周面、36b…内周面、37…シール先端縁、50…ハブベアリング、51…外輪、51a…外側開口部、51b…内側開口部、51c…内周面、51d…外側端面、52…ハブ、53…ベアリングボール、54…内輪、55…ハブ輪、55a…軸部、55b…車輪取付フランジ、55c…移行部、55d…内側面、55e…外周面、56…保持器、57…貫通孔、58…他のハブシール、E1…反力測定装置、E2…上アーム、E3…下アーム、E4…円盤、E5…ロードセル、E10…試験装置、E11…回転軸、E12…ハブ疑似体、E13…面、E14…外輪疑似体、E15…固定部、E16…密閉ヘッド、E17…漏水センサ、E18…トルク計測器、A…リップ角度、B1,B2…境界線、D…ハブ径、DE…ハブ疑似体径、DL,DLb…リップ厚さ、e…延び方向、F…リップ反力、G…グリース、I…目標領域、L…リップ長さ、R…リップ表面粗さ、S…空間、x…軸線
【要約】
【課題】シールリップが接触する面に加工目が残っていても、シール性能の低下を抑制しつつ内周側部材の回転トルクの乱れや異音の発生を抑制する。
【解決手段】使用状態におけるサイドリップ30の反力の値であるリップ反力Fをハブ52の径の値であるハブ径Dで除した値(リップ反力F/ハブ径D)と、サイドリップ30のシール面31の表面粗さの値であるリップ表面粗さRとに基づいて予め設定されたリップ反力F/ハブ径D及びリップ表面粗さRの領域である設計領域内に含まれるリップ反力F/ハブ径D及びリップ表面粗さRを選択し、リップ反力F/ハブ径D及びリップ表面粗さRが、選択されたリップ反力F/ハブ径D及びリップ表面粗さRとなるように、ハブシールを設計し、設計したハブシールとなるようにハブシールを製造する。
【選択図】図10
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13