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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤の希釈液及びその利用
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/02 20060101AFI20220905BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20220905BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20220905BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20220905BHJP
【FI】
D06M13/02
D06M13/17
D06M13/224
D06M101:32
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022542106
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014200
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2021090908
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大前 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】正路 大輔
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-105685(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176892(WO,A1)
【文献】特開2017-025438(JP,A)
【文献】国際公開第2021/193336(WO,A1)
【文献】安全データシート,日本,ENEOS株式会社 [オンライン],2021年03月31日,[検索日 2022.05.31], インターネット: <URL: https://www.eneos.co.jp/business/sds/pdf/chs09_r.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/02
D06M 13/17
D06M 13/224
D06M 101/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤(L)、ノニオン界面活性剤(N)及び炭素数11~14の直鎖炭化水素(P)を必須で含み、油膜強化剤(H)、有機スルホン酸塩(AS)、有機燐酸塩(AP)、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)、低粘度希釈剤(D)及び酸化防止剤(E)から選ばれる少なくとも1種を含む合成繊維用処理剤の希釈液であって、
前記直鎖炭化水素(P)が炭素数13の直鎖炭化水素及び炭素数14の直鎖炭化水素を必須で含み、
前記直鎖炭化水素(P)が炭素数11の直鎖炭化水素及び/又は炭素数12の直鎖炭化水素を任意で含み、
下記式(1)を満たし、
合成繊維用処理剤の希釈液に占める前記直鎖炭化水素(P)の重量割合が8~50重量%であり、高温曇点が50℃以上であり、低温曇点が10℃以下である、合成繊維用処理剤の希釈液。
1<炭素数13の直鎖炭化水素の重量%/炭素数14の直鎖炭化水素の重量%<10 (1)
【請求項2】
前記炭化水素(P)が炭素数11の直鎖炭化水素及び/又は炭素数12の直鎖炭化水素をさらに含む、請求項1に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項3】
前記処理剤の希釈液の清浄度であるISO等級(4406:1999)が17/16/14以下、又は、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下である、請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項4】
前記合成繊維用処理剤の希釈液の30℃での動粘度が10~100mm/sである、請求項1~3のいずれかに記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項5】
原料合成繊維フィラメント糸条に、請求項1~4のいずれかに記載の合成繊維用処理剤の希釈液が付与されてなる、合成繊維フィラメント糸条。
【請求項6】
原料合成繊維フィラメント糸条に、請求項1~4のいずれかに記載の合成繊維用処理剤の希釈液を付与する工程を含む、合成繊維フィラメント糸条の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤の希釈液及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用の合成繊維用の製造においては、糸の毛羽や糸切れを防ぐために、合成繊維処理剤を付与し、糸に平滑性、集束性を与えている。合成繊維処理剤の付与方法には水に希釈させる場合と低粘度パラフィン等に希釈させる場合がある。近年、生産性向上のために糸の生産速度の高速化や、糸の高強力化のために延伸倍率の向上が行われており、毛羽が増加する問題が起こっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許第6533002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合成繊維処理剤を低粘度パラフィンにて希釈して付与する場合、低粘度パラフィンの炭素数が異なると、糸を延伸するための加熱ローラー上での低粘度パラフィンの揮発のしやすさが異なる。低粘度パラフィンの揮発のしやすさは、延伸時の糸の平滑性、集束性に影響を与える。最適な炭素数の低粘度パラフィンを使用することで、毛羽を低減できることを突き止めた。
【0005】
本発明の目的は、毛羽を低減できる合成繊維用処理剤の希釈液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく研究した結果、平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び特定の炭素数を特定の量比で含有する直鎖炭化水素を含む合成繊維用処理剤の希釈液が正しく好適であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明の合成繊維用処理剤の希釈液は、平滑剤(L)、ノニオン界面活性剤(N)及び炭素数11~14の直鎖炭化水素(P)を必須で含み、油膜強化剤(H)、有機スルホン酸塩(AS)、有機燐酸塩(AP)、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)、低粘度希釈剤(D)及び酸化防止剤(E)から選ばれる少なくとも1種を含む合成繊維用処理剤の希釈液であって、前記直鎖炭化水素(P)が炭素数13の直鎖炭化水素及び炭素数14の直鎖炭化水素を必須で含み、前記直鎖炭化水素(P)が炭素数11の直鎖炭化水素及び/又は炭素数12の直鎖炭化水素を任意で含み、下記式(1)を満たし、
合成繊維用処理剤の希釈液に占める前記直鎖炭化水素(P)の重量割合が8~50重量%であり、高温曇点が50℃以上であり、低温曇点が10℃以下である
1<炭素数13の直鎖炭化水素の重量%/炭素数14の直鎖炭化水素の重量%<10 (1)
【0008】
前記直鎖炭化水素(P)が炭素数11の直鎖炭化水素及び/又は炭素数12の直鎖炭化水素をさらに含むと好ましい。
前記合成繊維用処理剤の希釈液の清浄度であるISO等級(4406:1999)が17/16/14以下、又は、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下であると好ましい。
前記合成繊維用処理剤の希釈液の30℃での動粘度が10~100mm/sであると好ましい。
【0009】
本発明の合成繊維フィラメント糸条は、原料合成繊維フィラメント糸条に、上記合成繊維用処理剤の希釈液が付与されてなる。
本発明の合成繊維フィラメント糸条の製造方法は、原料合成繊維フィラメント糸条に、上記合成繊維用処理剤の希釈液を付与する工程を含む。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の合成繊維用処理剤の希釈液は、合成繊維の製造時に毛羽を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液の各成分について説明する。
【0012】
〔直鎖炭化水素(P)〕
本発明に用いられる直鎖炭化水素(P)は、炭素数が11~14の範囲にある直鎖炭化水素である。
直鎖炭化水素(P)は、炭素数13の直鎖炭化水素及び炭素数14の直鎖炭化水素を必須に含み、前記直鎖炭化水素(P)が炭素数11の直鎖炭化水素及び/又は炭素数12の直鎖炭化水素を任意で含む。
炭素数13の直鎖炭化水素は、ノルマルトリデカンであり、炭素数14の直鎖炭化水素は、ノルマルテトラデカンである。
炭素数11の直鎖炭化水素及び炭素数12の炭化水素以外の直鎖炭化水素(P)としては、炭素数11のノルマルウンデカン、炭素数12のノルマルドデカンが挙げられる。
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液は、前記直鎖炭化水素(P)が炭素数11の直鎖炭化水素及び/又は炭素数12の直鎖炭化水素をさらに含むと、毛羽を低減できる観点から好ましい。
【0013】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液は、前記直鎖炭化水素(P)が炭素数13の直鎖炭化水素及び炭素数14の直鎖炭化水素を含み、下記式(1)を満たす。
1<炭素数13の直鎖炭化水素の重量%/炭素数14の直鎖炭化水素の重量%<10 (1)
炭素数13の直鎖炭化水素の重量%の炭素数14の直鎖炭化水素の重量%に対する比率(炭素数13の直鎖炭化水素の重量%/炭素数14の直鎖炭化水素の重量%)の下限値は、毛羽を低減できる観点から、1超であり、1.5以上が好ましく、2以上がより好ましい。
炭素数13の直鎖炭化水素の重量%の炭素数14の直鎖炭化水素の重量%に対する比率(炭素数13の直鎖炭化水素の重量%/炭素数14の直鎖炭化水素の重量%)の上限値は、毛羽を低減できる観点から、10未満であり、8以下が好ましく、6以下がより好ましい。
【0014】
直鎖炭化水素(P)の重量%は、GC-FIDを用いて測定される面積積分から求める。すなわち、カラムにはメチルシリコンのキャピラリーカラム(DB-1HT、0.32mmφ、30m)、キャリアガスにはヘリウムを、検出器には水素イオン検出器(FID)を用い、キャリアガス流量1.84mL/min、分割比1:25、試料注入温度300℃、カラム昇温条件120℃(1分)→(15℃/min)→240℃、検出器温度300℃の条件で、GC-2010Plus(島津製作所製)を用いて測定を行う。
ノルマルウンデカン 25重量%(商品名:カクタスノルマルパラフィンN-11 ENEOS製)、ノルマルドデカン 25重量%(商品名:カクタスノルマルパラフィンN-12D ENEOS製)、ノルマルトリデカン 25重量%(商品名:カクタスノルマルパラフィンN-13 ENEOS製)、ノルマルテトラデカン 25重量%(商品名:カクタスノルマルパラフィンN-14 ENEOS製)を混合した標準溶液を作製し、上記の条件でGC測定を行い、それぞれの炭素数の直鎖炭化水素の面積積分を求める。合成繊維用処理剤の希釈液も同様の条件にてGC測定を行い、標準溶液と同じ保持時間に検出されるそれぞれの炭素数の面積積分を求める。標準溶液にはそれぞれの炭化水素が25重量%含まれており、重量は面積に比例するため、下記式(2)より重量%を計算する。それぞれの炭化水素の合計が直鎖炭化水素(P)の重量%である。
25×合成繊維用処理剤の希釈液の1つの炭化水素の面積積分/標準溶液の1つの炭化水素の面積積分=1つの炭化水素の重量%(2)
【0015】
〔平滑剤(L)〕
[平滑剤(L)]
平滑成分(L)は、本発明の合成繊維用処理剤の希釈液に必須の成分であり、ノニオン界面活性剤(N)を除く成分である。平滑成分(L)としては、1)脂肪族一価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造を有するエステル化合物(L1)、2)脂肪族多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造を有するエステル化合物(L2)、3)脂肪族一価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とがエステル結合した構造を有するエステル化合物(L3)、4)分子内に芳香環を有する芳香族エステル化合物(L4)、5)含硫黄エステル化合物(L5)、6)鉱物油(L6)等、合成繊維用処理剤として一般的に採用されている公知の平滑成分を挙げることができる。平滑成分(L)は1種又は2種以上を使用できる。
【0016】
1)エステル化合物(L1)
エステル化合物(L1)は、脂肪族一価アルコールと脂肪酸(脂肪族一価カルボン酸)とがエステル結合した構造を有する化合物であり、また分子内にポリオキシアルキレン基を有しない化合物である。エステル化合物(L1)は1種又は2種以上を使用できる。
エステル化合物(L1)としては、下記一般式(3)で示される化合物であることが好ましい。
-COO-R (3)
(式中、Rは炭素数4~24のアルキル基又はアルケニル基を示し、Rは炭素数6~24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0017】
の炭素数は6~22が好ましく、8~20がより好ましく、10~18がさらに好ましい。該炭素数が4未満では、油膜が弱いために毛羽が増加することがある。一方、該炭素数が24超では、繊維金属間の摩擦が高くなり、毛羽が増加することがある。Rは、アルキル基とアルケニル基のどちらでもよいが、長期間保管により給油ラインを閉塞させないという観点から、アルキル基が好ましい。
【0018】
の炭素数は6~22が好ましく、8~20がより好ましく、10~18がさらに好ましい。該炭素数が6未満では、油膜が弱いために毛羽が増加することがある。一方、該炭素数が24超では、繊維金属間の摩擦が高くなり、毛羽が増加することがある。Rは、アルキル基とアルケニル基のどちらでもよいが、長期間保管により給油ラインを閉塞させないという観点から、アルケニル基が好ましい。
【0019】
エステル化合物(L1)としては、特に限定されないが、例えば、2-デシルテトラデカノイルエルシネート、2-デシルテトラデカノイルオレエート、2-オクチルドデシルステアレート、イソオクチルパルミテート、イソオクチルステアレート、ブチルパルミテート、ブチルステアレート、ブチルオレート、イソオクチルオレート、ラウリルオレエート、イソトリデシルステアレート、ヘキサデシルステアレート、イソステアリルオレエート、オレイルオクタノエート、オレイルラウレート、オレイルパルミテート、オレイルステアレート、オレイルオレエート等が挙げられる。これらの中でも、2-デシルテトラデカノイルオレエート、2-オクチルドデシルステアレート、イソオクチルパルミテート、イソオクチルステアレート、ラウリルオレエート、イソトリデシルステアレート、ヘキサデシルステアレート、イソステアリルオレエート、オレイルオレエートが好ましい。
【0020】
2)エステル化合物(L2)
エステル化合物(L2)は、脂肪族多価アルコールと脂肪酸(脂肪族一価カルボン酸)とがエステル結合した構造を有する化合物であり、また分子内にポリオキシアルキレン基を有しない化合物である。エステル化合物(L2)は1種又は2種以上を使用できる。
【0021】
エステル化合物(L2)を構成する脂肪族多価アルコールは、2価以上であれば特に限定はなく、1種又は2種以上を使用できる。多価アルコールは、油膜強度の点から、3価以上が好ましく、3~4価がより好ましく、3価がさらに好ましい。
脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリグリセリン、テトラグリセリン、ショ糖等が挙げられる。これらの中でも、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ショ糖が好ましく、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタンがより好ましく、グリセリン、トリメチロールプロパンがさらに好ましい。
【0022】
エステル化合物(L2)を構成する脂肪酸は、飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和結合の数については特に限定はないが、3つ以上有する場合、酸化により劣化が進行して処理剤が増粘して潤滑性が損なわれるため、1つ又は2つが好ましい。脂肪酸の炭素数としては、油膜強度と潤滑性の両立から、8~24が好ましく、10~20がより好ましく、12~18がさらに好ましい。脂肪酸は、1種又は2種以上を使用してもよく、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を併用してもよい。
【0023】
エステル化合物(L2)は、分子内に2個以上のエステル結合を有する化合物であるが、長期間保管により給油ラインを閉塞させない観点から、分子内に3個以上のエステル結合を有する化合物であることが好ましく、分子内に3個のエステル結合を有する化合物であることがさらに好ましい。
エステル化合物(L2)のヨウ素価については、特に限定はない。
【0024】
エステル化合物(L2)の重量平均分子量は、300~1200が好ましく、300~1000がより好ましく、500~1000がさらに好ましい。該重量平均分子量が300未満の場合、油膜強度が不足し、毛羽が増加したり、熱処理時の発煙が増加したりする場合がある。一方、該重量平均分子量が1200超の場合、平滑性が不足して毛羽が多発し、高品位の繊維が得られないだけでなく、製織や編み工程での品位が劣る場合がある。なお、本発明における重量平均分子量は、東ソー(株)製高速ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8220GPCを用い、試料濃度3mg/ccで、昭和電工(株)製分離カラムKF-402HQ、KF-403HQに注入し、示差屈折率検出器で測定されたピークより算出した。
【0025】
エステル化合物(L2)としては、例えば、トリメチロールプロパントリカプリレート、トリメチロールプロパントリカプリナート、トリメチロールプロパントリラウレート、トリメチロールプロパントリオレエート、トリメチロールプロパン(ラウレート、ミリスチレート、パルミテート)、トリメチロールプロパン(ラウレート、ミリスチレート、オレエート)、トリメチロールプロパン(トリパーム核脂肪酸エステル)、トリメチロールプロパン(トリヤシ脂肪酸エステル)、ヤシ油、菜種油、パーム油、グリセリントリラウレート、グリセリントリオレエート、グリセリントリイソステアレート、ペンタエリスリトールテトラカプリレート、ペンタエリスリトールテトラカプリナート、ペンタエリスリトールテトララウレート、エリスリトールテトララウレート、ペンタエリスリトール(テトラパーム核脂肪酸エステル)、ペンタエリスリトール(テトラヤシ脂肪酸エステル)、1,6ヘキサンジオールジオレエート等が挙げられる。
【0026】
エステル化合物(L2)、は一般的に市販されている脂肪酸と脂肪族多価アルコールを用いて、公知の方法で合成し得られたものを使用してもよい。又、天然の果実、種子又は花など天然より得られる天然エステルであって、エステル化合物(L2)の構成を満足する天然エステルをそのまま使用したり、必要に応じて、天然エステルを公知の方法で精製したり、更に精製したエステルを公知の方法で融点差を利用して分離、再精製を行ったエステルを用いたりしてもよい。又、2種以上の天然エステル(油脂)をエステル交換して得られたエステルを用いてもよい。
【0027】
3)エステル化合物(L3)
エステル化合物(L3)は、脂肪族一価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とがエステル結合した構造を有する化合物であり、また分子内にポリオキシアルキレン基を有しない化合物である。エステル化合物(L3)は1種又は2種以上を使用できる。
【0028】
エステル化合物(L3)を構成する脂肪族一価アルコールは、特に限定はなく、1種又は2種以上を使用できる。脂肪族一価アルコールは、飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和結合の数については特に限定はないが、2つ以上有する場合、酸化により劣化が進行して処理剤が増粘して潤滑性が損なわれるため、1つが好ましい。脂肪族一価アルコールの炭素数としては、長期間保管により給油ラインを閉塞させない観点から、8~24が好ましく、14~24がより好ましく、18~22がさらに好ましい。脂肪族一価アルコールは、1種又は2種以上を使用してもよく、飽和脂肪族一価アルコールと不飽和脂肪族1価アルコールを併用してもよい。
【0029】
脂肪族1価アルコールとしては、オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ミリストレイルアルコール、セチルアルコール、イソセチルアルコール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、バクセニルアルコール、ガドレイルアルコール、アラキジルアルコール、イソイコサニルアルコール、エイコセノイルアルコール、ベヘニルアルコール、イソドコサニルアルコール、エルカニルアルコール、リグノセリニルアルコール、イソテトラコサニルアルコール、ネルボニルアルコール、セロチニルアルコール、モンタニルアルコール、メリシニルアルコール等が挙げられる。これらの中でも、オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ミリストレイルアルコール、セチルアルコール、イソセチルアルコール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、バクセニルアルコール、ガドレイルアルコール、アラキジルアルコール、イソイコサニルアルコール、エイコセノイルアルコール、ベヘニルアルコール、イソドコサニルアルコール、エルカニルアルコール、リグノセリニルアルコール、イソテトラドコサニルアルコール、ネルボニルアルコールが好ましく、ミリストレイルアルコール、パルミトレイルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、バクセニルアルコール、ガドレイルアルコール、エイコセノイルアルコール、エルカニルアルコール、ネルボニルアルコールがより好ましく、オレイルアルコール、エライジルアルコール、バクセニルアルコール、ガドレイルアルコール、エイコセノイルアルコール、エルカニルアルコールがさらに好ましい。
【0030】
エステル(L3)を構成する脂肪族多価カルボン酸は、2価以上であれば特に限定はなく、1種又は2種以上を使用できる。本発明で用いる脂肪族多価カルボン酸は、チオジプロピオン酸等の含硫黄多価カルボン酸を含まない。脂肪族多価カルボン酸の価数は、2価が好ましい。同様に、分子内にヒドロキシル基を含まないことが好ましい。
脂肪族多価カルボン酸としては、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、アコニット酸、オキサロ酢酸、オキサロコハク酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。これらの中でも、アコニット酸、オキサロ酢酸、オキサロコハク酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸が好ましく、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸がより好ましい。
【0031】
エステル化合物(L3)としては、例えば、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジラウリル、アジピン酸ジオレイル、アジピン酸次イソセチル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジラウリル、セバシン酸ジオレイル、セバシン酸ジイソセチル等を挙げることができる。
【0032】
エステル化合物(L3)は、分子内に2個以上のエステル結合を有する化合物である。エステル化合物(L3)のヨウ素価については、特に限定はない。
【0033】
エステル化合物(L3)の重量平均分子量は、500~1000が好ましく、500~800がより好ましく、500~700がさらに好ましい。該重量平均分子量が500未満の場合、油膜強度が不足し、毛羽が増加したり、熱処理時の発煙が増加したりする場合がある。一方、該重量平均分子量が1000超の場合、融点が高くなり、製織や編み工程でのスカム発生の原因となり、品位が劣る場合がある。
【0034】
4)芳香族エステル化合物(L4)
芳香族エステル化合物(L4)は、分子内に少なくとも1つの芳香環を有するエステル化合物である。詳細には、芳香族カルボン酸とアルコールとがエステル結合した構造を有するエステル化合物(L4-1)、芳香族アルコールとカルボン酸とがエステル結合した構造を有するエステル化合物(L4-2)を挙げることができる。また、芳香族エステル化合物(L4)は、分子内にポリオキシアルキレン基を有しない化合物である。芳香族エステル化合物(L4)は、1種又は2種以上を使用できる。
【0035】
5)含硫黄エステル化合物(L5)
含硫黄エステル化合物は、チオジプロピオン酸と脂肪族アルコールとのジエステル化合物及びチオジプロピオン酸と脂肪族アルコールとのモノエステル化合物から選ばれる少なくとも1種である。
含硫黄エステル化合物は、抗酸化能を有する成分である。該含硫黄エステル化合物を使用することで、処理剤の耐熱性を高めることができる。含硫黄エステル化合物は、1種又は2種以上を使用できる。該含硫黄エステル化合物を構成するチオジプロピオン酸の分子量は、400~1000が好ましく、500~900がより好ましく、600~800がさらに好ましい。該含硫黄エステル化合物を構成する脂肪族アルコールは、飽和であっても不飽和であってもよい。また、脂肪族アルコールは、直鎖状であっても分岐構造を有していてもよいが、分岐構造を有するものが好ましい。脂肪族アルコールの炭素数は8~24が好ましく、12~24がより好ましく、16~24がさらに好ましい。脂肪族アルコールとしては、例えば、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、イソセチルアルコール、オレイルアルコールおよびイソステアリルアルコールなどが挙げられ、これらの中でもオレイルアルコール、イソステアリルアルコールが好ましい。
【0036】
6)鉱物油(L6)
また、本発明の合成繊維用処理剤の希釈液は、上記以外の平滑成分として、鉱物油を含有してもよい。ここでいう鉱物油は直鎖炭化水素(P)及び低粘度希釈剤(D)ではなく、不揮発分に含まれる。鉱物油としては、特に限定はないが、マシン油、スピンドル油、流動パラフィン等を挙げることができる。鉱物油は、1種又は2種以上を使用してもよい。鉱物油の30℃における粘度は、100~500秒が好ましい。
【0037】
平滑成分(L)としては、長期間保管により給油ラインを閉塞させない観点から、触媒等を除去して精製したものを用いることが好ましい。
【0038】
[ノニオン界面活性剤(N)]
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液は、原糸に油膜強度、集束性を与え、製糸性を向上させる点から、上記の平滑成分(L)に加え、ノニオン界面活性剤(N)を必須に含有する。なお、ノニオン界面活性剤(N)は、前記の平滑成分(L)を除くものいう。ノニオン界面活性剤(N)は、1種又は2種以上を使用してもよい。
【0039】
ノニオン界面活性剤(N)は、ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル、ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種である。
【0040】
(ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル)
ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテルとは、多価アルコールに対して、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドが付加した構造を持つ化合物である。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ショ糖等が挙げられる。これらのなかでもグリセリン、トリメチロールプロパン、ショ糖、が好ましい。
【0041】
アルキレンオキシドの付加モル数としては、3~100が好ましく、4~70がより好ましく、5~50がさらに好ましい。また、アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテルの重量平均分子量は、300~10000が好ましく、400~8000がより好ましく、500~5000がさらに好ましい。該分子量が300未満の場合、毛羽の発生を低減できないことがある。一方、該分子量が10000を超えると、処理剤の摩擦が高くなり、毛羽の発生を低減できないばかりか、かえって悪化することがある。
【0042】
ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテルとしては、ポリエチレングリコール、グリセリンエチレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ジグリセリンエチレンオキシド付加物、ソルビタンエチレンオキシド付加物、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ソルビトールエチレンオキシド付加物、ソルビトールエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ジトリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ショ糖エチレンオキシド付加物等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0043】
(ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル)
ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステルは、多価アルコールに対して、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドが付加した化合物と、脂肪酸とがエステル結合した構造を持つ化合物である。
多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ショ糖等が挙げられる。これらのなかでも、グリセリン、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトールが好ましい。
【0044】
脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、イソドコサン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、イソテトラコサン酸等が挙げられる。
【0045】
アルキレンオキシドの付加モル数としては、3~100が好ましく、5~70がより好ましく、10~50がさらに好ましい。また、アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステルの重量平均分子量は、300~7000が好ましく、500~5000がより好ましく、700~3000がさらに好ましい。該分子量が300未満の場合、熱処理工程で発煙が発生し、環境を悪化する場合がある。また、毛羽の発生を低減できないことがある。一方、該分子量が7000を超えると、処理剤の摩擦が高くなり、毛羽の発生を低減できないばかりか、かえって悪化することがある。
【0046】
ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステルとしては、グリセリンエチレンオキシド付加物モノラウレート、グリセリンエチレンオキシド付加物ジラウレート、グリセリンエチレンオキシド付加物トリラウレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物トリラウレート、ソルビタンエチレンオキシド付加物モノオレエート、ソルビタンエチレンオキシド付加物ジオレエート、ソルビタンエチレンオキシド付加物トリオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物モノオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物ジオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物トリオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物トリラウレート、ショ糖エチレンオキシド付加物トリラウレート等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0047】
(ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル)
ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテルとは、脂肪族一価アルコールに対し、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加した構造を持つ化合物である。
ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテルとしては、例えば、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。
アルキレンオキシドの付加モル数としては、1~100モルが好ましく、2~70モルがより好ましく、3~50モルがさらに好ましい。また、アルキレンオキシド全体に対するエチレンンオキシドの割合は、20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましい。
【0048】
(ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル)
ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステルとはポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールと、脂肪酸とがエステル結合した構造を持つ化合物である。ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、100~1000が好ましく、150~800がより好ましく、200~700がさらに好ましい。
【0049】
ポリアルキレングリコール脂肪酸エステルとしては、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールジオレエート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノラウレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールジラウレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノオレエート、ポリエチレンポリプロピレングリコールジオレエート等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0050】
(多価アルコール脂肪酸エステル)
多価アルコール脂肪酸エステルは、多価アルコールと脂肪酸がエステル結合した構造を持つ化合物であり、上記の平滑成分(L)を除く化合物である。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ショ糖等が挙げられる。これらのなかでも、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトールが好ましい。
【0051】
脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソイコサン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、イソドコサン酸、エルカ酸、リグノセリン酸等が挙げられる。
【0052】
また該多価アルコール脂肪酸エステルは、少なくとも1つ又は2つ以上の水酸基を有する。
多価アルコール脂肪酸エステルの重量平均分子量は、100~1000が好ましく、200~800がより好ましく、300~600がさらに好ましい。
【0053】
脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノラウレート、グリセリンジラウレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンジオレエート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート、ショ糖モノラウレート、ショ糖ジラウレート、等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0054】
ノニオン界面活性剤(N)としては、耐熱性向上の観点から、触媒等を除去して精製したものを用いることが好ましい。
【0055】
[油膜強化剤(H)]
油膜強化剤(H)は、ノニオンポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル(以下、ポリヒドロキシエステルということがある)及びポリヒドロキシエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルから選ばれる少なくとも1種である。油膜強化剤(H)は、平滑剤(L)及びノニオン界面活性剤(N)には含まれない。
【0056】
(ポリヒドロキシエステル、ポリヒドロキシエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル)
ポリヒドロキシエステルは、構造上、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステルであり、多価アルコールの水酸基のうち、2個以上の水酸基がエステル化されていることが好ましい。したがって、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルは、複数の水酸基を有するエステルである。
【0057】
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸の炭化水素基に酸素原子を介してポリオキシアルキレン基が結合した構造を有し、ポリオキシアルキレン基の脂肪酸の炭化水素基と結合していない片末端が水酸基となっている。
ポリヒドロキシエステルとしては、例えば、炭素数6~22(好ましくは16~20)のヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステル化物のアルキレンオキシド付加物を挙げることができる。
【0058】
炭素数6~22のヒドロキシ脂肪酸としては、例えば、ヒドロキシカプリル酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリン酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸挙げられ、ヒドロキシオクタデカン酸、リシノール酸が好ましい。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、グリセリンが好ましい。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2~4のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0059】
アルキレンオキシドの付加モル数は、3~60が好ましく、8~50がさらに好ましい。アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
2種類以上のアルキレンオキシドを付加する場合、それらの付加順序は特に限定されるものでなく、付加形態はブロック状、ランダム状のいずれでもよい。アルキレンオキシドの付加は公知の方法により行うことができるが、塩基性触媒の存在下にて行うことが一般的である。
【0060】
ポリヒドロキシエステルは、例えば、多価アルコールとヒドロキシ脂肪酸(ヒドロキシモノカルボン酸)を通常の条件でエステル化してエステル化物を得て、次いでこのエステル化物にアルキレンオキシドを付加反応させることによって製造できる。ポリヒドロキシエステルは、ヒマシ油などの天然から得られる油脂やこれに水素を添加した硬化ヒマシ油を用い、さらにアルキレンオキシドを付加反応させることによっても、好適に製造できる。
【0061】
上述のポリヒドロキシエステルの少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルである。封鎖する脂肪酸の炭素数は6~24が好ましく、12~18がさらに好ましい。脂肪酸中の炭化水素基の炭素数は分布があってもよく、炭化水素基は直鎖状であっても分岐を有していてもよく、飽和であっても不飽和であってもよく、多環構造を有していてもよい。このような脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エイコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。エステル化の方法、反応条件等については特に限定はなく、公知の方法、通常の条件を採用できる。
【0062】
ポリヒドロキシエステル及びポリヒドロキシエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルとしては、例えば、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物、POE(20)硬化ヒマシ油、ヒマシ油エチレンオキシド付加物、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物モノオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物ジオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリオレエート、POE(20)硬化ヒマシ油トリオレエート、ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリステアレート、ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリステアレート、POE(20)硬化ヒマシ油トリステアレート、これらのなかでも処理剤の相溶性、油膜強度、毛羽減少の点から、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリステアレートが好ましい。
油膜強化剤(H)は、本願効果を奏する観点から、硬化ヒマシ油のエチレンオキシド付加物とジカルボン酸の縮合物であると好ましい。
【0063】
[有機スルホン酸塩(AS)]
有機スルホン酸塩(AS)としては、芳香族スルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩が挙げられる。
【0064】
芳香族スルホン酸塩としては、トルエンスルホン酸ナトリウム、エチルベンゼンスルホン酸カリウム、プロピルベンゼンスルホン酸リチウム、ブチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ヘキシルベンゼンスルホン酸カリウム、オクチルベンゼンスルホン酸リチウム、ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ノニルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、デシルベンゼンスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸カリウム等が挙げられる。これらの中でもトルエンスルホン酸ナトリウム、ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ノニルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム等分子中に炭素数1~12のアルキル基を有する芳香族スルホン酸塩が好ましい。
【0065】
脂肪族スルホン酸塩としては、特に制限はなく、例えば、アルカンスルホネートナトリウム、1-オクチルスルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸カリウム、1-ラウリルスルホン酸ナトリウム、1-ミリスチルスルホン酸ナトリウム、1-セチルスルホン酸カリウム、1-ステアリルスルホン酸ナトリウム、イソオクチルスルホン酸ナトリウム、イソデカンスルホン酸ナトリウム、イソラウリルスルホン酸ナトリウム、イソミリスチリルスルホン酸ナトリウム、イソセチルスルホン酸ナトリウム、イソステアリルスルホン酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸カリウム、ジ2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジノニルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。これらの成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも下記の化7で示される化合物及び下記の化8で示される化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するものが好ましい。これらの化合物を使用することにより、本発明の効果をより向上、特に製糸工程において発生するタール汚れ、白粉汚れをより低減することができる。
【0066】
[有機燐酸塩(AP)]
有機燐酸塩(AP)としては、特に限定されないが、POE(8)オレイルホスフェートアルキルアミノエーテル塩、イソセチルホスフェートPOEアルキルアミノエーテル塩、オレイルホスフェートジブチルエタノールアミン塩、イソセチルホスフェート・POE(10)ラウリルアミノエーテル塩、イソセチルホスフェート・POE(10)ラウリルアミノエーテル塩、イソセチルホスフェート・POE(10)ステアリルアミノエーテル塩、トリデシルホスフェート・POE(3)ラウリルアミノエーテル塩、POE(8)オレイルエーテルホスフェート・POE(2)ラウリルアミノエーテル塩等が挙げられる。
なお、POE(8)とは、ポリオキシエチレン8モル付加を意味する。
【0067】
[有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)]
有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)は、有機アミンにエチレンオキシドが付加した構造を有する化合物である。
有機アミンとしては、1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等の、脂肪族アミン化合物、2)モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の、アルカノールアミン化合物、3)N,N-ビス(ヒドロキシエチル)ブチルアミン、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)オクチルアミン、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)ラウリルアミン等の、脂肪族アルカノールアミン化合物、が挙げられる。
エチレンオキシドの付加モル数は、本願効果を奏する観点から、1~40が好ましく、2~30がより好ましく、3~20がさらに好ましい。
有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)の具体例としては、POE(10)ラウリルアミノエーテル、POE(15)オレイルアミノエーテル、POE(10)牛脂アルキルアミノエーテル、POE(10)牛脂アルキルアミノエーテル・オレイン酸塩等が挙げられる。
【0068】
[低粘度希釈剤(D)]
低粘度希釈剤(D)としては、特に制限はなく、例えば、有機溶剤、水等が挙げられる。低粘度希釈剤(D)は、直鎖炭化水素(P)を含まない。
有機溶剤の具体例としては、ヘキサン、エタノール、イソプロパノール、オレイルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチルエーテル、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、クロロホルム、グリセリン等が挙げられる。
【0069】
[酸化防止剤(E)]
酸化防止剤(E)としては、特に限定はないが、本願効果を奏する観点から、有機酸化防止剤が好ましい。有機酸化防止剤としては、トリオクタデシルフォスファイト、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、ジオレイル-チオジプロピオネート、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。中でも本願効果を奏する観点から、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、各フェノール基におけるターシャリーブチル基が1以下、カルボニル基が1以上を有するとより好ましい。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、たとえば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,4-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,4-ジ-t-アミル-6-〔1-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニルアクリレート、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)]アクリレート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、3,9-ビス[2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピニロキシ]-1,1-ジメチレニル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール等を挙げることができる。
これらのヒンダードフェノール系酸化防止剤は1種または2種以上を併用してもよい。
【0070】
〔合成繊維用処理剤の希釈液の製造方法〕
平滑剤(L)及びノニオン界面活性剤(N)から選ばれる少なくとも1種と酸化防止剤(E)とを混合し、60℃~150℃で攪拌して、前記酸化防止剤(E)を溶解させたあと、10~100℃に冷却して溶解液を得る。溶解液及び、平滑剤(L)、ノニオン界面活性剤(N)、油膜強化剤(H)、有機スルホン酸塩(AS)、有機燐酸塩(AP)、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)及び低粘度希釈剤(D)から選ばれる1つ以上をすべて混合する。混合液に直鎖炭化水素(P)を加え、混合する。混合液を30~100℃で1時間以上攪拌した後、10時間以上静置してから、下記濾過条件にて濾過して最終処理剤液を得る。
濾過条件
濾紙:坪量300~400、厚さ0.5~1、透気度100~150、濾過精度1~5μm
濾過助剤:珪藻土
濾紙の珪藻土の厚さ:5~20cm
【0071】
平滑剤(L)、ノニオン界面活性剤(N)、油膜強化剤(H)、有機スルホン酸塩(AS)、有機燐酸塩(AP)、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)、低粘度希釈剤(D)直鎖炭化水素(P)は、〔合成繊維用処理剤の希釈液〕で記載したものと同じものを使用できる。
【0072】
〔合成繊維用処理剤の希釈液〕
本発明の『合成繊維用処理剤の希釈液』の合成繊維用処理剤とは、直鎖炭化水素(P)以外の成分を意味し、直鎖炭化水素(P)以外の成分としては、平滑剤(L)、ノニオン界面活性剤(N)、油膜強化剤(H)、有機スルホン酸塩(AS)、有機燐酸塩(AP)、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)、低粘度希釈剤(D)及び酸化防止剤(E)等が挙げられる。『合成繊維用処理剤の希釈液』の希釈液とは、直鎖炭化水素(P)を含有するという意味である。
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液は、繊維処理時に直鎖炭化水素(P)等でさらに希釈することもできる。
【0073】
合成繊維用処理剤の希釈液に占める前記直鎖炭化水素(P)の重量割合は8~50重量%であり、10~40重量%が好ましく、12~30重量%がより好ましく、15~20重量%がより好ましい。8重量%未満または50重量%を超えると毛羽が増加する。
【0074】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液の高温曇点は、均一付着性の観点から、50℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。好ましい高温曇点の上限値は90℃である。
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液の低温曇点は、均一付着性の観点から、10℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましく、0℃以下がさらに好ましい。好ましい低温曇点の下限値は-10℃である。
【0075】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液の30℃での動粘度は、均一付着性及び給油装置からの処理剤の飛散性の観点から、10~100mm/sの範囲が好ましく、20~90mm/sがより好ましく、40~85mm/sがさらに好ましい。
【0076】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液は、ノズル詰まりによる観点から、処理剤の清浄度であるISO等級が17/16/14以下であると好ましく、15/14/12以下がより好ましく、14/13/11以下がさらに好ましく、13/11/9以下が特に好ましい。
ISO等級(4406:1999)とは、試料100mLに含まれる固体粒子をカウントすることにより、液体中の汚染物質粒子の分布状況を表すものである。実際のカウント数を使用すると表示する数値の範囲が大きくなるので、2の対数を使用した番号コードに変換して、汚染の程度を表す国際規格である。4μm以上の粒子数、6μm以上の粒子数、14μm以上の粒子数のカウント値に基づいてコードが算出される。
【0077】
合成繊維用処理剤の希釈液について、液中微粒子計測器(例えば、HACH ULTRA ANALYTICS社製、HIAC Royco 液中微粒子計測器 System 8011等)を用いて100mL当たりの汚染粒子数Cを求める。
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液は、本願効果を発揮する観点から、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下が好ましく、64000個以下がより好ましく、32000個以下がさらに好ましい。
【0078】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液に対する前記平滑剤(L)の重量割合は、本願効果を発揮する観点から、15~80重量%が好ましく、20~70重量%がより好ましく、25~60重量%がさらに好ましく、30~55重量%が特に好ましい。
【0079】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液に対する前記ノニオン界面活性剤(N)の重量割合は、本願効果を発揮する観点から、3~40重量%が好ましく、5~30重量%がより好ましく、7~25重量%がさらに好ましく、10~23重量%が特に好ましい。
【0080】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液に対する前記油膜強化剤(H)の重量割合は、本願効果を発揮する観点から、3~40重量%が好ましく、5~30重量%がより好ましく、7~25重量%がさらに好ましく、10~20重量%が特に好ましい。
【0081】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液に対する前記有機スルホン酸塩(AS)の重量割合は、本願効果を発揮する観点から、0.01~10重量%が好ましく、0.05~5重量%がより好ましく、0.1~3重量%がさらに好ましく、0.5~2重量%が特に好ましい。
【0082】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液に対する前記有機燐酸塩(AP)の重量割合は、本願効果を発揮する観点から、0.01~10重量%が好ましく、0.05~5重量%がより好ましく、0.1~3重量%がさらに好ましく、0.5~2重量%が特に好ましい。
【0083】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液に対する前記有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)の重量割合は、本願効果を発揮する観点から、0.01~10重量%が好ましく、0.05~5重量%がより好ましく、0.1~3重量%がさらに好ましく、0.5~2重量%が特に好ましい。
【0084】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液に対する前記酸化防止剤(E)の重量割合は、本願効果を発揮する観点から、0.01~10重量%が好ましく、0.05~5重量%がより好ましく、0.1~3重量%がさらに好ましく、0.5~2重量%が特に好ましい。
【0085】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液に対する前記低粘度希釈剤(D)の重量割合は、本願効果を発揮する観点から、0.01~10重量%が好ましく、0.1~5重量%がより好ましく、0.5~4重量%がさらに好ましく、1~3重量%が特に好ましい。
【0086】
[合成繊維フィラメント糸条の製造方法及び繊維構造物]
本発明の合成繊維フィラメント糸条の製造方法は、原料合成繊維フィラメント糸条に、本発明の合成繊維用処理剤の希釈液を付与する工程を含むものである。本発明の製造方法によれば、毛羽の発生を低減することができ、糸品位に優れた合成繊維フィラメント糸条を得ることができる。なお、本発明における原料合成繊維フィラメント糸条とは、合成繊維用処理剤の希釈液が付与されていない合成繊維フィラメント糸条をいう。
【0087】
合成繊維用処理剤の希釈液を付与する工程としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することできる。通常、原料合成繊維フィラメント糸条の紡糸工程で合成繊維用処理剤の希釈液を付与する。合成繊維用処理剤の希釈液が付与された後、熱ローラーにより延伸、熱セットが行われ、巻き取られる。このように、処理剤を付与した後、一旦巻き取れられることなく熱延伸する工程を有する場合に、本発明の合成繊維用処理剤の希釈液は好適に使用することができる。熱延伸する際の温度として一例をあげると、ポリエステル、ナイロンでは、産業資材用であれば190~260℃、衣料用であれば110~220℃が想定される。
【0088】
原料合成繊維フィラメント糸条に付与する際の合成繊維用処理剤の希釈液の付与方法としては、特に限定されるものではないが、ガイド給油、ローラー給油、ディップ給油、スプレー給油等が挙げられる。これらの中ででも、付与量の管理のしやすさから、ガイド給油、ローラー給油が好ましい。
【0089】
合成繊維用処理剤の不揮発分の付与量は、原料合成繊維フィラメント糸条に対して、0.05~5重量%が好ましく、0.1~3重量%がより好ましく、0.1~2重量%がさらに好ましい。0.05重量%未満の場合、本発明の効果を発揮することができない場合がある。一方、5重量%超の場合、処理剤の不揮発分が糸道に脱落しやすく、本発明の効果を発揮することができない場合がある。
【0090】
(原料)合成繊維フィラメント糸条としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等の合成繊維のフィラメント糸条が挙げられる。本発明の合成繊維用処理剤は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等の合成繊維に適している。ポリエステル繊維としては、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PET)、トリメチレンエチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PTT)、ブチレンエチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PBT)、乳酸を主たる構成単位とするポリエステル(PLA)等が挙げられ、ポリアミド繊維としては、ナイロン6、ナイロン66等が挙げられ、ポリオレフィン繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。合成繊維フィラメント糸条の製造方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。
【0091】
(繊維構造物)
本発明の繊維構造物は、上記の本発明の製造方法で得られた合成繊維フィラメント糸条を含むものである。具体的には、本発明の合成繊維用処理剤の希釈液が付与された合成繊維フィラメント糸条を用いてウォータージェット織機、エアジェット織機、または、レピア織機で織られた織物、および丸編み機、経編み機、または、緯編み機で編まれた編物である。また繊維構造物の用途としては、タイヤコード、シートベルト、エアバッグ、魚網、ロープ等の産業資材、衣料用等が挙げられる。織物、編物を製造する方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。
【実施例
【0092】
以下に、実施例により本発明を説明する、本発明はここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、文中及び表中の「%」は「重量%」を、意味する。
【0093】
[ISO等級(4406:1999)]
ISO等級(4406:1999)とは、試料100mLに含まれる固体粒子をカウントすることにより、液体中の汚染物質粒子の分布状況を表すものである。実際のカウント数を使用すると表示する数値の範囲が大きくなるので、2の対数を使用した番号コードに変換して、汚染の程度を表す国際規格である。4μm以上の粒子数、6μm以上の粒子数、14μm以上の粒子数のカウント値に基づいてコードが算出される。
合成繊維用処理剤の希釈液について、液中微粒子計測器(例えば、HACH ULTRA ANALYTICS社製、HIAC Royco 液中微粒子計測器 System 8011等)を用いて100mL当たりの汚染粒子数Cを求めた。
【0094】
[高温曇点]
100mlのビーカーに試料(揮発分を含む)50gを入れ、電熱ヒーターにて徐々に加温し、液全体が曇るときの温度を高温曇点とした。
【0095】
[低温曇点]
100mlのビーカーに試料(揮発分を含む)50gを入れ、環境試験機に入れ、徐々に環境試験機内の温度を低下させ、液全体が曇るときの温度を低温曇点とした。
【0096】
表1~5中の各成分は次の通り。
L-1 パーム油
L-2 トリメチロールプロパン(トリパーム核脂肪酸エステル)
L-3 グリセリントリオレエート
L-4 チオジプロピオン酸ジオレエート
N-1 PEG600ジオレエート
N-2 POP(14)POE(12)ステアリルエーテル(ランダム)
N-3 POE(20)ソルビタントリオレエート
N-4 ポリグリセリンジオレエート(グリセリン縮合度1~6、平均2)
H-1 POE(20)硬化ヒマシ油
H-2 POE(20)硬化ヒマシ油トリオレエート
H-3 POE(20)硬化ヒマシ油エーテル2モルとマレイン酸1モルのエステルの末端水酸基をステアリン酸で封鎖した化合物
H-4 POE(25)硬化ヒマシ油エーテル2モルとマレイン酸1モルのエステルの末端水酸基をステアリン酸で封鎖した化合物
AS-1 アルカンスルホネートナトリウム
AS-2 ジ(2-エチルヘキシル)スルホサクシネート
AP-1 イソセチルホスフェート・POE(10)ラウリルアミノエーテル塩
AP-2 イソセチルホスフェート・POE(10)ステアリルアミノエーテル塩
AP-3 POE(8)オレイルエーテルホスフェート・POE(2)ラウリルアミノエーテル塩
RA-1 POE(10)ラウリルアミノエーテル
RA-2 POE(15)オレイルアミノエーテル
E-1 1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸
D-1 エチレングリコール
D-2 グリセリン
D-3 オレイルアルコール
D-4 水
P-1 ノルマルウンデカン
P-2 ノルマルドデカン
P-3 ノルマルトリデカン
P-4 ノルマルテトラデカン
POE(n)は、エチレンオキシドの付加モル数を示す。
PEGは、ポリエチレングリコールを示す。表中のP-3/P-4は、炭素数13の直鎖炭化水素の重量%/炭素数14の直鎖炭化水素の重量%を示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
【表5】
【0102】
(実施例1)
平滑剤(L)としてパーム油 30重量部、トリメチロールプロパン(トリパーム核脂肪酸エステル) 27重量部、チオジプロピオン酸ジオレエート 2重量部、酸化防止剤(E)として1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸 1重量部とを混合し、110℃で1時間攪拌し、前記酸化防止剤(E)の溶解を確認し、40℃まで冷却して溶解液を得た。溶解液に、ノニオン界面活性剤(N)としてPEG600ジオレエート 15重量部、油膜強化剤(H)としてPOE(20)硬化ヒマシ油 5重量部、POE(20)硬化ヒマシ油トリオレエート 10重量部、POE(20)硬化ヒマシ油エーテル2モルとマレイン酸1モルのエステルの末端水酸基をステアリン酸で封鎖した化合物 5重量部、有機スルホン酸塩(AS)としてアルカンスルホネートナトリウム 2重量部、有機燐酸塩(AP)としてイソセチルホスフェート・POE(10)ラウリルアミノエーテル塩 2重量部、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)としてPOE(10)ラウリルアミノエーテル 1重量部、低粘度希釈剤(D)としてエチレングリコール 2重量部、水 1重量部を加え、混合した。混合液に、直鎖の炭化水素(P)としてノルマルトリデカン 6重量部、ノルマルテトラデカン 3重量部を加え、混合した。混合液を30~100℃で1時間以上攪拌した後、10時間以上静置してから、下記濾過条件にて濾過して合成繊維用処理剤の希釈液を得た。
濾過条件
濾紙:坪量300~400、厚さ0.5~1、透気度100~150、濾過精度1~5μm
濾過助剤:珪藻土
濾紙の珪藻土の厚さ:5~20cm
【0103】
[合成繊維用処理剤の希釈液の30℃における動粘度]
合成繊維用処理剤の希釈液の動粘度の測定は、キャノンフェンスケ粘度計に試料を10g入れ、30±0.1℃に温度調節した恒温槽中に15分間保持する。その後、試料が粘度計の標線間を通過する流出時間(秒)を測定し、粘度計係数を乗じた値を動粘度とした。
合成繊維用処理剤の希釈液の動粘度μ=f×t
{factor:1.3043、流出時間:t[sec]}
実施例2~20、比較例1~6においても、同様の方法で処理剤の希釈液の動粘度を測定した。
【0104】
(毛羽)
溶融紡糸工程において、ポリエステルポリマーを溶融紡糸、冷却固化した糸条に対して、上記で調製した処理剤の希釈液を、不揮発分の付与量が0.6重量%となるよう付与した。付与方法は、ノズル給油法を用いて実施した。
処理剤が付与された8本の糸条を、8~10mmの間隔を保ってホットローラに巻き付け、一旦巻き取ること無く連続して延伸され、250℃のホットローラを介し、5.1倍に延伸し、1100dtex、96フィラメントのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを得た。延伸、熱セットされた糸条は巻き上げられるが、巻き上げ直前に糸条にインターレースをかけ、フィラメント相互を集束させた。インターレースは高圧の流体、例えば、高圧空気を、ノズルを通して噴きつけることによって行った。毛羽について、下記の条件で評価した。
毛羽:各処理剤付着糸を毛羽カウンターで毛羽数をチェックし、百万m当たりの値が1個より少ない場合を◎とし、2個より少ない場合を○とし、2個以上を×とした。◎及び○を合格とした。
【0105】
表2~4からわかるように、本願発明の合成繊維用処理剤の希釈液は、平滑剤(L)、ノニオン界面活性剤(N)及び炭素数11~14の直鎖炭化水素(P)を必須で含み、油膜強化剤(H)、有機スルホン酸塩(AS)、有機燐酸塩(AP)、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)、低粘度希釈剤(D)及び酸化防止剤(E)から選ばれる少なくとも1種を含む合成繊維用処理剤であって、前記直鎖炭化水素(P)が炭素数13の直鎖炭化水素及び炭素数14の直鎖炭化水素を必須で含み、前記直鎖炭化水素(P)が炭素数11の直鎖炭化水素及び/又は炭素数12の直鎖炭化水素を任意で含み、上記式(1)を満たし、合成繊維用処理剤の希釈液に占める前記直鎖炭化水素(P)の重量割合が8~50重量%であるため、本願課題を解決できている。
特に、濾過工程を有し、ISO等級が優れる場合には、毛羽評価が非常に良好である。
一方、表5からわかるように、処理剤に占める前記直前記直鎖炭化水素(P)の重量割合が8%未満である場合(比較例1)、上記式(1)を満たさない場合(比較例2及び3)、ノルマルトリデカン及びノルマルテトラデカンを含まない場合処理剤に占める前記前記直鎖炭化水素(P)の重量割合が50重量%を超える場合(比較例5)、本願課題が解決できていない。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の合成繊維用処理剤の希釈液は、長期間保管しても、給油ラインを閉塞させることなく、安定して合成繊維を生産できるので、ターポリン、タイヤコード、シートベルト、エアバッグ、魚網、ロープ、スリング等の産業資材、織物や編み物等の衣料用等に用いられる合成繊維フィラメント糸条に好適である。
【要約】
毛羽を低減できる合成繊維用処理剤の希釈液を提供する。
平滑剤(L)、ノニオン界面活性剤(N)及び炭素数11~14の直鎖炭化水素(P)を必須で含み、油膜強化剤(H)、有機スルホン酸塩(AS)、有機燐酸塩(AP)、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)、低粘度希釈剤(D)及び酸化防止剤(E)から選ばれる少なくとも1種を含む合成繊維用処理剤の希釈液であって、前記直鎖炭化水素(P)が炭素数13の直鎖炭化水素及び炭素数14の直鎖炭化水素を必須で含み、前記直鎖炭化水素(P)が炭素数11の直鎖炭化水素及び/又は炭素数12の直鎖炭化水素を任意で含み、下記式(1)を満たし、合成繊維用処理剤の希釈液に占める前記直鎖炭化水素(P)の重量割合が8~50重量%である、合成繊維用処理剤の希釈液。
1<炭素数13の直鎖炭化水素の重量%/炭素数14の直鎖炭化水素の重量%<10 (1)