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特許7135246インホイールモータ駆動装置およびそれを備える車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】インホイールモータ駆動装置およびそれを備える車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 7/00 20060101AFI20220906BHJP
   B60K 17/14 20060101ALI20220906BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20220906BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20220906BHJP
   F16H 13/08 20060101ALI20220906BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20220906BHJP
   H02K 7/14 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B60K7/00
B60K17/14
B60L15/20 J
F16H1/28
F16H13/08 G
H02K7/116
H02K7/14 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018104415
(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2019209703
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】日本電産シンポ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】岡村 暉久夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 仁
【審査官】岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-329817(JP,A)
【文献】特開2005-178663(JP,A)
【文献】特開平06-189415(JP,A)
【文献】特開2012-244767(JP,A)
【文献】特開平05-162541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00- 6/12, 7/00- 8/00,16/00,
17/10-17/26
B60L 1/00- 3/12, 7/00-13/00,
15/00-58/40
F16H 1/28- 1/48,13/00-15/56
H02K 7/00- 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板部と、当該円板部の中央部から軸方向に突出する回転軸と、を有するハブと、
前記円板部の外周部に固定され、外周面にタイヤが取り付けられるリムと、
により包囲される空間に配置されるインホイールモータ駆動装置であって、
前記回転軸と同軸上に配置される第1電動機と、
前記第1電動機と軸方向に並んで配置され、前記第1電動機とは異なる速度領域の回転を出力可能とする第2電動機と、
前記第1電動機の径方向内側に、前記回転軸と同軸上に配置され、前記第1電動機からの回転速度を減速する減速機と、
を備え、
前記第1電動機からの動力が前記減速機を介して前記回転軸に伝達される第1速状態、および、前記第2電動機からの動力が前記回転軸に伝達される第2速状態、の間で切り替え可能であり、
前記第1速状態および前記第2速状態の間で切り替え可能なクラッチ機構を備え、
前記第1電動機は、アウターロータ型の第1ロータを有し、
前記第2電動機は、インナーロータ型の第2ロータを有し、
前記第2ロータが前記回転軸に結合され、
前記減速機の出力部材が、前記クラッチ機構を介して、前記回転軸に結合される、インホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
請求項に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記第1電動機および前記第2電動機を制御する制御器
を備え、
前記第1速状態および前記第2速状態の一方から、前記第1速状態および前記第2速状態の他方への切り替え時に、前記制御器が、前記減速機の前記出力部材の回転と、前記第2ロータの回転とを、同期させる、インホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
請求項に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記制御器は、
前記第1速状態においては、前記第2電動機への電力の供給を遮断し、
前記第2速状態においては、前記第1電動機への電力の供給を遮断する、インホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
請求項に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記第1速状態において前記第2電動機で行う第1発電と、
前記第2速状態において前記第1電動機で行う第2発電と、
の少なくとも一方を行う、インホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
請求項に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記第2電動機は、前記第1電動機よりも高速領域の回転を出力可能であり、
前記第1電動機は直流モータである、インホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
請求項に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記第1電動機はアキシャルギャップ型である、インホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
請求項に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記第2電動機は、前記第1電動機よりも高速領域の回転を出力可能であり、
前記第2電動機は交流モータである、インホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
請求項から請求項までのいずれか1項に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記クラッチ機構は、
前記減速機の前記出力部材から前記回転軸へは第1方向の回転を伝達可能にする一方、
前記回転軸から前記減速機の前記出力部材へは前記第1方向の回転を伝達不能にする、ワンウェイクラッチである、インホイールモータ駆動装置。
【請求項9】
請求項に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記第1ロータおよび前記第2ロータの一方が前記第1方向とは反対方向の第2方向に回転されると、前記回転軸が前記第2方向に回転される、インホイールモータ駆動装置。
【請求項10】
請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記減速機は遊星機構からなる、インホイールモータ駆動装置。
【請求項11】
請求項10に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記第1電動機は、前記回転軸と同軸上に配置される回転子である第1ロータを有し、
前記第2電動機は、前記回転軸と同軸上に配置される回転子である第2ロータを有し、
前記減速機は、
前記回転軸と同軸上に配置され、前記第1ロータと一体的に回転する太陽歯車と、
前記太陽歯車に径方向外側から噛み合う複数の遊星歯車と、
前記回転軸と同軸上に配置され、前記複数の遊星歯車に径方向外側から噛み合う軌道内歯歯車と、
前記回転軸と同軸上に配置され、前記複数の遊星歯車を回転可能に指示する複数の支持軸を、周方向に公転可能に支持するキャリアと、
を備える遊星歯車式であり、
前記第2ロータが前記回転軸に結合され、
前記キャリアが、前記クラッチ機構を介して、前記回転軸に結合される、インホイールモータ駆動装置。
【請求項12】
請求項10に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記第1電動機は、前記回転軸と同軸上に配置される回転子である第1ロータを有し、
前記第2電動機は、前記回転軸と同軸上に配置される回転子である第2ロータを有し、
前記減速機は、
前記回転軸と同軸上に配置され、前記第1ロータと一体的に回転する太陽ローラと、
前記太陽ローラの径方向外側に配置され、当該太陽ローラに接触する複数の遊星ローラと、
前記回転軸と同軸上に配置され、前記複数の遊星ローラに径方向外側から接触する軌道リングと、
前記回転軸と同軸上に配置され、前記複数の遊星ローラを回転可能に支持する複数の支持軸を、周方向に公転可能に支持するキャリアと、
前記太陽ローラを前記遊星ローラに押し付けるとともに、前記遊星ローラを前記軌道リングに押し付ける押圧力を付与する押圧部材と、
を備える遊星摩擦式であり、
前記第2ロータが前記回転軸に結合され、
前記キャリアが、前記クラッチ機構を介して、前記回転軸に結合される、インホイールモータ駆動装置。
【請求項13】
請求項12に記載のインホイールモータ駆動装置であって、
前記太陽ローラは、
前記複数の遊星ローラに軸方向の一方側から接触する第1の太陽ローラと、
前記第1の太陽ローラと対をなし、前記複数の遊星ローラに軸方向の他方側から接触する第2の太陽ローラと、
を有し、
前記押圧部材は、前記回転軸を中心とする回転トルクを利用して、前記第2の太陽ローラを前記第1の太陽ローラに近づける方向に付勢する付勢力を発生させる調圧カムを含む、インホイールモータ駆動装置。
【請求項14】
請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載のインホイールモータ駆動装置を走行部に備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インホイールモータ駆動装置およびそれを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の車輪の近傍に配置され、当該車輪を直接的に回転駆動する、インホイールモータ駆動装置が知られている。この種のインホイールモータ駆動装置は、例えば特開2013-44424号公報に開示されている。
【0003】
特開2013-44424号公報に記載のインホイールモータは、第1モータと、第2モータと、変速機構と、減速機構とを含む。そして、第1モータと第2モータとは、回転力の大きさが等しく、かつ回転力の向きが反対になる第1変速状態と、回転力の大きさと回転力の向きとが等しくなる第2変速状態とを切り替えて運転できる、としている。特開2013-44424号公報に記載のインホイールモータによれば、第1モータおよび第2モータを速度制御することで、広い速度領域に対応できると考えられる。
【文献】特開2013-44424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特開2013-44424号公報に記載のインホイールモータは、車輪の外側に大きく突出してしまうほど大型であり、しかも重量も大きいと考えられる(特開2013-44424号公報の図6-1)。インホイールモータを搭載する車両において、より効率的な走行を可能とするために、インホイールモータを小型化・軽量化することが望まれていた。インホイールモータをより小型化・軽量化できれば、省エネに寄与することができ、車両の車載空間を拡大できるとともに、車両の外観や乗り心地を向上できる、という付随的な効果も期待できる。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その潜在的な目的は、インホイールモータ駆動装置を小型化できるとともに、インホイールモータ駆動装置を搭載する車両を、広い速度領域において効率よく走行させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本願の観点においては、以下の構成のインホイールモータ駆動装置が提供される。即ち、このインホイールモータ駆動装置は、ハブと、リムと、により包囲される空間に配置される。前記ハブは、円板部と、当該円板部の中央部から軸方向に突出する回転軸と、を有する。前記リムは、前記円板部の外周部に固定され、外周面にタイヤが取り付けられる。このインホイールモータ駆動装置は、第1電動機と、第2電動機と、減速機とを備える。前記第1電動機は、前記回転軸と同軸上に配置される。前記第2電動機は、前記第1電動機と軸方向に並んで配置され、前記第1電動機とは異なる速度領域の回転を出力可能とする。前記減速機は、前記第1電動機の径方向内側に、前記回転軸と同軸上に配置され、前記第1電動機からの回転速度を減速する。また、このインホイールモータ駆動装置においては、前記第1電動機からの動力が前記減速機を介して前記回転軸に伝達される第1速状態、および、前記第2電動機からの動力が前記回転軸に伝達される第2速状態、の間で切り替え可能である。インホイールモータ駆動装置は、前記第1速状態および前記第2速状態の間で切り替え可能なクラッチ機構を備える。前記第1電動機は、アウターロータ型の第1ロータを有する。前記第2電動機は、インナーロータ型の第2ロータを有する。前記第2ロータが前記回転軸に結合される。前記減速機の出力部材が、前記クラッチ機構を介して、前記回転軸に結合される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の観点によれば、インホイールモータ駆動装置を小型化できるとともに、インホイールモータ駆動装置を搭載する車両を、広い速度領域において効率よく走行させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態に係るインホイールモータ駆動装置の構成を示す縦断面図である。
図2図2は、第1実施形態に係るインホイールモータ駆動装置に備えられるクラッチ機構の構成を示す図である。図中の矢印は、第1方向を示している。
図3図3は、第2実施形態に係るインホイールモータ駆動装置の構成を示す縦断面図である。
図4図4は、第2実施形態に係るインホイールモータ駆動装置に備えられる減速機の構成を示す側面図である。図中の左半部は、キャリアを破断したときの様子を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、車両の前後進する方向を「前後方向」と、当該車両の左右の車輪を接続する車軸に平行な方向を「軸方向」または「左右方向」と、前後方向および左右方向に対して垂直な方向を「上下方向」と、車軸を中心とする回転方向を「周方向」と、軸方向に垂直な方向を「径方向」と、それぞれ称して説明を行う。
【0011】
<1.第1実施形態>
<1-1.インホイールモータ駆動装置の概略的な構成>
以下では、図1を参照して、第1実施形態に係るインホイールモータ駆動装置100およびそれを備える車両について説明する。初めに、車両、および当該車両に搭載されるインホイールモータ駆動装置100の全体的な構成について説明する。図1は、本実施形態に係るインホイールモータ駆動装置100の正面縦断面図である。
【0012】
本実施形態に係るインホイールモータ駆動装置100は、ドライバーが搭乗して運転操作する車両に搭載される。インホイールモータ駆動装置100は、車両の車輪の径方向内側に配置され、当該車輪を直接的に回転駆動する。具体的には、本実施形態のインホイールモータ駆動装置100は、車両の左右の後輪にそれぞれ搭載される。車両は、左右の後輪にインホイールモータ駆動装置100が搭載されてそれぞれが適宜に駆動されることにより、幅広い速度領域において直進走行および旋回走行可能となっている。
【0013】
左右の後輪に搭載されるインホイールモータ駆動装置100は、それぞれ同様の構成であるので、以下では、左の後輪に搭載されるインホイールモータ駆動装置100についてのみ説明する。
【0014】
図1に示すように、インホイールモータ駆動装置100は、後輪のハブ(円板部2a)2と、リム3と、により包囲される円柱状の空間に配置される。後輪のハブ2は、円板部2aと、当該円板部2aの中央部から軸方向に突出する回転軸2bと、を有する。後輪のリム3は、ハブ2の円板部2aの外周部に固定されるリング状の部材であり、外周面(径方向外側)にタイヤ4が取り付けられる。
【0015】
インホイールモータ駆動装置100は、概してハブ2の回転軸2bを取り囲むように搭載される。図1に示すように、インホイールモータ駆動装置100は、第1電動機10と、第2電動機20と、減速機30と、クラッチ機構40と、筐体50と、制御器70とを備える。第1電動機10と、第2電動機20と、減速機30と、クラッチ機構40とは、筐体50の内部に収容される。
【0016】
第1電動機10は、左の後輪(車輪)を回転させるために、速度領域に応じて選択的に用いられる駆動源である。本実施形態の第1電動機10は、第1ステータ(固定子)の径方向外側に第1ロータ(回転子)11のマグネット12が配置された、いわゆるアウターロータ型のモータである。第1電動機10の第1ステータは、後述する軌道内歯歯車33を介して、筐体50の内周面に支持される。第1電動機10で発生された回転は、後述する減速機30を介して、回転軸2bに伝達可能である。回転軸2bが第1電動機10からの動力により回転することで、左の後輪が第1速状態で回転駆動される。本実施形態の第1電動機10は、低速領域の回転を出力可能な、直流モータである。本実施形態では、第1電動機10に供給される電力量が後述する制御器70で制御されることにより、当該第1電動機10で発生される回転が低速領域で無段階に変速される。
【0017】
第1ロータ11は、マグネット12と一体的に回転する円筒部13を備える。円筒部13は、マグネット12、第1ステータ、および減速機30よりも径方向内側に配置される。円筒部13の径方向内側には、ハブ2の回転軸2bが同軸で配置される。円筒部13と回転軸2bとの間には、ニードルベアリングが介在する。したがって、円筒部13は回転軸2bに対して相対回転可能である。
【0018】
第2電動機20は、左の後輪を回転させるために、速度領域に応じて選択的に用いられる駆動源である。図1に示すように、第2電動機20は、第1電動機10と軸方向に並んで配置される。本実施形態の第2電動機20は、円筒状の第2ステータ(固定子)の径方向内側に第2ロータ(回転子)21が配置された、いわゆるインナーロータ型のモータである。図1に示すように、第2電動機20の第2ステータの外周面は、筐体50の内周面に固定される。第2電動機20で発生された回転は、回転軸2bに伝達する。回転軸2bが第2電動機20からの動力により回転することで、左の後輪が第2速状態で回転駆動される。本実施形態の第2電動機20は、第1電動機10よりも高速領域の回転を出力可能な、交流モータである。本実施形態では、第2電動機20に供給される電力量が後述する制御器70で制御されることにより、当該第2電動機20で発生される回転が高速領域で無段階に変速される。
【0019】
第2ロータ21は、ハブ2の回転軸2bを同軸上で取り囲むカップ状の出力伝達部材23を備える。カップ状の出力伝達部材23の底部(閉塞部)の中央部には、貫通孔が形成されている。また、当該貫通孔には、キー部材とともに回転軸2bが圧入されている。したがって、回転軸2bは出力伝達部材23と一体となって回転する。
【0020】
減速機30は、第1ロータ11(円筒部13)の回転を減速する機構である。減速後の第1ロータ11の回転は、クラッチ機構40および出力伝達部材23を介して、ハブ2の回転軸2bに伝達可能である。減速機30は、第1電動機10の径方向内側、より具体的には第1ステータと円筒部13との間に配置される。減速機30は、ハブ2の回転軸2bと同軸に配置される。減速機30は、最も後段側の部材としてキャリア(出力部材)39を備えている。減速機30で減速された動力は、クラッチ機構40の状態に応じて、キャリア39からクラッチ機構40へ、クラッチ機構40から出力伝達部材23へと、伝達可能である。減速機30の構成については、後に詳述する。
【0021】
クラッチ機構40は、第1電動機10からの動力が減速機30で減速(変化)された後にハブ2の回転軸2bに伝達される第1速状態、および、第2電動機20からの動力がハブ2の回転軸2bに伝達される第2速状態、の間で、動作状態を切り替えるための機構である。クラッチ機構40の構成については、後に詳述する。
【0022】
筐体50は、中空の概ね円筒状の部材である。筐体50は、車両のフレームに固定される。筐体50の空洞内には、第1電動機10、第2電動機20、および減速機30が同軸に配置される。また、筐体50の中央部には、軸方向に凹む長い穴部50aが設けられる。この穴部50aに、ハブ2の回転軸2bが、ベアリングを介して、相対回転可能に挿入される。
【0023】
制御器70は、第1電動機10および第2電動機20に供給する電力量を調整することにより、第1電動機10および第2電動機20を動作制御するコンピュータである。制御器70には、例えば、CPU等のプロセッサを備えた回路基板が用いられる。制御器70は、第1電動機10および第2電動機20と電気的に接続される。制御器70は、例えば後輪を含む車両の車体部分に搭載される。制御器70は、第1速状態においては、第1電動機10に電力を供給する一方、第2電動機20への電力の供給を遮断する。また、制御器70は、第2速状態においては、第2電動機20に電力を供給する一方、第1電動機10への電力の供給を遮断する。また、制御器70は、第1速状態および第2速状態の一方から、第1速状態および第2速状態の他方への切り替え時に、キャリア39の回転と出力伝達部材23(第2ロータ21)の回転とを同期させる。
【0024】
以上のような構成のインホイールモータ駆動装置100において、第1速状態では、第1ロータ11(円筒部13)から減速機30へ、減速機30(キャリア39)からクラッチ機構40へ、クラッチ機構40から出力伝達部材23へ、出力伝達部材23から回転軸2bへと、第1方向(前進方向)の低速領域の回転が伝達されて、後輪が低速で前進駆動される。一方、第2速状態では、第2ロータ21(出力伝達部材23)から回転軸2bへと、第1方向の高速領域の回転が伝達されて、後輪が高速で前進駆動される。さらに、本実施形態では、第3速状態(逆転駆動状態)において、第2ロータ21(出力伝達部材23)から回転軸2bへと、第1方向とは反対向きである第2方向(後進方向)の回転が伝達されて、後輪が後進駆動(バック)される。
【0025】
<1-2.減速機の詳細な構成>
以下では、図1を参照して、本実施形態のインホイールモータ駆動装置100が備える減速機30の構成について、詳細に説明する。
【0026】
本実施形態の減速機30は、歯車式の遊星機構を有する。具体的には、減速機30は、太陽歯車31と、複数の遊星歯車32と、軌道内歯歯車33と、キャリアピン35と、キャリア39とを主として備える。
【0027】
太陽歯車31は、外周面に外歯を有する略円筒状の部材である。太陽歯車31は、上述した円筒部13の外周面に結合される。太陽歯車31は、円筒部13(第1ロータ11)と一体的に回転する。
【0028】
複数の遊星歯車32は、太陽歯車31の周囲に配置される。遊星歯車32は、外歯を有する略円筒状の歯車である。遊星歯車32の外歯は、太陽歯車31の外歯に、径方向外側から噛み合う。本実施形態では、太陽歯車31の周囲に、複数の遊星歯車32が等間隔に配置されている。各遊星歯車32は、中央部にピン孔を有する。このピン孔には、キャリアピン35が挿入される。各遊星歯車32は、このキャリアピン35によって、回転自在に支持される。
【0029】
軌道内歯歯車33は、内周面に内歯を有するリング状の歯車である。軌道内歯歯車33は、回転軸2bと同軸に配置され、軌道内歯歯車33の内歯が複数の遊星歯車32の外歯に径方向外側から噛み合う。軌道内歯歯車33の外周面は、筐体50の内周面に固定される。また、軌道内歯歯車33の外周面に、第1ロータ11のステータが固定される。すなわち、軌道内歯歯車33は、遊星歯車機構の一部を構成する部材としての機能と、第1ロータ11のステータを支持する構造体としての機能と、を兼ねている。
【0030】
キャリア39は、複数のキャリアピン35を周方向に等間隔に支持する部材である。キャリア39は、回転軸2bと同軸上に配置される。キャリア39は、複数のキャリアピン35を、回転軸2bのまわりに回転可能に支持する。別の言い方をすれば、キャリア39は、複数のキャリアピン35を介して、複数の遊星歯車32を周方向に公転可能に支持する。
【0031】
本実施形態のインホイールモータ駆動装置100は、以上のような構成の遊星歯車式の減速機30を備えることにより、とりわけ大トルクを確実に伝達することができ、車両の発進時の力強い加速を可能としている。
【0032】
<1-3.クラッチ機構の詳細な構成>
以下では、図1および図2を参照して、本実施形態のインホイールモータ駆動装置100が備えるクラッチ機構40の構成について、詳細に説明する。図2は、本実施形態に係るクラッチ機構40の構成を示す側面図である。図2中の矢印は、第1方向を示している。
【0033】
本実施形態のクラッチ機構40は、スプラグ式のワンウェイクラッチである。具体的には、クラッチ機構40は、出力伝達部材23の底部の中央部から減速機側に延びる円筒部分を内輪とし、キャリア39の外周部分を外輪とし、当該内輪と外輪との間に複数のスプラグ41を有する、ベアリングである。クラッチ機構40は、外輪としてのキャリア39から、内輪としての出力伝達部材23へは、スプラグ41が外輪と内輪との間で突っ張った姿勢となることにより、第1方向の相対回転を伝達可能にする。一方で、クラッチ機構40は、内輪としての出力伝達部材23(第2ロータ21)から、外輪としてのキャリア39へは、スプラグ41が内輪と外輪との間で滑った姿勢となることにより、第1方向の相対回転を伝達不能にする。
【0034】
また、クラッチ機構40は、内輪としての出力伝達部材23(第2ロータ21)から、外輪としてのキャリア39へは、スプラグ41が内輪と外輪との間で突っ張った姿勢となることにより、上述の第2方向の相対回転を伝達可能にする。一方で、クラッチ機構40は、外輪としてのキャリア39から、内輪としての出力伝達部材23へは、スプラグ41が外輪と内輪との間で滑った姿勢となることにより、第2方向の相対回転を伝達不能にする。
【0035】
以上のような構成のインホイールモータ駆動装置100を後輪に搭載した車両において、車両を低速領域(0~Vkm/h)で駆動させる場合には第1電動機10を駆動源として用いる一方、車両を高速領域(Vkm/h以上)で駆動させる場合には第2電動機20を駆動源として用いることとしている。これにより、車両の走行速度が速い場合にも遅い場合にも、適切な方の電動機を走行用の駆動源として用いることにより、幅広い速度領域において効率のよい走行を実現できる。
【0036】
低速駆動(第1速状態)と高速駆動(第2速状態)との切り替えは、制御器70による単純な速度制御によって、クラッチ機構40を適宜に作動させることで、自動で行われる。
【0037】
以下では、走行速度領域に応じて、駆動源として用いる電動機10,20を滑らかに切り替えるために、制御器70が行う処理について、詳細に説明する。
【0038】
車両を低速で前進させる場合、制御器70は、ドライバーの運転操作に応じた量の電力を、第1電動機10に供給する。これにより、第1電動機10が適宜に駆動され、当該第1電動機10の第1ロータ11が第1方向に回転する。第1ロータ11(円筒部13)の回転は、減速機30で減速されて、当該減速機30の出力部材であるキャリア39が、減速後の速度で第1方向に回転する。すなわち、クラッチ機構40の外輪をなすキャリア39が第1方向に回転する。この際、クラッチ機構40のスプラグ41は外輪と内輪との間で突っ張った姿勢となっているので、キャリア39の第1方向の回転が、出力伝達部材23に伝達され、当該出力伝達部材23と一体となってハブ2の回転軸2bが回転する。この状態において、制御器70は、第2電動機20への電力を遮断した状態に維持する。すなわち、出力伝達部材23は、第2電動機20が駆動されることに伴って回転する訳ではなく、キャリア39とともに連れ回りする。これにより、第1速状態(低速駆動)が実現する。
【0039】
なお、本実施形態では、キャリア39が第1方向に回転したときに、これと連れ回りする出力伝達部材23に起因して、第2電動機20で発電(第1発電)が行われる。発電により得られた回生エネルギーは、車両の車体に搭載される蓄電器等に充電されて、その後の電動機10,20の駆動等に用いられる。これにより、エネルギーが有効活用される。
【0040】
その後、ドライバーの運転操作により、後輪の前進速度がVkm/hに到達した場合、制御器70は、第1電動機10に加えて、第2電動機20にも電力を供給し始める。制御器70は、第2電動機20への電力の供給量を徐々に増加させる。これにより、第2電動機20が駆動され、第2電動機20の出力回転数がキャリア39の回転数を上回ると、クラッチ機構40のスプラグ41が外輪と内輪との間で滑った姿勢となる。これにより、キャリア39の第1方向の回転が、出力伝達部材23に伝達されなくなる。別の言い方をすれば、第2電動機20の駆動に起因する第2ロータ21(出力伝達部材23)の回転のみが、ハブ2の回転軸2bに伝達される状態となる。この状態において、制御器70は、第1電動機10への電力を遮断する。
【0041】
その後、後輪の前進速度が加速される場合、制御器70は、ドライバーの運転操作に応じた量の電力を、第2電動機20に供給する。これにより、第2電動機20が適宜に駆動され、当該第2電動機20の第2ロータ21が第1方向に回転する。第2ロータ21(出力伝達部材23)の回転は、キャリア39の回転の影響を受けることなく、直接的にハブ2の回転軸2bに伝達される。これにより、第2速状態(高速駆動)が実現する。
【0042】
一方で、本実施形態において、車両を後進させる場合、制御器70は、ドライバーの運転操作に応じた量の電力を第2電動機20に供給する。これにより、第2電動機20が適宜に駆動され、当該第2電動機20の第2ロータ21(出力伝達部材23)が第2方向に回転する。出力伝達部材23の第2方向への回転は、直接的にハブ2の回転軸2bに伝達される。これにより、第3速状態(後進駆動)が実現する。
【0043】
なお、本実施形態では、出力伝達部材23が第2方向に回転したときに、これと連れ回りするキャリア39に起因して、第1電動機10で発電が行われる。発電により得られた回生エネルギーは、車体に搭載される充電器等に充電されて、有効に活用される。
【0044】
なお、車両の走行速度を高速領域から低速領域へと減速する場合においても、上記と同様に、切り替え時に制御器70が出力伝達部材23とキャリア39とを同期回転させることで、駆動源として用いる電動機を第2電動機20から第1電動機10へと滑らかに切り替えることができる。
【0045】
このように、本実施形態では、低速駆動および高速駆動の一方から、低速駆動および高速駆動の他方への切り替え時に、キャリア(出力部材)39と第2ロータ21とが同期回転されて、現在の速度領域に鑑みて適切な方の電動機10,20が駆動源として用いられる状態となるように、自動でかつ滑らかに切り替えることができる。よって、幅広い速度領域において、効率よく車両を走行させることができる。
【0046】
以上に示したように、本実施形態のインホイールモータ駆動装置100は、ハブ2(円板部2a)と、リム3と、により包囲される空間に配置される。このインホイールモータ駆動装置100は、同軸上に配置される第1電動機10および第2電動機20と、第1電動機10の径方向内側に配置される減速機30と、クラッチ機構40と、を備える。これにより、第1電動機10、第2電動機20、減速機30、およびクラッチ機構40を、ハブ2(円板部2a)とリム3とにより包囲される空間にコンパクトに収容することができる。したがって、このインホイールモータ駆動装置100を搭載する車両等の外観が損なわれることがない。また、車両の低速走行時と高速走行時とで、第1電動機10および第2電動機20のうちのいずれを用いて当該車両を駆動するかを切り替えることができる。これにより、車両の走行速度が速い場合にも遅い場合にも、効率よく走行させることが可能となる。また、インホイールモータ駆動装置100全体として、小型化・軽量化できるので、省エネ効果を期待できる。
【0047】
また、本実施形態のインホイールモータ駆動装置100においては、第1電動機10はアウターロータ型であり、第2電動機20はインナーロータ型である。そして、第2電動機20のロータである第2ロータ21の出力伝達部材23が、回転軸2bに結合される。第1電動機10のロータである第1ロータ11の回転を減速した後に出力するキャリア(出力部材)39は、クラッチ機構40および出力伝達部材23を介して、回転軸2bに結合される。これにより、第1ロータ11、第2ロータ21、およびクラッチ機構40等の、インホイールモータ駆動装置100を構成する各部を、省スペースで合理的にレイアウトすることができる。
【0048】
また、本実施形態のインホイールモータ駆動装置100においては、第1速状態および第2速状態の一方から、第1速状態および第2速状態の他方への切り替え時に、制御器70が、減速機30のキャリア(出力部材)39の回転と第2ロータ21の回転とを同期させる。これにより、インホイールモータ駆動装置100を搭載する車両等において、高速走行と低速走行との切り替えを滑らかに行うことが可能となる。
【0049】
また、本実施形態のインホイールモータ駆動装置100においては、第1速状態では第2電動機20への電力の供給を遮断し、第2速状態では第1電動機10への電力の供給を遮断する。これにより、2つの電動機10,20のうち、走行用の駆動源として用いていない方の電動機には、電力を供給しないこととすることができる。その結果、省エネに寄与することができる。
【0050】
また、本実施形態のインホイールモータ駆動装置100では、第1速状態において第2電動機20で発電(第1発電)を行うことが可能である。また、第3速状態において第1電動機10で発電を行うことが可能である。このように、2つの電動機10,20のうち、走行用の駆動源として用いていない方の電動機により発電することで、得られた回生エネルギーを利用できる。その結果、省エネ効果を増大させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、第1電動機10は、第2電動機20よりも低速領域の回転を出力可能であり、この第1電動機10は直流モータである。これにより、例えば、インホイールモータ駆動装置100を搭載した車両を低速で走行開始させる場合等に、第1電動機10を走行用の駆動源とすることにより、高い加速性能を発揮することができる。よって、車両の発進時の滑らかで力強い加速が可能となる。
【0052】
また、本実施形態では、第2電動機20は交流モータである。これにより、例えば、後輪(車輪)を高速で長距離にわたって回転駆動させる場合等に、第2電動機20を走行用の駆動源とすることにより、トルクを低く維持して継続的に効率よく走行させることができる。
【0053】
また、本実施形態のインホイールモータ駆動装置100では、クラッチ機構40は、スプラグ式のワンウェイクラッチである。これにより、第1速状態と第2速状態との切り替えを、制御器70による単純な速度制御によって自動で行うことができる。また、クラッチ機構40をシンプルな構成とすることで、インホイールモータ駆動装置100をより小型化・軽量化することができる。
【0054】
また、本実施形態では、第2ロータ21が第2方向に回転されると、回転軸2bが第2方向に回転される。これにより、第2電動機20を逆回転駆動することにより、インホイールモータ駆動装置100を搭載した車両を、定常時とは反対方向に走行(バック)させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、減速機30は遊星機構からなる。これにより、第1電動機10からの動力を、機械式の減速機30で確実に減速することができる。また、小型の減速機30で高い減速比を得ることができる。
【0056】
また、本実施形態のインホイールモータ駆動装置100では、減速機30は、太陽歯車31と、複数の遊星歯車32と、軌道内歯歯車33と、キャリア39と、を備える遊星歯車式である。これにより、第1電動機10からの動力を歯車式の減速機30で確実に減速することができる。とりわけ、大トルクを確実に後段へと伝達することができる。
【0057】
また、本実施形態で示した車両は、上記のインホイールモータ駆動装置100を走行部(後輪)に備える。これにより、走行部の後輪(車輪)を回転駆動させるための駆動装置を、後輪の内側にコンパクトに配置することができる。よって、車両の外観を損ないにくい。また、車両の低速走行時と高速走行時とで、第1電動機10および第2電動機20のいずれを用いて当該車両を駆動するかを切り替えることができる。これにより、車両の走行速度が速い場合にも遅い場合にも、効率よく走行させることが可能となる。また、走行部の後輪を回転駆動させるための駆動装置を小型化・軽量化できるので、省エネ効果を期待できる。
【0058】
<2.第2実施形態>
以下では、図3および図4を参照して、第2実施形態に係るインホイールモータ駆動装置200について説明する。図3は、本実施形態に係る減速機130の構成を正面縦断面図で示している。図4は、軸方向に見たときの減速機の様子を示している。図3中の左半部は、キャリア39を破断して示してある。
【0059】
第2実施形態に係るインホイールモータ駆動装置200は、減速機30に代えて減速機130を備えている点で、第1実施形態に係るインホイールモータ駆動装置100とは主として異なっている。以下では、第1実施形態で示したのと同様の構成・機能の部材については、同一の符号を付し、重複説明を省略する。
【0060】
減速機130は、トラクション型の遊星機構からなる。減速機130は、太陽ローラ131と、遊星ローラ132と、軌道リング133と、キャリア39と、押圧部材136とを、主として備える。また、太陽ローラ131は、互いに対をなす第1の太陽ローラ131aと第2の太陽ローラ131bを含む。
【0061】
太陽ローラ131は、円筒部13の外側に相対回転不能に結合される概ね円筒状の部材である。別の言い方をすれば、太陽ローラ131は、円筒部13と同軸上で当該円筒部13と一体的に回転する。太陽ローラ131は、前後方向に見たときに、上下方向に延びる仮想直線に対して左右に対をなす、第1の太陽ローラ131aと、第2の太陽ローラ131bとを含む。1対の太陽ローラ131a,131bは、後述する遊星ローラ132の外周部を軸方向の両側から挟み込む。
【0062】
詳細には、第1の太陽ローラ131aは、遊星ローラ132から軸方向の一方側へ遠ざかるにつれて径方向の寸法が大きくなる円環状のテーパ面を有する。第2の太陽ローラ131bは、遊星ローラ132から軸方向の他方側へ遠ざかるにつれて径方向の寸法が大きくなる円環状のテーパ面を有する。第2の太陽ローラ131bは、第1の太陽ローラ131aに対して軸方向に若干量だけスライド移動可能である。別の言い方をすれば、第2の太陽ローラ131bは、第1の太陽ローラ131aに対して軸方向に近接および離間可能に設けられる。
【0063】
複数の遊星ローラ132は、略円筒状の部材であり、太陽ローラ131の外側に周方向に等間隔に配置される。遊星ローラ132は、径方向外側から太陽ローラ131に接触する。詳細には、遊星ローラ132の外周面の軸方向両側の隅部は、角が取られて傾斜面となっている。この遊星ローラ132の外周面の軸方向両側の傾斜面が、1対の太陽ローラ131a,131bのテーパ面と面接触する。各遊星ローラ132の軸心部には、キャリアピン35が挿入される。遊星ローラ132は、キャリアピン35に対して回転自在である。
【0064】
軌道リング133は、回転軸2bと同軸上に配置される円環状の部材である。軌道リング133は、複数の遊星ローラ132を径方向外側から取り囲み、複数の遊星ローラ132に径方向外側から接触する。詳細には、遊星ローラ132の外周面が、軌道リング133の内周面に面接触する。軌道リング133は、筐体50の内周面に対して固定される。また、軌道リング133の外周面には、第1ロータ11のステータ(固定子)が取り付けられる。
【0065】
キャリア39は、複数のキャリアピン35を周方向に等間隔に支持する。キャリア39は、複数のキャリアピン(支持軸)35を介して、複数の遊星ローラ132を周方向に公転可能に支持する。
【0066】
押圧部材136は、円筒部13の回転力に応じた力で太陽ローラ131を遊星ローラ132に押し付ける。図3および図4に示すように、本実施形態の押圧部材136は、複数の調圧カム137を含む。複数の調圧カム137は、第1ロータ11と一体となって回転する第2の太陽ローラ131bに作用する回転トルクで、当該第2の太陽ローラ131bに軸方向の付勢力を付与し、この第2の太陽ローラ131bを、第1の太陽ローラ131aに近接する方向に押圧する。これにより、1対の太陽ローラ131a,131bのテーパ面は、負荷に応じた押圧力で、遊星ローラ132の傾斜面に押し付けられる。その結果、1対の太陽ローラ131a,131bの間に、遊星ローラ132が挟み込まれる。
【0067】
そして、1対の太陽ローラ131a,131bのテーパ面により、遊星ローラ132の傾斜面が押圧されることにより、遊星ローラ132が軌道リング133側(径方向外側)に加圧される。その結果、遊星ローラ132と軌道リング133とが、互いに接触した状態に維持される。
【0068】
このように、太陽ローラ131と遊星ローラ132との間、および、遊星ローラ132と軌道リング133との間に、常に円筒部13(第1ロータ11)の回転力に応じた摩擦力が発生する。このため、太陽ローラ131が回転すると、複数の遊星ローラ132は、太陽ローラ131からの動力を受け、太陽ローラ131との摩擦によって自転する。また、複数の遊星ローラ132は、軌道リング133との間の摩擦により、軌道リング133に沿って、円筒部13の周囲を公転する。このとき、遊星ローラ132の公転の回転数は、第1電動機10の出力軸としての円筒部13の回転数よりも低くなる。こうして、第1電動機10で発生された回転が、減速機130で変化(減速)されて、後段に伝達される。
【0069】
本実施形態のインホイールモータ駆動装置200においても、第1実施形態に係るインホイールモータ駆動装置100と同様に、低速駆動時には第1電動機10を走行用の駆動源とする一方、高速駆動時には第2電動機20を走行用の駆動源とすることで、幅広い速度領域において効率よく車両を走行させることができる。
【0070】
以上に示したように、本実施形態のインホイールモータ駆動装置200は、太陽ローラ131と、遊星ローラ132と、軌道リング133と、キャリア39と、押圧部材136と、を備える遊星摩擦式である。これにより、太陽ローラ131と遊星ローラ132との間、および、遊星ローラ132と軌道リング133との間の摩擦力により、遊星ローラ132を精度よく自転および公転させることができる。その結果、騒音や振動を少なく抑えつつ、小型の減速機130で高い減速比を得ることができる。
【0071】
また、本実施形態のインホイールモータ駆動装置200は、回転軸2bを中心とする電動機10の回転トルクを利用して、第2の太陽ローラ131bを第1の太陽ローラ131aに近づける方向に付勢する付勢力を発生させる調圧カム137を含む。これにより、負荷に応じた押圧力を、太陽ローラ131と遊星ローラ132との間、および、遊星ローラ132と軌道リング133との間に、付与することが可能となる。よって、インホイールモータ駆動装置200を搭載する車両において、負荷が変動しても、効率よく安定的な走行を続けることが可能となる。
【0072】
<3.その他の変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0073】
図1および図3に示すように、上記の実施形態では、第1電動機10はラジアルギャップ型のモータとした。しかしながら、必ずしもこれに限るものではなく、例えば上記に代えて、第1電動機10をアキシャルギャップ型のモータとしてもよい。その場合、低速駆動用として用いる第1電動機10を、より小型化することができ、しかも、低速領域においてとりわけ効率のよい走行を実現することができる。
【0074】
上記の実施形態では、クラッチ機構40は、スプラグ式のワンウェイクラッチとしたが、必ずしもこれに限るものではない。例えば上記に代えて、クラッチ機構40をカム式のワンウェイクラッチとしてもよい。あるいは、クラッチ機構40を、複数のワンウェイクラッチを組み合わせてなるものとしてもよい。
【0075】
上記の実施形態では、減速機30(130)の出力部材であるキャリア39の第1方向の回転は、クラッチ機構40および出力伝達部材23を介して、回転軸2bに入力されるものとしたが、これに限るものではない。上記に代えて、キャリア39の第1方向の回転が、クラッチ機構のみを介して、回転軸2bに入力されるものとしてもよい。
【0076】
上記の実施形態では、第1速状態、第2速状態、および第3速状態の間の切り替えは、クラッチ機構40により実現されるものとしたが、必ずしもこれに限らない。すなわち、クラッチ機構以外の公知の手段によって、第1速状態、第2速状態、および第3速状態の間の切り替えが行われてもよい。また、クラッチ機構40以外の公知の手段を採用した場合、第1速状態、第2速状態、および第3速状態のそれぞれにおいて、車両の制動時に第1電動機10および第2電動機20のいずれか一方または双方が発電機として機能するように、制御器70が制御を行うようにしてもよい。
【0077】
上記の実施形態では、第1速状態において第2電動機20で発電(第1発電)を行うものとしたが、これに加えてまたは代えて、第2速状態において第1電動機10で発電(第2発電)を行うものとしてもよい。
【0078】
上記の実施形態では、第2ロータ21が第2方向に回転されると、ハブ2の回転軸2bが第2方向に回転されるものとしたが、これに代えて、第1ロータ11が第2方向に回転されると、ハブ2の回転軸2bが第2方向に回転されるものとしてもよい。すなわち、電動機10,20のいずれかを適宜に駆動させることにより、車両をバックさせることが可能であることが望ましい。
【0079】
上記の実施形態では、インホイールモータ駆動装置100,200は、車両の後輪を走行駆動するために用いられるものとしたが、これに限るものではない。例えば上記に代えて、インホイールモータ駆動装置100(200)を、車両の前輪を走行駆動するために用いてもよい。あるいは、インホイールモータ駆動装置100(200)を、自動二輪車の前輪および後輪の両方に搭載してもよい。
【0080】
上記の実施形態では、インホイールモータ駆動装置100,200は、ドライバーが搭乗して運転操作する車両の走行部に搭載されるものとしたが、必ずしもこれに限るものではない。例えば上記に代えて、無線通信端末等を用いて自動走行される車両の走行部にインホイールモータ駆動装置100(200)が搭載されるものとしてもよい。
【0081】
上記の実施形態において、第2ロータ21と出力伝達部材23との間に減速機が介在していてもよい。
【0082】
上記の実施形態において、減速機30は遊星機構からなるものとしたが、これに限るものではなく、他の公知の減速機構により構成してもよい。
【0083】
また、インホイールモータ駆動装置100(200)の細部の構成、例えば歯車やローラの数等については、本願の各図に示されたものと異なっていてもよい。また、上記の実施形態または変形例に登場した各要素を、矛盾がない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本願は、インホイールモータ駆動装置およびそれを備える車両に利用できる。
【符号の説明】
【0085】
2 ハブ
2a 円板部
2b 回転軸
3 リム
10 第1電動機
11 第1ロータ
13 円筒部
20 第2電動機
21 第2ロータ
23 出力伝達部材
30 減速機
39 キャリア(出力部材)
40 クラッチ機構
50 筐体
70 制御器
100 インホイールモータ駆動装置(第1実施形態)
200 インホイールモータ駆動装置(第2実施形態)
図1
図2
図3
図4