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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20220906BHJP
   C23C 16/36 20060101ALI20220906BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C16/36
C23C16/40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021572081
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2021019379
【審査請求日】2022-05-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晋
(72)【発明者】
【氏名】山西 貴翔
(72)【発明者】
【氏名】引地 将仁
(72)【発明者】
【氏名】小林 史佳
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-347806(JP,A)
【文献】特開2016-165789(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031458(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/181786(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 5/16
C23C 16/30 - 16/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と前記基材の上に設けられている被膜とを備える切削工具であって、
前記被膜は、
前記基材の上に設けられている第一アルミナ層と、
前記第一アルミナ層の直上に設けられているチタン化合物層と、
前記チタン化合物層の直上に設けられている第二アルミナ層と、を含み、
前記第一アルミナ層において前記チタン化合物層に隣接する部分は界面領域を成し、
前記第一アルミナ層において前記界面領域ではない部分は非界面領域を成し、
前記第一アルミナ層の前記界面領域は、前記チタン化合物層との界面Sと、前記界面Sから厚さ方向に0.5μm離れた地点を通る前記界面Sに平行な仮想平面Aとに挟まれた領域であり、
前記界面領域における窒素の含有割合は、0.2at%以上10.5at%以下であり、
前記非界面領域における窒素の含有割合は、0at%以上0.15at%以下であり、
前記界面領域における前記窒素の含有割合及び前記非界面領域における前記窒素の含有割合は、前記第一アルミナ層におけるアルミニウム、酸素及び窒素の合計を基準としたときの原子割合であり、
前記チタン化合物層は、前記第一アルミナ層に隣接する炭窒化チタンの層を含む、切削工具。
【請求項2】
前記第一アルミナ層の厚さは、前記第二アルミナ層の厚さより大きい、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記チタン化合物層の厚さは、2.5μm以上8.5μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記第二アルミナ層の厚さは、0.3μm以上6.5μm以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記第一アルミナ層の厚さは、2.5μm以上21.5μm以下である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記第一アルミナ層の前記界面領域における窒素の含有割合は、0.5at%以上10at%以下である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
前記第二アルミナ層の厚さは、0.3μm以上6.5μm以下であり、
前記チタン化合物層の残留応力は、-3GPa以上0GPa以下である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記チタン化合物層は、窒化チタン又は炭化チタンの層を更に含む、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基材上に被膜を被覆した切削工具が用いられている。たとえば、特開2020-037150号公報(特許文献1)は、基材と、該基材の表面に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、前記被覆層は、前記基材側から前記被覆層の表面側に向かって順に積層された下部層、中間層及び上部層を含み、前記下部層が、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を1層又は2層以上含有し、前記中間層が、α型Alを含有し、前記上部層が、TiCNを含有し、前記下部層の平均厚さが4.0μm以上10.0μm以下であり、前記中間層の平均厚さが3.0μm以上10.0μm以下であり、前記上部層の平均厚さが1.5μm以上6.5μm以下であり、前記上部層の特定の領域における全粒界の合計長さ100%に対するΣ3粒界の長さの割合が20%以上60%以下であり、前記上部層の(111)面の粒子の割合が、30面積%以上である、被覆切削工具を開示している。
【0003】
また、特開2003-266213号公報(特許文献2)は、超硬合金、高速度鋼又は特殊鋼よりなる基体表面に、硼素及び周期律表の4a、5a、6a族金属の1種又は2種以上とからなる炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、炭窒酸化物のいずれか1種の単層皮膜又は2種以上の多層皮膜からなり引張残留応力を有する硼素含有膜を酸化アルミニウム膜よりも工具表面側に被覆してなることを特徴とする硼素含有膜被覆工具を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-037150号公報
【文献】特開2003-266213号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示に係る切削工具は、
基材と上記基材の上に設けられている被膜とを備える切削工具であって、
上記被膜は、
上記基材の上に設けられている第一アルミナ層と、
上記第一アルミナ層の直上に設けられているチタン化合物層と、
上記チタン化合物層の直上に設けられている第二アルミナ層と、を含み、
上記第一アルミナ層において上記チタン化合物層に隣接する部分は界面領域を成し、
上記第一アルミナ層において上記界面領域ではない部分は非界面領域を成し、
上記界面領域における窒素の含有割合は、0.2at%以上10.5at%以下であり、
上記非界面領域における窒素の含有割合は、0at%以上0.15at%以下であり、
上記チタン化合物層は、上記第一アルミナ層に隣接する炭窒化チタンの層を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、切削工具の基材の一態様を例示する斜視図である。
図2図2は、本実施形態の一態様における切削工具の模式断面図である。
図3図3は、本実施形態の他の態様における切削工具の模式断面図である。
図4図4は、本実施形態の一態様における被覆層の模式断面図である。
図5図5は、被膜の製造に用いられる化学気相蒸着装置の一例を示す模式断面図である。
図6図6は、加工面の面品位と対応するランクを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1及び特許文献2では、上記のような構成の被膜を有することにより、耐摩耗性、及び酸化アルミニウム層と当該酸化アルミニウム層に接する他の層との間の密着性が向上し、以って切削工具の寿命が長くなることが期待されている。
【0008】
しかしながら、近年の切削加工においては、高速化及び高能率化が進行し、切削工具にかかる負荷が増大し、切削工具の寿命が短期化する傾向があった。このため、切削工具の被膜の機械特性(例えば、耐摩耗性、耐溶着性及び耐欠損性等)を更に向上させることが求められている。
【0009】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性及び耐溶着性が向上した切削工具を提供することを目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、耐摩耗性及び耐溶着性が向上した切削工具を提供することが可能になる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
[1]本開示に係る切削工具は、
基材と上記基材の上に設けられている被膜とを備える切削工具であって、
上記被膜は、
上記基材の上に設けられている第一アルミナ層と、
上記第一アルミナ層の直上に設けられているチタン化合物層と、
上記チタン化合物層の直上に設けられている第二アルミナ層と、を含み、
上記第一アルミナ層において上記チタン化合物層に隣接する部分は界面領域を成し、
上記第一アルミナ層において上記界面領域ではない部分は非界面領域を成し、
上記界面領域における窒素の含有割合は、0.2at%以上10.5at%以下であり、
上記非界面領域における窒素の含有割合は、0at%以上0.15at%以下であり、
上記チタン化合物層は、上記第一アルミナ層に隣接する炭窒化チタンの層を含む。
【0013】
上記切削工具は、上述のような構成を備えることによって、耐摩耗性及び耐溶着性が向上する。ここで「耐摩耗性」とは、切削加工に用いた場合被膜が摩耗することに対する耐性を意味する。「耐溶着性」とは、切削加工に用いた場合切削工具と被削材とが溶着し、被膜が剥離することに対する耐性を意味する。
上記切削工具は旋削加工等の切削加工に用いられるが、旋削加工で一番高温になるのは、切削工具のエッジ部分(刃先稜線部)ではなくてエッジから少し離れた部分(切りくずが接触する部分)であることが知られている。この場合、エッジ部分は高硬度が求められるが、エッジから少し離れた部分では耐熱性、耐溶着性が求められる。しかし、切削工具のエッジと、エッジから離れた部分それぞれに求められる性質を考慮して被膜を設計したことはこれまでになかった。本開示では、第一アルミナ層の更に上にチタン化合物層と第二アルミナ層とを設けることで、切削工具のエッジと、エッジから離れた部分それぞれに求められる性質を両立することに成功した。
【0014】
[2]上記第一アルミナ層の厚さは、上記第二アルミナ層の厚さより大きいことが好ましい。このように規定することで、耐熱性に優れる切削工具となる。
【0015】
[3]上記チタン化合物層の厚さは、1μm以上11μm以下であることが好ましい。このように規定することで、耐摩耗性が更に向上する。
【0016】
[4]上記第二アルミナ層の厚さは、0.3μm以上6.5μm以下であることが好ましい。このように規定することで、耐溶着性が更に向上する。
【0017】
[5]上記第一アルミナ層の厚さは、2.5μm以上21.5μm以下であることが好ましい。このように規定することで、耐摩耗性に優れる切削工具となる。
【0018】
[6]上記第一アルミナ層の上記界面領域は、上記チタン化合物層との界面Sと、上記界面Sから厚さ方向に0.5μm離れた地点を通る上記界面Sに平行な仮想平面Aとに挟まれた領域であることが好ましい。このように規定することで、耐溶着性に優れる切削工具となる。
【0019】
[7]上記第一アルミナ層の上記界面領域における窒素の含有割合は、0.5at%以上10at%以下であることが好ましい。このように規定することで、上記第一アルミナ層と上記チタン化合物層との密着性に優れた切削工具を提供することが可能になる。
【0020】
[8]上記第二アルミナ層の厚さは、0.3μm以上6.5μm以下であり、上記チタン化合物層の残留応力は、-3GPa以上0GPa以下であることが好ましい。このように規定することで、耐摩耗性に更に優れた切削工具を提供することが可能になる。
【0021】
[9]上記チタン化合物層は、窒化チタン又は炭化チタンの層を更に含むことが好ましい。このように規定することで、耐摩耗性に優れる切削工具となる。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「X~Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちX以上Z以下)を意味し、Xにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Xの単位とZの単位とは同じである。さらに、本明細書において、例えば「TiC」等のように、構成元素の組成比が限定されていない化学式によって化合物が表された場合には、その化学式は従来公知のあらゆる組成比(元素比)を含むものとする。このとき上記化学式は、化学量論組成のみならず、非化学量論組成も含むものとする。例えば「TiC」の化学式には、化学量論組成「Ti」のみならず、例えば「Ti0.8」のような非化学量論組成も含まれる。このことは、「TiC」以外の化合物の記載についても同様である。
【0023】
≪切削工具≫
本開示に係る切削工具は、
基材と上記基材の上に設けられている被膜とを備える切削工具であって、
上記被膜は、
上記基材の上に設けられている第一アルミナ層と、
上記第一アルミナ層の直上に設けられているチタン化合物層と、
上記チタン化合物層の直上に設けられている第二アルミナ層と、を含み、
上記第一アルミナ層において上記チタン化合物層に隣接する部分は界面領域を成し、
上記第一アルミナ層において上記界面領域ではない部分は非界面領域を成し、
上記界面領域における窒素の含有割合は、0.2at%以上10.5at%以下であり、
上記非界面領域における窒素の含有割合は、0at%以上0.15at%以下であり、
上記チタン化合物層は、上記第一アルミナ層に隣接する炭窒化チタンの層を含む。
【0024】
本実施形態の切削工具50は、基材10と、上記基材10上に設けられている被膜40とを備える(以下、単に「切削工具」という場合がある。)(図2)。上記被膜40は、上記基材10の上に設けられている第一アルミナ層20と、上記第一アルミナ層20の直上に設けられているチタン化合物層21と、上記チタン化合物層21の直上に設けられている第二アルミナ層22と、を含む。上記切削工具50は、上述の各層の他にも、上記基材10と上記第一アルミナ層20との間に設けられている下地層23を更に含んでいてもよい(図3)。上記切削工具50は、第二アルミナ層22上に設けられている表面層を更に含んでいてもよい。下地層23、及び表面層等の他の層については、後述する。
【0025】
本実施形態の切削工具(以下、単に「切削工具」という場合がある。)50は、基材10と、上記基材10を被覆する被膜40とを備える(図2図3参照)。本実施形態の一側面において、上記被膜は、上記基材におけるすくい面を被覆していてもよいし、すくい面以外の部分(例えば、逃げ面)を被覆していてもよい。上記切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等であり得る。
【0026】
<基材>
本実施形態の基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれの基材も使用することができる。例えば、上記基材は、超硬合金(例えば、炭化タングステン(WC)基超硬合金、WCの他にCoを含む超硬合金、WCの他にCr、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体(cBN焼結体)及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、超硬合金、サーメット及びcBN焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0027】
これらの各種基材の中でも、特にWC基超硬合金又はcBN焼結体を選択することが好ましい。その理由は、これらの基材が特に高温における硬度と強度とのバランスに優れ、上記用途の切削工具の基材として優れた特性を有するためである。
【0028】
基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素又はη相と呼ばれる異常相を含んでいても本実施形態の効果は示される。なお、本実施形態で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、cBN焼結体の場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本実施形態の効果は示される。
【0029】
図1は、切削工具の基材の一態様を例示する斜視図である。このような形状の基材は、例えば、旋削加工用刃先交換型切削チップの基材として用いられる。上記基材10は、すくい面1と、逃げ面2と、上記すくい面1と逃げ面2とが交差する刃先稜線部3とを有する。すなわち、すくい面1と逃げ面2とは、刃先稜線部3を挟んで繋がる面である。刃先稜線部3は、基材10の切刃先端部を構成する。このような基材10の形状は、上記切削工具の形状と把握することもできる。
【0030】
上記切削工具が刃先交換型切削チップである場合、上記基材10は、チップブレーカーを有する形状も、有さない形状も含まれる。刃先稜線部3の形状は、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与した形状)、ネガランド(面取りをした形状)、ホーニングとネガランドを組み合わせた形状の中で、いずれの形状も含まれる。
【0031】
以上、基材10の形状及び各部の名称を、図1を用いて説明したが、本実施形態に係る切削工具50において、上記基材10に対応する形状及び各部の名称については、上記と同様の用語を用いることとする。すなわち、上記切削工具は、すくい面と、逃げ面と、上記すくい面及び上記逃げ面を繋ぐ刃先稜線部とを有する。
【0032】
<被膜>
本実施形態に係る被膜40は、上記基材10の上に設けられている第一アルミナ層20と、上記第一アルミナ層20の直上に設けられているチタン化合物層21と、上記チタン化合物層21の直上に設けられている第二アルミナ層22と、を含む(図2参照)。「被膜」は、上記基材の少なくとも一部(例えば、切削加工時に被削材と接するすくい面等)を被覆することで、切削工具における耐欠損性、耐摩耗性、耐溶着性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。上記被膜は、上記基材の一部に限らず上記基材の全面を被覆することが好ましい。しかしながら、上記基材の一部が上記被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
【0033】
上記被膜の厚さは、10μm以上40μm以下であることが好ましく、15μm以上35μm以下であることがより好ましい。ここで、被膜の厚さとは、被膜を構成する層それぞれの厚さの総和を意味する。「被膜を構成する層」としては、例えば、後述する第一アルミナ層、チタン化合物層、第二アルミナ層、下地層及び表面層等が挙げられる。上記被膜の厚さは、例えば、電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の10点を測定し、測定された10点の厚さの平均値をとることで求めることが可能である。このとき上記断面サンプルの測定断面をイオンミリング処理により研磨するものとする。後述する第一アルミナ層、チタン化合物層、第二アルミナ層、下地層及び表面層等のそれぞれの厚さを測定する場合も同様である。電界放出型走査電子顕微鏡としては、例えば、株式会社日立ハイテク製のSU3500(商品名)が挙げられる。イオンミリング処理する装置としては、例えば、株式会社日立ハイテク製のIM4000(商品名)が挙げられる。
【0034】
(第一アルミナ層)
本実施形態における第一アルミナ層20は、上記基材10の上に設けられている。ここで「基材の上に設けられている」とは、基材の直上に設けられている態様(図2参照)に限られず、他の層を介して基材の上に設けられている態様(図3参照)も含まれる。すなわち、上記第一アルミナ層は、本開示の効果が奏する限りにおいて、上記基材の直上に設けられていてもよいし、後述する下地層等の他の層を介して上記基材の上に設けられていてもよい。
【0035】
上記第一アルミナ層は、酸化アルミニウム(Al)のみから構成されていてもよいし、酸化アルミニウム及び不可避不純物から構成されていてもよい。上記不可避不純物としては、例えば、塩素、硫黄等が挙げられる。上記酸化アルミニウムは、α型の酸化アルミニウム(α-Al)であることが好ましい。
【0036】
(第一アルミナ層の界面領域及び非界面領域における窒素の含有割合)
上記第一アルミナ層において上記チタン化合物層に隣接する部分は界面領域を成す。また、上記第一アルミナ層において上記界面領域ではない部分は非界面領域を成す。上記第一アルミナ層の上記界面領域は、上記チタン化合物層との界面Sと、上記界面Sから厚さ方向に0.5μm離れた地点を通る上記界面Sに平行な仮想平面Aとに挟まれた領域であることが好ましい(図4)。上記第一アルミナ層の上記非界面領域は、上記仮想平面Aと、上記第一アルミナ層の基材側の界面Qとに挟まれた領域であることが好ましい(図4)。なお、上記第一アルミナ層において、上記界面領域と上記非界面領域との間には、明確な境界が存在していてもよいし、存在していなくてもよい。
【0037】
上記第一アルミナ層の上記界面領域における窒素の含有割合は、0.2at%以上10.5at%以下であり、0.5at%以上10at%以下であることが好ましく、1at%以上9at%以下であることがより好ましい。ここで、上記窒素の含有割合は、第一アルミナ層におけるアルミニウム、酸素及び窒素の合計を基準としたときの原子割合である。
【0038】
上述のような構成を備える第一アルミナ層は、チタン化合物層との界面領域に窒素原子が偏在する。そのため、当該界面領域からチタン化合物層に窒素原子が拡散して第一アルミナ層とチタン化合物層との密着性が向上する。従来アルミナ層の上に設けられていたチタン化合物層は、使用状態表示層としての役割しか求められていなかったため、上記アルミナ層との密着性及びその他の機械的特性は重要視されていなかった。また、従来からアルミナ層の内部に窒素が存在すると、熱的に不安定になりアルミナ層の性能が低下することが知られていた。そのため、従来はアルミナ層の内部に窒素を積極的に加えることはされていなかった。
本開示では、第一アルミナ層の界面領域に窒素原子が偏在することでチタン化合物層(特に第一アルミナ層に隣接する炭窒化チタンの層)との密着性が向上し、さらに当該チタン化合物層に所定の機械的特性を付することができる。
【0039】
窒素の含有割合は、上述の基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルに対して、オージェ電子分光法(AES法)によって線分析を行うことで求めることが可能である。具体的には、まず、クロスセクションポリッシャ加工(CP加工)等によって上記断面サンプルの切断面を研磨する。研磨した切断面に対して、電解放出型走査顕微鏡(FE-SEM)を用いた分析によって基材(下地層が設けられている場合は下地層)、第一アルミナ層及びチタン化合物層における断面SEM像を得る。このときの測定倍率は、50000倍である。このとき、基材、下地層、及びチタン化合物層が暗い領域として観察され、第一アルミナ層が明るい領域として観察される。次に、上記断面SEM像における視野で、上記チタン化合物層の積層方向に平行な方向でチタン化合物層側から第一アルミナ層側に向かって、上記研磨した切断面に対してAES法によって線分析を行う。このときの測定ピッチは、0.016μmである。また、AES法のその他の測定条件は、以下の条件である。AES法の測定装置としては、例えば、アルバック・ファイ社製のPHI700(商品名)が挙げられる。
(AES法の測定条件)
測定加速電圧:10kV
測定電流 :10mA
試料傾斜角度:30°
スパッタ電圧:1kV
【0040】
次に、上述の線分析の結果に基づいて、測定開始点からの距離をX軸(横軸)とし、測定対象の各元素の原子割合(at%)をY軸(縦軸)にプロットしたグラフを作成する。このグラフに基づいてアルミニウムの原子割合が10at%となる地点であって、上記チタン化合物層により近い地点を「第一アルミナ層とチタン化合物層との界面S」とする(図4参照)。また、当該界面Sから上記第一アルミナ層の側に0.5μm離れた地点を含む平面を「仮想平面A」とする(図4参照)。そして、上記グラフに基づいて界面Sと仮想平面Aとに挟まれた領域(界面領域)における上記窒素の原子割合の平均値を求める。
【0041】
上述のような測定を少なくとも3回行い、各測定で求められた値の平均値をその第一アルミナ層の界面領域における窒素の含有割合とする。
【0042】
上記第一アルミナ層の上記非界面領域における窒素の含有割合は、0at%以上0.15at%以下であり、0at%以上0.1at%以下であることが好ましい。上記非界面領域における窒素の含有割合は、上述したのと同様に、断面サンプルに対してAES法によって線分析を行うことで求めることが可能である。このとき、上記線分析の結果に基づいて得られるグラフにおいて、アルミニウムの原子割合が10at%となる地点であって、上記基材により近い地点を「第一アルミナ層の基材側の界面Q」とする(図4参照)。そして、上記グラフに基づいて仮想平面Aと界面Qとに挟まれた領域(非界面領域)における上記窒素の原子割合の平均値を求める。上述のような測定を少なくとも3回行い、各測定で求められた値の平均値をその第一アルミナ層の非界面領域における窒素の含有割合とする。
【0043】
上記第一アルミナ層の厚さは、2.5μm以上21.5μm以下であることが好ましく、3μm以上20μm以下であることがより好ましく、6μm以上17μm以下であることが更に好ましい。上記第一アルミナ層の厚さは、上述したのと同様の方法で、SEMを用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0044】
本実施形態の一側面において、上記第一アルミナ層の厚さは、後述する第二アルミナ層の厚さより大きいことが好ましい。
【0045】
(チタン化合物層)
本実施形態に係るチタン化合物層21は、上記第一アルミナ層20の直上に設けられている(図2)。上記チタン化合物層は、上記第一アルミナ層に隣接する炭窒化チタン(TiCN)の層を含む。本実施形態の一側面において、上記炭窒化チタンの層は、上記第一アルミナ層の直上に設けられていると把握することもできる。上記チタン化合物層は、上記第一アルミナ層に隣接する炭窒化チタンの層のみから構成されていてもよいし、上記第一アルミナ層に隣接する炭窒化チタンの層と他のチタン化合物の層とから構成されていてもよい。上記炭窒化チタンの層は、炭窒化チタンのみから構成されていてもよいし、炭窒化チタン及び不可避不純物から構成されていてもよい。上記不可避不純物としては、例えば、酸素、塩素等が挙げられる。チタン化合物層の厚さは、1μm以上11μm以下であることが好ましく、1.5μm以上9.5μm以下であることがより好ましく、2.5μm以上8.5μm以下であることが更に好ましい。上記チタン化合物層は、従来よりも厚さが薄い。しかし、後述するように上記チタン化合物層は所定の残留応力を有するため、十分な硬度を有する層となっている。チタン化合物層の厚さは、上述したのと同様の方法で、SEMを用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0046】
上記炭窒化チタンの層の厚さは、1μm以上11μm以下であることが好ましく、1.5μm以上9.5μm以下であることがより好ましく、3.0μm以上8.0μm以下であることが更に好ましい。炭窒化チタンの層の厚さは、上述したのと同様の方法で、SEMを用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0047】
本実施形態の一側面において、上記チタン化合物層は、窒化チタン(TiN)又は炭化チタン(TiC)の層を更に含むことが好ましい。
【0048】
上記窒化チタン又は炭化チタンの層の厚さは、0.5μm以上5.5μm以下であることが好ましく、0.5μm以上2.5μm以下であることがより好ましい。上記窒化チタン又は炭化チタンの層の厚さは、上述したのと同様の方法で、SEMを用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0049】
上記チタン化合物層の残留応力は、-3GPa以上0GPa以下であることが好ましく、-2.5GPa以上-0.5GPa以下であることがより好ましい。
【0050】
ここで、「残留応力」とは、層内に存する内部応力(固有ひずみ)の一種である。上記残留応力としては、圧縮残留応力と引張残留応力とに大別される。圧縮残留応力は、「-」(マイナス)の数値(本明細書においてその単位は「GPa」で表す。)で表される残留応力をいう。例えば、「10GPaの圧縮残留応力」は、-10GPaの残留応力と把握することができる。このため、圧縮残留応力が大きいという概念は、上記数値の絶対値が大きくなることを示し、圧縮残留応力が小さいという概念は、上記数値の絶対値が小さくなることを示す。引張残留応力は、「+」(プラス)の数値(本明細書においてその単位は「GPa」で表す。)で表される残留応力をいう。例えば、「10GPaの引張残留応力」は、10GPaの残留応力と把握することができる。このため、引張残留応力が大きいという概念は、上記数値が大きくなることを示し、引張残留応力が小さいという概念は、上記数値が小さくなることを示す。
【0051】
本実施形態において上記チタン化合物層の残留応力は、X線を用いた2θ-sinψ法による残留応力測定によって求められる。具体的な方法としては、まず測定視野全体について2θ-sinψ法により、炭窒化チタンの回折面である(331)面の結晶面間隔を測定する。ここで、測定時の回折角度は測定対象の結晶面に応じた回折角度を指定する。上述した測定視野とは「チタン化合物層の表面における測定視野」を意味する。つぎに、測定された(331)面の結晶面間隔に基づいて上記測定視野全体の残留応力を算出する。このような測定を複数の測定視野において行い、それぞれの測定視野において求められた残留応力の平均値を「チタン化合物層の残留応力」とする。
【0052】
本実施形態において、2θ-sinψ法による残留応力測定は以下の条件で行われる。
装置 :SmartLab(株式会社リガク製)
X線 :Cu/Kα/45kV/200mA
カウンタ:D/teX Ultra250(株式会社リガク製)
測定回折面:(331)面
走査範囲:72°~74°(傾斜法)
【0053】
(第二アルミナ層)
本実施形態における第二アルミナ層22は、上記チタン化合物層21の直上に設けられている。上記第二アルミナ層は、その上に表面層等の他の層が設けられていてもよい。また、上記第二アルミナ層は、上記被膜の最表面であってもよい。上記第二アルミナ層は、酸化アルミニウム(Al)のみから構成されていてもよいし、酸化アルミニウム及び不可避不純物から構成されていてもよい。上記不可避不純物としては、例えば、塩素、硫黄等が挙げられる。上記酸化アルミニウムは、α型の酸化アルミニウム(α-Al)であることが好ましい。上記第二アルミナ層は、上記第一アルミナ層と組成が同じであってもよいし、異なっていてもよい。第二アルミナ層の厚さは、0.3μm以上6.5μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましく、1μm以上4.5μm以下であることが更に好ましい。上記第二アルミナ層は、従来よりも厚さが薄い。しかし、上記第二アルミナ層が薄いことで、後述するように第二アルミナ層を形成した後にブラスト処理を行うことで上記チタン化合物層に所定の残留応力を付与することが可能になる。第二アルミナ層の厚さは、上述したのと同様の方法で、SEMを用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0054】
本実施形態の一側面において、上記第二アルミナ層の厚さは、0.3μm以上6.5μm以下であり、上記チタン化合物層の残留応力は、-3GPa以上0GPa以下であることが好ましい。
【0055】
本実施形態の一側面において、上記第二アルミナ層において上記チタン化合物層に隣接する部分は界面領域を成し、上記界面領域に窒素を含んでいてもよい。ここで、上記第二アルミナ層において上記界面領域ではない部分は非界面領域を成す。上記第二アルミナ層の上記界面領域は、上記チタン化合物層との界面Rと、上記界面Rから厚さ方向に0.5μm離れた地点を通る上記界面Rに平行な仮想平面Bとに挟まれた領域であることが好ましい。上記第二アルミナ層の上記界面領域における窒素の含有割合は、0.5at%以上10at%以下であることが好ましい。このようにすることで、上記第二アルミナ層と上記チタン化合物層との密着性に優れた切削工具を提供することが可能になる。本実施形態の一側面において、上記第二アルミナ層の上記非界面領域における窒素の含有割合は、0at%以上0.15at%以下であることが好ましい。上記第二アルミナ層の上記界面領域又は上記非界面領域における窒素の含有割合は、上述した方法に準じて、断面サンプルに対してAES法によって線分析を行うことで求めることが可能である。
【0056】
(下地層)
上記被膜40は、上記基材10と上記第一アルミナ層20との間に設けられている下地層23を更に含むことが好ましい(図3参照)。上記下地層23は、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)又は炭窒酸化チタン(TiCNO)を含むことが好ましい。上記TiN、TiCN及びTiCNOそれぞれは、立方晶であることが好ましい。
【0057】
上記下地層の厚さは、3μm以上20μm以下であることが好ましく、5μm以上15μm以下であることがより好ましい。このような厚さは、上述したのと同様にSEMを用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0058】
(表面層)
上記被膜は、上記第二アルミナ層上に設けられている表面層を更に含むことが好ましい。上記表面層は、チタン元素と、C、N及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むことが好ましい。
【0059】
上記表面に含まれる化合物としては、例えば、TiC、TiN、TiCN及びTiB等が挙げられる。
【0060】
上記表面層の厚さは、0.2μm以上3μm以下であることが好ましく、0.5μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。このような厚さは、上述したのと同様にSEMを用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0061】
(他の層)
本実施形態に係る切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、上記被膜は、他の層を更に含んでいてもよい。上記他の層は、上記第一アルミナ層、上記チタン化合物層、上記第二アルミナ層、上記下地層又は上記表面層とは組成が異なっていてもよいし、同じであってもよい。他の層に含まれる化合物としては、例えば、TiN、TiCN、TiBN及びAl等を挙げることができる。なお、上記他の層は、その積層の順も特に限定されない。上記他の層の厚さは、本実施形態の効果を損なわない範囲において、特に制限はないが例えば、0.1μm以上20μm以下が挙げられる。
【0062】
≪切削工具の製造方法≫
本実施形態に係る切削工具の製造方法は、
上記基材を準備する第1工程(以下、単に「第1工程」という場合がある。)と、
化学気相蒸着法で、上記基材上に上記第一アルミナ層を形成する第2工程(以下、単に「第2工程」という場合がある。)と、
化学気相蒸着法で、上記第一アルミナ層の直上に上記チタン化合物層を形成する第3工程(以下、単に「第3工程」という場合がある。)と、
化学気相蒸着法で、上記チタン化合物層の直上に上記第二アルミナ層を形成する第4工程(以下、単に「第4工程」という場合がある。)と、
を含み、
上記第2工程の終盤において、アルミニウムを構成元素として含むガス、窒素を構成元素として含むガス及び酸素を構成元素として含むガスを含む原料ガスを用いて、上記第一アルミナ層を形成させ、
上記第3工程において、上記第一アルミナ層の直上に炭窒化チタンの層を形成させる。
【0063】
<第1工程:基材を準備する工程>
第1工程では基材を準備する。例えば、基材として超硬合金基材が準備される。超硬合金基材は、市販品を用いてもよく、一般的な粉末冶金法で製造してもよい。一般的な粉末冶金法で製造する場合、例えば、ボールミル等によってWC粉末とCo粉末等とを混合して混合粉末を得る。該混合粉末を乾燥した後、所定の形状に成形して成形体を得る。さらに該成形体を焼結することにより、WC-Co系超硬合金(焼結体)を得る。次いで該焼結体に対して、ホーニング処理等の所定の刃先加工を施すことにより、WC-Co系超硬合金からなる基材を製造することができる。第1工程では、上記以外の基材であっても、この種の基材として従来公知の基材であればいずれも準備可能である。
【0064】
<第2工程:基材上に第一アルミナ層を形成する工程>
第2工程では、化学気相蒸着法(CVD法)で、上記基材上に第一アルミナ層を形成する。また、上記第2工程の終盤において、アルミニウムを構成元素として含むガス、窒素を構成元素として含むガス及び酸素を構成元素として含むガスを含む原料ガスを用いて、上記第一アルミナ層を形成させる。
【0065】
図5は、被膜の製造に用いられる化学気相蒸着装置(CVD装置)の一例を示す模式断面図である。以下図5を用いて第2工程について説明する。CVD装置30は、基材10を保持するための基材セット治具31の複数と、基材セット治具31を覆う耐熱合金鋼製の反応容器32とを備えている。また、反応容器32の周囲には、反応容器32内の温度を制御するための調温装置33が設けられている。反応容器32にはガス導入口34を有するガス導入管35が設けられている。ガス導入管35は、基材セット治具31が配置される反応容器32の内部空間において、鉛直方向に延在し当該鉛直方向を軸に回転可能に配置されている。また、上記ガス導入管35は、ガスを反応容器32内に噴出するための複数の噴出孔36が設けられている。このCVD装置30を用いて、次のようにして上記被膜を構成する第一アルミナ層等を形成することができる。
【0066】
まず、基材10を基材セット治具31に配置し、反応容器32内の温度および圧力を所定の範囲に制御しながら、上記第一アルミナ層用の原料ガスをガス導入管35から反応容器32内に導入させる。これにより、基材10上に第一アルミナ層20が形成される。ここで、上記第一アルミナ層20を形成する前に(すなわち、第2工程の前に)、下地層用の原料ガスをガス導入管35から反応容器32内に導入させることにより、基材10の表面に下地層(例えば、TiNを含む層)を形成することが好ましい。以下、基材10の表面に下地層を形成した後に、上記第一アルミナ層20を形成する方法について説明する。
【0067】
上記下地層用の原料ガスとしては、特に制限はないが例えばTiNの層を形成する場合は、TiCl及びNの混合ガスが挙げられる。TiCNの層を形成する場合、原料ガスとしては、例えば、TiCl、N、CHCN、CH、及びCの混合ガスが挙げられる。TiCNOの層を形成する場合、原料ガスとしては、例えば、TiCl、N、CO、及びCHの混合ガスが挙げられる。
【0068】
上記下地層を形成する際の反応容器32内の温度は、1000~1100℃に制御されることが好ましい。上記下地層を形成する際の反応容器32内の圧力は0.1~1013hPaに制御されることが好ましい。なお、キャリアガスとしては、Hを用いることが好ましい。また、ガス導入時、不図示の駆動部によりガス導入管35を回転させることが好ましい。これにより、反応容器32内において各ガスを均一に分散させることができる。
【0069】
さらに、上記下地層を、MT(Medium Temperature)-CVD法で形成してもよい。MT-CVD法は、1000~1100℃の温度で実施されるCVD法(以下、「HT-CVD法」ともいう。)とは異なり、反応容器32内の温度を850~950℃といった比較的低い温度に維持して層を形成する方法である。MT-CVD法は、HT-CVD法と比して比較的低温で実施されるため、加熱による基材10へのダメージを低減することができる。特に、上記下地層がTiN層である場合、MT-CVD法で形成することが好ましい。
【0070】
次に、上記下地層上に上記第一アルミナ層を形成する。核生成段階における原料ガスとしては、例えば、AlCl、CO、CO、及びHClの混合ガスを用いる。結晶成長段階における原料ガスとしては、例えば、AlCl、CO、CO、HCl及びHSの混合ガスを用いる。第2工程の終盤に用いる原料ガスとしては、例えば、AlCl(アルミニウムを構成元素として含むガス)、CO、CO、HCl及びN(窒素を構成元素として含むガス)の混合ガスを用いる。
【0071】
原料ガス中におけるAlClの含有割合は、1~5体積%であることが好ましく、1.5~4体積%であることがより好ましく、2~3.5体積%であることが更に好ましい。AlClの好ましい流量は、0.5~3.5L/minである。
【0072】
原料ガス中におけるCOの含有割合は、0.5~4体積%であることが好ましく、0.8~3.5体積%であることがより好ましく、1~2.5体積%であることが更に好ましい。COの好ましい流量は、0.5~2L/minである。
【0073】
原料ガス中におけるCOの含有割合は、0.2~2.5体積%であることが好ましく、0.3~2体積%であることがより好ましく、0.5~1.5体積%であることが更に好ましい。COの好ましい流量は、0.4~1.5L/minである。
【0074】
原料ガス中におけるHClの含有割合は、1~6体積%であることが好ましく、1.5~5.5体積%であることがより好ましく、2~4.5体積%であることが更に好ましい。HClの好ましい流量は、0.5~4.5L/minである。
【0075】
原料ガス中におけるHSの含有割合は、0.5~3.5体積%であることが好ましく、1.0~3.0体積%であることがより好ましく、1.5~2.5体積%であることが更に好ましい。HSの好ましい流量は、0.3~2.5L/minである。
【0076】
原料ガス中におけるNの含有割合は、0.1~1体積%であることが好ましく、0.2~0.8体積%であることがより好ましく、0.3~0.6体積%であることが更に好ましい。Nの好ましい流量は、0.1~0.5L/minである。
【0077】
反応容器32内の温度は950~1000℃に制御されることが好ましい。反応容器32内の圧力は50~100hPaに制御されることが好ましい。また、キャリアガスとしてはHを用いることができる。なお、ガス導入時、ガス導入管35を回転させることが好ましいことは、上記と同様である。
【0078】
上記製造方法に関し、CVD法の各条件を制御することによって、各層の態様が変化する。たとえば、反応容器32内に導入する原料ガスの組成によって、各層の組成が決定される。実施時間(成膜時間)により、各層の厚さが制御される。
【0079】
<第3工程:第一アルミナ層の直上にチタン化合物層を形成する工程>
第3工程では、化学気相蒸着法で、上記第一アルミナ層の直上に上記チタン化合物層を形成する。上記第3工程において、上記第一アルミナ層の直上に炭窒化チタンの層を形成させる。
【0080】
炭窒化チタンの層の原料ガスとしては、例えば、TiCl、CH、及びNの混合ガスを用いる。
【0081】
原料ガス中におけるTiClの含有割合は、2~7体積%であることが好ましく、3~6体積%であることがより好ましく、3.5~5.5体積%であることが更に好ましい。TiClの好ましい流量は、1.4~4.9L/minである。
【0082】
原料ガス中におけるCHの含有割合は、2~7体積%であることが好ましく、2.5~6.5体積%であることがより好ましく、3~6体積%であることが更に好ましい。CHの好ましい流量は、1~5L/minである。
【0083】
原料ガス中におけるNの含有割合は、5~35体積%であることが好ましく、7.5~30体積%であることがより好ましく、10~25体積%であることが更に好ましい。Nの好ましい流量は、3.5~24.5L/minである。
【0084】
反応容器32内の温度は950~1000℃に制御されることが好ましい。反応容器32内の圧力は50~200hPaに制御されることが好ましい。また、キャリアガスとしてはHを用いることができる。なお、ガス導入時、ガス導入管35を回転させることが好ましいことは、上記と同様である。
【0085】
本実施形態の一側面において、第3工程では上記炭窒化チタンの層の他にも、チタン化合物層を構成する層として、窒化チタン、炭化チタン、炭窒酸化チタン等の層を形成してもよい。
【0086】
<第4工程:チタン化合物層の直上に第二アルミナ層を形成する工程>
第4工程では、化学気相蒸着法で、上記チタン化合物層の直上に第二アルミナ層を形成する。
【0087】
原料ガスとしては、例えば、AlCl、CO、CO、HS、HCl及びTiClの混合ガスを用いる。
【0088】
原料ガス中におけるAlClの含有割合は、1~5体積%であることが好ましく、1.5~4体積%であることがより好ましく、2~3.5体積%であることが更に好ましい。AlClの好ましい流量は、0.5~3.5L/minである。
【0089】
原料ガス中におけるCOの含有割合は、0.5~4体積%であることが好ましく、0.8~3.5体積%であることがより好ましく、1~2.5体積%であることが更に好ましい。COの好ましい流量は、0.3~3L/minである。
【0090】
原料ガス中におけるCOの含有割合は、0.2~2.5体積%であることが好ましく、0.3~2体積%であることがより好ましく、0.5~1.5体積%であることが更に好ましい。COの好ましい流量は、0.1~1.5L/minである。
【0091】
原料ガス中におけるHSの含有割合は、0.2~2.5体積%であることが好ましく、0.3~2.0体積%であることがより好ましく、0.5~1.5体積%であることが更に好ましい。HSの好ましい流量は、0.1~1.5L/minである。
【0092】
原料ガス中におけるHClの含有割合は、1~7体積%であることが好ましく、1.5~6.5体積%であることがより好ましく、2~6体積%であることが更に好ましい。HClの好ましい流量は、0.5~4.5L/minであり、より好ましい流量は1~4L/minである。
【0093】
原料ガス中におけるTiClの含有割合は、0.01~0.09体積%であることが好ましく、0.02~0.08体積%であることがより好ましく、0.03~0.07体積%であることが更に好ましい。TiClの好ましい流量は、0.05~0.6L/minである。原料ガスにTiClが含まれることで、上記チタン化合物層と上記第二アルミナ層との密着力を向上させることができる。
【0094】
反応容器32内の温度は950~1000℃に制御されることが好ましい。反応容器32内の圧力は50~200hPaに制御されることが好ましい。また、キャリアガスとしてはHを用いることができる。なお、ガス導入時、ガス導入管35を回転させることが好ましいことは、上記と同様である。
【0095】
本実施形態の一側面において、上記第4工程の序盤において、アルミニウムを構成元素として含むガス、窒素を構成元素として含むガス及び酸素を構成元素として含むガスを含む原料ガスを用いて、上記第二アルミナ層を形成させてもよい。このようにすることで、上記第二アルミナ層と上記チタン化合物層との密着性に優れた切削工具を提供することが可能になる。原料ガスとしては、例えば、AlCl、CO、CO、HS、HCl、TiCl及びNの混合ガスを用いる。原料ガス中におけるAlCl、CO、CO、HS、HCl及びTiClそれぞれの含有割合は、上述した範囲であることが好ましい。
【0096】
原料ガス中におけるNの含有割合は、0.1~1体積%であることが好ましく、0.2~0.8体積%であることがより好ましく、0.3~0.6体積%であることが更に好ましい。Nの好ましい流量は、0.1~0.5L/minであり、より好ましい流量は0.2~0.4L/minである。
【0097】
<その他の工程>
本実施形態に係る製造方法では、上述した工程の他にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で追加工程を適宜行ってもよい。上記追加工程としては例えば、上記第二アルミナ層上に表面層を形成する工程、及び被膜にブラスト処理を行う工程等が挙げられる。本実施形態において、チタン化合物層の直上にある第二アルミナ層の厚さは、第一アルミナ層の厚さよりも薄い。そのため、上記第4工程の後で、ブラスト処理を行うと上記チタン化合物層に所定の圧縮残留応力を付与することができる。ブラスト処理の条件は、例えば後述する実施例に記載の条件が挙げられる。表面層を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、CVD法等によって形成する方法が挙げられる。
【実施例
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0099】
≪切削工具の作製≫
<第1工程:基材を準備する工程>
基材として、TaC(2.0質量%)、NbC(1.0質量%)、Co(10.0質量%)及びWC(残部)からなる組成(ただし不可避不純物を含む。)の超硬合金製切削チップ(形状:CNMG120408N-UX、住友電工ハードメタル株式会社製、JIS B4120(2013))を準備した。
【0100】
<下地層を形成する工程>
後述の第2工程の前に、準備した基材に対し、CVD装置を用いて、表1に記載の原料ガス組成及び成膜条件で下地層を形成させた。なお、成膜時間は表5に示される厚さとなるように適宜調整した。また、下地層の厚さ及び下地層の組成を表5に示す。表5において、下地層の組成は基材に近い順に、厚さと共に記載している。例えば、「TiN(1.0)/TiCN(12.5)/TiCNO(1.5)」との表記は、基材に近い層から順に、TiNの層(厚さ1.0μm)、TiCNの層(厚さ12.5μm)及びTiCNOの層(厚さ1.5μm)が形成されていることを意味する。
【0101】
【表1】
【0102】
<第2工程:基材上に第一アルミナ層を形成する工程>
準備した基材、又は下地層が形成された基材に対し、CVD装置を用いて、第一アルミナ層を形成させて、後工程の第3工程に移った。第一アルミナ層の形成条件を表2に示す。表2に示されるように、「核生成」(序盤)、「結晶成長」(中盤)、「N含有層形成」(終盤)の各段階に応じて、原料ガスの組成を変化させて第一アルミナ層を成膜した。試料101及び103については、「N含有層形成」(終盤)における原料ガスを用いずに、「核生成」(序盤)、及び「結晶成長」(中盤)の二段階で第一アルミナ層を成膜した。なお、成膜時間は表5に示される厚さとなるように適宜調整した。また、第一アルミナ層の厚さ及び第一アルミナ層の組成を表5に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
<第3工程:第一アルミナ層の直上にチタン化合物層を形成する工程>
次に、上記第一アルミナ層が形成された基材に対し、CVD装置を用いて、第一アルミナ層の直上にチタン化合物層を形成した。ここで上記第3工程において、上記第一アルミナ層の直上に炭窒化チタンの層を形成させた。チタン化合物層の形成条件を表3に示す。なお、成膜時間は表5に示される厚さとなるように適宜調整した。また、チタン化合物層の厚さ及びチタン化合物層の組成を表5に示す。表5において、チタン化合物層の組成は第一アルミナ層に近い順に、厚さと共に記載している。例えば、「TiCN(5.5)/TiN(2.0)」との表記は、第一アルミナ層に近い層から順に、TiCNの層(厚さ5.5μm)及びTiNの層(厚さ2.0μm)が形成されていることを意味する。
【0105】
【表3】
【0106】
<第4工程:チタン化合物層の直上に第二アルミナ層を形成する工程>
次に、上記チタン化合物層が形成された基材に対し、CVD装置を用いて、チタン化合物層の直上に第二アルミナ層を形成した。第二アルミナ層の形成条件を表4に示す。なお、成膜時間は表5に示される厚さとなるように適宜調整した。また、第二アルミナ層の厚さ及び第二アルミナ層の組成を表5に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
<表面層を形成する工程>
上記第二アルミナ層が形成された基材に対し、CVD装置を用いて、表面層を形成させた。表面層の形成条件を以下に示す。また、表面層の厚さ及び組成を表5に示す。なお、表5において「-」で示されている箇所は、該当する層が設けられていないことを意味する。
(TiNの場合)
原料ガス組成:TiCl(8.0vol%)、N(35.0vol%)、H(残部)
全ガス流量:60L/min
圧力 :300hPa
温度 :1005℃
(TiCの場合)
原料ガス組成:TiCl(3.5vol%)、CH(4.5vol%)、H(残部)
全ガス流量:40L/min
圧力 :80hPa
温度 :1005℃
【0109】
<ブラスト処理を行う工程>
最後に、すくい面中央の貫通穴を軸中心として90rpmで、上記切削工具を回転させながら、以下の条件で被膜に対してブラスト処理を行った。
ブラスト処理の条件
メディア:砥粒となる粒径100μmのセラミックス粒子を7体積%含む水溶媒
投射角度:回転軸に対し45°
投射距離:刃先稜線部から10mmの距離
投射圧力:0.05~0.10MPa
投射時間:5~20秒間
投射圧力及び投射時間は、表6に示される残留応力となるように調整した。
【0110】
【表5】
【0111】
以上の手順によって、試料1~12及び試料101~103の切削工具を作製した。
【0112】
≪切削工具の特性評価≫
上述のようにして作製した試料の切削工具を用いて、以下のように、切削工具の各特性を評価した。ここで、試料1~12は実施例に相当し、試料101~103は比較例に相当する。
【0113】
<被膜を構成する各層の厚さの測定>
被膜を構成する各層の厚さは、電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテク製、商品名:SU3500)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の10点を測定し、測定された10点の厚さの平均値をとることで求めた。このとき上記断面サンプルの測定断面をイオンミリング処理(株式会社日立ハイテク製、商品名:IM4000)により研磨してから測定した。結果を表5、表6に示す。
【0114】
<第一アルミナ層の界面領域及び非界面領域における窒素の含有割合(AES測定)>
第一アルミナ層の界面領域及び非界面領域における各元素(酸素、窒素、アルミニウム)の原子割合は、上述の基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルに対して、オージェ電子分光法(AES法)によって線分析を行うことで求めた。具体的には、まず、クロスセクションポリッシャ加工によって上記断面サンプルの切断面を研磨した。研磨した切断面に対して、電解放出型走査顕微鏡(FE-SEM)を用いた分析によって下地層、第一アルミナ層及びチタン化合物層における断面SEM像を得た。このときの測定倍率は、50000倍であった。このとき、下地層、及びチタン化合物層が暗い領域として観察され、第一アルミナ層が明るい領域として観察される。次に、上記断面SEM像における視野で、上記チタン化合物層の積層方向に平行な方向でチタン化合物層側から第一アルミナ層側に向かって、上記研磨した切断面に対してAES法によって線分析を行った。このときの測定ピッチは、0.016μmであった。AES法のその他の測定条件は、以下の条件であった。
(AES法の測定条件)
測定装置 :アルバック・ファイ社製、商品名:PHI700
測定加速電圧:10kV
測定電流 :10mA
試料傾斜角度:30°
スパッタ電圧:1kV
【0115】
上述の線分析によって得られたデータからグラフを作成した。上記グラフにおいて、X軸(横軸)は測定開始点からの距離を示し、Y軸(縦軸)は、測定対象の各元素の原子割合(at%)を示すようにした。次に、このグラフに基づいてアルミニウムの原子割合が10at%となる地点であって、上記チタン化合物層により近い地点を「第一アルミナ層とチタン化合物層との界面S」とした(例えば、図4参照)。また、当該界面Sから上記第一アルミナ層の側に0.5μm離れた地点含む平面を「仮想平面A」とした(例えば、図4参照)。上記グラフにおいて、アルミニウムの原子割合が10at%となる地点であって、上記基材により近い地点を「第一アルミナ層の基材側の界面Q」とした(図4参照)。そして、上記グラフに基づいて界面Sと仮想平面Aとに挟まれた領域(界面領域)における上記窒素の原子割合の平均値、及び仮想平面Aと界面Qとに挟まれた領域(非界面領域)における上記窒素の原子割合の平均値をそれぞれ求めた。このような測定を3回行い、各測定で求められた値の平均値を、それぞれその第一アルミナ層の界面領域における窒素の含有割合、及びその第一アルミナ層の非界面領域における窒素の含有割合とした。結果を表6に示す。
【0116】
<チタン化合物層における残留応力>
上述の2θ-sinψ法により、以下の条件でチタン化合物層における残留応力を測定した。結果を表6に示す。表6中、マイナスの数値で表される残留応力は圧縮残留応力を意味し、プラスの数値で表される残留応力は引張残留応力を意味する。
装置 :SmartLab(株式会社リガク製)
X線 :Cu/Kα/45kV/200mA
測定回折面:(331)面
カウンタ:D/teX Ultra250(株式会社リガク製)
走査範囲:72°~74°(傾斜法)
【0117】
【表6】
【0118】
≪切削試験≫
(切削評価1:連続加工試験、耐摩耗性の評価)
上述のようにして作製した試料(試料1~12及び試料101~103)の切削工具を用いて、以下の切削条件により、逃げ面の摩耗量が0.3mmとなるまでの切削時間(分)を測定した。その結果を表6に示す。切削時間が長いほど耐摩耗性に優れる切削工具として評価することができる。
連続加工の切削条件
被削材 :S25C(形状:丸棒材)
切削速度:300m/min
送り速度:0.2mm/rev
切込み :1.5mm
切削油 :あり
【0119】
(切削評価2:面品位の評価)
また上記切削試験において切削加工を開始して1分後における被削材の加工面を目視で観察した。観察した加工面における白濁、むしれの状態を元に図6に示す基準でA~Eのランク付けを行った。結果を表6に示す。ランクA~Cを良好な加工面と評価した。切削評価2を行うことで、切削工具の耐溶着性を評価することができる。
【0120】
表6の結果から試料1~12の切削工具(実施例の切削工具)は、切削評価1における切削時間が15分以上の良好な結果が得られた。一方試料101~103の切削工具(比較例の切削工具)は、切削評価1における切削時間が15分未満であった。以上の結果から、実施例の切削工具は、比較例の切削工具に比べて耐摩耗性に優れることが分かった。
【0121】
また、表6の結果から試料1~12の切削工具(実施例の切削工具)は、切削評価2における面品位がランクA~Cであり良好な結果が得られた。一方試料102及び103の切削工具(比較例の切削工具)は、切削評価2における面品位がランクEであった。試料101の切削工具(比較例の切削工具)は、切削評価2における面品位がランクCであったが、上記切削評価1における切削時間が7.5分であり、耐摩耗性と耐溶着性を両立することができなかった。
【0122】
以上の結果から、実施例の切削工具は、比較例の切削工具に比べて耐摩耗性及び耐溶着性に優れることが分かった。
【0123】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0124】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0125】
1 すくい面、 2 逃げ面、 3 刃先稜線部、 10 基材、 20 第一アルミナ層、 21 チタン化合物層、 22 第二アルミナ層、 23 下地層、 30 CVD装置、 31 基材セット治具、 32 反応容器、 33 調温装置、 34 ガス導入口、 35 ガス導入管、 36 噴出孔、 40 被膜、 50 切削工具、 A 第一アルミナ層とチタン化合物層との界面Sから第一アルミナ層の側に0.5μm離れた地点を含む仮想平面A、 R 第一アルミナ層の基材側の界面Q、 S 第一アルミナ層とチタン化合物層との界面S
【要約】
基材と上記基材の上に設けられている被膜とを備える切削工具であって、上記被膜は、上記基材の上に設けられている第一アルミナ層と、上記第一アルミナ層の直上に設けられているチタン化合物層と、上記チタン化合物層の直上に設けられている第二アルミナ層と、を含み、上記第一アルミナ層において上記チタン化合物層に隣接する部分は界面領域を成し、上記第一アルミナ層において上記界面領域ではない部分は非界面領域を成し、上記界面領域における窒素の含有割合は、0.2at%以上10.5at%以下であり、上記非界面領域における窒素の含有割合は、0at%以上0.15at%以下であり、上記チタン化合物層は、上記第一アルミナ層に隣接する炭窒化チタンの層を含む、切削工具。
図1
図2
図3
図4
図5
図6