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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20220906BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20220906BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20220906BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20220906BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/74 G
B60T17/18
H02P29/024
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018087676
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019189190
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武谷 弘隆
(72)【発明者】
【氏名】村田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中野 啓太
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-019233(JP,A)
【文献】特開2013-224128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-17/22
H02P 4/00
H02P 25/08-25/098
H02P 29/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
前記電動ブレーキ装置を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動して、前記モータによる駆動力を前記制動部材に伝える推進軸を、前記所定の条件を満たしていないときに比べて前記被制動部材の側に移動させる位置制御を実行し、
そのときに、前記モータを駆動した後、突入電流終了後の電流値が所定の第1閾値を上回ったときに前記モータの駆動を停止することで、前記位置制御を実行する、制動制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記位置制御を実行後、前記推進軸を、前記被制動部材と逆方向へ戻るように前記モータを所定時間駆動する、請求項に記載の制動制御装置。
【請求項3】
車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
前記電動ブレーキ装置を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動して、前記モータによる駆動力を前記制動部材に伝える推進軸を、前記所定の条件を満たしていないときに比べて前記被制動部材の側に移動させる位置制御を実行し、
そのときに、前記モータを駆動して、前記推進軸を、前記被制動部材と逆方向の所定位置に戻した後、前記被制動部材の方向に第1所定距離分移動させることで、前記位置制御を実行する、制動制御装置。
【請求項4】
車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
前記電動ブレーキ装置を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動して、前記モータによる駆動力を前記制動部材に伝える推進軸を、前記所定の条件を満たしていないときに比べて前記被制動部材の側に移動させる位置制御を実行し、
そのときに、前記モータを駆動してから停止し、その後のモータ回転速度の波形パターンが所定パターン以外になった場合に前記推進軸が目標位置に移動したと判断して前記モータの駆動を終了することで、前記位置制御を実行する、制動制御装置。
【請求項5】
前記モータ回転速度を前記モータの電流値に基いて検出する、請求項に記載の制動制御装置。
【請求項6】
車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
前記電動ブレーキ装置を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動して、前記モータによる駆動力を前記制動部材に伝える推進軸を、前記所定の条件を満たしていないときに比べて前記被制動部材の側に移動させる位置制御を実行し、
そのときに、微小時間単位で前記モータの駆動と停止を繰り返し、モータ回転速度または前記モータの電流値の波形パターンが所定パターン以外になった場合に前記推進軸が目標位置に移動したと判断して前記モータの駆動を終了することで、前記位置制御を実行する、制動制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記位置制御を実行する前に、前記推進軸を前記被制動部材の方向へ第2所定距離分移動するように前記モータを駆動する、請求項から請求項のいずれか一項に記載の制動制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記位置制御を実行する前に、前記液圧ブレーキ装置により発生させた液圧により前記制動部材を前記被制動部材の方向へ第2所定距離分移動させる、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の制動制御装置。
【請求項9】
車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
前記電動ブレーキ装置を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動して、前記モータによる駆動力を前記制動部材に伝える推進軸を、前記所定の条件を満たしていないときに比べて前記被制動部材の側に移動させる位置制御を実行し、
そのときに、前記推進軸を、前記被制動部材の方向へ移動するように前記モータを駆動し、突入電流終了後の電流値が所定の第2閾値を上回ったときに前記モータの駆動を停止した後、前記推進軸を、前記被制動部材と逆方向へ移動するように前記モータを駆動し、電流値が所定の第3閾値を下回ったときに前記モータの駆動を停止することで、前記位置制御を実行する、制動制御装置。
【請求項10】
前記制御部は、
前記位置制御を実行する前、または実行中に、前記被制動部材を前記制動部材が押圧していない状態での前記モータの電流値を検知し、その電流値に基いて前記第1閾値を設定する、請求項に記載の制動制御装置。
【請求項11】
前記制御部は、
前記位置制御を実行する前、または実行中に、前記被制動部材を前記制動部材が押圧していない状態での前記モータの電流値を検知し、その電流値に基いて前記第2閾値および前記第3閾値を設定する、請求項に記載の制動制御装置。
【請求項12】
車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
前記電動ブレーキ装置を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動して、前記モータによる駆動力を前記制動部材に伝える推進軸を、前記所定の条件を満たしていないときに比べて前記被制動部材の側に移動させる位置制御を実行し、
そのときに、前記所定の条件を満たした場合として、複数の前記車輪のうちの1つ以上の前記車輪の前記液圧ブレーキ装置が異常となった場合、または異常が生じると予測された場合に、当該車輪の前記電動ブレーキ装置について前記位置制御を実行する、制動制御装置。
【請求項13】
車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
前記電動ブレーキ装置を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動して、前記モータによる駆動力を前記制動部材に伝える推進軸を、前記所定の条件を満たしていないときに比べて前記被制動部材の側に移動させる位置制御を実行し、
そのときに、前記所定の条件を満たした場合として、制動のための操作部材が所定頻度以上、および/または、所定強度以上で操作された場合に、前記位置制御を実行し、
前記位置制御の実行後に、前記電動ブレーキ装置による前記電動制動力の発生が必要であると判断した場合として、前記操作部材が操作されても前記車両の減速度が所定値未満である場合に、前記モータを駆動して前記制動部材を前記被制動部材に向けて押圧する制動制御を実行する、制動制御装置。
【請求項14】
車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
前記電動ブレーキ装置を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動して、前記モータによる駆動力を前記制動部材に伝える推進軸を、前記所定の条件を満たしていないときに比べて前記被制動部材の側に移動させる位置制御を実行し、
そのときに、前記所定の条件を満たした場合として、前記車両が走行開始前であり、かつ、前記電動制動力が発生していない場合に、前記位置制御を実行する、制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車等の各種の車両に電動駐車ブレーキ(以下、EPB(Electric Parking Brake)ともいう。)が多く採用されている。EPBを制御する制動制御装置は、例えば、モータによって車輪ブレーキ機構を駆動することで電動制動力を発生させる。
【0003】
一般に、EPBは、駐車した車両の意図しない移動を防止するという用途で使われることが多い。走行中の車両を減速させる場合、運転者は、ブレーキペダルを踏むことで液圧ブレーキ機構による液圧制動力を発生させる。このように、EPBは、駐車時における使用を前提としているので、応答性について考慮されていない。そのため、EPBの応答速度は、液圧ブレーキの応答速度に比べて遅い。また、液圧制動力の応答速度を向上させる技術として、事前に車両減速度が発生しない程度の低圧を液圧ブレーキ機構で発生させておくことが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-11081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両の走行時であっても、例えば、緊急時、自動運転時、液圧ブレーキ故障時等、EPBを使用することが有効な場面もあり、EPBの応答速度を速くすることは有益である。また、上述の液圧での応答速度向上方法では、自動加圧制御を実行し続ける必要があり、電力消費の問題があり、EPBで同様の効果を出すことは有益である。
【0006】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、液圧制動力および電動制動力の応答速度を速くすることができる制動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置である。制動制御装置は、前記電動ブレーキ装置を制御する制御部を備え、前記制御部は、所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動して、前記モータによる駆動力を前記制動部材に伝える推進軸を、前記所定の条件を満たしていないときに比べて前記被制動部材の側に移動させる位置制御を実行する。
【0008】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動した後、突入電流終了後の電流値が所定の第1閾値を上回ったときに前記モータの駆動を停止することで、前記位置制御を実行する。
【0009】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記位置制御を実行後、前記推進軸を、前記被制動部材と逆方向へ戻るように前記モータを所定時間駆動する。
【0010】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動して、前記推進軸を、前記被制動部材と逆方向の所定位置に戻した後、前記被制動部材の方向に第1所定距離分移動させることで、前記位置制御を実行する。
【0011】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記所定の条件を満たした場合に、前記モータを駆動してから停止し、その後のモータ回転速度の波形パターンが所定パターン以外になった場合に前記推進軸が目標位置に移動したと判断して前記モータの駆動を終了することで、前記位置制御を実行する。
【0012】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記モータ回転速度を前記モータの電流値に基いて検出する。
【0013】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記所定の条件を満たした場合に、微小時間単位で前記モータの駆動と停止を繰り返し、モータ回転速度または前記モータの電流値の波形パターンが所定パターン以外になった場合に前記推進軸が目標位置に移動したと判断して前記モータの駆動を終了することで、前記位置制御を実行する。
【0014】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記位置制御を実行する前に、前記推進軸を前記被制動部材の方向へ第2所定距離分移動するように前記モータを駆動する。
【0015】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記位置制御を実行する前に、前記液圧ブレーキ装置により発生させた液圧により前記制動部材を前記被制動部材の方向へ第2所定距離分移動させる。
【0016】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記所定の条件を満たした場合に、前記推進軸を、前記被制動部材の方向へ移動するように前記モータを駆動し、突入電流終了後の電流値が所定の第2閾値を上回ったときに前記モータの駆動を停止した後、前記推進軸を、前記被制動部材と逆方向へ移動するように前記モータを駆動し、電流値が所定の第3閾値を下回ったときに前記モータの駆動を停止することで、前記位置制御を実行する。
【0017】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記位置制御を実行する前、または実行中に、前記被制動部材を前記制動部材が押圧していない状態での前記モータの電流値を検知し、その電流値に基いて前記第1閾値を設定する。
【0018】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記位置制御を実行する前、または実行中に、前記被制動部材を前記制動部材が押圧していない状態での前記モータの電流値を検知し、その電流値に基いて前記第2閾値および前記第3閾値を設定する。
【0019】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記所定の条件を満たした場合として、複数の前記車輪のうちの1つ以上の前記車輪の前記液圧ブレーキ装置が異常となった場合、または異常が生じると予測された場合に、当該車輪の前記電動ブレーキ装置について前記位置制御を実行する。
【0020】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記所定の条件を満たした場合として、制動のための操作部材が所定頻度以上、および/または、所定強度以上で操作された場合に、前記位置制御を実行し、前記位置制御の実行後に、前記電動ブレーキ装置による前記電動制動力の発生が必要であると判断した場合として、前記操作部材が操作されても前記車両の減速度が所定値未満である場合に、前記モータを駆動して前記制動部材を前記被制動部材に向けて押圧する制動制御を実行する。
【0021】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記制御部は、前記所定の条件を満たした場合として、前記車両が走行開始前であり、かつ、前記電動制動力が発生していない場合に、前記位置制御を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。
図2図2は、実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系の車輪ブレーキ機構の断面模式図である。
図3図3は、実施形態のEPBにおいて通常のロック制御を行う場合のモータの電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
図4図4は、実施形態のEPBにおいて第1の方法で位置制御を行う場合のモータの電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
図5図5は、実施形態のEPBにおいて第2の方法で位置制御を行う場合のモータの電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
図6図6は、実施形態のEPBにおいて第3の方法で位置制御を行う場合のモータの電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
図7図7は、実施形態のEPBにおいて第4の方法で位置制御を行い、その後にEPBの制動制御を行う場合のモータの電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
図8図8は、実施形態の制動制御装置による処理を示すフローチャートである。
図9図9は、実施形態のEPBにおいて第6の方法で位置制御を行う場合のモータの電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、以下の構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0024】
本実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキ装置を例に挙げて説明する。図1は、実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。図2は、実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系の車輪ブレーキ機構の断面模式図である。以下、これらの図を参照して説明する。
【0025】
図1に示すように、実施形態の車両用ブレーキ装置は、サービスブレーキ1(液圧ブレーキ装置)と、EPB2(電動ブレーキ装置)と、を備えている。
【0026】
サービスブレーキ1は、運転者によるブレーキペダル3の踏み込みに基いて、車輪と一体に回転する被制動部材(図2のブレーキディスク12)に向けて、液圧によって制動部材(図2のブレーキパッド11)を押圧して、サービスブレーキ力(液圧制動力)を発生させる液圧ブレーキ機構である。具体的には、サービスブレーキ1は、運転者によるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという。)5内に発生させる。そして、このブレーキ液圧を各車輪の車輪ブレーキ機構に備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという。)6に伝えることでサービスブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられている。アクチュエータ7は、サービスブレーキ1により発生させるサービスブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行う。
【0027】
アクチュエータ7を用いた各種制御は、サービスブレーキ力を制御するESC(Electronic Stability Control)-ECU8にて実行される。例えば、アクチュエータ7に備えられる図示しない各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流をESC-ECU8が出力することにより、アクチュエータ7に備えられる液圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。例えば、アクチュエータ7は、各車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。また、アクチュエータ7は、サービスブレーキ1の自動加圧機能を実現可能にしており、ポンプ駆動および各種制御弁の制御に基いて、ブレーキ操作がない状態であっても自動的にW/C6を加圧できるようにしている。また、自動加圧機能の応答速度を向上させるため、車両減速度が発生しない程度の低圧を自動加圧機能により予めかけておく制御も考案されている。このアクチュエータ7の構成に関しては、従来から周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0028】
一方、EPB2は、モータ10によって車輪ブレーキ機構を駆動させることで電動制動力を発生させるものであり、モータ10の駆動を制御するEPB制御装置(以下、EPB-ECUという。)9(制動制御装置。制御部)を有して構成されている。具体的には、例えば、EPB2は、駐車時に車両が意図しない移動をしないように、被制動部材(図2のブレーキディスク12)に向けて、モータ10を駆動することによって制動部材(図2のブレーキパッド11)を押圧して、電動制動力を発生させる。なお、EPB-ECU9とESC-ECU8は、例えばCAN(Controller Area Network)通信によって情報の送受信を行う。
【0029】
車輪ブレーキ機構は、本実施形態の車両用ブレーキ装置においてブレーキ力を発生させる機械的構造であり、まず、前輪系の車輪ブレーキ機構はサービスブレーキ1の操作によってサービスブレーキ力を発生させる構造とされている。一方、後輪系の車輪ブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系の車輪ブレーキ機構は、後輪系の車輪ブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基いて電動制動力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられている車輪ブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下では後輪系の車輪ブレーキ機構について説明する。
【0030】
後輪系の車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、図2に示す摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12(12RL、12RR、12FR、12FL)を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
【0031】
具体的には、車輪ブレーキ機構は、図1に示すキャリパ13内において、図2に示すようにブレーキパッド11を押圧するためのW/C6のボディ14に直接固定されているモータ10を回転させることにより、モータ10の駆動軸10aに備えられた平歯車15を回転させる。そして、平歯車15に噛合わされた平歯車16にモータ10の回転力(出力)を伝えることによりブレーキパッド11を移動させ、EPB2による電動制動力を発生させる。
【0032】
キャリパ13内には、W/C6およびブレーキパッド11に加えて、ブレーキパッド11に挟み込まれるようにしてブレーキディスク12の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ14の中空部14a内に通路14bを通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部14a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部14a内に回転軸17、推進軸18、ピストン19などを備えて構成されている。
【0033】
回転軸17は、一端がボディ14に形成された挿入孔14cを通じて平歯車16に連結され、平歯車16が回動させられると、平歯車16の回動に伴って回動させられる。この回転軸17における平歯車16と連結された端部とは反対側の端部において、回転軸17の外周面には雄ネジ溝17aが形成されている。一方、回転軸17の他端は、挿入孔14cに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔14cには、Oリング20と共に軸受け21が備えられており、Oリング20にて回転軸17と挿入孔14cの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされながら、軸受け21により回転軸17の他端を軸支持している。
【0034】
推進軸18は、中空状の筒部材からなるナットにて構成され、内壁面に回転軸17の雄ネジ溝17aと螺合する雌ネジ溝18aが形成されている。この推進軸18は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、回転軸17が回動しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられない構造になっている。このため、回転軸17が回動させられると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、回転軸17の回転力を回転軸17の軸方向に推進軸18を移動させる力に変換する。推進軸18は、モータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標とする電動制動力になったときにモータ10の駆動を停止すれば、推進軸18がその位置で保持され、所望の電動制動力を保持してセルフロック(以下、単に「ロック」という。)できるようになっている。
【0035】
ピストン19は、推進軸18の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ14に形成された中空部14aの内壁面と接するように配置されている。ピストン19の外周面とボディ14の内壁面との間のブレーキ液漏れが生じないように、ボディ14の内壁面にシール部材22が備えられ、ピストン19の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。シール部材22は、ロック制御後のリリース制御時にピストン19を引き戻すための反力を発生させるために用いられる。このシール部材22を備えてあるため、基本的には旋回中に傾斜したブレーキディスク12によってブレーキパッド11およびピストン19がシール部材22の弾性変形量を超えない範囲で押し込まれても、それらをブレーキディスク12側に押し戻してブレーキディスク12とブレーキパッド11との間が所定のクリアランス(図2のクリアランスC2)で保持されるようにできる。
【0036】
また、ピストン19は、回転軸17が回転しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられないように、推進軸18に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸18が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
【0037】
このピストン19の先端にブレーキパッド11が配置され、ピストン19の移動に伴ってブレーキパッド11を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン19は、推進軸18の移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン19の端部(ブレーキパッド11が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸18から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。そして、推進軸18が通常リリースのときの待機位置であるリリース位置(モータ10が回転させられる前の状態)のときに、中空部14a内のブレーキ液圧が付与されていない状態(W/C圧=0)であれば、後述するシール部材22の弾性力によりピストン19が紙面右方向に移動させられ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離間させられるようになっている。また、モータ10が回転させられて推進軸18が初期位置から紙面左方向に移動させられているときには、W/C圧が0になっても、移動した推進軸18によってピストン19の紙面右方向への移動が規制され、ブレーキパッド11がその場所で保持される。なお、図2のクリアランスC1は、推進軸18の先端とピストン19の間の距離を示す。EPBのリリース完了後、推進軸18は、ボディ14に対し位置固定される。一方、ピストン19は、その後の液圧制動時の温度などの環境変化によりブレーキ液圧が付与されない状態での位置が変わるため、クリアランスC1が変動する。変動してもクリアランスC2が保持できるようクリアランスC1を余分に戻すようにEPBのリリース制御をしており、応答時間が長くなる要因となっている。
【0038】
このように構成された車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基いてピストン19が紙面左方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、サービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2が操作されると、モータ10が駆動されることで平歯車15が回転させられ、それに伴って平歯車16および回転軸17が回転させられるため、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基いて推進軸18がブレーキディスク12側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴って推進軸18の先端がピストン19に当接してピストン19を押圧し、ピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、電動制動力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の車輪ブレーキ機構とすることが可能となる。
【0039】
なお、実施形態の車両用ブレーキ装置では、モータ10の電流を検出する電流センサ(不図示)による電流検出値を確認することにより、EPB2による電動制動力の発生状態を確認したり、その電流検出値を認識したりすることができるようになっている。
【0040】
前後Gセンサ25は、車両の前後方向(進行方向)のG(加速度)を検出し、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0041】
M/C圧センサ26は、M/C5におけるM/C圧を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0042】
温度センサ28は、車輪ブレーキ機構(例えばブレーキディスク)の温度を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0043】
車輪速センサ29は、各車輪の回転速度を検出し、検出信号をEPB-ECU9に送信する。なお、車輪速センサ29は、実際には各車輪に対応して1つずつ設けられるが、ここでは、詳細な図示や説明を省略する。
【0044】
EPB-ECU9は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってモータ10の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。
【0045】
EPB-ECU9は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作スイッチ(SW)23の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてモータ10を駆動する。さらに、EPB-ECU9は、モータ10の電流検出値に基いてロック制御やリリース制御などを実行するものであり、その制御状態に基いてロック制御中であることやロック制御によって車輪がロック状態であること、および、リリース制御中であることやリリース制御によって車輪がリリース状態(EPB解除状態)であることを認識する。そして、EPB-ECU9は、インストルメントパネルに備えられた表示ランプ24に対し、各種表示を行わせるための信号を出力する。
【0046】
以上のように構成された車両用ブレーキ装置では、基本的には、車両走行時にサービスブレーキ1によってサービスブレーキ力を発生させることで車両に制動力を発生させるという動作を行う。また、サービスブレーキ1によって車両が停車した際に、運転者が操作SW23を押下してEPB2を作動させて電動制動力を発生させることで停車状態を維持したり、その後に電動制動力を解除したりするという動作を行う。すなわち、サービスブレーキ1の動作としては、車両走行時に運転者によるブレーキペダル3の操作が行われると、M/C5に発生したブレーキ液圧がW/C6に伝えられることでサービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2の動作としては、モータ10を駆動することでピストン19を移動させ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けることで電動制動力を発生させて車輪をロック状態にしたり、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離すことで電動制動力を解除して車輪をリリース状態にしたりする。
【0047】
具体的には、ロック・リリース制御により、電動制動力を発生させたり解除したりする。ロック制御では、モータ10を正回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて所望の電動制動力を発生させられる位置でモータ10の回転を停止し、この状態を維持する。これにより、所望の電動制動力を発生させる。リリース制御では、モータ10を逆回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて発生させられている電動制動力を解除する。
【0048】
また、車両の走行時であっても、例えば、緊急時、自動運転時、サービスブレーキ1の故障時等、EPB2を使用することが有効な場面もある。そして、車両の走行時にEPB2を使用する場合は、EPB2の応答速度が速いことが好ましい。そのために、EPB-ECU9は、所定の条件(詳細は後述)を満たした場合に、モータ10を駆動して、モータ10による駆動力をブレーキパッド11に伝える推進軸18を、所定の条件を満たしていないときに比べてブレーキディスク12の側に移動させる位置制御を実行する。また、EPB-ECU9は、位置制御の実行後に、EPB2による電動制動力の発生が必要であると判断した場合、モータ10を駆動してブレーキパッド11をブレーキディスク12に向けて押圧する制動制御を実行する。
【0049】
上述したEPB-ECU9の処理の流れは、図8の通りである。図8に示すように、まず、EPB-ECU9は、所定の条件を満たしたか否かを判定し(ステップS1)、Yesの場合はステップS2に進み、Noの場合はステップS1に戻る。
【0050】
ステップS2において、EPB-ECU9は、上述のEPB2の位置制御を実行する。次に、EPB-ECU9は、EPB2の電動制動力の発生が必要か否かを判定し(ステップS3)、Yesの場合はステップS4に進み、Noの場合はステップS3に戻る。ステップS4において、EPB-ECU9は、上述のEPB2の制動制御を実行する。以下、位置制御と制動制御について詳述する。
【0051】
まず、位置制御に関して、上述の所定の条件を満たした場合とは、例えば、EPB2が間もなく使用される可能性があると考えられる状況になった場合のことであり、車両への制動要求があったことである。制動要求としては、例えば、以下の(1)~(7)が考えられる。
(1)運転者によるブレーキペダル3の操作(例えば、所定頻度以上、および/または、所定強度以上で操作されたこと)
(2)運転者によるEPB2の作動のための操作SW23の操作
(3)運転者によるシフトダウンの操作
(4)障害物検出による減速指示
(5)駐車制御中の減速指示
(6)停車目標位置への減速指示
(7)サービスブレーキ1の異常の検出
【0052】
ほかにも、上述の所定の条件を満たした場合とは、例えば、車両への制動準備要求があったことである。制動準備要求としては、例えば、以下の(11)~(16)が考えられる。
(11)運転者のアクセルOFF操作
(12)運転者による自動駐車システムの開始の指示
(13)Rレンジでの始動、他レンジからRレンジへの変更
(14)車両システムによる障害物検出
(15)自動駐車システムのスタンバイ状態
(16)車速維持制御に関わる異常の検出
【0053】
また、制動制御に関して、EPB2による電動制動力の発生が必要であると判断した場合とは、例えば、以下の(21)~(23)の場合である。
(21)ブレーキペダル3が操作されても車両の減速度が所定値未満であること
(22)サービスブレーキ1によって制動を実行している場合で、目標減速度と実減速度に一定以上の差があること
(23)運転者によるEPB2の作動のための操作SW23の操作の後、実際にEPB2を作動させる状況となった場合
【0054】
次に、位置制御の具体例の前に、比較のために、図3を参照して、EPB2において通常のロック制御を行う場合のモータ10の電流検出値の変化の様子について説明する。図3は、実施形態のEPB2において通常のロック制御を行う場合のモータ10の電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
【0055】
図3のグラフにおいて、縦軸はモータ10の電流検出値(A)を表し、横軸は時間(ms)を表している(図4図5図6も同様)。以下、モータ10の電流検出値を単に「電流値」と称する場合がある。時刻t1でモータ10の駆動が開始され、時刻t2で突入電流の電流値がピークとなり、時刻t3に電流値が安定値となる。その後、時刻t4に電流値が上昇を開始する。この電流値の上昇の開始の理由としては、例えば、図2の推進軸18の先端がピストン19に当接したこと(つまり、クリアランスC1がゼロになったこと)が考えられる。あるいは、推進軸18の先端がピストン19に当接してもモータ10への負荷の上昇が小さい場合は、この電流値の上昇の開始の理由としては、図2のブレーキパッド11がブレーキディスク12に当接したこと(つまり、クリアランスC2がゼロになったこと)が考えられる。以下では、一例として、図2の推進軸18の先端がピストン19に当接した場合にモータ10の電流検出値が上昇を開始するものとして説明する。
【0056】
時刻t4の後、時刻t5まで電流値は上昇を続け、時刻t5で、突入電流終了後の電流値がロック制御用閾値を上回ると、モータ10の電流がオフされ、その直後の時刻t6に電流値はゼロとなる。つまり、時刻t6の時点で通常のロック制御が完了する。
【0057】
(第1の方法)
次に、図4を参照して、EPB2において第1の方法で位置制御を行う場合のモータ10の電流検出値の変化について説明する。図4は、実施形態のEPB2において第1の方法で位置制御を行う場合のモータ10の電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
【0058】
上述したように、EPB-ECU9は、所定の条件を満たした場合に、モータ10を駆動して、モータ10による駆動力をブレーキパッド11に伝える推進軸18を、所定の条件を満たしていないときに比べてブレーキディスク12の側に移動させる位置制御を実行する。この第1の方法では、EPB-ECU9は、所定の条件を満たした場合に、モータ10を駆動した後、突入電流終了後の電流値が所定の第1閾値を上回ったときにモータ10の駆動を停止することで、位置制御を実行する。具体的には、次の通りである。
【0059】
まず、時刻t11でモータ10の駆動が開始され、時刻t12で突入電流の電流値がピークとなり、時刻t13に電流値が安定値となる。その後、時刻t14に電流値が上昇を開始する。その後、時刻t15で突入電流終了後の電流値が第1閾値を上回ると、モータ10の電流がオフされ、その直後の時刻t16に電流値はゼロとなる。
【0060】
このようにして、第1の方法によれば、推進軸18をブレーキディスク12の側に移動させる位置制御を実行することができる。したがって、液圧制動力および電動制動力の応答速度を速くすることができる。例えば、EPB2による制動制御の実行前に、図2のクリアランスC1やクリアランスC2を小さくしておくことで、その後にEPB2による制動制御を実行する場合の応答速度を速くすることができる。
【0061】
なお、EPB-ECU9は、例えば、位置制御を実行する前、または実行中に、ブレーキディスク12をブレーキパッド11が押圧していない状態でのモータ10の電流値(例えば、図4の時刻t13~時刻t14の電流値)を検知し、その電流値に基いて第1閾値を設定することができる。
【0062】
また、EPB-ECU9は、上述の位置制御を実行後、推進軸18を、ブレーキディスク12と逆方向へ戻るようにモータ10を所定時間駆動するようにしてもよい。そうすれば、上述の位置制御の実行後に、モータ10の電流値が第1閾値を上回るまで作動させたことにより発生する微小な制動力が問題となる場合に、不要な制動力の発生を防ぐことができる。
【0063】
(第2の方法)
次に、図5を参照して、EPB2において第2の方法で位置制御を行う場合のモータ10の電流検出値の変化について説明する。図5は、実施形態のEPB2において第2の方法で位置制御を行う場合のモータ10の電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
【0064】
この第2の方法では、EPB-ECU9は、所定の条件を満たした場合に、モータ10を駆動して、推進軸18を、ブレーキディスク12と逆方向の所定位置に戻した(いわゆるフルリリースをした)後、ブレーキディスク12の方向に第1所定距離分移動させることで、位置制御を実行する。具体的には、次の通りである。
【0065】
まず、図5(a)を参照してフルリリースについて説明する。時刻t21でモータ10の駆動(推進軸18を図2の右側へ移動させるための駆動)が開始され、時刻t22に電流値が安定値となる。その後、時刻t23に電流値が上昇を開始する。この電流値の上昇の開始の理由は、図2の推進軸18の右側が他の部材に当接したことである。その後、時刻t24で、時刻t22以降で電流値が初めて第4閾値を上回ると、モータ10の電流がオフされ、その直後の時刻t25に電流値はゼロとなる。この時刻t25の時点でフルリリースが完了している。
【0066】
次に、図5(b)を参照して位置制御について説明する。時刻t31でモータ10の駆動が開始され、時刻t32で突入電流の電流値がピークとなり、時刻t33に電流値が安定値となる。その後、時刻t31から所定時間T1が経過した時刻t34でモータ10の電流がオフされ、その直後の時刻t35に電流値はゼロとなる。
【0067】
このようにして、第2の方法によれば、推進軸18をブレーキディスク12の側に移動させる位置制御を実行することができる。また、所定時間T1を予め設定しておくことで、位置制御において、電流値の上昇の検知することなくモータ10の電流をオフすることができる。
【0068】
(第3の方法)
次に、図6を参照して、EPB2において第3の方法で位置制御を行う場合のモータ10の電流検出値の変化について説明する。図6は、実施形態のEPB2において第3の方法で位置制御を行う場合のモータの電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
【0069】
この第3の方法では、EPB-ECU9は、所定の条件を満たした場合に、微小時間単位でモータ10の駆動と停止を繰り返し、電流値の波形パターンが所定パターン以外になった場合に推進軸18が目標位置に移動したと判断してモータ10の駆動を終了することで、位置制御を実行する。具体的には、次の通りである。
【0070】
図6では、モータ10を駆動させている時間帯を「ON」と表し、モータ10を停止している時間帯(厳密には、モータ10の電流を切った後に惰性で少し動く時間帯も含む。)を「OFF」と表している。つまり、時刻t41、t43、t45、t47、t49がモータ10の電流を入れたタイミングであり、時刻t42、t44、t46、t48、t50がモータ10の電流を切ったタイミングである。そして、時刻t49~t50の時間帯に、図2の推進軸18の先端がピストン19に当接したことで、時刻t49以降の波形パターンがそれまでと異なっている。
【0071】
より具体的には、例えば、時刻t42、t44、t46、t48のそれぞれの直後の電流の変化率(減少速度)は同様であり、t50の直後の電流の変化率はそれらと異なっていることで、図2の推進軸18の先端がピストン19に当接したことを判定できる。したがって、時刻t50の直後の時点でモータ10の駆動を終了する。
【0072】
このようにして、第3の方法によれば、微小時間単位でモータ10の駆動と停止を繰り返し、電流値の波形パターンの変化に基いてモータ10の駆動を終了することで、位置制御を実行することができる。
【0073】
なお、上述の例では、電流値の波形パターンによって判定することとしたが、これに限定されず、モータ回転速度の波形パターンによって判定してもよい。
【0074】
また、EPB-ECU9は、所定の条件を満たした場合に、最初から微小時間単位でモータ10の駆動と停止を繰り返すのではなく、モータ10を駆動してから停止し、その後のモータ回転速度の波形パターンが所定パターン以外になった場合に推進軸18が目標位置に移動したと判断してモータ10の駆動を終了することで、位置制御を実行してもよい。
【0075】
具体的には、例えば、EPB-ECU9は、位置制御を実行する前に、推進軸18をブレーキディスク12の方向へ第2所定距離分移動するようにモータ10を駆動する。あるいは、例えば、EPB-ECU9は、位置制御を実行する前に、サービスブレーキ1(液圧ブレーキ装置)により発生させた液圧によりブレーキパッド11をブレーキディスク12の方向へ第2所定距離分移動させる。
【0076】
(第4の方法)
次に、EPB2において第4の方法で位置制御を行う場合について説明する。EPB-ECU9は、所定の条件を満たした場合として、複数の車輪のうちの1つ以上の車輪のサービスブレーキ1が異常となった場合に、または異常が生じると予測された場合に、当該車輪のEPB2について位置制御を実行する。
【0077】
例えば、車両に2つの前輪と2つの後輪があって、2つの前輪にはサービスブレーキ1が備えられ、2つの後輪にはサービスブレーキ1とEPB2の両方が備えられているものとする。その場合、EPB-ECU9は、2つの後輪のサービスブレーキ1の故障を検知すると、その2つの後輪のEPB2について位置制御を実行する。そして、EPB-ECU9は、車両または運転者から減速要求があった場合、2つの前輪についてはサービスブレーキ1による液圧制動力を発生させ、2つの後輪についてはEPB2による電動制動力を発生させる。この場合、2つの後輪については予め位置制御がなされているので、EPB2の応答速度は速い。
【0078】
このようにして、第4の方法によれば、サービスブレーキ1が異常となった(または異常が生じると予測された(以下同様))車輪のEPB2について位置制御を実行することで、当該車輪について速い応答速度でEPB2による電動制動力を発生させることができる。なお、EPB2が備えられている車輪の箇所や、サービスブレーキ1が異常となったときに位置制御を実行する車輪の箇所は上述の例に限定されず、例えば、EPB2がすべての車輪に備えられ、サービスブレーキ1が異常となったすべての車輪のEPB2について位置制御を実行するようにしてもよい。
【0079】
(第5の方法)
次に、図7を参照して、EPB2において第5の方法で位置制御を行い、その後にEPB2の制動制御を行う場合のモータ10の電流検出値の変化について説明する。図7は、実施形態のEPB2において第5の方法で位置制御を行い、その後にEPB2の制動制御を行う場合のモータ10の電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
【0080】
この第5の方法では、EPB-ECU9は、所定の条件を満たした場合として、ブレーキペダル3が所定頻度以上、および/または、所定強度以上で操作された場合に、位置制御を実行する。また、EPB-ECU9は、位置制御の実行後に、EPB2による電動制動力の発生が必要であると判断した場合として、ブレーキペダル3が操作されても車両の減速度が所定値未満である場合に、制動制御を実行する。具体的には、次の通りである。
【0081】
図7(a)のグラフにおいて、縦軸は、減速要求、つまり、ここでは例として運転者がブレーキペダル3を操作したか否かを「ON(操作している)」と「OFF(操作していない)」で表しており、横軸は時間(ms)を表している。
【0082】
図7(b)のグラフにおいて、縦軸は発生減速度を表し、横軸は時間(ms)を表している。なお、図7(b)のグラフでは、発生減速度が、時刻t70以前は、自然発生分(機械抵抗等による減速度)のみしか発生していないこと、つまり、ブレーキペダル3を操作しても液圧制動力が発生していないことを示している。
【0083】
図7(c)のグラフにおいて、縦軸はモータ10の電流検出値(A)を表し、横軸は時間(ms)を表している。
【0084】
まず、時刻t61~時刻t65の間、運転者はブレーキペダル3を操作している(踏んでいる)(図7(a))。その場合、EPB-ECU9は、例えば、時刻t62の時点で、ブレーキペダル3が所定強度以上で操作されたものとして、位置制御を開始する。つまり、時刻t62でモータ10の駆動が開始され、時刻t63でモータ10の電流がオフされ、その直後の時刻t64に電流値はゼロとなる。これにより位置制御が完了する。この時刻t62~t64で実行する位置制御は図4の場合と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0085】
その後、時刻t66~時刻t67の間、および、時刻t68~時刻t73の間、運転者はブレーキペダル3を操作している(踏んでいる)(図7(a))。そこで、時刻t69の時点で、EPB-ECU9は、EPB2による電動制動力の発生が必要であると判断した場合として、ブレーキペダル3が操作されても車両の減速度が所定値未満である等の条件を満たしたものとして、制動制御を実行する。具体的には、次の通りである。
【0086】
時刻t69でモータ10の駆動が開始され、時刻t70に電流値が上昇を開始する。その後、時刻t71まで電流値は上昇を続け、時刻t71でモータ10の電流がオフされ、その直後の時刻t72に電流値はゼロとなる。つまり、時刻t72の時点で制動制御が完了する。この時刻t69~t72で実行する制動制御は図3の場合と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0087】
このようにして、第5の方法によれば、例えば、いずれかの車輪のサービスブレーキ1が故障していて、EPB-ECU9は、その故障を検出していなくても、ブレーキペダル3の操作に基いて位置制御を実行するとともに、ブレーキペダル3が操作されても車両の減速度が所定値未満である等の条件に基いてEPB2の制動制御を実行する。これにより、応答速度の速いEPB2による制動制御を実現できる。つまり、時刻t62~t64に位置制御を実行していることで、制動制御を実行する場合の制動制御開始の時刻t69から電流値の上昇開始の時刻t70までの時間が短くなっている。
【0088】
なお、上述の所定頻度や所定強度の情報は、予め設定しておいてもよいし、あるいは、運転者による運転操作と車両挙動の履歴に基いて学習して設定するようにしてもよい。
【0089】
(第6の方法)
次に、図9を参照して、EPB2において第6の方法で位置制御を行う場合のモータ10の電流検出値の変化について説明する。図9は、実施形態のEPB2において第6の方法で位置制御を行う場合のモータ10の電流検出値の変化の様子を示すグラフである。
【0090】
この第6の方法では、EPB-ECU9は、所定の条件を満たした場合に、推進軸18を、ブレーキディスク12の方向へ移動するようにモータ10を駆動し、突入電流終了後の電流値が所定の第2閾値を上回ったときにモータ10の駆動を停止した後、推進軸18を、ブレーキディスク12と逆方向へ移動するようにモータ10を駆動し、電流値が所定の第3閾値を下回ったときにモータ10の駆動を停止することで、位置制御を実行する。具体的には、次の通りである。
【0091】
まず、時刻t81でモータ10の駆動が開始され、時刻t82で突入電流の電流値がピークとなり、時刻t83に電流値が安定値(A1)となる。その後、時刻t84に電流値が上昇を開始する。その後、時刻t85で突入電流終了後の電流値が第2閾値を上回ると、モータ10の電流がオフされ、その直後の時刻t86に電流値はゼロとなる。
【0092】
その後、時刻t87でモータ10の駆動(推進軸18を図2の右側へ移動させるための駆動)が開始され、時刻t88で突入電流の電流値がピークとなる。その後、時刻t89で電流値の減少速度が緩やかになり、時刻t90で電流値が第3閾値を下回ったときにモータ10の電流がオフされ、その直後の時刻t91に電流値はゼロとなる。
【0093】
このようにして、第6の方法によれば、モータ10の電流検出値に基いて推進軸18を適切な位置にセットできる。
【0094】
なお、EPB-ECU9は、例えば、位置制御を実行する前、または実行中に、ブレーキディスク12をブレーキパッド11が押圧していない状態でのモータ10の電流値(A1)を検知し、その電流値に基いて第2閾値および第3閾値を設定することができる。例えば、第3閾値は、リリースを検出するための閾値なので、図9の電流検出値A1よりも少し大きい値に設定することができる。これにより、車輪ブレーキ機構の製造ばらつきや環境条件(温度等)による影響を小さく抑えることができる。
【0095】
(変形例)
次に、変形例について説明する。例えば、EPB-ECU9は、所定の条件を満たした場合として、車両が走行開始前であり、かつ、電動制動力が発生していない場合に、位置制御を実行するようにしてもよい。そうすれば、その後に車両が走行した場合に、速い応答速度の液圧制動力や電動制動力を実現することができる。
【0096】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態はあくまで例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、数等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0097】
例えば、上述の第1の方法では、位置制御を実行するときに、電流値が第1閾値を上回ったときにモータ10の駆動を停止することとしたが、これに限定されず、例えば、そのモータ10の駆動の停止の直後に少しだけモータ10を逆回転方向に駆動して推進軸18を少し戻してもよい。
【0098】
また、上述の第2の方法では、位置制御において、推進軸18を、フルリリース後にブレーキディスク12の方向に第1所定距離分移動させる場合に、モータ10の電流を流す時間を所定時間T1とすることで実現したが、これに限定されず、電流値の積算値やモータ10の回転数等に基いて実現してもよい。
【0099】
また、上述の第3の方法では、モータ10の電流をオフにした直後の電流の変化率(減少速度)で、図2の推進軸18の先端がピストン19に当接したことの判定を行ったが、これに限定されず、例えば、モータ10の電流をオフにした直後のモータ10の回転数の変化率(減少速度)で当該判定を行ってもよい。また、モータ10の電流をオンにしている間の波形パターンに基いて当該判定を行ってもよい。
【0100】
また、上述の実施形態では、ディスクブレーキタイプのEPBの場合を例にとって説明したが、ドラムブレーキタイプのEPBにも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1…サービスブレーキ、2…EPB、5…M/C、6…W/C、7…アクチュエータ、8…ESC-ECU、9…EPB-ECU、10…モータ、11…ブレーキパッド(制動部材)、12…ブレーキディスク(被制動部材)、13…キャリパ、14…ボディ、14a…中空部、14b…通路、17…回転軸、17a…雄ネジ溝、18…推進軸、18a…雌ネジ溝、19…ピストン、23…操作SW、24…表示ランプ、25…前後Gセンサ、26…M/C圧センサ、28…温度センサ、29…車輪速センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9