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特許7135471頭部外傷リスク評価装置及び評価システム
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  • 特許-頭部外傷リスク評価装置及び評価システム 図1
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  • 特許-頭部外傷リスク評価装置及び評価システム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】頭部外傷リスク評価装置及び評価システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/08 20060101AFI20220906BHJP
   G09B 23/28 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
G01M7/08 B
G09B23/28
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018111215
(22)【出願日】2018-06-11
(65)【公開番号】P2019215184
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-05-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年12月14日京都大学百周年時計台記念館において開催された第30回バイオエンジニアリング講演会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年12月13日に発行された第30回バイオエンジニアリング講演会 講演論文集にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐介
(72)【発明者】
【氏名】粟森 渉哉
(72)【発明者】
【氏名】雨森 一朗
(72)【発明者】
【氏名】小ケ口 晃
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0261416(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0330599(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0296897(US,A1)
【文献】特開2002-257653(JP,A)
【文献】実開昭49-068136(JP,U)
【文献】特開2011-164346(JP,A)
【文献】特開2011-164030(JP,A)
【文献】特開2004-303220(JP,A)
【文献】実開昭54-027754(JP,U)
【文献】稲次基希 ほか3名,交通事故における、回転外力脳損傷のメカニズムの検討,研究結果報告書集-第18巻・2012年度研究助成-,第18巻,2014年07月,P.1-4,<URL : https://www.ms-ins.com/welfare/document/list/pdf/2012/1_1_01.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 5/00- 7/08
G09B 23/00- 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの頭蓋骨形状のシェルと、
該シェル内に収容された、ヒトの脳形状の軟質体と、
該シェルに取り付けられた第1センサと、
該軟質体内に配置された第2センサとを有し、
前記シェルは、前頭部、頭頂部、後頭部及び側頭部を構成するシェル本体と、
該シェル本体に着脱可能な、鼻部及びその周囲を構成するシェルノーズとを有しており、
該シェル本体には、頭蓋底部に位置するベースボトム、及び、該ベースボトムの前縁と該シェル本体の前頭部下縁とを連結するベースフロントが一体に設けられており、
該ベースフロントに前記第1センサが保持されており、
前記シェル本体は、一部が着脱可能な蓋状部分となっており、該蓋状部分を取り外してシェル内に前記軟質体が出し入れ可能となっていることを特徴とする頭部外傷リスク評価装置。
【請求項2】
前記蓋状部分の外周縁が曲線状に延在していることを特徴とする請求項の頭部外傷リスク評価装置。
【請求項3】
ヒトの頭蓋骨形状のシェルと、
該シェル内に収容された、ヒトの脳形状の軟質体と、
該シェルに取り付けられた第1センサと、
該軟質体内に配置された第2センサとを有し、
前記シェルは、前頭部、頭頂部、後頭部及び側頭部を構成するシェル本体と、
該シェル本体に着脱可能な、鼻部及びその周囲を構成するシェルノーズとを有しており、
該シェル本体には、頭蓋底部に位置するベースボトム、及び、該ベースボトムの前縁と該シェル本体の前頭部下縁とを連結するベースフロントが一体に設けられており、
該ベースフロントに前記第1センサが保持されており、
該ベースフロントに凹部が前面側から凹設され、
該凹部に前記第1センサが挿入されており、
前記凹部に挿入された前記第1センサが前記シェルノーズで押さえつけられていることを特徴とする頭部外傷リスク評価装置。
【請求項4】
ヒトの頭蓋骨形状のシェルと、
該シェル内に収容された、ヒトの脳形状の軟質体と、
該シェルに取り付けられた第1センサと、
該軟質体内に配置された第2センサとを有し、
該軟質体は、シリコーンゲル製であり、
該シリコーンゲルが界面活性剤を含有することを特徴とする頭部外傷リスク評価装置。
【請求項5】
前記軟質体の左脳相当部分と右脳相当部分との間の一部に大脳鎌形状の縦仕切板が配置され、
前記軟質体の大脳相当部分と小脳相当部分との間の一部に小脳テント形状の横仕切板が配置されていることを特徴とする請求項1~のいずれか1項の頭部外傷リスク評価装置。
【請求項6】
前記軟質体のうち、左脳相当部分と右脳相当部分とにそれぞれ前記第2センサが配置されていることを特徴とする請求項1~のいずれか1項の頭部外傷リスク評価装置。
【請求項7】
前記軟質体の外面と前記シェルの内面との間に、軟膜形状のフィルムが介在されていることを特徴とする請求項1~のいずれか1項の頭部外傷リスク評価装置。
【請求項8】
前記シェルは、ポリカーボネート樹脂製であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項の頭部外傷リスク評価装置。
【請求項9】
前記シェルの外面を被包する、皮膚形状のカバーを有する請求項1~のいずれか1項の頭部外傷リスク評価装置。
【請求項10】
前記第1センサ及び前記第2センサは加速度センサであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項の頭部外傷リスク評価装置。
【請求項11】
前記加速度センサは6軸加速度センサであることを特徴とする請求項10の頭部外傷リスク評価装置。
【請求項12】
ヒトの頭蓋骨形状のシェルと、該シェル内に収容された、ヒトの脳形状の軟質体と、該シェルに取り付けられた第1センサと、該軟質体内に配置された第2センサとを有する頭部外傷リスク評価装置と、
該頭部外傷リスク評価装置に衝撃を加えたときの前記第1センサの検出値及び前記第2センサの検出値に基づいて、前記シェルと軟質体との相対変位を算出する演算手段と
を有する頭部外傷リスク評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通事故時等における頭部外傷リスクを評価する装置及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
交通事故など種々の外力環境下において発生する重篤な頭部外傷として、急性硬膜下血腫(ASDH)がある。特に、頭蓋骨側の静脈洞と脳表間を走行する架橋静脈の破断によるASDHのメカニズムを解明するために、三次元透過頭部実体モデルによる後頭衝撃時の頭蓋骨・脳間相対運動の可視化が研究されている(非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1では、ハイスピードカメラを用いて衝撃荷重印加時の頭部挙動を撮影し、頭蓋骨内の脳の三次元挙動解析を行っている。
【0004】
画像解析による頭部衝撃試験システムは特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許公開公報2017/0261416 A1
【非特許文献】
【0006】
【文献】「三次元透過頭部実体モデルによる後頭衝撃時の頭蓋骨・脳間相対運動の可視化」日本機械学会論文集(A編)78巻785号(2012-1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、頭部外傷リスクを評価する装置及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の頭部外傷リスク評価装置は、ヒトの頭蓋骨形状のシェルと、該シェル内に収容された、ヒトの脳形状の軟質体と、該シェルに取り付けられた第1センサと、該軟質体内に配置された第2センサとを有する。
【0009】
本発明の一態様では、前記シェルは、前頭部、頭頂部、後頭部及び側頭部を構成するシェル本体と、該シェル本体に着脱可能な、鼻部及びその周囲を構成するシェルノーズとを有しており、該シェル本体には、頭蓋底部に位置するベースボトム、及び、該ベースボトムの前縁と該シェル本体の前頭部下縁とを連結するベースフロントが一体に設けられており、該ベースフロントに前記第1センサが保持されている。
【0010】
本発明の一態様では、前記ベースフロントに凹部が前面側から凹設され、該凹部に前記第1センサが挿入されている。
【0011】
本発明の一態様では、前記凹部に挿入された前記第1センサが前記シェルノーズで押さえつけられている。
【0012】
本発明の一態様では、前記シェル本体は、一部が着脱可能な蓋状部分となっており、該蓋状部分を取り外してシェル内に前記軟質体が出し入れ可能となっている。
【0013】
本発明の一態様では、前記蓋状部分の外周縁が曲線状に延在している。
【0014】
本発明の一態様では、前記軟質体の左脳相当部分と右脳相当部分との間の一部に大脳鎌形状の縦仕切板が配置され、前記軟質体の大脳相当部分と小脳相当部分との間の一部に小脳テント形状の横仕切板が配置されている。
【0015】
本発明の一態様では、前記軟質体のうち、左脳相当部分と右脳相当部分とにそれぞれ前記第2センサが配置されている。
【0016】
本発明の一態様では、前記軟質体の外面と前記シェルの内面との間に、軟膜形状のフィルムが介在されている。
【0017】
本発明の一態様では、前記シェルは、ポリカーボネート樹脂製である。
【0018】
本発明の一態様では、前記軟質体は、シリコーンゲル製である。
【0019】
本発明の一態様では、前記シリコーンゲルが界面活性剤を含有する。
【0020】
本発明の一態様では、前記シェルの外面を被包する、皮膚形状のカバーを有する。
【0021】
本発明の一態様では、前記第1センサ及び前記第2センサは加速度センサである。
【0022】
本発明の一態様では、前記加速度センサは6軸加速度センサである。
【0023】
本発明の頭部外傷リスク評価システムは、本発明の頭部外傷リスク評価装置と、該頭部外傷リスク評価装置に衝撃を加えたときの前記第1センサの検出値及び前記第2センサの検出値に基づいて、前記シェルと軟質体との相対変位を算出する演算手段とを有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の頭部外傷リスク評価装置及びシステムによると、頭部外傷リスク評価装置に衝撃を加え、頭蓋骨に相当するシェルに取り付けられたセンサと、脳に相当する軟質体内に配置されたセンサとの検出値に基づいてシェルと軟質体との相対変位を演算し、頭部外傷リスクを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】頭部外傷リスク評価装置の縦断面図である。
図2】シェルの断面斜視図である。
図3】仕切部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1~3を参照して実施の形態に係る頭部外傷リスク評価装置及びシステムについて説明する。
【0027】
この実施の形態に係る頭部外傷リスク評価装置1は、ヒトの頭部を模擬したものであり、略頭蓋骨形状のシェル2と、該シェル2内に収容された、略脳形状の軟質体3と、該シェル2に取り付けられた第1の加速度センサ11と、該軟質体3内に配置された第2の加速度センサ12とを有する。
【0028】
シェル2は、前頭部、頭頂部、後頭部及び側頭部を構成するシェル本体20と、該シェル本体20に着脱可能な、鼻部及びその周囲を構成するシェルノーズ30とを有している。シェルノーズ30は、その4箇所のコーナー部がビス(図示略)によってシェル本体20に着脱可能に留め付けられている。
【0029】
シェル本体20の後部の下部に、各センサ11,12からのハーネスを引き出すための筒状のハーネス挿通部材20aが取り付けられている。
【0030】
シェル本体20は、後頭部から頭頂部の後部にかけて開口21となっているシェルメイン22と、該開口21に着脱可能な蓋状部分となっているシェルキャップ23とを有する。該シェルキャップ23を取り外してシェル2内に前記軟質体3が出し入れ可能となっている。この開口21の周縁部及びそれと係合するシェルキャップ23の外周縁、すなわち両者のパーティングラインは曲線状に延在している。
【0031】
開口12の周縁部外面及びシェルキャップ23の外周縁外面には、突起状の連結座22a,23aが対面するように複数対設けられており、連結座22a,23aを貫通するボルトによってシェルメイン22とシェルキャップ23とが連結されている。なお、シェルメイン22とシェルキャップ23との付き合わせ面にパッキン(図示略)が介在されている。
【0032】
該シェル本体20のシェルメイン22には、頭蓋底部に位置するベースボトム25、及び、該ベースボトム25の前縁と該シェルメイン22の前頭部下縁とを連結するベースフロント26とが一体に設けられており、このベースフロント26に第1の加速度センサ11が保持されている。
【0033】
この実施の形態では、ベースフロント26に凹部27が前面側から凹設されている。該凹部27に前記第1の加速度センサ11が挿入されている。
【0034】
この凹部27に挿入された前記第1の加速度センサ11を押さえつけるようにシェルノーズ30がシェルメイン22にビス留めされている。
【0035】
軟質体3は、ヒトの脳を模擬したものであり、左脳相当部分と、右脳相当部分と、小脳相当部分とを有する。
【0036】
この実施の形態では、左脳相当部分及び右脳相当部分にそれぞれ第2の加速度センサ12が1個ずつ埋設されている。
【0037】
軟質体3の左脳相当部分と右脳相当部分との間の一部に大脳鎌形状の縦仕切板41が配置されている。また、軟質体3の大脳相当部分と小脳相当部分との間の一部に小脳テント形状の横仕切板42が配置されている。
【0038】
この実施の形態では、縦仕切板41と横仕切板42とは一体化されて仕切部材40を構成している。仕切部材40はポリウレタンシート等で構成されている。
【0039】
この実施の形態では、軟質体3の外面と前記シェル2の内面との間に、軟膜形状のフィルム(図示略)が介在されている。
【0040】
この実施の形態では、シェル2は、ポリカーボネート樹脂製である。また、軟質体3は、界面活性剤を含有するシリコーンゲル製である。
【0041】
この実施の形態では、シェル2の外面を被包する、皮膚形状のシリコーンゴム製カバー50が設けられている。
【0042】
この実施の形態では、前記第1及び第2の加速度センサ11,12はそれぞれ3軸並進加速度及び3軸角速度を計測可能な6軸加速度センサである。
【0043】
この頭部外傷リスク評価装置1は、自動車衝突試験用ダミー人形に取り付けられる。この実施の形態では、ベースボトム25がダミー人形の首部60の頂部のベースプレート61にボルト(図示略)によって固定されている。このダミー人形が衝突試験装置(例えばスレッド試験機)の座席上に設置され、模擬衝突を行うことにより、頭部外傷リスク評価装置1に衝撃を加える。この際に、第1及び第2の加速度センサ11,12の検出加速度に基づいてシェル2と軟質体3との相対変位を算出し、頭部外傷リスク評価を行う。この相対変位を算出するプログラムは、コンピュータのメモリに書き込まれている。
【0044】
次に、この演算方法について説明する。
【0045】
頭部に衝撃を加えた際の頭部重心加速度は次式によって算出される。
【0046】
【数1】
【0047】
頭部外傷リスク評価装置の回転姿勢を考慮して次式に基づいて姿勢変換(座標変換)を行う。
【0048】
【数2】
【0049】
ロドリゲスの式により、変換マトリクス
【0050】
【数3】
を次式により時々刻々に更新する。
【0051】
【数4】
【0052】
ロドリゲスの式は次の通りである。
【0053】
【数5】
【0054】
CADモデルより、脳側センサの初期位置を仮定頭部剛体運動式より頭蓋内を剛体仮定時のこの位置の加速度
【0055】
【数6】
を次式で算出する。
【0056】
【数7】
第2加速度センサの計測値から第2加速度センサ加速度
【0057】
【数8】
を初期姿勢に変換する。また、第1加速度センサの角速度から頭部基準座標系の値
【0058】
【数9】
に変換する。次いで、相対加速度
【0059】
【数10】
を次式によって算出する。
【0060】
【数11】
【0061】
次いで、速度波形に対して線形補正し、シェル2と軟質体3との相対変位を算出する。この相対変位の大きさより、頭部外傷リスクが評価される。
【0062】
上記実施形態では加速度センサを使用する場合について説明したが、超音波センサなど、他のセンサを用いてもよい。例えば、シェル2に超音波を発信する1又は複数のセンサを取り付け、軟質体3内に超音波を受信する1又は複数のセンサを配置し、センサ間の距離を測定して、シェル2と軟質体3との相対変位を算出する。
【符号の説明】
【0063】
1 頭部外傷リスク評価装置
2 シェル
3 軟質体
11 第1の加速度センサ
12 第2の加速度センサ
20 シェル本体
22 シェルメイン
23 シェルキャップ
25 ベースボトム
26 ベースフロント
27 凹部
30 シェルノーズ
40 仕切部材
41 縦仕切板
42 横仕切板
50 カバー
図1
図2
図3