(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】鋳造用金型装置および低圧鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 18/04 20060101AFI20220906BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B22D18/04 R
B22C9/06 P
(21)【出願番号】P 2018126468
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 一成
(72)【発明者】
【氏名】岡村 儀一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉山 雄大
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-217429(JP,A)
【文献】特開2002-079362(JP,A)
【文献】特開2001-062556(JP,A)
【文献】特開昭63-056348(JP,A)
【文献】実開昭63-025246(JP,U)
【文献】特開昭62-282760(JP,A)
【文献】特開2004-314157(JP,A)
【文献】特開2016-132028(JP,A)
【文献】特開平11-138249(JP,A)
【文献】特開平07-108349(JP,A)
【文献】特開昭63-290671(JP,A)
【文献】特開2000-000634(JP,A)
【文献】特開2014-121719(JP,A)
【文献】特開平06-079400(JP,A)
【文献】特開2005-324199(JP,A)
【文献】特開平07-124694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 18/00-18/08
B22C 5/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金型要素を組み合わせることにより形成された金型の製品形状部空間に溶湯を充填して鋳物製品の鋳造を行うようにした鋳造用金型装置において、
上記製品形状部空間は、
上記鋳物製品の隔壁部を形成するべく上記製品形状部空間の一部として機能する第1の袋状空間部と、
上記隔壁部に近接していて当該隔壁部よりも薄肉で長さの大きな薄肉壁部を形成するべく上記製品形状部空間の一部として機能すると共に、幅方向において上記第1の袋状空間部よりも幅寸法が小さい第2の袋状空間部と、
を有していて、
上記製品形状部空間を形成している上記金
型は、上記第1の袋状空間部の頂部相当位置に臨むエアベント部
を有し、
上記第2の袋状空間部に沿った輪郭形状を有するインサートブロックとして上記金型の一部が分割されており、
上記インサートブロックの外周面と当該インサートブロックが挿入される組付穴の内周面との間には、ガス抜き溝が上記第2の袋状空間部の頂部相当位置に形成されている、
ことを特徴とする鋳造用金型装置。
【請求項2】
上下方向において上記第1の袋状空間部よりも上記第2の袋状空間部の最大高さ位置が低いことを特徴とする請求項1に記載の鋳造用金型装置。
【請求項3】
上記エアベント部は、
上記第1の袋状空間部の頂部相当位置に臨むようにエアベントホールが設けられていて、
上記エアベントホールのうち上記頂部相当位置の直近位置にエアベントプラグが装着されているものであることを特徴とする請求項1または2に記載の鋳造用金型装置。
【請求項4】
上記金型は、保持炉内の溶湯を加圧して上記製品形状部空間の下部から溶湯の充填を行う低圧鋳造用のものであることを特徴とする請求項3に記載の鋳造用金型装置。
【請求項5】
上記第1の袋状空間部は、上記隔壁部の厚みに相当する幅寸法に対して高さ寸法が大きく形成されていると共に、
上記第2の袋状空間部は、上記薄肉壁部の厚みに相当する幅寸法に対して高さ寸法が大きく形成されていることを特徴とする請求項4に記載の鋳造用金型装置。
【請求項6】
上記製品形状部空間に臨む上記
インサートブロックの輪郭形状が閉ループ状をなしていて、そ
の全周が上
記ガス抜き溝となっていることを特徴とする請求項
1に記載の鋳造用金型装置。
【請求項7】
上記エアベント部および上
記ガス抜き溝には外部から負圧吸引力が作用するものであることを特徴とする請求項1~
6のいずれか一つに記載の鋳造用金型装置。
【請求項8】
請求項4に記載の鋳造用金型装置を用いて行う低圧鋳造方法であって、
上記保持
炉での加圧と並行して、上記エアベント部および上
記ガス抜き溝には外部から負圧吸引力を作用させながら、上記製品形状部空間への溶湯の充填を行うことを特徴とする低圧鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用金型装置およびその鋳造用金型装置を用いた低圧鋳造方法に関し、特に製品形状部空間からのガス抜き性に着目した鋳造用金型装置および低圧鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の鋳造用金型装置として、例えば特許文献1,2に記載されているように、金型の製品形状部空間あるいにはその製品形状部空間内に配置した中子に対してガス抜き通路(エアベント)を臨ませて、製品形状部空間内の残存空気や、溶湯充填に伴って中子から発生するガスを外部に強制的に吸引するようにしたものが提案されている。
【0003】
また、上記ガス抜き通路に装着されるガス抜きプラグ(エアベントプラグ)として、いわゆる多孔状のもののほか、例えば特許文献3に記載されているように、プラグヘッドに複数のスリットを分散配置した構造のものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-314157号公報
【文献】国際公開第2016/113879号
【文献】特開2001-062556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~3に開示された技術では、金型の製品形状部空間等での吸引効果あるいは減圧効果によって相応の効果が認められるものの、鋳造しようとする製品形状が複雑になると、製品形状によってはガス抜きが不十分で、いわゆる湯廻り不良のために欠肉(欠損)等の鋳造欠陥が発生する可能性があり、なおも改善の余地が残されている。
【0006】
例えば低圧鋳造用の金型の場合、製品形状部空間の一部に上部が閉塞された袋状空間部があると、一般的にはその部分にはガス抜きプラグが臨むようにガス抜き通路が設定される。この場合に、上記袋状空間部に近接して、ガス抜き通路が設定できないような極小の別の袋状空間部が存在すると、この別の袋状空間部では、なおも湯廻り不良のために欠肉等の鋳造欠陥が発生するおそれがある。
【0007】
この傾向は、吸引あるいは減圧によるガス抜きと溶湯の充填がガス抜き通路が設定されている袋状空間部側を指向するように急速に行われるので、極小の別の袋状空間部では、相対的に残存空気またはガスの追い出しが遅れて、そのまま残されてしまうことが原因と推測される。その結果、試作等を行っても湯廻り不良が解消されない場合には、鋳造方案の大幅な見直しが余儀なくされ、それによって鋳物製品の形状自由度が阻害されることとなって好ましくない。
【0008】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、鋳造しよとする製品形状が複雑になったとしても、製品形状部空間の隅々までガス抜きを行えるようにした鋳造用金型装置および低圧鋳造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る鋳造用金型装置では、複数の金型要素からなる金型の製品形状部空間は、鋳物製品の隔壁部を形成するべく上記製品形状部空間の一部として機能する第1の袋状空間部と、上記隔壁部に近接していて当該隔壁部よりも薄肉で長さの大きな薄肉壁部を形成するべく上記製品形状部空間の一部として機能すると共に、幅方向において上記第1の袋状空間部よりも幅寸法が小さい第2の袋状空間部と、を有している。
【0010】
その上で、上記製品形状部空間を形成している上記金型は、上記第1の袋状空間部の頂部相当位置に臨むエアベント部を有し、上記第2の袋状空間部に沿った輪郭形状を有するインサートブロックとして上記金型の一部が分割されており、上記インサートブロックの外周面と当該インサートブロックが挿入される組付穴の内周面との間には、ガス抜き溝が上記第2の袋状空間部の頂部相当位置に形成されている。
【0011】
ここでは、製品形状部空間の一部として、奥まった方向、例えば上方に向かって溝状に延びていて、上部(最深部)が閉塞されている空間を袋状空間部と定義する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1の袋状空間部よりも幅寸法が小さい第2の袋状空間部においても、十分にガス抜きが行われるようになり、形状が複雑な鋳物製品であっても、湯廻り不良やそれに起因する欠肉等の鋳造欠陥の発生が未然に防止されて、鋳造品質が向上すると共に、製品の形状自由度が阻害されることもなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る鋳造用金型装置のより具体的な実施の形態を示す図で、低圧鋳造法の基本工法を示す概略的な説明図。
【
図2】低圧鋳造法で鋳造される鋳物製品の一例として内燃機関用のシリンダヘッドの一例を示す平面説明図。
【
図3】シリンダヘッドを鋳造するための金型のうち上型の下面図。
【
図4】
図3のa-a線に沿った上型を含む金型の拡大断面説明図。
【
図5】本発明に係る鋳造用金型装置の第2の実施の形態を示す図で、
図4と同等部位の拡大断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1~4は本発明に係る鋳造用金型装置を実施するためのより具体的な形態を示し、特に
図1は鋳物製品として内燃機関用のシリンダヘッドを鋳造するための低圧鋳造法の基本工法を概略的に示している。なお、鋳造対象となるシリンダヘッドはアルミニウム合金製のものである。
【0015】
図1に示すように、密閉された保持炉1の上方のプラテン2の上に後述するシリンダヘッド13を鋳造するための金型6が搭載されている。金型6は、後述するように複数の金型要素で形成されていて、各金型要素の型締め状態で密閉された製品形状部空間11を形成している。保持炉1と金型6の内部とは、下部が保持炉1に浸漬された給湯用のストーク3を介して接続されている。保持炉1には溶湯Mが貯留されていると共に、溶湯Mの液面よりも上方の空間にはポート4を介して外部から圧縮空気(加圧エア)が導入されるようになっている。また、金型6内の製品形状部空間11にはガス抜き通路12が連通していて、所定のタイミングで製品形状部空間11内に負圧吸引力を作用させることができるようになっている。
【0016】
そして、製品形状部空間11内に負圧吸引力を作用させることで、製品形状部空間11内の残存空気やガスを排出する一方、それと並行して、保持炉1内の上方空間に圧縮空気を導入して、内部に貯留されている溶湯Mの液面を加圧することにより、ストーク3および湯口部を兼ねたゲート部5を介して、製品形状部空間11に溶湯Mが充填されることになる。なお、
図1では、ガス抜き通路12の大きさを誇張して描いている。
【0017】
図1に示した金型6は、例えば金型要素としての下型7と、下型7上において同図の左右方向で対向している金型要素としての左右一対の横型8,9と、同じく下型7上において同図の前後方向(紙面と直交する方向)で対向している金型要素としての図示しない前後一対の横型と、下型7と対向する同じく金型要素としての上型10と、から構成されている。そして、これらの各金型要素により密閉された製品形状部空間11が形成され、製品形状部空間11内には例えば吸排気ポート等のための図示を省略した崩壊性中子(砂中子)が配置される。
【0018】
図2は、
図1に示した金型6を含む低圧鋳造法のもとで鋳造されたシリンダヘッド13の一例として、要部の平面図を概略的に示している。なお、
図2に示したシリンダヘッド13は、例えば直列4気筒タイプのものである。
【0019】
図2に示すように、シリンダヘッド13のうちカムシャフト搭載面となる上面側では、一気筒につき、二つで一組の吸気バルブのバルブ挿入部14と、同じく二つで一組の排気バルブのバルブ挿入部15と、が形成される。また、二つで一組の吸気バルブのバルブ挿入部14と周壁部16との間、および同じく二つで一組の排気バルブのバルブ挿入部15と周壁部16との間には、各バルブ挿入部14,15よりも深さの小さな隔離凹部17が形成される。
【0020】
そして、二つの吸気用のバルブ挿入部14同士の間、および排気用の二つのバルブ挿入部15同士の間には、カムシャフトを軸受支持するための軸受凹部18cを有する所定厚みの隔壁部18a,18bが形成される。さらに、各バルブ挿入部14,15の周囲には、図示外のバルブリフタを受容して案内するための薄肉状で且つ略J字状またはJ字を左右反転した形状の薄肉壁部としてのガイド壁部19が上向きに形成される。このガイド壁部19は各バルブ挿入部14または15を取り囲んでいる。なお、符号20は点火プラグ挿入部となるべき部位を示している。
【0021】
また、
図2に示したシリンダヘッド13を
図1に示したような金型6で鋳造する場合、車両搭載姿勢と同じ姿勢で、カムシャフト搭載面となる上面側を上にした姿勢で鋳造される。
【0022】
図3は、
図2に示したものと同等のシリンダヘッド13を鋳造するための金型6のうち上型10の下面図、すなわち上型10のうち先に述べた製品形状部空間11に臨む部分の下面図を示していて、
図3は
図2の上半部に対応している。ただし、
図3に示した上型10を使用して実際に鋳造されるシリンダヘッド13の仕様が
図2のものとは相違している故に、
図2と
図3を比較した場合に、両者は細部の形状が微妙に相違しているものの、構造上の実質的な相違はない。
【0023】
周知のように、
図3に示す上型10のうち製品形状部空間11に臨む部分の形状が転写されるかたちでシリンダヘッド13の上面の凹凸形状が形成されることになる。そのため、上型10のうち製品形状部空間11に臨む部分には、バルブ挿入部14の成形を司る一対の円形凸部21と、隔離凹部17の成形を司る矩形凸部22と、軸受凹部18cの成形を司る半円状の凸部23と、軸受凹部18c以外の隔壁部18a,18bの成形を司る隔壁部用凹部24,25と、ガイド壁部19のためのスロット状の溝部26と、が互いに近接して形成されている。
【0024】
図4は
図3のa-a線に沿った上型10を含む金型6の拡大断面図を示している。
図3および
図4に示すように、上型10のうち、一対の円形凸部21と、矩形凸部22と、半円状の凸部23と、隔壁部用凹部24,25と、を含む部分がインサートブロック(分割型)27として、一部が溝部26に沿って上型10自体からくりぬかれるかたちで分割されている。
【0025】
より詳しくは、上型10には、
図3に示した溝部26に沿ったインサートブロック27の輪郭形状に合致する形状の組付穴28が製品形状部空間11に臨むように開口形成されている。この組付穴28に対し上型10の上面側から挿入するようにしてインサートブロック27が支持されている。挿入されたインサートブロック27は、図示しない取付ボルトにより上型10に堅固に固定支持される。そして、先にも述べたように、インサートブロック27の輪郭形状は、
図2に示したガイド壁部19のための
図3,4に示したスロット状の溝部26と一部一致するような形状に設定されている。
【0026】
図3,4に示した組付穴28の内周面とインサートブロック27の外周面との間には、積極的には所定の嵌め合い隙間が確保されていて、この嵌め合い隙間がエアベントとして、隙間が極小のフィルム状またはスロット状のガス抜き溝29として機能するように設定されている。このガス抜き溝29は、
図3に示すように、平面視で閉ループ状をなしている。そして、上記の嵌め合い隙間に基づくフィルム状またはスロット状のガス抜き溝29の溝幅Cは、例えば0.2mm程度に設定されている。
【0027】
図4には、上型10に固定支持されたインサートブロック27の近くの製品形状部空間11の一部が描かれている。同図に示すように、インサートブロック27のうち
図2に示した隔壁部18a,18bとなるべき
図3の隔壁部用凹部24,25は、製品形状部空間11の一部として見るならば、上部が閉塞されたかたちでの比較的幅狭の第1の袋状空間部30として形成されている。この第1の袋状空間部30は、
図2~4から明らかなように、隔壁部18a,18bの厚み寸法に相当する幅寸法W1に対して高さ寸法が大きく形成されている。なお、幅寸法W1は、例えば6mm以下に設定される。
【0028】
そして、この第1の袋状空間部30でのガス抜き対策を施すべく、第1の袋状空間部30の頂部相当位置には、その第1の袋状空間部30の直近位置にエアベントプラグ32が装着されたエアベント部としてのエアベントホール31がインサートブロック27を上下方向に貫通するように形成されている。なお、エアベントプラグ32としては、多孔状のもののほか、例えば特許文献3に記載のものと同等のものが使用される。
【0029】
その一方、
図4に示すように、第1の袋状空間部30の両側には、
図2に示したガイド壁部19となるべきスロット状の溝部26が近接していて、このスロット状の溝部26は、製品形状部空間11の一部として見るならば、上部が閉塞されたかたちでの微細幅の第2の袋状空間部33として形成されている。この第2の袋状空間部33は、
図2~4から明らかなように、ガイド壁部19の厚み寸法に相当する幅寸法W2に対して高さ寸法が大きく形成されているものの、頂部の最大高さ位置は第1の袋状空間部30に比べて著しく低いものとなっている。なお、上記のように、幅寸法W1が例えば6mm以下に設定される場合には、幅寸法W2は、例えば2~3mm程度に設定される。
【0030】
その上で、この第2の袋状空間部33でのガス抜き対策として、インサートブロック27の外周面側に設定されたスロット状のガス抜き溝29の製品形状部空間11での開口位置が、第2の袋状空間部33の頂部相当位置に設定されている。このスロット状のガス抜き溝29は、第1の袋状空間部30側のエアベントホール31と同等の機能を発揮するものであるが、その溝幅Cが極小である故にエアベントプラグが採用されることなく、直接、金型6の外部に開口している。
【0031】
ここで、
図3に示すように、製品形状部空間11のうち、第1の袋状空間部30以外の部分においても、同様に上部が閉塞されたかたちでの比較的幅狭の袋状空間部となる部分については、第1の袋状空間部30のエアベントホール31と同様のエアベントホール34がエアベント部として個別に設定されている。なお、上記第1の袋状空間部30および第2の袋状空間部33での「袋状空間部」とは、
図4から明らかなように、製品形状部空間11の一部として上方に向かって溝状に延びていて上部が閉塞されている比較的幅狭の空間を指している。
【0032】
そして、エアベント部としてのエアベントホール31およびスロット状のガス抜き溝29のほか、それぞれのエアベントホール34は、
図1に示したガス抜き通路12の一部として、例えば図示しない電磁開閉弁を介して真空ポンプ等の負圧吸引源に接続されている。これにより、所定のタイミングで上記電磁開閉弁を開くことにより、エアベントホール31およびスロット状のガス抜き溝29のほか、それぞれのエアベントホール34に負圧吸引力を一斉に作用させることができるようになっている。
【0033】
負圧吸引力を作用させる他の方式としては、例えば金型6全体を密閉容器であるチャンバーで覆って密閉空間とし、この密閉空間に負圧吸引力を作用させて、当該密閉空間と共にエアベントホール31,34やガス抜き溝29を所定の減圧状態としても良い。
【0034】
ここで、上記スロット状のガス抜き溝29の深さは、
図4に示すように、実質的にインサートブロック27の全高に及んでいて、このスロット状のガス抜き溝29にも負圧吸引力が作用することになるが、スロット状のガス抜き溝29の深さが大きくなるほど吸引抵抗も増大することになる。そのため、スロット状のガス抜き溝29の溝幅Cや、負圧吸引力の大きさ等を考慮して、スロット状のガス抜き溝29の深さを決定することが望ましい。
【0035】
したがって、このように構成された低圧鋳造用の金型6の構造では、金型6への溶湯Mの充填と並行して、所定のタイミングで複数のエアベントホール31,34やスロット状のガス抜き溝29に負圧吸引力を作用させることにより、第1,第2の袋状空間部30,33のほか、それ以外の袋状空間部においてもほぼ均一に金型6内の残存空気やガスの排出が行われることになる。以下、本実施の形態でのガス抜き機能を従来のガス抜き対策と比較しながら詳細に説明する。
【0036】
上記のような負圧吸引手段を有しない一般的な低圧鋳造法では、
図1に示したような保持炉1内での加圧により、金型6の製品形状部空間11内に溶湯Mを充填した際に、型内の残存空気や中子から発生するガスが圧縮されて、型内での背圧上昇を招くことになる。この背圧上昇は、製品の形状によっては溶湯の充填を阻害する要因となる。溶湯の充填が阻害されて一部が未充填のままで型内での凝固が進行すると湯廻り不良となって、製品の一部に欠肉等の鋳造欠陥が生じること先に述べた通りである。
【0037】
このようなことから、例えば特許文献3に開示されているようなエアベントプラグを併用して、ガス抜き通路(エアベントホール)を設定することが広く行われているが、これだけでは型内のガス等を完全に排出することは困難であり、この傾向は製品形状が複雑になるほど顕著となる。
【0038】
そこで、上記のガス抜き通路でのガス抜き機能に加えて、当該ガス抜き通路に負圧吸引力を作用させて積極的に減圧することで、型内のガス抜きを促進することが行われるようになり、本実施の形態でもこの方式を踏襲している。ただし、この方式では、ガス抜き通路での負圧吸引力により、型内でのガス抜きおよび溶湯充填が上記ガス抜き通路に向かって指向性を持つようになるため、溶湯最終充填部(ガス等が最後まで残っている部位)を均一に減圧することが重要となる。
【0039】
例えば、
図4の矢印Qは、主としてインサートブロック27のエアベントホール31の方向、および同図の横型9と上型10との境界部の方向に向かう溶湯充填時の溶湯の流れのほか、エアベントホール31と同等の
図3に示したエアベントホール34の方向に向かう溶湯充填時の溶湯の流れを示している。これらの溶湯充填と並行してエアベントホール31,34に負圧吸引力が作用している場合、溶湯はエアベントホール31,34に向かって積極的に流れながら、やがては製品形状部空間11に広く充満することになるものの、その過程では相対的に流れやすいエアベントホール31,34に向かう指向性を持つようになる。
【0040】
この場合において、スロット状のガス抜き溝29が形成されていない場合を想定すると、負圧吸引力に基づくガス抜きのほか溶湯Mの充填が、上記のような矢印Qで示す指向性を持ってエアベントホール31,34に向かう方向が優先されることになる。そのため、第1の袋状空間部30に比べて高さの低い第2の袋状空間部33では、相対的にガス抜きが不十分で、ガスが封じ込められたままとなることがあり、湯廻り不良を招く可能性が高くなる。
【0041】
その対策として、本実施の形態では、複数のエアベントホール31,34とは別に、第2の袋状空間部33にもスロット状のガス抜き溝29を形成してあることにより、この薄肉の第2の袋状空間部33においてもスムーズにガス抜きが行われることから、結果として製品形状が複雑な製品形状部空間11の隅々までガス抜きが行われるようになって、湯廻り不良を未然に防止することができる。
【0042】
特に、スロット状のガス抜き溝29はその溝幅Cが極小であるものの、第2の袋状空間部33のうちでもガス抜きが容易な頂部相当位置に設定されていると共に、上型10の一部を分割したインサートブロック27の全周に形成されている。しかも、各エアベントホール31,34と同様に、スロット状のガス抜き溝29には負圧吸引力が作用しているため、局部的な過剰な負圧吸引を防止しつつ、インサートブロック27の周長方向での広範囲でのガス抜きが行われて、湯廻り不良を防止する上で十分なガス抜き機能を発揮することができる。
【0043】
また、スロット状のガス抜き溝29は、実質的には上型10の一部を分割構造としたインサートブロック27の外周面側に形成されているため、上型10自体に機械加工等により形成する場合と比べて加工が容易となるほか、ガス抜き溝29の溝幅Cの調整も容易に行える利点がある。
【0044】
さらに、インサートブロック27の外周面に形成されているスロット状のガス抜き溝29は、上記溝幅Cに加えて深さも任意に設定することができるため、それらの溝幅Cや深さに依存することになる吸引抵抗を積極的にコントロールすることで、負圧吸引力自体、ひいてはガス抜き性能も容易に調整することが可能となる。
【0045】
図5は本発明に係る鋳造用金型装置の第2の実施の形態を示す図で、
図4と同等部位の拡大断面説明図を示している。したがって、
図5では、
図4と共通する部分には同一符合を付してある。
【0046】
図5に示すように、第1の袋状空間部30と第2の袋状空間部33の高さ寸法に着目した場合、シリンダヘッド13の仕様あるいは造形によっては、
図4とは逆に、第1の袋状空間部30高さ寸法よりも第2の袋状空間部33の高さ寸法の方が大きい場合もあり得る。このような場合であっても、本発明を適用することができる。
【0047】
ここで、上記実施の形態では、鋳物製品としてシリンダヘッド13の鋳造を例にとって説明したが、本発明は、シリンダヘッド13以外の鋳物製品の鋳造にも同様に適用できることは言うまでもない。
【0048】
また、上記実施の形態では、低圧鋳造用の金型6において負圧吸引力を併用する場合を例にとって説明したが、本発明は当該金型のみに限定されるものではない。例えば、鋳物製品の形状次第では、いわゆる重力鋳造法のための金型にも適用することができるほか、負圧吸引力を併用しない場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
6…金型
10…上型
11…製品形状部空間
13…シリンダヘッド(鋳物製品)
18a…隔壁部
18b…隔壁部
19…ガイド壁部(薄肉壁部)
27…インサートブロック
29…スロット状のガス抜き溝
30…第1の袋状空間部
31…エアベントホール(エアベント部)
32…エアベントプラグ
33…第2の袋状空間部