IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ トーヨーカラー株式会社の特許一覧

特許7135577カーボンナノチューブの製造方法、カーボンナノチューブ分散液の製造方法およびカーボンナノチューブ塗膜の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの製造方法、カーボンナノチューブ分散液の製造方法およびカーボンナノチューブ塗膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/158 20170101AFI20220906BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20220906BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220906BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220906BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220906BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20220906BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220906BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220906BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20220906BHJP
【FI】
C01B32/158
B32B9/00 A
B05D7/24 303G
B05D7/24 303B
C09D201/00
C09D7/61
C09D17/00
B82Y30/00
B82Y40/00
C01B32/174
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018153789
(22)【出願日】2018-08-20
(65)【公開番号】P2020029372
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】名畑 信之
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-126872(JP,A)
【文献】特開2013-209494(JP,A)
【文献】特開2012-131655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/158
B32B 7/023
B32B 9/00
B05D 7/24
C09D 201/00
C09D 7/61
C09D 17/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01B 32/174
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均外径が1.0~13.0nmである未処理カーボンナノチューブを、粉砕メディアを内蔵した粉砕機により粉砕処理する工程を備え、
下記(1)および(2)を満たすカーボンナノチューブの製造方法。
(1)透過型電子顕微鏡における画像解析において、カーボンナノチューブの平均外径1.0~13.0nmであること。
(2)X線光電子分光法における表面酸素濃度が1.0~5.0mol%であること。
【請求項2】
請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造後、
得られたカーボンナノチューブ(A)を、溶媒(B)と、分散剤(C)に分散する工程を備えた、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項3】
溶媒(B)が有機溶媒、及びまたは水であることを特徴とする請求項2記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項4】
分散剤(C)が、樹脂型分散剤と色素誘導体とを含むことを特徴とする請求項2または3記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項5】
請求項2~4いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液の製造後、
得られたカーボンナノチューブ分散液と、バインダー樹脂(D)とを分散する工程を備えた、カーボンナノチューブ塗料の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のカーボンナノチューブ塗料の製造後、
得られたカーボンナノチューブ塗料から、ウエットコート法によりカーボンナノチューブ塗膜を形成する工程を備えた、カーボンナノチューブ塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ、およびカーボンナノチューブ分散液に関する。さらに詳しくは、カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ塗料、およびそれを塗布した塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂成形体に対して、製品デザイナーや消費者から高い意匠性を付与することが求められている。特に成形体に高級感や高い質感を付与するため青味があって、かつ黒度が高い色調、いわゆる漆黒の成形体が求められている。同様に、一般に自動車等の塗装は、車体を保護し、耐久性を向上させるためのことを目的としているが、近年は感性に訴える外観品質(塗装質感)の向上に対する要求が強くなってきている。塗装質感を向上させるには、深み感、透明感、奥行き感を強くすることが必要であり、高級感を与える塗装として漆黒感、深み感のある黒塗装に対する要求が強い。
【0003】
一般に、上記のような、漆黒性の樹脂塗工物、フィルム、成形物を得るためにはカーボンブラックを樹脂溶液や固形樹脂に均一に分散させたものを使用してきた。(特許文献1,2参照)しかし、当該手段においては、明度(L*)が高い(灰色・白)方向にあり、色度(a*、b*)がプラス方向(+a*:赤、+b*:黄)となり、いわゆる「ピアノブラック」や「カラスの濡れ羽色」といった漆黒性を表現することが困難であった。
【0004】
カーボンブラックを使用した成形体の色調は配合したカーボンブラックの一次粒子径により異なる傾向にある。具体的には、一次粒子径が小さなカーボンブラックを使用すると、黒度はあるが赤味の強い色調が得られる。逆に、一次粒子径の大きなカーボンブラックを使用すると、青味はあるが黒度が低下する。このように、カーボンブラックを使用した黒色の着色は黒度と青味はトレードオフの関係にあるため、青味があって、かつ黒度が高い漆黒の色調を再現することは困難であった。
【0005】
また、塗装質感を向上させるために、第一層の上に、明度が0.2未満である黒色ベースカラー層と、カーボンブラックを0.1重量%を超えて10重量%以下含有する黒色カラークリア層とを形成して成る塗膜構造が提案されている(特許文献3)。
【0006】
しかしながら、上記従来の塗膜構造においては、黒色ベースカラー層とカラークリア層の積層が必要で製造工程の複雑化、高コスト化するといった問題があった。
【0007】
さらに、塗装質感を向上させるために、カーボンナノチューブを黒色顔料として用いた樹脂組成物の積層体が提案されている。しかしながら、満足のいく塗装質感を得るためには、カーボンナノチューブ樹脂組成物層の上にクリア層を積層することが必要であり、製造工程の複雑化、高コスト化するといった問題があった(特許文献4)。
【0008】
また、カーボンナノチューブの平均外径が小さい方が漆黒性に優位であることは公知であるが、カーボンナノチューブの平均外径が小さくなると比表面積が大きくなること、さらに構造粘性が働くことが影響し、難分散となることが課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-179176号公報
【文献】特開2004-098033号公報
【文献】特開平6-15223号公報
【文献】特開2016-13680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を改良し、分散性と漆黒性に優れたカーボンナノチューブ、粘度(分散性)、貯蔵安定性、バインダー樹脂への相溶性、塗膜の光沢および漆黒性に優れたカーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ塗料、及びカーボンナノチューブ塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。発明者らは、カーボンナノチューブの平均外径と表面酸素濃度が特定の範囲にあるカーボンナノチューブを使用することにより、粘度、貯蔵安定性、バインダー樹脂への相溶性、塗膜の光沢および漆黒性に優れたカーボンナノチューブ分散液が得られることを見出した。発明者らは、かかる発見を基に、本発明をするに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記(1)および(2)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブに関する。
(1)透過型電子顕微鏡における画像解析において、カーボンナノチューブの平均外径1.0~13.0nmであること。
(2)X線光電子分光法における表面酸素濃度が1.0~5.0mol%であること。
【0013】
また、本発明は、前記カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液に関する。
【0014】
また、本発明は、溶媒(B)が有機溶媒、及びまたは、水であることを特徴とする前記カーボンナノチューブ分散液に関する。
【0015】
また、本発明は、分散剤(C)が、樹脂型分散剤と色素誘導体とを含むことを特徴とする前記カーボンナノチューブ分散液に関する。
【0016】
また、本発明は、前記カーボンナノチューブ分散液とバインダー樹脂(D)とを含むとこと特徴とするカーボンナノチューブ塗料に関する。
【0017】
また、本発明は、前記カーボンナノチューブ塗料から形成されてなるカーボンナノチューブ塗膜であり、塗膜を構成する材料中、カーボンナノチューブを0.1~15質量%含有し、カーボンナノチューブ塗膜の膜厚が20μmである際、塗膜に対して45゜で入射した光の正反射光からのオフセット角25゜、45°、75°におけるL*の3値合計値が2.5以下であることを特徴とするカーボンナノチューブ塗膜に関する。(ただし、L*はJIS Z8781-4で規定されるL***表色系における値を表わす。)
【0018】
また、本発明は、ウエットコート法により形成されてなる前記カーボンナノチューブ塗膜の製造方法に関する。
【0019】
また、本発明は、粉砕メディアを内蔵した粉砕機により製造されることを特徴とする、前記カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のカーボンナノチューブを利用することにより、粘度、貯蔵安定性、漆黒性に優れたカーボンナノチューブ分散液及び、それを利用したカーボンナノチューブ塗料、塗膜が得られる。よって、高い漆黒性が求められる様々な用途分野において、本発明のカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散液、塗料、塗膜を使用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ塗料及びそれを塗工したカーボンナノチューブ塗膜について詳しく説明する。
【0022】
<カーボンナノチューブ(A)>
本発明のカーボンナノチューブ(A)は、平均外径が1.0~13.0nmであり、表面酸素濃度が1.0~5.0mol%であることを特徴とする。
【0023】
カーボンナノチューブ(A)の表面酸素濃度は、1.0~5.0mol%であることを特徴とし、好ましくは2.0~4.5mol%である。1.0mol%未満であると、粉砕処理が不十分であり、分散性が改善されない。5.0mol%を超えると、過度の粉砕処理となり、カーボンナノチューブの繊維構造の破壊が過度に進行し、漆黒性の低下が起こる。
【0024】
カーボンナノチューブ(A)の表面酸素濃度は、次の手順に従って求められたものである。X線光電子分光装置(K-Alpha+、サーモサイエンティフィック製)を用いて、Xray Anode:モノクロ(Al)、Current:6mA、Voltage:12kV、分析面積:約0.8mm×0.4mm、観察深さ:数nmの条件で測定を行い、測定後、検出された元素について定量測定を実施し、酸素原子の表面酸素濃度(mol%)を求めた。
【0025】
本実施形態のカーボンナノチューブ(A)の平均外径は1.0~13.0nmであり、1.0~8.0nmであることが好ましい。
【0026】
カーボンナノチューブ(A)の平均外径は、次の手順に従って求められたものである。透過型電子顕微鏡(日本電子社製)によって、カーボンナノチューブの形態観察を行い、100本の短軸の長さを計測し、その数平均値をもってカーボンナノチューブ平均外径(nm)とした。
【0027】
<カーボンナノチューブ(A)の製造>
カーボンナノチューブ(A)は、未処理カーボンナノチューブを粉砕処理する(以下、粉砕処理工程と表記する)ことにより製造される。本発明にかかるカーボンナノチューブ(A)によれば、未処理カーボンナノチューブと比較し、表面の物理的・化学的性質を変えることにより、分散性が劇的に向上し、分散液の初期粘度、貯蔵安定性、バインダー樹脂への相溶性、さらには漆黒性が向上する。ここで、未処理カーボンナノチューブとは、粉砕処理される前のカーボンナノチューブである。
【0028】
未処理カーボンナノチューブの平均外径は、1.0~13.0nmが好ましく、1.0~8.0nmがより好ましい。
【0029】
粉砕処理工程とは、ビーズ、スチールボール等の粉砕メディアを内蔵した粉砕機を使用して、実質的に液状物質を介在させないでカーボンナノチューブを粉砕するものである。粉砕は、粉砕メディア同士の衝突による粉砕力や破壊力を利用して行なわれる。乾式粉砕装置としては、乾式のアトライター、ボールミル、振動ミル、ビーズミルなどの公知の方法を用いることができ、粉砕時間はその装置によってまたは希望とする表面酸素濃度に応じて任意に設定できる。ビーズミルを用いた乾式粉砕が、効率的にカーボンナノチューブに衝突エネルギーを与えることができるため、より好ましい。
【0030】
粉砕メディアの材質としては、例えば、鉄、ステンレス、ジルコニア等が挙げられる。ステンレスとしては、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、析出硬化系が挙げられ、いずれも用いることができるが、粉砕効率の点から、オーステナイト系のステンレスであることが好ましい。オーステナイト系のステンレスとしては、SUS304、SUS304N2、SUS316、SUS316L、SUS201等が挙げられ、マルテンサイト系のステンレスとしては、SUS403、SUS410J1、SUS440C、SUS420J2、SUS431等が挙げられ、フェライト系のステンレスとしてはSUS430、SUS447J1等が挙げられ、析出硬化系のステンレスとしてはSUS630、SUS631等が挙げられる。
【0031】
粉砕メディアの外径は、1~5mmが好ましく、1~2mmがより好ましい。上記の範囲であれば、所望の粉砕力が得られ、カーボンナノチューブの繊維形状を過度に破壊せず効率的に顔料を粉砕させ、希望とする表面酸素濃度を得ることができる。
【0032】
<カーボンナノチューブ分散液>
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、分散剤(C)を分散剤として、カーボンナノチューブ(A)を溶媒(B)に分散したものである。この場合、分散剤(C)とカーボンナノチューブ(A)を同時、または順次添加し、混合することで、分散剤(C)をカーボンナノチューブ(A)に作用(吸着)させつつ分散する。但し、カーボンナノチューブ分散液の製造をより容易に行うためには、分散剤(C)を溶媒(B)に溶解、膨潤、または分散させ、その後、液中にカーボンナノチューブ(A)を添加し、混合することで分散剤(C)をカーボンナノチューブ(A)に作用(吸着)させることが、より好ましい。
【0033】
・分散剤(C)
分散剤(C)としては、界面活性剤または樹脂型分散剤または色素誘導体を使用することができる。界面活性剤は主にアニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性に分類され、要求特性に応じて適宜好適な種類、配合量を選択して使用することができる。好ましくは、樹脂型分散剤である。より好ましくは樹脂型分散剤と色素誘導体の併用である。
【0034】
アニオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、具体的には脂肪酸塩、ポリスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸スルホン酸塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステルなどが挙げられ、具体的にはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステル塩、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩などが挙げられる。
【0035】
カチオン性活性剤としては、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類があり、具体的にはステアリルアミンアセテート、トリメチルヤシアンモニウムクロリド、トリメチル牛脂アンモニウムクロリド、ジメチルジオレイルアンモニウムクロリド、メチルオレイルジエタノールクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ラウリルピリジニウムクロリド、ラウリルピリジニウムブロマイド、ラウリルピリジニウムジサルフェート、セチルピリジニウムブロマイド、4-アルキルメルカプトピリジン、ポリ(ビニルピリジン)-ドデシルブロマイド、ドデシルベンジルトリエチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、アミノカルボン酸塩などが挙げられる。
【0036】
ノニオン性活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルアリルエーテルなどが挙げられ、具体的にはポリオキシエチレンラウリルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等などが挙げられる。
【0037】
界面活性剤の選択に際しては1種類に限定されるものではなく、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤など、2種以上の界面活性剤を併用して使用することも可能である。その際の配合量は、それぞれの活性剤成分に対して前述した配合量とすることが好ましい。好ましくは、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤の併用が良く、アニオン性界面活性剤としては、ポリカルボン酸塩、ノニオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
【0038】
樹脂型分散剤として具体的には、ポリウレタン;ポリアクリレート等のポリカルボン酸エステル;不飽和ポリアミド、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸(部分)アミン塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸アルキルアミン塩、ポリシロキサン、長鎖ポリアミノアマイドリン酸塩、水酸基含有ポリカルボン酸エステルや、これらの変性物;ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離のカルボキシル基を有するポリエステルとの反応により形成されたアミドやその塩等の油性分散剤;(メタ)アクリル酸-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性樹脂や水溶性高分子化合物;ポリエステル系樹脂、変性ポリアクリレート系樹脂、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加化合物、リン酸エステル系樹脂等が用いられ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0039】
樹脂型分散剤は、カーボンナノチューブに対して50~400質量%程度使用することが好ましく、分散液の粘度、貯蔵安定性の観点から100~200質量%程度使用することがより好ましい。
【0040】
樹脂型分散剤は、酸価、及びまたはアミン価を有することが好ましく、固形分酸価と固形分アミン価はいずれも10~250mg KOH/gであることがより好ましい。固形分酸価と固形分アミン価が10mgKOH/g未満であると、カーボンナノチューブ(A)との相互作用が小さくなり、分散安定性が劣る。一方、250mgKOH/gより大きいと、カーボンナノチューブ(A)との相互作用が大きすぎて、分散が困難となる。
【0041】
ここで、樹脂型分散剤の固形分アミン価は、ASTM D 2074の方法に準拠し、測定した全アミン価(mgKOH/g)を固形分換算した値である。
【0042】
また、樹脂型分散剤の固形分酸価は、JIS K 0070の電位差滴定法に準拠し、測定した酸価(mgKOH/g)を固形分換算した値である。
【0043】
市販の樹脂型分散剤としては、ビックケミー社製のDisperBYK-101、103、107、108、110、111、116、130、140、154、161、162、163、164、165、166、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190、2000、2001、2020、2025、2050、2070、2095、2150、2155またはAnti-Terra-U、203、204、またはBYK-P104、P104S、220S、6919、またはLactimon、Lactimon-WSまたはBykumen等;日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE-3000、9000、13000、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、21000、24000、26000、27000、28000、31845、32000、32500、32550、33500、32600、34750、35100、36600、38500、41000、41090、53095、55000、76500等;BASFジャパン社製のEFKA PA-4400、4401、4403、4450、EFKA PU-4063、EFKA PX-4300、4310、4320、4330、4340、4700、4701、4731、4732、Dispex Ultra PA-4550、4560、Dispex Ultra PX-4575、4585、Dispex Ultra FA-4404、4416、4425、4431、4437、4480、4483等;味の素ファインテクノ社製のアジスパーPA111、PB711、PB821、PB822、PB824等が挙げられる。
【0044】
本発明に用いる色素誘導体としては、有機色素残基に酸性基、塩基性基、中性基などを有する公知の色素誘導体を用いることができる。例えば、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基などの酸性置換基を有する化合物及びこれらのアミン塩や、スルホンアミド基や末端に3級アミノ基などの塩基性置換基を有する化合物、フェニル基やフタルイミドアルキル基などの中性置換基を有する化合物が挙げられる。
【0045】
有機色素としては、例えばジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、チアジンインジゴ系顔料、トリアジン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ベンゾイソインドール等のインドール系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、ナフトール系顔料、スレン系顔料、金属錯体系顔料、アゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系顔料、等が挙げられる。
【0046】
具体的には、ジケトピロロピロール系色素誘導体としては、特開2001-220520号公報、WO2009/081930号パンフレット、WO2011/052617号パンフレット、WO2012/102399号パンフレット、特開2017-156397号公報、フタロシアニン系色素誘導体としては、特開2007-226161号公報、WO2016/163351号パンフレット、特開2017-165820号公報、特許第5753266号公報、アントラキノン系色素誘導体としては、特開昭63-264674号公報、特開平09-272812号公報、特開平10-245501号公報、特開平10-265697号公報、特開2007-079094号公報、WO2009/025325号パンフレット、キナクリドン系色素誘導体としては、特開昭48-54128号公報、特開平03-9961号公報、特開2000-273383号公報、ジオキサジン系色素誘導体としては、特開2011-162662号公報、チアジンインジゴ系色素誘導体としては、特開2007-314785号公報、トリアジン系色素誘導体としては、特開昭61-246261号公報、特開平11-199796号公報、特開2003-165922号公報、特開2003-168208号公報、特開2004-217842号公報、特開2007-314681号公報、ベンゾイソインドール系色素誘導体としては、特開2009-57478号公報、キノフタロン系色素誘導体としては、特開2003-167112号公報、特開2006-291194号公報、特開2008-31281号公報、特開2012-226110号公報、ナフトール系色素誘導体としては、特開2012-208329号公報、特開2014-5439号公報、アゾ系色素誘導体としては、特開2001-172520号公報、特開2012-172092号公報、酸性置換基としては、特開2004-307854号公報、塩基性置換基としては、特開2002-201377号公報、特開2003-171594号公報、特開2005-181383号公報、特開2005-213404号公報、などに記載の公知の色素誘導体が挙げられる。なおこれらの文献には、色素誘導体を誘導体、顔料誘導体、分散剤、顔料分散剤若しくは単に化合物などと記載している場合があるが、前記した有機色素残基に酸性基、塩基性基、中性基などの置換基を有する化合物は、色素誘導体と同義である。
これら色素誘導体は、単独又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0047】
・溶媒(B)
本実施形態の溶媒(B)は、カーボンナノチューブ(A)が分散可能な範囲であれば特に限定されないが、水、及びまたは有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であることが好ましい。
【0048】
有機溶媒としては、沸点が50~250℃の有機溶媒が、塗工時の作業性や硬化前後の乾燥性の点から用いやすい。具体的な溶媒の例としては、メタノール、エタノールおよびイソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、ブチルジグリコールアセテート、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、3-エトキシプロピオン酸エチル(EEP)等のエステル系溶媒、ジブチルエーテル、エチレングリコール、モノブチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、ソルベッソ150(東燃ゼネラル石油社製)などの芳香族系溶媒、N-メチル-2-ピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒などを用いることができる。これらの溶媒は、単独あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
【0049】
また、前記溶媒のほかにも、必要に応じて、例えば顔料、濡れ浸透剤、皮張り防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、架橋剤、防腐剤、防カビ剤、粘度調整剤、pH調整剤、レベリング剤、消泡剤などの添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。
【0050】
<カーボンナノチューブ分散液の作製>
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液を得るには、カーボンナノチューブ(A)を溶媒(B)中に分散させる処理を行う。かかる処理を行うために使用される分散装置は特に限定されない。
【0051】
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(BRANSON社製Advanced Digital Sonifer(登録商標)、MODEL 450DA、エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の固形分の量は、カーボンナノチューブ分散液100質量%に対して、0.1~30質量%が好ましく、0.5~25質量%が好ましく、1~10質量%が好ましく、2~8質量%が特に好ましい。
【0053】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液中の分散剤(C)の量は、カーボンナノチューブ(A)100質量%に対して、50~400質量%使用することが好ましい。また塗膜強度の観点から50~200質量%使用することが好ましい。
【0054】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の粘度は、300mPa・s以下が好ましく、100mPa・s以下がより好ましい。
【0055】
カーボンナノチューブ分散液の粘度は、次の手順に従って求められたものである。粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、分散液温度25℃、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて、分散液をヘラで充分に撹拌した後、直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100mPa・s以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500mPa・s以上2000mPa・s未満の場合はNo.3を、2000mPa・s以上10000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。分散直後から5時間以内に測定した粘度を、初期粘度とした。
【0056】
<カーボンナノチューブ塗料>
本発明のカーボンナノチューブ塗料は、少なくとも本発明のカーボンナノチューブ分散液とバインダー樹脂(D)とを含む塗料である。
【0057】
・バインダー樹脂(D)
バインダー樹脂(D)としては、通常、塗料のバインダー樹脂として用いられるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、縮合系合成樹脂、付加系合成樹脂、天然高分子化合物、などが挙げられる。前記縮合系合成樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、珪素樹脂などが挙げられる。前記付加系合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、不飽和カルボン酸系樹脂などが挙げられる。前記天然高分子化合物としては、例えば、セルロース類、ロジン類、天然ゴムなどが挙げられる。前記水分散性樹脂は、ホモポリマーとして使用されてもよく、また、コポリマーとして使用して複合系樹脂として用いてもよく、単相構造型、コアシェル型、及びパワーフィード型エマルジョンのいずれのものも使用できる。
【0058】
水性塗料として使用されるバインダー樹脂(D)としては、樹脂自身が親水基を持ち自己分散性を持つもの、樹脂自身は分散性を持たず界面活性剤や親水基を持つ樹脂にて分散性を付与したものが使用できる。これらの中でも、ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂のアイオノマーや不飽和単量体の乳化及び懸濁重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョンが好適である。不飽和単量体の乳化重合の場合には、不飽和単量体、重合開始剤、及び界面活性剤、連鎖移動剤、キレート剤、pH調整剤などを添加した水にて反応を行い樹脂エマルジョンを得るため、容易に水分散性樹脂を得ることができ、樹脂構成を容易に替えやすいため目的の性質を作りやすい。
【0059】
前記不飽和単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、(メタ)アクリル酸エステル単量体類、(メタ)アクリル酸アミド単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルシアノ化合物単量体類、ビニル単量体類、アリル化合物単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類、不飽和炭素を持つオリゴマー類などを単独及び複数組み合わせて用いることができる。これらの単量体を組み合わせることで柔軟に性質を改質することが可能であり、オリゴマー型重合開始剤を用いて重合反応、グラフト反応を行うことで樹脂の特性を改質することもできる。
【0060】
前記不飽和カルボン酸類としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。
前記単官能の(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウム塩、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n-へキシルアクリレート、2-エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロキシエチルトリメチルアンモニウム塩、などが挙げられる。
【0061】
前記多官能の(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)
プロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'-ビス(4-アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2'-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパントリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、などが挙げられる。
【0062】
前記(メタ)アクリル酸アミド単量体類としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
前記芳香族ビニル単量体類としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、4-t-ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0063】
前記ビニルシアノ化合物単量体類としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。前記アリル化合物単量体類としては、例えば、アリルスルホン酸又はその塩、アリルアミン、アリルクロライド、ジアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。前記オレフィン単量体類としては、例えば、エチレン、プロピレン等が挙げられる。前記ジエン単量体類としては、例えば、ブタジエン、クロロプレン等が挙げられる。前記ビニル単量体類としては、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、塩化ビニル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン、ビニルスルホン酸又はその塩、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0064】
前記不飽和炭素を持つオリゴマー類としては、例えば、メタクリロイル基を持つスチレンオリゴマー、メタクリロイル基を持つスチレン-アクリロニトリルオリゴマー、メタクリロイル基を持つメチルメタクリレートオリゴマー、メタクリロイル基を持つジメチルシロキサンオリゴマー、アクリロイル基を持つポリエステルオリゴマー等が挙げられる。
【0065】
前記基体樹脂の官能基と反応しうる架橋剤としての役割を持つメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネ-ト化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂等を用いることができる。架橋性官能基を含有する樹脂と架橋剤としての役割を持つ樹脂は併用することが望ましく、中でも、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂及び尿素樹脂から選ばれる1種を用いることが好ましく、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂及びメラミン樹脂から選ばれる1種を用いることがより好ましく、アクリル樹脂とメラミン樹脂とを併用することがより好ましい。
【0066】
メラミン樹脂は、熱硬化性を有し硬化剤として作用することから、特に好ましく用いられる。アクリル樹脂は、当業者によってよく知られた重合性不飽和二重結合を有するモノマーを常法によって重合することにより得られるものが好ましい。上記重合性不飽和二重結合を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等のカルボン酸基含有モノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性アクリルモノマー等の水酸基含有モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、スチレン、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー等を挙げることができる。また、重合には、当業者によってよく知られたラジカル重合開始剤等を用いることが好ましい。
【0067】
本発明のカーボンナノチューブ塗料には、さらに必要に応じて、水あるいは有機溶媒、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、表面調整剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0068】
<カーボンナノチューブ塗料の作製>
本発明のカーボンナノチューブ塗料は、カーボンナノチューブ分散液とバインダー樹脂(D)を混合分散することによって調製することができる。
【0069】
<カーボンナノチューブ塗膜>
本発明のカーボンナノチューブ塗膜は、カーボンナノチューブ塗料を使用して得た膜である。
【0070】
本発明のカーボンナノチューブ塗膜は、カーボンナノチューブを0.1~15質量%含有することが好ましく、0.5~5質量%含有することがより好ましい。この範囲内であれば、優れた漆黒性が得られる。
【0071】
カーボンナノチューブ塗膜の膜厚は、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。さらに、40μm以下であることが好ましい。0.5μm以上ならば、隠蔽性が十分に得られる。40μm以下であれば、硬化スピード等の実用性に優れる。
【0072】
カーボンナノチューブ塗膜の膜厚が20μmである際、塗膜に対して45°となるように照射した光の正反射光に対して、オフセット角25°、45°、75°で得られた明度L*の3値合計値が2.5以下であることが好ましく、1.5以下がより好ましい。ただし、L*はJIS Z8781-4で規定されるL***表色系における値を表わす。
【0073】
カーボンナノチューブ塗膜の膜厚が20μmである際、60度光沢は70以上であることが好ましく、80以上であることがさらに好ましい。特に斯かる範囲であれば、優れた漆黒性が得られる。
【0074】
<カーボンナノチューブ塗膜の作製>
カーボンナノチュー塗膜を形成する方法としては、形成する物質により最適な方法を選択すれば良く、加熱硬化、真空蒸着、EB蒸着、スパッタ蒸着などのドライ法、キャスト、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレー、ブレードコート、スリットダイコート、グラビアコート、リバースコート、スクリーン印刷、鋳型塗布、印刷転写、インクジェットなどのウエットコート法、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法等、一般的な方法を挙げることができる。生産性の観点から、ウエットコート法が好ましい。
【実施例
【0075】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は質量部を、%は質量%をそれぞれ表す。
【0076】
本実施例および比較例において、カーボンナノチューブ分散液および塗料の製造にあたって、下記材料を使用した。
<未処理カーボンナノチューブ>
・JENOTUBE8A:JEIO社製、平均外径7.0nm
・JENOTUBE10B:JEIO社製、平均外径9.0nm
・Flotube9000:C-nano社製、平均外11.0nm
・K-Nanos 100T:Kumho Petrochemical社製、平均外径14.0nm
【0077】
<分散剤(C)>
・EFKA PX-4320:BASFジャパン社製、アクリル系ブロックコポリマー、固形分酸価0mg KOH/g、固形分アミン価56mg KOH/g、不揮発分50%
・DisperBYK-190:ビックケミー社製、アクリルブロック共重合、固形分酸価25mg KOH/g、固形分アミン価0mg KOH/g、不揮発分40%
・フタロシアニン誘導体:酸性色素誘導体 一般式(1)
【0078】
一般式(1)
【化1】
【0079】
<バインダー樹脂(D)>
・アクリディック47-712:DIC社製焼き付け溶剤塗料用アクリル樹脂、不揮発分50%
・スーパーベッカミンL-117-60:DIC社製メラミン樹脂、不揮発分60%
・ウォーターゾールS-751:DIC社製焼き付け水性塗料用アクリル樹脂、不揮発分50%
・サイメル303:三井サイテック社製メラミン樹脂、不揮発分100%
【0080】
<カーボンナノチューブの製造>
[実施例1]
【0081】
未処理カーボンナノチューブとしてJENOTUBE8A 10部、直径2mmのジルコニアビーズ 200部を粉砕メディアとして仕込み、ペイントシェーカーにて、40分間粉砕処理し、カーボンナノチューブC-1を得た。
【0082】
[実施例2~8、比較例1~7]
表1に示す未処理カーボンナノチューブの種類と粉砕処理時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノチューブC-2~C-15を得た。
【0083】
【表1】
【0084】
<カーボンナノチューブの平均外径の測定>
未処理カーボンナノチューブおよび粉砕処理後のカーボンナノチューブ(A)の平均外径は、透過型電子顕微鏡(日本電子社製)によって、カーボンナノチューブの形態観察を行い、100本の短軸の長さを計測し、その数平均値をもってカーボンナノチューブ平均外径(nm)とした。
【0085】
<カーボンナノチューブの表面酸素濃度の分析>
表面酸素濃度は、X線光電子分光装置(K-Alpha+、サーモサイエンティフィック製)を用いて測定した。Xray Anode:モノクロ(Al)、Current:6mA、Voltage:12kV、分析面積:約0.8mm×0.4mm、観察深さ:数nmの条件で測定を行い、測定後、検出された元素について定量測定を実施し、酸素原子の表面酸素濃度(mol%)を求めた。その結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
<カーボンナノチューブ分散液の製造>
[実施例9]
カーボンナノチューブ(A)としてカーボンナノチューブC-1 2.0部、分散剤(C)としてEFKA PX-4320 8部、溶媒(B)として酢酸ブチル 90.0部をヘラで予備分散をした後に、直径0.5mmのジルコニアビーズ 200部を粉砕メディアとして仕込み、ペイントシェーカーにて、6時間分散処理し、カーボンナノチューブ分散液D-1を得た。
【0088】
[実施例10~15、20、比較例8~14]
表3に示すカーボンナノチューブ(A)の種類に変更した以外は、実施例9と同様にして、カーボンナノチューブ分散液D-2~D-7、D12~D18、D-21を得た。
【0089】
[実施例16]
カーボンナノチューブ(A)としてカーボンナノチューブC-1 2.0部、分散剤(C)としてDisperBYK-190 10部、溶媒(B)として水 88.0部をヘラで予備分散をした後に、直径0.5mmのジルコニアビーズ 200部を粉砕メディアとして仕込み、ペイントシェーカーにて、6時間分散処理し、カーボンナノチューブ分散液D-8を得た。
【0090】
[実施例17、18、比較例15、16]
表3に示すカーボンナノチューブ(A)の種類に変更した以外は、実施例16と同様にして、カーボンナノチューブ分散液D-9~D-10、D19~D20を得た。
[実施例19]
カーボンナノチューブ(A)としてカーボンナノチューブC-1 2.0部、分散剤(C)としてEFKA PX-4320 8部、および一般式(1)で示されるフタロシアニン誘導体0.2部、溶媒(B)として酢酸ブチル 89.8部をヘラで予備分散をした後に、直径0.5mmのジルコニアビーズ 200部を粉砕メディアとして仕込み、ペイントシェーカーにて、6時間分散処理し、カーボンナノチューブ分散液D-11を得た。
【0091】
<カーボンナノチューブ分散液の評価>
得られたカーボンナノチューブ分散液について、以下の評価を行った。その結果を表3に示した。
(粘度)
分散性として粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、分散液温度25℃、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて、分散液をヘラで充分に撹拌した後、直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100mPa・s以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500mPa・s以上2000mPa・s未満の場合はNo.3を、2000mPa・s以上10000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。分散直後から5時間以内に測定した粘度を、初期粘度とした。初期粘度は下記基準で評価した。尚、〇(良好)、×(不良)の2段階で評価した。
○:300mPa・s以下
×:300mPa・sを超える
【0092】
(貯蔵安定性)
貯蔵安定性の評価は、カーボンナノチューブ分散液を50℃にて、10日間静置して保存した後の、粘度値の変化から評価した。変化率は式(1)によって算出され、算出された結果に基づき下記基準にて評価を行った。尚、〇(良好)、△(普通)、×(不良)の3段階で評価した。
変化率(%)=(50℃10日後粘度)/(初期粘度)×100・・・・・・式(1)
○:変化率が80%以上120%未満
△:変化率が50%以上80%未満または120%以上150%未満
×:変化率が50%未満または150%以上
【0093】
【表3】
【0094】
<カーボンナノチューブ塗料及びカーボンナノチューブ塗膜の製造>
[実施例21]
実施例9で得られたカーボンナノチューブ分散液D-1及びバインダー樹脂(D)を、下記組成にあるように配合し、固形分中にカーボンナノチューブが1%含有するカーボンナノチューブ塗料P-1を得た。
カーボンナノチューブ分散液D-1 :18.7部
アクリディック47-712 :60部
スーパーベッカミン117-60 :12.5部
【0095】
[実施例22~27、31、32、比較例17~23]
表4に示すカーボンナノチューブ分散液に変更した以外は、実施例19と同様にして、塗料P-2~P-7、P-11、P-12~P-18、P-21を得た。
【0096】
[実施例28]
実施例16で得られたカーボンナノチューブ分散液D-8及びバインダー樹脂(D)を、下記組成にあるように配合し、固形分中にカーボンナノチューブが1%含有するカーボンナノチューブ塗料P-8を得た。
カーボンナノチューブ分散液D-8 :20部
ウォーターゾールS-751 :56部
サイメル303 :12部
【0097】
[実施例29、30、比較例24、25]
表4に示すカーボンナノチューブ分散液に変更した以外は、実施例28と同様にして、塗料P-9~P-10、P-19~P-20を得た。
【0098】
<カーボンナノチューブ塗料及びカーボンナノチューブ塗膜評価>
得られたカーボンナノチューブ塗料について、さらに、塗料をPETフィルムに焼き付け後の膜厚が20±2μmになるようにアプリケーターで塗工し、30分間セッティング後、60℃にて30分間乾燥させた後、140℃にて20分間焼き付けを行って、各塗料の試験塗膜を作製し、塗料とその塗膜について以下の評価を行った。その結果を表4に示した。
【0099】
(相溶性)
相溶性については、得られた塗料をJIS K56002-5に従い、粒子の密集を確認することで、カーボンナノチューブ分散液と、バインダー樹脂(D)の相溶性を判断した。下記基準にて評価を行った。尚、〇(良好)、×(不良)の2段階で評価した。
○:密集20μm未満
×:密集20μm以上
【0100】
(光沢)
光沢については、塗膜に対して、JIS Z8741に準じて、グロスメーターGM-26D(村上色彩技術研究所社製)で60度光沢を測定し、下記基準にて評価を行った。尚、〇(良好)、△(普通)、×(不良)の3段階で評価した。
〇:80以上
△:70以上80未満
×:70未満
【0101】
(漆黒性)
漆黒性については、JIS Z8781-4で規定されるL***表色系の測定値に基づき、エックスライト社製多角度分光測色計MA94にて、塗膜に対して45°となるように照射した光の正反射光に対して25°、45°、75°で得られたL*a**表色系における明度L*を測定し、その合計値(以下L*25°+45°+75°と表記する)において下記基準で評価した。尚、〇(良好)、△(普通)、×(不良)の3段階で評価した。
〇:0.5以上1.5未満
△:1.5以上2.5以下
×:2.5を超える
【0102】
【表4】
【0103】
表3に示した結果から、本発明のカーボンナノチューブ(A)より製造した、カーボンナノチューブ分散液は初期粘度および貯蔵安定性に優れ、表4に示した結果から、本発明のカーボンナノチューブ分散液はバインダー樹脂への相溶性に優れることが示された。さらに、表4に示した結果から、本発明のカーボンナノチューブ塗料及びカーボンナノチューブ塗膜は、光沢と漆黒性に優れていることが示された。