IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-表示制御装置 図1
  • 特許-表示制御装置 図2
  • 特許-表示制御装置 図3
  • 特許-表示制御装置 図4
  • 特許-表示制御装置 図5
  • 特許-表示制御装置 図6
  • 特許-表示制御装置 図7
  • 特許-表示制御装置 図8
  • 特許-表示制御装置 図9
  • 特許-表示制御装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】表示制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/02 20060101AFI20220906BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20220906BHJP
   B60W 40/114 20120101ALI20220906BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20220906BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20220906BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20220906BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20220906BHJP
【FI】
B60R16/02 640K
B62D6/00
B60W40/114
B60W50/14
B62D113:00
B62D137:00
B62D119:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018163474
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020032971
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】内田 仁
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105424(JP,A)
【文献】国際公開第2009/063710(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0118263(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/02
B62D 6/00
B60W 40/114
B60W 50/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の電動式パワーステアリングシステムにおけるステアリングアシスト量と、前記車両に設けられたヨーレートセンサの計測値とを受信する受信部と、
前記受信部により受信された前記ステアリングアシスト量の符号又は前記ヨーレートセンサの計測値の符号を判定する符号判定部と、
前記符号判定部により判定された符号と、前記受信部により受信された前記ステアリングアシスト量及び前記ヨーレートセンサの計測値とに基づいて、前記車両内の表示器に表示するための表示用ステアリングアシスト指標値を算出する算出部と
を備え
前記算出部は、
前記ステアリングアシスト量の符号と前記ヨーレートセンサの計測値の符号とが同じである場合に、前記表示用ステアリングアシスト指標値を非ゼロの値として算出し、
前記ステアリングアシスト量の符号と前記ヨーレートセンサの計測値の符号とが異なる場合に、前記表示用ステアリングアシスト指標値をゼロと算出する、
表示制御装置。
【請求項2】
車両の電動式パワーステアリングシステムにおけるステアリングアシスト量と、前記車両に設けられたヨーレートセンサの計測値とを受信する受信部と、
前記受信部により受信された前記ステアリングアシスト量の符号又は前記ヨーレートセンサの計測値の符号を判定する符号判定部と、
前記符号判定部により判定された符号と、前記受信部により受信された前記ステアリングアシスト量及び前記ヨーレートセンサの計測値とに基づいて、前記車両内の表示器に表示するための表示用ステアリングアシスト指標値を算出する算出部と
を備え
前記算出部は、
前記ステアリングアシスト量の符号と前記ヨーレートセンサの計測値の符号とが同じである場合に、前記ステアリングアシスト量に応じた前記表示用ステアリングアシスト指標値を算出するとともに、前記表示器に表示するための表示用操舵角指標値を前記車両の操舵角に応じて算出し、
前記ステアリングアシスト量の符号と前記ヨーレートセンサの計測値の符号とが異なる場合に、前記ステアリングアシスト量に応じた前記表示用ステアリングアシスト指標値を算出するとともに、前記表示用操舵角指標値をゼロと算出する、
表示制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電動パワーステアリングシステムにおける表示制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステアリングをモータにてアシストする電動パワーステアリングのアシスト量表示方法が記載されている。この方法は、運転者によるステアリング操作により発生するトルクに応じてモータ指令電流値を算出するステップと、算出されたモータ指令電流値をアシスト量として表示器に表示させるステップとを具備するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-212501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動パワーステアリングのアシスト量を表示器に表示させることで、表示されない場合に比べて車両の乗員の安心感が高まると考えられる。しかし、車両の走行状態によっては、電動パワーステアリングのアシスト量の表示から乗員が受ける印象と、走行中の車両挙動に関する乗員の認識との間に、感覚的な齟齬が生じる場合がある。
【0005】
本発明は、電動パワーステアリングのアシスト量の表示から乗員が受ける印象と、走行中の車両挙動に関する乗員の認識との間に、感覚的な齟齬が生じる可能性を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る表示制御装置は、車両の電動式パワーステアリングシステムにおけるステアリングアシスト量と、前記車両に設けられたヨーレートセンサの計測値とを受信する受信部と、前記受信部により受信された前記ステアリングアシスト量の符号又は前記ヨーレートセンサの計測値の符号を判定する符号判定部と、前記符号判定部により判定された符号と、前記受信部により受信された前記ステアリングアシスト量及び前記ヨーレートセンサの計測値とに基づいて、前記車両内の表示器に表示するための表示用ステアリングアシスト指標値を算出する算出部とを備え、前記算出部は、前記ステアリングアシスト量の符号と前記ヨーレートセンサの計測値の符号とが同じである場合に、前記表示用ステアリングアシスト指標値を非ゼロの値として算出し、前記ステアリングアシスト量の符号と前記ヨーレートセンサの計測値の符号とが異なる場合に、前記表示用ステアリングアシスト指標値をゼロと算出する
上記目的を達成するために、本発明の別の実施形態に係る表示制御装置は、車両の電動式パワーステアリングシステムにおけるステアリングアシスト量と、前記車両に設けられたヨーレートセンサの計測値とを受信する受信部と、前記受信部により受信された前記ステアリングアシスト量の符号又は前記ヨーレートセンサの計測値の符号を判定する符号判定部と、前記符号判定部により判定された符号と、前記受信部により受信された前記ステアリングアシスト量及び前記ヨーレートセンサの計測値とに基づいて、前記車両内の表示器に表示するための表示用ステアリングアシスト指標値を算出する算出部とを備え、前記算出部は、前記ステアリングアシスト量の符号と前記ヨーレートセンサの計測値の符号とが同じである場合に、前記ステアリングアシスト量に応じた前記表示用ステアリングアシスト指標値を算出するとともに、前記表示器に表示するための表示用操舵角指標値を前記車両の操舵角に応じて算出し、前記ステアリングアシスト量の符号と前記ヨーレートセンサの計測値の符号とが異なる場合に、前記ステアリングアシスト量に応じた前記表示用ステアリングアシスト指標値を算出するとともに、前記表示用操舵角指標値をゼロと算出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電動パワーステアリングのアシスト量の表示から乗員が受ける印象と、走行中の車両挙動に関する乗員の認識との間に、感覚的な齟齬が生じる可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電動パワーステアリングシステムの説明図である。
図2】表示制御装置の説明図である。
図3】道路のカーブを示す説明図である。
図4】表示器における表示の一例を示す説明図である。
図5】路面に設けられたカントを示す説明図である。
図6】表示器における表示器の一例を示す説明図である。
図7】カントが設けられた路面を直進する場合と、カーブした道路の路面を走行する場合との比較結果を示す説明図である。
図8】表示器における表示の一例を示す説明図である。
図9】表示器における表示の一例を示す説明図である。
図10】表示制御装置の他の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0010】
図1に、車両の電動パワーステアリングシステム(以下、単に「システム」とも呼ぶ。)SSを示す。このシステムSSにおいて、ステアリングホイール1とステアリングギアボックス2とが、ステアリングシャフト3により連結されている。また、ステアリングギアボックス2と車輪4とが、タイロッド5により連結されている。
【0011】
ステアリングシャフト3には、操舵角センサS1と、トルクセンサS2と、モータMが組み付けられた減速機Rとが取り付けられている。操舵角センサS1は、車両の乗員の操作によるステアリングホイール1の操舵角を計測し、計測した操舵角をステアリングアシスト制御装置6へ送る。トルクセンサS2は、乗員がステアリングホイール1を操作したことにより生じるトルク(ステアリングトルク)を計測し、計測したトルクをステアリングアシスト制御装置6へ送る。ステアリングアシスト制御装置6にはさらに、車両に設けられたヨーレートセンサS3により計測された当該車両のヨーレート(当該車両の重心点を通る鉛直軸まわりの回転角速度)が入力される。
【0012】
ヨーレートの計測値は符号付きの値である。一例として、車両が上記鉛直軸を基準として車両平面視で反時計回りに回転している場合にヨーレートの計測値は正の値であり、車両が上記鉛直軸を基準として車両平面視で時計回りに回転している場合にヨーレートの計測値は負の値である。
【0013】
ステアリングアシスト制御装置6は、操舵角センサS1により計測された操舵角と、トルクセンサS2により計測されたトルクと、ヨーレートセンサS3により計測されたヨーレートとに基づいて、ステアリングアシスト(操舵補助)のためのステアリングアシスト量を算出し、そのステアリングアシスト量をモータMに送る。このステアリングアシスト量は、一例として、左操舵の場合に正の値であり、右操舵の場合に負の値である。モータMはこのステアリングアシスト量に基づいて回転し、その回転が減速機Rを通じてステアリングシャフト3に伝わることにより、乗員によるステアリングホイール1の操作に対するステアリングアシストが行われる。
【0014】
ステアリングアシスト制御装置6によるステアリングアシスト量と、ヨーレートセンサS3によるヨーレートの計測値とは、表示制御装置7にも送られる。表示制御装置7は、送られてきたステアリングアシスト量及びヨーレートの計測値に基づいて、表示用ステアリングアシスト指標値を算出する。表示用ステアリングアシスト指標値を算出する流れについては後述する。表示用ステアリングアシスト指標値は、表示制御装置7から、ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)の一種である表示器8へ送られる。この表示用ステアリングアシスト指標値は、車両の乗員が視認する表示器8に表示するためのものであり、ステアリングアシスト制御装置6によるステアリングアシスト量とは必ずしも一致しない。
【0015】
図2に示すように、表示制御装置7は、受信部7Aと算出部7Bとを備えている。算出部7Bは、符号判定部71と、第1乗算部72と、積分部73と、比較部74と、第2乗算部75とを備えている。
【0016】
表示制御装置7の各部における処理内容の詳細は後述する。また、表示制御装置7は、そのハードウェア構成として、各部の機能を実行するように動作可能なプログラム及びデータを格納するメモリと、演算処理を行うプロセッサと、システムSS内の他の装置とのインタフェースとを備えている。
【0017】
受信部7Aは、ステアリングアシスト制御装置6からステアリングアシスト量を受信するとともに、ヨーレートセンサS3からヨーレートの計測値を受信する。受信部7Aにより受信されたステアリングアシスト量は符号判定部71及び第1乗算部72に入力される。受信部7Aにより受信されたヨーレートの計測値は第1乗算部72に入力される。
【0018】
符号判定部71は、受信部7Aから入力されたステアリングアシスト量の符号を判定する。具体的には、符号判定部71は、入力されたステアリングアシスト量をステアリング中立状態での入力値と比較し、その比較結果に応じた符号を得る。一例として左方向に操舵アシストする側の入力値の場合は「+1」、中立状態での入力値と同値である場合は「0」、右方向に操舵アシストしている場合は「-1」という符号が得られる。このようにして得られた符号は、第2乗算部75へ送られる。
【0019】
中立状態でのセンサ入力には電気的、機械的なゼロ点誤差があるため、あらかじめ機械的な上記中立状態での入力値を学習しておくことができる。
【0020】
第1乗算部72は、受信部7Aから入力されたステアリングアシスト量と、同じく受信部7Aから入力されたヨーレートの計測値との乗算を行う。この乗算が、ステアリングアシスト量とヨーレートセンサの計測値との組み合わせに相当する。この乗算による積は一種の仕事率であり、ステアリングアシスト量とヨーレート計測値とが同符号の場合に正の値となり、ステアリングアシスト量とヨーレート計測値とが異符号の場合に負の値となる。この積は積分部73へと送られる。
【0021】
積分部73は、第1乗算部72から送られた積について一定時間の積分処理を行う。積分部73は、この積分処理の結果を比較部74へと送る。積分処理の結果は仕事量と呼ぶことができる。
【0022】
ステアリングアシスト量とヨーレート計測値とが同符号の場合のみ、積分値である仕事量も積算増加していく。異符号の場合(ステアリングアシストした方向に車両が動いていない場合、つまり因果関係が成立していない場合)、積算した仕事量が減少する。
【0023】
ステアリングアシスト量は、車両を制御するための車両への入力であるため、上記因果関係における原因と考えることができる。また、ヨーレート計測値は、車両の実際の挙動を表す車両の出力であるため、上記因果関係における結果と考えることができる。
【0024】
比較部74は、積分部73により得られた積分処理の結果と、所定の第1閾値(正の値)とを比較し、その比較の結果に応じて出力値を求める。具体的には、比較部74は、積分処理の結果が第1閾値を上回る場合には、積分処理の結果を第2乗算部75へ出力する。他方、積分処理の結果が第1閾値以下である場合には、比較部74は「0」という値を第2乗算部75へ出力する。
【0025】
第1閾値は、事前に設定され、比較部74内に保存しておくことができる。微妙な制御状態を表示器8に表示させる場合には第1閾値を比較的小さい値に設定し、微妙な制御状態を表示器8に表示させない場合には第1閾値を比較的大きな値に設定することができる。
【0026】
このように、比較部74の出力値は正の値であるか又はゼロである。ステアリングアシスト量(原因)に応じたヨーレート計測値(結果)が得られている、つまり上記因果関係が成立している場合は、比較部74は正の値を出力する。他方で、ステアリングアシスト量(原因)とヨーレート計測値(結果)とが連動していない、つまり上記因果関係が成立していない場合は、比較部74はゼロを出力する。
【0027】
第2乗算部75は、符号判定部71から送られた符号(「+1」、「0」又は「-1」)と、比較部74から送られた値との乗算を行う。すなわち、この乗算により、符号判定部71により判定された符号と、比較部による値とが組み合わせられる。乗算により得られた積は、表示用ステアリングアシスト指標値として表示器8へと送られる。表示器8においては、第2乗算部75から送られた表示用ステアリングアシスト指標値に基づいてステアリングアシスト量の表示が行われる。
【0028】
図3に、左にカーブした道路の路面Lを示す。このような路面Lに沿って、上記システムSSを搭載した車両が左に曲がりながら走行する場合について説明する。そして、左右を区別するために、先に述べたように左を正の値で表し、右を負の値で表すことを前提とする。このような場合、ステアリングアシスト制御装置6によるステアリングアシスト量は正の値である。ヨーレートセンサS3によるヨーレートの計測値も正の値である。算出部7Bによる表示用ステアリングアシスト指標値も正の値である。
【0029】
その結果、図4に示すように、表示用ステアリングアシスト指標値に応じたサイズを有し、この指標値の符号に応じて左側に曲がった形状の矢印Yが表示器8に表示される。この矢印Yは、表示用ステアリングアシスト指標値を乗員に知らせるためのものである。表示用ステアリングアシスト指標値が大きいほど、表示される矢印Yのサイズも大きくなる。なお、矢印Yに隣接するように、速度計の表示Cもなされる。
【0030】
このように、図3の路面Lを走行する場合は、左操舵の制御がなされ、車両も実際に左に曲がるため、上記因果関係が成立して、矢印Yが表示される。
【0031】
次に、図5に示すように、車両Vが、カントが設けられた直線状の道路の路面Lを、同図の手前から向こうへ向かう方向Dに沿って直進する場合について説明する。カントとは、雨水の排水等のために設けられた路面の幅方向Dの傾斜である。同図に示すように、カントは、方向Dを基準としたときの左側路肩Lよりも右側路肩Lが低くなるように設けられている。カントの角度は、車両Vの乗員には感じられない程度に微小であることが多い。
【0032】
カントに起因して、乗員によるステアリングホイール1の操作又は車両Vに搭載された車線維持支援(Lane Keeping Assist, LKA)システム(不図示)により直進走行を維持するために、ステアリングアシスト制御装置6によるステアリングアシスト量は正の値となる。ヨーレートセンサS3によるヨーレートの計測値は、カントの影響により、ゼロ又は負の値となる。そして、比較部74の出力がゼロとなることから、算出部7Bによる表示用ステアリングアシスト指標値もゼロとなる。その結果、図6に示すように、矢印Yのような矢印は、表示器8に表示されない。
【0033】
他方、上記実施形態とは異なり、表示用ステアリングアシスト指標値ではなく、ステアリングアシスト制御装置6によるステアリングアシスト量に応じたサイズの矢印を、表示器8に表示する別の実施形態も考えられる。この実施形態において、カーブした道路の路面Lを走行する場合と、カントが設けられた路面Lを直進走行する場合とのいずれであっても、図4に示したような矢印Yが表示器8に表示されることになる。
【0034】
カントが設けられた路面Lを直進走行している際に、表示器8に矢印Yが表示されると、その表示から乗員は左に曲がりながら走行しているかのような印象を受ける。つまり、アシスト量の表示から乗員が受ける印象(左に曲がりながら走行しているかのような印象)と、直進走行しているという乗員の認識との間に、感覚的な齟齬が生じる。
【0035】
これに対し、本実施形態によれば、同じように左向きのステアリングアシスト量が発生している状態であっても、車体が左に曲がりながら走行している場合と、カントが設けられた路面を直進している場合とで、表示器8の表示が変わる。そのため、表示器の表示から乗員が受ける印象と、走行中の車両挙動に関する乗員の認識との間の感覚的な齟齬(乗員が持つ違和感)を低減することができる。ひいては、車両の運転支援機能に対する乗員の信頼感及び安心感を高めることができる。
【0036】
図7に、一例として、カントと道路曲率とステアリングアシスト量と操舵角とヨーレートの計測値と表示ステアリングアシスト指標値とを概略的に示す。図7(a)に、図5に示したカント路面を直進する場合を示し、図7(b)に、図3に示した、カントのないカーブ路面に沿って走行する場合を示す。
道路のカントを表す数値は、カント路面の場合は符号aに示すように正の値であり、カーブに沿って走行する場合は符号bに示すようにゼロである。なお、左側路肩よりも右側路肩が高いカントの場合は、そのカントを表す数値は負の値である。
道路曲率は、カント路面の場合は符号aに示すようにゼロであり、カーブに沿って走行する場合は符号bに示すように正の値である。
ステアリングアシスト量は、カント路面の場合は符号aに示すように正の値であり、カーブに沿って走行する場合も符号bに示すように正の値である。
操舵角は、カント路面の場合は符号aに示すように正の値であり、カーブに沿って走行する場合は符号bも示すように正の値である。
ヨーレートの計測値は、カント路面の場合は符号aに示すようにゼロであり、カーブに沿って走行する場合は符号bに示すように正の値である。
表示用ステアリングアシスト指標値は、カント路面の場合は符号aに示すようにゼロであり、カーブに沿って走行する場合は符号bに示すように正の値である。
【0037】
このように、ステアリングアシスト量の符号とヨーレートセンサの計測値の符号とが同じである場合、つまり上記因果関係が成立している場合に、表示用ステアリングアシスト指標値が非ゼロの値として算出される。また、ステアリングアシスト量の符号とヨーレートセンサの計測値の符号とが異なる、または片方あるいは両方がゼロである場合、つまり上記因果関係が成立していない場合に、表示用ステアリングアシスト指標値がゼロと算出される。
【0038】
図8に、表示器における表示の別の例として、図5に示した路面Lを直進走行した場合の表示例を示す。速度計の表示Cに隣接するように、中立状態のステアリングホイールの表示SWと、算出部7Bへの入力であるステアリングアシスト量に応じたサイズと、表示SWを中心とした回転の方向でアシスト方向を示す矢印Yとが表示される。
【0039】
上記実施形態においては、図5に示した路面Lを直進走行した場合、図6に示したように矢印が表示されない。しかし、図8に示す変形例においては、表示制御装置7が算出する表示用操舵角指標値がゼロである場合に限って、算出部7Bに入力されるステアリングアシスト量を、図8の矢印Yのように表示する。車両は直進しているが、カント路面での直進を維持するためにステアリングアシストが行われているということを、乗員に知らせることができる。
【0040】
なお、中立状態のステアリングホイールの表示SWは、表示制御装置7が算出して表示器8に出力する表示用操舵角指標値によるものである。表示制御装置7は、ステアリングアシスト量の符号とヨーレートセンサの計測値の符号とが異なる場合、つまり上記因果関係が成立していない場合に、表示用操舵角指標値をゼロとして算出する。
【0041】
図9に、表示器における表示の更なる例として、図3に示した路面Lを走行した場合の表示例を示す。速度計の表示Cに隣接するように、大きく左に切られたステアリングホイールの表示SWと、表示用ステアリングアシスト指標値(正の値)の絶対値に応じたサイズを有し、表示SWを中心として反時計回りの方向を有する矢印Yとが表示される。矢印Yは、矢印Yよりもサイズが大きく、乗員が矢印Yと矢印Yとの間で意味が異なると判別できるよう、意匠に差異を設けている。
【0042】
大きく左に切られたステアリングホイールの表示SWは、上述の表示用操舵角指標値によるものである。表示制御装置7は、ステアリングアシスト量の符号とヨーレートセンサの計測値の符号とが同じである場合、つまり上記因果関係が成立している場合に、表示用操舵角指標値を操舵角センサS1の計測値に応じて非ゼロの値として算出する。
【0043】
なお、表示用ステアリングアシスト指標値が負の値である場合は、ステアリングホイールの表示を中心として時計回りの方向を有する矢印を表示することができる。
【0044】
以上のように、図2における比較部74の出力がゼロである場合に、図8のような表示がなされ、それ以外は図9のような表示がなされる。すなわち、上記因果関係の有無によって表示を変えることができる。ステアリングホイール表示の角度、矢印の表示位置、矢印の形状など、図2における比較部74の出力の違いに応じ、明らかに異なる意匠の表示を使用することで、ステアリングのアシスト量が、車両の挙動に及ぼしている影響を、定性的・定量的の両面で乗員が視覚的に感じ取ることが可能となる。
【0045】
図2に示した算出部7Bを、図10に示す算出部7Cに置き換えることも可能である。算出部7Cは、微分部71aを備えているとともに、相関係数算出部76と、比較部77と、乗算部78とを備えている。
【0046】
図2の受信部7Aにより受信されたステアリングアシスト量は、図10の微分部71aと相関係数算出部76と乗算部78とに入力され、受信部7Aにより受信されたヨーレートの計測値は相関係数算出部76に入力される。
【0047】
相関係数算出部76は、ステアリングアシスト量と、ヨーレートセンサの計測値との相関係数を算出する。相関係数は-1以上1以下の値である。この相関係数の算出が、ステアリングアシスト量とヨーレートセンサの計測値とを組み合わせることに相当する。算出された相関係数は、比較部77へ送られる。
【0048】
相関係数rの算出の一例について説明する。まず、ある時点におけるステアリングアシスト量x及びヨーレートセンサの計測値yの組(x,y)が受信部7Aにより受信されたとする。ただし、インデックスiは1以上n以下の整数であり、nは組(x,y)の個数を表す2以上の整数である。そして、ステアリングアシスト量xの集合Xと、ヨーレートセンサの計測値yの集合Yとを以下のように定める。
X=(x,x,・・・,x
Y=(y,y,・・・,y
【0049】
集合Xと集合Yとの相関係数rは以下のように算出される。
【数1】
ただし、sxyはxとyの共分散であり、sはxの標準偏差であり、sはyの標準偏差である。また、
【数2】
はxの平均であり、
【数3】
はyの平均である。
【0050】
横軸にステアリングアシスト量、縦軸にヨーレート計測値をとった散布図を描いたときに、線形近似が右肩上がりか右肩下がりかを相関係数の正負から見ることができる。また、相関係数がどれだけ1に近いかで、ステアリングアシスト量とヨーレート計測値との因果関係の強さを見ることができる。相関係数が正(線形近似が右肩上がり)の場合が、ステアリングアシスト量とヨーレート計測値とが同符号である場合に相当する。また、相関係数が負(線形近似が右肩下がり)の場合が、ステアリングアシスト量とヨーレート計測値とが異符号である場合に相当する。
【0051】
比較部77は、相関係数算出部76により得られた相関係数と所定の第2閾値(正の値)とを比較し、その比較の結果に応じて出力値を求める。具体的には、比較部77は、相関係数が第2閾値を上回る場合には、その相関係数をそのまま乗算部78へ出力する。他方、相関係数が第2閾値以下である場合には、比較部77は「0」という値を乗算部78へ出力する。なお、所定の第2閾値は、第1閾値と同様、事前に設定され、比較部77内に保存しておくことができる。
【0052】
微分部71aは、ステアリングアシスト量x,x,・・・,xの変化の符号(「+1」又は「-1」)を判定し、判定された符号を乗算部78へ向けて出力する。
【0053】
乗算部78は、微分部71aにより判定されたステアリングアシスト量の変化率の符号と、受信部7Aからのステアリングアシスト量と、比較部77により得られた値とを乗算処理することにより、表示用ステアリングアシスト指標値を算出する。この処理によって、ステアリングアシスト量が増加または減少したとき、そのアシスト量変化の何割が、車両運動の変化となって観測されたのかを算出して、乗員向けにHMI表示を行うことができる。
【0054】
このように、算出部7Cによっても、表示用ステアリングアシスト指標値を算出することができる。
【0055】
なお、符号判定部71は、算出部7Bの内部に設けられている必要はなく、表示制御装置7の内部に設けられていればよい。微分部71aについても同様である。
【0056】
符号判定部71により判定された符号が第2乗算部75における乗算の結果に影響するのは、比較部74の出力が正の値の場合である。そして、このような場合、ステアリングアシスト量とヨーレート計測値とは同符号である。そのため、符号判定部71は、ステアリングアシスト量の符号ではなく、ヨーレート計測値の符号を判定するように構成してもよい。微分部71aについても同様である。
【0057】
微分部71aを符号判定部71aと呼ぶこともできる。
【0058】
前述した電動パワーステアリングシステム及び表示制御装置の機能的構成及び物理的構成は、前述の態様に限られるものではなく、例えば、各機能や物理資源を統合して実装したり、逆に、さらに分散して実装したりすることも可能である。
【0059】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
SS ステアリングシステム
1 ステアリングホイール
2 ステアリングギアボックス
3 ステアリングシャフト
4 車輪
5 タイロッド

S1 操舵角センサ
S2 トルクセンサ
S3 ヨーレートセンサ
M モータ
R 減速機

6 ステアリングアシスト制御装置

7 表示制御装置
7A 受信部
7B 算出部
71 符号判定部
72 第1乗算部
73 積分部
74 比較部
75 第2乗算部

7C 算出部
76 相関係数算出部
77 比較部
78 乗算部

8 表示器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10