(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】分析装置、分析システムおよび分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
G01N30/86 V
G01N30/86 R
(21)【出願番号】P 2018192655
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 嵩之
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-292446(JP,A)
【文献】特開平07-260767(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0129169(US,A1)
【文献】特表2018-502293(JP,A)
【文献】国際公開第2016/096790(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 27/26 -27/49
G06N 3/00 - 3/12
G06F 17/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の事例データセットを記憶する事例データセット記憶部と、
測定装置で測定された初期状態および複数の時点の測定データを取得する測定データ取得部と、
前記初期状態の測定データに対する第1の経過時間よりも前の複数の時点の測定データの変化量を表わす差分データを生成する差分データ生成部と、
前記複数の事例データセットを用いて、前記差分データ生成部によって生成された前記第1の経過時間よりも前の複数の時点の差分データに基づいて、前記第1の経過時間以降の測定データの前記初期状態の測定データからの変化量の推定値を表わす差分データを出力する経年劣化推定部と、
前記経年劣化推定部から出力される差分データによって、前記第1の経過時間以降の測定データを補正する経年劣化補正部とを備え、
前記複数の事例データセットの各々は、同一の試料および同一の測定条件において複数の時点で測定された測定データについての初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを含む、分析装置。
【請求項2】
前記経年劣化推定部は、前記複数の事例データセットを用いて、初期状態から第1の経過時間より前の複数の時点の測定データの前記初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを入力とし、前記第1の経過時間以降の測定データの前記初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを出力するように学習された経年劣化モデルに、前記差分データ生成部によって生成された前記第1の経過時間よりも前の複数の時点の差分データを入力することによって、前記第1の経過時間以降の測定データの前記初期状態の測定データからの変化量の推定値を表わす差分データを出力する、請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記経年劣化モデルは、ニューラルネットワークによって構成される、請求項2記載の分析装置。
【請求項4】
前記経年劣化補正部は、前記第1の経過時間以降の測定データに、前記経年劣化推定部から出力される差分データを減算する、請求項1記載の分析装置。
【請求項5】
前記測定データは、波形データである、請求項1記載の分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の分析装置と、
1以上のデータ管理装置とを備え、
前記1以上のデータ管理装置は、
試料名および測定条件の識別子と、初期状態および複数の時点で測定された測定データとを含むオリジナルデータセットを管理するオリジナルデータ記憶部と、
前記オリジナルデータセットから、前記試料名および前記測定条件の識別子を消去し、前記複数の時点で測定された測定データから前記初期状態の測定データを減算することによって、前記事例データセットを生成する事例データセット生成部と、
前記事例データセットを前記分析装置へ送信する送信部とを備え、
前記分析装置は、前記事例データセットを受信する受信部を備えた、分析システム。
【請求項7】
データ管理装置が、試料名および測定条件の識別子と、初期状態および複数の時点で測定された測定データとを含むオリジナルデータセットから、前記試料名および前記測定条件の識別子を消去し、前記複数の時点で測定された測定データから前記初期状態の測定データを減算することによって
、事例データセットを生成するステップと、
前記データ管理装置が、前記事例データセットを分析装置へ送信するステップと、
前記分析装置が、前記事例データセットを受信するステップと、
前記分析装置が、複数の前記事例データセットを用いて、初期状態から第1の経過時間より前の複数の時点の測定データの前記初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを入力とし、前記第1の経過時間以降の測定データの前記初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを出力とする経年劣化モデルを学習するステップと、
前記分析装置が、測定装置で測定された初期状態および複数の時点の測定データを取得するステップと、
前記分析装置が、前記学習された経年劣化モデルに、前記測定装置の初期状態から第1の経過時間より前の複数の時点の測定データの前記初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを入力することによって、前記第1の経過時間以降の測定データの前記初期状態の測定データからの変化量の推定値を表わす差分データを出力するステップと、
前記分析装置が、前記出力される差分データによって、前記第1の経過時間以降の測定データを補正するステップとを備えた、分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置、分析システムおよび分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分析装置は、内部に検出器のランプおよびカラム等の消耗品を含む。消耗品の使用回数により同一の試料と分析条件に対する分析でも、ピーク形状の変形、または保持時間の移動などによって、分析結果が変化する。分析結果の変化を補正するために、事前に標準的な試料を分析して過去の分析結果として記憶する。新たな分析結果を過去の分析結果と比較することによって分析結果の変化を検知することができる。また、過去の複数の分析結果から、分析結果の変化を推定して補正することができる。
【0003】
たとえば、特許文献1には、消耗品の使用回数およびロット番号から計測結果を補正する手段が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、事前に標準的な試料を分析する場合、標準的な試料の分析が追加で必要となるため、コストが増加する。
【0006】
また、過去の分析結果を用いて補正する場合、分析装置の使用者が過去の分析結果を充分に保有している必要がある。これまで分析を行っていない新しい試料または分析条件には、過去の分析結果を用いることができない。また、測定に用いた試料、測定条件、および生の測定データには、ノウハウおよび製品情報などの保護すべき情報が含まれているため、他の使用者との共有が困難である。
【0007】
また、消耗品の使用回数による分析結果への影響は、分析条件により大きく変化するため、単純に同じ消耗品およびロット番号での過去の分析結果を用いても、新たな分析結果の変化を推定することが困難である。
【0008】
それゆえに、本発明の目的は、測定に用いた試料、測定条件、および生の測定データの情報を用いることなく、測定装置の経年劣化に伴う測定データの変化を補正することができる分析装置、分析システムおよび分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の分析装置は、複数の事例データセットを記憶する事例データセット記憶部と、測定装置で測定された初期状態および複数の時点の測定データを取得する測定データ取得部と、初期状態の測定データに対する第1の経過時間よりも前の複数の時点の測定データの変化量を表わす差分データを生成する差分データ生成部と、複数の事例データセットを用いて、差分データ生成部によって生成された第1の経過時間よりも前の複数の時点の差分データに基づいて、第1の経過時間以降の測定データの初期状態の測定データからの変化量の推定値を表わす差分データを出力する経年劣化推定部と、経年劣化推定部から出力される差分データによって、第1の経過時間以降の測定データを補正する経年劣化補正部とを備える。複数の事例データセットの各々は、同一の試料および同一の測定条件において複数の時点で測定された測定データについての初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを含む。
【0010】
これによって、測定に用いた試料、測定条件、および生の測定データの情報を用いることなく、測定装置の経年劣化に伴う測定データの変化を補正することができる。
【0011】
好ましくは、経年劣化推定部は、複数の事例データセットを用いて、初期状態から第1の経過時間より前の複数の時点の測定データの初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを入力とし、第1の経過時間以降の測定データの初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを出力するように学習された経年劣化モデルに、差分データ生成部によって生成された第1の経過時間よりも前の複数の時点の差分データを入力することによって、第1の経過時間以降の測定データの初期状態の測定データからの変化量の推定値を表わす差分データを出力する。
【0012】
これによって、事例データセットを用いて経年劣化モデルを学習し、学習した経年劣化モデルを用いて、第1の経過時間以降の測定データの初期状態の測定データからの変化量の推定値を得ることができる。
【0013】
好ましくは、経年劣化モデルは、ニューラルネットワークによって構成される。
これによって、学習能力の優れたニューラルネットワークを用いて、事例データセットを学習することができる。
【0014】
好ましくは、経年劣化補正部は、第1の経過時間以降の測定データに、経年劣化推定部から出力される差分データを減算する。
【0015】
好ましくは、測定データは、波形データである。
これによって、測定装置の経年劣化による周波数スペクトルなどの波形データの初期状態からの変化を補正することができる。
【0016】
本発明の分析システムは、分析装置と、1以上のデータ管理装置とを備える。1以上のデータ管理装置は、試料名および測定条件の識別子と、初期状態および複数の時点で測定された測定データとを含むオリジナルデータセットを管理するオリジナルデータ記憶部と、オリジナルデータセットから、試料名および測定条件の識別子を消去し、複数の時点で測定された測定データから初期状態の測定データを減算することによって、事例データセットを生成する事例データセット生成部と、事例データセットを分析装置へ送信する送信部とを備える。分析装置は、事例データセットを受信する受信部を備える。
【0017】
これによって、各データ管理装置は、オリジナルデータセットに含まれる測定に用いた試料、測定条件、および生の測定データという保護すべき情報が含まれず、初期状態からの変化量を表わす差分データからなる事例データセットを作成して、分析装置に提供することができる。
【0018】
本発明の分析方法は、データ管理装置が、試料名および測定条件の識別子と、初期状態および複数の時点で測定された測定データとを含むオリジナルデータセットから、試料名および測定条件の識別子を消去し、複数の時点で測定された測定データから初期状態の測定データを減算することによって、事例データセットを生成するステップと、データ管理装置が、事例データセットを分析装置へ送信するステップと、分析装置が、事例データセットを受信するステップと、分析装置が、複数の事例データセットを用いて、初期状態から第1の経過時間より前の複数の時点の測定データの初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを入力とし、第1の経過時間以降の測定データの初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを出力とする経年劣化モデルを学習するステップと、分析装置が、測定装置で測定された初期状態および複数の時点の測定データを取得するステップと、分析装置が、学習された経年劣化モデルに、測定装置の初期状態から第1の経過時間より前の複数の時点の測定データの初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを入力することによって、第1の経過時間以降の測定データの初期状態の測定データからの変化量の推定値を表わす差分データを出力するステップと、分析装置が、出力される差分データによって、第1の経過時間以降の測定データを補正するステップとを備える。
【0019】
これによって、測定に用いた試料、測定条件、および生の測定データの情報を用いることなく、測定装置の経年劣化に伴う測定データの変化を補正することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、測定に用いた試料、測定条件、および生の測定データの情報を用いることなく、測定装置の経年劣化に伴う測定データの変化を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1の実施形態の分析装置1の構成を表わす図である。
【
図2】複数の事例データセットの例を表わす図である。
【
図3】経年劣化モデルAGMの構成を表わす図である。
【
図4】(a)は、測定データR(t
0)~R(t
n)の例を表わす図である。(b)は、差分データD(t
1)~D(t
m-1)、差分データD(t
m)~D(t
n)の例を表わす図である。(c)は、補正後の測定データR′(t
m)~R′(t
n)の例を表わす図である。
【
図5】第1の実施形態の分析装置1の学習手順を表わすフローチャートである。
【
図6】第1の実施形態の分析装置1の測定データの補正手順を表わすフローチャートである。
【
図7】第2の実施形態の分析システムの構成を表わす図である。
【
図8】(a)は、オリジナルデータセットの例を表わす図である。(b)は、事例データセットの例を表わす図である。
【
図9】第2の実施形態の分析システムの分析手順を表わすフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施の形態について、図面を参照して、説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態の分析装置1の構成を表わす図である。
【0023】
分析装置1は、測定データ取得部3と、差分データ生成部6と、事例データセット記憶部2と、経年劣化推定部4と、経年劣化補正部5とを備える。
【0024】
事例データセット記憶部2は、複数の事例データセットを記憶する。1つの事例データセットは、同一の試料および同一の測定条件において複数の時点で測定された測定データについての初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データを含む。
【0025】
試料には、血液、カフェイン、ニコジンなどを含む。測定条件には、消耗品の劣化および測定データに関連する条件、たとえば、分析時間、温度、圧力、液体の流速、消耗品の種類などを含む。測定データには、クロマトグラフィの検出器から出力されるクロマトグラム、および周波数スペクトルなどが含まれる。
【0026】
図2は、複数の事例データセットの例を表わす図である。
事例データセットは、複数の時点t
1~t
nにおける測定データの初期状態t0の測定データからの差分データD(t
1)~D(t
n)を記憶する。時点間の間隔は、たとえば、数時間、1日、1か月、または数か月などであってもよい。測定データは、波形データであってもよい。あるいは、測定データは、数値データであってもよい。
【0027】
初期状態t0、および複数の時点t0~tnの測定データをR(t0)~R(tn)とすると、差分データD(t1)~D(tn)は、以下の式で表される。
【0028】
D(ti)=R(ti)-R(t0) (i=1~n) …(1)
複数の事例データセットは、測定装置10、または複数の他の測定装置で測定された測定データから作成される。たとえば、複数の事例データセットは、複数のユーザが使用する測定装置で測定された測定データから作成される。
【0029】
この事例データセットには、測定に用いた試料、測定条件、および生の測定データが含まれない。測定データは、初期状態からの差分として表わされるだけである。したがって、本実施の形態では、複数のユーザが所有するノウハウおよび製品情報など保護すべき情報を用いない。
【0030】
また、1つの事例データセットは、同一の試料および同一の測定条件において測定された測定でータから得られるので、差分データは、経年劣化による変化のみを表わすものとみなすことができる。
【0031】
測定データ取得部3は、分析装置1と接続される測定装置10で測定された初期状態t0および複数の時点t1~tnの測定データR(t0)~R(tn)を取得する。
【0032】
差分データ生成部6は、第1の経過時間よりも前の複数の時点t1~tm-1の測定データR(t1)~R(tm-1)の初期状態の測定データR(t0)からの変化量を表わす差分データD(t1)~D(tm-1)を生成する。
【0033】
経年劣化推定部4は、事例データセット記憶部2に記憶されている複数の事例データセットを用いて、差分データ生成部6によって生成された複数の時点の差分データD(t1)~D(tm-1)に基づいて、第1の経過時間tm以降の測定データの初期状態の測定データからの変化量の推定値を表わす差分データD(tm)~D(tn)を出力する。
【0034】
より、具体的には、経年劣化推定部4は、複数の事例データセットを用いて、初期状態から第1の経過時間tmより前の複数の時点t1~tm-1の測定データの初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データD(t1)~D(tm-1)を入力とし、第1の経過時間tm以降の測定データの初期状態の測定データからの変化量を表わす差分データD(tm)~D(tn)を出力する経年劣化モデルAGMを学習する。経年劣化推定部4は、学習された経年劣化モデルAFMに、差分データ生成部6によって生成された第1の経過時間tmよりも前の複数の時点t1~tm-1の差分データD(t1)~D(tm-1)を入力することによって、第1の経過時間tm以降の測定データの初期状態の測定データからの変化量の推定値を表わす差分データD(tm)~D(tn)を出力する。
【0035】
経年劣化モデルAFMに入力される差分データD(t1)~D(tm-1)は、経年劣化よる変化のみを表わし、他の要因(試料、測定条件など)の変化を含んでいないことが必要である。経年劣化モデルAFMから出力される差分データD(tm)~D(tn)も、経年劣化による変化のみを表わす。
【0036】
図3は、経年劣化モデルAGMの構成を表わす図である。
図3に示すように、経年劣化モデルAGMは、ニューラルネットワークで構成されるものとしてもよい。
【0037】
学習時において、ニューラルネットワークの入力層には、事例データセットの差分データD(t1)~D(tm-1)が入力される。出力層から出力されるデータと事例データセットの差分データD(tm)~D(tn)との誤差が最小化するように誤差逆伝搬法によって、ニューラルネットワークのパラメータが学習される。
【0038】
経年劣化の推定時には、ニューラルネットワークの入力層には、測定装置10から出力された測定データR(t0)~R(tm-1)の差分データD(t1)~D(tm-1)が入力される。ニューラルネットワークの出力層から推定値である差分データD(tm)~D(tn)が出力される。
【0039】
経年劣化補正部5は、経年劣化推定部4から出力される差分データD(tm)~D(tn)によって、第1の経過時間tm以降の測定データR(tm)~R(tn)を補正する。より、具体的には、経年劣化補正部5は、第1の経過時間tm以降の測定データR(tm)~R(tn)に、経年劣化推定部4から出力される差分データD(tm)~D(tn)を減算することによって、補正された測定データR′(tm)~R′(tn)を出力する。これによって、経年劣化の影響が除去された測定データが得られる。つまり、測定装置10が経年劣化していない初期状態t0のときに得られたと予想される測定データ(つまり、正しい測定データ)が得られる。
【0040】
図4(a)は、測定データR(t
0)~R(t
n)の例を表わす図である。
図4(b)は、差分データD(t
1)~D(t
m-1)、差分データD(t
m)~D(t
n)の例を表わす図である。
図4(c)は、補正後の測定データR′(t
m)~R′(t
n)の例を表わす図である。
【0041】
差分データ生成部6によって、測定装置10で測定された測定データR(t0)~R(tm-1)から差分データD(t1)~D(tm-1)が生成される。
【0042】
経年劣化推定部4によって、差分データD(t1)~D(tm-1)から差分データ(tm)~D(tn)が生成される。
【0043】
経年劣化補正部5によって、測定データR(tm)~R(tn)が、差分データD(tm)~D(tn)によって補正された測定データR′(tm)~R′(tn)が生成される。
【0044】
図5は、第1の実施形態の分析装置1の学習手順を表わすフローチャートである。
ステップS201において、経年劣化推定部4は、事例データセットに含まれる時点t
1~時点t
m-1までの差分データD(t
j)(j=1~m-1)を入力とし、時点t
m~時点t
nまでの差分データD(t
k)(k=m~n)を出力とする学習データを生成する。
【0045】
ステップS202において、経年劣化推定部4は、学習データを用いて、
図3のニューラルネットワークを学習する。
【0046】
ステップS203において、経年劣化推定部4は、学習結果であるニューラルネットワークのパラメータを記憶する。
【0047】
図6は、第1の実施形態の分析装置1の測定データの補正手順を表わすフローチャートである。
【0048】
ステップS101において、測定データ取得部3は、測定装置10から測定データR(ti)(i=0~m―1)を取得する。
【0049】
ステップS102において、差分データ生成部6は、以下の式に示すように、差分データD(tj)(j=1~m-1)を生成する。
【0050】
D(tj)=R(tj)-R(tj-1) …(2)
ステップS103において、経年劣化推定部4は、学習結果であるパラメータが設定された学習済みのニューラルネットワークに、差分データD(tj)(j=1~m-1)を入力することによって、学習済みのニューラルネットワークから差分データD(tk)(k=m~n)を出力させる。
【0051】
ステップS104において、k=mに設定される。
ステップS105において、測定データ取得部3は、測定データR(tk)を取得する。
【0052】
ステップS106において、経年劣化補正部5は、以下の式に示すように、測定データR(tk)を差分データD(tk)によって補正して、補正後の測定データR′(tk)を得る。
【0053】
R′(tk)=R(tk)-D(tk) …(3)
ステップS107において、k=nの場合に、処理が終了する。k=nでない場合に、処理がステップS108に進む。
【0054】
ステップS108において、kが1だけインクリメントされて、処理がステップS104に戻る。
【0055】
以上のよう、本実施の形態によれば、消耗品の使用回数による測定データの経年劣化による変化を検知し、変化に応じて測定データを補正するので、事前に追加の測定を行うことが不要になる。
【0056】
また、ノウハウおよび製品情報などの保護すべき情報を除外した測定結果の変化の情報のみを収集し共有することができる。これにより他の使用者で発生した消耗品を用いた測定データの経年劣化を利用して、測定データの変化を補正することができる。他の使用者と同一の試料および同一の測定条件を利用している場合には、他の使用者で発生した測定結果の経年劣化の情報を利用することができる。
【0057】
[第2の実施形態]
図7は、第2の実施形態の分析システムの構成を表わす図である。
【0058】
分析システムは、N個のデータ管理装置20-1~20-Nと、分析装置11とを備える。
【0059】
データ管理装置20-1~20-Nは、オリジナルデータセット記憶部21と、事例データセット生成部22と、送信部23とを備える。たとえば、データ管理装置20-1~20-Nは、ユーザ1~ユーザNにおいて管理されている。
【0060】
オリジナルデータセット記憶部21は、試料名および測定条件の識別子と、初期状態および複数の時点で測定された測定データR(t0)~R(tn)とを含むオリジナルデータセットを記憶する。
【0061】
事例データセット生成部22は、オリジナルデータセットから、試料名および測定条件の識別子を消去し、複数の時点で測定された測定データR(t1)~R(tn)から初期状態の測定データR(t0)を減算することによって、差分データD(t1)~D(tn)を生成する。事例データセットは、差分データD(t1)~D(tn)によって構成される。
【0062】
図8(a)は、オリジナルデータセットの例を表わす図である。
図8(b)は、事例データセットの例を表わす図である。事例データセット生成部22は、オリジナルデータセットに含まれる試料名αと測定条件の識別子「2」を消去し、測定データR(t
0)~R(t
n)から差分データD(t
1)~D(t
n)を生成することによって、事例データセットを生成する。
【0063】
送信部23は、事例データセット生成部22によって生成された事例データセットを分析装置11へ送信する。
【0064】
分析装置11は、第1の実施の形態の分析装置1の構成要素に加えて、受信部7を備える。
【0065】
受信部7は、データ管理装置20-1~20-Nから送られる事例データセットを受信して、事例データセット記憶部2に書き込む。
【0066】
図9は、第2の実施形態の分析システムの分析手順を表わすフローチャートである。
ステップS301において、データ管理装置20-1~20-Nの事例データセット生成部22は、オリジナルデータセットから、試料名および測定条件の識別子を消去し、複数の時点で測定された測定データから初期状態の測定データを減算することによって、事例データセットを生成する。
【0067】
ステップS302において、データ管理装置20-1~20-Nの送信部23が、事例データセットを分析装置11へ送信する。
【0068】
ステップS303において、分析装置11の受信部7が、事例データセットを受信する。
【0069】
ステップS304において、分析装置11が、ステップS201~S203と同様に、事例データセットを用いて、ニューラルネットワークを学習する。
【0070】
ステップS305において、分析装置11が、ステップS101~S108と同様に、測定データを取得して、測定データを補正する。
【0071】
以上のように、本実施の形態によれば、データ管理装置20-1~20-Nは、試料名、測定条件、および生の測定データといった保護すべき情報を含まない事例データセットを生成して、分析装置に提供することができる。
【0072】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1,11 分析装置、2 事例データセット記憶部、3 測定データ取得部、4 経年劣化推定部、5 経年劣化補正部、6 差分データ生成部、7 受信部、20-1~20-N データ管理装置、21 オリジナルデータセット記憶部、22 事例データセット生成部、23 送信部。