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特許7135753セラミック多層基板及びセラミック多層基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】セラミック多層基板及びセラミック多層基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20220906BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20220906BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H05K3/46 T
H05K3/46 H
H05K3/46 Z
H01L23/12 C
H01L23/12 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018213284
(22)【出願日】2018-11-13
(65)【公開番号】P2020080386
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】花尾 昌昭
(72)【発明者】
【氏名】勝部 毅
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/069398(WO,A1)
【文献】特開2010-123601(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163982(WO,A1)
【文献】特開2006-278453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H01L 23/13
H01L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1セラミック材料を含む第1セラミック層、第2セラミック材料及び樹脂を含む樹脂-セラミック複合層、空洞、配線導体、並びに、貫通導体を有するセラミック多層基板であって、
前記樹脂-セラミック複合層は、前記第1セラミック材料よりも焼結温度の高い前記第2セラミック材料を含む多孔質の第2セラミック層と、前記第2セラミック層の空隙中に充填される樹脂材料を含み、
前記樹脂-セラミック複合層は前記空洞に隣接する層設けられている、セラミック多層基板。
【請求項2】
前記樹脂材料の比誘電率εは3以下である請求項1に記載のセラミック多層基板。
【請求項3】
前記樹脂材料は、フッ素系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のセラミック多層基板。
【請求項4】
前記樹脂-セラミック複合層は、ガラス材料を含まない請求項1~3のいずれかに記載のセラミック多層基板。
【請求項5】
前記樹脂-セラミック複合層における前記第2セラミック材料の体積割合が、70体積%以下である請求項1~4のいずれかに記載のセラミック多層基板。
【請求項6】
セラミック多層基板の表層と、前記空洞に隣接する層の両方に、前記樹脂-セラミック複合層が設けられている請求項1~5のいずれかに記載のセラミック多層基板。
【請求項7】
空洞形成材料を含む空洞形成用シートと、第1セラミック材料を含む第1セラミックグリーンシートと、前記第1セラミック材料よりも焼結温度の高い第2セラミック材料を含む第2セラミックグリーンシートとを、前記空洞形成用シートがいずれかのセラミックグリーンシート間に挟まれるように、かつ、前記第2セラミックグリーンシートを前記空洞形成用シートと隣接する位置積層して積層体を準備する積層体準備工程と、
前記積層体を前記第1セラミック材料の焼結温度以上、前記第2セラミック材料の焼結温度未満の温度で焼成することによって、前記第1セラミックグリーンシートを緻密質の第1セラミック層とし、前記第2セラミックグリーンシートを多孔質の第2セラミック層とし、さらに前記空洞形成材料を焼失させて空洞を形成して、空洞を有する基板を得る焼成工程と、
前記空洞を有する基板を樹脂材料を含む液体に浸漬して前記第2セラミック層の空隙中に前記樹脂材料を付着させて、前記樹脂材料を硬化させることにより、前記第2セラミック層の空隙中に樹脂材料が充填された樹脂-セラミック複合層を得る複合層形成工程とを含む、セラミック多層基板の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂材料を含む前記液体の粘度は、10Pa・s以下である請求項7に記載のセラミック多層基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック多層基板及びセラミック多層基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンなどの移動体通信において通信周波数帯の高周波化に伴い、移動体通信モジュール基板には小型低背化及び低伝送損失が要求されている。
特許文献1は、低伝送損失を達成するために、内部に空気層を設けた多層基板が開示されている。
また特許文献2は、多層基板内部に、電子部品を搭載するための空間(キャビティ)を備えた多層基板を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-304064号公報
【文献】特開2003-332741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されたような、内部に空洞を有する多層基板は、空洞の隅部に隣接する部分、及び、空洞の隅部の直上の表面にクラックが発生しやすく、耐衝撃性が低いという問題があった。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、伝送損失が低く、耐衝撃性に優れるセラミック多層基板を提供することを目的とする。また本発明は、伝送損失が低く、耐衝撃性に優れるセラミック多層基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のセラミック多層基板は、第1セラミック材料を含む第1セラミック層、第2セラミック材料及び樹脂を含む樹脂-セラミック複合層、空洞、配線導体、並びに、貫通導体を有するセラミック多層基板であって、上記樹脂-セラミック複合層は、上記第1セラミック材料よりも焼結温度の高い上記第2セラミック材料を含む多孔質の第2セラミック層と、上記第2セラミック層の空隙中に充填される樹脂材料を含み、上記樹脂-セラミック複合層は、セラミック多層基板の表層及び上記空洞に隣接する層のうち少なくとも一方に設けられている。
【0007】
本発明のセラミック多層基板の製造方法は、空洞形成材料を含む空洞形成用シートと、第1セラミック材料を含む第1セラミックグリーンシートと、上記第1セラミック材料よりも焼結温度の高い第2セラミック材料を含む第2セラミックグリーンシートとを、上記空洞形成用シートがいずれかのセラミックグリーンシート間に挟まれるように、かつ、上記第2セラミックグリーンシートを、積層体の表面に露出する位置及び上記空洞形成用シートと隣接する位置のうち少なくとも一方の位置に積層して積層体を準備する積層体準備工程と、上記積層体を上記第1セラミック材料の焼結温度以上、上記第2セラミック材料の焼結温度未満の温度で焼成することによって、上記第1セラミックグリーンシートを緻密質の第1セラミック層とし、上記第2セラミックグリーンシートを多孔質の第2セラミック層とし、さらに上記空洞形成材料を焼失させて空洞を形成して、空洞を有する基板を得る焼成工程と、上記空洞を有する基板を樹脂材料を含む液体に浸漬して上記第2セラミック層の空隙中に上記樹脂材料を付着させて、上記樹脂材料を硬化させることにより、上記第2セラミック層の空隙中に樹脂材料が充填された樹脂-セラミック複合層を得る複合層形成工程とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、伝送損失が低く、耐衝撃性に優れるセラミック多層基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明のセラミック多層基板の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明のセラミック多層基板の別の一例を模式的に示す断面図である。
図3図3は、本発明のセラミック多層基板のさらに別の一例を模式的に示す断面図である。
図4図4(a)~図4(e)は、積層体準備工程において準備される各シートの一例を模式的に示す断面図である。
図5図5(a)は、セラミックグリーンシートのくり抜き加工の様子を模式的に示す断面図であり、図5(b)は、空洞形成用シートのくり抜き加工の様子を模式的に示す断面図である。
図6図6(a)は、積層体準備工程の一例を模式的に示す断面図であり、図6(b)は、焼成工程の一例を模式的に示す断面図であり、図6(c)は、複合層形成工程の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のセラミック多層基板及びその製造方法について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0011】
本発明のセラミック多層基板は、第1セラミック材料を含む第1セラミック層、第2セラミック材料及び樹脂を含む樹脂-セラミック複合層、空洞、配線導体、並びに、貫通導体を有するセラミック多層基板であって、上記樹脂-セラミック複合層は、上記第1セラミック材料よりも焼結温度の高い上記第2セラミック材料を含む多孔質の第2セラミック層と、上記第2セラミック層の空隙中に充填される樹脂材料を含み、上記樹脂-セラミック複合層は、セラミック多層基板の表層及び上記空洞に隣接する層のうち少なくとも一方に設けられている。
【0012】
本発明のセラミック多層基板は、空洞を有しているために、対地容量を低くして伝送損失を低く抑えることができる。
さらに、多層基板の表層及び空洞に隣接する層のうち少なくとも一方に樹脂-セラミック複合層が設けられている。樹脂-セラミック複合層では、クラックの発生起点となるマイクロクラックが樹脂によって塞がれているため、耐衝撃性に優れる。
そして、樹脂-セラミック複合層が空洞に隣接する層に設けられていると、セラミック多層基板の空洞の隅部に隣接する部分にクラックが発生することを抑制することができる。また、樹脂-セラミック複合層がセラミック多層基板の表層に設けられていると、セラミック多層基板の空洞の隅部の直上の表面にクラックが発生することを抑制することができる。
【0013】
本発明のセラミック多層基板の構成の一例を、図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明のセラミック多層基板の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、セラミック多層基板1は、第1セラミック層10、樹脂-セラミック複合層55及び空洞40を有している。
第1セラミック層10には、貫通導体20及び配線導体30が形成されている。
樹脂-セラミック複合層55は、セラミック多層基板1の表層(セラミック多層基板1の表面1aに露出する位置)に設けられている。
そのため、空洞40の隅部の直上の表面(図1中、1c及び1dで示す位置)にクラックが発生することを抑制することができる。
【0014】
第1セラミック層10は、焼結された第1セラミック材料で構成されている。
第1セラミック材料としては、低温焼結セラミック材料を含むことが好ましい。
低温焼結セラミック材料とは、セラミック材料のうち、1000℃以下の焼成温度で焼結可能であり、金属材料として好ましく使用される銀や銅との同時焼成が可能である材料を意味する。
【0015】
低温焼結セラミック材料としては、具体的には、クオーツやアルミナ、フォルステライト等のセラミック材料にホウ珪酸ガラスを混合してなるガラス複合系低温焼結セラミック材料、ZnO-MgO-Al-SiO系の結晶化ガラスを用いた結晶化ガラス系低温焼結セラミック材料、BaO-Al-SiO系セラミック材料やAl-CaO-SiO-MgO-B系セラミック材料等を用いた非ガラス系低温焼結セラミック材料等を用いることができる。
【0016】
貫通導体20及び配線導体30は、共に金属材料とセラミック材料の混合物であることが好ましい。
金属材料としては、金、銀及び銅から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、銀又は銅を含むことがより好ましい。金、銀及び銅は、低抵抗であるため、特に、セラミック多層基板が高周波用途である場合に適している。
セラミック材料としては、第1セラミック材料と同じものを好適に使用することができる。第1セラミック材料と同じセラミック材料を使用することによって、第1セラミック層を構成する第1セラミック材料と、焼成により貫通導体となる貫通導体形成用ペースト及び配線導体となる配線導体形成用ペースト(以下、まとめて金属導体ペーストともいう)の焼結挙動を合わせることができる。
【0017】
配線導体及び貫通導体(以下、金属導体ともいう)に含まれる金属材料の割合は、40重量%以上、99重量%以下であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましく、90重量%以下であることがより好ましい。金属導体に含まれる金属材料の割合が99重量%以下であるということは、金属導体が、樹脂基板でよく用いられる金属導体の形成法であるめっき等の方法で形成された金属のみからなる組成の金属導体とは異なることを意味している。後述するように、金属導体ペーストを焼成することにより金属導体を形成することができるが、金属導体ペーストの焼成を経て作製される金属導体にはセラミック材料など金属材料以外の材料が含まれるので、金属材料のみからなる組成とはならない。金属導体ペーストの焼成を経て形成される金属導体は、めっき等で形成された金属材料のみからなり焼成を経ていない金属導体に比べて強固な接合を形成することができるので、接続信頼性をより高めることができる。
【0018】
第1セラミック層の厚さは特に限定されないが、5μm以上、50μm以下であることが好ましい。
【0019】
樹脂-セラミック複合層55は、第1セラミック材料よりも焼結温度の高い第2セラミック材料を含む第2セラミック層と、第2セラミック層の空隙中に充填される樹脂材料を含む。
第2セラミック層と樹脂材料とがアンカー効果により強固に接合されているため、樹脂-セラミック複合層55にはクラックが発生しにくい。
【0020】
第2セラミック材料としては、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、チタニア等が挙げられる。
樹脂-セラミック複合層はガラス材料を含まないことが好ましい。
樹脂-セラミック複合層がガラスを含むと、樹脂-セラミック複合層にクラックが発生しやすくなる場合がある。
【0021】
樹脂-セラミック複合層を構成する樹脂材料としては、例えば、フッ素系樹脂、シリコーンゴム、極性基の少ない炭化水素系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)、ビスマレイミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂を好ましく使用することができ、フッ素系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
樹脂-セラミック複合層を構成する樹脂材料のより好ましい具体例としては、比誘電率εが3以下の樹脂材料が挙げられる。
比誘電率εが3以下の樹脂材料としては、フッ素系樹脂(ε≒2.2)、ビスマレイミド系樹脂(ε≒2.4)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(ε≒2.3)、ポリエチレン(ε≒2.25)、ポリプロピレン(ε≒2.2)、ポリスチレン(ε≒2.45)等が挙げられる。
これらの樹脂材料は比誘電率が低いため高周波領域での伝送損失を低減することができる。
【0023】
また、樹脂-セラミック複合層を構成する樹脂材料として、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ゴム系材料、熱可塑性エラストマー(塩ビ系、スチレン系、オレフィン系、エステル系、ウレタン系、アミド系等)、エポキシ樹脂等を用いることもできる。
【0024】
樹脂-セラミック複合層の厚さは特に限定されないが、5μm以上、50μm以下であることが好ましい。
なお、樹脂-セラミック複合層が複数配置されている場合、各樹脂-セラミック複合層の厚さは互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0025】
樹脂-セラミック複合層における第2セラミック材料の体積割合は特に限定されないが、70体積%以下であることが好ましい。
樹脂-セラミック複合層における第2セラミック材料の体積割合は、セラミック多層基板を厚さ方向に切断した際の樹脂-セラミック複合層の断面を、走査型電子顕微鏡(以下、SEMともいう)で観察し、第2セラミック材料が占める面積の割合を求めることで測定することができる。
【0026】
本発明のセラミック多層基板において、空洞の数は特に限定されず、2個以上の空洞が形成されていてもよい。
【0027】
本発明のセラミック多層基板において、空洞の厚さは、セラミック多層基板の厚さの5%以上70%以下であることが好ましい。また空洞の上面視寸法は、セラミック多層基板の上面視寸法の5%以上70%以下であることが好ましい。
【0028】
図1に示したセラミック多層基板1では、樹脂-セラミック複合層55がセラミック多層基板1の表層(セラミック多層基板1の表面1aに露出する位置)に設けられているが、本発明のセラミック多層基板においては、樹脂-セラミック複合層が、空洞に隣接する層に設けられていてもよい。
樹脂-セラミック複合層55は、セラミック多層基板1の一方の表面(表面1aに露出する位置)ではなく、セラミック多層基板1の他方の表面(表面1bに露出する位置)に設けられていてもよい。また、樹脂-セラミック複合層55が、セラミック多層基板1の一方の表面(表面1aに露出する位置)だけでなく、セラミック多層基板1の他方の表面(表面1bに露出する位置)にも設けられていてもよい。
【0029】
図2は、本発明のセラミック多層基板の別の一例を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、セラミック多層基板2では、樹脂-セラミック複合層55が、空洞40に隣接する層に設けられている。一方、セラミック多層基板2の表層(セラミック多層基板2の表面2aに露出する位置)には、樹脂-セラミック複合層55が設けられていない。
樹脂-セラミック複合層55が空洞40に隣接する層に設けられていることで、セラミック多層基板55の空洞40の隅部(図2中、40a及び40bで示す位置)に隣接する部分にクラックが発生することを抑制することができる。
【0030】
本発明のセラミック多層基板において、樹脂-セラミック複合層は、セラミック多層基板の表層及び空洞に隣接する層の両方に設けられていることが好ましい。
図3は、本発明のセラミック多層基板のさらに別の一例を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、セラミック多層基板3では、樹脂-セラミック複合層55が、セラミック多層基板3の表層(セラミック多層基板3の表面3aに露出する位置)と空洞40に隣接する層の両方に設けられている。
樹脂-セラミック複合層55がセラミック多層基板3の表層に設けられていることで、セラミック多層基板3の空洞40の隅部の直上の表面(図3中、3c及び3dで示す位置)にクラックが発生することを抑制することができる。さらに、樹脂-セラミック複合層55が空洞40に隣接する層に設けられていることで、セラミック多層基板3の空洞40の隅部(図3中、40a及び40bで示す位置)に隣接する部分にクラックが発生することを抑制することができる。
【0031】
なお、図1及び図3では、樹脂-セラミック複合層55がセラミック多層基板1又は3の一方の表層(表面1a又は3aに露出する位置)のみに設けられているが、樹脂-セラミック複合層55は、セラミック多層基板1又は3の他方の表層(表面1b又は3bに露出する位置)に設けられていてもよく、一方の表層と他方の表層の両方に設けられていてもよい。
さらに、図2図3では、樹脂-セラミック複合層55が、空洞40の上側に隣接する層に設けられているが、空洞40の下側に隣接する層に設けられていてもよく、両方に設けられていてもよい。
【0032】
第1セラミック層の層数は特に限定されないが、例えば、5以上30以下であることが好ましい。
【0033】
樹脂-セラミック複合層の層数は特に限定されないが、2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。
樹脂-セラミック複合層の層数が4以上である場合、樹脂-セラミック複合層は、セラミック多層基板の一方の表層及び他方の表層、並びに、空洞の上面に隣接する層及び空洞の下面に隣接する層に設けられることが好ましい。
なお、樹脂-セラミック複合層は、セラミック多層基板の表層及び空洞に隣接する層以外に設けられていてもよい。
また、空洞が複数個設けられている場合には、各空洞の上面又は下面にそれぞれ樹脂-セラミック複合層が設けられていることが好ましい。
【0034】
[セラミック多層基板の製造方法]
本発明のセラミック多層基板の製造方法は、空洞形成材料を含む空洞形成用シートと、第1セラミック材料を含む第1セラミックグリーンシートと、上記第1セラミック材料よりも焼結温度の高い第2セラミック材料を含む第2セラミックグリーンシートとを、上記空洞形成用シートがいずれかのセラミックグリーンシート間に挟まれるように、かつ、上記第2セラミックグリーンシートを、積層体の表面に露出する位置及び上記空洞形成用シートと隣接する位置のうち少なくとも一方の位置に積層して積層体を準備する積層体準備工程と、上記積層体を上記第1セラミック材料の焼結温度以上、上記第2セラミック材料の焼結温度未満の温度で焼成することによって、上記第1セラミックグリーンシートを緻密質の第1セラミック層とし、上記第2セラミックグリーンシートを多孔質の第2セラミック層とし、さらに上記空洞形成材料を焼失させて空洞を形成して、空洞を有する基板を得る焼成工程と、上記空洞を有する基板を樹脂材料を含む液体に浸漬して上記第2セラミック層の空隙中に上記樹脂材料を付着させて、上記樹脂材料を硬化させることにより、上記第2セラミック層の空隙中に樹脂材料が充填された樹脂-セラミック複合層を得る複合層形成工程と、を含む。
【0035】
本発明のセラミック多層基板の製造方法によって、本発明のセラミック多層基板を容易に製造することができる。
【0036】
[積層体準備工程]
積層体準備工程では、空洞形成材料を含む空洞形成用シートと、第1セラミック材料を含む第1セラミックグリーンシートと、第1セラミック材料よりも焼結温度の高い第2セラミック材料を含む第2セラミックグリーンシートとが、空洞形成用シートがいずれかのセラミックグリーンシート間に挟まれるように積層された積層体を準備する。
このとき、第2セラミックグリーンシートが、積層体の表面に露出する位置及び空洞形成用シートと隣接する位置の少なくとも一方の位置に配置されるようにする。
なお、第1セラミックグリーンシート及び第2セラミックグリーンシートをまとめてセラミックグリーンシートともいう。
【0037】
図4(a)~図4(e)は、積層体準備工程において準備される各シートの一例を模式的に示す断面図である。
図4(a)は、シート状の第1セラミック材料110(第1セラミックグリーンシート)及びシート状の第2セラミック材料150(第2セラミックグリーンシート)を含むセラミックグリーンシート100である。セラミックグリーンシート100は、シート状の第1セラミック材料とシート状の第2セラミック材料とが積層されているため、第1セラミックグリーンシートと第2セラミックグリーンシートの積層体でもある。
セラミックグリーンシート100には、貫通導体となる貫通導体形成用ペースト120が設けられている。セラミックグリーンシート100には、配線導体となる配線導体形成用ペースト130が設けられていてもよい。
【0038】
図4(b)は、シート状の第1セラミック材料110を含む第1セラミックグリーンシート101である。第1セラミックグリーンシート101にも、セラミックグリーンシート100と同様に、貫通導体となる貫通導体形成用ペースト120が設けられている。第1セラミックグリーンシート101には、配線導体となる配線導体形成用ペースト130が設けられていてもよい。
【0039】
図4(c)は、シート状の空洞形成材料145とシート状の第1セラミック材料110を含む空洞形成用シート170である。空洞形成用シート170の一部は空洞形成材料145で構成しており、空洞形成用シート170は空洞形成用材料のみで構成されていない。空洞形成用シート170にはさらに、貫通導体となる貫通導体形成用ペースト120が設けられている。
空洞形成用シート170の第1セラミック材料110が形成されている部分には、配線導体となる配線導体形成用ペースト130が設けられていてもよい。
【0040】
図4(d)は、シート状の第1セラミック材料110を含む第1セラミックグリーンシート102である。第1セラミックグリーンシート102にはさらに、貫通導体となる貫通導体形成用ペースト120及び配線導体となる配線導体形成用ペースト130が設けられている。
【0041】
図4(e)は、シート状の第1セラミック材料110を含む第1セラミックグリーンシート103である。第1セラミックグリーンシート103にはさらに、貫通導体となる貫通導体形成用ペースト120及び配線導体となる配線導体形成用ペースト130が設けられている。
【0042】
第1セラミックグリーンシートは、未焼結の第1セラミック材料と有機バインダと溶剤とを含有する第1セラミックスラリーを、ドクターブレード法等によってシート状に成型したものである。第1セラミックスラリーには、分散剤、可塑剤等の種々の添加剤が含有されていてもよい。
【0043】
第1セラミックグリーンシートの厚さは特に限定されないが、5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0044】
第1セラミック材料は、低温焼結セラミック材料であることが好ましい。
低温焼結セラミック材料とは、セラミック材料のうち、1000℃以下の焼成温度で焼結可能であり、金属材料として好ましく使用される銀や銅との同時焼成が可能である材料を意味する。
低温焼結セラミック材料としては、具体的には、クオーツやアルミナ、フォルステライト等のセラミック材料にホウ珪酸ガラスを混合してなるガラス複合系低温焼結セラミック材料、ZnO-MgO-Al-SiO系の結晶化ガラスを用いた結晶化ガラス系低温焼結セラミック材料、BaO-Al-SiO系セラミック材料やAl-CaO-SiO-MgO-B系セラミック材料等を用いた非ガラス系低温焼結セラミック材料等を用いることができる。
【0045】
有機バインダとしては、例えば、ブチラール樹脂(ポリビニルブチラール)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等を用いることができる。溶剤としては、例えば、トルエン、イソプロピレンアルコール等のアルコール等を用いることができる。可塑剤としては、例えば、ジ-n-ブチルフタレート等を用いることができる。
【0046】
第1セラミックグリーンシートには、レーザーやメカパンチにより穴あけを行い、穴に層間接続用の貫通導体形成用ペーストを充填する。また、スクリーン印刷等の方法により配線導体形成用ペーストを用いて配線や電極を第1セラミックグリーンシート上に形成する。
【0047】
第2セラミックグリーンシートは、未焼結の第2セラミック材料と有機バインダと溶剤とを含有する第2セラミックスラリーを、ドクターブレード法等によってシート状に成型したものである。第2セラミックスラリーには、分散剤、可塑剤等の種々の添加剤が含有されていてもよい。
【0048】
第2セラミック材料としては、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、チタニア等が挙げられる。
また、第2セラミックグリーンシートは、ガラス材料を含まないことが好ましい。
【0049】
第2セラミックグリーンシートの厚さは特に限定されないが、5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0050】
第1セラミックグリーンシートと第2セラミックグリーンシートは、予め積層した状態で作製してもよい。この場合、例えば、第1セラミックグリーンシートをまず作製し、第1セラミックグリーンシートの表面で、第2セラミックスラリーをシート状に成型する方法が挙げられる。
図4(a)に示したセラミックグリーンシート100は、第1セラミックグリーンシートを作製した後、その表面に第2セラミックグリーンシートを成型した例でもある。
【0051】
空洞形成用シートは、後の焼成工程で焼失し、その存在していた部分に空洞を形成するための材料である空洞形成材料と第1セラミック材料を含み、空洞形成材料が形成されていない部分には、貫通導体となる貫通導体形成用ペースト及び配線導体となる配線導体形成用ペーストが設けられていてもよい。
空洞形成材料は、空洞形成用シート中の貫通導体形成用ペーストの焼結開始温度での1時間の焼成による重量減少率が10%以下であり、焼成工程における焼成温度での1時間の焼成による重量減少率が99%以上である材料であることが好ましい。
また、空洞形成材料は、焼成温度(800℃以上、1000℃以下であることが好ましい)以下の温度で焼失する材料であることが好ましく、具体的には850℃以上、950℃以下の温度で焼失する材料であることが好ましい。
空洞形成材料としては、カーボンが好ましく、カーボンシートを空洞形成用シートとして好ましく使用することができる。
【0052】
カーボンシートは、カーボンに有機バインダ、分散剤及び可塑剤を加えて混合粉砕してスラリーを得て、得られたスラリーをドクターブレード法によって基材フィルム上にシート状に成形し、乾燥させることによって得ることができる。
空洞形成用シートの厚さは焼成工程後に形成する予定の空洞の厚さに合わせて適宜設定すればよく、5μm以上、100μm以下とすることが好ましい。また、5μm以上、50μm以下とすることがより好ましい。
また、市販のカーボンシート(グラファイトシート)を用いることもできる。
【0053】
図4(c)に示す空洞形成用シート170を形成する方法は特に限定されないが、例えば、図5(a)及び図5(b)に示すくり抜き加工が挙げられる。
図5(a)は、セラミックグリーンシートのくり抜き加工の様子を模式的に示す断面図であり、図5(b)は、空洞形成用シートのくり抜き加工の様子を模式的に示す断面図である。
まず、図5(a)に示すように、キャリアフィルム160上に配置したシート状の第1セラミック材料110に対してくり抜き加工を行って、空間115を有するシート状の第1セラミック材料110を得る。その後、図5(b)に示すように、キャリアフィルム160上に配置したシート状の空洞形成材料140に対してくり抜き加工を行って、空間115の形状と略同一形状のくり抜かれた空洞形成材料145を形成する。最後に、第1セラミック材料110の空間115にくり抜かれた空洞形成材料145をはめ込み、第1セラミック材料110の一部に貫通孔を形成して貫通導体形成用ペースト120を充填することで、図4(c)に示す空洞形成用シート170が得られる。
くり抜き加工はレーザー加工等を用いて行うことができる。
【0054】
続いて、各シートを積層して積層体を作製する。
図6(a)は、積層体準備工程の一例を模式的に示す断面図である。
図6(a)に示すように、空洞形成用シート170が、セラミックグリーンシート100、第1セラミックグリーンシート101、102及び103で挟まれるように積層することで積層体200を得ることができる。
第2セラミックグリーンシート150は、積層体200の表面に露出している。
【0055】
[焼成工程]
焼成工程では、積層体準備工程において準備された積層体を焼成する。
焼成温度は、第1セラミック材料の焼結温度以上、第2セラミック材料の焼結温度以下の温度とする。
図6(b)は、焼成工程の一例を模式的に示す断面図である。
図6(b)に示すように、焼成工程によって、第1セラミック材料110が焼結することによってセラミックグリーンシート100の一部及び第1セラミックグリーンシート101~103がそれぞれ第1セラミック層10となる。
貫通導体形成用ペースト120及び配線導体形成用ペースト130はそれぞれ貫通導体20及び配線導体30となる。さらに、空洞形成材料145が焼失することによって、空洞40が形成されるとともに、空洞形成用シート170を構成していた第1セラミック材料110も焼結されて、第1セラミック層10となる。
貫通導体20及び配線導体30は同時に焼結が進行するため、互いに焼結しており、接合強度が高い。
一方、第2セラミックグリーンシート150を構成する第2セラミック材料は焼成工程では焼結が充分に進行しないため、多孔質の第2セラミック層50となる。
【0056】
第2セラミックグリーンシートは、積層体の表面に露出する位置及び空洞形成用シートと隣接する位置のうち少なくとも一方の位置に配置される。
なお、空洞形成用シートと隣接する位置に第2セラミックグリーンシートが配置されていると、焼成工程において空洞形成用材料が焼失する際に発生する分解ガスを、多孔質の第2セラミック層から外部に排出することが容易となり、焼成工程における不良を抑制することができる。
【0057】
焼成雰囲気は特に限定されず、例えば、大気雰囲気、低酸素雰囲気等が挙げられる。本明細書において、低酸素雰囲気とは、大気よりも酸素分圧が低い雰囲気を意味し、例えば、窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気、窒素等の不活性ガスを大気に混入した雰囲気、真空雰囲気等が挙げられる。また、窒素と水素の混合ガス雰囲気であってもよい。
【0058】
[複合層形成工程]
複合層形成工程では、空洞を有する基板を樹脂材料を含む液体に浸漬して第2セラミック層の空隙中に樹脂材料を付着させて、硬化させることによって、第2セラミック層の空隙中に樹脂材料が樹枝状に充填された樹脂-セラミック複合層を得る。
図6(c)は、複合層形成工程の一例を模式的に示す断面図である。
図6(c)に示すように、第2セラミック層50の空隙中に樹脂材料が付着して硬化することによって、樹脂-セラミック複合層55が形成される。
このとき、空洞40の内部に樹脂材料が浸透することはない。
以上の手順により、本発明のセラミック多層基板を製造することができる。
【0059】
樹脂材料を含む液体は、樹脂材料自体が液体であってもよく、樹脂材料を溶媒と混合して得られた樹脂溶液、エマルジョン又はラテックスであってもよい。また、樹脂材料を軟化点以上に加熱して得られた流動性を有する液体であってもよい。さらに、樹脂材料を含む液体中には必要に応じて可塑剤、分散剤、硬化剤等を加えてもよい。
樹脂材料の硬化は、樹脂材料が熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等の硬化性の樹脂であれば各樹脂の硬化条件に従って硬化させればよい。また、熱可塑性樹脂の場合、加熱して流動性を有する液体としてから空隙内に浸透させ、降温させることで樹脂材料を固化させることができるが、このような手順による樹脂材料の固化も本明細書においては「樹脂材料の硬化」に含まれるものとする。
【0060】
樹脂材料を含む液体の粘度は特に限定されないが、0.01Pa・s以上、10Pa・s以下であることが好ましい。
なお、樹脂材料を含む液体の粘度は、回転粘度計法によって測定される25℃における値である。
【0061】
セラミック多層基板の表面に露出した貫通導体の表面には、必要に応じて、Niめっき膜の形成、Auめっき膜の形成を行ってもよい。また、貫通導体の表面に配線導体を設けてもよく、電子部品等を搭載してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1、2、3 セラミック多層基板
1a、1b、2a、3a、3b 表面
1c、1d、3c、3d 空洞の隅部の直上の表面
10 第1セラミック層
20 貫通導体
30 配線導体
40 空洞
40a、40b 空洞の隅部
50 第2セラミック層
55 樹脂-セラミック複合層
100 セラミックグリーンシート(第1セラミックグリーンシートと第2セラミックグリーンシートの積層体)
101、102、103 第1セラミックグリーンシート
110 第1セラミック材料
115 空間
120 貫通導体形成用ペースト
130 配線導体形成用ペースト
140 シート状の空洞形成材料
145 くり抜かれた空洞形成材料(シート状の空洞形成材料)
150 第2セラミック材料(第2セラミックグリーンシート)
160 キャリアフィルム
170 空洞形成用シート
200 積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6