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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】動力工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/00 20060101AFI20220906BHJP
   B25F 5/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B25B21/00 530Z
B25F5/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018223547
(22)【出願日】2018-11-29
(65)【公開番号】P2020082309
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094983
【弁理士】
【氏名又は名称】北澤 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095946
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100192337
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100206092
【弁理士】
【氏名又は名称】金 佳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100208535
【弁理士】
【氏名又は名称】松坂 光邦
(72)【発明者】
【氏名】藤本 剛也
(72)【発明者】
【氏名】清水 康雄
(72)【発明者】
【氏名】平井 貴大
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-267367(JP,A)
【文献】特開2005-052905(JP,A)
【文献】特開2009-101501(JP,A)
【文献】特開2010-274366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00 - 23/18
B25F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに支持され駆動力を発生させる駆動源と、
前記ハウジングに支持され前記駆動力が伝達されることにより回転駆動される駆動部と、
前記ハウジングに支持され、先端工具を着脱可能に構成されるとともに、後方への力が作用した場合に前記後方に移動可能且つ前記駆動部に伝達された前記駆動力を受けて回転可能な出力軸部と、
前記駆動力の伝達経路における前記駆動部と前記出力軸部との間に設けられ、前記出力軸部に前記後方への力が作用した場合に押圧され、前記駆動部に伝達された駆動力を前記出力軸部に伝達する伝達部と、
前記駆動部と前記出力軸部との間に介装され、前記駆動部を前記出力軸部に対して前記後方に付勢する付勢部と、を設け
前記駆動部は、第1係合部を有し、
前記出力軸部は、第2係合部を有し、
前記伝達部は、前記第1係合部と係合する第1被係合部を有する複数の第1プレートと、前記第2係合部と係合する第2被係合部を有する複数の第2プレートと、を有し、前記第1プレートと前記第2プレートとが前後方向に交互に積層されることにより構成され、
前記伝達部が押圧されることにより前記第1プレートと前記第2プレートとの間に発生する摩擦力によって前記出力軸部に前記駆動力が伝達されることを特徴とする動力工具。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記出力軸部の前方への移動を規制する規制部を有し、
前記出力軸部は、無負荷時おいて位置する第1位置と、前記後方への力が作用した場合に位置する第2位置との間で移動可能であり、
前記駆動部は、前記伝達部と当接可能な当接部を有し、
前記出力軸部に前記後方への力が作用した場合において、前記出力軸部が前記第1位置から前記第2位置に移動するに伴い、前記伝達部は前記後方に押圧されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の動力工具。
【請求項3】
前記付勢部は、コイルスプリングであることを特徴とする請求項1又は2に記載の動力工具。
【請求項4】
前記駆動部は、前記前後方向に延び、内周面に前記前後方向に延びる前記第1係合部が形成された円筒形状をなし、
前記出力軸部は、前記駆動部に挿通され、外周面に前記前後方向に延びる前記第2係合部が形成され、
複数の前記第1プレートは、それぞれ、円盤状に形成され、複数の前記第2プレートは、それぞれ、円盤状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の動力工具。
【請求項5】
前記第1プレートの前記前後方向視における面積は、前記第2プレートの前記前後方向視における面積の半分以下であることを特徴とする請求項4に記載の動力工具。
【請求項6】
前記駆動部は、前記伝達部に関して前記当接部とは反対側に開口が形成された円筒形状をなし、
前記伝達部は、前記駆動部に収容され、
前記出力軸部には、前記出力軸部の径方向外方に突出し前記出力軸部の前記後方への移動に伴い前記伝達部を押圧する押圧部が設けられ、
前記押圧部には、前記伝達部に向かって窪む溝が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の動力工具。
【請求項7】
前記出力軸部の後部には、前記付勢部の前部を収容する受入部を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の動力工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天井や壁に石膏ボード等の板材をねじ止めによって施工しているが、このねじ止めを行う動力工具としてねじ締機が広く用いられている。例えば、特許文献1には、モータとモータの駆動力を受けて駆動する先端工具装着部との間に、モータの駆動力を先端工具装着部に伝達するための複数の第1クラッチプレート及び複数の第2クラッチプレートを有する多板摩擦クラッチを備えるねじ締機が記載されている。
【0003】
特許文献1のねじ締機において、多板摩擦クラッチは、有底円筒形状をなすクラッチドラムに収容され、その後端がクラッチドラムの後壁と当接可能に構成されている。また、クラッチドラムは、ボールベアリングを介してハウジングに回転可能に支持されている。
【0004】
特許文献1に記載のねじ締機では、モータの回転によって第1クラッチプレートが回転した状態で、作業者が先端工具装着部に装着された先端工具を締結具(例えば、ねじ)に押し付けることによって、先端工具装着部が多板摩擦クラッチ側へと移動し、先端工具装着部の後面が最前端に位置する第2クラッチプレートと当接する。この状態において、さらに先端工具を締結具に押し付けることによって、先端工具装着部が多板摩擦クラッチを押圧し、第1クラッチプレートと第2クラッチプレートとの間の面圧が上昇する。当該面圧が上昇した状態で、モータの回転によって第1クラッチプレートが第2クラッチプレートに対して回転することにより、第1クラッチプレートと第2クラッチプレートとの間に摩擦が発生し、当該摩擦によって第2クラッチプレートが回転する。そして、当該第2クラッチプレートの回転によって、先端工具装着部が回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-101500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のねじ締機においては、例えば、作業が終わったタイミングにおける急激な負荷の変動によって、クラッチドラムが前方に移動してしまう可能性があった。そして、多板摩擦クラッチと当接するクラッチドラムの後壁がハウジングに対して前方に移動することによって、所定の押し付け量未満の状態で多板摩擦クラッチを介する出力軸部への駆動力の伝達が開始されてしまい、被加工材に対する締結具(ねじ等)の締結量にばらつきが生じ、作業性が低下してしまっていた。
【0007】
そこで本発明は、作業性を向上させることが可能な動力工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、ハウジングと、前記ハウジングに支持され駆動力を発生させる駆動源と、前記ハウジングに支持され前記駆動力が伝達されることにより回転駆動される駆動部と、前記ハウジングに支持され、先端工具を着脱可能に構成されるとともに所定方向の力が作用した場合に前記所定方向に移動可能且つ前記駆動部に伝達された前記駆動力を受けて回転可能な出力軸部と、前記駆動力の伝達経路における前記駆動部と前記出力軸部との間に設けられ、前記出力軸部に前記所定方向の力が作用した場合に押圧され、前記駆動部に伝達された駆動力を受けて前記押圧力に応じた駆動力を前記出力軸部に伝達する伝達部と、前記駆動部と前記出力軸部との間に介装され、前記駆動部を前記出力軸部に対して前記所定方向に付勢する付勢部を設けたことを特徴とする動力工具を提供する。
【0009】
上記構成の動力工具によれば、駆動部と出力軸部との間に駆動部を出力軸部に対して所定方向に付勢する付勢部が設けられているため、例えば作業時に駆動部に所定方向とは反対方向に移動させるような負荷がかかった場合においても、ハウジングに対して駆動部が移動してしまうことを抑制することが可能となる。これにより、被加工材に対する締結具(ねじ等)の締結量にばらつきが生じるのを抑制することができ、作業性を向上させることが可能となる。
【0010】
上記構成の動力工具において、前記ハウジングは、前記出力軸部の前記所定方向とは反対方向への移動を規制する規制部を有し、前記出力軸部は、無負荷時おいて位置する第1位置と、前記所定方向の力が作用した場合に位置する第2位置との間で移動可能であり、前記駆動部は、前記伝達部と当接可能な当接部を有し、前記出力軸部に前記所定方向の力が作用した場合において、前記出力軸部が前記第1位置から前記第2位置に移動するに伴い、前記伝達部は前記所定方向に押圧されるように構成されていることが好ましい。
【0011】
このような構成によれば、例えば作業時に駆動部に所定方向とは反対方向に移動させるような負荷がかかった場合においても、ハウジングに対して駆動部が移動してしまうことを抑制することが可能となる。これにより、被加工材に対する締結具(ねじ等)の締結量にばらつきが生じるのを抑制することができ、作業性を向上させることが可能となる。
【0012】
また、前記付勢部は、コイルスプリングであることが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、簡易な構成で、駆動部を所定方向に付勢することが可能となる。
【0014】
また、前記駆動部は、前記所定方向に延び、内周面に所定方向に延びる第1係合部が形成された円筒形状をなし、前記出力軸部は、前記駆動部に挿通され、外周面に所定方向に延びる第2係合部が形成され、前記伝達部は、前記第1係合部と係合する第1被係合部を有し円盤状に形成された複数の第1プレートと、前記第2係合部と係合する第2被係合部を有し円盤状に形成された複数の第2プレートと、を有し、前記第1プレートと前記第2プレートが前記所定方向に交互に積層されることにより構成され、前記伝達部が押圧されることにより前記第1プレートと前記第2プレートとの間に発生する摩擦力によって前記出力軸部に前記駆動力を伝達することが好ましい。
【0015】
このような構成によれば、第1プレートと第2プレートとの間に発生する摩擦力により駆動部~伝達される駆動力を出力軸部へ伝達することが可能となる。また、第1プレートと第2プレートとの間に発生する摩擦力のみにより駆動力を伝達するため、駆動部と出力軸部とが非伝達状態から伝達状態へと切り替わる際の衝撃の発生を抑制することが可能となる。
【0016】
また、前記第1プレートの前記所定方向視における面積は、前記第2プレートの前記所定方向視における面積の半分以下であることが好ましい。
【0017】
このような構成によれば、動力工具の軽量化を図ることが可能となる。また、従来の構成に比べ、重心位置が後方に位置する、つまり、重心を作業者の把持するハンドルに近づけることが出来るため、操作性の良い動力工具を提供することが可能となる。さらに、第1プレートの駆動力の伝達に寄与しない部分を削減することができ、これにより、第2プレートとの接触面積を減少させることができ、熱の発生を低減することが可能となる。
【0018】
また、前記駆動部は、前記伝達部に関して前記当接部とは反対側に開口が形成された円筒形状をなし、前記伝達部は、前記駆動部に収容され、前記出力軸部には、前記出力軸部の径方向外方に突出し前記出力軸部の前記所定方向の移動に伴い前記開口を介して前記伝達部を押圧する押圧部が設けられ、前記押圧部には、前記伝達部に向かって窪む溝が形成されていることが好ましい。
【0019】
このような構成によれば、駆動部内に水や油等が侵入してしまうことを抑制することが可能となる。
また、上記課題を解決するために、本発明はさらに、ハウジングと、前記ハウジングに支持され駆動力を発生させる駆動源と、前記ハウジングに支持され前記駆動力が伝達されることにより回転駆動される駆動部と、前記ハウジングに支持され、先端工具を着脱可能に構成されるとともに後方への力が作用した場合に前記後方に移動可能且つ前記駆動部に伝達された前記駆動力を受けて回転可能な出力軸部と、前記駆動力の伝達経路における前記駆動部と前記出力軸部との間に設けられ、前記出力軸部に前記後方への力が作用した場合に押圧され、前記駆動部に伝達された駆動力を前記出力軸部に伝達する伝達部と、前記駆動部と前記出力軸部との間に介装され、前記駆動部を前記出力軸部に対して前記後方に付勢する付勢部と、を設け、前記駆動部は、第1係合部を有し、前記出力軸部は、第2係合部を有し、前記伝達部は、前記第1係合部と係合する第1被係合部を有する複数の第1プレートと、前記第2係合部と係合する第2被係合部を有する複数の第2プレートと、を有し、前記第1プレートと前記第2プレートとが前後方向に交互に積層されることにより構成され、前記伝達部が押圧されることにより前記第1プレートと前記第2プレートとの間に発生する摩擦力によって前記出力軸部に前記駆動力が伝達されることを特徴とする動力工具を提供する。
上記構成の動力工具において、前記ハウジングは、前記出力軸部の前方への移動を規制する規制部を有し、前記出力軸部は、無負荷時において位置する第1位置と、前記後方への力が作用した場合に位置する第2位置との間で移動可能であり、前記駆動部は、前記伝達部と当接可能な当接部を有し、前記出力軸部に前記後方への力が作用した場合において、前記出力軸部が前記第1位置から前記第2位置に移動するに伴い、前記伝達部は前記後方に押圧されるように構成されていることが好ましい。
また、上記構成の動力工具において、前記付勢部は、コイルスプリングであることが好ましい。
また、上記構成の動力工具において、前記駆動部は、前後方向に延び、内周面に前記前後方向に延びる前記第1係合部が形成された円筒形状をなし、前記出力軸部は、前記駆動部に挿通され、外周面に前記前後方向に延びる前記第2係合部が形成され、複数の前記第1プレートは、それぞれ、円盤状に形成され、複数の前記第2プレートは、それぞれ、円盤状に形成されていることが好ましい。
また、上記構成の動力工具において、前記第1プレートの前記前後方向視における面積は、前記第2プレートの前記前後方向視における面積の半分以下であることが好ましい。
また、上記構成の動力工具において、前記駆動部は、前記伝達部に関して前記当接部とは反対側に開口が形成された円筒形状をなし、前記伝達部は、前記駆動部に収容され、前記出力軸部には、前記出力軸部の径方向外方に突出し前記出力軸部の前記後方への移動に伴い前記伝達部を押圧する押圧部が設けられ、前記押圧部には、前記伝達部に向かって窪む溝が形成されていることが好ましい。
また、上記構成の動力工具において、前記出力軸部の後部には、前記付勢部の前部を収容する受入部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の動力工具によれば、作業性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係るねじ締機の内部構造を示す断面側面図である。
図2】本発明の実施の形態に係るねじ締機のギヤハウジング内部の構造を示す断面側面図である。
図3】本発明の実施の形態に係るねじ締機のクラッチ部の多板摩擦クラッチのアウタープレート及びインナープレートを示す図であり、(a)はアウタープレートの正面図、(b)はインナープレートの正面図である。
図4】本発明の実施の形態に係るねじ締機の作業時における動作を説明する図であり、(a)は無負荷時、(b)は作業者が先端工具を締結具に押し付けている状態が示されている。
図5】従来のねじ締機の作業時における動作を説明する図であり、(a)は無負荷時、(b)は作業者が先端工具を締結具に押し付けている状態が示されている。
図6】従来のねじ締機のクラッチ部の多板摩擦クラッチのアウタープレート及びインナープレートを示す図であり、(a)はアウタープレートの正面図、(b)はインナープレートの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態にかかる動力工具の一例であるねじ締め機1について図1乃至図6を参照しながら説明する。ねじ締機1は、例えば天井や壁に石膏ボード等の板材をねじ止めするための電動式の動力工具である。
【0023】
以下の説明においては、図中に示されている「前」を前方向、「後」を後方向、「上」を上方向、「下」を下方向と定義する。また、ねじ締機1を後から見た場合の「右」を右方向、「左」を左方向と定義する。さらに、回転可能な部材に関しては、ねじ締め機1の後面視において時計回り方向の回転を「正転」と定義し、反時計回り方向の回転を「反転」と定義する。なお、本明細書において寸法、数値等について言及した場合には、当該寸法及び数値等と完全に一致する寸法及び数値だけでなく略一致する寸法及び数値等(例えば、製造誤差の範囲内である場合)を含むものとする。「同一」、「直交」、「平行」、「一致」、「面一」、「同径」等についても同様に「略同一」、「略直交」、「略平行」、「略一致」、「略面一」、「略同径」等を含むものとする。
【0024】
図1に示されているように、ねじ締機1は、ハウジング2と、モータ3と、制御部4と、クラッチ部5と、先端工具Pを着脱可能且つ前後方向に延びる軸線Bを中心に回転可能な出力軸部6と、コイルスプリング7とを主に有している。
【0025】
ハウジング2は、ねじ締機1の外郭をなしており、モータハウジング21と、ハンドルハウジング22と、ギヤハウジング23と、カバー24とを主に有している。ハウジング2は、本発明における「ハウジング」の一例である。
【0026】
モータハウジング21は、前後方向に延びる円筒形状をなし、モータ3及び制御部4を収容している。モータハウジング21の後部には、複数の吸気口が形成されている(不図示)。
【0027】
ハンドルハウジング22は、側面視略コ字状に形成され、把持部221と、第1接続部222と、第2接続部223とを有している。
【0028】
把持部221は、作業時に作業者が把持する部分である。把持部221は、ハンドルハウジング22の後部をなし、上下方向に延びている。把持部221の前部上部には作業者によって操作されるトリガスイッチ22Aが設けられ、把持部221の内部には制御部4に電気的に接続されるスイッチ機構22Bが設けられている。スイッチ機構22Bは、トリガスイッチ22Aが引操作すなわち始動操作された場合(例えば、作業者の指によって把持部221内に押し込まれた場合)、モータ3を始動させるための工具始動信号を制御部4に出力し、トリガスイッチ22Aに対する引操作が解除すなわち停止操作された場合(例えば、作業者がトリガスイッチ22Aから指を離して引操作を解除した場合)、制御部4への工具始動信号の出力を停止するように構成されている。
【0029】
第1接続部222は、把持部221の上部とモータハウジング21の後端部上部とを接続し、前後方向に延びている。
【0030】
第2接続部223は、把持部221の下部とモータハウジング21の後部下部とを接続し、前後方向に延びる略円筒形状をなしている。第2接続部223には、制御部4に電気的に接続される切替スイッチ22Cが設けられている。切替スイッチ22Cは、作業時におけるモータ3の回転方向(正転及び反転)を切り替えるためのレバースイッチであり、第2接続部223の右側面に設けられている。本実施の形態においては、図1の紙面時計回り方向に切替スイッチ22Cを倒すとモータ3の回転方向が「正転」に切り替わり、紙面反時計回り方向に切替スイッチ22Cを倒すとモータ3の回転方向が「反転」に切り替わるように構成されている。
【0031】
また、第2接続部223の後部下部からは、図示せぬ外部電源(例えば、商用交流電源)に接続される電源コード2Aが延出している。本実施の形態においては、トリガスイッチ22Aに対して引操作が行われることで、電源コード2Aを介して、図示せぬ外部電源からモータ3へ電力が供給されるように構成されている。
【0032】
ギヤハウジング23は、前後方向に延び、その後端から前方に向かうにつれて先細りする略漏斗状に形成されている。ギヤハウジング23の後部は、モータハウジング21の前端部に複数のねじ2Bを介して接続されている(ねじ2Bが複数設けられている点については、図示を省略している)。ギヤハウジング23は、モータ3の前部、クラッチ部5、出力軸部6の後部及びコイルスプリング7を収容している。また、ギヤハウジング23の後部には、複数の排気口(不図示)が形成されている。
【0033】
カバー24は、樹脂製であり、その後端から前方に向かうにつれて先細りする略漏斗状に形成されている。カバー24は、ギヤハウジング23の前部の外周面を覆うようにギヤハウジング23に嵌め込まれている。
【0034】
また、図2に示されているように、ギヤハウジング23の内部には、スプリングクラッチ25が固定されている。スプリングクラッチ25は、前後方向に延びる略円筒形状をなし、出力軸部6が挿通されている。スプリングクラッチ25は、出力軸部6の前後方向の位置に応じて出力軸部6の正転の規制及び許容を切り替え可能に構成されている。スプリングクラッチ25は、第1筒部25Aと、第2筒部25Bと、スプリング25Cとを有している。
【0035】
第1筒部25Aは、前後方向に延びる略円筒形状をなしている。第1筒部25Aは、ギヤハウジング23の前部の内部に圧入によって固定されている。第1筒部25Aには、出力軸部6が挿通されている。
【0036】
第2筒部25Bは、第1筒部25Aの直後に配置され、前後方向に延びる略円筒形状をなしている。第2筒部25Bは、第1筒部25Aに対して相対回転可能である。第2筒部25Bには、出力軸部6が挿通されている。また、第2筒部25Bには、その後端から後方に突出する複数の爪25Dが第2筒部25Bの周方向において所定の間隔で設けられている(爪25Dが複数設けられている点については、図示を省略している)。複数の爪25Dは、本発明における「規制部」の一例である。
【0037】
スプリング25Cは、第1筒部25Aの後部及び第2筒部25Bの前部にまたがるように巻回され、第2筒部25Bが第1筒部25Aに対して正転しようとする場合には縮径し第2筒部25Bの第1筒部25Aに対する回転(正転)を規制し、第2筒部25Bが第1筒部25Aに対して反転しようとする場合には拡径し第2筒部25Bの第1筒部25Aに対する回転(反転)を許容するように構成されている。
【0038】
モータ3は、回転方向(正転及び反転)を切替可能に構成されたブラシレスモータである。モータ3は、回転軸31と、ピニオン32と、ロータ33と、ステータ34と、センサ基板35と、ファン36とを有している。モータ3は、本発明における「駆動源」の一例である。なお、モータ3は、ブラシ付モータであっても良い。
【0039】
回転軸31は、前後方向に延びている。回転軸31の後端部はベアリング31Bを介してモータハウジング21に支持され、回転軸31の前部はベアリング31Aを介してギヤハウジング23に支持されている。言い換えると、回転軸31は、ハウジング2に軸線Aを中心に回転可能に支承され、モータ3の駆動によって回転することで回転力を発生させる。ここで、軸線Aは、前後方向に延び回転軸31の軸心を通る線である。回転力は、本発明における「駆動力」の一例である。
【0040】
ピニオン32は、回転軸31の前端部に回転軸31と一体回転可能に設けられている。また、ピニオン32の後方には、ファン36が回転軸31と同軸回転可能に設けられている。本実施の形態においては、ファン36が回転することにより、モータハウジング21に形成された図示せぬ吸気口からハウジング2内に外気が取り込まれ、モータ3の各構成要素等を冷却しつつギヤハウジング23に形成された図示せぬ排気口から排気するように構成されている。
【0041】
ロータ33は、複数の永久磁石を有する回転子であり、回転軸31と一体回転可能に回転軸31に設けられている。ステータ34は、ステータ巻線を有する固定子である。ステータ34は、モータハウジング21に固定されている。
【0042】
センサ基板35は、ロータ33及びステータ34の後方に設けられている。センサ基板35のロータ33と対向する側面には、図示せぬ3個の磁気センサが設けられている。磁気センサは、例えばホール素子である。センサ基板35からは配線が延出している。当該配線は、センサ基板35と制御部4とを電気的に接続する接続線である。
【0043】
図1に示されているように、制御部4は、基板ケース40を有している。基板ケース40には、図示せぬ基板が配置されている。具体的には、基板はその両面が前後方向と直交するように基板ケース40内に配置され、その前面にはインバータ回路部41、平滑コンデンサ42及び図示せぬ整流回路等が搭載されている。
【0044】
インバータ回路部41は、図示せぬ外部電源からの電力をモータ3に供給するとともにモータ3の回転を制御するための図示せぬ6個のスイッチング部材を有している。平滑コンデンサ42は、図示せぬ整流回路から出力される全波整流電圧(変動する直流電圧)を平滑する有極性の電解コンデンサである。
【0045】
また、制御部4は、作業者のトリガスイッチ22A及び切替スイッチ22Cに対する操作及びセンサ基板35上の磁気センサから出力される信号に応じて駆動信号をインバータ回路部41の6個のスイッチング部材に選択的に出力し、モータ3の回転方向及び回転速度等を制御する制御回路を収容している。制御回路は、例えば、マイコン及び駆動信号出力回路等によって構成されている。
【0046】
図2に示されているように、クラッチ部5は、クラッチドラム51と、多板摩擦クラッチ52とを有している。クラッチドラム51は、前後方向に延び前部に開口が形成された略円筒形状をなし、ベアリング5A及び軸受メタル5Dを介して軸線Bを中心に回転可能に支承されている。ここで軸線Bは、前後方向に延び出力軸部6の軸心を通る線である。クラッチドラム51は、第1円筒部51Aと、第2円筒部51Cと、第1接続壁51Dと、第3円筒部51Eと、第2接続壁51Fと、当接部51Hとを有している。クラッチドラム51は、本発明における「駆動部」の一例である。
【0047】
第1円筒部51Aは、前後方向に延び、底壁51Bを有する略有底円筒形状をなしている。第1円筒部51Aの外周面には、ベアリング5Aの内輪部が固定されている。
【0048】
底壁51Bは、前面視略環状をなしている。底壁51Bは、第1円筒部51Aの後端部において第1円筒部51Aの径方向内方に延びている。
【0049】
第2円筒部51Cは、前後方向に延び、第1円筒部51Aよりも大きな径を有する略円筒形状をなしている。第2円筒部51Cの内周面には、ワンウェイクラッチ5Bが設けられている。ワンウェイクラッチ5Bは、第2円筒部51Cの内周面に固定(圧入)された外輪部と、外輪部に対して正転は規制され反転は許容された内輪部とを有している。
【0050】
第1接続壁51Dは、前面視略環状をなしている。第1接続壁51Dは、第1円筒部51Aの前端部の外周面と第2円筒部51Cの後端部の内周面とを接続するように、第2円筒部51Cの径方向内方に延びている。
【0051】
第3円筒部51Eは、前後方向に延び、第2円筒部51Cよりも大きな径を有する略円筒形状をなしている。クラッチドラム51は、前後方向(クラッチドラム51の径方向視)において第3円筒部51Eの後部が第2円筒部51Cの略全域と重なるように形成されている。第3円筒部51Eの前端部は軸受メタル5Dに挿通され、第3円筒部51Eの後部の外周面には複数のギヤ歯を有するギヤ部5Cが設けられている。ギヤ部5Cは、モータ3のピニオン32と噛合している。これにより、クラッチドラム51には、モータ3からの回転力が伝達され回転駆動する。
【0052】
また、第3円筒部51Eには、前後方向に延びる係合部51Gが設けられている。係合部51Gには、第3円筒部51Eの内周面から第3円筒部51Eの径方向外方に窪むとともに前後方向に延びる溝が第3円筒部51Eの周方向全域において所定の間隔で形成されている。係合部51Gは、本発明における「第1係合部」の一例である。
【0053】
第2接続壁51Fは、前面視略環状をなしている。第2接続壁51Fは、第2円筒部51Cの前端部の外周面と第3円筒部51Eの前後方向における略中央部の内周面とを接続するように、第2円筒部51Cの径方向内方に延びている。
【0054】
当接部51Hは、前面視略環状をなしている。当接部51Hは、第2接続壁51Fの前面から前方に突出し、その突出端面が前後方向と直交するように形成されている。当接部51Hは、前後方向において、多板摩擦クラッチ52の最後端と当接可能である。図2に示されているように軸線Bと、クラッチドラム51の径方向における当接部51Hの中央部との間の距離は、距離Rである。当接部51Hは、本発明における「当接部」の一例である。
【0055】
なお、本実施の形態においては、第1円筒部51A、第2円筒部51C、第1接続壁51D、第3円筒部51E、第2接続壁51F及び当接部51Hは、一体に形成されている。
【0056】
多板摩擦クラッチ52は、前後方向において押圧されることによって、モータ3の回転力を受けて回転するクラッチドラム51の回転力を出力軸部6に伝達可能に構成されている。具体的には、多板摩擦クラッチ52は、モータ3の駆動力(回転力)の伝達経路におけるクラッチドラム51と出力軸部6との間に設けられ、出力軸部6を後方に移動した場合に押圧され、クラッチドラム51に伝達された回転力を受けて押圧力に応じた回転力を出力軸部6に伝達する。多板摩擦クラッチ52は、クラッチドラム51の第3円筒部51Eに収容され、図3(a)に示される円盤状に形成されたアウタープレート52Aと、図3(b)に示される円盤状に形成されたインナープレート52Bとが前後方向において交互に積層されることにより構成されている。本実施の形態においては、アウタープレート52Aが8枚設けられ、インナープレート52Bが9枚設けられている。また、図2に示されているように、本実施の形態においては、多板摩擦クラッチ52の最前端及び最後端にはインナープレート52Bが配置されている。多板摩擦クラッチ52は、本発明における「伝達部」の一例である。
【0057】
図3(a)に示されているように、複数のアウタープレート52Aのそれぞれは、金属製の薄板であり、前面視略環状をなしている。アウタープレート52Aには、被係合部52Cが設けられ、前面視略中央部に貫通孔52aが形成されている。アウタープレート52Aは、本発明における「第1プレート」の一例である。
【0058】
被係合部52Cは、アウタープレート52Aの外周部に所定の間隔(45度おき)で8つ設けられている。8つの被係合部52Cのそれぞれは、アウタープレート52Aの径方向外方へ突出し、クラッチドラム51の第3円筒部51Eの係合部51Gと係合している。これにより、アウタープレート52Aは、クラッチドラム51と一体に軸線Bを回転軸心として回転することが可能である。被係合部52Cは、本発明における「第1被係合部」の一例である。
【0059】
また、アウタープレート52Aは、伝達面52Dを有している。伝達面52Dは、前後方向視において略環状をなし、アウタープレート52Aの前後両面に規定されている。伝達面52Dは、アウタープレート52Aの径方向において、軸線Bよりも被係合部52Cに近い位置に規定されている。
【0060】
図3(b)に示されているように、複数のインナープレート52Bのそれぞれは、金属製の薄板であり、前面視略環状をなしている。インナープレート52Bには、被係合部52Eが設けられ、前面視略中央部に貫通孔52bが形成されている。インナープレート52Bは、本発明における「第2プレート」の一例である。
【0061】
被係合部52Eは、インナープレート52Bの内周部に所定の間隔(60度おき)で6つ設けられている。6つの被係合部52Eのそれぞれは、インナープレート52Bの径方向内方へ突出している。被係合部52Eは、本発明における「第2被係合部」の一例である。
【0062】
また、インナープレート52Bは、伝達面52Fを有している。伝達面52Fは、前後方向視において略環状をなし、インナープレート52Bの前後両面に規定されている。伝達面52Fは、インナープレート52Bの径方向外端部に規定されている。
【0063】
ここで、第3円筒部51Eに収容された状態において、隣り合うアウタープレート52A及びインナープレート52Bの伝達面52Dと伝達面52Fとは前後方向において対向している。伝達面52D及び52Fは、アウタープレート52Aがクラッチドラム51と一体に軸線Bを中心に回転している状態において、多板摩擦クラッチ52が前後方向から押圧された場合に、モータ3からの回転力の伝達に寄与する。具体的には、多板摩擦クラッチ52が前後方向から押圧されると、伝達面52D、52F間の面圧が上昇する。この時に、伝達面52Dと伝達面52Fとの間に発生する摩擦力(静止摩擦力)により、アウタープレート52Aまで伝達されたモータ3からの回転力はインナープレート52Bに伝達される。このように、アウタープレート52Aとインナープレート52Bとの間に発生する摩擦力のみにより回転力を伝達するため、クラッチドラム51と出力軸部6とが非伝達状態から伝達状態へと切り替わる際の衝撃の発生を抑制することが可能である。
【0064】
また、本実施の形態においては、アウタープレート52Aの前後方向視における面積は、インナープレート52Bの前後方向視における面積の半分以下となるように形成されている。具体的には、アウタープレート52Aは、伝達面52Dよりも径方向内方に構成部分を有していない。これにより、アウタープレート52Aとインナープレート52Bとの接触面積が比較的小さくなるように構成されている。
【0065】
図2に示されているように、出力軸部6は、その後部をギヤハウジング23に収容され前部がギヤハウジング23の前部から前方に延出している。出力軸部6は、スプラインシャフト61と、ビット装着部62とを有している。出力軸部6は、本発明における「出力軸部」の一例である。
【0066】
また、本実施の形態において、出力軸部6は、ねじ締機1本体をねじに向けて押し付けていない無負荷時において、図4(a)に示す位置に位置している(以下、図4(a)に示す出力軸部6の前後方向における位置を「第1位置」と呼ぶ)。また、出力軸部6は、作業者がねじ締機1本体をねじに向けて押し付けている作業時において後方向への力を受けることにより後方に移動し、図4(b)に示す位置に位置する(以下、図4(b)に示す出力軸部6の前後方向における位置を「第2位置」と呼ぶ。)
【0067】
ビット装着部62は、前後方向に延びる略円筒形状をなしており、スプリングクラッチ25によって軸線Bを回転軸心として回転可能且つ前後方向に移動可能に支持されている。ビット装着部62には、前後方向に延びる貫通孔62aが形成されている。ビット装着部62は、本発明における「先端工具装着部」の一例である。
【0068】
図2に示されているように、スプラインシャフト61は、軸部61Aと、シャフトカラー61Bとを有している。
【0069】
軸部61Aは、前後方向に延びる略円柱形状をなしており、アウタープレート52Aの貫通孔52aとインナープレート52Bの貫通孔52bとに挿通されている。軸部61Aの前端部は、ビット装着部62の貫通孔62aに圧入されている。また、軸部61Aの前後方向における略中央部には、前後方向に延びる係合部61Dが設けられている。係合部61Dには、軸部61Aの外周面から軸部61Aの径方向外方へ突出し前後方向に延びる突出部が軸部61Aの周方向全域において所定の間隔で形成されている。係合部61Dの突出部はインナープレート52Bの被係合部52Eと係合しており、インナープレート52Bが回転した場合、インナープレート52Bとスプラインシャフト61及びビット装着部62とは一体に回転する。係合部61Dは、本発明における「第2係合部」の一例である。
【0070】
シャフトカラー61Bは、前後方向に延びる略円筒形状をなしており、その内周面が軸部61Aの後端部に圧入により固定されている。シャフトカラー61Bの外周面は、ワンウェイクラッチ5Bの内輪部に固定されている。つまり、シャフトカラー61Bが圧入された軸部61Aの後端部は、クラッチドラム51の第2円筒部51Cにワンウェイクラッチ5Bを介して前後方向に移動可能に支持されている。これにより、軸部61A(スプラインシャフト61)は、ビット装着部62と一体に軸線Bを回転軸心として回転可能且つ前後方向に移動可能である。なお、図2に示されているように、軸線Bと、シャフトカラー61Bの径方向におけるシャフトカラー61Bの中央部との間の距離は、距離rである。ここで、距離rは、軸線Bとクラッチドラム51の径方向における当接部51Hの中央部との間の距離Rよりも小さい。また、シャフトカラー61Bは、受入部61Cを有している。
【0071】
本実施の形態においては、図4(a)に示されているように、ねじ締機1本体を締結具(ねじ等)に向けて押し付けていない無負荷時において、多板摩擦クラッチ52の最後端に位置するインナープレート52Bの後面は、シャフトカラー61Bの前端部と当接しているか、または、ねじ締機1を構成するいずれの部材とも当接していない(無負荷時において最後端に位置するインナープレート52Bがねじ締機1を構成するいずれの部材とも当接していない状態については、図示を省略している)。一方で、クラッチドラム51の当接部51Hと多板摩擦クラッチ52の最後端に位置するインナープレート52Bの後面とは必ず離間している。
【0072】
言い換えると、本実施の形態においては、出力軸部6が第1位置に位置する場合において、シャフトカラー61Bと最後端に位置するインナープレート52Bとは当接可能、且つ、当接部51Hと最後端に位置するインナープレート52Bとは必ず離間するように構成されている。
【0073】
受入部61Cは、シャフトカラー61Bの後部を形成し、前後方向に延びる略円筒形状をなしている。受入部61Cの内径は、シャフトカラー61Bの前部の内径よりも大きく形成されている。
【0074】
また、図2に示されているように、出力軸部6には押圧部63が設けられている。押圧部63は、前後方向に延びる略円筒形状をなし出力軸部6の径方向外方へ突出している。押圧部63は、ビット装着部62の直後に配置され、径方向における中央部にはスプラインシャフト61の軸部61Aの前部が圧入により固定されている。これにより、押圧部63は、スプラインシャフト61及びビット装着部62と一体に軸線Bを回転軸心として回転可能且つ前後方向に移動可能である。押圧部63は、出力軸部6の後方向への移動に伴いクラッチドラム51の前部の開口を介して多板摩擦クラッチ52を押圧する。押圧部63の前部には溝部63aが形成され、後部には突出部63Bが設けられている。
【0075】
溝部63aは、押圧部63の前部において、押圧部63の前面から後方に窪むように形成されている。言い換えると、溝部63aは、多板摩擦クラッチ52に向かって窪んでいる。溝部63aは、押圧部63の周方向に延びている。また、図2に示されているように、押圧部63には、溝部63aを規定する底面から前方に突出する複数の爪63Aが設けられている。複数の爪63Aは、押圧部63の周方向において所定の間隔で設けられている(爪63Aが複数設けられている点については、図示を省略している)。複数の爪63Aは、ねじ締機1に外力が働いていない無負荷時(作業者による締結具(ねじ等)に対するねじ締機1本体の押し付けが開始されていない状態)において、押圧部63がスプラインシャフト61及びビット装着部62と一体に回転した場合に、ハウジング2のスプリングクラッチ25の第2筒部25Bの複数の爪25Dと係合可能である。本実施の形態においては、出力軸部6が正転しようとする場合において、スプリングクラッチ25のスプリング25Cによって第2筒部25Bの第1筒部25Aに対する正転が規制されているため、爪63Aと爪25Dとが係合することにより出力軸部6の正転が規制される。一方で、出力軸部6が反転しようとする場合において、スプリング25Cによって第2筒部25Bの第1筒部25Aに対する反転が許容されているため、爪63Aと爪25Dが係合しつつも出力軸部6は反転することが可能である。
【0076】
突出部63Bは、後面視略環状をなしている。突出部63Bは、押圧部63の径方向における外端部の後面から後方に突出している。突出部63Bは、ビット装着部62に装着された先端工具Pが締結具(ねじ等)に押し付けられ押圧部63がスプラインシャフト61及びビット装着部62と一体に後方に移動した場合に、多板摩擦クラッチ52の最前端に位置するインナープレート52Bの前面と当接可能である。なお、軸線Bと、押圧部63の径方向における突出部63Bの中央部との間の距離は、距離Rである。
【0077】
図1及び図2に示されているように、コイルスプリング7は前後方向に延び、前後方向に伸縮可能に配置されている。コイルスプリング7の後部はクラッチドラム51の第1円筒部51Aに収容され、前部はスプラインシャフト61のシャフトカラー61Bの受入部61Cに収容されている。コイルスプリング7の後端は第1円筒部51Aの底壁51Bの前面と当接し、前端はスプラインシャフト61の軸部61Aの後面と当接し、クラッチドラム51を後方に付勢している。つまり、コイルスプリング7は、クラッチドラム51と出力軸部6との間に介装され、クラッチドラム51を出力軸部6に対して後方に付勢している。コイルスプリング7は、本発明における「付勢部」の一例である。
【0078】
また、本実施の形態においては、図2に示されているように、スプリングクラッチ25の複数の爪25Dの後端と押圧部63の溝部63aを規定する後面とが前後方向において対向している。これにより、出力軸部6がコイルスプリング7によって勢いよく前方に付勢された場合においても、溝部63aの後面と複数の爪25Dとが当接することにより、出力軸部6の前方への所定量以上の移動が規制されている。
【0079】
次に、図4を参照しながら、ねじ締機1を用いた図示せぬ被加工材(板材等)へのねじの締付作業及び締付作業時におけるねじ締機1の動作について説明する。なお、図4において、鎖線Wによってねじのねじ頭の位置が仮想的に示されている。また、以下の説明においては、特に断らない限り、先端工具Pをねじに押し付ける方向(すなわち、ねじ締機1をねじに向けて押し込む方向)と前方向とが一致しているものとする。
【0080】
ねじの締付作業を行う場合、まず作業者は、出力軸部6のビット装着部62の貫通孔62aに先端工具Pを装着し、切替スイッチ22Cを紙面時計回り方向に倒し(図1参照)、トリガスイッチ22Aに対して引操作を行う。すると、電源コード2Aを介して図示せぬ外部電源からモータ3へ電力が供給され、モータ3が駆動を開始する。モータ3が駆動を開始すると、回転軸31及びピニオン32が軸線Aを回転中心として反転する。ピニオン32の反転に伴い、ピニオン32と噛合しているギヤ部5Cを介してクラッチドラム51が軸線Bを中心として正転する。クラッチドラム51の正転に伴い、クラッチドラム51の第3円筒部51Eの係合部51Gと係合(噛合)している複数のアウタープレート52Aが軸線Bを回転軸心として正転する。
【0081】
この状態において、作業者は、先端工具Pの先端をねじのねじ頭に形成された溝(例えば、十字溝)に係合させる。その後、作業者は、ねじ締機1本体をねじに向けて押し込んで、先端工具Pをねじに押し付ける。このときに、図6(b)に示されるように、コイルスプリング7の付勢力に抗して出力軸部6(スプラインシャフト61、ビット装着部62及び押圧部63)が後方へ移動する。出力軸部6が後方へ移動すると、押圧部63の突出部63Bと多板摩擦クラッチ52の最前端に位置するインナープレート52Bとが当接する。また、この状態において、シャフトカラー61Bが後方へ移動することにより、シャフトカラー61Bと多板摩擦クラッチ52の最後端に位置するインナープレート52Bとの当接が解除されるとともに、当該最後端に位置するインナープレート52Bは、クラッチドラム51の当接部51Hと当接する。つまり、出力軸部6が後方へ移動することにより、多板摩擦クラッチ52は、押圧部63の突出部63Bとクラッチドラム51の当接部51Hとによって前後方向から挟み込まれる。このときに、多板摩擦クラッチ52の隣り合うアウタープレート52Aとインナープレート52Bとは接触する。
【0082】
この状態において、ねじ締機1本体がさらにねじに押し込まれることに伴い、出力軸部6がさらに後方へ移動し第2位置に位置すると、前後方向に隣り合うアウタープレート52Aとインナープレート52Bとの間の接触面(伝達面52D,52F)における面圧が上昇する。このときに、アウタープレート52Aの正転に伴いアウタープレート52A及びインナープレート52B間に発生する摩擦力により、アウタープレート52Aまで伝達されたモータ3の回転力がインナープレート52Bに伝達され、インナープレート52Bと一体に回転する出力軸部6が回転する。そして、モータ3からの回転力が出力軸部6のビット装着部62を介して先端工具Pに伝達され、ねじを図示せぬ被加工材に対して締め付けることが可能である。なお、出力軸部6が後方に移動することに伴い、図6(b)に示されているようにスプリングクラッチ25の第2筒部25Bの複数の爪25Dと出力軸部6の押圧部63の複数の爪63Aとが前後方向に離間するため、出力軸部6は正転することが可能である。
【0083】
この状態において(出力軸部6が第2位置に位置する場合において)、シャフトカラー61Bと最後端に位置するインナープレート52Bとは離間し、且つ、クラッチドラム51の当接部51Hと最後端に位置するインナープレート52Bとは当接している。
【0084】
また、ねじ締め作業を終わり、作業者が先端工具Pをねじのねじ頭から離すと、コイルスプリング7の付勢力によって、出力軸部6は前方へと移動する。これにより、多板摩擦クラッチ52に対する前後方向の押圧が解消し、前後方向において隣り合うアウタープレート52A及びインナープレート52Bの接触面(伝達面52D,52F)における面圧が減少するため、隣り合うアウタープレート52Aとインナープレート52Bとの間に発生する摩擦が小さくなる。また、この状態において、多板摩擦クラッチ52がクラッチドラム51の第3円筒部51E内を全体的に前方に移動することにより、最後端に位置するインナープレート52Bとクラッチドラム51の当接部51Hとの当接が解消される。
【0085】
仮に、最後端に位置するインナープレート52Bと当接部51Hとの当接が解消されないときでも、出力軸部6がコイルスプリング7の付勢力によって前方に移動することにより、シャフトカラー61Bの前端部が最後端に位置するインナープレート52Bの後面と当接しインナープレート52Bを前方に押し出す。これにより、当接部51Hと最後端に位置するインナープレート52Bとの当接が好適に解消され、作業者の意図しない出力軸部6の回転を抑制することが可能となる。
【0086】
また、ねじを緩める際には、切替スイッチ22Cを紙面反時計回り方向に倒し(図1参照)、トリガスイッチ22Aに対して引操作を行う。このときに、作業者が先端工具Pをねじに十分に押し付けることが出来る場合には、先端工具Pのねじへの押し付けによって、出力軸部6が後方へと移動する。そして、出力軸部6の押圧部63が多板摩擦クラッチ52を後方へ押圧することに伴い、前後方向に隣り合うアウタープレート52A及びインナープレート52B間の面圧が上昇する。アウタープレート52Aの反転に伴い、隣り合うアウタープレート52A及びインナープレート52B間に摩擦が発生する。この摩擦によって、インナープレート52Bは反転し、インナープレート52Bの被係合部52Eとスプラインシャフト61の係合部61Dとの係合によって出力軸部6も反転する。よって、モータ3からの回転力が出力軸部6のビット装着部62を介して先端工具Pに伝達され、ねじを緩めることが可能となる。
【0087】
ねじを緩める場合において、ねじのねじ頭が図示せぬ被加工材から突出しておらず(例えば、ねじが被加工材に埋没している場合等)、作業者が先端工具Pをねじに十分に押し付けることが出来ない場合には、ビット装着部62を十分に後方へ移動させることが出来ず、アウタープレート52Aとインナープレート52Bとの間に十分な摩擦が生じない。この場合においては、アウタープレート52A及びインナープレート52Bを介してクラッチドラム51から出力軸部6へとモータ3の回転力を伝達することはできないが、クラッチドラム51が反転するため、スプラインシャフト61の反転を許容するワンウェイクラッチ5Bを介してクラッチドラム51からスプラインシャフト61へと回転力が伝達され、ねじを緩めることが出来る。なお、スプリングクラッチ25のスプリング25Cによって第2筒部25Bの第1筒部25Aに対する反転が許容されているため、押圧部63の複数の爪63Aと複数の爪25Dが係合しつつも出力軸部6は反転することが可能である。
【0088】
次に、図4乃至図6を参照しながら、本実施の形態による効果について、図5に示される従来のねじ締機900と比較しつつ説明する。
【0089】
まず、図5に示される従来のねじ締機900の構成について説明する。
【0090】
図5に示されているように、従来のねじ締機900は、ハウジング92と、モータ93と、クラッチ部95と、出力軸部96と、コイルスプリング97とを有している。
【0091】
ハウジング92は、本実施の形態におけるねじ締機1のハウジング2に設けられたスプリングクラッチ25と同様の構成を有するスプリングクラッチ925を有している。また、モータ93は、本実施の形態におけるねじ締機1のモータ3と同様の構成を有し、ピニオン932を備えている。
【0092】
クラッチ部95は、クラッチドラム951と、多板摩擦クラッチ952とを有している。クラッチドラム951の第1円筒部951Bには、本実施の形態におけるねじ締機1のクラッチ部5のクラッチドラム51の第1円筒部51Aが底壁51Bを有する略有底円筒形状に形成されている構成とは異なり、底壁が設けられていない。このため、コイルスプリング97の後端は、ハウジング92と当接している。したがって、従来のねじ締機900においては、コイルスプリング97の付勢力がハウジング92と出力軸部96との間に作用している。
【0093】
また、クラッチドラム951は、当接部951Aを備えている。図5に示されているように、軸線B´と、クラッチドラムの径方向における当接部951Aとの間の距離は、距離R´である。ここで、軸線B´は、前後方向に延び出力軸部96の軸心を通る線である。なお、距離R´は、本実施の形態における距離Rと略等しい。
【0094】
多板摩擦クラッチ952は、図6(a)に示されるアウタープレート952Aと、図6(b)に示されるインナープレート952Bとが前後方向に積層されることにより構成されている。アウタープレート952A及びインナープレート952Bは、それぞれ12枚ずつ設けられている。従来のねじ締機900においては、多板摩擦クラッチ952の最前端にインナープレート952Bが配置され、最後端にアウタープレート952Aが配置されている。
【0095】
図6(a)に示されているように、アウタープレート952Aは、モータ3からの回転力の伝達に寄与する伝達面952Cに加え、面952Eを有している。また、図6(b)に示されているように、インナープレート952Bは、アウタープレート952Aからの回転力の伝達に寄与する伝達面952Dに加え、面952Fを有している。多板摩擦クラッチ952がクラッチドラム951に収容された状態で、伝達面952Cと伝達面952Dとは対向している。また、多板摩擦クラッチ952がクラッチドラム951に収容された状態で、面952Eと面952Fとは対向している。
【0096】
出力軸部96は、スプラインシャフト961と、先端工具P´を着脱可能なビット装着部962と、ビット装着部962に設けられ多板摩擦クラッチ952を押圧する押圧部963とを有している。スプラインシャフト961には、シャフトカラー961Aが設けられている。
【0097】
ここで、上述の通り、従来のねじ締機900においては、コイルスプリング97の付勢力がハウジング92と出力軸部96との間に作用している。このため、ハウジング92に対する出力軸部96の位置は安定する一方で、ハウジング92に対するクラッチドラム951の位置が予期せずずれてしまう可能性があった。具体的には、図5(b)に示されているように、従来のねじ締機900においては、作業時または作業が終わった直後において、クラッチドラム951のギヤ部95Cにかかる負荷が急激に変動することにより、クラッチドラム951を回転可能に支持するベアリングとともにクラッチドラム951が前方にずれてしまっていた。より具体的には、クラッチドラム951がギヤ部95Cにかかる負荷の急激な変動により、前方に距離Xだけずれてしまっていた。このため、製品製造時に決まる多板摩擦クラッチ952がモータ3の回転力を伝達するために必要な所定の押し付け量未満の状態で多板摩擦クラッチ952を介する出力軸部96への回転力の伝達が開始されてしまっていた。また、距離Xは、負荷の変動の大きさによっても異なるため、作業毎に被加工材に対するねじの締結量にばらつきが生じ、作業性が低下してしまっていた。
【0098】
また、クラッチドラム951が前方に移動すると、他の部材との予期せぬ接触が起こる可能性がある。具体的には、図5(b)においてCで指し示す箇所に示されているように、従来のねじ締機900においては、ギヤ部95Cにかかる負荷の急激な変動に伴いクラッチドラム951は軸受メタル95Dと前後方向において当接する。このように、クラッチドラム951と軸受メタル95Dとが前後方向において当接することにより、クラッチドラム951の回転時に当該箇所Cにおいて摩擦熱が生じ、ねじ締機900本体の寿命が短くなってしまう可能性があった。
【0099】
これに対して、本実施の形態におけるねじ締機1においては、コイルスプリング7がクラッチドラム51と出力軸部6との間に介装され、クラッチドラム51を出力軸部6に対して後方に付勢している。これにより、例えば作業時または作業が終わった直後において、クラッチドラム51を前方に移動させるような負荷がかかった場合においても、ハウジング2に対してクラッチドラム51が移動してしまうことを抑制することが可能となる。これにより、被加工材に対するねじの締結量にばらつきが生じるのを抑制することができ、作業性を向上させることが可能となる。また、クラッチドラム51の前方への移動が抑制されるため、他の部材との予期せぬ接触を抑制することが可能となる。
【0100】
また、本実施の形態におけるねじ締機1においては、ハウジング2のスプリングクラッチ25の複数の爪25Dの後端と出力軸部6の押圧部63の溝部63aを規定する後面とが前後方向において対向している。このため、出力軸部6の所定量以上の前方への移動が好適に規制され、無負荷時におけるハウジング2に対する出力軸部6の位置が好適に決まっている。そして、ハウジングに対する位置が好適に決まった出力軸部とクラッチドラム51との間にコイルスプリング7を介装することにより、ハウジング2に対してクラッチドラム51が移動してしまうことを好適に抑制することが可能に構成されている。
【0101】
また、本実施の形態におけるねじ締機1においては、作業者がねじ締機1本体をねじに向けて押し付けていない無負荷時においても、作業者がねじ締機1本体をねじに押し付けている作業時においても、コイルスプリング7がクラッチドラム51を後方へ付勢している。このため、ギヤハウジング23に対してクラッチドラム51が移動してしまうことを好適に抑制することが可能となる。これにより、被加工材に対するねじの締結量にばらつきが生じるのを抑制することができ、作業性を向上させることが可能となる。
【0102】
また、本実施の形態におけるねじ締機1においては、コイルスプリング7の前部がスプラインシャフト61のシャフトカラー61Bの受入部61Cに収容されている。これにより、コイルスプリング7の自由長を確保しつつ、コイルスプリング7がクラッチドラム51の第2円筒部51Cに設けられたワンウェイクラッチ5Bに接触してしまうことが可能である。
【0103】
また、本実施の形態におけるねじ締機1においては、コイルスプリング7を設けるという簡易な構成でクラッチドラム51をギヤハウジング23に対して後方に付勢することが可能に構成されている。
【0104】
また、一般に、天井に石膏ボード等の板材をねじ止めする場合、先端工具Pの先端を上方に向けて作業を行う必要がある。この場合において、従来のねじ締機900においては、先端工具P´を上方に向けることに伴い、自重で落下する多板摩擦クラッチ952の最下端に位置するアウタープレート952Aがクラッチドラム951の当接部951Aと当接する。つまり、従来のねじ締機900を用いて天井作業を行う場合には、ねじ締機900をねじに向けて押し付けていない無負荷時においても、作業者がねじ締機900本体をねじに向けて押し付けている作業時においても、クラッチドラム951の当接部951Aが最下端に位置するアウタープレート952Aと当接している。また、無負荷時においても、作業時においてもシャフトカラー961Aと最下端に位置するアウタープレート952Aとは離間している。このように従来のねじ締機900においては、無負荷時においても、クラッチドラム951の当接部951Aと当接するため、先端工具P´を上に向けるとアウタープレート952Aとインナープレート952Bとの間の面圧が上昇し、作業者の意図とは関係なく出力軸部96が回転を開始してしまう可能性があった。なお、以下においては、先端工具を上方に向けて作業を行うことを前提に説明を行う。
【0105】
これに対し、本実施の形態におけるねじ締機1においては、図4(a)に示されているように、ねじ締機1本体をねじに向けて押し付けていない無負荷時においては、シャフトカラー61Bの前端部と多板摩擦クラッチ52の最後端に位置するインナープレート52Bの後面とは当接する(または、ねじ締機1を構成するいずれの部材とも当接しない)一方で、クラッチドラム51の当接部51Hと多板摩擦クラッチ52の最後端に位置するインナープレート52Bの後面とは必ず離間している。また、図4(b)に示されているように、ねじ締機1をねじに向けて押し付けている作業時においては、シャフトカラー61Bの前端部と多板摩擦クラッチ52の最後端に位置するインナープレート52Bの後端とは離間する一方で、クラッチドラム51の当接部51Hと多板摩擦クラッチ52の最後端に位置するインナープレート52Bの後面とは当接している。つまり、無負荷時と作業時とで、多板摩擦クラッチ52が異なる箇所に当接するように構成されているため、無負荷時において作業者の意図しない出力軸部6の回転を抑制することが可能である。
【0106】
より詳細には、本実施の形態における多板摩擦クラッチ52のような、クラッチ間に発生する摩擦力を介してモータの駆動力を伝達する構成において、伝達トルクは、押圧力(摩擦力)と、押圧力の作用点の回転中心からの距離との積に比例することが知られている。ここで、図5に示されているように、従来のねじ締機900においては、無負荷時においても作業時においても、軸線Bからの距離が距離R´となる位置付近でアウタープレート952Aとクラッチドラム951の当接部951Aとが当接する。これに対して、本実施の形態におけるねじ締機1においては、無負荷時においては、軸線Bからの距離が距離rとなる位置付近でインナープレート52Bとシャフトカラー61Bとが当接し、作業時においては軸線Bからの距離が距離rよりも大きい距離Rとなる位置付近でインナープレート52Bとクラッチドラム51の当接部51Hとが当接する。つまり、本実施の形態によるねじ締機1によれば、出力軸部6が第1位置に位置する無負荷時において、軸線Bからの距離が短い距離rの位置付近で多板摩擦クラッチ52が押圧されるため作業者の意図しない出力軸部6の回転を抑制することが可能となる。また一方で、出力軸部6が第2位置に位置する作業時においては、軸線Bからの距離が長い距離Rの位置付近で多板摩擦クラッチ52が押圧されるため、多板摩擦クラッチ52を介して、モータ3の回転力を出力軸部6に好適に伝達することが可能となる。
【0107】
また、本実施の形態においては、ビット装着部62、多板摩擦クラッチ52及びシャフトカラー61Bは、前後方向において、ビット装着部62、多板摩擦クラッチ52、シャフトカラー61Bの順で並んでいる。つまり、先端工具Pを天井(上方)に向けて作業をする場合において、シャフトカラー61Bが多板摩擦クラッチ52の下方に位置する。このため、出力軸部6が第1位置に位置する無負荷時において、多板摩擦クラッチ52とシャフトカラー61Bとを好適に当接させることが可能となる。
【0108】
また、本実施の形態においては、ビット装着部62、多板摩擦クラッチ52及び当接部51Hは、前後方向において、ビット装着部62、多板摩擦クラッチ52、当接部51Hの順で並んでいる。また、出力軸部6が第1位置に位置する場合において、シャフトカラー61Bの少なくとも一部は、当接部51Hよりもビット装着部62に近接した位置に位置している。このため、出力軸部6が第1位置に位置する無負荷時において、多板摩擦クラッチ52とシャフトカラー61Bとを好適に当接させ、且つ、多板摩擦クラッチ52とクラッチドラム51の当接部51Hとを好適に離間させることが可能となる。
【0109】
また、上述の通り、伝達トルクは、多板摩擦クラッチへの押圧力(摩擦力)と、押圧力の作用点の回転中心からの距離との積に比例するところ、従来のねじ締機900の多板摩擦クラッチ952において回転力の伝達に主に寄与するのは、軸線B´から離れた位置に位置する伝達面952C及び952Dである(図6)。多板摩擦クラッチ952において、伝達面952C及び伝達面952Dよりも多板摩擦クラッチ952の径方向内方に規定された面952E及び面952Fは、回転力の伝達に寄与することはない一方で、アウタープレート952Aとインナープレート952Bとが接触した状態でアウタープレート952Aがインナープレート952Bに対して相対的に回転した場合の発熱源となってしまっていた。
【0110】
これに対して、本実施の形態においては、アウタープレート52Aにアウタープレート952Aの面952Eに対応する構成が設けられていない。このため、アウタープレート52Aとインナープレート52Bとが接触した状態でアウタープレート52Aがインナープレート52Bに対して相対的に回転した場合の発熱を抑制することが可能となる。また、ねじ締機1本体の軽量化を図ることが可能となる。また、従来の構成に比べ、重心位置が後方に位置する、つまり、重心を作業者の把持する把持部221に近づけることが出来るため、操作性の良いねじ締機1を提供することが可能となる。
【0111】
また、図4及び図5に示されているように、本実施の形態におけるねじ締機1の多板摩擦クラッチ52のアウタープレート52Aの前後方向における厚みは、従来のねじ締機900のアウタープレート952Aの前後方向における厚みよりも薄い。また、多板摩擦クラッチ52のインナープレート52Bの前後方向における厚みは、従来のねじ締機900のインナープレート952Bの前後方向における厚みよりも薄い。これにより、ねじ締機1の前後方向のサイズの大型化を抑制することが可能となる。また、ねじ締機1本体の軽量化を図ることが可能となる。また、従来の構成に比べ、重心位置が後方に位置する、つまり、重心を作業者の把持する把持部221に近づけることが出来るため、操作性の良いねじ締機1を提供することが可能となる。
【0112】
また、従来のねじ締機900の多板摩擦クラッチ952においては、アウタープレート952Aとインナープレート952Bとで合わせて24枚のクラッチプレートが設けられているところ、本実施の形態におけるねじ締機1においては、アウタープレート52Aとインナープレート52Bとで合わせて17枚のクラッチプレートが設けられている。つまり、本実施の形態によるねじ締機1の方が従来のねじ締機900に比べて設けられるクラッチプレートの数が少ない。これにより、ねじ締機1の前後方向のサイズの大型化を抑制することが可能となる。また、アウタープレート52Aとインナープレート52Bとが接触した状態でアウタープレート52Aがインナープレート52Bに対して相対的に回転した場合の発熱を抑制することが可能となる。また、ねじ締機1本体の軽量化を図ることが可能となる。また、従来の構成に比べ、重心位置はより後方に位置する、つまり、重心を作業者の把持する把持部221に近づけることが出来るため、操作性の良いねじ締機1を提供することが可能となる。
【0113】
また、本実施の形態におけるねじ締機1において、出力軸部6の押圧部63には、多板摩擦クラッチ52に向かって窪む溝部63aが形成されている。これにより、クラッチドラム51内に水や油等が侵入してしまうことを抑制することが可能となる。
【0114】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。本実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0115】
例えば、ハウジング2にはスプリングクラッチ25が設けられていなくても良い。従来のねじ締機900においては、上述のような無負荷時における出力軸部96の供回りを抑制するために、スプリングクラッチ925を設ける必要がある。一方で、本実施の径チアにおけるねじ締機1においては、スプリングクラッチ25が設けられていなくとも、無負荷時においてシャフトカラー61Bとインナープレート52Bとが当接するため、出力軸部6の供回りを好適に抑制することが出来る。また、スプリングクラッチ25を設けないことで、コストを削減することが出来るとともに、ギヤハウジング23の前部の大型化を抑制することが可能となる。
【0116】
本実施の形態においては、動力工具としてねじ締機1を例に説明をしたが、本発明はねじ締機以外のモータで駆動される動力工具にも適用可能である。
【符号の説明】
【0117】
1…ねじ締機 2…ハウジング 3…モータ 4…制御部 5…クラッチ部 6…出力軸部 7…コイルスプリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6