(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】樹脂組成物および樹脂成形部品
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20220906BHJP
C08J 5/06 20060101ALI20220906BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220906BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220906BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C08J3/20 B CER
C08J5/06 CEZ
C08K7/06
C08K3/013
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2018236615
(22)【出願日】2018-12-18
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】西川 和義
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-146129(JP,A)
【文献】特開2012-167251(JP,A)
【文献】特開2005-146124(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051707(WO,A1)
【文献】特開2012-229345(JP,A)
【文献】特開2006-045330(JP,A)
【文献】特開平09-235382(JP,A)
【文献】特開2012-087199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 5/24、 99/00
B29B 11/16、 15/08- 15/14
B29C 39/00- 39/44、 43/00- 43/58
B29C 45/00- 45/84、 70/00- 70/88
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、炭素繊維および導電性フィラーを含んでいる樹脂組成物であって、
前記炭素繊維は、前記熱可塑性樹脂中において解繊された状態で等方的に分散しており、
前記炭素繊維の近傍に、前記導電性フィラーが凝集している、樹脂組成物であって、
前記熱可塑性樹脂は、アミド系樹脂、エステル系樹脂、エーテル系樹脂、ニトリル系樹脂、メタクリレート系樹脂、ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂およびイミド系樹脂からなる群より選択される1種類以上であり、
前記導電性フィラーは、粒子状の金属系フィラーであ
り、
前記熱可塑性樹脂を100重量部とすると、前記炭素繊維の含有量は5重量部~30重量部であり、
前記熱可塑性樹脂を100重量部とすると、前記導電性フィラーの含有量は3重量部~45重量部である、樹脂組成物。
【請求項2】
JIS K 7194に基づいて測定される体積抵抗値が10
2Ω・cm以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
KEC法によって測定されるシールド効果が、1MHz~10MHzにおいて30dB以上である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
円板熱流計法によって測定される熱伝導率が2W/m・K以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記導電性フィラーは、レーザーフラッシュ法によって測定される熱伝導率が10W/m・K以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
密度が2.68g/cm
3未満である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含んでいる、樹脂成形部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および樹脂成形部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費を改善したり、自動車を電動化したりするために、自動車部品を軽量化する技術が注目を集めている。このような技術の一つとして、樹脂製部品による金属製部品の代替が検討されている。樹脂の中でも特に注目を集めているのが、金属に近い強度を有する一方で金属よりも軽量である、熱可塑性炭素繊維強化樹脂(CFRTP)である。具体的な例を挙げると、CFRTPは、アルミニウム合金に近い強度を有しながら、アルミニウムよりも密度が小さい(アルミニウムの密度が2.7g/cm3であるのに対し、CFRTPの密度は1.0~1.5g/cm3である)。さらに、CFRTPは、一般的なプラスチックと同様に射出成形が可能であるから、複雑な立体形状の部品を作製できるという利点も有している。
【0003】
ところで、CFRTPに各種のフィラーを添加して、機能を向上させたり、さらなる機能を付与したりすることも検討されている。例えば特許文献1は、「炭素繊維とナノフィラーとが、前記炭素繊維強化プラスチック材料に無配向に分散していることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック材料」を開示している。
【0004】
また、自動車部品への応用を例にとると、電装部品から発生する電磁波ノイズを遮断するためのシールド機能や、同じく電装部品から発生する熱を放散させるための熱伝導機能をCFRTPに付与することが検討されている。
【0005】
シールド機能に関して言えば、一般的なCFRTPの体積抵抗値は103~106Ω・cm程度であり、不充分なシールド機能しか有していない。そのため、CFRTPに導電性フィラーを添加して導電性を付与し、入射した電磁波をCFRTP内部で誘導電流に変換させることによって、シールド機能を向上させる手法が採られている。この点に関して、特許文献2は、「(A)熱可塑性樹脂100質量部、(B)炭素繊維1~20質量部、及び(C)金属繊維1~20質量部を含有する、成形体の体積固有抵抗値が103Ω・cm以下のものである導電性樹脂組成物」を開示している。
【0006】
熱伝導機能に関して言えば、一般的なCFRTPの熱伝導率は1W/m・Kであり、不充分な熱伝導機能しか有していない。そのため、CFRTPに熱伝導性フィラーを添加して導電性を付与し、熱伝導機能を高める手法が採られている。この点に関して、特許文献3は、「(A)炭素繊維、(B)セラミックス系フィラーおよび(C)熱可塑性樹脂の合計100重量部に対して、(A)炭素繊維1~30重量部、(B)セラミックス系フィラー1~40重量部および(C)熱可塑性樹脂30~98重量部を含み、(A)炭素繊維の重量平均繊維長が300~3000μmである繊維強化熱可塑性樹脂成形品」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特許第6143107号明細書
【文献】特開2006-045330号
【文献】特開2016-190922号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前述の先行技術文献はいずれも、CFRTPにシールド機能および熱伝導機能の両方を付与するものではなかった。
【0009】
また、一般的に、CFRTPにシールド機能や熱伝導機能を付与するためには、フィラーの含有量を増やす必要がある。すると、フィラーは通常比重の高い材料であるから、CFRTP自体の比重も大きくなってしまう。つまり、フィラーの含有量を増やす手法を採用すると、CFRTPにシールド機能および熱伝導機能を付与する代わりに、CFRTPの長所である軽量性が損なわれてしまう傾向にある。
【0010】
本発明の一態様は、充分なシールド機能および熱伝導機能が付与された樹脂組成物を提供することを課題とする。なお、ここでいう「充分なシールド機能および熱伝導機能」とは、樹脂組成物の用途に応じて適宜設定されるものであり、具体的な数値に拘束されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、炭素繊維および導電性フィラーを含んでいる樹脂組成物であって;前記導電性フィラーは、前記熱可塑性樹脂中において網目状に分布している。
【0012】
また、本発明の他の態様に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、炭素繊維および導電性フィラーを含んでいる樹脂組成物であって;前記炭素繊維は、前記熱可塑性樹脂中において解繊された状態で等方的に分散しており;前記炭素繊維の近傍に、前記導電性フィラーが凝集している。
【0013】
前記の構成を有する樹脂組成物は、熱可塑性樹脂中に網目状に導電性フィラーが分布している。つまり、樹脂マトリクス中に導電性フィラーのネットワークが発達した形状となっている。この導電性フィラーのネットワークを通じて、電流を流したり、熱を伝導させたりすることができる。その結果、樹脂組成物にシールド機能および熱伝導機能が与えられる。
【0014】
「導電性フィラーが網目状に分布している」とは、熱可塑性樹脂中における導電性フィラーの分布に線状領域および分岐点が存在しており、当該分岐点において2つ以上の線状領域が交差していることを意味する。導電性フィラーが網目状に分布しているか否かは、例えば、樹脂組成物のサンプルから電子顕微鏡像(SEM画像など)を撮像し、公知の画像処理ソフト(Image Jなど)を利用すれば判別することができる。
【0015】
「炭素繊維の近傍に導電性フィラーが凝集している」とは、樹脂組成物中の導電性フィラーの分布が炭素繊維近傍に局在していることを意味する。樹脂組成物中の導電性フィラーの分布が炭素繊維近傍に偏っているか否かは、例えば、樹脂組成物のサンプルから撮像した電子顕微鏡像(SEM画像など)における「炭素繊維の近傍領域」と「樹脂マトリクス領域」とを比較して、前者に含まれる導電性フィラーの量が、後者に含まれる導電性フィラーの3倍以上であるか否かによって判定することができる。このような判定には、公知の画像処理ソフト(Image Jなど)を利用することができる。
【0016】
「炭素繊維が解繊されている」とは、炭素繊維同士が凝集して束になることなく存在していることを意味する。炭素繊維が解繊されているか否かは、例えば、電子顕微鏡像(SEM画像など)による形態観察から判断することができる。
【0017】
「等方的に分散している」とは、炭素繊維の分布に配向性がない(または配向性が小さい)ことを意味する。樹脂組成物中において等方的に分散している炭素繊維は、当該炭素繊維の長軸方向がランダムな方向を向いている。炭素繊維が等方的に分散しているか否かは、例えば、サンプル中の局所的な熱伝導率の測定によって判断することができる。サンプル中の局所的な熱伝導率の測定には、例えば、繊維配向評価システムTEFOD(株式会社ベテル製)を用いることができる。あるいは、電子顕微鏡像(SEM画像など)による形態観察によって、炭素繊維が等方的に分散しているか否かを判断することもできる。
【0018】
一実施形態において、JIS K 7194に基づいて測定される前記樹脂組成物の体積抵抗値は、102Ω・cm以下である。樹脂組成物の体積抵抗値は、100Ω・cm以下がより好ましく、10-1Ω・cm以下がさらに好ましい。体積抵抗値の下限は特に制限されないが、例えば、10-5Ω・cmとすることができる。
【0019】
一実施形態において、KEC法によって測定される前記樹脂組成物のシールド効果は、1MHz~10MHzにおいて30dB以上である。より好ましくは、樹脂組成物のシールド効果は、1MHz~1GHzにおいて30dB以上である。シールド効果の上限は特に制限されないが、例えば、1MHz~1GHzにおいて80dB以下とすることができる。
【0020】
前記の構成を有する樹脂組成物は、車載用パワーモジュール、モータ周辺部品、電子機器などへの応用を考慮した場合、充分なシールド機能を有していると言える。
【0021】
一実施形態において、円板熱流計法(ASTM E1530)によって測定される前記樹脂組成物の熱伝導率は、2W/m・K以上である。より好ましくは、樹脂組成物の熱伝導率は、5W/m・K以上である。樹脂組成物の熱伝導率の上限は特に制限されないが、例えば、20W/m・K以下とすることができる。
【0022】
一実施形態において、レーザーフラッシュ法によって測定される前記導電性フィラーの熱伝導率は、10W/m・K以上である。より好ましくは、導電性フィラーの熱伝導率は100W/m・K以上である。前記導電性フィラーの熱伝導率の上限は特に制限されないが、例えば、10,000W/m・K以下とすることができる。
【0023】
前記の構成を有する樹脂組成物は、車載用パワーモジュール、モータ周辺部品、電子機器などへの応用を考慮した場合、充分な熱伝導機能を有していると言える。
【0024】
一実施形態において、前記導電性フィラーは、金属系フィラー、金属酸化物系フィラーおよび炭素系フィラーからなる群から選択される1種類以上である。好ましくは、前記導電性フィラーは、金属系フィラーおよび炭素系フィラーからなる群から選択される1種類以上である。
【0025】
これらの導電性フィラーは、樹脂組成物の軽量性を損なわせることが少ない点において好ましい。また、導電性フィラーを金属系フィラーおよび炭素系フィラーからなる群から選択する態様は、シールド機能および熱伝導機能を両立させるという観点から好ましい。
【0026】
一実施形態において、前記熱可塑性樹脂を100重量部とすると、前記炭素繊維の含有量は5重量部~70重量部である。より好ましくは、炭素繊維の含有量は、10重量部~45重量部である。
【0027】
炭素繊維の含有量を前記の範囲とすることにより、導電性フィラーのネットワークが形成されやすくなり、充分なシールド機能および熱伝導機能を得ることができる。逆に、炭素繊維の含有量が5重量部未満であると、導電性フィラーのネットワークの形成が不良となる傾向にある。また、炭素繊維の含有量が70重量部超であると、導電性フィラーが炭素繊維表面に散在してしまい、導電性フィラーのネットワークが切断される傾向にある。
【0028】
導電性フィラーのネットワークとは別の観点に関して、炭素繊維の含有量が5重量部未満であると、樹脂組成物の強度が不足する傾向にある。同様に、炭素繊維の含有量が70重量部超であると、樹脂組成物の製造時に炭素繊維を等方的に分散させにくい傾向にあり、さらに溶融粘度が上昇して良好な成形品が得にくい傾向にある。
【0029】
一実施形態において、前記熱可塑性樹脂を100重量部とすると、前記導電性フィラーの含有量は3重量部~80重量部である。より好ましくは、導電性フィラーの含有量は、5重量部~30重量部である。
【0030】
導電性フィラーの含有量を前記の範囲とすることにより、導電性フィラーのネットワークが形成されやすくなり、充分なシールド機能および熱伝導機能を得ることができる。逆に、導電性フィラーの含有量が3重量部未満であると、導電性フィラーのネットワークが形成されにくくなり、シールド機能および熱伝導機能に劣る傾向にある。また、導電性フィラーの含有量が80重量部超であると、樹脂組成物の製造時に導電性フィラーが上手く分散せず、樹脂組成物が脆くなる傾向にある。
【0031】
ところで、導電性フィラーの添加量が増えると、樹脂組成物の比重が増加するので、当該樹脂組成物を用いた成形品が重くなる。このような観点から、導電性フィラーの種類に応じて、当該導電性フィラーの含有量を適宜調節することが好ましい。導電性フィラーの含有量の上限は、例えば、40重量部、50重量部、60重量部、70重量部であってもよい。
【0032】
一実施形態において、前記樹脂組成物の密度は、2.68g/cm3未満である。より好ましくは、樹脂組成物の密度は1.98g/cm3未満である。樹脂組成物の密度の下限は特に制限されないが、例えば、0.90g/cm3以上とすることができる。
【0033】
前記の構成を有する樹脂組成物は、金属材と比較して軽量である。そのため、金属の代替となる材料として好適である。
【0034】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物を含んでいる樹脂成形部品もまた、本発明の範囲に包含される。このような樹脂成形品は、例えば、車載用パワーモジュール、モータ周辺部品、電子機器(センサ、スイッチ、DCコンバータなど)などを構成する部品として使用される。
【発明の効果】
【0035】
本発明の一態様によれば、充分なシールド機能および熱伝導機能が付与された樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】(a)は、本発明の一態様に係る樹脂組成物の構造を説明する模式図である。(b)は、(a)に示されている領域Aを拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を説明する。しかし、本発明はこれらの実施の形態に限定されない。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0038】
§1適用例
図1に基づいて、本発明の一態様に係る樹脂組成物の概要を説明する。
図1の(a)は、一態様に係る樹脂組成物の構造を説明する模式図である。樹脂組成物10においては、熱可塑性樹脂3がマトリクスとなり、その中に炭素繊維1および導電性フィラー2が含まれている。
【0039】
ここで、導電性フィラー2は、炭素繊維1の近傍に凝集している。このことは、
図1の(b)により、さらに明確に示されている。
図1の(b)は、
図1の(a)における領域Aの拡大図であり、炭素繊維1の近傍に導電性フィラー2が局在している様子が示されている。つまり、
図1の(a)において、炭素繊維1を表す長方形の輪郭となっている黒い領域には、導電性フィラー2が凝集している。
【0040】
炭素繊維1は、熱可塑性樹脂3の中で、解繊された状態で等方的に分布している。導電性フィラー2は、前述した通り、炭素繊維1の近傍に凝集して分布している。その結果、樹脂組成物10における導電性フィラー2は、網目状に分布することになる。つまり、導電性フィラー2同士が互いに接触しているネットワークが形成される。この導電性フィラー2のネットワークを通じて、電流を流したり、熱を伝導させたりすることが可能となり、結果として樹脂組成物10はシールド機能および熱伝導機能を得る。
【0041】
樹脂組成物10は、導電性フィラー2を網目状に局在させることができるので、シールド機能および熱伝導機能を付与するために導電性フィラー2を増加させる必要がない。したがって樹脂組成物10は、軽量性を保ったまま、シールド機能および熱伝導機能を獲得することができる。
【0042】
ここで、樹脂組成物10中における炭素繊維1および導電性フィラー2の分布が本発明の範疇に含まれるか否かは、例えば公知の画像処理技術により明確に判別できる。さらに、樹脂組成物10の物性によって、前記の判別をより確実にすることができる。例えば、樹脂組成物10が下記(i)~(iii)のうち1つ以上の物性を有していることは、「樹脂組成物10中における炭素繊維1および導電性フィラー2の分布が本発明の範疇に含まれる」ことの判断材料となりうる。
【0043】
(i)JIS K 7194に基づいて測定される体積抵抗値が、102Ω・cm以下である。
【0044】
(ii)KEC法によって測定されるシールド効果が、1MHz~10MHzにおいて30dB以上である。
【0045】
(iii)円板熱流計法によって測定される熱伝導率が、2W/m・K以上である。
【0046】
ところで、炭素繊維に沿って導電性物質を分布させる方法としては、導電性物質で被覆された炭素繊維を材料に用いることも考えられる。しかし、この方法では本発明の効果を得られないと考えられる。これは、材料段階の炭素繊維は、通常、未解繊の束状として存在しているからである。未解繊の炭素繊維の表面を被覆したとしても、この炭素繊維を解繊すると、被覆されていない表面が多く残ってしまう。
【0047】
これに対して、本発明の一態様に係る樹脂組成物においては、炭素繊維と導電性フィラーとが親和性に基づく相互作用によって集合する。その結果、炭素繊維の近傍に導電性フィラーが局在的に分布する構造を取ることができる。
【0048】
§2構成例
[熱可塑性樹脂]
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物に含まれている熱可塑性樹脂の例としては、オレフィン系樹脂、アミド系樹脂、エステル系樹脂、エーテル系樹脂、ニトリル系樹脂、メタクリレート系樹脂、ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種類のみが含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよいし、これら樹脂の共重合体であってもよい。
【0049】
オレフィン系樹脂の例としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン(アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンなど)が挙げられる。
【0050】
アミド系樹脂の例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロンMXD6、ナイロン6T、およびこれらの共重合体が挙げられる。
【0051】
エステル系樹脂の例としては、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリアリレート、ポリブチレンナフタレート、液晶ポリエステル、およびそれらの共重合体が挙げられる。
【0052】
エーテル系樹脂の例としては、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルエーテルケトンが挙げられる。
【0053】
ニトリル系樹脂の例としては、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリルが挙げられる。
【0054】
メタクリレート系樹脂の例としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチルが挙げられる。
【0055】
ビニル系樹脂の例としては、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニルが挙げられる。
【0056】
セルロース系樹脂の例としては、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロースが挙げられる。
【0057】
フッ素系樹脂の例としては、ポリビニリデンフロライド、ポリフッ化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレンが挙げられる。
【0058】
イミド系樹脂の例としては、芳香族ポリイミド、ポリアセタールが挙げられる。
【0059】
熱可塑性樹脂を自動車部品に用いる場合は、耐薬品性および耐油性に優れる、結晶性の熱可塑性樹脂が好ましい。本発明の一実施形態においては、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶性樹脂が好適に用いることができる。
【0060】
[炭素繊維]
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物に含まれている炭素繊維は、ピッチ系、レーヨン系、PAN系など、公知のものを用いることができる。炭素繊維は、樹脂組成物の剛性を高める機能と、導電性フィラーのネットワーク形成の足場となる機能とを有している。
【0061】
炭素繊維は、バージン材を使用してもよいし、再生材を使用してもよい。炭素繊維再生材は、例えば、熱分解法、化学溶解法、超臨界流体法などによって、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からマトリックス樹脂を分離することによって得られる。
【0062】
炭素繊維の長さは、特に制限されない。熱可塑性樹脂中に炭素繊維を分散させるためには、長さが30mm以下であることが好ましい。また、導電性フィラーのネットワーク形成の足場となる観点からは、長さが0.1mm以上であることが好ましい。なお、炭素繊維の長さには分布があってもよく、この場合、前述の好ましい範囲に含まれない長さの炭素繊維が含まれていてもよい。一例において、前述の好ましい範囲に含まれる長さの炭素繊維の割合は、本数を基準として、炭素繊維全体の50%以上である。
【0063】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物において、熱可塑性樹脂を100重量部とすると、炭素繊維の含有量は5重量部~70重量部が好ましく、10重量部~45重量部がより好ましい。この数値範囲が好適な理由は、〔課題を解決する手段〕に記載の通りである。
【0064】
炭素繊維は、表面に凹凸形状を有するものが好ましい。このような炭素繊維は、比表面積が大きくなるため、導電性フィラーとの親和性による相互作用がより大きくなる。その結果、炭素繊維の近傍に導電性フィラーが凝集しやすくなる。
【0065】
炭素繊維は、サイジング剤(無水マレイン酸変性ポリプロピレンなど)による表面処理を施されたものであってもよい。このような表面処理を施すことにより、炭素繊維と導電性フィラーとの親和性による相互作用を向上させたり、炭素繊維と熱可塑性樹脂との密着性を向上させたりすることができる。
【0066】
[導電性フィラー]
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物に含まれている導電性フィラーの例としては、金属系フィラー、金属酸化物系フィラー、炭素系フィラー、金属被覆系フィラー、金属酸化物被覆系フィラーが挙げられる。これらの導電性フィラーは、1種類のみが含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。
【0067】
金属系フィラーの例としては、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、ステンレス、黄銅などの金属または合金が挙げられる。金属系フィラーの形状には、粉末状、フレーク状、繊維状などがある。粉末状およびフレーク状の金属系フィラーの例としては、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛が挙げられる。繊維状の金属系フィラーの例としては、銅、ステンレス、黄銅が挙げられる。
【0068】
金属酸化物系フィラーの例としては、アルミニウムをドープした酸化亜鉛、スズをドープした酸化インジウム、アンチモンをドープした酸化スズが挙げられる。
【0069】
炭素系フィラーの例としては、導電性カーボンブラック、金属型カーボンナノチューブ(単層および多層のいずれも)、グラフェンが挙げられる。
【0070】
金属被覆系フィラーの例としては、表面を金属で被覆された金属、無機物または有機物粒子が挙げられる。粒子表面を被覆する金属は、金、銀、銅、ニッケル、スズなどでありうる。
【0071】
金属酸化物系フィラーの例としては、表面を金属酸化物で被覆された金属、無機物または有機物粒子が挙げられる。粒子表面を被覆する金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズなどでありうる。
【0072】
前述した導電性フィラーの中でも、金属系フィラー、金属酸化物系フィラーおよび炭素系フィラーが好ましい。これらが好ましい理由は、〔課題を解決する手段〕に記載の通りである。
【0073】
レーザーフラッシュ法によって測定した導電性フィラーの熱伝導率は、10W/m・K以上が好ましく、100W/m・K以上がより好ましい。この数値範囲が好ましい理由は、〔課題を解決する手段〕に記載の通りである。
【0074】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物において、熱可塑性樹脂を100重量部とすると、導電性フィラーの含有量は3重量部~80重量部が好ましく、5重量部~30重量部がより好ましい。この数値範囲が好適な理由は、〔課題を解決する手段〕に記載の通りである。
【0075】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物においては、炭素繊維の近傍に導電性フィラーを局在させるため、パーコレーション閾値(フィラー粒子同士が繋がって、導電性、熱伝導性を発現するフィラー濃度)が低くなる傾向にある。つまり、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、一般的なフィラー複合樹脂よりも、フィラーの含有量を少なく抑えることができる。
【0076】
本発明の効果を損なわない範囲で、導電性フィラーに表面処理を施してもよい。あるいは、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂組成物に分散剤を含有させてもよい。このような構成を採用することにより、炭素繊維と導電性フィラーとの親和性による相互作用を向上させたり、導電性フィラーの分散性を向上させたりすることができる。
【0077】
導電性フィラーに施す表面処理の例としては、シランカップリング処理、めっき処理(銅めっき、金めっきなど)が挙げられる。
【0078】
樹脂組成物に含有させる分散剤の例としては、スチレン・無水マレイン酸共重合物、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロース、オレフィン・無水マレイン酸共重合物、ポリスチレンスルホン酸塩、アクリルアミド・アクリル酸共重合物、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレンポリアミン、ポリアクリルアミド、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンブロック体、ポリマーでんぷん、ポリエチレンイミン、アミノアルキル(メタ)アクリレート共重合物、ポリビニルイミダゾリン、サトキンサンが挙げられる。
【0079】
[その他の添加剤]
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂、炭素繊維、導電性フィラーの他の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤の例としては、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、結晶核材、可塑剤、染料、顔料が挙げられる。
【0080】
[樹脂組成物]
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の、JIS K 7194に基づいて測定される体積抵抗値は、102Ω・cm以下が好ましく、100Ω・cm以下がより好ましく、10-1Ω・cm以下がさらに好ましい。
【0081】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の、KEC法によって測定されるシールド効果は、1MHz~10MHzにおいて30dB以上であることが好ましく、1MHz~1GHzにおいて30dB以上であることがより好ましい。
【0082】
ちなみに、体積抵抗値とシールド効果との間には相関関係がある。体積抵抗値が102Ω・cm以下ならば、KEC法で測定したシールド効果が1MHz~10MHzにおいて30dB以上(ただし、100MHz~1GHzでは30dB未満)となる傾向にある。体積抵抗値が100Ω・cm以下ならば、KEC法で測定したシールド効果が1MHz~1GHzにおいて30dB以上となる傾向にある。
【0083】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の、円板熱流計法(ASTM E1530)によって測定される熱伝導率は、2W/m・K以上が好ましく、5W/m・K以上がより好ましい。
【0084】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の密度は、2.68g/cm3未満が好ましく、1.90g/cm3未満がより好ましい。
【0085】
以上の数値範囲が好ましい理由は、〔課題を解決する手段〕に記載の通りである。
【0086】
また、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の、ISO527-1およびISO527-2に基づいて測定される引張強度は、150MPa以上が好ましく、200MPa以上がより好ましい。引張強度の上限は特に制限されないが、例えば、500MPa以下とすることができる。引張強度が150MPa以上である樹脂組成物は、金属部品(アルミダイカスト(引張強度:310MPa)製の部品など)を樹脂部品で代替するに際に問題のない強度を有していると言える。つまり、樹脂組成物が150MPa以上の引張強度を有しているならば、強度の不足に起因する不具合を抑制することができる。
【0087】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂は、公知の加工技術によって、樹脂成形部品に加工することができる。このような加工技術の例としては、射出成形、プレス成形、ブロー成形、押出成形が挙げられる。
【0088】
§3製造例
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、炭素繊維が解繊された状態で等方的に分散されるような製造条件とすれば、製造することができる。炭素繊維が解繊された状態で等方的に分散していると、炭素繊維の比表面積が大きくなる。すると、溶融状態の熱可塑性樹脂中において、炭素繊維と導電性フィラーとの親和力に基づく相互作用が発生しやすくなり、結果として炭素繊維の近傍に導電性フィラーが凝集する。このようにして、熱可塑性樹脂中において導電性フィラーが網目状に分布している樹脂組成物が製造される。
【0089】
炭素繊維が解繊された状態で等方的に分散される製造条件の例としては、剪断条件下での混練が挙げられる。剪断条件下での混練には、内部帰還型スクリューを有する高剪断加工機が好適に使用できるが、これに限定されるわけではない。例えば、通常の二軸押出機を用いても、炭素繊維が解繊された状態で等方的に分散される製造条件とすることができる。
【0090】
内部帰還形スクリューの回転によって、溶融樹脂組成物は、以下の1、2を繰り返しながら流動する。
1.シリンダーの前部に押し出される。
2.スクリューの軸方向に設けられた通路を通ってシリンダーの後部に戻る。
【0091】
溶融樹脂組成物がこのように流動することによって、溶融樹脂組成物の内部に強い剪断流動場および伸長場が発生する。この剪断流動場および伸長場の働きによって、炭素繊維の解繊が促進され、さらに解繊された炭素繊維が等方的に分散するようになる。
【0092】
内部帰還型スクリューを有する高剪断加工機を使用する製造方法の場合、製造条件(スクリューの回転数、滞留時間など)は、(i)使用する熱可塑性樹脂の種類、(ii)炭素繊維の配合量、(iii)導電性フィラーの種類および配合量に応じて、適宜設定することができる。
【0093】
例えば、後述する実施例1に記載の樹脂組成物(ポリフェニレンサルファイド樹脂、炭素繊維、およびアルミニウムフィラーからなる)では、スクリューの回転数を1,200rpm、滞留時間を60秒間とすることができる。
【0094】
スクリューの回転数が大きすぎたり(例えば、1,500rpm超)、滞留時間が長すぎたり(例えば、180秒間超)すると、熱可塑性樹脂および炭素繊維の剪断劣化が生じやすくなる。その結果、樹脂組成物の機械的物性が低下する傾向にある。逆に、スクリューの回転数が少なすぎたり(例えば、800rpm未満)、滞留時間が短すぎたり(例えば、30秒間未満)すると、炭素繊維の解繊および分散、ならびに導電性フィラーの分散が不充分となる。
【0095】
二軸押出機を使用する製造方法の場合は、スクリューと適切なニーディングディスクとを組み合わせることにより、混練度を調節することができる。ニーディングディスクのディスク面相互の間で働く剪断作用と、不連続なディスクによる切り返し効果に起因する分配混合作用によって、解繊された炭素繊維が等方的に分散するようになる。
【0096】
前記各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できる。本発明は前述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。したがって、異なる実施形態にそれぞれ開示されている技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0097】
本明細書中に記載された学術文献および特許文献のすべてが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0098】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0099】
[物性の測定方法]
(1)体積抵抗値
JIS K 7194(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)に準拠して計測を行った。
【0100】
(2)シールド機能
KEC法により、1MHz~1GHzのシールド性能を評価した。
【0101】
(3)熱伝導率
円板熱流計法(ASTM E1530)に準拠して計測を行った。測定機器には、DTC-300(TA Instruments)を使用した。
【0102】
(4)密度
JIS K 7161-2に規定される試験片の寸法体積および実測重量に基づいて、密度を算出した。
【0103】
〔実施例1~5、比較例1、2〕
導電性フィラーとして、アルミニウム(金属系フィラー、体積抵抗率:10-4~10-3Ω・cm、熱伝導率:約240W/m・K)を用いた。フィラーの含有量を変化させながら、樹脂組成物の物性の変化を検討した。
【0104】
[実施例1]
熱可塑性樹脂としてポリフェニレンサルファイド(PPS樹脂)、炭素繊維としてPAN炭素繊維、導電性フィラーとしてアルミニウム(粒状)を用いた。
【0105】
1.予備混練工程
PPS樹脂100重量部、PAN炭素繊維25重量部、アルミニウム10重量部を予備混練して、マスターバッチを作製した。予備混練には一般的な二軸押出機を使用し、PPS樹脂をホッパーから、PAN炭素繊維およびアルミニウムをサイドフィーダーから供給した。混練温度は300℃、スクリューの回転数は200rpmであった。
【0106】
2.本混練工程
予備混練工程で得られたペレット状のマスターバッチを、内部帰還形スクリューを有する高剪断加工機に投入し、混練した。混練温度は320℃、スクリューの回転数は1,200rpm、滞留時間は60秒間であった。
【0107】
3.射出成形工程
本混練工程で得られた樹脂組成物のペレットを射出成形して、JIS K 7194に準拠する体積抵抗率計測用のサンプル、およびKEC法に準拠するシールド評価用のサンプルを作製した。作製された樹脂組成物の物性を表1に示す。
【0108】
[実施例2~5、比較例1、2]
アルミニウムの配合量を変化させながら、実施例1と同様にしてJIS K 7194に準拠する体積抵抗率計測用のサンプル、およびKEC法に準拠するシールド評価用のサンプルを作製した。なお、製造条件は、材料および配合量に応じて適宜調節した。作製された樹脂組成物の物性を表1に示す。
【0109】
【0110】
(結果)
実施例1~5で作製された樹脂組成物はいずれも、密度、体積抵抗率、シールド効果および熱伝導率が好ましい範囲に収まった。特に、実施例1、2、4で作製された樹脂組成物は、これらの物性のバランスが良く、特に好ましい機能を有していると言える。一方、比較例1、2で作製された樹脂組成物は、体積抵抗率、シールド効果および熱伝導率の値が劣っていた。比較例1の場合は、導電性フィラーの量が少なすぎて、導電性フィラーのネットワークの形成が阻害されたと考えられる。比較例2の場合は、導電性フィラーの量が多過ぎて混練が困難となり、結果として樹脂組成物の物性も悪化したと考えられる。
【0111】
〔実施例6~10、比較例3、4〕
導電性フィラーとして、導電性カーボンブラック(炭素系フィラー、体積抵抗率:10-1~100Ω・cm、熱伝導率:約150W/m・K)を用いた。フィラーの含有量を変化させながら、樹脂組成物の物性の変化を検討した。樹脂組成物の製造方法は実施例1に準じ、材料および配合量に応じて適宜調節した。作製された樹脂組成物の物性を表2に示す。
【0112】
【0113】
(結果)
実施例6~10で作製された樹脂組成物はいずれも、密度、体積抵抗率、シールド効果および熱伝導率が好ましい範囲に収まった。特に、実施例6、7、9で作製された樹脂組成物は、これらの物性のバランスが良く、特に好ましい機能を有していると言える。一方、比較例3、4で作製された樹脂組成物は、体積抵抗率、シールド効果および熱伝導率の値が劣っていた。比較例3の場合は、導電性フィラーの量が少なすぎて、導電性フィラーのネットワークの形成が阻害されたと考えられる。比較例4の場合は、導電性フィラーの量が多過ぎて混練が困難となり、結果として樹脂組成物の物性も悪化したと考えられる。
【0114】
〔実施例11~15、比較例5、6〕
導電性フィラーとして、カーボンナノチューブ(炭素系フィラー、体積抵抗率:10-4~10-2Ω・cm、熱伝導率:>2,000W/m・K)を用いた。フィラーの含有量を変化させながら、樹脂組成物の物性の変化を検討した。樹脂組成物の製造方法は実施例1に準じ、材料および配合量に応じて適宜調節した。作製された樹脂組成物の物性を表3に示す。
【0115】
【0116】
(結果)
実施例11~15で作製された樹脂組成物はいずれも、密度、体積抵抗率、シールド効果および熱伝導率が好ましい範囲に収まった。他のフィラーと比較しても、体積抵抗率および熱伝導率に優れ、また密度も小さい傾向にある。したがって、カーボンナノチューブは、本発明において、特に優れた導電性フィラーと言える。一方、比較例5、6で作製された樹脂組成物は、体積抵抗率、シールド効果および熱伝導率の値が劣っていた。比較例5の場合は、導電性フィラーの量が少なすぎて、導電性フィラーのネットワークの形成が阻害されたと考えられる。比較例6の場合は、導電性フィラーの量が多過ぎて混練が困難となり、結果として樹脂組成物の物性も悪化したと考えられる。
【0117】
〔比較例7、8〕
実施例1の製造方法において、炭素繊維を含めずに樹脂組成物を作製し、比較例7とした。また、実施例1の製造方法において、導電性フィラーを含めずに樹脂組成物を作製し、比較例8とした。作製された樹脂組成物の物性を表4に示す。
【0118】
【0119】
(結果)
比較例7で作製された樹脂組成物は、足場となる炭素繊維が含まれていないため、導電性フィラーのネットワークが形成されなかった。それゆえ、体積抵抗率、シールド効果および熱伝導機能が劣っていた。比較例8で作製された樹脂組成物は、熱伝導フィラーが含まれていないため、通常のCFRTPと同等のシールド効果および熱伝導率しか示さなかった。
【0120】
〔実施例16~19、比較例9、10〕
導電性フィラーとして、アルミニウム(金属系フィラー、体積抵抗率:10-4~10-3Ω・cm、熱伝導率:約240W/m・K)を用いた。炭素繊維の含有量を変化させながら、樹脂組成物の物性の変化を検討した。樹脂組成物の製造方法は実施例1に準じ、材料および配合量に応じて適宜調節した。作製された樹脂組成物の物性を表5に示す。
【0121】
【0122】
(結果)
実施例16~19で作製された樹脂組成物はいずれも、密度、体積抵抗率、シールド効果および熱伝導率が好ましい範囲に収まった。特に、実施例16、19で作製された樹脂組成物は、これらの物性のバランスが良く、特に好ましい機能を有していると言える。一方、比較例9、10で作製された樹脂組成物は、体積抵抗率、シールド効果および熱伝導率の値が劣っていた。比較例9の場合は、炭素繊維の量が少なすぎて、導電性フィラーのネットワークの形成が阻害されたと考えられる。比較例10の場合は、炭素繊維の量が多過ぎて混練が困難となり、結果として樹脂組成物の物性も悪化したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、自動車部品に利用することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 炭素繊維
2 導電性フィラー
3 熱可塑性樹脂
10 樹脂組成物