(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】タイヤの試験方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20220906BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20220906BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C5/00 F
B60C19/00 H
(21)【出願番号】P 2018237996
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 悠
(72)【発明者】
【氏名】三角 英樹
(72)【発明者】
【氏名】破田野 晴司
(72)【発明者】
【氏名】稲石 伸二
(72)【発明者】
【氏名】黒田 渓太
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-112395(JP,A)
【文献】特開2001-047809(JP,A)
【文献】特開2005-271695(JP,A)
【文献】特開平05-294102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ本体と、前記タイヤ本体の内面に装着された制音具とを備えるタイヤにおいて、前記タイヤ本体の内面に対する前記制音具の接着性を評価するためのタイヤの試験方法であって、
界面活性剤を含む試験液を、前記タイヤの内腔に注入する準備工程と、
前記界面活性剤を前記制音具に含ませたタイヤに所定の荷重をかけて、当該タイヤを所定の速度で走行させる走行工程と
を含む、タイヤの試験方法。
【請求項2】
前記準備工程において、前記試験液を前記制音具に塗布する、又は、当該試験液を当該制音具に吸収させることにより、前記界面活性剤が当該制音具に含ませられる、請求項1に記載のタイヤの試験方法。
【請求項3】
前記準備工程において、前記制音具に含ませた界面活性剤の量が最大で100gである、請求項1又は2に記載のタイヤの試験方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が、前記タイヤが組み込まれるリムに対する当該タイヤの潤滑性を高めるために用いられる界面活性剤である、請求項1から3のいずれかに記載のタイヤの試験方法。
【請求項5】
前記界面活性剤が脂肪酸の金属塩である、請求項4に記載のタイヤの試験方法。
【請求項6】
前記走行工程において、前記タイヤにかけられる荷重が正規荷重の70%以上150%以下である、請求項1から5のいずれかに記載のタイヤの試験方法。
【請求項7】
前記走行工程において、前記タイヤの内圧が正規内圧の70%以上130%以下である、請求項1から6のいずれかに記載のタイヤの試験方法。
【請求項8】
前記走行工程において、前記タイヤの速度が80km/h以上120km/h以下である、請求項1から7のいずれかに記載のタイヤの試験方法。
【請求項9】
前記走行工程において、前記タイヤが走行する路面に突起が設けられる、請求項1から8のいずれかに記載のタイヤの試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの試験方法に関する。詳細には、本発明は、タイヤ本体の内面に制音具が装着されたタイヤにおいて、タイヤ本体の内面に対する制音具の接着性を評価するためのタイヤの試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静粛性に優れるタイヤとして、スポンジ状の制音具が内面に設けられたタイヤが知られている(例えば、特許文献1)。このタイヤは、タイヤ本体の内面に制音具を装着することにより構成される。
【0003】
制音具は通常、トレッドの径方向内側において、接着層を介してタイヤ本体の内面に貼り付けられる。この接着層としては、例えば、両面粘着テープ、接着剤及び粘稠性シール剤が挙げられる。
【0004】
このタイヤにおいては、制音具の剥がれや損傷等の発生がないことを確認するために、様々な評価が行われる。
【0005】
前述の特許文献1では、制音具に50ccの水を含ませた状態で、庫内温度が-30℃に設定された冷蔵庫に試作タイヤが12時間静置される。静置後、ドラム走行試験機において試作タイヤの走行テストが行われ、制音具の亀裂発生状況が確認される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タイヤはリムに組み込まれる。リムに対するタイヤの潤滑性を高めて、タイヤを容易にリムに組み込むために、タイヤのビードの部分には、潤滑剤として界面活性剤が塗布される。界面活性剤の一部がタイヤの内部に付着することがあり、この場合、界面活性剤が制音具に接触することが予想される。
【0008】
発明者らは、制音具が内面に設けられたタイヤの評価を行う中で、界面活性剤によっては、前述の接着層や、制音具が変質する恐れがあることを見出すに至っている。このような事情から、タイヤ本体の内面に対する制音具の接着性への、界面活性剤の影響を評価することができる、タイヤの試験方法の確立が求められている。
【0009】
本発明は、かかる実状に鑑みてなされたものであり、タイヤ本体の内面に対する制音具の接着性への界面活性剤の影響を評価することができる、タイヤの試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る好ましいタイヤの試験方法は、タイヤ本体と、前記タイヤ本体の内面に装着された制音具とを備えるタイヤにおいて、前記タイヤ本体の内面に対する前記制音具の接着性を評価するためのタイヤの試験方法である。この試験方法は、
(1)界面活性剤を含む試験液を、前記タイヤの内腔に注入する準備工程と、
(2)前記界面活性剤を前記制音具に含ませたタイヤに所定の荷重をかけて、当該タイヤを所定の速度で走行させる走行工程と
を含む。
【0011】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記準備工程において、前記試験液を前記制音具に塗布する、又は、当該試験液を当該制音具に吸収させることにより、前記界面活性剤が当該制音具に含ませられる。
【0012】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記準備工程において、前記制音具に含ませた界面活性剤の量は最大で100gである。
【0013】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記界面活性剤は、前記タイヤが組み込まれるリムに対する当該タイヤの潤滑性を高めるために用いられる界面活性剤である。より好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記界面活性剤は脂肪酸の金属塩である。
【0014】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記走行工程において、前記タイヤにかけられる荷重は正規荷重の70%以上150%以下である。
【0015】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記走行工程において、前記タイヤの内圧は正規内圧の70%以上130%以下である。
【0016】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記走行工程において、前記タイヤの速度は80km/h以上120km/h以下である。
【0017】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記走行工程において、前記タイヤが走行する路面に突起が設けられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るタイヤの試験方法では、界面活性剤を制音具に含ませたタイヤに、走行時の熱疲労及び機械疲労が再現される。この試験方法では、制音具や、この制音具とタイヤ本体の内面との境界部分に、界面活性剤による化学的な作用だけでなく、熱的な作用や機械的な作用が複合的に及ぼされる。この複合的な作用は、制音具の剥離及び劣化を促す。この試験方法は、タイヤ本体の内面に対する制音具の接着性への、界面活性剤の影響を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る試験方法に用いられる空気入りタイヤの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のタイヤの赤道面に沿った、このタイヤの断面図である。
【
図3】
図3は、タイヤの試験方法に用いられる試験装置の一例を概略的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示された試験装置の変形例を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0021】
本発明においては、タイヤを正規リムに組み込み、タイヤの内圧が正規内圧に調整され、このタイヤに荷重がかけられていない状態は、正規状態と称される。本発明では、特に言及がない限り、タイヤ及びタイヤの各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
【0022】
本発明において正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0023】
本発明において正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0024】
本発明において正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0025】
[タイヤ]
図1には、本発明の実施形態に係る試験方法で用いられる空気入りタイヤ2(以下、単に「タイヤ2」と称することがある。)の一例が示される。このタイヤ2は、乗用車に装着される。
【0026】
図1は、タイヤ2の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ2の断面の一部を示す。
図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。この
図1において、一点鎖線CLはこのタイヤ2の赤道面である。
【0027】
図1において、タイヤ2はリムRに組み込まれている。タイヤ2の内部には空気が充填され、タイヤ2の内圧が正規内圧に調整されている。この
図1において、タイヤ2には荷重はかけられていない。
【0028】
このタイヤ2は、タイヤ本体4と、このタイヤ本体4の内面に装着された制音具6とを備える。本発明においては、未架橋状態のタイヤ(図示されず)、すなわち、生タイヤをモールド(図示されず)内で加圧及び加熱することにより得られるタイヤ2が、タイヤ本体4として表わされる。
【0029】
このタイヤ2のタイヤ本体4は、トレッド8、一対のサイドウォール10、一対のビード12、カーカス14、インナーライナー16及びベルト18を備える。
【0030】
トレッド8は、耐摩耗性及びグリップ性能が考慮された架橋ゴムからなる。トレッド8の外周面はトレッド面20である。タイヤ2は、トレッド面20において路面と接触する。このトレッド面20には、溝22が刻まれている。
【0031】
それぞれのサイドウォール10は、トレッド8の端からカーカス14に沿って径方向内向きに延びる。サイドウォール10は、耐カット性が考慮された架橋ゴムからなる。
【0032】
それぞれのビード12は、サイドウォール10よりも径方向内側に位置する。ビード12は、コア24と、エイペックス26とを備える。コア24は、スチール製のワイヤーを含む。
図1に示されたタイヤ2の断面において、エイペックス26は径方向外向きに先細りである。エイペックス26は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。このタイヤ2では、ビード12の部分がリムRに嵌合される。
【0033】
カーカス14は、トレッド8及び一対のサイドウォール10の内側に位置する。カーカス14は、一方のビード12から他方のビード12に向かって延びる。カーカス14は、少なくとも1枚のカーカスプライ28を含む。このタイヤ2のカーカス14は、1枚のカーカスプライ28で構成される。このタイヤ2のカーカス14はラジアル構造を有する。
【0034】
図示されないが、カーカスプライ28は並列された多数のカーカスコードを含む。このタイヤ2では、有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられる。この有機繊維としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維及びアラミド繊維が挙げられる。
【0035】
インナーライナー16は、カーカス14の内側に位置する。インナーライナー16は、タイヤ本体4の内面を構成する。このインナーライナー16は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。
【0036】
ベルト18は、トレッド8の径方向内側において、カーカス14と積層される。ベルト18は、内側層30及び外側層32を備える。外側層32の幅は内側層30の幅よりも狭い。図示されないが、内側層30及び外側層32のそれぞれは並列された多数のベルトコードを含む。それぞれのベルトコードは、赤道面に対して傾斜する。このタイヤ2では、ベルトコードの材質はスチールである。
【0037】
このタイヤ2の制音具6は、表面又は内部に多孔部を有するスポンジ材からなる。スポンジ材は、例えば、連続気泡又は独立気泡を有するゴムや合成樹脂からなる。このタイヤ2の制音具6には、ポリウレタンからなる連続気泡のスポンジ材が用いられる。この制音具6は、多孔部がタイヤ2内部における空気の振動エネルギーを吸収する。これにより、共鳴振動が低減され、ロードノイズが低減される。
【0038】
このタイヤ2では、制音具6はトレッド8の径方向内側に位置する。この制音具6は、赤道面を跨ぐように配置される。
【0039】
図1において、両矢印Waは制音具6の軸方向幅である。両矢印taは、制音具6の厚さである。
【0040】
図1に示されるように、この制音具6の断面形状は、この制音具6の幅Waがその厚さtaよりも大きい横長の矩形状をなす。このタイヤ2では、制音具6の厚さtaは、好ましくは、その幅Waの0.1~0.5倍である。
【0041】
制音具6の断面形状は、矩形状に限定されない。この制音具6の断面形状には、例えば、台形状、三角形状、弾頭形状、半円形状など種々のものが採用される。この制音具6は、好ましくは、その断面形状が赤道面に対して対称な形状を有するように構成される。
【0042】
このタイヤ2では、特に限定されないが、ロードノイズの効果的な低減の観点から、制音具6の幅Waは、好ましくは、トレッド8の接地幅TWの30%~70%である。制音具6の厚さtaは、好ましくは、5~50mmである。
【0043】
本発明において、トレッド8の接地幅TWは、正規状態のタイヤ2に、正規荷重をかけて、キャンバー角が0度の状態で、平らな路面に接地させたときに得られる接地面に基づいて特定される。このトレッド8の接地幅TWは、この接地面の一方の軸方向外側端Teからその他方の軸方向外側端Teまでの軸方向距離により表わされる。
【0044】
図2は、このタイヤ2の赤道面に沿った、このタイヤ2の断面を示す。この紙面に対して垂直な方向は、このタイヤ2の軸方向である。
【0045】
このタイヤ2では、制音具6は周方向に延びる。
図2に示されるように、このタイヤ2では、周方向において、制音具6の一方の端面34はその他方の端面34から離して配置される。このタイヤ2では、この制音具6の一方の端面34と他方の端面34とが継ぎ合わされてもよい。
【0046】
このタイヤ2では、制音具6は、トレッド8の径方向内側において、接着層36を介してタイヤ本体4の内面に接着される。この接着層36としては、例えば、両面粘着テープ、接着剤及び粘稠性シール剤が挙げられる。
【0047】
図示されないが、両面粘着テープとしては、柔軟性を有する基材シートの両面に粘着層を設けたものや、基材シートを有しない粘着層のみで形成されたものが使用できる。
【0048】
基材シートとしては、例えば織布、不織布、綿布、ポリエステルなどのプラスチックフィルム又はアクリルフォームなどのプラスチックの発泡材シートが好適に用いられる。粘着層には、例えば、天然ゴムや合成ゴムに粘着付与剤、軟化剤、老化防止剤などの公知の添加剤を混合したゴム系粘着剤、ガラス転移温度の異なる複数のアクリル酸エステルと他種官能性単量体とを共重合したアクリル系粘着剤(高耐熱性、難燃性、低温接着タイプを含む)、シリコーンゴムと樹脂とからなるシリコーン系粘着剤又はポリエーテルやポリウレタン系の粘着剤等が好適に用いられる。
【0049】
図示されないが、粘稠性シール剤としては、粘稠性を有する種々のシール剤が使用でき、例えば、常温(20℃)において略液状を呈するものが好ましく採用される。特に、-20℃~60℃の温度範囲において、釘穴などに進入してこの釘穴をシールでき、タイヤ内圧の漏洩を防止しうるシール剤が好適に採用される。
【0050】
この粘稠性シール剤は、粘稠性シール剤100質量部に対して30質量部以上50質量部以下のポリブテンを含むのが好ましい。ポリブテンは、イソブテンとノルマルブテンのカチオン重合により得られる粘稠性の液状ポリマーであって、優れた粘着性を有するとともに、長期間の使用によっても粘着性や粘度が変化せず、固化乾燥することもない。このポリブテンは、加熱や加圧に対しても安定であり、タイヤの使用初期から終期にかけて粘稠性や粘着性を安定して維持しうるため、特に好ましく採用できる。
【0051】
この粘稠性シール剤では、粘着性やシール性能をより高めるために、前述のポリブテンに未加硫のブチルゴムが配合されてもよい。この場合、このブチルゴムとポリブテンとの配合比率は40:60~60:40の範囲が好ましい。さらにこの粘稠性シール剤には、粘性や加工性を調整するために、例えば、白色充填剤及び酸化亜鉛が添加されても良い。
【0052】
[試験装置]
図3には、本発明の実施形態に係る試験方法で用いられる試験装置38の一例が示される。この試験方法では、この
図3に示された試験装置38を用いて、タイヤ2の走行試験が行われる。この試験装置38は、駆動ドラム40と、支持装置42とを備える。この試験装置38では、駆動ドラム40及び支持装置42は架台44に設置される。
【0053】
駆動ドラム40は、回転可能に架台44に支持される。駆動ドラム40は、図示されない駆動手段により回転させられる。駆動手段としては、電動モーターが挙げられる。この試験装置38では、タイヤ2はこの駆動ドラム40の周面を走行する。この試験装置38において駆動ドラム40の周面は路面46である。なおこの駆動ドラム40の直径は、1.0m~2.0mの範囲で適宜設定される。
【0054】
支持装置42は、リムRと、回転軸48と、を備える。このリムRに、タイヤ2が嵌め合わされる。リムRは、回転軸48に支持される。回転軸48は、図示されない軸受により回転可能に支持装置42に支持される。
【0055】
この試験装置38では、リムRは試験用である。このリムRは正規リムに対応する。この試験装置38は、支持装置42に取り付けることができるのであれば、正規リム、並びに、JATMA規格における「許容リム」及びTRA規格又はETRTO規格における「Approved Rim」を、リムRとして用いることができる。
【0056】
図示されないが、支持装置42は、回転駆動機構及びブレーキ機構をさらに備える。この支持装置42では、回転軸48を回転自在にすること、駆動ドラム40に依らず回転軸48を回転駆動すること、及び、回転軸48を拘束することが可能である。この試験装置38では、リムRに装着されたタイヤ2を加速すること、減速すること、そして、停止することが可能である。
【0057】
この支持装置42には、流体圧シリンダーのような昇降装置(図示されず)が設けられる。この昇降装置によって、駆動ドラム40に対するタイヤ2の位置が調整される。この調整により、タイヤ2は路面46に接触させられる。タイヤ2を路面46に押し当てることにより、所定の荷重がタイヤ2にかけられる。この試験装置38では、支持装置42の回転軸48は回転自在とし、所定の荷重をタイヤ2に付与した状態で駆動ドラム40が回転させられる。これにより、タイヤ2が駆動ドラム40の路面46を走行する。図示されないが、この支持装置42には、回転軸48の、駆動ドラム40に対する角度を調整する角度調整手段がさらに設けられる。この試験装置38では、この角度調整手段により、タイヤ2のキャンバー角が調整される。
【0058】
[試験方法]
次に、本発明の実施形態に係る試験方法について説明する。この試験方法は、準備工程と、走行工程とを含む。
【0059】
準備工程では、界面活性剤を含む試験液が準備される。界面活性剤が常温で液体であれば、この試験方法は界面活性剤をそのまま試験液として用いることができる。界面活性剤を溶媒で希釈して得られる溶液が、試験液として用いられてもよい。この界面活性剤が常温で固体であれば、この界面活性剤を水等の溶媒に溶解させて得られる溶液が、試験液として用いられてもよい。
【0060】
この試験方法では、界面活性剤としては、種々の界面活性剤を用いることができる。この試験方法では、界面活性剤としては、中性の界面活性剤及びアルカリ性の界面活性剤が好ましい。中性の界面活性剤としては、例えば、スルホン酸塩が挙げられる。アルカリ性の界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩が挙げられる。この試験方法では、界面活性剤としては、タイヤ2をリムRに組み込む際に、リムRに対するタイヤ2の潤滑性を高めるために用いられる界面活性剤がより好ましい。
【0061】
この準備工程では、前述の界面活性剤を含む試験液はタイヤ2の内腔に注入される。これにより、界面活性剤が制音具6に含ませられる。この試験方法では、例えば、
図2に示されるように、刷毛50を用いて、制音具6の表面に試験液が塗布されてもよい。図示されないが、この試験方法は、例えば、スポイト等を用いて試験液を制音具6に滴下することにより、この試験液を制音具6に吸収させてもよい。この準備工程では、好ましくは、界面活性剤を含む試験液を、制音具6に塗布する、又は、この試験液を制音具6に吸収させることにより、界面活性剤が制音具6に含ませられる。
【0062】
この準備工程では、界面活性剤を制音具6に含ませた後、タイヤ2はリムRに組み込まれる。タイヤ2の内部に空気が充填され、このタイヤ2の内圧が調整される。内圧の調整後、リムRに組み込まれたタイヤ2(以下、タイヤ-リム組立体とも称される。)が、試験装置38の回転軸48に取り付けられる。駆動ドラム40の路面46に対する回転軸48の位置を調整して、タイヤ2が路面46に押し当てられる。これにより、タイヤ2の準備が完了する。なお、この試験方法では、赤道面が路面46の法線に対してなす角度、具体的には、キャンバー角は0度に設定される。
【0063】
この試験方法では、準備工程に次いで走行工程が実行される。この走行工程では、駆動ドラム40を回転させて、タイヤ2の走行が開始される。この走行工程では、界面活性剤を制音具6に含ませたタイヤ2に所定の荷重をかけて、タイヤ2が所定の速度で走行させられる。
【0064】
この試験方法では、タイヤ2の走行距離が所定の距離に達すると、タイヤ2が停止させられる。タイヤ2をリムRから取り外し、制音具6等の状況(剥がれや劣化)が確認される。この時点において、評価を終了させてもよいが、この試験方法では、所定の走行距離毎に、タイヤ2を停止して、このタイヤ2をリムRから取り外し、制音具6等の状況が逐次確認されてもよい。この場合、タイヤ2を再びリムRに組み込む前に、制音具6に試験液を塗布する又は吸収させて、この静音具に界面活性剤をさらに含ませてもよい。この試験方法は、評価すべき内容に応じて適宜その構成を整えることができる。
【0065】
この試験方法では、界面活性剤を制音具6に含ませたタイヤ2に、走行時の熱疲労及び機械疲労が再現される。この試験方法では、制音具6や、この制音具6とタイヤ本体4の内面との境界部分に、界面活性剤による化学的な作用だけでなく、熱的な作用や機械的な作用が複合的に及ぼされる。この複合的な作用は、制音具6の剥離及び劣化を促す。この試験方法は、タイヤ本体4の内面に対する制音具6の接着性への、界面活性剤の影響を評価することができる。
【0066】
前述したように、この試験方法は、界面活性剤をそのまま試験液として用いることができるし、この界面活性剤を溶媒で希釈して得られる溶液を試験液として用いることもできる。この試験方法では、試験液に含まれる界面活性剤の量を調節することができる。このため、この試験方法は、高濃度の界面活性剤を含む試験液を制音具6の端面34付近に重点的に含ませることにより、界面活性剤による制音具6及び接着層36への化学的な影響を評価することができる。この試験方法は、低濃度の界面活性剤を含む試験液を制音具6全体に含ませることにより、タイヤ本体4の内面からの制音具6の剥がれやすさを評価することもできる。
【0067】
この試験方法では、好ましくは、準備工程において、制音具6に含ませた界面活性剤の量は最大で100gである。この界面活性剤の量が100g以下に設定されることにより、制音具6に界面活性剤を含ませたことによる、タイヤ2の質量バランスへの影響が抑えられる。走行工程において、振動を発生させることなく、タイヤ2を走行できるので、この試験方法は、タイヤ本体4の内面に対する制音具6の接着性への、界面活性剤の影響を適正に評価することができる。この観点から、この前記制音具6に含ませた界面活性剤の量は90g以下がより好ましい。
【0068】
前述したように、この試験方法では、タイヤ2をリムRに組み込む際に、リムRに対するタイヤ2の潤滑性を高めるために用いられる界面活性剤がこの試験方法における界面活性剤として用いられることが好ましい。制音具6と、この制音具6をタイヤ本体4の内面に貼り付けるために用いられる接着層36とがアルカリ性の液体により変質しやすいことから、この界面活性剤としては、脂肪酸の金属塩が好ましい。この観点から、この試験方法では、脂肪酸の金属塩としては、脂肪酸のアルカリ金属塩、すなわち石鹸がより好ましい。この石鹸としては、脂肪酸の平均炭素数が10~20、好ましくは炭素数12~18の高級脂肪酸のアルカリ金属塩、より好ましくはナトリウム又はカリウム塩が挙げられる。特に好ましい脂肪酸の金属塩は、ステアリン酸ナトリウムである。この試験方法では、タイヤ2の制音具6がポリウレタンからなる場合において、石鹸、詳細にはステアリン酸ナトリウムが界面活性剤として特に有効に作用する。
【0069】
この試験方法では、走行工程において、タイヤ2にかけられる荷重は正規荷重の70%以上が好ましく、150%以下が好ましい。これにより、この試験方法は、制音具6や、この制音具6とタイヤ本体4の内面との境界部分に、界面活性剤による化学的な作用だけでなく、熱的な作用や機械的な作用を十分に及ぼすことができる。この試験方法は、タイヤ本体4の内面に対する制音具6の接着性への、界面活性剤の影響を効果的に評価することができる。
【0070】
この試験方法では、走行工程において、タイヤ2の内圧は正規内圧の70%以上が好ましく、130%以下が好ましい。これにより、この試験方法は、制音具6や、この制音具6とタイヤ本体4の内面との境界部分に、界面活性剤による化学的な作用だけでなく、熱的な作用や機械的な作用を十分に及ぼすことができる。この試験方法は、タイヤ本体4の内面に対する、制音具6の接着性への界面活性剤の影響を、効果的に評価することができる。
【0071】
この試験方法では、走行工程において、タイヤ2の速度は80km/h以上が好ましく、120km/h以下が好ましい。これにより、この試験方法は、制音具6や、この制音具6とタイヤ本体4の内面との境界部分に、界面活性剤による化学的な作用だけでなく、熱的な作用や機械的な作用を十分に及ぼすことができる。この試験方法は、タイヤ本体4の内面に対する制音具6の接着性への、界面活性剤の影響を効果的に評価することができる。
【0072】
図5には、本発明の試験方法で用いられる試験装置38の変形例が示される。
図5に示されるように、この試験方法では、駆動ドラム40の路面46にスラット52が配置されもよい。スラット52は、板状であり、路面46の幅方向、すなわち駆動ドラム40の軸方向に延びる。このスラット52は、タイヤ2に作用する衝撃力の向上に寄与する。この試験方法は、制音具6や、この制音具6とタイヤ本体4の内面との境界部分に、界面活性剤による化学的な作用だけでなく、熱的な作用や機械的な作用をさらに十分に及ぼすことができる。この試験方法は、タイヤ本体4の内面に対する制音具6の接着性への、界面活性剤の影響をより効果的に評価することができる。
【0073】
図5に示された試験装置38では、1本のスラット52が駆動ドラム40の路面46に配置される。この試験方法では、複数本のスラット52がこの路面46に間隔を開けて配置されてもよい。この場合、路面46に設けるスラット52の幅及びスラット52の間隔は、タイヤ2に作用させる衝撃力を考慮して適宜決められる。
【0074】
この試験方法では、スラット52の高さは10mm以上が好ましく、50mm以下が好ましい。これにより、タイヤ2に対して衝撃を十分に与えることができる。
【0075】
この試験方法では、スラット52の横断面形状は矩形状である。この試験方法では、タイヤ2に効果的に衝撃力を作用させることができるのであれば、このスラット52の横断面形状に特に制限はない。この横断面形状が、矩形状ではなく、二等辺三角形状であってもよく、等脚台形状であってもよい。この横断面形状が、半円形状であってもよい。
【0076】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、タイヤ本体4の内面に対する制音具6の接着性への界面活性剤の影響を評価することができる、タイヤ2の試験方法が得られる。
【0077】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明されたタイヤの試験方法は、内面に制音具が設けられた種々のタイプのタイヤの評価が可能である。
【符号の説明】
【0079】
2・・・タイヤ
4・・・タイヤ本体
6・・・制音具
8・・・トレッド
10・・・サイドウォール
12・・・ビード
14・・・カーカス
16・・・インナーライナー
18・・・ベルト
34・・・端面
36・・・接着層
38・・・試験装置
40・・・駆動ドラム
42・・・支持装置
46・・・路面
48・・・回転軸
52・・・スラット