(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/72 20060101AFI20220906BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20220906BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B29D30/72
B29C33/02
B29C35/02
(21)【出願番号】P 2018239484
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 拓磨
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-298238(JP,A)
【文献】特開2007-210297(JP,A)
【文献】特開2016-153219(JP,A)
【文献】特開2017-052110(JP,A)
【文献】特開2007-069409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00- 30/72
B60C 1/00- 19/12
B29C 33/00- 33/76
B29C 35/00- 35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドウォールがその外面を構成する外側層とこの外側層の軸方向内側に位置する内側層とを備える空気入りタイヤの製造方法であって、
(A)帯状の第一ストリップを螺旋状に巻くことによる上記外側層の形成及び帯状の第二ストリップを螺旋状に巻くことによる上記内側層の形成を行うことで、上記サイドウォールを得る工程、
(B)上記サイドウォールとこのタイヤの他の構成部材とを組み合わせて、ローカバーを得る工程、
及び
(C)上記ローカバーを、上記サイドウォールの外面と接触する第一要素と、この第一要素の半径方向内側においてこの第一要素と隣接しこのサイドウォールの外面と接触する第二要素とを備えるモールドで加圧及び加熱する工程
を含み、
上記内側層が上記第一要素と第二要素との分割線に対応するシームより半径方向内側に位置するように、上記(A)の工程において内側層が形成される、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
上記第一要素がローカバーのトレッド面及びサイドウォールの外面と接触するセグメントであり、上記第二要素がローカバーのサイドウォールの外面と接触するサイドプレートである、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
半径方向において、上記シームと上記内側層の外側端との半径方向距離が、2mm以上である請求項1又は2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関する。詳細には、本発明は、サイドウォールが内側層と外側層とを備える空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低燃費化の実現のため、サイドウォールが内側層と外側層とを備えたタイヤがある。このタイヤでは、内側層を低発熱ゴムで形成することで転がり抵抗を低減し、低燃費化を実現している。外側層を耐外傷性及び耐候性に優れたゴムで形成することで、優れた耐久性及び外観品質を維持している。
【0003】
このタイヤの製造において、サイドウォールは、ストリップワインド法で形成される。この方法では、外側層を形成するための帯状の未加硫ゴム(第一ストリップ)及び内側層を形成するための帯状の未加硫ゴム(第二ストリップ)が準備される。例えばドラム上に第一ストリップを螺旋状に巻き回すことで、外側層が形成される。この外側層上に第二ストリップを螺旋状に巻き回すことで、内側層が形成される。これにより、サイドウォールが得られる。
【0004】
上記のサイドウォールは、このタイヤの他の構成部材と組み合わされて、ローカバーが形成される。ローカバーは、加硫工程においてモールド内に入れられ、加圧及び加熱される。この加熱により未加硫ゴムが架橋反応を起こし、タイヤが得られる。サイドウォールが内側層と外側層とを備えたタイヤの製造方法についての検討が、特開2002-127718公報で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サイドウォールの形成では、外側層は第一ストリップを巻き回して形成されるため、その表面は、滑らかではない。この外側層の上に第二ストリップを巻き回して内側層を形成するため、外側層と内側層との間にはエアーが残り易い。ローカバーを加硫するためのモールドは、ローカバーの投入や得られたタイヤの取り出しを行うため、複数の要素から構成される。例えば、典型的なモールドは、セグメントと、セグメントの半径方向内側に位置しセグメントと接触するサイドプレートとを備える。これらは、いずれもサイドウォールの外面と接触する。外側層と内側層との間にエアーが残留すると、この部分においてサイドウォールの表面が膨張することがある。この膨張により、モールドを閉じる際に、サイドウォールと接触するこれらの要素の間に、サイドウォールのゴムを挟み込むこと(ゴム噛み)が起こりうる。タイヤの製造において、サイドウォールでのゴム噛みを防止することが重要となる。
【0007】
本発明の目的は、サイドウォールでのゴム噛みが防止されたタイヤの製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、サイドウォールがその外面を構成する外側層とこの外側層の軸方向内側に位置する内側層とを備える空気入りタイヤの製造方法に関する。この製造方法は、
(A)帯状の第一ストリップを螺旋状に巻くことによる上記外側層の形成及び帯状の第二ストリップを螺旋状に巻くことによる上記内側層の形成を行うことで、上記サイドウォールを得る工程、
(B)上記サイドウォールとこのタイヤの他の構成部材とを組み合わせて、ローカバーを得る工程、
及び
(C)上記ローカバーを、上記サイドウォールの外面と接触する第一要素と、この第一要素の半径方向内側においてこの第一要素と隣接しこのサイドウォールの外面と接触する第二要素とを備えるモールドで加圧及び加熱する工程
を含む。上記内側層が上記第一要素と第二要素との分割線に対応するシームより半径方向内側に位置するように、上記(A)の工程において内側層が形成される。
【0009】
好ましくは、上記第一要素がローカバーのトレッド面及びサイドウォールの外面と接触するセグメントであり、上記第二要素がローカバーのサイドウォールの外面と接触するサイドプレートである。
【0010】
好ましくは、半径方向において、上記シームと上記内側層の外側端との距離は、2mm以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るタイヤの製造方法では、サイドウォールの外面と接触する第一要素と、この第一要素の半径方向内側においてこの第一要素と隣接しこのサイドウォールの外面と接触する第二要素とを備えるモールドが使用される。サイドウォールの内側層は、この第一要素と第二要素との境界(分割線)に対応する、ローカバーの外面上の位置(シーム)よりも半径方向内側に位置している。半径方向において、シームの位置及びその外側には、内側層と外側層との境界が存在しないため、この領域では、エアーの残留が抑制されている。この領域では、エアーの残留によるサイドウォールの表面の膨張が抑えられている。これは、第一要素と第二要素との間でのゴム噛みを効果的に防止する。このタイヤでは、サイドウォールでのゴム噛みが防止されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る製造方法で製造されるタイヤの一例が示された断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る製造方法で使用されるストリップが示された斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のストリップを使用して、ドラム上にサイドウォールを形成する途中の様子が示された正面図である。
【
図4】
図4は、
図3の方法でドラム上に形成されたサイドウォールが示された断面図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る製造方法で使用されるモールドが示された平面図である。
【
図7】
図7は、
図6のIIV-IIV線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0014】
図1に、本発明に係る製造方法で製造される空気入りタイヤ2の一例が示されている。
図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。一点鎖線CLは、タイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0015】
このタイヤ2は、トレッド4、サイドウォール6、チェーファー8、ビード10、カーカス12、ベルト14、インナーライナー16及びインスレーション18を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、トラック、バス等に装着される。このタイヤ2は、重荷重用である。
【0016】
図1に示されるとおり、サイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このタイヤ2のサイドウォール6は、外側層20と内側層22とを備えている。
【0017】
外側層20の外面は、タイヤ2の外面の一部を形成している。外側層20は、内側層22の軸方向外側に位置する。外側層20の半径方向内側端24は、チェーファー8と接している。外側層20は耐外傷性及び耐候性に優れる架橋ゴムからなる。
【0018】
内側層22は、外側層20の軸方向内側に位置する。内側層22は、外側層20の軸方向内側面と接している。内側層22の半径方向内側端26は、ビード10の軸方向外側に位置している。半径方向において、内側層22の外側端28は、外側層20の外側端30より内側に位置している。内側層22は、外側層20の外側端30まで延びていない。内側層22は、外側層20よりも低発熱の架橋ゴムからなる。
【0019】
このタイヤ2の製造方法は、
(1)ストリップを準備する工程、
(2)サイドウォール6を得る工程、
(3)ローカバーを得る工程
及び
(4)ローカバーを加圧及び加熱する工程
を含む。
【0020】
上記(1)の工程では、サイドウォール6の形成に使用される帯状のストリップが準備される。詳細には、外側層20用のゴム組成物から形成された第一ストリップと、内側層22用のゴム組成物から形成された第二ストリップとが準備される。
図2に、第一ストリップ32が示されている。第二ストリップ34は、第一ストリップ32と同様の形状である。従って、
図2は、第二ストリップ34の図でもある。第一ストリップ32及び第二ストリップ34は、例えば原料となる未加硫のゴム組成物を押出機で連続して押出し、これを金口に通して所望の幅と厚みに成形することで形成される。第一ストリップ32及び第二ストリップ34の厚みTは典型的には0.5mm以上2.0mm以下であり、これらの幅Wは典型的には5.0mm以上30.0mm以下である。
【0021】
上記(2)の工程では、
図3で示されるドラム36が使用される。第一ストリップ32が、このドラム36に供給される。第一ストリップ32の先端38がドラム36の外周に載せられる。ドラム36が回転するとともに、第一ストリップ32を供給するヘッド(図示されず)がドラム36の軸方向(
図3の右方向)に移動される。これにより、
図3で示されるように、ドラム36の外周に第一ストリップ32が螺旋状に巻かれる。これにより、外側層20が形成される。この方法は、ストリップワインド法と称される。外側層20は、ストリップワインド法により、形成される。
【0022】
上記(2)の工程では、さらに、第二ストリップ34がこのドラム36に供給される。第二ストリップ34の先端が外側層20に載せられる。ドラム36が回転するとともに、第二ストリップ34を供給するヘッドがドラム36の軸方向に移動する。これにより、外側層20の外周に第二ストリップ34が螺旋状に巻かれる。これにより、内側層22が形成される。内側層22は、ストリップワインド法により、形成される。これにより、サイドウォール6が得られる。
【0023】
図4は、ドラム36上に形成されたサイドウォール6が示された断面図である。
図5は、
図4の符号Eで示された領域が拡大された断面図である。
図5で示されるように、この断面において、隣接する第一ストリップ32の断面40は、重なりを有している。第一ストリップ32の巻き始めの位置及び巻き終わりの位置、並びにこの断面40の重なり量(すなわち、第一ストリップ32を巻き回すときの送り量)を調整することで、所望の形状の外側層20が形成される。同様に、隣接する第二ストリップ34の断面42は、重なりを有している。第二ストリップ34の巻き始めの位置及び巻き終わりの位置、並びに第二ストリップ34を巻き回すときの送り量を調整することで、所望の形状の内側層22が形成される。
【0024】
なお、
図4及び5のサイドウォール6と、
図1のサイドウォール6とは同じではない。後述するとおり、
図4及び5のサイドウォール6が架橋されて、
図1のサイドウォール6となる。本明細書では、特に混乱することもないため、これらは共に「サイドウォール6」と称される。このタイヤ2の他の構成物材についても同様である。
【0025】
上記(3)の工程では、サイドウォール6に、このタイヤ2の他の構成部材が組み合わされる。
図4で示されるように、この実施形態では、このドラム36で、チェーファー8が組み合わされる。図示されないが、他のドラムにおいて、インナーライナー16、インスレーション18、カーカス12及びビード10が組み合わされ、これがトロイダル状にシェーピングされる。これに、上記サイドウォール6とチェーファー8とが張り合わされる。さらにこの半径方向外側に、ベルト14及びトレッド4が積層されて、ローカバーが形成される。この工程にて、ローカバーが得られる。
【0026】
上記(4)の工程では、
図6に示されたモールド44が使用される。この図は、モールド44の平面図である。
図6において、矢印Xで示された方向が半径方向内向きであり、紙面に対して垂直な方向が軸方向であり、両矢印Aで示された方向が周方向である。
図7は、
図6のVII-VII線に沿った断面図である。
図7において、矢印Xで示された方向が半径方向内向きであり、矢印Yで示された方向が軸方向であり、紙面と垂直な方向が周方向である。
図7には、上記(3)の工程で得られたローカバーRも示されている。
【0027】
モールド44は、ローカバーRの投入や得られたタイヤ2の取り出しのため、開閉可能となっている。このため、モールド44は複数の要素で構成される。このモールド44は、複数のセグメント46と、一対のサイドプレート48と、一対のビードリング50とを備えている。
図6に示されるように、セグメント46の平面形状は、実質的に円弧状である。複数のセグメント46が、リング状に配置されている。サイドプレート48及びビードリング50は、実質的にリング状である。
【0028】
上記(4)の工程では、ローカバーRは、モールド44が開いた状態でこのモールド44に入れられる。セグメント46が
図6のX方向に移動し、モールド44が閉じられる。
図7には、モールド44が閉じられた状態が示されている。
図7に示されるように、この状態において、セグメント46は、サイドプレート48と接触する。サイドプレート48は、セグメント46の半径方向内側において、セグメント46と隣接する。
【0029】
図7において、符号Sで示されるのが、セグメント46とサイドプレート48との境界(セグメント46とサイドプレート48との分割線)に対応する、ローカバーRの外面上の位置である。分割線に対応するローカバーRの外面上の位置Sは、シームと称される。
図1及び
図4-5にも、シームSが示されている。これらの図で示されるように、シームSはサイドウォール6の外面上に位置する。換言すれば、セグメント46はトレッド面及びサイドウォール6の外面と接触し、サイドプレート48はセグメント46の半径方向内側においてサイドウォール6の外面と接触する。
【0030】
図1に示されるように、サイドウォール6の内側層22は、シームSより半径方向内側に位置している。半径方向において、シームSの位置及びその外側には、内側層22は存在しない。半径方向におけるシームSの位置及びその外側では、サイドウォール6は外側層20より構成されている。換言すれば、
図5に示されるように、上記(2)の工程において、内側層22は、シームSより半径方向内側に位置するように、形成される。
【0031】
上記(4)の工程では、ローカバーRはモールド44の中で加圧及び加熱される。加圧と加熱とにより、ローカバーRのゴム組成物がキャビティ内を流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤ2が形成される。モールド44が開かれて、タイヤ2がモールド44から取り出される。これにてタイヤ2が得られる。
【0032】
以下本発明の作用効果が説明される。
【0033】
第一ストリップを巻き回して形成された外側層の表面は滑らかではないため、この外側層の上に第二ストリップを巻き回して内側層を形成したとき、外側層と内側層との間にはエアーが残り易い。外側層と内側層との間のエアーにより、ローカバーRのサイドウォール表面が膨張することがある。
図6で示されるように、ローカバーRはモールド44に入れられた後、セグメント46がX方向に移動することで、モールド44が閉じられる。サイドウォール表面の膨張により、セグメント46とサイドプレート48との間にサイドウォールのゴムを挟み込むこと(ゴム噛み)が起こりうる。
【0034】
本発明に係るタイヤ2の製造方法では、サイドウォール6の内側層22は、セグメント46とサイドプレート48の分割線に対応するシームSよりも半径方向内側に位置している。半径方向において、シームSの位置及びその外側には、内側層22と外側層20との境界は存在しない。この領域では、エアーの残留が抑制されている。この領域では、サイドウォール6の表面の膨張が抑えられている。これは、セグメント46とサイドプレート48との間でのゴム噛みを効果的に防止する。この方法では、サイドウォール6でのゴム噛みが防止されている。
【0035】
サイドウォールの半径方向外側端の近辺では、構造上、外側層と内側層との間、及び内側層と内側層の内面と接触する他の構成部材との間にエアーが残留し易い。本発明に係るタイヤ2の製造方法では、半径方向において、シームSの位置及びその外側には内側層22と外側層20との境界は存在しない。この製造方法では、サイドウォール6の半径方向外側端の近辺における、外側層20と内側層22との間でのエアーの残留が抑えられている。さらに、シームSの位置及びその外側が外側層20で構成されているため、この領域が外側層と内側層とで構成されたサイドウォールと比べて、軸方向におけるサイドウォール6の内面はなめらかである。これは、サイドウォール6の内面とこの内面と接触する他の構成部材との間のエアーの残留の防止に効果的に寄与する。この製造方法では、サイドウォール6の半径方向外側端の近辺における、サイドウォール6の内面側でのエアーの残留が効果的に抑えられている。
【0036】
この製造方法では、外側層20の外側端30の位置と、内側層22の外側端28の位置とが一致していない。これらは、離れている。換言すれば、第一ストリップ32の巻き終わりの位置と、第二ストリップ34の巻き終わりの位置とが離れている。このため、サイドウォール6は、安定して精度よく形成できる。これはタイヤ2のユニフォミティに寄与する。この製造方法では、ユニフォミティに優れるタイヤ2が製造できる。
【0037】
図1において、両矢印Lは、シームSと内側層22の外側端28との半径方向距離を表す。この距離Lは、タイヤ2がモールド44に入れられた状態で、計測される。距離Lは、2mm以上が好ましい。距離Lを2mmとすることで、サイドウォール6でのゴム噛みが効果的に防止される。この観点から、距離Lは2.5mm以上がより好ましい。内側層22を設けることの効果(この実施形態では、転がり抵抗の低減)を十分に発揮させるとの観点から、距離Lは5mm以下が好ましい。
【0038】
本発明の他の実施形態に係るタイヤ2の製造方法は、
(1a)ストリップを準備する工程、
(2a)内側ローカバーを得る工程、
(3a)サイドウォール6を得る工程、
(4a)ローカバーRを得る工程
及び
(5a)ローカバーRを加圧及び加熱する工程
を含む。
【0039】
上記(1a)の工程は、前述の(1)の工程と同じである。この工程において、外側層20用のゴム組成物から形成された第一ストリップ32と、内側層22用のゴム組成物から形成された第二ストリップ34とが準備される。
【0040】
図示されないが、上記(2a)の工程ではドラムが使用される。このドラムにおいて、インナーライナー16、インスレーション18及びカーカス12が積層される。さらに、このドラム上で、ビード10及びチェーファー8が組み合わされ、内側ローカバーが得られる。
【0041】
なお、上記(1a)の工程と(2a)の工程とは、どちらが先に実施されてもよい。次の(3a)の工程の前に、これらの工程が終了していればよい。
【0042】
上記(3a)の工程では、上記ドラムに第二ストリップ34が供給される。第二ストリップ34の先端が内側ローカバーに載せられる。ドラムが回転するとともに、第二ストリップ34を供給するヘッドがドラムの軸方向に移動する。これにより、内側ローカバーの外周に第二ストリップ34が螺旋状に巻かれる。これにより、内側層22が形成される。
【0043】
上記(3a)の工程では、さらに、第一ストリップ32がこのドラムに供給される。第一ストリップ32の先端が、内側層22又は内側ローカバーの所定の位置に載せられる。ドラムが回転するとともに、第一ストリップ32を供給するヘッドがドラムの軸方向に移動する。これにより、内側層22及び内側ローカバーの外周に、第一ストリップ32が螺旋状に巻かれる。これにより、外側層20が形成される。これにより、サイドウォール6が得られる。
【0044】
上記(4a)の工程では、上記の内側ローカバー及びサイドウォール6に、このタイヤ2の他の構成部材が組み合わされる。この工程では、上記の内側ローカバー及びサイドウォール6がトロイダル状にシェーピングされ、この半径方向外側に、ベルト14及びトレッド4が積層されて、ローカバーRが形成される。この工程にて、ローカバーRが得られる。
【0045】
上記(5a)の工程は、前述の(4)の工程と同じである。この工程において、ローカバーRはモールド44に入れられる。このとき、セグメント46とサイドプレート48の分割線に対応するシームSは、サイドウォール6の外面上に位置する。サイドウォール6の内側層22は、シームSより半径方向内側に位置している。換言すれば、上記(3a)の工程で、内側層22は、シームSより半径方向内側に位置するように、形成される。モールド44内でローカバーRが加圧及び加熱されて、タイヤ2が得られる。
【0046】
このタイヤ2の製造方法では、サイドウォール6の内側層22は、セグメント46とサイドプレート48の分割線に対応するシームSよりも半径方向内側に位置している。半径方向において、シームSの位置及びその外側には、内側層22と外側層20との境界は存在しない。この領域では、エアーの残留が抑制されている。この領域では、サイドウォール6の表面の膨張が抑えられている。これは、セグメント46と、サイドプレート48との間でのゴム噛みを効果的に防止する。この方法では、サイドウォール6でのゴム噛みが防止されている。
【0047】
本発明のさらに他の実施形態では、上記(2a)の工程の後に、この内側ローカバーをシェーピングする工程を含む。このシェーピングした内側ローカバーに、第二ストリップ34が巻かれることで内側層22が形成され、さらに第一ストリップ32が巻かれることで外側層20が形成される。これによりサイドウォール6が形成される。このとき内側層22は、シームSより半径方向内側に位置するように、形成される。この実施形態では、上記(4a)と同様にしてローカバーRが得られ、上記(5a)と同様にしてタイヤ2が得られる。
【0048】
上述の実施形態では、モールド44はセグメント46とサイドプレート48とを備えていた。モールドの構成は、これに限られない。サイドウォール6の外面と接触する第一要素と、第一要素の半径方向内側においてこの第一要素と隣接しサイドウォール6の外面と接触する第二要素とを備えるモールドであれば、本発明の対象となる。このとき、内側層22は、第一要素と第二要素との境界線に対応するシームの位置より半径方向内側に位置するように、形成される。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0050】
[実施例1]
上記(1)から(4)の工程で、タイヤを製作した。内側層は、シームの半径方向内側に位置している。このときの距離Lは、3mmとされた。
【0051】
[比較例1]
半径方向において、内側層が、シームを越えて外側層の外側端まで延びていることの他は実施例1と同様にして、タイヤを製作した。
【0052】
[エアー残り]
実施例1及び比較例1のそれぞれについて、タイヤを10000本製作した。サイドウォール内部及びサイドウォール内側面と他の構成部材との間でのエアー残りの発生の有無が、X線により検査された。その結果、実施例1のエアー残りの発生率は、比較例1のエアー残りの発生率の35%であった。
【0053】
[サイドウォールでのゴム噛み]
上記で製作したタイヤについて、サイドウォールでのゴム噛みの発生の有無が目視で確認された。その結果、実施例1のゴム噛みの発生率は、比較例1のゴム噛みの発生率の15%であった。
【0054】
上記実施例の結果に示されるように、実施例の製造方法では、比較例の製造方法に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明された方法は、種々のタイヤの製造にも適用されうる。
【符号の説明】
【0056】
2・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
8・・・チェーファー
10・・・ビード
12・・・カーカス
14・・・ベルト
16・・・インナーライナー
18・・・インスレーション
20・・・外側層
22・・・内側層
24・・・外側層の内側端
26・・・内側層の内側端
28・・・内側層の外側端
30・・・外側層の外側端
32・・・第一ストリップ
34・・・第二ストリップ
36・・・ドラム
38・・・第一ストリップの先端
40・・・第一ストリップの断面
42・・・第二ストリップの断面
44・・・モールド
46・・・セグメント
48・・・サイドプレート
50・・・ビードリング