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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/12 20200101AFI20220906BHJP
   B60W 30/165 20200101ALI20220906BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20220906BHJP
   B60W 40/06 20120101ALI20220906BHJP
   B60W 50/12 20120101ALI20220906BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20220906BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B60W30/12
B60W30/165
B60W40/04
B60W40/06
B60W50/12
G08G1/16 E
G08G1/16 C
B62D6/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019030600
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020132045
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝彦
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165128(JP,A)
【文献】特開2017-146819(JP,A)
【文献】特開2009-274482(JP,A)
【文献】特開2016-159781(JP,A)
【文献】特開2010-173601(JP,A)
【文献】特開2018-154213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 50/16
G08G 1/00 ~ 1/16
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車線と隣接車線および前記各車線上の他車を認識する周囲認識機能と自車運動状態を取得する機能を含む環境状態推定部と、
前記環境状態推定部に取得される情報に基づいて目標経路を生成する経路生成部と、
前記目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部と、
を備えた車両の走行制御装置であって、
自車線に先行他車がいない場合は目標車速に従って定速走行を行い、先行他車がいる場合は所定車間距離を維持して追従走行を行うACC機能と、
前記目標経路への追従制御により自車線内の走行を維持するLKA機能と、
隣接車線の所定範囲に他車がいない場合に隣接車線への自動車線変更を行う機能と、
運転者の操作介入によって前記自動車線変更機能を停止させるオーバーライド機能と、
前記自動車線変更機能の作動中にシステム運行設計領域を逸脱した場合に、該機能の停止と操作引継を運転者に通知し、該機能の縮退制御を行う機能と、
を有するものにおいて、
前記システム運行設計領域逸脱時に、前記自動車線変更機能を停止させる前記操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値を、システム運行設計領域内にある正常時よりも大きい値に変更する機能を有することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記システム運行設計領域逸脱は、前記環境状態推定部に取得される車両状態、他車の割込みや急制動を含む交通環境、路面変化を含む環境条件、車線区分線の消失、車線数の減少、または、地図情報と測位手段により前記環境状態推定部に取得される車線合流区間、車線分流区間を含む道路条件が、システム運行設計領域から逸脱したことをもって判断されることを特徴とする請求項1記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記オーバーライド閾値は、アクセル操作介入の判定基準となるアクセルオーバーライド閾値、および/または、ブレーキ操作介入の判定基準となるブレーキオーバーライド閾値を含むことを特徴とする請求項1または2記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記オーバーライド閾値は、操舵操作介入の判定基準となる操舵オーバーライド閾値を含むことを特徴とする請求項1~3の何れか一項記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記システム運行設計領域逸脱時における前記オーバーライド閾値は、前記自動車線変更機能の停止と操作引継の通知から前記縮退制御の終了まで維持されるように構成されていることを特徴とする請求項1~4の何れか一項記載の車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御装置に関し、さらに詳しくは、部分的自動車線変更システムにおけるオーバーライド機能に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の負担軽減、安全運転支援を目的とした種々の技術、例えば、車間距離制御システム(Adaptive Cruise Control System:ACCS)、車線維持支援システム(Lane Keeping Assistance System:LKAS)などが実用化されている。さらに、これらをベースにした「車線内部分的自動走行システム(Partially Automated in-lane Driving System:PADS)」や「部分的自動車線変更システム(Partially Automated Lane Change System:PALS)」の実用化や国際規格化が進められている。
【0003】
このような走行制御システムは、あくまでも運転支援を目的としたものであり、完全な自動運転とは異なる。運転者はハンドルに手を添えて何時でも手動運転できるように、運転状況を把握することが求められ、状況に応じて運転者の対応が必要であり、システム作動中であっても、運転者の操作介入によって手動運転に切替わるオーバーライド機能を備えている。特許文献1には、運転者により入力される操舵操作量の変化速度に応じて手動運転に移行する縮退制御量の変化速度(縮退速度)を決定するようにした車両の横方向運動制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-96569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、操舵操作量の変化速度が大きい場合は、運転者が意図した操舵介入と見做して短時間で手動運転に移行し、操舵操作量の変化速度が小さい場合は比較的時間をかけて縮退制御され手動運転に移行する。しかしながら、操舵操作量の変化速度が大きい場合が、必ずしも運転者が意図した操舵介入であるとは限らないし、操舵操作量の変化速度に応じた縮退制御が車両の運動状態に適した制御であるとも限らない。
【0006】
例えば、部分的自動車線変更システム(PALS)には、設計者の意図により、自動車線変更を実行可能な条件、運行設計領域(Operational Design Domain:ODD)が定められており、自動車線変更中に、車両の走行条件がODDを逸脱した場合、自動車線変更機能停止予告と操作引継要求が運転者に通知され、数秒経過後にACCおよび自動操舵の縮退制御が開始される。
【0007】
ところが、ODD逸脱により自動車線変更機能停止予告と操作引継要求が運転者に通知された際に、通知に慌てた運転者の過剰な操舵操作によるオーバーライドや、過度のブレーキ操作/アクセル操作によるオーバーライドにより車両の挙動が不安定になることも想定される。
【0008】
例えば、図5(b)に示すように、車両1が自動車線変更中に横方向から突風を受けてODD逸脱と判定された場合、自動車線変更中止と操舵・制駆動の引継要求が運転者に通知されるが、通知に慌てた運転者が過度の左操舵(逆操舵)を行いオーバーライドした場合、図5(c)に符号OLで示すように、操舵により挙動が不安定になり、左車線逸脱するなどの虞がある。また、上記通知に慌てた運転者が過度の右操舵(順操舵)を行いオーバーライドした場合、図5(c)に符号ORで示すように、操舵により挙動が不安定になり、右車線逸脱するなどの虞がある。
【0009】
さらに、図6(b)に示すように、上記通知に慌てた運転者が過度のブレーキ操作を行いオーバーライドした場合、図6(c)に符号OBで示すように、減速により挙動が不安定になり、後続車両4(4′)に接近するなどの虞がある。また、上記通知に慌てた運転者が過度のアクセル操作を行いオーバーライドした場合、図6(c)に符号OAで示すように、加速により先行車両2(2′)に接近する、車線を逸脱するなどの虞がある。
【0010】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、自動車線変更中のシステム運行設計領域逸脱により縮退制御に移行する過程における過度の操作介入による加減速や車線逸脱を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、
自車線と隣接車線および前記各車線上の他車を認識する周囲認識機能と自車運動状態を取得する機能を含む環境状態推定部と、
前記環境状態推定部に取得される情報に基づいて目標経路を生成する経路生成部と、
前記目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部と、
を備えた車両の走行制御装置であって、
自車線に先行他車がいない場合は目標車速に従って定速走行を行い、先行他車がいる場合は所定車間距離を維持して追従走行を行うACC機能と、
前記目標経路への追従制御により自車線内の走行を維持するLKA機能と、
隣接車線の所定範囲に他車がいない場合に隣接車線への自動車線変更を行う機能と、
運転者の操作介入によって前記自動車線変更機能を停止させるオーバーライド機能と、
前記自動車線変更機能の作動中にシステム運行設計領域を逸脱した場合に、該機能の停止と操作引継を運転者に通知し、該機能の縮退制御を行う機能と、
を有するものにおいて、
前記システム運行設計領域逸脱時に、前記自動車線変更機能を停止させる前記操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値を、システム運行設計領域内にある正常時よりも大きい値に変更する機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る車両の走行制御装置によれば、自動車線変更中にシステム運行設計領域逸脱と判定された場合に、操舵および制駆動に係る操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値が、システム運行設計領域内にある正常時よりも大きい値に変更されるので、自動車線変更機能停止予告および操作引継通知に慌てた運転者が、過度の操作介入を行った場合にもオーバーライドが回避され、自動車線変更機能の縮退制御に移行でき、過度の操作介入に起因する加減速や車線逸脱等を防止でき、円滑な操作引継を行う上で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】車両の走行制御システムを示す概略図である。
図2】車両の外界センサ群を示す概略的な平面図である。
図3】車両の走行制御システムを示すブロック図である。
図4】自動車線変更中におけるODD逸脱時の過度の操作介入によるオーバーライドの防止制御を示すフローチャートである。
図5】(a)自動車線変更、(b)自動車線変更中におけるODD逸脱、(c)自動車線変更中におけるODD逸脱時の過度の操舵オーバーライドとその防止制御を例示する概略平面図である。
図6】(a)自動車線変更、(b)自動車線変更中におけるODD逸脱、(c)自動車線変更中におけるODD逸脱時の過度のブレーキ/アクセルオーバーライドとその防止制御を例示する概略平面図である。
図7】(a)自動車線変更、(b)自動車線変更中におけるODD逸脱(区分線ロスト)時の過度の操舵オーバーライドとその防止制御を例示する概略平面図である。
図8】(a)自動車線変更、(b)自動車線変更中におけるODD逸脱(区分線ロスト)時の過度のブレーキ/アクセルオーバーライドおよびその防止制御を例示する概略平面図である。
図9】(a)合流区間における自動車線変更、(b)合流区間における自動車線変更中のODD逸脱、(c)合流区間における自動車線変更中のODD逸脱時の過度のブレーキ/アクセルオーバーライド防止制御を例示する概略平面図である。
図10】(a)分流区間における自動車線変更、(b)分流区間における自動車線変更中のODD逸脱、(c)分流区間における自動車線変更中のODD逸脱時の過度のブレーキ/アクセルオーバーライド防止制御を例示する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、本発明に係る走行制御システムを備えた車両1は、エンジンや車体など一般的な自動車の構成要素に加え、従来運転者が行っていた認知・判断・操作を車両側で行うために、車両周囲環境を検知する外界センサ21、車両情報を検知する内界センサ22、速度制御および操舵制御のためのコントローラ/アクチュエータ群、車間距離制御のためのACCコントローラ14、車線維持支援制御のためのLKAコントローラ15、および、それらを統括して経路追従制御を行い、車線内部分的自動走行(PADS)や自動車線変更(PALS)を実施するための自動運転コントローラ10を備えている。
【0015】
速度制御および操舵制御のためのコントローラ/アクチュエータ群は、操舵制御のためのEPS(電動パワーステアリング)コントローラ31、加減速度制御のためのエンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33を含む。ESP(登録商標;エレクトロニックスタビリティプログラム)はABS(アンチロックブレーキシステム)を包括してスタビリティコントロールシステム(車両挙動安定化制御システム)を構成する。
【0016】
外界センサ21は、自車線および隣接車線を画定する道路上の区分線、自車周辺にある他車両や障害物、人物などの存在と相対距離を画像データや点群データとして自動運転コントローラ10に入力するための複数の検知手段からなる。
【0017】
例えば、図2に示すように、車両1は、前方検知手段211,212としてミリ波レーダ(211)およびカメラ(212)、前側方検知手段213および後側方検知手段214としてLIDAR(レーザ画像検出/測距)、後方検知手段215としてカメラ(バックカメラ)を備え、自車両周囲360度をカバーし、それぞれ自車前後左右方向所定距離内の車両や障害物等の位置と距離、区分線位置を検知できるようにしている。
【0018】
内界センサ22は、車速センサ、ヨーレートセンサ、加速度センサなど、車両の運動状態を表す物理量を計測する複数の検知手段からなり、図3に示すように、それぞれの測定値は、自動運転コントローラ10、ACCコントローラ14、LKAコントローラ15、および、EPSコントローラ31に入力される。
【0019】
自動運転コントローラ10は、環境状態推定部11、経路生成部12、および、車両制御部13を含み、以下に記載されるような機能を実施するためのコンピュータ、すなわち、プログラム及びデータを記憶したROM、演算処理を行うCPU、前記プログラム及びデータを読出し、動的データや演算処理結果を記憶するRAM、および、入出力インターフェースなどで構成されている。
【0020】
環境状態推定部11は、GPS等の測位手段24による自車位置情報と地図情報とのマッチングにより自車の絶対位置を取得し、外界センサ21に取得される画像データや点群データなどの外界データに基づいて自車線および隣接車線の区分線位置、他車位置および速度を推定する。また、内界センサ22に計測される内界データより自車の運動状態を取得する。
【0021】
経路生成部12は、環境状態推定部11で推定された自車位置から到達目標までの目標経路を生成する。また、地図情報23を参照し、環境状態推定部11で推定された隣接車線の区分線位置、他車位置および速度、自車の運動状態に基づいて、車線変更における自車位置から到達目標地点までの目標経路を生成する。
【0022】
車両制御部13は、経路生成部12で生成された目標経路に基づいて目標車速および目標舵角を算出し、定速走行または車間距離維持・追従走行のための速度指令をACCコントローラ14に送信し、経路追従のための操舵角指令をLKAコントローラ15経由でEPSコントローラ31に送信する。
【0023】
なお、車速は、EPSコントローラ31およびACCコントローラ14にも入力される。車速により操舵トルクが変わるため、EPSコントローラ31は、車速毎の操舵角-操舵トルクマップを参照して操舵機構41にトルク指令を送信する。エンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33、EPSコントローラ31により、エンジン42、ブレーキ43、操舵機構41を制御することで、車両1の縦方向および横方向の運動が制御される。
【0024】
(車線内部分的自動走行システムおよび部分的自動車線変更システムの概要)
次に、高速道路での走行を想定して、車線内部分的自動走行システム(PADS)および部分的自動車線変更システム(PALS)の概要を説明する。
【0025】
車線内部分的自動走行(PADS走行)は、自動運転コントローラ10とともにACCSを構成するACCコントローラ14およびLKASを構成するLKAコントローラ15が共に作動している状態で実行可能となる。
【0026】
車線内部分的自動走行システム作動と同時に、自動運転コントローラ10(経路生成部12)は、外界センサ21を通じて環境状態推定部11に取得される外界情報(車線、自車位置、自車走行車線および隣接車線を走行中の他車位置、速度)、および、内界センサ22に取得される内界情報(車速、ヨーレート、加速度)に基づいて、単一車線内目標経路および目標車速を生成する。
【0027】
自動運転コントローラ10(車両制御部13)は、自車位置と自車の運動特性、すなわち、車速Vで走行中に操舵機構41に操舵トルクTが与えられた時に生じる前輪舵角δによって、車両運動により生じるヨーレートγと横加速度(dy/dt)の関係から、Δt秒後の車両の速度・姿勢・横変位を推定し、Δt秒後に横変位がytとなるような操舵角指令をLKAコントローラ15経由でEPSコントローラ31に与え、Δt秒後に速度Vtとなるような速度指令をACCコントローラ14に与える。
【0028】
ACCコントローラ14、LKAコントローラ15、EPSコントローラ31、エンジンコントローラ32、および、ESP/ABSコントローラ33は、自動操舵とは無関係に独立して作動するが、車線内部分的自動走行機能(PADS)および部分的自動車線変更システム(PALS)の作動中は、自動運転コントローラ10からの指令入力でも作動可能になっている。
【0029】
ACCコントローラ14からの減速指令を受けたESP/ABSコントローラ33は、アクチュエータに油圧指令を出し、ブレーキ43の制動力を制御することで車速を制御する。また、ACCコントローラ14からの加減速指令を受けたエンジンコントローラ32は、アクチュエータ出力(スロットル開度)を制御することで、エンジン42にトルク指令を与え、駆動力を制御することで車速を制御する。
【0030】
ACC機能(ACCS)は、外界センサ21を構成する前方検知手段211としてのミリ波レーダ、ACCコントローラ14、エンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33等のハードウエアとソフトウエアの組合せで機能する。
【0031】
すなわち、先行車がいない場合は、クルーズコントロールセット速度を目標車速として定速走行し、先行車に追いついた場合(先行車速度がクルーズコントロールセット速度以下の場合)には、先行車速度に合わせて、設定されたタイムギャップ(車間時間=車間距離/自車速)に応じた車間距離を維持しながら先行車に追従走行する。
【0032】
LKA機能(LKAS)は、外界センサ21(カメラ212,215)に取得される画像データに基づき、自動運転コントローラ10の環境状態推定部11で車線区分線と自車位置を検知し、車線中央を走行できるように、LKAコントローラ15およびEPSコントローラ31により操舵制御を行う。
【0033】
すなわち、LKAコントローラ15からの操舵角指令を受けたEPSコントローラ31は、車速-操舵角-操舵トルクのマップを参照して、アクチュエータ(EPSモータ)にトルク指令を出し、操舵機構41が目標とする前輪舵角を与える。
【0034】
車線内部分的自動走行機能(PADS)は、以上述べたようなACCコントローラ14による縦方向制御(速度制御、車間距離制御)とLKAコントローラ15による横方向制御(操舵制御、車線維持走行制御)を組み合わせることにより実施される。
【0035】
部分的自動車線変更システム(PALS)は、運転者の指示または承認によって、システムが自動的に車線変更(レーンチェンジ)を行うものであり、部分的自動走行(PADS走行)と同様に、ACCコントローラ14による縦方向制御(速度制御、車間距離制御)とLKAコントローラ15による横方向制御(自動操舵による目標経路追従制御)を組み合わせることにより実施される。
【0036】
部分的自動車線変更システム作動と同時に、自動運転コントローラ10(経路生成部12)は、外界センサ21を通じて環境状態推定部11に取得される外界情報(自車線および隣接車線の車線区分線、自車線および隣接車線を走行中の他車位置、速度)、および、内界センサ22に取得される内界情報(車速、ヨーレート、加速度)に基づいて、現在走行中の車線から隣接車線に車線変更するための目標経路を常時生成している。
【0037】
この自動車線変更目標経路は、現在走行中の車線から車線変更して隣接車線中央を走行する状態に至る経路であり、隣接車線を走行する他車両については、それぞれの未来位置および速度の予測がなされ、図5図10に示すように、自車速度に応じて設定される隣接車線の前方領域ZF、後方領域ZR、および、側方領域ZL内に、他車両が存在しないと判断され、かつ、運転者がウインカ操作などにより車線変更を指示した場合に、自動操舵により当該隣接車線への自動車線変更を実行する。
【0038】
(ODD逸脱検出および監視)
車線内部分的自動走行システム(PADS)および部分的自動車線変更システム(PALS)には、設計者の意図により、車線内部分的自動走行および自動車線変更を実行可能な条件、システム運行設計領域(Operational Design Domain:ODD)が規定されている。運行設計領域(ODD)には以下のようなものがある。
【0039】
・道路条件:高速道路(片側2車線以上、車線区分線が破線、本線、曲率300R以上)、一般道(片側3車線以上、車線区分線が破線、車線幅3.25m以上、直線)、
・地理条件:都市部・山間部以外(ジオフェンス)
・環境条件:天候(晴天・曇天・無風)、時間帯(夜間制限)
・交通環境;他車の動向(割込み、急制動)、交通規則(速度制限、車線変更禁止)
・車両状態:車速(車速制限内)、縦・横加減速度(加減速度制限内)、その他のシステム限界内、システム障害無し、
・運転者状態:運転者異常無し、運転者誤操作無し、などである。
【0040】
上記のうち、特に監視すべき条件としては、降雨、降雪、突風、横風のように急変する環境条件や路面変化(ウェット、積雪)があり、これらは前方検知手段212を構成するカメラの画像解析(例えば、降雨や降雪は路面の画像解析、横風は吹流しの画像解析)などから検出可能であり、また、路面変化や道路横勾配によってESP(車両挙動安定化制御システム/横滑り防止装置)が作動した場合もODD逸脱と判断される。
【0041】
また、運転操作環境としては、ハンズオフ時間継続(ステアリングトルクセンサ)、シートベルト解除(シートベルトスイッチ)、ワイパー高速作動(ワイパースイッチ)、ドア開(ドアスイッチ)、システムオフ(システムオフスイッチ)、ギア段変更(ギアポジションスイッチ)が検出された場合もODD逸脱と判断される。
【0042】
さらに、部分的自動車線変更システム(PALS)については、先述した目標経路を含む隣接車線の前方領域ZF,後方領域ZR,側方領域ZLへの他車両の侵入や割込みなどが検出された場合もODD逸脱と判断される。
【0043】
車線内部分的自動走行システム(PADS)の作動中や、部分的自動車線変更システム(PALS)による自動車線変更中において、環境状態推定部11は、外界センサ21を通じて取得される外界情報、内界センサ22に取得される車両情報、地図情報23、および、測位手段24に取得される位置情報に基づいて、車両の走行状態や道路条件、地理条件、環境条件、他車両の動向などの交通条件が、ODDの範囲内に維持されているか否かを監視しており、ODD逸脱が検出された場合には、システムから運転者に運転操作の権限が委譲され、車線内部分的自動走行や自動車線変更から手動走行に移行する。この点については後述する。
【0044】
(オーバーライド機能)
車線内部分的自動走行システム(PADS)の作動中や、部分的自動車線変更システム(PALS)による自動車線変更中において、縦方向制御システム(ACCS)、横方向制御システム(LKAS)の何れも運転者によるオーバーライドが可能になっている。
【0045】
縦方向制御システム(ACCS)は、運転者のアクセルペダル操作によるエンジントルク要求、または、ブレーキペダル操作による減速度要求が、それぞれのオーバーライド閾値以上の場合にオーバーライドされる。これらのオーバーライド閾値は、運転者が意図をもって加減速操作を行ったと判断されるアクセル操作量(エンジントルク指令値)またはブレーキ操作量(ESP油圧指令値)に設定され、かつ、何れも車両の加減速特性および走行状態に応じて設定される。
【0046】
すなわち、ACCオーバーライドは、制御車速に対して運転者が加速または減速の意図をもってアクセルペダル操作またはブレーキペダル操作を行ったと判断される操作量または操作速度がアクセルペダルまたはブレーキペダルに与えられた場合に、ACC制御を中止し、運転者のアクセルおよびブレーキ操作による走行に移行するものである。
【0047】
車線維持支援や自動車線変更のための自動操舵を行う横方向制御システム(LKAS)は、運転者の手動操舵34による操舵トルクがオーバーライド閾値以上の場合にオーバーライドされる。この操舵介入によるオーバーライド閾値は、車両の操舵特性、走行状態に応じて設定される。
【0048】
すなわち、操舵オーバーライドは、制御操舵トルクに対して運転者が順操舵または逆操舵の意図をもって操舵したと判断される操作量または操作速度がステアリングシステムに与えられた場合に、自動操舵およびLKA制御を中止し、運転者の手動操舵による走行に移行するものである。
【0049】
(ODD逸脱時におけるシステム機能停止、縮退制御モードへの移行)
ところで、部分的自動車線変更システム(PALS)による自動車線変更中に、例えば突風の発生などによるODD逸脱が検出された場合、自動車線変更機能(ACCおよび自動操舵機能)の縮退制御モードに移行する。この際、先ず、運転者に自動車線変更機能停止(ACCおよび自動操舵機能停止)と操作引継要求(テークオーバーリクエスト)が通知され、所定の待機時間(例えば4秒)が経過した後、自動車線変更機能(ACCおよび自動操舵機能)の縮退制御が開始される。
【0050】
ACC縮退制御は、エンジンコントローラ32に入力する加減速指令値(車速指令)を所定の傾きをもって0km/h/sまで徐々に低下させるとともに、ESPコントローラに入力する減速指令値を所定の傾きをもって0m/sまで徐々に低下させる。
【0051】
自動操舵縮退制御は、EPSコントローラに入力する操舵トルク指令値(操舵角指令)を所定の傾きをもって0Nmまで徐々に低下させる。ACCおよび自動操舵の縮退制御が終了した時点で、運転者にアクセル/ブレーキ操作および操舵操作が引継される。
【0052】
上記のように、自動車線変更中にODD逸脱が検出された場合、ACCおよび自動操舵機能が縮退制御モードに移行するが、その際に、自動車線変更中止・引継要求通知に慌てた運転者の過度の操舵介入(操舵オーバーライド)による車線逸脱や、過度のアクセル/ブレーキ操作介入(ACCオーバーライド)による加速/減速挙動を発生させる虞があることは既に述べた通りである。
【0053】
(ODD逸脱時の過操作防止機能)
そこで、本発明に係る自動運転コントローラ10では、自動車線変更中にODDを逸脱する事象が検出された場合に、自動車線変更中止と操舵・制駆動の運転者への引継を行う際、自動車線変更中止予告から自動車線変更中止までの間(例えば、通知後4秒経過~ACC・自動操舵縮退制御開始~ACC・自動操舵縮退制御終了)は、ACCオーバーライド閾値および操舵オーバーライド閾値を、正常時よりも大きな値に変更する過操作防止機能を備えている。
【0054】
ODD逸脱時にACCオーバーライド閾値および操舵オーバーライド閾値を大きくすることにより、自動車線変更中止に慌てた運転者の過度のアクセル/ブレーキ操作介入または操舵介入によって、閾値変更前であれば加減速や車線逸脱につながるような大きな操作量が与えられた場合でもオーバーライド状態にならず、ACCおよび自動操舵が継続されることで、過度の加減速や操舵が抑制され、車線逸脱などを回避できる。
【0055】
1.ACCオーバーライド閾値
以下、先ず、ACCオーバーライド閾値の変更による過操作防止機能について述べる。操舵オーバーライド閾値の変更による過操舵防止機能については後述する。
【0056】
(システムODD内/正常時のアクセルオーバーライド閾値)
ACC設定速度(クルーズセット速度または先行車追従速度)またはACC設定加速度を保持するためのエンジントルク指令値よりも運転者のアクセル踏込によるエンジントルク指令値が大きい場合、アクセルオーバーライドとなり、運転者のアクセル操作が優先される。閾値は車速・ギア段に応じて設定されたエンジントルクマップにより求められ、ACC設定速度に対して、例えば速度4km/h相当の加速を与えるエンジントルク指令値またはACC設定加速度に対して0.3m/s相当の加速度となるエンジントルク指令値を閾値Tdとする。
【0057】
(システムODD内/正常時のブレーキオーバーライド閾値)
ACC設定速度(クルーズセット速度または先行車追従速度)またはACC設定加速度に対して減速となるESP油圧指令が運転者のブレーキ踏込によって与えられた場合、ブレーキオーバーライドとなり、運転者のブレーキ操作が優先される。ACC設定速度に対して、例えば速度2km/h相当の減速となるESP油圧指令値またはACC設定加速度に対して0.2m/s相当の減速度となるESP油圧指令値を閾値Pdとする。
【0058】
(ODD逸脱時のアクセルオーバーライド閾値)
正常時のACCアクセルオーバーライド閾値より大きな値、好適には、正常時のACCアクセルオーバーライド閾値の120%~250%、さらに好適には150%~220%の範囲から選定される。例えば、ACC設定速度に対して、速度8km/h相当の加速を与えるエンジントルク指令値またはACC設定加速度に対して0.6m/s相当の加速度となるエンジントルク指令値を閾値Toとする。
【0059】
(ODD逸脱時のブレーキオーバーライド閾値)
正常時のACCブレーキオーバーライド閾値より大きな値、好適には、正常時のACCブレーキオーバーライド閾値の120%~250%、さらに好適には150%~220%の範囲から選定される。例えば、ACC設定速度に対して速度4km/h相当の減速となるESP油圧指令値、または、ACC設定加速度に対して0.4m/s相当の減速度となるESP油圧指令値を閾値Poとする。
【0060】
2.操舵オーバーライド閾値
以下、操舵オーバーライド閾値変更による過操舵防止機能について述べる。
【0061】
(システムODD内/正常時の操舵オーバーライド閾値)
システムODD内にある正常動作時の順操舵オーバーライド閾値は、t秒後に仮想横位置に到達するための仮想横変位y′tがyt+α(但し、αは車速に基づいて決定される定数)となるような操舵角に相当する操舵トルク(車速-操舵角-操舵トルクマップから算出した操舵トルク)が順操舵オーバーライド閾値T1dとして設定される。
【0062】
逆操舵の場合は、t秒後に仮想横位置に到達するための仮想横変位ytがyt十α(但し、αは車速に基づいて決定される定数)となるような操舵角を操舵トルクに換算した値(操舵トルク目標値)に対して、操舵トルクを減少させる方向に印加される、微小でないと判断(操舵角、操舵角速度などで判断)できる値が逆操舵オーバーライド閾値T2dとして設定される。
【0063】
(ODD逸脱時の操舵オーバーライド閾値)
順操舵オーバーライド閾値は、システムODD内/正常時の仮想横変位ytに対して、ODD逸脱時の仮想横変位y″t(=yt十β、但しβ>α)と車両の運動特性から算出される操舵角を操舵トルクに換算した値が順操舵オーバーライド閾値T1oとして設定される。
【0064】
逆操舵オーバーライド閾値は、システムODD内/正常時の仮想横変位ytに対して、ODD逸脱時の仮想横変位y″t(=yt-γ、但しγは操舵トルクX′Nmに相当する横変位より大きい)と車両の運動特性から算出される操舵角を操舵トルクに換算した値が逆操舵オーバーライド閾値T2oとして設定される。
【0065】
(自動車線変更中におけるODD逸脱時の過操作防止フロー)
次に、自動車線変更中にODD逸脱事象が発生した場合におけるオーバーライド閾値変更による過操作防止フローについて図4を参照しながら説明する。
【0066】
(1)部分的自動車線変更システム(PALS)による自動車線変更
車線内部分的自動走行システムによるPADS(ACCS・LKAS)走行中に、隣接車線の前方領域ZF、後方領域ZR、および、側方領域ZL内に、他車両が存在しないと判断されている状況(自動車線変更可能フラグON)で、運転者による当該隣接車線方向のウインカ操作がなされると、当該隣接車線中央を目標位置として自動車線変更が開始される(ステップ100)。
【0067】
(2)ODD逸脱判定
部分的自動車線変更システム(PALS)による自動車線変更中は、外界センサ21を通じて取得される外界情報、内界センサ22に取得される車両情報、地図情報23、および、測位手段24に取得される位置情報に基づいて、車両の走行状態や道路条件、地理条件、環境条件、他車両の動向などの交通条件が、ODDの範囲内に維持されているか否かが環境状態推定部11により監視される(ステップ101)。
【0068】
(3)ODD逸脱フラグ
PALSによる自動車線変更中に、例えば、図5(b)および図6(b)に示されるように、横方向から突風を受けたり、図7(b)および図8(b)に示されるように、車線区分線が消失するなど車線区分線車線ロスト状態が所定時間継続したり、図9(b)および図10(b)に示されるように、前方領域ZF,後方領域ZR,側方領域ZLへの他車両の侵入や割込みなどが検出されたりすることにより、ODD逸脱と判定された場合、ODD逸脱フラグが立てられる(ステップ102)。
【0069】
(4)自動車線変更中止・操作引継通知
同時に、ヘッドアップディスプレイやメーターパネル内の表示や音声によって、ODD逸脱による自動車線変更中止(ACC・自動操舵機能停止)と操作引継が運転者に通知される。これと同時に、ACC・自動操舵縮退制御に移行するまでの待機時間(例えば4秒)のカウントが開始される。
【0070】
(5-1)ACCオーバーライド閾値の変更
同時に、システムODD内/正常時のACCのアクセルオーバーライド閾値Tdおよびブレーキオーバーライド閾値Pdが、それぞれ、ODD逸脱時のアクセルオーバーライド閾値To(To>Td)およびブレーキオーバーライド閾値Po(Po>Pd)に変更される(ステップ103)。
【0071】
(5-2)操舵オーバーライド閾値の変更
同時に、システムODD内/正常時の操舵オーバーライド閾値(順方向T1d、逆方向T2d)が、ODD逸脱時の操舵オーバーライド閾値(順方向T1o、逆方向T2o)に変更される(ステップ203)。
すなわち、この時点における横移動距離ytと車両の運動特性から算出される操舵角を操舵トルクに換算した値が計算され、ODD逸脱時の操舵オーバーライド閾値(順方向T1o、逆方向T2o)がセットされる。
【0072】
(6)アクセル・ブレーキ操作および手動操舵の有無判定
この時点ではまだACCと自動操舵が作動中であり、運転者によるアクセル操作またはブレーキ操作の有無が、アクセルおよびブレーキペダルに取り付けられたポジションセンサにより判定されると同時に、EPSコントローラ31付帯のトルクセンサにより、手動操舵34の有無が判定される(ステップ104)。
【0073】
(7-1)加減速要求判定
ステップ104において、運転者によるアクセル操作またはブレーキ操作が検出された場合、運転者のオーバーライドが加速要求なのか、減速要求なのか判定される(ステップ105)。
【0074】
(8-1)アクセルオーバーライド判定
加速要求の場合には、運転者のアクセル踏込によるエンジントルク指令値がオーバーライド閾値Toと比較される(ステップ106)。
i)エンジントルク指令値T>オーバーライド閾値Toの場合には、アクセルオーバーライドと判定され、即時オーバーライドして手動走行に移行する。
ii)エンジントルク指令値T≦Toの場合には、オーバーライドせず、ACC・自動操舵が継続される。
【0075】
(9-1)ブレーキオーバーライド判定
減速要求の場合には、運転者のブレーキ踏込によるESP油圧指令値がオーバーライド閾値Poと比較される(ステップ107)。
i)ESP油圧指令値P>Poの場合には、ブレーキオーバーライドと判定され、即時オーバーライドして手動走行に移行する。
ii)ESP油圧指令値P≦Poの場合には、オーバーライドせず、ACC・自動操舵が継続される。
【0076】
(7-2)操舵方向判定
一方、ステップ104において、EPSコントローラ31付帯のトルクセンサの検出値から、手動操舵ありと判断された場合、手動操舵34の操舵方向が判定される(ステップ205)。
【0077】
操舵方向の判定は、上記ステップ203で計算された操舵トルク値に対して、操舵トルクを増加させる方向に印加された場合は順操舵と判定され、操舵トルクを減少させる方向に印加された場合は逆操舵と判定される。
【0078】
(8-2)順操舵オーバーライド判定
操舵方向判定で順操舵と判定された場合は、操舵トルクが順操舵オーバーライド閾値T1oと比較される(ステップ206)。
i)操舵トルク>順操舵オーバーライド閾値T1oであれば、オーバーライドと判定され、即時オーバーライドして手動走行となる。
ii)操舵トルク≦順操舵オーバーライド閾値T1oであれば、オーバーライドせず、ACC・自動操舵が継続される。
【0079】
(9-2)逆操舵オーバーライド判定
操舵方向判定で逆操舵と判定された場合は、操舵トルクが逆操舵オーバーライド閾値T2oと比較される(ステップ207)。
i)操舵トルク>逆操舵オーバーライド閾値T2oであれば、オーバーライドと判定され、即時オーバーライドして手動走行となる。
ii)操舵トルク≦逆操舵オーバーライド閾値T2oであれば、オーバーライドせず、ACC・自動操舵が継続される。
【0080】
(10)引継経過時間の判定~ACC・自動操舵縮退制御開始
これらのオーバーライド判定(ステップ105~107、ステップ205~207)を経て、ACCおよび自動操舵が継続されている場合、上記ステップ102で自動車線変更中止(ACC・自動操舵機能停止)と操作引継を通知してからの経過時間のカウントが継続され(ステップ108)、待機時間(4秒)が経過した時点でACC・自動操舵縮退制御が開始される(ステップ110)。
【0081】
ACC縮退制御:エンジンコントローラ32に入力する加減速指令値(車速指令)を所定の傾きで0km/h/sまで徐々に低下させるとともに、ESPコントローラ33に入力する減速指令値を所定の傾きで0m/sまで低下させる。
自動操舵縮退制御:EPSコントローラに入力する操舵トルク指令値を所定の傾きをもって0Nmまで徐々に低下させる。
【0082】
(11)ACC・自動操舵縮退制御終了~ACC・自動操舵機能停止・操作引継
ACC・自動操舵縮退制御が終了すると、ACC・自動操舵機能が停止され、運転者への操作引継が行われ(ステップ111)、運転者のアクセル/ブレーキ操作と操舵による手動走行に移行する(ステップ112)。
【0083】
以上のようなオーバーライド閾値の変更によって、ODD逸脱時の過操舵によるオーバーライドは基本的に防止できるが、上述したオーバーライド判定(ステップ206,207)において、手動操舵がオーバーライド閾値以上であれば、ACC・自動操舵機能が手動操舵でオーバーライドされることになる。
【0084】
そこで、ODD逸脱時におけるオーバーライド閾値の変更(ステップ203)の際に、EPSコントローラ31において車速に応じて設定される(車速に逆比例する/車速上昇に伴い降下する)操舵トルクまたは操舵角の上限値をシステムODD内の正常動作時よりも低い値にすることで、手動操舵によってオーバーライドされた場合における過操舵を防止できる。
【0085】
また、ODD逸脱時におけるオーバーライド閾値の変更(ステップ203)の際に、EPSコントローラ31において手動操舵の操舵ゲインを小さい値に変更することで、手動操舵によってオーバーライドされた場合にも、その操舵量が操舵トルクに部分的に反映されるようにすることもできる。
【0086】
なお、ODD逸脱時におけるオーバーライド閾値は、ACC・自動操舵機能停止予告と操作引継の通知から縮退制御の終了まで維持されることが好ましい。このようにすることで、自動操舵機能による操舵制御とACC機能による加減速制御が部分的に作用している状態で徐々に操作引継でき、円滑な操作引継を行えることに加えて、ACC・自動操舵縮過制御が終了して手動走行に移行した時点で正常時のオーバーライド閾値に戻ることで、システムがODD内に復帰した場合に、直ちに正常時の操作介入でオーバーライド可能な状態となる利点がある。
【0087】
(作用と効果)
以上詳述したように、本発明に係る車両の走行制御装置は、部分的自動車線変更システム(PALS)による自動車線変更中にODD逸脱となる事象が発生した場合に、ACC機能および自動操舵機能を停止させる操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値が、システムODD内にある正常時よりも大きい値に変更されるので、以下に例示するような各場合における過操作防止効果が期待できる。
【0088】
(例1:環境条件;突風によるODD逸脱時)
例えば、図5(a)に示すように、車両1の自車線52の前方に先行他車2があり、右側の隣接車線53の後方に後続他車4があるものの、後続他車4は後方領域ZRの外にあり、隣接車線53の前方領域ZF、後方領域ZR、側方領域ZL内に他車がいない状況で、車両1が自車線52から隣接車線53に自動車線変更LCを実行中に、図5(b)に示すように、車両1が横方向から突風を受けてODD逸脱と判定され、自動車線変更中止と操舵・制駆動の引継要求が通知された際に、通知に慌てた運転者が過度の操舵操作を行った場合でも、操舵介入の判定基準となる操舵オーバーライド閾値が、システムODD内にある正常時よりも大きい値に変更されていることでオーバーライドが回避され、図5(c)に示すように、ACC・自動操舵機能が継続された状態で縮退制御(Fb)に移行でき、過度の操舵介入に起因する右車線逸脱(OR)や左車線逸脱(OL)を防止できる。
【0089】
図6(a)に示すように、図5(a)と同様の状況で、車両1が自車線52から隣接車線53に自動車線変更LCを実行中に、図6(b)に示すように、車両1が横方向から突風を受けてODD逸脱と判定され、自動車線変更中止と操舵・制駆動の引継要求が通知された際に、通知に慌てた運転者が過度のブレーキ操作やアクセル操作を行った場合でも、操作介入の判定基準となるACCブレーキ/アクセルオーバーライド閾値が、システムODD内にある正常時よりも大きい値に変更されていることでオーバーライドが回避され、図6(c)に示すように、ACC・自動操舵機能が継続された状態で縮退制御(Fb)に移行でき、過度の操作介入に起因する加速(OA)や減速(OB)とそれに伴う他車両2′、4′との接近を防止できる。
【0090】
(例2:道路条件;車線区分線車線ロストによるODD逸脱時)
図7(a)に示すように、車両1の自車線51の後方に後続他車3があり、右側の隣接車線52後方に後続他車4があるものの、後続他車4は後方領域ZRの外にあり、隣接車線53の前方領域ZF、後方領域ZR、側方領域ZL内に他車がいない状況で、車両1が自車線51から隣接車線52への自動車線変更LCを実行中に、図7(b)に示されるように、隣接車線52の車線区分線5cが消失してODD逸脱と判定され、自動車線変更中止と操舵・制駆動の引継要求が通知された際に、通知に慌てた運転者が過度の操舵操作を行った場合でも、操舵介入の判定基準となる操舵オーバーライド閾値が、システムODD内にある正常時よりも大きい値に変更されていることでオーバーライドが回避され、ACC・自動操舵機能が継続された状態で縮退制御(Fb)に移行でき、過度の操舵介入に起因する右車線逸脱(OR)や左車線逸脱(OL)を防止できる。
【0091】
図8(a)に示すように、図7(a)と同様の状況で、車両1が自車線51から隣接車線52への自動車線変更LCを実行中に、図8(b)に示されるように、隣接車線52の車線区分線5cが消失してODD逸脱と判定され、自動車線変更中止と操舵・制駆動の引継要求が通知された際に、通知に慌てた運転者が過度のブレーキ操作やアクセル操作を行った場合でも、操作介入の判定基準となるACCブレーキ/アクセルオーバーライド閾値が、システムODD内にある正常時よりも大きい値に変更されていることでオーバーライドが回避され、ACC・自動操舵機能が継続された状態で縮退制御(Fb)に移行でき、過度の操作介入に起因する加速(OA)や減速(OB)とそれに伴う他車両2′、4′との接近を防止できる。
【0092】
(例3:交通環境;車線合流区間における他車の急制動によるODD逸脱時)
図9(a)に示すように、インターチェンジやジャンクションなどでのランプウェイから本線への合流区間において、車両1の自車線50(ランプウェイ)の前方に先行他車2があり、右側の隣接車線51(本線)の前方に先行他車3、後方に後続他車4があるものの、何れも前方領域ZFおよび後方領域ZRの外にあり、隣接車線53の前方領域ZF、後方領域ZR、側方領域ZL内に他車がいない状況で、車両1が自動車線変更LCによって自車線50(ランプウェイ)から右側の隣接車線51(本線)に合流する際に、図9(b)に示すように、先行他車2が隣接車線51(本線)に合流することにより、隣接車線51の先行他車3が急制動して前方領域ZFに浸入し、ODD逸脱と判定され、自動車線変更中止と操舵・制駆動の引継要求が通知された際に、通知に慌てた運転者が過度の操舵操作やブレーキ操作を行った場合でも、ODD逸脱と同時に、操舵介入の判定基準となる操舵オーバーライド閾値および操作介入の判定基準となるACCブレーキ/アクセルオーバーライド閾値が、システムODD内にある正常時よりも大きい値に変更されていることでオーバーライドが回避され、図9(c)に示すように、ACC・自動操舵機能が継続された状態で縮退制御(Fb)に移行でき、過度の操舵介入に起因する車線逸脱や蛇行、過度の操作介入に起因する加速(OA)や減速(OB)とそれに伴う他車両3、4との接近を防止できる。
【0093】
なお、図9(c)に示すように、車線合流区間ZcをODD外として、地図情報23および測位手段24に取得される位置情報に基づいて、車両1の車線合流区間Zcへの進入と同時に、操舵介入の判定基準となる操舵オーバーライド閾値および操作介入の判定基準となるACCブレーキ/アクセルオーバーライド閾値が、システムODD内にある正常時よりも大きい値に変更されるようにしてもよい。
【0094】
(例4:交通環境;車線分流区間における他車の割込みによるODD逸脱時)
図10(a)に示すように、インターチェンジやジャンクションなどでの本線からランプウェイへの分流区間において、車両1の自車線51(本線)の前方に先行他車2があるものの、前方領域ZFの外にあり、左側の隣接車線50(ランプウェイ)の前方領域ZF内に他車がいない状況で、車両1が自動車線変更LCによって自車線51(本線)から隣接車線50(ランプウェイ)に分流する際に、図10(b)に示すように、先行他車2が減速しながら左車線変更して前方に割り込み、前方領域ZFに浸入し、ODD逸脱と判定され、自動車線変更中止と操舵・制駆動の引継要求が通知された際に、通知に慌てた運転者が過度の操舵操作やブレーキ操作を行った場合でも、ODD逸脱と同時に、操舵介入の判定基準となる操舵オーバーライド閾値および操作介入の判定基準となるACCブレーキ/アクセルオーバーライド閾値が、システムODD内にある正常時よりも大きい値に変更されていることでオーバーライドが回避され、図10(c)に示すように、ACC・自動操舵機能が継続された状態で縮退制御(Fb)に移行でき、過度の操舵介入に起因する車線逸脱や蛇行、過度の操作介入に起因する加速(OA)や減速(OB)とそれに伴う他車両2、4との接近を防止できる。
【0095】
なお、図10(c)に示すように、車線分流区間ZdをODD外として、車両1の車線分流区間Zdへの進入と同時に、操舵介入の判定基準となる操舵オーバーライド閾値および操作介入の判定基準となるACCブレーキ/アクセルオーバーライド閾値が、システムODD内にある正常時よりも大きい値に変更されるようにしてもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、ODD逸脱時にACC機能(縦方向制御)と自動操舵機能(横方向制御)の両方が縮退制御に移行する場合を示したが、ODD逸脱事象の内容に応じて、何れか一方の機能のみが縮退制御に移行するように構成することもできる。
【0097】
さらに、ACCオーバーライド閾値の変更、操舵オーバーライド閾値の変更の何れか一方のみを適用する形態、アクセルオーバーライド閾値、ブレーキオーバーライド閾値の何れか一方のみを適用する形態、順操舵オーバーライド閾値、逆操舵オーバーライド閾値の何れか一方のみを適用する形態でも実施可能であるが、上述したように、同時並行して全ての閾値変更を実施することが好ましい。
【0098】
また、上記実施形態では、アクセルオーバーライド閾値が運転者のアクセルペダル操作によるエンジントルク要求に基づいて設定される場合について述べたが、アクセルオーバーライド閾値を運転者のアクセルペダル踏込量すなわちアクセルペダルポジションに基づいて設定されるように構成することもできる。
【0099】
同様に、上記実施形態では、ブレーキオーバーライド閾値が運転者のブレーキペダル操作による減速度要求に基づいて設定される場合について述べたが、運転者のブレーキペダル踏込量すなわちブレーキペダルポジションに基づいて設定されるように構成することもできる。
【0100】
また、上記実施形態では、操舵オーバーライド閾値が操舵トルクに基づいて設定される場合を示したが、操舵角(ステアリング角)や操舵角速度などに基づいて設定されるように構成することもできる。
【0101】
以上、本発明のいくつかの実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内においてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0102】
10 自動運転コントローラ
11 環境状態推定部
12 経路生成部
13 車両制御部
14 ACCコントローラ
15 LKAコントローラ
21 外界センサ
22 内界センサ
31 EPSコントローラ
32 エンジンコントローラ
33 ESP/ABSコントローラ
34 手動操舵(ハンドル)
41 操舵機構
42 エンジン
43 ブレーキ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10